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特許7620497自動運転方法、作業車両及び自動運転システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】自動運転方法、作業車両及び自動運転システム
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20250116BHJP
   G05D 1/22 20240101ALI20250116BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20250116BHJP
   G05D 105/15 20240101ALN20250116BHJP
【FI】
A01B69/00 303A
G05D1/22
G05D1/43
G05D105:15
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021081078
(22)【出願日】2021-05-12
(65)【公開番号】P2022174990
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄司
(72)【発明者】
【氏名】村山 昌章
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-018238(JP,A)
【文献】特開2018-001867(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0216406(US,A1)
【文献】特開2014-170481(JP,A)
【文献】特開2020-001446(JP,A)
【文献】特開2021-094002(JP,A)
【文献】特開2021-043556(JP,A)
【文献】特開2018-121537(JP,A)
【文献】特開2020-018219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00ー69/08
G05D 1/00-1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された走行経路に基づいて自動走行を実行する作業車両の自動運転方法であって、
前記作業車両に備わる旋回操作具の旋回操作に応じて、前記作業車両の旋回を指示する旋回指示工程と、
前記走行経路に基づく前記作業車両の前記自動走行を制御する自動走行制御工程と、
前記作業車両に備わる旋回操作許可部の操作に応じて、前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可する許可操作工程と、を有し、
前記旋回指示工程は、前記自動走行の実行中において、通常は前記旋回操作具の旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を受け付けることを特徴とする自動運転方法。
【請求項2】
前記自動走行制御工程は、前記旋回操作許可部の操作に応じて前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付けてから、旋回操作許可状態が解除されたとき、前記作業車両から前記走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合には、前記走行経路に基づく前記自動走行を実行することを特徴とする請求項1に記載の自動運転方法。
【請求項3】
前記自動走行制御工程は、前記旋回操作許可部の操作に応じて前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付けてから、再度、前記旋回操作許可部が操作されたとき、前記作業車両から前記走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合には、前記走行経路に基づく前記自動走行を実行することを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項4】
前記自動走行制御工程は、前記旋回操作許可部の操作に応じて前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付けてから、再度、前記旋回操作許可部が操作されたとき、前記走行経路の向きに対して前記作業車両の向きが所定角度以内である場合には、前記走行経路に基づく前記自動走行を実行することを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項5】
前記旋回指示工程は、前記自動走行の実行中において、前記旋回操作許可部が押下されている間は、前記旋回操作具の旋回操作を受け付け、
前記旋回操作許可部の押下が解除されたとき、前記作業車両から前記走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合には、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付けない状態になり、前記自動走行制御工程は、前記走行経路に基づく前記自動走行を実行し、
一方、前記離間距離が前記復帰距離を超える場合には、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記作業車両を走行させることを特徴とする請求項1に記載の自動運転方法。
【請求項6】
前記旋回指示工程は、前記自動走行の実行中において、前記旋回操作許可部が押下されている間は、前記旋回操作具の旋回操作を受け付け、
前記旋回操作許可部の押下が解除されたとき、前記走行経路の向きに対して前記作業車両の向きが所定角度以内である場合には、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付けない状態になり、前記自動走行制御工程は、前記走行経路に基づく前記自動走行を実行し、
一方、前記走行経路の向きに対して前記作業車両の向きが所定角度を超える場合には、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記作業車両を走行させることを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項7】
前記旋回指示工程は、所定の操作不可条件下では、前記旋回操作許可部の操作を受け付けないことを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の自動運転方法。
【請求項8】
前記自動走行制御工程は、前記自動走行の実行中において、前記旋回操作許可部が操作されたときの前記作業車両の進行方向に応じて異なる制御を前記作業車両の走行に適用することを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の自動運転方法。
【請求項9】
前記自動走行制御工程は、前記作業車両の前後進の速度変更を指示する変速操作具が前進速度変更領域に位置する場合に前記自動走行を実行し、
前進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記前進速度変更領域における前記変速操作具の位置に基づいて、前記前進方向の走行を維持し、
後進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記前進速度変更領域における前記変速操作具の位置に基づいて、通常の手動走行の後進走行中の前記作業車両に対して直接的に前進設定速度を設定する場合の加速度よりも緩やかな加速度で前記前進方向への走行に切り替えることを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項10】
前記自動走行制御工程は、前記作業車両の前後進の速度変更を指示する変速操作具が前進速度変更領域に位置する場合に前記自動走行を実行し、
前進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記前進速度変更領域における前記変速操作具の位置に基づいて前記前進方向の走行を維持し、
一方、後進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記前進速度変更領域における前記変速操作具の位置に拘わらず、前記後進方向の走行を維持することを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項11】
前進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記旋回指示工程が前記旋回操作具の旋回操作を受け付ける状態で、前記前進方向の走行を維持し、
一方、後進方向の前記自動走行の実行中において前記旋回操作許可部が操作されると、前記自動走行制御工程は、前記作業車両の走行を停止することを特徴とする請求項に記載の自動運転方法。
【請求項12】
予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行う作業車両であって、
旋回を指示する旋回操作を受け付ける旋回操作具と、
前記走行経路に基づく前記自動走行を制御する自動走行制御部と、
前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可するための旋回操作許可部と、を備え、
前記旋回操作具は、前記自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると前記自動走行の実行中に旋回操作を受け付けることを特徴とする作業車両。
【請求項13】
予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行う作業車両を備える自動運転システムであって、
前記作業車両の旋回を指示する旋回操作を受け付ける旋回操作具と、
前記走行経路に基づく前記作業車両の前記自動走行を制御する自動走行制御部と、
前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可するための旋回操作許可部と、を備え、
前記旋回操作具は、前記自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると前記自動走行の実行中に旋回操作を受け付けることを特徴とする自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行う作業車両の自動運転方法、作業車両及び自動運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインやトラクタ等の作業車両は、機体の旋回を指示するハンドル等の旋回操作具を備え、手動走行を行うとき、旋回操作具の旋回操作を受け付けている。また、作業車両には、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行うものがあり、自動走行では、旋回操作具の旋回操作を受け付けることなく、走行経路に基づく旋回を行う。
【0003】
例えば、特許文献1には、圃場の自動走行が可能な収穫機が開示されている。この収穫機は、自動走行中に自動走行を継続させつつ機体の状態を変更することが可能な機能を有する操作具と、機体の状態を検出する機体状態検出部と、操作具が操作されたとき、機体状態検出部で検出された機体の状態に応じて、機能を有効化又は無効化する機能設定部とを備えている。例えば、操作具は、機体の旋回を指示する旋回操作具であり、機能設定部は、自動走行中における旋回操作具の機能を無効化し、かつ、旋回操作具が予め設定された操作量よりも大きく操作されると停車を指示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-18238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の収穫機のような従来の作業車両では、自動走行中に機体の旋回操作ができず、旋回操作をしたい場合には、一度機体を停止させて手動走行に切り替える必要があった。そのため、自動走行を行うときには、作業者の意図に応じた軌道修正を簡易な操作で行うことができないので操作性が低下し、また、軌道修正する度に自動走行の中断操作をして停車させる必要があるので作業効率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、操作性を向上した自動走行を行うことができる自動運転方法、作業車両及び自動運転システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の自動運転方法は、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を実行する作業車両の自動運転方法であって、前記作業車両に備わる旋回操作具の旋回操作に応じて、前記作業車両の旋回を指示する旋回指示工程と、前記走行経路に基づく前記作業車両の前記自動走行を制御する自動走行制御工程と、前記作業車両に備わる旋回操作許可部の操作に応じて、前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可する許可操作工程と、を有し、前記旋回指示工程は、前記自動走行の実行中において、通常は前記旋回操作具の旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると前記旋回操作具の旋回操作を受け付けることを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の作業車両は、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行う作業車両であって、旋回を指示する旋回操作を受け付ける旋回操作具と、前記走行経路に基づく前記自動走行を制御する自動走行制御部と、前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可するための旋回操作許可部と、を備え、前記旋回操作具は、前記自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると旋回操作を受け付けることを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の自動運転システムは、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を行う作業車両を備える自動運転システムであって、前記作業車両の旋回を指示する旋回操作を受け付ける旋回操作具と、前記走行経路に基づく前記作業車両の前記自動走行を制御する自動走行制御部と、前記自動走行の実行中に前記旋回操作具の旋回操作を許可するための旋回操作許可部と、を備え、前記旋回操作具は、前記自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、前記旋回操作許可部が操作されると旋回操作を受け付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、操作性を向上した自動走行を行うことができる自動運転方法、作業車両及び自動運転システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの側面図である。
図2】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインのブロック図である。
図3】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの操縦部の平面図である。
図4】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインにおいて携帯端末に表示される作業画面の例を示す平面図である。
図5】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの走行動作例を示すフローチャートである。
図6】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの第1変形例の走行動作例を示すフローチャートである。
図7】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの第2変形例の走行動作例を示すフローチャートである。
図8】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの第3変形例の走行動作例を示すフローチャートである。
図9】本発明の作業車両の一実施形態に係るコンバインの第4変形例の走行動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の作業車両の一実施形態であるコンバイン1について図1等を参照して説明する。作業車両は、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を可能とするものであり、コンバイン1は、自動運転又は手動操作によって、作業対象の圃場を走行すると共に、圃場に植えられた穀稈から作物の収穫作業を行うために刈取等の作業を行うものである。
【0013】
コンバイン1は、手動走行モード及び自動走行モードの何れかの走行モードが設定される。コンバイン1は、手動走行モードが設定されている場合、作業者による操縦部9の操縦に応じて手動走行を行うように構成される。
【0014】
一方、コンバイン1は、自動走行モードが設定されている場合、予め設定された走行経路に従って自動走行しながら自動刈取する自動刈取走行を行うように構成される。例えば、コンバイン1は、圃場の未刈穀稈を有する領域(以下、未刈領域と称する)において複数の作業経路を往復する往復刈りや、未刈領域の内周に沿った作業経路の周回を中央側にずらしながら繰り返す回り刈り等の走行パターンの自動刈取走行を行う。
【0015】
図1に示すように、コンバイン1は、走行部2と、刈取部3と、脱穀部4と、選別部5と、貯留部6と、排藁処理部7と、動力部8と、操縦部9とを備え、いわゆる自脱型コンバインで構成される。コンバイン1は、走行部2によって走行しつつ、刈取部3によって刈り取った穀稈を脱穀部4で脱穀し、選別部5で穀粒を選別して貯留部6に貯える。コンバイン1は、脱穀後の排藁を排藁処理部7によって処理する。コンバイン1は、動力部8が供給する動力によって、走行部2、刈取部3、脱穀部4、選別部5、貯留部6及び排藁処理部7を駆動する。
【0016】
走行部2は、機体フレーム10の下方に設けられていて、左右一対のクローラ式走行装置11と、動力伝達機構12(図2参照)とを備える。走行部2は、動力部8のエンジン26から伝達される動力(例えば、回転動力)によって、クローラ式走行装置11のクローラを回転することで、コンバイン1を前後方向に走行させたり、左右方向に旋回させたりする。動力伝達機構12は、トランスミッション等で構成され、動力部8の動力(回転動力)をクローラ式走行装置11へ伝達するものであり、回転動力を変速することもできる。
【0017】
刈取部3は、走行部2の前方に設けられ、最大刈取条数以内の条列の刈取作業を行い、刈取作業の対象の条列数によって刈取幅が定まる。刈取部3は、デバイダ13と、引起装置14と、切断装置15と、搬送装置16とを備える。デバイダ13は、圃場の穀稈を一条毎に分草して、最大刈取条数以内の所定条数分の穀稈を引起装置14へ案内する。引起装置14は、デバイダ13によって案内された穀稈を引き起こす。切断装置15は、引起装置14によって引き起こされた穀稈を切断する。搬送装置16は、切断装置15によって切断された穀稈を脱穀部4へ搬送する。
【0018】
脱穀部4は、刈取部3の後方に設けられる。脱穀部4は、フィードチェーン18と、扱胴19とを備える。フィードチェーン18は、刈取部3の搬送装置16から搬送された穀稈を脱穀のために搬送し、更に脱穀後の穀稈、すなわち排藁を排藁処理部7へと搬送する。扱胴19は、フィードチェーン18によって搬送されている穀稈を脱穀する。
【0019】
選別部5は、脱穀部4の下方に設けられる。選別部5は、揺動選別装置21と、風選別装置22と、穀粒搬送装置(図示せず)と、藁屑排出装置(図示せず)とを備える。揺動選別装置21は、脱穀部4から落下した脱穀物をふるいにかけて穀粒と藁屑等に選別する。風選別装置22は、揺動選別装置21によって選別された脱穀物を送風によって更に穀粒と藁屑等に選別する。穀粒搬送装置は、揺動選別装置21及び風選別装置22によって選別された穀粒を貯留部6へ搬送する。藁屑排出装置は、揺動選別装置21及び風選別装置22によって選別された藁屑等を機外へ排出する。
【0020】
貯留部6は、脱穀部4の右側方に設けられる。貯留部6は、グレンタンク23と、排出装置24とを備える。グレンタンク23は、選別部5から搬送されてきた穀粒を貯留する。排出装置24は、オーガ等で構成され、穀粒の排出作業を行い、グレンタンク23に貯留されている穀粒を任意の場所に排出する。排出装置24は、制御装置50(図2参照)に制御されて自動的に、又は操縦部9の操作に応じて手動で排出作業を行う。
【0021】
排藁処理部7は、脱穀部4の後方に設けられる。排藁処理部7は、排藁搬送装置(図示せず)と、排藁切断装置(図示せず)とを備える。例えば、排藁処理部7は、脱穀部4のフィードチェーン18から搬送された排藁を、排藁搬送装置によってそのまま機外(例えば、コンバイン1の後方や下方)へ排出する。あるいは、排藁処理部7は、排藁搬送装置によって排藁切断装置へ搬送して、排藁切断装置によって切断した後で機外(例えば、コンバイン1の後方)へ排出する。
【0022】
動力部8は、走行部2の上方、且つ、貯留部6の前方に設けられる。動力部8は、回転動力を発生させるエンジン26を備える。動力部8は、エンジン26が発生させた回転動力を、走行部2、刈取部3、脱穀部4、選別部5、貯留部6及び排藁処理部7に伝達する。また、コンバイン1は、動力部8のエンジン26へ供給する燃料を収容する燃料タンク(図示せず)を備える。
【0023】
操縦部9は、動力部8の上方に設けられる。操縦部9は、図3に示すように、作業者が座る座席である運転席28の周囲に、コンバイン1の走行を操縦するための操作具を備える。操縦部9は、操作具として、コンバイン1の機体の旋回を指示するための旋回操作具であるハンドル29や、コンバイン1の前後進の速度変更を指示する変速操作具である主変速レバー30及び副変速レバー31等を備える。コンバイン1の手動走行は、操縦部9のハンドル29や主変速レバー30及び副変速レバー31の操作を受け付けた走行部2(動力伝達機構12)によって実行される。
【0024】
操縦部9は、旋回操作具であるハンドル29の旋回操作を、コンバイン1の自動走行の実行中に許可するための旋回操作許可部としてオーバーライドボタン32を備える。操縦部9は、刈取部3による刈取作業、脱穀部4による脱穀作業、貯留部6の排出装置24による排出作業等を操作するための機構を備える。また、操縦部9は、様々な情報を表示して作業者に出力するためのモニタ等の表示部33を備える(図2参照)。
【0025】
ハンドル29は、作業者による旋回操作を走行部2の動力伝達機構12に伝達して、コンバイン1の進行方向を変更し、すなわちコンバイン1を旋回操作するものである。例えば、コンバイン1の手動走行の実行中において、走行部2(動力伝達機構12)は、作業者によるハンドル29の旋回操作を常時受け付ける。一方、コンバイン1の自動走行の実行中において、走行部2は、通常、作業者によるハンドル29の旋回操作を受け付けないが、オーバーライドボタン32が操作されるとハンドル29の旋回操作を受け付ける。ハンドル29は、回転方向に±5度程度のマージンを有し、このマージン内の操作を走行部2に伝達しないように構成される。なお、ハンドル29のマージンは、±5度に限定されず、人為的に調整可能である。
【0026】
主変速レバー30及び副変速レバー31は、作業者による変速操作を走行部2の動力伝達機構12に伝達して、コンバイン1の走行の設定速度を切り替えるものである。例えば、手動走行モードが設定されている場合、主変速レバー30は、中央のニュートラル位置34にあると、コンバイン1を停車させる。また、主変速レバー30は、ニュートラル位置34よりも前側の前進速度変更領域35に倒されると、コンバイン1の前進走行操作を走行部2に伝達し、前後方向に長い前進速度変更領域35における主変速レバー30の前後方向の位置に応じた前進設定速度を走行部2に設定する。前進速度変更領域35に位置する主変速レバー30は、ニュートラル側から前方へ倒されると、前進設定速度を増速し、一方、前方からニュートラル側へ倒されると、前進設定速度を減速する。
【0027】
一方、主変速レバー30は、ニュートラル位置34よりも後側の後進速度変更領域36に倒されると、コンバイン1の後進走行操作を走行部2に伝達し、前後方向に長い後進速度変更領域36における主変速レバー30の前後方向の位置に応じた後進設定速度を走行部2に設定する。後進速度変更領域36に位置する主変速レバー30は、ニュートラル側から後方へ倒されると、後進設定速度を増速し、一方、後方からニュートラル側へ倒されると、後進設定速度を減速する。
【0028】
また、自動走行モードが設定されてコンバイン1が自動走行を行うとき、主変速レバー30は、前進速度変更領域35に位置している。自動走行モードが設定されている場合、主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置することを、コンバイン1の自動走行開始条件の一つとしてよい。自動前進走行では、携帯端末53等によって設定車速が0~100%の範囲内で設定されていて、前進速度変更領域35における主変速レバー30の前後方向の位置に応じた速度設定値と上記設定車速とに基づく前進設定速度を走行部2に設定し、例えば、自動走行中に主変速レバー30がニュートラル側から前方へ倒されると、前進設定速度を増速し、一方、前方からニュートラル側へ倒されると、前進設定速度を減速する。例えば、設定車速が50%で、速度設定値が2m/sである場合、前進設定速度は1m/sに設定される。また、自動後進走行でも、携帯端末53等によって設定車速が0~100%の範囲内で設定されていて、前進速度変更領域35における主変速レバー30の前後方向の位置に応じた速度設定値と上記設定車速とに基づく後進設定速度を走行部2に設定する。
【0029】
オーバーライドボタン32は、例えば、ハンドル29に設けられ、運転席28に座ってハンドル29を握る作業者の指が掛かる位置に配置される。あるいは、オーバーライドボタン32は、携帯端末53(図2参照)の作業画面55(図4参照)に配置され、機体の停車ボタン56と並べて配置されてもよい。
【0030】
オーバーライドボタン32は、作業者の操作に応じてオンとオフとを切り替えるように構成される。コンバイン1の自動走行の実行中において、走行部2は、オーバーライドボタン32がオンの場合にハンドル29の旋回操作を受け付ける一方、オーバーライドボタン32がオフの場合にハンドル29の旋回操作を受け付けない。あるいは、オーバーライドボタン32は、自動走行モードが設定されてコンバイン1の自動走行を行っているときに、作業者によって操作(押下)されると、制御装置50によって走行モードを自動走行モードから手動走行モードへと完全に切り替えるように構成されてもよい。この場合、コンバイン1は、自動走行を手動走行に切り替えて、走行部2は、ハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になる。なお、オーバーライドボタン32が再度操作されても、制御装置50が走行モードを自動走行モードへ切り替えることはない。
【0031】
例えば、オーバーライドボタン32は、ワンタッチ式(いわゆるオルタネイト式)の押しボタンで構成されてよく、この場合、押圧される度にオンとオフとを切り替える。若しくは、オーバーライドボタン32は、長押し式の押しボタンで構成されてよく、この場合、所定時間(例えば、5秒)以上の長押し操作に応じてオンに切り替え、その後、ワンタッチ操作又は長押し操作に応じてオフに切り替える。あるいは、オーバーライドボタン32は、押下時のみオンに切り替える(いわゆるモーメンタリ式)押しボタンで構成されてよく、この場合、押下操作されているとき、すなわち押されているときにオンに切り替え、押下操作が解除されているとき、すなわち押されていないときにオフに切り替える。
【0032】
コンバイン1は、図2に示すように、GPS等の衛星測位システムを利用してコンバイン1の位置情報を取得する測位ユニット38を備えている。測位ユニット38は、測位アンテナを介して測位衛星から測位信号を受信し、測位信号に基づいて測位ユニット38の位置情報、すなわちコンバイン1の位置情報を取得する。
【0033】
なお、コンバイン1は、圃場の周囲の畦等に設置された基地局(図示せず)と通信可能に構成されてもよい。基地局は、測位アンテナを介して測位衛星から測位信号を受信し、測位信号に基づいて基地局の位置情報を取得する。基地局は、基地局の位置情報に基づく補正情報を、コンバイン1(例えば、測位ユニット38)へ送信する。コンバイン1(例えば、測位ユニット38)は、補正情報を基地局から受信し、補正情報に基づいて測位ユニット38の位置情報、すなわちコンバイン1の位置情報を補正する。
【0034】
次に、コンバイン1の制御装置50について図2を参照して説明する。制御装置50は、CPU等のコンピュータで構成され、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等の記憶部51や、外部機器と通信を行う通信部52に接続されている。記憶部51は、コンバイン1の各種構成要素及び各種機能を制御するためのプログラムやデータを記憶し、制御装置50が、記憶部51に記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を実行することにより、各種構成要素及び各種機能を制御する。制御装置50は、例えば、測位ユニット38を制御してコンバイン1の位置情報を取得する。
【0035】
記憶部51は、例えば、コンバイン1の作業対象である圃場の圃場情報を記憶する。圃場情報は、圃場外周を構成する圃場端の形状、大きさ及び位置情報(座標等)等や、圃場の未刈領域の形状、大きさ及び位置情報(座標等)等を含む。
【0036】
通信部52は、無線通信アンテナを介して、作業者の保有する携帯端末53等の外部機器と無線通信可能となる。制御装置50は、通信部52を制御して携帯端末53と無線通信を行い、携帯端末53との間で各種情報を送受信する。
【0037】
携帯端末53は、コンバイン1の構成要素の一つであって、コンバイン1を遠隔操作可能な端末であり、例えば、タッチパネルを備えるタブレット端末やノート型のパーソナルコンピュータ等で構成される。携帯端末53は、様々な情報を表示して作業者に出力するためのタッチパネルやモニタ等の表示部54を備え、また、作業者からの様々な情報の入力操作を受け付けるためのタッチパネルや操作キー等の入力部を備える。なお、携帯端末53と同様の操作装置が操縦部9に備えられてもよい。例えば、携帯端末53は、コンバイン1の手動走行モード及び自動走行モードの何れかの走行モードを設定可能な画面(例えば、ホーム画面やモード設定画面)を表示部54に表示し、作業者の操作に応じて設定された走行モードをコンバイン1へ送信する。
【0038】
携帯端末53は、作業対象の圃場に係る圃場情報について、入力部を介した入力操作を受け付けるように構成され、例えば、圃場情報を設定可能な圃場情報設定画面を表示する。携帯端末53は、圃場情報設定画面において、圃場情報に基づく圃場マップを表示しつつ、圃場マップ上にコンバイン1の走行経路を進行方向が分かるように表示することもできる。携帯端末53は、圃場情報設定画面で設定された圃場情報をコンバイン1へ送信する。
【0039】
携帯端末53は、コンバイン1の自動刈取走行の走行パターンの選択を受け付ける機能を有し、自動刈取走行の走行経路を作成する場合に、往復刈り又は回り刈りの走行パターンを選択する画面(例えば、走行選択画面)を表示部54に表示する。携帯端末53は、作業者の操作に応じて入力された走行パターン(往復刈り又は回り刈り)をコンバイン1へ送信して走行経路の作成を指示する。携帯端末53は、設定車速を0~100%の範囲内で予め設定して走行経路に関連付けてもよい。
【0040】
携帯端末53は、コンバイン1が自動刈取走行を実行する場合には、図4に示すように、自動刈取走行の作業画面55を表示部54に表示する。作業画面55には、例えば、機体の一時停止を操作する停車ボタン56や、上記したオーバーライドボタン32を操作可能に表示する。また、作業画面55には、自動刈取走行の対象となる圃場や走行経路と共に、コンバイン1の現在位置を確認可能に表示する。作業画面55には、設定されている走行モードをタイトル欄57に識別可能に表示し、自動走行モードを表示するだけでなく、作業状況に応じて自動的に切り替えられた走行モードも表示する。携帯端末53は、作業画面55において設定車速を0~100%の範囲内で設定可能にするとよい。
【0041】
また、制御装置50は、記憶部51に記憶されたプログラムを実行することにより、圃場情報設定部60、走行経路作成部61、自動走行制御部62及び自動刈取制御部63として動作する。なお、走行経路作成部61、自動走行制御部62及び自動刈取制御部63は、本発明に係る自動運転方法の走行経路作成工程、自動走行制御工程及び自動刈取制御工程を実現するものである。なお、走行部2(動力伝達機構12)は、ハンドル29の旋回操作に応じて、コンバイン1の旋回を指示する旋回指示部として機能し、本発明に係る自動運転方法の旋回指示工程を実現する。また、オーバーライドボタン32は、ハンドル29の旋回操作をコンバイン1の自動走行の実行中に許可するための旋回操作許可部として機能し、本発明に係る自動運転方法の許可操作工程を実現する。
【0042】
圃場情報設定部60は、作業対象の圃場に係る圃場情報を自動又は手動で設定して記憶部51に記憶する。例えば、圃場情報設定部60は、携帯端末53の圃場情報設定画面に対する圃場情報の入力操作に応じて、圃場情報を手動で設定する。あるいは、圃場情報設定部60は、サーバ(図示せず)との通信によって、サーバが記憶している圃場情報を受信して自動で設定してもよい。なお、圃場情報設定部60は、サーバから受信した圃場情報を携帯端末53の圃場情報設定画面によって編集可能にしてもよい。
【0043】
なお、他の例として、圃場情報設定部60は、作業対象の圃場を撮影した圃場画像を取得し、圃場画像を画像解析した結果に基づいて圃場情報を設定してもよい。また、圃場情報設定部60は、携帯端末53の操作に応じて設定した圃場情報や、サーバから受信した圃場情報と、圃場画像から解析した圃場情報と整合性をとることで、より正確な圃場情報を取得してもよい。
【0044】
圃場画像は、コンバイン1に備わる機体カメラによって撮影してもよく、携帯端末53に備わる携帯カメラによって撮影した画像を通信部52で受信してもよく、ドローン等の空撮装置に備わる空撮カメラによって撮影した画像を通信部52で受信してもよい。圃場情報設定部60は、機体カメラ、携帯カメラ又は空撮カメラのうち、1つのカメラの圃場画像から圃場情報を解析してもよく、2つ以上のカメラの圃場画像から圃場情報を解析してもよい。なお、制御装置50は、機体カメラ、携帯カメラ又は空撮カメラによって撮影した圃場画像を操縦部9の表示部33に表示させたり、携帯端末53へ送信して携帯端末53の表示部54に表示させたりしてもよい。
【0045】
走行経路作成部61は、圃場をコンバイン1が自動運転で自動走行及び自動刈取(自動刈取走行)を行うために参照する走行経路を作成して記憶部51に記憶する。走行経路は、自動走行に関する走行設定だけでなく、自動刈取等の作業に関する作業設定も含む。走行設定は、圃場における走行位置に加えて、各走行位置での進行方向(操向方向及び前進又は後進)や設定車速を含む。作業設定は、各走行位置での刈取の稼働又は停止、刈取速度及び刈取高さ、刈取条数、他の作業に関する情報を含む。
【0046】
走行経路作成部61は、圃場内の未刈領域に対して、前進方向に走行しながら刈取を行う作業経路を直線状に設定し、複数の作業経路を組み合わせて走行経路を設定する。また、走行経路作成部61は、連続する二つの作業経路の間で枕地を旋回して走行する空走経路を設定する。すなわち、走行経路作成部61は、複数の作業経路と各作業経路間の空走経路とからなる走行経路を作成する。なお、走行経路作成部61は、作業経路や空走経路以外にも、圃場の既刈領域において移動するために、前進方向又は後進方向に直線状に走行する移動経路や旋回しながら走行する移動経路を設定して走行経路を作成してよい。
【0047】
走行経路作成部61は、携帯端末53等の操作に応じて選択された走行パターン(往復刈り又は回り刈り)に応じた走行経路を作成する。例えば、走行経路作成部61は、未刈領域の内周に沿った作業経路の周回を中央側にずらしながら繰り返す回り刈りの走行経路や、未刈領域において複数の作業経路を往復する往復刈りの走行経路を作成する。走行経路作成部61は、走行経路において自動刈取走行を開始する開始位置と自動刈取走行を完了する終了位置とを設定する。
【0048】
自動走行制御部62は、自動走行モードが設定されている場合、走行経路作成部61で作成された走行経路の走行設定に基づいて動力部8並びに走行部2を制御して、走行経路に応じた自動走行を実行させる。なお、コンバイン1は、ジャイロセンサ及び方位センサを備えてコンバイン1の変位情報及び方位情報を取得し、自動走行制御部62は、変位情報及び方位情報に基づいてコンバイン1の自動走行を調整してもよい。
【0049】
また、自動走行制御部62は、自動走行の設定速度として、主変速レバー30の前後方向の位置に応じた速度設定値と設定車速とに基づく前進設定速度又は後進設定速度を設定する一方、自動前進走行の実行中に、主変速レバー30が操作されると、主変速レバー30の位置に応じて自動走行の設定速度を変更する。例えば、自動前進走行中に、前進速度変更領域35に位置する主変速レバー30がニュートラル側から前方へ倒されると、自動走行制御部62は、主変速レバー30の前後方向の位置に応じて前進設定速度を増速し、一方、前方からニュートラル側へ倒されると、主変速レバー30の前後方向の位置に応じて前進設定速度を減速する。
【0050】
自動走行制御部62は、自動走行の実行中にハンドル29が操作された場合でも、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付けない状態であるので、通常は、走行設定に基づく自動走行を継続する。ただし、自動走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作されてオンになると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になるので、自動走行制御部62は、走行設定に基づく自動走行を停止する。このとき、走行部2は、自動走行を停止したときの主変速レバー30等に基づく走行状態(進行方向及び走行速度等)を維持したまま走行を継続して手動走行に移行してよい。なお、自動走行制御部62は、自動走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、走行モードを自動走行モードから手動走行モードへ切り替えるとよい。
【0051】
また、オーバーライドボタン32の操作に応じて自動走行から手動走行に移行し、その後、再度、オーバーライドボタン32が操作されてオフになると、自動走行制御部62は、コンバイン1から走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合には、走行経路に基づく自動走行を再開する。なお、離間距離が復帰距離以内である場合だけでなく、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内である場合も、自動走行を再開する条件に加えてもよい。このとき、走行部2はハンドル29の旋回操作を受け付けない状態になる。また、自動走行制御部62は、走行モードを手動走行モードから自動走行モードへ切り替えるとよい。一方、コンバイン1から走行経路までの離間距離が復帰距離を超える場合には、自動走行制御部62は、走行経路に基づく自動走行を再開せず、走行部2は、コンバイン1の手動走行を継続してよい。なお、離間距離が復帰距離を超える場合だけでなく、走行経路の向きに対して機体の向きが所定角度を超える場合も、自動走行を再開しない条件に加えてもよい。この場合、携帯端末53は、表示部54の作業画面55に表示されるオーバーライドボタン32をグレー表示して操作不能にし、自動走行を再開できないことを操作者に対して視覚的に認識させてもよい。
【0052】
自動刈取制御部63は、自動走行モードが設定されている場合、走行経路作成部61で作成された走行経路の作業設定に基づいて動力部8並びに刈取部3を制御して、走行経路に応じた自動刈取を実行させる。自動刈取制御部63は、刈取部3によって走行経路上の未刈穀稈を自動的に刈り取る。また、自動刈取制御部63は、自動刈取に伴い、脱穀部4、選別部5、貯留部6及び排藁処理部7を制御して、刈取後の穀稈の脱穀、脱穀後の穀粒や藁屑の選別、選別後の穀粒の貯留、脱穀後の排藁の処理等を自動的に実行させる。
【0053】
本実施形態のコンバイン1の走行動作例について、図5のフローチャートを参照して説明する。なお、コンバイン1の刈取動作は、圃場の未刈領域において必要に応じて行われるが、以下では説明を省略する。
【0054】
コンバイン1に自動走行モードが設定されている場合(ステップS1:Yes)、先ず、走行経路作成部61が作業対象の圃場の自動走行を行う走行経路を作成して記憶部51に記憶する(ステップS2)。次に、コンバイン1が各種の自動走行開始条件を満たしている場合(ステップS3:Yes)、自動走行制御部62は、作成された走行経路の走行設定に基づいて動力部8並びに走行部2を制御して自動走行を開始する(ステップS4)。自動走行を実行している間、走行部2は、作業者によるハンドル29の旋回操作を受け付けない状態である。なお、自動走行モードが設定されていない場合(ステップS1:No)や、自動走行開始条件を満たしていない場合(ステップS3:No)には、自動走行は開始されない。
【0055】
自動走行が実行されている間に、作業者がオーバーライドボタン32を操作すると(ステップS5:Yes)、走行部2は、作業者によるハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になる(ステップS6)。また、自動走行制御部62は、走行モードを自動走行モードから手動走行モードへ切り替えて走行設定に基づく自動走行を停止し(ステップS7)、走行部2は、自動走行の停止時の走行状態を維持したまま走行を継続して手動走行に移行する(ステップS8)。
【0056】
その後、手動走行が実行されている間に、再度、作業者がオーバーライドボタン32を操作すると(ステップS9:Yes)、コンバイン1から走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合であって(ステップS10:Yes)、走行経路の向きに対して機体の向きが所定角度以内である場合に(ステップS11:Yes)、走行モードを手動走行モードから自動走行モードへ切り替えて、自動走行制御部62は、走行経路に基づく自動走行を再開する(ステップS12)。このとき、走行部2はハンドル29の旋回操作を受け付けない状態になる(ステップS13)。
【0057】
一方、オーバーライドボタン32が再度操作されない場合(ステップS9:No)や、コンバイン1から走行経路までの離間距離が復帰距離を超える場合(ステップS10:No)、走行経路の向きに対して機体の向きが所定角度を超える場合には(ステップS11:No)、自動走行制御部62は、走行経路に基づく自動走行を再開せず、走行部2は、コンバイン1の手動走行を継続する(ステップS14)。あるいは、コンバイン1から走行経路までの離間距離が復帰距離を超える場合(ステップS10:No)や、走行経路の向きに対して機体の向きが所定角度を超える場合には(ステップS11:No)、手動走行を終了してコンバイン1の走行動作を終了してもよい。
【0058】
上記のように、本実施形態によれば、作業車両の例であるコンバイン1は、予め設定された走行経路に基づいて自動走行を実行する作業車両であって、コンバイン1の旋回を指示する旋回操作を受け付ける旋回操作具であるハンドル29と、走行経路に基づくコンバイン1の自動走行を制御する自動走行制御部62として機能する制御装置50と、自動走行の実行中にハンドル29の旋回操作を許可するための旋回操作許可部であるオーバーライドボタン32とを備える。走行部2は、自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、オーバーライドボタン32が操作されると旋回操作を受け付ける。
【0059】
これにより、コンバイン1は、自動走行を行うときには、通常はハンドル29の旋回操作を受け付けないので誤操作を抑制することができる。一方、自動走行を行うときでも、オーバーライドボタン32を操作するという簡易な操作でハンドル29の旋回操作を可能にして、作業者の意図に応じた軌道修正を行うことができ、操作性を向上することができる。また、自動走行中に軌道修正する場合でも、自動走行の中断操作や停車を必要としないので、作業効率を向上することができる。
【0060】
本実施形態のコンバイン1において、自動走行制御部62は、自動走行の実行中にオーバーライドボタン32の操作に応じて走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付けてから、再度、オーバーライドボタン32が操作されたとき、コンバイン1から走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内である場合には、走行経路に基づく自動走行を実行する。あるいは、自動走行制御部62は、離間距離が復帰距離以内である場合、かつ、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内である場合に、走行経路に基づく自動走行を実行してもよい。
【0061】
これにより、コンバイン1は、オーバーライドボタン32が操作された際の移動が走行経路から復帰距離以内や、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内であれば、走行経路に基づく自動走行に復帰することができる。そのため、自動走行においてオーバーライドボタン32を利用した旋回操作を併用して、作業者の意図に応じた走行を容易に実現することができ、操作性を向上することができる。
【0062】
また、本実施形態のコンバイン1において、走行部2は、自動走行の実行中において、オーバーライドボタン32が押下されている間は、ハンドル29の旋回操作を受け付ける。また、オーバーライドボタン32の押下が解除されたとき、コンバイン1から走行経路までの離間距離が所定の復帰距離以内、かつ、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内である場合には、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付けない状態になり、自動走行制御部62は、走行経路に基づく自動走行を実行する。あるいは、自動走行制御部62は、離間距離が復帰距離以内である場合、かつ、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内である場合に、走行経路に基づく自動走行を実行してもよい。一方、離間距離が復帰距離を超える場合には、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、コンバイン1を走行させ、すなわち手動走行を行う。あるいは、コンバイン1は、離間距離が復帰距離を超える場合、かつ、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度を超える場合に、手動走行を行ってもよい。
【0063】
これにより、コンバイン1は、自動走行中では、オーバーライドボタン32を押している間だけハンドル29の旋回操作を可能とするので、ハンドル29の誤操作をより確実に抑制することができる。また、コンバイン1は、オーバーライドボタン32が操作された際の移動が走行経路から復帰距離以内や、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度以内である間に、オーバーライドボタン32を離せば、走行経路に基づく自動走行に復帰することができる。そのため、自動走行においてオーバーライドボタン32を利用した旋回操作を併用して、作業者の意図に応じた走行を容易に実現することができ、操作性を向上することができる。
【0064】
なお、上記した実施形態では、コンバイン1の走行部2は、自動走行の実行中において、特に条件を設定せずにオーバーライドボタン32の操作を受け付ける例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。
【0065】
第1変形例によれば、走行部2は、所定の操作不可条件下では、オーバーライドボタン32の操作を受け付けないようにしてもよい。コンバイン1は、オーバーライドボタン32の操作不可条件として、ハンドル29の旋回操作を受け付けることが好ましくない自動走行区間を設定し、例えば、自動旋回走行区間や自動後進走行区間を設定するとよい。
【0066】
すなわち、自動走行制御部62がコンバイン1の自動前進走行を実行している場合には、走行部2は、ハンドル29の旋回操作を受け付ける一方、自動走行制御部62がコンバイン1の自動旋回走行又は自動後進走行を実行している場合には、走行部2は、ハンドル29の旋回操作を受け付けない。なお、コンバイン1は、走行経路作成部61が走行経路を作成する際に、オーバーライドボタン32の操作不可区間を走行経路に対して予め設定してもよく、作成された走行経路に対して操作不可区間を編集可能にしてもよい。
【0067】
第1変形例のコンバイン1の走行動作例について、図6のフローチャートを参照して説明する。第1変形例では、先ず、図6に示す走行動作例のステップS21~S24までの動作を図5に示す走行動作例のステップS1~S4までの動作と同様にして、コンバイン1が自動走行を行う。
【0068】
自動走行が実行されている間に作業者がオーバーライドボタン32を操作したとき(ステップS25:Yes)、自動走行制御部62がコンバイン1の自動前進走行を実行している場合(ステップS26:Yes)、走行部2は、作業者によるハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になる(ステップS27)。
【0069】
一方、自動走行制御部62がコンバイン1の自動旋回走行又は自動後進走行を実行している場合(ステップS26:No)、走行部2は、作業者によるハンドル29の旋回操作を受け付けない状態を維持する。
【0070】
自動走行の実行中に走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付けた後の動作(ステップS28~S35)は、図5に示す走行動作例のステップS7~S14までの動作と同様である。
【0071】
第1変形例によれば、自動走行においてハンドル29の旋回操作を受け付けることが好ましくない場面では、オーバーライドボタン32の操作を受け付けないので、旋回操作やオーバーライドボタン32の誤操作が抑制され、安全性を向上することができる。
【0072】
なお、上記した実施形態では、コンバイン1は、自動走行の進行方向が前進方向か後進方向かに拘わらず、オーバーライドボタン32の操作に応じて自動走行を停止した後の動作として、走行部2が自動走行の停止時の走行状態を維持したまま走行を継続して手動走行に移行する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。
【0073】
他の例として、本発明では、コンバイン1の自動走行制御部62及び走行部2は、自動走行の実行中において、オーバーライドボタン32が操作されたときのコンバイン1の進行方向に応じて異なる制御をコンバイン1の走行に適用してもよい。これにより、コンバイン1は、自動走行から手動走行へ切り替える場合に、進行方向に合わせた制御で走行することができる。
【0074】
例えば、第2変形例によれば、自動走行制御部62が自動前進走行をオーバーライドボタン32の操作に応じて停止した後、走行部2が自動前進走行の停止時の走行状態を維持したまま走行を継続して手動前進走行に移行する一方、進行方向に応じた制御として、自動走行制御部62が自動後進走行をオーバーライドボタン32の操作に応じて停止した後、自動走行制御部62及び走行部2は、制限付き手動走行を行う。制限付き手動走行では、走行部2は、コンバイン1の旋回動作をハンドル29の旋回操作に応じて行う一方、コンバイン1の変速動作や前後進の切替動作等を予め設定された制御パターンに従って行ってよい。制限付き手動走行を行うことを、操縦部9の表示部33や携帯端末53の表示部54に表示させることで作業者へ通知してもよく、あるいは操縦部9や携帯端末53に備わるスピーカやブザーによって警報を出力してもよい。
【0075】
ところで、自動後進走行は、主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置する状態で行われるので、自動後進走行を停止してそのまま手動走行に移行するとき、自動後進走行の停止時の後進速度と、主変速レバー30の位置に基づく前進設定速度とは一致していない。このとき、自動後進走行していたコンバイン1に対して直接的に前進設定速度を設定すると、後進速度から即座に前進設定速度に切り替わる際の加速度が急峻であり、後進走行から前進走行へと急に切り替えられるので、作業者に操作上の違和感を与えることになり、走行上の危険も生じる。また、通常の手動走行で後進走行中のコンバイン1に対して直接的に前進設定速度を設定した場合も同様に、後進速度から即座に前進設定速度に切り替わる際の加速度が急峻である。
【0076】
そこで、制限付き手動走行では、自動走行制御部62が自動後進走行をオーバーライドボタン32の操作に応じて停止した後、走行部2は、自動後進走行の停止時の走行状態から減速し、その後、走行部2は、後進速度がゼロになると手動前進走行を行って、前進速度が主変速レバー30の位置に基づく前進設定速度になるまで緩やかに加速し、前進設定速度に到達すると手動前進走行に完全に切り替える。このように、制限付き手動走行では、手動走行モードにおいて通常の手動走行で後進走行中のコンバイン1に対して直接的に前進設定速度を設定する場合の加速度よりも、コンバイン1の走行速度が後進速度から徐々に前進設定速度に切り替わるように加速度を緩やかに設定することで、作業者に与える操作上の違和感が軽減され、走行上の危険も抑制される。
【0077】
制限付き手動走行を行う場合の走行モードとして、コンバイン1は、自動後進走行を実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、走行モードを自動走行モードから制限付き手動走行モードへ切り替える。また、コンバイン1は、制限付き手動走行において手動前進走行を行って前進速度が前進設定速度に達すると、走行モードを制限付き手動走行モードから手動走行モードへ切り替える。
【0078】
第2変形例のコンバイン1の走行動作例について、図7のフローチャートを参照して説明する。第2変形例では、先ず、図7に示す走行動作例のステップS41~S47までの動作を図5に示す走行動作例のステップS1~S7までの動作と同様にして、コンバイン1が自動後進走行を行い、オーバーライドボタン32の操作に応じて、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になり、自動走行制御部62が走行設定に基づく自動後進走行を停止する。なお、ステップS47は、コンバイン1が走行モードを自動走行モードから制限付き手動走行モードに切り替える点で、ステップS7と異なる。
【0079】
走行部2は、制限付き手動走行に移行し(ステップS48)、自動後進走行の停止時の走行状態から減速する(ステップS49)。また、走行部2は、後進速度がゼロになると(ステップS50:Yes)、手動前進走行を行う(ステップS51)。更に、走行部2は、手動前進走行の前進速度を徐々に加速し、前進速度が主変速レバー30の位置に基づく前進設定速度になると(ステップS52:Yes)、コンバイン1は、制限付き手動走行を終了して、走行モードを制限付き手動走行モードから手動走行モードに切り替えて、完全に手動前進走行に切り替える(ステップS53)。
【0080】
上記したように、第2変形例によれば、コンバイン1において、自動走行制御部62は、コンバイン1の前後進の速度変更を指示する変速操作具である主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置する場合に自動走行を実行する。そして、自動前進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に基づいて、前進方向の走行を維持し、すなわち手動前進走行を行う。一方、進行方向に応じた制御として、自動後進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に基づいて、通常の手動走行の後進走行中のコンバイン1に対して直接的に前進設定速度を設定する場合の加速度よりも緩やかな加速度で前進方向への走行に切り替え、すなわち手動前進走行を行う。
【0081】
これにより、コンバイン1は、自動後進走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作された場合でも、緩やかな加速度によって後進速度から徐々に前進設定速度に切り替わるので後進から前進へと徐々に切り替えられることになり、作業者に与える操作上の違和感が軽減され、走行上の危険も抑制される。
【0082】
また、第3変形例によれば、進行方向に応じた制御として、自動走行制御部62が自動後進走行をオーバーライドボタン32の操作に応じて停止した後、走行部2は、手動前進走行へ切り替えることなく、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に拘わらず、自動後進走行の停止時の走行状態を維持したまま走行を継続して手動後進走行に移行してもよい。この場合、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されると、走行部2は、自動後進走行の停止時の走行状態を解除して通常の手動走行に移行し、その後、主変速レバー30の位置に応じた前進設定速度又は後進設定速度で手動走行を行う。
【0083】
なお、この場合の走行モードとして、コンバイン1は、自動前進走行を実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、走行モードを自動走行モードから手動走行モードへ切り替えるとよい。
【0084】
第3変形例のコンバイン1の走行動作例について、図8のフローチャートを参照して説明する。第3変形例では、先ず、図8に示す走行動作例のステップS61~S67までの動作を図5に示す走行動作例のステップS1~S7までの動作と同様にして、コンバイン1が自動後進走行を行い、オーバーライドボタン32の操作に応じて、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になり、自動走行制御部62が走行設定に基づく自動後進走行を停止する。
【0085】
コンバイン1は、走行モードを自動走行モードから手動走行モードに切り替えて、走行部2は、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に拘わらず、自動後進走行の停止時の走行状態を維持したまま手動後進走行に移行する(ステップS68)。また、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されると(ステップS69:Yes)、コンバイン1は、手動後進走行を終了して、主変速レバー30の位置に応じて走行する手動走行モードに切り替えて、走行部2は、自動後進走行の停止時の走行状態を解除して完全に手動走行に切り替える(ステップS70)。
【0086】
上記したように、第3変形例によれば、コンバイン1において、自動走行制御部62は、コンバイン1の前後進の速度変更を指示する主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置する場合に自動走行を実行する。そして、自動前進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に基づいて前進方向の走行を維持し、すなわち手動前進走行を行う。一方、進行方向に応じた制御として、自動後進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に拘わらず、後進方向の走行を維持し、すなわち手動後進走行を行う。
【0087】
これにより、コンバイン1は、自動後進走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作された場合でも、主変速レバー30の位置に拘わらず、後進方向の走行を維持するので、操作性を向上することができ、また、後進から前進へと急に切り替えられることがなく、作業者に与える操作上の違和感が軽減され、走行上の危険も抑制される。
【0088】
また、第4変形例によれば、進行方向に応じた制御として、自動走行制御部62が自動後進走行をオーバーライドボタン32の操作に応じて停止したとき、走行部2は、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に拘わらず、コンバイン1の走行を停止して停車させてもよい。この場合、走行部2は、自動後進走行を停止してから後進速度がゼロになるまで緩やかに減速する。
【0089】
また、走行部2は、コンバイン1の走行を停止した後、再度、オーバーライドボタン32が操作されたとき、手動走行に切り替えて、コンバイン1の走行速度が主変速レバー30の位置に応じた前進設定速度又は後進設定速度になるまで緩やかに加速する。あるいは、走行部2は、コンバイン1の走行を停止した後、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されたとき、手動走行に切り替え、その後、主変速レバー30の位置に応じた前進設定速度又は後進設定速度で走行させる。
【0090】
なお、この場合の走行モードとして、コンバイン1は、自動前進走行を実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、走行モードを自動走行モードから手動走行モードへ切り替える。
【0091】
第4変形例のコンバイン1の走行動作例について、図9のフローチャートを参照して説明する。第4変形例では、先ず、図9に示す走行動作例のステップS81~S86までの動作を図7に示す走行動作例のステップS41~S45、S47までの動作と同様にして、コンバイン1が自動後進走行を行い、オーバーライドボタン32の操作に応じて、自動走行制御部62が走行設定に基づく自動後進走行を停止する。なお、第4変形例では、オーバーライドボタン32が操作されたとき、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付けない状態を維持してもよいが、あるいは、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になってもよい。
【0092】
このとき、走行部2は、前進速度変更領域35における主変速レバー30の位置に拘わらず、コンバイン1の走行を停止して停車させる(ステップS87)。その後、再度、オーバーライドボタン32が操作され、あるいは、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されると(ステップS88:Yes)、コンバイン1は、走行モードを主変速レバー30の位置に応じて走行する手動走行モードに切り替えてハンドル29の旋回操作を受け付ける状態とし、走行部2は、完全に手動走行に切り替える(ステップS89)。
【0093】
上記したように、第4変形例によれば、コンバイン1において、前進自動走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態で、前進方向の走行を維持し、すなわち手動前進走行を行う。一方、進行方向に応じた制御として、自動後進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、自動走行制御部62は、コンバイン1の走行を停止して停車させる。
【0094】
これにより、コンバイン1は、自動後進走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、コンバイン1を停車させるので、後進から前進へと急に切り替えられることがなく、走行上の危険が抑制され、安全性を確保することができる。
【0095】
あるいは、第4変形例によれば、コンバイン1において、自動走行制御部62は、コンバイン1の前後進の速度変更を指示する主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置する場合に自動走行を実行する。そして、進行方向に応じた制御として、自動後進走行の実行中においてオーバーライドボタン32が操作されると、自動走行制御部62は、コンバイン1の走行を停止し、主変速レバー30がニュートラル位置34に変速操作されると、走行部2は、ハンドル29の旋回操作を受け付け、すなわち手動走行を行う。
【0096】
これにより、コンバイン1は、自動後進走行の実行中にオーバーライドボタン32が操作されると、コンバイン1を停車させるので、安全性を確保することができる。更に、主変速レバー30のニュートラル位置34への操作に応じて手動走行が行われるので、作業者の意思に合わせて手動走行を行うことができ、操作性を向上することができる。
【0097】
また、上記した実施形態では、コンバイン1は、自動走行の実行中において、オーバーライドボタン32が操作されると走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。他の例では、自動後進走行の実行中において主変速レバー30が前進速度変更領域35内で操作されると、自動走行制御部62が自動後進走行を停止し、走行部2がハンドル29の旋回操作を受け付ける状態になるようにしてもよい。このように主変速レバー30の操作に応じて自動後進走行を停止した後、自動走行制御部62及び走行部2は、制限付き手動走行を行うようにしてもよい。
【0098】
この場合の制限付き手動走行では、上記と同様に、自動走行制御部62が自動後進走行を主変速レバー30の変速操作に応じて停止した後、走行部2は、自動後進走行の停止時の走行状態を維持したまま手動後進走行を継続して後進速度がゼロになるまで緩やかに減速する。その後、走行部2は、手動前進走行に切り替えて前進速度が主変速レバー30の位置に基づく前進設定速度になるまで緩やかに加速する。
【0099】
あるいは、主変速レバー30の操作に応じて自動後進走行を停止した後、走行部2は、主変速レバー30の位置に拘わらず、自動走行の停止時の走行状態を維持したまま走行を継続して手動後進走行に移行するようにしてもよい。この場合、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されると、走行部2は、自動後進走行の停止時の走行状態を解除して通常の手動走行に移行し、その後、主変速レバー30の位置に応じた前進設定速度又は後進設定速度で手動走行を行う。
【0100】
若しくは、主変速レバー30の操作に応じて自動後進走行を停止した後、走行部2は、主変速レバー30の位置に拘わらず、コンバイン1の走行を停止して停車させてもよい。この場合、走行部2は、自動後進走行を停止してから後進速度がゼロになるまで緩やかに減速する。また、走行部2は、コンバイン1の走行を停止した後、主変速レバー30がニュートラル位置34に操作されたとき、手動走行に切り替え、その後、主変速レバー30の位置に応じた前進設定速度又は後進設定速度で走行させる。
【0101】
上記した実施形態では、コンバイン1は、オーバーライドボタン32の操作を受け付けない操作不可条件を設定する例を説明したが、他の例では、オーバーライドボタン32の操作を受け付ける操作可能条件を設定してもよい。例えば、オーバーライドボタン32の操作可能条件として、コンバイン1が自動走行中に一時停止していることを条件としてもよい。この場合、コンバイン1は、操縦部9や携帯端末53に停車ボタン56を備えて、自動走行制御部62は、停車ボタン56の操作に応じてコンバイン1の自動走行を一時停止する。そして、コンバイン1の自動走行が一時停止している間、走行部2は、オーバーライドボタン32の操作を受け付ける。
【0102】
上記した実施形態では、コンバイン1は、オーバーライドボタン32の操作に応じて自動走行から手動走行に移行し、再度オーバーライドボタン32が操作されたときに、コンバイン1から走行経路までの離間距離が復帰距離を超える場合や、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度を超える場合には、自動走行制御部62は、走行経路に基づく自動走行を再開せず、走行部2は、コンバイン1の手動走行を継続する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、コンバイン1から走行経路までの離間距離が復帰距離を超える場合や、走行経路の向きに対してコンバイン1の機体の向きが所定角度を超える場合でも、コンバイン1は、オーバーライドボタン32の再操作や操縦部9や携帯端末53に備わる復帰ボタン(図示せず)の操作に応じて、コンバイン1から走行経路までの自動復帰経路を作成し、自動走行制御部62は、自動復帰経路に従ってコンバイン1を走行経路まで復帰させる自動復帰走行を実行するとよい。
【0103】
上記した実施形態では、コンバイン1は、走行経路に従って自動走行を行う場合、主変速レバー30が前進速度変更領域35に位置することを前提としていて、自動後進走行では、主変速レバー30の前後方向の位置に拘わらず、定速の後進設定速度を走行部2に設定する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、自動走行制御部62が走行経路に従ってコンバイン1の自動前進走行を実行している場合に、主変速レバー30が前進速度変更領域35から後進速度変更領域36へと操作されると、自動走行制御部62は、後進速度変更領域36における主変速レバー30の位置に応じた後進設定速度で、走行経路に従ってコンバイン1の自動後進走行を実行するようにしてもよい。この場合、自動走行制御部62は、後進速度変更領域36における主変速レバー30の位置に応じて、後進設定速度を加減速して走行部2に設定する。
【0104】
上記した実施形態では、旋回操作具であるハンドル29の旋回操作を、コンバイン1の自動走行の実行中に許可するための旋回操作許可部としてオーバーライドボタン32を押しボタンで構成する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、旋回操作許可部は、ハンドル29と一体的に設けられるレバーで構成され、作業者がレバーをハンドル29と共に握ることによって旋回操作許可部が押された状態になってもよい。
【0105】
なお、上記した実施形態では、コンバイン1の制御装置50が圃場情報設定部60、走行経路作成部61、自動走行制御部62及び自動刈取制御部63として機能する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、携帯端末53が圃場情報設定部60、走行経路作成部61、自動走行制御部62及び自動刈取制御部63として機能するように構成されてもよい。換言すれば、本発明に係る自動運転システムは、コンバイン1の制御装置50及び携帯端末53の少なくとも一つを適用して、圃場情報設定部60、走行経路作成部61、自動走行制御部62及び自動刈取制御部63として機能し、走行部2が、自動走行の実行中において、通常は旋回操作を受け付けないが、オーバーライドボタン32が操作されると旋回操作を受け付けるようにすればよい。
【0106】
上記した実施形態では、本発明の作業車両が、自脱型のコンバイン1で構成される例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、本発明の作業車両は、普通型のコンバイン、トラクタ、乗用草刈機、乗用田植機、運搬車、除雪車、ホイールローダ等の乗用作業車両や、無人草刈機などの無人作業車両で構成されてもよい。
【0107】
なお、本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う自動運転方法、作業車両及び自動運転システムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1 コンバイン(作業車両)
2 走行部
9 操縦部
12 動力伝達機構
29 ハンドル(旋回操作具)
30 主変速レバー(変速操作具)
32 オーバーライドボタン(旋回操作許可部)
50 制御装置
51 記憶部
53 携帯端末
60 圃場情報設定部
61 走行経路作成部
62 自動走行制御部
63 自動刈取制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9