(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】血中物質濃度測定装置及び血中物質濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20250116BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20250116BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20250116BHJP
【FI】
A61B5/1455
G01N21/49 Z
G01N21/3577
(21)【出願番号】P 2022554067
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035990
(87)【国際公開番号】W WO2022071442
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020165688
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517433898
【氏名又は名称】ライトタッチテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157325
【氏名又は名称】伊藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】山川 考一
(72)【発明者】
【氏名】小川 奏
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-168670(JP,A)
【文献】特開2010-276407(JP,A)
【文献】特開2018-141761(JP,A)
【文献】特開2001-153796(JP,A)
【文献】特表2019-507320(JP,A)
【文献】特表2018-534031(JP,A)
【文献】特表2017-509373(JP,A)
【文献】特開2018-157928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
G01N 21/00 -21/01
G01N 21/17 -21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、
表皮より内方に位置する前記生体の部分である計測対象部分を含む生体が載置される対象載置部と、
前記計測対象部分にレーザー光を照射する光照射部と、
照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、
前記反射光の光路における前記計測対象部分と前記光検出器との間に第1のレンズとを備え、
前記計測対象部分から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播し、
前記第1のレンズは、前記反射光を光検出器上において結像させる
血中物質濃度測定装置
(但し、前記計測対象部分と前記光検出器の間のレンズが2個である場合に、一方のレンズの焦点位置に前記計測対象部分があり、他方のレンズの焦点位置に前記光検出器がある配置を除く)。
【請求項2】
前記光照射部は、前記対象載置部の生体載置面の裏面側から前記計測対象部分にレーザー光を照射し、
前記光検出器は、前記対象載置部の前記裏面側において照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光する
請求項1に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項3】
前記第1のレンズは、前記計測対象
部分における前記レーザー光の照射領域を
前記光検出器の受光面上に転送させる
請求項1又は2に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項4】
さらに、前記レーザー光の光路における前記光照射部と前記計測対象部分との間に位置し、前記レーザー光を前記計測対象部分に集光させる第2のレンズを備え、
前記光照射部から前記計測対象部分までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播する
請求項1~3の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項5】
前記光検出器の受光面は、皮膚表面における反射光の結像位置よりも、所定距離だけ前記第1のレンズから離間している
請求項1~4の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項6】
前記光検出器の位置を異ならせて、前記計測対象部分の皮膚表面からの深さを異ならせる
請求項1~5の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項7】
前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度は、前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度と異なる
請求項1~6の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項8】
前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度は、前記対象載置部における前記生体が載置される面に対する法線を基準に0度以上90度以下であり、かつ、前記法線を基準とした前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度と相違する
請求項7に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項9】
前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度は、前記対象載置部における前記生体が載置される面に対する法線を基準に45度以上であり、
前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度は、前記法線を基準に0度以上40度以下である
請求項7に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項10】
前記レーザー光の波長は、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である
請求項1~9の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項11】
前記レーザー光の波長を変調して、検出可能な血中成分の種類を異ならせる
請求項10に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項12】
前記レーザー光の波長は、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長であり、血中成分はグルコースである
請求項10に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項13】
前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長であり、血中成分は乳酸である
請求項10に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項14】
前記光検出器は、前記反射光の強度を1次元の値により出力する赤外線センサからなり、
前記計測対象部分に対する相対的な位置関係が、前記光検出器と等価になるように配置可能に構成され、前記計測対象部分から反射された反射光を受光して、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出する2次元撮像手段を備えた
請求項1~13の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項15】
前記光検出器は、受光面上に中赤外光を検出可能な受光素子がマトリックス状に複数配された2次元赤外線センサアレイである
請求項1~13の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項16】
前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に貫通孔が開設されており、
前記レーザー光は、前記貫通孔を通して前記生体の表面に照射され、
前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器に受光される
請求項1から15の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項17】
前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に凹陥部が形成されており、
前記レーザー光は、前記対象載置部を透過して前記生体の表面に照射され、
前記反射光は、前記対象載置部を透過して前記光検出器に受光される
請求項1から15の何れか1項に記載の血中物質濃度測定装置。
【請求項18】
生体の血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定方法であって、
表皮より内方に位置する前記生体の部分である計測対象部分を含む生体を
対象載置部に載置する対象載置工程と、
光照射部から前記計測対象部分にレーザー光を照射する光照射工程と、
前記計測対象部分と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記計測対象部分から反射された反射光を前記光検出器上に結像させる工程と、
前記光検出器により前記反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出工程と
を有する
血中物質濃度測定方法
(但し、前記計測対象部分と前記光検出器の間のレンズが2個である場合に、一方のレンズの焦点位置に前記計測対象部分があり、他方のレンズの焦点位置に前記光検出器がある配置を除く)。
【請求項19】
前記光照射工程では、前記光照射部と前記計測対象部分との間に位置する第2のレンズを用いて、前記レーザー光を前記計測対象部分に集光させる
請求項18に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項20】
前記反射光を光検出器上に結像させる工程では、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播させ、
前記光照射工程では、前記光照射部から前記計測対象部分までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播させる
請求項19に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項21】
前記光照射工程では、前記対象載置部の生体載置面の裏面側から前記計測対象部分にレーザー光を照射し、
前記光検出器上に結像させる工程では、前記対象載置部の前記裏面側において、照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光する
請求項20に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項22】
前記反射光を光検出器上に結像させる工程に先立って、
前記計測対象部分から反射された反射光が光検出器上に結像するように、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路長を調整する工程を有する
請求項18~21の何れか1項に記載の血中物質濃度測定方法。
【請求項23】
光路長を調整する工程は、前記計測対象部分に対する相対的な位置関係が前記光検出器と等価に配置された2次元撮像手段に、前記計測対象部分から反射された反射光を受光させて、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出することにより行う
請求項22に記載の血中物質濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体の血管内を流れる血液に含まれる物質の濃度を非侵襲式の測定方法により測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病の予防・治療において、日常的に血糖値、血中脂質値等の血中物質状態を調べることは重要である。なかでも、生活習慣病の一つである糖尿病の患者に対して、合併症を防止するために、血液中に含まれるグルコースの濃度を測定して日常的な血糖値の管理が要求されており、患者から採血を行い血液中の化学分析を行う侵襲法が従来から行われている。
【0003】
これに対し、近年、採血を伴わず体内の血液中の状態を光学的に測定する簡便な非侵襲法が提案されている。例えば、特許文献1には、高強度の中赤外光を導波路を介して生体に照射し、その反射光を導波路を介して光検出器に導光することにより、非侵襲かつ単純な構成で血中グルコース濃度を測定する血中物質濃度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の、導波路を用いた従来の血中物質濃度測定装置では、計測対象となる生体の皮膚表面の状態や、照射されるレーザー光のわずかな条件の変化などによって測定値が変動し、安定して正常な計測を行うことが難しいという課題があった。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる血中物質濃度測定装置、及び血中物質濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置は、生体の血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、表皮より内方に位置する前記生体の部分である計測対象部分を含む生体が載置される対象載置部と、計測対象部分にレーザー光を照射する光照射部と、照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、前記反射光の光路における前記計測対象部分と前記光検出器との間に第1のレンズとを備え、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播し、前記第1のレンズは、前記反射光を光検出器上において結像させることを特徴とする(但し、前記計測対象部分と前記光検出器の間のレンズが2個である場合に、一方のレンズの焦点位置に前記計測対象部分があり、他方のレンズの焦点位置に前記光検出器がある配置を除く)。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置、及び血中物質濃度測定方法によれば、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る血中物質濃度測定装置1の構成を示す模式図である。
【
図2】(a)(b)は、
図1のA部の拡大断面図である。
【
図3】血中物質濃度測定装置1における光照射部20の構成を示す模式図である。
【
図4】血中物質濃度測定装置1における受光側光路の概要を説明するための図である。
【
図5】(a)~(d)は、従来の非侵襲型血中物質濃度測定装置1Xの光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
【
図6】(a)~(d)は、
図5(a)~(d)における、光検出器によるグルコース濃度の測定結果と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定結果との相関関係を示す図である。
【
図7】(a)~(c)は、血中物質濃度測定装置1の光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
【
図8】(a)~(c)は、
図7(a)~(c)における、光検出器によるグルコース濃度の測定結果と、侵襲型の血中グルコース濃度測定装置によるグルコース濃度の測定結果との相関関係を示す図である。
【
図9】血中物質濃度測定装置1において受光角度を変えて光検出器によるグルコース濃度の測定値を測定する実験装置の模式図である。
【
図10】(a)(b)は、血中物質濃度測定装置1において光検出器の受光角度を変えたときのグルコース濃度の測定値の変化を示す図である。
【
図11】(a)(b)は、血中物質濃度測定装置1において受光側光路の長さを変えたときの光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
【
図12】(a)(b)は、図
11(a)(b)における、光検出器によるグルコース濃度の測定結果と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定結果との相関関係を示す図である。
【
図13】(a)は、従来の血中物質濃度測定装置1Xにおける光照射部20Xから光検出器30Xまでの光路の概要、(b)は、血中物質濃度測定装置1における光照射部20から光検出器30までの光路の概要を示す模式図である。
【
図14】実施の形態2に係る血中物質濃度測定装置1Aの構成を示す模式図である。
【
図15】血中物質濃度測定装置1Aによる、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整動作を説明するための模式図である。
【
図16】実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置において、光照射部が発する光の波長を変えたときの光検出器による乳酸濃度の測定値の変化を示す図である。
【
図17】従来の血中物質濃度測定装置1Xの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
近年、糖尿病の患者に対する日常的な血糖値の管理等のために、採血を伴わない非侵襲血中物質濃度測定法が提案されており、
図17は、特許文献1に開示された、非侵襲法を用いた従来の血中物質濃度測定装置1X(以後、「装置1X」と記す場合がある)の構成を示す模式図である。
【0011】
図17に示すように、装置1Xは、検査対象である生体Obが載設される対象載置部10X、中赤外光からなるパルス状のレーザー光L1を照射する光照射部20X、貫通孔からなる入射側導波路91Xと出射側導波路92Xが開設された導光部90X、生体Obからの反射光LX2を受光して強度を検出する光検出器30X、これらの制御部60Xを備える。特許文献1には、装置1Xによれば、高強度の中赤外光を照射することにより、非侵襲かつ単純な構成で血中グルコース濃度を測定できることが記載されている。
【0012】
ところが、上述のとおり、非侵襲法を用いた装置1Xでは、計測対象となる生体の皮膚表面の状態や、照射されるレーザー光のわずかな条件の変化などによって測定値が変動し、安定して正常な計測を行うことが難しいことが、発明者らの実験により判明した。
【0013】
発明者らの検討によれば、皮膚表面からの反射光成分と、本来の測定対象である血糖が含まれる皮膚表面下方の生体内方部分からの反射光成分とが分離されずに、光検出器によって両成分が混じって検出されることが、測定値変動の要因として考えられる。そして、これを解消するために、例えば、被験者の生体条件や測定条件に適合するように被験者や測定ごとに光学系を設定することが必要となる。しかしながら、生体ごとや測定のたびに光学系を適切に調整することは高度な技量を要し、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において実施することは、非侵襲法による簡便性を大きく損ねるものとなる。
【0014】
そこで、発明者らは、非侵襲血中物質濃度測定法において、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して実現することができる光学系の構成について鋭意検討を行い、以下の実施の形態に至ったものである。
【0015】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本開示の実施の形態に係る血中物質濃度測定装置は、生体の血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置であって、計測対象部分を含む生体が載置される対象載置部と、前記計測対象部分にレーザー光を照射する光照射部と、照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出器と、前記反射光の光路における前記計測対象部分と前記光検出器との間に第1のレンズとを備え、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播し、前記第1のレンズは、前記反射光を光検出器上において結像させることを特徴とする。
【0016】
係る構成により、導波路を用いた従来の装置と比較して、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少することができ光計測におけるS/N比を向上できる。このため、被験者や測定ごとに変動する皮膚表面の状態によらず、常に確度の高い光計測が可能となる。そのため、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる血中物質濃度測定装置を提供できる。その結果、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において、生体ごとや測定のたびに光学系を適切に調整するといった作業を排し、非侵襲かつ簡便な計測法を実現することができる。
【0017】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光照射部は、前記対象載置部の生体載置面の裏面側から前記計測対象部分にレーザー光を照射し、前記光検出器は、前記対象載置部の前記裏面側において照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光する構成としてもよい。
【0018】
係る構成により、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少可能な光計測装置の光学系を実現できる。
【0019】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記計測対象部分は、表皮より内方に位置する前記生体の部分であり、前記第1のレンズは、前記計測対象部分における前記レーザー光の照射領域を前記光検出器の受光面上に転送させる構成としてもよい。
【0020】
係る構成により、ノイズとして検出される皮膚表面からの反射光成分の光計測への影響度は小さなものとなり、主に計測対象部分となるべき皮膚表面下方の生体部分における反射光成分が、光検出器のスクリーンに結像されて光検出器による光計測に反映される。そのため、再現性が高い計測を行うことができる。
【0021】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、さらに、前記レーザー光の光路における前記光照射部と前記計測対象部分との間に位置し、前記レーザー光を前記計測対象部分に集光させる第2のレンズを備え、前記光照射部から前記計測対象部分までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播する構成としてもよい。
【0022】
係る構成により、光照射部から出射されたレーザー光が、対象載置部の表面から所定の距離に離間した計測対象部分に該当する、表皮より内方に位置する生体の部分に相当する深度に集光されることができる。このとき、計測対象部分に応じたサイズにレーザー光の照射範囲を縮小することができる。
【0023】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光検出器の受光面は皮膚表面における反射光の結像位置よりも、所定距離だけ前記第1のレンズから離間している構成としてもよい。
【0024】
係る構成により、表皮より内方に位置する生体の部分に相当する前記計測対象部分における光の照射領域を検出器の位置に転送させることができる。
【0025】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光検出器の位置を異ならせて、前記計測対象部分の皮膚表面からの深さを異ならせる構成としてもよい。
【0026】
係る構成により、光検出器の位置調整により受光側の光路長Lを変えて、皮膚の厚みが大きい測定対象にも対応することができる。
【0027】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度は、前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度と異なる構成としてもよい。
【0028】
係る構成により、入射光の正反射の影響を受けることを抑制することができる。
【0029】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度は、前記対象載置部における前記生体が載置される面に対する法線を基準に0度以上90度以下であり、かつ、前記法線を基準とした前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度と相違する構成としてもよい。
【0030】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の前記計測対象部分への入射角度は、前記対象載置部における前記生体が載置される面に対する法線を基準に45度以上であり、前記計測対象部分から前記光検出器への光路の出射角度は、前記法線を基準に0度以上40度以下である構成としてもよい。
【0031】
係る構成により、グルコースによる光吸収が相対的に大きく、正反射による信号の増大がなく、かつ、受光側光学系と出射側光学系を構築可能な範囲において、安定した測定が可能な光学系が実現できる。
【0032】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の波長は、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長である構成としてもよい。
【0033】
係る構成により、従来用いられていた近赤外光に比べてグルコースによる吸収が大きく、血中グルコース濃度を計測することができる。また、従来、血糖値の測定に用いられていた近赤外光に比べて体内への透過率が低いために、表皮部分のみを観測することになり、皮膚深部に存在する他の生体成分の影響を受けにくいという効果が得られる。
【0034】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の波長を変調して、検出可能な血中成分の種類を異ならせる構成としてもよい。
【0035】
係る構成により、同一の測定装置で、異なる波長のレーザー光を選択的に照射することにより、複数の種類の異なる血中成分を検出することができる。
【0036】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の波長は、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長としてもよく、血中成分はグルコースである構成としてもよい。このとき、波長は、7.05μm、7.42μm、8.31μm、8.7μm、9.0μm、9.26μm、9.57μm、9.77μm、10.04μm、又は10.92μmから-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲としてもよい。
【0037】
係る構成により、近赤外光に比べてグルコースによる吸収が大きく、透過率が低いために表皮部分のみを観測することができ、血中グルコース濃度を安定して計測することができる。
【0038】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記レーザー光の波長は、5.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長であり、血中成分は乳酸である構成としてもよい。このとき、波長は、5.77μm、6.87μm、7.27μm、8.23μm、8.87μm、又は9.55μmから-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲としてもよい。
【0039】
係る構成により、血中乳酸濃度を計測することができる。
【0040】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光検出器は、前記反射光の強度を1次元の値により出力する赤外線センサからなり、前記計測対象部分に対する相対的な位置関係が、前記光検出器と等価になるように配置可能に構成され、前記計測対象部分から反射された反射光を受光して、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出する2次元撮像手段を備えた構成としてもよい。
【0041】
係る構成により、計測対象部分からの反射光を光検出器上に結像させるための、計測対象部分から光検出器までの光路長の調整工程を、光検出器を2次元撮像手段に置き換えて行うことができる。
【0042】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光検出器は、受光面上に中赤外光を検出可能な受光素子がマトリックス状に複数配された2次元赤外線撮像素子アレイである構成としてもよい。
【0043】
係る構成により、計測対象部分からの反射光を光検出器上に結像させるための、計測対象部分から光検出器までの光路長の調整工程を、光検出器自体を用いて行うことが可能とすることができる。
【0044】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に貫通孔が開設されており、前記レーザー光は、前記貫通孔を通して前記生体の表面に照射され、前記反射光は、前記貫通孔を通して前記光検出器に受光される構成としてもよい。
【0045】
係る構成により、生体Obの表面における全反射を抑制することができ、さらに、光照射部から照射されたレーザー光は、生体の表面に直接照射することができレーザー光の強度を向上できる。
【0046】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記対象載置部は、前記生体の表面が当接される領域内に凹陥部が形成されており、前記レーザー光は、前記対象載置部を透過して前記生体の表面に照射され、前記反射光は、前記対象載置部を透過して前記光検出器に受光される構成としてもよい。
【0047】
係る構成により、生体の表面における全反射を抑制することができ、対象載置部に開口していないことにより、光照射部等の光学系が存する雰囲気に塵や埃、水蒸気等が侵入することを防止でき、対象載置部に防塵機能を持たせることができる。
【0048】
また、本開示の実施の形態に係る血中物質濃度測定方法は、生体の血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定方法であって、計測対象部分を含む生体を載置する対象載置工程と、前記対象載置部の生体載置面の裏面側から光照射部から前記計測対象部分にレーザー光を照射する光照射工程と、前記対象載置部の前記裏面側において、前記計測対象部分と光検出器との間に位置する第1のレンズを用いて、前記計測対象部分から反射された反射光を前記光検出器上に結像させる工程と、前記光検出器により前記反射光を受光して、当該反射光の強度を検出する光検出工程とを有する構成としてもよい。
【0049】
係る構成により、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。
【0050】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光照射工程では、前記光照射部と前記計測対象部分との間に位置する第2のレンズを用いて、前記レーザー光を前記計測対象部分に集光させる構成としてもよい。
【0051】
係る構成により、光照射部から出射されたレーザー光が、対象載置部の表面から所定の距離に離間した生体の計測対象部分に相当する深度に集光されることができる。
【0052】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記反射光を光検出器上に結像させる工程では、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路における前記対象載置部から前記光検出器までの区間において、前記反射光は前記第1のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播させ、前記光照射工程では、前記光照射部から前記計測対象部分までの光路における前記光照射部から前記対象載置部までの区間において、前記レーザー光は前記第2のレンズを通過する区間を除いて空間中を伝播させる構成としてもよい。
【0053】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記光照射工程では、前記対象載置部の生体載置面の裏面側から前記計測対象部分にレーザー光を照射し、前記光検出器上に結像させる工程では、前記対象載置部の前記裏面側において、照射された前記レーザー光の前記計測対象部分からの反射光を受光する構成としてもよい。
【0054】
係る構成により、計測対象部分からの反射光を光検出器上に結像させる工程を具体的に実現できる。
【0055】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記反射光を光検出器上に結像させる工程に先立って、前記計測対象部分から反射された反射光が光検出器上に結像するように、前記計測対象部分から前記光検出器までの光路長を調整する工程を有する構成としてもよい。
【0056】
係る構成により、計測対象部分からの反射光を光検出器上に結像させることができる。
【0057】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、光路長を調整する工程は、前記計測対象部分に対する相対的な位置関係が前記光検出器と等価に配置された2次元撮像手段に、前記計測対象部分から反射された反射光を受光させて、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出することにより行う構成としてもよい。
【0058】
係る構成により、計測対象部分からの反射光を光検出器上に結像させるための、計測対象部分から光検出器までの光路長の調整工程を、光検出器を2次元撮像手段に置き換えて行うことができる。
【0059】
≪実施の形態1≫
本実施の形態に係る血中物質濃度測定装置1について、図面を用いて説明する。ここで、本明細書では、高さ方向の正方向を「上」方向、負方向を「下」方向とする場合があり、高さ方向の正方向に向いた面を「表」面、負方向に向いた面を「裏」面とする場合がある。また、各図面における部材の縮尺は必ずしも実際のものと同じであるとは限らない。また、本明細書において、数値範囲を示す際に用いる符号「~」は、その両端の数値を含む。また、本実施形態で記載している、材料、数値等は好ましいものを例示しているだけであり、それに限定されることはない。
【0060】
<全体構成>
血中物質濃度測定装置1(以下、「装置1」と記す場合がある)は、光源から特定の波長のレーザー光を生体の計測対象部分に照射し、計測対象部分からの反射光の強度を検出することにより、計測対象部分における生体の血中物質濃度を非侵襲に測定する医療機器である。レーザー光は、計測対象となる物質に吸収され得る特定の波長の光を用いる。血中物質濃度が高い場合には物質による吸収に伴い計測対象部分からの反射光の強度が低下するため、装置1は、光検出器により反射光の強度を測定することにより、血中物質濃度を計測するものである。本実施の形態では、一例として、測定対象となる血中物質はグルコースであり、使用されるレーザー光は中赤外光から選択される波長の光であり、2.5μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長としてもよい。より好ましくは、6.0μm以上12μm以下の範囲から選択される所定の波長としてもよい。具体的には、例えば、9.26±0.05μm(9.21μm以上9.31μm以下)としてもよい。あるいは、波長は、7.05μm、7.42μm、8.31μm、8.7μm、9.0μm、9.57μm、9.77μm、10.04μm、又は10.92μmから、-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲としてもよい。これにより、上皮間質液中のグルコース濃度を血糖値として測定することができる。この場合、皮膚の直下の間質液中のグルコース濃度を測定することが必要となり、吸収が大きいために体内の奥深くまで侵入しにくい中赤外光を用いることが好ましい。また、中赤外光を用いることにより倍音や結合音の影響が少なく、近赤外光よりもグルコースを正確に測定できるためである。
【0061】
図1は、実施の形態1に係る装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、装置1は、対象載置部10、光照射部20、光検出器30、集光レンズ50、結像レンズ40、制御部60を有する。
【0062】
<各部構成>
以下、装置1の各部構成について説明する。
【0063】
(対象載置部10)
対象載置部10は、表面10aに生体Obの皮膚の表面が当接されることにより、生体Obの計測対象部分Mpを、測定に適した規定の位置及び角度に規制するための板状ガイド部材である。この場合、対象載置部10の表面10aが生体載置面となる。対象載置部10を光照射部20等の光学系を筐体(不図示)によって覆い、対象載置部10を筐体の外郭部分に設けることにより、対象載置部10を内方からレーザー光L1が照射される照射窓(ウインドウ)として機能させることができる。
【0064】
対象載置部10は、計測に用いる特定の波長として中赤外光に対して透明な材料、例えばZnSe等で構成されており、表面に無反射コーティング層を備えていてもよい。対象載置部10の表面10aには、計測位置がマーキングされており、計測対象部分Mpを内包する生体Obを計測位置に合せた状態で、生体Obを所定の圧力で対象載置部10の表面10aに接触させることにより、生体Obの、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体の部分である計測対象部分Mpを対象載置部10の表面10aから所定の距離に離間した状態に保持することができる。
【0065】
また、対象載置部10は、光照射部20から照射されたレーザー光L1が裏面10d側から入光するように配されており、表面10aが入射側の光軸L1の入射角θが所定の角度となるように、光照射部20との相対的な角度が規制されている。ここで、入射角θとは、対象載置部10における生体Obが載置される表面10aに対する法線を基準とする光軸L1の角度を指す。
【0066】
図2(a)(b)は、
図1のA部の態様を示す拡大断面図である。生体Obの計測対象部分Mpが対象載置部10に当接される部分を示した拡大図である。
図2(a)に示すように、対象載置部10の表面10aには、生体Obとの間に空隙が形成されるような凹陥部10bを形成してもよい。この場合、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、対象載置部10における凹陥部10bの底面部分を透過して生体Obの表面に照射される。対象載置部10に開口していないことにより、光照射部20等の光学系が存する雰囲気に塵や埃、水蒸気等が侵入することを防止でき、対象載置部10に防塵機能を持たせることができる。
【0067】
凹陥部10bを設けたことにより、対象載置部10の表面10aと生体Obとの間に空気層を形成し、対象載置部10と接触させた場合と比較して、生体Obの表面における全反射を抑制することができる。また、凹陥部10bを設けることにより、凹陥部10bを除く部分以外では、生体Obを対象載置部10の表面10aに凹陥部10b以外の部分においてより密着しやすい構成にできる。本形態では、一例として、対象載置部10の厚さは500μm、凹陥部10bの幅は700μm、凹陥部10bにおける空気層の厚みは400μm程度としてもよい。
【0068】
あるいは、
図2(b)に示すように、対象載置部10の表面10aには、生体Obの表面と接触する領域内に開口10cを形成してもよい。開口10cにより、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、対象載置部10に開設された貫通孔である開口10cを通して生体Obの表面に照射される。
【0069】
開口10cを設けたことにより、対象載置部10の表面10aと生体Obと接する部分に空気層を形成することができ、対象載置部10と接触させた場合と比較して、生体Obの表面における全反射を抑制することができる。また、開口10cを設けることにより、表面10aの開口10cの周囲において、生体Obを対象載置部10の表面10aにより密着しやすい構成にできる。本形態では、一例として、対象載置部10の厚さは500μm、開口10bの幅は700μmとしてもよい。
【0070】
(光照射部20)
光照射部20は、計測対象部分Mpに向けて特定の波長のレーザー光を生体に照射する光源である。血中物質濃度測定装置1では、光照射部20は対象載置部10の生体載置面10aの裏面10d側に配されており、対象載置部10の裏面10d側から、対象載置部10の生体載置面(表面10a)上の生体Obの計測対象部分Mpに向けてレーザー光を照射する。
【0071】
図3は、血中物質濃度測定装置1における光照射部20の構成を示す模式図である。
図3に示すように、光照射部20は、パルス状の中赤外光よりも短波長のポンプ光L0を発振する光源21と、長波長に変換するとともに増幅してレーザー光L1として出射する光パラメトリック発振器22(OPO:Optical Parametric Oscillator)を有する。光パラメトリック発振器22では、内装する非線形光学結晶にポンプ光L0が入光されることにより、異なる2つの波長の光が発振され、短波長のシグナル光、長波長のアイドラー光が生成される。光照射部20では、このうち、アイドラー光をレーザー光L1として後段に出力し血糖値の測定に用いる。この光パラメトリック発振器22は、公知の文献、例えば、特開2010-281891号公報に記載の構成を用いてもよい。ここでは、光パラメトリック発振によって発振される波長として、従来用いられていた近赤外光に比べてグルコースによる吸収が大きい波長として中赤外光を用い、本実施の形態では9.26μmとしている。この中赤外光は従来、血糖値の測定に用いられていた近赤外光に比べて体内への透過率が低いために、表皮部分のみを観測することになり、深部に存在する他の生体成分の影響を受けにくいという効果が得られる。また、基準振動の倍音や結合音の重なりによる測定への悪影響が少ないという効果も得られる。
【0072】
光源21には、QスイッチNd:YAGレーザ(発振波長1.064μm)やQスイッチYb:YAGレーザ(発振波長1.030μm)を備えていてもよい。これより、中赤外光よりも短波長のポンプ光L0をパルス状に発振することができる。ポンプ光L0は、例えば、パルス幅約8ns、周波数10Hz以上としてもよい。また、QスイッチNd:YAGレーザー、Yb:YAGレーザーによれば、過飽和吸収体を用いて受動的にスイッチング動作を行う受動Qスイッチとして動作するため、光源21を簡易かつ小型化できる。
【0073】
光パラメトリック発振器22は、
図3に示すように入射側半透鏡221、出射側半透鏡222、非線形光学結晶223を備え、入射側半透鏡221と出射側半透鏡222とを対向させた光共振器の中に、非線形光学結晶223が配されている。入射側半透鏡221を透過した光L01は、非線形光学結晶223に入射し、非線形光学結晶223で定まる波長である9.26μmの光に変換され、かつ入射側半透鏡221と出射側半透鏡222との間で光パラメトリック増幅がされる。増幅された光は出射側半透鏡222を透過してレーザー光L1として出力される。
【0074】
非線形光学結晶223では、波長変換に適したAgGaSが位相整合の条件で使用される。非線形光学結晶223の種類や整合条件を調整することによって、発振されるレーザー光L1の波長を調整できる。非線形光学結晶には、GaSe、ZnGeP2、CdSiP2、LiInS2、LiGaSe2、LiInSe2、LiGaTe2等を用いてもよい。
光パラメトリック発振器22から発せられるレーザー光L1は、ポンプ光L0に対応した繰り返し周波数、例えば約8nsのパルス幅となり、短いパルス幅により尖頭出力が10W~1kWと高強度を実現できる。
【0075】
このように、光照射部20では、光源21と光パラメトリック発振器22を用いたことにより、例えば、量子カスケード型レーザ等、波長9.26μmを得る従来の光源と比較して、103~105倍程度の高強度のレーザー光L1を得ることができる。
【0076】
係る構成により、体内への透過率が低い中赤外光による血糖測定が可能となる。
【0077】
(集光レンズ50)
光照射部20から計測対象部分Mpに至るレーザー光L1の光路Op1には、
図1に示すように、照射光を生体Obの計測対象部分Mpに集光させるための集光レンズ50(本明細書において「第2のレンズ」と記す場合がある)が配されている。光路Op1における光照射部20から対象載置部1
0の裏面10dまでの区間において、レーザー光L1は集光レンズ50を通過する区間を除いて、例えば、気体中などの空間中を伝播するように構成されている。集光レンズ50は、光照射部20から出射されたレーザー光L1が、対象載置部10の表面10aから所定の距離に離間した、生体Obの計測対象部分Mp該当する、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体部分に相当する深度に集光されるよう光学設計がされている。計測対象部分Mpへのレーザー光L1の入射角度θは、対象載置部10の表面10aに対する光照射部20の角度と、対象載置部10に入射したレーザー光L1の屈折角により定まる。入射角度θは、本実施の形態では、例えば、45度以上としてもよく、さらに、60度以上70度以下としてもよい。
【0078】
このとき、光照射部20と集光レンズ50との間には半透鏡で構成されたビームスプリッタ(不図示)を配してレーザー光L1の一部を基準信号として分岐し、モニタ用光検出器(不図示)を用いてレーザー光L1の強度変化を検出し、光検出器30における検出信
号の正規化処理に利用してもよい。レーザー光L1の強度の変動に基づき、光検出器30の出力を補償することができる。
【0079】
集光レンズ50を透過したレーザー光L1は、対象載置部10を通過して生体Obに入射し、生体の上皮間質組織を通過して散乱あるいは拡散反射され反射光L2として、再び対象載置部10を通過し光検出器30に向けて放射される。
【0080】
(結像レンズ40)
図4は、血中物質濃度測定装置1における受光側光路の概要を説明するための図であって、生体Obの計測対象部分Mp及び光検出器30のスクリーン30aを平面視した状態で描いた模式図である。
図1及び
図4に示すように、生体Obの計測対象部分Mpから光検出器30に至る反射光L2の光路Op2には、生体Obの計測対象部分Mpにおいて拡散反射された反射光L2を光検出器30上に結像させるための結像レンズ40(本明細書において「第1のレンズ」と記す場合がある)が配されている。光路Op2における対象載置部10の裏面10
dから光検出器
30までの区間において、反射光L2は集光レンズ
40を通過する区間を除いて、例えば、気体中などの空間中を伝播するように構成されている。
【0081】
結像レンズ40は、生体Obの計測対象部分Mpに相当する範囲における像Im1が、拡散反射され反射光L2として結像レンズ40によって光検出器30のスクリーン30a上に結像Im2されるよう光学設計がされている。
【0082】
本実施の形態では、結像レンズ40の中心と生体Obの計測対象部分Mpの距離Op21と、光検出器30のスクリーン30aと結像レンズ40の中心との距離Op22を等価な長さとし、中赤外光が照射された生体Obの計測対象部分Mpに当たる、例えば、真皮などの表皮より内方に位置する生体の部分(以下「生体内方部分」と記す場合がある)に相当する深度の像Im1が光検出器30のスクリーン30a上に等価な大きさの像Im2として転送される位置関係とした。結像レンズ40の焦点Fpに対し焦点距離をFとしたとき、距離Op21、距離Op22は、共に2Fとしてもよい。
【0083】
しかしながら、距離Op21、距離Op22の長さは上記に限定されるものではなく、中赤外光が照射された対象載置部10の像Im1が、光検出器30のスクリーン30a内に過不足なく収まるように、距離Op21、距離Op22の倍率を設定し、その倍率を達成するような結像レンズ40を設定してもよい。
【0084】
結像レンズ40への反射光L2の入射角度は、対象載置部10の表面10aに対する結像レンズ40の角度と、対象載置部10から出射される反射光L2の屈折角により定まる。本実施の形態では、例えば、0度以上40度以下、より好ましくは、20度以上30度以下としてもよい。
【0085】
(光検出器30)
光検出器30は、照射されたレーザー光L1の計測対象部分Mpからの反射光を受光して、反射光の強度を検出する中赤外線センサである。血中物質濃度測定装置1では、光検出器30は対象載置部10の生体載置面10aの裏面10d側に配されており、対象載置部10の裏面10d側から、生体載置面(表面10a)上の生体Obにおける計測対象部分Mpからの反射光を受光するように構成されている。光検出器30は、受光した反射光の強度に応じた電気信号を出力する。光検出器30には、反射光の強度を1次元の電圧値により出力する、例えば、単素子からなる赤外線センサを用いてもよい。
【0086】
血中物質濃度測定装置1では、光照射部20により、照射されたレーザー光L1の強度を高めるとともに、結像レンズ40により計測対象部分Mpから反射された反射光を光検出器30上において結像させることにより、光検出器30は、背景光に対し十分に高い強度の反射光を受光することができ、高いS/N比を実現し、高精度の測定が可能となる。このように、レーザー光L1及び反射光L2は単色かつ高強度であるため、光検出器30に必要な処理は光強度の検出のみとなり、量子カスケードレーザを用いた光音響光学法のように波長掃引に基づくスペクトルの分析や多変量解析等を行う必要がない。そのため、検出に求められる精度が緩和され、簡便に使用できる電子冷却方式等を用いることもできる。
【0087】
なお、光検出器30には、例えば液体窒素で冷却したHgCdTe赤外線検出器を用いてもよい。この際、液体窒素で77K程度まで冷却することによって、より高いS/N比で反射光L2の光強度を検出することができる。
【0088】
(制御部60)
制御部60は、光照射部20及び光検出器30と電気的に接続され、光照射部20の光源21を駆動してパルス状のポンプ光L0を発振させるとともに、光検出器30からの出力信号に基づき反射光L2の光強度を検出して、生体Obの計測対象部分Mpにおけるグルコース濃度を算出する。
【0089】
あるいは、制御部60は、モニタ用光検出器の出力を入力し、上述のとおり、仮に光照射部20から出射されるレーザー光L1の強度が変動した場合でも、モニタ用光検出器の出力を用いて光検出器30の出力を正規化することにより、レーザー光L1の強度変動の影響を補償してグルコース濃度を算出してもよい。
【0090】
<評価試験>
以下、実施の形態に係る血中物質濃度測定装置1を用いて性能評価試験を行った。以下、その結果について説明する。
【0091】
(試験1:血中物質濃度測定装置1に係る実施例及び比較例の評価)
[試験装置、条件]
実施例として、
図1に示す実施の形態に係る血中物質濃度測定装置1を用いた。血中物質濃度測定装置1の装置条件は以下のとおりである。
【0092】
(1)対象載置部10を水平に設置し、光照射部20から中赤外レーザー光を打ち上げ角24.5度で上向きに出射し、対象載置部10下部よりマーキングが付された計測位置に照射した。このとき、集光レンズ50で計測位置に応じたサイズにレーザー光L1の照射範囲を縮小した。
【0093】
(2)被験者の指先を対象載置部10の上側の表面10aに置き、入射角度は65.5度とした。
【0094】
(3)中赤外光が照射された生体Obの計測対象部分Mpの像を、対象載置部10下部に配した結像レンズ40で像転送し、光検出器30上に結像させた。結像レンズ40の焦点距離をFとしたとき、光検出器30のスクリーン30aと結像レンズ40の中心との距離、および結像レンズ40の中心と生体Obの計測対象部分Mpの距離は共に2Fとし、計測対象部分Mpに当たる、表皮より内方に位置する生体の部分に相当する深度の像Im1が光検出器30に等価な大きさで転送される位置関係とした。
【0095】
(4)光検出器30および結像レンズ40の光路Op2の角度は、対象載置部10の鉛直方向から時計回りに25度傾いた角度とした。
【0096】
また、比較例として、
図17に示した特許文献1に開示された従来の血中物質濃度測定装置1Xを用いた。
【0097】
[試験方法]
(1)被験者は、グルコース40gを含む水溶液を摂取し(摂取した時間を計測開始時間0分とする)、被験者の指先を対象載置部10の上側の表面10aに置き、実施例及び比較例による光計測を連続で行った。光計測では、一定時間中赤外レーザー光を照射し、人体に照射したときの中赤外光の強度変化から血糖値を算出した。
【0098】
(2)光計測と並行して、被験者の自己採血による血糖値計測(SMBG:Self Monitoring of Blood Glucose)を行った。
【0099】
(3)一定時間ごと(10分ないし15分)に光計測と自己採血による血糖値計測とを繰り返し、経過時間ごとに計測値をプロットした。
【0100】
[試験結果]
先ず、比較例に係る、従来の装置1Xによる結果について説明する。
【0101】
図5(a)~(d)は、比較例に係る、従来の装置1Xの光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
図6(a)~(d)は、
図5(a)~(d)における、光検出器によるグルコース濃度の測定結果と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定結果との相関関係を示す図である。
【0102】
図5(a)~(d)は、それぞれ、同一被験者に対して異なる試験日に行った試験の結果である。
【0103】
SMBGによる血糖値は、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い上昇した後、下降する。
【0104】
光計測による検出光強度は、
図5(a)では、血中グルコース濃度の増加に伴う光吸収によって、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇し、SMBGによる血糖値の測定結果と負の相関性が確認された(
図6(a))。
【0105】
しかしながら、異なる試験日に行った
図5(b)(c)に示す結果では、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇するという傾向はみられず、SMBGによる血糖値の測定結果との相関性が低い結果となった(
図6(
b)(c))。あるいは、
図5(d)に示す結果では、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇するという傾向は見られたが、負の相関性は小さく、反応が極めて小さいという結果になった(
図6(d))。
【0106】
このように、比較例に係る、従来の装置1Xでは、同じ条件でも試験日によっては、正常な計測ができないことがあった。
【0107】
次に、実施例に係る、血中物質濃度測定装置1による結果について説明する。
【0108】
図7(a)~(c)は、血中物質濃度測定装置1の光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
図8(a)~(c)は、
図7(a)~(c)における、光検出器によるグルコース濃度の測定結果と、侵襲型の血中グルコース濃度測定装置によるグルコース濃度の測定結果との相関関係を示す図である。
【0109】
図7(a)~(c)は、それぞれ、同一被験者に対して異なる試験日に行った試験の結果である。
【0110】
計測による検出光強度は、
図7(a)~(c)において、血中グルコース濃度の増加に伴う光吸収によって、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇し、SMBGによる血糖値の測定結果と比較すると、
図8(b)では負の高い相関性が確認され、
図8(a)(c)においても負の相関性が確認された。
【0111】
以上の結果から、実施例に係る血中物質濃度測定装置1によれば、異なる試験日行った繰り返し実験において、比較例に比べて、SMBGによる血糖値の測定結果と相関性が高い、安定した計測結果が得られることが確認された。
【0112】
(試験2:光検出器の受光角度φを変えた評価試験)
[試験装置、条件]
受光側の光路の角度φを変えて光計測を行った。
【0113】
図9は、血中物質濃度測定装置1において受光側の光路の角度、及び光路長を変えて光検出器によるグルコース濃度の測定値を測定する実験装置の模式図である。試験1における実施例の血中物質濃度測定装置1を用い、光検出器30および結像レンズ40の光路Op2の角度φ(以後、「角度φ」と記す場合がある)を、対象載置部10における生体Obが載置される面に対する法線を基準に(
図9の鉛直方向)時計回りに0度から40度まで異ならせた条件で光計測を行った。その他の装置条件、試験方法は、試験1と同じである。
【0114】
[試験結果]
図10(a)(b)は、血中物質濃度測定装置1において光検出器の受光角度を変えたときのグルコース濃度の測定値の変化を示す図であり、
図10(a)は角度φと光計測における検出光の入出力比との関係、(b)は、それぞれの角度φにおける計測回数ごとの計測結果のばらつきを示す実験結果である。
【0115】
図10(a)より、角度φが0度~40度において吸収が見られ、さらに、20度~30度で最も大きく吸収がみられた。また、40度を超えると、信号が増加することが確認された。角度φが40度を超えて増加すると、入射光の正反射の角度にさらに近くなり、光計測に使用するには不適当であると考えられる。さらに、入出力比の値が0.2以下であることが計測精度の点から好ましいため、角度φは30度以下とすることがより一層好ましく、また、入出力比の値が0.1未満では計測信号のS/N比の点から好ましくないため、角度φは20度以上であることがより一層好ましい。
【0116】
また、
図10(b)に示すように、角度φが0度においてばらつきが小さく、25度において最もばらつきが小さい結果となり、45度においてばらつきが最も大きい結果となった。角度φが45度以上では、入射光の正反射の角度に近付くためと考えられる。
【0117】
また、角度φが45度以上では、機器構成の都合からも計測が難しかった。角度φが20度未満の範囲では、受光側光学系と出射側光学系が近接するため、血中物質濃度測定装置1の光学系のレイアウトが難しいと考えられる。
【0118】
以上の結果から、受光側の光路の角度φは、0度以上40度以下であることが好ましく、20度以上30度以下であることがより一層好ましいと考えられる。また、入射光の正反射の影響を受けることを抑制するために、レーザー光の入射角度は、光検出器への出射角度と異なることが好ましい。
【0119】
(試験3:受光側の光路長Lを変えた評価試験)
[試験装置、条件]
受光側の光路長Lを変えて光計測を行った。
【0120】
試験1における実施例の血中物質濃度測定装置1を用い、光検出器30のスクリーン30aと結像レンズ40の中心との距離Lおよび結像レンズ40の中心と生体Obの計測対象部分Mpとの距離L(以後、「光路長L」と記す場合がある)を、結像レンズ40の焦点距離Fに対し、2F-0.5[mm]、2F[mm]、2F+0.5[mm]と異ならせた条件で、光計測を行った。その他の装置条件、試験方法は、試験1と同じである。
【0121】
[試験結果]
図11(a)(b)は、血中物質濃度測定装置1において受光側光路の長さを変えたときの光検出器によるグルコース濃度の測定値の変化と、侵襲型の測定装置によるグルコース濃度の測定値の変化を、時系列に比較した図である。
【0122】
図7(a)、
図11(a)、(b)は、それぞれ、光路長Lを、2F[mm]、2F-0.5[mm]、2F+0.5[mm]とした条件における試験の結果である。
【0123】
光路長Lを、2F[mm]の条件では、計測による検出光強度は、上述のとおり、
図7(a)において、血中グルコース濃度の増加に伴う光吸収によって、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇し、SMBGによる血糖値の測定結果と比較すると、
図8(a)では負の高い相関性が確認された。
【0124】
これに対し、光路長Lを、2F-0.5[mm]、及び2F+0.5[mm]の条件では、計測による検出光強度は、
図11(a)(b)に示すように、血中グルコース濃度の増加に伴う光吸収によって、水溶液を摂取した後、時間経過に伴い下降した後上昇するという傾向は見られず、
図11(a)では血糖値の変化による反応は極めて小さく、
図11(b)では血糖値の変化による反応はほとんど見られない結果となった。また、SMBGによる血糖値の測定結果との相関性が低い結果となった(
図12(a)(b))。
【0125】
以上の結果から、受光側の光路長L、すなわち、光検出器30のスクリーン30aと結像レンズ40の中心との距離Lおよび結像レンズ40の中心と生体Obの計測対象部分Mpとの距離Lは、結像レンズ40の結像位置(焦点距離Fの2倍)に相当する長さとすることが好ましいと考えられる。表皮より内方に位置する生体の部分に相当する生体Obの計測対象部分Mpからの反射光が光検出器30のスクリーン30a上に結像しているものと考えられる。このとき、皮膚表面に相当する対象載置部10の上面10aと結像レンズ40の中心との距離は約50mmとなり、距離Lよりも約0.8mm短い距離となった。
【0126】
<血中物質濃度測定装置1による効果について>
以上のとおり、試験1の結果によれば、比較例に係る、導波路を用いた従来の装置1Xでは、同じ条件でも試験日によっては、正常な計測ができないという再現性の低い結果になった。
【0127】
これに対し、実施例に係る血中物質濃度測定装置1による光計測では、比較例に係る、従来の装置1Xと比較して、SMBGによる血糖値の測定結果と相関性が高く、再現性が高い計測結果が得られることが確認された。血中物質濃度測定装置1では、計測対象部分Mpと光検出器30との間に結像レンズ40を備え、計測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させるという構成の光学系を採用したことにより、再現性が高い光計測が可能になったと考えられる。
【0128】
その理由は、比較例に係る導波路を用いた従来の装置1Xでは、皮膚表面からの成分と、皮膚下で血糖によって吸収された成分の分離ができず、皮膚表面の状態 やレーザーのわずかな照射条件の変化などによって、正常に測定ができない場合が発生したのに対し、実施例に係る血中物質濃度測定装置1では、皮膚下からの信号が光センサ上に集まることから、計測条件の微少な変化が計測結果に及ぼす 影響が減少し、安定して正しい計測結果が得られるようになったものと考えられる。
【0129】
以下、図面を用いて、具体的に説明する。
【0130】
図13(a)は、従来の血中物質濃度測定装置1Xにおける光照射部20Xから光検出器30Xまでの光路の概要を示す模式図である。
図13(a)に示すように、導波路を用いた従来の装置1Xでは、光照射部20
Xから照射されたレーザー光LX1は、入射側導波路91Xと平行に、生体Obの計測対象部分Mpに向かう光路に沿って生体Obに入射角θで入光する。このとき、血糖によって吸収され得る計測対象となるべき皮膚表面下方の生体内方部分における反射光成分(Im11)の他に、皮膚表面からの反射光成分(Im12)が発生する。導波路を用いた従来の装置1Xでは、これらの反射光成分(Im11、Im12)が、出射側導波路92Xに入光し、光検出器30
Xのスクリーン30Xaに導光されるように構成される。
【0131】
すなわち、従来の装置1Xでは、皮膚表面からの反射光成分(Im12)と皮膚表面下方の生体内方部分における反射光成分(Im11)とが分離されずに、光検出器によって両成分が混じって検出される。その結果、計測結果に、計測対象となるべき皮膚表面下方の生体内方部分における反射光成分(Im11)以外の反射光成分(Im12)を含むことから、変動要因が増し、再現性が低い結果になったと考えられる。
【0132】
一方、
図13(b)は、血中物質濃度測定装置1における光照射部20から光検出器30までの光路の概要を示す模式図である。
図13(b)に示すように、血中物質濃度測定装置1でも、同様に、光照射部20から照射されたレーザー光L1は、生体Obの検査対象部分Mpに向かう光路に沿って生体Obに入射角θで入光し、血糖によって吸収され計測対象部分Mpとなるべき皮膚表面下方の生体内方部分における反射光成分(Im11)に加えて、皮膚表面からの反射光成分(Im12)が発生する。
【0133】
しかしながら、血中物質濃度測定装置1では、結像レンズ40によって、これらの反射光成分(Im11、Im12)のうち、主に生体内方部分における反射光成分(Im11)が、光検出器30のスクリーン30aに結像されるように構成される。皮膚表面からの反射光成分(Im12)は結像レンズ40に入光されるが、結像レンズ40への入射角が生体内方部分における反射光成分(Im11)とは異なるために、光検出器30のスクリーン30aの範囲以外に導光されるか、あるいは、光検出器30のスクリーン30aの範囲内に導光されたとしても結像しない(ボケる)ことから光量が低下し、光検出器30によって検出される信号強度が低下する。その結果、ノイズとして検出される皮膚表面からの反射光成分(Im12)の光計測への影響度は小さなものとなる。
【0134】
すなわち、血中物質濃度測定装置1では、主に計測対象となるべき皮膚表面下方の生体内方部分における反射光成分(Im11)が、光検出器30のスクリーン30aに結像されて光検出器30による光計測に反映されることから、比較例に比べて、SMBGによる血糖値の測定結果と相関性が高く、再現性が高い計測結果になったと考えられる。
【0135】
このように、血中物質濃度測定装置1では、導波路を用いた従来の装置1Xと比較して、皮膚表面で散乱された反射光による偽信号(ノイズ)成分を減少することができ光計測におけるS/N比を向上できる。また、このため、被験者や測定ごとに変動する皮膚表面の状態によらず、常に確度の高い光計測が可能となる。さらに、光検出器の位置調整により受光側の光路長Lを変えて、皮膚の厚みが大きい測定対象にも対応することができるといった効果を得ることができる。
【0136】
<まとめ>
以上、説明したように、実施の形態1に係る血中物質濃度測定装置1は、生体Obの血液中に含まれる物質の濃度を測定する血中物質濃度測定装置1であって、生体Obの計測対象部分Mpが載置される対象載置部10と、対象載置部10の生体載置面(表面10a)の裏面10d側から計測対象部分Mpにレーザー光L1を照射する光照射部20と、対象載置部10の裏面10d側において照射されたレーザー光L1の計測対象部分Mpからの反射光L2を受光して、反射光L2の強度を検出する光検出器30と、計測対象部分Mpと光検出器30との間に結像レンズ40とを備え、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路Op2における対象載置部10から光検出器30までの区間において、レーザー光L2は結像レンズ40を通過する区間を除いて空間中を伝播し、結像レンズ40は、計測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させることを特徴とする。
【0137】
係る構成により、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる。その結果、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において、生体ごとや測定のたびに光学系を適切に調整するといった作業を排し、非侵襲かつ簡便な計測法を実現できる。
【0138】
≪実施の形態2≫
実施の形態1に係る血中物質濃度測定装置1は、対象載置部10と、光照射部20と、光検出器30と、結像レンズ40とを備え、結像レンズ40が計測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させる構成とした。
【0139】
しかしながら、結像レンズ40が計測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させるための具体的な構成は、これらに限定されるものではなく、別の態様としてもよい。
【0140】
以下、実施の形態2に係る血中物質濃度測定装置1Aについて、図面を参照しながら説明する。
図14は、実施の形態2に係る血中物質濃度測定装置1Aの構成を示す模式図である。
図14において、血中物質濃度測定装置1と同一の構成には同一の番号を付し、説明を省略する。
【0141】
実施の形態2に係る血中物質濃度測定装置1Aでは、血中物質濃度測定装置1の構成に加えて、さらに、計測対象部分Mpに対する相対的な位置関係が、光検出器30と等価になるように配置可能に構成され、計測対象部分Mpから反射された反射光(Im11)を受光して、当該反射光(Im11)に基づく像が結像しているか否かを検出する2次元撮像手段71Aを備えた点で、実施の形態1と相違する。
【0142】
2次元撮像手段71Aは、受光面71Aa上に中赤外光を検出可能な受光素子がマトリックス状に複数配された2次元赤外線撮像素子アレイである。
図14に示すように、2次元撮像手段71Aは、光検出器30と一体化されて光検出ユニット70Aを構成されており、光検出ユニット70Aを計測対象部分Mpから結像レンズ40に至る光路L2と垂直な方向にスライド可能に構成されている。そして、2次元撮像手段71Aが光路L2上に位置するときに、2次元撮像手段71Aの受光面71Aaの計測対象部分Mpに対する相対的な位置関係が、計測対象部分Mpに対する光検出器30のスクリーン30aの相対的な位置関係と等価となるように配置されている。
【0143】
係る構成により、計測対象部分Mpからの反射光(Im11)を光検出器30上に結像させるための、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整工程を、光検出器30を2次元撮像手段71Aに置き換えて行うことが可能となる。
【0144】
図15は、血中物質濃度測定装置1Aによる、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整動作を説明するための模式図である。
【0145】
光路長の調整工程では、先ず、
図15に示すように、光路L2上において、2次元撮像手段71Aの受光面71Aaの計測対象部分Mpに対する相対的な位置関係が、計測対象部分Mpに対する光検出器30のスクリーン30aの相対的な位置関係と等価な位置に配置する。
【0146】
次に、この状態で、2次元撮像手段71Aに計測対象部分Mpから反射された反射光を受光させて、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出し、結像していない場合には光路L2上における2次元撮像手段71Aの位置を漸動させて、結像しているか否かの検出を繰り返すことにより行う。
【0147】
具体的には、2次元撮像手段71Aを光路L2に沿ってスキャンすることでメモリの像のフォーカス位置が変化する。これを画像解析で割り出し、あらかじめ調べておいた照射位置とフォーカス位置が一致するときの2次元撮像手段71A位置を結像位置として確定する。結像しているか否かの判定は、
図15に示すように、対象載置部10に0.5mm刻みの目盛りが付されたスケールを載設し、2次元撮像手段71Aにより画像を取得して、画像内のフォーカス位置を検出することにより行う。このとき、例えば、フォーカス位置は画像内の輝度分布の極大点としてもよい。
【0148】
図15に示す例では、スケール上の位置X1では取得画像におけるフォーカス位置とレーザー光L1の照射位置とがずれており結像していないと判定される。スケール上の位置X2では取得画像におけるフォーカス位置とレーザー光L1の照射位置とが一致しており結像していると判定される。そして、取得画像におけるフォーカス位置とレーザー光L1の照射位置とが光路L2上において一致するまで、光検出ユニット70Aを光路L2と平行に漸動させて結像の有無を判定する。
【0149】
そして、結像していることが確認された後に、2次元撮像手段71Aを光検出器30に戻して、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長を確定する。
【0150】
以上のとおり、実施の形態2に係る血中物質濃度測定装置1Aでは、計測対象部分Mpに対する相対的な位置関係が、光検出器30と等価になるように配置可能に構成され、計測対象部分Mpから反射された反射光(Im11)を受光して、当該反射光(Im11)に基づく像が結像しているか否かを検出する2次元撮像手段71Aを備えた構成を採る。
【0151】
これにより、計測対象部分Mpからの反射光(Im11)を光検出器30上に結像させるための、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整工程を、光検出器30を2次元撮像手段71Aに置き換えて行うことができる。その結果、計測対象の状態やレーザー光の照射条件の変動にかかわらず、精度の高い計測を安定して行うことができる血中物質濃度測定装置1Aを容易に構築することができる。
【0152】
≪実施の形態3≫
実施の形態1、2に係る血中物質濃度測定装置1、1Aは、光照射部20が発するレーザー光1の波長は9.26μmであり、検出対象となる血中成分はグルコースである構成とした。
【0153】
しかしながら、検出対象となる血中成分の種類に応じて光照射部20が発するレーザー光L1の波長を異ならせてもよい。
【0154】
以下、実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置について、図面を参照しながら説明する。実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置では、光照射部20が発するレーザー光L1の波長は8.23±0.05μm(8.18μm以上8.28μm以下)としてもよく、血中成分は乳酸であることを特徴とする。あるいは、波長は、5.77μm、6.87μm、7.27μm、8.87μm、又は9.55μmから、-0.05μm以上+0.05μm以下の範囲としてもよい。
【0155】
図16は、実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置において、光照射部20が発する光の波長を8.23μmとしたときの光検出器による乳酸濃度の測定値の変化を示す図である。
図16に示すように、光計測による測定値は、自己採血による乳酸値の測定結果(比較値)と概ね相関することが確認された。
【0156】
光照射部20が発する光の波長を変更するためには、光照射部20の光パラメトリック発振器22の発振波長を異なる態様に変更する必要があり、光パラメトリック発振器22における非線形結晶223の位相整合条件を変更する、あるいは、非線形結晶223の位相整合条件が異なる光パラメトリック発振器22を変更することにより装置を実現することができる。
【0157】
また、光照射部20において、複数の光パラメトリック発振器22を選択的に利用可能として、複数の波長のレーザー光L1を選択的に照射可能な装置構成を採ることにより、複数の種類の血中成分を計測可能な装置としてもよい。
【0158】
このとき、実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置は、導光する光の波長によって光路の幅や厚み等が異なる導波路を用いた光学系を採用する構成とは異なり、例えば、グルコース等の他の血中成分に対する測定装置と、集光レンズ50、対象載置部10、結像レンズ40、中赤外光を検出可能な光検出器30からなる光学系を共用することができる。
【0159】
以上のとおり、実施の形態3に係る血中物質濃度測定装置によれば、光照射部20が発するレーザー光L1の波長を変えて異なる種類の血中成分を検出することができる。あるいは、同一の測定装置で、異なる波長のレーザー光L1を選択的に照射することにより、複数の種類の異なる血中成分を検出することができる。その結果、患者自身が日常的に行う血糖値の測定において、より一層簡便な計測装置を実現できる。
【0160】
≪変形例≫
以上、本開示の具体的な構成について、実施形態を例に説明したが、本開示は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、実施の形態に対して各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0161】
(1)上記実施の形態では、血中物質濃度測定装置は、計測対象部分Mpと光検出器30との間に結像レンズ40を備えた光学系を例に、実施の形態を示した。しかしながら、本開示に係る血中物質濃度測定装置は、生体Obの測対象部分Mpから反射された反射光L2を光検出器30上において結像させる結像させる構成であればよく、受光側光学系として別の態様に適宜、変更してもよい。例えば、複数のレンズを用いた構成や光路の途中にミラーを配した構成としてもよい。
【0162】
(2)上記実施の形態では、血中物質濃度測定装置の検出対象となる血中成分として、グルコース又は乳酸を例に、実施の形態を示した。しかしながら、本開示に係る血中物質濃度測定装置の検出可能な血中成分は、上記に限定されるものではなく、血中成分の種類に応じて光照射部20が発するレーザー光L1の波長を異ならせることにより、他の検出対象に対しても広く装置を活用することができる。
【0163】
(3)上記実施の形態では、光検出器30は、中赤外光を検出可能な単一の受光素子からなる赤外線センサを例に、実施の形態を示した。しかしながら、光検出器30は、受光面上に中赤外光を検出可能な受光素子がマトリックス状に複数配された2次元赤外線撮像素子アレイとしてもよい。これにより、計測対象部分Mpからの反射光を光検出器30上に結像させるための、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整工程を、光検出器30自体を用いて行うことが可能となる。具体的には、光路長の調整工程において、光検出器30に計測対象部分Mpから反射された反射光を受光させて、当該反射光に基づく像が結像しているか否かを検出し、結像していない場合には光路L2上における光検出器30の位置を漸動させて、結像しているか否かの検出を繰り返すことにより行う。
これにより、計測対象部分Mpから光検出器30までの光路長の調整工程を、光検出器30自体を用いて行うことが可能となり、実施の形態2と比較して装置を簡素化できる。
【0164】
(4)上記実施の形態では、血中物質濃度測定装置1において、光照射部20は、対象載置部10の生体載置面(表面10a)の裏面10d側から計測対象部分Mpにレーザー光L1を照射し、光検出器30は、対象載置部10の裏面10d側において照射されたレーザー光L1の計測対象部分からの反射光L2を受光する構成とした。
【0165】
しかしながら、光照射部20は、対象載置部10の生体載置面(表面10a)の表面10a側から計測対象部分Mpにレーザー光L1を照射する構成としてもよい。また、光検出器30は、対象載置部10の表面10a側において照射されたレーザー光L1の計測対象部分からの反射光L2を受光する構成としてもよい。
【0166】
この場合、例えば、対象載置部10に生体Obの計測対象部分Mpを上方に向けて置き、レーザー光L1が透過(レーザー光に対して透明)する板材を、上方から生体Obを少し圧縮するようにして計測対象部分Mpの対象載置部10(及び光照射部20)に対する高さを規定する構成としてもよい。
【0167】
あるいは、レーザー光を照射し生体Obの計測対象部分Mpからの反射光を受光するまでの時間を計測することにより計測対象部分Mpの位置を検出する光学的手段などを設け、検出された計測対象部分Mpの位置情報に基づき血中物質濃度測定におけるレーザー光L1の照射方向や集光距離を異ならせるなどのフィードバックを図る構成としてもよい。
【0168】
係る構成により、光照射部20は、生体載置面(表面10a)の表面10a側から対象載置部10を介さずに、計測対象部分Mpにレーザー光L1を照射して血中物質濃度測定を行うことが可能となる。
【0169】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていないものについては、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0170】
また、上記の方法が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記方法の一部が、他の方法と同時(並列)に実行されてもよい。
【0171】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0172】
また、各実施の形態及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本開示の一態様に係る血中物質濃度測定装置及び血中物質濃度測定方法は、生活習慣病の予防・治療において、日常的に血糖値、血中脂質値等の血中物質状態を測定する医療機器として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0174】
1 血中物質濃度測定装置
10、10X 対象載置部
20、20X 光照射部
21 光源
22 光パラメトリック発振器
221 入射側半透鏡
222 出射側半透鏡
223 非線形光学結晶
30 光検出器
40 結像レンズ(第1のレンズ)
50 集光レンズ(第2のレンズ)
70A 光検出ユニット
71A 2次元撮像手段
90X 導光板
91X 入射側導波路
92X 出射側導波路