(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】防護柵の支柱構造
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2021000593
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012249(JP,A)
【文献】特開2013-002192(JP,A)
【文献】特開平10-088527(JP,A)
【文献】特開2019-190001(JP,A)
【文献】実開昭60-041426(JP,U)
【文献】特開2009-180045(JP,A)
【文献】特開2000-248515(JP,A)
【文献】特開2011-153483(JP,A)
【文献】特開2003-227109(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291571(US,A1)
【文献】特開2006-161359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 3/00-8/02
E01D 1/00-24/00
E01F 13/00-15/14
E01F 1/00
E04H 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護ネットを張設するために所定間隔をもって地盤に設置される防護柵の支柱構造であって、地盤に構築される土台と、前記土台上に設置される支柱本体と、を備えた支柱構造において、
前記土台に
直接又は間接的に載置され、上面に前記支柱本体が立設される基板と、
前記土台上で前記基板及び前記支柱本体の地盤斜面の山側から谷側への移動をガイドするガイド機構と、
前記土台上に設けられ、前記基板及び前記支柱本体が移動した際に、該基板から荷重を受けて破壊される被破壊部材と、を備え、
前記ガイド機構は、
前記基板に設けられ、前記山側から前記谷側へ伸長する長孔と、
前記土台に固定され、該土台の上面から先端部が突出し、前記長孔の前記谷側の端部に位置した状態で該長孔を貫通するアンカーボルトと、を備え、
前記基板は、
前記アンカーボルトにナットを螺合することにより、前記防護柵が落石を捕捉して前記基板に前記谷側へ所定値以上の荷重が作用
した場合に、前記基板
及び前記支柱本体が
前記ガイド機構にガイドされて前記谷側へ移動し得る程度の固定力で、前記土台に固定設置されたことを特徴とする防護柵の支柱構造。
【請求項2】
防護ネットを張設するために所定間隔をもって地盤に設置される防護柵の支柱構造であって、地盤に構築される土台と、前記土台上に設置される支柱本体と、を備えた支柱構造において、
前記土台に
直接又は間接的に載置され、上面に前記支柱本体が立設される基板と、
前記土台上で前記基板及び前記支柱本体の地盤斜面の山側から谷側への移動をガイドするガイド機構と、
一端が前記基板に取り付けられて該基板とともに前記谷側へ移動可能なロープと、前記土台に固定され、前記基板よりも前記山側で前記ロープを挟持する2枚の板状部材と、を有し、前記基板が移動した際に前記ロープと前記2枚の板状部材との間で摩擦力を発生させるブレーキ手段と、を備え、
前記ガイド機構は、
前記基板に設けられ、前記山側から前記谷側へ伸長する長孔と、
前記土台に固定され、該土台の上面から先端部が突出し、前記長孔の前記谷側の端部に位置した状態で該長孔を貫通するアンカーボルトと、を備え、
前記基板は、
前記アンカーボルトにナットを螺合することにより、前記防護柵が落石を捕捉して前記基板に前記谷側へ所定値以上の荷重が作用
した場合に、前記基板
及び前記支柱本体が
前記ガイド機構にガイドされて前記谷側へ移動し得る程度の固定力で、前記土台に固定設置されたことを特徴とする防護柵の支柱構造。
【請求項3】
前記基板
と前記土
台との間に配置され、前記基板と前記土
台との間の摩擦抵抗を制御する摩擦制御板を備えたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の支柱構造。
【請求項4】
前記土台は、地盤斜面に設けられるコンクリート基礎と、該コンクリート基礎の上に設置されて前記基板が
直接又は間接的に載置される金属製の補強板と、を備えたことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の支柱構造。
【請求項5】
一端が前記基板に取り付けられ、
他端が前記補強板の外周縁部から上方に突出した枠部に取り付けられ、前記基板が前記谷側に移動した際に伸長又は収縮して、該基板を前記山側へ付勢する付勢手段を備えたことを特徴とする請求項
4に記載の支柱構造。
【請求項6】
前記支柱本体は、前記基板にヒンジを介して傾倒可能に設置されたことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の支柱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩落土砂、落石等を受け止めて災害を防止する防護柵に用いられる支柱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、山の斜面には、落石、土砂崩れ、雪崩などの自然災害から隣接する道路、鉄道や住居を保護するために、防護柵が設置されている。特に、地震の多い日本では、地震によって斜面に落石、土砂崩れが頻発しやすいことから、防護柵を設置して災害への対策を講じることが極めて重要となっている。
【0003】
このような防護柵は、一般に、構造物や斜面に立設された複数の支柱と、支柱の間に張設されたネットとを備えている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の防護柵は、地盤斜面に立設した複数の支柱の間にネットを張設して形成されており、各支柱は、高剛性の柱状体で構成され、この柱状体の基部を地盤に埋め込むことで立設されている。この防護柵では、落石等によって防護柵に衝撃力が作用した際に、支柱を変形させることなく、ネットの伸びによって衝撃エネルギーを吸収している。
【0005】
特許文献1に記載の防護柵では、ネットで吸収されなかった衝撃力が支柱に伝達されるとともに、支柱には、この衝撃力に抗する周辺地盤からの抗力が作用するため、支柱に多大な負荷が作用する。各支柱は、変形することなく大きな負荷に耐え得るように、支柱の基部を地中深くまで埋め込んでコンクリート基礎に堅固に固定する必要があるため、施工期間やコストが掛かるという問題があった。
また、支柱が衝撃力に耐えられずに損傷した場合、コンクリート基礎を破壊して埋設された支柱を引抜き、支柱全体を交換する必要があるため、支柱のメンテナンス作業にも施工期間やコストが掛かるという問題があった。
【0006】
このような問題を解消するために、特許文献2には、支柱を埋め込むのではなく、地盤斜面に構築した土台の上に、ヒンジを介して柱状の支柱本体を立設した防護柵の支柱構造が開示されている。支柱本体は、支柱本体の上端部から山の斜面に向かって張設された控えロープによって谷側への傾倒が阻止されるとともに、支柱本体から山側へ向かって伸長する高剛性の棒状体によって斜面側への傾倒が阻止されている。控えロープには衝撃力を吸収可能な緩衝具が設けられている。
【0007】
特許文献2に記載の支柱構造では、支柱本体が地中に埋め込まれていないため支柱本体の設置や交換作業が容易であり、支柱本体が損傷した場合のメンテナンス作業に掛かる期間やコストを大幅に低減することができる。また、この支柱構造を備えた防護柵では、落石等により衝撃力が作用した際に、ネットを伸長させて衝撃エネルギーを吸収するとともに、ヒンジを介して支柱本体を傾倒させることにより、支柱本体を支持する控えロープを伸長させて、この控えロープに取り付けた緩衝具によって衝撃エネルギーを吸収することができる。このように、支柱本体自体を傾倒させることにより、支柱に作用する負荷を軽減して支柱の損傷を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-117361号公報
【文献】特開2003-105721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の支柱構造では、支柱本体の上方に衝撃荷重が作用した場合には、支柱本体を大きく傾倒させて衝撃エネルギーの吸収作用を有効に達成することができるが、ヒンジが取り付けられる支柱本体の下端部に落石が衝突した場合には、支柱本体の支点に力が加わった状態となることから支柱本体を傾倒させて衝撃エネルギーを吸収するという作用を奏することができないという課題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、基礎となる土台の上に支柱本体を設置した防護柵の支柱構造において、支柱本体のいずれの場所に衝撃力が作用した場合であっても、衝撃エネルギーを吸収可能な支柱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の防護柵の支柱構造は、防護ネットを張設するために所定間隔をもって地盤に設置される防護柵の支柱構造であって、地盤に構築される土台と、前記土台上に設置される支柱本体と、を備えた支柱構造において、
前記土台に直接又は間接的に載置され、上面に前記支柱本体が立設される基板と、
前記土台上で前記基板及び前記支柱本体の地盤斜面の山側から谷側への移動をガイドするガイド機構と、
前記土台上に設けられ、前記基板及び前記支柱本体が移動した際に、該基板から荷重を受けて破壊される被破壊部材と、を備え、
前記ガイド機構は、
前記基板に設けられ、前記山側から前記谷側へ伸長する長孔と、
前記土台に固定され、該土台の上面から先端部が突出し、前記長孔の前記谷側の端部に位置した状態で該長孔を貫通するアンカーボルトと、を備え、
前記基板は、前記アンカーボルトにナットを螺合することにより、前記防護柵が落石を捕捉して前記基板に前記谷側へ所定値以上の荷重が作用した場合に、前記基板及び前記支柱本体が前記ガイド機構にガイドされて前記谷側へ移動し得る程度の固定力で、前記土台に固定設置されたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、請求項2に記載の防護柵の支柱構造は、防護ネットを張設するために所定間隔をもって地盤に設置される防護柵の支柱構造であって、地盤に構築される土台と、前記土台上に設置される支柱本体と、を備えた支柱構造において、
前記土台に直接又は間接的に載置され、上面に前記支柱本体が立設される基板と、
前記土台上で前記基板及び前記支柱本体の地盤斜面の山側から谷側への移動をガイドするガイド機構と、
一端が前記基板に取り付けられて該基板とともに前記谷側へ移動可能なロープと、前記土台に固定され、前記基板よりも前記山側で前記ロープを挟持する2枚の板状部材と、を有し、前記基板が移動した際に前記ロープと前記2枚の板状部材との間で摩擦力を発生させるブレーキ手段と、を備え、
前記ガイド機構は、
前記基板に設けられ、前記山側から前記谷側へ伸長する長孔と、
前記土台に固定され、該土台の上面から先端部が突出し、前記長孔の前記谷側の端部に位置した状態で該長孔を貫通するアンカーボルトと、を備え、
前記基板は、前記アンカーボルトにナットを螺合することにより、前記防護柵が落石を捕捉して前記基板に前記谷側へ所定値以上の荷重が作用した場合に、前記基板及び前記支柱本体が前記ガイド機構にガイドされて前記谷側へ移動し得る程度の固定力で、前記土台に固定設置されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、支柱本体が基板の上面に立設されているため、落石等により支柱本体に衝突荷重が作用した場合に、基板には支柱本体を介して地盤斜面谷側方向へ向かう衝突荷重が作用する。この基板の土台への固定は堅固にされているものではなく、基板に作用する衝突荷重が所定値以上となった場合に、この衝撃荷重を受けて、基板が土台上を地盤斜面谷側へ移動することができる程度とされている。したがって、支柱本体及び基板の移動によって衝撃エネルギーを吸収することができる。このように、土台に対して支柱本体全体を移動可能な構造としたことで、支柱本体の上下方向のいずれの箇所に衝撃荷重が作用した場合であっても、支柱本体を土台に対して変位させて衝撃を緩和し、衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0014】
この構成によれば、基板に作用する衝突荷重が所定値以上となった場合に、この衝撃荷重を受けて、基板が土台上を基板に形成された長孔に沿って地盤斜面谷側へ移動することができる。これにより、支柱本体の上下方向のいずれの箇所に衝撃荷重が作用した場合であっても、支柱本体を土台に対して変位させて衝撃エネルギーを吸収することができる。また、長孔の長さによって基板の移動可能距離を規制することができる。また、土台にアンカーボルトを設置して、このアンカーボルトを基板に形成した長孔に貫通させる構成であるため、施工が簡易である。
【0019】
また、請求項3に記載の支柱構造は、請求項1又は2に記載の支柱構造において、
前記基板と前記土台との間に配置され、前記基板と前記土台との間の摩擦抵抗を制御する摩擦制御板を備えたことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、基板と土台との間に配置された摩擦制御板により、基板が土台に対して移動する際の摩擦抵抗を制御することができる。
【0021】
また、請求項4に記載の支柱構造は、請求項1~3のいずれか1項に記載の支柱構造において、
前記土台は、地盤斜面に設けられるコンクリート基礎と、該コンクリート基礎の上に設置されて前記基板が載置される金属製の補強板と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、土台を固いコンクリート基礎で形成することで土台を安定化させることができるとともに、補強板によって土台の表面を補強し、基板が土台上を移動した際に、基板の摩擦力によってコンクリート基礎の表面が崩壊することを防止することができる。
【0023】
また、請求項5に記載の支柱構造は、請求項4に記載の支柱構造において、
一端が前記基板に取り付けられ、他端が前記補強板の外周縁部から上方に突出した枠部に取り付けられ、前記基板が前記谷側に移動した際に伸長又は収縮して、該基板を前記山側へ付勢する付勢手段を備えたことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、基板が移動した際に、基板に取り付けられた付勢手段が伸縮することにより基板の移動エネルギー、すなわち支柱本体が受けた衝撃エネルギーを付勢手段によって吸収することができる。また、付勢手段の伸縮力によって、基板が移動する際の滑り荷重を制御しやすくすることができ、基板が移動した後のメンテナンスも容易である。
【0025】
また、請求項6に記載の支柱構造は、請求項1~5のいずれか1項に記載の支柱構造において、
前記支柱本体は、前記基板にヒンジを介して傾倒可能に設置されたことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、支柱本体に衝撃力が作用した際に、土台に対する支柱本体の移動に加えて、ヒンジを介して支柱本体を傾倒させることにより、より大きな衝撃エネルギーを吸収することができる。また、ヒンジによって基板に作用するモーメントを解消することができ、これにより、基板に作用する移動方向への荷重を制御しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の防護柵の支柱構造によれば、支柱本体が立設される基板が、長孔に沿って土台上を移動可能に構成されているため、落石等によって支柱本体に衝撃荷重が作用した際に、支柱本体の上下のいずれの箇所に衝撃荷重が作用した場合であっても、支柱本体全体を土台に対して移動させて衝撃エネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る支柱構造を備えた防護柵の斜視図である。
【
図4】支柱を上方から見た平面図であって基板が移動する前の状態を示す図である。
【
図5】支柱を上方から見た平面図であって基板が移動した後の状態を示す図である。
【
図6】第2の実施形態の支柱構造の要部を示す
図2と同様の断面図である。
【
図7】第2の実施形態の支柱を上方から見た平面図である。
【
図9】第3の実施形態の支柱構造を備えた防護柵の斜視図である。
【
図10】第3の実施形態の支柱構造の要部を示す
図2と同様の断面図である。
【
図11】第3の実施形態の支柱を上方から見た平面図である。
【
図12】第3の実施形態の防護柵の側面図であって、防護柵の動作作用を説明する図である。
【
図13】第4の実施形態の支柱構造の要部を示す断面図である。
【
図14】第4の実施形態の支柱を上方から見た平面図である。
【
図15】第5の実施形態の支柱構造の要部を示す断面図である。
【
図17】支柱を上方から見た平面図であって、被破壊部材を備えた支柱構造の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の支柱構造1を備えた防護柵10の斜視図である。なお、各図面は模式図であって、各構成部材の寸法等を厳密に示したものではない。防護柵10は、複数の支柱20と、支柱20の間に張設された防護ネット12(以下、単に「ネット12」とも称する)とを備え、ネット12により落石や崩落土砂等を補足することで被害を防止するものである。支柱20の地上側の高さは、例えば2m~5m程度、支柱20の間の間隔は、例えば3m~5m、場合によっては5m~10m程度であり、それらは、防護柵10を設置する斜面の規模や、状況に応じて適宜選択される。
【0030】
本実施形態の防護柵10は、複数の支柱20-1~20-4と、ネット12と、補助ロープ14と、補助ロープ14に取付けられた緩衝手段16と、を備える。なお、図示例では4本の支柱20-1~20-4を記載しているが、支柱20の本数はこれに限られず、2本以上であればよい。複数の支柱20は、ネット12を張設するために所定間隔をもって地盤に設置され、1つの支柱列を構成している。各支柱20は、土台30と、アンカーボルト36と、長孔42が形成された基板40と、支柱本体22と、を備える支柱構造1を有する。以下、防護柵10を構成する各部材について詳説する。
【0031】
ネット12は、
図1に示すように、鋼線からなる線材(例えば、高張力硬鋼線からなる線材や、高張力硬鋼線を複数本撚った線材など)を網状にしたものである。図示例のネット12は網目が菱形に形成された菱形金網であるが、これに限られず、例えば、ワイヤをリング状(例えば径300~400mmのリング状)に形成したリングネットなど、種々のネット12を用いることができる。
【0032】
補助ロープ14は、複数の支柱20-1~20-4のうち少なくとも2つの支柱20の間に所定の高さ位置で張架される。補助ロープ14には、落石等による負荷が加えられたときに、補助ロープ14の所定範囲の伸びを許容する緩衝手段16が設けられている。
図1に示すように、本実施形態では、支柱列の両端に位置する2本の支柱20-1、20-4間に上下方向に間隔をあけて5本の補助ロープ16が横架されている。各補助ロープ14は、2本の支柱20-1,20-4のそれぞれの側部に設けられた固定部材15により、一定の張力をもって架け渡されている。各補助ロープ14の両端部近傍には、それぞれ緩衝手段16が設けられている。
【0033】
緩衝手段16は、
図2に示すように、補助ロープ14が二本挿通可能な孔部17aを有する金属製の緊締部材17に、補助ロープ14を先ず挿通させ、その補助ロープ14を環状にひと巻きした後、再度同じ方向から孔部17aに補助ロープ14を挿通させ、緊締部材17をかしめることにより、挿通させた補助ロープ14に固着させた構成を有する。これにより、孔部17a中において、補助ロープ14は相互に摩擦接触する構成となっている。
【0034】
このような緩衝手段16を備えたネット12では、落石による衝撃荷重が補助ロープ14に伝達すると、孔部17a内において補助ロープ14相互間及び補助ロープ14と緊締部材17間に生じる摩擦によって衝撃エネルギーが吸収される。この動作により、緩衝手段16の環状部分が縮径し、縮径した分の補助ロープ14が防護柵10の中央方向にずれ込むことにより、落石に対する抵抗力が上昇する。補助ロープ14の環状部分の大きさは所望とする緩衝作用を得るために適宜変更可能であり、大きな緩衝作用を必要とする場合には環状部分を大きくすればよい。なお、緩衝手段は
図2に示す例のものだけでなく、あらゆるものを使用することができる。
【0035】
支柱20は、
図3及び
図4に示すように、地盤に構築される土台30と、土台30の上面30aから先端部が突出する複数のアンカーボルト36と、土台30に載置される基板40と
、基板40を介して土台30上に設置される支柱本体22と、を備えた支柱構造1を有する。基板40は、所定値以上の荷重を受けた際に、土台30に対して移動可能に構成されている。
図4及び後述する
図5では、基板40の移動状態を理解しやすいように、土台30の一部を切り取って上方から見た図を示している。
【0036】
土台30は支柱20の基礎部となるものである。本実施形態において土台30は、地盤斜面に構築されたコンクリート基礎31からなる。このように、土台30を固いコンクリート基礎31で形成することで支柱本体22が設置される土台30を安定化させることができる。コンクリート基礎31には、複数のアンカーボルト36が埋め込み、固定されている。複数のアンカーボルト36は、基板40に形成される複数の長孔42の位置に合わせて配設される。本実施形態では、基板40が載置される土台30の表面をほぼ水平な平面に形成しているが、土台30表面は、水平面に対して傾斜していてもよい。
【0037】
基板40は、土台30に載置される板材であり、複数のアンカーボルト36の各々が貫通する複数の長孔42を有している。この基板40は、例えば、鋼板等の金属製の板材など、強度の高い材料で形成することができる。
【0038】
複数の長孔42は、基板40を土台30に設置した状態で、地盤斜面の山側から谷側に向かって長く伸長するように、同一方向に伸長している。本実施形態では、
図4に示すように、基板40の中央部に支柱本体22を立設しており、その周囲に、支柱本体22を囲むように4つの長孔42を設けている。長孔42の伸長方向は、基板40が、支柱本体22を介して落石等による衝撃荷重を受ける方向にほぼ一致する。なお、長孔42の数は4つに限られず2つ以上であればよい。また、長孔42は、支柱本体22に対して地盤斜面の山側と谷側とに設けられることが好ましい。
【0039】
長孔42の長手方向の長さは、例えば、支柱22の直径の0.5~0.7倍の大きさとすることができる。長孔42の長さは300mm以下であることが好ましく、本実施形態では、長孔42の長さを100mm~300mmの範囲に設定している。
【0040】
また、長孔42の幅方向の長さ(すなわち長手方向と直交する方向の長さ)は、アンカーボルト36の直径に対して余裕のある大きさ、例えば、アンカーボルト36の直径の1.5倍~2倍の大きさに設定することが好ましい。このように、長孔42の幅方向の長さに余裕を持たせることで、土台30に対して基板40が移動する際に、長孔42の長手方向への移動に加え、長孔42の幅方向への移動も許容することが可能となる。
【0041】
支柱本体22は、例えば鋼鉄などの高剛性の材料で形成された柱状体であり、下端部が基板40に固定された状態で立設されている。本実施形態において支柱本体22は断面が四角形状に形成されているが、断面形状はこれに限られず、円形や他の多角形状であってもよい。本実施形態では、溶接により支柱本体22の下端部を基板40に固定している。本実施形態の支柱本体22は、さらに、高剛性の棒状の支持部材24によって支持されている。支持部材24は、一端が基板40の上面に接合され、他端が支柱本体22に接合されている。支柱本体22の長さは、例えば1.5m~3.5mとすることができる。
【0042】
支柱本体22が立設固定された基板40は、複数のアンカーボルト36のそれぞれが、複数の長孔42のそれぞれに貫通し、かつ、各アンカーボルト36が各長孔42の谷側の端部に位置した状態で、土台30に固定される。本実施形態では、各アンカーボルト36に、固定用のナット37を締付けることで、基板40を土台30に固定している。この固定力は、基板40が谷側へ所定値以上の荷重を受けることにより、基板40が長孔42に沿って土台30上を移動し得る程度に設定されている。
【0043】
次に、上述した支柱構造1を有する防護柵10の作用について説明する。落石や崩落土砂が発生して、防護柵10がこれを受け止めることにより、ネット12及び支柱20に衝撃荷重が作用する。
【0044】
本実施形態の防護柵10では、支柱本体22が基板40の上面に立設されているため、支柱本体22に衝突荷重が作用すると、基板40には支柱本体22を介して地盤斜面谷側方向へ向かう衝突荷重が作用する。上述したように、基板40の土台30への固定は堅固にされているものではなく、緩く固定されている、具体的には、基板40に作用する衝突荷重が所定値以上となった場合に、この衝撃荷重を受けて、基板40が土台30上を長孔42に沿って地盤斜面谷側へ移動することができる程度とされている。そのため、所定値以上の衝撃荷重を受けた基板40は、
図5に示すように、支柱本体22とともに土台30上を谷側へ移動し、これにより、落石等による衝撃エネルギーを吸収することができる。このように、本実施形態の支柱構造1では、土台30に対して支柱本体22全体を移動可能な構造としたことで、支柱本体22の上下方向のいずれの箇所に衝撃荷重が作用した場合であっても、支柱本体22を土台30に対して変位させて衝撃エネルギーを吸収することが可能である。
【0045】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態の支柱構造の要部を示す断面図であり、
図7は、第2の実施形態の支柱を上方から見た平面図である。
図6及び
図7において、第1の実施形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0046】
本実施形態の支柱構造1では、土台30が、地盤斜面に設けられるコンクリート基礎31と、コンクリート基礎31の上に設置された補強板32と、を備えている。また、支柱構造1は、土台30と基板40との間に配置された摩擦制御板50と、土台30に固定されたストッパ部材52と、基板40に取付けられたブレーキ手段54と、を備える。
【0047】
補強板32は、コンクリート基礎31の上に設置されて、基板40が載置される土台30の上面を形成している。補強板32は、例えば、鋼板等の金属製の板材など、表面の摩擦強度が高い材料で形成することができる。本実施形態の補強板32は、平板状の本体部33と、本体部33の外周縁部から上方に突出した枠部34と、を備えている。本体部33の表面は、コンクリート基礎31の上面よりも平滑な面となっている。なお、補強板32は、本体部33のみを有する構成であってもよい。本実施形態の補強板32は、枠部34の先端がコンクリート基礎31の上面から突出した状態でコンクリート基礎31に埋め込み設置されている。複数のアンカーボルト36は、補強板32の本体部33を貫通する態様で土台30の上面からから突出している。
【0048】
摩擦制御板50は、土台30と基板40との間の摩擦抵抗をコントロールするものであり、本実施形態では、補強板32と基板40との間の摩擦抵抗を増加させる部材、例えば、樹脂製や繊維強化樹脂製の板材などで形成することができる。本実施形態において、摩擦制御板50は、補強板32の枠部34内に嵌め込まれて土台30に固定設置されている。なお、摩擦制御板50の設置態様はこれに限られず、例えば、基板40の下面に接合され、土台30に対して基板40とともに移動する構成であってもよい。
【0049】
ストッパ部材52は、基板40の地盤斜面谷側方向への移動を規制するものであり、基板40よりも谷側に、土台30上面から突出する態様で設置される。ストッパ部材52は、基板40が土台30上を移動した際に、基板40に当接して移動を停止できるものであればよく、その形状は、板状や棒状など適宜選択することができるとともに、その材料も、金属製、樹脂製、繊維強化樹脂製、又はコンクリート製など適宜選択することが可能である。本実施形態のストッパ部材52は、補強板32の枠部34の一部、具体的には、四角形状の枠部34のうち、地盤斜面谷側の一辺部で構成されている。
【0050】
図6~
図8に示すように、ブレーキ手段54は、少なくとも1本のロープ55と、2枚の板状部材56,57とを備える。本実施形態のブレーキ手段54は2本のロープ55を用いている。各ロープ55の一端は、固定部材59によって基板40に取り付けられており、他端は自由端となっている。各ロープ55は、2枚の板状部材56,57で挟持されており、2枚の板状部材56,57は、締結部材58で強固に重ね合わされて互いに固定されている。2枚の板状部材56,57のうち一方の板状部材57は平板状とされており、他方の板状部材56は、板状部材57と重ね合わせた時に各ロープ55が挿通される断面円弧状の凹溝56aが形成されている。また、本実施形態の板状部材56,57は、摩擦制御板50を介して土台30に固定されている。
【0051】
このブレーキ手段54は、基板40が土台30に対して移動すると、各ロープ55が基板40に引っ張られ、各ロープ55は、各板状部材56,57の内面と擦れながら基板40とともに移動する。これにより、板状部材56,57と各ロープ55との間に摩擦力が発生し、基板40の移動エネルギーが吸収される。
【0052】
本実施形態の防護柵10では、支柱20において、土台30と基板40との間に配置された摩擦制御板50により、基板40が土台30に対して移動する際の摩擦抵抗をコントロールすることができ、例えば、摩擦制御板50によって摩擦抵抗を増加させることができる。これにより、支柱20に作用した衝撃エネルギーの吸収量を増加させることができる。
【0053】
また、基板40が移動すると、基板40に取付けられたブレーキ手段54において、ローブ55と板状部材56,57との間に摩擦力が発生する。このように、ブレーキ手段54によって摩擦力を発生させることで、より効果的に衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0054】
また、この支柱構造1では、土台30に固定されたストッパ部材52により、基板40の移動距離を規制することができるため、落石等により、支柱本体22が大きな衝撃力を受けて基板40に大きな衝撃荷重が作用した場合であっても、基板40に形成された長孔42と、ストッパ部材52との両方によって、基板40の移動を確実に停止させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、基板40が補強板32の上に載置されており、コンクリート基礎31と直接的に接触していないため、基板40が土台30上を移動した際に、基板40との間に発生する摩擦力によってコンクリート基礎31の表面が崩壊することを防止することができる。
【0056】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態の支柱構造1を備えた防護柵10の斜視図であり、
図10は、第3の実施形態の支柱構造1の要部を示す断面図、
図11は、第3の実施形態の支柱20を上方から見た平面図である。
図9~
図12に示す第3の実施形態おいて、第1又は第2の実施形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する第3の実施形態において、第1又は第2の実施形態と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態の支柱構造1において、支柱本体22は、ヒンジ26を介して基板40に傾倒可能に設置されている。また、基板40には、基板40を地盤斜面の山側へ付勢する付勢手段48が取り付けられている。本実施形態の防護柵10は、複数の支柱20-1~20-4と、ネット12と、補助ロープ14と、補助ロープ14に取付けられた緩衝手段16とを備えるとともに、上部サポートロープ70と、下部サポートロープ72と、保持ロープ74と、支持ロープ76と、を備えている。
【0058】
図9に示すように、上部サポートロープ70及び下部サポートロープ72は、支柱列の上端部及び下端部のそれぞれに横架されている。上部サポートロープ70は、地盤斜面に固設された一方のアンカー79から各支柱20-1~20-4の上部を経て、他方のアンカー79まで張架されている。下部サポートロープ72は、地盤斜面に固定された一方のアンカー79から、各支柱20-1~20-4の下部を経て、他方のアンカー79まで張架されている。上部サポートロープ70及び下部サポートロープ72のそれぞれは、ネット12の上辺部及び下辺部のそれぞれに位置している。
【0059】
支柱列を形成する複数の支柱20-1~20-4のうち、両端の支柱20-1,20-4を除く内側の支柱20-2,20-3には、支柱上部から、山肌の地盤に固設されたアンカー79まで延びる保持ロープ74が張架されている。本実施形態において、保持ロープ74は各支柱20-2,20-3につき2本ずつ設けられており、この保持ロープ74により、支柱20-2,20-3を安定的に立設して、支柱20-2,20-3の傾動動作を調整することができる。
【0060】
上部サポートロープ70、下部サポートロープ72、保持ロープ74及び支持ロープ76には、緩衝手段78が設けられている。緩衝手段78は、
図2に示す緩衝手段16と同様の構成であり、この緩衝手段78により、落石衝突時の突発的な衝撃力が吸収され、各ロープの破断が防止される。
【0061】
図10及び
図11に示すように、基板40と支柱本体22との間に設けられるヒンジ26は、基板40に固定されて基板40から立設する固定板27と、固定板27に取付けられた軸部28と、を備える。固定板27は、支柱本体22を挟持するように対を成して配設されている。軸部28は、支柱本体22及び一対の固定板27を貫通しており、支柱本体22は、基板40上に軸部28を中心に傾倒可能に設置されている。
【0062】
付勢手段48は、基板40に取付けられ、少なくとも基板40が土台30上を谷側へ移動した際に、基板40を山側へ付勢する付勢力を基板40に付与する。付勢手段48は、伸縮自在な部材で形成され、設置状態で長孔42の伸長方向に伸縮可能となるように基板40に取付けられる。このような付勢手段48としては、例えば、コイルばねや複数枚重ねられた皿ばね等を用いることができる。本実施形態では、付勢手段48として、一端が基板40に接続され、他端が補強板32の枠部34に接続されたコイルばねを用いている。また、本実施形態では、一例として、付勢手段48であるコイルばねを基板40の谷側及び山側にそれぞれ2つずつ設けている。このコイルばねは、支柱20の初期設置状態で、伸縮していない自然長に設定されていてもよいし、基板40を山側へ付勢するように伸長状態又は収縮状態で設置されていてもよい。また、本実施形態では、ストッパ部材52を補強板32に固定された摩擦板52の上面に、設置固定している。付勢手段48を設けることで、基板40が移動する際の滑り荷重を制御しやすくすることができる。また、付勢手段48は、基板40が移動した後のメンテナンスが容易である。
【0063】
次に、
図12を用いて第3の実施形態の防護柵10の動作作用を説明する。
図12は、防護柵10の側面図であり、崩落土砂60を防護柵10のネット12で受け止めた状態を示している。
図12において、破線は、支柱本体22及び基板40の初期位置を示している。崩落土砂60によって支柱本体22及び基板40が所定値以上の衝撃荷重を受けると、支柱本体22は、基板40とともに地盤斜面Sの谷側へ移動するとともに、支柱本体22の下端部に設けたヒンジ構造により、基板40に対して傾倒した状態となる。このように、基板40及び支柱本体22の横移動に加えて、支柱本体22を傾倒させることで、より大きな衝撃エネルギーを吸収することができる。また、ヒンジ26によって基板40に作用するモーメント、すなわち、基板40が土台30から離れる方向へ作用する力を解消することができ、これにより、基板40に作用する移動方向への荷重を制御しやすくすることができる。
【0064】
さらに、基板40が土台30に対して移動すると、基板40に取り付けられた付勢手段48が基板40を伸縮することにより、基板40の移動エネルギー、すなわち支柱本体22が受けた衝撃エネルギーが付勢手段48によって吸収される。このように、付勢手段48の伸縮によって衝撃エネルギーを吸収することで、エネルギー吸収効率をより向上することができる。
【0065】
本実施形態では、さらに
図12に示すように、支柱20の土台30の表面が、水平面に対して所定の角度αだけ山側から谷側へ向かって上方に傾斜している。土台30にこのような傾斜を設けることで、基板40の移動時のエネルギー吸収量を高めることができる。
【0066】
(第4の実施形態)
図13は、第4の実施形態の支柱構造1の要部を示す断面図、
図14は、第4の実施形態の支柱20を上方から見た平面図である。
図13及び
図14に示す第4の実施形態おいて、第1、第2又は第3の実施形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する第4の実施形態において、第1、第2又は第3の実施形態と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0067】
本実施形態の支柱構造1では、支柱本体22が立設される基板40が、土台30と基板40上に載置された挟持板46とによって挟持固定されている。具体的には、土台30は、コンクリート基礎31と、摩擦制御板50とを備えており、基板40は、摩擦制御板50の上面に載置され、この基板40の上面に挟持板46が載置されている。図示例では、摩擦制御板50と挟持板46とが等しい大きさに設定されている。土台30には、その上面から先端部が突出するように、複数のアンカーボルト38が埋め込み固定されている。各アンカーボルト38は、摩擦制御板50及び挟持板46を貫通した状態で、挟持板46上からナット39が締付けられており、このナット39の締付によって、基板40が挟持固定されている。
【0068】
挟持板46は、例えば鋼板など、強度や硬度の高い板材で形成することが好ましい。摩擦制御板50は、例えばアルミニウム合金板や繊維強化樹脂板など、挟持板46よりも硬度の低い(柔らかい)板材で形成されることが好ましい。また、本実施形態では、摩擦制御板50の硬度が基板40よりも低くなるように、摩擦制御板50が、基板40よりも柔らかい材料で形成されている。このような構成とすることで、基板40が移動した際に、硬度の低い摩擦制御板50の表面を変形又は破損させて、エネルギー吸収量を高めることができる。また、メンテナンス時には、基板40と摩擦制御板50のうち、破損した摩擦制御板50のみを交換することができる。
【0069】
また、摩擦制御板50を設置することで、基板40の下面に生じる摩擦抵抗を制御することができる。具体的には、コンクリート基礎31は、設置現場で打設するため、その表面の不陸状態がコントロールし難く、コンクリート基礎31上に直接、基板40を載置すると、不陸状態によって基板40との間の摩擦抵抗が大きく変化する。本実施形態のように、コンクリート基礎31と基板40との間に摩擦制御板50を設置することで、基板40が谷側へ移動する際に、基板40の下面に発生する摩擦抵抗を制御することができ、これにより、基板40が所定の滑り荷重に達した際に移動するように制御することができる。
【0070】
挟持板46の中央部には、地盤斜面の山側から谷側へ向かって伸長する長孔47が形成されており、支柱本体22は、この長孔47を貫通した状態で基板40上に立設されている。本実施形態では、支柱本体22の下端部にヒンジ26を設けており、このヒンジ26が挟持板46の長孔47を貫通している。基板40及び支柱本体22は、初期設置状態で、支柱本体22が長孔47の地盤斜面山側の端部に位置するように配置される。ナット39による基板40の土台30に対する固定力は、基板40が谷側へ所定値以上の荷重を受けることにより、基板40が挟持板46の長孔47に沿って土台30上を移動し得る程度に設定されている。
【0071】
この支柱構造1では、落石等により支柱本体22に衝突荷重が作用すると、基板40には支柱本体22を介して地盤斜面谷側方向へ向かう衝突荷重が作用する。この衝突荷重が所定値以上となると、基板40は、支柱本体22とともに挟持板46の長孔47に沿って土台30上を地盤斜面谷側へ移動し、これにより、落石等による衝撃エネルギーを吸収することができる。また、ヒンジ26を介した支柱本体22の傾倒によっても衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0072】
本実施形態において、基板40の土台30に対する地盤斜面谷側への移動距離は、長孔47の長手方向の長さによって規制することができる。また、図示していないが、本実施形態において、摩擦制御板50の谷側の上面、又は、挟持板46の谷側の下面に、これら表面から突出するストッパ部材52を設け、このストッパ部材52に基板40が当接することで、基板40の谷側への移動が規制されるようにしてもよい。
【0073】
(第5の実施形態)
図15は、第5の実施形態の支柱構造1の要部を示す断面図、
図16は、
図15のA-A線に沿う断面図である。
図15及び
図16に示す第5の実施形態おいて、第1、第2又は第3の実施形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する第5の実施形態において、第1、第2又は第3の実施形態と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0074】
本実施形態の支柱構造1では、土台30の表面を形成する補強板32上に、補強板32に対して板の表面が垂直となるように一対の挟持板70A,70Bが立設・固定されており、この挟持板70A,70Bによって、基板40が挟持・固定されている。本実施形態では、一対の挟持板70A,70Bの内面に、一対の摩擦制御板50A,50Bが取り付けられており、基板40は、摩擦制御板50A,50Bを介して挟持板70A,70Bに挟持・保持されている。摩擦制御板50A,50Bは、挟持板70A,70Bと基板40との間の摩擦抵抗をコントロールするものであり、摩擦制御板50A,50Bの材質は、第2の実施形態の摩擦制御板50と同様のものとすることができる。なお、摩擦制御板50A,50Bはオプションであり、必須の構成ではない。
【0075】
補強板32は、コンクリート基礎31から突出して補強板32を貫通するアンカーボルト38と、このアンカーボルト38に締結されたナット39とによってコンクリート基礎31の表面に固定されている。一対の挟持板70A,70Bは、所定間隔をあけて平行に対向して配置されており、山側から谷側に向かって長く延びる長方形状に形成されている。基板40は、補強板32に対して板の表面が垂直になるように配置され、一対の挟持板70A,70Bによって所定の固定力、すなわち、基板40が地盤斜面の谷側へ所定値以上の荷重を受けることにより土台30上を谷側へ移動し得る程度の固定力、で固定される。支柱本体22は、ヒンジ26を介して基板40に傾倒可能に設置されている。ヒンジ26を構成する一対の固定板27は、基板40の両表面を挟み込むように取り付けられている。
【0076】
基板40は、一対の挟持板70A,70B、一対の摩擦制御板50A,50B及び基板40のそれぞれを貫通する複数のボルト76と、これらのボルト76に螺合された複数のナット78とによる締結力により、所定の固定力で土台30に固定されている。各ボルト76は、挟持板70A,70Bに形成された長孔72及び摩擦制御板50A,50Bに形成された長孔51を貫通している。挟持板70A,70Bの長孔7と、摩擦制御板50A,50Bの長孔51とは、それぞれ山側から谷側へ長く延びており、厚み方向で孔が重なるようにほぼ等しい大きさ・形状に形成されている。基板40においてボルト76が貫通する孔の内径は、ボルト76の外径とほぼ等しく設定されている。本実施形態では、基板40に、所定値以上の荷重が作用すると、土台30及びこれに堅固に固定された挟持板70A,70Bに対し、基板40及びボルト76が長孔72,51に沿って山側から谷側へ移動する。
【0077】
なお、ボルト76の移動を規制する長孔72,51は、挟持板70A,70B側(すなわち、土台30に堅固に固定されて移動しない側)ではなく、基板40側(すなわち、土台30に対して移動する側)に形成される構成であってもよい。また、摩擦制御板50A,50Bは、挟持板70A,70Bではなく、基板40の両表面に取付ける構成であってもよい。
【0078】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
例えば、
図7に示す実施形態において、基板40の谷側であって基板40の移動範囲内の領域68に、基板40が谷側へ移動した際に、基板40から荷重を受けて破壊する被破壊部材を設けてもよい。被破壊部材は、脆性の高い材料で形成され、例えば、樹脂材料、ゴム材料、エアモルタル等の多数の気泡を内包した気泡コンクリート等で、形成することができる。なお、このような被破壊部材は、上述した他の実施形態にも適用することが可能である。
【0080】
図17は、被破壊部材を備えた支柱構造1の変形例を示す。この変形例では、第2の実施形態における基板40の形状を変更しており、基板40の両側に板状の被破壊部材66を設けている。なお、
図17では、理解しやすいように、非破壊部材66にドットを付している。他の部材の構成については、第2の実施形態と同様である。
【0081】
本変形例の基板40は、谷側の幅寸法が山側の幅寸法よりも小さく設定された台形状に形成されている。図示例では、基板40が平面視で線対称な台形となる等脚台形に形成されている。被破壊部材66は、摩擦制御板50を介して補強板32上に載置され、基板40の両側(すなわち、台形の一対の脚を形成する側辺)と接触した状態で固定設置されており、基板40両側と補強板32の枠部34との間を埋めるように配置されている。
【0082】
図17に示す支柱構造1では、基板40が谷側へ所定値以上の荷重を受けると、基板40は、両側に配置された被破壊部材66を破壊しながら谷側へ移動する。このように被破壊部材66を破壊させることで、衝撃エネルギーを吸収し、支柱本体22への衝撃を緩和することができる。なお、このような被破壊部材66は、基板40の形状を台形状に変更し、被破壊部材66を固定する枠部34を設置することで、他の実施形態にも適用することが可能である。
【0083】
上述した各実施形態及び変形例のように、本発明に係る支柱構造1は、基板40を土台30に対して所定の固定力(すなわち、地盤斜面の谷側へ所定値以上の荷重が作用することにより基板40が土台30上を谷側へ移動し得る程度の固定力)で固定する固定機構と、基板40に所定値以上の荷重が作用して土台30に対する固定が外れた場合に、基板40が谷側へ所定距離の範囲内で移動するように、基板40の移動をガイドするガイド機構とを備えることが好ましい。ガイド機構は、基板40及び固定機構のうち、いずれか一方に形成された長孔と、基板40及び固定機構のうち、いずれか他方に取付けられて、長孔を貫通し且つ長孔内を長孔の伸長方向に移動する貫通部材と、を備えることが好ましい。
【0084】
第1、第2及び第3の実施形態において、固定機構は、土台30に取付けられたアンカーボルト36と、土台30との間に基板40を挟持してアンカーボルト36に締結されるナット37と、を備えて構成されており、ガイド機構は、基板40に形成された長孔42と、長孔42を貫通するアンカーボルト36と、を備えて構成される。第2及び第3の実施形態では、さらに、ストッパ部材52が、基板40の谷側への移動を規制するガイド機構を構成している。第4の実施形態において、固定機構は、土台30とともに基板40を挟持する挟持板46と、挟持板46に挟持力を付与するアンカーボルト36及びナット39と、を備えて構成され、ガイド機構は、挟持板46に形成された長孔47と、長孔47を貫通する支柱本体22と、を備えて構成される。また、第5の実施形態において、固定機構は、土台30に固定された一対の挟持板70A,70Bと、挟持板70A,70Bに対して基板40を所定の固定力で固定するボルト76及びナット78と、を備えて構成され、ガイド機構は、挟持板70A,70Bに形成された長孔72と、長孔72を貫通するボルト76と、を備えて構成される。
【0085】
また、本発明に係る支柱構造1において、補強板32、摩擦制御板50、ストッパ部材52、ブレーキ手段54、ヒンジ28、付勢手段48及び被破壊部材66は、それぞれ必須の構成ではなく、本発明に係る支柱構造1は、これらのうちのいずれか1つ又は複数を組み合わせて用いることが可能である。また、
図1に示す第1の実施形態の支柱本体22に、
図9に示した保持ロープ74及び緩衝部材78を取付け、これらによって、支柱本体22に作用するモーメントを抑制し、衝撃荷重を吸収する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 支柱構造
10 防護柵
12 ネット
20 支柱
22 支柱本体
24 支持部材
26 ヒンジ
28 軸部
30 土台
31 コンクリート基礎
32 補強板
36,38 アンカーボルト
37,39 ナット
40 基板
42 長孔
48 付勢手段
50 摩擦制御板
52 ストッパ部材
54 ブレーキ手段
55 ロープ
56,57 板状部材
66 被破壊部材
70A,70B,76 挟持板