(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患の診断方法、診断プローブ及び診断キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
(21)【出願番号】P 2021542920
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020031986
(87)【国際公開番号】W WO2021039771
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019156558
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 掲載年月日 令和1年5月27日 掲載アドレス https://ard.bmj.com/content/78/Suppl_2/437.2#block-system-main https://ard.bmj.com/content/annrheumdis/78/Suppl_2/437.2.full.pdf (その2) 開催日 令和1年6月12日~令和1年6月15日 公開日 令和1年6月13日 集会名、開催場所 EULAR 2019欧州リウマチ学会議 スペイン国 マドリード 28042 アベニダ デル パルテノン フェリア デ マドリード IFEMA (その3) 掲載年月日 令和1年6月12日 掲載アドレス http://congress.eular.org/myUploadData/files/eular_2019_abstracts_lores.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 剛志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博司
(72)【発明者】
【氏名】石井 智徳
(72)【発明者】
【氏名】張替 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】正宗 淳
(72)【発明者】
【氏名】武藤 智之
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168403(JP,A)
【文献】国際公開第2017/223117(WO,A1)
【文献】MUTOH Tomoyuki et al.,Identification of two major autoantigens negatively regulating endothelial activation in Takayasu arteritis,Nature Communications,2020年03月09日,Vol.11 No.1,Page.Article No.: 1253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患を判定するためのデータを提供する方法であって、
被験者から採取された試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)を測定する工程、及び
前記測定値を基準値と比較する工程
を含
む方法。
【請求項2】
被験者から採取された試料を内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、及び
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記判定は、炎症性腸疾患の有無の判定、炎症性腸疾患の発症の危険性の判定、炎症性腸疾患の重症度の判定、炎症性腸疾患の予防効果の判定、炎症性腸疾患に罹患した患者における治療効果の判定、炎症性腸疾患の再発の有無の判定、炎症性腸疾患の再発の危険性の判定、炎症性腸疾患の再燃の有無の判定、又は炎症性腸疾患の再燃の有無の危険性の判定である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料は血液、血清又は血漿である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記基準値は、炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記判定は炎症性腸疾患の有無の判定であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者は炎症性腸疾患に罹患していることを示す、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記判定は炎症性腸疾患の発症の危険性の判定であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者は炎症性腸疾患の発症の危険性が高いことを示す、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記判定は炎症性腸疾患の再発の危険性の判定であり、
前記被検者は炎症性腸疾患から完治した被験者であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者における炎症性腸疾患の再発の危険性が高いことを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
炎症性腸疾患に罹患した患者における治療効果を判定するためのデータを提供する方法であって、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の、抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の前記被験者から採取された試料中の、抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、
前記2つの試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の測定値を比較する工程、及び
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量よりも低いことは、被験者における炎症性腸疾患の治療効果が有ることを示す、方法。
【請求項11】
内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)からなる炎症性腸疾患の診断プローブ。
【請求項12】
内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)を備えた炎症性腸疾患の診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炎症性腸疾患の診断方法、診断プローブ及び診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎とクローン病に代表される炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)は炎症が大腸に起こる病気である。IBDは欧米に多い疾患であったが、近年わが国でも増加傾向にある。日本人の患者数は潰瘍性大腸炎で17万人、新たに発症した患者数は年間1万人を超え、日本人の潰瘍性大腸炎罹患率は欧米並みに増えている。クローン病の患者数は4万人を超え、潰瘍性大腸炎ほど患者数は多くないが、以前に比べて増加している。潰瘍性大腸炎とクローン病はいずれも、比較的若年層に発症する腸管の慢性炎症であり、再燃と寛解を繰り返す難治性疾患である。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、主として粘膜を侵し、びらんや潰瘍が発生する大腸のびまん性非特異的炎症であり、免疫学的機序が病態を形成することが知られている。潰瘍性大腸炎の臨床における血清マーカーは非特異的な炎症所見である。また、潰瘍性大腸炎において、抗好中球細胞質抗体や抗平滑筋細胞抗体などの自己抗体が存在することが報告されており(非特許文献1)、かかる抗体に対応する抗原の同定が精力的に行われてきたが、各々の陽性率は50%以下と低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Zhou G et al., Digestive Diseases 2016;34(1-2): 90-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炎症性腸疾患を特異的に検出又は診断できるマーカー及びこれを用いた炎症性腸疾患の検出方法が求められている。
【0006】
本開示の目的は、炎症性腸疾患を特異的に判定できる判定方法、診断プローブ及び診断キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の項に記載の主題を包含する。
【0008】
[1]炎症性腸疾患を判定するためのデータを提供する方法であって、
被験者から採取された試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)を測定する工程、及び
前記測定値を基準値と比較する工程
を含む、炎症性腸疾患の判定方法。
【0009】
[2]被験者から採取された試料を内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、及び
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程
を含む[1]に記載の方法。
【0010】
[3]前記判定は、炎症性腸疾患の有無の判定、炎症性腸疾患の発症の危険性の判定、炎症性腸疾患の重症度の判定、炎症性腸疾患の予防効果の判定、炎症性腸疾患に罹患した患者における治療効果の判定、炎症性腸疾患の再発の有無の判定、炎症性腸疾患の再発の危険性の判定、炎症性腸疾患の再燃の有無の判定、又は炎症性腸疾患の再燃の有無の危険性の判定である[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記試料は血液、血清又は血漿である[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記基準値は、炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値である[1]又は[2]に記載の方法。
【0011】
[7]前記判定は炎症性腸疾患の有無の判定であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者は炎症性腸疾患に罹患していることを示す、
[1]又は[2]に記載の方法。
[8]前記判定は炎症性腸疾患の発症の危険性の判定であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者は炎症性腸疾患の発症の危険性が高いことを示す、
[1]又は[2]に記載の方法。
【0012】
[9]前記判定は炎症性腸疾患の再発の危険性の判定であり、
前記被検者は炎症性腸疾患から完治した被験者であり、
前記測定値が基準値よりも高いことは、前記被験者における炎症性腸疾患の再発の危険性が高いことを示す、[1]又は[2]に記載の方法。
[10]炎症性腸疾患に罹患した患者における治療効果を判定するためのデータを提供する方法であって、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の、抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の前記被験者から採取された試料中の、抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、
前記2つの試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の測定値を比較する工程、及び
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量よりも低いことは、被験者における炎症性腸疾患の治療効果が有ることを示す、方法。
【0013】
[11]内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)からなる炎症性腸疾患の診断プローブ。
【0014】
[12]内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)を備えた炎症性腸疾患の診断キット。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、炎症性腸疾患を特異的に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】抗EPCR抗体の頻度、力価を示す。Control:対照、UC:潰瘍性大腸炎。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.被験者
被験者には、炎症性腸疾患に罹患している患者のみならず、炎症性腸疾患に罹患していると疑われる患者も含まれる。「炎症性腸疾患に罹患していると疑われる被験者」は、被験者本人が主観的に疑いを抱く者(何らかの自覚症状がある者に限らず、単に予防検診の受診を希望する者を含む)であっても、何らかの客観的な根拠に基づく者(例えば、従来公知の臨床検査(例、心拍、血圧、血液又は尿検査)及び/又は診察の結果、炎症性腸疾患の合理的な罹患可能性があると医師が判断した者)であってもよい。
【0018】
炎症性腸疾患は炎症が大腸に起こる病気であれば特に限定されず、好ましくは潰瘍性大腸炎又はクローン病であり、より好ましくは潰瘍性大腸炎である。
【0019】
2.試料
被験体から採取される試料は特に限定されず、例えば血液(全血)、血清、血漿、リンパ液等である体液が挙げられる。検出の精度の点から、血液、血清又は血漿であることが好ましい。
【0020】
3.抗原EPCR
炎症性腸疾患における自己抗体に対する疾患特異的な対応抗原は本願出願前には同定されておらず、当該疾患の診断には、炎症反応などのスクリーニング検査に頼っているのが現状である。自己抗体及びその対応抗原の同定は、(1)臨床における診断プローブとしての使用、(2)疾患の診断及び分類(3)病態解明、並びに(4)介入対象の選択に有意義である。
【0021】
ところで、従来のタンパク質の同定に用いられるウェスタンブロッティング、二次元電気泳動、質量分析、発現ライブラリ等の手法では、膜蛋白自己抗原の同定が困難であったところ、発明者らは、以前に、膜蛋白自己抗原の同定を可能にする膜タンパク自己抗原同定系(Serological identification system for Autoantigens using a Retroviral vector and Flow cytometry, SARF)を構築した(Shirai T et al., Clin Dev Immunol. 2013;2013:453058. doi: 10.1155/2013/453058)。
【0022】
本研究において、発明者らは、SARFを用いて血管内皮細胞の自己抗体に対する対応抗原の同定を試み、内皮細胞プロテインC受容体(Endothelial cell Protein C Receptor, EPCR)及びスカベンジャー受容体クラスBメンバー1(Scavenger Receptor Class B member I, SCARBI)の2つを、血管炎症候群の新たな2つの膜蛋白自己抗原として同定した。そこで、EPCRとSCARBIを検出又は診断プローブとして用いて、潰瘍性大腸炎と健常者の血清中の抗EPCR抗体及び抗SCARBI抗体の量を測定したところ、驚くべきことに、潰瘍性大腸炎では抗EPCR抗体活性が健常者のそれに比べて有意に増大していることを見出した。
【0023】
内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)は血液凝固因子の一つであるプロテインCの特異的受容体であり、膜貫通型のタンパク質である。ヒト由来のEPCRは配列番号1(NP#006395.2)で表わされるアミノ酸配列を有し、本開示のEPCRは配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質であることができる。配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を指す。好ましくは、本開示のEPCRは配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0024】
また、本開示のEPCRは、例えば配列番号1で表わされるアミノ酸配列中の1個又は2個以上(好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個、2個又は3個)のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質であることもできる。アミノ酸配列が欠失、付加、又は置換されている場合、その欠失、付加、又は置換の位置は、タンパク質の活性が保持される限り特に限定されないが、エピトープに該当するアミノ酸配列以外の箇所であることが好ましい。
【0025】
なお、配列の「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列をアラインさせた場合の最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得る)における、オーバーラップする全塩基に対する同一塩基の割合(%)を意味する。
【0026】
塩基配列の同一性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlin S et al,,Proc. Natle. Adcad. Sci. USA, 90:5873-5877(1993)に記載のアルゴリズム、Needleman SB et al, J. Mol. Biol., 48-444-453(1970)に記載のアルゴリズム、Myers EW et al., CABIOS, 4:11-17(1988)に記載のアルゴリズム、Pearson WR et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448(1988)に記載のアルゴリズムが挙げられるが、それらに限定されない。
【0027】
EPCRは、例えば、被験者の細胞又は組織から公知の方法あるいはそれに準ずる方法を用いて調製することもできるし、ペプチド合成装置等を使用する公知のペプチド合成方法で化学的に合成することもできるし、EPCRをコードするDNAを含有する形質転換体を培養してタンパク質を発現させることにより製造することもできるし、あるいはEPCRをコードする核酸を鋳型として無細胞転写/翻訳系を用いて生化学的に合成することによって製造することもできる。EPCRは糖鎖修飾等の種々の修飾を受けたものであってもよい。
【0028】
4.抗EPCR抗体
抗EPCR抗体は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列の全部又は一部(好ましくは配列番号1で表わされるアミノ酸配列のうち、連続する4個以上、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは6個以上であって、かつ好ましくは連続する20個以下、より好ましくは18個以下、さらに好ましくは15個以下のアミノ酸)を抗原として用いて同定することができる。
【0029】
抗EPCR抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよく、完全な抗体分子だけでなく、そのフラグメント、例えばFab、F(ab')2、ScFv、及びminibody等も包含し得る。
【0030】
5.抗EPCR抗体の量の測定方法
本開示において、上記のEPCRタンパク質を抗原として用いた免疫学的測定法としては、該抗原を用いたウエスタンブロット;酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ等のイムノアッセイ;免疫沈降法、免疫比濁法、フローサイトメトリー法、蛍光染色法等が挙げられる。抗原の分子量と一致するバンド若しくはスポット、又はピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。
【0031】
ウェスタンブロット法の場合、抗原の持つ分子量、等電点に基づいてタンパク質を分離することができるため、バンドサイズの位置から容易に抗体の有無を判定することができる。イムノアッセイ法の場合、固体支持体上(例えばスライドガラス)に抗原を有する培養細胞を適切な溶媒で固定し、被験者由来の試料を接触させて、標識した抗ヒト免疫グロブリン抗体の量を測定することにより、本開示の抗体を定量することができる。フローサイトメトリー法では、抗原を過剰発現させた細胞に被験者由来の試料を接触させ、続いて蛍光標識した抗ヒトIgG細胞を反応させることにより、本開示の抗体を定量する。フローサイトメトリー法では細胞を固定せずに用いるため、自己抗原の細胞外ドメインとその高次構造に対する抗体活性を定量することができる。
【0032】
ただし、抗EPCR抗体の量の測定方法は、上記の手法に制限されるべきではなく、試料中の抗原、抗原量に対応した抗体、もしくは抗体-抗原複合体の量を化学的又は物理的手段により検出し、これにより抗EPCR抗体の量を算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。測定に際し、抗原又は抗体は、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、又は発光物質等の標識剤と結合され得る。放射性同位元素としては、例えば、[125I]、[131I]、[3H]、[14C]等が挙げられる。上記酵素としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等が挙げられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート等が挙げられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等が挙げられる。さらに、抗体と標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
【0033】
抗体量の測定には、反応を増強するために、転写膜や固相上の抗原に特異的に結合した抗体に対する二次抗体を用いることができ、該二次抗体は標識されていることが好ましい。二次抗体としては、ヒト免疫グロブリンを認識するものであれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、及びこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。このような二次抗体は当該技術分野で周知である。
【0034】
6.炎症性腸疾患の判定方法
本開示は、被験者から採取された試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)を測定することを含む、炎症性腸疾患の判定方法を包含する。
【0035】
炎症性腸疾患患者は抗EPCR抗体が陽性である割合が高いため、被験者から採取した試料中の抗EPCR抗体の量を測定することにより、炎症性腸疾患を特異的に判定又はインビトロで診断することができる。
【0036】
判定には、炎症性腸疾患の有無の判定、炎症性腸疾患の発症の危険性の判定、炎症性腸疾患の重症度の判定、炎症性腸疾患の予防効果の判定、炎症性腸疾患に罹患した患者における治療効果の判定、炎症性腸疾患の再発の有無の判定、炎症性腸疾患の再発の危険性の判定、炎症性腸疾患の再燃の有無の判定、及び炎症性腸疾患の再燃の危険性の判定が含まれる。
【0037】
抗EPCR抗体の測定値を比較する場合、比較は統計学的有意差の有無に基づいて行われる。
【0038】
一つの実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
被験者から採取された試料を内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記測定値が基準値よりも高い場合に、前記被験者は炎症性腸疾患に罹患していると判定する工程
を含む。
【0039】
上記基準値としては、既知の抗EPCR抗体の量、例えば炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値であることが好ましい。
【0040】
被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、基準値よりも高い場合に、被験者は炎症性腸疾患に罹患していると判定することができる。被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者は炎症性腸疾患に罹患していないと判定することができる。このような判定により、炎症性腸疾患の有無を判定することができる。
【0041】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
被験者から採取された試料を内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記測定値が基準値よりも高い場合に、前記被験者は炎症性腸疾患の発症の危険性が高いと判定する工程
を含む。
【0042】
上記基準値としては、複数の健常者群の抗EPCR抗体の量から計算された平均値であるか、又は、複数の健常者群の抗EPCR抗体の量から計算された平均値よりも高く、かつ炎症性腸疾患に罹患している複数の患者群の抗EPCR抗体の量から計算された平均値よりも低い一定の値が挙げられる。
【0043】
被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、基準値よりも高い場合に、被験者は炎症性腸疾患の発症の危険性が高いと判定することができる。被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者は炎症性腸疾患に罹患している危険性が低いと判定することができる。このような判定により、炎症性腸疾患の発症の危険性を判定することができる。
【0044】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
被験者から採取された試料を内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
測定値と基準値を比較して、被験者の炎症性腸疾患の重症度を判定する工程
を含む。
【0045】
上記基準値としては、ある重症度の炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値が挙げられる。
【0046】
被験者の測定値が、上記平均値よりも高い場合に、被験者の炎症性腸疾患が当該重症度に該当する可能性が高いと判定することができる。被験者の測定値が、上記平均値と同じかそれよりも低い場合に、被験者の炎症性腸疾患が当該重症度に該当する可能性が低いと判定することができる。このような判定により、炎症性腸疾患の重症度を判定することができる。
【0047】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患を予防するための措置を受ける前の被験者から採取された試料と、炎症性腸疾患を予防するための措置を受けた後の前記被験者から採取された試料とを、それぞれ内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記2つの試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記2つの試料の測定値を比較して、被験者における炎症性腸疾患の予防効果を判定する工程
を含む。
【0048】
炎症性腸疾患を予防するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を予防するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量よりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の予防効果が有ると判定することができる。炎症性腸疾患を予防するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を予防するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量と同じかそれよりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の予防効果が無いと判定することができる。炎症性腸疾患を予防するための措置としては、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の予防効果を判定することができる。
【0049】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料と、炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の前記被験者から採取された試料とを、それぞれ内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記2つの試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記2つの試料の測定値を比較して、被験者における炎症性腸疾患の治療効果を判定する工程
を含む。
【0050】
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量よりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の治療効果が有ると判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置を受けた後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が、炎症性腸疾患を治療するための措置を受ける前の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量と同じかそれよりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の治療効果が無いと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置としては、血管バイパス手術等の外科手術、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の治療効果を判定することができる。
【0051】
別の実施形態において、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料を、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記測定値が基準値よりも高い場合に、前記被験者は炎症性腸疾患を再発していると判定する工程
を含む。
【0052】
上記基準値としては、既知の抗EPCR抗体の量、例えば炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値であることが好ましい。
【0053】
炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値よりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再発していると判定することができる。炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再発していないと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置としては、血管バイパス手術等の外科手術、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の再発の有無を判定することができる。
【0054】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料を、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記試料の測定値を基準値と比較して、被験者における炎症性腸疾患の再発の危険性を判定する工程
を含む。
【0055】
上記基準値としては、既知の抗EPCR抗体の量、例えば炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値、上記の炎症性腸疾患から完治した該被験者における、完治時の抗EPCR抗体の量から計算された値又はそれよりも大きい値、又は上記の炎症性腸疾患から完治した複数の患者における、完治時の抗EPCR抗体の量から計算された平均値又はそれよりも大きい値が挙げられる。
【0056】
炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値よりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再発の危険性が高いと判定することができる。炎症性腸疾患から完治した被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再発の危険性が低いと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置としては、血管バイパス手術等の外科手術、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の再発の危険性を判定することができる。
【0057】
別の実施形態では、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の被験者から採取された試料を、それぞれ内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記試料の測定値を基準値と比較して、被験者における炎症性腸疾患の再燃の有無を判定する工程
を含む。
【0058】
上記基準値としては、複数の健常者群の抗EPCR抗体の量から計算された平均値よりも高い一定の値、又は炎症性腸疾患に罹患している複数の患者における抗EPCR抗体の量から計算された平均値が挙げられる。
【0059】
炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量よりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再燃していると判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再燃していないと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置としては、血管バイパス手術等の外科手術、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の再燃の有無を判定することができる。
【0060】
別の実施形態において、本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
炎症性腸疾患を治療するための措置を受けている最中の被験者から採取された試料と、炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の前記被験者から採取された試料とを、それぞれ内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と接触させる工程、
前記2つの試料中の抗内皮細胞プロテインC受容体抗体(抗EPCR抗体)の量を測定する工程、及び
前記2つの試料の測定値を比較して、被験者における炎症性腸疾患の再燃の危険性を判定する工程
を含む。
【0061】
炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値よりも高い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再燃の危険性が高いと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置を中止した後の被験者から採取された試料中の抗EPCR抗体の量が基準値と同じかそれよりも低い場合に、被験者における炎症性腸疾患の再燃の危険性が低いと判定することができる。炎症性腸疾患を治療するための措置としては、血管バイパス手術等の外科手術、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤等の抗炎症薬、免疫抑制薬、抗TNFα抗体等の薬剤投与、運動療法、食事療法等が挙げられる。このような判定により、炎症性腸疾患の再燃の危険性を判定することができる。
【0062】
7.診断プローブ
本開示はまた、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)からなる炎症性腸疾患の診断プローブを包含する。
【0063】
炎症性腸疾患は炎症が大腸に起こる病気であれば特に限定されず、好ましくは潰瘍性大腸炎又はクローン病であり、より好ましくは潰瘍性大腸炎である。
【0064】
EPCRは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質であることができる。配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を指す。好ましくは、本開示のEPCRは配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0065】
EPCRは、例えば配列番号1で表わされるアミノ酸配列中の1個又は2個以上(好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個、2個又は3個)のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質であることもできる。アミノ酸配列が欠失、付加、又は置換されている場合、その欠失、付加、又は置換の位置は、タンパク質の活性が保持される限り特に限定されないが、エピトープに該当するアミノ酸配列以外の箇所であることが好ましい。
【0066】
8.診断キット
本開示はまた、内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)を備えた炎症性腸疾患の診断キットを包含する。
【0067】
炎症性腸疾患は炎症が大腸に起こる病気であれば特に限定されず、好ましくは潰瘍性大腸炎又はクローン病であり、より好ましくは潰瘍性大腸炎である。
【0068】
EPCRは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質であることができる。配列番号1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を指す。好ましくは、本開示のEPCRは配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0069】
EPCRは、例えば配列番号1で表わされるアミノ酸配列中の1個又は2個以上(好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個、2個又は3個)のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質であることもできる。アミノ酸配列が欠失、付加、又は置換されている場合、その欠失、付加、又は置換の位置は、タンパク質の活性が保持される限り特に限定されないが、エピトープに該当するアミノ酸配列以外の箇所であることが好ましい。
【0070】
診断キットには、EPCRに加えて、抗体量を検出するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質、例えば発色試薬、標識された二次抗体、ブロッキング剤の種々の試薬を含むことができる。診断キットは更に、緩衝液、洗浄液、使用説明書等を含むこともできる。
【0071】
抗原タンパク質であるEPCRは、適当な固体支持体に固定化された状態で提供されることが好ましい。固体支持体としては、例えば、通常の抗原抗体反応に用いられる不溶性多糖類(例えばアガロース、デキストラン、セルロースなど)、合成樹脂、ガラス、金属などからなる各種担体、例えばマイクロプレート、チューブ、メンブレン、カラム、ビーズ、センサーチップ等が挙げられる。固定化は、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。
【0072】
本開示の診断キットを、炎症性腸疾患の診断又はモニタリング等の臨床検査に応用したり、EPCRによるシグナル伝達を標的とした創薬研究等に使用したりすることができる。
【0073】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0074】
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されbるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0075】
以下に実施例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0076】
1.被験者
東北大学病院において、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」に記載されている潰瘍性大腸炎の診断基準(2017 年1 月21 日 改訂)より潰瘍性大腸炎と診断された患者36例と、対照として健常者79例から、血液試料を収集した。被験者の静脈から採血し、常法により遠心分離して血清を得、これを使用するまで冷凍庫で保存した。
【0077】
2.フローサイトメトリー及び抗体結合実験
EPCRのDNA配列(配列番号2)をPCRにて増幅し、pMX-GFPベクターに挿入した。Plat E細胞にこれらEPCR-GFPの挿入されているレトロウイルスベクターをFugeneを用いてトランスフェクションし、EPCR-GFPの配列が挿入されたレトロウイルスを作成した。次にかかるレトロウイルスを、ラット骨髄腫細胞に感染させEPCRタンパク質を強制発現する細胞を樹立した。各EPCRタンパク質の強制発現細胞はGFPを発現しており、GFP陰性細胞と混合後、1次抗体として血清由来IgG、2次抗体としてPE(フィコエリスリン)-抗ヒトIgG抗体を反応させた。続いてFACSにてGFP陽性群と陰性群でのPEの蛍光強度を比較することにより、抗EPCR抗体活性を測定した。
【0078】
潰瘍性大腸炎患者と健常者における抗EPCR抗体の力価を測定した(
図1)。縦軸は血清IgGの、EPCR非発現細胞への結合に対するEPCR発現細胞への結合の平均蛍光強度(MFI)比である。潰瘍性大腸炎患者では、36人中25人、つまり約70%の患者で抗EPCR抗体が検出されたが、健常者では抗EPCR抗体が検出されなかった。潰瘍性大腸炎患者における抗EPCR抗体の量が、健常者における抗EPCR抗体の量よりも有意に高かった(Man Whitenny検定)。
【0079】
被験者における抗SCARBI抗体の発現についても調べたが、潰瘍性大腸炎患者と健常者の間で有意差はみられなかった(データ非図示)。
【配列表】