(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/0136 20060101AFI20250116BHJP
B60R 21/0134 20060101ALI20250116BHJP
B60R 19/20 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B60R21/0136 320
B60R21/0136 310
B60R21/0134 311
B60R21/0134 312
B60R21/0134 313
B60R19/20 B
(21)【出願番号】P 2021054691
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-219119(JP,A)
【文献】特表2008-526593(JP,A)
【文献】特開2017-124678(JP,A)
【文献】特開2014-144661(JP,A)
【文献】特開2005-212551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0043712(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/20,21/0136,21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体前部から前方側へ展開する、車幅方向に配列された複数の車外エアバッグと、
前記車体の内部で展開するとともに、前記車外エアバッグの後方側で車幅方向に配列された複数の車内エアバッグと、
物体との衝突の可能性が所定以上である場合にプリクラッシュ判定を成立させるプリクラッシュ判定部と、
前記プリクラッシュ判定の成立に応じて前記車外エアバッグを展開させるエアバッグ制御部と
を備えるエアバッグ装置であって、
前記複数の車外エアバッグの収縮を個別に制御する車外エアバッグ収縮制御部を有し、
前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記物体との衝突が生じている前記車外エアバッグのうち、車幅方向における一方の端部側に配置された前記車外エアバッグを収縮させかつ他の前記車外エアバッグの展開を維持するとともに、収縮させる前記車外エアバッグの後方に配置された前記車内エアバッグを展開させる端部車外エアバッグ収縮制御を行うこと
を特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前後方向に配列された前記車外エアバッグと前記車内エアバッグとを連通させる連通流路と、
前記連通流路を開閉する連通制御バルブとを備え、
前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記連通制御バルブを開くことにより前記車外エアバッグを収縮させるとともに前記車内エアバッグを展開させること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記車両は、キャビンから前方側へ突き出して配置された車体構造部材を有し、
複数の前記車内エアバッグの少なくとも一部は、前記車体構造部材の表面と当接した状態で展開すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記収縮を行った前記車外エアバッグが所定のストロークにわたって収縮した後に、当該車外エアバッグの収縮を抑制すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記プリクラッシュ判定部は、前記物体と自車両との衝突形態及び前記物体の属性を判別する機能を有し、
前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記衝突形態及び前記物体の属性に基づいて、前記所定のストロークを設定すること
を特徴とする請求項4に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車体前部から車外側へ展開するエアバッグを有するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、車外側に展開するエアバッグ装置に関する技術として、例えば、特許文献1には、車両と歩行者等との衝突において、跳ね上げられた歩行者等が落下して頭顔等を受傷することを防止するため、フロントバンパの前部で展開する、車幅方向に配列された複数のエアバッグを用いることが記載されている。
特許文献2には、車体の周囲に複数のエアバッグを展開させ、衝突時の車体被害を抑制することが記載されている。
また、車内に設けられるエアバッグ装置に関する技術として、例えば、特許文献3には、微小ラップ衝突性能等を向上するため、衝突時にフロントサイドメンバに設けられたエアバッグによってパワーユニットを車幅方向内側へ強打し、パワーユニットがバリアをすり抜けるよう変位させることが記載されている。
また、複数のエアバッグを相互にガスが通流可能に連通させることに関する技術として、例えば、特許文献4には、フロントバンパ内部に設けられた第1袋部と、乗員膝部に対向して設けられた第2袋部とを連通させ、衝突時に第1袋部が圧縮されることに応じて第2袋部が膨張する構成が記載されている。
特許文献5には、ボンネット上に複数のエアバッグが配列するよう展開する歩行者等保護用のエアバッグ装置において、前方側の袋体から連通路を介して後方側及び左右の袋体にガスが流れる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2006-219119号公報
【文献】特表2008-526593号公報
【文献】特開2017-124678号公報
【文献】特開2014-144661号公報
【文献】特開2019―209923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、自動車等の車両においては、前面衝突時に、車体の前部構造を圧壊させて衝突エネルギを吸収することを考慮して設計されている。特許文献2に記載されているように、車外でエアバッグを展開させた場合であっても、エアバッグが受けた荷重は車体構造部材へ伝達され、エアバッグにより吸収しきれない衝突エネルギは車体構造の圧壊により吸収されることになる。
このようなエネルギ吸収は、衝突相手の他車両が自車両と同等の車両重量で、例えば時速数十km程度の相対速度で衝突することが想定されている場合が多い。
しかし、実際には自車両よりも大型の車両との衝突や、高速の車両との衝突が発生する可能性があり、車体構造の圧壊のみにより十分なエネルギ吸収を行えない場合も想定される。
このため、過度に車体構造に依存せずに衝突時における被害を軽減することが要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、物体との衝突時における被害を軽減可能なエアバッグ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明のエアバッグ装置は、車両の車体前部から前方側へ展開する、車幅方向に配列された複数の車外エアバッグと、前記車体の内部で展開するとともに、前記車外エアバッグの後方側で車幅方向に配列された複数の車内エアバッグと、物体との衝突の可能性が所定以上である場合にプリクラッシュ判定を成立させるプリクラッシュ判定部と、前記プリクラッシュ判定の成立に応じて前記車外エアバッグを展開させるエアバッグ制御部とを備えるエアバッグ装置であって、前記複数の車外エアバッグの収縮を個別に制御する車外エアバッグ収縮制御部を有し、前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記物体との衝突が生じている前記車外エアバッグのうち、車幅方向における一方の端部側に配置された前記車外エアバッグを収縮させかつ他の前記車外エアバッグの展開を維持するとともに、収縮させる前記車外エアバッグの後方に配置された前記車内エアバッグを展開させる端部車外エアバッグ収縮制御を行うことを特徴とする。
これによれば、オフセット衝突によって自車両の前部に配列された複数の車外エアバッグの一部に物体が衝突した場合に、物体との衝突が生じている領域の車外エアバッグのうち車幅方向における端部側の車外エアバッグを収縮させるとともに、他部の車外エアバッグの展開を維持することにより、収縮させた車外エアバッグによって衝突エネルギを吸収するとともに、その側方で展開を維持される車外エアバッグから物体へ作用する反力、及び、各車外エアバッグの前面部の前後差が形成する傾斜によって物体を自車両の車幅方向外側へ逸れるよう促し、物体の衝突エネルギを運動エネルギに転換させて自車両の衝突エネルギ吸収量を低減し、被害を抑制することができる。
また、収縮させる車外エアバッグの後方側に設けられた車内エアバッグを展開させることにより、車外エアバッグから車体側へ入力される荷重を下支えして車体構造の損壊を抑制するとともに、衝突相手の物体に対する反力を適切に発生させて衝突エネルギを運動エネルギに転換する効果をより高めることができる。
【0006】
本発明において、前後方向に配列された前記車外エアバッグと前記車内エアバッグとを連通させる連通流路と、前記連通流路を開閉する連通制御バルブとを備え、前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記連通制御バルブを開くことにより前記車外エアバッグを収縮させるとともに前記車内エアバッグを展開させる構成とすることができる。
これによれば、車内エアバッグ用として専用のインフレータを設ける必要がなく、装置構成を簡素化しつつ上述した効果を得ることができる。
【0007】
本発明において、前記車両は、キャビンから前方側へ突き出して配置された車体構造部材を有し、複数の前記車内エアバッグの少なくとも一部は、前記車体構造部材の表面と当接した状態で展開する構成とする。
これによれば、車内エアバッグが展開する際に、車体構造部材の表面が車内エアバッグからの反力を受けることにより、車内エアバッグが車体構造の変形、損壊を抑制する抗力を高めるとともに、その前方側の車外エアバッグが物体に作用させる反力を高め、上述した効果を促進することができる。
【0008】
本発明において、前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記収縮を行った前記車外エアバッグが所定のストロークにわたって収縮した後に、当該車外エアバッグの収縮を抑制する構成とすることができる。
これによれば、車外エアバッグを所定のストローク収縮させることによって必要なエネルギ吸収を行うとともに、その後は収縮を抑制することによって、残存する衝突エネルギの運動エネルギへの転換を促進し、上述した効果を適切に得ることができる。
この場合、前記プリクラッシュ判定部は、前記物体と自車両との衝突形態及び前記物体の属性を判別する機能を有し、前記車外エアバッグ収縮制御部は、前記衝突形態及び前記物体の属性に基づいて、前記所定のストロークを設定する構成とすることができる。
これによれば、物体の重量や相対速度が大きく衝突エネルギが大きくなることが想定される場合には、所定のストロークを大きく設定し、車外エアバッグの収縮によるエネルギ吸収を促進することにより、車体構造に過大なエネルギが入力されることを防止し、車体の損壊を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、物体との衝突時における被害を軽減可能なエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明を適用したエアバッグ装置の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態のエアバッグ装置を制御するシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】実施形態のエアバッグ装置の衝突時における動作を説明するフローチャートである。
【
図4】実施形態のエアバッグ装置を有する車両が他車両に衝突し、端部車外エアバッグ収縮制御を行った後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用したエアバッグ装置の実施形態について説明する。
実施形態のエアバッグ装置は、例えば、乗用車等の自動車の車体前部に設けられ、他車両等の物体と衝突する際の被害軽減を図るものである。
図1は、実施形態のエアバッグ装置の構成を模式的に示す図である。
図1は、実施形態のエアバッグ装置を有する車両を上方から見た状態を示している。
車両1は、例えば、車室10の前方側に張り出したエンジンコンパートメント20を有するいわゆる2ボックス型の車形を有する。
【0012】
車室10は、乗員等が収容される空間部を有する部分である。
エンジンコンパートメント20は、例えばエンジン、トランスミッションや、電動車両の場合にはモータジェネレータ及びその制御機器類などのパワートレーン構成部品Pが収容される空間部を有する部分である。
エンジンコンパートメント20には、フロントサイドフレーム21、バンパビーム22、フロントバンパ23等が設けられている。
【0013】
フロントサイドフレーム21は、車室10の前端部に設けられた隔壁である図示しないトーボードから、車両前方に突出して設けられた車体構造部材である。
フロントサイドフレーム21は、例えば、パワートレーン、フロントサスペンションが取り付けられるクロスメンバや、マクファーソンストラット式のフロントサスペンションのストラット上部を収容するストラットハウジングなどが取り付けられる基部として機能する。
フロントサイドフレーム21は、例えば、鋼板をプレス成型して形成した部材を集成し、溶接することによって、車両前後方向から見た断面形状が矩形状の閉断面となっている。
【0014】
バンパビーム22は、車体前部に設けられ車幅方向に延在する車体構造部材である。
バンパビーム22は、例えば鋼板をプレス成型して形成した部材を集成し溶接し、あるいは、アルミニウム系合金の押出材を用いることなどによって、断面形状が閉断面となる梁状に形成されている。
バンパビーム22は、中間部を左右のフロントサイドフレーム21の前端部に結合されている。
バンパビーム22の車幅方向における両端部は、フロントサイドフレーム21に対して車幅方向外側へ突出している。
バンパビーム22は、後述する中央車外エアバッグ30C、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30Lが衝突相手の物体から受けた荷重を、フロントサイドフレーム21を介して車体後方側へ伝達する荷重伝達部材である。
【0015】
フロントバンパ23は、車体前端部に設けられる外装部材であって、例えばPP系樹脂などによって形成され表皮部分を構成するバンパフェイスを、図示しないブラケット等で車体に取り付けて構成されている。
フロントバンパ23の前面部は、車両1を上方から見たときに、車両前方側が凸となるよう湾曲して形成されている。
バンパビーム22は、車両1を上方から見たときに、フロントバンパ23の前面部の湾曲に沿うように、車両前方側が凸となる弧状に形成されている。
【0016】
実施形態のエアバッグ装置は、中央車外エアバッグ30C、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30L、中央車内エアバッグ40C、右側車内エアバッグ40R、左側車内エアバッグ40Lを備えている。
各エアバッグは、例えば、ナイロン66織物などの基布からなるパネルを接合することによって袋状に形成され、プリクラッシュ判定の成立に応じて、インフレータ111が発生する展開用ガスを吹き込まれることによって、展開する。
【0017】
中央車外エアバッグ30C、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30Lは、フロントバンパ23の前面部から前方側に展開するものである。
中央車外エアバッグ30Cは、車幅方向における車体中央部に設けられている。
右側車外エアバッグ30Rは、中央車外エアバッグ30Cに対して車幅方向右側に隣接して設けられている。
左側車外エアバッグ30Lは、中央車外エアバッグ30Cに対して車幅方向左側に隣接して設けられている。
【0018】
中央車外エアバッグ30C、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30Lは、通常時(プリクラッシュ判定の成立前)においては、折り畳まれた状態でバンパビーム22の前部に取り付けられるとともに、フロントバンパ23の内側に収容されている。
各車外エアバッグは、衝突時においては、インフレータ111から展開用ガスを導入されることによって、フロントバンパ23に形成された脆弱部を破断して車両前方側へ繰り出され、フロントバンパ23の前面に対して前方側に展開する。
【0019】
中央車内エアバッグ40C、右側車内エアバッグ40R、左側車内エアバッグ40Lは、バンパビーム22の車両後方側の領域に設けられ、車両後方側へ向けて展開する。
中央車内エアバッグ40Cは、車幅方向における車体中央部において、バンパビーム22の後面部に取り付けられている。
中央車内エアバッグ40Cは、展開時には、バンパビーム22の後面とパワートレーン構成部品Pの前面との間で挟持された状態で抗力を発生する。
【0020】
右側車内エアバッグ40R、左側車内エアバッグ40Lは、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30Lの後方側において、車内側に設けられたものである。
右側車内エアバッグ40R、左側車内エアバッグ40Lは、フロントサイドフレーム21の車幅方向外側でありかつバンパビーム22の後方側の領域に設けられ、車両後方側及び車幅方向外側へ向けて展開する。
各車内エアバッグは、例えば、専用のインフレータを持たず、その前方側に配置された車外エアバッグから連通流路を介してガスを導入されることによって展開する構成とすることができる。
【0021】
図2は、実施形態のエアバッグ装置を制御するシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
エアバッグ装置を制御するシステムは、エアバッグ制御ユニット110、環境認識ユニット120、挙動制御ユニット130等を有して構成されている。
これらの各ユニットは、例えば、CPU等の情報処理部(プロセッサ)、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成することができる。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは直接に接続され、相互に通信が可能となっている。
【0022】
エアバッグ制御ユニット110は、インフレータ111、及び、連通制御バルブ112に指令を与え、これらを制御することにより、各エアバッグの展開状態及び車外エアバッグの収縮を制御するものである。
エアバッグ制御ユニット110は、本発明のエアバッグ展開制御部として機能する。
また、エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112と協働して、本発明の車外エアバッグ収縮制御部として機能する。
インフレータ111は、エアバッグ制御ユニット110からの指令に応じて、各車外エアバッグを展開させる展開用ガスを発生する化薬式(火薬式)のガス発生装置である。
インフレータ111は、右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lにそれぞれ独立して設けられ、右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lの展開の有無、及び、展開を開始するタイミングを個別に制御可能となっている。
【0023】
連通制御バルブ112は、エアバッグ制御ユニット110からの指令に応じて各車外エアバッグと各車内エアバッグとを連通させる流路を開閉する制御弁である。
中央車外エアバッグ30Cと中央車内エアバッグ40Cとの間、右側車外エアバッグ30Rと右側車内エアバッグ40Rとの間、左側車外エアバッグ30Lと左側車内エアバッグ40Lとの間には、それぞれ図示しない連通流路が設けられている。
連通制御バルブ112は、これらの各連通流路を、個別に開閉する機能を有する。
連通制御バルブ112は、例えば、電磁バルブを有する構成とすることができる。
【0024】
エアバッグ制御ユニット110には、圧力センサ113が設けられている。
圧力センサ113は、右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lの内圧をそれぞれ検出する機能を有する。
エアバッグ制御ユニット110は、圧力センサ113の出力に基づいて、右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lに対する他車両等からの荷重入力状態を判別可能となっている。
【0025】
環境認識ユニット120は、各種センサの出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
環境認識ユニット120は、例えば、車両1(自車両)周辺の他車両、歩行者、建築物、樹木、地形などの各種物体や、道路形状(車線形状)等を認識する機能を有する。
環境認識ユニット120は、他車両等の物体との衝突が不可避である場合(衝突可能性が所定以上である場合)に、プリクラッシュ判定を成立させるプリクラッシュ判定部として機能する。
【0026】
環境認識ユニット120には、ステレオカメラ装置121、ミリ波レーダ装置122、レーザスキャナ装置123等が接続されている。
ステレオカメラ装置121は、所定の間隔(基線長)だけ離間して配置された一対のカメラを有し、例えば他車両、歩行者や自転車乗員などの物体を認識するとともに、公知のステレオ画像処理により、車両1に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
ステレオカメラ装置121は、撮像画像のパターン認識等により、物体の属性を認識する機能を有する。例えば、物体が他車両である場合には、他車両の大きさ(トラック、バス、大型SUVなどの車両1よりも顕著に重量が大きい大型車であるか否かなど)を認識する機能を有する。
【0027】
ミリ波レーダ装置122は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び車両1に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置(LIDAR)123は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両1周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両1に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
環境認識ユニット120は、例えば他車両等の物体との衝突が不可避である場合(プリクラッシュ判定が成立した場合)に、物体との衝突形態(例えば、物体の車両1に対する速度ベクトル、車両1に対する衝突位置等)、及び、物体の属性(例えば、車両である場合には車種、車形、大きさ等)を認識可能となっている。
【0028】
挙動制御ユニット130は、図示しない液圧式サービスブレーキ装置における各車輪の制動力等を制御して、車両のオーバステア挙動又はアンダステア挙動を抑制する車両挙動制御や、アンチロックブレーキ制御等を行う機能を備えている。
挙動制御ユニット130には、車速センサ131、加速度センサ132、ヨーレートセンサ133等が接続されている。
車速センサ131は、例えば車輪を回転可能に支持するハブベアリング部に隣接して設けられ、車輪の回転速度に比例した周波数の車速信号を出力するものである。
挙動制御ユニット130は、車速信号に基づいて、車両の走行速度(車速)を算出する機能を有する。
加速度センサ132は、車体に作用する前後加速度、横加速度を検出するものである。
ヨーレートセンサ133は、車体のヨーレートを検出するものである。
【0029】
次に、実施形態のエアバッグ装置の動作について説明する。
図3は、実施形態のエアバッグ装置の衝突時における動作を説明するフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0030】
<ステップS01:プリクラッシュ判定成立判断>
環境認識ユニット120は、公知のプリクラッシュ判定ロジックを用いて、車両1の前方から接近する他車両V(本発明にいう物体の一例・
図4参照)との衝突が発生する可能性を推定するとともに、推定された可能性が予め設定された閾値以上であるか否かを判別する。
衝突が発生する可能性が閾値以上である場合には、衝突が不可避であるものとしてプリクラッシュ判定を成立させてステップS02に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0031】
<ステップS02:全車外エアバッグ展開>
エアバッグ制御ユニット110は、インフレータ111に作動指令を与え、右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lを展開させる。
このとき、連通制御バルブ112は、各連通流路を閉じた状態となっている。
その後、ステップS03に進む。
【0032】
<ステップS03:衝突形態認識>
エアバッグ制御ユニット110は、他車両Vの車両1への衝突形態を認識する。
衝突形態の認識は、例えば、圧力センサ113が検出する各エアバッグの内圧等に基づいて行うことができる。
例えば、一部のエアバッグの内圧が他のエアバッグの内圧よりも上昇した場合には、当該エアバッグにのみ他車両Vが接触していると認識することができる。特に、右側エアバッグ30R又は左側エアバッグ30Lの一方の内圧上昇が中央エアバッグ30Cの内圧上昇に対して大きくかつ右側エアバッグ30R又は左側エアバッグ30Lの他方に顕著な内圧変化がない場合には、他車両V等が主に右側エアバッグ30R又は左側エアバッグ30Lの一方に衝突するオフセット衝突であると認識することができる。
また、このような圧力センサ113を用いた衝突形態認識に変えて、あるいは追加して、エアバッグ制御ユニット110は、環境認識ユニット120や挙動制御ユニット130の出力に基づいて衝突形態認識を行ってもよい。
例えば、ステレオカメラ装置121等によって衝突前後の他車両Vの車両1に対する相対位置をモニタした結果に基づいて、オフセット衝突等を判別してもよい。
また、加速度センサ132、ヨーレートセンサ133が検出する車体挙動に基づいて、オフセット衝突等を判別してもよい。
その後、ステップS04に進む。
【0033】
<ステップS04:オフセット衝突判定>
エアバッグ制御ユニット110は、ステップS03で認識した衝突形態が、後述する端部車外エアバッグ収縮制御によって衝突被害の軽減が可能な特定のオフセット衝突であるか否かを判別する。
例えば、他車両Vが、車両1に対するラップ率が例えば予め設定された所定値以下であり、中央車外エアバッグ30と、右側車外エアバッグ30R又は左側車外エアバッグ30Lの一方とに接する状態で、所定の角度範囲内において衝突する場合に、特定のオフセット衝突であると判定することができる。
このような判定は、例えば、圧力センサ113、環境認識ユニット120の出力等に基づいて行うことができる。
なお、本明細書、特許請求の範囲において、オフセット衝突とは、他車両等の物体が自車両の前後方向に対して傾斜した方向に沿って衝突する斜めオフセット衝突(いわゆるオブリーク衝突)も含むものとする。
特定のオフセット衝突であると判定された場合はステップS06に進み、その他の場合(例えばフルラップ衝突や、ラップ率が所定範囲から外れるオフセット衝突等)にはステップS05に進む。
【0034】
<ステップS05:全車外エアバッグ連通制御バルブ開>
エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112に指令を与え、右側車外エアバッグ30Rと右側車内エアバッグ40Rとの間、中央車外エアバッグ30Cと中央車内エアバッグ40Cとの間、左側車外エアバッグ30Lと左側車内エアバッグ40Lとの間にそれぞれ設けられた全ての連通流路を開く。
これにより、例えばフルラップ衝突等の場合に、全ての車外エアバッグを衝突に応じて排気し収縮させることによって、エアバッグ装置により実現可能な最大限のエネルギ吸収を図ることができる。
その後、ステップS07に進む。
【0035】
<ステップS06:衝突側車外エアバッグ連通制御バルブ開>
エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112に指令を与え、右側車外エアバッグ30R、左側車外エアバッグ30Lのうち、他車両Vとの衝突が生じている側の一方の連通流路を開き、車外エアバッグ内のガスを対応する車内エアバッグへ移動させ、車外エアバッグを収縮させる端部車外エアバッグ収縮制御を行う。
このとき、他の連通流路は閉状態に維持する。
その後、ステップS07に進む。
【0036】
<ステップS07:目標ストローク到達判断>
エアバッグ制御ユニット110は、ステップS05又はステップS06において連通流路を開いた車外エアバッグが、他車両Vからの入力によって車内側エアバッグにガスを移動させつつ収縮し、前後方向の寸法が所定の目標ストローク(衝撃吸収ストローク)にわたって減少したか否かを判別する。
目標ストロークは、例えば、環境認識ユニット120が認識した他車両Vの大きさの増大(他車両の推定重量の増大)に応じて大きく設定することができる。
また、目標ストロークは、例えば、環境認識ユニット120が認識した車両1と他車両Vとの相対速度の増加に応じて大きく設定することができる。
これにより、衝突エネルギが大きい場合における各車外エアバッグによるエネルギ吸収量を増大させることができる。
連通流路を開いた車外エアバッグが目標ストロークだけ収縮した場合にはステップS08に進み、その他の場合はステップS07を繰り返す。
【0037】
<ステップS08:連通制御バルブ閉>
エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112に指令を与え、ステップS5又はステップS06において開いた連通流路を閉とする。
これにより、各エアバッグは現状の形状、容積を保持しつつ他車両Vから受けた入力をバンパビーム22に伝達する状態となる。
その後、一連の処理を終了する。
【0038】
実施形態においては、上述したように、環境認識ユニット120によるプリクラッシュ判定の成立に応じて、
図1に示すように、先ず右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lを全て展開させる。
例えば、他車両Vが、車両1に対して前方側からフルラップ衝突、あるいは、比較的ラップ率が大きい(フルラップ衝突に近い)オフセット衝突である場合には、エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112に指令を与え、全ての連通流路を開かせる。
これにより、各車外エアバッグを、各車内エアバッグにガスを移動させつつ収縮させ、車外エアバッグの収縮による衝突エネルギの吸収を図ることができる。
【0039】
図4は、実施形態のエアバッグ装置を有する車両が他車両に衝突し、端部車外エアバッグ収縮制御を行った後の状態を示す図である。
図4に示す例においては、他車両Vは、車両1の前方側から左側車外エアバッグ30L及び中央車外エアバッグ30のみに接する状態で、所定値以下のラップ率で衝突する特定のオフセット衝突(端部車外エアバッグ収縮制御による被害軽減が可能な衝突)となっている。
この場合、エアバッグ制御ユニット110は、連通制御バルブ112に指令を与え、左側エアバッグ30Lと左側車内エアバッグ40Lとの間のみの連通流路を開くとともに、中央車外エアバッグ30Cと中央車内エアバッグ40Cとの間、及び、右側車外エアバッグ30Rと右側車内エアバッグ40Rとの間の連通流路を閉状態に維持する端部車外エアバッグ収縮制御を行う。
【0040】
端部車外エアバッグ収縮を行うことにより、左側車外エアバッグ30Lが収縮を開始する一方、中央車外エアバッグ30Cは展開状態を維持されることにより、他車両Vは、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lから受ける反力のアンバランス、及び、中央車外エアバッグ30Cと左側車外エアバッグ30Lとの前面部の前後差(車幅方向に対する傾き)によって、車両1から見て車幅方向左側へ押し出され、転向する。
例えば、
図4に示す場合には、他車両Vは、左側車外エアバッグ30Lから受ける反力によって左方向へのヨーモーメントが急激に発生し、スピンモードに入りつつ車両1から逸れる方向へ進行している。
このとき、左側車外エアバッグ30Lの収縮に伴い、ガスの移動により左側車内エアバッグ40Lが展開する。
【0041】
左側車内エアバッグ40Lは、例えばバンパビーム22の折れなどの車体構造部材の損壊を抑制し、左側車外エアバッグ30Lの基部の変位を抑制し、左側車外エアバッグ30が他車両Vに対して十分な反力を与えられるよう下支えする。
左側車内エアバッグ40Lは、車幅方向内側の面部がフロントサイドフレーム21の側面部と当接した状態で展開する。フロントサイドフレーム21と左側車内エアバッグ40Lとの間で作用する反力は、左側車内エアバッグ40Lの形状保持を助け、左側車内エアバッグ40Lがバンパビーム22の後退などに対して発生可能な抗力を高める。なお、右側車内エアバッグ40Rも、展開する際は同様の作用、効果を発揮する。
また、中央車外エアバッグ30Cは、他車両Vが車両1の車幅方向内側へ進入することを阻止する機能を有する。
これにより、他車両Vが車両1に衝突する際の衝突エネルギを、各車両が相互に逸れて行き違う方向に転向させる運動エネルギに転換し、他車両Vを車両1に対していなすことで、車両1及び他車両Vが受ける衝突被害を軽減することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)オフセット衝突によって車両1の前部に配列された右側車外エアバッグ30R、中央車外エアバッグ30C、左側車外エアバッグ30Lの一部に他車両Vが衝突した場合に、他車両Vとの衝突が生じている領域の車外エアバッグのうち車幅方向における端部側の車外エアバッグを収縮させるとともに、他部の車外エアバッグの展開を維持することにより、収縮させた車外エアバッグによって衝突エネルギを吸収するとともに、その側方で展開を維持される車外エアバッグから他車両Vへ作用する反力、及び、各車外エアバッグの前面部の前後差が形成する傾斜によって他車両Vを車両1の車幅方向外側へ逸れるよう促し、他車両Vの衝突エネルギを運動エネルギに転換させて車両1の衝突エネルギ吸収量を低減し、被害を抑制することができる。
また、収縮させる車外エアバッグの後方側に設けられた車内エアバッグを展開させることにより、車外エアバッグから車体側へ入力される荷重を下支えして車体構造の損壊を抑制するとともに、衝突相手の他車両Vに対する反力を適切に発生させて衝突エネルギを運動エネルギに転換する効果をより高めることができる。
(2)前後方向に配列された車外エアバッグと車内エアバッグの内部とを連通させる連通流路を開閉する連通制御バルブ112とを備え、連通制御バルブ112を開くことで車外エアバッグを収縮させるとともに車内エアバッグを展開させることにより、車内エアバッグ用として専用のインフレータを設ける必要がなく、装置構成を簡素化しつつ上述した効果を得ることができる。
(3)右側車内エアバッグ40R、左側車内エアバッグ40Lが車体構造部材であるフロントサイドフレーム21の側面と当接した状態で展開することにより、これらの車内エアバッグが車体構造の変形、損壊を抑制する抗力を高めるとともに、その前方側の車外エアバッグが他車両Vに作用させる反力を高め、上述した効果を促進することができる。
(4)収縮を行った車外エアバッグが所定のストローク収縮した後に、当該車外エアバッグの収縮を抑制することにより、車外エアバッグを所定のストローク収縮させることで必要なエネルギ吸収を行うとともに、その後は収縮を抑制することによって、残存する衝突エネルギの運動エネルギへの転換を促進し、上述した効果を適切に得ることができる。
(5)衝突形態及び他車両Vの大きさに基づいて車外エアバッグを収縮させる目標ストロークを設定することにより、他車両Vの重量や相対速度が大きく衝突エネルギが大きくなることが想定される場合には、目標ストロークを大きく設定し、車外エアバッグの収縮によるエネルギ吸収を促進することにより、車体構造に過大なエネルギが入力されることを防止し、車体の損壊を抑制することができる。
【0043】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エアバッグ装置及び車両の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、これらを構成する各部材、部品の構造、形状、材質、製法、配置、個数や、各種制御の具体的内容などは、実施形態に限定されず適宜変更することができる。
(2)プリクラッシュ判定を行う手法や、衝突形態を判別する手法は、実施形態の手法に限らず適宜変更することができる。
(3)実施形態においては、例えば3個の車外エアバッグを車幅方向に配列しているが、これに限らず、例えば4個以上の車外エアバッグを配列した構成としてもよい。
この場合、4個以上の車外エアバッグのうち車内エアバッグを設けるものの個数、配置は特に限定されない。
(4)実施形態では、車外エアバッグを収縮させる際の排気によって車内エアバッグを展開させているが、これに限らず、車外エアバッグと車内エアバッグとを連通させず、車内エアバッグをインフレータ(ガス発生装置)によって展開させる構成としてもよい。また、車内エアバッグの展開に、車外エアバッグの排気と専用のインフレータとを併用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 車両 10 車室
20 エンジンコンパートメント 21 フロントサイドフレーム
22 バンパビーム 23 フロントバンパ
P パワートレーン構成部品
30R 右側車外エアバッグ 30C 中央車外エアバッグ
30L 左側車外エアバッグ
40R 右側車内エアバッグ 40C 中央車内エアバッグ
40L 左側車内エアバッグ
110 エアバッグ制御ユニット 111 インフレータ
112 連通制御バルブ 113 圧力センサ
120 環境認識ユニット 121 ステレオカメラ装置
122 ミリ波レーダ装置 123 レーザスキャナ装置
130 挙動制御ユニット 131 車速センサ
132 加速度センサ 133 ヨーレートセンサ
V 他車両