(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 13/34 20060101AFI20250116BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20250116BHJP
C01F 5/06 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
C01B13/34
B01J19/00 N
C01F5/06
(21)【出願番号】P 2021034522
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084355(JP,A)
【文献】特開2008-194637(JP,A)
【文献】特開2007-083111(JP,A)
【文献】特開2012-130826(JP,A)
【文献】特開2020-142949(JP,A)
【文献】特開2020-083687(JP,A)
【文献】特開2019-126804(JP,A)
【文献】特表2020-514223(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0352189(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016001349(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の燃焼バーナーを備える噴霧熱分解装置の熱分解炉内に噴霧された原料溶液の液滴を、燃焼バーナーの燃焼ガスにより熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
熱分解炉
出口のガス流速を測定し、取得されたガス流速の実測値が
、噴霧開始1時間後の熱分解炉出口のガス流速に基づいて設定された管理値の許容範囲を超えた場合に、管理値の許容範囲内となるように熱分解炉内にガスを供給してガス流速を調整する、
無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
ガス流速を調整する際に供給
されるガスが、空気、不活性ガス及び熱分解炉外に排出されたガスから選択される1又は2以上である、請求項
1記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
ガス流速を調整する際に供給
されるガスの温度を、熱分解炉内のガスとの温度差が900℃以内となるように調整する、請求項1
又は2記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物粒子の製造方法として、噴霧熱分解装置を用いた噴霧熱分解法が知られている。噴霧熱分解装置を用いた噴霧熱分解法では、例えば、原料溶液の液滴を噴霧するための噴霧装置と、燃焼ガスを発生させるための燃焼バーナーを備える噴霧熱分解装置の熱分解炉内に、噴霧装置から原料溶液の液滴を噴霧し、燃焼バーナーの燃焼ガスを熱源として液滴を熱分解することで無機酸化物粒子が製造されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-84355号公報
【文献】特表2020-514223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討により、噴霧熱分解装置を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物粒子を連続的に製造すると、噴霧開始から時間が経過するにつれ、製造される無機酸化物粒子の粒子密度及び平均粒子径のばらつきが大きくなるという課題が存在することが判明した。
本発明の課題は、粒子密度及び平均粒子径の経時的変動を抑制し、一定の品質を維持可能な無機酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる粒子密度及び平均粒子径の経時的変動の要因を究明すべく種々検討したところ、次の知見を得た。即ち、噴霧熱分解装置を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物粒子を連続的に製造すると、時間の経過とともに熱分解炉が蓄熱して炉内温度が上昇するため、炉内温度を一定に維持すべく燃焼バーナーが制御され、焼バーナーの焚き量が減少する。その結果、燃焼バーナーの燃焼ガス量が減少して炉内のガス流速が低下するため、炉内での液滴の滞留時間が長くなり、また炉内に温度ムラを生ずるため、時間の経過とともに製造される無機酸化物粒子の粒子密度及び平均粒子径のばらつきが大きくなる。かかる知見に基づき、本発明者らは噴霧熱分解法における製造条件を詳細に検討したところ、熱分解炉内のガス流速について管理値を設定し、かかる管理値と実測値とに齟齬が生じた場合に、管理値の許容範囲内となるように熱分解炉内にガスを供給してガス流速を略一定に制御することで、粒子密度及び平均粒子径の経時的変動が抑えられ、一定の品質が保持された無機酸化物粒子を安定して製造できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕1以上の燃焼バーナーを備える噴霧熱分解装置の熱分解炉内に噴霧された原料溶液の液滴を、燃焼バーナーの燃焼ガスにより熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
熱分解炉内のガス流速を測定し、取得されたガス流速の実測値が管理値の許容範囲を超えた場合に、管理値の許容範囲内となるように熱分解炉内にガスを供給してガス流速を調整する、
無機酸化物粒子の製造方法。
〔2〕管理値が、噴霧開始1時間経過後の熱分解炉内のガス流速である、前記〔1〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔3〕供給ガスが、空気、不活性ガス及び熱分解炉外に排出されたガスから選択される1又は2以上である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔4〕供給ガスの温度を、熱分解炉内のガスとの温度差が900℃以内となるように調整する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粒子密度及び平均粒子径の経時的変動が抑えられ、一定の品質が保持された無機酸化物粒子を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の無機酸化物粒子の製造方法について説明する。
本発明の無機酸化物粒子の製造方法は、1以上の燃焼バーナーを備える噴霧熱分解装置の熱分解炉内に噴霧された原料溶液の液滴(ミスト)を、燃焼バーナーの燃焼ガスにより熱分解する工程を含むものである。そして、本発明においては、熱分解炉内のガス流速を測定し、取得されたガス流速の実測値が管理値の許容範囲を超えた場合に、管理値の許容範囲内となるように熱分解炉内にガスを供給してガス流速を調整することを特徴とする。ここで、本明細書において「管理値の許容範囲内」とは、管理値に対する変動幅が±15%の範囲内であることを意味し、変動幅は、好ましくは±10%の範囲内である。
【0010】
噴霧熱分解装置を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物粒子を連続的に製造するうえで、一定の品質を確保することが必要である。そのためには、熱分解反応を一定条件に維持して行うことが必須不可欠である。しかしながら、無機酸化物粒子を連続して製造すると、時間の経過とともに熱分解炉が蓄熱して炉内温度が上昇するため、燃焼バーナーが制御されて燃焼バーナーの焚き量が減少し、これに伴い燃焼バーナーの燃焼ガス量が減少して炉内のガス流速が低下する。その結果、製造初期に比べて炉内での液滴の滞留時間が長くなり、また炉内に温度ムラを生ずるため、粒子密度及び平均粒子径のばらつきが大きくなる。
そこで、本発明においては、熱分解炉内のガス流速が常に略一定となるように管理する。即ち、熱分解炉内のガス流速について予め管理値を設定し、ガス流速の実測値が管理値の許容範囲を超えた場合に、管理値の許容範囲内となるように炉内にガスを供給してガス流速を略一定に維持する。これにより、炉内での液滴の滞留時間が略一定に保たれ、また炉内での温度ムラも抑制できるため、粒子密度及び平均粒子径の経時的変動が抑えられ、一定の品質が維持された無機酸化物粒子を安定して製造することができる。
【0011】
管理値は、製造される無機酸化物粒子の粒子密度及び平均粒子径の品質を保持することができれば特に限定されないが、例えば、原料溶液の噴霧開始1時間経過後の炉内のガス流速に基づいて設定することができる。
【0012】
以下、本発明の無機酸化物粒子の製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0013】
図1~4は、本発明の無機酸化物粒子の製造方法に適用可能な噴霧熱分解装置の一例である。
噴霧熱分解装置10、20は、熱分解炉1の下方に、熱分解炉1内に原料溶液の液滴2を噴霧するための噴霧装置3と、液滴2を燃焼ガスにより熱分解するための燃焼バーナー4が設置されている。
また、噴霧熱分解装置30、40は、垂直管からなる熱分解炉1と、水平管からなる燃焼炉とを連結して構成されており、垂直管には熱分解炉1内に原料溶液の液滴2を噴霧するための噴霧装置3が設置され、また水平管には液滴2を燃焼ガスにより熱分解するための燃焼バーナー4が設置されている。そして、水平管と垂直管とが、燃焼バーナー4から熱分解炉1に流れる熱風が連結部で旋回流を生じるように基軸をずらして連結されている。
【0014】
熱分解炉は、炉材として使用されている材質であればいずれも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。また、金属製のシェルの内壁に、耐火レンガ、断熱レンガ、キャスタブル等を単体、層状、又はこれらを組み合わせて用いるのが一般的である。
熱分解炉の形状は、熱分解炉内に旋回流を発生させることができる点で、堅型円筒状が好ましい。
熱分解炉の大きさは、製造スケールに応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、堅型円筒状である場合、内径が好ましくは600~1600mmであり、高さが好ましくは3000~10000mmである。
【0015】
噴霧装置としては、例えば、流体ノズルを挙げることができる。流体ノズルとしては、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが挙げられる。中でも、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが好ましい。
【0016】
流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用することができる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。
【0017】
ノズルに供給する気体流量は、ノズルへの原料溶液の送液量に対して体積比で1000倍以上が好ましい。なお、気体流量の上限値は、ノズル先端部での固結防止、液滴の溶媒蒸発及び無機塩析出の促進の観点から、3000倍以下が好ましく、2500倍以下が更に好ましい。
【0018】
ノズルに供給する気体の温度は、噴出直後の液滴温度以下が好ましく、常温(20±15℃)以下が更に好ましい。なお、気体の温度の下限値は、温度制御の容易さから、1℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましい。
【0019】
噴霧装置の設置位置は、熱分解炉の中央部でも、端部でもよく、また熱分解炉の上方及び下方のいずれでも構わないが、熱分解炉壁面への固着物の発生を防止しつつ、熱分解反応を十分に進行させる観点から、
図1~4に示されるように、熱分解炉下方の略中央部に設置することが好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。なお、噴霧装置を2基以上設置する場合、略同一間隔でも、異なった間隔でも構わない。
【0020】
燃焼バーナーは、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができる。熱分解炉の容積、仕様等を考慮し、これにあった型式の燃焼バーナーを選択すればよい。また、熱分解炉の仕様に応じたものを製作しても構わない。
【0021】
燃焼バーナーに用いる燃料は特に限定されないが、例えば、気体燃料、液体燃料、固体燃料を挙げられ、これら燃料の2種以上を混焼してもよい。気体燃料としては、例えば、LPG、都市ガス、気化した有機物が挙げられる。また、液体燃料としては、例えば、灯油、軽油、重油や再生油など液化した有機物を挙げることができる。固体燃料としては、例えば、石炭、木炭、木材などを粉末状にしたものを挙げられる。
【0022】
燃焼バーナーは、
図1、2に示されるように、液滴が燃焼ガスの流れに乗って熱分解炉の出口方向に進行するように設置しても、また
図3に示されるように、熱分解炉の中心軸よりずらして設置してもよい。燃焼バーナーを熱分解炉の中心軸よりずらして設置すると、旋回流が熱分解炉の下方から上方に進行するため、液滴を旋回流により旋回させながら上昇させることができる。
【0023】
また、燃焼バーナーは、燃焼バーナーの火炎が液滴に直接接触しないように設置することが好ましい。このようにするには、燃焼バーナーの火炎が熱分解炉内に入らないように設置すればよく、例えば、前後方向に燃焼バーナーを可動できる機構を設け、必要に応じて調整すればよい。
【0024】
本実施形態においては、先ず、噴霧装置から熱分解炉内に原料溶液を噴霧する。
原料溶液は、酸化物を構成する元素を含む化合物(以下、「原料化合物」とも称する)の溶液である。
原料化合物としては、酸化物を構成する元素を含有し、水等の溶媒に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドが挙げられ、1又は2以上を含有することができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げられる。有機塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
【0025】
原料化合物の具体例としては、例えば、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド、ケイ酸アルコキシド等が挙げられる。アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等の無機塩が挙げられ、またアルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムイソプロピレートが挙げられる。ケイ酸アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料溶液として用いることができる。更に、溶融温度、耐熱性、粒子強度を調整するために、他の元素の原料を添加することもできる。なお、原料化合物は、1又は2以上を使用することができる。中でも、原料化合物としては、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1又は2以上が好ましい。
【0026】
原料化合物から得られる無機酸化物としては、例えば、金属酸化物、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物が挙げられる。より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げられる。
【0027】
原料溶液は、原料化合物と溶媒とを混合して調製すればよい。溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。
原料化合物と溶媒との混合方法は、両者を同時に添加して混合しても、他方を一方に添加して混合してもよく、混合方法は特に限定されない。
【0028】
原料溶液中の原料化合物の濃度は、得られる無機酸化物粒子の粒度分布、密度、強度等を考慮し、0.01mol/L~飽和濃度が好ましく、0.1~1.0mol/Lが更に好ましい。
【0029】
噴霧出直後の液滴温度は、原料溶液中の溶媒の沸点の1/2以下の温度であり、原料溶液中の溶媒の種類により適宜設定可能である。例えば、原料溶液が水溶液である場合、好ましくは1~50℃であり、より好ましくは5~40℃であり、更に好ましくは10~40℃である。なお、噴出直後の液滴の温度管理は、ノズルから噴出された液滴に接触するように、ノズルの先端部に熱電対を設置すればよい。熱電対の設置位置は、ノズルの先端から5cm以内とすることが好ましい。また、ノズル内の原料溶液の温度を調整するために、ノズルの外周に断熱材を被覆してもよい。断熱材としては、例えば、セラミック繊維、ガラス繊維、キャスタブル等を挙げることができる。
【0030】
液滴の平均粒子径は、0.5~60μmが好ましく、1.0~20μmがより好ましく、1.0~15μmが更に好ましい。なお、液滴の平均粒子径は、ノズル噴霧口の形状や空気の圧力によって調整することが可能である。
【0031】
熱分解炉内の温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、900~1200℃がより更に好ましい。400℃未満であると、熱分解反応が不十分となりやすく、1800℃を超えると、粒子が熱分解炉外に排出されたときに十分冷却され難く、粒子同士が凝集しやすくなる。
【0032】
噴霧装置から噴霧された原料溶液の液滴は、燃焼バーナーから発生した燃焼ガスの流れに巻き込まれ、液滴から溶媒が蒸発して速やかに乾燥して無機塩が析出し、そして無機塩が熱分解されて無機酸化物粒子が生成する。しかし、無機酸化物粒子を連続して製造すると、時間の経過とともに熱分解炉が蓄熱して炉内温度が上昇して燃焼バーナーの焚き量が制御され、燃焼ガス量が減少する結果、炉内のガス流速が低下して炉内での液滴の滞留時間が長くなり、また炉内に温度ムラを生ずる。そのため、長時間に亘って無機酸化物粒子の品質を一定に維持することが難しい。
そこで、本実施形態においては、炉内のガス流速の低下を抑制し、炉内での液滴の滞留時間を一定に保ち、かつ炉内の温度ムラを抑制するために、熱分解炉内のガス流速を測定し、取得されたガス流速の実測値が管理値の許容範囲を超えた場合に、管理値の許容範囲内となるように熱分解炉内にガスを供給してガス流速の調整を行う。
【0033】
噴霧熱分解装置10、20、30、40は、熱分解炉1の上方に、熱分解炉1のガス流速を測定するためのガス流速計プローブ挿入口6と、熱分解炉1内の温度を測定するための温度計7が設置されている。なお、ガス流速計に代えてガス分析計を設置し、排出ガスの酸素量からガス流量を計算し、ガス流速を求めてもよい。
【0034】
熱分解炉内のガス流速は、熱分解炉の大きさにより一様ではないが、通常4~20m/sであり、好ましくは6~18m/sであり、更に好ましくは6~15m/sである。ガス流速が4m/sより小さいと、炉内旋回流が十分発生し難く、また20m/sを超えると、熱分解炉内の液滴の滞留時間が短くなるため熱分解反応が不十分となるだけでなく、液滴が煽られ熱分解炉壁面に付着しやすくなる。
【0035】
供給するガスは、熱分解反応を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、空気、不活性ガス又は熱分解炉外に排出されたガスが挙げられ、1又は2以上を使用することができる。なお、熱分解炉外に排出されたガスは、酸素割合が5体積%以上であることが好ましい。
【0036】
噴霧熱分解装置10は、熱分解炉1内にガスを供給するためのガス供給管5aが設けられており、その先端のガス吐出口5bから燃焼バーナー4の火炎の先端に向かってガスが供給される。これにより、ガス供給管の先端から吐出されたガスは、燃焼バーナーの火炎で加熱されながら、燃焼バーナーの燃焼ガスととともに炉内を上昇するため、ガス流速を略一定に制御することができる。なお、供給するガス量に応じて、ブロアやコンプレッサー等を適宜選定してもよい。
【0037】
また、噴霧熱分解装置20、30、40は、ガス供給管5aが燃焼バーナー4に対して同心円状に巻回された状態で熱分解炉1の耐火材内部に埋め込まれており、ガス供給管5aの先端にはガス吐出口5bが4つ設けられている。このようにガス供給管5aを燃焼バーナー4に対して同心円状に巻回することで、ガス流速を略一定に制御できるだけでなく、燃焼バーナー4により蓄熱された熱分解炉1の熱によってガス供給管内のガスが加温され、熱分解炉内のガスとの温度差を小さくすることができるため、熱分解炉への熱衝撃が抑えられる。その結果、熱分解炉の耐火材の割れ等を抑制することができる。かかる観点から、熱分解炉内のガスと供給するガスとの温度差は、燃焼管への熱衝撃抑制の観点から、900℃以内が好ましく、500~900℃が更に好ましい。なお、噴霧熱分解装置40は、熱分解炉1の上方に、熱分解炉1から排出された排気ガスを熱分解炉1内に循環させるための排ガス循環ライン9が設けられ、循環ライン9がブロア10を介してガス供給管5aに連結されているため、高温の排出ガスをガス吐出口5bから熱分解炉1内に供給することができる。これにより、熱分解炉内のガスとの温度差をより一層抑制できるだけでなく、燃焼バーナーの焚き量も抑えられるため、ランニングコストを低減することができる。
【0038】
ガス供給管5aの先端のガス吐出口5bは、2以上設けることが好ましい。これにより、物分解炉内にガスを分散して導入できるため、熱分解炉への熱衝撃が抑えられるとともに、熱分解炉内の温度分布を均一にすることができる。
また、ガス供給管5aの先端のガス吐出口5bは、燃焼バーナーの火炎に対して垂直に向けることが好ましい。これにより、吐出されたガスが燃焼バーナーの火炎と衝突して十分に拡散されるため、熱分解炉への熱衝撃を抑制することができる。
【0039】
本実施形態においては、噴霧開始1時間経過後の炉内のガス流速を管理値とする。また、管理値の許容範囲内は、管理値に対する変動幅が±15%の範囲内であり、変動幅は好ましくは±10%の範囲内である。
噴霧開始1時間経過後は、熱分解炉が過度に蓄熱しておらず、製造される無機酸化物粒子の品質が一定に保たれているため、噴霧開始1時間経過後の炉内のガス流速を管理値に設定し、これを指標とすることで、その後に製造される無機酸化物粒子の品質のばらつきを抑制することができる。
【0040】
管理値を設定した後、一定時間ごとに炉内のガス流速を測定する。
時間の経過とともに炉内温度に連動して燃焼バーナーの焚き量が変化し、炉内のガス流速が低下するため、例えば、噴霧開始から1時間ごとに炉内のガス流速を測定し、ガス流速の実測値が管理値の許容範囲を超えた場合に、炉内に設けたガス供給管からガスを供給して管理値の許容範囲内となるように調整すればよい。なお、ガスの供給は、手動で制御しても、自動で制御してもよい。
【0041】
噴霧開始1時間経過後の炉内のガス流速は、下記式(1)により算出することができる。
【0042】
ガス流速(m/s)=X/Y (1)
【0043】
〔式(1)中、Xは炉内のガス量(m3/s)を示し、Yは炉の断面積(m2)を示す。〕
【0044】
なお、炉内のガス量Xは、下記式(2)により算出することができる。
【0045】
炉内のガス量=P×Q×R×S (2)
【0046】
〔式(2)中、Pは焚き量(m3/s)を示し、Qは空気比を示し、Rは理論燃焼ガス量[(m3/s)/(m
3
/s)]を示し、Sは体積膨張率を示す。〕
【0047】
ここで、「焚き量(m3/s)」とは気体燃料の量であり、「空気比」とは理論空気量と実際に供給する空気量の比率であり、通常1.4である。また、「理論燃焼ガス量[(m3/s)/(m
3
/s)]」とは、燃料に理論空気量を与えて完全燃焼させた場合に生じるガス量であり、燃料組成より算出することができる。更に、「体積膨張率」とは、対象のガス温度と標準状態のガス温度との比率であり、炉内に設置された熱電対によって計測された炉内温度(K)より求めることができる。
【0048】
また、熱分解炉内のガス流速は、燃焼バーナーの焚き量に依存するため、かかる焚き量の減少量に応じて熱分解炉内に供給するガス量を調整してもよい。
熱分解炉内へのガスの供給は、燃焼バーナーの燃焼ガス量をA、ガスの供給量をBとしたときに、両者の比率(B/A)が0.5以下となるように行うことが好ましく、より好ましくは0.4以下であり、更に好ましくは0.3以下である。
【0049】
本実施形態においては、このようにして熱分解炉内のガス流速が略一定に保持されるため、炉内での液滴の滞留時間が略一定に維持し、炉内の温度ムラを抑制することができる。その結果、粒子密度及び平均粒子径の経時的な変動が抑えられ、一定の品質が維持された安定した品質の無機酸化物粒子を得ることができる。
【0050】
熱分解反応により生成した無機酸化物粒子は、噴霧熱分解装置の後段に設置された粉体回収装置により回収される。なお、熱分解反応により生成した無機酸化物粒子は、必要により更に加熱して粒子表面を溶融する溶融工程を行った後、粉体回収装置により回収してもよい。
粉体回収装置としては、例えば、サイクロン粉体回収機、バグフィルターを挙げることができる。酸化物中空粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより粒子径の調整をすることもできる。また、粉体回収装置の下流側に、必要に応じて、スクラバー等の除塵、浄化設備を配置してもよい。
【0051】
本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、中実粒子、多孔質粒子、中空粒子のいずれでも、これら2以上の混合物でも構わない。ここで、本明細書において「中実粒子」とは、内部に空洞を有さない構造の粒子をいい、例えば、単一の層からなる粒子、及び、コア(内核とも言われる)とシェル層(外殻とも言われる)を有する粒子を挙げることができる。また、「中空粒子」とは、内部に空洞(中空部)を有する構造のものであり、外殻に包囲された空洞を有する粒子をいう。空洞の数は、単数でも複数でもよい。更に、「多孔質粒子」とは、粒子表面から内部まで連結した貫通孔を多数有する粒子をいう。貫通孔の大きさや形状は、特に限定されない。また、粒子内部に閉気孔を有していてもよい。
【0052】
このようにして無機酸化物粒子を製造することができるが、本発明の方法により製造された無機酸化物粒子は、例えば、以下の特性を具備することができる。
無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、通常0.5~50μmであり、好ましくは0.5~20μmであり、更に好ましくは0.5~10μmである。なお、平均粒子径の調整は、噴霧に使用する流体ノズルの吐出口形状及び圧縮空気の圧力の調節によって行うことができる。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を使用することができる。
【0053】
無機酸化物粒子の粒子密度は、通常0.1~2.5g/cm3であり、好ましくは0.2~1.0g/cm3であり、更に好ましくは0.3~0.6g/cm3である。なお、粒子密度は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定することができる。粒子密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
1.粒子密度の測定
乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、定容積膨張法により測定した。即ち、セル内にサンプルを投入した後、これに不活性ガスを充填してサンプルの体積を測定し、この体積と予め測定しておいたサンプル質量より粒子密度を求めた。
【0056】
2.平均粒子径の測定
粒子径分布測定装置としてマイクロトラック(日機装株式会社製)を使用し、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を求めた。
【0057】
実施例1
図3に示す噴霧熱分解装置を用いて、次の方法により酸化マグネシウム中空粒子を製造した。
イオン交換水300リットルに酢酸マグネシウム5955gを溶解し、酢酸マグネシウム水溶液を調製した。この水溶液を燃焼バーナーの燃焼ガスにより内部温度を1150℃に制御した熱分解炉内に3流体ノズルを用いて噴霧し、液滴を燃焼ガスの旋回流により旋回させながら上昇させ、熱分解炉内を通過させて熱分解し、バグフィルターを用いて酸化マグネシウム中空粒子を回収した。噴霧開始から1時間経過後、燃焼バーナーの燃焼ガス量及び熱分解炉出口のガス流速を測定し、このときのガス流速を管理値に設定した。
噴霧開始から2時間経過後に燃焼バーナーの燃焼ガス量及び熱分解炉出口のガス流速を測定し、熱分解炉出口のガス流速が管理値の±10%の範囲内となるように、ガス供給管のガス吐出口から熱分解炉内へ170℃の空気を20m
3N/hで供給した。
噴霧開始から6時間経過時まで1時間毎に、燃焼バーナーの燃焼ガス量及び熱分解炉出口のガス流速を測定し、熱分解炉出口のガス流速が管理値の±10%の範囲内となるように熱分解炉内に表1に示す量の空気を供給した。なお、噴霧開始から6時間経過時まで1時間毎に、熱分解温度を1150℃に一定に維持するために、燃焼バーナーを表2に示す焚き量に制御した。
噴霧開始から6時間経過時まで1時間毎に、回収した中空粒子の粒子密度及び平均粒子径を分析した。その結果を表1に示す。また、噴霧開始から6時間経過時までに測定された熱分解炉出口のガス流速の最大変動値と、噴霧開始から6時間経過時までの粒子物性の最大変動値を表3に示す。
【0058】
【0059】
実施例2
図4に示す噴霧熱分解装置を用いて、ガス供給管のガス吐出口から熱分解炉内へ500℃の空気を供給したこと以外は、実施例1と同様の操作により酸化マグネシウム中空粒子を製造した。なお、噴霧開始から6時間経過時まで1時間毎に、熱分解温度を1150℃に一定に維持するために、燃焼バーナーを表2に示す焚き量に制御した。そして、噴霧開始から6時間経過時までに測定された熱分解炉出口のガス流速の最大変動値と、噴霧開始から6時間経過時までの粒子物性の最大変動値を実施例1と同様に分析した。その結果を表3に示す。
【0060】
比較例1
熱分解炉内への空気の供給を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により酸化マグネシウム中空粒子を製造した。そして、噴霧開始から6時間経過時までに測定された熱分解炉出口のガス流速の最大変動値と、噴霧開始から6時間経過時までの粒子物性の最大変動値を実施例1と同様に分析した。その結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
比較例1は、熱分解炉内のガス流速の調整を行わなかったため、噴霧開始から時間の経過とともにガス流速が大きく変動し、粒子密度及び平均粒子径のばらつきが大きい無機酸化物中空粒子が製造された。
これに対し、実施例1、2は、熱分解炉内のガス流速を、噴霧開始から管理値の許容範囲内となるように制御したため、粒子密度及び平均粒子径のばらつきが小さく、一定の品質の無機酸化物粒子が製造された。
【符号の説明】
【0064】
1 熱分解炉
2 液滴(ミスト)
3 噴霧装置
4 燃焼バーナー
5a ガス供給管
5b ガス吐出口
6 ガス流速計プローブ挿入口
7 温度計
8 排気ガス循環ライン
9 ブロア
10 噴霧熱分解装置
20 噴霧熱分解装置
30 噴霧熱分解装置
40 噴霧熱分解装置