(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】光学的に透明なセンサエリアを有するグレージング
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20250116BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B60R11/02 Z
C03C27/12 Z
(21)【出願番号】P 2021500048
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2019067900
(87)【国際公開番号】W WO2020007939
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-23
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】リ, メイジエ
(72)【発明者】
【氏名】サルトナエ, ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】フラセレ, クエンティン
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-527665(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0281095(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0103960(US,A1)
【文献】特開2016-168996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0144797(US,A1)
【文献】特表2012-530646(JP,A)
【文献】特表2012-524690(JP,A)
【文献】国際公開第2018/015312(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に透明なエリア(22)を有するペイン基材であって、前記ペインの表面上に、前記光学的に透明なエリア(22)内に統合された少なくとも1つの光学装置(2)を有するペイン基材において、
少なくとも1つの被覆されたガラスパッチ(100)が、前記ペイン(1)と前記光学装置(2)の間に局所的に与えられていること、前記光学的に透明なエリア(22)が、>60%の赤外線放射に対する光学透明度を有すること、及び前記光学装置(2)が、750nm~1650nmの波長範囲の赤外線に基づいたリモート検知装置(LIDARセンサ)であることを特徴とするペイン基材。
【請求項2】
前記ペインは、フラットガラス、フロートガラス、石英ガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、若しくはポリメチルメタクリレート、及び/又はこれらの混合物のようなガラス及び/又はポリマーを含む、請求項1に記載のペイン(1)。
【請求項3】
前記ガラスパッチ(100)は、フラットガラス、フロートガラス、石英ガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、又はこれらの混合物のようなガラスを含む、請求項1に記載のペイン(1)。
【請求項4】
前記ガラスパッチ(100)は、反射防止被覆、着色被覆、加熱被覆、帯域通過被覆、及び曇り止め被覆のうちから選択される少なくとも1つの被覆(101、102)を与えられている、請求項1に記載のペイン(1)。
【請求項5】
前記ガラスパッチ(100)は、前記基材に光学的に且つ機械的に結合されている、請求項1に記載のペイン(1)。
【請求項6】
前記ガラスパッチ(100)は、<1m
mの厚さを有する、請求項1に記載のペイン(1)。
【請求項7】
前記被覆(101、102)は、前記ペインに対向している前記ガラスパッチ(100)の面の上に、且つ/又は、前記ペインに対向していない前記ガラスパッチ(100)の面の上に、与えられ
ている、請求項5に記載のペイン(1)。
【請求項8】
前記ペインは、自動車グレージング
である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のペイン(1)。
【請求項9】
前記ペイン基材及び前記ガラスパッチ(100)は、750nm~1650nmの前記波長範囲において5m
-1未満の吸収係数を有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のペイン(1)。
【請求項10】
ガラスパッチ(100)は、内側の面に与えられており、前記ガラスパッチのサイズは、前記光学装置(2)の視野のサイズと適合している、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のペイン(1)。
【請求項11】
前記光学的に透明なセンサエリア(22)は、前記ペイン基材の前記表面の10%未
満を占有している、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のペイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に透明なセンサエリアを有する、ペイン(pane)基材、更に詳しくは、ガラスペイン、その製造方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの自動車、飛行機、ヘリコプタ、及び船舶は、様々な光学センサを装備している。光学センサの例は、ビデオカメラ、暗視カメラ、残留光増幅器などのカメラシステム、FUR(前方監視赤外線)などの受動型赤外線検出器、或いは、LiDAR検知装置などの赤外線に基づいたリモート検知装置である。カメラシステムは、紫外線(UV)、可視(VIS)、及び赤外線波長範囲(IR)の光を使用することができる。
【0003】
自動車では、これらのカメラシステム、或いは、LiDAR検知装置などの赤外線に基づいたリモート検知装置は、乗員コンパートメントの内側に、フロントガラスの背後に配置することができる。従って、これらは、道路交通においてタイムリーな方式で危険な状況及び障害物を検出する能力を提供している。
【0004】
光学センサを使用する他のエリアは、例えば、他の自動車までの距離を判定することができる、レーザー距離計を使用する電子距離計測(EDM:Electronic Distance Measurement)を含む。このようなシステムは、軍事分野の用途において一般的であるが、民間における使用のためにも多くの可能性が存在している。先行する車両までの距離を計測することにより、必要な安全距離を判定することが可能であり、且つ、交通の安全性を格段に向上させることができる。自動的な警告システムにより、追突の危険が大幅に低減される。
【0005】
これらのガラス用途において、ガラスは、その基本的機能要件を充足するために、且つ/又は、機能が付与されたガラスを提供するための更なる機能を提供するために、ほとんどの場合に被覆されている。その提供される機能に応じて、被覆は、反射防止(AR)被覆、高反射性被覆、帯域通過フィルタ被覆、着色被覆、低E被覆、(UV、音波などを吸収するための)吸収性被覆、加熱被覆、疎水性被覆などを含みうる。
【0006】
これらのカメラシステム、或いは、LiDAR検知装置などの赤外線に基づいた検知装置が、ガラスペインの背後において、更に具体的には、フロントガラス又はガラストリム要素の背後において、使用される際には、光学センサエリア内に、着色被覆及び加熱被覆などの別の機能が付与された被覆との組合せで、或いは、これを有することなしに、反射防止被覆を有することが好ましい。実際に、最良のセンサ性能を保証するために光学センサが与えられているエリア内で、しばしば、局所的に適用された被覆が必要とされている。従って、グレージングの表面全体ではなく、グレージングの小さなエリア内で、特定の被覆又は異なる被覆が必要とされている。この場合、専用の被覆は、ガラスペイン基材の部品全体をカバーするのではなく、これらの小さなエリア内に局所化されることが好ましく、且つ/又は、これらの小さなエリア内でのみ、許容される。
【0007】
但し、プロセスの観点においては、費用超過を伴うことなしに、或いは、製造プロセスを複雑化することなしに、相対的に大きな基材のうちの限られた又は小さなエリア内に必要とされる被覆を適用することは、一般的に困難である。従って、相対的に大きな基材のうちの小さなエリア内に特定の被覆を適用するための簡単なプロセスに対するニーズが存在している。
【0008】
例えば、自動車グレージングは、通常、熱的快適性を提供するためにIR光を遮断するように設計されているが、赤外線(IR)センサ(例えば、LiDARセンサ)が、自律型運転のために、自動車のグレージング(例えば、フロントガラス、サイドライト、バックライト、及び、Bピラーなどのガラストリム)の背後に統合されている場合、IRセンサはIR光によって機能している。統合されたLiDARセンサの場合、これは、自動車グレージングを通じてIRレーザー光を検出ターゲットまで送出しなければならず、次いで、ターゲットによる反射されたIRレーザー光は、LiDARセンサによって収集されるように、自動車グレージングを通過しなければならない。これは、IRセンサが統合されているエリアがIR光に対する十分な透過性を有する必要があることを意味している。この結果、IR光用のAR被覆が必要とされることになり、これは、統合エリア(即ち、光学的に透明なエリア)上でのみ、局所化されなければならない。
【0009】
また、局所化された被覆のニーズを有する自動車グレージング用のその他の例も存在している。IRセンサに加えて、多くの異なる種類の高度運転者支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)センサを自動車グレージング上に統合することができる。カメラを統合するには、局所化された加熱被覆が有益である。その理由は、提供される霜取り機能が、センサのための相対的にクリアな視野を保証しうるからである。レーダーセンサを統合するには、局所化された被覆は、音波を通過させる必要があるが、自動車グレージングのその他の部分は、自動車の内側の雑音を回避するために音波を吸収する。
【0010】
また、自動車グレージング上の局所化された被覆の上記の例は、列車、飛行機などだけではなく、ドローンのような他の輸送手段の他の搬送手段にも適用される。
【0011】
更には、フロントガラス(サイドライト、バックライト、及びサンルーフ)などのガラスペインの大きな部品上にLiDARセンサを統合することは、例えば、自律型運転にとって有用であるのみならず、3次元(3D)認識及び顔面IDのような更なる機能を提供するために、ディスプレイ、タッチスクリーン、建築グレージング(例えば、窓、前面、天井、及び温室など)、太陽エネルギー用途(光起電及び太陽熱パネル)、電子産業(ディスプレイ及びタッチスクリーン)などにも適用可能である。いずれの場合においても、IR光のための局所化されたAR被覆が好ましい。
【0012】
また、ガラスの大きな部品上の局所化された被覆が有用である多くの他の場合も存在している。ガラスルーフの場合には、(雨センサ、光センサのような)センサが統合されうると共に、統合エリアは、センサ性能を保証するために、局所化された被覆を必要としうる。窓の場合には、特別な機能(例えば、タッチセンサ)が追加される場合があり、この場合には、特別な機能による特別な要件を充足するために、小さなエリア上の局所化された被覆が必要とされている。
【0013】
ガラス産業においては、(スパッタリング堆積や熱蒸着などの)物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法、(化学還元、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)のような熱分解被覆、ゾルゲル堆積などの)化学的堆積法、並びに、プラズマ支援型化学蒸着(PACVD:Plasma-Assisted Chemical Vapor Deposition)を含む、利用可能な様々な被覆技法が存在している。これらの方法は、ガラスの部品、更に一般的には基材の部品、の主表面を被覆するように設計されている。しかし、基材、更に具体的にはガラス基材、の大きな表面上の、基材の小さなエリアを被覆することは非常に困難であり、場合によっては不可能ですらある。
【0014】
実際に、CVDのようなオンライン被覆技法の場合には、ガラスは、その製造プロセスで被覆される。このプロセスにおいては、ガス状の化学混合物が高温のガラス基材の表面に供給され、この結果、ガラスに結合する被覆を堆積するために、熱分解反応が発生する。これは、炉内で発生することから、ガラスの部品全体を被覆することのみが可能である。また、結合が非常に強力であり、後から除去することが困難であり、従って、その他の部分から被覆を除去しつつ小さな被覆されたエリアを得ることができない。従って、局所化された被覆を実現することができない。
【0015】
PVD、化学還元、ゾルゲル堆積、及びPACVDのようなオフライン被覆技法の場合には、ガラスは、その製造プロセスの後に、被覆材料のスパッタリング、スピニング、又はその内部へのディッピングにより、被覆されている。利用可能な技法は、ガラスの部品全体を被覆するように設計されているが、局所化された被覆を得るための様々な方法が存在している。但し、いずれの方法も、その独自の欠点を有する。
【0016】
単純な方法は、ガラス基材の表面のすべてを被覆し、且つ、次いで、必要とされている被覆が小さなエリア上にのみ残るように、(例えば、レーザーによる被覆剥離によって)望ましくない部分から被覆を除去するというものである。この方法の欠点は、以下のとおりである。
- 被覆プロセスが、通常、基材の部品全体を保持するために十分に大きい真空チャンバ及び/又は他の機器を必要とする。この結果、劇的に、費用が増大し、且つ、実行可能性が低減される。
- 要求されているエリア内に必要とされている被覆を与えるために、基材の十分に被覆された表面からの除去された被覆材料が無駄になり、これも費用の源となる。
- 被覆剥離プロセスは、追加的なプロセスであり、この結果、費用と複雑さが増大する。また、このプロセスは、常に可能であるわけではなく、且つ、しばしば、被覆剥離品質が保証されていない。
- 小さなサイズのガラスの場合にしか機能しない技法については有用ではない。例えば、RAS(Radical Assisted Sputtering)は、最大で20cm×30cmのサイズのガラスを被覆する。
- 第2の方法は、被覆プロセスでマスクを使用するというものである。マスクは、被覆が小さなエリアのみにおいて専用のものとなるように、被覆材料がガラス基材に到達することを遮断することができる。この方法の欠点は、以下のとおりである。真空チャンバのような必要とされている被覆設備が、ガラスの部品全体を保持するために、十分に大きくなければならず、この結果、費用及び実行不能性が増大する。遮断された被覆材料は無駄であり、これも費用の源となる。マスクは追加的な要素であって、高価である。マスクとガラス基材の間のアライメントは追加的なステップであり、これにより費用と複雑さが誘発される。小さなサイズのガラスの場合にしか機能しない技法については有用ではない。
【0017】
第3の方法は、真空チャンバを使用する被覆方法用のものである。小さな真空チャンバが、専用の被覆が必要とされる小さなエリアのみをカバーしている。この結果、真空チャンバのサイズが低減され、且つ、被覆材料の廃棄、被覆剥離プロセス、及び被覆マスクが回避される。但し、このようなチャンバの設計は、困難なものになりうる。チャンバのエッジは、ガラス基材との接触状態になければならないが、接触エリアの表面品質を変更してはならない。また、(WSのような)折り曲げられたガラス基材の場合には、真空チャンバの設計が、困難であり、且つ、ガラス基材の形状及び小さな被覆されたエリアの場所に応じて変更されなければならない。
【0018】
従来技術の場合に、局所化された被覆機能を提供するために、被覆スキャンが与えられたプラスチックパッチをガラス基材に装着することが知られている。但し、プラスチックパッチ上の被覆は、以下の欠点を有する。
- 通常、被覆材料とプラスチック基材の間の結合が相対的に困難である。
- プラスチックパッチは、例えば、温度、化学的腐食などの被覆プロセスにおける危険な状態に対する抵抗力が弱い。この結果、被覆可能性が制限される。
- プラスチックパッチの寿命は、格段に短い。
- プラスチックは、機械的な環境状態及び化学的な環境状態の両方に対する抵抗力が弱い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、相対的に大きな基材に装着されるための専用の被覆を有する、或いは、(機能が付与されたガラスパッチ上に与えられる被覆とは異なる)被覆を有していない、機能が付与されたガラスパッチを提供することである。更に詳しくは、本発明の目的は、大きな変更を伴うことなしに、仕上げられ標準化されたペインから容易に製造されうる、ペイン基材の背後に配置された光学的に透明なセンサエリアを有するペイン基材、更に詳しくは、ガラス基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従って、本発明は、少なくとも光学的に透明なエリアを有するペイン基材であって、ペインの表面上に、光学的に透明なエリア内に統合された少なくとも1つの光学装置を有するペイン基材に関する。
【0021】
本発明によれば、少なくとも1つの被覆されたガラスパッチが、ペインと光学装置の間に局所的に与えられている。
【0022】
本発明の特定の一実施形態において、本発明は、フロントガラスと光学センサの間に配置された光学的に透明なセンサエリア内に与えられた専用の被覆を有する、機能が付与されたガラスパッチに関する。
【0023】
従って、本発明は、ガラス基材について使用されうるが、基材は、他の材料のみならず、プラスチック基材、プレキシガラス基材などでもありうる。
【0024】
本発明によれば、ペイン基材は、完全に被覆されていてもよく、又はそうでなくてもよく、或いは、部分的に被覆されていてもよい。被覆がペイン基材の表面上に与えられている場合には、ペイン基材の主要表面上の被覆の特性及びセンサの機能が、光学的に透明なエリア内の被覆の除去を決定することになる。
【0025】
本発明によれば、光学装置は、レーザー、ダイオードなどの光源、LIDARなどのセンサ、カメラなどであってよい。
【0026】
本発明の好適な一実施形態において、光学装置は、光学センサである。
【0027】
本発明によれば、機能が付与されたガラスパッチは、ガラスパッチが与えられているペイン基材の主要な基材との比較において、1つ又は複数の異なる機能を提供するために、片面又は両面被覆を有することができる。
【0028】
本発明による、機能が付与されたガラスパッチは、ペイン基材に、更に具体的にはガラス基材に固定されている。機能が付与されたガラスパッチは、基材及び機能が付与されたガラスパッチを有する組立体のオートクレーブ処理の際に固定することができる。オートクレーブ処理は、自動車グレージングについて一般に使用されている周知の技法である。(PVB、EVA、及びその他のもののような)中間層を、機能が付与されたガラスパッチとガラス基材の間に使用することができる。(フロントガラスのような)ラミネートされたガラス基材の場合、機能が付与されたガラスパッチは、ガラス基材がオートクレーブ処理される際に装着することができる。他の方法は、機能が付与されたガラスパッチを基材に結合するために、(3M材料、AGC Infoverreのような)光学結合材料を使用するというものである。また、装着用の多くのその他の可能な解決策も存在している。従って、ガラスパッチは、良好な接着、透明性、及び/又は明瞭性を保証するために、ペイン基材、更に具体的にはガラス基材に光学的且つ機械的に結合されている。
【0029】
本発明によれば、機能が付与されたガラスパッチは、任意のサイズ及び形状を有することができると共に、局所化された被覆機能を提供するために、基材の大きな部品上に適用することができる。
【0030】
本発明によれば、ガラスの小さな部品のみを被覆することにより、以下の利益が提供される。
- CVDのようなオンライン被覆技法を使用することができる。
- ガラス基材の部品全体を保持するために、大きな被覆設備(真空チャンバのような)を必要としない。従って、費用が低減され、且つ、被覆の実行可能性が増大する。
- 被覆材料を浪費せず、被覆材料が節約される。
- 被覆技法の大部分に適合しており、RASのような、小さなサイズのガラスにのみ機能するものにすら適合している。
- 被覆の後に、被覆剥離プロセスを必要としない。
- 被覆マスクを必要としない。
- AR被覆及び着色被覆のような専用の被覆機能が直接的に利用可能である。
【0031】
ガラスパッチの被覆は、以下の利点を与える。
- 被覆材料とガラスパッチの間の容易な結合が得られる。
- 被覆プロセスの大部分に対する抵抗力を有している。その理由は、ガラスが(高温及び化学的腐食のような)危険なプロセス条件に対して耐性を有するからである。
- ガラスは、長寿命を有する。
- ガラスは、強力な機械的且つ化学的抵抗力を有する。
【0032】
更には、装着のために、実績のあるオートクレーブ処理組立プロセスを直接的に適用可能である。従って、機能が付与されたガラスパッチは、自動車グレージング用のオートクレーブ処理組立プロセスで、(WSのような)自動車グレージングに装着することができる。
【0033】
更には、機能が付与されたガラスパッチは、例えば、1mm未満などのように非常に薄いものにすることができる。従って、これは、軽量且つ美的であるのみならず、大きな基材の形状にフィットするように容易に折り曲げることができる。また、ガラスパッチの低温折り曲げにより、表面歪の低減をも支援している。ガラスパッチの折り曲げが想定されていない場合にも、薄い厚さは、美的且つ軽量となるため好ましい。
【0034】
従って、本発明は、局所化された被覆が実現されうるように、基材(例えば、ガラス、プラスチック)に装着されるために専用の被覆を有する、機能が付与されたガラスパッチを提案している。好適な一実施形態において、光学装置は、自動車のフロントガラス上に装着された、統合されたLiDARセンサである。
【0035】
光学的に透明なセンサエリアを有するペインは、少なくともペインと、少なくとも光学的に透明なセンサエリアとを有する。本発明の文脈において、「光学的に透明なセンサエリア」という表現は、関連する光学的且つ電磁的データ又は信号をセンサに供給するペインの一部分を意味している。これは、関連する光学的且つ電磁的信号の大きな透過性を有する、ペインの任意の部分又は挿入されたペインセグメントであってよい。光学的に透明なセンサエリアは、好ましくは、ペインの表面の10%未満、好ましくは5%未満、更に好ましくは、ペインの表面の2%未満、更に好ましくは1%未満を占有している。例えば、自動車グレージングの場合には、光学的に透明なセンサエリアには、光学装置、更に具体的には、Lidarが配置されることになる。基材と光学的に透明なセンサの間に配置されたガラスパッチは、少なくとも被覆を有する。本発明の文脈において、被覆は、ペインに対向しているガラスパッチの面上、且つ/又は、ペイントとは対向していないガラスパッチの面上の両方に付着されてもよい。ガラスパッチは、好ましくは1mm未満、更に好ましくは0.5mm未満の厚さを有する。センサエリアの構成全体の平均透過率は、好ましくは60%超、特に好ましくは70%超である。
【0036】
光学センサ装置は、好ましくは400nm~750nmの波長の可視光及び750nm~1650nmの波長の赤外光に対するカメラを含む。
【0037】
ペイン基材は、好ましくはガラス及び/又はポリマー、好ましくはフラットガラス、フロートガラス、石英ガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、ポリメチルメタクリレート、及び/又はこれらの混合物を含む。ペインは、好ましくはシングルプレーン安全ガラス又はラミネート安全ガラスを有する。
【0038】
更に好ましくは、ペイン基材は、ガラスペインである。
【0039】
更に好ましくは、本発明によるガラスペインは、従来のガラスと比較して非常に低い、本発明に関係する光学技術において一般に使用されている750nm~1650nmの波長範囲における吸収係数を有する。具体的には、本発明の一実施形態によるガラスシートは、5m-1よりも低い、750nm~1650nmの波長範囲における吸収係数を有する。好ましくは、ガラスシートは、3m-1未満、場合によっては2m-1未満、場合によっては更に好ましくは1m-1未満、或いは、場合によっては0.8m-1未満の吸収係数を有する。
【0040】
低吸収は、最終的なIR透過が材料内の光学経路による影響をあまり受けないという更なる利点を与える。これは、高開口角を有する大きな視野(FOV:Field Of View)センサの場合に、(様々なエリアにおける画像である)様々な角度において知覚される強度が、特にセンサがグレージングに光学的に結合された際に、相対的に均一になることを意味している。
【0041】
従って、自律型車両が、道路工事又は障害物などの自律型動作に適していない、予測されていない運転環境に遭遇した際に、本発明によるグレージングを通じたセンサは、車両及び予測されていない運転環境に関するデータをキャプチャすることができる。キャプチャされたデータは、リモート操作者に、或いは、中央インテリジェントユニットに、送信することができる。リモート操作者又はユニットは、車両を操作することが可能であり、或いは、様々な車両システム上において実行されるように自律型車両にコマンドを発行することができる。リモート操作者/ユニットに送信される、キャプチャされたデータは、キャプチャされたデータの限られたサブセットを送信するなどにより、帯域幅を節約するように最適化することができる。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、ガラスペイン基材及びガラスペイン基材と光学装置との間に与えられているガラスパッチは、750nm~1650nmの波長範囲において5m-1未満の吸収係数を有しており、好ましくは、ガラスシートは、3m-1未満の吸収係数を有しており、且つ、光学装置は、750~1650nmの波長範囲における赤外線に基づいたリモート検知装置である。
【0043】
センサエリアは、好ましくは>60%、好ましくは70%>の可視光(VIS)及び/又は赤外線放射(IR)に対する光学透明度を有する。
【0044】
ガラスパッチは、好ましくはフラットガラス、フロートガラス、石英ガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスを含む。ガラス基材は、好ましくは80%超、特に好ましくは90%超の可視光及び/又は赤外線放射(IR)に対する光学透明度を有する。
【0045】
ガラスパッチの表面上に適用される被覆は、好ましくは、反射防止(AR:Anti-Reflective)被覆、帯域通過フィルタ被覆、加熱被覆、着色被覆、選択的被覆(赤外線-IR被覆)、及び曇り止め被覆などのうちから選択される。
【0046】
光学装置、特に光学センサがIRに基づいたリモート検知装置である際に、更には、特にIRに基づいたリモート検知装置がLIDARである際に、光学装置と接触している/これと対向している面上にAR被覆が与えられることが好ましい。AR被覆は、対象の波長における透過を改善する。この結果、動作問題(例えば、反射問題、加熱問題)が低減され、且つ、センサ性能(例えば、検出範囲)が改善される。
【0047】
加熱被覆は、好ましくは0.1μm~50μm、特に好ましくは1μm~10μmの層厚さを有する。
【0048】
ガラスパッチは、好ましくは静電防止、水吸収、親水性、疎水性、或いは、疎油性且つ疎水性被覆のうちから選択された光学的に透明な被覆を更に含む。
【0049】
本発明は、自動車、船舶、飛行機、及びヘリコプタにおける、本発明による光学センサを有するペインの使用を更に含む。
【0050】
光学センサを有するペインは、好ましくは自動車のフロントガラス及び/又はリアウィンドウとして使用される。
【0051】
以下、図面を参照し、本発明について詳細に説明するが、図面は、決して本発明を限定するものではない。
【0052】
わかりやすさを目的として、以下の説明においては、ガラスシートを有するペイン基材、或いは、更に詳しくは、ガラスペイン基材の付番は、グレージングに従来から使用されている付番方式を意味している。従って、車両の外側の環境との接触状態にあるグレージングの面は、面1と呼称され、内部媒体、即ち、乗員コンパートメントとの接触状態にある表面は、面2と呼称される。ラミネートされたグレージングの場合には、車両の外側の環境との接触状態にあるガラスシートの表面は、面1と呼称され、内部部分、即ち乗員コンパートメントとの接触状態にある表面は、面4と呼称される。
【0053】
疑義を避けるために、「外部」及び「内部」という用語は、車両内のグレージングとしての設置の際の、ペイン基材、或いは、更に詳しくは、ガラスペイン基材の向きを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1a】本発明による光学的に透明なセンサエリアを有する本発明によるペイン基材の平面図である。
【
図1b】本発明による光学的に透明なセンサエリアを有する
図1のペインの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるペインの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1a及び
図1bは、本発明の一実施形態による自動車グレージングを表している。自動車グレージング1は、少なくとも1つの熱可塑性中間層によってラミネートされた外部及び内部ガラスシートを有する、ラミネートされたグレージングである。更に詳しくは、
図1a及び
図1bは、フロントガラス1上に統合された、光学装置としてのLiDARセンサ2を示している。本発明によれば、正面図において、フロントガラス1は、2つのゾーンに分割されており、ゾーン21は、フロントガラスの主表面であり、光学的に透明なエリア22は、本発明によるものに対応している。主表面21について、フロントガラスは、自動車の内側における熱的快適性を提供するために、赤外(IR)光を遮断する被覆により、被覆されている。LiDARセンサ2が統合されている光学的に透明なエリア22内では、LiDARセンサの最適な性能を保証するために、使用されているIR光を可能な限り透過することが必要とされている。この結果、光学的に透明なエリア22内のIR光に対する局所化された反射防止(AR)被覆は、LiDARセンサが相対的に効率的に機能することを許容することになる。本発明によれば、LiDAR2、更に一般的には光学装置は、面4とも呼称される内側ガラスシートの内側の面内に与えられることになる。
【0056】
本発明によれば、光学センサを含むいくつかの光学装置が、基材上に与えられてもよい。この場合に、パッチ処理されるガラスの数は、結果的に適合されることを要する。光学装置が異なっている場合には、相応して、被覆を適合させることを要することを理解されたい。
【0057】
従って、本発明によれば、
図2において表されているように、機能が付与された、被覆されたガラスパッチは、フロントガラス1とLiDARセンサ2の間に与えられている。
【0058】
図2は、本発明の一実施形態による、LiDARセンサ2と統合されたフロントガラス1の層構造を示している。従来のフロントガラスは、ラミネート構造を有しており、これは、ペイン基材として、中間層27によって1つにラミネートされた、外側ガラスシート25及び内側シート26という2つのガラスシートを有する。
【0059】
本発明によれば、機能が付与されたガラスパッチ100は、光学装置が固定されることになる、フロントガラス1の光学的に透明なエリア22内に装着されている。
【0060】
本発明によれば、ガラスパッチ100は、適宜、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、又は他のガラスから構成することができる。ガラスパッチ100は、1つ又は複数の被覆機能を提供するために、片面又は両面101、102において被覆されていてもよい。IRリモート装置、更に詳しくは、LiDARが光学装置として使用されている際には、LiDARの良好な性能を保証するために、光学装置に対向する表面上で使用される、IR光用の反射防止被覆などの被覆101が非常に推奨される。(面4とも呼称される)内側ガラスシートの外側表面に対向しているガラスパッチ100のその他の面は、美的なものとなるように、着色被覆などの別の機能が付与された被覆102、或いは、LiDAR、更に一般的には光学装置の性能には影響しない任意の他の被覆によって被覆することができる。光学的に透明なエリア22内の内側ガラスシートの内側面への機能が付与されたガラスパッチ100の固定は、(PVB、EVA、及びその他のもののような)中間層103を使用するオートクレーブ組立により、或いは、(3M材料、AGC Infoverreのような)特別な材料103を使用する光学的結合により、或いは、ペイン基材へのガラスパッチの固定に適したその他の方法により、実施することができる。上述の機能が付与されたガラスパッチ100の固定の方法は、適宜、モノリシックなガラスペイン基材、又はプラスチックペイン基材、又はこれらの混合物の場合に、使用することができることを理解されたい。ガラスパッチの厚さは、好ましくは、薄いものであってもよく、即ち、1mm未満であってよい。薄いガラスペインは、フロントガラス1又はペイン基材の形状をフィットさせるために、相対的に容易に折り曲げることができる。これに加えて、薄いガラスパッチは、軽量であり、且つ、美的でもある。
【0061】
機能が付与されたガラスパッチのエッジは、LiDARシステムを保持するブラケット28により、容易に隠蔽及び封止することができる。
【0062】
上述の機能が付与されたガラスパッチの用途は、例示を目的とした例であるに過ぎないことに言及しておきたい。従って、このガラスパッチは、異なる被覆機能を有することが可能であり、且つ、多くの材料及び異なる形状を有する任意の基材に装着することができる。また、このペイン基材は、トリム要素、更に詳しくは、ガラストリム要素、サイドライトなどであってもよいことを理解されたい。