(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】脆性材料基板のスクライブ方法
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
B28D5/00 A
(21)【出願番号】P 2020210367
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】山中 良太
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-27902(JP,A)
【文献】特開2012-72002(JP,A)
【文献】特開平8-66848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/00 - 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板の表面に対して、スクライブ予定ラインに沿ってスクライブラインを形成する脆性材料基板のスクライブ方法であって、
前記脆性材料基板の非製品領域の表面に対して、前記スクライブ予定ラインと平行で且つ
、相互に異なる向きの走査方向でテストスクライブを行ってテストスクライブラインを形成するテストスクライブ工程と、
前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、前記テストスクライブラインの状態をそれぞれ評価する状態評価工程と、
前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、前記テストスクライブラインの状態を相互に比較し、スクライブの方向性を見極める状態比較工程と、
前記スクライブ予定ラインに沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、を備え、
前記状態比較工程において、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された前記テストスクライブラインを相互に比較し、明らかに異なる状態であると判定された場合、
前記スクライブ工程において、前記テストスクライブラインの状態が良好である前記テストスクライブの走査方向と同じ方向のみでスクライブを行って、スクライブラインを形成する
ことを特徴とする脆性材料基板のスクライブ方法。
【請求項2】
前記状態比較工程において、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された前記テストスクライブラインを相互に比較し、状態が相互に同じ状態であると判定された場合、一方方向のスクライブと反対の他方向のスクライブを交互に行うと決定し、
前記スクライブ工程において、2本目以降のスクライブは、直前に走査したスクライブの方向と反対向きの方向でスクライブして、スクライブラインを形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の脆性材料基板のスクライブ方法。
【請求項3】
所定単位ごとに製造された複数枚の前記脆性材料基板に対してスクライブするに際し、
前記所定単位の内の1枚目の前記脆性材料基板に対しては、前記テストスクライブ工程、前記状態評価工程、前記状態比較工程及び前記スクライブ工程を実行し、
前記所定単位の内の2枚目以降の前記脆性材料基板に対しては、前記1枚目の脆性材料基板で判定した状態比較工程における判定結果に基づいて、前記スクライブ工程を実行する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の脆性材料基板のスクライブ方法。
【請求項4】
前記テストスクライブ工程及び前記スクライブ工程においては、
前記脆性材料基板の表面に対して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、前記テストスクライブライン及び前記スクライブラインを形成する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の脆性材料基板のスクライブ方法。
【請求項5】
前記脆性材料基板の表面には、表面膜が形成されており、
前記表面膜側からスクライブラインを形成する場合には、前記状態評価工程において、前記表面膜が規定より剥がれた状態にあるか否かによって、前記テストスクライブラインの状態を評価し、前記スクライブの方向性を見極める
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の脆性材料基板のスクライブ方法。
【請求項6】
前記状態評価工程において、前記テストスクライブラインに沿って前記脆性材料基板をブレークし、分離部位を観察して前記テストスクライブラインの状態を評価する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の脆性材料基板のスクライブ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板をスクライブする際に、その脆性材料基板の状態を比較・評価し、スクライブの方向性を見極める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクライビングホイールなどのスクライブ手段を用いて、マザー基板(脆性材料基板)の表面に、X方向のスクライブラインを形成するとともに、そのX方向と直交するY方向のスクライブラインを形成し、その後スクライブラインに沿って、マザー基板を単位基板ごとにブレークする方法がある。
スクライブラインを形成する技術としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
特許文献1は、刃先稜線部2aに連続した凹凸2bを有する溝付きカッターホイール2を用いて、脆性材料基板Mに第1スクライブラインS1を形成し、次いでこの第1スクライブラインS1と交差する第2スクライブラインS2を形成するスクライブ方法であって、少なくとも第2スクライブラインS2を形成する工程において、脆性材料基板Mの表面にオイルを供給し、このオイルが供給されたスクライブ予定ラインLに沿って、溝付きカッターホイール2を圧接しながら転動させることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、脆性材料基板(例えば、シリコンやサファイアなどの単結晶基板)は、組成や製造の条件によって基板の状態(結晶方位など)が異なってくる。このような脆性材料基板(特に前述した単結晶基板)の表面にスクライブラインを形成し、そのスクライブラインに沿って単位基板ごとにブレークするにあたっては、ブレーク後の製品品質が安定しないことがわかってきた。
【0006】
例えば、SiC基板をスクライブするに際しては、SiC基板上のオリフラ(オリエンテーションフラット:OF)に対して、平行にスクライブ(ブレークも含む)する場合において、そのスクライブの走査方向(+X方向(→)と、-X方向(←))で分離品質に差が生じてしまうことが判明した。同様に、オリフラに対して、垂直にスクライブする場合において、そのスクライブの走査方向(+Y方向(↓)と、-Y方向(↑))で分離品質に差が生じてしまうことが判明した。
【0007】
具体的に、本願発明者は一例として、任意の脆性材料基板を用いて実験を行った。その任意の脆性材料基板において、スクライブの走査方向が+X方向(→)の場合、分離品質が良好となるスクライブ荷重の可能範囲が狭いが、-X方向(←)の場合では、分離品質が良好となるスクライブ荷重の可能範囲がより広くなる傾向にあった。
つまり、ある方向のスクライブではPeeling,Chippingが多く発生してしまったり、スクライブライン通りの分離が難しいが、その逆の方向のスクライブではスクライブライン通りに分離することができることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、脆性材料基板(特に、単結晶基板)の表面にスクライブラインを形成するにあたって、まずスクライブラインの状態を評価及び比較するためのテストスクライブラインを基板の表面に形成し、そのテストスクライブラインの状態に基づき分離品質が良好となるスクライブの走査方向を決定し、決定された走査方向でスクライブを行って、スクライブラインを形成する脆性材料基板のスクライブ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる脆性材料基板のスクライブ方法は、脆性材料基板の表面に対して、スクライブ予定ラインに沿ってスクライブラインを形成する脆性材料基板のスクライブ方法であって、前記脆性材料基板の非製品領域の表面に対して、前記スクライブ予定ラインと平行で且つ、相互に異なる向きの走査方向でテストスクライブを行ってテストスクライブラインを形成するテストスクライブ工程と、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、前記テストスクライブラインの状態をそれぞれ評価する状態評価工程と、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、前記テストスクライブラインの状態を相互に比較し、スクライブの方向性を見極める状態比較工程と、前記スクライブ予定ラインに沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、を備え、前記状態比較工程において、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された前記テストスクライブラインを相互に比較し、明らかに異なる状態であると判定された場合、前記スクライブ工程において、前記テストスクライブラインの状態が良好である前記テストスクライブの走査方向と同じ方向のみでスクライブを行って、スクライブラインを形成することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記状態比較工程において、前記相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成された前記テストスクライブラインを相互に比較し、状態が相互に同じ状態であると判定された場合、一方方向のスクライブと反対の他方向のスクライブを交互に行うと決定し、前記スクライブ工程において、2本目以降のスクライブは、直前に走査したスクライブの方向と反対向きの方向でスクライブして、スクライブラインを形成するとよい。
【0011】
好ましくは、所定単位ごとに製造された複数枚の前記脆性材料基板に対してスクライブするに際し、前記所定単位の内の1枚目の前記脆性材料基板に対しては、前記テストスクライブ工程、前記状態評価工程、前記状態比較工程及び前記スクライブ工程を実行し、前記所定単位の内の2枚目以降の前記脆性材料基板に対しては、前記1枚目の脆性材料基板で判定した状態比較工程における判定結果に基づいて、前記スクライブ工程を実行するとよい。
【0012】
好ましくは、前記テストスクライブ工程及び前記スクライブ工程においては、前記脆性材料基板の表面に対して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、前記テストスクライブライン及び前記スクライブラインを形成するとよい。
好ましくは、前記脆性材料基板の表面には、表面膜が形成されており、前記表面膜側からスクライブラインを形成する場合には、前記状態評価工程において、前記表面膜が規定より剥がれた状態にあるか否かによって、前記テストスクライブラインの状態を評価し、前記スクライブの方向性を見極めるとよい。
【0013】
好ましくは、前記状態評価工程において、前記テストスクライブラインに沿って前記脆性材料基板をブレークし、分離部位を観察して前記テストスクライブラインの状態を評価するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脆性材料基板(特に、単結晶基板)の表面にスクライブラインを形成するにあたって、まずスクライブラインの状態を評価及び比較するためのテストスクライブラインを基板の表面に形成し、そのテストスクライブラインの状態に基づき分離品質が良好となるスクライブの走査方向を決定し、決定された走査方向でスクライブを行って、スクライブラインを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】脆性材料基板(単結晶基板)の表面におけるスクライブの走査方向の一例を模式的に示した図である。
【
図2A】オリエンテーションフラット(OF)に対して平行で且つ下りの方向(-X方向:←)で走査してテストスクライブを形成し、そのテストスクライブに沿って分離した後における縁の状態を撮像した写真である。
【
図2B】オリエンテーションフラット(OF)に対して平行で且つ上りの方向(+X方向:→)で走査してテストスクライブを形成し、そのテストスクライブに沿って分離した後における縁の状態を撮像した写真である。
【
図3A】オリエンテーションフラット(OF)に対して垂直で且つ下りの方向(-Y方向:↑)で走査してテストスクライブを形成し、そのテストスクライブに沿って分離した後における縁の状態を撮像した写真である。
【
図3B】オリエンテーションフラット(OF)に対して垂直で且つ上りの方向(+Y方向:↓)で走査してテストスクライブを形成し、そのテストスクライブに沿って分離した後における縁の状態を撮像した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる脆性材料基板1のスクライブ方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
本発明は、脆性材料基板1の表面に対して、スクライブ予定ラインに沿って、互に平行に複数のスクライブラインを形成する脆性材料基板1のスクライブ方法であって、スクライブの方向性について見極めて、分断時の品質が良好となるスクライブの走査方向を決定する方法である。
【0017】
さて、本発明は、例えばシリコンやサファイアなどの単結晶基板1に対して好適である。このような脆性材料基板1は、組成や製造の条件によって、結晶方位などといったような基板の状態が異なってくる。さらに、脆性材料基板1(特に、単結晶基板1)は、組成や製造の条件が同じであっても、所定単位(例えば、1ロット)ごとに状態(基板1の性質)が異なってくる場合もある。
【0018】
このような場合、スクライブの走査方向によって、分離時における単位基板の品質に差が生じてくることが、本願発明者により判明した。つまり、本願発明者は、単結晶基板1においては、「上り方向(+方向)」のスクライブと、「下り方向(-方向)」のスクライブとで、分離後の単位基板の分離部位に、剥がれなどの状態の差が生じてくることを知見した。
【0019】
そこで、本発明の脆性材料基板1のスクライブ方法では、スクライブラインを形成する前に、「上り方向」と「下り方向」(ある点を基準として、行く方向と返る方向)のテストスクライブラインを形成し、そのテストスクライブラインに沿った分離部位よりスクライブの方向性について見極めて、分離品質が良好となるスクライブの走査方向を決定する。
【0020】
図1に示す脆性材料基板1は、スクライブラインを形成して、製品となる単位基板に切り出す前のマザー基板である。
図1の左側から右側へと向かう方向を「+X方向(上り方向)」とし、その反対方向(右側から左側へと向かう方向)を「-X方向(下り方向)」とし、
図1の上側から下側へと向かう方向を「+Y方向(上り方向)」とし、その反対方向(下側から上側へと向かう方向)を「-Y方向(下り方向)」とする。
【0021】
なお、脆性材料基板1には、直線状に切り欠かれた「オリフラ」が設けられている。この「オリフラ」とは、オリエンテーション・フラット(OF)のことであり、基板1の結晶方位を示すものである。
本発明の脆性材料基板1のスクライブ方法は、上り方向と下り方向のテストスクライブラインを形成する「テストスクライブ工程」と、上り方向と下り方向のテストスクライブラインの状態を評価する「状態評価工程」と、評価した上り方向と下り方向のテストスクライブラインの状態を比較し、走査方向を決定する「状態比較工程」と、決定した走査方向でスクライブラインを形成する「スクライブ工程」と、を有している。
【0022】
テストスクライブ工程は、脆性材料基板1の非製品領域(基板1の端部など)の表面に対して、スクライブ予定ラインと平行で且つ、「相互に異なる向き」の走査方向でテストスクライブを行ってテストスクライブラインを形成する。
「相互に異なる向き」とは、一方方向である「上りの方向」と、その上りの方向に対して返る方向である「下りの方向」である。本実施形態では、X方向においては、一方方向である「上りの方向」は、+X方向となる。その上りの方向に対して返る方向(反対方向)である「下りの方向」は、-X方向となる(
図1を参照)。つまり、+X方向が往路となり、-X方向が復路となる。
【0023】
また、Y方向においては、一方方向である「上りの方向」は、+Y方向となる。その上りの方向に対して返る方向(反対方向)である「下りの方向」は、-Y方向となる(
図1を参照)。つまり、+Y方向が往路となり、-Y方向が復路となる。
テストスクライブ工程は、走査方向が「相互に異なる向き」のテストスクライブによって、脆性材料基板1の非製品領域の表面に対して、複数のスクライブ予定ラインと平行なテストスクライブラインをそれぞれ形成する。
【0024】
すなわち、テストスクライブ工程においては、脆性材料基板1の非製品領域の表面に対して、「+X方向(上り方向)」に走査して、スクライブ装置のスクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、スクライブ予定ラインと平行なテストスクライブラインを形成する。
また、脆性材料基板1の非製品領域の表面に対して、「-X方向(下り方向)」に走査して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、スクライブ予定ラインと平行なテストスクライブラインを形成する。
【0025】
さらに、テストスクライブ工程においては、脆性材料基板1の非製品領域の表面に対して、「+Y方向(上り方向)」に走査して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、スクライブ予定ラインと平行なテストスクライブラインを形成する。
また、脆性材料基板1の非製品領域の表面に対して、「-Y方向(下り方向)」に走査して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、スクライブ予定ラインと平行なテストスクライブラインを形成する。
【0026】
状態評価工程は、相互に異なる向き(上り方向と下り方向)の走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、各テストスクライブラインの状態をそれぞれ評価する。
さて、脆性材料基板1の表面には、表面膜が形成されている。その表面膜側からスクライブラインを形成する場合には、状態評価工程において、表面膜が規定より「剥がれた状態」にあるか否かによって、テストスクライブラインの状態を評価する。
【0027】
「剥がれの状態」とは、表面膜の凹みの深さが予め規定した深さ以上であったり、凹みの箇所が規定以上存在しているなどといった、欠損の大きさや発生数などである。それらの状態に基づいて、テストスクライブラインの状態を判別する。
つまり、状態評価工程においては、テストスクライブラインに沿って脆性材料基板1をブレークし、分離部位を観察してテストスクライブラインの状態(分離品質)を評価する。
【0028】
状態比較工程は、相互に異なる向き(上り方向と下り方向)の走査方向で行われたテストスクライブによって形成された、各テストスクライブラインの状態を相互に比較し、スクライブの方向性を見極める。
状態比較工程において、相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成されたテストスクライブラインを相互に比較し、明らかに異なる状態であると判定された場合、「上りの方向」または「下りの方向」うち、テストスクライブラインの状態が相対的に良好であるテストスクライブの方向を、スクライブの走査方向と決定する。
【0029】
例えば、1本目のスクライブの走査方向を「上りの方向」とした場合、2本目以降のスクライブは、1本目のスクライブの走査方向と同じ方向でスクライブして、スクライブラインを形成する。「上りの方向」とした場合は「上りの方向」のみでスクライブを行い、「下りの方向」とした場合は「下りの方向」のみでスクライブを行う。
一方で、状態比較工程において、相互に異なる向きの走査方向で行われたテストスクライブによって形成されたテストスクライブラインを相互に比較し、状態が相互に同じ状態
であると判定された場合、「一方方向(上りの方向)」のスクライブと、反対の「他方向(下りの方向)」のスクライブを交互に行うと決定する。
【0030】
例えば、1本目のスクライブの走査方向を「上りの方向」とした場合、2本目以降のスクライブは、直前に走査したスクライブの方向と反対向き(1本目が「上りの方向」の場合、2本目は「下りの方向」)の方向でスクライブして、スクライブラインを形成する。
スクライブ工程は、スクライブ予定ラインに沿ってスクライブラインを形成する。
スクライブ工程では、状態比較工程においてテストスクライブラインの状態が明らかに異なる状態であると判定された場合、状態が相対的に良好となる走査方向(テストスクライブと同じ方向のみ)でスクライブを行い、スクライブラインを形成する。
【0031】
スクライブ工程では、状態比較工程においてテストスクライブラインの状態が相互に同じ状態であると判定された場合、1本目のスクライブを、例えば「上り方向」でスクライブ行ってスクライブラインを形成するとした場合、2本目以降のスクライブは、直前のスクライブと反対向きの「下り方向」のスクライブを行ってスクライブラインを形成する。それ以降、「上り方向」のスクライブと「下り方向」のスクライブを交互に行う。
【0032】
スクライブにおいては、脆性材料基板1の表面に対して、スクライビングホイールを押圧しながら転動させることによって、スクライブラインを形成する。
ところで、所定単位(例えば、1ロット、同じ組成、同じ製造条件など)ごとに製造された複数枚の脆性材料基板1に対してスクライブするに際し、所定単位の内の1枚目の脆性材料基板1に対しては、「テストスクライブ工程」、「状態評価工程」、「状態比較工程」及び「スクライブ工程」を実行し、所定単位の内の2枚目以降の脆性材料基板1に対しては、1枚目の脆性材料基板1で判定した「状態比較工程」における判定結果に基づいて、「スクライブ工程」を実行する。
【0033】
なお、所定単位については、例えば、同じ組成で製造するなどといった同じ製造条件や、同じ製造条件であっても微細に製品品質が変わってくる場合(1ロットごとなど)についても含まれ、本発明は適用可能である。
[実施例]
以下に、本発明の脆性材料基板1のスクライブ方法に従って実施した実施例について、説明する。
【0034】
本実施例においては、SiC基板1を用いて、テストスクライブの実験を行った。
図2Aに示すように、脆性材料基板1の非製品領域の表面において、オリフラ(OF)と平行で且つ、-X方向(「←」下り方向)に走査してテストスクライブラインを形成し、テストスクライブラインに沿った分離部位を観察すると、このSiC基板1の場合、-X方向にスクライブすると分離品質が良好となることがわかる。
【0035】
図2Bに示すように、脆性材料基板1の非製品領域の表面において、オリフラ(OF)と平行で且つ、+X方向(「→」上り方向)に走査してテストスクライブラインを形成し、テストスクライブラインに沿った分離部位を観察すると、このSiC基板1の場合、+X方向にスクライブすると分離ラインに凹凸が発生してしまうことがわかる。
図3Aに示すように、脆性材料基板1の非製品領域の表面において、オリフラ(OF)と垂直で且つ、-Y方向(「↑」下り方向)に走査してテストスクライブラインを形成し、テストスクライブラインに沿った分離部位を観察すると、このSiC基板1の場合、-Y方向にスクライブすると分離品質が良好となることがわかる。
【0036】
図3Bに示すように、脆性材料基板1の非製品領域の表面において、オリフラ(OF)と垂直で且つ、+Y方向(「↓」上り方向)に走査してテストスクライブラインを形成し、テストスクライブラインに沿った分離部位を観察すると、このSiC基板1の場合、+Y方向にスクライブするとチッピングが発生しやすいことがわかる。
以上のように、相互に異なる向き(上り方向と下り方向)にテストスクライブを行うと、走査方向によって分離品質が異なってくるので、テストスクライブラインの状態を評価し比較して、スクライブの方向性について見極めて、スクライブの走査方向を決定すると好ましい。
【0037】
本発明の脆性材料基板1のスクライブ方法によれば、脆性材料基板1(特に、単結晶基
板1)の表面にスクライブラインを形成するにあたって、まずスクライブラインの状態を評価及び比較するためのテストスクライブラインを基板1の表面に形成し、そのテストスクライブラインの状態に基づき分離品質が良好となるスクライブの走査方向を決定し、決定された走査方向でスクライブを行って、スクライブラインを形成する。
【0038】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【0039】
本発明の脆性材料基板1のスクライブ方法は、例えば、スクライブ装置の制御部や、スクライブとブレークが一体とされた装置の制御部などに格納されているとよい。
【符号の説明】
【0040】
1 脆性材料基板