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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20250116BHJP
   H01M 8/04029 20160101ALI20250116BHJP
   H01M 8/04044 20160101ALI20250116BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20250116BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250116BHJP
   H01M 8/0267 20160101ALI20250116BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20250116BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04029
H01M8/04 J
H01M8/04044
H01M8/04694
H01M8/10 101
H01M8/0267
H01M8/023
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021200268
(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公開番号】P2023085940
(43)【公開日】2023-06-21
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】永田 優作
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501374(JP,A)
【文献】特開2015-103409(JP,A)
【文献】特開2019-145334(JP,A)
【文献】特開2009-099276(JP,A)
【文献】特開2000-357527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
H01M 8/04029
H01M 8/04044
H01M 8/04694
H01M 8/10
H01M 8/0267
H01M 8/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と酸素とを用いて電気を発生させる燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに接続された冷却水排出配管と、
前記燃料電池スタックから前記冷却水排出配管を介して冷却水を排出する冷却水ポンプと、
を備え、
前記冷却水ポンプの運転中、前記冷却水排出配管内の圧力は、少なくとも前記燃料電池スタックと前記冷却水ポンプとの間において、大気圧よりも低く、
前記冷却水排出配管には、前記燃料電池スタックと前記冷却水ポンプとの間において、概ね上下方向に延びる気抜き配管が接続されており、
前記気抜き配管の下端が前記冷却水排出配管に接続されており、
前記気抜き配管の上端が冷却水タンクに接続されており、
前記気抜き配管の下端と上端との間に第1開閉弁が設けられており、
前記気抜き配管の下端と前記第1開閉弁との間に第2開閉弁が設けられている、燃料電池システム。
【請求項2】
前記冷却水排出配管は、前記気抜き配管との接続部において概ね水平に延び、
前記気抜き配管は、前記冷却水排出配管の上半部に接続している、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
一端が前記燃料電池スタックに接続され、他端が前記冷却水タンクに接続された冷却水供給配管を更に備える、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁が、前記第1開閉弁が閉じられ且つ前記第2開閉弁が開かれた第1状態から、前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁が共に閉じられた中間状態を経て、前記第1開閉弁が開かれ且つ前記第2開閉弁が閉じられた第2状態に移行することにより、前記冷却水排出配管を流れる冷却水中の気泡が除去される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、前記第1状態が所定時間だけ持続された後、前記中間状態に切り替えられる、請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁は、前記気抜き配管の下端と前記第1開閉弁との間に気体が所定量溜まるまで前記第1状態が持続された後、前記中間状態に切り替えられる、請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉を制御する制御部を更に備える、請求項乃至のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池スタックは、
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の両側に配置された燃料極及び酸化剤極と、を含む膜電極複合体と、
前記膜電極複合体の両側に配置された燃料セパレータ及び酸化剤セパレータと、
を含み、
前記燃料セパレータの一方の面には燃料ガス流路が設けられており、
前記酸化剤セパレータの一方の面には酸化剤ガス流路が設けられており、
前記燃料セパレータ又は前記酸化剤セパレータの他方の面には冷却水流路が設けられており、
前記冷却水流路が設けられたセパレータは、多孔質材料で構成されている、請求項1乃至のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックは、複数の単セル電池を積層した積層体を備えている。積層体には、燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の流路がそれぞれ形成されている。燃料電池スタックは、積層体に導入された燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する。積層体には、発熱した積層体を冷却するための冷却水も導入される。特開2014-049267号公報に示されるように、積層体を冷却した冷却水は、冷却水ポンプを用いて燃料電池スタックから排出される。冷却水ポンプは、冷却水の流れ方向において、燃料電池スタックの下流側に配置される。
【0003】
ここで、燃料電池スタックから排出される冷却水は、気泡を含んでいる場合がある。冷却水ポンプに気泡を含む冷却水が導入されると、冷却水ポンプの作動効率が低下する虞がある。この結果、冷却水を十分に燃料電池スタックに供給することができず、燃料電池スタックを十分に冷却することができない虞がある。燃料電池スタックを十分に冷却することができないと、燃料電池スタックの性能が損なわれる虞がある。このような問題を解決するため、冷却水ポンプの冷却水導入口にエア抜き弁を設けて冷却水中の気泡を大気中に放出し、冷却水ポンプへの気泡の導入を抑制する、ということが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-049267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、冷却水の流路の圧力が大気圧よりも低い場合、エア抜き弁で冷却水中の気泡を大気中に放出することは困難である。このため、冷却水ポンプとして特殊なポンプを用いる必要がある。このようなポンプは高価であり、燃料電池システムの設置コストの増大につながる。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、冷却水の流路の圧力が大気圧よりも低い場合であっても冷却水のエア抜きが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態による燃料電池システムは、
水素と酸素とを用いて電気を発生させる燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに接続された冷却水排出配管と、
前記燃料電池スタックから前記冷却水排出配管を介して冷却水を排出する冷却水ポンプと、
を備え、
前記冷却水ポンプの運転中、前記冷却水排出配管内の圧力は、少なくとも前記燃料電池スタックと前記冷却水ポンプとの間において、大気圧よりも低く、
前記冷却水排出配管には、前記燃料電池スタックと前記冷却水ポンプとの間において、概ね上下方向に延びる気抜き配管が接続されている。
【発明の効果】
【0008】
実施の形態による燃料電池システムによれば、冷却水の流路の圧力が大気圧よりも低い場合であっても冷却水のエア抜きが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施の形態による燃料電池システムの構成を示す図である。
図2図2は、図1に示す燃料電池スタック内部の流体の流れを説明するための図である。
図3図3は、図3に示す燃料電池スタックの積層体のIII-III線に沿った断面を示す図である。
図4図4は、図1に示す燃料電池システムの制御方法を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、気抜き配管に設けられた弁の動作を説明するための図である。
図6図6は、気抜き配管に設けられた弁の動作を説明するための図である。
図7図7は、気抜き配管に設けられた弁の動作を説明するための図である。
図8図8は、気抜き配管に設けられた弁の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して一実施の形態について説明する。まず、図1を参照して、燃料電池システムの全体構成について説明する。
【0011】
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、燃料ガス供給系30と、燃料ガス排出系35と、酸化剤ガス供給系40と、酸化剤ガス排出系45と、冷却水供給系50と、冷却水排出系55と、を有する。燃料電池スタック10は、水素と酸素とを用いて電気を発生させる。燃料ガスは水素であり、酸化剤ガスは空気である。
【0012】
燃料ガス供給系30は、燃料ガスタンク等の燃料ガス供給源(図示せず)と、燃料ガス供給配管31とを含む。燃料ガス供給配管31は、燃料ガス供給源と燃料電池スタック10とを接続する。燃料ガス排出系35は、燃料ガス排出配管36を含む。燃料ガス排出配管36の一端は、燃料電池スタック10に接続されている。
【0013】
酸化剤ガス供給系40は、ブロワ等の酸化剤ガス供給源(図示せず)と、酸化剤ガス供給配管41とを含む。酸化剤ガス供給配管41は、酸化剤ガス供給源と燃料電池スタック10とを接続する。酸化剤ガス排出系45は、酸化剤ガス排出配管46を含む。酸化剤ガス排出配管46の一端は、燃料電池スタック10に接続されている。
【0014】
冷却水供給系50は、冷却水供給源51と、冷却水供給配管52とを含む。冷却水供給配管52は、冷却水供給源51と燃料電池スタック10とを接続する。図示された例では、冷却水供給源51は、冷却水タンクである。冷却水タンク51の上部は大気圧に開放されている。冷却水供給配管52は、冷却水タンク51の底部に接続されている。
【0015】
冷却水排出系55は、冷却水排出配管56と冷却水ポンプ57とを含む。冷却水排出配管56の一端は、燃料電池スタック10に接続されている。図示された例では、冷却水排出配管56の他端は、冷却水タンク51の上部に接続されている。冷却水ポンプ57が稼働すると、冷却水排出配管56内の圧力が低下して、燃料電池スタック10内の冷却水が冷却水排出配管56に排出され、冷却水タンク51内に吐出される。
【0016】
図1乃至図3に示す例では、燃料電池スタック10は固体高分子型燃料電池スタックである。燃料電池スタック10は、複数の単セル電池11と、マニホールド21,22,23,24,25,26とを含んでいる。
【0017】
複数の単セル電池11は、図1及び図2において紙面に垂直な方向に積層されて積層体12を構成する。積層体12は、全体として直方体の形状である。積層体12は、単セル電池11の積層方向に沿って広がる第1側面12a、第2側面12b、第3側面12c及び第4側面12dを有する。第1側面12aと第2側面12bとは互いに対向している。第3側面12cと第4側面12dとは、互いに対向している。マニホールド21,22,23,24,25,26は、積層体12の側面12a,12b,12c,12dに装着されている。
【0018】
図3に示すように、各単セル電池11は、膜電極複合体(MEA)13と、膜電極複合体13の両側に配置された燃料セパレータ14及び酸化剤セパレータ15とを含む。膜電極複合体13は、高分子電解質膜13aと、高分子電解質膜13aの両側に配置された一対の電極(燃料極13b及び酸化剤極13c)とを含む。燃料セパレータ14及び酸化剤セパレータ15は、導電性多孔質材料で構成されている。燃料セパレータ14及び酸化剤セパレータ15は、例えば、導電性多孔質カーボン板であってよい。
【0019】
燃料セパレータ14の膜電極複合体13と接する側の表面には燃料ガス流路16が設けられている。燃料ガス流路16の一端は、積層体12の第1側面12aに開口している。燃料ガス流路16の他端は、積層体12の第2側面12bに開口している。
【0020】
酸化剤セパレータ15の膜電極複合体13と接する側の表面には酸化剤ガス流路17が設けられている。酸化剤ガス流路17の一端は、積層体12の第3側面12cに開口している。酸化剤ガス流路17の他端は、積層体12の第4側面12dに開口している。
【0021】
燃料セパレータ14のもう一方の表面または酸化剤セパレータ15のもう一方の表面には、冷却水流路18が設けられている。図示された例では、冷却水流路18は、酸化剤セパレータ15の表面に設けられている。冷却水流路18の一端は、積層体12の第4側面12dに開口している。冷却水流路18の他端は、積層体12の第3側面12cに開口している。
【0022】
燃料ガス供給マニホールド21は、積層体12の第1側面12aに対面して設けられている。燃料ガス供給マニホールド21の内部空間21aは、燃料ガス流路16の一端に連通している。また、燃料ガス供給マニホールド21には燃料ガス供給配管31が接続されており、燃料ガス供給配管31を通じて、内部空間21aに燃料ガスが導入される。
【0023】
燃料ガス排出マニホールド22は、積層体12の第2側面12bに対面して設けられている。燃料ガス排出マニホールド22の内部空間22aは、燃料ガス流路16の他端に連通している。また、燃料ガス排出マニホールド22には燃料ガス排出配管36が接続されており、燃料ガス排出配管36を通じて、内部空間22aから燃料ガスが排出される。
【0024】
酸化剤ガス供給マニホールド23は、積層体12の第3側面12cに対面して設けられている。酸化剤ガス供給マニホールド23の内部空間23aは、酸化剤ガス流路17の一端に連通している。また、酸化剤ガス供給マニホールド23には酸化剤ガス供給配管41が接続されており、酸化剤ガス供給配管41を通じて、内部空間23aに酸化剤ガスが導入される。
【0025】
酸化剤ガス排出マニホールド24は、積層体12の第4側面12dに対面して設けられている。酸化剤ガス排出マニホールド24の内部空間24aは、酸化剤ガス流路17の他端に連通している。また、酸化剤ガス排出マニホールド24には酸化剤ガス排出配管46が接続されており、酸化剤ガス排出配管46を通じて、内部空間24aから酸化剤ガスが排出される。
【0026】
冷却水供給マニホールド25は、積層体12の第4側面12dに対面して設けられている。冷却水供給マニホールド25の内部空間25aは、冷却水流路18の一端に連通している。また、冷却水供給マニホールド25には冷却水供給配管52が接続されており、冷却水供給配管52を通じて、内部空間25aに冷却水が導入される。
【0027】
冷却水排出マニホールド26は、積層体12の第3側面12cに対面して設けられている。冷却水排出マニホールド26の内部空間26aは、冷却水流路18の他端に連通している。また、冷却水排出マニホールド26には冷却水排出配管56が接続されており、冷却水排出配管56を通じて、内部空間26aから冷却水が排出される。
【0028】
図2に、燃料電池スタック10における燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の流れを、それぞれ破線矢印、一点鎖線矢印及び実線矢印で示す。図2に示すように、燃料ガスは、燃料ガス供給配管31から、燃料ガス供給マニホールド21の内部空間21aを通じて、積層体12に供給される。積層体12に供給された燃料ガスは、各単セル電池11の燃料ガス流路16に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給配管41から、酸化剤ガス供給マニホールド23の内部空間23aを通じて、積層体12に供給される。積層体12に供給された酸化剤ガスは、各単セル電池11の酸化剤ガス流路17に導入される。そして、燃料ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素が単セル電池11で反応し、電気と水が生成される。燃料ガス流路16から排出された燃料ガスは、燃料ガス排出マニホールド22を通じて、燃料ガス排出配管36に流入する。酸化剤ガス流路17から排出された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出マニホールド24を通じて、酸化剤ガス排出配管46に流入する。
【0029】
冷却水は、冷却水供給配管52から、冷却水供給マニホールド25を通じて、積層体12に供給される。積層体12に供給された冷却水は、各単セル電池11の冷却水流路18に導入され、単セル電池11を冷却するために使用される。冷却水流路18から排出された冷却水は、冷却水排出マニホールド26を通じて、冷却水排出配管56に流入する。
【0030】
図示された燃料電池システム1は、冷却水ポンプ57が稼働すると、冷却水排出配管56内の圧力が、少なくとも燃料電池スタック10と冷却水ポンプ57との間において大気よりも低い圧力になるように、構成されている。これにより、燃料電池スタック10内において、冷却水流路18内の圧力が燃料ガス流路16や酸化剤ガス流路17内の圧力よりも十分に低くなる。この結果、冷却水流路18の冷却水が燃料ガス流路16または酸化剤ガス流路17に染み出す、という虞が効果的に抑制される。また、酸化剤極13cで生成された生成水が、上記の圧力差によって酸化剤極13cから多孔質体であるガス拡散層及びセパレータを通って冷却水流路18内へ移動し、燃料電池スタック10の外へ除去される。
【0031】
ところで、燃料電池スタックから排出される冷却水は、気泡を含んでいる場合がある。冷却水ポンプに気泡を含む冷却水が導入されると、ポンプの作動効率が低下する虞がある。この結果、冷却水を十分に燃料電池スタックに供給することができず、燃料電池スタックを十分に冷却することができない虞がある。燃料電池スタックを十分に冷却することができないと、燃料電池の性能が損なわれる虞がある。このような問題を解決するため、冷却水ポンプの冷却水導入口にエア抜き弁を設けて冷却水中の気泡を大気中に放出し、冷却水ポンプへの気泡の導入を抑制する、ということが行われている。
【0032】
しかしながら、冷却水排出配管内の圧力が大気圧よりも低い場合には、エア抜き弁で冷却水中の気泡を大気中に放出することは困難である。このため、冷却水ポンプとして特殊なポンプを用いる必要がある。このようなポンプは高価であり、燃料電池システムの設置コストの増大につながる。
【0033】
このような事情を考慮して、本実施の形態の燃料電池システム1は、冷却水排出配管56内の圧力が大気圧よりも低い場合であっても冷却水のエア抜きを可能とするための工夫がなされている。
【0034】
具体的には、冷却水排出配管56に、気抜き配管60が接続されている。気抜き配管60は、燃料電池スタック10と冷却水ポンプ57との間で、冷却水排出配管56に接続されている。気抜き配管60は、概ね上下方向に延びている。気抜き配管60の下端が、冷却水排出配管56に接続されている。気抜き配管60を通じて、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡を、冷却水排出系55の外へ放出することができる。
【0035】
図示された例では、冷却水排出配管56は、気抜き配管60との接続部において概ね水平に延びている。言い換えると、冷却水排出配管56は、燃料電池スタック10と冷却水ポンプ57との間に概ね水平に延びる水平部56aを有しており、気抜き配管60は水平部56aに接続している。冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡は、水平部56aにおいて、冷却水排出配管56の上半部に向かって移動する傾向にある。気抜き配管60は、水平部56aの上半部に接続している。これにより、水平部56aを流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60内に効率よく捕捉することができる。
【0036】
また、冷却水排出配管56の断面積は、次のように決められている。すなわち、気抜き配管60との接続部における冷却水排出配管56の断面積が、燃料電池スタック10との接続部における冷却水排出配管56の断面積よりも大きい、というように決められている。これにより、燃料電池スタック10から冷却水排出配管56に流入した冷却水の流速が、冷却水排出配管56と気抜き配管60との接続部において低下する。この結果、当該接続部において、冷却水中の気泡がより多く上方に移動する。したがって、冷却水中の気泡を、より多く気抜き配管60内に捕捉することができる。
【0037】
図示された例では、水平部56aは膨大部56bを有する(図5乃至図8参照)。膨大部56bの断面積は、冷却水排出配管56の膨大部56b以外の部分の断面積よりも大きい。気抜き配管60は、膨大部56bの上半部に接続している。
【0038】
冷却水タンク51は、気抜き配管60の上方に位置している。気抜き配管60の上端は、冷却水タンク51の底部に接続されている。気抜き配管60の下端と上端との間には、第1開閉弁61が設けられている。また、気抜き配管60の下端と第1開閉弁61との間には、第2開閉弁62が設けられている。第1開閉弁61は、第2開閉弁62よりも上方に位置している。燃料電池システム1がこのような気抜き配管60及び開閉弁61,62を有することにより、冷却水排出配管56内を流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60を通じて効率よく排出することができる。具体的には、第1開閉弁61及び第2開閉弁62を、図4乃至図8を参照して説明する制御方法によって制御することにより、冷却水排出配管56内を流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60を通じて排出することができる。図示された例では、燃料電池システム1は、第1開閉61弁及び第2開閉弁62を制御する制御装置65を有する。
【0039】
なお、第1開閉弁61及び第2開閉弁62は、気抜き配管60を必要に応じて閉塞/開放可能な弁であれは特に限定されない。第1開閉弁61及び第2開閉弁62は、例えば電磁弁であってよい。
【0040】
図4乃至図8を参照して、燃料電池システム1の制御方法について説明する。以下では、第1開閉弁61及び第2開閉弁62の制御方法を中心に説明する。図5乃至図8において、図示の単純化のため、冷却水供給配管52の図示を省略している。
【0041】
燃料電池システム1による発電を開始する際、まず、制御装置65からの制御信号を受けて、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が開かれる。これにより、冷却水タンク51内の冷却水が気抜き配管60内に流入して、気抜き配管60が冷却水で満たされる(図4のステップS1)。
【0042】
次に、図5に示すように、制御装置65からの制御信号を受けて、第2開閉弁62が開かれたまま第1開閉弁61が閉じられる(図4のステップS2)。これにより、気抜き配管60のうち第1開閉弁61よりも下の領域が、冷却水タンク51を通じて大気圧の影響を受ける、ということが防止される。以下では、第1開閉弁61が閉じており且つ第2開閉弁62が開いている状態を、「第1の状態」とも呼ぶ。
【0043】
次に、燃料電池スタック10への燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の供給を開始する。燃料電池スタック10への冷却水の供給は、冷却水ポンプ57を運転して、冷却水排出配管56内の圧力を低下させることにより行われる。図示された例では、冷却水排出配管56内の圧力は、少なくとも燃料電池スタック10と冷却水ポンプ57との間において、大気圧よりも低くされる。これにより、燃料電池スタック10の冷却水流路18内の圧力も十分に低下して、冷却水タンク51から冷却水流路18に冷却水が供給される。また、燃料電池スタック10内の冷却水が、冷却水排出配管56に排出される。そして、冷却水排出配管56内を流れる冷却水は、冷却水ポンプ57を通って冷却水タンク51に吐出される。このようにして、冷却水が冷却水供給系50、燃料電池スタック10及び冷却水排出系55を循環する。
【0044】
冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡は、冷却水排出配管56内で上昇し、冷却水排出配管56に開口する気抜き配管60内に捕捉される。気抜き配管60内に捕捉された気泡は、気抜き配管60のうち第1開閉弁61と第2開閉弁62との間の領域に溜まる。
【0045】
次に、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が第1の状態にされてから所定時間が経過して気抜き配管60内にある程度の量の気体が溜まると(図4のステップS4のYES)、図6に示すように、制御装置65からの制御信号を受けて、第1開閉弁61が閉じられたまま第2開閉弁62が閉じられる(ステップS5)。ここで、上記所定時間は、気抜き配管60内に気体が溜まりすぎない時間長であればよい。例えば、気抜き配管60内に捕捉される気体の量が気抜き配管60のうち第1開閉弁61と第2開閉弁62との間の領域に収まる量となるような時間長であればよい。以下では、第1開閉弁61と第2開閉弁62とが共に閉じた状態を、「中間状態」とも呼ぶ。
【0046】
次に、図7に示すように、制御装置65からの制御信号を受けて、第2開閉弁62が閉じられたまま第1開閉弁61が開かれる(ステップS6)。これにより、第1開閉弁61と第2開閉弁62の間の領域に捕捉された気泡が上昇して冷却水タンク51に放出されると同時に、冷却水タンク51の冷却水が、気抜き配管60のうち第2開閉弁62よりも上の領域に導入される。なお、第1開閉弁61を開放中に第2開閉弁62が閉じられたままであることにより、気抜き配管60のうち第2開閉弁62よりも下の領域が、冷却水タンク51を通じて大気圧の影響を受ける、ということが防止される。したがって、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡は、気抜き配管60内に捕捉され続ける。以下では、第1開閉弁61が開いており且つ第2開閉弁62が閉じた状態を、「第2の状態」とも呼ぶ。
【0047】
次に、図8に示すように、制御装置65からの制御信号を受けて、第2開閉弁62が閉じられたまま第1開閉弁61が閉じられる(ステップS7)。すなわち、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が中間状態にされる。
【0048】
次に、図5に示すように、制御装置65からの制御信号を受けて、第1開閉弁61が閉じられたまま第2開閉弁62が開かれる(ステップS8)。すなわち、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が第1の状態にされる。第2開閉弁62の開放中に第1開閉弁61が閉じられたままであることにより、気抜き配管60のうち第1開閉弁61よりも下の領域が、冷却水タンク51を通じて大気圧の影響を受ける、ということが防止される。したがって、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡は、気抜き配管60内に捕捉され続ける。そして、気抜き配管60内に捕捉された気泡(気体)は、気抜き配管60のうち第1開閉弁61と第2開閉弁62との間の領域に溜まる。
【0049】
ここで、燃料電池システム1による発電が継続される場合、燃料電池スタック10への燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の供給が継続される。したがって、冷却水ポンプ57の運転も継続される。ステップS9において冷却水ポンプ57の運転が継続されている場合は(ステップS9のYES)、ステップS4に戻って第1開閉弁61及び第2開閉弁62の制御が継続される。
【0050】
一方で、燃料電池システム1による発電が終了される場合、燃料電池スタック10への燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の供給が停止される。したがって、冷却水ポンプ57の運転も停止される。冷却水ポンプ57の運転が停止されると、冷却水ポンプ57にこれ以上冷却水は導入されない。したがって、ステップS9において冷却水ポンプ57の運転が継続されていない場合は(ステップS9のNO)、第1開閉弁61及び第2開閉弁62の制御が終了される。
【0051】
また、ステップS4において、一定時間が経過していない場合(ステップS4のNO)、ステップS4に戻る。
【0052】
なお、上述した実施の形態では、冷却水流路18が設けられたセパレータ15は多孔質材料で構成されているが、これに限られない。冷却水流路18が設けられたセパレータ15は、例えば金属板等の水を透過させない材料で構成されていてもよい。この場合も、冷却水が冷却水供給系50や冷却水排出系55から漏れ出ることを抑制するために、冷却水排出配管56内の圧力を大気圧よりも低くすることがあり、上述した問題と同様の問題が生じる虞がある。
【0053】
また、上述した実施の形態では、第1開閉弁61及び第2開閉弁62を、第1の状態にしてから所定時間経過した後に中間状態にするが、これに限られない。第1開閉弁61及び第2開閉弁62を、第1の状態にしてから気抜き配管60内に所定量の気体が溜まった後に中間状態にしてもよい。この場合、気抜き配管60内の冷却水の水面の高さを測定する液面計やレベルセンサ(レベルスイッチやレベル計)を気抜き配管60に設け、液面計やレベルセンサによる測定結果に基づいて、第1の状態から中間状態への切り替えを行ってもよい。
【0054】
また、上述した実施の形態では、第1開閉弁61及び第2開閉弁62の制御を、制御装置65を用いて行っているが、これに限られない。第1開閉弁61及び第2開閉弁62の制御は、手動で行われてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態では、気抜き配管60の上端は冷却水供給系50に含まれる冷却水タンク51に接続されているが、これに限られない。気抜き配管60の上端は、冷却水供給系50の冷却水タンク51とは別の冷却水タンクに接続されていてもよい。なお、気抜き配管60が冷却水供給系50の冷却水タンク51に接続される場合、上記冷却水タンク51とは別の冷却水タンクに接続される場合と比較して、燃料電池システム1を小型化することができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態による燃料電池システム1は、水素と酸素とを用いて電気を発生させる燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10に接続された冷却水排出配管56と、燃料電池スタック10から冷却水排出配管56を介して冷却水を排出する冷却水ポンプ57と、を備えている。冷却水ポンプ57の運転中、冷却水排出配管56内の圧力は、少なくとも燃料電池スタックと冷却水ポンプ57との間において、大気圧よりも低い。また、冷却水排出配管56には、燃料電池スタック10と冷却水ポンプ57との間において、概ね上下方向に延びる気抜き配管60が接続されている。このような燃料電池システム1によれば、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡を、当該冷却水が冷却水ポンプ57に導入される前に、気抜き配管60を通じて排出することができる。
【0057】
また、本実施の形態による燃料電池システム1において、冷却水排出配管56は、気抜き配管60との接続部において概ね水平に延びている。また、気抜き配管60は、冷却水排出配管56の上半部に接続している。これにより、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60を通じて効率よく排出することができる。
【0058】
また、本実施の形態による燃料電池システム1において、気抜き配管60との接続部における冷却水排出配管56の断面積が、燃料電池スタック10との接続部における冷却水排出配管56の断面積よりも大きい。これにより、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60を通じてより多く排出することができる。
【0059】
また、本実施の形態による燃料電池システム1において、気抜き配管60の下端が冷却水排出配管56に接続されている。また、気抜き配管60の上端が冷却水タンク51に接続されている。また、気抜き配管60の下端と上端との間に第1開閉弁61が設けられている。また、気抜き配管60の下端と第1開閉弁61との間に第2開閉弁62が設けられている。燃料電池システム1がこのような気抜き配管60及び開閉弁61,62を有することにより、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡を、気抜き配管60を通じて効率よく排出することができる。
【0060】
具体的には、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が、第1開閉弁61が閉じられ且つ第2開閉弁62が開かれた第1状態から、第1開閉弁61及び第2開閉弁62が共に閉じられた中間状態を経て、第1開閉弁61が開かれ且つ第2開閉弁62が閉じられた第2状態に移行することにより、冷却水排出配管56を流れる冷却水中の気泡が除去される。
【0061】
また、本実施の形態による燃料電池システム1は、一端が燃料電池スタック10に接続され、他端が冷却水タンク51に接続された冷却水供給配管52を更に備える。言い換えると、気抜き配管60は、冷却水供給系50の冷却水タンク51に接続される。この場合、気抜き配管60が上記冷却水タンク51とは別の冷却水タンクに接続される場合と比較して、燃料電池システム1を小型化することができる。
【0062】
また、本実施の形態による燃料電池システム1において、第1開閉弁61及び第2開閉弁62は、第1状態が所定時間だけ持続された後、中間状態に切り替えられる。これにより、気抜き配管60内に気体が溜まりすぎる、ということが防止される。
【0063】
あるいは、本実施の形態による燃料電池システム1において、第1開閉弁61及び第2開閉弁62は、気抜き配管60の下端と第1開閉弁61との間に気体が所定量溜まるまで第1状態が持続された後、中間状態に切り替えられる。このことによっても、気抜き配管60内に気体が溜まりすぎる、ということが防止される。
【0064】
また、本実施の形態による燃料電池システム1において、燃料電池スタック10は、高分子電解質膜13aと、高分子電解質膜13aの両側に配置された燃料極13b及び酸化剤極13cと、を含む膜電極複合体13と、膜電極複合体13の両側に配置された燃料セパレータ14及び酸化剤セパレータ15と、を含んでいる。燃料セパレータ14の一方の面には燃料ガス流路16が設けられている。酸化剤セパレータ15の一方の面には酸化剤ガス流路17が設けられている。燃料セパレータ14又は酸化剤セパレータ15の他方の面には冷却水流路18が設けられている。冷却水流路18が設けられたセパレータは、多孔質材料で構成されている。このような燃料電池システム1において、冷却水排出配管56内の圧力が大気よりも低くされると、燃料電池スタック10内において、冷却水流路18内の圧力が燃料ガス流路16または酸化剤ガス流路17内の圧力よりも十分に低くなる。この結果、冷却水流路18の冷却水が燃料ガス流路16または酸化剤ガス流路17に染み出す、という虞が効果的に抑制される。また、酸化剤極13cで生成された生成水は、上記の圧力差によって酸化剤極13cから多孔質体であるガス拡散層及びセパレータを通って冷却水流路18へ移動し、燃料電池スタック10の外へ除去される。
【0065】
本発明の実施形態といくつかの変形例を説明したが、これらの実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内でこれらの実施形態および変形例を、部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:燃料電池システム、10:燃料電池スタック、12:積層体、30:燃料ガス供給系、31:燃料ガス供給配管、35:燃料ガス排出系、36:燃料ガス排出配管、40:酸化剤ガス供給系、41:酸化剤ガス供給配管、45:酸化剤ガス排出系、46:酸化剤ガス排出配管、50:冷却水供給系、51:冷却水タンク、52:冷却水供給配管、55:冷却水排出系、56:冷却水排出配管、57:冷却水ポンプ、60:気抜き配管、61:第1開閉弁、62:第2開閉弁、65:制御装置
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