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7620294火炎可視化装置、火炎可視化システム及び火炎可視化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】火炎可視化装置、火炎可視化システム及び火炎可視化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/71 20060101AFI20250116BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20250116BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20250116BHJP
   F23N 5/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
G01N21/71
G01N21/33
G01J1/02 J
F23N5/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023083841
(22)【出願日】2023-05-22
(65)【公開番号】P2024167631
(43)【公開日】2024-12-04
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】藤森 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀昭
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-504657(JP,A)
【文献】特開2022-079171(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115855904(CN,A)
【文献】特開昭60-159515(JP,A)
【文献】UV Bandpass Filters,ASAHI SPECTRA,2024年02月15日,https://www.asahi-spectra.com/opticalfilters/uv_bandpass_filters.asp
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
21/17-21/74
G01J 1/00- 1/60
11/00
F23N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと有機物及び水素分子の少なくともいずれか一方とを含む燃料を燃焼する燃焼部と、
火炎可視化装置と、
を備える火炎可視化システムであって、
前記火炎可視化装置は、
前記燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像部と、
前記撮像部で撮像した映像を出力する出力部と、
を備える、火炎可視化システム
【請求項2】
前記燃料は炭化水素をさらに含む、請求項に記載の火炎可視化システム
【請求項3】
前記燃焼によって生成されたOHラジカルが発する紫外域の光の波長の少なくとも一部を遮蔽し、前記燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を透過するバンドパスフィルタを備え、
前記撮像部は、前記バンドパスフィルタを介して前記燃料が燃焼して生成された火炎を撮像する、請求項1又は2に記載の火炎可視化システム
【請求項4】
前記バンドパスフィルタは、波長300nm以上320nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽する、請求項に記載の火炎可視化システム
【請求項5】
前記バンドパスフィルタは、波長320nm超350nm以下の範囲内の少なくともいずれかの光を90%以上透過する、請求項に記載の火炎可視化システム
【請求項6】
前記バンドパスフィルタは、波長380nm以上1200nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽する、請求項に記載の火炎可視化システム
【請求項7】
波長780nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽する赤外遮蔽フィルタをさらに備え、
前記撮像部は、前記赤外遮蔽フィルタを介して前記燃料が燃焼して生成された火炎を撮像する、請求項1又は2に記載の火炎可視化システム
【請求項8】
アンモニアと有機物及び水素分子の少なくともいずれか一方とを含む燃料を燃焼する工程と、
前記燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した映像を出力する出力工程と、
を含む、火炎可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、火炎可視化装置、火炎可視化システム及び火炎可視化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像ユニットを用いて炉内の燃焼状態を監視する炉内監視装置が知られている。撮像ユニットで火炎の形状などを確認することにより、炉内の異常をリアルタイムで察知することができ、異常に対して迅速に対応することができる。特許文献1には、炉内監視口に設けられた撮像ユニットが開示されており、炉内の状態を撮像するために、可視光を撮像ユニットに導いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-138985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、重油などのような炭化水素含有燃料を燃焼した場合、可視光を撮像する撮像ユニットで火炎を確認することができる。しかしながら、例えば、燃焼炉又はボイラ内部などのように、背景放射が大きい場所においては、炉壁輻射と見分けがつかなくなるため、アンモニアの燃焼火炎を可視化することが困難である。また、アンモニアと炭化水素とを混合燃焼した場合も、炭化水素の燃焼によって生成されたすすから、アンモニア火炎と同色であるオレンジ色の強い輻射光が発せられるため、アンモニアの燃焼火炎を可視化することが困難である。したがって、このような環境でアンモニアを燃焼して生成された火炎の燃焼状態を監視することは困難であった。
【0005】
そこで、本開示は、アンモニアを燃焼することによって生成された火炎を可視化することが可能な火炎可視化装置、火炎可視化システム及び火炎可視化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る火炎可視化装置は、アンモニアを含む燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像部と、撮像部で撮像した映像を出力する出力部とを備える。
【0007】
燃料は有機物をさらに含んでいてもよい。
【0008】
燃料は炭化水素をさらに含んでいてもよい。
【0009】
燃料は水素分子をさらに含んでいてもよい。
【0010】
火炎可視化装置は、燃焼によって生成されたOHラジカルが発する紫外域の光の波長の少なくとも一部を遮蔽し、燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を透過するバンドパスフィルタを備えていてもよい。撮像部は、バンドパスフィルタを介して燃料が燃焼して生成された火炎を撮像してもよい。
【0011】
バンドパスフィルタは、波長300nm以上320nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。
【0012】
バンドパスフィルタは、波長320nm超350nm以下の範囲内の少なくともいずれかの光を90%以上透過してもよい。
【0013】
バンドパスフィルタは、波長380nm以上1200nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。
【0014】
火炎可視化装置は、波長780nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽する赤外遮蔽フィルタをさらに備えていてもよい。撮像部は、赤外遮蔽フィルタを介して燃料が燃焼して生成された火炎を撮像してもよい。
【0015】
本開示に係る火炎可視化システムは、アンモニアを含む燃料を燃焼する燃焼部と、火炎可視化装置とを備える。
【0016】
本開示に係る火炎可視化方法は、アンモニアを含む燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像工程と、撮像工程で撮像した映像を出力する出力工程とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、アンモニアを燃焼することによって生成された火炎を可視化することが可能な火炎可視化装置、火炎可視化システム及び火炎可視化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る火炎可視化システムを示す概略図である。
図2】実施例に係る撮像部の分光感度特性のスペクトルである。
図3】実施例に係るバンドパスフィルタの透過スペクトルである。
図4】実施例に係る赤外遮蔽フィルタの透過スペクトルである。
図5】アンモニアを専焼して生成された火炎を正面から撮像した画像である。
図6】アンモニアとA重油とを混焼して生成された火炎を正面から撮像した画像である。
図7】アンモニアを専焼して生成された火炎を側面から撮像した画像である。
図8】アンモニアとA重油とを混焼して生成された火炎を側面から撮像した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
本実施形態に係る火炎可視化システム1は、アンモニアが燃焼して生成された火炎を可視化するシステムである。火炎可視化システム1は、後述するように、アンモニアの燃焼によって生成されたNHラジカルを観測することによってアンモニア燃焼火炎を可視化している。図1に示すように、本実施形態に係る火炎可視化システム1は、燃焼部5と、火炎可視化装置10とを含んでいる。
【0021】
燃焼部5は、アンモニアを含む燃料を燃焼する。燃焼部5は、バーナ6を含んでいてもよく、バーナ6でアンモニアを含む燃料を燃焼することによって火炎7が生成される。アンモニアは、分子中に炭素を含まないため、燃焼しても二酸化炭素を生成しない。そのため、燃料にアンモニアが含まれることにより、大気中への二酸化炭素の排出量を低減することができる。燃焼部5で燃焼される燃料には、アンモニアに加え、他の燃料が含まれていてもよい。すなわち、燃料の燃焼は、アンモニアの専焼であってもよく、アンモニアの混焼であってもよい。
【0022】
燃料は、アンモニアに加え、有機物をさらに含んでいてもよい。燃料は、具体的には、炭素含有燃料を含んでいてもよい。燃料は、炭素粒子、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油及びバイオマスからなる群より選択される少なくとも1つの炭素含有燃料を含んでいてもよい。燃料は、具体的には、アンモニアに加え、炭化水素をさらに含んでいてもよい。燃料は、アルカン及びアルケンの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。燃料は、炭素数が1から100の炭化水素のうち1種以上の炭化水素を含んでいてもよい。燃料は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン又はプロピレンなどを含んでいてもよい。燃料は、25℃のような室温で液体である液体燃料を含んでいてもよく、25℃のような室温で固体である固体燃料を含んでいてもよい。
【0023】
燃料は、アンモニアに加え、水素分子をさらに含んでいてもよい。水素は、アンモニアと同様に、分子中に炭素を含まないため、大気中への二酸化炭素の排出量を低減することができる。また、水素は、太陽光、風力及び水力などの再生可能エネルギを利用し、水を電気分解して得られたものを使用することができるため、大気中への二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0024】
火炎可視化装置10は、アンモニアが燃焼して生成された火炎を可視化する装置である。火炎可視化装置10は、撮像部20と、バンドパスフィルタ21と、赤外遮蔽フィルタ22と、出力部30とを備えている。
【0025】
撮像部20は、NHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する。NHラジカルは、アンモニアを含む燃料の燃焼によって生成される。アンモニアを燃焼して生成された火炎は、背景放射が大きい場合や、すすの輻射光が強い場合などには、相対的に輝度が小さく、可視光を撮像するような通常のカメラでは可視化することが困難である。特に、有機物などのように、炭素を含む物質を燃焼した場合、生成された火炎には、OHラジカル、CHラジカル、Cラジカルなどが存在している。これらのラジカルは、励起状態から安定な状態に戻る際に発光する。例えば、OHラジカルは、約309nmをピークトップとして300nm~327nmの波長範囲内に光強度を有する光を放つ。また、CHラジカル及びCラジカルは、可視域にバンドスペクトルを有する光を放つ。また、燃焼炉のような場所では、熱輻射によって、可視域及び赤外域の光も発せられる。したがって、従来の方法では、アンモニアの燃焼によって生成された炎の状態を可視化することは困難であり、エネルギー分野の脱炭素化に向けたアンモニア燃焼の技術開発において大きな課題であった。
【0026】
一方、NHラジカルは、NH(0,0)バンド遷移により、約336nmに化学発光のピークを有する光を放つ。また、NHラジカルは、NH(1,1)バンド遷移により、337nmに化学発光のピークを有し、NH(0,0)バンド遷移による化学発光ピークよりも小さい光を放つ。撮像部20は、NHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知するため、火炎中のOHラジカル、HO及び煤などのような物質からの発光と分離が可能である。そのため、アンモニアの燃焼によって生成された火炎を可視化することができる。すなわち、火炎可視化装置10は、例えば、OHラジカルなどに由来する光を遮蔽し、NHラジカルが発する光のみを選択的に検知することにより、アンモニアを燃焼することによって生成された火炎を可視化することができる。なお、撮像部20は、可視域及び赤外域の光を遮蔽して撮像してもよい。
【0027】
撮像部20は、紫外域に感度を有するイメージセンサを含んでいる。イメージセンサは、NHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知することができる。イメージセンサは、集光レンズと、光透過フィルタと、フォトダイオードなどのような光電変換部とを含んでいてもよい。集光レンズは、フォトダイオードに光を集めることができる。光透過フィルタは、特定の光を透過し、特定の光を遮蔽し、所望の波長を有する光を選択的に透過することができる。光電変換部は、光を受光し、受光した光を、その強度に応じた電流又は電圧などの電気信号に変換する。
【0028】
イメージセンサは、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)であってもよい。イメージセンサは、紫外域に波長特性を有している。イメージセンサは、NHラジカルが発する紫外域の光に感度を有していればよい。具体的には、イメージセンサは、約336nm及び約337nmの少なくともいずれか一方を含む波長範囲内の光に感度を有していればよい。
【0029】
撮像部20は、焦点距離を調整する可動レンズを含んでいてもよい。このような可動レンズにより、立体的な火炎像を撮像することができ、火炎を3次元で可視化することができる。
【0030】
撮像部20は、本実施形態において、バンドパスフィルタ21及び赤外遮蔽フィルタ22を介して燃料が燃焼して生成された火炎を撮像している。したがって、撮像部20は、本実施形態において、バンドパスフィルタ21及び赤外遮蔽フィルタ22を介し、NHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知している。なお、本明細書において、可視域の波長は380nm以上780nm未満、赤外域の波長は780nm以上である。
【0031】
バンドパスフィルタ21は、燃焼によって生成されたOHラジカルが発する紫外域の光の波長の少なくとも一部を遮蔽してもよい。OHラジカルが発する光は、約309nmをピークトップとして300nm~327nmの波長範囲内に強度を有している。OHラジカルは、例えば、有機物又は水素の燃焼によって生成される。そのため、OHラジカルが発する光の一部を遮蔽することにより、アンモニア以外の燃料の燃焼によって発せられる光が撮像部20で検知されるのを抑制することができる。
【0032】
なお、OHラジカルが発する光は、300nm~327nmの波長範囲内に強度を有しているが、ピークの裾の部分は強度が弱い。そのため、バンドパスフィルタ21は、OHラジカルが発する紫外域の光の波長の少なくとも一部を遮蔽していればよい。例えば、バンドパスフィルタ21は、波長300nm以上320nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。なお、上記波長範囲は、300nm以上に代えて、250nm以上であってもよく、200nm以上であってもよい。また、上記波長範囲は、320nm以下に代えて、324nm以下であってもよく、327nm以下であってもよい。また、バンドパスフィルタ21は、上記範囲内の光を、全波長範囲に亘って95%以上遮蔽してもよく、99%以上遮蔽してもよく、99.9%以上遮蔽してもよい。
【0033】
バンドパスフィルタ21は、燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を透過する。NHラジカルは、336nm及び337nmをピークとする光を放つ。そのため、バンドパスフィルタ21は、波長320nm超350nm以下の範囲内の少なくともいずれかの光を90%以上透過してもよい。バンドパスフィルタ21がこのような波長範囲内の光を透過することにより、NHラジカルが放つ光を撮像部20が十分に検知することができる。
【0034】
なお、上記波長範囲を320nm超としたが、波長は、328nm以上であってもよく、335nm以上であってもよい。また、上記波長範囲を350nm以下としたが、波長は、347nm以下であってもよく、343nm以下であってもよく、339nm以下であってもよい。バンドパスフィルタ21は、例えば、NH(0,0)バンド遷移による化学発光のピークである波長約336nmの光、及び、NH(1,1)バンド遷移による化学発光のピークである波長約337nmの光の少なくともいずれか一方の光を、90%以上透過してもよい。また、バンドパスフィルタ21は、波長332nm以上342nm以下の光を全波長範囲に亘って40%以上透過してもよく、45%以上透過してもよい。
【0035】
バンドパスフィルタ21は、波長380nm以上1200nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。炭素含有燃料を燃焼した場合には、CHラジカル及びCラジカルが生成され、可視域にスペクトルを有する光を放つ。また、燃焼によって高温となった物体からは、熱輻射によって、可視域及び赤外域の光も発せられる。そのため、380nm以上1200nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽することにより、これらの光が撮像部20で検知されるのを抑制することができる。なお、バンドパスフィルタ21は、380nm以上1200nm以下の光を全波長範囲に亘って95%以上遮蔽してもよく、99%以上遮蔽してもよく、99.9%以上遮蔽してもよい。
【0036】
赤外遮蔽フィルタ22は、バンドパスフィルタ21と同様に、NHラジカルが発する光を透過する。すなわち、赤外遮蔽フィルタ22は、波長320nm以上350nm以下の範囲内の少なくともいずれかの光を70%以上透過してもよい。赤外遮蔽フィルタ22がこのような波長範囲内の光を透過することにより、NHラジカルが放つ光を撮像部20が十分に検知することができる。赤外遮蔽フィルタ22は、波長320nm以上350nm以下の光を全波長範囲に亘って70%以上透過してもよい。なお、赤外遮蔽フィルタ22の上記波長範囲を320nm以上としたが、波長は、328nm以上であってもよく、335nm以上であってもよい。また、赤外遮蔽フィルタ22の上記波長範囲を350nm以下としたが、波長は、347nm以下であってもよく、343nm以下であってもよく、339nm以下であってもよい。
【0037】
赤外遮蔽フィルタ22は、380nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。このような赤外遮蔽フィルタ22は、熱の影響を抑制するとともに、可視域及び赤外域の光を遮蔽し、このような光が撮像部20で検知されるのを抑制することができる。なお、赤外遮蔽フィルタ22は、390nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って95%以上遮蔽してもよい。
【0038】
赤外遮蔽フィルタ22は、波長780nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽してもよい。このような波長範囲の光が物体に吸収されると、分子振動によって物体が加熱する。そのため、赤外遮蔽フィルタ22によって、赤外域の光を遮蔽し、熱の影響を抑制することができる。また、燃焼によって高温となった物体からは、熱輻射によって、赤外域の光が発せられる。そのため、赤外遮蔽フィルタ22によって、このような光が撮像部20で検知されるのを抑制することができる。なお、赤外遮蔽フィルタ22は、波長780nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って95%以上遮蔽してもよく、98%以上遮蔽してもよい。また、赤外遮蔽フィルタ22は、波長780nm以上5000nm以下の光と同様に、5000nm超1mm以下の波長の光を遮蔽してもよい。
【0039】
出力部30は、撮像部20で撮像された映像を出力する。出力部30は、電気的に撮像部20と接続されている。出力部30は、例えば、液晶又はCRTなどであってもよい。なお、図1では、撮像部20と出力部30は、分離された異なるユニットとして記載されているが、撮像部20と出力部30とは一体化したユニットであってもよい。
【0040】
図1では、バンドパスフィルタ21が赤外遮蔽フィルタ22よりも撮像部20に近い位置に配置されている。しかしながら、赤外遮蔽フィルタ22がバンドパスフィルタ21よりも撮像部20に近い位置に配置されていてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、火炎可視化装置10が、1枚のバンドパスフィルタ21と、1枚の赤外遮蔽フィルタ22とを含む例について説明した。しかしながら、火炎可視化装置10は、複数のバンドパスフィルタ21を含んでいてもよい。複数のバンドパスフィルタ21は、それぞれ同じ種類のフィルタを組み合わせてもよく、異なる種類のフィルタを組み合わせてもよい。また、火炎可視化装置10は、複数の赤外遮蔽フィルタ22を含んでいてもよい。複数の赤外遮蔽フィルタ22は、それぞれ同じ種類のフィルタを組み合わせてもよく、異なる種類のフィルタを組み合わせてもよい。同じ種類のフィルタを組み合わせることにより、そのフィルタが遮蔽する波長の光をさらに強力に遮蔽することができる。また、異なる種類のフィルタを組み合わせることにより、所望の波長を透過したり、遮蔽したりすることができる。
【0042】
また、本実施形態では、火炎可視化装置10が、撮像部20とバンドパスフィルタ21と赤外遮蔽フィルタ22とを備えている例について説明した。しかしながら、撮像部20は、NHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知することができれば、アンモニアの燃焼火炎を可視化することができる。そのため、バンドパスフィルタ21と赤外遮蔽フィルタ22とは必須の構成ではない。例えば、撮像部20のイメージセンサが、NHラジカルが発する波長の光を検知し、それ以外の波長の感度が、NHラジカルが発する波長の光の感度よりも低ければ、アンモニアの燃焼火炎を可視化することができる。
【0043】
また、火炎可視化装置10は、バンドパスフィルタ21及び赤外遮蔽フィルタ22の少なくともいずれか一方を備えていてもよい。例えば、火炎可視化装置10は、燃焼によって生成されたOHラジカルが発する紫外域の光の波長の少なくとも一部を遮蔽し、燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を透過するバンドパスフィルタ21を備えていてもよい。そして、撮像部20は、バンドパスフィルタ21を介して燃料が燃焼して生成された火炎を撮像してもよい。また、火炎可視化装置10は、波長780nm以上5000nm以下の光を全波長範囲に亘って90%以上遮蔽する赤外遮蔽フィルタ22を備えていてもよい。そして、撮像部20は、赤外遮蔽フィルタ22を介して燃料が燃焼して生成された火炎を撮像してもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る火炎可視化装置10は、アンモニアを含む燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像部20と、撮像部20で撮像した映像を出力する出力部30とを備えている。
【0045】
また、本実施形態に係る火炎可視化方法は、アンモニアを含む燃料の燃焼によって生成されたNHラジカルが発する紫外域の光を選択的に検知する撮像工程と、撮像工程で撮像した映像を出力する出力工程とを含んでいる。
【0046】
アンモニアを燃焼して生成された火炎は、背景放射が大きい場合や、すすの輻射光が強い場合などには、相対的に輝度が小さく、可視光を撮像するような通常のカメラでは可視化することが困難である。しかしながら、本実施形態に係る火炎可視化装置10及び火炎可視化方法では、アンモニアの燃焼によって生成されたNHラジカルが発する光を選択的に検知する。そのため、本実施形態に係る火炎可視化装置10及び火炎可視化方法によれば、アンモニアを燃焼することによって生成された火炎を可視化することができる。
【0047】
本実施形態に係る火炎可視化装置10及び火炎可視化方法によれば、アンモニア燃焼火炎を可視化することができる。そのため、アンモニア燃焼火炎の拡がり及び揺らぎなどを確認することにより、炉内の異常をリアルタイムで察知することができ、異常に対して迅速に対応することができる。
【実施例
【0048】
以下、本実施形態を以下の例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
まず、以下の撮像部、バンドパスフィルタ、及び、赤外遮蔽フィルタを準備した。
【0050】
(撮像部)
販売元:株式会社アートレイ
商品名:ARTCAM-487UV
検出波長帯:200nm~1000nm
センサ:紫外域に感度を有するCMOS(ソニー製)
分光感度特性:撮像部は、328nm~347nmの波長範囲内の光を検出し、200nm~1000nmの波長範囲における、328nm~347nmの波長範囲内の相対感度は、50%~60%である(図2参照)。なお、図2は、株式会社アートレイが公開しているARTCAM-487UVの分光感度特性のスペクトルをトレースして作成した図である。
【0051】
(バンドパスフィルタ)
販売元:エドモンド・オプティクス社
商品名:TS OD 4.0 10nm バンドパスフィルタ 337nm 25mm
中心波長:337.00nm±2.0nm
FWHM:10.00nm±2.0nm
ブロッキング領域:200nm~1200nm
材料:ハードコートされた3.5mm±0.5mm厚の光学ガラス基板
【0052】
図3は、エドモンド・オプティクス社公開している上記バンドパスフィルタの透過スペクトルをトレースして作成した図である。図3に示すように、バンドパスフィルタの透過スペクトルは、中心波長を337nmとする単一のピークを有している。バンドパスフィルタは、波長332nm以上342nm以下の光を全波長範囲に亘って45%以上透過する。また、バンドパスフィルタは、波長337nmの光を、90%以上透過する。また、上記スペクトルは、200nm以上327nm以下及び347nm超1200nm以下の領域の透過率はいずれの波長も0.1%以下である。
【0053】
(赤外遮蔽フィルタ)
販売元:HOYA株式会社
商品名:紫外透過・可視吸収フィルタU340
厚さ:2.50mm
【0054】
図4は、HOYA株式会社が公開しているU340の透過率である。図4に示すように、赤外遮蔽フィルタは、波長320nm以上350nm以下の光を全波長範囲に亘って70%以上透過する。赤外遮蔽フィルタは、波長200nm~260nm及び波長390nm~5000nmの範囲内の光を全波長範囲に亘って97%以上遮蔽する。また、赤外遮蔽フィルタは、波長200nm~260nm、波長390nm~690nm、波長740nm~2550nm及び波長2800nm~5000nmの範囲内の光を全波長範囲に亘って99%以上遮蔽する。
【0055】
次に、撮像部に、1枚のバンドパスフィルタと、2枚の赤外遮蔽フィルタとを取り付け、これらのバンドパスフィルタ及び赤外遮蔽フィルタを通して火炎を撮像した。図5は、アンモニアを専焼して生成された火炎を正面から撮像した画像である。図6は、アンモニアとA重油とを混焼して生成された火炎を正面から撮像した画像である。図7は、アンモニアを専焼して生成された火炎を側面から撮像した画像である。図8は、アンモニアとA重油とを混焼して生成された火炎を側面から撮像した画像である。
【0056】
図5において、中央部にバーナが配置されており、中心から外側に向かって6方向にアンモニアが噴射されている。図5に示すように、実施例に係る火炎可視化装置は、NHラジカルが発する光を選択的に検知している。そのため、燃焼前のアンモニアは黒色であるが、アンモニアの燃焼によって生成されたNHラジカルは白色で出力されている。
【0057】
また、図6に示すように、アンモニアとA重油との混焼によって生成された火炎においても、アンモニアの燃焼によって生成された火炎を可視化することができた。なお、図6中、中央部の放射状の筋は、A重油が噴霧された状態を示している。A重油はNHラジカルを生成しないため、黒色に写っている。さらに、図7及び図8に示すように、火炎の側面を撮像することにより、アンモニアの燃焼によって生成された火炎を可視化できることも確認できた。
【0058】
以上の結果から、本実施例に係る火炎可視化装置及び火炎可視化方法によれば、アンモニアを燃焼することによって生成された火炎を可視化できることが確認できた。
【0059】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0060】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギへのアクセスを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 火炎可視化システム
5 燃焼部
10 火炎可視化装置
20 撮像部
21 バンドパスフィルタ
22 赤外遮蔽フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8