(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】脳オルガノイド及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/079 20100101AFI20250116BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20250116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250116BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20250116BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250116BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250116BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
C12N5/079
C12N5/071
C12N5/10
C12Q1/04
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2021554970
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041351
(87)【国際公開番号】W WO2021090877
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019201231
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】平峯 勇人
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】石川 充
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063985(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/076388(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/123902(WO,A1)
【文献】GARCIA-LEON J. A., et al.,Generation of a human induced pluripotent stem cell-based model for tauopathies combining three micr,Alzheimer's and Dementia,2018年,Vol. 14,pp. 1261-1280,ISSN:1552-5260
【文献】NAKAMURA M., et al.,Pathological progression induced by the frontotemporal dementia-associated R406W tau mutation in pat,Stem Cell Reports,2019年,Vol. 13,pp. 684-699,ISSN:2213-6711
【文献】佐原成彦,タウオパチーマウスモデルを用いた脳タンパク質老化モデル評価系の確立,日本薬理学雑誌,2018年,Vol. 152,pp. 4-9,ISSN:0015-5691
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12N 1/00- 7/08
G01N 33/48- 33/98
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小管関連タンパク質タウ(Microtubule Associated Protein Tau,MAPT)遺伝子の
N279K及びP301Sのアミノ酸変異をコードするエクソン10中の塩基配列の変異、並びにイントロン10中の塩基配列
の変異を有するヒト多能性幹細胞を浮遊培養する工程1を含む、脳オルガノイドの製造方法。
【請求項2】
前記イントロン10中の塩基配列の変異が、E10+16の塩基配列の変異
である、請求項
1に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項3】
前記工程1における浮遊培養を、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein,BMP)シグナル伝達経路阻害剤、及び形質転換因子β(TransformingGrowth Factor β,TGF-β)ファミリーシグナル伝達経路阻害剤を含む培地1中で行う、請求項1
又は請求項2に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項4】
前記工程1の浮遊培養により形成した培養物を、Wntシグナル伝達増強剤、及び細胞外マトリックスを含む培地2中で培養する工程2、及び
前記工程2の培養により形成した培養物を、細胞外マトリックスを含まない培地3中で培養する工程3、
を更に含む、請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の脳オルガノイドの製造方法により製造した脳オルガノイドを分散して分散物を得る工程4、及び
前記分散物を、タウタンパク質凝集物の存在下で培養する工程5、
を更に含む、脳オルガノイドの製造方法。
【請求項6】
前記工程5における培養を、前記分散物中に含まれる細胞1個あたり、前記タウタンパク質凝集物0.0005ng~0.4ngの存在下で行う、請求項
5に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項7】
前記タウタンパク質凝集物が、リコンビナントタウタンパク質の凝集物を含む、請求項
5又は請求項
6に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項8】
前記リコンビナントタウタンパク質が、エクソン10中に塩基配列の変異を有するMAPT遺伝子にコードされたものである、請求項
7に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項9】
前記工程5における培養を、リン酸化亢進試薬の存在下で行う、請求項
5~請求項
8のいずれか一項に記載の脳オルガノイドの製造方法。
【請求項10】
ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質を有
し、
前記ミスフォールドした3リピートタウタンパク質が、リン酸化した3リピートタウタンパク質を含み、前記ミスフォールドした4リピートタウタンパク質が、リン酸化した4リピートタウタンパク質を含み、
ウエスタンブロッティング法で示される、前記リン酸化した4リピートタウタンパク質の検出シグナルが、前記リン酸化した3リピートタウタンパク質の検出シグナル1に対して1.2~3である、脳オルガノイド。
【請求項11】
前記リン酸化した4リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N4Rタウタンパク質である、請求項
10に記載の脳オルガノイド。
【請求項12】
前記リン酸化した3リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N3Rタウタンパク質である、請求項
10又は請求項11に記載の脳オルガノイド。
【請求項13】
請求項
10~請求項
12のいずれか一項に記載の脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程、及び前記被験物質が前記脳オルガノイドに及ぼす影響を検定する工程、を含む、薬効評価方法。
【請求項14】
前記脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程の前に、請求項
10~請求項
12のいずれか一項に記載の脳オルガノイドを
非ヒト哺乳動物の脳に移植する工程を含む、請求項
13に記載の薬効評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳オルガノイド及びその使用に関する。より詳細には、本発明は、脳オルガノイドの製造方法、脳オルガノイド、及び薬効評価方法に関する。本願は、2019年11月6日に、日本に出願された特願2019-201231号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
タウタンパク質は、ヒトでは17番染色体に位置する微小管関連タンパク質タウ(Microtubule Associated Protein Tau、略して「MAPT」)遺伝子からの産物であり、神経軸索の構築と維持に寄与している。タウタンパク質は、微小管結合に関わる反復配列を3個有する3リピートタウタンパク質と、4個有する4リピートタウタンパク質に大別される。いずれも過剰にリン酸化されると微小管との結合能を失い、自己凝集する。そして、自己凝集物が脳内に大量に蓄積すると認知症を引き起こすと考えられている。
【0003】
タウタンパク質を有する培養神経細胞としては、MAPT遺伝子にN279K、P301L、及びE10+16の3変異を導入した人工多能性幹細胞を2次元培養することで、リン酸化した3リピートタウタンパク質を有する培養神経細胞を製造する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、MAPT遺伝子にP301S及びE10+16の2変異を導入した人工多能性幹細胞を2次元培養することで、リン酸化した3リピートタウタンパク質を有する培養神経細胞を製造する方法が知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Verheyen A., et al., Genetically Engineered iPSC-Derived FTDP-17 MAPT Neurons Display Mutation-Specific Neurodegenerative and Neurodevelopmental Phenotypes, Stem Cell Reports, 11 (2), 363-379, 2018.
【文献】Garcia-Leon J. A., et al., Generation of a human induced pluripotent stem cell-based model for tauopathies combining three microtubule-associated protein TAU mutations which displays several phenotypes linked to neurodegeneration, Alzheimers Dement., 14 (10), 1261-1280, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルツハイマー病や、タウタンパク質の蓄積を伴う前頭側頭葉変性症(以下、「FTLD-tau」ともいう。)の一種である神経原線維変化型老年期認知症では、3リピートタウタンパク質と4リピートタウタンパク質の両方が蓄積することが知られている。このため、培養神経細胞を用いたFTLD-tauの病理解明や薬効評価では、リン酸化した3リピートタウタンパク質とリン酸化した4リピートタウタンパク質の両方が蓄積した脳オルガノイドが必要とされている。
【0007】
本発明は、リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質が蓄積した脳オルガノイド及びその製造方法、並びに前記脳オルガノイドを用いた薬効評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]微小管関連タンパク質タウ(Microtubule Associated Protein Tau,MAPT)遺伝子のエクソン9、エクソン10、エクソン11、エクソン12、及びエクソン13からなる群より選択されるエクソン中の塩基配列の少なくとも1個以上、及びイントロン10中の塩基配列の少なくとも1個以上に変異を有するヒト多能性幹細胞を浮遊培養する工程1を含む、脳オルガノイドの製造方法。
[2]前記エクソン中の塩基配列の変異が、2個以上の塩基配列の変異である、[1]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[3]前記エクソン中の塩基配列の変異が、N279K及びP301Sのアミノ酸変異をコードするエクソン10中の塩基配列の変異を含む、[2]の脳オルガノイドの製造方法。
[4]前記イントロン10中の塩基配列の変異が、E10+16の塩基配列の変異を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[5]前記エクソン中の塩基配列の変異が、N279K及びP301Sのアミノ酸変異をコードするエクソン10中の塩基配列の変異であり、前記イントロン10中の塩基配列の変異が、E10+16の塩基配列の変異である、[1]~[4]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[6]前記工程1における浮遊培養を、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein,BMP)シグナル伝達経路阻害剤、及び形質転換因子β(TransformingGrowth Factor β,TGF-β)ファミリーシグナル伝達経路阻害剤を含む培地1中で行う、[1]~[5]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[7]前記工程1の浮遊培養により形成した培養物を、Wntシグナル伝達増強剤、及び細胞外マトリックスを含む培地2中で培養する工程2、及び、前記工程2の培養により形成した培養物を、細胞外マトリックスを含まない培地3中で培養する工程3、を更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法により製造した脳オルガノイドを分散して分散物を得る工程4、及び、前記分散物を、タウタンパク質凝集物の存在下で培養する工程5、を更に含む、脳オルガノイドの製造方法。
[9]前記工程5における培養を、前記分散物中に含まれる細胞1個あたり、前記タウタンパク質凝集物0.0005ng~0.4ngの存在下で行う、[8]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[10]前記タウタンパク質凝集物が、リコンビナントタウタンパク質の凝集物を含む、[8]又は[9]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[11]前記リコンビナントタウタンパク質が、エクソン10中に塩基配列の変異を有するMAPT遺伝子にコードされたものである、[10]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[12]前記工程5における培養を、リン酸化亢進試薬の存在下で行う、[8]~[11]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[13]ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質を有する脳オルガノイド。
[14]前記ミスフォールドした3リピートタウタンパク質が、リン酸化した3リピートタウタンパク質を含み、前記ミスフォールドした4リピートタウタンパク質が、リン酸化した4リピートタウタンパク質を含む、[13]に記載の脳オルガノイド。
[15]ウエスタンブロット法で示される、前記リン酸化した4リピートタウタンパク質の検出シグナルが、前記リン酸化した3リピートタウタンパク質の検出シグナル1に対して0.5以上である、[14]に記載の脳オルガノイド。
[16]前記リン酸化した4リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N4Rタウタンパク質である、[14]又は[15]に記載の脳オルガノイド。
[17]前記リン酸化した3リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N3Rタウタンパク質である、[14]~[16]のいずれかに記載の脳オルガノイド。
[18][13]~[17]のいずれかに記載の脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程、及び前記被験物質が前記脳オルガノイドに及ぼす影響を検定する工程、を含む、薬効評価方法。
[19]前記脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程の前に、[13]~[17]のいずれかに記載の脳オルガノイドを哺乳動物の脳に移植する工程を含む、[18]に記載の薬効評価方法。
【0009】
本発明は以下の実施形態を含むものであるということもできる。
[P1]微小管関連タンパク質タウ遺伝子のエクソン9~エクソン13中の塩基配列の少なくとも1個以上、及びイントロン10中の塩基配列の少なくとも1個以上に変異を有するミュータント人工多能性幹細胞又はその細胞凝集塊を浮遊培養する工程を含む、脳オルガノイドの製造方法。
[P2]前記エクソン9~エクソン13中の塩基配列の変異が、2個以上の塩基配列の変異である、[P1]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P3]前記エクソン9~エクソン13中の塩基配列の変異が、N279K及びP301Sのアミノ酸変異をコードするエクソン10中の塩基変異を含む、[2]の脳オルガノイドの製造方法。
[P4]前記イントロン10中の塩基配列の変異が、1個以上の塩基配列の変異である、[P1]~[P3]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P5]前記イントロン10中の塩基配列の変異が、E10+16を含む変異である、[P4]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P6]前記ミュータント人工多能性幹細胞又はその細胞凝集塊を浮遊培養する工程が、前記ミュータント人工多能性幹細胞又はその細胞凝集塊を、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein,BMP)シグナル伝達経路阻害剤、及び形質転換因子β(TransformingGrowth Factor β,TGF-β)ファミリーシグナル伝達経路阻害剤を含む培地で浮遊培養する工程、細胞外マトリックスを含む培地で浮遊培養する工程、及び細胞外マトリックスを含まない培地で浮遊培養する工程、を含む、[P1]~[P5]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P7]前記細胞外マトリックスを含む培地が、細胞外マトリックスを混和させた培地である、[P6]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P8]前記細胞外マトリックスを含む培地が、TGF-βファミリーシグナル伝達経路阻害剤、及びWntシグナル増強剤を含む培地である、[P7]に記載の脳オルガノイドの製造方法。
[P9][P1]~[P8]のいずれかに記載の脳オルガノイドの製造方法により製造された脳オルガノイド。
[P10]リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質を有する脳オルガノイド。
[P11]ウエスタンブロット法で示される前記リン酸化した4リピートタウタンパク質の検出シグナルが、前記リン酸化した3リピートタウタンパク質の検出シグナル1に対して0.5以上である、[P10]に記載の脳オルガノイド。
[P12]前記リン酸化した4リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N4Rタウタンパク質である、[P10]は[P11]記載の脳オルガノイド。
[P13]前記リン酸化した3リピートタウタンパク質が、リン酸化した0N3Rタウタンパク質である、[P10]~[P12]のいずれかに記載の脳オルガノイド。
[P14][P9]~[P13]のいずれかに記載の脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程、及び前記被験物質が前記脳オルガノイドに及ぼす影響を検定する工程、を含む、薬効評価方法。
[P15]前記脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程の前に、[P9]~[P13]のいずれかに記載の脳オルガノイドを哺乳動物の脳に移植する工程を含む、[P14]に記載の薬効評価方法。
[P16]微小管関連タンパク質タウ遺伝子のエクソン9~エクソン13中の塩基配列の少なくとも1個以上、及びイントロン10中の塩基配列の少なくとも1個以上に変異を有するミュータント人工多能性幹細胞、BMPシグナル伝達経路阻害剤、及びTGF-βファミリーシグナル伝達経路阻害剤を含む培地、細胞外マトリックスを含む培地、及び細胞外マトリックスを含まない培地、を含む、脳オルガノイド製造用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1実施形態の脳オルガノイドの製造方法によれば、リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質が蓄積した脳オルガノイドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ヒト脳オルガノイドの作製スケジュールを示す模式図である。
【
図2】
図2は、実験例12における定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実験例12における定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実験例13におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【
図5】
図5は、実験例14におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、実験例15における蛍光免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図7】
図7(a)及び(b)は、実験例15における蛍光免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、実験例20における蛍光免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、実験例20において、抗MC1抗体のシグナル強度(相対値)を数値化した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実験例20において、脳オルガノイド中の核の数(DAPI counts)及び抗MC1抗体により染色された顆粒(MC1 puncta)の数を算出した結果を示すグラフである。
【
図11】
図11、実験例20において、脳オルガノイドにおける、1細胞あたりの、抗MC1抗体により染色された顆粒の個数(MC1 puncta/DAPI counts)を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
本明細書で例示する各成分、例えば、培地中に含まれる成分や各工程で用いられる成分は、特に言及しない限り、それぞれ1種用いることができ、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0014】
本明細書で、「A~B」等の数値範囲を表す表記は、「A以上、B以下」と同義であり、A及びBをその数値範囲に含むものとする。
【0015】
[脳オルガノイドの製造方法]
本実施形態の脳オルガノイドの製造方法は、ヒト微小管関連タンパク質タウ遺伝子(MAPT遺伝子)のエクソン9、エクソン10、エクソン11、エクソン12、及びエクソン13からなる群(以下、「エクソン9~エクソン13」という場合がある。)より選択されるエクソン中の塩基配列の少なくとも1個以上、及びイントロン10中の塩基配列の少なくとも1個以上に遺伝子変異を有するヒト多能性幹細胞(ミュータントヒト多能性幹細胞、以下、「mhPSCs」ともいう。)を浮遊培養する工程1を有する。
【0016】
工程1の浮遊培養により細胞凝集塊を形成する。細胞凝集塊とは、2個以上の細胞が接着して形成された塊を意味する。細胞凝集塊を分化誘導することにより、脳オルガノイドを製造することができる。細胞凝集塊を分化誘導する方法としては、Wntシグナル伝達増強剤、及び細胞外マトリクッス(以下、「ECM」ともいう。)を含有する培地2中で培養する工程2、及び工程2の培養により形成した培養物を、ECMを含まない培地3中で培養する工程3を含む方法を挙げることができる。
【0017】
浮遊培養とは、培養細胞を培養用容器(以下、「培養器」ともいう。)の培養面に接着させない条件で、培養細胞が培養液に浮遊して存在する状態を維持しつつ培養すること、及び当該培養を行う方法をいう。浮遊培養においては、三次元培養を行うことが好ましい。
【0018】
浮遊培養に用いる培養器としては、培養面が細胞非接着性の培養器であることが好ましい。培養面が細胞非接着性の培養器としては、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、スタックプレート、等の培養器の培養面の表面を、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー等で細胞非接着性処理したもの、及び凹凸で形状加工したものが挙げられる。浮遊培養に用いる培養器は、培養した細胞同士が凝集できるように、V底又はU底の培養器であることが好ましい。
【0019】
mhPSCsは、野生型のヒト多能性幹細胞(以下、「hPSCs」ともいう。)のゲノム中のMAPT遺伝子のエクソン9~エクソン13中の塩基配列の少なくとも1個(1塩基)以上、及びイントロン10中の塩基配列の少なくとも1個(1塩基)以上を遺伝子改変することにより得られる。以下、遺伝子改変したMAPT遺伝子を「改変MAPT遺伝子」ともいう。mhPSCsは、拡大培養することができる。
【0020】
hPSCsとしては、hESCs(human embryonic stem cells)、hiPSCs(induced pluripotent stem cells)が挙げられる。これらの中でもhiPSCsが好ましい。
【0021】
改変MAPT遺伝子のhPSCsのゲノムへの導入は、例えば、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、Znフィンガーヌクレアーゼ、CRISPR-Cas9等を用いるゲノム編集技術により行うことができる。これらの中でも高い選択性で目的部位に標的遺伝子を挿入できることからCRISPR-Cas9が好ましい。
【0022】
CRISPR-Cas9システムは、細菌や古細菌が有する、外部から侵入したウイルスDNA、ウイルスRNA、及びプラスミドDNA等の核酸に対する一種の獲得免疫として機能する座位を利用したシステムである。CRISPR-Cas9システムにより、改変MAPT遺伝子をホストDNAに導入するには、ホストDNAの導入部位を切断するためのベクターを作製する。そのためには、目的部位にCas9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクター及びCas9タンパク質発現ベクターが必要である。これら2種類の発現ベクターと改変MAPT遺伝子を含むドナーDNAとを導入することにより、目的部位が切断され、次いでドナーDNAによる相同組換修復により、改変MAPT遺伝子が導入される。発現ベクターとしては、2種類の発現ベクターの代わりに、ガイドRNA及びCas9タンパク質の両方を発現する1種類のベクター(オールインワンベクター)を用いることができる。
【0023】
ゲノム上の挿入を行う部位と相同な配列(ドナーDNA)は、改変MAPT遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に作動可能に連結されていればよく、その長さは、通常、0.5kb~8kbである。
【0024】
発現ベクターやドナーDNAのhPSCsへの導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、電気穿孔法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、及びDEAE-デキストラン法が挙げられる。
【0025】
発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13、及びpUC57等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、及びpC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、及びpSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクターが挙げられる。
【0026】
改変MAPT遺伝子は、タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、薬剤選択マーカー遺伝子、及びそれらの組み合わせとともに導入することができる。タグ配列としては、蛍光タグ、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。特に、改変MAPT遺伝子に薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により改変MAPT遺伝子導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0027】
薬剤選択マーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒスティディノール耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、及びクロラムフェニコール耐性遺伝子が挙げられる。薬剤選択マーカー遺伝子をタグ配列に導入する場合、薬剤選択後、薬剤選択マーカー遺伝子タグ配列を除去することができる。
【0028】
MAPT遺伝子(NCBIアクセッション番号:NG_007398.1)は、ヒト17番染色体長腕17q21に存在し16個のエクソンと、15個のイントロンを有する。改変MAPT遺伝子は、MAPT遺伝子のエクソン9~エクソン13中の塩基の少なくとも1個以上及びイントロン10中の塩基の少なくとも1個以上を改変したものである。
【0029】
タウタンパク質の蓄積を伴う前頭側頭葉変性症の原因として、MAPT遺伝子の塩基配列の変異が複数知られている。そして、MAPT遺伝子の塩基配列変異部位としては、エクソン9~エクソン13中の塩基配列、及びイントロン10中の塩基配列の範囲に集中していることが知られている。
【0030】
改変MAPT遺伝子としては、エクソン9~エクソン13中の塩基配列の少なくとも1個以上、及びイントロン10中の少なくとも1個以上を改変したものを用いることができる。これらの中でもエクソン9~エクソン13中の塩基配列の変異が、好ましくは2個以上、より好ましくは2個である。また、イントロン10中の塩基配列の変異が、好ましくは1個以上、より好ましくは1個である。
【0031】
改変MAPT遺伝子の塩基配列の変異としては、エクソン9中の塩基配列の変異として、例えば、K257V、K257T、I260V、L266V、及びG272Vのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン10中の塩基配列の変異として、例えば、N279K、ΔK280、L284L、N296N、N296H、ΔN296、P301L、P301S、P301T、G303V、S305N、及びS305Sのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン11中の塩基配列の変異として、例えば、L315L、L315R、S320Y及びS310Fのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン12中の塩基配列の変異として、例えば、V337M、E342V、G335V、G335S、Q336R及びK369Iのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン13中の塩基配列の変異として、G389R及びR406Wのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;が挙げられる。また、イントロン10中の塩基配列の変異としては、E10+3、E10+11、E10+12、E10+13、E10+14、E10+16及びE10+19が挙げられる。
【0032】
エクソン9~エクソン13の中の塩基配列の変異としては、エクソン10の塩基配列の変異が好ましく、エクソン10中の塩基配列の変異としては、N279K及びP301Sが好ましい。イントロン10中の塩基配列の変異としては、E10+16が好ましい。これらの改変を行った改変MAPT遺伝子を用いることで、効率よくリン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質を有する脳オルガノイドを製造することができる。
【0033】
hiPSCsは、ヒト体細胞を、公知の方法等により初期化することにより、多能性を誘導した細胞を意味する。
【0034】
初期化因子の組み合わせとしては、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びMyc(c-Myc又はL-Myc)の組み合わせ、若しくはOct3/4、Sox2、Klf4、Lin28及びL-Mycの組み合わせを挙げることができる。
【0035】
hiPSCsとして、株化されたhiPSCsを用いることができる。201B7細胞、201B7-Ff細胞、253G1細胞、253G4細胞、1201C1細胞、1205D1細胞、1210B2細胞、及び1231A3細胞等の株化されたhiPSCsが、京都大学又はiPSアカデミアジャパン株式会社より入手可能である。また、PCPhiPS771等の株化されたhiPSCsが、株式会社リプロセスより入手可能である。さらに、XFiPS-F44-3F-2等の株化されたhiPSCsが、Institute of Health Carlos IIIより入手可能である。
【0036】
拡大培養は、mhPSCsを増殖させる操作である。拡大培養では、好ましくは、接着培養による二次元培養を行う。接着培養とは、細胞凝集塊と培養器の培養面との間に結合を作らせて行う培養である。拡大培養は、通常、30℃~50℃、二酸化炭素含有割合1体積%~15体積%の環境下で行う。
【0037】
接着培養に用いる培養器としては、培養面が細胞接着性の培養器であること以外は上述したものと同様の培養器を用いることができる。接着性を向上させるための表面加工としては、例えば、ラミニンα5β1γ1、ラミニンα1β1γ1、ラミニン511E8等のラミニン、エンタクチン、コラーゲン、ゼラチン、ビトロネクチン(Vitronectin)、ポリリジン、及びポリオルニチン等のコーティング、並びに正電荷処理が挙げられる。
【0038】
拡大培養に用いる培地(以下、「拡大培養培地」ともいう。)としては、フィーダーフリーの培地が好ましい。フィーダーフリーの培地としては、例えば、hES9培地、hES9a培地、及びhESF-FX培地等公知の培地、並びにTeSR-E8(STEMCELL Technologyes社製品名)、及びStemFit(登録商標)等の市販品を挙げることができる。
【0039】
拡大培養培地には、細胞死を抑制するため、前記フィーダーフリーの培地で培養する前に、前記フィーダーフリー培地にROCK阻害剤を含有する培地で培養することができる。フィーダーフリー培地にROCK阻害剤を添加した培地を用いた場合、その培養期間は、長くとも5日間でよく、その後、ROCK阻害剤を含まないフィーダーフリー培地にて、通常1日間以上、好ましくは3日以上、培養する。
【0040】
ROCK阻害剤としては、例えば、Y-27632(CAS番号:129830-38-2)、Fasudil/HA1077(CAS番号:105628-07-7)、H-1152(CAS番号:871543-07-6)、及びWf-536(CAS番号:539857-64-2)、並びにこれらの誘導体が挙げられる。
【0041】
ROCK阻害剤の拡大培養培地への含有濃度は、通常、濃度が0.1μM~100μM、好ましくは濃度が1μM~80μM、より好ましくは濃度が5μM~50μMとなる量である。
【0042】
拡大培養を行う前に、mhPSCsを分散することができる。分散とは、細胞を酵素処理や物理処理等の分散処理により、100個以下の細胞集団、好ましくは50個以下の細胞集団、より好ましくは単一細胞に分離させることをいう。分散処理としては、例えば、機械的分散処理、細胞分散液処理、及び細胞保護剤添加処理が挙げられる。これらの処理は組み合わせることができる。これらの中でも、細胞分散液処理が好ましい。
【0043】
細胞分散液処理に用いる細胞分散液としては、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、プロナーゼ、DNase、及びパパイン等の酵素類;並びにエチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;のいずれかを含む溶液を挙げることができる。市販の細胞分散液としては、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のTrypLE Select、TrypLE Express、及び株式会社ケー・エー・シー社製の神経細胞分散液A(カタログ番号:SBMBX0801D-2A)が挙げられる。機械的分散処理としては、ピペッティング処理又はスクレーパーでの掻き取り操作が挙げられる。
【0044】
分散処理する前に、細胞死を防ぐために、細胞保護剤で処理することができる。細胞保護剤としては、例えば、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factor、以下、「FGF」ともいう。)、ヘパリン、ROCK阻害剤、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor、以下「IGF」ともいう。)、血清、及び血清代替物が挙げられる。
【0045】
工程1において、mhPSCsを、培地1中で浮遊培養し、細胞凝集塊を形成する。以下、工程1の浮遊培養により形成される細胞凝集塊を、細胞凝集塊1ともいう。工程1で用いる培養器は、上述したものと同様の、培養面が細胞非接着性の培養器であることが好ましい。
【0046】
培地1は、Smad1/5/9のリン酸化を伴うBMPシグナル伝達経路阻害剤、及びSmad2/3のリン酸化を伴うTGF-βシグナル伝達経路阻害剤を含有することが好ましい。培地1は、通常、基礎培地に、BMPシグナル伝達経路阻害剤及びTGF-βシグナル伝達経路阻害剤等を添加して調製する。
【0047】
基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM(GMEM)培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、F-12培地、DMEM/F12培地、IMDM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、及びFischer’s培地;並びにこれらの混合培地を挙げることができる。
【0048】
BMPシグナル伝達経路阻害剤としては、例えば、コーディン、ノギン、フォリスタチン、ドルソモルフィン(6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)フェニル]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン)、DMH1(4-[6-(4-イソプロポキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン、4-[6-[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン)、及びLDN193189(4-(6-(4-(ピペリジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン)が挙げられる。これらの中でも、ドルソモルフィン、及びLDN193189が好ましい。
【0049】
培地1中に含まれるBMPシグナル伝達経路阻害剤の濃度は、通常、0.5μM~10μM、好ましくは0.75μM~5μM、より好ましくは1μM~3μMである。
【0050】
TGF-βシグナル伝達経路阻害剤は、Smad2/3のリン酸化により伝達されるシグナル伝達経路を阻害する物質であり、TGF-βI型受容体キナーゼ(ALK5)のキナーゼ活性を選択的に阻害することができる物質が好ましい。TGF-βシグナル伝達経路阻害剤としては、例えば、A83-01(CAS番号:909910-43-6)、SB-431542(CAS番号:301836-41-9)、SB-505124(CAS番号:694433-59-5)、SB-525334(CAS番号:356559-20-1)、LY364947(CAS番号:396129-53-6)、SC-203294(CAS番号:627536-09-08)、SD-208(CAS番号:627536-09-8)、及びSJN2511(CAS番号:446859-33-2)が挙げられる。これらの中でも、A83-01、及びSB-431542が好ましい。
【0051】
培地1中に含まれるTGF-βシグナル伝達経路阻害剤の濃度は、通常、0.5μM~10μM、好ましくは0.75μM~5μM、より好ましくは1μM~3μMである。
【0052】
培地1は、さらに、神経生物系サプリメント、培地サプリメント、血清、血清代替物、抗菌剤、並びにインスリン及びアルブミン等の血清由来のタンパク質等を含有することができる。
【0053】
神経生物系サプリメントとしては、例えば、ビオチン、コレステロール、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、レチノール、酢酸レチニル、亜セレン酸ナトリウム、トリヨードチロニン(T3)、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、アルブミン、インシュリン及びトランスフェリンを含むB27サプリメント(サーモフィッシャー社製品名);並びにヒトトランスフェリン、ウシインシュリン、プロゲステロン、プトレシン、及び亜セレン酸ナトリウムを含むN2サプリメントが挙げられる。
【0054】
培地サプリメントとしては、例えば、L-グルタミン酸、及びL-グルタミン酸から得たジペプチドを含有する「GlutaMaxシリーズ」(サーモフィッシャー社製品名)等のグルタミン酸含有サプリメント、「MEM Non-Essential Amino Acids Solution」(サーモフィッシャー社製品名)等のアミノ酸水溶液、並びに2-メルカプトエタノールが挙げられる。
【0055】
抗菌剤としては、例えば、ペニシリン系抗生物質、セフェム系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ホスホマイシン系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、及びニューキノロン系抗生物質が挙げられる。
【0056】
工程1の培養期間は、通常、1日間以上、好ましくは3日間~14日間、より好ましくは4日間~12日間である。
【0057】
工程1の培養は、温度が、通常、30℃~50℃、好ましくは32℃~48℃より好ましくは34℃~46℃、二酸化炭素含有割合が、通常、1体積%~15体積%、好ましくは2体積%~14体積%、より好ましくは3体積%~13体積%の環境下で行う。また、高酸素濃度雰囲気下で培養することもできる。
【0058】
培地1で浮遊培養を行う前に、拡大培養によって形成したmhPSCsの細胞凝集塊を分散することができる。分散の処理方法については、拡大培養で記載した分散の処理方法と同じである。
【0059】
本実施形態の脳オルガノイドの製造方法では、工程1の浮遊培養で形成した培養物(細胞凝集塊1)を、分化誘導することにより、リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質が蓄積した脳オルガノイドを製造することができる。分化誘導する方法としては、細胞凝集塊1を、Wntシグナル伝達増強剤、及びECMを含有する培地2で培養する工程2、及び工程2の培養により形成した培養物を、ECMを含まない培地3で培養する工程3を含む方法を挙げることができる。
【0060】
工程2は、細胞凝集塊1を培地1から取り出さずに培地1を培地2に入れ替えて連続して行ってもよいし、細胞凝集塊1を培地1から取り出して培地2に播種して行うこともできる。工程2の培養は浮遊培養が好ましい。
【0061】
工程2の培養の培養期間は、通常、1日間以上、好ましくは3日間~14日間、より好ましくは4日間~12日間である。
【0062】
工程2の培養は、温度が、通常、30℃~50℃、好ましくは32℃~48℃、より好ましくは34℃~46℃、二酸化炭素含有割合が、通常、1体積%~15体積%、好ましくは2体積%~14体積%、より好ましくは3体積%~13体積%の環境下で行う。また、高酸素濃度雰囲気下で培養することもできる。
【0063】
工程2の培養に用いる培養器としては、工程1と同じく、培養面が細胞非接着性の培養器であることが好ましい。細胞非接着性の培養器の詳細については、工程1と同様である。
【0064】
培地2は、ECMを含有する培地である。ECMを含む培地で培養する方法としては、細胞凝集塊1をECMに包埋して培養する方法、及び細胞凝集塊1をECMが混和した培地で培養する方法、が挙げられる。これらの中でも、細胞凝集塊1をECMが混和した培地で培養する方法が好ましい。
【0065】
ECMが混和した培地は、培地中のECM以外の成分の体積に対して、ECMの体積が、通常、1体積%以上、好ましくは5体積%~100体積%、より好ましくは10体積%~90体積%、となる量のECM前駆体とECM以外の成分とを混合し、その後、ECM前駆体をゲル化することにより調製する。ECM前駆体とECM以外の成分を混合させる方法としては、氷浴上でピペッティング方法が挙げられる。ECMが混和した培地とは、目視で培地中にECMが観察されない状態になることを意味する。
【0066】
培地2は、通常、基礎培地に、ECMやECM前駆体を添加して調製する。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、GMEM(サーモフィッシャー社製品名)、Improved MEM Zinc Option培地(サーモフィッシャー社製品名)、IMDM培地、Medium 199(サーモフィッシャー社製品名)、イーグルMEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、ハムF-12培地、及びRPMI1640培地、並びにこれらを混合した培地が挙げられる。
【0067】
ECMとしては、例えば、基底膜に含まれる成分、細胞間隙に存在する糖タンパク質が挙げられる。基底膜に含まれる成分としては、例えば、IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、及びエンタクチンが挙げられる。ECMとしては、ECMを含む市販品を用いることができる。細胞間隙に存在する糖タンパク質としては、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、フィブロネクチン、及びヘパリン硫酸塩等が挙げられる。ECMを含む市販品としては、例えば、マトリゲル(コーニング社製品名)、及びヒト型ラミニン(シグマ社製品名)が挙げられる。
【0068】
マトリゲルは、Englbreth Holm Swarmマウス肉腫由来の基底膜成分を含有する。マトリゲルの主成分は、IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、及びエンタクチンであるが、これらに加えて、上皮成長因子(以下、「EGF」ともいう。)、神経成長因子(以下、「NGF」ともいう。)、血小板由来成長因子(以下、「PDGF」ともいう。)、(以下、インスリン様成長因子1「IGF-1」ともいう。)等の各種増殖因子、並びにTGF-β等の成分が含まれる。マトリゲルにはこれらの成分の濃度が低いグレードもあり、その濃度はEGFが0.5ng/mL未満、NGFが0.2ng/mL未満、PDGFが5pg/mL未満、IGF-1が5ng/mL未満、TGF-βが1.7ng/mL未満である。マトリゲルとしては、これらの成分の含有割合が低いグレードを用いることが好ましい。
【0069】
培地2は、Wntシグナル増強剤を含有する。Wntシグナル増強剤としては、例えば、GSK-3β阻害剤、Wntタンパク質、LGR5アゴニストが挙げられる。これらの中でもGSK-3β阻害剤及びWntタンパク質が好ましい。培地2中に含まれるWntシグナル増強剤の終濃度は、通常、0.1μM~10μM、好ましくは0.2μM~5μMである。
【0070】
GSK-3β阻害剤としては、例えば、CHIR99021(CAS番号:252917-06-9)、Kenpaullone(CAS番号:142273-20-9)、及び6-Bromoindirubin-3’-oxime(BIO、CAS番号:667463-62-9)を挙げることができる。これらの中でも、CHIR99021が好ましい。
【0071】
Wntタンパク質としては、哺乳類動物由来のWntタンパク質であることが好ましい。哺乳類動物のWntタンパク質としては、例えば、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、及びWnt16が挙げられる。これらの中でもWnt3aが好ましい。Wntタンパク質はアファミンとの複合体であることがより好ましい。
【0072】
LGR5アゴニストとしては、例えば、R-スポンジンファミリーが挙げられる。R-スポンジンファミリーとしては、例えば、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4等が挙げられ、中でも、R-スポンジン1が好ましい。
【0073】
Wntシグナル増強剤としてCHIR99021を用いる場合、培地2中に含まれるCHIR99021の終濃度は、通常、0.1μM~30μM、好ましくは0.2μM~20μMである。
【0074】
Wntシグナル増強剤としてWnt3aを用いる場合、培地2中に含まれるWnt3aの終濃度は、通常、0.1ng/mL~20ng/mL、好ましくは0.2ng/mL~10ng/mLである。
【0075】
培地2は、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤を含有していてもよい。TGF-βシグナル伝達経路阻害剤としては、上述の培地1と同様のものが挙げられる。これらの中でも、ALK5のキナーゼ活性を選択的に阻害することができるSB-431542、及びSC-203294が好ましい。培地2中に含まれるTGF-βシグナル伝達経路阻害剤の終濃度は、通常、0.1~20μM、好ましくは0.1μM~10μMである。
【0076】
培地2は、さらに、神経生物系サプリメント、培地サプリメント、インスリン及びアルブミン等の血清由来のタンパク質、血清、血清代替物等を含有することができる。神経生物系サプリメント、及び培地サプリメントの詳細については、上述の培地1に記載の内容と同じものが挙げられる。
【0077】
工程3は、工程2の培養物を培地2から取り出さずに培地2を培地3に入れ替えて連続して行ってもよいし、工程2の培養物を培地2から取り出して、培養物を培地3に播種して行うこともできる。工程3の培養は浮遊培養が好ましく、浮遊培養は、培地を攪拌しながら行うことが好ましい。
【0078】
工程3の培養期間は、通常、1日間以上、好ましくは2日間~700日間、より好ましくは10日間~365日間である。工程3の培養は、温度が、通常、30℃~50℃、好ましくは32℃~48℃、より好ましくは34℃~46℃で、二酸化炭素含有割合が、通常、1体積%~15体積%、好ましくは2体積%~14体積%、より好ましくは3体積%~13体積%の環境下で行う。また、高酸素濃度雰囲気下で培養することもできる。
【0079】
工程3の培養に用いる培養器としては、細胞非接着性の培養器が好ましい。細胞非接着性の培養器の詳細については、上述した工程1と同様である。
【0080】
培地3は、ECMを含有しない。「ECMを含有しない」とは、培地3にECMを意図的に添加しないことを意味し、培地中の成分の体積に対して、ECMの体積が5体積%以下の不可避不純物として混入するECMは許容される。
【0081】
培地3は、さらに、神経生物系サプリメント、培地サプリメント、インスリン及びアルブミン等の血清由来のタンパク質、血清、血清代替物等を含有することができる。神経生物系サプリメント、及び培地サプリメントの詳細については、上述した培地1と同様のものが挙げられる。
【0082】
培地3は、通常、基礎培地に、神経生物系サプリメント、培地サプリメント、インスリン及びアルブミン等の血清由来のタンパク質、血清、血清代替物等のその他成分を添加して調製する。基礎培地については、上述した培地1と同様のものが挙げられる。
【0083】
本実施形態の脳オルガノイドの製造方法は、工程1の浮遊培養で形成した細胞凝集塊1を、分化誘導することにより形成した脳オルガノイドを分散して分散物を得る工程4、及び、その分散物又は分散物が凝集して形成された細胞凝集塊を、タウタンパク質凝集物の存在下で培養する工程5を更に含むことができる。工程4及び5により、リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質の蓄積が亢進した脳オルガノイドを製造することができる。工程5における培養は、好ましくは浮遊培養である。
【0084】
脳オルガノイドの分散方法としては、上述のmhPSCsの拡大培養を行う前の、mhPSCsの分散と同様の処理が挙げられる。分散により、脳オルガノイドを、100個以下の細胞集団、好ましくは50個以下の細胞集団、より好ましくは単一細胞に分離させ、分散物を形成する。
【0085】
脳オルガノイドの分散物が凝集して形成された細胞凝集塊とは、脳オルガノイドの分散物である2個以上の細胞が接着して凝集塊を形成した状態を示す。脳オルガノイドの分散物が凝集して形成された細胞凝集塊の形成方法としては、脳オルガノイドの分散物を、工程1で用いた培地1中で浮遊培養する方法が挙げられる。この浮遊培養の培養期間は、通常、1日間以上、好ましくは3日間~14日間、より好ましくは4日間~12日間である。
【0086】
また、この浮遊培養は、温度が、通常、30℃~50℃、好ましくは32℃~48℃、より好ましくは34℃~46℃、二酸化炭素含有割合が、通常、1体積%~15体積%、好ましくは2体積%~14体積%、より好ましくは3体積%~13体積%の環境下で行う。
【0087】
タウタンパク質凝集物とは、タウタンパク質、タウタンパク質の断片、リコンビナントタウタンパク質、及びリコンビナントタウタンパク質の断片から選ばれる少なくとも1種又は2種以上が凝集した凝集物を示す。
【0088】
これらの中でも、リコンビナントタウタンパク質又はリコンビナントタウタンパク質の断片を含むタウタンパク質凝集物であることが好ましい。また、タウタンパク質凝集物は、タウタンパク質又はリコンビナントタウタンパク質のオリゴマー又はフィラメントを含むことができる。フィラメントとしては、ペアードヘリカルフィラメント、又はストレートフィラメントが挙げられる。
【0089】
リコンビナントタウタンパク質をコードするMAPT遺伝子の変異としては、エクソン9~エクソン13中の塩基配列の少なくとも1個以上の変異が好ましい。
【0090】
エクソン9中の塩基配列の変異として、例えば、K257V、K257T、I260V、L266V、及びG272Vのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン10中の塩基配列の変異として、例えば、N279K、ΔK280、L284L、N296N、N296H、ΔN296、P301L、P301S、P301T、G303V、S305N、及びS305Sのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン11中の塩基配列の変異として、例えば、L315L、L315R、S320Y及びS310Fのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン12中の塩基配列の変異として、例えば、V337M、E342V、G335V、G335S、Q336R及びK369Iのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;エクソン13中の塩基配列の変異として、G389R及びR406Wのアミノ酸変異をコードする塩基配列の変異;が挙げられる。これらの中でも、エクソン10の塩基配列の変異が好ましく、P301Lが好ましい。
【0091】
タウタンパク質凝集物は、脳オルガノイドの分散物又は前記分散物が凝集して形成された細胞凝集塊に含まれる細胞1個あたり、通常、0.0005ng~0.4ng、好ましくは0.001ng~0.2ng、より好ましくは0.002ng~0.1ngの存在下で培養する。
【0092】
工程5の培養は、リン酸化亢進試薬の存在下で行うことが好ましい。リン酸化亢進試薬としては、一般的にトランスフェクション試薬といわれるものを用いることができる。実施例において後述するように、トランスフェクション試薬の添加により、タウタンパク質のリン酸化(及びミスフォールド)を亢進することができる。
【0093】
リン酸化亢進試薬としては、例えば、Effectene Transfection Reagent(カタログ番号「301425」、キアゲン社)、TransFast(TM)Transfection Reagent(カタログ番号「E2431」、プロメガ社)、TfxTM-20 Reagent(カタログ番号「E2391」、プロメガ社)、SuperFect Transfection Reagent(カタログ番号「301305」キアゲン社)、PolyFect Transfection Reagent(カタログ番号「301105」、キアゲン社)、LipofectAMINE(登録商標)2000 Reagent(カタログ番号「11668-019」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、LipofectAMINE(登録商標)3000 Reagent(カタログ番号「L3000015」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、JetPEI(×4)conc.(カタログ番号「101-30」、Polyplus-transfection社)、ExGen 500(カタログ番号「R0511」、フェルメンタス社)が挙げられる。
【0094】
リン酸化亢進試薬の量は、タウタンパク質凝集物と同質量又はその±90%の量であることが好ましい。
【0095】
工程5の培養で用いる培地は、ECMを含有しない培地であることが好ましい。ECMを含有しない培地としては、培地3と同様の培地が挙げられる。
【0096】
工程5の培養期間は、通常、0.1日間~14日間、好ましくは0.3日間~7日間、より好ましくは0.5日間~2日間である。工程5の培養は、温度が、通常、30℃~50℃、好ましくは32℃~48℃、より好ましくは34℃~46℃で、二酸化炭素含有割合が、通常、1体積%~15体積%、好ましくは2体積%~14体積%、より好ましくは3体積%~13体積%の環境下で行う。
【0097】
工程5の培養に用いる培養器としては、細胞非接着性の培養器が好ましい。細胞非接着性の培養器の詳細については、工程1におけるものと同様である。
【0098】
工程5の培養により形成する培養物を、さらに、ECMを含有しない培地で培養する工程6を有することができる。工程6は、工程3と同様の方法で行うことができる。
【0099】
[脳オルガノイド]
本実施形態の脳オルガノイドは、本実施形態の脳オルガノイドの製造方法によって、製造することができ、ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質を有する。ミスフォールドは、リン酸化等により亢進するため、本実施形態の脳オルガノイドは、好ましくはリン酸化された3リピートタウタンパク質及びリン酸化された4リピートタウタンパク質を有する。
【0100】
抗MC1抗体は、ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質に特異的に結合する。このため、ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質の存在は、抗MC1抗体による免疫染色等により検出することができる。なお、ミスフォールドした3リピートタンパク質及びミスフォールドした4リピートタンパク質は、リン酸化していると考えられる。
【0101】
本実施形態の脳オルガノイドは、ウエスタンブロッティング法で示される前記リン酸化した4リピートタウタンパク質の検出シグナル強度が、前記リン酸化した3リピートタウタンパク質の検出シグナル強度1に対して0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5~3である。検出シグナル強度は、抗PHF1抗体との反応で示される発光強度及び蛍光強度である。
【0102】
ヒトの脳内のタウタンパク質は、選択的スプライシングによって、352~441個のアミノ酸からなる分子量の異なる6種類のアイソフォームとして発現される。
【0103】
6種類のアイソフォームとしては、0N3Rタウタンパク質(352アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_058525.1、NM_016841.4等)、エクソン2及び3を有しない0N4Rタウタンパク質(383アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_058518.1、NM_016834.4等)、エクソン2を有する1N3Rタウタンパク質(381アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_001190180.1、NM_001203251.1等)、エクソン2を有する1N4Rタウタンパク質(412アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_001116539.1、NM_001123067.3等)、エクソン2及び3を有する2N3Rタウタンパク質(410アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_001190181.1、NM_001203252.1等)、エクソン2及び3を有する2N4Rタウタンパク質(441アミノ酸、NCBIアクセッション番号:NP_005901.2、NM_005910.5等)が挙げられる。
【0104】
本実施形態の脳オルガノイド中に含まれるリン酸化した4リピートタウタンパク質としては、リン酸化した0N4Rタウタンパク質が含まれていることが好ましく、リン酸化した3リピートタウタンパク質としては、リン酸化した0N3Rタウタンパク質が含まれていることが好ましい。
【0105】
[薬効評価方法]
本実施形態の薬効評価方法は、上述した脳オルガノイドを被験物質と接触させる工程(以下、「工程A」ともいう。)、及び被験物質が脳オルガノイドに及ぼす影響を検定する工程(以下、「工程B」ともいう。)を有する。
【0106】
工程Aにおいて、被験物質としては、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、及び代謝物ライブラリ等が挙げられる。既存薬には、例えばAZD2858、メチルチオニニウム塩化物水和物等が含まれる。また、被験物質としては、新薬を用いることができる。
【0107】
工程Bにおいて、被験物質が脳オルガノイドに及ぼす影響は、ウエスタンブロッティング、ELISA、免疫染色等により検定又は評価することができる。
【0108】
さらに、工程Aの前に、脳オルガノイドを哺乳動物の脳に移植する工程(以下、「工程a」ともいう。)を有することができる。工程aを有することで、よりアルツハイマー病を罹患した生体に近い環境で被験物質の薬効を評価することができる。
【実施例】
【0109】
以下、本実施形態を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。また、全ての実験は慶應義塾大学医学部倫理委員会で承認された倫理研究計画に基づいて行った。
【0110】
[実験例1]
(改変MAPT遺伝子を導入したhiPSCs(mhiPSCs)の作製)
ゲノム編集のためのガイドRNA設計ソフト「CRISPRdirect」)を用いて、MAPT遺伝子の標的配列を標的とするためのガイドRNAを設計した。
【0111】
設計したガイドRNAをコードするオリゴヌクレオチドを合成し、このオリゴヌクレオチドを、Cas9タンパク質及びガイドRNAの双方を発現するためのオールインワンベクターである、pSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)V2.0のBbsIサイトに挿入した。
【0112】
ターゲティングベクターとしては、MAPT遺伝子の標的配列付近の5’側1.5kbを5’アームとし、3’側4kbを3’アームとし、piggyBac inverted terminal repeatsによって挟まれたピューロマイシン耐性カセットと接続したベクターを用いた。ターゲティングベクターは、MAPT遺伝子のN279K及びP301Sのアミノ酸変異をコードするエクソン10中の塩基変異、及びイントロン10中のE10+16の変異を有していた。
【0113】
次いで、NEPA21エレクトロポレーター(Nepagene社)を用いて電気穿孔法により、100万個のhiPSCs(PChiPS771株、Lot.A01QM28、リプロセル社製)に、10μgのpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)V2.0プラスミド、及び10μgのターゲティングベクターを導入した。
【0114】
遺伝子導入を始めてから2日目から12日目まで、ピューロマイシンによる選択を行った。次いで、ピューロマイシン耐性コロニーを選択し、ゲノムDNA抽出及びPCRによる遺伝子型判定を行った。
【0115】
次いで、ピューロマイシン耐性カセットを除去するために、ネガティブセレクションを行い、ピューロマイシン耐性カセットを除去したコロニーを選択した。得られたコロニーから市販のキット(製品名「DNeasy Blood&Tissue キット」、キアゲン社)でゲノムDNAを抽出した後、ピューロマイシンカセットが除去されたことをPCR増幅後の電気泳動で確認した。また、抽出したゲノムDNAを用いて、改変MAPT遺伝子を有することをサンガーシーケンス解析で確認し、mhiPSCsを得た。
【0116】
[実験例2]
(mhiPSCsの拡大培養)
実験例1で作製したmhiPSCsを、フィーダーフリー培養した。具体的には、mhiPSCsをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて洗浄後、TrypLE Select(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて単一細胞に分散した。続いて、分散したmhiPSCsを、ラミニン-511の活性部位のみを含むヒト組換え型ラミニンフラグメント(製品名「iMatrix-511」、ニッピ社製)をコートしたプラスチック培養ディッシュに播種し、Y27632(ROCK阻害剤、10μM)存在下、StemFit AK02N培地(味の素社製)にてフィーダーフリー培養した。上記のプラスチック培養ディッシュとして、60mmディッシュ(イワキ社製、細胞培養用)を用いた場合、単一細胞へ分散されたhiPSCsの播種細胞数は3×104個/ディッシュとした。
【0117】
細胞を播種してから1日後に、培地を、Y27632を含まないStemFit AK02N培地に交換した。以降、1~2日に1回、Y27632を含まないStemFit AK02N培地に培地交換した。その後、細胞を播種してから6日後に80%コンフルエントになった。
【0118】
[実験例3]
(hiPSCsの拡大培養)
実験例2において、mhiPSCsの代わりに、野生型hiPSCs(PChiPS771株、リプロセル社製)を用いた以外は、実験例2と同様の操作にて、hiPSCsを拡大培養した。
【0119】
[実験例4~実験例7]
(脳オルガノイドの製造1)
下記表1に培地1の組成を、下記表2に培地2の組成を、下記表3に培地3の組成を示す。
図1は、ヒト脳オルガノイドの培地交換スケジュールを示す模式図である。
図1中、「Day」は浮遊培養開始時を0日目とする培養日数を示し、「+」は培地に添加されていることを示し、「-」は培地に添加されていないことを示し、「BMPi」はBMPシグナル伝達経路阻害剤を示し、「TGF-βi」はTGF-βシグナル伝達経路阻害剤を示し、「ECM」は細胞外マトリックス成分を示し、「Wnt」はWntシグナル増強物質を示す。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
実験例2で得たmhiPSCsを、TrypLE Select(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品名)を用いて細胞分散液処理し、更にピペッティング操作により単一細胞に分散した。分散されたmhiPSCsを、非細胞接着性の96ウェルプレート(製品名「PrimeSurface 96V底プレート」、住友ベークライト社製)に、1×104個/ウェルの細胞密度となるように100μL/ウェルの培地1に播種し、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で7日間、浮遊培養した。
【0124】
浮遊培養開始後7日目に、各ウェルから培地1を230μL取り除いた。続いて、培地2を150μL/ウェル添加し、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で7日間、攪拌しながら浮遊培養した。
【0125】
浮遊培養開始後14日目に、各ウェルの内容物を、10mLのPBSが入ったFalcon(登録商標)コニカルチューブ50mL(コーニング社製)に移した。続いて、5回転倒混和し、上清を除去することにより、培地2を除去し、細胞凝集塊を回収した。回収した細胞凝集塊を30個、及び30mLの培地3を30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)に加えて、攪拌しながら浮遊培養した。培地は4日おきに交換した。浮遊培養開始から56日目、浮遊培養開始から91日目、浮遊培養開始から140日目、及び浮遊培養開始から175日目に脳オルガノイドを回収し、それぞれ、実験例4~実験例7の脳オルガノイドを得た。
【0126】
[実験例8~実験例11]
(脳オルガノイドの製造2)
実験例4~実験例7において、実験例2で得たmhiPSCsの代わりに、実験例3で得た野生型hiPSCsを用いた以外は実験例4~実験例7と同様の操作により、それぞれ実験例8~実験例11の脳オルガノイドを得た。
【0127】
[実験例12]
(4リピートタウタンパク質のmRNA発現量解析)
実験例4~実験例11の脳オルガノイドの全RNAを、市販のキット(製品名「RNeasy PlusMiniキット」、キアゲン社)を用いてそれぞれ抽出した。また、NanoDrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品名)を用いて全RNAの濃度を測定した。続いて、全RNAを、RT Master Mix(東洋紡社製品名)とNuclease free waterにより逆転写して、cDNAを合成した。
【0128】
上記cDNAに、Premix Ex Taq(タカラバイオ社製品名)、ROX Reference Dye II(タカラバイオ社製品名)を加え、反応溶液を調製した。続いて、リアルタイムPCRシステム(製品名「ViiA7」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて上記反応溶液の定量的RT-PCR(qPCR)解析を行い、MAPT遺伝子のmRNAの発現量及び4リピートタウのmRNAの発現量をそれぞれ定量した。MAPT遺伝子のcDNAの増幅には、センスプライマー(配列番号1)及びアンチセンスプライマー(配列番号2)を使用した。また、4リピートタウのcDNAの増幅には、センスプライマー(配列番号3)及びアンチセンスプライマー(配列番号4)を使用した。測定結果を
図2及び
図3に示す。また、測定結果のまとめを下記表4に示す。
【0129】
図2はMAPT遺伝子のmRNAの発現量の測定結果であり、発現量は、実験例4で得た脳オルガノイドにおけるMAPT遺伝子のmRNAの発現量を1とする相対値で示す。また、
図3は4リピートタウタンパク質のmRNAの発現量の測定結果であり、実験例8で得た脳オルガノイドにおける4リピートタウタンパク質のmRNAの発現量を1とする相対値を示す。
【0130】
【0131】
[実験例13]
(ウエスタンブロッティング法によるタウタンパク質のアイソフォームの測定)
タウタンパク質のアイソフォームをウエスタンブロット法により観察した。実験例7で得た脳オルガノイド及び実験例11で得た脳オルガノイドにRIPAバッファーを添加し、氷上で超音波破砕した。続いて、得られた細胞破砕液を氷上で60分間静置した。続いて、細胞破砕液を4℃、100,000×gで遠心し、上清を回収した。続いて、ビシンコニン酸アッセイキットを用いて、上清中のタンパク質濃度を測定した。続いて、上清にλフォスファターゼを添加し、30℃で3時間反応させた。続いて、上清をそれぞれ等量ずつ2ウェルにアプライしてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を行い、ポリフッ化ビニリデン膜(以下、「PVDF膜」)に転写した。
【0132】
続いて、PVDF膜をPVDF Blocking reagent(東洋紡社製品名)に浸し、室温で1時間ブロッキングした後、Can Get SignalImmunoreaction Enhancer Solution1(東洋紡社製品名)で1000倍希釈したマウス抗タウ5抗体反応液と4℃で一晩反応させた。続いて、TBSTバッファーで3回洗浄し、Can Get SignalImmunoreaction Enhancer Solution1(東洋紡社製品名)で1000倍希釈した、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(以下「HRP」)標識抗マウスIgG抗体反応液と室温で1時間反応させた。
【0133】
続いて、TBSTバッファーで3回洗浄し、PVDF膜にClarity Western ECL Substrate(バイオラッド社製品名)を液盛して2分間静置した。続いて、発光検出装置(製品名「AmershamImager 600」、GEヘルスケア社)を用いてタウタンパク質のアイソフォームのバンドを検出した。
図4はウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【0134】
図4中、「WT」は実験例11で得た脳オルガノイドの結果であることを示し、「Mutant」は実験例7で得た脳オルガノイドの結果であることを示し、「+」はλフォスタファターゼを反応させた結果であることを示し、「-」はλフォスタファターゼを反応させなかった結果であることを示す。また、
図4中、最も左のレーンは各タウタンパク質アイソフォームのマーカーである。また、下記表5に、実験例7で得た脳オルガノイドにおける3リピートタウタンパク質(0N3R)の検出シグナルを1とした場合の、4リピートタウタンパク質(0N4R)の検出シグナルの強度(相対値)を示す。
【0135】
【0136】
[実験例14]
(ウエスタンブロッティング法によるリン酸化タウタンパク質の測定)
リン酸化タウタンパク質の発現をウエスタンブロッティング法により測定した。実験例7で得た脳オルガノイド及び実験例11で得た脳オルガノイドにプロテアーゼ阻害剤及びフォスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファーを添加し、氷上で超音波破砕した。続いて、得られた細胞破砕液を氷上で60分間静置した。続いて、細胞破砕液を4℃、100,000×gで遠心し、上清を回収した。続いて、ビシンコニン酸アッセイキットを用いて、上清中のタンパク質濃度を測定した。続いて、上清をウェルにアプライしてSDS-PAGEを行い、PVDF膜に転写した。
【0137】
続いて、PVDF膜をPVDF Blocking reagent(東洋紡社製品名)に浸し、室温で1時間ブロッキングした後、Can Get SignalImmunoreaction Enhancer Solution1(東洋紡社製品名)で1000倍希釈したマウス抗PHF1抗体反応液と4℃で一晩反応させた。なお、抗PHF1抗体は、タウタンパク質の396番目のリン酸化されたセリン及び404番目のリン酸化されたセリンを認識する抗体である。
【0138】
続いて、TBSTバッファーで3回洗浄し、Can Get SignalImmunoreaction Enhancer Solution1(東洋紡社製品名)で1000倍希釈した、HRP標識抗マウスIgG抗体反応液と室温で1時間反応させた。
【0139】
続いて、TBSTバッファーで3回洗浄し、PVDF膜に ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア社製品名)を添加して2分間静置した。続いて、発光検出装置(製品名「AmershamImager 600」、GEヘルスケア社)を用いて発光を検出した。続いて、得られたバンドのシグナル強度を検出した。
図5はウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
【0140】
図5中、「WT」は実験例11で得た脳オルガノイドの結果であることを示し、「Mutant」は実施例7で得た脳オルガノイドの結果であることを示し、「3R tau」はリン酸化した3リピートタウタンパク質のバンドであることを示し、「4R tau」はリン酸化した4リピートタウタンパク質のバンドであることを示す。また、下記表6に、実験例7で得た脳オルガノイドにおけるリン酸化3リピートタウタンパク質の検出シグナルを1とした場合の、リン酸化4リピートタウタンパク質の検出シグナルの強度(相対値)を示す。
【0141】
【0142】
[実験例15]
(MC1抗体、RTM38抗体による脳オルガノイドの免疫染色)
MC1抗体を用いた免疫染色により、脳オルガノイド中に含まれるミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質を評価した。また、RTM38抗体(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた免疫染色により、タウタンパク質を評価した。
【0143】
実験例7で得た脳オルガノイド及び実験例11で得た脳オルガノイドの切片の蛍光免疫染色により、ミスフォールドしたタウタンパク質の存在を評価した。また、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)により核を染色した。
図6(a)及び(b)に実験例7で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像を示し、
図7(a)及び(b)に実験例11で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像を示す。
【0144】
図6(a)は、実験例7で得た脳オルガノイドについての、DAPIによる蛍光染色画像、MC1抗体による蛍光染色画像及びRTM38抗体による蛍光染色画像をマージした画像である。
図6(b)は、
図6(a)と同一視野におけるMC1抗体による蛍光染色画像である。
【0145】
図7(a)は、実験例11で得た脳オルガノイドについての、DAPIによる蛍光染色画像、MC1抗体による蛍光染色画像及びRTM38抗体による蛍光染色画像をマージした画像である。
図7(b)は、
図7(a)と同一視野におけるMC1抗体による蛍光染色画像である。
【0146】
その結果、実験例7で得た脳オルガノイド及び実験例11で得た脳オルガノイドでは、MC1抗体のシグナルは確認できず、ミスフォールドしたタウタンパク質は存在しないことが確認された。しかしながら、RTM38抗体のシグナルは確認でき、タウタンパク質は発現していることが示された。
【0147】
[実験例16~実験例19]
(タウタンパク質凝集物を用いた脳オルガノイドの製造)
実験例2で得たmhiPSCsを、TrypLE Select(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品名)を用いて細胞分散液処理し、更にピペッティング操作により単一細胞に分散した。分散されたmhiPSCsを非細胞接着性の96ウェルプレート(製品名「PrimeSurface 96V底プレート」、住友ベークライト社製)に、1×104個/ウェルの細胞密度となるように100μL/ウェルの培地1に播種し、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で7日間、浮遊培養した。
【0148】
浮遊培養開始後7日目に、各ウェルから培地1を230μL取り除いた。続いて、培地2を150μL/ウェル添加し、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で7日間、攪拌しながら浮遊培養した。
【0149】
浮遊培養開始後14日目に、各ウェルの内容物を、10mLのPBSが入ったFalcon(登録商標)コニカルチューブ50mL(コーニング社製)に移した。続いて、5回転倒混和し、上清を除去することにより、培地2を除去し、細胞凝集塊を回収した。回収した細胞凝集塊を30個、及び30mLの培地3を30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)に加えて、攪拌しながら浮遊培養した。培地は4日おきに交換した。浮遊培養開始から10週間目に脳オルガノイドを回収した。
【0150】
回収した脳オルガノイドを、TrypLE Select(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品名)を用いて細胞分散液処理し、更にピペッティング操作により単一細胞に分散した。分散した脳オルガノイドを非細胞接着性の96ウェルプレート(製品名「PrimeSurface 96V底プレート」、住友ベークライト社製)に、1×104個/ウェルの細胞密度となるように100μL/ウェルの培地1に採種し、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で1週間浮遊培養し、細胞凝集塊を形成した。
【0151】
続いて、培地1に、フィブリル型タウリコンビナントタンパク質凝集物K18型(商品コード「#SPR-330」、StressMarq Biosciences Inc.社製)を0.2μg/ウェル、及びリン酸化亢進試薬として(製品名「Lipofectamine(登録商標)3000」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を0.2μL/ウェル加え、37℃、容器内の二酸化炭素濃度が5体積%で1日間、浮遊培養した。
【0152】
フィブリル型タウリコンビナントタンパク質凝集物K18型は、ヒトタウタンパク質のエクソン10におけるP301Lの変異を有する、ヒトリコンビナントタウタンパク質の断片が凝集した凝集物である。フィブリル型タウリコンビナントタンパク質凝集物K18型に含まれるリコンビナントタウタンパク質の断片のアミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0153】
続いて、ウェルから浮遊培養物を回収し、回収した細胞凝集塊を30個、及び30mLの培地3を30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)に加え、攪拌しながら10週間浮遊培養し、実験例16の脳オルガノイドを得た。培地は4日おきに交換した。
【0154】
また、下記表7に示す条件で、実験例17~実験例19の脳オルガノイドを得た。実験例17ではフィブリル型タウリコンビナントタンパク質凝集物K18型及びLipofectamine(登録商標)3000を使用しない点、実験例18では実験例2のmhiPSCsの代わりに実験例3のhiPSCsを使用した点、実験例19ではフィブリル型タウリコンビナントタンパク質凝集物K18型及びLipofectamine(登録商標)3000を使用せず、且つ実験例2のmhiPSCsの代わりに実験例3のhiPSCsを使用した点以外は、実験例16と同様の方法で、それぞれ脳オルガノイドを得た。
【0155】
【0156】
[実験例20]
(タウタンパク質凝集物を用いた脳オルガノイドにおけるタウタンパク質のミスフォールドの確認)
抗MC1抗体を用いた免疫染色により、実験例16~実験例19で得た脳オルガノイド中に含まれる、ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質の存在を確認した。
【0157】
まず、実験例16~実験例19で得た脳オルガノイドの切片を作製した。続いて、各切片を抗MC1抗体で免疫染色した。また、同時に、DAPIにより核を染色した。続いて、各切片を蛍光顕微鏡で観察した。
【0158】
図8は、実験例16で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像を示す代表的な顕微鏡写真であり、DAPIによる蛍光染色画像及びMC1抗体による蛍光染色画像をマージした画像である。
【0159】
図9は、実験例16~実験例19で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像に基づいて、抗MC1抗体のシグナル強度(相対値)を数値化した結果を示すグラフである。この結果、実験例16で得た脳オルガノイドは、実験例17~実験例19で得た脳オルガノイドと比較して、ミスフォールドした3リピートタウタンパク質及びミスフォールドした4リピートタウタンパク質の蓄積量が顕著に多いことが明らかとなった。
【0160】
続いて、実験例16~実験例19で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像を画像処理し、DAPIにより染色された核の数(DAPI counts)及び抗MC1抗体により染色された顆粒(MC1 puncta)の数を算出した。
図10は、結果を示すグラフである。DAPIにより染色された核の数は細胞数に対応する。
【0161】
また、実験例16~実験例19で得た脳オルガノイドの蛍光免疫染色像の画像処理により、1細胞あたりの、抗MC1抗体により染色された顆粒の個数(MC1 puncta/DAPI counts)を算出した。
図11は、結果を示すグラフである。
【0162】
画像処理は次のようにして行った。まず、得られた蛍光免疫染色像における、バックグラウンドのノイズをカットした。続いて、バックグラウンドの輝度に合わせて画像を補正し、二値化によりDAPI及びMC1の顆粒をそれぞれ特定した。続いて、DAPI陽性領域及びMC1陽性領域中の隙間を塞いだ。続いて、DAPI陽性領域及びMC1陽性領域のサイズ(同一面積の円を想定した場合の当該円の直径)が0.1μm以下の領域を除去した。続いて、残ったDAPI陽性領域の個数(核の数すなわち細胞数に対応する。)、及びMC1陽性領域(抗MC1抗体により染色された顆粒)の個数を計測した。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によれば、リン酸化した3リピートタウタンパク質及びリン酸化した4リピートタウタンパク質が蓄積した脳オルガノイド及びその製造方法、並びに前記脳オルガノイドを用いた薬効評価方法を提供することができる。
【配列表】