(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】抗酸化活性を有するカタクリの組織培養物の製造方法及び抗酸化剤
(51)【国際特許分類】
A01H 4/00 20060101AFI20250116BHJP
A01H 6/56 20180101ALN20250116BHJP
【FI】
A01H4/00
A01H6/56
(21)【出願番号】P 2021018904
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津川 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直幹
(72)【発明者】
【氏名】岩間 直子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 恵
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143849(JP,A)
【文献】特開2017-055670(JP,A)
【文献】特開2015-126717(JP,A)
【文献】特開2010-142145(JP,A)
【文献】藤木 俊也 他,山梨県総合農業試験場研究報告,1994年,6号,pp. 49-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
A61K 35/00-51/12
A61K 31/00-33/44
A61Q 1/00-90/00
A61K 8/00- 8/99
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の不定芽原基を含む細胞塊を連続的に増殖させる工程、
(2)工程(1)で増殖させた細胞塊を6~18℃、3~6ヶ月、暗所又は12時間照明下で培養して不定芽を形成させる工程、
(3)工程(2)で形成した不定芽を分割し、ホルモンフリーの1/2MS培地に移植し、16~20℃、12~16時間照明下で培養し、グリーン化した葉身を伸長させる工程、
(4)工程(3)の培養開始から1ヶ月以内にグリーン化した葉身を採取する工程、
を含む、抗酸化活性を有するカタクリの組織培養物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)の培養中に、細胞塊を6~16℃で、24時間弱光照明下に置いて3~4週間処理して、アントシアニンを誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記24時間弱光照明の照度が、300~1000Luxである、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性を有するカタクリの組織培養物の製造方法、及び当該組織培養物を含有する抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)は、種子から開花するまで7~8年という長期間を要する。カタクリの種子は休眠性が高く、一度常温(20~25℃)で5ヶ月ほど経過後、10℃以下の低温に遭遇しないと発芽しないという通常の植物にはない特殊性を有する。発芽したものは、その後、細い葉を伸ばし、基部に球根を形成する。球根は毎年少しずつ肥大し、葉が2枚展開できる大きさになると開花して種子を形成するが、球根は肥大するのみで自然界ではほとんど分球することはないと言われている。従って、カタクリを短期間で増殖する方法はなく、球根を採取すると群落が少しずつ減少していくため、現存するカタクリの群落のほとんどは、保護地域となっており、容易に入手できない。
【0003】
カタクリの葉部や全草の抽出物には、これまで皮膚細胞賦活化・抗酸化・美白・抗炎症作用(特許文献1)、腫瘍壊死因子(TNF)α産生抑制作用(特許文献2)、一酸化窒素(NO)産生抑制作用(特許文献3)などの有用な機能が報告されており、自己免疫性疾患、神経変性疾患、皮膚疾患などの治療や予防を目的とした医薬品や化粧品への利用が期待される。しかしながら、カタクリは上記のような通常の植物にはない特殊性を有するため、カタクリの自生植物から抽出材料として用いる茎葉等を採取することはできず、また人工栽培も困難である。そのため、機能性素材としてカタクリを有効利用するために、その組織培養物を短期間に安定的に供給する方法が望まれていた。そこで、本発明者らは、カタクリの種子を利用し、組織培養によって安定的に増殖可能な培養系を確立した(特願2020-007521)。
【0004】
これまで、植物に含まれる機能性成分を大量かつ安定に生産するために、組織培養物が用いられており、月下美人のカルス(特許文献4)や薔薇のカルス(特許文献5)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-143849号公報
【文献】特開2018-135328号公報
【文献】特開2018-135294号公報
【文献】特許第6779627号公報
【文献】特許第5577443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カタクリを機能性素材として安定的に供給して有効利用するために、カタクリの機能性成分を含有する組織培養物を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カタクリの組織培養による増殖細胞塊と、それから分化する様々な生育ステージの材料の抗酸化活性について調査した結果、増殖細胞塊から形成した不定芽から伸長したグリーン化した葉身に、増殖細胞塊よりも優れた抗酸化活性があること、また、不定芽形成の際に24時間弱光照明下で処理することにより、アントシアニンが誘導された葉身を効率よく採取でき、かつ当該アントシアニン誘導葉身には外植物(自生)と同等の抗酸化活性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。これまで、カタクリの培養物に抗酸化活性に関する報告はなく、植物の培養組織を用いた抗酸化活性に関する研究において、カルスで低く、葉身で高いといった報告はない。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]以下の工程:
(1)カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の不定芽原基を含む細胞塊を連続的に増殖させる工程、
(2)工程(1)で増殖させた細胞塊を6~18℃、3~6ヶ月、暗所又は12時間照明下で培養して不定芽を形成させる工程、
(3)工程(2)で形成した不定芽を分割し、ホルモンフリーの1/2MS培地に移植し、16~20℃、12~16時間照明下で培養し、グリーン化した葉身を伸長させる工程、
(4)工程(3)の培養開始から1ヶ月以内にグリーン化した葉身を採取する工程、
を含む、抗酸化活性を有するカタクリの組織培養物の製造方法。
[2]前記工程(2)の培養中に、細胞塊を6~16℃で、24時間弱光照明下に置いて3~4週間処理して、アントシアニンを誘導する、[1]に記載の方法。
[3]前記24時間弱光照明の照度が、300~1000Luxである、[2]に記載の方法。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の方法により得られるカタクリの組織培養物。
[5]前記抗酸化活性が、120~300μmolTE/g(乾物)である、[4]に記載のカタクリの組織培養物。
[6][4]又は[5]に記載のカタクリの組織培養物又はその抽出物を有効成分として含有する抗酸化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗酸化活性を有するカタクリの組織培養物を効率良く製造できる方法が提供される。本発明のカタクリの組織培養物は、高いORAC値を有することから、活性酸素が関与する様々な疾患や病態の改善及び予防に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、カタクリの超未熟種子より組織培養によって増殖させた不定芽原基含有細胞塊の形態を示す。
【
図2】
図2は、カタクリの不定芽原基含有細胞塊(
図1)より形成した不定芽からの葉原基及び葉身の形態を示す。
【
図4】
図4は、カタクリの不定芽原基含有細胞塊(
図1)から形成した不定芽を含む赤色細胞塊(アントシアニン誘導あり)の形態を示す。
【
図5】
図5は、カタクリの不定芽及び葉身に蓄積した赤色色素の吸光度測定結果を示す。
【
図6】
図6は、カタクリの不定芽原基含有細胞塊より形成した不定芽から伸長した葉身の形態を示す。
【
図7】
図7は、カタクリの不定芽原基含有細胞塊より形成した不定芽から伸長した葉身(アントシアニン誘導あり)の形態を示す。
【
図8】
図8は、自生カタクリ葉部、及びカタクリの組織培養物の各ステージの乾燥重量当たりのORAC値の比較を示す。
【
図9】
図9は、カタクリの培養中に形成した球根から発芽した広い葉身の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.カタクリの組織培養物の製造方法
本発明のカタクリの組織培養物の製造方法は、以下の工程:
(1)カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の不定芽原基を含む細胞塊を連続的に増殖させる工程、
(2)工程(1)で増殖させた細胞塊を6~18℃、3~6ヶ月、暗所又は12時間照明下で培養して不定芽を形成させる工程、
(3)工程(2)で形成した不定芽を分割し、ホルモンフリーの1/2MS培地に移植し、16~20℃、12~16時間照明下で培養し、グリーン化した葉身を伸長させる工程、
(4)工程(3)の培養開始から1ヶ月以内にグリーン化した葉身を採取する工程、を含む。
以下、各工程について説明する。
【0012】
工程(1):
工程(1)では、カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の不定芽原基を含む細胞塊を連続的に増殖させる。
【0013】
本工程において、不定芽原基を含む細胞塊の増殖用培地としては、植物組織培養において通常に使用される基本培地、例えばMS培地(ムラシゲ-スクーグ培地)、LS培地(リンスマイア-スクーグ培地)、Gamborgの培地、Whiteの培地、Tuleckeの培地、Nitsch & Nitschの培地に、ショ糖、グルコース、フルクトース、マルトース等の糖類を添加したものを用いることができる。また、基本培地の培地成分の一部の類似成分への置換、ビタミン類(塩酸チアミン、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビオチン、パラアミノ安息香酸、葉酸等)、アミノ酸(グリシン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン等)の添加、ショ糖などの糖類の濃度の変更などによって改変した培地などを用いることができる。
【0014】
上記基本培地に、植物ホルモンとして、オーキシン類、サイトカイニン類、ジベレリン類を添加する。オーキシン類としては、例えばナフタレン酢酸(NAA)、インドール-3-酢酸(IAA)、インドール-3-酪酸(IBA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、4-クロロ-2-メチルフェノキシ酢酸(MCPA)、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)等が挙げられるが、NAAが好ましい。サイトカイニン類としては、例えばベンジルアデニン(BA)、ゼアチン(Zeatin)、カイネチン(Kinetin)、6-(γ,γ-ジメチルアラミノ)プリン(2iP)、N-(2-クロロ-4-ピリド)-N’-フェニルウレア(CPPU)等が挙げられるが、BAが好ましい。ジベレリン類としては、例えばジベレリンA1(GA1)、ジベレリンA3(GA3)、ジベレリンA4(GA4)、ジベレリンA7(GA7)等が挙げられるが、GA3が好ましい。
【0015】
本発明において、不定芽原基を含む細胞塊の増殖用培地に含有させる植物ホルモンは、1種でもよいが、2種以上を組み合わせることが好ましい。1種の場合は、ジベレリン類が好ましく、2種以上を組み合わせる場合は、ジベレリン類とオーキシン類との組み合わせ、又はジベレリン類とオーキシン類とサイトカイニン類との組み合わせが好ましい。
【0016】
培地中の植物ホルモンの含有量の範囲は植物ホルモンの種類によって異なるが、不定芽原基を含む細胞塊の増殖を促進する観点から、合計で1~10mg/Lが好ましく、1~5mg/Lがより好ましく、2~4mg/Lがさらに好ましい。例えば、培地中のオーキシン類の含有量としては、0.1~1.0mg/L、サイトカイニン類の含有量としては、0.5~2.0mg/L、ジベレリン類の含有量としては、0.2~1.0mg/Lが例示される。特に好ましい植物ホルモンの組み合わせは、NAAとBAとGA3の組み合わせであって、NAAの含有量が1.0mg/Lに対し、BAの含有量が0.5~2.0mg/L、GA3の含有量が0.2~1.0mg/Lが好ましい。
【0017】
より具体的には、ME4培地(1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)1.0mg/L、ベンジルアデニン(BA)2.0mg/L、ジベレリンA3(GA3)0.2mg/Lを添加した培地)が好ましい。
【0018】
工程(1)における培養温度は、6~18℃であればよいが、12~16℃が好ましく、14~16℃がより好ましい。また、培養期間は、培養温度によって適宜調整できるが、2~3ヶ月が好ましい。培養は、同条件で数回連続的に行う。
【0019】
不定芽原基を含む細胞塊の増殖用培地の形態は、固形培地が好ましく、培地上に上記滅菌後の超未熟種子を置床して培養する。固形培地には、培地のゲル化剤として寒天、アガロース、ジェランガム等が使用される。また、培地の固形化は、水中に溶解したゲル化剤を基本培地に注加して、オートクレーブ内で加温、加圧下に処理する等の一般的な方法によって行うことができる。ゲル化剤の添加量は培地として十分な固形化状態を得るのに十分な量であればよく、種類によって異なるが、例えば、寒天は0.8~1.2%、アガロースは0.1~1.0%、ジェランガムは0.1~0.4%が好ましい。また、不定芽原基を含む細胞塊の増殖用培地のpHは細胞塊増殖に好適な4.5~7.0の範囲であることが好ましい。
【0020】
培養容器としては通常平型のプラスチックシャーレを用いるが、試験管、三角フラスコ、又は広口瓶等も使用可能である。
【0021】
工程(1)の培養は、暗所で行う。本明細書において「暗所」とは、通常、植物組織培養で用いられる暗所条件と同義であり、完全に暗所である必要はない。例えば、観察等において通常の光条件に一時的に曝すことがあったとしても暗所とする。また、暗所条件の設定の方法としては、特に限定はないが、培養室の照明を点灯しない方法、培養物の入った容器を遮光性の容器に封入する方法又は容器をアルミホイル等により包む方法等が挙げられる。
【0022】
工程(2):
工程(2)では、工程(1)で増殖させた細胞塊を暗所又は12時間照明下で、好ましくは暗所で培養し、不定芽を形成させる。工程(2)の培養は、6~18℃、工程(1)の増殖サイクル期間より長い3~6ヶ月行う以外、その他の条件(基本培地の種類、培地の形態、培養容器)は、工程(1)と同じであり、前記に従えばよい。本工程では、増殖細胞を継続して維持・増殖するサイクルとは異なり、さらに長い期間同一条件で培養することを特徴とする。
【0023】
また、工程(2)の培養中に、細胞塊を6~16℃で、24時間弱光(300~1000Lux)照明下に置いて3~4週間処理することにより、アントシアニンを誘導した不定芽を形成させることができる。
【0024】
工程(3):
工程(3)では、工程(2)で形成した不定芽を分割し、ホルモンフリーの1/2MS培地に移植し、16~20℃、好ましくは18℃で、12~16時間照明下で培養し、グリーン化した葉身を伸長させる。ここで用いる基本培地としては、MS培地に含まれる無機塩を半分に希釈した培地である1/2MS培地が好ましい。分割は、例えば3~4芽程度含むように行う。12~16時間照明の照度は、4500~10000Luxが好ましい。本工程の培養は1ヶ月程度行うのが好ましく、1ヶ月以上行うと老化するので好ましくない。
【0025】
工程(4):
工程(4)では、工程(3)の培養開始から1ヶ月以内にグリーン化した葉身を採取する。本発明において、前記工程を経て採取できる葉身の生体重は、0.03~0.3g程度である。なお、その際の葉身の長さは3cm以上を目安とする。
【0026】
2.抗酸化剤
本発明の抗酸化剤は、1.の製造方法で得られたカタクリの不定芽原基を含む細胞塊から分化させ、グリーン化した葉身(以下、「カタクリ組織培養物」という)又はその抽出物を有効成分として含有する。
【0027】
本発明の有効成分となるカタクリ組織培養物は、抗酸化活性の指標であるORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity;活性酸素吸収能力)値が、120~300μmolTE/g(乾物)である。ここで、ORAC値は、素材の抗酸化力を抗酸化物質Trolox(6-Hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid)の量に換算して求めることができる。ORAC法は、AAPHz(2,2’-azo-bis(2-amidinopropane)dihydrochloride)によって発生したペルオキシラジカルによるフルオレセイン(FL)の分解過程を測定する方法で、このとき試料に抗酸化能があれば、フルオレセインの分解速度は遅くなるので、これを標準物質であるTroloxと比較することで、標準物質に換算した抗酸化力が算出される。
【0028】
カタクリ組織培養物は水洗し、そのまま、又は細切、乾燥、粉砕等を行うことにより、スラリー状、細粒状、顆粒状又は粉末状として使用することができるが、製品に使用する場合の取り扱いの便宜上、上記処理の後、抽出に供し、抽出物として使用することが好ましい。
【0029】
カタクリ組織培養物を得るための抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが好ましく、水、エタノールがより好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良く、例えば30~70v/v%のエタノール水溶液を使用することもできる。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0030】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記カタクリ組織培養物(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。
【0031】
抽出は、上記抽出溶媒にカタクリ組織培養物を浸漬し、そのまま静置し、もしくは撹拌して行うことができる。また、ビーズ式破砕装置等により、組織培養物を抽出溶媒中で破砕し、又は組織培養物を抽出溶媒中でホモジネートして行ってもよい。
【0032】
抽出温度及び時間は、カタクリ組織培養物の前処理の方法、抽出溶媒の種類、抽出方法等に応じて、適宜決定することができる。たとえば、低級アルコールを含む抽出溶媒に浸漬して抽出する場合、抽出は通常2~30℃で1~14日間行い、25~30℃で2~7日間行うことが好ましい。抽出後、定法に従い、たとえばろ過、遠心分離等により、抽出液を回収する。
【0033】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0034】
本発明に係る抗酸化剤は、有効成分であるカタクリ組織培養物の抽出物が、抗酸化成分ポリフェノールの一種であるアントシアニンを含有するので「活性酸素」の生成を抑制する働きを有する。よって、本発明に係る抗酸化剤は、活性酸素が原因となる疾患や病態を治療、改善、及び予防するのに有効である。活性酸素が原因となる疾患や病態としては、例えば、動脈硬化症、癌、皮膚の老化(シミ、シワ等)、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎)、認知症、眼疾患(白内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症等)、脳神経系疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病)、呼吸器系疾患(気管支炎等)、循環器系疾患(虚血性不整脈、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧等)、消化器系疾患(胃潰瘍、大腸炎、脂肪肝等)、糖尿病などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の抗酸化剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品等の各種組成物に配合して提供することができる。
【0036】
本発明の抗酸化剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、本発明の抗酸化剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、ホホバ油、ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0037】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の抗酸化剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。当該医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0039】
医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0040】
本発明の抗酸化剤を、前記皮膚関連の疾患や損傷を治療、改善、及び予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0041】
医薬品は、上記の活性酸素が原因となる疾患や病態の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であり、一般的に使用されていることから、安全性が高いため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0042】
上記化粧品、医薬品、医薬部外品における抗酸化剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、カタクリ組織培養物の抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0043】
また、本発明の抗酸化剤は、飲食品にも配合できる。また、本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、活性酸素に起因する疾患の予防又は改善用の健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0044】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0045】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び当該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0046】
飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0047】
飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてカタクリ組織培養物の抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、カタクリ組織培養物の抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。
【0048】
飲食品におけるカタクリ組織培養物の抽出物の配合量は、抗酸化効果を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
(参考例)カタクリの不定芽原基組織を含む細胞塊の育成
カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の超未熟種子(閉花後約1週間の1.5~2cmの子房から無菌的に取り出した、大きさが縦長約3mm、横幅約1mmの胚珠)を、不定胚誘導用培地(1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)0.1mg/L、ジベレリンA3(GA
3)1mg/Lを添加した培地)にて、20℃、5ヶ月、暗所で培養し、不定胚組織を誘導した。誘導した不定胚組織をME4培地(1/2MS培地を基本とし、ショ糖30g/L、支持体としてジェランガム2g/Lを加え、ナフタレン酢酸(NAA)1mg/L、ベンジルアデニン(BA)2mg/L、ジベレリンA3(GA
3)0.2mg/Lを添加した培地)にて、16℃、4~5ヶ月、暗所で培養し、分割が可能な大きさの不定芽原基を含む組織(「不定芽原基組織」という)を得た。形成された不定芽原基組織を分割し、得られた分割塊をシャーレ内のME4培地(同上)に置床し、16℃、3ヶ月、暗所で培養し、分割塊(不定芽原基組織)を増殖させた(
図1)。
【0051】
(実施例1)カタクリの抗酸化能(ORAC値)の評価
(1)試験1
カタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の組織培養物の抗酸化能を評価した。参考例で得られたカタクリの超未熟種子より組織培養によって増殖させた不定芽原基含有細胞塊(
図1)、不定芽から伸長した葉原基(
図2)、自生カタクリの葉部(
図3)をそれぞれ水洗し、70時間凍結乾燥した後、粒径500μm以下に粉砕して、凍結乾燥粉末とした。
【0052】
上記各凍結乾燥粉末1gに、ヘキサンとジクロロメタンの混合液(1:1(v/v))を10mL添加し、室温で30秒攪拌後、3000rpmで10分間遠心分離し、上清を取り除いた。沈殿物に再びヘキサンとジクロロメタンの混合液(1:1(v/v))を10mL添加し、上記の操作を繰り返した。次いで、沈殿物にMWA溶液(メタノール90:水9.5:酢酸0.5(v/v))を10mL添加し、37℃で5分間超音波処理を行った。さらに、室温で10分間静置後、3000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。沈殿物に再びMWA溶液(メタノール90:水9.5:酢酸0.5(v/v))を10mL添加し、上記の操作を繰り返した。回収した上清を混合して25mLに定容し、抗酸化能測定試料とした。抗酸化能の測定は、ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)法により行った。ORAC値は、抗酸化標準物質であるトロロックスの相当量(TE:Trolox Equivalent)で表した。また、各試料の抗酸化物質含有量を、自生カタクリの葉部の抗酸化物質含有量を100%とした相対含有量で比較した。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示されるように、不定芽原基含有細胞塊の抗酸化活性は低かったが、不定芽から伸長した葉原基には抗酸化活性が認められ、芽を伸長させる方向で培養して増やせば、機能性素材として利用できる可能性が示唆された。
【0055】
(2)試験2
不定芽原基含有細胞塊をME4改変培地(1/2MS、BA 2mg/L、IAA 1mg/L、GA
3 0.2mg/L、ショ糖 60g/L、ジェランガム 2g/L)に移植し、16℃、24時間照明下(照度10000Lux)で1ヶ月間培養し、赤色の多い細胞塊を得た(
図4)。
【0056】
不定芽原基含有細胞塊をME4培地(1/2MS、BA 2mg/L、NAA 1mg/L、GA
3 0.2mg/L、ショ糖 30g/L、ジェランガム 2g/L)のままで、14℃、3ヶ月、暗所で培養して不定芽を形成させた後、不定芽を数芽持つように分割して、ホルモンフリーの1/2MS培地(1/2MS0培地:1/2MS、ショ糖 20g/L、ジェランガム 2g/L)に移植し、18℃、1ヶ月、16時間照明下で培養し葉身(GL)を伸長させた(
図6)。
【0057】
前記の方法で培養している過程において、赤色を呈した葉身(アントシアニン蓄積)(AL)が数%出現した(
図7)。なお、この赤色の色素は吸光度測定によりアントシアニンであると同定された(
図5)。
【0058】
得られた試料について試験1と同様にして凍結乾燥粉末化し、抗酸化能の測定を行った。各試料の抗酸化物質含有量を、アントシアニンを誘導した葉身(AL)の抗酸化物質含有量を100%とした相対含有量で比較した。結果を表2に示す。また、試験1、2で得られた各材料のORAC値の比較を
図8に示す。
【0059】
【0060】
表2及び
図8に示されるように、不定芽から伸長した葉身(GL)、特にアントシアニンを誘導した葉身(AL)が、機能性素材として有効であることが確認できた。
【0061】
(実施例2)抗酸化能分析に供試した葉身の1枚あたりの生体重
実施例1で抗酸化能分析に供試した葉身を大きく3種類に分類し、葉身形態の違いによる生体重について調査した。分類したのは、球根から発芽した広い葉身(
図9)、不定芽から伸長した葉身(
図6)、及び種子から発芽した状態に似ている細い針状の単葉である。これらを何枚かまとめて生体重を測定し、1枚当たりの平均生体重を求めた。各種葉身の生体重の測定結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に示すように、細い単葉は0.04gであったのに対し、球根から発芽した広葉や不定芽から伸長した葉身の生体重は、それぞれ0.10g、0.09gと、2倍以上の重量であった。
【0064】
以上より、細い単葉ではなく、一度球根形成したものや、不定芽が大きく成長したものから葉身を伸長させる必要があることが分かった。
【0065】
(実施例3)不定芽原基含有細胞塊により形成された不定芽数
ME4培地(1/2MS、BA 2mg/L、NAA 1mg/L、GA3 0.2mg/L、ショ糖 30g/L、ジェランガム 2g/L)にて、14℃、3ヶ月、暗所で培養した材料のうち、不定芽が多く発生した5シャーレ(1シャーレ当たり4個置床)を選んで、不定芽数を測定した。なお、増殖細胞塊には個体差があり、不定芽原基が発達しにくい細胞塊もあるため、不定芽に移行しやすい細胞塊を材料とした。増殖中の細胞塊における不定芽数の結果を表4に示す。
【0066】
【0067】
表4に示すように、1細胞塊当たりの平均不定芽数は、3.20~4.75個で、それらの平均値は3.94±0.66個であった。
【0068】
(実施例4)カタクリの組織培養による抗酸化素材を得るための条件検討
(1)不定芽原基組織を含む細胞塊からの不定芽形成
不定芽形成培地としてME4培地(1/2MS、BA 2mg/L、NAA 1mg/L、GA3 0.2mg/L、ショ糖 30g/L、ジェランガム 2g/L)、BA1培地(1/2MS、BA 1mg/L、ショ糖 20g/L、ジェランガム 2g/L)を用い、参考例で得られた不定芽原基組織を含む細胞塊を下記の表5-1に示す各種条件にてそれぞれ培養し、不定芽を形成させた。
【0069】
【0070】
(2)不定芽から葉身伸長
(1)で得られた不定芽A、Bを下記表5-2に示す条件にてそれぞれ培養し(培養期間1ヶ月)、不定芽から葉身を伸長させ、グリーン化の有無を調べた。
【0071】
【0072】
表5-2に示すように、移植しない状態では不定芽A及び不定芽Bのいずれにおいてもグリーン化は進まず、黄色のままで伸長もほとんどしなかった。一方、不定芽を数芽含んで分割後、ホルモンフリーの1/2MS培地(1/2MS0培地:1/2MS、ショ糖 20g/L、ジェランガム 2g/L)に移植し、18℃、16時間照明下で培養すると1日目から動きが見られ、1週間経過すると不定芽の半数以上がグリーン化し、約1ヶ月培養すると、葉身はそのものが本来持っている大きさまで生育することができた。一方、高ショ糖1/2MS0培地(1/2MS0培地のショ糖濃度を60g/Lに変更)に移植して培養した場合は、ほとんどグリーン化せず、伸長することはなかった。なお、供試材料は、培養期間が3ヶ月よりも長くなるほど、不定芽原基が不定芽に移行するものが多くなっていた。
【0073】
以上の結果から、抗酸化素材となるカタクリの組織培養物は、不定芽原基を含む細胞塊を6~18℃、3~6ヶ月、暗所又は12時間照明下で培養して不定芽を形成させた後、不定芽を数芽含むように分割し、ホルモンフリーの1/2MS培地に移植し、18℃、16時間照明下で約1ヶ月培養して生育させた葉身を採取することより調製できた。また細胞塊から不定芽形成の培養を14~16℃で、4ヶ月程度、暗所で培養することによってさらに効率的に調製できた。
【0074】
(実施例5)不定芽におけるアントシアニン蓄積
抗酸化能の高いアントシアニンを含む葉身の発生率は、通常の18℃、12~16時間照明下では数%に過ぎなかった。そこで、アントシアニンを安定的に誘導できる条件について、下記の表6の条件で不定芽の培養を行い、アントシアニン蓄積の有無のほか、同時に不定芽のグリーン化についても調査を行った。なお、24時間照明の照度は、300~1000Luxの弱光で、12時間又は16時間照明の照度は、4500~10000Luxとした。
【0075】
【0076】
表6に示すように、アントシアニン蓄積は18℃、12時間又は16時間照明下で一部出現するが、安定していなかった。一方、6℃又は16℃、弱光24時間照明下で、約3週間培養すると安定したアントアシニンの蓄積が認められ、同時に不定芽がグリーン化した。なお、アントシアニンの蓄積が認められた個体は100%ではなく、50~80%の幅(平均75.5%)があったが、弱光24時間照明の処理を行わないと、アントシアニンを含む葉身の発生率は5~7%と低かった。
【0077】
(実施例6)アントシアニンが誘導された葉身(AL)の発生率
弱光24時間照明下での培養において、温度条件(6℃、16℃、18℃)を変更してアントシアニンを含む葉身(AL)の発生率について、1週間、2週間、3週間目に調査を行った。なお、材料は6℃、ME4培地(同上)で5ヶ月暗培養しているものを用いた。結果を表7に示す。
【0078】
【0079】
表7に示すように、アントシアニンが誘導された葉身の発生率は、温度によって異なり、16℃が最も高く、3週目には約74%であった。次いで6℃3週間目で48%、18℃は3週間目でも3.7%と極わずかであった。以上から、葉身にアントシアニンを誘導する条件は16℃、弱光24時間照明が最も良好であることが確認できた。
【0080】
(実施例7)最適条件で養成した葉身(GL)とアントシアニン誘導葉身(AL)の生体重
これまで明らかとした最適条件下で養成した葉身(GL)とアントシアニン誘導葉身(AL)に関して、その生体重について、10個体ずつの生体重を測定した。その結果を表8に示す。
【0081】
【0082】
表8に示すように、葉身(GL)の生体重は平均0.16gであった。一方アントシアニン誘導葉身(AL)は0.09gであり、葉身(GL)の方が重かった。しかし、概ね、目標とする重量(0.1g程度)に近い値であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、抗酸化効果のある化粧品、医薬品、飲食品等の製造分野において利用できる。