(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250116BHJP
C22C 38/02 20060101ALN20250116BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/02
C21D8/12 D
(21)【出願番号】P 2024551524
(86)(22)【出願日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2024016517
【審査請求日】2024-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2023073596
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】岩城 将嵩
(72)【発明者】
【氏名】田中 智仁
(72)【発明者】
【氏名】片岡 隆史
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136176(WO,A1)
【文献】特開2013-159846(JP,A)
【文献】特開2007-277644(JP,A)
【文献】米国特許第5296051(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、長手方向に対して60~120°の方向に延在する複数の線状の歪が導入された方向性電磁鋼板であって、
隣り合う前記複数の線状の歪の、前記長手方向の間隔が、それぞれ2~10mmであり、
前記線状の歪の延在方向に垂直な方向の幅である前記線状の歪の幅が、前記線状の歪の前記延在方向において周期的に増減しており、周期が、200~400μmであり、
前記複数の線状の歪のうち、隣り合う線状の歪は、前記幅の変化の前記周期が、前記線状の歪の前記延在方向に0.4~0.6周期分ずれており、
前記幅の最小に対する前記幅の最大の比が、1.2~8.0であり、
前記幅の最小は、30μm以上である、
方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は方向性電磁鋼板に関する。
本願は、2023年04月27日に、日本に出願された特願2023-073596号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、軟磁性材料であり、主に、変圧器の鉄心材料として用いられる。そのため、方向性電磁鋼板には、高磁化特性および低鉄損という磁気特性が要求される。
鉄損とは、鉄心を交流磁場で励磁した場合に、熱エネルギーとして消費される電力損失であり、省エネルギーの観点から、鉄損はできるだけ低いことが求められる。鉄損の高低には、磁化率、板厚、被膜張力、不純物量、電気抵抗率、結晶粒径、磁区サイズなどが影響する。方向性電磁鋼板に関し、様々な技術が開発されている現在においても、エネルギー効率を高めるため、鉄損を低減する研究開発が継続されている。
低鉄損化する方法の一つとして、鋼板表面にレーザ照射を行う技術が提案されている。この技術では、レーザ照射により表面に歪が導入され、180°磁区幅が細分化されることで鉄損の一部である渦電流損を低減することができるとされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、方向性電磁鋼板の表面に、集光した連続波レーザ光を、前記方向性電磁鋼板の圧延方向から傾斜した方向に走査しながら照射する工程と、前記連続波レーザ光を走査する部分を所定の間隔でずらしながら繰り返す工程を有し、前記連続波レーザ光の平均パワーをP(W)、前記走査の速度をVc(mm/s)、前記所定の間隔をPL(mm)と表わし、投入エネルギーUaをUa=P/(Vc×PL)(mJ/mm2)と定義したとき、1.0mm≦PL≦3.0mm、及び0.8mJ/mm2≦Ua≦2.0mJ/mm2、を満たすことを特徴とする、レーザ光の照射により磁区が制御された方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。
特許文献1では、容易に、かつ高い生産性を確保しながら、方向性電磁鋼板のL方向及びC方向の両方向における鉄損を低減することができることが示されている。
【0004】
特許文献1の技術では、一定の渦電流損の低減による鉄損低減効果が得られる。しかしながら、磁区幅の細分化から予想されるほどの鉄損の低減効果は得られておらず、改善の余地がある。
また、特許文献1に提案されるような方向性電磁鋼板へのレーザ照射は、鉄損の低減には効果的であるものの、レーザ照射によって形成される還流磁区が、磁歪を大きくすることで騒音特性が劣化するという課題があった。
【0005】
特許文献2では、歪取焼鈍後も鉄損低減効果が消失しない磁気特性の優れた方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。特許文献2では、最終冷延板に局所的に溝を形成する方法において、その溝の形状に工夫を加えることによって、従来に比べてさらに低い鉄損が得られると示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術では、またレーザ光照射およびプラズマ照射により鋼板に付与される微小な熱歪の付与する技術に比べ、渦電流損の低減効果が不十分であり、騒音特性について考慮されていない。
【0007】
特許文献3では、鋼板の表層部に局所的に導入され、圧延方向を横切る方向に延びる歪み領域が、圧延方向に周期的間隔s(mm)で複数形成された方向性電磁鋼板であって、各々の前記歪み領域には、幅方向に200mm以上にわたり連続的に、鋼板表面における圧延方向の幅が周期的に変化した還流磁区領域が形成され、各々の前記還流磁区領域が、鋼板表面における圧延方向の最大幅Wmaxの最小幅Wminに対する比(Wmax/Wmin)が1.2以上2.2以下、鋼板表面における圧延方向の平均幅Waveが80μm以上250μm以下、板厚方向の最大深さDが32μm以上、(Wave×D)/sが0.0007mm以上0.0016mm以下の条件を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特許第4669565号公報
【文献】日本国特開平6-299244号方向
【文献】日本国特許第6060988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3には、還流磁区領域の圧延方向の幅を周期的に変化させることで、磁歪高調波レベルを低くでき、低鉄損及び低騒音を両立できると記載されている。
しかしながら、本発明者らが検討した結果、特許文献3の技術では、歪が導入されていない領域の幅が変化することで、磁壁の移動が阻害され、ヒステリシス損が増加するので、磁区幅の細分化による鉄損低減効果が十分に得られない。
また、特許文献1で、磁区幅の細分化から予想されるほどの鉄損の低減効果が得られないのも、磁壁の移動が阻害され、ヒステリシス損が増加しているからであると考えられる。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、従来よりも低鉄損な方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、磁歪高調波レベルを低くすることで、低鉄損と低騒音を実現する技術において、渦電流損は低減するもののヒステリシス損が増加するという点に着目し、ヒステリシス損の増加を抑え、より低鉄損を実現する方法について検討を行った。
その結果、方向性電磁鋼板の表面にレーザ照射等によって線状の歪を導入して磁区細分化を行う際に、導入する歪の幅を周期的に増減させるとともに、隣り合う線状の歪同士で、歪の幅の増減の周期をずらすことで、ヒステリシス損の増加を抑えることができるとの知見を得た。
【0012】
本発明は上記の知見に鑑みてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、表面に、長手方向に対して60~120°の方向に延在する複数の線状の歪が導入された方向性電磁鋼板であって、隣り合う前記複数の線状の歪の、前記長手方向の間隔が、それぞれ2~10mmであり、前記線状の歪の延在方向に垂直な方向の幅である前記線状の歪の幅が、前記線状の歪の前記延在方向において周期的に増減しており、周期が、200~400μmであり、前記複数の線状の歪のうち、隣り合う線状の歪は、前記幅の変化の前記周期が、前記線状の歪の前記延在方向に0.4~0.6周期分ずれており、前記幅の最小に対する前記幅の最大の比が、1.2~8.0であり、前記幅の最小は、30μm以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、磁壁の移動を阻害しない磁区細分化を実現することで、渦電流損を低減したまま、ヒステリシス損の増加を抑えることができ、結果的に低鉄損な方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】表面に線状の歪が導入された、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の例を示す模式図である。
【
図2】ImageJを用いて描画した、横軸をDISTANCE、縦軸をGRAY VALUEとしたグラフの例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板(本実施形態に係る方向性電磁鋼板)について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板1は、表面に、長手方向(方向性電磁鋼板の長手方向)RDに対して60~120°の方向(幅方向TDに対して±30°の方向とも言える)に延在する複数の線状の歪2が導入された、方向性電磁鋼板であって、隣り合う複数の線状の歪2の、長手方向RDの間隔PLが、それぞれ2~10mmであり、線状の歪2の延在方向に垂直な方向の幅である線状の歪2の幅が、線状の歪2の延在方向において周期的に増減しており、周期CYCが、200~400μmであり、複数の線状の歪2のうち、隣り合う線状の歪2,2’は、幅の変化の周期が、線状の歪の延在方向に0.4~0.6周期分ずれており、幅の最小Tminに対する幅の最大Tmaxの比(Tmax/Tmin)が、1.2~8.0であり、前記幅の最小Tminが30μm以上である。
以下、それぞれの限定理由について説明する。
【0016】
<表面に、長手方向(圧延方向)に対して60~120°の方向に延在する複数の線状の歪が導入されている>
<隣り合う複数の線状の歪の、長手方向の間隔が、それぞれ2~10mm>
方向性電磁鋼板では、長手方向(製造工程における圧延方向)RDに磁化容易軸が揃っており、長手方向に垂直方向に近い方向にレーザや電子ビーム等のエネルギー線を走査しながら照射して方向性電磁鋼板の表面に歪を導入すると、180°磁区細分化作用によって、鉄損が更に低減される。
本実施形態において、歪の延在方向(レーザや電子ビーム等のエネルギー線によって歪を導入する場合には、その走査方向に相当)を長手方向(圧延方向)に対して60~120°の角度とする。角度がこの範囲から外れると、鋼板の180°磁区細分化作用は少なくなり十分な鉄損低減効果が得られない。
また、隣り合う複数の線状の歪の、長手方向(通常圧延方向)RDの間隔が10mm超であると、180°磁区の磁区細分化効果が減少するため鉄損改善効果が不足する。そのため、それぞれの隣り合う線状の歪の、長手方向の間隔は、10mm以下とする。複数の線状の歪の間隔は、略等間隔であることが好ましい。
一方、照射間隔を小さくすると基本的には鉄損が小さくなるものの、過度に小さくなると磁区細分化効果が飽和し渦電流損がほとんど低下しなくなる一方で、歪によるヒステリシス損の増加が顕著になり、鉄損が悪化する。また、騒音特性が劣化する場合がある。そのため、それぞれの隣り合う線状の歪の、長手方向の間隔は、2mm以上とする。
線状の歪とは、一方向に延在する連続的な歪である。本実施形態では、後述するようにその幅を意図的に増減させる。
ここで、本実施形態において、複数の線状の歪の長手方向の間隔PLとは、線状の歪の中心から隣り合う線状の歪の中心までの間隔である。
【0017】
<線状の歪の延在方向に垂直な方向の幅である線状の歪の幅が、線状の歪の延在方向において周期的に増減している>
上述のように、方向性電磁鋼板の表面エネルギー線を照射して線状の歪を導入することによって、渦電流損を低下させることができる。一方で、導入された歪は磁壁の移動を阻害する。鉄損は、渦電流損とヒステリシス損からなるが、歪の導入により、鉄損のうちヒステリシス損が増加する。
ヒステリシス損を増加させないためには、歪の量を小さくすることが好ましいが、一方で、歪の量が小さいと、磁区細分化効果が小さくなる。
本発明者らは、1本の線状の歪において、歪の幅(延在方向に垂直な方向の幅)を周期的増減させることで、少量の歪で磁区細分化効果を得られることを見出した。
ただし、その変化の周期や、変化の大きさについては、十分な効果を得るため、後述する範囲とする必要がある。
ここで本実施形態において周期的にとは、周期のおよそ±5%以下の誤差は許容する(例えば200μmの場合±10μm、400μmの場合±20μmは許容する)。
【0018】
<線状の歪の幅の変化の周期が200~400μmである>
<線状の歪の幅の最小に対する幅の最大の比が、1.2~8.0である>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、線状の歪の一部の幅を変化させ、一部を大きくすることで、還流磁区の発生位置を制御し(最も大きい位置から発生するように制御し)、幅の変化の周期と磁区幅とが一致するように制御している。
線状の歪の幅の最小に対する幅の最大の比(幅の比)が1.2未満では、従来(均一な幅の歪を導入した場合)と同様であり、還流磁区の発生位置が意図しない位置となり、十分な磁区細分化効果が得られないことが懸念される。
一方、幅の比が8.0超であっても、還流磁区の発生位置が意図しない位置となり、十分な磁区細分化効果が得られないことが懸念される。そのため、幅の比を1.2~8.0とする。
幅の最大値に関し、好ましくは、1周期の長さ(幅のプロフィールを図示した際の谷から隣の谷までの長さ)を底辺、線状の歪の最大幅となる位置を頂点とする二等辺三角形を描いた際に、その三角形の底角が45°以下であることが好ましい。
磁区細分化効果を十分に得るため、線状の歪の幅は、最小の部分(最も細い部分)でも30μm以上とする。
また、幅の変化の周期は、最終的に得られる磁区幅に相当する。変化の周期が400μm超では、磁区幅が広く、十分な効果が鉄損の改善効果が得られない。
また、周期を短くすることで、磁区幅が小さくなるものの、周期が短くなりすぎると、磁区幅が、複数周期分に対応するようになり(例えば周期が150μmであっても、磁区幅はその2倍の300μmとなり)、むしろ、磁区幅が広くなることが懸念される。そのため、幅の変化の周期は200μm以上とする。
【0019】
<複数の線状の歪のうち、隣り合う線状の歪は、幅の変化の周期が、線状の歪の延在方向に垂直な方向に0.4~0.6周期分ずれている>
上述の通り、導入される歪の幅を周期的に変化させ、歪の1周期と同じ磁区幅を得る。しかしながら、複数の線状の歪を導入するに際し、一様に線状の歪を導入する場合、磁壁が動きにくくなり、磁区幅の細分化による鉄損低減効果が十分に得られない。
これは、線状の歪の幅の周期的な変化によって、方向性電磁鋼板の長手方向で見た際に、歪の導入されてない領域の幅が位置によって異なることで、磁壁が動きにくくなることが理由であると考えられる。
そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、複数の線状の歪のうち、隣り合う線状の歪は、前記幅の変化の周期を、ずらすことで歪が導入されていない領域の幅を略一定にする。周期のずれは、
図1に示すように、約半周期(0.5周期)であり、0.4~0.6周期であれば許容される。ずれの量は、線状の歪の延在方向に垂直な方向を基準として、延在方向のずれ量を、周期を単位として、評価する。
【0020】
方向性電磁鋼板の導入された線状の歪が付与された箇所は、以下の方法により特定することができる。
すなわち鋼板で歪が付与された箇所は、歪により鉄の結晶格子に歪みが生じる。この歪みを検出する方法として、X線トポグラフィという方法を用いる。以下にその概要を説明する。通常結晶格子にX線を入射した場合、各結晶格子面に応じた特定の入射角度と反射角度にてX線の反射が生じ、その場合入射角度と反射角度は等しくなる。これはブラッグ回折条件と呼ばれるが、結晶の歪み、すなわち本特許の場合は鉄結晶の歪みの大きさにより、入射角度に対して反射角度がわずかに変化したり反射強度が弱められる。この現象を利用する分析法である。
分析に際し、X線トポグラフィ装置は、リガク製のXRTmicronを用い、X線源はCuターゲットとする。また撮影時の回折面は鉄の(310)とする。CCD解像度を2.4μm、Digital分解能を16bitとする。
手順としては、まずエネルギー線により鋼板に歪が付与された方向性電磁鋼板について圧延方向に100mm、板幅方向に100mmを切断等により加工し試料を準備する。加工の際に加工歪が鋼板に付与されると、それがX線反射挙動に影響するので注意深く行う必要がある。得た試料について、通常の方向性電磁鋼板にはその表面に絶縁被膜が施されているが、それが施されていてもいなくても、いずれでも歪の付与箇所を特定できるので元の試料の状態に応じてなるべく加工歪が付与されないように準備することが肝要である。そして、板幅方向に対して、トポグラフィ画像を高解像モードでのSnap Shot撮影とする。撮影時の視野径は、板幅方向6~7mm、圧延方向7~8mmとする。撮影箇所を決めるために、事前にTDI(Time Delay Integration)スキャンを実施しても良い。
次に撮影されたトポグラフィ画像から、ImageJという画像解析ソフトを用いて、歪が付与された箇所を具体的に特定する。
特定に際しては、ImageJ上で、トポグラフィ画像を展開し、解析範囲であるROI(Range of Interest)を設定する(ピクセル幅および高さは2.406μm)ROIは矩形であり、その範囲は圧延方向を646ピクセル(およそ1.55mm相当)とし、板幅方向を84ピクセル(およそ0.20mm相当)とする。以降、圧延方向に対して平行な辺をROI長辺、板幅方向に対して平行な辺をROI短辺と呼称する。矩形内に歪が付与された箇所が収まるようにROIを設定する。この時、目視でも良いので、歪が付与された箇所がROI長辺の中心に位置するように設定する。ROI設定が終わったら、次はROI設定範囲において、横軸をDISTANCE、縦軸をGRAY VALUEとして、グラフを描画する。グラフ描写機能はImageJの機能の一部でありこれを用いる。これにより、
図2に示す様な、負のピークを有するスペクトルが得られる。スペクトル両端のプラトー形状部分についてGray Scaleを読み取り、それらの平均値を算出する。以降、この平均値をI
Ave.と呼ぶ。スペクトルにおける、負のピーク強度(スペクトルの最小値)をI
Bottomとする。I
Ave.とI
Bottomの差分を、ΔI
Heightと定義する。ここで、以下の式で定義できる、I
HH(Half Height)という概念を導入する。I
HHとは、ピーク強度の半分に相当するGray Scale値である。歪が付与された箇所の幅Wを、I
HHに対応する2点間のDISTANCEと定義する。
I
HH = I
Height+(0.5×I
Height)・・・(1)
【0021】
<製造方法>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、製造方法によらず、上記の特徴を有していればその効果が得られる。しかしながら、以下の構成を含む製造方法によれば比較的安定して製造できるので、好ましい。
(1)公知の方法で得られた方向性電磁鋼板の表面に、長手方向に2~10mmの略一定の間隔で、エネルギー線を、走査方向に垂直な方向のエネルギー線の幅(太さ)を周期的に変化させながら、前記長手方向に対して60~120°の方向に走査することで照射して、方向性電磁鋼板に複数の線状の歪を導入する照射工程。
【0022】
エネルギー線を照射する方向性電磁鋼板は、公知の方法で得られた鋼板であればよく、例えば、JISC2553:2019を満足する方向性電磁鋼板である。磁束密度B8(800A/mにおける磁束密度)が1.90T以上である方向性電磁鋼板であることが好ましく、B8が1.92T以上である方向性電磁鋼板であることがより好ましい。
【0023】
エネルギー線の照射は、隣り合う複数の線状の歪の、長手方向(圧延方向)の間隔が、それぞれ2~10mmであり、長手方向に対して60~120°の方向に延在する複数の線状の歪を導入するため、長手方向に2~10mmの略一定の間隔で、エネルギー線を、長手方向に対して60~120°の方向に走査することで照射する。
エネルギー線は、延在方向に連続した線状の歪を得るため、連続波レーザであることが好ましい。また、電子ビームやパルス波の場合板幅方向の歪が生じやすいので、連続波である連続波レーザであることが好ましい。
レーザの照射条件は、方向性電磁鋼板の表面に歪を導入できる範囲であれば公知の条件を採用することができる。
【0024】
連続波レーザであれば、ポリゴンミラーにより走査する際に、レンズの直後に走査方向に周期的に幅が異なるシャッターを設置することで、走査方向に垂直な方向のエネルギー線の幅は、周期的に変化させることができる。
また走査する際に、シャッターの位置を変化させることで、隣り合う線状の歪において任意の範囲で周期をずらす場合、幅の変化の周期をずらすことができる。
【実施例】
【0025】
Si含有量が3.25%、板厚が0.23mmである方向性電磁鋼板を準備した。この方向性電磁鋼板の磁束密度B8は1.93T、鉄損W17/50は0.90W/kgであった。
この方向性電磁鋼板に対し、長手方向(圧延方向)に表1に示す一定の間隔(ピッチ)で、表1に示す方向(長手方向に対する角度)に、連続波レーザを走査して照射した。走査に際しては、ポリゴンミラーにより走査するとともに、レンズの直後に走査方向に周期的に幅が異なるシャッターを設置することで、表1の周期で歪の幅を変化させた。
隣り合う線状の歪における歪の幅の変化の周期のずれは、表1に示す通りとした。
得られた方向性電磁鋼板に対し、以下の要領で、磁気特性を評価した。
【0026】
[磁気特性評価]
各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅中央位置を含む、幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。サンプルの長さ方向は、圧延方向に平行であった。このサンプルを用いて、JIS C 2556(2015)に準拠して、単板磁気特性試験(SST試験)により、磁束密度を求めた。具体的には、サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8(T)を求めた。
さらに、上記サンプルを用いて、JIS C 2556(2015)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W17/50(W/kg)を測定した。
また、最大磁束密度を1.7Tとしたときのヒステリシスループを測定し、そこから得られたヒステリシス損とW17/50から渦電流損を求めた。
結果を表2に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
表1、表2から分かるように、所定の周期で幅が変化する複数の線状の歪が所定の方向に所定の間隔で導入された、本発明例No.2、3、5、7、11~16、18、20、21、24~26、30、31では、鉄損(W17/50)が0.79W/kg以下と低くなっていた。
これに対し、比較例であるNo.1、4、6、8~10、17、19、22、23、27~29では、線状の歪の幅の変化の周期、歪の最大幅/最小幅、歪の幅の最小、周期のずれ、複数の線状の歪の間隔、延在方向の少なくとも1つが本発明範囲外であり、鉄損が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、磁壁の移動を阻害しない磁区細分化を実現することで、渦電流損を低減したまま、ヒステリシス損の増加を抑えることができ、結果的に低鉄損な方向性電磁鋼板を得ることができる。そのため、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0031】
1 方向性電磁鋼板
2 線状の歪
2’ 2と隣り合う線状の歪
RD 鋼板(方向性電磁鋼板)の長手方向
TD 鋼板(方向性電磁鋼板)の幅方向
PL 線状の歪の、鋼板(方向性電磁鋼板)の長手方向の間隔
CYC 周期
Tmin 幅の最小
Tmax 幅の最大
【要約】
この方向性電磁鋼板は、表面に、長手方向に対して60~120°の方向に延在する複数の線状の歪が導入された方向性電磁鋼板であって、隣り合う前記複数の線状の歪の、前記長手方向の間隔が、それぞれ2~10mmであり、前記線状の歪の延在方向に垂直な方向の幅である前記線状の歪の幅が、前記線状の歪の前記延在方向において周期的に増減しており、周期が、200~400μmであり、前記複数の線状の歪のうち、隣り合う線状の歪は、前記幅の変化の周期が、前記線状の歪の前記延在方向に0.4~0.6周期分ずれており、前記幅の最小に対する前記幅の最大の比が、1.2~8.0であり、前記幅の最小は、30μm以上である。