(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】エネルギー充足率の決定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/92 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
G01N33/92 C
(21)【出願番号】P 2024089726
(22)【出願日】2024-06-03
【審査請求日】2024-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509152079
【氏名又は名称】株式会社ヘルスケアシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 茉里
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-071587(JP,A)
【文献】井上節子,文教大学女子短期大学部研究紀要,第25巻,1981年12月01日,第29-31頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定することを含
み、
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸である、
エネルギー充足率の決定方法。
【請求項2】
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリンである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、エタノールアミンリン酸である、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、グリセロール3-リン酸である、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量のうち少なくとも1つのデータを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対象の年齢及びBMIのデータを使用することを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質のうち、少なくとも1つの濃度を測定可能な化合物を含
み、
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸である、エネルギー充足率決定用組成物又はキット。
【請求項8】
対象の尿検体を収納するための密封容器を備え、密封容器に収納された尿検体は、対象の尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定し、エネルギー充足率を決定するために使用さ
れ、
前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸である、
郵送検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー充足率を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト等の対象の栄養状態を表す指標の一つにエネルギー充足率がある。エネルギー充足率とは、通常、エネルギー消費量に対するエネルギー摂取量の割合を指す。エネルギー充足率は、例えば、エネルギー消費量の高いアスリート等において、その高い消費量を補うのに十分な食事を摂取できているか、食事量が少なくなりやすい高齢者等において、消費量に見合った十分な量の食事ができているか、減量を要する患者等において、エネルギーの過剰摂取が行われてないか、等を確認する指標として有用である。
【0003】
エネルギー充足率は、通常、同期間中のエネルギー消費量とエネルギー摂取量とを割り出し、これらから算出することができる。例えば、非特許文献1では、連続する3日間の食事を記録し、1日当たりの摂取カロリーを算出している。次いで、同期間中の生活時間調査と、活動時のエネルギー代謝を実測して得たエネルギー代謝率とから、一日当たりのエネルギー消費量を算出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】井上節子 文教大学女子短期大学部研究紀要、第25巻、29-31頁(1981年12月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエネルギー充足率の決定は、一定期間の食事の記録と、同期間のエネルギー消費量の測定を要し、煩雑な手順を必要とするものであった。また、エネルギー摂取量、エネルギー消費量の正確な測定は必ずしも容易ではなかった。
【0006】
本発明は、エネルギー充足率を、簡便に、かつ正確に決定するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成経路に関与する物質である、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸濃度がエネルギー充足率と高い相関を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
(1)対象の尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定することを含む、エネルギー充足率の決定方法。
(2)前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸である、(1)に記載の方法。
(3)前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリンである、(2)に記載の方法。
(4)前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、エタノールアミンリン酸である、(2)に記載の方法。
(5)前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、グリセロール3-リン酸である、(2)に記載の方法。
(6)対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量のうち少なくとも1つのデータを使用することを含む、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)対象の年齢及びBMIのデータを使用することを含む、(6)に記載の方法。
(8)尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質のうち、少なくとも1つの濃度を測定可能な化合物を含む、エネルギー充足率決定用組成物又はキット。
(9)前記グリセロリン脂質の生合成に関与する物質が、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸である、(8)に記載の組成物又はキット。
(10)対象の尿検体を収納するための密封容器を備え、密封容器に収納された尿検体は、対象の尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定し、エネルギー充足率を決定するために使用される、郵送検査用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エネルギー充足率を、簡便に、かつ正確に決定するための方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】グリセロリン脂質の生合成経路の一部を示す概略図である。
【
図2】各成分の濃度の測定値とエネルギー充足率とのプロット図である。
図2Aは、ホスホリルコリン濃度の測定値とエネルギー充足率のプロット図である。
図2Bは、エタノールアミンリン酸濃度の測定値とエネルギー充足率のプロット図である。
図2Cは、グリセロール3-リン酸濃度の測定値とエネルギー充足率のプロット図である。
【
図3】実施例2(1)のエネルギー充足率の推定値と実測値との相関性を示すプロット図である。
【
図4】実施例3(1)のエネルギー充足率の推定値と実測値との相関性を示すプロット図である。
【
図5】実施例4(1)のエネルギー充足率の推定値と実測値との相関性を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「A~B」(A及びBは数値)は、特に説明のない限り、「A以上B以下」を表すものとする。本明細書において、濃度を示す「%」は、特に説明のない限り、重量%を指すものとする。本明細書において、尿中成分の濃度は、特に記載のない限り、同一試料中のクレアチニン濃度の測定値に対する目的成分の濃度の測定値の相対値として示される。各化合物は、特に記載のない限り、また、特に矛盾のない限り、その遊離体、電解質、塩類(例えば、金属塩、硫酸塩、塩酸塩等)、溶媒和物(例えば、水和物)をいずれも包含する。
【0011】
本明細書において、「定量値」とは、機器計測等により、試料中の目的物質の濃度又は目的物質由来のシグナル強度として、試料から直接得られた数値を指す。本明細書において、「測定」とは、目的の指標の大きさを求めることを指し、測定結果(測定値)は、試料から直接定量値として求めてもよく(すなわち、用語「測定値」は「定量値」を包含する)、試料から直接得られた定量値及び/又は対象のプロファイル情報に基づいて計算により割り出されてもよい。測定結果は、数値として表されてもよく、また、定性的に表されてもよい。
【0012】
1 エネルギー充足率の決定方法
本発明の第1の実施形態は、エネルギー充足率の決定方法である。本実施形態の方法は、対象の尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つ、より具体的には、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸の濃度を測定することを含む、ことを特徴とする。
【0013】
本明細書において、「エネルギー充足率」とは、対象が必要とするエネルギー量(以下、「エネルギー必要量」とも称する)に対するエネルギー摂取量を指す。ここでいう「エネルギー摂取量」は、例えば、対象の食事記録から、文部科学省「日本食品標準成分表」等の食品の標準的なカロリー表示を用いて算出することができる。エネルギー充足率の基準となる期間は、特に限定されず、1日間であってもよく、2日間~1ヶ月間のうちのいずれかの期間としてもよい。より習慣的なエネルギー摂取状態を反映できる基準とするため、複数日の期間、例えば3日間を基準とすることが好ましい。
【0014】
本明細書において、「エネルギー充足率を決定する」とは、対象の尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つ、及び必要に応じて他の指標に基づいて、対象のエネルギー充足率の度合いを求めることを指す。決定されるエネルギー充足率は、数値として表示されてもよく(例えば百分率(%))、また、定性的に表示されてもよい(限定されないが、例えば、「5(非常に高い)、4(高い)、3(中程度)、2(低い)、1(非常に低い)」、等)。
【0015】
本明細書において、「エネルギー必要量」とは、基準となる期間中の対象の消費エネルギーが反映される値として得られれば、その取得方法は特に限定されない。例えば、対象が所定の期間中ウェアラブル端末を装着することで取得できるエネルギー消費量をエネルギー必要量として使用してもよい。ウェアラブル端末としては、例えば、対象の年齢、性別、身長、体重等のプロファイル、端末を通じて得られる心拍数、歩数等のデータから、対象の実際の消費エネルギーを算出することができるものが市販されており、これを用いることができる。あるいは、対象の基礎代謝量に、対象の運動記録に基づいて算出した消費エネルギーを加算したエネルギー消費量をエネルギー必要量としてもよい。あるいは、例えば、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(令和元年12月「日本人の食事摂取基準」策定検討会)に記載の「推定エネルギー必要量」を、エネルギー必要量として採用してもよい。推定エネルギー必要量は、下記式(I)を用いて算出することができる。
推定エネルギー必要量(kcal)=基礎代謝量(kcal)×α …(I)
(α:身体活動レベルから割り出した指数)
基礎代謝量(kcal)は、例えば、対象の性別、年齢、身長、体重を元に、下記式(II)又は(III)(ハリス・ベネディクト方程式)を用いて算出することができる。
男性:13.397×体重(kg)+4.799×身長(cm)-5.677×年齢+88.362 …(II)
女性:9.247×体重(kg)+3.098×身長(cm)-4.33×年齢+447.593 …(III)
対象の身体活動レベルは、以下のレベルI~IIIに分類される。
レベルI(低い):生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合;
レベルII(ふつう):座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合;
レベルIII(高い):移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合。
上記指数αは、対象の年齢と身体活動レベルから、表1の通り設定される。
【0016】
【0017】
本明細書では、以下、「エネルギー必要量」として、例示的に、身体活動レベルIIの上記の「推定エネルギー必要量」を記載するが、本発明におけるエネルギー必要量の意義を限定することを意図するものではない。
【0018】
本明細書では、「エネルギー充足率」として、例示的に、3日間のエネルギー必要量(ここでは、推定エネルギー必要量)に対する、3日間の食事記録に基づいて算出された3日間のエネルギー摂取量の割合を記載するが、本発明におけるエネルギー充足率の意義を限定することを意図するものではない。
【0019】
本明細書において、「対象」とは、尿を排出するヒト又は動物であれば特に限定されず、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される動物などが含まれる。好ましくは、ヒトである。
【0020】
本明細書において、「尿」は、エネルギー充足率決定の対象となるヒト又は動物より採取された尿検体である。尿は、特に限定されないが、早朝尿、随時尿、畜尿のいずれを用いてもよいが、特に、早朝尿とすることが好ましい。ここでいう「早朝尿」とは、起床後30分以内の空腹時に採取した尿を指す。尿検体は、液状の尿であってもよく、ろ紙にしみこませたろ紙尿であってもよい。尿検体は、施設で採取された新鮮尿であってもよく、被験者が自身の健康状態を確認するために自宅で採取した尿であってもよい。この場合、被験者が自宅から郵送した検体であってもよい。新鮮尿であっても、郵送検体であっても、尿検体の腐敗等による成分量の変化を防止するため、尿を輸送するための容器(好ましくは密封容器)又はろ紙は、保存剤、抗酸化剤等を含んでいてもよい。保存剤としては、例えば、トルエン、キシレン、塩酸、ギ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸、アスコルビン酸、スルホサリチル酸、酒石酸、メタリン酸、酢酸、クエン酸、フェネチルアルコール、プロピルパラベン、ブチレングリコールが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、シュウ酸、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の方法は、尿中のグリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定することを含む。特に、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸の濃度を測定することを含む。本発明者らは、エネルギー充足率と、尿中のこれらの物質の濃度の測定値が負の相関を示すことを見出した(
図2A~C)。本明細書において、尿中成分の濃度の測定値は、特に記載のない限り、同一試料中のクレアチニン濃度の測定値に対する目的成分の濃度の測定値の相対値として示されるものとする。
【0022】
ホスホリルコリンは、下記式(IV)で示す構造を有し、主に、細胞膜の主成分であるリン脂質の親水性部分として存在する。
【化1】
エタノールアミンリン酸は、下記式(V)で表される構造を有する。
【化2】
グリセロール3-リン酸は、下記式(VI)で表される構造を有し、リン酸とグリセロールから誘導されたリン酸エステルであり、グリセロリン脂質の構成要素の一つである。
【化3】
【0023】
ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸、及びグリセロール3-リン酸は、いずれもグリセロリン脂質の生合成経路に関与する物質であることが知られている。
図1に、グリセロリン脂質の生合成経路のうち、特にホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸、及びグリセロール3-リン酸に関する部分の概略図を示す。グリセロール3-リン酸は、グリセロリン脂質の主な構成要素として使用され、細胞内で小胞体内に取り込まれてホスファチジン酸まで変換された後、ミトコンドリアに取り込まれてグリセロリン脂質である、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピンに変換される。ホスファチジン酸は、小胞体内でジアシルグリセロールに変換された後、ジアシル型グリセロリン脂質である、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファリジルセリンに変換される。小胞体内のホスファチジルコリンは、コリンから生合成されるが、ホスホリルコリンは、その中間物質として存在する。また、小胞体内のホスファチジルエタノールアミンは、エタノールアミンから生合成されるが、エタノールアミンリン酸は、その中間物質として存在する。
【0024】
尿中の目的物質の濃度の測定手法としては、既知の手法のいずれを用いてもよい。例えば、カラム、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、キャピラリー電気泳動法(CE)による分離及び定量を含んでいてもよい。特に、LC、HPLC、CEは、分離とともにピーク面積に応じた各物質の定量を行うことも可能である。また、APCI法、CI法、EI法、ESI法、FAB法、FD法、FI法、LILBID法、LSIMS法、MALDI法、PB法、PD法、SIMS法、TSP法等のイオン化及び/又は質量分析を含んでいてもよい。また、目的物質は、当該物質に特異的に結合する分子(例えば、抗体)や、当該物質と特異的に反応する分子(例えば、酵素)を用いて検出してもよい。このような分子を含む組成物又はキットとして、市販品を使用してもよい。
【0025】
以下、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸、グリセロール3-リン酸の濃度をそれぞれ測定することを含む、エネルギー充足率の決定方法を、物質ごとに説明する。
【0026】
1-1 ホスホリルコリンの濃度測定
1-1-1 線形回帰分析によるエネルギー充足率算出式
本実施形態の第1態様は、尿中のホスホリルコリン濃度を測定することを含む。実施例に記載した通り、20例の尿検体を用いて、エネルギー充足率(Y)と尿中のホスホリルコリン濃度の測定値(X1)との線形回帰分析を行ったところ、YとX1は負の相関を有し(Y=-45358×X1+99.349)(
図2A)、その相関係数の絶対値が0.76となり、高い相関を示すことを見出した。
【0027】
エネルギー充足率(Y)とホスホリルコリン濃度の測定値(X1)との関係は、Y=aX1+fの式で表すことができ、このX1にホスホリルコリン濃度の実際の測定値を当てはめることでエネルギー充足率を算出することができる。a及びfの値は、ホスホリルコリン濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率既知の複数の検体について、当該測定条件下でホスホリルコリン濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)及びホスホリルコリン濃度の測定値(X1)との相関式(Y=aX1+f)を割り出す。これにより、定数a及びfを決定することができる。予め決定されたa及びfを含む式Y=aX1+fのX1にホスホリルコリン濃度の実際の測定値を当てはめることで、容易にエネルギー充足率を算出することができる。
【0028】
1-1-2 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(1)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、尿中のホスホリルコリン濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち、少なくとも1つのデータを指標として加えてもよい。特に、対象の年齢及びBMIを指標として加えることができる。
【0029】
実施例に記載した通り、エネルギー充足率(Y)を従属変数、ホスホリルコリン濃度の測定値(X1)を説明変数として、さらに、共変量として、年齢(X2)及びBMI(X3)の指標を加えて重回帰分析を行った結果、Yは下記式で表すことができた。
Y=(-40247.62597×X1)+(0.664881×X2)+(-0.947887×X3)+93.018149
上記式で算出されたエネルギー充足率と食事記録とエネルギー消費量から算出された実際のエネルギー充足率(実測値)との相関係数は、0.85と高い値となった。
【0030】
エネルギー充足率(Y)と、ホスホリルコリン濃度の測定値(X1)、年齢(X2)及びBMI(X3)との関係は、Y=aX1+bX2+cX3+fの式で表される。a、b、c及びfの値は、ホスホリルコリン濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率、対象の年齢及びBMIが既知の複数の検体について、当該測定条件下でホスホリルコリン濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)と、ホスホリルコリン濃度の測定値(X1)、年齢(X2)、BMI(X3)との相関式(Y=aX1+bX2+cX3+f)を割り出す。これにより、定数a、b、c及びfを決定することができる。予め決定されたa、b、c及びfを含む式Y=aX1+bX2+cX3+fにホスホリルコリン濃度の実際の測定値、年齢及びBMIの値を当てはめて計算することで、エネルギー充足率を算出することができる。これにより、ホスホリルコリン以外の成分の濃度の測定を要することなく、エネルギー充足率を算出することが可能であるが、この場合、被験者から、尿検体以外に患者情報を取得することを要する。
【0031】
1-1-3 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(2)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、尿中のホスホリルコリン濃度の測定値に加えて、尿中の他の1以上の成分の濃度の測定値を指標として加えてもよい。
【0032】
エネルギー充足率(Y)を従属変数、ホスホリルコリン濃度の測定値(X1)を説明変数として、共変量として、例えば、尿中の他の2成分、成分A(X4)及び成分B(X5)のそれぞれの濃度の測定値の指標を加えて重回帰分析を行う場合、これにより、Y=aX1+dX4+eX5+fの関係式を割り出すことができる。a、d、e及びfの値は、ホスホリルコリン、成分A、成分Bの濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率が既知の複数の検体について、当該測定条件下でホスホリルコリン、成分A、成分Bの濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)と、ホスホリルコリンの濃度の測定値(X1)、成分Aの濃度の測定値(X4)、成分Bの濃度の測定値(X5)との相関式(Y=aX1+dX4+eX5+f)を割り出す。これにより、定数a、d、e及びfを決定することができる。予め決定されたa、d、e及びfを含む式Y=aX1+dX4+eX5+fにホスホリルコリン、成分A、成分Bの濃度の実際の測定値を当てはめることで、エネルギー充足率を算出することができる。
【0033】
あるいは、本態様において、尿中のホスホリルコリン濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち少なくとも1つのデータと、尿中のエネルギー充足率との相関性を有する1以上の他の成分の濃度の測定値をエネルギー充足率の算出に加えてもよい。例えば、対象の年齢、BMI、尿中の他の成分の濃度の測定値を算出に加えることができる。
【0034】
1-2 エタノールアミンリン酸の濃度測定
1-2-1 線形回帰分析によるエネルギー充足率算出式
本実施形態の第2態様は、尿中のエタノールアミンリン酸濃度を測定することを含む。実施例に記載した通り、20例の尿検体を用いて、エネルギー充足率(Y)と尿中のエタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)とが、負の相関を有し(Y=-74383×X1+107.3)(
図2B)、その相関係数の絶対値が0.67となり、高い相関を示すことを見出した。
【0035】
エネルギー充足率(Y)とエタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)との関係は、Y=aX1+fの式で表すことができ、このX1にエタノールアミンリン酸濃度の実際の測定値を当てはめることで、エネルギー充足率を算出することができる。a及びfの値は、エタノールアミンリン酸濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率既知の複数の検体について、当該測定条件下でエタノールアミンリン酸濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)及びエタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)との相関式(Y=aX1+f)を割り出す。これにより、定数a及びfを決定することができる。予め決定されたa及びfを含む式Y=aX1+fのX1にエタノールアミンリン酸濃度の実際の測定値を当てはめることで、容易にエネルギー充足率を算出することができる。
【0036】
1-2-2 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(1)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、尿中のエタノールアミンリン酸濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち、少なくとも1つのデータを指標として加えてもよい。特に、対象の年齢及びBMIを指標として加えることできる。
【0037】
実施例に記載した通り、エネルギー充足率(Y)を従属変数、エタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)を説明変数として、さらに共変量として、年齢(X2)及びBMI(X3)の指標を加えて重回帰分析を行った結果、Yは下記式で表すことができた。
Y=(-70096.79617×X1)+(0.833297×X2)+(-1.698907×X3)+111.47139
上記式で算出されたエネルギー充足率と食事記録とエネルギー消費量から算出された実際のエネルギー充足率(実測値)との相関係数は、0.86と高い値となった。
【0038】
エネルギー充足率(Y)と、エタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)、年齢(X2)及びBMI(X3)との関係は、Y=aX1+bX2+cX3+fの式で表される。a、b、c及びfの値は、エタノールアミンリン酸濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率、対象の年齢及びBMIが既知の複数の検体について、当該測定条件下でエタノールアミンリン酸濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)と、エタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)、年齢(X2)、BMI(X3)との相関式(Y=aX1+bX2+cX3+f)を割り出す。これにより、定数a、b、c及びfを決定することができる。予め決定されたa、b、c及びfを含む式Y=aX1+bX2+cX3+fにエタノールアミンリン酸濃度の実際の測定値、年齢及びBMIの値を当てはめて計算することで、エネルギー充足率を算出することができる。これにより、エタノールアミンリン酸以外の成分の濃度の測定を要することなく、エネルギー充足率を算出することが可能であるが、この場合、被験者から、尿検体以外に対象のプロファイル情報を取得することを要する。
【0039】
1-2-3 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(2)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、尿中のエタノールアミンリン酸濃度の測定値に加えて、尿中の他の1以上の成分の濃度の測定値を指標として加えてもよい。
【0040】
実施例に記載した通り、エネルギー充足率(Y)を従属変数、エタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)を説明変数として、さらに、共変量として、例えば、尿中の他の2成分、成分A(X4)及び成分B(X5)のそれぞれの濃度の測定値の指標を加えて重回帰分析を行う場合、これにより、Y=aX1+dX4+eX5+fの関係式を割り出すことができる。a、d、e及びfの値は、エタノールアミンリン酸、成分A、成分Bの濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率が既知の複数の検体について、当該測定条件下でエタノールアミンリン酸、成分A、成分Bの濃度を測定し、エネルギー充足率(Y)と、エタノールアミンリン酸濃度の測定値(X1)、成分Aの濃度の測定値(X4)、成分Bの濃度の測定値(X5)との相関式(Y=aX1+dX4+eX5+f)を割り出す。これにより、定数a、d、e及びfを決定することができる。予め決定されたa、d、e及びfを含む式Y=aX1+dX4+eX5+fにエタノールアミンリン酸、成分A、成分Bの濃度の実際の測定値を当てはめることで、エネルギー充足率を算出することができる。
【0041】
あるいは、本態様において、尿中のエタノールアミンリン酸濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち少なくとも1つのデータと、尿中の他の1以上の成分の濃度の測定値をエネルギー充足率の算出に加えてもよい。例えば、対象の年齢、BMI、尿中の他の成分の濃度の測定値を算出に加えることができる。
【0042】
1-3 グリセロール3-リン酸の濃度測定
1-3-1 線形回帰分析によるエネルギー充足率算出式
本実施形態の第3態様は、尿中のグリセロール3-リン酸濃度を測定することを含む。実施例に記載した通り、20例の尿検体を用いて、エネルギー充足率(Y)と尿中のグリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)との線形回帰分析を行ったところ、YとX1は負の相関を有し(Y=-34541×X1+103.02)(
図2C)、その相関係数の絶対値が0.64となり、高い相関を示すことを見出した。
【0043】
エネルギー充足率(Y)とグリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)との関係は、Y=aX1+fの式で表すことができ、このX1にグリセロール3-リン酸濃度の実際の測定値を当てはめることでエネルギー充足率を算出することができる。a及びfの値は、グリセロール3-リン酸濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率既知の複数の検体について、当該測定条件下でグリセロール3-リン酸濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)及びグリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)との相関式(Y=aX1+f)を割り出す。これにより、定数a及びfを決定することができる。予め決定されたa及びfを含む式Y=aX1+fのX1にグリセロール3-リン酸濃度の実際の測定値を当てはめることで、容易にエネルギー充足率を算出することができる。
【0044】
1-3-2 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(1)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、尿中のグリセロール3-リン酸濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち、少なくとも1つのデータを指標として加えてもよい。特に、対象の年齢及びBMIを指標として加えることができる。
【0045】
実施例に記載した通り、エネルギー充足率(Y)を従属変数、グリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)を説明変数として、さらに、共変量として、年齢(X2)及びBMI(X3)の指標を加えて重回帰分析を行った結果、Yは下記式で表すことができた。
Y=(-32371.292292×X1)+(0.836491×X2)+(-1.474309×X3)+102.414497
上記式で算出されたエネルギー充足率と食事記録とエネルギー消費量から算出された実際のエネルギー充足率(実測値)との相関係数は、0.82と高い値となった。
【0046】
エネルギー充足率(Y)と、グリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)、年齢(X2)及びBMI(X3)との関係は、Y=aX1+bX2+cX3+fの式で表される。a、b、c及びfの値は、グリセロール3-リン酸濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率、対象の年齢及びBMIが既知の複数の検体について、当該測定条件下でグリセロール3-リン酸濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)と、グリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)、年齢(X2)、BMI(X3)との相関式(Y=aX1+bX2+cX3+f)を割り出す。これにより、定数a、b、c及びfを決定することができる。予め決定されたa、b、c及びfを含む式Y=aX1+bX2+cX3+fにグリセロール3-リン酸濃度の実際の測定値を当てはめることで、エネルギー充足率を算出することができる。これにより、グリセロール3-リン酸以外の成分の濃度の測定等を要することなく、エネルギー充足率を算出することが可能であるが、この場合、被験者から、尿検体以外に対象のプロファイル情報を取得することを要する。
【0047】
1-3-3 重回帰分析によるエネルギー充足率算出式(2)
本態様において、エネルギー充足率の算出に、上記の尿中のグリセロール3-リン酸濃度の測定値に加えて、尿中の他の1以上の成分の濃度の測定値を指標として加えてもよい。
【0048】
実施例に記載した通り、エネルギー充足率(Y)を従属変数、グリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)を説明変数として、さらに、共変量として、例えば、尿中の他の2成分、成分A(X4)及び成分B(X5)のそれぞれの濃度の測定値の指標を加えて重回帰分析を行う場合、これにより、Y=aX1+dX4+eX5+fの関係式を割り出すことができる。a、d、e及びfの値は、グリセロール3-リン酸、成分A、成分Bの濃度の測定条件により変動するため、予め測定条件に応じた値に決定することを要する。具体的には、エネルギー充足率が既知の複数の検体について、当該測定条件下でグリセロール3-リン酸、成分A、成分Bの濃度の測定を行い、エネルギー充足率(Y)と、グリセロール3-リン酸濃度の測定値(X1)、成分Aの濃度の測定値(X4)、成分Bの濃度の測定値(X5)との相関式(Y=aX1+dX4+eX5+f)を割り出す。これにより、定数a、d、e及びfを決定することができる。予め決定されたa、d、e及びfを含む式Y=aX1+dX4+eX5+fにグリセロール3-リン酸、成分A、成分Bの濃度の実際の測定値を当てはめることで、エネルギー充足率を算出することができる。これにより、尿検体からの情報のみで、より正確にエネルギー充足率を算出できることが示された。
【0049】
あるいは、本態様において、尿中のグリセロール3-リン酸濃度の測定値に加えて、対象の年齢、性別、身体活動レベル、身長、体重、BMI、筋肉量、体脂肪率、内臓脂肪量及び基礎代謝量等のプロファイルのうち少なくとも1つのデータと、尿中の他の1以上の成分の濃度の測定値をエネルギー充足率の算出に加えてもよい。例えば、対象の年齢、BMI、尿中の他の成分の濃度の測定値を算出に加えることができる。
【0050】
2 エネルギー充足率決定用組成物又はキット
本発明の第2の実施形態は、エネルギー充足率決定用組成物又はキットである。本実施形態の組成物又はキットは、尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質のうち、少なくとも1つ、特に、尿中のホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸の濃度を測定可能な化合物を含む、ことを特徴とする。より具体的には、本実施形態の組成物又はキットは、「1 エネルギー充足率の決定方法」の節に記載の方法に使用するための組成物又はキットである。特に記載のない限り、また、特に矛盾のない限り、本実施形態の組成物又はキットが使用される対象、試料、条件等は、いずれも「1 エネルギー充足率の決定方法」の節に記載した通りである。
【0051】
本明細書において、「組成物」は、1つの部材(容器を含む)からなるものを指し、「キット」は、2つ以上の部材からなるものを指す。本実施形態の組成物及びキットは、エネルギー充足率の決定に用いられる限り、部材数の差異以外、特に区別なく使用される。
【0052】
2-1 ホスホリルコリン濃度測定用化合物
本実施形態の第1態様は、ホスホリルコリン濃度を測定可能な化合物を含む。ホスホリルコリン濃度を測定可能な化合物としては、例えば、試料をCE又はHPLCに供するための化合物が挙げられる。この場合、当該化合物は、他の物質の濃度の測定も可能とし得る。あるいは、ホスホリルコリンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片が挙げられる。
【0053】
2-2 エタノールアミンリン酸濃度測定用化合物
本実施形態の第2態様は、エタノールアミンリン酸濃度を測定可能な化合物を含む。エタノールアミンリン酸濃度を測定可能な化合物としては、例えば、試料をCE又はHPLCに供するための化合物が挙げられる。この場合、当該化合物は、他の物質の濃度の測定も可能とし得る。あるいは、エタノールアミンリン酸と反応する酵素、例えば、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(国際公開第2013/069645号公報参照)等が挙げられる。
【0054】
2-3 グリセロール3-リン酸濃度測定用化合物
本実施形態の第3態様は、グリセロール3-リン酸濃度を測定可能な化合物を含む。グリセロール3-リン酸濃度を測定可能な化合物としては、例えば、試料をCE又はHPLCに供するための化合物が挙げられる。この場合、当該化合物は、他の物質の濃度の測定も可能とし得る。あるいは、グリセロール3-リン酸と反応可能な酵素、例えば、グリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)等が挙げられる。
【0055】
2-4 その他
本実施形態の組成物又はキットは、上記に加えて、上記化合物に加えて、尿中の他の1以上の成分の濃度を測定可能な化合物を含んでいてもよい。及び/あるいは、本実施形態の組成物又はキットは、上記に加えて、尿中のクレアチニン濃度を測定可能な化合物を含んでいてもよい。クレアチニン濃度を測定可能な化合物としては、試料をCE又はHPLCに供するための化合物の他に、既知のクレアチニン濃度測定用化合物、例えば、クレアチナーゼ/クレアチニナーゼが挙げられる。
【0056】
キットの場合、さらに、尿検体を収納するための密封容器、尿検体を精製するためのフィルター(例えば、限外ろ過フィルター)、尿検体前処理用組成物、測定・分析の手順を説明した説明書等を備えてもよい。
【0057】
3 郵送検査用キット
本発明の第3の実施形態は、郵送検査用キットである。本実施形態の郵送検査用キットは、対象の尿検体を収納するための密封容器を備え、密封容器に収納された尿検体は、対象の尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定し、エネルギー充足率を決定するために使用される、ことを特徴とする。郵送検査用キットは、エネルギー充足率決定の対象である被験者自身(又はその介護者等)が、対象の尿検体を採取し、該検体を、尿中成分の濃度を測定することが可能な検査機関に郵送するために使用される。
【0058】
本実施形態の郵送検査用キットは、尿検体を収納するための密封容器を少なくとも備える。ここでいう尿検体は、液状の尿であってもよく、ろ紙にしみこませたろ紙尿であってもよい。液状の尿の場合、密封容器は、例えば、スクリューキャップ付き密封チューブとすることができる。ろ紙尿の場合、密封容器は、例えば、密封用シールバックとすることができる。
【0059】
本実施形態の郵送検査用キットは、上記に加えて、採尿カップ、被験者向け説明書、プロファイル(年齢、性別、身長、体重、身体活動レベル等)記入用紙、返信用封筒等が含まれていてもよい。被験者向け説明書が含まれる場合、例えば、説明書には、プロファイル入力用及び/あるいは、結果照会用のWEBページのアドレス(例えば、QRコード(登録商標))が記載されていてもよい。
【0060】
郵送検査用キットを用いて検査機関に郵送された尿検体は、尿に含まれるグリセロリン脂質の生合成に関与する物質の少なくとも1つの濃度を測定し、これにより、対象のエネルギー充足率を決定するために使用される。エネルギー充足率の決定方法は、「1 エネルギー充足率の決定方法」の節に記載の方法を用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1:エネルギー充足率マーカーの検索>
(1)被験者及び試料
ボランティア20名を被験者として選定し、3日間に摂取した料理名、食品名、摂取量、料理の写真の記録及び提出を依頼した。同時に被験者には、3日目の早朝尿約10mLの自己採取とその提出も依頼した。早朝尿は、起床30分以内の空腹時に採尿した尿とした。被験者からは、さらに、年齢、身長及び体重のデータも取得した。
【0063】
(2)エネルギー摂取量の算出
提出された3日間の食事記録より、管理栄養士が文部科学省「日本食品標準成分表(2020年版)」を用いて栄養計算を行うことで、3日間の摂取カロリーを算出し、これをエネルギー摂取量とした。
【0064】
(3)エネルギー必要量とエネルギー充足率(実測値)の算出
対象の性別、年齢、身長、体重から、基礎代謝量を算出した。下記式(I)を用いて、推定エネルギー必要量を算出し、これをエネルギー必要量とした。
推定エネルギー必要量(kcal)=基礎代謝量(kcal)×α …(I)
(α:身体活動レベルから割り出した指数)
指数αは、全ての対象の身体活動レベルをIIとして、表1に示す基準に基づいて割り出した。(2)で算出したエネルギー摂取量をエネルギー必要量で除して、エネルギー充足率(実測値)を算出した。
【0065】
(4)尿検体の前処理
提出された尿試料について、内部標準物質の濃度が100μMとなるように調製した20μLの水溶液及び60μLのイオン交換水を加えて攪拌し、限外濾過チューブ(ウルトラフリーMC PLHCC、遠心式フィルターユニット 5kDa)に移した。これを遠心(9100×g、4℃、60分間)し、限外ろ過処理を行い、測定に供した。
【0066】
(5)メタボローム解析
前処理後の試料に含まれる代謝物質について、キャピラリー電気泳動-フーリエ変換型質量分析計(CE-FTMS)のカチオンモード及びアニオンモードでの測定を、以下に示す条件で行った。試料は、イオン交換水で、カチオンモードでは20倍、アニオンモードでは10倍に貴社した後、CE-FTMSに供した。
(カチオンモード:陽イオン性代謝物質解析)
CE:Agilent CEシステム(Agilent社製)
MS:Q Exactive(商標) Plus(ThermoFisher社製)
キャピラリー:Fused silica capillary 50μm×80cm
CE電圧:Positive 30kV
MSイオン化:ESI カチオン化
MSキャピラリー電圧:4000V
MSスキャンレンジ:m/z60-900
(アニオンモード:陰イオン性代謝物質解析)
CE:Agilent CEシステム(Agilent社製)
MS:Q Exactive(商標)Plus(ThermoFisher社製)
キャピラリー:Fused silica capillary 50μmx80cm
CE電圧:Positive 30kV
MSイオン化:ESI アニオン化
MSキャピラリー電圧:3500V
MSスキャンレンジ:m/z70-1050
【0067】
CE-FTMSのカチオンモード又はアニオンモードで検出されたピークから、自動積分ソフトウェアMasterHandsver.2.19.0.2(慶應義塾大学開発)を用いて、シグナル/ノイズ(S/N)比が3以上のピークを自動抽出し、質量電荷比、ピーク面積値、泳動時間を得た。抽出された各ピークのピーク面積値は、下記式(VII)及び(VIII)に示す通り、クレアチニンのピーク面積値を用いて、相対面積値に補正した。クレアチニンが直接検出されるのはカチオンモードのみであることから、アニオンモードの補正には、カチオンモードの内部標準物質で補正したクレアチニンの相対面積値を用いた。
【数1】
【数2】
ここで得られるピークから、Na
+、K
+等のアダクトイオン、脱水、脱アンモニウムにより生じるフラグメントイオンに由来するピークを除外した。
【0068】
検出されたピークの泳動時間とm/zの値をもとに、予めライブラリに登録した全代謝物質から、該当物質を照合、検索した。検査のための許容誤差は、泳動時間で±5分間、m/zでは±5ppmとした。
【0069】
検索された各対象物質の尿中濃度とエネルギー代謝率について、相関性を求めた結果、表2に示した3つの化合物について、高い相関性が見られた。
図2に、ホスホリルコリン(
図2A)、エタノールアミンリン酸(
図2B)、グリセロール3-リン酸(
図2C)のそれぞれの濃度の測定値とエネルギー充足率とをプロットした相関図を示す。
【0070】
【0071】
<実施例2:ホスホリルコリンを説明変数としたエネルギー充足率との相関性>
(1)ホスホリルコリン、年齢及びBMIを用いたエネルギー充足率の重回帰分析
ホスホリルコリン濃度の測定値を説明変数、BMIと年齢を共変量、従属変数をエネルギー充足率(3日間平均)として、重回帰分析を行った。エネルギー充足率をY、ホスホリルコリン濃度の測定値をX1、年齢をX2、BMIをX3とした場合、エネルギー充足率Yは以下の式で算出できることが示された。
Y=(-40247.62597×X1)+(0.664881×X2)+(-0.947887×X3)+93.018149
【0072】
重回帰分析の結果、自由度調整済みの決定係数は0.67、相関係数は0.85、変動係数は5.9%であった。
図3に、上記式から算出されたエネルギー充足率の推定値と、エネルギー充足率実測値との相関図を示す。ホスホリルコリン濃度の測定値を単独の指標とした場合と比較して、年齢及びBMIを指標として加えることで、より正確にエネルギー充足率を割り出せることが示された。
【0073】
(2)ホスホリルコリン濃度の測定値と炭水化物、脂質及びタンパク質充足率との相関
被験者の食事記録より、3日間の炭水化物量、脂質量及びタンパク質量の摂取量を割り出した。炭水化物の必要摂取量は、エネルギー消費量(kcal)×60%×1/4(g)、脂質の必要摂取量は、エネルギー消費量(kcal)×25%×1/9(g)とし、タンパク質の必要摂取量は、食事摂取基準のたんぱく質推奨量として割り出した。炭水化物、脂質及びタンパク質の充足率を、実際の摂取量を必要摂取量で除して算出した。
【0074】
ホスホリルコリン濃度の測定値と炭水化物、脂質及びタンパク質の各充足率との相関性を算出した結果、相関係数は、それぞれ0.24、-0.44及び-0.43となった。これにより、ホスホリルコリン濃度の測定値は、炭水化物、脂質及びタンパク質のそれぞれとの相関性が低いことが示された。これにより尿中のホスホリルコリン濃度の測定値は、エネルギー充足率に特異的なマーカーとして有用であることが示唆された。
【0075】
<実施例3:エタノールアミンリン酸を説明変数としたエネルギー充足率との相関性>
(1)エタノールアミンリン酸、年齢及びBMIを用いたエネルギー充足率の重回帰分析
エタノールアミンリン酸濃度の測定値を説明変数、BMIと年齢を共変量、従属変数をエネルギー充足率(3日間平均)として、重回帰分析を行った。エネルギー充足率をY、エタノールアミンリン酸濃度の測定値をX1、年齢をX2、BMIをX3とした場合、エネルギー充足率Yは以下の式で算出できることが示された。
Y=(-70096.79617×X1)+(0.833297×X2)+(-1.698907×X3)+111.47139
【0076】
重回帰分析の結果、自由度調整済みの決定係数は0.69、相関係数は0.86、変動係数は5.9%であった。
図4に、上記式から算出されたエネルギー充足率の推定値と、エネルギー充足率実測値との相関図を示す。エタノールアミンリン酸濃度の測定値を単独の指標とした場合と比較して、年齢及びBMIを指標として加えることで、より正確にエネルギー充足率を割り出せることが示された。
【0077】
<実施例4:グリセロール3-リン酸濃度を説明変数としたエネルギー充足率との相関性>
(1)グリセロール3-リン酸濃度、年齢及びBMIを用いたエネルギー充足率の重回帰分析
グリセロール3-リン酸濃度の測定値を説明変数、BMIと年齢を共変量、従属変数をエネルギー充足率(3日間平均)として、重回帰分析を行った。エネルギー充足率をY、グリセロール3-リン酸濃度の測定値をX1、年齢をX2、BMIをX3とした場合、エネルギー充足率Yは以下の式で算出できることが示された。
Y=(-32371.292292×X1)+(0.836491×X2)+(-1.474309×X3)+102.414497
【0078】
重回帰分析の結果、自由度調整済みの決定係数は0.62、相関係数は0.82、変動係数は5.8%であった。
図5に、上記式から算出されたエネルギー充足率の推定値と、エネルギー充足率実測値との相関図を示す。グリセロール3-リン酸濃度の測定値を単独の指標とした場合と比較して、年齢及びBMIを指標として加えることで、より正確にエネルギー充足率を割り出せることが示された。
【要約】
【課題】エネルギー充足率を、簡便に、かつ正確に決定するための方法を提供する。
【解決手段】対象の尿に含まれる、グリセロリン脂質の生合成に関与する物質、特に、ホスホリルコリン、エタノールアミンリン酸又はグリセロール3-リン酸の濃度を測定し、該測定値より、エネルギー充足率を算出する。
【選択図】なし