(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20250116BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250116BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250116BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20250116BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/06
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2023032921
(22)【出願日】2023-03-03
(62)【分割の表示】P 2020106421の分割
【原出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519149076
【氏名又は名称】アルメッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】白尾 智明
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-040540(JP,A)
【文献】特開2003-180361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/15
G01N 33/50
C12Q 1/06
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された生体試料中のドレブリンAの断片又はドレブリンAのスプライスバリアントであるドレブリンA関連タンパク質を測定するための、ドレブリンA特異的エピトープを認識する抗体を含む剤
であって、
前記測定が、
アルツハイマー病、大脳皮質基底核症候群、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、又は筋萎縮性側索硬化症の治療剤をスクリーニングするためか、
アルツハイマー病、大脳皮質基底核症候群、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、又は筋萎縮性側索硬化症の発症の有無を判定するためか、あるいは、
アルツハイマー病の重症度を判定するためであり、
前記ドレブリンA特異的エピトープが、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む領域である、前記剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症の有無や重症度を早期かつ簡便に判定することのできる判定方法や、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤及び/又は治療剤のスクリーニング方法や、該判定方法や該スクリーニング方法に用いるための抗体や、該判定方法を行うためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
認知症の主な原因であるアルツハイマー病は、不可逆的な進行性の脳疾患であり、脳におけるシナプスが機能不全に陥ることによって生じるとされている。アルツハイマー病患者の増加は、近年、大きな社会的関心事となっており、その早期診断方法や治療薬の確立が望まれている。アルツハイマー病患者の死後脳では老人斑が観察され、これは「アミロイドβ蛋白質」の凝集体(アミロイド斑)であることが知られている。アミロイドβ蛋白質の沈着が、病理学的に確認できる最も初期の病変であり、アミロイドβ蛋白質が凝集し、そして直接神経細胞毒性を示すことが報告されている。そして、家族性アルツハイマー病患者の遺伝子解析から、アミロイドβ蛋白質の産生及び蓄積の異常がアルツハイマー病の発症に広く関連しているということが現在広く受け入れられている。これは、アミロイドカスケード仮説と呼ばれている。このように、アミロイドβ蛋白質がアルツハイマー病の主原因であることは、数多くの研究により広く受け入れられている(非特許文献1)。また、脳へのアミロイドβ蛋白質の蓄積は、発症より20年以上前から始まっていることがわかっている。
【0003】
アルツハイマー病のほかにも、脳の血流の低下(うつ病など)、脳出血、脳梗塞などが原因となってシナプス機能不全が生じることがわかっている。さらに、ミトコンドリアの遺伝子疾患、糖尿病に由来する認知症なども知られている。また、薬物依存などでもシナプス機能不全が起こる場合もある。これらのシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病においても、シナプス機能不全によって認知機能が低下すると考えられているが、その診断は困難である。例えば、アルツハイマー病の診断は、死亡後に病理解剖を行うことによってのみ診断を確定することができ、生前の診断は質問式検査や画像検査によって行っているが、いずれも自覚症状が現れてからの診断となり、早期の治療開始ができていないのが実情である。また、脳脊髄液中のアミロイドβ42蛋白質の濃度低下によりアルツハイマー病の診断を行うことができるとの報告もあるが(非特許文献2)、侵襲性の高い検査であり高齢者への適用が難しいという問題点がある。また、現状用いられているアルツハイマー病の治療薬は、いずれも症状を抑える薬であり、根本治療につながる医薬品は存在しない。また、その他のシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病においても、質問式検査(うつ病、認知症等)や画像検査(脳出血等)に頼っており、簡便且つ早期に診断するための方法は存在しない。
【0004】
本発明者らは、発生過程の神経細胞に多量発現するアクチン結合タンパクドレブリン(Drebrin)を世界に先駆けて発見し(例えば、非特許文献3及び4参照)、このドレブリ
ンがアクチンファイバーの性状を変えることにより神経細胞の形態形成、特に突起形成に関わっていること(例えば、非特許文献5~7参照)や、発生中で移動している神経細胞では、細胞体と突起全体に存在するが、成熟した神経細胞では棘構造(樹状突起スパイン)中に特異的に存在すること(例えば、非特許文献8~10参照)を既に証明している。ドレブリンには、胚性型(embryonictype)のドレブリンEと成体型(adult type)のドレブリンAという2つのアイソフォームが存在しており(例えば、非特許文献4参照)、成熟した神経細胞の樹状突起スパインに特異的に見られるドレブリンAは、神経細胞にしか発現しないという特徴を有している(例えば、非特許文献9及び10参照)。本発明者らは、さらに、アルツハイマー病などの痴呆性疾患では樹状突起スパインのドレブリンが広範囲に消失していることを報告している(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】斉藤 貴志,西道 隆臣「アルツハイマー病のモデルマウス」日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144, 250-252,2014
【文献】J. Neurol. Sci. 148, 41-45, 1997
【文献】J. Neurochem. 44, 1210-1216, 1985
【文献】J. Biochem. 117, 231-236, 1995
【文献】J. Neurosci. Res. 38, 149-159, 1994
【文献】Exp. Cell Res. 215, 145-153, 1994
【文献】J. Biol. Chem. 269, 29928-29933, 1994
【文献】J. Neurosci. 15, 7161-7170, 1996
【文献】Dev. Brain Res. 29, 233-244, 1986
【文献】Brain Res. 413, 374-378, 1987
【文献】J Neurosci. Res. 43(1), 87-92, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、現状ではシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を早期かつ簡便に判定することはできていない。さらに、シナプス機能不全を直接的に治療することはできておらず、例えばアルツハイマー病の治療においても根本治療には至っておらず、対症療法を行っているのが現状である。本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症の有無や重症度を早期かつ簡便に判定することのできる判定方法を提供するとともに、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤、予防剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルツハイマー病などの痴呆性疾患では樹状突起スパインのドレブリンAが広範囲に消失しているという知見に基づいて、アルツハイマー病患者においてはドレブリンAが神経細胞から血液中に漏出していると考えた。そこで、血液中のドレブリンAを検出するため、常法に従い血液中の抗体を除去するためにプロテインA/Gビーズ処理を行い、その後、ドレブリンA及びドレブリンEを認識する抗ドレブリン抗体を用いてウェスタンブロッティング法に供したが、ドレブリンのバンドは確認できなかった。本発明者らは、血液試料のプロテインA/Gビーズによる沈降画分について念のため抗ドレブリン抗体を用いてウェスタンブロッティング法に供したところ、予想に反し、約130kDaの位置にドレブリンのバンドを確認することができた。このドレブリンのバンドがドレブリンAであるかどうか確認するため、血液試料のプロテインA/Gビーズによる沈降画分について抗ドレブリンA抗体でのウェスタンブロッティングを行ったところ、約130kDaのバンドはドレブリンA全長ではなくドレブリンEであったものの、抗ドレブリンA抗体により検出することのできる、ドレブリンA全長より小さい分子量のバンドを複数検出することができた。ここで検出されたバンドは、ドレブリンA遺伝子に特徴的なIns2配列の翻訳ペプチドを有するドレブリンAの断片、又はスプライスバリアントであると考えられた。本発明者らは、さらに検討を重ね、このようなドレブリンA関連タンパク質(DARPs:DrebrinA Related Proteins)がシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病に罹患した患者由来の生体試料には多く存在していることを見いだした。さらに、本発明者らは、DARPsが自己抗体を介してプロテインA/Gビーズに結合していることや、ドレブリンを認識する自己抗体が神経細胞を損傷し得ること、自己抗体による神経細胞の損傷を抑制することにより、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を治療又は予防し得ることを見いだした。本発明は、これらの知見により完成したものである。
【0008】
すなわち本発明は以下に関する。
〔1〕以下の工程(a-1)~(c-1)を備えたことを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、又は発症の有無の判定方法。
(a-1)被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;
(b-1)工程(a-1)で測定したDARPsの濃度を、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しない対照者におけるDARPsの濃度と比較する工程;
(c-1)工程(a-1)で測定したDARPsの濃度が、前記対照者におけるDARPsの濃度よりも高いとき、前記被験者は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を発症するリスクが高い、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を発症している可能性が高いと評価する工程;〔2〕以下の工程(a-2)~(c-2)を備えたことを特徴とするシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の重症度の判定方法。
(a-2)シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症している被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;
(b-2)工程(a-2)で測定したDARPsの濃度を、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症している対照者におけるDARPsの濃度と比較する工程;
(c-2)工程(a-2)で測定したDARPs及び/又はDARPs自己抗体の濃度が、前記対照者におけるDARPs及び/又はDARPs自己抗体の濃度よりも高いとき、前記被験者は、前記対照者よりもシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病が重症化している可能性が高いと評価する工程;
〔3〕以下の工程(a-3)~(c-3)を備えたことを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法。
(a-3)被検物質を投与したシナプス機能不全モデル非ヒト動物から採取された試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;
(b-3)工程(a-3)で測定したドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物におけるドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度と比較する工程;
(c-3)工程(a-3)で測定したドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度が、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物におけるドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度よりも低いとき、前記被検物質は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療に有効であると評価する工程;
〔4〕以下の工程(a-4)~(d-4)を備えたことを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法。
(a-4)シナプス機能不全モデル培養細胞に被検物質を投与し、培養する工程;
(b-4)前記シナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;
(c-4)工程(b-4)で測定したDARPsの濃度を、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のDARPsの濃度と比較する工程;
(d-4)工程(b-4)で測定したDARPsの濃度が、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のDARPsの濃度よりも低いとき、前記被検物質は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療に有効であると評価する工程;
〔5〕生体試料が、脳脊髄液試料又は血液試料であることを特徴とする上記〔1〕~〔3〕に記載の方法。
〔6〕DARPsが、DARP40、DARP60、DARP70、DARP90、及びDARP100から選択される1又は2種以上であることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕に記載の方法。
〔7〕シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病が、神経変性疾患であることを特徴とする上記〔1〕~〔6〕に記載の方法。
〔8〕神経変性疾患が、アルツハイマー病、大脳皮質基底核症候群、パーキンソン病、脊髄小脳変性症及び筋萎縮性側索硬化症から選択されることを特徴とする上記〔7〕に記載の方法。
〔9〕DARPsの濃度が、ドレブリンA特異的エピトープを認識する抗体を用いて測定されることを特徴とする上記〔1〕~〔8〕に記載の方法。
〔10〕ドレブリンA特異的エピトープを認識することを特徴とする上記〔9〕に記載の方法に用いるための抗体。
〔11〕上記〔10〕に記載の抗体を含むことを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、発症の有無、又は重症度の判定用キット。
〔12〕ドレブリンA関連タンパク質(DARPs)自己抗体に対するドミナントネガティブペプチドを探索することを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法。
【0009】
また本発明の実施の他の形態として、
被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程(a-1)を備えた、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、又は発症の有無の判定方法;や、
シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症している被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程(a-2)を備えた、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の重症度の判定方法;や、
1又は2以上のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)からなる、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、又は発症の有無の判定用、或いはシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の重症度の判定用バイオマーカー;や、
被検物質を投与したシナプス機能不全モデル非ヒト動物から採取された試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程(a-3)を備えた、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法;や、
上記工程(a-4)及び(b-4)を備えた、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法;や、
上記工程(a-1)~(c-1)を備えた、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、又は発症の有無を診断するためのデータを収集する方法;や、
上記工程(a-2)~(c-2)を備えた、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の重症度を診断するためのデータを収集する方法;や、
上記工程(a-3)~(c-3)を備えた、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤の有効性を判定する方法;や、
上記工程(a-4)~(d-4)を備えた、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤の有効性を判定する方法;や、
ドレブリンA関連タンパク質(DARPs)自己抗体に対するドミナントネガティブペプチドを含む、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の判定方法によれば、これまで質問式検査(うつ病、認知症等)や画像検査(脳出血等)に頼っていたシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症の有無や重症度を早期かつ簡便に判定することができるため、これらの疾病の発症を予防したり、早期治療することにつながる。さらに、DARPsや抗DARPs自己抗体は、予防剤、治療剤のスクリーニング指標にもなるものであり、創薬研究に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】上段:実施例1の、ビーズ吸着画分(Beads Absorbed)、血漿(Plasma)及びプレクリア血漿(preclear plasma)をウェスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。下段:実施例1の、各IP画分をウェスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。
【
図2】実施例1の、ビーズ吸着画分に対して種々の抗ドレブリン抗体(M2F6、28D8、3D9、22G5、17C3、33A4:自家製)及び抗ドレブリンA抗体(4C2:自家製;DAS2:免疫生物学研究所)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。
【
図3】実施例2の、アルツハイマー病患者2名(AD01、AD02)、大脳皮質基底核症候群患者1名(CBS)、パーキンソン病患者1名(PD01)、健常65歳男性(Healthy)より血液試料を取得し、プロテインA/Gビーズの吸着画分に対して抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。
【
図4】実施例2の、AD02とコントロール血漿(Ctrl)を用い、ウェスタンブロッティングによりDARPsの検出を行った結果を示す図である。DARP40、DARP60、DARP70、DARP90、DARP100のいずれのDARPも、AD02において濃度が上昇していた。
【
図5】実施例2の、アルツハイマー病患者2名(AD01、AD02)、大脳皮質基底核症候群患者1名(CBS)、パーキンソン病患者1名(PD01)、健常65歳男性(Healthy)より血液試料を取得し、プロテインA/Gビーズの吸着画分に対して抗ドレブリン抗体3D9(自家製)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。
図3と異なり、サンプル間での差が見いだせなかった。
【
図6】実施例3の、アルツハイマー病患者3名(GHAD01~03、いずれも軽度の認知症)、筋萎縮性側索硬化症患者1名(ALS01)、脊髄小脳変性症患者1名(SCD01)、及びうつ病患者1名(Dep01)より脳脊髄液試料を取得し、プロテインA/Gビーズの吸着画分に対して抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。
【
図7】実施例4の、表1に記載の6名のアルツハイマー病患者について、脳脊髄液試料中のDARPsをウェスタンブロッティングにより検出した結果を示す図である。
【
図8】実施例5の、GFPタグを付加したヒトドレブリンA(GFP-hDA)をSDS-PAGEに供し、抗ドレブリン抗体(3D9:自家製)(左)及びアルツハイマー病患者由来の血漿(ADplasma)(右)を一次抗体としてウェスタンブロッティングにより検出した結果を示す図である。
【
図9】実施例5の、抗ドレブリン抗体(22G5:自家製)が、ラット海馬培養細胞に対して毒性を有し得るかを確認した結果を示す図である。(A)は、22G5処理を行ったラット海馬培養細胞を示し、(B)は、正常マウスIgG処理を行ったラット海馬培養細胞を示す。
【
図10】実施例6の、培養ラット大脳皮質細胞に、DARPsが存在することを確認したウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、以下の工程(a-1)被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;(b-1)工程(a-1)で測定したDARPsの濃度を、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しない対照者におけるDARPsの濃度と比較する工程;及び(c-1)工程(a-1)で測定したDARPsの濃度が、前記対照者におけるDARPsの濃度よりも高いとき、前記被験者は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を発症するリスクが高い、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を発症している可能性が高いと評価する工程;を含むシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、又は発症の有無の判定方法(以下、「本件判定方法1」ということがある)や、
以下の工程(a-2)シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症している被験者から採取された生体試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;(b-2)工程(a-2)で測定したDARPsの濃度を、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症している対照者におけるDARPsの濃度と比較する工程;及び(c-2)工程(a-2)で測定したDARPs及び/又はDARPs自己抗体の濃度が、前記対照者におけるDARPs及び/又はDARPs自己抗体の濃度よりも高いとき、前記被験者は、前記対照者よりもシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病が重症化している可能性が高いと評価する工程;を含むシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の重症度の判定方法(以下、「本件判定方法2」ということがある。また、本件判定方法1と本件判定方法2を総称して、以下、「本件判定方法」ということがある)であれば特に制限されない。ここで、「重症度」とは、シナプスの障害の進み方が速い急性増悪期を含む。一態様において、本件判定方法は、医師によるシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスクの診断、又は発症の有無や重症度の診断を補助する方法であって、医師による診断行為を含まないこともある。
【0013】
また、本発明は、以下の工程(a-3)被検物質を投与したシナプス機能不全モデル非ヒト動物から採取された試料中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;(b-3)工程(a-3)で測定したドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物におけるドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度と比較する工程;及び(c-3)工程(a-3)で測定したドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度が、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物におけるドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度よりも低いとき、前記被検物質は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療に有効であると評価する工程;を含むシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法(以下、「本件スクリーニング方法1」ということがある)や、以下の工程(a-4)シナプス機能不全モデル培養細胞に被検物質を投与し、培養する工程;(b-4)前記シナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のドレブリンA関連タンパク質(DARPs)の濃度を測定する工程;(c-4)工程(b-4)で測定したDARPsの濃度を、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のDARPsの濃度と比較する工程;及び(d-4)工程(b-4)で測定したDARPsの濃度が、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル培養細胞の培養液中のDARPsの濃度よりも低いとき、前記被検物質は、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療に有効であると評価する工程;を含むシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法(以下、「本件スクリーニング方法2」ということがある。また、本件スクリーニング方法1と本件スクリーニング方法2を総称して、以下、「本件スクリーニング方法」ということがある)であれば特に制限されない。
【0014】
本発明は、脳に局在するヒトドレブリンA(配列番号1)の断片、若しくはスプライスバリアントであるドレブリンA関連タンパク質(DARPs:Drebrin ARelated Proteins)が、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病に罹患した患者由来の生体試料に多く存在していることを初めて見いだしたことにより完成したものである。本発明において、DARPsとは、ドレブリンAに特徴的なIns2翻訳配列RPYCPFIKASDSGPSSSSSSSSSPPRTPFPYITCHRTPNLSSSLPC(配列番号2)の少なくとも一部を有するドレブリンAの断片若しくはスプライスバリアントであればよく、好ましくは分子量約100kDaのDARP100、分子量約90kDaのDARP90、分子量約70kDaのDARP70、分子量約60kDaのDARP60、及び分子量約40kDaのDARP40を例示することができる。DARPsは、単独で本件判定方法や本件スクリーニング方法に用いることもでき、1又は2以上のDARPsの組み合わせで本件判定方法や本件スクリーニング方法に用いることもできる。また、DARPsの総濃度を測定し、本件判定方法や本件スクリーニング方法に用いることもできる。
【0015】
本発明において、DARPs濃度は、公知のいかなる方法で測定することができる。好ましい態様において、DARPs濃度は、DARPsを認識する抗体(以下「抗DARPs抗体」ということがある)を用いたウェスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme-LinkedImmuno Sorbent Assay)法、免疫沈降等により測定される。抗DARPs抗体としては、DARPsの一部をエピトープとする抗体であればモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよく、1種で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、全身に存在するドレブリンEと区別するために、ドレブリンA特異的エピトープを認識する抗体を用いて測定されることが好ましい。一態様において、本発明は、本件判定方法及び/又は本件スクリーニング方法に用いるための、ドレブリンA特異的エピトープを認識する抗体(以下、「本件抗体」ということがある)に関する。ここで、「ドレブリンA特異的エピトープ」とは、ドレブリンEには存在せず、ドレブリンAに存在するエピトープを意味し、好ましくはIns2翻訳配列RPYCPFIKASDSGPSSSSSSSSSPPRTPFPYITCHRTPNLSSSLPC(配列番号2)の、少なくとも一部を含む領域、及び/又は、ドレブリンAがIns2翻訳配列を含むために作られる特異的立体構造である。
【0016】
ウェスタンブロッティング法やELISA法を行う場合、一次抗体として抗DARPs抗体を用い、一次抗体を認識する標識化二次抗体により検出する方法を好ましく使用することができる。例えば、一次抗体がラビット抗体である場合は標識化抗ラビットIgG抗体を、一次抗体がマウス抗体である場合は標識化抗マウスIgG抗体を、二次抗体として用いることができる。
【0017】
上記標識化二次抗体における標識物質としては、酵素、放射線同位元素、蛍光物質、発光物質、金コロイド等が挙げられる。これらのうち、感度及び操作の簡便さの観点から酵素が好ましく、西洋わさび過酸化酵素(HRP)、アルカリフォスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ(GOD)等がより好ましい。標識物質としてHRPを用いる場合はTMB(3,3’, 5, 5’-テトラメチルベンジジン)等を、APを用いる場合はAMPPD(3-(2'-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3''-ホスホリ
ルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)、9-(4-クロロフェニルチオホスホリルオキシメチリデン)-10-メチルアクリダン二ナトリウム塩等を基質として使用することができる。また、標識物質としては、他にFITC(fluoresceinisothiocyanate)、ローダミン等の蛍光色素等も使用することができる。
【0018】
DARPsの検出・定量方法は、標識の方法によって異なり、当業者に周知慣用の方法で行うことができる。例えば、標識物質としてHRP、AP、GOD等を用いた場合は、発色基質や発光基質を添加し、吸光度や発光強度を測定して測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として蛍光物質を用いた場合は、その蛍光強度を測定することで測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として放射性同位元素を用いた場合は、放射能を測定することで測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として金コロイドを用いた場合は、吸光度を測定することで測定対象物質を定量することができる。定量の際は、例えば、予め既知のDARPs濃度の試料で検量線(標準曲線)を作成しておき、測定値を検量線に照合して試料中のDARPs濃度を算出し、本件判定方法又は本件スクリーニング方法における比較に用いてもよいが、DARPs濃度を算出せず、吸光度、放射能、発光強度を直接本件判定方法又は本件スクリーニング方法における比較に用いてもよい。ここで、本件判定方法において、被験者におけるDARPs濃度(上記算出したDARPs濃度や、吸光度、放射能、発光強度)が、対照者におけるDARPs濃度(上記算出したDARPs濃度や、吸光度、放射能、発光強度)よりも高いか否か、或いは低いか否かを評価(判定)するために、閾値(カットオフ値)は任意のものを設定することができ、かかる閾値としては、例えば、対照者におけるDARPs濃度の平均値、平均値+標準偏差(SD)、平均値+2SD、平均値+3SD、平均値-SD、平均値-2SD、平均値-3SD、中央値、中央値+SD、中央値+2SD、中央値+3SD、中央値-SD、中央値-2SD、中央値-3SD等を挙げることができる。また、本件スクリーニング方法において、被検物質を投与したシナプス機能不全モデル非ヒト動物又はシナプス機能不全モデル培養細胞におけるDARPs濃度(上記算出したDARPs濃度や、吸光度、放射能、発光強度)が、前記被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物又はシナプス機能不全モデル培養細胞におけるDARPs濃度(上記算出したDARPs濃度や、吸光度、放射能、発光強度)よりも高いか否か、或いは低いか否かを評価(判定)するために、閾値(カットオフ値)は任意のものを設定することができ、かかる閾値としては、例えば、被検物質を投与しないシナプス機能不全モデル非ヒト動物又はシナプス機能不全モデル培養細胞におけるDARPs濃度の平均値、平均値+標準偏差(SD)、平均値+2SD、平均値+3SD、平均値-SD、平均値-2SD、平均値-3SD、中央値、中央値+SD、中央値+2SD、中央値+3SD、中央値-SD、中央値-2SD、中央値-3SD等を挙げることができる。
【0019】
本発明において、生体試料とは、被験者や対照者から採取した体液を意味する。ここで、体液には、血液、リンパ液、組織液、体腔液、脳脊髄液等を挙げることができ、中でも脳脊髄液や血液が好ましい。血液には、血清、血漿等が含まれる。生体試料は、そのままDARPs濃度の測定に供してもよいが、好ましくは測定前に、DARPsの検出感度を高めるための前処理が施される。前処理の方法としては、生体試料中の測定対象タンパク質の検出感度を高める方法であればよく、例えば抗DARPs抗体を用いた免疫沈降を挙げることができる。また、本発明者らは、生体試料中をプロテインA/Gビーズで処理し、ビーズに吸着した画分を本件判定方法や本件スクリーニング方法に供することで、DARPsの検出感度を高めることに成功した。プロテインA/Gビーズ処理は、免疫沈降に先立って、自己抗体によるバックグラウンドを低減することを目的として行うものであり、本来目的タンパク質はプロテインA/Gビーズ処理後のフロースルー画分から検出される。本発明者らによる、DARPsがプロテインA/Gビーズに吸着するとの発見は、予想外な発見であるだけでなく、生体試料中に抗DARPs自己抗体が存在することを示唆するものである。本発明者らは、さらなる検討により生体試料中に抗DARPs自己抗体が存在することを確認し、さらに抗DARPs自己抗体が脳神経細胞を損傷し得ることを見いだした。これらの発見は、抗DARPs自己抗体に対するドミナントネガティブペプチドが、抗DARPs自己抗体による脳神経細胞の損傷を抑制し、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病を治療及び/又は予防し得ることを示すものである。したがって、一態様において、本発明は、抗DARPs自己抗体に対するドミナントネガティブペプチドを探索することを特徴とするシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニング方法に関する。
【0020】
本発明において、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病とは、シナプス機能不全、すなわちシナプスにおける情報伝達に障害が生じることによって発症する疾病(アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、大脳皮質基底核変性症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症等)や、疾病の発症後にシナプス機能不全が生じる疾病(脳出血、脳梗塞、脳腫瘍等)を意味する。脳の血流の低下によって生じるうつ病や、薬物依存、ミトコンドリアの遺伝子疾患、糖尿病等も、シナプス機能不全を付随し、認知機能が低下することが知られており、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病に包含される。さらに、脳への外傷が生じた場合の後遺症の評価にも、本件判定方法を用いることができる。好ましくは、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病とは神経変性疾患を意味し、中でもアルツハイマー病、大脳皮質基底核症候群、パーキンソン病、脊髄小脳変性症及び筋萎縮性側索硬化症から選択される神経変性疾患が好ましい。
【0021】
本件判定方法1における被験者としては、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスクを判定する場合、通常、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しておらず、かつ、将来シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症するか否かが不明な被験者を挙げることができ、また、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症の有無を判定する場合、通常、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しているか否かが不明な被験者を挙げることができ、好ましくは、本発明の発症リスクの判定方法により、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症するリスクが高いと評価(判定)された者である。本件判定方法1における対照者とは、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症するリスクが低いか或いはほとんど無い、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症していない健常者を意味する。また、上記閾値の設定に当たっては、(i)DARPs濃度を測定済みの全ての健常者、又は無作為に抽出した健常者、(ii)被験者と同じ年齢又は年齢範囲の健常者(脳内ドレブリン量は年齢とともに減少する)及び(iii)疾病発症前の被験者、のうちのいずれか1種以上を対照者とすることができる。これらの対照者のDARPs濃度より設定した閾値を使って、シナプス機能不全の急性増悪期を見分けてもよい。
【0022】
本件判定方法2における被験者としては、例えば、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しているものの、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の重症度が不明な被験者を挙げることができる。本件判定方法2における対照者とは、例えば、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病を発症しており、且つ重症度の判定がされている患者を意味する。ここで、「重症度の判定がされている患者」とは、公知の診療ガイドラインに基づいて重症度の判定がされている患者であってもよい。公知の診療ガイドラインとしては、対象疾患の診療ガイドラインを用いることが望ましく、例えば認知症の診療ガイドライン、脳出血・脳梗塞の診療ガイドライン等を挙げることができる。例えば、アルツハイマー病における認知症では、問診等で認知症を初期、中期、後期等に分けているが、血漿中のDARPsは発症初期から中期にかけて最大になると考えられる。実際、後期に神経細胞死が広範に起きた後(重症な認知症患者)ではDARPsがむしろ少なくなることが示されている(実施例2のAD01の患者)。また、脳出血では、出血が起きてしばらくはDARPsが高くなり、時間がたって、慢性期になると低くなって一定の値を取るようになると考えられる。このように、対象疾患によって、対照者のDARPsの変化と重症度の関係は異なるため、適切な診療ガイドラインにより重症度の判定を行うことが好ましい。
【0023】
本件スクリーニング方法1におけるシナプス機能不全非ヒト動物としては、シナプス機能不全を自然に生じた非ヒト動物であってもよいし、シナプス機能不全の発症を誘導した非ヒト動物であってもよい。シナプス機能不全を誘導した非ヒト動物とは、具体的には、上記シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病のモデル非ヒト動物であってもよい。上記非ヒト動物としては、マウスの他、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の非ヒト哺乳動物を例示することができる。
【0024】
本件スクリーニング方法2におけるシナプス機能不全モデル培養細胞としては、シナプス機能不全を自然に生じた培養細胞であってもよいし、シナプス機能不全を誘導した培養細胞であってもよい。シナプス機能不全の発症を誘導した培養細胞とは、具体的には、上記シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病のモデル培養細胞であってもよい。上記培養細胞としては、好ましくは培養神経細胞を例示することができ、ヒトに由来する培養細胞の他、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の非ヒト哺乳動物に由来する培養細胞を例示することができる。
【0025】
一態様において、本発明は、本件抗体を含むシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の発症リスク、発症の有無、又は重症度の判定用キット(以下、「本件キット」ということがある)に関する。好ましい態様において、本件キットは、本件判定方法に用いるためのキットである。本件キットは、本件抗体の他に、被験者から生体試料を取得するための手段や、本件抗体を認識する標識化二次抗体や、手順や診断基準を記載した添付文書を含んでもよい。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
1.血液試料からのDARPsの検出
本発明者らは、アルツハイマー病患者の血漿中にドレブリンが存在していると考え、血漿に対して抗ドレブリン抗体を用いてウェスタンブロッティングを行ったが、ドレブリンを検出することはできなかった。そこで、血漿に夾雑している抗体成分を除去することを目的としてプロテインA/Gビーズ処理を行い、ウェスタンブロッティングに供した。
【0028】
実験手順は、以下のとおりである。
(1)血漿1.8mlとプロテインA/Gビーズ(Protein A/G PLUS-Agarose:サンタクルズ社製)200μlを懸濁して4℃で1時間ローテーターで反応(プレクリア)させた。
(2)遠心して上清(preclear plasma:プレクリア血漿)と沈査(Beads Absorbed:ビ
ーズ吸着画分)を調製。
(3)ビーズ吸着画分にSDSサンプルバッファー30μlを加えて熱変性して溶出した。
(4)遠心した上清(preclear plasma:プレクリア血漿)の一部はInput用に保存
、残りのプレクリア血漿と4種類の抗体(抗ドレブリン抗血清DEp:自家製;ドレブリンA及びEを認識する抗ドレブリンモノクローナル抗体28D8と3D9:自家製;コントロールIgG:富士フイルム和光純薬株式会社製)をそれぞれ混合してo/nで反応(IP:免疫沈降)。
(5)o/nで反応させた上記(4)のIPチューブに、さらにプロテインA/Gビーズ30μlを懸濁して4℃で1時間ローテーターで反応させ、その後ビーズを洗浄して、ビーズ画分にSDSサンプルバッファー30μlを加えて熱変性して溶出(IP、免疫沈降画分)。
(6)各サンプル(上段:Beads absorbed、Plasma、Preclear Plasma;下段:各IP画
分)をウェスタンブロットで解析(検出用抗体はモノクローナル抗体28D8と3D9のmixtureを使用した)
【0029】
結果を
図1に示す。免疫沈降を行った下段のウェスタンブロットではドレブリンが検出できなかったのに対し、プレクリアに用いたプロテインA/Gビーズの吸着画分(Beadsabsorbed)からは、予想に反してドレブリンのバンドを確認することができた(上段、矢印)。そこで、かかるバンドが、全身に存在するドレブリンEか、脳のシナプスに局在するドレブリンAかを確認するため、プロテインA/Gビーズの吸着画分に対してドレブリンA及びEの両方を認識する種々の抗ドレブリン抗体(M2F6、28D8、3D9、22G5、17C3、33A4:自家製)及びドレブリンAにおいてIns2の少なくとも一部を含む領域を認識する抗ドレブリンA抗体(4C2、自家製;DAS2:免疫生物学研究所)を用いてウェスタンブロッティングを行ったところ、約130kDaのドレブリン全長のバンドはドレブリンA特異的抗体である4C2やDAS2では染色されず、ドレブリンEのバンドであることがわかった(
図2)。このドレブリンEは、腎腫瘍に由来すると考えられた。一方で、ドレブリンEのバンドよりも低分子量側に、抗ドレブリンA抗体である4C2やDAS2でも染まるドレブリンAの断片又はスプライスバリアントであると考えられるバンドが複数見いだされた。これらを、ドレブリンA関連タンパク質(DrebrinA Related Proteins、DARPs)と命名した。なお、
図2において、ドレブリンEと、DARPsのうち分子量約40kDaのDARP40を矢印で示す。DARP40は、コントロールIgGやドレブリンの汎用抗体であるM2F6では明確に染色されず、本発明者らが初めて見いだしたものである。ドレブリンAは脳の樹状突起スパインに局在していることから、DARPsが、アルツハイマー病患者において損傷した樹状突起スパインから漏出して、血液脳関門を通過して血液中に移行することが示唆された。
【実施例2】
【0030】
2.血液試料中DARPsの診断バイオマーカーとしての使用
実施例1より、DARPsがアルツハイマー病患者において損傷した樹状突起スパインから漏出したものであると考えられた。その他のシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病においても、損傷した樹状突起スパインからDARPsが漏出し、血液中に移行する可能性がある。そこで、血液試料中DARPsが、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の診断バイオマーカーとして使用し得るかを確認するため、以下の実験を行った。
【0031】
アルツハイマー病患者2名(AD01(発症後5年経過、腎腫瘍あり)、AD02(発症後3年、MMSE21点))、大脳皮質基底核症候群患者1名(CBS)、パーキンソン病患者1名(PD01)、健常65歳男性(Healthy)より血液試料を取得し、実施例1と同様にプロテインA/Gビーズの吸着画分をウェスタンブロッティングに供した。検出は、抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いて行った。
【0032】
結果を
図3に示す。いずれの血液試料からもDARPsのバンドが多数見いだされた。確認できたDARPsを、分子量に応じて、DARP40、DARP60、DARP70、DARP90、DARP100と命名した。AD01を除く疾患患者由来の血液試料では、健常65歳男性(Healthy)よりもDARPs濃度が増加していた。さらに
図4に示すように、AD02とコントロール血漿(Ctrl:コージン・バイオ(KJB)社製、正常ヒト血漿・プール EDTA-2Na、ロット:HMN389081)を用い、同様の手順によ
りDARPsの検出を行ったところ、DARP40、DARP60、DARP70、DARP90、DARP100のいずれのDARPも、AD02において濃度が上昇していた。したがって、これらのDARPsが、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の診断バイオマーカーとして使用し得ることが示された。一方で、AD01ではDARPs濃度がHealthyよりも低かった(
図3)。これは、神経細胞死が起きて、痴呆の最終段階(タウが高く、MMSEの点数が悪い)に進んでしまったような慢性期のAD患者では、急性増悪期のようなDARPsの急速な漏出は起こっておらず、DARPs濃度が低くなっていると考えられた。
【0033】
さらに、
図3と同じサンプルを、ドレブリンA及びEの両方を認識する抗ドレブリン抗体3D9(自家製)で染色したところ、疾患患者と健常65歳男性(Healthy)とでバンドの濃さに差が見られなかった(
図5)。ここでの結果より、ドレブリンEに由来するドレブリン関連タンパク質は診断バイオマーカーとして使用できないこと、及び、ドレブリンAにおいてIns2の少なくとも一部を含む領域を認識する抗体(DAS2等)が、疾患の診断に使用し得ることが示された。
【実施例3】
【0034】
3.脳脊髄液試料中DARPsの診断バイオマーカーとしての使用
実施例2より、血液試料中のDARPsが、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の診断バイオマーカーとして使用し得ることが確認できた。DARPsは脳に局在するドレブリンAに関連するため、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の患者においては脳脊髄液中にもDARPsが多く存在すると考えられる。そこで、脳脊髄液試料中DARPsが、シナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の診断バイオマーカーとして使用し得ることを確認するため、以下の実験を行った。
【0035】
アルツハイマー病患者3名(GHAD01~03、いずれも軽度の認知症)、筋萎縮性側索硬化症患者1名(ALS01)、脊髄小脳変性症患者1名(SCD01)、及びうつ病患者1名(Dep01)より脳脊髄液試料を取得し、血液試料に代えて脳脊髄液試料を用いたほかは実施例2と同様にプロテインA/Gビーズの吸着画分をウェスタンブロッティングに供した。検出は、抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いて行った。
【0036】
結果を
図6に示す。いずれの脳脊髄液試料からもDARPsのバンドが多数見いだされ、血液試料と同様に、DARP40、DARP60、DARP70、DARP90、DARP100が確認できた。神経変性疾患であるアルツハイマー病患者2名(GHAD01及び03)、筋萎縮性側索硬化症患者1名(ALS01)、脊髄小脳変性症患者1名(SCD01)では、うつ病患者1名(Dep01)よりDARPs濃度が多かった。また、同じアルツハイマー病に罹患した患者であっても、GHAD01及び03の比較から示されるようにDARPs濃度に差があることから、DARPs濃度が疾患の重症度(樹状突起スパインの損傷度合い)を反映し得ることが示唆された。一方で、GHAD02は、うつ病患者1名(Dep01)と同程度のDARPs濃度であった。GHAD02はAD進行が慢性期に移行しており、急性増悪期のようなDARPsの急速な漏出は起こっておらず、DARPs濃度が低くなっていると考えられる。また、うつ病患者におけるDARPs濃度は他の神経変性疾患と比較して少なかったが、うつ病から認知機能障害に移行する場合があることに鑑みると、うつ病患者においてもDARPs濃度の上昇により認知機能障害への移行を評価できると考えられる。
【実施例4】
【0037】
4.アルツハイマー病患者の他の指標とDARPs量との関係
実施例3より、脳脊髄液試料中DARPsが、アルツハイマー病の診断バイオマーカーとして使用できることが示された。一方で、アルツハイマー病が進行して慢性期に移行した患者では、急性増悪期のようなDARPsの急速な漏出は起こっておらず、DARPs濃度が低くなると考えられる。そこで、以下の表1に記載の6名のアルツハイマー病患者について、実施例3と同様に脳脊髄液試料中のDARPsをウェスタンブロッティングにより検出した。なお、表中「TAU↑」は、タウの濃度が高くタウ蓄積に至っていることを意味し、「Aβ↑」は、アミロイドβの濃度が高くアミロイドβ蓄積に至っていることを意味する。
【0038】
【0039】
結果を
図7に示す。全ての患者由来の脳脊髄液試料からDARP100、DARP70及びDARP40を確認できた。タウ蓄積に至っていない増悪期の患者(症例番号1107~1110)でDARPs濃度が高かったが、タウが最も高い症例登録番号1111の患者ではDARPs濃度が低かった。ここでの結果からも、アルツハイマー病が進行して慢性期に移行した患者では、DARPs濃度が低くなることが示された。
【実施例5】
【0040】
5.DARPs自己抗体の存在確認及び神経細胞毒性の検証
実施例1より、DARPsが、抗体(IgG、IgA)への結合能を有するプロテインA/Gビーズに吸着することが示された。かかる吸着が、DARPsが直接プロテインA/Gビーズに吸着しているのか、血液試料中のDARPs自己抗体を介したものかどうかを確認するために、GFPタグを付加したヒトドレブリンA(GFP-hDA:HEK293で発現させ、SDSバッファーでホモゲナイズしたサンプル)をSDS-PAGEに供し、抗ドレブリン抗体(3D9:自家製)及びアルツハイマー病患者由来の血漿(ADplasma)を一次抗体として検出した。
【0041】
結果を
図8に示す。
図8左の3D9で検出した場合と、
図8右のアルツハイマー病患者由来の血漿(AD plasma)で検出した場合とで、同じ位置(図中矢印)にバンドを確認す
ることができた。この結果より、アルツハイマー病患者由来の血漿にはドレブリンAを認識することができる自己抗体が存在していることが明らかになった。DARPsは、該自己抗体を介してプロテインA/Gビーズに吸着していたと考えられる。
【0042】
脳脊髄液のDARPsもプロテインA/Gビーズに吸着することから、抗DARPs自己抗体は、脳脊髄液にも存在していると考えられる。そこで、抗DARPs自己抗体が、脳の神経細胞に毒性を有し得るかを確認するために、抗ドレブリン抗体(22G5:自家製)又は市販の正常マウスIgG(富士フイルム和光純薬株式会社製)をDIV23(インビトロでの培養日数)のラット海馬培養細胞(自家製)に投与して1時間インキュベート後にPBSで洗浄して固定後、抗MAP2抗体(アブカム社製)と反応させて、抗マウスIgG-Alexa568(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で22G5及び正常マウスIgGを可視化し、抗ウサギIgG-Alexa488(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)でMAP2を可視化することで、抗ドレブリン抗体の神経細胞への影響を検証した。
【0043】
結果を
図9に示す。市販の正常マウスIgG(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1時間投与して洗浄して固定したラット海馬培養細胞は、マウスIgG(赤色。検出されず)は細胞内に取り込まれておらず、正常細胞と同様なMAP2の染色(緑色)が認められた(
図9B)。一方、抗ドレブリン抗体(22G5)を1時間投与して洗浄して固定した
培養神経細胞では、22G5は細胞体や一部の樹状突起に入り込んでいる像(赤色)が認められた。さらに、22G5を取り込んだ領域では微小管に異常が生じ正常のMAP2の染色(緑色)が消失していた(
図9A)。ここでの結果より、DARPs自己抗体がシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症により体内に多量に生産されると、脳の神経細胞を損傷し、病状をさらに進行させることが示唆された。したがって、DARPs自己抗体による脳神経細胞損傷作用を抑制するドミナントネガティブペプチドは、脳の神経細胞損傷を抑制することのできる上記疾病の治療剤及び/又は予防剤の候補化合物になると考えられる。
【実施例6】
【0044】
6.ラット神経細胞におけるDARPsの存在確認
疾患モデル動物や、疾患モデル動物由来の培養神経細胞が、疾患の治療剤、予防剤のスクリーニングに使用し得るかを確認するため、以下の手順によりラット神経細胞にDARPsが存在するか検証した。
(1)DIV8(インビトロでの培養日数)の培養ラット大脳皮質細胞を2dish分(60mm dish)、PBSで回収してソニケーションを行い細胞を破砕した。
(2)15000rpmで20min遠心後、上清を回収した(
図10左レーン、Input)。
(3)免疫沈降は、上清に抗ドレブリン抗体(28D8:自家製)とプロテインA/Gビーズ30μlを加えてRotate(1時間)、その後ビーズはPBSで3回洗浄(PBSを加えて混和して、1500gで10秒遠心して上清を除く)して、SDSバッファー50μlで結合物を溶出した(
図10中央レーン、28D8 IP)。
(4)ネガティブコントロールとして上清にプロテインA/Gビーズ30μlを加えてRotate(1時間)、その後ビーズはPBSで3回洗浄(PBSを加えて混和して、1500gで10秒遠心して上清を除く)して、SDSバッファー50μlで結合物を溶出した(
図10右レーン、A/G beads)。
(5)得られた各画分をウェスタンブロッティングに供した。検出は、抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いて行った。
【0045】
結果を
図10に示す。抗ドレブリン抗体により免疫沈降した画分にDARPsのバンドを確認することができ、ヒト以外のドレブリンを有する動物や、その培養細胞においてもDARPsが存在することが明らかになった。ここでの結果より、シナプス機能不全により細胞外(培養液中)に漏出するDARPsの濃度変化を、シナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の予防剤、又はシナプス機能不全に起因する、若しくはシナプス機能不全を付随する疾病の治療剤のスクリーニングの指標として使用し得ることが示された。
【実施例7】
【0046】
7.アルツハイマー病モデルマウスにおけるDARPsの存在確認
本発明者らは、5xFADマウス(家族性アルツハイマー病の遺伝子を5個持つマウス)とドレブリンノックアウトマウス(ホモ)を掛け合わせることにより5xFAD遺伝子とドレブリン遺伝子(+/-)をヘテロに持つマウス(5xFAD/DXKO+/-)を報告している(特願2019-185245)。このマウスから血液試料を取得し、実施例1と同様にプロテインA/Gビーズの吸着画分をウェスタンブロッティングに供した。検出は、抗ドレブリンA抗体DAS2(免疫生物学研究所)を用いて行ったところ、5xFAD/DXKO+/-のDARP100濃度が野生型マウスよりも高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の判定方法によれば、これまで質問式検査(うつ病、認知症等)や画像検査(脳出血等)に頼っていたシナプス機能不全に起因する、又はシナプス機能不全を付随する疾病の発症の有無や重症度を早期かつ簡便に判定することができるため、これらの疾病の発症を予防したり、早期治療することにつながる。さらに、DARPsや抗DARPs自己抗体は、予防剤、治療剤のスクリーニング指標にもなるものであり、創薬研究に資することができる。
したがって、本発明の、医療・製薬分野における産業上の利用可能性は極めて高い。
【配列表】