(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】ロータコア、ロータ、および回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20250116BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2023511307
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022015202
(87)【国際公開番号】W WO2022210609
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021060596
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大杉 保郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 励
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-085433(JP,A)
【文献】特開2011-083047(JP,A)
【文献】特開昭63-206143(JP,A)
【文献】実開平04-034836(JP,U)
【文献】特開2010-158085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石が設置される複数の穴を備え、
回転の中心となる回転軸線に対して垂直な断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記永久磁石の磁化方向に対して左右両側の方向である左右方向における回転方向の先頭側に位置する第1端部と、前記左右方向における前記回転方向の後尾側に位置する第2端部と、を含み、
前記第1端部は、外周面に開口し、前記開口の周方向の長さが前記第2端部の周方向の長さよりも長く、
前記断面において、前記第1端部が開口している前記穴は、幅方向の長さが前記永久磁石の磁化方向の長さに対応する長さと同等である内側空間と、前記内側空間に連通し、前記第1端部を前記穴の前記左右方向の端部の1つとして有し、且つ、前記内側空間よりも幅広な第1外側空間と、を有し、
前記第1端部は、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の周方向の中心位置に対して、回転方向の後尾側に偏るように配置されている、
ロータコアであって、
前記断面において、前記内側空間の後尾側端点外挿位置から、前記第1端部の端点のうち、回転方向の後尾側における端点までの、回転方向の後尾側に向かう方向における周方向の長さは、前記内側空間の幅方向の長さ以上であり、
前記内側空間の後尾側端点外挿位置は、前記断面において、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の後尾側における端点から前記ロータコアの半径方向に沿って延びる直線と、前記第1端部との交点の位置である、ロータコア。
【請求項2】
前記穴を構成する穴壁面において、前記第1外側空間の前記回転方向の後尾側を形成する後尾側壁面が前記回転軸線に対して直交する方向に対して傾いている、請求項
1に記載のロータコア。
【請求項3】
前記後尾側壁面の少なくとも一部は、凹状に湾曲している、請求項
2に記載のロータコア。
【請求項4】
前記断面において、前記開口の周方向の長さは、前記穴の前記永久磁石によって占められる領域の、前記永久磁石の磁化方向の長さよりも長い、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のロータコア。
【請求項5】
前記断面において、全ての前記穴の前記第1端部が開口している、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載のロータコア。
【請求項6】
前記断面において、少なくとも1つの前記穴は、前記第2端部は開口していない、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載のロータコア。
【請求項7】
前記断面において、全ての前記穴の前記第2端部が開口していない、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載のロータコア。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載のロータコアと、
前記永久磁石と、
を備えるロータ。
【請求項9】
請求項
8に記載のロータと、
ステータと、を備える、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータコア、ロータ、および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
IPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)等、永久磁石埋込型の回転電機では、ロータコア内に永久磁石が埋め込まれると共に、永久磁石の近傍にフラックスバリアが形成される。フラックスバリアは、回転電機内の磁束の流れを制御し、回転電機の特性を向上させるためのものである。
【0003】
特開2013-99047号公報には、ロータコアに設けられた磁石挿入孔を、ロータコアの外周側に連通させることにより、永久磁石から出る磁束がロータコア内において当該永久磁石の周囲を回って短絡することを防止することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2013-99047号公報に記載の技術では、ロータコアに設けられた磁石挿入孔を、ロータコアの外周側に連通させる際に、ロータコア内における磁束の磁気的な短絡しか考慮していない。したがって、回転電機のトルクを十分に増加させることができない。
本開示は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、回転電機のトルクを増加させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様のロータコアは、永久磁石が設置される複数の穴を備え、
回転の中心となる回転軸線に対して垂直な断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記永久磁石の磁化方向に対して左右両側の方向である左右方向における回転方向の先頭側に位置する第1端部と、前記左右方向における前記回転方向の後尾側に位置する第2端部と、を含み、
前記第1端部は、外周面に開口し、前記開口の周方向の長さが前記第2端部の周方向の長さよりも長く、
前記断面において、前記第1端部が開口している前記穴は、幅方向の長さが前記永久磁石の磁化方向の長さに対応する長さと同等である内側空間と、前記内側空間に連通し、前記第1端部を前記穴の前記左右方向の端部の1つとして有し、且つ、前記内側空間よりも幅広な第1外側空間と、を有し、
前記第1端部は、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の周方向の中心位置に対して、回転方向の後尾側に偏るように配置されている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、回転電機のトルクを増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】ロータの構成の第1の例を示す図であり、
図1のロータに対応する図である。
【
図3】ロータコアの構成の第1の例を示す図であり、
図2のロータコアに対応する図である。
【
図4】内側空間および第1外側空間の第1の例を説明する図である。
【
図5A】穴の第1端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図5B】穴の第1端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図5C】穴の第1端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図6】内側空間、第1外側空間、および第2外側空間の一例を説明する図である。
【
図7A】穴の第2端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図7B】穴の第2端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図7C】穴の第2端部の違いによる磁束の流れの違いの一例を説明する図である。
【
図9】ロータコアの構成の第2の例を示す図であり、
図8のロータに対する図である。
【
図10】内側空間および第1外側空間の第2の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
尚、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、本開示の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。また、各図において、x-y-z座標は、各図における向きの関係を示すものである。x-y-z座標において、〇の中に●が付されている記号は、紙面の奥側から手前側に向かう方向が正の方向であることを示す記号である。
【0009】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態を説明する。本実施形態では、回転電機がIPMSMである場合を例示する。
図1は、IPMSM100の構成の一例を示す図である。
図1は、IPMSM100の中心線O(ロータ110の回転軸線)に対して垂直に切った場合のIPMSM100の断面図である。
図1において、IPMSM100は、ロータ110と、ステータ120と、を備える。
【0010】
ステータ120は、ステータコア121と、不図示のステータコイルと、を備え、回転磁界を発生させるためのものである。尚、表記が複雑になるので、
図1では、ステータ120が備えるステータコイルの図示を省略するが、ステータコイルは、ステータコア121のスロット122に配置される(尚、
図1では6個のスロットのうちの1つのみに符号を付している)。
【0011】
ロータ110は、ロータ110の中心線Oを回転軸線として回転する。本実施形態では、
図1に示す矢印線の方向(すなわち、紙面に向かって反時計回りの方向)にロータ110が回転し、
図1に示す矢印線の方向とは逆の方向(すなわち、紙面に向かって時計回りの方向)にはロータ110が回転しない場合を例示する。
図2は、ロータ110の構成の一例を示す図である。
図2も、
図1と同様に、ロータ110の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータ110の断面図である。尚、ロータ110の中心線Oと、IPMSM100の中心線Oと、は一致する。
【0012】
図2に示すように、ロータ110は、ロータコア111と、複数の永久磁石112(ここでは1極当たり1個の永久磁石)と、を備える。ロータコア111は、ロータコア111における軟磁性体材料で形成された部分である軟磁性体部と、複数の穴部と、を備える。軟磁性体部は、例えば、複数の電磁鋼板を、ロータ110の中心線Oに沿って積層させることにより構成される。ただし、必ずしも、複数の電磁鋼板を積層させることにより軟磁性体部を構成する必要はない。ロータコア111は、例えば、圧粉磁心、アモルファスコア、およびナノ結晶コアであってもよい。尚、ロータコア111が、圧粉磁心、アモルファスコア、ナノ結晶コアである場合、ロータコア111が備える軟磁性体部は、それぞれ、絶縁被覆された軟磁性粒子、アモルファス合金、ナノ結晶合金を用いて構成される。
【0013】
ロータコア111には、ロータコア111の中心線Oに平行な方向(以下、単にz軸方向と呼ぶ)に沿って延びる複数の穴が形成されている。本実施形態では、当該穴が、z軸方向に貫通する貫通穴である場合を例示する。
【0014】
複数の永久磁石112は、それぞれ、ロータコア111に形成された穴に挿入されることで、ロータコア111内に設置(埋設)される。
図2では、永久磁石112の磁極面201(201a、201b)から磁束が流出入する場合を例示する。磁極面201に直交する方向(
図2において、永久磁石112を、ロータコア111の半径方向に横切るように示す両矢印線の方向)が永久磁石112の磁化方向Dmである。半径方向は、中心線O(ロータ110の回転軸線)からxy平面上に放射状に延びる方向である。
【0015】
永久磁石112が設置される穴において、永久磁石112が存在しない領域は、フラックスバリア113(113a~113b)となる。フラックスバリア113には有体物が存在しておらず、空隙部(言い換えると、空気の領域)となっている。フラックスバリア113は、磁束が通らない、またはその周囲の領域よりも通りづらい領域である。ただし、フラックスバリア113には非磁性体が設置されてもよい。また、ロータコア111には、フラックスバリア113以外にも穴114(114a~114d)が形成されている。穴114a~114cは、フラックスバリアとして機能したり、不図示のリベット等が設置されたりするために形成される。尚、リベットは、例えば、ロータ110のz軸方向の両端に配置される不図示の端板にロータ110を固定するために用いられる。また、ロータコア111の内周側には、ロータコア111のz軸方向に貫通する穴114dが形成されている。穴114dには、不図示のシャフト等が設置される。
【0016】
尚、本実施形態では、ロータ110の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータ110の断面(以下、ロータ断面と呼ぶ)の形状が、ロータ110のz軸方向のいずれの位置においても、
図2に示す形状になる場合を例示する。
【0017】
また、
図1および
図2では、IPMSM100の極数が4極である場合を例示する。
図2において、「1極」と示している両矢印線の範囲がIPMSM100の1極を構成する部分である。1極あたり1個の永久磁石112が埋設されており、ロータコア111の穴部には合計で4個の永久磁石が埋設されている。この極数や、1極当たりの永久磁石112の数や配置は一例を示すに過ぎず、任意に決めることができる。
図2では、表記が複雑になるので、ロータ110の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータ110のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。尚、IPMSM100の極数がn極(ここで、nは2以上の整数、
図1および
図2に示す例ではn=4)である場合、IPMSM100は、概ね、IPMSM100の中心線Oを回転対称軸とするn回対称の回転対称性の関係を有する。
【0018】
図3は、ロータコア111の構成の一例を示す図である。
図3も、
図1および
図2と同様に、ロータコア111の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータコア111の断面図である。尚、ロータコア111の中心線Oと、IPMSM100の中心線Oおよびロータ110の中心線Oと、は一致する。また、
図3でも
図2と同様に、ロータコア111の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータコア111のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。
【0019】
図3において、ロータコア111には、永久磁石112によって占められる領域(以下、磁石占有領域と呼ぶ)と、フラックスバリア113となる領域と、を含む穴310が形成されている。
ロータコア111の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータコア111の断面(以下、ロータコア断面と呼ぶ)において、少なくとも1つの穴310(
図3では、4つの穴310の全部)は、永久磁石112の中心における永久磁石112の磁化方向Dmに対して左右両側の方向である左右方向Dsの端部のうち、ロータコア111の回転方向の先頭側に位置する第1端部311において開口している。
図3に示す例では、穴310の左右方向Dsは、穴310の長手方向である。
図3において、穴310の左右方向Dsを、穴310の傍らに付す両矢印線で示す。一方、ロータコア断面において、穴310は、第1端部311とは反対側(言い換えると、ロータコア111の回転方向の後尾側)の第2端部312において開口していない。以下では、ロータコア111の回転方向の先頭側を単に先頭側とも呼び、ロータコア111の回転方向の後尾側を単に後尾側とも呼ぶ。
【0020】
前述したように本実施形態では、IPMSM100の極数が4極である場合を例示する。
図3に示すように本実施形態では、永久磁石112が設置される4つの穴310の全てが、第1端部311において開口している場合を例示する。しかしながら、永久磁石112が設置される4つの穴310の少なくとも1つが、穴310の第1端部311において開口していればよい。また、永久磁石112が設置される4つの穴310の全てが、第2端部312において開口していない場合を例示する。しかしながら、永久磁石112が設置される4つの穴310の少なくとも1つが、第2端部312において開口していなければよい。
【0021】
図1では、IPMSM100がインナーロータ型である場合を例示する。尚、
図1に示すように、ロータ110(ロータコア111)の外周面のうち、穴310以外の領域が、ロータ110(ロータコア111)のステータ120と間隔を有して対向する端面になる。
【0022】
また、ロータコア111の回転方向の先頭側は、ロータ110の回転方向に向かって見た場合に、永久磁石112の先頭の位置側であり、ロータコア111の回転方向の後尾側は、当該永久磁石112の後尾の位置側である。具体的に
図2に示す例では、ロータ110の回転方向に向かって見た場合に、永久磁石112の先頭の位置は、永久磁石112の側面202にあり、永久磁石112の後尾の位置は、永久磁石112の側面203にある。したがって、ロータコア111は、ロータコア111の回転方向の先頭側が、永久磁石112の側面202側となり、ロータコア111の回転方向の後尾側が、永久磁石112の側面203側となるようにロータ110に配置される。尚、永久磁石112の側面202、203は、
図2に示す例では、永久磁石112の磁極面201(201a、201b)の端面のうち、永久磁石112の磁化方向Dmに対して直交する方向の端部に位置する端面である。
【0023】
図3において、穴310は、内側空間310aおよび第1外側空間310bを有する。
図4は、内側空間310aおよび第1外側空間310bの一例を説明する図である。
内側空間310aは、ロータコア断面において、穴310を構成する空間のうち、永久磁石112の磁化方向Dmに沿った方向である幅方向の長さが、永久磁石112の磁化方向Dmの長さに対応する長さL1と同等でほぼ一定である空間である。
図2と、
図3および
図4と、を対比すれば明らかなように、永久磁石112は、内側空間310aに設置される。したがって、穴310の磁石占有領域の幅方向の長さは、内側空間310aの幅方向の長さL1と同じである。内側空間310aの幅方向の長さL1は、永久磁石112の磁化方向Dmの長さと同じであっても、穴310に永久磁石112を設置し易くするために永久磁石112の磁化方向Dmの長さよりも(僅かに)長くてもよい。尚、本実施形態では、永久磁石112の磁化方向Dmの長さが一定である場合を例示する。しかしながら、永久磁石112の磁化方向Dmの長さは必ずしも一定でなくてもよい。永久磁石112の磁化方向Dmの長さが一定でない場合には、内側空間310aの幅方向の長さを、永久磁石112の磁化方向Dmの長さに対応する長さと同等にして一定としなくてもよい。
【0024】
穴310の幅方向は、穴310の左右方向Ds(
図3および
図4において穴310の傍らに付す両矢印線で示す方向)と、穴310の深さ方向(ロータコア111のz軸方向)との双方に直交する方向である。尚、前述したように、永久磁石112の磁化方向Dmは、
図2において、永久磁石112を横切るように示す両矢印線の方向で示す方向であり、内側空間310aの幅方向は、永久磁石112の磁化方向Dmに一致する。尚、
図3に示すように、一般的なIPMSM100では、ロータコア111において、永久磁石112が設置される穴310の左右方向Dsの長さは、穴310の幅方向の長さよりも長いが、穴310の左右方向Dsの長さは、穴310の幅方向の長さと同じまたは穴310の幅方向の長さより短くてもよい。
【0025】
第1外側空間310bは、穴310を構成する空間のうち、内側空間310aとロータコア111の外部とを連通する空間である。第1外側空間310bは、穴310を構成する空間のうち、内側空間310aに連通し、且つ、穴310の第1端部311を左右方向Dsの端部の1つとして有する空間である。したがって、第1外側空間310bの外周側における端部(言い換えると、内側空間310aと連通する側とは反対側の端部)は、穴310の第1端部311に一致する。内側空間310aの後尾側には外側空間はなく、その後尾側の端部は、穴310の第2端部312に一致する。つまり、ロータコア断面において、穴310の第2端部312は開口していない。一方、穴310の第1端部311の周方向の長さは、L2である。
【0026】
尚、穴310の第1端部311の周方向の長さL2は、穴310の第1端部311の先頭側における端点401から、穴310の第1端部311の後尾側における端点402までの、後尾側に向かう方向における周方向の長さである。穴310の第1端部311の周方向の長さL2は、穴310の第1端部311の幅方向の長さに近似してもよい。穴310の第1端部311の幅方向の長さは、穴310の第1端部311の先頭側における端点401と、穴310の第1端部311の後尾側における端点402との、直線距離である。
【0027】
図4に示すように、本実施形態では、穴310の第1端部311の周方向の長さL2を、内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長くしている。このようにすることに至った理由について以下に説明する。
図5A、
図5B及び
図5Cは、穴310の第1端部311の違いによる磁束の流れの違いを説明する図である。尚、
図5A、
図5B及び
図5Cにおいて矢印線で示す磁束は概念的な表記をしたもので、例えば、矢印線の長さおよび数は、磁束の大きさおよび磁束密度に必ずしも対応するものではない。
【0028】
図5A、
図5B及び
図5Cでは、IPMSM100が運転しているときの、穴310の第1端部311の付近を拡大して示す。
図5Aでは、穴310の第1端部311がロータコア111の外周面に連通していないと仮定した場合の磁束の流れを示す。
図5Aに示すように、穴310の第1端部311が開口していないと、穴310の第1端部311の外側の領域が電磁鋼板等の軟磁性体部となり、穴310の第1端部311の内側の領域はフラックスバリアとして機能するものの、当該軟磁性体部の領域がブリッジ部となって、ステータコア121に向かわずに、ロータコア111内で還流する磁束501が生じる。このため、IPMSM100のトルクを十分に増加させることができない。
【0029】
図5Bでは、穴310の第1端部311の周方向の長さL2が、穴310の内側空間310aの幅方向の長さL1と略同じである場合の磁束の流れを示す。
図5Bに示すように、穴310の第1端部311が開口していると、
図5Aに示すようなブリッジ部を介した磁束の還流はほぼ生じない。したがって、当該還流する磁束が、IPMSM100の半径方向に対して傾いてステータコア121に向かうことにより、IPMSM100のトルクを大きくすることができる。しかしながら、穴310の第1端部311の周方向の長さL2が短いため、フラックスバリア113aを通過するような磁束が発生する可能性がある。
【0030】
図5Cでは、
図1~
図4に示すように、穴310の第1端部311の周方向の長さL2が、穴310の内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長い場合の磁束の流れを示す。
図5Cに示すように、穴310の第1端部311の周方向の長さL2を、内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長くすることによって、フラックスバリア113aを通過するような磁束の発生をより確実に低減することができる。
【0031】
さらに、穴310の第1端部311において、後尾側の領域の周方向の長さをより長くすることによって、穴310の第1端部311の周方向の長さL2を内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長くするのが好ましい。このようにすることで、フラックスバリア113aよりも後尾側の軟磁性体部における領域において、IPMSM100の半径方向(すなわち、中心線Oからxy平面上に放射状に延びる方向)から周方向において先頭側に向かう角度が大きくなる磁束を多く発生させることができる(このことは、
図5Cに示す磁束504、505の方向の方が、
図5Bに示す磁束502、503の方向よりも周方向の先頭側に傾いていることに対応する)。すなわち、
図5Cに示す磁束504、505を表す磁束密度ベクトルを、中心線Oを原点とするr-θ座標系(2次元極座標系)で表す場合、磁束504、505による磁束密度ベクトルのθ成分B
θが大きくなる。これは、IPMSM100のリラクタンストルクを大きくする効果があり、IPMSM100のトルクを大きくすることに寄与する。
【0032】
このことは、以下のことからも示される。すなわち、「中田高義、伊藤昭吉、河瀬順洋著、「有限要素法による交直電磁石の設計と応用」、1991年8月、森北出版株式会社」に記載のマックスウェルの応力テンソルからトルクTを求める算出式をr-θ座標系に変換すると、トルクTは以下の(1)式で表される。
【0033】
【0034】
ここで、Lは、ロータコアの高さ(z軸方向の長さ)である。ロータコア(具体的にはロータコアの軟磁性体部)が電磁鋼板である場合、Lは、電磁鋼板の積厚である。Rは、ロータコアの半径である。μ
0は、真空の透磁率である。B
rは、磁束密度ベクトルのr成分(すなわち、動径成分)である。B
θは、磁束密度ベクトルのθ成分(すなわち、偏角成分)である。ここで、θ方向は、
図5A、
図5B及び
図5Cの紙面に向かって反時計回りが正方向であり、本実施形態の回転方向と一致していることから、(1)式に示すように、磁束密度ベクトルのθ成分B
θが大きくなると、トルクTが大きくなることが分かる。
【0035】
そこで、穴310の第1端部311を以下のようにするのが好ましい。
まず、
図4において、穴310の第1外側空間310bは、穴310の内側空間310aよりも幅広の領域である。また、穴310の第1端部311は、第1外側空間310bと連通する位置(境界)での内側空間310aの中心位置403に対して、周方向において後尾側に偏るようにするのが好ましい。すなわち、穴310の第1端部311の周方向の中心位置404が、第1外側空間310bと連通する位置での内側空間310aの周方向の中心位置403よりも、周方向において後尾側になるようにするのが好ましい。これは
図4において、穴310の第1端部311の周方向の中心位置404が、穴310の内側空間310aの外挿中心位置406よりも、周方向において後尾側に位置することに対応する。穴310の内側空間310aの外挿中心位置406は、第1外側空間310bと連通する位置(境界)での内側空間310aの中心位置403からロータコア111の半径方向に沿って延びる直線(
図4の中心位置403から延びる破線)と、穴310の第1端部311との交点の位置である。このようにすれば、内側空間310aの後尾側における端点405よりも後尾側において、ロータコアの111のその他の領域の外周面よりも中心線O側に窪んだ空間を形成することができる。したがって、第1外側空間310bよりも後尾側における軟磁性体部において、正のθ成分が大きい磁束密度ベクトルを増やすことができる。
図4では、このようにする場合を例示する。
【0036】
また、このようにする場合、穴310の内側空間310aの外挿中心位置406から、穴310の第1端部311の後尾側における端点402までの、後尾側に向かう方向における周方向の長さL3は、内側空間310aの幅方向の長さL1以上(L3≧L1)とするのがより好ましい。このようにすれば、内側空間310aの後尾側における端点405よりも後尾側において、ロータコアの111のその他の領域の外周面よりも中心線O側に窪んだ空間をより大きくすることができる。したがって、フラックスバリア113a(第1外側空間310b)よりも後尾側において、θ成分が大きい磁束密度ベクトルをより増やすことができる。
図4では、このようにする場合を例示する。
【0037】
さらに、穴310の内側空間310aの後尾側端点外挿位置407から、穴310の第1端部311の後尾側における端点402までの、後尾側に向かう方向における周方向の長さL4は、内側空間310aの幅方向の長さL1以上(L4≧L1)とするのがより一層好ましい。穴310の内側空間310aの後尾側端点外挿位置407は、第1外側空間310bと連通する位置での内側空間310aの後尾側における端点405からロータコア111の半径方向に沿って延びる直線(
図4の端点405から延びる破線)と、穴310の第1端部311との交点の位置である。このようにすれば、内側空間310aの後尾側における端点405よりも後尾側において、ロータコアの111のその他の領域の外周面よりも中心線O側に窪んだ空間をより一層大きくすることができる。したがって、フラックスバリア113a(第1外側空間310b)よりも後尾側において、θ成分が大きい磁束密度ベクトルをより一層増やすことができる。
図4では、このようにする場合を例示する。
【0038】
また、
図4に示すように、穴310を構成する穴壁面310Wにおいて、第1外側空間310bの回転方向の後尾側を形成する後尾側壁面310W1が中心線Oに対して直交する方向(半径方向)に対して傾いている。具体的には、
図4及び
図6に示されるように、後尾側壁面310W1は、穴310の幅方向の長さが外周側に向かって徐々に大きくなるように形成されている。また、後尾側壁面310W1は、凹状に湾曲している。なお、後尾側壁面310W1上に形成される凹状の湾曲部分は、後尾側壁面310W1の少なくとも一部にあればよい。具体的には、後尾側壁面310W1は、端点402と端点405を結ぶ仮想直線に対して凹状に湾曲するよう階段状に形成されている。例えば、階段は、仮想直線と交差する部分があってもよいが、仮想直線に対し後尾側及び/又は径方向内側にいる部分が反対側にいる部分より長くするとよい。なお、本開示はこの構成に限定されず、後尾側壁面310W1は、直線状(仮想直線に一致)でも曲線状(仮想直線に対して円弧状に湾曲する湾曲面)でもよい。
ここで、後尾側壁面310W1が中心線Oに対して直交する方向(半径方向)に対して傾くことで、第1外側空間310bよりも後尾側における軟磁性体部において、当該部分の磁気抵抗を大きくすることができるので、正のθ成分が大きい磁束密度ベクトルを増やすことができる。これにより、リラクタンストルクをより大きくすることができる。
さらに、後尾側壁面310W1を凹状に湾曲させることで、当該部分の磁気抵抗をさらに大きくすることができるので、正のθ成分が大きい磁束密度ベクトルをより増やすことができる。
【0039】
尚、第1外側空間310bの形状および半径方向の長さは、
図3および
図4に示すものに限定されない。例えば、以上のようにして第1外側空間310bを形成した方が形成しない場合に比べて、IPMSM100のトルクTが大きくなるような、第1外側空間310bの形状および半径方向の長さを、IPMSM100に対する電磁界解析の結果に基づいて決定すればよい。
【0040】
一方、前述したように穴310の第2端部312は、ロータコア111の外周面(言い換えると、ステータ120と間隔を有して対向する端面)に連通していない。したがって、
図4に示すように、内側空間310aの左右方向Dsの後尾側における端部は、穴310の第2端部312に一致する。
図3に示すロータコア111では、穴310の第2端部312を開口させると、穴310よりもロータコア111の外周側の領域が孤立し、ロータコア111は、当該領域が宙に浮いたような形状になる。そうすると、ロータコア111の機械的強度が低下する。このような場合、例えば、穴310の第2端部312に非磁性材料を配置して、ロータコア111の外周側の領域と内周側の領域とを結合するなどの対策が必要になり、製造上の困難性から、このような配置をそのまま採用することができない場合が生じる。そこで、本実施形態では、穴310の第2端部312を、開口させないようにする。
【0041】
ここで、穴310の第2端部312ではなく、穴310の第1端部311を開口させるのは、このようにした方が、穴310の第1端部311ではなく、穴310の第2端部312を開口させる場合よりも、θ方向の磁束密度ベクトルBθの正成分を大きくすることができるからである。このことについて以下に説明する。
【0042】
図6は、内側空間310a、第1外側空間310b、および第2外側空間310cの一例を説明する図であり、
図4に対応する図である。
図7A、
図7B、
図7Cは、穴310の第2端部312の違いによる磁束の流れの違いを説明する図であり、
図7A、
図7B、
図7Cは、それぞれ、
図5A、
図5B、
図5Cに対応する図である。すなわち、
図7Aでは、
図3および
図4に示すように、穴310の第2端部312が開口していない場合の磁束の流れを示す。
図7Bでは、穴310の第2端部312は開口しており、穴310の第2端部312の周方向の長さL12が、穴310の内側空間310aの幅方向の長さL1と略同じである場合の磁束の流れを示す。
図7Cでは、穴310の第2の端部312は開口しており、穴310の第2端部312の周方向の長さL12が、穴310の内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長い場合の磁束の流れを示す。尚、
図7A、
図7B、
図7Cにおいても
図5A、
図5B及び
図5Cと同様に、矢印線で示す磁束は概念的な表記をしたもので、例えば、矢印線の長さおよび数は、磁束の大きさおよび磁束密度に必ずしも対応するものではない。
【0043】
図7Aに示すように、穴310の第2端部312を、開口させない場合、穴310の第2端部312の外側の領域が電磁鋼板等の軟磁性体部となり、穴310の
第2端部312の内側の領域はフラックスバリアとして機能するものの、当該軟磁性体部の領域がブリッジ部となって、ステータコア121に向かわずに、ロータコア111内で還流する磁束701が生じる。このため、その分だけ、IPMSM100のトルクを増加させることができない。しかしながら、前述したように、穴310よりもロータコア111の外周側の領域が宙に浮いたような形状にならないようにするために、本実施形態では、穴310の第2端部312を、開口させないようにする。
【0044】
ここで、
図6に示すように、穴310の第2端部312にも、穴310の第1端部311の第1外側空間310bと同様の第2外側空間310cを形成し、穴310の第2端部312の周方向の長さL12を内側空間310aの幅方向の長さL1よりも長くするものと仮定する。尚、ロータコア111の後尾側における端部312の周方向の長さL12は、穴310の第2端部312の後尾側における端点411から、穴310の第2端部312の先頭側における端点412までの、先頭側に向かう方向における周方向の長さである。ロータコア111の後尾側における端部312の周方向の長さL12は、ロータコア111の後尾側における端部312の幅方向の長さ(端点411と端点412との直線距離)に近似してもよい。
【0045】
このように仮定する場合、穴310の第2端部312は、第2外側空間310cと連通する位置での内側空間310aの中心位置413に対して、周方向において先頭側に偏るようにすることが好ましい。すなわち、穴310の第2端部312の周方向の中心位置414が、第2外側空間310cと連通する位置での内側空間310aの周方向の中心位置413よりも、周方向において先頭側になるようにするのが好ましいことになる。これは
図6において、穴310の第2端部312の周方向の中心位置414が、穴310の内側空間310aの外挿中心位置416よりも、周方向において先頭側に位置することに対応する。穴310の内側空間310aの外挿中心位置416は、第2外側空間310cと連通する位置(境界)での内側空間310aの中心位置413からロータコア111の半径方向に沿って延びる直線(
図6の中心位置413から延びる破線)と、穴310の第2端部312との交点の位置である。
【0046】
また、このようにする場合、穴310の内側空間310aの外挿中心位置416から、穴310の第2端部312の先頭側における端点412までの、先頭側に向かう方向における周方向の長さL13は、内側空間310aの幅方向の長さL1以上(L13≧L1)とするのがより好ましいことになる。さらに、穴310の内側空間310aの先頭側端点外挿位置417から、穴310の第2端部312の先頭側における端点412までの、先頭側に向かう方向における周方向の長さL14は、内側空間310aの幅方向の長さL1以上(L14≧L1)とするのがより一層好ましいことになる。穴310の内側空間310aの先頭側端点外挿位置417は、第2外側空間310cと連通する位置での内側空間310aの先頭側における端点415からロータコア111の半径方向に沿って延びる直線(
図4の端点415から延びる破線)と、穴310の第2端部312との交点の位置である。
【0047】
図4および
図6に示すようにして第1外側空間310bを形成することにより、第1外側空間310bの後尾側の領域が広がる。このため、第1外側空間310bの後尾側における端点402に近い位置の磁束は、
図5Bに示すように、穴310の第1端部311の周方向の長さL2が、穴310の磁石占有領域の幅方向の長さ(すなわち、内側空間310aの幅方向の長さ)L1と略同じである場合に比べ、後尾側(すなわち、ロータコア111の回転方向に対し後ろ側)からステータコア121に向けて進行する(
図5Bに示す磁束502、503および
図5Cに示す磁束504、505を参照)。ロータコア111は、先頭側に向けて回転しているので、磁束504、505の進行方向は、磁束502、503の進行方向に対して大きく傾き、磁束504、505により表される磁束密度ベクトルのθ方向の正成分は大きくなる。
【0048】
一方、
図6に示すようにして第2外側空間310cを形成することにより、第2外側空間310cの先頭側の領域が広がる。このため、第2外側空間310cの先頭側における端点412に近い位置の磁束は、
図7Bに示すように、穴310の第2端部312の周方向の長さL12が、穴310の磁石占有領域の幅方向の長さ(すなわち、内側空間310aの幅方向の長さ)L1と略同じである場合に比べ、先頭側(すなわち、ロータコア111の回転方向に対し前側)からステータコア121に向けて進行する(
図7Bに示す磁束702、703および
図7Cに示す磁束704、705を参照)。しかしながら、ロータコア111は、先頭側に向けて回転しているので、磁束704、705の進行方向は、
図5Cに示す磁束504、505に比べて大きく傾かず、磁束704、705により表される磁束密度ベクトルのθ方向の正成分の増大代は、
図5Cに示した磁束504、505により表される磁束密度ベクトルのθ成分よりも小さくなる。さらに、
図6に示すようにL12>L1となるように第2外側空間310cを形成した場合、ロータコア111の機械的強度の低下代が大きくなり、製造上の困難性も大きくなる。
【0049】
以上のように、ロータコア111は、先頭側に向けて回転しているので、
図5Aに示すようなブリッジ部を介した磁束の還流を
図5Cに示すようにステータコア121に向かわせる方が、
図7Aに示すようなブリッジ部を介した磁束の還流を
図7Cに示すようにステータコア121に向かわせるよりも、磁束の進行方向をIPMSM100の半径方向に対して大きく傾かせることができ、磁束密度ベクトルのθ方向の正成分を大きくすることができる。
以上のことから本実施形態では、穴310の第2端部312ではなく、穴310の第1端部311を開口させる。
【0050】
以上のように本実施形態では、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される穴310のうち少なくとも1つの穴310を、第1端部311において開口させる。また、穴310の第1端部311の周方向の長さL2(すなわち、第1端部311の開口の周方向の長さ)は、第2端部312の開口の周方向の長さよりも長い。したがって、穴310の第1端部311側において、ロータコア111内で還流する磁束501を抑制することができると共に、リラクタンストルクを大きくすることができる。よって、IPMSM100のトルクTを増加させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、ロータコア断面において、穴310の第2端部312が開口しないようにすることで、穴310の第1端部311の周方向の長さL2(すなわち、第1端部311の開口の周方向の長さ)は、第2端部312の開口の周方向の長さよりも長くなるようにする。したがって、非磁性体等を用いなくても、IPMSM100のトルクTおよびロータコア111の機械的強度を増加させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、ロータコア断面において、穴310の第1端部311の周方向の長さL2は、永久磁石112の磁化方向Dmの長さ(すなわち、穴310の磁石占有領域の幅方向の長さ(内側空間310aの幅方向の長さ))L1よりも長い。したがって、穴310の左右方向Dsの第1の端部311側において、ロータコア111内で還流する磁束501を確実に抑制することができると共に、リラクタンストルクを確実に大きくすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、ロータコア断面において、全ての穴310の第1端部311が開口している。したがって、各穴310の第1端部311側において、ロータコア111内で還流する磁束501をより確実に抑制することができると共に、リラクタンストルクをより確実に大きくすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、ロータコア断面において、穴310の第1端部311は、第1外側空間310bと連通する位置での内側空間310aの中心位置403に対して、周方向において後尾側に偏っている。したがって、穴310の第1端部311側において、リラクタンストルクをより大きくすることができる。
【0055】
また、本実施形態では、ロータコア断面において、穴310の内側空間310aの後尾側端点外挿位置407から、穴310の第1端部311の後尾側における端点402までの、後尾側に向かう方向における周方向の長さL4は、内側空間310aの幅方向の長さL1以上(L4≧L1)である。したがって、穴310の第1端部311側において、リラクタンストルクをより一層大きくすることができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。第1実施形態では、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される穴310の第2端部312が開口していない場合を例示した。これに対し、本実施形態では、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される穴の第2端部を開口させる場合について説明する。このように本実施形態と第1実施形態とは、穴310の第2端部312が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1実施形態と同一の部分については、
図1~
図7Cに付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態では、
図2に示すロータ110が以下のように変更される。
図8は、ロータ810の構成の一例を示す図である。
図8は、ロータ810の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータ810の断面図であり、
図2に対応する図である。本実施形態でも、第1実施形態と同様に、
図8に示す矢印線の方向(すなわち、紙面に向かって反時計回りの方向)にロータ810が回転し、
図8に示す矢印線の方向とは逆の方向(すなわち、紙面に向かって時計回りの方向)にはロータ810が回転しない場合を例示する。
【0058】
ロータ810は、ロータコア811と、複数の永久磁石112と、を備える。ロータコア811は、軟磁性体部と、複数の穴部と、を備える。軟磁性体部は、例えば、複数の電磁鋼板を、ロータ810の中心線Oに積層させることにより構成される。ただし、必ずしも、複数の電磁鋼板を積層させることにより軟磁性体部を構成する必要はない。第1実施形態で例示したように、他の軟磁性材料により構成してもよい。
【0059】
永久磁石112が設置される穴において、永久磁石112が存在しない領域は、フラックスバリア813(813a~813b)となる。
図2に示したロータ110と
図8に示すロータ810との相違点は、フラックスバリア813bの形状および大きさである。尚、
図2に示したフラックスバリア113aと
図8に示すフラックスバリア813aとは同じである。第1実施形態で説明したように、フラックスバリア813a~813bは空隙部(すなわち、空気の領域)となっていても、非磁性体が設置されていてもよい。ただし、ロータコア811のフラックスバリア813よりも外周側の領域が孤立して、当該領域が宙に浮いたような形状にならないように、例えば、フラックスバリア813bの一部または全部の領域に非磁性体を設置するのが好ましい。
【0060】
尚、本実施形態でも第1実施形態と同様に、ロータ断面の形状は、ロータ810のz軸方向のいずれの位置においても、
図8に示す形状になる場合を例示する。
【0061】
また、
図8では、第1実施形態と同様に、IPMSMの極数が4極である場合を例示する。
図8でも
図2と同様に、表記が複雑になるので、ロータ810の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータ810のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。
【0062】
図9は、ロータコア811の構成の一例を示す図である。
図9は、ロータコア811の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータコア811の断面図であり、
図3に対応する図である。尚、
図9でも
図3と同様に、ロータコア811の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータコア811のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。
【0063】
図9において、ロータコア811には、磁石占有領域と、フラックスバリア813となる領域と、を含む穴910が形成されている。
ロータコア断面において、穴910の第1端部911は開口している。また、穴910の第2端部912も、ロータコア断面において開口している。
【0064】
第1実施形態と同様に本実施形態でも、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される4つの穴910の全てが、穴910の第1端部911において開口している場合を例示する。しかしながら、永久磁石112が設置される4つの穴910の少なくとも1つにおいて、穴910の第1端部911が開口していればよい。同様に、永久磁石112が設置される4つの穴910の全てにおいて、穴910の第2端部912が開口している場合を例示する。しかしながら、永久磁石112が設置される4つの穴910の少なくとも1つにおいて、穴910の第2端部912が開口していればよい。
【0065】
図9において、穴910は、内側空間910aおよび第1外側空間910bを有する。
図10は、内側空間910aおよび第1外側空間910bを説明する図であり、
図4に対応する図である。
図10において、第1外側空間910bは、
図4に示した第1外側空間310bと同じである。
【0066】
内側空間910aは、ロータコア断面において、穴910を構成する空間のうち、幅方向の長さが、永久磁石112の磁化方向Dmの長さに対応する長さL1と同等でほぼ一定である空間である。
第1実施形態と同様に、内側空間910aの先頭側における端部は、第1外側空間910bの後尾側における端部と一致する。また、内側空間910aの後尾側における端部(すなわち、第1外側空間910bと連通する側とは反対側の端部)は、穴910の第2端部912に一致する。したがって、穴910の第2端部912の周方向の長さは、内側空間910aの幅方向の長さL1とほぼ同じである。一方、穴910の第1端部911の周方向の長さL2は、穴910の第2端部912の周方向の長さL1よりも長い。このように、穴910の左右方向Dsの端部のうち開口している端部911、912の周方向の長さL2、L1は、先頭側における端部911の方が後尾側における端部912よりも長い(L2>L1)。したがって、
図7Aに示したロータコア111内で還流する磁束701が発生しなくなる作用を得つつ、IPMSMのトルクTを大きくする効果を実現することができる。一方、軟磁性体部だけでロータコアを形成する場合、第1実施形態のロータコア111に比べてロータコア811の機械的強度は低下する。そこで、ロータコア811の機械的強度が低下しないように、例えば、フラックスバリア813bの一部または全部の領域に非磁性体を設置するのが好ましい。したがって、例えば、ロータコア内で還流する磁束701が発生することを防止することを重視する場合には第2実施形態を採用し、ロータコアの機械的強度が低下することを防止することを重視する場合には第1実施形態を採用すればよい。尚、本実施形態においても、第1実施形態で説明した種々の変形例を採用してもよい。
【0067】
(計算例)
本計算例では、回転数=3000rpm、励磁電流(の実効値)=5.5A、進角=20degの運転条件で、それぞれのIPMSMを運転した場合のIPMSMの電磁界解析を、有限要素法により実行した。そして、電磁界解析の結果として得られる磁束密度ベクトルに基づいて、マクスウェルの応力テンソルを算出し、マクスウェルの応力テンソルからIPMSMのトルクTを算出した。以下では、第1実施形態のロータ110を実施例1のロータと呼び、第2実施形態のロータ810を実施例2のロータと呼ぶこととする。
【0068】
図11は、比較例1のロータ1100の構成を示す図である。
図11は、ロータ1100の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータ1100の断面図であり、
図2に対応する図である。ロータ断面の形状は、ロータ1100のz軸方向のいずれの位置においても、
図11に示す形状であるものとする。また、実施例1、2と同様に、比較例1でも、IPMSMの極数が4極である場合を例示する。また、
図11でも
図2と同様に、表記が複雑になるので、ロータ1100の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータ1100のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。
図11に示すように比較例1のロータ1100では、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される穴の第1端部1111も、永久磁石112が設置される穴の第2端部1112も開口していない。
【0069】
図12は、比較例2のロータ1200の構成を示す図である。
図12は、ロータ1200の中心線Oに対して垂直に切った場合のロータ1200の断面図であり、
図2に対応する図である。ロータ断面の形状は、ロータ1200のz軸方向のいずれの位置においても、
図12に示す形状であるものとする。また、実施例1、2と同様に、比較例2でも、IPMSMの極数が4極である場合を例示する。また、
図12でも
図2と同様に、表記が複雑になるので、ロータ1200の1極を構成する部分にのみに符号を付しロータ1200のその他の3極を構成する部分における符号を省略する。
図12に示すように比較例
2のロータ1200では、ロータコア断面において、永久磁石112が設置される穴の第1端部1211も、永久磁石112が設置される穴の第2端部1212も開口している。ただし、永久磁石112が設置される穴の第1端部1211の周方向の長さと、永久磁石112が設置される穴の第2端部1212の周方向の長さは同じ(永久磁石112の磁化方向Dmの長さに対応する長さL1とほぼ同じ)である。
【0070】
図11に示す比較例1のロータ1100を用いた場合、IPMSMのトルクTは0.800Nmになった。これに対し、
図2に示した実施例1のロータ110を用いた場合、IPMSMのトルクTは1.199Nmになった。このように実施例1では比較例1に対しIPMSMのトルクTは49.9%増加した。したがって、
図3に示したように、穴310の左右方向Dsの先頭側に第1外側空間310bを形成することによって、IPMSMのトルクTを大きくすることができることが分かる。
【0071】
また、
図12に示す比較例2のロータ1200を用いた場合、IPMSMのトルクTは0.956Nmになった。これに対し、
図8に示した実施例2のロータ810を用いた場合、IPMSMのトルクTは1.251Nmになった。このように実施例2では比較例2に対しIPMSMのトルクTは30.8%増加した。したがって、
図9に示したように、穴910の左右方向Dsの先頭側に第1外側空間910bを形成することによって、IPMSMのトルクTを大きくすることができることが分かる。
【0072】
また、実施例1と比較例1とを比べると、穴310の左右方向Dsの先頭側に第1外側空間310bを形成することによるトルクの増加量は、0.399(=1.199-0.800)Nmである。また、実施例1と実施例2とを比べると、穴910の第2端部912をロータコア811の外周面に連通させることによるトルクの増加量は、0.052(1.251-1.199)Nmである。したがって、穴310の左右方向Dsの先頭側に第1外側空間310bを形成することにより、IPMSMのトルクTを効果的に大きくすることができることが分かる。
【0073】
(変形例)
第1実施形態および第2実施形態では、ロータコア断面の形状は、ロータ110、810のz軸方向のいずれの位置においても、
図2、
図8に示す形状になる場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、ロータ110、810のz軸方向の全ての位置において
図2、
図8に示す形状にしない場合よりも、全体としてIPMSMのトルクが増加するようにしていれば、ロータ110、810のz軸方向の一部の位置においては、ロータ断面の形状が、
図2、
図8に示す形状になっていなくてもよい。例えば、ロータ110のz軸方向の一部の位置においては、ロータ断面の形状が、
図11または
図12に示す形状であってもよい。
【0074】
また、第1実施形態および第2実施形態では、1つの永久磁石112で1つの極が構成される場合を例示したが、本開示はこれに限定されない。複数の永久磁石112で1つの極が構成されてもよい。
【0075】
また、第1実施形態および第2実施形態では、IPMSM100がインナーロータ型である場合を例示した。しかしながら、アウターロータ型のIPMSMのモータのロータに対して、第1実施形態および第2実施形態で説明したようにして、永久磁石112が設置される穴の第1端部と第2端部とを形成してもよい。この場合、ロータコアの内周面が、ステータと間隔を有して対向する端面になる。また、永久磁石埋込型のモータではなく、永久磁石埋込型の発電機のロータに対して、第1実施形態および第2実施形態で説明したようにして、永久磁石112が設置される穴の第1端部と第2端部とを形成してもよい。
【0076】
また、1つのロータコア断面において、永久磁石が設置される穴の第2端部として、第1実施形態のように開口していない端部と、第2実施形態のように、穴の第1端部のうち開口している端部の周方向の長さよりも周方向の長さが短い端部と、の双方が含まれていてもよい。
【0077】
尚、以上説明した本開示の実施形態は、何れも本開示を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0078】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0079】
(付記1)
永久磁石が設置される複数の穴を備え、
回転の中心となる回転軸線に対して垂直な断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記永久磁石の磁化方向に対して左右両側の方向である左右方向における回転方向の先頭側に位置する第1端部と、前記左右方向における前記回転方向の後尾側に位置する第2端部と、を含み、
前記第1端部は開口しており、
前記断面において、前記開口の周方向の長さは、前記第2端部の周方向の長さよりも長い、ロータコア。
【0080】
(付記2)
前記断面において、前記開口の周方向の長さは、前記穴の前記永久磁石によって占められる領域の、前記永久磁石の磁化方向の長さよりも長い、付記1のロータコア。
【0081】
(付記3)
前記断面において、全ての前記穴の前記第1端部が開口している、付記1または付記2のロータコア。
【0082】
(付記4)
前記断面において、少なくとも1つの前記穴は、前記第2端部は開口していない、付記1~付記3のいずれか1項のロータコア。
【0083】
(付記5)
前記断面において、全ての前記穴の前記第2端部が開口していない、付記1~付記4のいずれか1項のロータコア。
【0084】
(付記6)
前記断面において、前記第1端部が開口している前記穴は、
幅方向の長さが、前記永久磁石の磁化方向の長さに対応する長さと同等である内側空間と、
前記内側空間に連通し、前記第1端部を前記穴の前記左右方向の端部の1つとして有し、且つ、前記内側空間よりも幅広な第1外側空間と、を有し、
前記第1端部は、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の周方向の中心位置に対して、回転方向の後尾側に偏るように配置されている、付記1~付記5のいずれか1項のロータコア。
【0085】
(付記7)
前記断面において、前記内側空間の後尾側端点外挿位置から、前記第1端部の端点のうち、回転方向の後尾側における端点までの、回転方向の後尾側に向かう方向における周方向の長さは、前記内側空間の幅方向の長さ以上であり、
前記内側空間の後尾側端点外挿位置は、前記断面において、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の後尾側における端点から前記ロータコアの半径方向に沿って延びる直線と、前記第1端部との交点の位置である、付記6のロータコア。
【0086】
(付記8)
付記1~付記7のいずれか1項のロータコアと、
前記永久磁石と、
を備えるロータ。
【0087】
(付記9)
付記8のロータと、
ステータと、
を備える、回転電機。
【0088】
(付記10)
永久磁石が設置される複数の穴を備え、
回転の中心となる回転軸線に対して垂直な断面において、前記複数の穴の少なくとも1つは、前記永久磁石の磁化方向に対して左右両側の方向である左右方向における回転方向の先頭側に位置する第1端部と、前記左右方向における前記回転方向の後尾側に位置する第2端部と、を含み、
前記第1端部は、外周面に開口し、前記開口の周方向の長さが前記第2端部の周方向の長さよりも長く、
前記断面において、前記第1端部が開口している前記穴は、幅方向の長さが前記永久磁石の磁化方向の長さに対応する長さと同等である内側空間と、前記内側空間に連通し、前記第1端部を前記穴の前記左右方向の端部の1つとして有し、且つ、前記内側空間よりも幅広な第1外側空間と、を有し、
前記第1端部は、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の周方向の中心位置に対して、回転方向の後尾側に偏るように配置されている、ロータコア。
【0089】
(付記11)
前記断面において、前記内側空間の後尾側端点外挿位置から、前記第1端部の端点のうち、回転方向の後尾側における端点までの、回転方向の後尾側に向かう方向における周方向の長さは、前記内側空間の幅方向の長さ以上であり、
前記内側空間の後尾側端点外挿位置は、前記断面において、前記第1外側空間と連通する位置での前記内側空間の後尾側における端点から前記ロータコアの半径方向に沿って延びる直線と、前記第1端部との交点の位置である、付記10のロータコア。
【0090】
(付記12)
前記穴を構成する穴壁面において、前記第1外側空間の前記回転方向の後尾側を形成する後尾側壁面が前記回転軸線に対して直交する方向に対して傾いている、付記10又は付記11のロータコア。
【0091】
(付記13)
前記後尾側壁面の少なくとも一部は、凹状に湾曲している、付記11又は付記12のロータコア。
【0092】
(付記14)
前記断面において、前記開口の周方向の長さは、前記穴の前記永久磁石によって占められる領域の、前記永久磁石の磁化方向の長さよりも長い、付記10~付記13のいずれか1項のロータコア。
【0093】
(付記15)
前記断面において、全ての前記穴の前記第1端部が開口している、付記10~付記14のいずれか1項のロータコア。
【0094】
(付記16)
前記断面において、少なくとも1つの前記穴は、前記第2端部は開口していない、付記10~付記15のいずれか1項のロータコア。
(付記17)
前記断面において、全ての前記穴の前記第2端部が開口していない、付記10~付記16のいずれか1項のロータコア。
【0095】
(付記18)
付記10~付記17のいずれか1項のいずれか1項のロータコアと、
前記永久磁石と、
を備えるロータ。
【0096】
(付記19)
付記18のロータと、
ステータと、を備える、回転電機。
【0097】
なお、2021年3月31日に出願された日本国特許出願2021-060596号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。