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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20250116BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60J1/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021012710
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116514
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】平田 直也
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健人
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520496(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044267(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158694(WO,A1)
【文献】特開2019-147704(JP,A)
【文献】特表2016-530190(JP,A)
【文献】特表2016-539890(JP,A)
【文献】国際公開第2014/126252(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039477(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00 - 1/20
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外側に面するS1面と、前記S1面の反対側のS2面とを有する第一ガラス板と、
車両の室内側に面するS4面と、前記S4面の反対側のS3面とを有する第二ガラス板と、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置され、前記S2面と、前記S3面とに面する、少なくとも一つの層から構成される中間膜と、
を備える、車両用窓ガラスであって、
前記中間膜はシリカ粒子を含まず、
前記中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、10MPa~200MPaであり、
前記第一ガラス板及び前記第二ガラス板は、強化処理を施されておらず、
前記第一ガラス板の厚さは0.4mm~1.2mmである、車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、10MPa~100MPaである、請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記第二ガラス板の厚さが、0.3mm~1.7mmである、請求項1又は2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記中間膜は、一つの層から構成される中間膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
車両の外側に面するS1面と、前記S1面の反対側のS2面とを有する第一ガラス板と、
車両の室内側に面するS4面と、前記S4面の反対側のS3面とを有する第二ガラス板と、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置され、前記S2面と、前記S3面とに面する、一つの層から構成される中間膜と、
を備える、車両用窓ガラスであって、
前記中間膜はシリカ粒子を含まず、
前記中間膜のヤング率は、23℃において、10MPa~50MPaであり、
前記第一ガラス板及び前記第二ガラス板は、強化処理を施されておらず、
前記第一ガラス板の厚さは0.4~1.2mmであり、
前記第二ガラス板の厚さが、0.7mm~1.4mmである、
車両用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車や鉄道車両などの車両の軽量化の要求に伴い、車両用窓ガラスに使用される合わせガラスにもより軽量なものが求められている。そして、合わせガラスに使用されるガラス板を薄板化して、合わせガラスの軽量化が図られている。
【0003】
車両用窓ガラスとしては、走行中の小さな飛来物に対する抵抗性を高めるためなどの観点から、車外側のガラス板を厚くし、軽量化の観点から、車内側のガラス板を薄くした異厚構成の軽量合わせガラスが多く用いられている。
【0004】
特許文献1には、互いに異なる厚さを有するガラス板と、ポリビニルブチラール(PVB)層からなる多層構造の中間膜とを有する合わせガラスが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、化学強化ガラス板を外側ガラス板に用い、内側ガラス板よりも外側ガラス板の厚さを薄くした合わせガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-516934号公報
【文献】特許第5890518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両用窓ガラスに求められる性能の一つに、耐チッピング性がある。耐チッピング性は、車両走行中に小さな飛来物が車両用窓ガラスに衝突した際の削られにくさや割れにくさを示す指標である。本発明者の検討により、比較的ヤング率の低い中間膜を用いた場合、軽量化のために車外側ガラス板の厚さを薄くすると、合わせガラスの剛性が低下することに加え、耐チッピング性が低下し、割れやすくなることが分かった。また、軽量合わせガラスの強度向上のために、車外側ガラス板に強化処理を施されたガラスが使用されることがあるが、この場合、当該ガラスの内部に生じる引張応力に起因して、耐チッピング性がさらに低下することが分かった。
【0008】
以上から、本開示の課題は、剛性及び耐チッピング性が優れた軽量の車両用窓ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の課題は、下記構成により解決される。
<1>
車両の外側に面するS1面と、前記S1面の反対側のS2面とを有する第一ガラス板と、
車両の室内側に面するS4面と、前記S4面の反対側のS3面とを有する第二ガラス板と、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置され、前記S2面と、前記S3面とに面する、少なくとも一つの層から構成される中間膜と、
を備える、車両用窓ガラスであって、
前記中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、2.5MPa~200
MPaであり、
前記第一ガラス板は、強化処理を施されておらず、
前記第一ガラス板の厚さは1.5mm以下である、車両用窓ガラス。
<2>
前記第一ガラス板の厚さが、0.3mm~1.5mmである、<1>に記載の車両用窓ガラス。
<3>
前記中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、10MPa~100MPaである、<1>又は<2>に記載の車両用窓ガラス。
<4>
前記第二ガラス板の厚さが、0.3mm~1.7mmである、<1>~<3>のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
<5>
前記中間膜は、一つの層から構成される中間膜である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の車両用窓ガラス。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、剛性及び耐チッピング性が優れた軽量の車両用窓ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図2】車両用窓ガラスの一例の断面模式図である。
図3】耐チッピング性試験を説明するための模式図である。
図4】同心円曲げ試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の車両用窓ガラスは、車両の外側に面するS1面と、前記S1面の反対側のS2面とを有する第一ガラス板と、
車両の室内側に面するS4面と、前記S4面の反対側のS3面とを有する第二ガラス板と、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板との間に配置され、前記S2面と、前記S3面とに面する、少なくとも一つの層から構成される中間膜と、
を備える、車両用窓ガラスであって、
前記中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、2.5MPa~200
MPaであり、
前記第一ガラス板は強化処理を施されておらず、
前記第一ガラス板の厚さは1.5mm以下である、というものである。
【0013】
図1に、本開示の車両用窓ガラスの一例の断面模式図を示す。
【0014】
図1の車両用窓ガラス10は、第一ガラス板1と、第二ガラス板2と、中間膜3とを有する。第一ガラス板1は、車両の外側に面するS1面と、S1面の反対側のS2面とを有する。第二ガラス板2は、車両の室内側に面するS4面と、S4面の反対側のS3面とを有する。中間膜3は、第一ガラス板1と第二ガラス板2の間に、S2面とS3面とに面するように配置される。中間膜3は、一つの層から構成される中間膜(単層構成の中間膜)である。
【0015】
図2に、本開示の車両用窓ガラスの別の一例の断面模式図を示す。
【0016】
図2の車両用窓ガラス11は、図1の単層構成の中間膜3に代えて、中間膜を構成する層4A~4Cからなる3層構成の中間膜4を有すること以外は図1の車両用窓ガラス10と同様である。
【0017】
本開示の車両用窓ガラスは、軽量の合わせガラスからなることが好ましい。
【0018】
車両用窓ガラスの1mあたりの質量は、3kg~9kgであることが好ましく、4kg~8kgであることがより好ましい。
[中間膜]
中間膜は、少なくとも一つの層から構成される。すなわち、中間膜は単層構成でも多層構成でも良い。
【0019】
中間膜を構成する全ての層のヤング率は、23℃において、2.5MPa~200MPaであり、10MPa~100MPaであることが好ましく、20MPa~100MPaであることがより好ましく、30MPa~75MPaであることが特に好ましい。中間膜を構成する全ての層のヤング率が、23℃において、2.5MPa~200MPaであることで、これを用いた合わせガラスの曲げ剛性を高くすることができる。
【0020】
合わせガラスの全体の曲げ剛性は、合わせガラスを構成するガラス板の板厚と中間膜のヤング率に対してそれぞれ相関がある。したがって、従来の遮音合わせガラスに使用される遮音用中間膜のような低いヤング率を有する中間膜を含む車両用窓ガラスは、低いヤング率を有する中間膜を含まない場合と比べて曲げ剛性が低くなる。よって、中間膜はその層数に関わらず、より高いヤング率を有する方が好ましい。
【0021】
また、中間膜が多層構成である場合、各層で剛性が異なっていてもよい。
【0022】
中間膜サンプルのヤング率の測定方法の詳細を以下に示す。
【0023】
中間膜サンプルのヤング率の測定は、JIS K 7161-1に沿って実施した。この方法は、応力若しくはひずみ(伸び)があらかじめ定めた値に達するまで、試験片を主軸(長さ方向)に沿って一定速度で引っ張ったときに、試験片にかかる力及び伸びを測定することで、試験片の引張弾性率(ヤング率)を求めることを目的としている。
【0024】
試験機には、JIS K 7161-1に適合するA&D社製テンシロン万能試験機(RTC-2410)を使用した。
【0025】
試験片は、中間膜を、JIS K 6251に準拠した「引張5号型ダンベル状」に、切削によって機械加工して作製した。
【0026】
試験片の標線間距離は、33mmとした。
【0027】
試験片の数は、各中間膜で1個とした。
【0028】
作製した試験片は、温度23℃、湿度40~60%の環境下で4時間以上保管した。
【0029】
引張試験時の雰囲気は、サンプル保管時と同じ温度23℃、湿度40~60%の環境下で実施した。
【0030】
引張試験時、中間膜サンプルに予備力を負荷せずに引張試験を実施した。
【0031】
引張試験時の試験速度は、1分間に標線間距離の1%の歪を与える速度である、0.33mm/minとした。
【0032】
試験片にかかる応力σ[MPa]は、測定時に与えた力F[N]を、試験片の初めの断面積A[mm]で除した値とした。
【0033】
試験片に発生したひずみε[-]は、試験片の標線間距離の増加量ΔL[mm]を、試験片の標線間距離L[mm]で除した値とした。
【0034】
試験片のヤング率E[MPa]は、試験片のひずみε(0.25%)における応力σ[MPa]と試験片のひずみε(0.05%)における応力σ[MPa]との差分を、試験片のひずみεと試験片のひずみεとの差分で除した値とした。
【0035】
本試験における応力、ヤング率、及びひずみは、有効数字2桁までとした。
【0036】
中間膜を構成する層は、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、SentryGlas(登録商標)(Dupon社)、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、もしくは他の適切な高分子または熱可塑性材料などから構成することができる。また、中間膜を構成する層は熱可塑性樹脂からなる膜であることが好ましい。
【0037】
製造方法の簡略化、及び車両用窓ガラスの軽量化という観点から、中間膜は、一つの層から構成される中間膜(単層構成の中間膜)であることが好ましい。
【0038】
中間膜の厚さは特に限定されないが、合わせガラスの曲げ剛性及び耐貫通性を高める観点から0.3mm~3.0mmであることが好ましく、0.3~1.0mmであることがより好ましい。
【0039】
本開示における中間膜の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、中間膜用原料樹脂の膜化方法としては、常法の型押し出し法またはカレンダーロール法などが挙げられるが、これらに限定されない。
[第一ガラス板]
本開示の車両用窓ガラスにおける第一ガラス板は強化処理を施されていない(すなわち、非強化ガラスである)。ここで、強化処理とは、ガラス板の表面に圧縮応力を付与して強度を高める処理(物理強化及び化学強化の両方を含む)である。
【0040】
車両用窓ガラスにおける第一ガラス板(車外側のガラス板)に強化処理を施されたガラス板を用いた場合、当該ガラスの内部に生じる引張応力に起因して、耐チッピング性が低下してしまう。
【0041】
第一ガラス板は、強化処理が施されていなければ特に限定されず、車両用窓ガラスに用いられている公知のガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等)を用いることができる。
また、ガラス板の光学特性を調整するために、Fe2O3、CeO2、TiO2、CoO、Cr2O3、NiO、Seなどの着色成分を5質量%までであれば含有させても構わない。
【0042】
第一ガラス板の厚さは、1.5mm以下であり、0.3mm~1.5mmであることが好ましく、0.4mm~1.2mmであることがより好ましい。
[第二ガラス板]
本開示の車両用窓ガラスにおける第二ガラス板は、強化処理を施されていないガラス板であっても良いし、強化処理を施されたガラス板であっても良い。第二ガラス板は、特に限定されず、車両用窓ガラスに用いられている公知のガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、物理強化ガラス、化学強化ガラス等)を用いることができる。
また、ガラス板の光学特性を調整するために、Fe2O3、CeO2、TiO2、CoO、Cr2O3、NiO、Seなどの着色成分を5質量%までであれば含有させても構わない。
【0043】
第二ガラス板の厚さは、特に限定されないが、0.3mm~1.7mmであることが好ましく、0.55mm~1.5mmであることがより好ましく、0.7mm~1.4mmであることがさらに好ましい。
【0044】
前述の第一ガラス板及び第二ガラス板の製造方法(成型方法)としては特に限定されず、公知の製造方法(例えば、フロート法など)を用いることができる。
[機能性層]
本開示の車両用窓ガラスは、第一ガラス板と第二ガラス板との間に、更に、機能性層を含むものであってもよい。
【0045】
本開示の車両用窓ガラスは、前述した各部材を用いて、公知の方法により製造することができる。
【実施例
【0046】
以下、本開示の実施例について説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
<合わせガラスサンプルの作製>
下記表1に示す厚さを有するガラス板を第一ガラス板又は第二ガラス板として用いた。
【0047】
中間膜としては、下記の中間膜サンプルA1、A2又はA3を用いた。
【0048】
中間膜A1:高いヤング率を有するPVBからなる単層構成の中間膜(厚さ0.78mm)。23℃におけるヤング率は49MPaであった。
【0049】
中間膜A2:低いヤング率を有するPVB層/低いヤング率を有するPVB層/低いヤング率を有するPVB層の3層構成の中間膜(厚さ0.85mm)。23℃における低いヤング率を有するPVB層のヤング率はそれぞれ1.3MPaであった。
【0050】
中間膜A3:高いヤング率を有するPVB層/低いヤング率を有するPVB層/高いヤング率を有するPVB層の3層構成の中間膜(厚さ0.86mm)。23℃における中間膜A3を構成する、高いヤング率を有するPVB層のヤング率は49MPaであり、低いヤング率を有するPVB層のヤング率は1.1MPaであった。
【0051】
通常の合わせガラスであれば、1枚の連続した中間膜を2枚のガラス板で挟持することで作製されるが、中間膜A3のような積層中間膜を用いた車両用合わせガラスの製造方法では、1枚の低いヤング率を有するPVB層を、2枚の高いヤング率を有するPVB層で挟持し、さらに2枚のガラス板で積層中間膜を挟持することで作製される。
【0052】
この場合、中間膜を構成する各層の界面は、車両用合わせガラスがオートクレーブ内で加熱・加圧される際に、層同士が溶着して界面が目立たなくなるため、搭乗者の視界の妨げになるようなことはない。
【0053】
第一ガラス板と第二ガラス板の間に、各中間膜サンプルを挟んで、ゴムバックに入れて減圧吸引して、部材間に残留する空気を脱気した。その後、脱気後の積層体をオートクレーブに入れて、予備接着を行った。この時、温度を90℃、圧力を0.25MPaに設定し、温度保持時間を30分とした。次にオートクレーブの温度を135℃、圧力を1.3MPaに設定し、温度保持時間を25分として仕上げ接着を行い、上記の積層体を一体化させて合わせガラスを得た。
【0054】
作製した合わせガラスサンプルは以下の表1の通りである。
【0055】
【表1】
【0056】
比較例4及び比較例13を除いたすべての実施例及び比較例において、第一ガラス板及び第二ガラス板は、強化処理を施していないものである。具体的には、比較例4及び比較例13を除いたすべての実施例及び比較例において、第一ガラス板及び第二ガラス板は、ソーダ石灰ガラスをフロート法により成形して得た。比較例4及び比較例13の第一ガラス板は化学強化されたアルミノケイ酸塩ガラスであり、圧縮応力層をS1面側(圧縮応力799MPa、厚さ43.3μm)及びS2面側(圧縮応力806MPa、厚さ43.3μm)に有する。化学強化ガラスの圧縮応力の値、圧縮応力層の厚みは、光導波路効果を観測原理とする表面応力計(折原製作所製、FSM-6000LE)用いて得られたものである。
<耐チッピング性試験>
図3に示すように、サイズ300mm×300mmの中央に、150mm×150mmの開口部を設けたシリコンゴムシート31(厚さ3mm)及び合板32(厚さ15mm)を重ね、供試体である試験片(合わせガラスサンプル)10Aをシリコンゴムシート31上に設置し、ビッカースダイヤモンド圧子21を高さhから落下させて、耐チッピング性を調べた。圧子を垂直に試験片に衝突させるため、必要に応じて硬質ポリ塩化ビニル製のガイドチューブを使用した。試験条件は以下のとおりとした。
【0057】
試験条件
・試験片(合わせガラス)のサイズ:300mm×300mm
・ビッカースダイヤモンド圧子:8.5g(M0-MINDV、Nanovea社製)
・試験温度:23℃
具体的には、作製した実施例及び比較例の合わせガラスサンプルの第一ガラス板側の中央に、ビッカースダイヤモンド圧子を自由落下させた。落下高さhは100mmから開始し、合わせガラスサンプルに生じた放射状の亀裂の長さが10mm未満であれば落下位置を変更し、落下高さを100mmずつ上昇させ、繰り返し試験を実施した。合わせガラスサンプルに生じた放射状の亀裂の長さが10mmを超えたときを破壊と定義し、その際のビッカースダイヤモンド圧子の落下高さをBreak Heightとして記録した。各実施例及び比較例について、10回試験を行い、Break Heightの平均値を求めた。さらに、破壊したときに生じた亀裂の長さ(Break Length)を計測し、その平均値を算出した。
【0058】
落下高さは最大2000mmまで実施した。なお、落下高さ2000mmにおいても放射状の亀裂の長さが10mm未満であった場合は、そのときの亀裂の長さをBreak Lengthとし、Break heightは2100mmと記録して平均値を算出した。
【0059】
結果を上記表1に示した。
<同心円曲げ試験(剛性評価)>
実施例1~4の合わせガラスサンプルと、これらと同じ厚さのガラス板を備える比較例5~12を用いて、同心円曲げ試験を行った。具体的には図4に示すように試験片(合わせガラスサンプル)10Aに対して、支持リング13及び負荷リング14を用いて荷重を徐々に増やし、500Nに到達した際の荷重に対するたわみ量を測定した。試験機には、インストロン社製材料試験機(8871型)を使用した。
<試験条件>
・試験片(合わせガラスサンプル)のサイズ:300mm×300mm
・負荷リング:直径50mm、曲率半径2.5mm
・支持リング:直径150mm、曲率半径2.5mm
・クロスヘッド速度:1mm/分
・負荷面:第一ガラス板側
・試験温度:23℃
結果を上記表1に示した。
<単位面積あたりの質量>
作製した合わせガラスサンプルの1mあたりの質量を測定した。
【0060】
結果を上記表1に示した。
【0061】
表1に示した結果より、実施例1~4の合わせガラスサンプルは、比較例1~13の合わせガラスサンプルよりもBreak Heightの平均値が大きく、Break Lengthの平均値が小さいため、耐チッピング性が高いことが分かる。
【0062】
比較例1~3では、実施例1~4と同じ中間膜A1を用いているが、第一ガラス板の厚さが1.5mmを超えており、実施例1~4に対して耐チッピング性が劣っていた。
【0063】
比較例5~8では、実施例1~4と同様に第一ガラス板の厚さが1.5mm以下であるが、中間膜を構成する層のすべての層の23℃におけるヤング率が2.5MPa未満であり、実施例1~4に対して耐チッピング性が劣っていた。
【0064】
比較例9~12では、実施例1~4と同様に第一ガラス板の厚さが1.5mm以下であるが、中間膜を構成する層のうちの一部の層の23℃におけるヤング率が2.5MPa未満であり、実施例1~4に対して耐チッピング性が劣っていた。
【0065】
比較例4、13では、実施例1~4と同様に第一ガラス板の厚さが1.5mm以下であり、実施例1~4と同じ中間膜A1を用いているが、第一ガラス板が強化処理されており、実施例1~4に対して耐チッピング性が著しく劣っていた。なお、表1中、比較例4及び12のBreak Lengthの平均値として記載されている「>300」は、300mmを超えていることを表す。
【0066】
また、実施例1~4の合わせガラスサンプルは同じ厚さのガラス板を備える比較例5~12よりも同心円曲げ試験において一定の荷重を印加した際のたわみ量が小さく、すなわち剛性にも優れていることが分かった。
【0067】
さらに、実施例1~4の合わせガラスサンプルは1mあたりの質量が4.8~6.2kgであり、軽量であることが分かった。
【0068】
以上より、実施例1~4の合わせガラスサンプルは、軽量で、かつ剛性及び耐チッピング性に優れるものであり、車両用窓ガラスとして好適であることが分かった。
【符号の説明】
【0069】
1 第一ガラス板
2 第二ガラス板
3、4 中間膜
4A、4B、4C 中間膜を構成する層
S1 S1面
S2 S2面
S3 S3面
S4 S4面
10、11 車両用窓ガラス
10A 合わせガラスサンプル
13 支持リング
14 負荷リング
21 ビッカースダイヤモンド圧子
h ビッカースダイヤモンド圧子の落下高さ
31 シリコンゴムシート
32 合板
図1
図2
図3
図4