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特許7620429表皮ケラチノサイト前駆細胞におけるサーチュイン遺伝子発現のデカペプチド-12モジュレーション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】表皮ケラチノサイト前駆細胞におけるサーチュイン遺伝子発現のデカペプチド-12モジュレーション
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20250116BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61K8/64
A61P17/16
A61P43/00 107
A61Q19/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020502526
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 US2018025450
(87)【国際公開番号】W WO2018183882
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】62/479,248
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519350742
【氏名又は名称】エスケープ・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ESCAPE THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンタッシュ,バジル・エム
(72)【発明者】
【氏名】ウベイド,アナン・アブ
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】冨永 みどり
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/032029(WO,A1)
【文献】特表2016-516023(JP,A)
【文献】特開2007-145795(JP,A)
【文献】公益財団法人長寿科学振興財団,健康長寿ネット,早老症とは,[onlile],2016年7月25日公開・2019年2月1日更新,公益財団法人長寿科学振興財団,[令和5年1月11日検索],インターネット<URL:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/werner/about.html>
【文献】Curr. Top Med. Chem.,2014, Vol.14, No.12, p.1418-1424
【文献】「パルミトイル化」、脳科学辞典、2012年1月25日、 < https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%AB%E5%8C%96>
【文献】Trends in Molecular Medicine, 2012, Vol.18, No.7, p.385-393
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚細胞におけるサーチュイン遺伝子の発現をモジュレートすることによって、対象の皮膚細胞の早期の細胞セネッセンスに関連する皮膚老化障害を治療する方法に用いるための組成物であって、当該方法は対象に当該組成物を投与することを含み、ここにおいて当該組成物は配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12のアミノ酸配列からなる、有効量の1つまたは複数のペプチドを含む、組成物。
【請求項2】
前記皮膚細胞が前駆細胞であり、前記前駆細胞が表皮ケラチノサイト前駆細胞、メラノブラスト、線維芽細胞、組織芽細胞、またはデンドロブラストである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記皮膚細胞が最終分化しており、ここにおいて前記皮膚細胞がケラチノサイト、メラニン細胞、線維細胞、組織球、またはデンドロサイトである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが1μM以上の濃度で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記サーチュイン遺伝子が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、または配列番号7の塩基配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
オキシレスベラトロールをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記皮膚細胞が哺乳動物細胞であり、ここにおいて前記皮膚細胞がヒト皮膚細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが、配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチドが修飾基によって修飾されたペプチドであり、前記修飾基がアミノ末端のパルミトイル基もしくはアセチル基、またはカルボキシ末端のアミド化のいずれかであるか、またはその両方である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ペプチドが、天然に存在するLアミノ酸または天然には存在しないDアミノ酸から独立して選択される残基を含み、サーチュイン遺伝子の発現を特異的にモジュレートする能力を維持するものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、本出願で引用される他のすべての参考文献とともに参照により組み込まれる「表皮ケラチノサイトにおけるサーチュイン遺伝子発現のデカペプチド-12モジュレーション」の題で2017年3月30日に出願された米国特許出願第62/479,248号の利益を主張する。
【0002】
配列表
この出願には、2018年3月21日に作成され、この出願とともに電子的に提出された「ELIXP004US_ST25.txt」(3キロバイト)の題の配列表が参照により組み込まれる。
【0003】
発明の背景
本発明は、新規な生物学的因子の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
概要
最近の報告において、早老化の抑制、細胞セネッセンス(cellular senescence)の遅延、寿命の延長、および幅広い老化障害の軽快においてサーチュイン(sirtuin)が果たす多面的な役割について詳述されている。本明細書において、強力なサーチュイン活性化因子であるデカペプチド-12に関する知見を報告し、その性能を十分に実証されたオキシレスベラトロール(oxyresveratrol)と比較する。ヒト表皮ケラチノサイト前駆細胞を100μMデカペプチド-12で処理すると、SIRT1の転写が対照細胞と比較して141±11パーセント増加する一方で、SIRT3、SIRT6、およびSIRT7のレベルは、それぞれ121±13パーセント、147±8パーセント、および95±14パーセント増加した。デカペプチド-12は、サーチュイン転写をオキシレスベラトロールと同様のレベルに上方調節したが、細胞毒性は低下した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によるペプチドは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12からなる。
【0006】
特定の実施形態によるペプチドは、修飾基により修飾された配列番号9からなり、その修飾基はアミノ末端のパルミトイル基もしくはアセチル基、またはカルボキシ末端のアミド化のいずれかであるか、またはその両方である。
【0007】
様々な実施形態によるペプチドは、D-アイソフォームとして6位にチロシンアミノ酸を有し、他のすべてのアミノ酸がL-アイソフォームである配列番号11からなる。
【0008】
一実施形態による組成物は、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12からなる第1のペプチドを含む。
【0009】
特定の実施形態による組成物は、修飾基によって修飾された配列番号9からなり、その修飾基はアミノ末端のパルミトイル基もしくはアセチル基、またはカルボキシ末端のアミド化のいずれかであるか、またはその両方である。
【0010】
いくつかの実施形態による組成物は、D-アイソフォームとして6位にチロシンアミノ酸を有し、他のすべてのアミノ酸がL-アイソフォームである配列番号11からなる。
【0011】
特定の実施形態による組成物は、1μm以上の濃度で存在するペプチドを含む。
皮膚細胞におけるサーチュイン遺伝子の発現をモジュレートして皮膚老化の症状を軽減することにより対象を治療する方法の実施形態は、有効量の1つまたは複数のペプチドを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含み、1つまたは複数のペプチドは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12からなる。
【0012】
特定の実施形態による方法では、ペプチドは、修飾基によって修飾された配列番号9からなり、その修飾基はアミノ末端のパルミトイル基もしくはアセチル基、またはカルボキシ末端のアミド化のいずれかであるか、またはその両方である。
【0013】
いくつかの実施形態による方法では、ペプチドは、D-アイソフォームとして6位にチロシンアミノ酸を有し、他のすべてのアミノ酸がL-アイソフォームである配列番号11からなる。
【0014】
様々な実施形態による方法では、皮膚細胞は前駆細胞である。
いくつかの実施形態によれば、前駆細胞は、表皮ケラチノサイト前駆細胞、メラノブラスト、線維芽細胞、組織芽細胞、またはデンドロブラスト(dendroblast)である。
【0015】
特定の実施形態による方法では、皮膚細胞は最終分化している。
様々な方法の実施形態によれば、皮膚細胞は、ケラチノサイト、メラニン細胞、線維細胞、組織球、またはデンドロサイト(dendrocyte)である。
【0016】
方法の特定の実施形態では、ペプチドは1μm以上の濃度で存在する。
特定の実施形態では、サーチュイン遺伝子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、または配列番号7を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、組成物はオキシレスベラトロールをさらに含む。
特定の実施形態では、皮膚細胞は哺乳動物細胞である。
【0018】
いくつかの実施形態では、皮膚細胞はヒトである。
皮膚細胞におけるサーチュイン遺伝子の発現をモジュレートする方法の実施形態は、有効量の1つまたは複数のペプチドを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含み、1つまたは複数のペプチドは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、または配列番号12からなる。
【0019】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および添付の図面を考慮することによって明らかになるであろう。そこでは、同様の参照名称は、図面全体を通して同様の特徴を表す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】SIRT1の用量依存的な転写上方調節を示す図である(a)。データは、内部対照遺伝子18Sに対する倍増として表され、3回の独立した実験の平均値±SEMを表す。
図1B】SIRT3の用量依存的な転写上方調節を示す図である(b)。データは、内部対照遺伝子18Sに対する倍増として表され、3回の独立した実験の平均値±SEMを表す。
図1C】SIRT6の用量依存的な転写上方調節を示す図である(c)。データは、内部対照遺伝子18Sに対する倍増として表され、3回の独立した実験の平均値±SEMを表す。
図1D】SIRT7の用量依存的な転写上方調節を示す図である(d)。データは、内部対照遺伝子18Sに対する倍増として表され、3回の独立した実験の平均値±SEMを表す。
図2A】表皮ケラチノサイトにおけるデカペプチド-12とオキシレスベラトロールの細胞毒性効果を示す図である。データはパーセント対照として表され、3回の別々の実験の平均値±SEMを表す。*P<0.05。
図2B】表皮ケラチノサイト増殖におけるデカペプチド-12とオキシレスベラトロールの効果を示す図である。データはパーセント対照として表され、3回の別々の実験の平均値±SEMを表す。*P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
皮膚は、経時的および光老化での結果を表し、私たちに老化プロセスを常に認識させ、その影響を遅らせるかまたは反転させるような治療法を求めさせる。皮膚老化は伝統的に外因性または内因性によるものに分類されてきた。最近の証拠により、両方のタイプが、マトリックスメタロプロテイナーゼの発現を促進するシグナル伝達経路の変更、プロコラーゲン合成の減少、および結合組織損傷を含む重要な分子的特徴を共有していることが示されている。
【0022】
ヒト皮膚において、老化は老化細胞の数の増加と細胞の増殖と分化の能力の低下に関連している。老化は主に様々な内因性の活性酸素種(ROS)によるフリーラジカル損傷の結果であるという理論が、実質的な証拠により支持されている。Velardeらは、ミトコンドリアの酸化的損傷、細胞セネッセンス、および皮膚の老化表現型の間の因果関係のin vivoにおける証拠を報告した。さらに、紫外線(UV)放射はROS合成を刺激するが、これは突然変異誘発と光老化に関係している。これらの知見と一致して、紫外線照射された皮膚対日光保護された皮膚でのサーチュイン活性の発現の変化がデータにより示唆され、これらの差異が皮膚老化の特定の側面の原因である可能性がある。
【0023】
細胞セネッセンスとは、細胞が分裂を停止し、顕著なクロマチンおよびセクレトームの変化、ならびに腫瘍抑制因子の活性化を含む特徴的な表現型の変化を受けるプロセスと説明される。多数の報告が、細胞セネッセンスと早老化の遅延における多面的な役割を詳述する強力なアンチエイジングタンパク質としてのサーチュインの概念の確立を手助けしている。サーチュインは、DNA損傷修復、テロメア短縮、酸化ストレスへの細胞応答、ROS誘発性病態の軽快などの経路における重要なエフェクターである。
【0024】
哺乳動物においては、異なる細胞区画に局在し、多様な作用が可能である7つのサーチュイン遺伝子(SIRT1~7)が存在する。生化学的には、サーチュインは主にNAD依存性リジンデアセチラーゼ活性を持つタンパク質のクラスである。サーチュインは、複数の代謝経路の重要な調節因子、細胞のエネルギーおよび酸化還元状態のセンサー、酸化ストレスのモジュレーターとして広く認識されている。
【0025】
これらの知見は、老化およびその幅広い範囲の加齢関連障害の進行を遅らせるのに役立つ低分子活性化因子または医薬品の開発への関心を引き起こした。7つの哺乳動物サーチュインの中で、SIRT1は老化と寿命に関して最も広く研究されている。例えば、レスベラトロールのアンチエイジング効果は主にSIRT1の活性化に起因している。実際、Idoらは、AMP活性化プロテインキナーゼとサーチュインの活性を高めることにより、レスベラトロールが細胞セネッセンスおよび増殖機能障害を軽快したと報告した。
【0026】
我々は以前、デカペプチド-12のヒト皮膚における強力な色素沈着低下効果を報告した。さらなる臨床研究により、1日2回、0.01パーセントのデカペプチド-12を含む局所クリームで8週間治療された色素異常症患者の顔の皮膚の外観が全体的に改善することが明らかになった。これらの知見により、我々はデカペプチド-12がサーチュイン活性をモジュレートして全体的な皮膚の外観を改善する可能性があるという仮説を導いた。この可能性を明確にするために、デカペプチド-12のヒト表皮前駆細胞でのサーチュイン転写における効果を評価した。
【0027】
材料および方法
試薬
デカペプチド-12(YRSRKYSSWY)配列番号9は、固相FMOC化学を使用してBio Basic,Inc.(Ontario、Canada)により合成された。オキシレスベラトロールは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。
【0028】
細胞培養
ヒト新生児表皮前駆細胞(Thermo Fisher Scientific、NY)を、2×10細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種した。60μM塩化カルシウム(Thermo Fisher Scientific、NY)を含むEpilife培地2mlを各ウェルに加えた。プレートを加湿チャンバー中に摂氏37度、5パーセントCOでインキュベートした。24時間後、5パーセントDMSOを含むPBSに溶解した様々な濃度のオキシレスベラトロールまたはデカペプチド-12で細胞を処理した。対照ウェルにはビヒクルのみを加えた(5パーセントDMSOおよびPBS)。各ウェル内のDMSOの最終濃度は0.05パーセントであった。
【0029】
全RNA抽出、定量、およびcDNA合成
72時間のインキュベーション期間後、RNeasyキット(Qiagen、Valencia、CA)を使用し、製造業者のプロトコルに従って細胞をトリプシン処理し、全RNAを抽出した。
【0030】
ナノドロップ(Thermo fisher scientific、NY)を使用してRNA濃度を決定した。オリゴdTプライマーとTaqMan逆転写試薬(Thermo fisher scientific、NY)を使用し、2μgの全RNAを使用してcDNAを合成した。DNA Engine Peltier Thermal Cycler(Bio-Rad、Hercules、CA)で反応を行った。アニーリング温度は摂氏25度で10分間であり、続いて摂氏48度で1時間の最初の鎖合成、摂氏95度で5分間の熱不活性化であった。
【0031】
半定量分析
SIRT1~7プライマー(表1)は、Primer3を使用してデザインされた。半定量PCR反応をDNA Engine Peltier Thermo Cycler(Bio-Rad、Hercules、CA)で実行した。PCRは以下の条件で行われた:SIRT1~7およびハウスキーピング遺伝子18Sについては34サイクルの摂氏94度で2分間の変性および摂氏54度で30秒間のプライマー伸長。
【0032】
表1:SIRT1~7および18Sについてのプライマー配列
【0033】
【表1】
【0034】
サンプルを実行し、0.5μg/mlのエチジウムブロマイドを含む1.5パーセントアガロースゲルで分離し、FluorChem HD2 Imaging System(Protein simple、San Jose、CA)を使用して画像化した。AlphaEase FCソフトウェア(Protein simple、San Jose、CA)を使用して、デンシトメトリー分析を行った。強度比は、各遺伝子に対する強度値を内部対照遺伝子18Sの強度値で割って算出した。
【0035】
生存率/増殖および細胞毒性アッセイ
TACS(登録商標)MTT Cell Proliferation Kit(R&D systems、Minneapolis、MN)を使用して、増殖率を決定した。摂氏37度、5パーセントCOの加湿雰囲気中で、細胞を96ウェルプレートに2.5×10/ウェルで播種した。24時間後、デカペプチド-12またはオキシレスベラトロールを様々な濃度(0、3、10、30、100、300、および1000μM)で対応するウェルに加え、その後、培養物を72時間インキュベートした。残りの手順は、製造業者のプロトコルに従って実行された。
【0036】
トリパンブルー色素排除アッセイを使用して細胞毒性を測定した。6ウェルプレート中、4×10細胞/ウェルの密度で細胞を培養した。各ウェルに、異なる濃度のデカペプチド-12またはオキシレスベラトロール(0、3、10、30、100、300、および1000μM)を加えた。プレートを加湿した5パーセントCOチャンバー内に摂氏37度でインキュベートした。72時間後、アリコートを採取し、血球計を使用して細胞をカウントした。以下の式に従って細胞毒性を測定した:[1-(対照内の細胞数-試験サンプル内の生細胞数)/対照内の細胞数]×100パーセント。
【0037】
統計分析
平均値とその標準誤差は、Microsoft Excelを使用した3回の独立した実行から算出され、統計的有意性は対応のある分散分析を使用して決定された。P値は、P<0.05で統計的に有意であるとみなした。
【0038】
結果
増殖率と細胞毒性におけるデカペプチドの効果:
まず我々は、ヒト表皮前駆細胞におけるデカペプチド-12およびオキシレスベラトロールの細胞毒性効果を評価した。図2Aは、100μMデカペプチド-12またはオキシレスベラトロールでの処理により、それぞれ3±1パーセントまたは6±1パーセントの細胞死をもたらしたことを示している。1mMでは、デカペプチド-12またはオキシレスベラトロールはそれぞれ7±2パーセントまたは16±2パーセントの細胞死をもたらした。
【0039】
我々はまた、ヒト表皮前駆細胞の生存率と増殖におけるデカペプチド-12とオキシレスベラトロールの効果を評価した。図2Bは、300μMデカペプチド-12またはオキシレスベラトロールでの処理により、それぞれ細胞増殖が2±1パーセントまたは5±1パーセント減少したことを示している。しかしながら、増殖を3±2パーセント減少させた1mMデカペプチド-12とは異なり、オキシレスベラトロールとの3日間のインキュベーションでは、増殖が12±2パーセント減少した。
【0040】
デカペプチド-12はSIRT1~7の転写を上方調節した:
我々は次に、オキシレスベラトロールとデカペプチド-12がヒト表皮前駆細胞においてサーチュイン発現に及ぼす影響を評価した。図1A図1Dおよび表2は、デカペプチド-12およびオキシレスベラトロールが用量依存的にSIRT1~7の転写をモジュレートしたことを示す。30μMのオキシレスベラトロールでは、SIRT1転写レベルは対照細胞と比較して125±9パーセント上方調節された一方で、SIRT3、SIRT6、およびSIRT7はそれぞれ133±5パーセント、73±8パーセント、および95±7パーセント上方調節された。
【0041】
表2。デカペプチド-12(a)およびオキシレスベラトロール(b)での処理に応答したSIRT1~7の遺伝子発現プロファイル。結果は3回の独立した試行の平均である。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
データは、100μMデカペプチド-12が未処理細胞と比較してSIRT1の転写を141±11パーセント増加させたのに対し、SIRT3、SIRT6およびSIRT7はそれぞれ121±13パーセント、147±8パーセント、および95±14パーセント増加したことを示している(図1A図1D)。
【0045】
討論
サーチュインの細胞セネッセンスを遅らせ、早老化の進行を阻止することに果たす多面的な役割が、それらが強力なアンチエイジングタンパク質であることを実証することに役立った。SIRT1活性化因子および潜在的なアンチエイジング剤としてのレスベラトロールの治療的使用は、広く研究され、文書化されている。レスベラトロールは、SIRT1の活性化を介して、Hにより誘導される酸化ストレスとセネッセンスからヒト内皮を保護する。同様に、オキシレスベラトロールもまた、強力な抗酸化剤およびフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、それはレスベラトロールとは異なり、細胞毒性がより低く、より良い水溶性である。故に、それをデカペプチド-12の性能とヒト表皮ケラチノサイトのサーチュイン転写をモジュレートする能力を比較する陽性対照として使用することとした。
【0046】
7つのサーチュインはすべて、デカペプチド-12での処理後に上方調節されたが、我々の議論は皮膚老化に直接関係するそれらのサーチュインに焦点を当てる。
【0047】
100μMまたは1mMで、デカペプチド-12は、SIRT1転写をそれぞれ印象的に141または213パーセント増加させた。SIRT1は主に核デアセチラーゼである。それは細胞増殖、分化、アポトーシス、代謝、ストレス応答、ゲノム安定性、および細胞生存などの様々な細胞プロセスを制御する。CaoらはSIRT1がUVBおよびHにより誘導される細胞死に対する保護を培養皮膚ケラチノサイト内のp53およびc-Jun N末端キナーゼのモジュレーションを介して付与することを報告しており、SIRT1活性化因子が新しい抗皮膚老化剤として働き得ることが示唆される。他の研究者は、SIRT1がNF-κBシグナル伝達を抑制することができ、したがって老化プロセスを遅らせ、寿命を延長し得ると報告した。SIRT1の活性化は、NF-κB複合体のp65サブユニットを脱アセチル化することでNF-κBシグナル伝達を直接阻害し、酸化的代謝と炎症の消散を促進する。故に、SIRT1は、複数の分子経路を調節することにより、早期セネッセンスと促進老化を防ぐその広範な効果を媒介する重要なアンチエイジングタンパク質とみなすことができる。
【0048】
SIRT3転写は、100μMデカペプチドでの処理後に121パーセント増加した。SIRT3は主に、β酸化、ATP生成、ROSの管理など、様々なミトコンドリアプロセスの調節に関連している。SIRT3は、造血幹細胞の再生能力の維持にも関与している。SIRT3は老化とともに抑制され、老化した造血幹細胞におけるSIRT3上方調節は再生能力を改善する。この発見により、SIRT3が幹細胞性の維持に果たす重要な役割を確立され、さらに重要なことに、早老化をもたらす代謝障害に対する将来の幹細胞ベースの介入への道を開く助けとなる。
【0049】
SIRT6は、DNA損傷修復、代謝調節、炎症、腫瘍抑制において多面的な役割を持つ重要なアンチエイジングタンパク質とみなすことができる。SIRT6は、そのノックアウトマウスモデルが1カ月以内に死亡する重度の早老化表現型を発症することで有名になった。さらに、SIRT6は、マウスの全身で過剰発現すると寿命の明らかな上昇を示す唯一の哺乳動物サーチュインである。さらに、Kawaharaらは、重要な抗炎症タンパク質としてのSIRT6の役割を強化するNF-κB標的遺伝子のプロモーター上のK9でヒストンH3を脱アセチル化することにより、SIRT6が活動亢進性NF-κBシグナル伝達を減衰させると報告した。
【0050】
Baohuaらは、皮膚老化のプロセスにおいて、SIRT6がコラーゲン代謝とNF-κBシグナル伝達のモジュレーションを介して重要な役割を果たすことを示した。彼らは、SIRT6をブロックすると、1型コラーゲンの転写が阻害され、マトリックスメタロプロテイナーゼ1分泌が促進し、NF-κBシグナル伝達が増加することにより、ヒドロキシプロリン含量が大幅に減少することを報告した。まとめると、SIRT6は、細胞セネッセンスと促進老化を遅らせる複数の経路を調節することによるアンチエイジングプロセスの重要なモジュレーターとして卓越している。したがって、100μMでSIRT6転写を147パーセント増強したデカペプチド-12は、しばしば同時に起こる早期皮膚老化と光損傷皮膚の表現型に立ち向かう治療的アンチエイジング候補として大きな期待を有するかもしれない。
【0051】
まとめると、デカペプチド-12は、SIRT1、SIRT3、SIRT6の転写レベルを有意に上方調節することがこの報告で示され、これら3つはすべて、皮膚老化やその他の老化に伴う病態に対抗する上で重要な役割を果たす。in vitroでの知見をバリデートし、in vivoでこの強力なサーチュイン活性化因子の有効性を試験するのを支援するため、デカペプチド-12を含む様々な局所製剤の臨床研究が現在、デザインされつつある。
【実施例
【0052】
この例では、以下の表3で詳述するように、P4デカペプチドに特定の修飾を加えた。
【0053】
【表4】
【0054】
デカペプチドP4に対するこれらの修飾は、プロテアーゼに対する安定性を改善し、経皮または経細胞浸透、またはその両方を促進するのに役立ち得る。
【0055】
本発明のペプチドは、天然に存在するアミノ酸のいずれか、または天然に存在しないアミノ酸からの残基を含んでもよい。これらの天然に存在するアミノ酸および天然に存在しないアミノ酸は、DまたはL配置であってもよく、または両方の右旋性形態を含んでもよい。用語DおよびLは、当該技術分野において使用されることが知られているので、本出願で使用される。本発明のペプチドには、単一アミノ酸および短いスパン(例えば、1~20)のアミノ酸が含まれる。さらに、本発明の修飾ペプチドは、モノマーまたはダイマーも含み得る。
【0056】
標準的な1文字と3文字のアミノ酸コードがこの出願で使用され、以下の表Aにある。
【0057】
【表5】
【0058】
上記のように、示された残基は、天然に存在するLアミノ酸、またはこれらの修飾、すなわち化学修飾、光学異性体、または修飾基へのリンクであり得る。サーチュイン遺伝子の発現を特異的にモジュレートする本ペプチドの能力を維持するための特定の修飾をペプチド内で行うことができると考えられる。
【0059】
サーチュイン1~7の転写レベルに対するデカペプチドP4、P4A、P4B、およびP4Cの効果を評価した。表4は、10、30、50、100および300(すべてμM)の試験した濃度で、対応する遺伝子を持つ4つすべてのデカペプチドの転写レベルをまとめたものである。
【0060】
【表6】
【0061】
低濃度では、天然のデカペプチドP4は、修飾されたデカペプチドと比較して向上した転写レベルを示した。しかしながら、各々の3つの修飾デカペプチド(P4A、P4B、およびP4C)は、対照と比較してサーチュイン遺伝子の転写レベルを上方調節した。100μMの濃度では、転写レベルへの影響は4つのデカペプチドすべてで同等であった。
【0062】
TACS(登録商標)MTT Cell Proliferation Kitを使用して、3つのヒト細胞株(表皮前駆細胞、メラノブラスト、および線維芽細胞)の増殖率を決定した。96ウェルプレートに摂氏37度、5パーセントCOの加湿雰囲気中、2.5×10/ウェルで細胞を播種した。24時間後、対応するウェルにデカペプチドを様々な濃度で加え、72時間インキュベートした。残りの手順は、製造業者のプロトコルに従って実行された。
【0063】
72時間後の表皮前駆細胞の増殖率を表5に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
72時間後のメラノブラスト増殖率を表6に示す。
【0066】
【表8】
【0067】
72時間後の線維芽細胞増殖率を表7に示す。
【0068】
【表9】
【0069】
表皮前駆細胞、メラノブラスト、および線維芽細胞を100μMのデカペプチドP4Aと72時間インキュベートした結果、3つの細胞株すべての増殖率が3パーセント減少した。
【0070】
1000μMでは、表皮前駆細胞の増殖率は6パーセント減少した一方で、メラノブラストと線維芽細胞の増殖率はそれぞれ5パーセントと4パーセント減少した。
【0071】
細胞生存率に対する各デカペプチドの効果も試験された。特に、細胞を様々な濃度のデカペプチドとインキュベートし、トリパンブルーを使用して対照(未処理細胞)と比較して生存率をカウントした。以下の式に従って細胞毒性を測定した。
【0072】
[1-(対照内の細胞数-試験サンプル内の生細胞数)/対照内の細胞数]×100パーセント。
【0073】
7日後の表皮前駆細胞の生存率を表8に示す。
【0074】
【表10】
【0075】
7日後のメラノブラストの生存率を表9に示す。
【0076】
【表11】
【0077】
7日後の線維芽細胞の生存率を表10に示す。
【0078】
【表12】
【0079】
100μMの濃度では、3つの細胞株すべてで細胞生存率が97パーセントを超えたままであった。1000μMでは、細胞生存率は対照と比較して6パーセント低下した。
【0080】
結論として、最近の報告において、早老化の抑制、細胞セネッセンスの遅延、寿命の延長、および幅広い老化障害の軽快においてサーチュインが果たす多面的な役割について詳述されている。本明細書において、強力なサーチュイン活性化因子であるデカペプチド-12に関する知見を報告し、その性能を十分に実証されたオキシレスベラトロールと比較する。ヒト表皮前駆細胞を100μMデカペプチド-12で処理すると、SIRT1の転写が対照細胞と比較して141±11パーセント増加する一方で、SIRT3、SIRT6、およびSIRT7のレベルは、それぞれ121±13パーセント、147±8パーセント、および95.4±14パーセント増加した。デカペプチド-12は、サーチュイン転写をオキシレスベラトロールと同様のレベルに上方調節したが、細胞毒性は低下した。したがって、デカペプチド-12は、皮膚老化やその他の老化に伴う病態に対抗するためのより安全な治療剤として有望であり得る。
【0081】
上記の説明では、効果が明らかな100μM以上の典型的なデカペプチド濃度に言及しているが、結果は、より低い濃度が陽性効果を持つこともまた実証している。したがって、いくつかの実施形態では、1μM以上のデカペプチド濃度を利用し、特定の実施形態では、100μM以上のペプチド濃度範囲を使用してもよい。様々な実施形態によるペプチド濃度範囲の例は、1μM以上、5μM以上、10μM以上、30μM以上、50μM以上、100μM以上、300μM以上、500μM以上、および1000μM以上である。
【0082】
所望の効果を達成するために、特定のデカペプチドを他の成分と組み合わせて使用してもよいことにさらに留意されたい。例えば、特定のデカペプチドは、デカペプチドP4A、4B、および/もしくは4Cなどの他のペプチドならびに/またはオキシレスベラトロールなどの他の成分と組み合わせて使用されることがあり得る。そのような実施形態によれば、他の成分を含めることにより実現される相乗効果は、所望の結果を達成するために必要である個々の成分(例えば、デカペプチド他)の濃度を最終的に低下させ得る。
【0083】
上記は可能な追加成分としてデカペプチドおよびオキシレスベラトロールを具体的に含むが、実施形態はこれに限定されない。他の可能な添加物の例としてはとりわけ、α-リポ酸、ビオチン、カフェイン、セラミド、コエンザイムQ10、グリコール酸、緑茶、ヒト幹細胞、ヒト幹細胞抽出物、ヒアルロン酸、ハイドロキノン、ホホバ油、コウジ酸、乳酸、リンゴ酸、ナイアシンアミド、オリゴペプチド、ペプチド、植物幹細胞、植物幹細胞抽出物、レスベラトロール、レチノール、ビタミンC、ビタミンE、およびビタミンKが含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
実施形態は、様々な種類の皮膚細胞を治療するために利用してもよいことに留意されたい。最終分化した皮膚細胞の例には、ケラチノサイト、線維細胞、メラニン細胞、および同様に経時的に老化するランゲルハンス細胞(例えば、組織球またはデンドロサイト)などの免疫細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
実施形態はまた、皮膚前駆細胞を治療して皮膚老化を低減し、その寿命にわたって皮膚の再生を可能にするために利用されてもよい。そのような前駆細胞の例には、表皮ケラチノサイト前駆細胞、線維芽細胞、メラノブラスト、組織芽細胞、または表皮に留まるランゲルハンス細胞の前駆細胞であるデンドロブラストが含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
最後に、上記ではヒト皮膚細胞の治療について説明したが、特定の実施形態はそのようなアプローチに限定されない。代替的な実施形態では、ウシ(例えば、革の製造)、ブタ、および他の動物(例えば、犬、猫、および競技の目的で皮膚の外観に基づいて評価され得る他の動物)などの哺乳動物を含むがこれらに限定されない他の生物の皮膚細胞の治療を利用し得る。
【0087】
本発明のこの記載は、例示および説明の目的で提示されている。網羅的であること、または記載された正確な形態に本発明を限定することは意図されておらず、上記の教示に照らして多くの修正および変形が可能である。実施形態は、本発明の原理およびその実際の応用を最もよく説明するために選択および説明された。この説明により、他の当業者は、特定の用途に適した様々な実施形態においておよび様々な修正とともに本発明を最良に利用および実現することが可能になる。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
【配列表】
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