(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】がん治療のための新規治療用ベクター及びプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
C07H 15/203 20060101AFI20250116BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20250116BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250116BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20250116BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20250116BHJP
【FI】
C07H15/203 CSP
A61K38/05
A61K45/00
A61P35/00
A61K47/54
A61K47/64
(21)【出願番号】P 2021566112
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2020062617
(87)【国際公開番号】W WO2020225323
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-06
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521484523
【氏名又は名称】セーキョー
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン パポ
(72)【発明者】
【氏名】ブリジット ルヌー
(72)【発明者】
【氏名】レミ シャトル
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-508501(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118497(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/081455(WO,A1)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2009年,131(5),P.1626-1627
【文献】European Journal of Medicinal Chemistry,2015年,96,P.504-518
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 15/
A61K 38/
A61K 45/
A61K 47/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)を有する化合物:
【化1】
〔式中:
R
a は、H又は1個もしくは数個の酸素原子により任意に中断される、(C
1~C
12)アルキル基を表す;
Lは次の式(II)を有する基を表し:
【化2】
ここで:
Aは
モノメチルアウリスタチンE(MMAE)である抗がん剤である;
Yは
ハロゲン、NO
2
及びCF
3
からなる群より選択された電子求引基である;
Xは-O-である;
Gはグルクロニル基又は
グルクロニドエステル基(glucuronide ester radicals)から選択されるその誘導体である;
L
1 は次の式(III)により表されるリンカーを表し:
-A
1-A
2-A
3-A
4-A
5-A
6-A
7- (III)
ここで
A
1 は(C
1~C
6)アルキレン基である;
A
2 は
トリアゾール基である;
A
3 は(C
1~C
6)アルキレン基である;
A
4 は-C(=O)-NR
b-、-C(=S)-NR
b-、-NR
b-C(=O)-、-NR
b-C(=S)-、及びNR
bからなる群より選択され、R
bはH又は(C
1~C
12)アルキル基を表す;
A
5 は少なくとも1つの酸素原子により中断された(C
1~C
32)アルキレン基である;
A
6 は
トリアゾール基である;
A
7 は(C
1~C
6)アルキレン基である;
L’ は次の式(IV)を有する基を表し:
-A
8-A
9-L’’ (IV)
ここで
A
8 は少なくとも1つの酸素原子により中断された(C
1~C
6)アルキレン基である;
A
9 は-NR
c-、-O-及びS-からなる群より選択され、R
cはH又は(C
1~C
12)アルキル基を表す;そして
L’’ は
マレイミドカプロイル基、又は次の式のうちの1つを有する基である
:
【化3】
又は医薬的に許容されるその塩
。
【請求項2】
Lが次の式(VII):
【化4】
(式中、A、Y及びL
1 は請求項1
において定義された通りである)
を有する、請求項1
に記載の化合物。
【請求項3】
Lが次の式(VIII):
【化5】
(式中、A、A
1、A
3、A
4、A
5及びA
7は請求項1に定義した通りである)
を有する、請求項1
に記載の化合物。
【請求項4】
A
5が式-CH
2-(CH
2-O-CH
2)
n-CH
2-の基を表し、nが1~12を含む整数である、請求項
3に記載の化合物。
【請求項5】
Lが次の式(IX):
【化6】
(式中、iは1~6を含む整数であり;
jは1~10を含む整数であり;
nは1~12を含む整数であり;
kは1~6を含む整数である)
を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
A
8が式-CH
2-(CH
2-O-CH
2)
m-CH
2-の基を表し、mが1~12を含む整数である、請求項1~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
L’が次の式(X):
【化7】
(式中、mは1~6を含む整数であり;かつ
pは1~6を含む整数である)
を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
次の式(XI)、(XI’)又は(XI''):
【化8】
【化9】
【化10】
を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
薬物として使用される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の化合物
。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の化合物
、又はそれらの医薬的に許容される塩、及びまた少なくとも一つの医薬的に許容可能な賦形剤を含んでいる医薬組成物。
【請求項11】
がんの治療及び/又は予防において用いるための、請求項1~
8のいずれか一項に記載の化合物
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤の固定を可能にする新規治療用ベクター並びにそれらの対応するプロドラッグに関する。本発明はまた、がん治療に用いるための前記ベクター及びプロドラッグにも関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、現在最も一般的な病因に含まれる。特に、がんは今日、フランス国並びに大部分の産業国における主な死亡原因の1つである。通常、少なくとも、最も頻発する腫瘍部位:乳がん、結腸直腸がん、前立腺がん、膵臓がん及び肺がんに関しては、転移の発生と治療アプローチの欠如の結果、死に至る。後期のがん病期では、がん化学療法が依然として最有力であり、しばしば唯一の利用可能な治療方法である。しかしながら、化学療法は、多くの一般的な固形腫瘍タイプに対して完全な奏効を示すわけではない。大部分の抗がん剤は、固有の抗腫瘍選択性を欠いている。次に、化学療法はしばしば、正常組織の破壊による深刻な副作用を伴う。結果として、投与することができる薬剤の量は、通常、腫瘍部位に致死濃度の抗がん剤を送達させるには不十分である。更に、細胞傷害薬の選択性が欠如していることから、腫瘍細胞による細胞の抵抗性の発生のリスクが大幅に増加する。よって、大部分の抗がん剤の非特異的毒性を鑑みると、より選択的な化学療法アプローチの開発が、がんと闘うための主な関心となっている。
【0003】
この構想の枠組みの中で、腫瘍部位に有力な細胞傷害薬を選択的に送達せしめるようにプログラミングされた自己応答性化学システムの開発に、集中的に鋭意研究が行われた。そのようなシステムは、通常、(1)腫瘍関連の特異性の認識を可能にするターゲティング(標的指向性)単位及び(2)厳格に制御された様式において薬剤の放出を誘導するための、がん組織においてのみ活性化することができる酵素的又は化学的トリガーのいずれか、の構造に組み立てられる複雑な分子集成体である。
【0004】
現在まで開発されてきた薬物送達システムの大部分は、がん細胞の表面特異性(例えば膜受容体又は抗原)を標的とするようにデザインされたものであった。このアプローチでは、分子集成体は、対応する腫瘍関連細胞表面マーカーに対して高親和性を提示するモノクローナル抗体又は低分子量リガンドのいずれかを包含する。ターゲティング(標的指向性)単位により検出されると、システム全体が受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞内に内在化される。いったん細胞内に入ると、トリガーが活性化されて細胞内培地において選択的に活性薬剤の放出を誘導する。このタイプの幾つかの薬物送達システムは、現在、腫瘍学における多種多様な応用に向けて臨床評価されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細胞表面特異性を標的とするようにデザインされた薬物送達システムの「弁慶の泣き所(Achilles heel;弱点)」は、がん組織の不均一性に存する。事実、腫瘍塊の細胞の全てが同一であるわけではなく、異なる濃度の所与の細胞表面マ-カ-を表示している。よって、選択された腫瘍関連マーカーを十分なレベルで発現している細胞だけが、このタイプのターゲティングシステムにより直接作用を受ける。これに関して、腫瘍微小環境において天然に過剰発現される対応酵素によって選択的に活性化させることができる、酵素反応性プロドラッグを使用することが、このターゲティングアプローチに代わる有効な代替法を提供する。この場合、抗がん剤は、細胞外媒質中に放出されるので、どんな膜特性のものであっても、様々なタイプの周囲の悪性細胞の内側へと受動的に浸透することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、腫瘍微小環境における抗がん剤の選択的放出のためのシステムを提供することである。
【0007】
従って、本発明は、下式(I):
【0008】
【0009】
〔式中:
Raは、H又は、1もしくは複数個の酸素原子により任意に中断される場合がある、(C1~C12)アルキル基を表し、Raは好ましくはHである;
Lは次の式(II)を有する基を表す:
【0010】
【0011】
ここで:
Aは抗がん剤である;
Yは電子求引基である;
Xは-O-である;
Gはグルクロニル基又はその誘導体である;
L1は次の式(III)により表されるリンカーであり:
-A1-A2-A3-A4-A5-A6-A7- (III)
ここで:
A1は(C1~C6)アルキレン基である;
A2はクリックケミストリーにより得られる基である;
A3は(C1~C6)アルキレン基である;
A4は、-C(=O)-NRb-、-C(=S)-NRb-、-NRb-C(=O)-、-NRb-C(=S)-、及びNRbからなる群より選択され、RbはH又は(C1~C12)アルキル基を表し;A4は好ましくは-C(=O)-NRb-基であり、より好ましくは-C(=O)-NH-である;
A5は少なくとも1つの酸素原子により中断された(C1~C32)アルキレン基であり、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子により中断された(C1~C6)アルキレン基であり、そしてより好ましくはポリオキシアルキレン化基である;
A6はクリックケミストリーにより得られる基である;そして
A7は(C1~C6)アルキレン基である;
【0012】
L’は次の式(IV)を有する基を表し:
-A8-A9-L”(IV)
ここで
A8は少なくとも1つの酸素原子により中断された(C1~C6)アルキレン基であり、好ましくはポリオキシアルキレン化基である;
A9は、-NRc-、-O-及びS-からなる群より選択され、ここでRcはH又は(C1~C12)アルキル基を表す;そして
L”はアミノ、ヒドロキシル又はチオール機能と反応することができる基である〕
を有する化合物、又はその医薬的に許容される塩、又はラセミ体、ジアステレオマーもしくは鏡像異性体(エナンチオマー)に関する。
【0013】
本発明の化合物は、リンカーLを介して抗がん剤(A)の3分子を固定することが可能な没食子酸構造を有する化合物である。
【0014】
本明細書に記載の化合物は、不斉中心を有しうる。非対称的に置換された原子を含む本発明の化合物は、光学活性形態又はラセミ形態で単離される場合がある。光学活性形態を調製する方法は当業界で周知であり、例えば、ラセミ形の分割によるか又は光学活性の出発物質からの合成による。立体化学又は同位体形が具体的に示されない限り、化合物の全てのキラル形、ジアステレオマー形、ラセミ形、及び幾何異性体形の全てが意図される。
【0015】
「医薬的に許容される塩」という用語は、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持しており、かつ生物学的に又は他の面で望ましくないものでない塩を指す。多くの場合、本発明の化合物は、アミノ基及び/又はカルボキシル基あるいはそれらと類似の基の存在によって酸及び/又は塩基と共に塩を形成することができる。一方で、医薬的に許容される酸付加塩は、無機及び有機酸から調製することができ、一方で医薬的に許容される塩基付加塩は、無機及び有機塩基から調製することができる。医薬的に許容される塩の概説については、Berge他(1977)J. Pharm. Sd. 第66巻、1を参照されたい。「非毒性の医薬的に許容される塩」という表現は、非毒性の医薬的に許容される無機もしくは有機酸又は無機もしくは有機塩基と共に形成される非毒性の塩を指す。例えば、そのような塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等のような無機酸から誘導される塩、並びに酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、フマル酸、メタンスルホン酸及びトルエンスルホン酸等のような有機酸から調製される塩が含まれる。
【0016】
上述した通り、Aは抗がん剤である。
【0017】
一実施形態によれば、抗がん剤は、細胞増殖抑制剤、代謝拮抗薬、DNA挿入剤、トポイソメラ-ゼI及びII阻害剤、チューブリン阻害剤、アルキル化剤、ネオカルジノスタチン、カリケアマイシン、ダイネマイシン又はエスペラマイシンA、リポソ-ム阻害剤、チロシンホスホキナーゼ阻害剤、細胞分化を誘導する化合物、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、小分子免疫調整剤又はがん幹細胞を標的とする小分子から選択される。
【0018】
さらにより詳しくは、本発明の抗がん剤は、細胞増殖抑制剤及び代謝拮抗剤、例えば、5-フルオロウラシル、5-フルオロシチジン、5-フルオロウリジン、シトシンアラビノシド又はメトトレキサートから、DNA挿入剤、例えばドキソルビシン、ダウノマイシン、イダルビシン、エピルビシン又はミトキサントロンから、トポイソメラ-ゼI及びII阻害剤、例えばカンプトテシン、エトポシド又はm-AMSAから、チューブリン阻害剤、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タキソール、ノコダゾール又はコレヒシンから、アルキル化剤、例えばシクロホスファミド、マイトマイシンC、ラケルマイシン、シスプラチン、マスタードガスホスホルアミド、メルファラン、ブレオマイシン、N-ビス(2-クロロエチル)-4-ヒドロキシアニリンから、又はネオカルジノスタチン、カリケアマイシン、ダイネマイシンもしくはエスペラマイシンAから、又はリボソ-ム阻害剤、例えばベルカリンAから、チロシンホスホキナーゼ阻害剤、例えばケルセチン、ゲニステイン、エルブスタチン、チルホスチンもしくはロヒツキン及びその誘導体から、細胞分化を誘導する化合物、例えばレチノール酸、酪酸、ホルボールエステル又はアクラシノマイシンから、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、例えばCI-994又はMS275から、免疫活性調節剤、例えばイミキモド(Imiquimod)から、及びがん幹細胞を標的とする小分子、例えばシクロパミン誘導体などのヘッジホッグ(経路)阻害剤から選択される。
【0019】
好ましい実施形態によれば、Aは少なくとも1つの第一級又は第二級アミン機能を含む抗がん剤である。
【0020】
好ましくは、本発明によれば、抗がん剤Aは、上記の式(II)のL基の-C(=O)-O-基に結合することができるように修飾される。
【0021】
一実施形態によれば、Aはドラスタチンファミリー又はその誘導体の基である。本発明の文脈上、ドラスタチンファミリーの「誘導体」とは、最終的に細胞の有糸分裂を阻害するために、構造的に非常に関連性がありかつ同等な生物学的特性、特にチューブリン重合を阻害する能力を保有している化合物を指す。それは特に置換又は欠失誘導体の場合に論点となり得る。
【0022】
ドラスタチンファミリーは、少なくとも4個のアミノ酸の構造を有する化合物の1クラスであって、その少なくとも3個がそれに特有である、すなわち天然に通常見出される20種のアミノ酸とは異なっている化合物の1クラスを表す。
【0023】
特に文献WO2004/010957が参照され、それには本発明に適当であるものと一致する化合物が記載されている。
【0024】
本発明の1つの特に好ましい実施形態では、Aはドラスタチン10、アウリスタチンPE、アウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンE、及びその誘導体に由来する基、好ましくはモノメチルアウリスタチンEもしくはその誘導体に由来する基を表す。
【0025】
ドラスタチン10及びアウリスタチンサブファミリーの合成化合物との間の構造的相違は、特にドラスタチン10のC末端部位にあるアミノチアゾールフェネチル基が、アウリスタチンPE、アウリスタチンE又はモノメチルアウリスタチンの場合にはノルエフェドリン単位により置換されていることに存する。
【0026】
本発明の目的上、ドラスタチン10の、アウリスタチンPEの、アウリスタチンEの又はモノメチルアウリスタチンEの誘導体は、その活性薬剤の少なくとも1つに非常に関連した化学構造を有し、かつドラスタチンファミリーの化合物に起因する抗有糸分裂活性を有する。その構造的相違は、特に、例えば、それを構成している4つのアミノ酸のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの側鎖上で置換されていることであり得る。この置換は、直鎖状、環状及び/又は分枝鎖状アルキル基、アリール基、複素環又は炭素環を含むか又は表すように行われる。この構造的相違は、ドラスタチン10、アウリスタチンPE又はアウリスタチンE分子の修飾から成ることもでき、例えば、第三級アミン機能をリンカーアームとの共有結合の確立と適合するようにするために、N末端位置にあるそれの第三級アミンのレベルでの修飾から成ることができる。
【0027】
好ましい実施形態によれば、抗がん剤AはモノメチルアウリスタチンE(MMAE)又はその誘導体である。
【0028】
好ましくは、Aは下式(A-1)により表される:
【0029】
【0030】
本発明の文脈上、「電子求引基」とは、電子を求引する原子又は原子の群の性質を指す。
【0031】
好ましくは、式(II)中、Yは、ハロゲン、NO2及びCF3からなる群より選択された電子求引基である。より好ましくは、YはNO2である。
【0032】
上述した通り、式(II)中、Gはグルクロニル基又はその誘導体である。
【0033】
本発明の文脈上、Gは、それをドラスタチンファミリーの分子に連結しているリンカーアームの分子内再配列を提供し、結果としてこの活性分子(A基)の放出をもたらすために、酵素的に除去されるように構成される。
【0034】
更に、酵素的に加水分解可能である本発明のグルクロニル基は、本発明にかかる複合体(コンジュゲート)及びプロドラッグに組織特異性及び/又は細胞特異性を付与することができる。
【0035】
β-グルクロニダーゼは、多数の腫瘍の周辺に高濃度で天然に存在する酵素であることが知られている。グルクロニル基を含む本発明のコンジュゲート及びプロドラッグは、そのため、プロドラッグ単独療法(又はPMT)の間、細胞外レベルで有利に活性化され得る。本発明の文脈上、「活性化」という用語は、腫瘍部位における放出、例えばドラスタチンファミリーの基の放出を指し、それによってそれらの抗有糸分裂性の生物活性を果たすことができることを指す。
【0036】
本発明の文脈上、グルクロニル基の「誘導体」は、構造的に非常に関連性があり、かつ同等の生物学的特性を所有すること、特にβ-グルクロニダーゼの酵素基質となるような能力を所有している化合物を指す。それは特に1又は複数のヒドロキシル(-OH)基の又はカルボン酸(-COOH)基の置換又は欠失誘導体の場合に問題となり得る。
【0037】
グルクロニル基の誘導体として、グルクロニドエステル基を挙げることができる。
【0038】
式(II)において上述した通り、リンカーLは、本発明の化合物の没食子酸構造体の酸素原子に直接結合した別の二価リンカーL1も包含する。
【0039】
換言すれば、リンカーL1の各A7は、没食子酸構造体の各酸素原子に連結された各L基の末端基に相当する。よってA7はL基を担持している酸素原子に連結される。
【0040】
本出願の範囲内では、「アルキル」という用語は、特に指定されない限り、鎖中に1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖であってよい飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1~6個の炭素原子を有する。「分岐鎖」は、1個又は低級アルキル基、例えばメチル、エチル又はプロピル基が、直鎖状アルキル鎖に取り付けられていることを意味する。「低級アルキル」は、直鎖状または分枝状であってよい鎖中の1~4個の炭素原子を意味する。
【0041】
本明細書中で用いる「アルキレン」という用語は、特に指定しない限り、1~6個の炭素原子を含む二価の基を指す。前記基は、式(CH2)nにより表すことができ、ここでnは1から6までに及ぶ整数である。
【0042】
本発明によれば、式(III)において、A2及びA6は、クリックケミストリーにより得ることのできる基である。それらの基は、クリックケミストリー反応によって得られる。
【0043】
上記のクリックケミストリー反応は、特に、不飽和化合物の環付加、特に1つはジエノフィルとジエンとの間のディールス・アルダー(Diels-Alder)反応を挙げることができ、特にアジド-アルキン1,3-双極性環付加、好ましくは銅で触媒されるアジド-アルキン環付加(CuAAC)も挙げることができる。
【0044】
別のクリックケミストリー反応としては、アルケンと混合ジスルフィドからのチオエーテルの形成といった、チオール機能が関係する反応、及び非アルドール型の親電子カルボニル基を伴う反応、例えば、オキシアミンからのオキシムエーテルの形成、ヒドラジンからのヒドラゾンの形成、又は更にチオセミカルバジンからのチオセミカルバゾンの形成を伴う反応が挙げられる。
【0045】
クリックケミストリー反応として、1つはチオエステルとアミドの形成をもたらすようなチオカルボン酸又はチオエステルを伴う反応、更にはアジドとホスフィンとの間の反応(例えばシュタウディンガー(Staudinger)連結反応)を挙げることができる。
【0046】
好ましくは、基A2及びA6は、2つの反応性官能基の間での反応により得られ、前記反応は、下記からなる群より選択される:
アジドとアルキンとの間の反応、
アルデヒド又はケトンとヒドラジドとの間の反応、
アルデヒド又はケトンとオキシアミンとの間の反応、
アジドとホスフィンとの間の反応、
アルケンとテトラジンとの間の反応、
イソニトリルとテトラジンとの間の反応、及び
チオールとアルケンとの間の反応(チオールエン反応)。
【0047】
好ましい態様によれば、A2及びA6はトリアゾール基である。
【0048】
好ましくは、式(III)のA2はトリアゾール基であり、好ましくは下式(V)を有する基である:
【0049】
【0050】
好ましくは、式(III)のA6はトリアゾール基であり、好ましくは下式(VI)を有する基である:
【0051】
【0052】
一実施形態によれば、Lは下式(VII)を有する:
【0053】
【0054】
A、Y及びL1は上記に定義した通りである。
好ましくは、式(VII)中、Yはニトロ基である。
【0055】
好ましくは、式(VII)中、AはモノメチルアウリスタチンE(MMAE)又はその誘導体であり、より好ましくは上記に定義した式(A-1)を有する。
【0056】
一実施形態によれば、Lは下式(VIII)を有する:
【0057】
【0058】
ここでA、A1、A3、A4、A5及びA7は上記に定義した通りである。
【0059】
好ましくは、式(VII)中、AはモノメチルアウリスタチンE(MMAE)又はその誘導体であり、より好ましくは上記に定義した式(A-1)を有する。
【0060】
一実施形態によれば、式(VIII)中、A4は-C(=O)-NH-である。
【0061】
一実施形態によれば、式(VIII)中、A5は式-CH2-(CH2-O-CH2)n-CH2-の基であり、ここでnは1~12を含む整数である。
【0062】
本発明は、上記に定義した式(I)を有する化合物に関し、ここでLは下式(IX)を有する:
【0063】
【0064】
iは1~6を含む整数であり、
jは1~10を含む整数であり、
nは1~12を含む整数であり、そして
kは1~6を含む整数である。
【0065】
好ましくは、式(IX)中、i=1である。
好ましくは、式(IX)中、j=4である。
好ましくは、式(IX)中、n=10である。
好ましくは、式(IX)中、k=1である。
【0066】
式(I)中、上述した通り、L''(こればリンカーL’を介して没食子酸構造に結合される)は、アミノ、ヒドロキシル又はチオール機能と反応することができる基である。
【0067】
本発明の文脈上、「アミノ、ヒドロキシル又はチオール機能と反応することができる基」とは、遊離の第二級アミノ、ヒドロキシル又はチオール機能と相互作用することができ、それによって複合体(コンジュゲート)分子と、この機能を担持している別個の化学物質との間に共有結合を樹立することができ、この共有結合機能を生成するものと適合性のある、化学的機能を有する基、通常は炭化水素ベースの基、又は単位を指す。本発明の文脈上、この別個の化学物質は、より詳しくは、生命体中に天然に存在している巨大分子、及び有利にはヒト血清アルブミンのような内因性アルブミン分子である。
【0068】
好ましい態様によれば、L''はマレイミド基を含む。
好ましい態様によれば、L''は下式を有する:
【0069】
【0070】
ここで、L'''は、随意に電子求引基により、特にハロ(C1~C6)アルキル基により、例えばCF3により、置換されることがある(C1~C12)アルキレン基であるか、又は随意に電子求引基により、特にハロゲンにより、置換されることがあるフェニレン基である。
【0071】
好ましい態様によれば、L''はマレイミドカプロイル基である。
【0072】
好ましい態様によれば、L''は、次の式のうちの1つを有する基である:
【0073】
【0074】
一実施形態によれば、式(IV)中、A8は式-CH2-(CH2-O-CH2)m-CH2-の基であり、ここでmは1~12を含む整数であり、特に3に等しい。
【0075】
本発明は、上記に定義したような式(I)を有する化合物に関し、ここでL’は下式(X)を有する:
【0076】
【0077】
mは1~6を含む整数であり、好ましくは3であり、そして
pは1~6を含む整数であり、好ましくは5である。
【0078】
一実施形態によれば、複合体(コンジュゲート)と称することもできる本発明の化合物は、上記に定義した式(I)を有し、ここでリンカーLは上記に定義した式(VII)、好ましくは式(VIII)、より好ましくは式(IX)を有し、そしてリンカーL'は上記に定義した式(X)を有する。
【0079】
本発明の好ましい化合物は、次の式(XI)を有する:
【0080】
【0081】
本発明の別の好ましい化合物は、次の式(XI’)を有する:
【0082】
【0083】
本発明の別の好ましい化合物は、次の式(XI’’)を有する:
【0084】
【0085】
本発明は、共有結合を介してアルブミン又はその誘導体もしくは断片に連結された、上記に定義した式(I)の化合物を含むプロドラッグにも関する。
【0086】
本発明によれば、「プロドラッグ」という用語は、生物体内で抗がん剤(A)を不活性化形態において輸送することができ、且つ前記化合物を臓器、組織又は細胞中に放出し、それをβ-グルクロニダーゼの作用のもとで特異的に標的に指し向ける(ターゲティングする)ことができる分子を指す。
【0087】
より具体的には、そのようなプロドラッグは有利には下記一般式(XII)に相当する:
【0088】
【0089】
ここでLとRaは上記に定義した通りである。
【0090】
L’単位は、その構成部分が、一方で遊離アミノ、ヒドロキシル又はチオール機能と反応することができる単位、特に巨大分子、有利にはアルブミン分子、更に有利には血清アルブミンにより担持されている遊離チオール機能と反応することができる単位を含む、L’基との間の反応から生じる。
【0091】
本願の範囲内では、プロドラッグは、巨大分子、好ましくはアルブミン分子と共にインビボで又はインビトロで形成させることができる。
【0092】
よって、内因性又は外因性アルブミン、特にヒト血清アルブミン、組換えアルブミン又は更にアルブミンの断片さえも想定することができる。
【0093】
一実施形態によれば、本発明により記載される複合体(コンジュゲート)の分子と、内因性アルブミンの分子、特にヒト血清アルブミンの分子、又はその誘導体との間の共有結合の形成は、生体内で実施される。
【0094】
一実施形態では、本発明にかかるプロドラッグは、内因性アルブミンの分子の第34位のシステインの硫黄原子へのチオエーテル結合を介して連結された、少なくとも1分子の本発明の複合体(コンジュゲート)を含む。
【0095】
実際に、共有結合は、例えば一方がヒト血清アルブミンの第34位のシステインのチオール機能と反応することができる化合物との間で、インビボで自発的に確立することが示されている(Kratz他、2002、J. Med. Chem.)。
【0096】
一実施形態によれば、本発明は、上記に定義した式(XII)のプロドラッグにも関し、ここでL’1-アルブミンは下式(XIII)を有する:
【0097】
【0098】
m及びpは上記に定義した通りである。
【0099】
別の実施形態によれば、本発明のプロドラッグは、共有結合を介して、アルブミン分子、組換えアルブミン分子又はアルブミン分子の断片もしくはその誘導体に連結した式(I)の少なくとも1つの複合体(コンジュゲート)分子により、インビトロで形成させることも可能である。
【0100】
本発明の目的上、「アルブミン分子の断片」は、生成されたプロドラッグの、十分な生物利用能、腫瘍組織に関する浸透性及び健常組織の内皮障壁に関する不浸透性を保証するのに十分なサイズを有するアルブミン分子の断片を意味する。
【0101】
この特定の実施形態では、一般式(I)の複合体(コンジュゲート)と、そのL’基を介した、アルブミン分子、組換えアルブミン分子又はアルブミン分子のとの間のインビトロ(試験管内)カップリングは、アルブミン分子、組換えアルブミン分子又はアルブミン分子の断片上に存在する、遊離の相補的な反応性官能基を用いて達成することができる。
【0102】
一実施形態では、アルブミン分子の断片は、内因性アルブミン配列の34位のシステインに相当するシステインを含みうる。意外にも、一般式(I)とアルブミン分子との複合体(コンジュゲート)のカップリングは、結果として形成されるプロドラッグの、
・治療すべき組織の微小環境中に特異的に輸送されかつ標的指向される能力、
・治療すべき組織の微小環境中でβ-グルクロニダーゼにより開裂される能力、及び
・グルクロニル基の開裂後、抗がん剤を放出するようにリンカーアームの転位(rearrangement)を受ける能力
に何ら影響を及ぼさない。
【0103】
更に、一般式(I)の複合体(コンジュゲート)と、そのL’基を介した、アルブミン分子、特に内因性アルブミン分子のアミノ、ヒドロキシル又はチオール機能とのカップリングは、抗がん剤が結果として放出されてその生物活性を果たす能力に何ら影響を及ぼさない。
【0104】
最後に、一般式(I)の複合体(コンジュゲート)と、そのL’基を介した、アルブミン分子の、特に内因性アルブミン分子のアミノ、ヒドロキシル又はチオール機能とのカップリングは、腎臓によるプロドラッグの排出を制限する。本発明にかかるプロドラッグの血中半減期は、グルクロニル基で官能化された抗がん剤により代表されるプロドラッグのものと比較して増加される。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】
図1は、ビヒクルとRC-Alb(式(XI)の本発明の化合物)(4.32 及び6.48 mg/kg)を用いる療法のもとでのMIA PaCa2腫瘍増殖阻害。37日目、44日目、50日目及び64日目に注射を行った。黒丸の実線の曲線(-●-)はビヒクルに相当し、白丸の点線の曲線(--○--)は4.32 mg/kgでのRC-Albに相当し、そして黒丸の点線の曲線(--●--)は6.48 mg/kgでのRC-Albに相当する。
【
図2】
図2は、Br-Alb(2mg/kg、1.1×10
-6モル/kg)、RC-Alb(4.32 mg/kg、0.7×10-6モル/kg)及びRC-Alb(6.48 mg/kg、1.1×10
-6モル/kg)を用いる療法のもとでのMIA PaCa2腫瘍増殖阻害。37日目、44日目、50日目及び64日目に注射を行った。黒い四角の実線の曲線(-■-)はビヒクルに相当し、白丸の点線の曲線(--○--)は4.32 mg/kgでのRC-Albに相当し、そして黒丸の点線の曲線(--●--)は6.48 mg/kgでのRC-Albに相当する。
【
図3】9.72 mg/kg又は12.96 mg/kgでのRC-Alb、YG-Alb及びAB-Albの単回i.v.注射により処置したマウスの体重。
【
図4】日数での時間の関数として生存率を表した生存曲線。
【発明を実施するための形態】
【0106】
本発明の別の実施形態では、プロドラッグのアルブミン分子又はアルブミン断片は、特にグリコシル化により又はペグ化により、修飾することもできる。
【0107】
本発明は、薬物としてのその用途のための、上記に定義した式(I)を有する本発明の化合物もしくは複合体(コンジュゲート)、又は上記に定義したプロドラッグにも関する。
【0108】
本発明は、上記に定義した式(I)を有する化合物、又は上記に定義したプロドラッグ、又はその医薬的に許容される塩と、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤もまた含む、医薬組成物にも関する。
【0109】
式(I)を有する本発明の化合物は、単独で投与することが可能である一方、医薬組成物としてそれらを提示することが好ましい。本発明に従って有用である、脊椎動物とヒト使用の両方のための医薬組成物は、上記に定義した式(I)を有する少なくとも1つの化合物を、1つ以上の医薬的に許容される担体、及び随意に別の治療用成分を含む。
【0110】
或る好ましい実施形態では、併用療法において必要な有効成分は、同時投与用の単一の医薬組成物中に組み合わせることができる。
【0111】
本明細書中で用いる場合、「医薬的に許容される」及びその文法的変形の用語は、それらが組成物、担体、希釈剤、及び試薬を指す場合、それらの材料が、悪心、めまい、胃の不調などのような望ましくない生理学的作用を伴うことなく、哺乳動物に投与することができる。
【0112】
中に溶解又は分散された有効成分を含む薬理学的組成物の調製は、当業界で周知であり、処方に基づいて限定される必要はない。典型的には、そのような組成物は、液体状の液剤又は懸濁液剤のいずれかとして注射可能なように調製される。しかしながら、使用前に液体状態にされる、液剤又は懸濁液剤に適した固体形態も調製することができる。そのような調製物は乳化されてもよい。特に、医薬組成物は固体の剤形、例えばカプセル、錠剤、ピル、粉剤、糖衣錠又は粒剤において処方することができる。
【0113】
ビヒクルの選択や、ビヒクル中の活性物質の含量は、通常、活性化合物の溶解度及び化学的性質、特定の投与方法、並びに医務上観察すべきに規定に従って決定される。例えばラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウムといった賦形剤、でんぷん、アルギン酸、並びにステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクのような滑沢剤と組み合わせたある種の複合ケイ酸塩を、錠剤の調製に使用することができる。カプセルを調製するには、ラクト-スや高分子量ポリエチレングリコールを用いるのが有利である。水性懸濁液を使用する場合、それらは乳化剤や、懸濁を促進する剤を含むことができる。ショ糖、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロ-ル及びクロロホルム、又はそれらの混合物を使用してもよい。
【0114】
本発明にかかる式(I)の化合物もしくは複合体(コンジュゲート)、プロドラッグ又は医薬組成物は、経口、非経口(皮下、静脈内又は筋肉内)又は皮膚や粘膜への局所塗布により局所的に投与することができる。
【0115】
本発明にかかる複合体(コンジュゲート)、プロドラッグ又は医薬組成物は、特に単独で又は化学療法もしくは放射線療法と併用して、あるいは例えば別の治療薬、特に抗がん剤や抗有糸分裂薬と併用して、更には抗炎症薬と併用して投与することができる。
【0116】
本発明に適当な用量は、当業界で通常用いられている日常的手法に従って決定することができる。前記用量の調整は、明らかに当業者の通常の力量の一部である。
【0117】
事実、それは、特に治療すべき個体の体重、年齢及び性別、並びに治療すべき疾患の進行状態に左右される。
【0118】
本発明は、がんの治療及び/又は予防に用いるための、上記に定義した式(I)の化合物又はプロドラッグにも関する。
【0119】
本発明の文脈上、本明細書中で用いる場合の「治療する」又は「治療」という用語は、そのような用語が用いられる疾患もしくは状態の進行を、又は疾患もしくは状態の1つ以上の症状を逆転させる、緩和する、阻害することを意味する。
【0120】
本発明はがんの治療方法にも関し、該方法は、上記に定義した通りの式(I)の複合体(コンジュゲート)もしくはプロドラッグ、又は本発明にかかる医薬組成物を、化学療法、放射線療法、少なくとも1つの抗炎症薬での治療、及びその組み合わせを含む群より選択された別の治療法と併用して投与することを含む。
【0121】
一実施形態によれば、がんは固形がんより選択される。
【0122】
固形がんとして次のものを挙げることができる:神経芽腫、グリオ芽腫、骨肉腫、網膜芽腫、軟組織肉腫、中枢神経系のがん、腎芽細胞腫、肺がん、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、甲状腺がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、腎臓がん、肝臓がん、脳腫瘍、精巣がん、膵臓がん、骨肉腫、皮膚がん、小腸がん、胃がん、食道がん、咽頭がん及び膀胱がん。
【0123】
一実施形態では、固形がんは、膵臓がん、肺がん及び乳がんを含む群から選択され、好ましくは膵臓がんから選択される。
【実施例】
【0124】
化学
一般的実験方法
全ての反応はアルゴン雰囲気下で実施した。特に断らない限り、使用する溶媒はHPLC品質のものであった。化学薬品は、商業源からの分析用等級のものであり、更に精製することなく使用した。反応の進行は、プレコートしたシリカゲルTLCプレートMACHEREY-NAGEL ALUGRAM(登録商標)SIL G/UV254(0.2 mm シリカゲル60)上でモニタリングした。TLCプレートを254 nm UV光の下に置くことにより及び/又はTLCプレートをエタノール(100 mL)中のリンモリブデン酸(3 g)の溶液中に浸漬し、次いでヒートガン(熱線銃)を使って加熱することにより、スポットを可視化した。
【0125】
UVとESLD検出器を装備したCOMBIFLASH(登録商標)RF 200I TELEDYNE ISCO装置を用いて、そして順相クロマトグラフィーの場合にはフラッシュカートリッジInterchim(登録商標)シリカ15又は50μmを使って、逆相クロマトグラフィーの場合にはHP C18 RediSep(登録商標)GOLD 4 g又は15.5 gを使って、自動クロマトグラフィーを実施した。
【0126】
1H、19F 及び13C NMR スペクトルは、それぞれ400 MHz、376 MHz 及び 100 MHz で、ウルトラシールド磁石とBBFO 5 mmブロ-ドバンド探査子を装備した、Bruker 400 Avance III装置上で記録した。化学シフト(δ)は、低から高磁場までppm(百万分の1)単位で報告し、そして残留溶媒に対して参照を行った。カップリング定数(J)はヘルツ(Hz)で報告した。
【0127】
正確な質量は、高分解能ESI質量分析器上でのそれらの注入を通して、全ての誘導体について、オルレアン大学のCBM/ICOA FR2708において及びポワティエ大学のIC2MPの有機分析センターにおいて求めた。
【0128】
分析用RP-HPLCは、UV/可視可変波長検出器を装備したDionex Ultimate 3000 システム上で実施し、そして逆相カラムクロマトグラフィー MACHEREY-NAGEL NUCLEOSHELL(登録商標)(150/4.6、RP18、5μm)を30℃及び1 mL/分にて実施した。
【0129】
方法1は、A/B=80/20(v/v)で始まり30分間でA/B=0/100(v/v)に達する、A(水中0.2%TFA)とB(CH3CN)から成る直線勾配を使用した。全てのクロマトグラムは254 nmで記録した。
【0130】
RC-A1bを入手するための合成戦略
【0131】
【0132】
1.化合物5の合成
【0133】
【0134】
アジド還元
PPh3(730 mg、2.78ミリモル、1.5当量)を、THF(8 mL)中のアジド3(590 mg、1.85ミリモル、1当量)の溶液に添加した。混合物を室温で20時間、次いで50℃で5時間攪拌した。反応完了後、混合物を室温に冷まし、次いで水(2.5 mL)を加え、混合物を18時間攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、粗製アミン4を更に精製せずに次の工程に使用した。
【0135】
アミド形成
乾燥CH2Cl2(8 mL)中のカルボン酸2(Haibin Gu、Polymer、2018、146、275-290)(455 mg、1.60ミリモル、1当量)及び粗製アミン4(1.85ミリモル、1.15当量)の冷却溶液(0℃)に、DMAP(215 mg、1.76ミリモル、1.1当量)とEDC・HCl(337 mg、1.76ミリモル、1.1当量)を添加した。生じた混合物を室温で60時間攪拌し、CH2Cl2 (40 mL)で希釈した。有機層を1M HCl(40 mL)で洗浄した。水性層をCH2Cl2 (3×40 mL)で抽出した。合わせた有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮した。粗製残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(グラジェント溶出CH2Cl2/アセトン95/5→80/20)により精製し、白色固体として化合物5(1.68 g、86%)を得た。
【0136】
Rf: 0.65 (CH2Cl2/MeOH 95/5)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 7.23 (s, 2H), 6.76 (bs, 1H), 5.00 (s, 1H), 4.81 (d, J = 2.3 Hz, 4H), 4.79 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 3.83 - 3.54 (m, 12H), 3.49 (t, J = 5.1 Hz, 2H), 3.26 (m, 2H), 2.56 (t, J = 2.2 Hz, 2H), 2.46 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 1.45 (s, 9H)。
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ = 166.79, 156.13, 151.58, 140.06, 130.70, 108.20, 79.44, 78.92, 78.29, 77.36, 76.42, 75.68, 70.67, 70.60, 70.45, 70.36, 70.28, 70.04, 60.46, 57.43, 40.12, 28.55。
【0137】
HRMS (ESI+): [M+Na]+ C29H38N2NaO9 についての計算値581.2470、実測値581.2487; [2M+Na]+ C58H76N4NaO18 についての計算値 1139.5047、実測値1139.5085。
【0138】
2.化合物7の合成
【0139】
【0140】
Cu(MeCN)4PF6(7.0 mg、0.019ミリモル、0.12当量)を、乾燥し脱気したCH2Cl2 (2 mL)中のアルキン5(89 mg、0.159ミリモル、1当量)及びアジド-PEG10-アミン6(285 mg、0.541ミリモル、3.4 当量)の溶液に添加した。混合物を室温で2時間攪拌した。完了後、樹脂QuadraPure(登録商標)IDA (200 mg) を混合物に添加し、更に2時間攪拌し、ろ過により樹脂を除去した。減圧下で溶媒を蒸発させ、粗製物をC18グラフトシリカ上での逆相クロマトグラフィー(グラジェント溶出MeCN/H2O 30分間に渡り10/90→50/50)により精製して、無色油状物として化合物7(203 mg、60%)を得た。
【0141】
Rt: 5.72分(方法1)。
1H NMR (400 MHz, MeOD) δ = 8.21 (s, 2H), 7.94 (s, 1H), 7.39 (s, 2H), 5.26 (s, 4H), 5.14 (s, 2H), 4.63 (t, J = 5.0 Hz, 4H), 4.54 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.93 (t, J = 5.0 Hz, 4H), 3.85 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.73 - 3.50 (m, 126H), 3.47 (t, J = 5.6 Hz, 3H), 3.19 (t, J = 5.6 Hz, 2H), 2.87 (t, J = 5.1 Hz, 6H), 1.42 (s, 9H)。
【0142】
13C NMR (100 MHz, MeOD) δ = 168.99, 158.38, 153.54, 145.22, 144.46, 141.53, 131.30, 126.57, 126.53, 108.48, 80.03, 72.09, 71.53, 71.48, 71.44, 71.23, 71.12, 70.64, 70.34, 66.97, 63.77, 51.50, 51.38, 41.75, 41.25, 41.19, 28.80。
【0143】
HRMS (ESI+): [M+2H]2+ C95H178N14O39についての計算値1069.6182、実測値1069.6170;[M+3H]3+ C95H179N14O39 についての計算値713.4145、実測値713.4138;[M+4H]4+ C95H180N14O39 についての計算値 535.3127、実測値535.3125。
【0144】
3.化合物9の合成
【0145】
【0146】
EDC・HCl(134 mg、0.7ミリモル、1当量)を、乾燥CH2Cl2(4.6 mL)中のカルボン酸8(100 mg、0.7ミリモル、1当量)とN-ヒドロキシスクシンイミド(80 mg、0.7ミリモル、1当量)の溶液に添加した。生じた混合物を室温で60時間攪拌した。完了後、混合物をCH2Cl2(10 mL)で希釈した。有機層を水(10 mL)で洗浄し、次いでブライン(10 mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、真空濃縮した。粗製残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(グラジェント溶出CH2Cl2/MeOH 100/0→99/1)により精製して、透明な帯黄色油として化合物9(135 mg、80%)を得た。
【0147】
Rf: 033 (PE/AcOEt 70/30)。
1H NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 3.29 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.78 (s, 4H), 2.61 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.83 - 1.57 (m, 4H)。
13C NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 169.24, 168.21, 50.73, 30.32, 27.78, 25.53, 21.75.
【0148】
HRMS (ESI+): [M+H]+ C9H13N4O4 についての計算値241.0931、実測値241.0936; [M+Na]+ C9H12N4NaO4 についての計算値:263.0751、実測値263.0756;[2M+Na]+ C18H24N8NaO8 についての計算値: 503.1609、実測値503.1618。
【0149】
4.化合物10の合成
【0150】
【0151】
Et3N(13.7μL、0.098ミリモル、3.5当量)を、乾燥DMF(1mL)中のトリアミン7(60 mg、0.028ミリモル、1当量)及びNHSエステル9(23.6 mg、0.098ミリモル、3.5当量)の溶液に添加した。この混合物を室温で4時間攪拌した。完了後、溶媒を減圧下で留去し、粗製残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(グラジェント溶出CH2Cl2/MeOH 95/5→75/25)により精製し、無色油として化合物10を得た(54.8 mg、78%)。
【0152】
Rt: 11.00 分(方法1)。
1H NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 7.97 (s, 2H), 7.84 (s, 1H), 7.28 (s, 2H), 7.15 (bs, 1H), 6.32 (bs, 3H), 5.22 (s, 4H), 5.13 (s, 2H), 4.55 (t, J = 5.1 Hz, 4H), 4.49 (t, J= 5.2 Hz, 2H), 3.88 (t, J= 5.1 Hz, 4H), 3.84 (t, J= 5.3 Hz, 2H), 3.64 - 3.49 (m, 126H), 3.47 - 3.43 (m, 2H), 3.37 (m, 6H), 3.27 (t, J= 6.6 Hz, 6H), 3.21 (m, 2H), 2.60 (s, 1H), 2.17 (t, J= 7.1 Hz, 6H), 1.73 - 1.53 (m, 12H), 1.39 (s, 9H)。
【0153】
13C NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 172.65, 166.88, 156.34, 152.62, 144.47, 143.71, 140.52, 130.84, 125.18, 125.01, 107.46, 79.23, 71.35, 71.00, 70.95, 70.89, 70.84, 70.79, 70.71, 70.67, 70.55, 70.32, 69.88, 69.81, 66.70, 63.41, 51.74, 50.77, 50.54, 40.84, 40.50, 39.65, 36.12, 28.87, 28.63, 23.26。
【0154】
HRMS (ESI+): [M+Na]+ C110H197N23O42Naについての計算値: 2535.3879、実測値2535.3893; [M+2Na]2+ C110H197N23O42Na2についての計算値: 1279.1885、実測値1279.1877; [M+3Na]3+ C110H197N23O42Na3 についての計算値: 860.4554、実測値860.4543; [M+4Na]4+ C110H197N23O42Na4 についての計算値: 651.0889、実測値651.0888。
【0155】
5.化合物11の合成
【0156】
【0157】
TFA(160μL)を、乾燥CH2Cl2(700μL)中のカルバメート10(70 mg、0.02788ミリモル、1当量)の冷却(0℃)溶液に添加した。混合物を0℃で30分間攪拌し、次いで室温で更に30分間攪拌した。完了後、溶媒を減圧下で留去し、粗製混合物をC18グラフトシリカ上での逆相クロマトグラフィー〔グラジェント溶出MeCN/H2O (0.05%TFA) 30分間に渡り20/80→100/0〕により精製して、無色油として化合物11(65.5 mg、91%)を得た。
【0158】
Rt: 8.66分(方法1)。
1H NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 8.07 (bs, 3H), 7.99 (bs, 3H), 7.87 (s, 1H), 7.35 (s, 2H), 6.50 (bs, 3H), 5.21 (s, 4H), 5.14 (s, 2H), 4.55 (t, J = 4.5 Hz, 4H), 4.52 - 4.42 (m, 2H), 3.88 (t, J = 4.6 Hz, 4H), 3.86 - 3.80 (m, J = 4.9 Hz, 2H), 3.71 (s, 4H), 3.69 - 3.45 (m, 131H), 3.44 - 3.33 (m, J = 4.5 Hz, 6H), 3.27 (t, J = 6.2 Hz, 6H), 3.14 (s, 3H), 2.18 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 1.78 - 1.43 (m, 12H)。
【0159】
13C NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ = 172.89, 167.28, 152.54, 144.38, 143.77, 140.32, 130.68, 125.39, 125.19, 107.65, 71.00, 70.92, 70.83, 70.81, 70.69, 70.47, 70.39, 69.85, 69.79, 67.40, 66.41, 63.19, 51.76, 50.85, 50.62, 40.47, 40.25, 39.67, 36.12, 28.89, 23.30。
【0160】
HRMS (ESI+): [M+H]+ C105H189N23O40Hについての計算値: 2413.3535、実測値2413.3482; [M+2Na]2+ C105H189N23O40Na2についての計算値: 1229.1623、実測値1229.1575; [M+2H]2+ C105H189N23O40H2についての計算値: 1207.1804、実測値1207.1776; [M+H+Na]2+ C105H189N23O40HNa についての計算値: 1218.1714、実測値1218.1685; [M+3H]3+ C105H189N23O40H3 についての計算値: 805.1227 実測値805.1186; [M+3Na]3+ C105H189N23O40Na3についての計算値: 827.1046、実測値827.1007; [M+H+2Na]3+ C105H189N23O40HNa2 についての計算値: 812.4500 実測値812.4480; [M+2H+Na]3+ C105H189N23O40H2Naについての計算値: 819.7773 実測値819.7746。
【0161】
6.化合物13の合成
【0162】
【0163】
H2O(6 mL)中のLiOH・H2O (31.6 mg、0.75ミリモル、8.75当量)の冷却(0℃)溶液に、MeOH(6 mL)中の保護グルクロニド誘導体(PAPOT S.他、Chem. Sci.、2017、8、3427-3433)12(109 mg、0.086ミリモル、1当量)の冷却溶液(-5℃)を滴下添加した。出発物質が消失するまで混合物を-5℃で攪拌した。次いでIRC-50酸性樹脂を使って加水分解を実施した。ろ過後、減圧下で溶媒を除去し、粗製物質をC18グラフトシリカ上での逆相クロマトグラフィー(グラジェント溶出MeCN/H2O (0.05%TFA) 30分間に渡り20/80→80/20 )により精製して、白色固体として化合物13(70 mg、72%)を得た。
【0164】
Rt: 11.49 - 11.80 分(方法1)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 8.59 - 8.27 (m, 0.5H), 8.10 - 8.04 (m, 1H), 7.94 - 7.82 (m, 1H), 7.80 - 7.58 (m, 1.5H), 7.45 - 7.41 (m, 1H), 7.36 - 7.21 (m, 4H), 7.19 - 7.15 (m, 1H), 5.79 - 5.58 (m, J = 29.3 Hz, 1H), 5.31 - 5.14 (m, 1H), 4.82 - 4.54 (m, 1H), 4.54 - 4.15 (m, 2.5H), 4.09 - 3.87 (m, 3H), 3.78 (d, J = 9.4 Hz, 0.5H), 3.67 - 3.35 (m, 2H), 3.35 - 2.54 (m, 20H), 2.46 - 2.16 (m, 2H), 2.16 - 1.92 (m, 3H), 1.88 - 1.64 (m, 3H), 1.61 - 1.40 (m, 2H), 1.31 (s, 1H), 1.09 - 0.95 (m, 6.5H), 0.94 - 0.72 (m, 16H), 0.72 - 0.48 (m, 3.5H)。
【0165】
19F NMR (376 MHz, DMSO-d6) δ = -75.63。
13C NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 172.38, 172.32, 169.92, 169.86, 169.78, 169.76, 169.65, 168.74, 168.71, 158.52, 158.14, 154.56, 154.54, 154.38, 148.76, 148.68, 143.67, 139.84, 134.20, 132.63, 127.81, 127.74, 126.74, 126.66, 126.48, 126.41, 122.90, 116.19, 100.11, 85.45, 81.64, 77.68, 75.82, 75.43, 74.79, 73.36, 72.74, 71.16, 63.20, 62.88, 60.93, 60.29, 58.67, 58.17, 57.16, 54.15, 49.76, 49.17, 47.22, 46.25, 43.76, 43.21, 31.58, 30.09, 29.70, 29.49, 25.91, 25.37, 24.34, 23.12, 18.89, 18.85, 18.77, 18.60, 18.57, 18.37, 15.46, 15.28, 15.00, 10.42, 10.36, 10.32。
【0166】
HRMS (ESI+): [M+Na]+ C56H82N4NaO18 についての計算値 1149.5578、実測値1149.5635。
【0167】
7.化合物14の合成
【0168】
【0169】
CuSO4(5.7 mg、0.0356ミリモル、3.5当量)とアスコルビン酸ナトリウム(7.0 mg、0.0356ミリモル、3.5当量)を、t-BuOH(6 mL)/H2O(10 mL)の脱気済混合物中のアルキン13(34 mg、0.030ミリモル、3当量)及びアジド11(30 mg、0.01187ミリモル、1.2当量)の溶液に添加した。生じた混合物をAr雰囲気下で室温にて1.5時間攪拌した。完結後、混合物に樹脂QuadraPure(登録商標)IDA(350 mg)を添加し、更に3時間攪拌し、ろ過により取り除いた。溶媒を減圧下で蒸発させ、粗製残渣をC18グラフトシリカ上での逆相クロマトグラフィー(グラジェント溶出MeCN/H2O (0.05%TFA) 30分間に渡り20/80→60/40)により精製して、白色固体として化合物14(24 mg、41%)を得た。
【0170】
Rt: 11.97-12.09 分(方法1)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 8.73 - 7.11 (m, 39H), 5.99 - 5.76 (m, 3H), 5.29 - 5.20 (m, 3H), 5.18 (s, 4H), 5.03 (s, 2H), 4.83 - 4.59 (m, 1H), 4.56 (t, J = 5.1 Hz, 4H), 4.51 - 3.89 (m, 30H), 3.83 (t, J = 5.2 Hz, 4H), 3.81 - 3.72 (m, 3H), 3.69 - 3.35 (m, 148H), 3.34 - 3.10 (m, 44H), 3.10 - 2.69 (m, 17H), 2.62 - 2.53 (m, 1H), 2.47 - 2.35 (m, 5H), 2.31 - 2.19 (m, 2H), 2.19 - 1.89 (m, 14H), 1.89 - 1.62 (m, 15H), 1.61 - 1.11 (m, 16H), 1.09 - 0.93 (m, 21H), 0.92 - 0.71 (m, 45H), 0.71 - 0.51 (m, 12H), 0.44 (d, J = 6.4 Hz, 3H)。
【0171】
19F NMR (376 MHz, DMSO-d6) δ = -74.53。
13C NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 172.36, 172.29, 171.74, 169.89, 169.84, 168.71, 165.46, 158.27, 157.92, 151.60, 148.60, 143.65, 143.21, 142.50, 139.24, 129.64, 127.79, 127.73, 126.72, 126.64, 126.44, 126.39, 126.34, 124.78, 124.70, 123.01, 122.62, 106.83, 99.64, 85.42, 81.61, 75.81, 75.42, 74.77, 72.72, 71.13, 69.75, 69.61, 69.55, 69.15, 69.04, 68.68, 66.68, 65.53, 62.41, 60.91, 60.27, 58.65, 58.13, 57.14, 54.99, 54.18, 49.74, 49.47, 49.31, 48.91, 47.20, 46.23, 43.74, 43.18, 38.65, 38.46, 34.40, 31.57, 29.41, 29.28, 25.34, 24.33, 23.10, 22.13, 22.00, 18.71, 18.59, 17.97, 15.61, 15.43, 15.27, 14.99, 10.39, 10.34。
【0172】
HRMS (ESI+): [M+7H]7+ C273H442N41O94 についての計算値: 828.4417、実測値828.4419; [M+6H]6+ C273H441N41O94 についての計算値: 966.3475、実測値966.3468; [M+5H]5+ C273H440N41O94 についての計算値: 1159.4155、実測値1159.4154。
【0173】
8.RC-Albの合成
【0174】
【0175】
Et3N(0.94μL、0.00677ミリモル、4当量)を、乾燥DMSO(1 mL)中のアミン14(10 mg、0.00169ミリモル、1当量)及びNHSエステル15(0.57 mg、0.00186ミリモル、1.1当量)の溶液に添加した。混合物を室温で7時間攪拌した。完了後、溶媒を減圧下で蒸発させ、粗製残渣をC18グラフトシリカ上での逆相クロマトグラフィー(グラジェント溶出MeCN/H2O (0.05%TFA) 30分間に渡り20/80→80/20)により精製して、白色固体としてRC-Alb(9.9 mg、98%、純度>98%)を得た。
【0176】
Rt: 12.80-12.92分(方法1)。
HRMS (ESI+): [M+6H]6+ C283H452N42O97 についての計算値 998.5263、実測値998.5261; [M+5H]5+ C283H451N42O97 についての計算値: 1198.0301、実測値1198.0306; [M+4H]4+ C283H450N42O97 についての計算値: 1497.2858、実測値1497.2857。
【0177】
生物学
細胞:MIA PaCa-2 ヒト膵臓細胞系は、ATCC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)から入手し、フランス国ナントのINSERM社Trichetチームにより、ルシフェラーゼ遺伝子を発現するように安定にトランスフェクションが行われた。
【0178】
インビボ実験手順:チャールス・リバ-・ラボラトリ-ズ(Charles River Laboratories)から6~8週齢の雌ヌ-ドマウスを購入した。それらのマウスを実験前に研究所で7日間順応させ、制御された換気付きラックの内側に、滅菌フィルタ-で止めたケ-ジ内に維持し、餌と水を自由に摂取できるようにした。動物に関する全ての実験手順は、地域倫理委員会(CECCO No.3)により検証され、フランス国農林省のガイドライン(省令2013-118)及び欧州共同体(ECC)指令のガイドライン(2010/63/UE)に従って実施した。研究全体にわたって、マウスを、健康状態の指標として臨床徴候、苦痛、身体活動と体重の減少について少なくとも三週間検査した。
【0179】
同所性モデルに関するインビボ効果:明白な倫理的問題を考慮して、動物モデルから新療法の評価と生物学的機序の解明を果たさなければならない。それらの動物モデルは、第I相と第II相臨床試験で試験することができる分子についての概念実証(POC)段階に相当する。この前臨床プロセスにおける重要な段階は、臨床的リアリティ(現実性)を考慮した適切なモデルを使用することである。臨床的リアリティの欠如は、ヒトにおいてインビボで得られる結果に予測可能性を大きく欠くことになり、リスクを伴う外挿(事実からの推測)を引き起こす。抗腫瘍療法の効果を評価するためには、これらの実験を同所性モデルで実施することが必要である。同所性モデルは、ヒトの腫瘍発生をより良好に予測できるという利点を有する。元の原発腫瘍組織で増殖している腫瘍のモデルは、臨床上の病理学的状態に非常に近似している。腫瘍微小環境との相互作用を含む、関わるプロセスの複雑さを考えると、信頼できる置き換え法は入手できない。
【0180】
膵臓がん細胞系MIA PaCa2-lucからのヒト膵臓がん異種移植片を、同所性移植によってSwissヌードマウス中に確立した。空気と共に1.5%イソフルランの吸入によりマウスを麻酔した。ポビドンヨード(ベタジン)の溶液を用いてマウスの腹部を準備した。皮膚と腹膜を貫通する小さな切開部を左側方脇腹部に作った。膵臓尾部の先端を優しくつかみ、膵臓/脾臓を完全に露出するように側方方向において外に出した。膵臓尾部の先に針を挿入し、膵臓の頭部領域に配置した。接種材料(10μLのPBS中2×106 MIA PaCa2-luc細胞)を、27ゲージの針のハミルトン注射器を使ってゆっくり注入した。次いで脾臓を腹部の適当な位置に戻し、7-0縫合糸を使って腹膜を縫合し、そして4-0縫合糸を使って皮膚を縫合した。
【0181】
膵臓腫瘍の治療:マウス(群あたり8匹の動物)は、5%DMSOと95%PBSミックス(ビヒクル群)、2 mg/kg のBR-Alb、4.32 mg/kgのRC-Alb 又は6.48 mg/kg のRC-Albを37日目、44日目、50日目及び64日目に接種を受けた。腫瘍体積は超音波イメージングにより決定した。
【0182】
超音波イメージング:マウスを空気と共に1.5%イソフルランの吸入で麻酔し、テーブルに取り付けたECG電極の上に手足をテープで止めた状態で、サーモスタット制御の加熱パッドの上に置いた。ECGから誘導される呼吸ゲーティングは、動物の呼吸運動によるアーチファクトを回避する働きをする。動物の体温を内部温度プローブを使って記録した。内部組織の可視化を最適にするために、皮膚が重なっている皮膚に、温めた水性超音波用ゲル(Supragel社より購入)を塗布した。Vevo LAZRシステム(FUJIFILM Visualsonics Inc.)を使って腫瘍組織を画像化した。14.1×15 mmの視野で40μmの距離分解能を提供する、40 MHzの中心周波数を有するトランスデューサを、小型の腫瘍の画像診断に使用した。23.1×36 mmの視野で75μmの距離分解能を提供する、21 MHzの中心周波数を有するトランスデューサを、大型の腫瘍の画像診断に使用した。超音波画像の3Dスキャンをデジタル記録し、精査した。前頭面の腫瘍面積は、Vevo LAB1.7.2.ソフトウェア(FUJIFILM Visualsonics Inc.)を使って手動で辺縁を描写することにより測定した。次いでこのソフトウェアを用いて、腫瘍の位置に応じて0.5 mm3 ~ 1.5 mm3 に及ぶ検出閾値で、各冠状スライス断片から対応する腫瘍体積を算出した。
【0183】
上記に説明した通り、RC-Albは、固形腫瘍の微小環境の内側に入るMMAEの3分子をベクター化(vectorize)することができる。RC-Alb は、1) 血流中の血漿アルブミンとの共有結合の形成を可能にするマレイミド、2)マレイミド機能と3つのグルクロニル化単位との間に環(リンク)を構築する没食子酸構造、及び3) β-グルクロニダーゼの作用を通して活性化剤を腫瘍微小環境中に選択的に放出させる3つのリンカー、から成る。
【0184】
RC-Albの治療活性を、マウスについて上記に説明した通りに評価した(
図1)。その結果は、RC-Albがいずれの副作用も伴わずに顕著な抗がん活性をもたらすことを示す。更に、6.48 mg/kgでのRC-Albの使用は、処置動物の38%について腫瘍塊の完全退縮をもたらした。
【0185】
RC-Albの治療活性を、対応するモノマーBR-Alb(単一のMMAE分子を担持している)の活性に対しても比較した(
図2)。両化合物を同用量(1.1×10
-6 モル/kg)で投与した場合、RC-AlbはBR-Albと比較して腫瘍体積の18倍縮小をもたらした。
【0186】
本発明にかかる別の化合物
1.YG-Alb及びAB-Albの合成
三量体のグルクロニドプロドラッグの毒性に対するマレイミド成分の効果を評価するという目的で、2つの化合物YG-AlbとAB-Albを下記の通り調製した:
【0187】
【0188】
1.1 YG-Albの調製
5-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-2-フルオロ安息香酸15の合成は、公表されたプロトコル(WO 2016054315)を使って達成された。
a) 2,5-ジオキソピロリジン-1-イル=5-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-2-フルオロ安息香酸エステル16
【0189】
【0190】
無水DMF(3 mL)中の5-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-2-フルオロ安息香酸15(602 mg、2.56ミリモル、1.0当量)の攪拌溶液に、NHS(352 mg、3.06ミリモル、1.2当量)及びEDC塩酸塩(590 mg、3.08ミリモル、1.2当量)を添加した。反応混合物を室温で一晩攪拌しておいた。真空下で溶媒を留去した。粗製物質をDCM(15 mL)中に取り、0.1N水性HCl(10 mL)及び水(2×10 mL)で順次洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過し、蒸発させた。粗製物を、DCM/AcOEt勾配50/50→0/100を用いてフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、ベージュ色固体として活性化エステル16(468 mg、1.41ミリモル)を得た。収率:55%。
【0191】
b) YG-Alb
無水DMSO(2 mL)中の化合物14(10.3 mg、1.78μモル、1.0当量)の攪拌溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル=5-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-2-フルオロ安息香酸エステル16(1.8 mg、5.33μモル、3.0当量)とトリエチルアミン(1.5μL、10.8μモル、6.0当量)を添加した。反応混合物を室温で一晩攪拌しておいた。溶媒を真空下で留去した。粗製物質を、H2O+0.05% TFA/ACN勾配 90/10→40/60を使ったクロマトグラフィーにより精製し、凍結乾燥した後、化合物YG-Alb(5.1 mg、0.854μモル)を得た。収率: 48%。HRMS m/z [M+4H]4+ 計算値: 1504.0271、実測値: 1504.0273;[M+5H]5+ 計算値: 1203.2225、実測値: 1203.2224; [M+6H]6+ 計算値: 1003.0205、実測値: 1003.0204。
【0192】
1.2 AB-Albの調製
3-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-4,4,4-トリフルオロブタン酸17の合成は、公表されたプロトコルBioconjugate. Chem., 2015, 26, 14-152を用いて達成された。
【0193】
a) 2,5-ジオキソピロリジン-1-イル=3-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-4,4,4-トリフルオロブタノエート18の合成
【0194】
【0195】
無水DMF(3 mL)中の3-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-4,4,4-トリフルオロブタン酸17(500 mg、2.51ミリモル、1.0当量)の攪拌溶液に、NHS(291 mg、2.53ミリモル、1.2当量)及びEDC塩酸塩(485 mg、3.08 ミリモル、1.2当量)を添加した。反応混合物を室温で一晩攪拌しておいた。溶媒を真空下で留去した。粗製物質を、DCM/MeOH 勾配100/0→75/25を用いるフラッシュシリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、白色固体として活性化エステル18(487 mg、1.46 ミリモル)を得た。収率: 58%。
【0196】
b) AB-Alb
無水DMSO(2 mL)中の化合物14(10.5 mg、1.78μモル、1.0当量)の攪拌溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル=3-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)-4,4,4-トリフルオロブタノエート18(1.8 mg、5.33μモル、3.0当量)及びトリエチルアミン(1.5μL、10.8μモル、6.0当量)を添加した。反応混合物を室温で一晩攪拌しておいた。溶媒を減圧下で留去した。粗製物質を、H2O+0.05%TFA/ACN勾配90/10→40/60を用いるフラッシュ逆相(C18)シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、凍結乾燥後、化合物AB-Alb(6.4 mg、1.06μモル)を得た。収率: 60%。HRMS m/z [M+4H]4+ 計算値: 1504.5263、実測値: 1504.5269、[M+5H]5+ 計算値: 1203.6219、実測値: 1203.6224、[M+6H]6+ 計算値: 1003.3533、実測値: 1003.3529。
【0197】
2. MTD 研究
最大耐容量研究(MTD):MTD研究は、BALB/cヌードマウス(n=3)に対して行った。プロドラッグRC-Alb、YG-Alb及びAB-Alb(9.72 mg/kg又は12.96 mg/kg)の単回投与を静注により行った。プロドラッグの毒性は、動物の初期体重の百分率として表される最大体重減少又は増加により評価した。
用量は、相対体重減少が初期体重の20%より大きかった場合に毒性と見なされた。
【0198】
【0199】
RC-Alb、YG-Alb及びAB-Albを用いて実施した比較MTD研究は、マウスにおいて、マレイミド成分の構造がグルクロニドプロドラッグの毒性に影響を与えることを示した。よって、F及びCF3のような電子求引基を担持しているプロドラッグYG-AlbとAB-Albは、この種の化学機能を欠いているRC-Albよりも低毒性であることを示した。