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特許7620349性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニスト及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニスト及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/54 20060101AFI20250116BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 5/04 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 15/18 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C07D239/54 CSP
A61K31/513
A61P1/04
A61P5/04
A61P13/08
A61P15/00
A61P15/06
A61P15/18
A61P25/20
A61P25/28
A61P35/00
A61P37/02
A61P43/00 111
A61P17/14
A61P17/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023506363
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 CN2021094748
(87)【国際公開番号】W WO2021213538
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514092032
【氏名又は名称】石家庄以嶺薬業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHIJIAZHUANG YILING PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.238 Tianshan Street, High-Tech Development Zone Shijiazhuang, Hebei 050035(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】劉国強
(72)【発明者】
【氏名】劉偉
(72)【発明者】
【氏名】王延東
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-088902(JP,A)
【文献】特表2007-521308(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189212(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/224063(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学構造式が式Iで表される化合物、又はその薬学的に許容可能な塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、シス-トランス異性体又は立体異性体、結晶又は溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物の調製方法であって、
式1-12の化合物を加水分解して式Iの化合物を調製して得ることを含み、反応式が下記の通りである調製方法。
【化2】
【請求項3】
前記加水分解反応は、塩基が存在する条件で実施可能であることを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、シス-トランス異性体又は立体異性体、結晶又は溶媒和物の、薬物の製造における使用。
【請求項5】
前記薬物は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニストから選択されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記薬物は、性腺ホルモンに関連する疾患を治療するための薬物から選択されることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記性腺ホルモンに関連する疾患は、子宮内膜症、閉経、月経不順、子宮筋腫、子宮線維腫、多嚢胞性卵巣症候群、子宮平滑筋腫、エリテマトーデス、多毛症、早発思春期、小人症、ざ瘡、脱毛、性腺ホルモン依存性腫瘍、性腺刺激ホルモンを産生する下垂体腺腫、睡眠時無呼吸症候群、過敏性腸症候群、月経前症候群、前立腺肥大症、避妊及び不育症、アルツハイマー病から選択されることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記性腺ホルモン依存性腫瘍は、前立腺癌、子宮癌、乳癌、卵巣癌、下垂体性腺刺激細胞腺腫から選択されることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、エナンチオマー、ジアステレオマー、シス-トランス異性体又は立体異性体、結晶又は溶媒和物を含む薬物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学の分野に関し、特に、化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物とその調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)とも称され、視床下部から分泌されるデカペプチドである。GnRHは、下垂体前葉に位置するGnRH受容体と結合することで生物学的作用を発揮し、黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の生合成や分泌を刺激し得る。そして、これらが連携することで、卵巣又は睾丸中の生殖細胞の発育や、性ホルモンの生成及び分泌が刺激される。
【0003】
GnRH受容体を標的とする治療剤は、視床下部-下垂体-性腺軸機能を阻害可能であり、例えば、前立腺癌、乳癌、子宮内膜症、子宮筋腫、前立腺肥大、生殖補助治療及び早発思春期等の性腺ホルモン依存性疾患の治療に広く用いられている。
【0004】
現在使用されている治療剤には、GnRH受容体アゴニスト又はアンタゴニストが存在する。GnRH受容体アゴニストは、例えば、前立腺癌、閉経前乳癌、子宮内膜症及び子宮線維症といった生殖ホルモン依存性疾患の治療への適用が認可されている。GnRH受容体アゴニストは、治療初期には下垂体性腺刺激細胞を刺激することで、性腺刺激ホルモンの分泌を増加させ得る。これにより、「フレア・アップ(flare up)」効果が表れて、約1~3週間持続する。しかし、長期的に投与していると、性腺刺激ホルモンが枯渇して、その受容体をダウンレギュレーションさせることができる。よって、一定期間後は、性腺ホルモンが抑制されて、例えば、エストロゲン、プロゲステロン及びテストステロンといった性腺ホルモンの循環がダウンレギュレーションする結果、ホルモン依存性疾患の治療効果が発揮される。
【0005】
GnRH受容体アゴニストとは反対に、GnRH受容体アンタゴニストは、下垂体のGnRH受容体と競合的に結合し、下垂体-性腺軸を直に迅速に阻害することで、内因性黄体形成ホルモンのピークを抑制して、エストロゲンレベルを低下させる。この場合には、効果に即効性があるほか、何らの活性化作用も存在せず、「フレア・アップ(flare up)」効果が発生しないため、投与停止から2~4d後には下垂体の機能が回復し得る。つまり、GnRH受容体アゴニストの治療初期に「フレア・アップ」効果によって引き起こされる副反応を回避可能である。且つ、臨床での薬品使用期間を短縮させられるため、より経済的で便利である。
【0006】
現在、いくつかのペプチド性GnRH受容体アンタゴニストは上市が認可されており、不妊症の生殖補助や末期の前立腺癌の治療に用いられている。しかし、これらのペプチド性GnRH類似物は、経口投与が不可能であり、皮下注射か鼻内噴霧、又は長期徐放性注射を必要とする。そのため、注射部位がヒスタミン放出反応を刺激したり、投与停止後の除去が緩慢であったり等の欠点が存在し、応用が制限されている。これに対し、非ペプチド性のGnRH受容体アンタゴニストは、経口投与が可能であり、注射に起因する疼痛や、ヒスタミン放出に起因するアレルギー反応を回避可能なため、患者コンプライアンスが向上し、いっそうの優位性を有している(非特許文献1)。
【0007】
エラゴリクス(Elagolix)は、最初に上市した経口用の非ペプチド性GnRH受容体アンタゴニストであり、子宮内膜症の治療に用いられているほか、子宮筋腫等のその他のエストロゲン依存性疾患への適用も研究されている。エラゴリクスは、ピリミジン-2,4-ジオン系化合物に属し(郭志強ほか、特許文献1)、下垂体のGnRH受容体に競合的に結合することでGnRHシグナル経路をブロックして、可逆的に卵巣性ホルモン、エストラジオール、プロゲステロンの分泌を減少させる。
【0008】
エラゴリクスは経口吸収可能であるが、中・低レベルの細胞透過性しか有さない。また、経口バイオアベイラビリティが非常に低く、マウス、ラット、サルの絶対的経口バイオアベイラビリティは、それぞれ、10%、5.8%及び11%にすぎない(非特許文献2)。しかし、放射性標識を用いたエラゴリクスをラットに経口投与したところ、胆汁に排泄された総放射能は50%近くに達した。このことは、エラゴリクスに肝臓初回通過効果が存在し、大部分の薬物が循環及び効果の発揮に進めていない可能性を示している。また、その結果として、臨床での治療剤量が増加している(エラゴリクスの推奨臨床投与量は150mg,qd、又は200mg,bidである)。且つ、ラットへの経口投与後の総放射能は、主として消化管と肝臓に限定的に分布していた。また、エラゴリクスは人体において大きな見かけの分布容積(1674L)も示した。これらは、いずれも高い組織分布特徴を意味している。肝臓への分布が大きすぎると、エラゴリクスによる肝毒性リスク(肝臓のアミノ基転移酵素の上昇)や、肝薬物代謝酵素への影響が生じ得る(エラゴリクスは、CYP3A、P-gp及びOATP1B1の基質であり、P-gpの阻害剤でもあり、P450(CYP)3Aに対し弱~中程度の誘導作用を有する)(非特許文献3)。
【0009】
【化1】
【0010】
当該分野では有意義な研究が行われてはいるが、薬効がより理想的な有効な小分子GnRH受容体アンタゴニストが依然として必要とされている。且つ、このGnRH受容体アンタゴニストを含む薬物組成物と、それを利用して性ホルモン関連の疾患状態を治療する方法も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】中国特許出願第200480019502.3号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Sarma,PKS et al,Expert Opinion on Therapeutic Patents 16(6):733-751,2006
【文献】Chen Chen,et al.Discovery of Sodium R-(+)-4-{2-[5-(2-Fluoro-3-methoxyphenyl)-3-(2-fluoro-6-[trifluoromethyl]-benzyl)-4-methyl-2,6-dioxo-3,6-dihydro-2H-pyrimidin-1-yl]-1-phenylethylamino}butyrate(Elagolix),a Potent and Orally Available Nonpeptide Antagonist of the Human Gonadotropin-Releasing Hormone Receptor,J.Med.Chem.2008,51,7478-7485
【文献】FDA,Orilissa(elagolix),210450Orig1s000MultiD,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した従来技術の欠点に鑑みて、本発明の目的は、従来技術の課題を解決するために、化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物とその調製方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的及び関連するその他の目的を実現するために、本発明は、一の態様において、化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物を提供する。前記化合物の化学構造式は式Iで示される。
【0015】
【化2】
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、前記異性体は、エナンチオマー、ジアステレオマー、シス-トランス異性体又は立体異性体から選択される。
【0017】
本発明は、別の態様において、上記の化合物の調製方法を提供する。当該方法は、式1-12の化合物を加水分解して式Iの化合物を調製して得ることを含む。反応式は下記の通りである。
【0018】
【化3】
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、前記加水分解反応は、通常、塩基が存在する条件で実施可能である。
【0020】
本発明は、別の態様において、上記の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物の、薬物の製造における使用を提供する。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、前記薬物は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニストから選択される。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、前記薬物は、性腺ホルモンに関連する疾患を治療するための薬物から選択される。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、前記性腺ホルモンに関連する疾患は、子宮内膜症、閉経、月経不順、子宮筋腫、子宮線維腫、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症、子宮平滑筋腫、エリテマトーデス、多毛症、早発思春期、小人症、ざ瘡、脱毛、性腺ホルモン依存性腫瘍、性腺刺激ホルモンを産生する下垂体腺腫、睡眠時無呼吸症候群、過敏性腸症候群、月経前症候群、前立腺肥大症、避妊及び不育症、アルツハイマー病から選択される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、前記性腺ホルモン依存性腫瘍は、前立腺癌、子宮癌、乳癌、卵巣癌、下垂体性腺刺激細胞腺腫から選択される。
【0025】
本発明は、別の態様において、上記の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物を含む薬物組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例3におけるSDラットにG201/エラゴリクスを静脈注射した場合の薬物血中濃度-時間曲線を示す図である。
図2】本発明の実施例3におけるSDラットにG201/エラゴリクスを経口投与した場合の薬物血中濃度-時間曲線を示す図である。
図3】本発明の実施例4におけるICRマウスにG201を静脈注射及び経口投与した場合の薬物血中濃度-時間曲線を示す図である。
図4】本発明の実施例6における去勢カニクイザルにG201/エラゴリクスを経口投与したあとの血清LHの変化傾向を示す図である(LHは投与前と比較したパーセント値、N=3)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明における発明の目的、技術方案及び有益な技術的効果をより明瞭とするために、以下に、実施例を組み合わせて本発明につき更に詳細に説明する。本技術を熟知する者は、本明細書で開示する内容から本願の発明におけるその他の利点及び効果を容易に理解可能である。
【0028】
本発明の発明者は、膨大な実践研究を通じて、エラゴリクス構造を修飾した結果、新たなフッ素置換ピリミジンジオン系化合物を想定外に発見した。前記化合物は、従来技術で一般的に用いられるエラゴリクス等と比較して、より良好な生物活性及びより理想的な薬物動態特性を有していた。よって、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)受容体アンタゴニストとなり得る新たな化合物を提供することとし、これを元に本発明を完成させた。
【0029】
本発明は、第1の態様において、化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物を提供する。前記化合物の化学構造式は式Iで示される。
【0030】
【化4】
【0031】
本発明において、「塩」との用語は、本発明で使用する任意の形式の活性化合物と解釈すべきである。前記化合物は、イオン形式であってもよいし、電荷を帯びていてもよいし、対イオン(カチオン又はアニオン)に結合されてもよいし、溶液中に位置してもよい。「塩」の定義には、更に、活性分子とその他の分子及びイオンとの第四級アンモニウム塩及び錯化合物(特に、イオン間相互作用による錯化合物)も含まれ得る。「塩」の定義には、特に、生理学的に許容可能な塩(この用語は、「薬学的に許容可能な塩」と同等と解釈可能である)が含まれる。
【0032】
本発明において、「薬学的に許容可能な塩」との用語は、通常、適切な方式で治療に用いる際(特に、ヒト及び/又は哺乳動物に応用又は使用する際)に、生理学的に耐え得るいずれかの塩を意味する(通常は、無害であること、特に、対イオンとした場合に無害であることを意味する)。これらの生理学的に許容可能な塩は、カチオン又は塩基と形成可能である。且つ、本発明の文脈において、特に、ヒト及び/又は哺乳動物に投与する際に、これらの生理学的に許容可能な塩は、本発明に基づき提供する少なくとも1つの化合物(通常は、酸(脱プロトン化したもの)、例えばアニオン)と少なくとも1つの生理学的に耐え得るカチオン(好ましくは無機カチオン)で形成される塩と解釈すべきである。本発明の文脈では、具体的に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属と形成される塩、及び、アンモニウムカチオン(NH )と形成される塩を含み得る。具体的には、(一)又は(二)ナトリウム、(一)又は(二)カリウム、マグネシウム或いはカルシウムと形成される塩を含むが、これらに限らない。また、これらの生理学的に許容可能な塩は、アニオン又は酸と形成してもよい。且つ、本発明の文脈において、特に、ヒト及び/又は哺乳動物に投与する際に、これらの生理学的に許容可能な塩は、本発明に基づき提供する少なくとも1つの化合物(通常は、プロトン化されたもの(例えば窒素上のもの)、例えばカチオン)と少なくとも1つの生理学的に耐え得るアニオンで形成される塩と解釈すべきである。本発明の文脈では、具体的に、生理学的に耐え得る酸で形成される塩、即ち、特定の活性化合物と生理学的に耐え得る有機又は無機酸で形成される塩を含み得る。具体的には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、琥珀酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸、フマル酸、乳酸又はクエン酸と形成される塩を含むが、これらに限らない。例示的な式Iの化合物における薬学的に許容可能な塩の化学構造式は次の通りである。
【0033】
【化5】
【0034】
上記の式Iで表される本発明の化合物は、存在するキラル中心により決定されるエナンチオマー、又は、存在する二重結合により決定される異性体(例えば、Z、E)を含み得る。単一異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー又はシス-トランス異性体及びこれらの混合物は、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0035】
本発明における「プロドラッグ」との用語は、最も広い意味で使用されるとともに、体内で本発明の化合物に変換可能な誘導体を含む。作用を奏する所定の化合物のプロドラッグを調製する方法は、当業者にとって既知のはずである。例えば、Krogsgaard-Larsenらの『薬物の設計及び発見の教科書(Textbook
of Drug design and Discovery)』(テーラーフランシス(Taylor & Francis)、2002年4月)に開示されている関連の内容を参照すればよい。
【0036】
本発明において、「溶媒和物」との用語は、通常、本発明に基づく任意の形式の活性化合物が非共有結合によって別の分子(通常は極性溶媒)と結合することを意味する。また、これにより取得される物質には、具体的に、水和物及びアルコラート(例えば、メチラート)が含まれるが、これに限らない。
【0037】
本発明は、第2の態様において、本発明の第1の態様で提供した化合物の調製方法を提供する。当該方法は、式1-12の化合物を加水分解して式Iの化合物を調製して得ることを含む。反応式は下記の通りである。
【0038】
【化6】
【0039】
本発明で提供する調製方法において、前記加水分解反応は、通常、塩基が存在する条件で実施可能である。当業者は、適切な種類及び使用量の塩基を選択して上記の加水分解反応に使用可能である。例えば、前記塩基は、アルカリ金属の水酸化物等とすることができ、より具体的には、水酸化リチウム等とすることができる。また、例えば、前記塩基の使用量は、通常、式1-12の化合物に対してほぼ等量か過剰とする。具体的に、式1-12の化合物と塩基のモル比は1:1.4~1.6とすればよい。
【0040】
本発明で提供する調製方法において、通常、反応は、室温から反応溶媒の沸点までの条件で行えばよく、好ましくは室温で行えばよい。当業者は、反応の進捗に応じて加水分解反応の反応時間を適切に調整すればよい。反応の進捗をモニタリングする方法は、当業者にとって既知のはずである。例えば、クロマトグラフィー、核磁気共鳴法等の分析法とすることができる。また、具体的な反応時間は、例えば、0.5~1時間、1~1.5時間、1.5~2時間、2~3時間、3~4時間、又はより長い反応時間とすることができる。
【0041】
本発明で提供する調製方法において、通常、反応は溶媒が存在する条件で行う。また、通常、前記溶媒は、反応原料を十分に分散させて反応の円滑な進行を保証し得るよう、反応原料の良溶媒とすればよく、且つ水を含む必要がある。適切な反応溶媒の種類及び使用量は、当業者にとって既知のはずである。例えば、反応溶媒は、水を含んでもよいし、エーテル系溶媒等を含んでもよく、具体的には、テトラヒドロフラン等とすればよい。
【0042】
本発明で提供する調製方法において、当業者は、適切な方法を選択して反応生成物の後処理を行えばよい。適切な方法には、例えば、高速クロマトグラフィー調製、凍結乾燥等が含まれ得る。
【0043】
本発明は、第3の態様において、本発明の第1の態様で提供した化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物の、薬物の製造における使用を提供する。本発明の化合物は、GnRH受容体を効果的に阻害可能なため、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニストとすることができ、更に、性ホルモン関連疾患の治療に使用可能である。本発明で提供する性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体アンタゴニストは、幅広い治療使用に応用可能であるとともに、男性、女性及び一般的な哺乳動物(本発明では「個体」とも称する)における各種性ホルモンに関連する疾患状態の治療に使用可能である。前記性ホルモン関連疾患は、具体的に、例えば、子宮内膜症、閉経、月経不順、子宮筋腫、子宮線維腫、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症、子宮平滑筋腫、エリテマトーデス、多毛症、早発思春期、小人症、ざ瘡、脱毛、性腺ホルモン依存性腫瘍(例えば、前立腺癌、子宮癌、乳癌、卵巣癌、下垂体性腺刺激細胞腺腫等)、性腺刺激ホルモンを産生する下垂体腺腫、睡眠時無呼吸症候群、過敏性腸症候群、月経前症候群、前立腺肥大症、避妊及び不育症、アルツハイマー病等とすることができる。
【0044】
本発明は、第4の態様において、本発明の第1の態様で提供した化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物を含む薬物組成物を提供する。前記薬物組成物は、更に、少なくとも1つの薬学的に許容可能なベクターを含んでもよい。
【0045】
本発明において、前記組成物は、1又は複数の薬学的に許容可能なベクターを含んでもよい。通常、当該ベクターは、治療剤の投与に用いられるベクターを意味し、それら自体は、当該組成物を受け付けた個体にとって有害な抗体の産生を誘導せず、且つ、投与後に過剰な毒性を有さない。これらのベクターは当業者が熟知するものである。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.,1991)には、薬学的に許容可能なベクターに関する内容が開示されている。具体的に、前記ベクターは、塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセリン、エタノール、アジュバント等のうちの1又は複数の組み合わせを含み得るが、これらに限らない。
【0046】
本発明で提供する薬物組成物において、前記化合物は、単一の有効成分であってもよいし、その他の活性成分と組み合わされて配合剤を構成してもよい。前記その他の活性成分は、性腺ホルモンに関連する疾患の治療に使用可能なその他各種の薬物とすることができる。通常、組成物中の活性成分の含有量は安全有効量である。前記安全有効量は、当業者にとって調整可能とすべきである。例えば、前記化合物及び薬物組成物の活性成分の投与量は、通常、患者の体重、応用のタイプ、疾患の病状及び重症度に依存する。例えば、活性成分としての前記化合物の投与量は、通常、0.1~10mg/kg/day、0.1~0.5mg/kg/day、0.5~1mg/kg/day、1~2mg/kg/day、2~3mg/kg/day、3~4mg/kg/day、4~5mg/kg/day、5~6mg/kg/day、6~8mg/kg/day、8~10mg/kg/dayとすればよく、より好ましくは0.5~5mg/kg/dayとする。
【0047】
本発明で提供する化合物は、任意の形式の投与方式に適応可能であり、経口投与としてもよいし、非消化管投与としてもよい。例えば、経肺、経鼻、経直腸及び/又は静脈注射としてもよいし、より具体的には、真皮内、皮下、筋肉内、関節内、腹膜内、肺部、口腔、舌下投与、経鼻、経皮、経腟、経口又は非消化管投与としてもよい。当業者は、投与方式に応じて適切な製剤形式を選択すればよい。例えば、経口投与に適した製剤形式には、丸剤、タブレット、チュアブル剤、カプセル剤、顆粒剤、滴剤又はシロップ等が含まれ得るが、これらに限らない。また、例えば、非消化管投与に適した製剤形式には、溶液、懸濁液、再水和可能な乾燥製剤又はスプレー剤等が含まれ得るが、これらに限らない。また例えば、通常、直腸投与に適したものは座薬とすることができる。
【0048】
本発明は、第5の態様において、治療有効量の本発明の第1の態様で提供した化合物、又は、本発明の第4の態様で提供した薬物組成物を個体に投与することを含む治療方法を提供する。
【0049】
本発明において、「個体」には、通常、ヒト、ヒト以外の霊長類、哺乳動物(例えば、犬、猫、馬、羊、ブタ、牛等)が含まれる。「個体」は、前記製剤、試薬キット又は配合剤を用いて治療することで利益を獲得可能である。
【0050】
本発明において、「治療有効量」とは、通常、適切な投与期間を経たあと、上記で列挙した疾患を治療する効果を達成可能な用量を意味する。
【0051】
本発明で提供する化合物は、GnRHRアンタゴニストとして、カルシウムフロー検出実験において、活性がエラゴリクスと同等かエラゴリクスよりも優れていた。また、薬物動態試験において、本発明で提供する化合物の絶対的バイオアベイラビリティはエラゴリクスよりも明らかに高かった。血漿タンパク結合試験において、本発明で提供する化合物は、SDラット血漿及び健康なヒト血漿におけるタンパク結合率がエラゴリクスよりもやや高かった。且つ、タンパク結合は薬物濃度との間に依存関係がなかった。以上から明らかなように、本願で提供する化合物又はその薬学的に許容可能な塩、異性体、プロドラッグ、結晶多形又は溶媒和物は、従来技術におけるその他の同種の薬物と比較して、より良好な生物活性及びより理想的な薬物動態特性を有しており、良好な産業化の可能性がある。
【0052】
以下に、実施例によって、本願の発明について更に説明するが、これにより本願の範囲は制限されない。
【0053】
(実施例1)
実施例における化合物G201の具体的調製経路は次の通りであった。
【0054】
【化7】
【0055】
三つ口フラスコに、化合物1-1(10g、72.4mmol)、ピリジン(200mL)及び二酸化セレン(16g、144.8mmol)を加えた。これを窒素ガスで保護しつつ、100℃で2時間反応させた。そして、反応完了後に吸引濾過し、濾液を遠心脱水したあと、1N塩酸を加えて、酢酸エチルで抽出した。有機相は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させたあと、吸引濾過し、遠心脱水にかけてオフホワイトの固体1-2(12g)を取得した。
【0056】
三つ口フラスコに化合物1-2(12g、71.4mmol)及びメタノール(200mL)を加えた。次に、0℃で塩化チオニル(17g、142.8mmol)を滴下し、室温で一晩攪拌した。反応完了後、メタノールを遠心脱水して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えたあと、酢酸エチルで抽出した。有機相は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させたあと、吸引濾過し、遠心脱水にかけて薄黄色の油状物質1-3(9g、49.4mmol)を取得した。
【0057】
三つ口フラスコに化合物1-3(4g、20.4mmol)、無水テトラヒドロフラン(60mL)及び(R)-tert-ブチルスルフィンアミド(2.47g、20.4mmol)を加えた。次に、窒素ガスで保護しつつ、オルトチタン酸テトライソプロピル(11.6g、40.8mmol)を加えて、還流及び攪拌を6時間行った。そして、反応完了後に水を加えてクエンチ反応させ、酢酸エチルを加えて希釈したあと吸引濾過した。続いて、濾液を分液し、水相を酢酸エチルで抽出した。そして、有機相を合わせたあと、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させてから、吸引濾過し、遠心脱水にかけて黄色の油状物質1-4(6g、19.2mmol)を取得した。
【0058】
三つ口フラスコに化合物1-4(6g、19.2mmol)及びメタノール(60mL)を加えた。次に、0℃で、水素化ホウ素ナトリウム(1.1g、28.7mmol)を何度かに分けて加え、室温で3時間反応させた。そして、反応完了後に水を加えてクエンチ反応させ、酢酸エチルで抽出した。有機相は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、吸引濾過したあと、遠心脱水にかけてカラムクロマトグラフィーで精製することで(石油エーテル/酢酸エチル=10:1~5:1)、黄色の油状物質1-5(3g、9.5mmol)を取得した。
【0059】
三つ口フラスコに化合物1-5(3g、9.5mmol)及び無水テトラヒドロフラン(40mL)を加えた。次に、0℃で、水素化リチウムアルミニウム(0.43g、11.4mmol)を何度かに分けて加え、室温で2時間反応させた。そして、反応完了後に水を加えてクエンチ反応させ、酢酸エチルで抽出した。有機相は飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、吸引濾過したあと、遠心脱水にかけてカラムクロマトグラフィーで精製することで(石油エーテル/酢酸エチル=10:1~3:1)、黄色の油状物質1-6(1.5g、5.8mmol)を取得した。
【0060】
フラスコに化合物1-6(1.5g、5.8mmol)、酢酸エチル(10mL)及び塩酸ガス/酢酸エチル(10mL)を加えた。これを室温で1時間反応させた。反応完了後は、遠心脱水にかけて黄色の固体1-7(1.5g)を取得し、そのまま次のステップに投入した。
【0061】
フラスコに化合物1-7(1.5g)、ジクロロメタン(20mL)、トリエチルアミン(2.9g、28.9mmol)及び二炭酸ジ-tert-ブチル(1.5g、6.9mmol)を加えた。これを室温で16時間反応させた。反応完了後は遠心脱水にかけて、カラムクロマトグラフィーで精製することで(石油エーテル/酢酸エチル=15:1~10:1)、黄色の固体1-8(1.3g、5.1mmol)を取得した。
【0062】
三つ口フラスコに化合物1-8(1.3g、5.1mmol)、化合物1-A(1.9g、5.1mmol)、トリフェニルホスフィン(2.0g、7.6mmol)、無水テトラヒドロフラン(30mL)及びアゾジカルボン酸ジエチル(1.5g、7.6mmol)を加えた。これを16時間還流及び反応させた。反応完了後は遠心脱水にかけて、カラムクロマトグラフィーで精製することで(石油エーテル/酢酸エチル=10:1~5:1)、白色の固体1-9(2.1g、3.4mmol)を取得した。
【0063】
三つ口フラスコに化合物1-9(2.1g、3.4mmol)、化合物1-B(0.7g、4.1mmol)、炭酸ナトリウム(1.4g、13.6mmol)、ジオキサン(27mL)、水(9mL)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.4g、0.34mmol)を加えた。これを窒素ガスで保護しつつ、90℃で16時間反応させた。反応完了後は吸引濾過し、濾液を遠心脱水にかけて、カラムクロマトグラフィーで精製することで(石油エーテル/酢酸エチル=15:1~5:1)、薄黄色の固体1-10(1.35g、2.0mmol)を取得した。
【0064】
フラスコに化合物1-10(250mg、0.38mmol)、ジクロロメタン(2mL)及びトリフルオロ酢酸(2mL)を加え、室温で1時間反応させた。そして、反応完了後に遠心脱水にかけ、黄色の固体1-11(210mg)を取得した。
【0065】
フラスコに粗生成物である化合物1-11(210mg)、アセトニトリル(3mL)、化合物1-C(220mg、1.13mmol)及び炭酸カリウム(156mg、1.13mmol)を加え、80℃で16時間反応させた。そして、反応完了後に遠心脱水にかけ、分取薄層クロマトグラフィー(石油エーテル/酢酸エチル=1.5/1)により無色の油状物質1-12(210mg、0.31mmol)を取得した。
【0066】
フラスコに化合物1-12(210mg、0.31mmol)、テトラヒドロフラン(3mL)、水(2mL)及び水酸化リチウム(20mg、0.47mmol)を加え、室温で2時間反応させた。そして、反応完了後に遠心脱水にかけ、高圧調製を行い(アセトニトリル10~55/7分)、凍結乾燥させて白色の固体G201(20mg)を取得した。
【0067】
1HNMR CD3ODδ:7.62~7.64(m,1H)、7.39~7.57(m,4H)、7.11~7.23(m,4H)、6.65~6.80(m,1H)、5.38~5.49(m,2H)、4.81(q,1H)、4.46~4.53(m,2H)、3.90(s,3H)、2.81~2.84(m,2H)、2.37~2.40(m,2H)、2.12(d,3H)、1.79~1.83(m,2H)。
【0068】
LC-MS:m/z=649.8(M+1)、LCMS純度>98%。
【0069】
(実施例2)
カルシウムフロー検出:
FLIPRカルシウムフロー検出試薬キット(Calcium 4 assay kit)を使用して、組換えヒト性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)安定細胞株CHO-K1/GNRHR/Gα15の細胞内におけるカルシウムの変化を測定した。GnRHRは、Gタンパク質共役受容体(GPCRs)の一種であり、GPCRsシグナルはGq経路を通じて細胞内のカルシウムを放出させる。そのため、カルシウムイオン感受性蛍光プローブを使用して細胞内のカルシウム放出を検出することで、Gq経路を通じてシグナル伝達を行ったGnRHRの機能変化を検出可能である。実験の手順は次の通りとした。
【0070】
1.F12+10%FBS培地を使用し、10000cells/well、20μl/wellで、細胞を384ウェルマイクロプレート(コーニング社、Cat#:3764)に移植して一晩(18h)培養した。
【0071】
2.プロベネシドストック溶液(500mM)とCalcium 4ストック溶液を1:100で配合し、染料作業溶液(working solution)とした。また、アッセイバッファ(assay buffer)を用いてテストサンプルG201及びエラゴリクス(2mM in DMSO)を希釈した。即ち、5μlの2mMストック溶液を200μl(50μM)まで希釈したものを第1濃度の5Xサンプル作業溶液とした。次に、20μlの第1サンプル作業溶液を200μlまで希釈して均一に混合することで、第2濃度のサンプル作業溶液を取得した。このようにして、順に8段階で希釈したサンプル作業溶液を準備した。そして、一晩培養した細胞に、20μl/wellの染料作業溶液と10μl/wellのサンプル作業溶液を順に加えたあと、引き続き細胞培養装置内で45min培養した。その後、室温で遮光し、15min平衡化した。
【0072】
3.5X EC80アゴニスト作業溶液を構成した。即ち、5μlの1mM ブセレリン(Buserelin)ストック溶液を200μl(25μM)まで希釈した。次に、71μlの25μM ブセレリン作業溶液をアッセイバッファで10ml(0.179μM)まで希釈した。
【0073】
4.384ウェルマイクロプレート内の細胞の位置に応じ、40μl/wellでアゴニスト作業溶液をサンプルプレートに加えてFLIPR検出を行った。
【0074】
試験結果:G201は、投与量依存的にCHO-K1/GNRHR/Gα15の細胞内カルシウム放出を阻害可能であった。また、EC50は、エラゴリクスが45.73nMであったのに対し、37.59nMであった。以上より、G201はGnRHRアンタゴニストであり、活性がエラゴリクスと同等かエラゴリクスよりも優れていた。
【0075】
(実施例3)
ラットにおける薬物動態試験:
メスのSDラット12匹を3匹/群で4群に分け、それぞれ、G201及びエラゴリクスナトリウム(Elagolix Sodium)を静脈注射及び胃内投与した(G201は、5%N,N-ジメチルアセトアミド及び5%ポリオキシエチレンヒマシ油ELを含む生理食塩水に溶解し、エラゴリクスナトリウムは生理食塩水にそのまま溶解した)。投与量は、それぞれ25mg/kg及び50mg/kgであった。投与前は一晩絶食とし、投与から4h後に給餌を再開した。なお、試験期間全体を通じて飲水は自由とした。投与前及び投与から5min、15min、30min、1h、2h、4h、6h、8h、24h後に、眼窩後静脈叢から採血した。採血量は約0.2mLとした。全血液サンプルは、1h以内に4000rpmで10min遠心分離にかけて、上層の血漿を分離した。且つ、1h以内に冷蔵庫に置き、分析するまで-20℃で保存した。血漿サンプルは、1:8でメタノールタンパク質沈殿したあと、LC-MS/MS法でG201及びエラゴリクスの血中薬物濃度を検出し、DAS3.2.7ソフトで主要な薬物動態パラメータを算出した。
【0076】
結果より、G201を静脈注射で投与した場合の平均CLは1.62L/h/kg、平均t1/2は0.79h、平均Vzは1.82L/kgであった。一方、エラゴリクスナトリウムの平均CL及びVzは、それぞれ2.48L/h/kg及び8.46L/kgであった。また、G201の見かけの分布容積は明らかにエラゴリクスよりも小さく、組織分布の低下が示された。
【0077】
ラットにG201を経口投与した場合には吸収が速く、Tmaxは0.42h、平均AUC0-∞は16351.7hng/mLであり、エラゴリクスナトリウムの3倍に相当した。また、G201を経口投与した場合の絶対的バイオアベイラビリティは51.92%であり、エラゴリクスナトリウム(23.65%)よりも明らかに高かった。G201/エラゴリクスを静脈注射で投与した場合の薬物血中濃度-時間曲線については図1を参照し、経口投与した場合の薬物血中濃度-時間曲線については図2を参照し、薬物動態パラメータについては表1を参照する。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例4)
マウスにおける薬物動態試験:
メスのICRマウス10匹を各群5匹として2群に分け、それぞれ、G201を静脈注射及び強制経口投与した。投与量は10mg/kgであった。そして、投与から、0.083h、0.25h、0.5h、1h、2h、4h、6h、8h後に眼窩後静脈叢から採血した。採血量は約0.1mLとした。血液サンプルは、1h以内に4000rpmで10min遠心分離にかけて、上層の血漿を分離した。且つ、1h以内に冷蔵庫に置いて-80℃で保存し、測定まで待機した。採血前は、被検動物を少なくとも12h絶食させたが、絶水にはしなかった。また、採血過程では絶食・絶水とし、投与から2h後に自由に摂食・摂水させた。LC-MS/MS法でICRマウス体内におけるG201の血中薬物濃度を検出し、DAS3.2.7薬物動態ソフトを用いて、AUC0-t、AUC0-∞、Cmax、t1/2等を含む主要な薬物動態パラメータを算出した。
【0080】
結果より、G201をマウスに静脈注射で投与した場合の平均CLは3.18L/h/kg、平均t1/2は0.26h、平均Vzは1.17L/kgであった。また、マウスにG201を経口投与した場合には迅速に吸収され、Tmaxは0.27h、平均AUC0-∞は1266.3hng/mLであった。また、絶対的バイオアベイラビリティは38.9%であり、明らかにエラゴリクスよりも高かった(文献の報告によれば、エラゴリクスをマウスに10mg/kg投与した場合の絶対的バイオアベイラビリティは10%であった)。ICRマウスにG201を静脈注射及び経口投与した場合の薬物血中濃度-時間曲線については図3を参照し、薬物動態パラメータについては表2を参照する。
【0081】
【表2】
【0082】
(実施例5)
血漿タンパク結合試験:
予め培養済みのSDラット(雌雄各5匹)又は健康なヒトの血漿を採取し、異なる濃度の被験物質(G201(1μM、10μM、100μM)及びエラゴリクス(10μM))及び対照品(ワルファリンナトリウム(10μM))を含む作業溶液とそれぞれ十分に混合したあと、薬物を含有する血漿サンプル50μLを等体積のブランク緩衝液に加えて未濾過サンプルとした。一方、350μLを限外濾過装置(限外濾過管の内部管)に移し、37℃で遠心分離にかけた(10000g×3分)。そして、遠心分離の終了後、取り出した外部管のサンプル(濾液サンプル)に50μLのブランク血漿を加えた。また、同様に、取り出した内部管のサンプル(濾過余剰サンプル)に等体積のブランク緩衝液を加えた。そして、混合から2分後に、内部標準液を加えた。全てのサンプルは10分間回転させて沈殿タンパク質を遠心分離し、上清液を取得した。そして、LC-MS/MS法で被験物質及び対照品の濃度を測定し、遊離パーセント(遊離パーセント=(濾液サンプルの薬物濃度/未濾過血漿の薬物濃度)×100%)と、結合パーセント(結合パーセント=100%-遊離パーセント)を算出した。また、回収率(%)=(濾液サンプルの薬物濃度×体積+濾過余剰サンプルの薬物濃度×体積)/未濾過血漿の薬物濃度×総体積×100とした。
【0083】
結果より、薬物濃度がエラゴリクス10μMの場合のSDラット血漿及び健康なヒト血漿におけるタンパク結合率は、それぞれ、87.71%、87.25%であり、文献の報告と一致していた。一方、SDラット血漿及び健康なヒト血漿に対するG201のタンパク結合率は、それぞれ、89.79%、89.94%であり、エラゴリクスよりもやや高かった。また、1~100μMの範囲において、タンパク結合は薬物濃度との間に依存関係がなかった。
【0084】
【表3】
【0085】
(実施例6)
去勢オスカニクイザルにおける薬効試験:
3頭の3~5歳齢(体重3.8~4.0kg)のオスのカニクイザル(広西桂東霊長類開発実験有限公司より購入)を取得し、一晩絶食させ、麻酔をかけて両側睾丸の切除術を行った。その後、放射免疫測定法により、去勢から3~7週間のカニクイザルの血清黄体形成ホルモン(LH)を測定した結果、オスのカニクイザルは、去勢から3週間後の血清LHが明らかに上昇し(約10倍)、去勢から7週間後にLHレベルがほぼ安定した。
【0086】
去勢手術モデルの作成に成功したあと、2つの投与サイクルに分けた。2つの投与サイクルでは、それぞれ、G201及びエラゴリクスナトリウム(溶媒:0.5%CMC-Na)を単回強制経口投与した。投与量はそれぞれ10mg/kg及び30mg/kgであり、投与体積はいずれも10mL/kgであった。各投与サイクルは、約2週間の溶出期を開けてから次のサイクルの投与を行った。各サイクルの投与時には、それぞれ、投与前及び投与から0.25h、0.5h、1h、2h、3h、6h、8h及び24h時点の血液を採取し、血清を分離して、性ホルモンLHを検出した。
【0087】
結果より、G201とエラゴリクスナトリウムを去勢カニクイザルに経口投与したあとは血清LHが明らかに低下した。また、いずれも投与から3h後に最も低下したあと再び上昇した。30mg/kg エラゴリクスナトリウム投与量群の動物は、投与から24h後に投与前のレベルに戻った。また、10mg/kg G201投与量群の動物は、投与後の変化幅が30mg/kg エラゴリクスナトリウム投与量群の動物よりもやや高かった。試験期間中、全ての動物は一般状態が良好であり、体重が安定しており、被験物質に関連する異常の発生は認められなかった。
【0088】
以上から分かるように、G201を単回経口投与することで、オスの去勢カニクイザルの血清LHレベルを明らかに低下させることができた。また、投与量10mg/kgでの阻害効果は、エラゴリクスナトリウム 30mg/kgに相当するか、より優れていた。
【0089】
以上述べたように、本発明は従来技術における様々な欠点を解消しており、高度な産業上の利用価値を有している。
【0090】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明するものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形可能である。従って、当業者が本発明で開示した精神及び技術的思想から逸脱することなく完成させるあらゆる等価の補足又は変形もまた本発明の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4