(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】化学プロセス
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
C07D401/14
(21)【出願番号】P 2021568211
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 IB2020054629
(87)【国際公開番号】W WO2020230100
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-09
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】ブランク,ジャレッド
(72)【発明者】
【氏名】ケッヒャー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】パッヒンガー,ワーナー ヘインツ
(72)【発明者】
【氏名】パレデス,ガラティア
(72)【発明者】
【氏名】スパエティ,マークス
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-521185(JP,A)
【文献】日本化学会,実験化学講座(22) 有機合成 IV,第4版,日本,丸善株式会社,1994年11月10日,P137-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
の化合物又はその
塩を生成するためのプロセスであって、式(2)
【化2】
の化合物又はその
塩と、式(3)
【化3】
の化合物とをアルカリ又はアルカリ塩と共に金属錯体触媒の存在下で反応させて、前記式(1)の化合物又はその
塩を得るステップ
であって、前記アルカリ塩がK
2
CO
3
であり、かつ、前記金属錯体触媒が(dtbpf)PdCl
2
であるステップ、を含み、
式(4)
【化4】
の化合物又はその塩を、式(5)
【化5】
の化合物と反応させるステップをさらに含むプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物N-[4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル]-6-[(3R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル]-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ピリジン-3-カルボキサミドの合成のための新規の化学プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、式(1)
【化1】
の化合物とも呼ばれる化合物N-[4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル]-6-[(3R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル]-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ピリジン-3-カルボキサミドは、BCR-ABL(ブレイクポイントクラスター領域-Abelsonキメラタンパク質)チロシンキナーゼ阻害剤である。国際公開第2013/171639A1号パンフレットは、Abelsonタンパク質(ABL1)、Abelson関連タンパク質(ABL2)及び関連するキメラタンパク質、特にBCR-ABL1のチロシンキナーゼ酵素活性の阻害に応答する疾患を処置するのに有用であるとして式(1)の化合物を提供している。式(1)の化合物は、(R)-N-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド又はアシミニブとしても知られている。
【0003】
式(1)の化合物、式(1)の化合物の調製及び式(1)の化合物の医薬組成物は、最初に、国際公開第2013/171639A1号パンフレットにおいて実施例9として記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それにもかかわらず、経済的により効率的であり、より安全であり、且つフルサイズの生成規模によりよく適した、式(1)の化合物の調製のための改善されたプロセスを提供することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有害性の低い化学物質及び/又は反応条件を使用し、廃棄物をあまり発生させず、且つ生成規模において取り扱いがより容易である再現性のあるプロセスを提供する、式(1)の化合物の改善された合成及びその精製に関する。本発明は、従来技術で開示される方法と比べて、式(1)の化合物をより高収率且つより高純度で生じさせ、副生成物をあまり発生させず、且つより少ない触媒負荷量を必要とするより効率的な手段にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
これに関して、本発明は、以下の態様において提供される。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、式(1)
【化2】
の化合物又はその塩、溶媒和物、立体異性体、錯体、共結晶、エステル若しくはオキサゾリンを生成するためのプロセスであって、式(2)
【化3】
の化合物又はその塩、溶媒和物、立体異性体、錯体、共結晶、エステル若しくはオキサゾリンと、式(3)
【化4】
の化合物、すなわち1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-ボロン酸,ピナコールエステルとをアルカリ又はアルカリ塩と共に金属錯体触媒の存在下で反応させて、式(1)の化合物又はその塩、溶媒和物、立体異性体、錯体、共結晶、エステル若しくはオキサゾリンを得る、好ましくはその遊離カルボン酸形態である式(1)の化合物を得るステップを含むプロセスが提供される。
【0008】
本プロセスにおいて、第1の態様によれば、金属錯体触媒は、金属前駆体及び配位子又は金属M及び配位子を含む予め形成された金属錯体触媒であり得る。
【0009】
金属Mは、Cu(銅)及びPd(パラジウム)から選択され得る。好ましくは、金属Mは、Pdである。
【0010】
金属前駆体は、M(OAc)2、M2(dba)3、[M(C3H5)Cl]2(アリル金属塩化物二量体)、M(TFA)2、M(MeCN)2Cl2、MCl2、[(シンナミル)MCl]2、[MCl]2(金属塩化物)及びM(acac)2から選択され得る。好ましくは、金属前駆体は、[MCl]2(金属塩化物)である。
【0011】
配位子は、Cy3P、(2-MeOPh)3P、P(tBu)2-n-PrSO2H、Q-phos(1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1’-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン)、CataCXium ABn(ジ(1-アダマンチル)ベンジルホスフィン)、CataCXium A(ジ(1-アダマンチル)-n-ブチルホスフィン)及びS-Phos(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル)から選択され得る。好ましくは、配位子は、S-Phosである。
【0012】
予め形成された金属錯体触媒は、上記で定義される配位子としての金属から構成され得るか、又は[(o-tol)3P]2PdCl2、[t-Bu3PPdBr]2/Pd-113、(dtbpf)PdCl2/Pd-118、PEPPSI、PdCl2(PPh3)2、Pd(tBu2PhP)2、Pd(dppf)Cl2・CH2Cl2、[(t-Bu)3P]Pd(0)、CataCXium C、Pd(tBu2PhP)2(Pd-122)、Pd(dppf)Cl2・CH2Cl2(Pd-106)、(2-MeOPh)3P/Pd2(dba)3及びPdCl2(Amphos)2/Pd-132から選択される。好ましくは、予め形成された金属錯体触媒は、(dtbpf)PdCl2(Pd-118)、Pd(tBu2PhP)2(Pd-122)、Pd(dppf)Cl2・CH2Cl2(Pd-106)及び(2-MeOPh)3P/Pd2(dba)3から選択される。
【0013】
アルカリ又はアルカリ塩は、Na2CO3、Cs2CO3、K3PO4、KF及びK2CO3から選択され得る。好ましくは、アルカリ塩は、K2CO3である。
【0014】
国際公開第2013/171639A1号パンフレットの実施例9には、中間体メチル6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチネートを得るために、トルエン中の予め形成された金属錯体触媒Pd(PPh3)2Cl2及びアルカリ塩K3PO4が使用される同様のプロセスがステージ9.5で記載されている。しかしながら、3kgまでスケールアップすると、合成の結果、出発材料の不完全な変換が起こり、反応を完了させるために追加量の式(3)の化合物及びK3PO4が必要とされ、したがって式(1)の化合物の大規模製造に適さなかった。
【0015】
本明細書に提供される反応は、高変換率[98%超の式(1)の化合物への変換]及び高純度[インプロセス制御(IPC)として測定される96%超の純度]を提供した。式(1)の化合物は、高収率(80%超)で得られる。
【0016】
従来技術のプロセスを上回る本プロセスの利点は、生成する副生成物と、出発材料のより完全な変換のために必要とされる触媒負荷量との低減である。したがって、本発明のプロセスは、商業的な生成を目的としてスケールアップするのに適している。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、式(4)
【化5】
の化合物又はその塩、溶媒和物、立体異性体、錯体、共結晶、エステル若しくはオキサゾリン(好ましくは、式(4)の化合物は、その遊離メチルエステル形態である)を、式(5)
【化6】
の化合物と反応させて、式(6)
【化7】
の化合物又はその塩、溶媒和物、立体異性体、錯体、共結晶、エステル若しくはオキサゾリン(好ましくは、式(6)の化合物は、その遊離カルボン酸形態である)を得るステップをさらに含む、第1の態様に従うプロセスが提供される。
【0018】
国際公開第2013/171639A1号パンフレットの実施例9には、式(4)の化合物をNMM中の6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチン酸で置き換えて、THF中のHOBt・H2O及びEDCI・HClと混ぜ合わせることによる同様のプロセスが代替のステージ9.1で記載されている。しかしながら、6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチン酸は、反応からの結晶化、抽出及び一貫性のある収率をもたらすことが困難であることが見出された。合成の結果、問題のある不純物も生じ、これは、除去することが困難であり、収率に悪影響を及ぼした。
【0019】
従来技術のプロセスを上回る本明細書に開示されるプロセスの利点は、6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチン酸の場合に見られる問題が回避され、式(6)の化合物の一貫性のある収率がもたらされることである。したがって、本発明のプロセスは、商業的な生成を目的としてスケールアップするのに適している。
【実施例】
【0020】
実施例1:ステップD2+D3→D4
【化8】
基本的手順:
トルエン(282mL)中の(R)-メチル5-ブロモ-6-(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)ニコチネート(45.6kg、D2)、1-1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-ボロン酸,ピナコールエステル(50.5kg、D3)及びK
2CO
3(41.8kg)の混合物を乾燥容器に添加した。懸濁液を攪拌し、水を添加した。PdCl
2(dtbpf)(500g)を添加し、完全な変換が達成されるまで懸濁液を約50℃で攪拌した。反応が完了したら、反応混合物にQuadraSil MPを添加した。活性炭フィルタによるろ過によって固体残渣を除去し、フィルタ残渣をトルエン、飲料水及び再度トルエンで洗浄した。有機相及び水相を分離し、水層をトルエンで洗浄した。合わせた有機層を塩化ナトリウム溶液で洗浄し、[Na
2SO
4]を用いて乾燥させ、その場で蒸発させて、メチル6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチネート(D4)が提供された。D4の収率は、約54kgD4/kgD2(約95%)であると推定された。
【0021】
実施例2:ステップD4+D5→D6
【化9】
空の容器に対して、メチルテトラヒドロフラン(344kg)中の31.6kgの4-(クロロジフルオロメトキシ)アニリンHCl(D5)の混合物に水酸化ナトリウム(15.8kg)及び水の溶液を添加し、反応混合物を約25℃で攪拌した。二相混合物を分離し、有機相を水で2回洗浄した。有機相を蒸留により濃縮した後、新しいメチルテトラヒドロフラン(2x148kg)を添加して、メチルテトラヒドロフラン中の4-(クロロジフルオロメトキシ)アニリンの濃縮溶液を得た。
【0022】
660kgのメチル6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチネート(D4)の10~20%のトルエン溶液にメチルテトラヒドロフラン(239kg)を添加し、溶液を蒸留により濃縮した。この濃縮溶液にメチルテトラヒドロフラン中のD5の148kgの濃縮溶液を添加した。得られた混合物にテトラヒドロフラン(169kg)中20%のカリウムtert-ブトキシド(258kg)を約25℃で投与した。反応が完了したら、塩化ナトリウム水溶液(602kg)を添加し、二相混合物を分離した。有機相を塩化ナトリウム(602kg)水溶液で抽出した。活性炭フィルタにより有機層をろ過した。蒸留によって溶媒をメチルテトラヒドロフランからイソプロパノールに交換した。この溶液にN-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド(0.16kg、D6)の種結晶を添加した後、n-ヘプタン(1274kg)を添加した。D6をろ過により集め、n-ヘプタン及びイソプロパノールの混合物で洗浄し、真空下で乾燥させた。D6の収率は、チャージしたD3の量に基づいて約79~87%のD6であると推定された。
【0023】
実施例3:ステップD6→A1
【化10】
メタノール(346kg)中のN-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド(39.1kg、D6)の懸濁液に37%のHCl溶液(9kg)を22℃で添加した(pH<1)。次に、この透明溶液を22℃で1時間攪拌した(IPC)。次に、混合物を30%のNaOH(4kg)でクエンチした(pH=10)。混合物に水を添加し、30%のNaOHの添加によりpHを2.5~3.0に調整した。活性炭フィルタにより溶液をろ過してから、追加の30%の水酸化ナトリウムの添加によりpHを3.0~3.5に調整した後、N-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド(0.027kg、A1)により種を入れた。約1%の水酸化ナトリウム溶液の添加により、pH7.5~9.0への最終pH調整を実施し、生成物の沈殿が生じた。懸濁液を10℃まで冷却し、攪拌した後、ろ過により生成物A1を単離し、水/メタノールの4:1混合物で洗浄し、乾燥させた。A1の収率は、約76%であると推定された。
【0024】
実施例4:A1→A1a
【化11】
N-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド(29.2kg、A1)、メタノール(190kg)及び37%の塩酸(7kg)の混合物を約50℃に加熱し、得られた溶液をろ過した。t-ブチルメチルエーテルTBME(146kg)の第1の部分と、N-(4-(クロロジフルオロメトキシ)フェニル)-6-(3-ヒドロキシピロリジン-1-イル)-5-(1H-ピラゾール-5-イル)ニコチンアミド塩酸塩の種結晶(0.26kg、A1a)とを約50℃でろ液に添加した。TBMEの第2の部分(271kg)を添加し、懸濁液を約0℃まで冷却し、攪拌して、結晶化を完了させた。ろ過によりA1aを集め、TBME(78kg)及びメタノール(9kg)の混合物で洗浄し、真空下で乾燥させた。A1aの収率は、約96%であると推定された。