(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】位相同期回路及びセンシング装置
(51)【国際特許分類】
H03L 7/081 20060101AFI20250116BHJP
H03L 7/06 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
H03L7/081
H03L7/06 210
(21)【出願番号】P 2021172484
(22)【出願日】2021-10-21
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】板倉 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】丸藤 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】小野 大騎
(72)【発明者】
【氏名】崔 明秀
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-281661(JP,A)
【文献】特開2016-220157(JP,A)
【文献】特開2008-256582(JP,A)
【文献】国際公開第2009/037499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を備え、
前記共振素子は、前記環境情報に応じた環境情報係数により前記共振周波数が変化し、
前記発振器は、前記発振器に固有の周波数変換係数に前記制御信号を乗じることにより、出力信号の周波数を設定し、
前記制御信号補正部は、時間に応じて変化する前記環境情報と、前記環境情報係数とを乗じた値を前記周波数変換係数で割った値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する、
位相同期回路。
【請求項2】
制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を備え、
前記発振器は、第1発振信号と、前記第1発振信号の位相を90度ずらした第2発振信号と、前記第2発振信号の位相を90度ずらした第3発振信号とを出力し、
前記共振素子は、前記第1発振信号の位相を90度ずらした信号を出力し、
前記位相検出器は、
前記第2発振信号と前記共振素子の出力信号とを乗算するとともに、前記第3発振信号と前記共振素子の出力信号とを乗算する乗算器と、
前記第2発振信号と前記共振素子の出力信号とを乗算した信号に含まれる低周波成分の第1信号と、前記第3発振信号と前記共振素子の出力信号とを乗算した信号に含まれる低周波成分の第2信号と、を抽出するフィルタと、
前記第1信号と前記第2信号とに基づいて前記位相誤差を計算する位相差演算部と、を有する、
位相同期回路。
【請求項3】
前記共振素子は、前記環境情報に応じた環境情報係数により前記共振周波数が変化し、 前記制御信号補正部は、時間に応じて変化する前記環境情報と、前記環境
情報係数とを乗じた値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する、
請求項2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
前記環境情報は、時間に応じて変化する温度情報を含み、
前記環境情報係数は、前記共振素子に固有の温度係数を含み、
前記共振素子は、前記温度情報及び前記温度係数により前記共振周波数が変化し、
前記制御信号補正部は、前記温度情報と前記温度情報に固有の前記環境
情報係数とを乗じた値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する、
請求項
1又は3に記載の位相同期回路。
【請求項5】
制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を備え、
前記共振素子は、前記環境情報に応じた環境情報係数により前記共振周波数が変化し、 前記制御信号補正部は、時間に応じて変化する前記環境情報と、前記環境情報係数とを乗じた値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正し、
前記環境情報は、加速度情報を含み、
前記環境情報係数は、前記共振素子に固有の加速度係数を含み、
前記共振素子は、前記加速度係数により前記共振周波数が変化し、
前記制御信号補正部は、前記加速度情報と前記加速度情報に固有の前記環境
情報係数とを乗じた値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する、
位相同期回路。
【請求項6】
前記発振器は、前記発振器に固有の周波数変換係数に前記制御信号を乗じることにより、出力信号の周波数を設定し、
前記制御信号補正部は、時間に応じて変化する前記環境情報と、前記環境
情報係数とを乗じた値を前記周波数変換係数で割った値に基づく前記補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する、
請求項
3乃至5のいずれか一項に記載の位相同期回路。
【請求項7】
前記発振器は、第1発振信号と、前記第1発振信号と同じ周波数を持ち前記第1発振信号とは90度位相がずれた第2発振信号とを出力し、
前記共振素子は、前記第1発振信号の位相を90度ずらした信号を出力し、
前記位相検出器は、前記共振素子の出力信号と前記第2発振信号との前記位相誤差を検出する、
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の位相同期回路。
【請求項8】
前記発振器は、前記制御信号に応じた周波数を持つ発振信号を出力し、
前記共振素子は、前記発振信号の位相を90度ずらした信号を出力し、
前記位相検出器は、
前記発振信号と前記共振素子の出力信号とを乗算する乗算器と、
前記乗算器の乗算結果信号に含まれる低周波成分の信号を前記位相誤差として抽出するフィルタと、を有する、
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の位相同期回路。
【請求項9】
前記共振素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振素子であり、
前記MEMS共振素子は、二次元方向に前記共振周波数で振動する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の位相同期回路。
【請求項10】
前記MEMS共振素子は、第1方向の変位信号と、第2方向の変位信号とを出力し、
前記位相検出器は、前記発振器の出力信号と前記第1方向の変位信号とを乗じた信号の低周波成分を前記位相誤差として検出するとともに、前記発振器の出力信号と前記第2方向の変位信号とを乗じた信号の低周波成分を前記位相誤差として検出する、
請求項9に記載の位相同期回路。
【請求項11】
前記発振器、前記位相検出器、前記帰還制御部、及び前記制御信号補正部は、デジタル回路であり、
前記共振素子は、アナログ回路であり、
前記発振器の出力信号、前記帰還制御部の出力信号、前記環境情報取得部が取得する前記環境情報、及び前記制御信号補正部が生成する前記制御信号は、デジタル信号である、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の位相同期回路。
【請求項12】
前記発振器から出力された第1デジタル信号を、前記共振素子に入力するためのアナログの発振信号に変換するDA変換器と、
前記共振素子の出力信号を第2デジタル信号に変換するAD変換器と、をさらに備え、 前記位相検出器は、前記第1デジタル信号と前記第2デジタル信号とに基づいて、前記位相誤差を表す第3デジタル信号を生成し、
前記帰還制御部は、前記第3デジタル信号に応じた比例制御及び積分制御を行って第4デジタル信号を生成し、
前記制御信号補正部は、前記補正項に対応する第5デジタル信号と、前記第4デジタル信号とを加算して、前記制御信号に対応する第6デジタル信号を生成し、
前記発振器は、前記第6デジタル信号に応じて前記第1デジタル信号の周波数を可変させる、
請求項11に記載の位相同期回路。
【請求項13】
前記発振器は、環境情報に依存せずに、前記第6デジタル信号に応じて前記第1デジタル信号の周波数を可変させる、
請求項12に記載の位相同期回路。
【請求項14】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の位相同期回路と、
前記共振素子の出力信号、前記発振器の出力信号、及び前記制御信号の少なくとも一つに基づいて物理量を演算する物理量演算部と、を備える、
センシング装置。
【請求項15】
前記共振素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振素子であり、
前記MEMS共振素子は、二次元方向に前記共振周波数で振動して、第1方向の変位信号と、第2方向の変位信号とを出力し、
前記位相検出器は、前記発振器の出力信号と前記第1方向の変位信号とを乗じた信号の低周波成分を前記位相誤差として検出するとともに、前記発振器の出力信号と前記第2方向の変位信号とを乗じた信号の低周波成分を前記位相誤差として検出し、
前記物理量演算部は、前記位相検出器で検出された前記位相誤差に基づいて前記物理量を演算する、
請求項14に記載のセンシング装置。
【請求項16】
制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を有する位相同期回路と、
前記共振素子の出力信号、前記発振器の出力信号、及び前記制御信号の少なくとも一つに基づいて物理量を演算する物理量演算部と、
前記発振器の出力信号の周波数を検出する周波数検出器と、
前記周波数検出器で検出された周波数と、加速度がゼロのときの基準周波数との周波数誤差を検出する周波数誤差検出器と、を備え、
前記物理量演算部は、前記周波数誤差検出器で検出された周波数誤差に基づいて、加速度を含む前記物理量を検出する、
センシング装置。
【請求項17】
制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を有する位相同期回路と、
前記共振素子の出力信号、前記発振器の出力信号、及び前記制御信号の少なくとも一つに基づいて物理量を演算する物理量演算部と、
前記発振器に固有の周波数変換係数を前記制御信号に乗じる乗算器と、
前記乗算器の出力信号の周波数と、加速度がゼロのときの基準周波数との周波数誤差を検出する周波数誤差検出器と、を備え、
前記物理量演算部は、前記周波数誤差検出器で検出された周波数誤差に基づいて、加速度を含む前記物理量を検出する、
センシング装置。
【請求項18】
前記物理量演算部は、前記周波数誤差検出器で検出された周波数誤差を、前記共振素子に固有の加速度係数で割ることにより、前記加速度を求める、
請求項16又は17に記載のセンシング装置。
【請求項19】
前記発振器、前記位相検出器、前記帰還制御部、前記制御信号補正部、及び前記物理量演算部は、デジタル回路であり、
前記共振素子は、アナログ回路であり、
前記発振器の出力信号、前記帰還制御部の出力信号、前記環境情報取得部が取得する前記環境情報、前記制御信号補正部が生成する前記制御信号、及び前記物理量演算部が演算する前記物理量は、デジタル信号である、
請求項14乃至18のいずれか一項に記載のセンシング装置。
【請求項20】
前記発振器から出力された第1デジタル信号を、前記共振素子に入力するためのアナログの発振信号に変換するDA変換器と、
前記共振素子の出力信号を第2デジタル信号に変換するAD変換器と、をさらに備え、 前記位相検出器は、前記第1デジタル信号と前記第2デジタル信号とに基づいて、前記位相誤差を表す第3デジタル信号を生成し、
前記帰還制御部は、前記第3デジタル信号に応じた比例制御及び積分制御を行って第4デジタル信号を生成し、
前記制御信号補正部は、前記補正項に対応する第5デジタル信号と、前記第4デジタル信号とを加算して、前記制御信号に対応する第6デジタル信号を生成し、
前記発振器は、前記第6デジタル信号に応じて前記第1デジタル信号の周波数を可変させ、
前記物理量演算部は、前記第1デジタル信号、前記第2デジタル信号、及び前記第6デジタル信号の少なくとも一つに基づいて前記物理量を演算する、
請求項19に記載のセンシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、位相同期回路及びセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温度等の環境条件により共振素子の共振周波数が変化しても、周波数可変発振器の発振周波数が変化しないように帰還制御を行う位相同期回路が知られている。
【0003】
しかしながら、温度などの環境条件による共振周波数の変化に追従させて、発振周波数を精度よく変化させるのは現実には困難であり、発振周波数と共振周波数の周波数誤差が生じてしまう。このため、この種の位相同期回路を用いた物理量検出センサでは、発振周波数と共振周波数との周波数誤差により、物理量の検出精度が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-193052号公報
【文献】米国特許 4,951,508
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の一実施形態では、温度等の環境条件の変化により共振周波数が変化しても、追従性よく発振周波数を変化させることができる位相同期回路及びセンシング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、制御信号に応じて周波数を可変させる発振器と、
所定の共振周波数で共振するとともに、前記共振周波数では前記発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する共振素子と、
前記共振素子の出力信号と前記発振器の出力信号との位相誤差を検出する位相検出器と、
前記位相誤差に応じた比例制御及び積分制御により、前記発振器の出力信号の周波数を制御する帰還制御部と、
環境情報を取得する環境情報取得部と、
前記環境情報に応じた補正項を前記帰還制御部の出力信号に加算して前記制御信号を補正する制御信号補正部と、を備える、位相同期回路が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る位相同期回路のブロック図。
【
図3】
図1の第1変形例による位相同期回路のブロック図。
【
図4】
図1の第2変形例による位相同期回路のブロック図。
【
図5】
図1の第3変形例による位相同期回路のブロック図。
【
図6】
図1の第4変形例による位相同期回路のブロック図。
【
図7】
図1の第5変形例による位相同期回路のブロック図。
【
図8】第2の実施形態による位相同期回路を備えたセンシング装置のブロック図。
【
図9】
図8の一具体例による位相同期回路を有する角度センサのブロック図。
【
図12】
図8の一変形例によるセンシング装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、位相同期回路及びセンシング装置の実施形態について説明する。以下では、位相同期回路及びセンシング装置の主要な構成部分を中心に説明するが、位相同期回路及びセンシング装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る位相同期回路1のブロック図、
図2は一比較例に係る位相同期回路100のブロック図である。まず、
図2の一比較例に係る位相同期回路100を用いて、位相同期回路1の動作原理を説明する。
【0010】
図2の位相同期回路100は、周波数可変発振器2と、共振素子3と、位相検出器4と、帰還制御部5とを備えている。
【0011】
周波数可変発振器2は、周波数を可変可能な発振信号を生成する。より具体的には、周波数可変発振器2は、帰還制御部5から出力された制御信号に基づいて、発振信号の周波数を制御する。周波数可変発振器2は、制御信号に周波数変換係数Kを乗じた周波数の発振信号を生成する。
【0012】
図2では、周波数可変発振器2の出力信号(発振信号)の位相をラプラス変換した位相信号をθ(s)と表記している。周波数可変発振器2の出力信号は共振素子3に入力される。共振素子3は、共振周波数で急峻なQを有し、共振周波数で90度位相が遅れる。より詳細には、共振素子3は、所定の共振周波数で共振するとともに、共振周波数では周波数可変発振器の出力信号の位相を90度ずらした信号を出力する。
【0013】
周波数可変発振器2の出力信号の周波数が共振素子3の共振周波数からずれていると、共振素子3での位相遅れが90度からずれる。このずれ成分である位相誤差をラプラス変換した位相誤差信号をθe(s)とし、周波数可変発振器2の出力信号の位相をラプラス変換した信号をθ(s)とすると、共振素子3の出力信号の位相をラプラス変換した位相信号は、θ(s)-90°/s-θe(s)となる。
【0014】
位相検出器4は、周波数可変発振器2の出力信号の位相と、共振素子3の出力信号の位相との位相誤差を検出する。周波数可変発振器2の出力信号の位相をラプラス変換した位相信号θ(s)と、共振素子3の出力信号の位相をラプラス変換した位相信号θ(s)-90°/s-θe(s)との差分を取ると、位相誤差は、90°/s+θe(s)となる。周波数可変発振器2から予め90度位相のずれた発振信号を生成して位相検出器4に入力すると、位相検出器4で検出される位相誤差は、θe(s)となる。
【0015】
帰還制御部5は、位相検出器4で検出された位相誤差に応じた比例制御(P制御とも呼ぶ)及び積分制御(I制御とも呼ぶ)を行うことにより制御信号を生成する。帰還制御部5は、比例項Pと積分項Iを有するフィルタで構成可能である。
【0016】
周波数可変発振器2は、帰還制御部5から出力された制御信号に周波数変換係数Kを乗じた周波数の発振信号を生成する。周波数変換係数Kは、周波数可変発振器2に固有の係数である。
図2等では、周波数可変発振器2の出力信号を位相で表現しているため、周波数を積分して位相とするために、周波数可変発振器2をK/sと表現している。
【0017】
周波数可変発振器2の発振周波数が共振素子3の共振周波数に近い場合、共振素子3の共振周波数付近での位相特性は線形近似することができ、位相誤差θe(s)は式(1)に示すように、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数の差に係数aを乗じた値で表すことができる。
θe(s)=-a(sθ(s)-ωr(s)) …(1)
【0018】
ここで、周波数可変発振器2の出力周波数は、位相θ(s)を微分すればよいので、ラプラス表記ではsを乗じてsθ(s)と表すことができる。ω
r(s)は環境の時間変化に応じて時間とともに変わる共振素子3の共振周波数ω
r(t)をラプラス変換したものである。よって、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数の周波数誤差をラプラス変換すると、sθ(s)-ω
r(s)で表される。
図2より、周波数可変発振器2の出力信号θ(s)は、以下の式(2)で表される。
【数1】
【0019】
式(1)、(2)より、周波数可変発振器2の出力信号θ(s)は、以下の式(3)で表される。
【数2】
【0020】
式(3)より、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数の周波数誤差sθ(s)-ω
r(s)は、以下の式(4)で表される。
【数3】
【0021】
共振素子3の共振周波数は、環境情報E(t)に応じて変化し、ωr(t)=ωr (E(t))と表すことができる。例えば、環境情報E(t)を温度T(t)とすると、共振周波数ωr(t)は、ωr(t)=ωr(T(t))と表される。所定の温度T0における共振周波数をωr0、共振周波数の温度係数をKTとすると、共振周波数ωr(t)は、以下の式(5)で表される。
ωr(t)=ωr(T(t))=ωr0+KT(T(t)-T0) …(5)
【0022】
式(5)をラプラス変換すると、式(6)のようになる。
ωr(s)=ωr(T(s))=ωr0/s+KT(T(s)-T0/s) …(6)
【0023】
K
TT
0=ω
r0なので、これを式(6)に代入すると、ω
r(s)=K
TT(s)となる。これを式(4)に代入すると、式(7)が求まる。
【数4】
【0024】
式(7)より、温度が時間に応じて変化すると、周波数可変発振器2の発振周波数は、共振周波数の変化に追随できず、温度に応じた位相誤差が生じることがわかる。
【0025】
そこで、
図1の位相同期回路1は、式(7)に示す位相誤差をゼロにすることを特徴とする。
図1の位相同期回路1は、
図2の位相同期回路100の構成に加えて、環境情報取得部6と、制御信号補正部7を備えている。
【0026】
環境情報取得部6は、環境情報E(t)を取得する。上述したように、環境情報E(t)は、時間により変化する温度や電源電圧等であり、温度センサや電圧センサ等により検出できる。環境情報E(t)を検出するセンサ等が位相同期回路1に内蔵されていてもよい。この場合、環境情報取得部6は、環境情報検出部を兼ねてもよい。あるいは、位相同期回路1とは別個に設けられるセンサ等で検出された環境情報を、環境情報取得部6で取得してもよい。
【0027】
図1の制御信号補正部7は、温度等の環境情報に応じた補正項を帰還制御部5から出力された制御信号に加算して制御信号を補正する。制御信号補正部7で補正された制御信号は、周波数可変発振器2に入力される。
【0028】
制御信号補正部7に入力される補正項は、環境情報E(t)をラプラス変換したE(s)に所定の係数(本明細書では、環境依存係数と呼ぶ)CEを乗じた値CE・E(s)である。環境依存係数CEは、環境情報E(t)に応じた固定値を持つ。制御信号補正部7は、帰還制御部5から出力された制御信号に補正項CE・E(s)を乗じることにより制御信号を補正する。補正項CE・E(s)の演算は、環境情報取得部6で行ってもよいし、制御信号補正部7で行ってもよい。
【0029】
周波数可変発振器2は、制御信号補正部7から出力された制御信号に周波数変換係数K/sを乗じることにより、周波数可変発振器2の出力信号の周波数を制御する。
【0030】
図1の共振素子3の共振周波数の環境情報係数をK
Eとすると、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数との周波数誤差sθ(s)-ω
r(s)は、以下の式(8)で表される。
【数5】
【0031】
式(8)の右辺の分子がゼロになれば、
図1の位相検出器4で検出される位相誤差はゼロになり、環境情報E(t)に依存しなくなる。式(8)の右辺の分子がゼロになるのは、以下の式(9)が成り立つ場合である。
【数6】
【0032】
式(9)に示すように、環境依存係数CEが環境情報係数KEと周波数可変発振器2の周波数変換係数Kとの比で表されるとき、式(8)の分子がゼロになり、環境情報E(t)の時間変化があっても、本実施形態による位相同期回路1の周波数可変発振器2の周波数を共振素子3の共振周波数に追従させることができる。
【0033】
なお、環境依存係数CEは、式(9)で規定される値から多少ずれても、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数の周波数誤差を低減する効果が得られる。
【0034】
環境情報は温度情報であってもよい。
図3は
図1の第1変形例による位相同期回路1aのブロック図であり、温度情報に基づく補正項が制御信号補正部7に入力される例を示している。
図3の位相同期回路1aは、制御信号補正部7に入力される補正項が異なる以外は、
図1の位相同期回路1と同様のブロック構成を備えている。
【0035】
図3の制御信号補正部7に入力される補正項は、温度情報T(t)をラプラス変換したT(s)に所定の環境依存係数C
Tを乗じた値C
T・T(s)である。この補正項C
T・T(s)を帰還制御部5から出力された制御信号に加算することにより、制御信号を補正する。
図3の共振素子3の共振周波数の温度情報係数をK
Tとすると、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数との周波数誤差sθ(s)-ωr(s)は、以下の式(10)で表される。
【数7】
【0036】
式(10)の右辺の分子がゼロになれば、
図3の位相検出器4で検出される位相誤差はゼロになり、温度情報に依存しなくなる。式(10)の右辺の分子がゼロになるのは、以下の式(11)が成り立つ場合である。
【数8】
【0037】
一方、共振素子3がMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振素子の場合、共振素子3の共振周波数は加速度により変化するため、環境情報は加速度であってもよい。
図4は
図1の第2変形例による位相同期回路1bのブロック図であり、加速度に基づく補正項が制御信号補正部7に入力される例を示している。
図4の位相同期回路1bは、制御信号補正部7に入力される補正項が異なる以外は、
図1の位相同期回路1と共通したブロック構成を備えている。
【0038】
図4の制御信号補正部7に入力される補正項は、加速度A(t)をラプラス変換したA(s)に所定の環境依存係数C
Aを乗じた値C
A・A(s)を乗じることにより制御信号を補正する。
図4の共振素子3の共振周波数の加速度係数をK
Aとすると、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数との周波数誤差sθ(s)-ω
r(s)は、以下の式(12)で表される。
【数9】
【0039】
式(12)の右辺の分子がゼロになれば、
図3の位相検出器4で検出される位相誤差はゼロになり、加速度に依存しなくなる。式(12)の右辺の分子がゼロになるのは、以下の式(13)が成り立つ場合である。
【数10】
【0040】
図1、
図3及び
図4では、位相同期回路1、1a、1b内の位相検出器4が、制御信号補正部7を用いて、周波数可変発振器2の発振周波数と共振素子3の共振周波数との周波数誤差を検出する例を示した。位相検出器4は、乗算器と低域通過フィルタを用いて構成することも可能である。
【0041】
図5は
図1の第3変形例による位相同期回路1cのブロック図である。
図5の位相同期回路1cは、位相検出器4の内部構成が
図1の位相同期回路1とは異なっている。
図5の位相検出器4は、乗算器11と、低域通過フィルタ12とを有する。
【0042】
周波数可変発振器2の出力信号がcosθ(t)の場合、共振素子3の出力信号は、以下の式(14)で表される。
【数11】
【0043】
周波数可変発振器2の出力信号と共振素子3の出力信号とを乗算器11で乗じると、以下の式(15)で表される信号が生成される。
【数12】
【0044】
乗算器11の出力信号を低域通過フィルタ12に入力すると、以下の式(16)に示す位相誤差θe(t)が得られる。
【数13】
【0045】
周波数可変発振器2は、共振素子3に供給される発振信号とは別個に、互いに90度位相の異なる2つの発振信号を位相検出器4に供給し、これら2つの発振信号のそれぞれと共振素子3の出力信号とを乗じて、I信号とQ信号を生成してもよい。
【0046】
図6は
図1の第4変形例による位相同期回路1dのブロック図である。
図6の位相同期回路1d内の位相検出器4は、乗算器11と、低域通過フィルタ12と、位相差演算部13とを有する。
【0047】
図6の周波数可変発振器2は、それぞれ90度位相の異なる複数の発振信号のうちcosθ(t)を共振素子3に供給する。共振素子3の出力信号xは、以下の式(17)で表される。
【数14】
【0048】
また、位相検出器4内の乗算器11は、式(17)の信号xに、互いに90度位相の異なる2つの発振信号(2sinθ(t), -2cosθ(t))のそれぞれを乗じて、以下の式(18)に示すI信号とQ信号を生成する。
I=x(2sinθ(t))、Q=x(-2cosθ(t)) …(18)
【0049】
位相検出器4内の低域通過フィルタ12は、式(19)に示すように、乗算器11の出力信号に含まれる低域成分IL、QLを抽出する。
IL=cosθe(t)、QL=sinθe(t) …(19)
【0050】
位相差演算部13は、式(20)に示すように、IQ平面におけるI
LとQ
Lの為す角度により位相誤差θ
eを演算する。
【数15】
【0051】
上述した
図1~
図6による位相同期回路1は、アナログ信号による帰還制御を行っている。アナログ信号は、温度等の環境による影響を受けやすい。そこで、デジタル信号による帰還制御を行ってもよい。
図7は
図1の第5変形例による位相同期回路1eのブロック図である。
【0052】
図7の周波数可変発振器2a、位相検出器4a、帰還制御部5a、環境情報取得部6a、及び制御信号補正部7aはいずれも、デジタル回路で構成されている。
図7の共振素子3だけはアナログ回路である。周波数可変発振器2aの出力信号、帰還制御部5aの出力信号、制御信号補正部7aに入力される補正項、制御信号補正部7aが生成する制御信号はいずれもデジタル信号である。
【0053】
図7の位相同期回路1eは、
図1の構成に加えて、DA変換器14とAD変換器15を備えている。以下では、周波数可変発振器2aの出力信号をデジタル発振信号と呼ぶ。
【0054】
DA変換器14は、周波数可変発振器2aから出力されたデジタル発振信号をアナログの発振信号に変換する。共振素子3は、
図1と同様にアナログの共振動作を行い、アナログの信号を出力する。AD変換器15は、共振素子3の出力信号をデジタル信号に変換する。以下では、AD変換器15の出力をデジタル共振信号と呼ぶ。
【0055】
位相検出器4aは、周波数可変発振器2aから出力されたデジタル発振信号と、AD変換器15から出力されたデジタル共振信号との位相誤差を検出し、位相誤差を示すデジタル信号を出力する。
【0056】
帰還制御部5aは、位相検出器4aから出力されたデジタル信号に応じた比例制御及び積分制御を行ってデジタル信号からなる制御信号を生成する。
【0057】
制御信号補正部7aは、デジタル信号からなる環境情報と、デジタル信号からなる環境依存係数とを乗じて、デジタル信号からなる補正項を生成する。また、制御信号補正部7aは、帰還制御から出力されたデジタル信号からなる制御信号に、デジタル信号からなる補正項を加算して、デジタル信号からなる制御信号を補正する。周波数可変発振器2aは、制御信号補正部7aで生成されたデジタル信号からなる制御信号とデジタル信号からなる周波数変換係数とを乗じることにより、デジタル発振信号の周波数を制御する。
【0058】
図7の位相同期回路1eは、周波数可変発振器2aをデジタル回路で構成するため、温度や電源電圧などの環境情報により周波数変換係数Kが変動しなくなる。よって、環境の変化により共振素子3の共振周波数が時間とともに変化しても、周波数可変発振器2aの発振周波数を共振周波数に追従性よく変化させることができる。
【0059】
このように、第1の実施形態による位相同期回路1~1eは、共振素子3の共振周波数が温度等の環境によって変動することを念頭に置いて、帰還制御部5から出力された制御信号に環境情報に応じた補正項を加算して制御信号を補正し、補正された制御信号にて周波数可変発振器2の発振周波数を制御する。これにより、温度等の環境によって共振素子3の共振周波数が変動しても、その変動に追従性よく周波数可変発振器2の発振周波数を変化させることができる。
【0060】
(第2の実施形態)
上述した
図1~
図7による位相同期回路1~1eは、物理量を検出するセンシング装置に内蔵することができる。物理量とは、例えば、角度、加速度、速度などの種々のセンサの検知対象信号である。
【0061】
図8は第2の実施形態による位相同期回路1を備えたセンシング装置10のブロック図である。
図8のセンシング装置10は、例えば
図1の位相同期回路1と、物理量演算部16とを備えている。なお、
図8のセンシング装置10は、
図3~
図7のいずれかによる位相同期回路1a~1eを内蔵していてもよい。すなわち、
図8のセンシング装置10は、第1の実施形態で説明した位相同期回路1~1eのいずれかを備えている。以下では、代表して、位相同期回路1と表記する。
【0062】
図8のセンシング装置10内の共振素子3は、例えばMEMS共振素子3aである。物理量演算部16は、共振素子3の出力信号に基づいて物理量を検出する。なお、物理量演算部16は、
図8に破線で示したように、周波数可変発振器2の出力信号に基づいて物理量を検出してもよいし、あるいは、制御信号補正部7から出力された制御信号に基づいて物理量を検出してもよい。
【0063】
図8のセンシング装置10内の位相同期回路1は、温度等の環境情報により共振素子3の共振周波数が変化しても、周波数可変発振器2の発振周波数を共振周波数に追従性よく変化させることができるため、環境情報に依存することなく、物理量をより正確に検出できる。
【0064】
センシング装置10は、例えば角度センサであってもよい。例えば、位相同期回路1内の共振素子3がMEMS共振素子3aの場合には、角度センサに適用可能である。
図9は
図8の一具体例による位相同期回路1を有する角度センサ17のブロック図である。
図9の角度センサ17は、位相同期回路1を備える他に、物理量演算部16として角度演算部18を備えている。
図9の位相同期回路1は、
図6の位相同期回路1に類似する構成を備えており、共振素子3はMEMS共振素子3aである。
【0065】
MEMS共振素子3aは、マス(錘)を楕円形状に振動させるものであり、楕円の長軸をd、短軸をqとしている。MEMS共振素子3aのx方向の変位信号は式(21)で表され、y方向の変位信号は式(22)で表される。
【数16】
【0066】
位相検出器4内の乗算器11は、MEMS共振素子3aから出力されるx方向の変位信号及びy方向の変位信号と、周波数可変発振器2から位相検出器4に入力される発振信号(2sinθ(t), -2cosθ(t))とを乗じて、以下の式(23)式に示すIx信号及びQx信号と、式(24)式に示すIy信号及びQy信号とを生成する。
Ix=x(2sinθ(t))、Qx=x(-2cos(θ(t)) …(23)
Iy=y(2sinθ(t))、Qy=y(-2cos(θ(t)) …(24)
【0067】
位相検出器4内の低域通過フィルタ12は、Ix信号、Qx信号、Iy信号、Qy信号の低周波成分IxL、QxL、IyL、QyLを抽出する。
【0068】
位相検出器4内の位相差演算部13は、以下の式(25)に基づいて、位相誤差θ
e(t)を演算する。
【数17】
【0069】
図9の角度演算部18は、位相検出器4内の乗算器11及び低域通過フィルタ12を共有するとともに、演算部21を有する。低域通過フィルタ12の出力信号I
xL、Q
xL、I
yL、Q
yLは、演算部21にも入力される。演算部21は、以下の式(26)に基づいて角度θ
A(t)を求める。
【数18】
【0070】
図9の角度センサ17では、環境情報の時間変化によりMEMS共振素子3aの共振周波数が時間とともに変化しても、周波数可変発振器2の発振周波数は共振周波数に精度よく追従するため、より正確に角度を検出することができる。
【0071】
図8のセンシング装置10は、加速度センサであってもよい。すなわち、位相同期回路1内の共振素子3がMEMS共振素子3aの場合には、加速度センサに適用可能である。
図10は加速度センサ22のブロック図である。
図10の加速度センサ22は、位相同期回路1と、加速度演算部23とを備えている。
図10の位相同期回路1は、
図9の位相同期回路1に類似する構成を備えているが、制御信号補正部7は、共振素子3の共振周波数の温度情報T(t)をラプラス変換したT(s)に所定の環境依存係数C
Tを乗じた値C
T・T(s)を、帰還制御部5から出力された制御信号に加算することで、制御信号を補正する。このように、本実施形態による位相同期回路1は、求めたい物理量とは異なる環境情報により生じる位相誤差を低減するものであり、位相同期回路1を内蔵する加速度センサでは、加速度以外の環境情報(例えば温度情報)により生じた位相誤差を低減する。
【0072】
図10の加速度演算部23は、周波数検出器24と、周波数誤差検出器25と、演算部26とを有する。周波数検出器24は、周波数可変発振器2の出力信号の発振周波数を検出する。周波数誤差検出器25は、周波数検出器24で検出された発振周波数と基準周波数との周波数誤差を演算する。基準周波数は、共振素子3の加速度をゼロとしたときの周波数可変発振器2の発振周波数である。演算部26は、周波数誤差検出器25で演算された周波数誤差を共振素子3の加速度係数K
Aで割ることにより、加速度Aを求める。加速度係数K
Aは、MEMS共振素子3aに固有の値である。
【0073】
図10の加速度センサ22では、環境の時間変化により共振素子3の共振周波数が時間により変化しても、周波数可変発振器2の発振周波数が共振周波数に精度よく追随して変化するため、周波数誤差検出器25で演算される周波数誤差が環境の影響を受けなくなり、精度よく加速度を検出できる。
【0074】
図10の加速度センサ22では、周波数可変発振器2の出力信号を加速度演算部23に入力して、発振周波数と共振周波数との周波数誤差を演算しているが、制御信号補正部7から出力された制御信号を加速度演算部23に入力して周波数誤差を演算してもよい。
【0075】
図11は
図10の一変形例による加速度センサ22aのブロック図である。
図11の加速度センサ22aは、位相同期回路1と、加速度演算部23とを備えている。
図11の位相同期回路1の内部構成は、
図10の位相同期回路1と同一である。
【0076】
図11の加速度演算部23は、周波数倍数器27と、周波数誤差検出器25と、演算部26とを有する。周波数倍数器27は、制御信号補正部7から出力された制御信号に周波数変換係数Kを乗じる。これにより、周波数倍数器27は、周波数可変発振器2と同じ周波数の発振信号を生成できる。周波数倍数器27は、
図10の周波数検出器24の機能を有しており、制御信号に周波数変換係数Kを乗じて得られる発振信号の周波数を出力する。
【0077】
図11の加速度演算部23内の周波数誤差検出器25及び演算部26の処理動作は、
図10の周波数誤差検出器25及び演算部26の処理動作と同様である。
【0078】
このように、
図11のセンシング装置10においても、共振素子3の共振周波数が環境により時間変化しても、共振周波数に合わせて周波数可変発振器2の発振周波数を変化させることができるため、環境に依存せずに加速度を検出できる。
【0079】
上述した
図8~
図11に示すセンシング装置10は、アナログ信号で帰還制御及び物理量の検出を行っているが、デジタル信号で帰還制御及び物理量の検出を行ってもよい。
【0080】
図12は
図8の一変形例によるセンシング装置10aのブロック図である。
図12のセンシング装置10aは、
図8の構成に加えて、DA変換器14と、AD変換器15とを備えている。また、
図12の周波数可変発振器2a、位相検出器4a、帰還制御部5a、制御信号補正部7a、及び物理量演算部16aのそれぞれはデジタル回路である。よって、周波数可変発振器2a、位相検出器4a、帰還制御部5a、及び制御信号補正部7aは、温度等の環境に依存することなく、処理動作を行うことができる。
【0081】
DA変換器14は、周波数可変発振器2aから出力されたデジタル発振信号をアナログの発振信号に変換する。共振素子3は、
図8の共振素子3と同様にアナログ回路であり、発振信号の発振周波数が共振周波数のときに共振動作を行う。共振素子3は、例えばMEMS共振素子3aである。
【0082】
AD変換器15は、共振素子3の出力信号をデジタル信号に変換する。AD変換器15の出力信号は、位相検出器4aと物理量演算部16aに供給される。
【0083】
このように、センシング装置10、10a内の共振素子3以外をデジタル回路で構成することにより、温度や電源電圧などによる周波数可変発振器2の周波数変換係数Kの変動を抑制できる。よって、温度や電源電圧等の環境の変化により共振素子3の共振周波数が時間変化しても、共振周波数に精度よく追従させて周波数可変発振器2の発振周波数を可変させることができる。
【0084】
また、物理量演算部16をデジタル回路で構成できるため、アナログ回路で構成する場合と比べて、温度や電源電圧等の環境の影響を受けなくなり、より正確に物理量を検出できる。
【0085】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1、1a、1b、1c、1d、1e、100 位相同期回路、2、2a 周波数可変発振器、3 共振素子、3a MEMS共振素子、4、4a 位相検出器、5、5a 帰還制御部、6、6a 環境情報取得部、7、7a 制御信号補正部、10、10a センシング装置、11 乗算器、12 低域通過フィルタ、13 位相差演算部、14 DA変換器、15 AD変換器、16、16a 物理量演算部、17 角度センサ、18 角度演算部、21 演算部、22、22a 加速度センサ、23 加速度演算部、24 周波数検出器、25 周波数誤差検出器、26 演算部、27 周波数倍数器