(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】スペーサ、孔あき鋼板床の敷設方法
(51)【国際特許分類】
E04F 15/02 20060101AFI20250116BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
E04F15/02 E
E04B5/02 J
(21)【出願番号】P 2021124686
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【氏名又は名称】藤田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 友一
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-220927(JP,A)
【文献】特開2018-199904(JP,A)
【文献】実公昭62-006194(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00 - 15/22
E04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、
隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と一対の側面部材とを有する略コの字状の間隔保持部と、
前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に
水密材を有さずに配置される板状の係止部と、
を具備することを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、
隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と下面部材と一対の側面部材とを有する略ロの字状の間隔保持部と、
前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に
水密材を有さずに配置される板状の係止部と、
を具備することを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、
隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と一対の側面部材とを有する略コの字状の間隔保持部と、
前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に配置される板状の係止部と、
を具備し、
前記係止部は、その両端部に、下方に折り曲げられた爪部を有し、
前記爪部が、隣り合う孔あき鋼板床の孔に差し込まれることを特徴とす
るスペーサ。
【請求項4】
隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、
隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と下面部材と一対の側面部材とを有する略ロの字状の間隔保持部と、
前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に配置される板状の係止部と、
を具備し、
前記係止部は、その両端部に、下方に折り曲げられた爪部を有し、
前記爪部が、隣り合う孔あき鋼板床の孔に差し込まれることを特徴とす
るスペーサ。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれかに記載のスペーサを用いた孔あき鋼板床の敷設方法であって、
既設の孔あき鋼板床から隙間を空けて新たな孔あき鋼板床を配置する工程と、
前記間隔保持部が前記隙間に挿入され、前記係止部の前記張出部分が前記既設の孔あき鋼板床と前記新たな孔あき鋼板床の上に配置されるように、複数の前記スペーサを前記隙間の延伸方向に間隔を空けて設ける工程と、
前記新たな孔あき鋼板床を前記既設の孔あき鋼板床側に押し付け、前記新たな孔あき鋼板床の端部と前記既設の孔あき鋼板床の端部を前記間隔保持部に当接させる工程と、
を有することを特徴とする孔あき鋼板床の敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔あき鋼板床同士の間隔を保持するスペーサ等に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋上階に設備スペースを設ける場合などでは、その床部を、特許文献1、2に示すように複数枚の孔あき鋼板床を敷き詰めて構成することがある。
【0003】
特許文献1では、隣り合う孔あき鋼板床同士を連結し、孔あき鋼板床の間に段差が発生するのを防ぐための連結金具として、隣り合う孔あき鋼板床の間に跨るように配置され、これらの孔あき鋼板床に係合する上部部材と下部部材を、隣り合う孔あき鋼板床の間に通したボルトで連結したものが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、孔あき鋼板床を梁の上に固定するための固定金具として、隣り合う孔あき鋼板床の間に跨るように配置され、これらの孔あき鋼板床に係合する上金具と、梁のフランジに係合する下金具とを、隣り合う孔あき鋼板床の間に通したボルトにより連結し、隣り合う孔あき鋼板床同士を連結すると同時にこれらの孔あき鋼板床を梁に固定するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-194805号公報
【文献】特開2008-144553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人がその上を通行する孔あき鋼板床は、労働安全衛生規則などの基準を満たすように、隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間を30mm以下として敷設する必要がある。隙間が大き過ぎると、労務者が足を躓いたり、足を踏み外したりして危険なためである。また孔あき鋼板床の施工においては、隙間を(30mm以下の)一定幅に管理して敷設するというニーズがある。場所によって隙間が10mmだったり30mmだったりすると見栄え上も好ましくなく、材料や労務等の必要工数の把握も正しく行えないためである。
【0007】
ただし、隙間を一定幅に管理して孔あき鋼板床を敷設するのは、孔あき鋼板床を隙間なく敷き詰めるよりも難しく、施工面を考慮すると孔あき鋼板床の間にスペーサが必要となる。この点、特許文献1、2の金具は、孔あき鋼板床の間にボルト等が配置される点でスペーサとして捉えることもできるが、複雑な構成であり、製作、取り付けに手間を要する。
【0008】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成であり、製作、取り付けも容易な孔あき鋼板床のスペーサ等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と一対の側面部材とを有する略コの字状の間隔保持部と、前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に水密材を有さずに配置される板状の係止部と、を具備することを特徴とするスペーサである。
第2の発明は、隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と下面部材と一対の側面部材とを有する略ロの字状の間隔保持部と、前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に水密材を有さずに配置される板状の係止部と、を具備することを特徴とするスペーサである。
【0010】
本発明のスペーサは、板状の係止部が、略コの字状または略ロの字状の間隔保持部の上面部材に固定された簡易な構成なので、入手しやすい汎用品を用いて容易に製作できる。また、間隔保持部を隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入し、係止部の張出部分をこれらの孔あき鋼板床の上に配置することにより、孔あき鋼板床への取り付けも容易に行うことができる。
【0011】
第3の発明は、隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と一対の側面部材とを有する略コの字状の間隔保持部と、前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に配置される板状の係止部と、を具備し、前記係止部は、その両端部に、下方に折り曲げられた爪部を有し、前記爪部が、隣り合う孔あき鋼板床の孔に差し込まれることを特徴とするスペーサである。
第4の発明は、隣り合う孔あき鋼板床の間隔を保持するスペーサであって、隣り合う孔あき鋼板床の間の隙間に挿入される、上面部材と下面部材と一対の側面部材とを有する略ロの字状の間隔保持部と、前記上面部材に固定されて前記間隔保持部の両側に張り出し、その張出部分が隣り合う孔あき鋼板床の上に配置される板状の係止部と、を具備し、前記係止部は、その両端部に、下方に折り曲げられた爪部を有し、前記爪部が、隣り合う孔あき鋼板床の孔に差し込まれることを特徴とするスペーサである。
これにより、スペーサの取り付けを簡単に行うことができる。また、係止部を孔あき鋼
板床にビス止めする場合のように、係止部に反り等が発生することもない。
【0012】
第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明のスペーサを用いた孔あき鋼板床の敷設方法であって、既設の孔あき鋼板床から隙間を空けて新たな孔あき鋼板床を配置する工程と、前記間隔保持部が前記隙間に挿入され、前記係止部の前記張出部分が前記既設の孔あき鋼板床と前記新たな孔あき鋼板床の上に配置されるように、複数の前記スペーサを前記隙間の延伸方向に間隔を空けて設ける工程と、前記新たな孔あき鋼板床を前記既設の孔あき鋼板床側に押し付け、前記新たな孔あき鋼板床の端部と前記既設の孔あき鋼板床の端部を前記間隔保持部に当接させる工程と、を有することを特徴とする孔あき鋼板床の敷設方法である。
これにより、孔あき鋼板床をスペーサを用いて容易に敷設し、孔あき鋼板床の隙間の幅を一定値に保持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成であり、製作、取り付けも容易な孔あき鋼板床のスペーサ等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】スペーサ3を孔あき鋼板床1に取り付けた状態を示す図。
【
図3】スペーサ3を用いた孔あき鋼板床1の敷設方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るスペーサ3を示す図である。スペーサ3は、隣り合う孔あき鋼板床の間隔を一定値に保持するために用いられ、係止部31に間隔保持部32を固定して構成される。
【0017】
係止部31は板状の鋼製部材であり、間隔保持部32の両側に張り出すように設けられる。係止部31の間隔保持部32からの張出部分にはビス穴33が設けられる。係止部31には、例えば鋼板などが用いられる。
【0018】
間隔保持部32は、断面を略コの字状とした鋼製部材であり、上面部材321とその両側に配置された一対の側面部材322を有する。前記の係止部31は、溶接部34によって間隔保持部32の上面部材321に固定される。間隔保持部32には、例えばチャンネル材などの鋼材が用いられる。
【0019】
図2(a)はスペーサ3を孔あき鋼板床1に取り付けた状態を示す図であり、
図2(b)は
図2(a)を手前側から見た図である。
【0020】
孔あき鋼板床1は、孔13を有する鋼板製の床版であり、
図2(a)に示すように平板状の床版部11を有する。床版部11の平面は長方形状であり、短辺方向の両端部12が下向きに折り曲げられる。その折曲部分の下端は、さらに内側に折り返される。
【0021】
床版部11には孔13が形成される。孔13は床版部11の短辺方向に延びる長孔であり、床版部11の短辺方向の中央部において、床版部11の長辺方向に間隔を空けて複数設けられる。
【0022】
孔あき鋼板床1は、図示しない梁等の上に複数並べて敷設される。これらの孔あき鋼板床1は、床版部11の短辺方向において隣り合い、隣り合う孔あき鋼板床1の間には隙間5が形成される。スペーサ3は、隣り合う孔あき鋼板床1に取り付けられ、間隔保持部32によって隙間5の幅を一定に保つ。この幅は労務者の安全のため30mm以下として、躓きや踏み外し等を防ぐ。
【0023】
スペーサ3の取り付け時には、間隔保持部32を上記の隙間5に挿入し、間隔保持部32から張り出す係止部31の張出部分を隣り合う孔あき鋼板床1の床版部11の上に配置して、その張出部分を床版部11に固定する。本実施形態では、前記のビス穴33(
図1参照)にねじ込んだビス4により、係止部31の張出部分が孔あき鋼板床1の床版部11に固定される。スペーサ3は、隙間5の延伸方向に間隔を空けて複数設けられる。
【0024】
図3は、スペーサ3を用いた孔あき鋼板床1の敷設方法を示す図である。本実施形態では、
図3(a)の矢印aに示すように、既設の孔あき鋼板床1の隣に、適当な幅の隙間5を空けて孔あき鋼板床1(新たな孔あき鋼板床)を配置する。そして、
図3(b)に示すように、これらの孔あき鋼板床1の隙間5にスペーサ3の間隔保持部32を挿入し、間隔保持部32から張り出す係止部31の張出部分を両孔あき鋼板床1の床版部11の上に配置する。こうして複数のスペーサ3が隙間5の延伸方向(
図3(b)の紙面法線方向に対応する)に間隔を空けて設けられる。なお、スペーサ3は工場や施工現場において事前に製作される。
【0025】
次に、
図3(b)の矢印bに示すように、後行配置した孔あき鋼板床1(新たな孔あき鋼板床)を、既設の孔あき鋼板床1側に押し付ける。これにより、
図3(c)に示すように両孔あき鋼板床1の端部12が間隔保持部32に当接し、隙間5の幅が、スペーサ3の間隔保持部32の幅となる。その後、
図3(d)に示すように、係止部31の張出部分をビス4により床版部11に固定する。
【0026】
このように、本実施形態のスペーサ3は、板状の係止部31が、略コの字状の間隔保持部32の上面部材321に固定された簡易な構成なので、鋼板やチャンネル材などの入手しやすい汎用品を用いて容易に製作できる。また、間隔保持部32を隣り合う孔あき鋼板床1の間の隙間5に挿入し、係止部31の張出部分をこれらの孔あき鋼板床1の上に配置することにより、孔あき鋼板床1への取り付けも容易に行うことができる。
【0027】
また
図3で説明した敷設方法により孔あき鋼板床1をスペーサ3を用いて容易に敷設し、孔あき鋼板床1の隙間5の幅を一定値に保持することができる。
【0028】
しかしながら、本発明が以上の実施形態に限定されることはない。例えば本実施形態では係止部31と間隔保持部32とを溶接により固定したが、係止部31と間隔保持部32とは相対的に移動しないように固定されればよく、固定方法は特に限定されない。例えば
図4(a)のスペーサ3aに示すように、1又は複数のビス35を用いて係止部31を間隔保持部32の上面部材321に固定してもよい。これにより係止部31の固定を容易に行うことができ、製作にかかるコストを抑えることができる。
【0029】
またスペーサ3の形状、構成等も特に限定されず、例えば
図4(b)のスペーサ3bのように、間隔保持部32bの断面を略ロの字状としてもよい。間隔保持部32bは、上面部材321と下面部材323と一対の側面部材322とを有し、上面部材321と下面部材323とが側面部材322により上下に接続される。間隔保持部32bには入手しやすい角形鋼管などの鋼材を用いることができ、前記と同様の効果が得られる。
【0030】
また
図5(a)のスペーサ3cに示すように、係止部31cを細幅のものとし、その両端部を下方に折り曲げて爪部36を設けてもよい。スペーサ3cの取り付け時には、
図5(b)に示すように、間隔保持部32を隣り合う孔あき鋼板床1の間の隙間5に挿入し、間隔保持部32から張り出す係止部31cの張出部分を、隣り合う孔あき鋼板床1の床版部11の上に配置し、係止部31cの両端部の爪部36を、両孔あき鋼板床1の孔13にそれぞれ差し込む。これにより、スペーサ3cの取り付けを簡単に行うことができる。
【0031】
図2の例のように、係止部31の固定にビス4を用いる場合、ビス4を強く締め過ぎると、係止部31の張出部分に上向きの反り(
図2(b)の鎖線A参照)が生じて作業者が躓く恐れがある。これを避けるためにはビス4の締め過ぎを防ぐことが有効であるが、
図5(b)のように係止部31cを爪部36によって孔あき鋼板床1に取り付けることも有効であり、これによっても上記の反りが発生せず作業者の躓きを防止でき、また間隔保持機能も十分に発揮できる。
【0032】
なお、
図5の例では係止部31cの幅を孔13(長孔)の幅以下とし、係止部31cの両端部に1つずつ爪部36を設けることで、スペーサ3cをミニマムな構成としているが、係止部31cの幅を大きくして係止部31cの両端部のそれぞれに複数の爪部36を設け、これらの爪部36を複数の孔13に差し込むようにしてもよい。また
図5の例では間隔保持部32が係止部31cの幅方向の両側に突出しているが、間隔保持部32を短尺のものとし、係止部31cの幅内に収まるようにしてもよい。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0034】
1:孔あき鋼板床
3、3a、3b、3c:スペーサ
4、35:ビス
5:隙間
13:孔
31、31c:係止部
32、32b:間隔保持部
33:ビス穴
34:溶接部
36:爪部
321:上面部材
322:側面部材
323:下面部材