(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】異方性光拡散フィルムおよび表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20250116BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G02F1/1335
(21)【出願番号】P 2022512260
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013444
(87)【国際公開番号】W WO2021200891
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020065208
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌央
(72)【発明者】
【氏名】荒島 純弥
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051639(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051700(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181853(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220775(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203644(WO,A1)
【文献】特開2015-127819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00- 5/136
G02F 1/1335
G09F 9/00
G09F 9/30
H10K50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の入射角により、(入射した光の直線方向の透過光量)/(入射した光の光量)である、直線透過率が変化する異方性光拡散フィルムであって、
前記異方性光拡散フィルムは、マトリックス領域と、当該マトリックス領域とは屈折率の異なる複数の柱状領域とを有し、
更に、前記異方性光拡散フィルムは、1つの散乱中心軸を有し、
前記散乱中心軸の傾斜方位において、
入射角60°のときの直線透過率が、10%以下であり、
入射角0°の光の、極角60°方向への拡散透過率が0.001%以上であ
り、
前記異方性光拡散フィルムのヘイズ値が、75%以上であることを特徴とする、異方性光拡散フィルム。
【請求項2】
前記異方性光拡散フィルム表面法線方向と、前記散乱中心軸方向とがなす極角を散乱中心軸角度とすると、
前記異方性光拡散フィルムの散乱中心軸角度が、20°~60°であることを特徴とする、請求項1に記載の異方性光拡散フィルム。
【請求項3】
前記異方性光拡散フィルムの厚みが、15μm~100μmであることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の異方性光拡散フィルム。
【請求項4】
前記異方性光拡散フィルムの複数の柱状領域は、
前記異方性光拡散フィルムの一方の表面から他方の表面にかけて配向、かつ、延在して構成され、
前記異方性光拡散フィルムの前記柱状領域の柱軸に垂直な断面における、前記柱状領域の平均長径/平均短径、である前記柱状領域のアスペクト比が、2未満であることを特徴とする、請求項1~
3いずれか1項に記載の異方性光拡散フィルム。
【請求項5】
液晶層よりも視認側に、請求項1~
4いずれか1項に記載の異方性光拡散フィルムが、積層されていることを特徴とする、液晶表示装置。
【請求項6】
発光層よりも視認側に、請求項1~
4いずれか1項に記載の異方性光拡散フィルムが、積層されていることを特徴とする、有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性光拡散フィルムおよび異方性光拡散フィルムを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、例えば透過型のTN方式の液晶は、特定の方位で表示装置を斜めから視認した際に、輝度やコントラストが低下したり、正面方向とは異なる色味に変化(階調反転)する、といった視角依存性に係る問題があった。
【0003】
このような視角依存性を解消するために、光の入射角により、直線透過率[(入射した光の直線方向の透過光量)/(入射した光の光量)]が変化する異方性光学体を適用することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、表示デバイスの色変化が最小となる方向と、散乱中心軸と、が特定の角度範囲である異方性光学フィルムを表示装置に用いることで、視野角による輝度と色変化の問題を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、表示装置の表示方法や表示サイズの多様化等を踏まえ、更に優れた視角依存性改善効果を有する異方性光学体が求められている。
【0007】
そこで本発明は、視野角による輝度と色変化に関して、従来よりも優れた視角依存性改善効果を有する異方性光拡散フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定の性質を有する異方性光拡散フィルムとすることで、上記課題を解決可能なことを見い出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明(1)は、
光の入射角により、(入射した光の直線方向の透過光量)/(入射した光の光量)である、直線透過率が変化する異方性光拡散フィルムであって、
前記異方性光拡散フィルムは、マトリックス領域と、当該マトリックス領域とは屈折率の異なる複数の柱状領域とを有し、
更に、前記異方性光拡散フィルムは、1つの散乱中心軸を有し、
前記散乱中心軸の傾斜方位において、
入射角60°のときの直線透過率が、10%以下であり、
入射角0°の光の、極角60°方向への拡散透過率が0.001%以上であることを特徴とする、異方性光拡散フィルムである。
本発明(2)は、
前記異方性光拡散フィルム表面法線方向と、前記散乱中心軸方向とがなす極角を散乱中心軸角度とすると、
前記異方性光拡散フィルムの散乱中心軸角度が、20°~60°であることを特徴とする、前記発明(1)に記載の異方性光拡散フィルムである。
本発明(3)は、
前記異方性光拡散フィルムのヘイズ値が、75%以上であることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)に記載の異方性光拡散フィルムである。
本発明(4)は、
前記異方性光拡散フィルムの厚みが、15μm~100μmであることを特徴とする、前記発明(1)~(3)のいずれかに記載の異方性光拡散フィルムである。
本発明(5)は、
前記異方性光拡散フィルムの複数の柱状領域は、
前記異方性光拡散フィルムの一方の表面から他方の表面にかけて配向、かつ、延在して構成され、
前記異方性光拡散フィルムの前記柱状領域の柱軸に垂直な断面における、前記柱状領域の平均長径/平均短径、である前記柱状領域のアスペクト比が、2未満であることを特徴とする、前記発明(1)~(4)のいずれかに記載の異方性光拡散フィルムである。
本発明(6)は、
液晶層よりも視認側に、前記発明(1)~(5)のいずれかに記載の異方性光拡散フィルムが、積層されていることを特徴とする、液晶表示装置である。
本発明(7)は、
発光層よりも視認側に、前記発明(1)~(5)のいずれかに記載の異方性光拡散フィルムが、積層されていることを特徴とする、有機EL表示装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、視野角による輝度と色変化に関して、従来よりも優れた視角依存性改善効果を有する異方性光拡散フィルムを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】異方性光拡散フィルムの入射光角度依存性を示した説明図である。
【
図2】異方性光拡散フィルムの表面構造を示す上面図である。
【
図3】異方性光拡散フィルムの例を示す模式図である。
【
図4】異方性光拡散フィルムにおける散乱中心軸を説明するための3次元極座標表示である。
【
図5】異方性光拡散フィルムにおける光学プロファイルである。
【
図6】異方性光拡散フィルムの入射光角度依存性測定方法を示す模式図である。
【
図7】任意工程1-3を含む本発明に係る異方性光拡散フィルムの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る異方性光拡散フィルムについて簡単に説明した後、構造、物性、製造方法、具体的な用途について説明する。
【0013】
<<<<異方性光拡散フィルム>>>>
異方性光拡散フィルムは、光の入射角により、直線透過率[(入射した光の直線方向の透過光量)/(入射した光の光量)]が変化する、光学異方性を有するフィルムである。即ち、異方性光拡散フィルムに対する入射光について、所定の角度範囲の入射光は直線性を維持して透過し、その他の角度範囲の入射光は、拡散性を示す。
【0014】
例えば、
図1に示される異方性光拡散フィルムでは、入射角が20°~50°の場合に拡散性を示し、その他の入射角では拡散性を示さず、直線透過性を示す。
【0015】
<<<構造>>>
本発明における異方性光拡散フィルムは、マトリックス領域と、マトリックス領域とは屈折率の異なる複数の柱状領域とを有する。異方性光拡散フィルムに含まれる複数の柱状領域は、通常、異方性光拡散フィルムの一方の表面から他方の表面にかけて配向、かつ、延在して構成されている(
図3等参照)。
【0016】
ここで、屈折率が異なるとは、異方性光拡散フィルムに入射した光の少なくとも一部が、マトリックス領域と、柱状領域との界面において反射が起こる程度に差異があればよく、特に限定されないが、例えば、マトリックス領域と柱状領域との屈折率の差は、0.001以上あればよい。
【0017】
<<柱状領域>>
柱状領域の長さは、特に限定されず、異方性光拡散フィルムの一方の表面から他方の表面に貫通したものでもよく、一方の表面から他方の表面に届かない長さでも良い。
【0018】
異方性光拡散フィルムに含まれる複数の柱状領域の、異方性光拡散フィルムの柱軸に垂直な断面における複数の柱状領域の断面形状は、短径と、長径とを有する形状とすることができる。
【0019】
柱状領域の断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形とすることができる。円形の場合には、短径と長径とは等しくなり、楕円形の場合には、短径は短軸の長さ、長径は長軸の長さであり、多角形の場合には、多角形内の最も短い長さを短径とし、最も長い長さを長径とすることができる。
図2に、異方性光拡散フィルムの表面方向から見た柱状領域を示す。
図2中、LAは長径を表わし、SAは短径を表わしている。
【0020】
柱状領域の短径及び長径は、異方性光拡散フィルムの、柱軸に垂直な断面を光学顕微鏡で観察し、任意に選択した20個の柱状領域についてそれぞれの短径、長径を計測し、これらの平均値とすることができる。
【0021】
<短径>
異方性光拡散フィルムは、柱状領域の短径の平均値(平均短径)が、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。一方、柱状領域の平均短径は、5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。これら柱状領域の短径の下限値及び上限値は、適宜組み合わせることができる。
【0022】
<長径>
異方性光拡散フィルムは、柱状領域の長径の平均値(平均長径)が、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。一方、柱状領域の平均長径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。柱状領域の平均長径は、柱状領域の長さよりも短いことが好ましい。このようにすることで、異方性光拡散フィルムの光の直線透過性を高くすることが可能である。これら柱状領域の長径の下限値及び上限値は、適宜組み合わせることができる。
【0023】
柱状領域の平均短径に対する平均長径の比(平均長径/平均短径)、即ち、アスペクト比は、特に限定されないが、例えば、1~20とすることができる。
【0024】
図2(a)は、柱状領域のアスペクト比が2~20の異方性光拡散フィルムを示しており、
図2(b)は、柱状領域のアスペクト比が1以上2未満の異方性光拡散フィルムを示している。
【0025】
アスペクト比が1以上2未満の場合には、柱状領域の軸方向に平行な光を照射した場合、その透過光は等方的に拡散する{
図3(a)を参照}。一方、アスペクト比が2~20の場合には、同様に軸方向に平行な光を照射した場合には、アスペクト比に応じた異方性をもって拡散する{
図3(b)を参照}。
【0026】
異方性光拡散フィルムは、1つのアスペクト比を有する複数の柱状領域を含んでもよいし、異なるアスペクト比を持つ、複数の柱状領域を含んでもよい。
【0027】
<<<散乱中心軸>>>
異方性光拡散フィルムは、散乱中心軸を有する。散乱中心軸と柱状領域の配向方向(延在方向)とは、通常、平行な関係にある。なお、散乱中心軸と柱状領域の配向方向とが平行であるとは、屈折率の法則(Snellの法則)を満たすものであればよく、厳密に平行である必要はない。
【0028】
Snellの法則は、屈折率n1の媒質から屈折率n2の媒質の界面に対して光が入射する場合、その入射光角度θ1と屈折角θ2との間に、n1sinθ1=n2sinθ2の関係が成立するものである。例えば、n1=1(空気)、n2=1.51(異方性光拡散フィルム)とすると、入射光角度が30°の場合、柱状領域の配向方向(屈折角)は約19°となるが、このように入射光角度と屈折角が異なっていてもSnellの法則を満たしていれば、本発明においては平行の概念に包含される。
【0029】
次に、
図4を参照しながら、異方性光拡散フィルムにおける散乱中心軸Pについてより詳細に説明する。
図4は、異方性光拡散フィルムにおける散乱中心軸Pを説明するための3次元極座標表示である。
【0030】
散乱中心軸は、異方性光拡散フィルムへの入射光角度を変化させた際に光拡散性がその入射光角度を境に略対称性を有する光の入射光角度と一致する方向を意味する。なお、このときの入射光角度は、異方性光拡散フィルムの直線透過率を測定し、入射光角度毎の直線透過率をプロットしたものである光学プロファイル(
図5)における極小値に挟まれた略中央部(拡散領域の中央部)となる。
【0031】
散乱中心軸は、
図4に示すような3次元極座標表示によれば、異方性光拡散フィルムの表面をxy平面とし、異方性光拡散フィルムの表面に対する法線をz軸とすると、極角θと方位角φとによって表現することができる。
【0032】
ここで、異方性光拡散フィルムの法線(
図4に示すz軸)と、柱状領域とのなす極角θ(-90°<θ<90°)を散乱中心軸角度と定義することができる。未硬化樹脂組成物層を光硬化させ柱状領域を形成させる工程において、照射する光線の方向を変えることで、柱状領域の軸方向の角度を所望の範囲に調整することができる。
【0033】
異方性光拡散フィルムの散乱中心軸角度θは、特に限定されないが、好ましくは20°~60°であり、より好ましくは20°~50°である。
【0034】
散乱中心軸角度θをこのように設定することで、所望の角度依存性を奏することが可能となる。
【0035】
<<<光学プロファイル>>>
図5に示すように、異方性光拡散フィルムは、入射光角度によって直線透過率が変化する光拡散性の入射光角度依存性を有するものである。ここで、
図5のように光拡散性の入射光角度依存性を示す曲線を以下、「光学プロファイル」と称する。
【0036】
光学プロファイルは、例えば以下のようにして作成できる。
【0037】
図6に示すように、異方性光拡散フィルムを光源1と検出器2との間に配置する。本形態においては、光源1からの照射光Iが、異方性光拡散フィルムの法線方向から入射する場合を入射光角度0°とした。また、異方性光拡散フィルムは直線Vを回転軸として、任意に回転させることができるように配置され、光源1及び検出器2は固定されている。すなわち、この方法によれば、光源1と検出器2との間にサンプル(異方性光拡散フィルム)を配置し、サンプル表面の直線Vを回転軸として角度を変化させながらサンプルを直進透過して検出器2に入る直線透過率を測定する。その後、この直線透過率を角度ごとにプロットし、光学プロファイルを作成する。
【0038】
光学プロファイルは、光拡散性を直接的に表現しているものではないが、直線透過率が低下することで、逆に拡散透過率が増大していると解釈すれば、概ね光拡散性を示しているといえる。
【0039】
通常の等方的な光拡散フィルムでは、0°付近の入射光角度をピークとする、山型の光学プロファイルを示す。
【0040】
異方性光拡散フィルムでは、例えば、散乱中心軸角度を0°とすると(
図5)、0°付近(-20°~+20°)の入射光角度で直線透過率が小さく、入射光角度(の絶対値)が大きくなるにつれて直線透過率が大きくなる谷型の光学プロファイルを示す。
【0041】
このように、異方性光拡散フィルムは、入射光が散乱中心軸に近い入射光角度範囲では強く拡散されるが、それ以上の入射光角度範囲では拡散が弱まり直線透過率が高まるという性質を有する。
【0042】
散乱中心軸角度が0°以外の場合には、散乱中心軸角度付近の入射光角度で直線透過率が小さくなるように光学プロファイルが移動する(光学プロファイルの谷部が散乱中心軸角度側に移動する)。
【0043】
<<<直線透過率>>>
図5に示すように、直線透過率が最大となる入射角で異方性光拡散フィルムに入射した光の直線透過率を、最大直線透過率と称する。
【0044】
図5に示すように、直線透過率が最小となる入射角で異方性光拡散フィルムに入射した光の直線透過率を、最少直線透過率と称する。
【0045】
図5に示すように、最大直線透過率と最小直線透過率との中間値の直線透過率に対する2つの入射光角度の角度範囲を拡散領域(この拡散領域の幅を「拡散幅」)と称し、それを除く入射光角度範囲を非拡散領域(透過領域)と称する。
【0046】
異方性光拡散フィルムの散乱中心軸の傾斜方位における入射角60°のときの直線透過率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2.5%未満であることが特に好ましい。
【0047】
直線透過率は、異方性光拡散フィルムの材料の屈折率(複数の樹脂を用いる場合はその屈折率差)や塗膜の膜厚、UV照度や構造形成時の温度、UV照射する際の照射角度などの硬化条件によって調整することができる。入射角60°のときの直線透過率は、例えば、UV照射を行う際、照射角度が塗膜の法線方向から遠く、塗膜の膜厚が厚く、塗膜の温度が高く、複数の樹脂を用いる場合の屈折率差が大きいほど、減少する傾向にある。
【0048】
<<<入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率>>>
異方性光拡散フィルムの一方の面の法線方向(入射角=0°)に光源を配置し、他方の面に検出器を配置する。検出器側の法線方向を極角θ=0°とし、検出器の極角を変角させながら輝度を測定した。拡散透過率は、異方性光拡散フィルムを用いないときの法線方向(極角θ=0°)における輝度を100%とする相対値とした。
【0049】
異方性光拡散フィルムの入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率は、0.001%以上であることが好ましい。なお、この上限値は特に限定されないが、0.01%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
【0050】
異方性光拡散フィルムの入射角60°のときの直線透過率を上述した適切な範囲としつつ、異方性光拡散フィルムの入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率をこのような範囲とすることで、視野角80°程度まで十分に光を拡散することができる。
【0051】
異方性光拡散フィルムの入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率は、UV照射を行う際、塗膜の膜厚が厚く、塗膜の温度が高いほど、増加する傾向にある。また、塗膜にUV照射を行う際、照射角度が、塗膜の法線方向から20°~60°である場合に、上記数値範囲を満たしやすい。
【0052】
<<<ヘイズ値>>>
異方性光拡散フィルムのヘイズ値(全ヘイズ)は、異方性光拡散フィルムの拡散性を示す指標である。ヘイズ値が大きくなると、異方性光拡散フィルムの拡散性が高くなる。
【0053】
ヘイズ値の測定方法は、特に限定されず、公知の方法で測定することができる。例えば、JIS K7136-1:2000「プラスチック-透明材料のヘイズの求め方」によって測定することができる。
【0054】
異方性光拡散フィルムヘイズ値は、特に限定されないが、75%以上が好ましい。このような範囲とすることで、本発明の効果をより高めることができる。
【0055】
ヘイズ値は、異方性光拡散フィルムの材料の屈折率(複数の樹脂を用いる場合はその屈折率差)や塗膜の膜厚、UV照度や構造形成時の温度などの硬化条件によって調整することができる。ヘイズ値は、例えば、UV照射を行う際、照射角度が未塗膜の法線方向に近く、塗膜の層厚が厚く、塗膜の温度が高く、複数の樹脂を用いる場合の屈折率差が大きいほど、増加する傾向にある。
【0056】
<<厚み>>
異方性光拡散フィルムの厚みは、特に限定されないが、好ましくは15μm~100μmであり、より好ましくは30μm~60μmである。このような範囲とすることで、材料費やUV照射に要する費用等の製造コストを低減させつつ、視覚依存性改善効果を十分なものとすることができる。
【0057】
以下、異方性光拡散フィルムの製造方法について説明する。
【0058】
<<<異方性光拡散フィルムの製造>>>
<<原料>>
異方性光拡散フィルムの原料について、(1)光重合性化合物、(2)光開始剤、(3)配合量、その他任意成分の順に説明する。
【0059】
<光重合性化合物>
光重合性化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するマクロモノマー、ポリマー、オリゴマー、モノマーから選択される光重合性化合物と光開始剤とから構成され、紫外線及び/又は可視光線を照射することにより重合・硬化する材料である。
【0060】
ここで、異方性光拡散フィルムを形成する材料が1種類であっても、密度の高低差ができることによって屈折率差が生ずる。UVの照射強度が強い部分は硬化速度が早くなるため、その硬化領域周囲に重合・硬化材料が移動し、結果として屈折率が高くなる領域と屈折率が低くなる領域が形成されるからである。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートのどちらであってもよいことを意味する。
【0061】
ラジカル重合性化合物は、主に分子中に1個以上の不飽和二重結合を含有するもので、具体的には、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート等の名称で呼ばれるアクリルオリゴマーと、2-エチルヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソノルボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシフタル酸、ジシクロペンテニルアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のアクリレートモノマーが挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。なお、同様にメタクリレートも使用可能であるが、一般にはメタクリレートよりもアクリレートの方が、光重合速度が速いので好ましい。
【0062】
カチオン重合性化合物としては、分子中にエポキシ基やビニルエーテル基、オキセタン基を1個以上有する化合物が使用できる。エポキシ基を有する化合物としては、2-エチルヘキシルジグリコールグリシジルエーテル、ビフェニルのグリシジルエーテル、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラック、オルトクレゾールノボラック等のノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのEO付加物、ビスフェノールAのPO付加物等のアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステルやダイマー酸のジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0063】
エポキシ基を有する化合物としてはさらに、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ジ(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレングリコールのジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)ブタンテトラカルボキシレート、ジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)-4,5-エポキシテトラヒドロフタレート等の脂環式エポキシ化合物も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
ビニルエーテル基を有する化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、ビニルエーテル化合物は、一般にはカチオン重合性であるが、アクリレートと組み合わせることによりラジカル重合も可能である。
【0065】
又、オキセタン基を有する化合物としては、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)-オキセタン等が使用できる。
【0066】
なお、以上のカチオン重合性化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。上記光重合性化合物は、上述に限定されるものではない。
【0067】
また、十分な屈折率差を生じさせるべく、上記光重合性化合物には、低屈折率化を図るために、フッ素原子(F)を導入しても良く、高屈折率化を図るために、硫黄原子(S)、臭素原子(Br)、各種金属原子を導入しても良い。さらに、特表2005-514487号公報に開示されるように、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化錫(SnOx)等の高屈折率の金属酸化物からなる超微粒子の表面に、アクリル基やメタクリル基、エポキシ基等の光重合性官能基を導入した機能性超微粒子を上述の光重合性化合物に添加することも有効である。
【0068】
光重合性化合物として、シリコーン骨格を有する光重合性化合物を使用することが好ましい。シリコーン骨格を有する光重合性化合物は、その構造(主にエーテル結合)に伴い配向して重合・硬化し、低屈折率領域、高屈折率領域、又は、低屈折率領域及び高屈折率領域を形成する。シリコーン骨格を有する光重合性化合物を使用することによって、柱状領域を傾斜させやすくなり、正面方向への集光性が向上する。なお、低屈折率領域は柱状領域又はマトリックス領域のいずれか一方に相当するものであり、他方が高屈折率領域に相当する。
【0069】
低屈折率領域において、シリコーン骨格を有する光重合性化合物の硬化物であるシリコーン樹脂が相対的に多くなることが好ましい。これによって、散乱中心軸をさらに傾斜させやすくすることができるため、正面方向への集光性が向上する。シリコーン樹脂は、シリコーン骨格を有さない化合物に比べ、ケイ素(Si)を多く含有するため、このケイ素を指標として、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を使用することによってシリコーン樹脂の相対的な量を確認することができる。
【0070】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物は、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマー又はマクロモノマーである。ラジカル重合性の官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基等が挙げられ、カチオン重合性の官能基としては、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。これらの官能基の種類と数に特に制限はないが、官能基が多いほど架橋密度が上がり、屈折率の差が生じやすいため好ましいことから、多官能のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有することが好ましい。又、シリコーン骨格を有する化合物はその構造から他の化合物との相溶性において不十分なことがあるが、そのような場合にはウレタン化して相溶性を高めることができる。本形態では、末端にアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートが好適に用いられる。
【0071】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物の重量平均分子量(Mw)は、500~50,000の範囲にあることが好ましい。より好ましくは2,000~20,000の範囲である。重量平均分子量が上記範囲にあることにより、十分な光硬化反応が起こり、異方性光拡散フィルム0の各異方性光拡散フィルム内に存在するシリコーン樹脂が配向しやすくなる。シリコーン樹脂の配向に伴い、散乱中心軸を傾斜させやすくなる。
【0072】
シリコーン骨格としては、例えば、下記の一般式(1)で示されるものが該当する。一般式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、メチル基、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ポリエーテル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の官能基を有する。又、一般式(1)中、nは1~500の整数であることが好ましい。
【0073】
【0074】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物にシリコーン骨格を有さない化合物を配合して、異方性光拡散フィルムを形成すると、低屈折率領域と高屈折率領域が分離して形成されやすくなり、異方性の程度が強くなり好ましい。
【0075】
シリコーン骨格を有さない化合物は、光重合性化合物のほかに熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を用いることができ、これらを併用することもできる。
【0076】
光重合性化合物としては、ラジカル重合性又はカチオン重合性の官能基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーを使用することができる(ただし、シリコーン骨格を有していないものである)。
【0077】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂とその共重合体や変性物が挙げられる。熱可塑性樹脂を用いる場合においては熱可塑性樹脂が溶解する溶剤を使用して溶解し、塗布、乾燥後に紫外線でシリコーン骨格を有する光重合性化合物を硬化させて異方性光拡散フィルムを成形する。
【0078】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステルとその共重合体や変性物が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合においては、紫外線でシリコーン骨格を有する光重合性化合物を硬化させた後に適宜加熱することで、熱硬化性樹脂を硬化させて異方性光拡散フィルムを成形する。
【0079】
シリコーン骨格を有さない化合物として最も好ましいのは光重合性化合物であり、低屈折率領域と高屈折率領域が分離しやすいことと、熱可塑性樹脂を用いる場合の溶剤が不要で乾燥過程が不要であること、熱硬化性樹脂のような熱硬化過程が不要であることとなど、生産性に優れている。
【0080】
<光開始剤>
ラジカル重合性化合物を重合させることのできる光開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパノン-1、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(ピル-1-イル)フェニル]チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0081】
カチオン重合性化合物の光開始剤は、光照射によって酸を発生し、この発生した酸により上述のカチオン重合性化合物を重合させることができる化合物であり、一般的には、オニウム塩、メタロセン錯体が好適に用いられる。
【0082】
オニウム塩としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩等が使用され、これらの対イオンには、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-等のアニオンが用いられる。具体例としては、4-クロロベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド-ビス-ヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート、(4-メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メトキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェート、(η5-イソプロピルベンゼン)(η5-シクロペンタジエニル)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、これらの化合物は、各単体で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0083】
光開始剤は、光重合性化合物100質量部に対して、0.01~10質量部、好ましくは0.1~7質量部、より好ましくは0.1~5質量部程度配合される。これは、0.01質量部未満では光硬化性が低下し、10質量部を超えて配合した場合には、表面だけが硬化して内部の硬化性が低下してしまう弊害、着色、柱状構造の形成の阻害を招くからである。
【0084】
<その他の成分>
光開始剤は、通常粉体を光重合性化合物中に直接溶解して使用されるが、溶解性が悪い場合は光開始剤を予め極少量の溶剤に高濃度に溶解させたものを使用することもできる。このような溶剤としては光重合性であることがさらに好ましく、具体的には炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。又、光重合性を向上させるために公知の各種染料や増感剤を添加することも可能である。
【0085】
さらに、光重合性化合物を加熱により硬化させることのできる熱硬化開始剤を光開始剤と共に併用することもできる。この場合、光硬化の後に加熱することにより光重合性化合物の重合硬化をさらに促進し完全なものにすることが期待できる。光重合性化合物を単独で、又は複数を混合した組成物を硬化させて、異方性光拡散フィルムを形成することができる。
【0086】
光重合性化合物と光硬化性を有しない高分子樹脂の混合物を硬化させることによっても異方性光拡散フィルム形成することができる。
【0087】
ここで使用できる高分子樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-アクリル共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これらの高分子樹脂と光重合性化合物は、光硬化前は十分な相溶性を有していることが必要であるが、この相溶性を確保するために各種有機溶剤や可塑剤等を使用することも可能である。
【0088】
光重合性化合物としてアクリレートを使用する場合は、高分子樹脂としてはアクリル樹脂から選択することが相溶性の点で好ましい。
【0089】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物と、シリコーン骨格を有さない化合物の比率は質量比で15:85~85:15の範囲にあることが好ましい。より好ましくは30:70~70:30の範囲である。当該範囲にすることによって、低屈折率領域と高屈折率領域の相分離が進みやすくなるとともに、柱状領域が傾斜しやすくなる。シリコーン骨格を有する光重合性化合物の比率が下限値未満又は上限値超であると、相分離が進みにくくなってしまい、柱状領域が傾斜しにくくなる。
【0090】
シリコーン骨格を有する光重合性化合物としてシリコーン・ウレタン・(メタ)アクリレートを使用すると、シリコーン骨格を有さない化合物との相溶性が向上する。これによって、材料の混合比率を幅広くしても柱状領域を傾斜させることができる。
【0091】
光重合性化合物を含む組成物を調製する際の溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等を使用することができる。
【0092】
<<製造プロセス>>
次に、異方性光拡散フィルムの製造プロセスについて説明する。
【0093】
まず、上述の光重合性化合物を含む組成物(以下、「光硬化樹脂組成物」と称する場合がある。)を、透明PETフィルムのような適当な基体上に塗布してシート状に設け、成膜して光硬化樹脂組成物層を設ける。この光硬化樹脂組成物層を、必要に応じて乾燥し溶剤を揮発させた上で、光硬化樹脂組成物層上に、光を照射することで、異方性光拡散フィルムを作製することができる。
【0094】
より具体的には、異方性光拡散フィルムの形成工程は、主に、以下の工程を有するものである。
(1)工程1-1:未硬化樹脂組成物層を基体上に設ける工程
(2)工程1-2:光源から平行光線を得る工程
(3)任意工程1-3:指向性をもった光線を得る工程
(4)工程1-4:未硬化樹脂組成物層を硬化させる工程
【0095】
<工程1-1:未硬化樹脂組成物層を基体上に設ける工程>
光硬化樹脂組成物を、基体上に、シート状に、未硬化樹脂組成物層として設ける手法は、通常の塗工方式や印刷方式が適用される。具体的には、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティングや、グラビア印刷等の凹版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷等が使用できる。組成物が低粘度の場合は、基体の周囲に一定の高さの堰を設けて、この堰で囲まれた中に組成物をキャストすることもできる。
【0096】
工程1-1において、未硬化樹脂組成物層の酸素阻害を防止して、異方性光拡散フィルムの特徴である柱状領域を効率良く形成させるために、未硬化樹脂組成物層の光照射側に密着して光の照射強度を局所的に変化させるマスクを積層することも可能である。
【0097】
マスクの材質としては、カーボン等の光吸収性のフィラーをマトリックス中に分散したもので、入射光の一部はカーボンに吸収されるが、開口部は光が十分に透過できるような構成のものが好ましい。このようなマトリックスとしては、PET、TAC、PVAc、PVA、アクリル、ポリエチレン等の透明プラスチックや、ガラス、石英等の無機物や、これらのマトリックスを含むシートに紫外線透過量を制御するためのパターニングや紫外線を吸収する顔料を含んだものであっても構わない。
【0098】
このようなマスクを用いない場合には、窒素雰囲気下で光照射を行うことで、未硬化樹脂組成物層の酸素阻害を防止することも可能である。また、通常の透明フィルムを未硬化樹脂組成物層上に積層するだけでも、酸素阻害を防ぎ柱状領域の形成を促す上で有効である。このようなマスクや透明フィルムを介した光照射では、光重合性化合物を含む組成物中に、その照射強度に応じた光重合反応を生じるため、屈折率分布を生じ易く、本形態に係る異方性光拡散フィルムの作製に有効である。
【0099】
<工程1-2:光源から平行光線を得る工程>
光源としては、通常はショートアークの紫外線発生光源が使用され、具体的には高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタハライドランプ、キセノンランプ等が使用可能である。このとき、所望の散乱中心軸と平行な光線を得る必要があるが、このような平行光線は、例えば点光源を配置して、この点光源と未硬化樹脂組成物層の間に平行光線を照射するためのフレネルレンズ等の光学レンズを配置する他、光源の背後に反射鏡を配置して、所定の方向に点光源として光が出射するようにすること等で、得ることができる。
【0100】
<任意工程1-3:指向性をもった光線を得る工程>
任意工程1-3は、平行光線を指向性拡散素子に入射させ、指向性をもった光線を得る工程である。
図7は、任意工程1-3を含む本発明に係る異方性光拡散フィルムの製造方法を示す模式図である。
【0101】
任意工程1-3で用いられる指向性拡散素子301及び302は、光源300から入射した平行光線Dに指向性を付与するものであればよい。
【0102】
図7においては指向性をもった光Eが、X方向に多く拡散し、Y方向にはほとんど拡散しない態様にて、未硬化樹脂組成物層303に入射することを記載している。このように指向性をもった光を得るためには、例えば、指向性拡散素子301及び302内に、アスペクト比の高い針状フィラーを含有させるとともに、当該針状フィラーをY方向に長軸方向が延存するように配向させる方法を採用することができる。指向性拡散素子301及び302は、針状フィラーを使用する方法以外に、種々の方法を使用することができる。
【0103】
ここで、指向性をもった光Eのアスペクト比は、2~20とすることが好ましい。当該アスペクト比にほぼ対応した、アスペクト比を有する柱状領域が形成される。上記アスペクト比の上限値は、10以下であることがより好ましく、5以下であることがより好ましい。アスペクト比が20超では、干渉虹やギラツキを生じるおそれがある。
【0104】
任意工程1-3においては、指向性をもった光Eの広がりを調整することにより、形成される柱状領域の大きさ(アスペクト比、短径SA、長径LA等)を適宜定めることができる。例えば、
図7(a)、(b)のいずれにおいても、本形態の異方性光拡散フィルムを得ることができる。
図7(a)と(b)で異なるのは、指向性をもった光Eの広がりが、(a)では大きいのに対し(b)では小さいことである。指向性をもった光Eの広がりの大きさに依存して、柱状領域の大きさが異なることとなる。
【0105】
指向性をもった光Eの広がりは、主に指向性拡散素子301及び302の種類と、未硬化樹脂組成物層303との距離に依存する。当該距離を短くするにつれ柱状領域の大きさは小さくなり、長くするにつれ柱状領域の大きさは大きくなる。従って、当該距離を調整することにより、柱状領域の大きさを調整することができる。
【0106】
<工程1-4:未硬化樹脂組成物層を硬化させる工程>
未硬化樹脂組成物層に照射して、未硬化樹脂組成物層を硬化させる光線は、光重合性化合物を硬化可能な波長を含んでいることが必要で、通常は水銀灯の365nmを中心とする波長の光が利用される。この波長帯を使って異方性光拡散フィルムを作製する場合、照度としては0.01mW/cm2~100mW/cm2の範囲が好ましく、0.1mW/cm2~20mW/cm2 がより好ましい。照度が0.01mW/cm2未満であると、硬化に長時間を要するため、生産効率が悪くなり、100mW/cm2を超えると、光重合性化合物の硬化が速すぎて構造形成を生じず、目的の光学特性を発現できなくなるからである。
【0107】
なお、光の照射時間は特に限定されないが、10秒間~180秒間が好ましく、30秒間~120秒間がより好ましい。上記光線を照射することで、本形態の異方性光拡散フィルムを得ることができる。
【0108】
異方性光拡散フィルムは、上述の如く、低照度の光を比較的長時間照射することにより、未硬化樹脂組成物層中に、特定の内部構造が形成されることで得られるものである。そのため、このような光照射だけでは未反応のモノマー成分が残存して、べたつきを生じたりしてハンドリング性や耐久性に問題がある場合がある。そのような場合は、1000mW/cm2以上の高照度の光を追加照射して残存モノマーを重合させることができる。このときの光照射はマスクを積層した側の逆側から行ってもよい。
【0109】
前述したように、未硬化樹脂組成物層を硬化させる際に、未硬化樹脂組成物層に照射される光の角度を調整することにより、得られる異方性光拡散フィルムの散乱中心軸を所望のものとすることができる。また、未硬化樹脂組成物層は、30℃~100℃の範囲で調整されることが好ましい。
【0110】
<<<<異方性光拡散フィルムの用途>>>>
異方性光拡散フィルムは、視角依存性改善効果に優れることから、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマディスプレイ等のあらゆる表示装置に適用することができる。異方性光拡散フィルムは、視角依存性の問題が生じ易いTN方式の液晶においても特に好ましく使用することができる。
【0111】
ここで、本発明によれば、液晶層と、異方性光拡散フィルムと、を含む液晶表示装置を提供することが可能である。この場合、異方性光拡散フィルムは、液晶層よりも視認側に設けられている。液晶表示装置は、TN方式、VA方式、IPS方式などのいずれでもよい。より具体的には、一般的な液晶装置は、表示装置から視認側に向かって、光源、偏光板、透明電極付きガラス基板、液晶層、透明電極付きガラス基板、カラーフィルター、偏光板の順番で積層された層構造を有し、また、適宜の機能層を更に有するが、異方性光拡散フィルムは、液晶層よりも視認側となるいずれの箇所に設けられていてもよい。
【0112】
また、本発明によれば、発光層と、異方性光拡散フィルムと、を含む有機EL表示装置を提供することが可能である。この場合、異方性光拡散フィルムは、発光層(発光層に接続された電極を含む。)よりも視認側に設けられている(積層されている)。有機EL表示装置は、トップエミッション方式、ボトムエミッション方式のいずれでもよいし、また、カラーの有機EL表示装置である場合には、RGB塗り分け方式、カラーフィルター方式のいずれでもよい。また、有機EL表示は、更に多層化されたものであってもよい。
【実施例】
【0113】
<<<実施例>>>
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0114】
<異方性光学フィルム>
厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡社製、商品名:A4300)の縁部全周に、ディスペンサーを使い、硬化性樹脂で高さ40~60μmの隔壁を形成した。この中に下記の紫外線硬化樹脂組成物を滴下し、別のPETフィルムでカバーした。
【0115】
・シリコーン・ウレタン・アクリレート(屈折率:1.460、重量平均分子量:5890)20重量部
(RAHN社製、商品名:00-225/TM18)
・ネオペンチルグリコールジアクリレート(屈折率:1.450) 30重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名Ebecryl145)
・ビスフェノールAのEО付加物ジアクリレート(屈折率:1.536) 15重量部
(ダイセルサイテック社製、商品名Ebecryl150)
・フェノキシエチルアクリレート(屈折率1.518) 40重量部
(共栄社化学製、商品名:ライトアクリレートPО-A)
・2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン 4重量部
(BASF社製、商品名:Irgacure651)
【0116】
この両面をPETフィルムで挟まれた40~60μmの厚さの液膜に対して、UVスポット光源(浜松ホトニクス社製、商品名:L2859-01)の落射用照射ユニットから、照射強度10~100mW/cm2の平行光線である紫外線を照射した。このとき、照射角度や液膜の厚さ、UV照度、平行光線照射時の液膜温度などのパラメータを変えることで、表1の光学特性を有する実施例の異方性光拡散フィルム1~5および比較例の異方性光拡散フィルム6~10を得た。
【0117】
<異方性光拡散フィルムの厚みの測定>
実施例で得られた異方性光拡散フィルムに対し、ミクロトームを用いて断面を形成した後、この断面を光学顕微鏡で観察して10箇所における厚さを測定し、それら測定値の平均値を、異方性光拡散フィルムの厚みとした。
【0118】
<異方性光拡散フィルムの散乱中心軸角度及び直線透過率の測定>
図6に示すような、光源の投光角、検出器の受光角を任意に可変できる変角光度計ゴニオフォトメータ(ジェネシア社製)を用いて、表1に示す実施例の異方性光拡散フィルムの直線透過率の測定を行った(入射角60°のときの直線透過率を含む)。光源からの直進光を受ける位置に検出器を固定し、その間のサンプルホルダーに実施例で得られた異方性光拡散フィルムをセットした。
図6に示すように回転軸(V)としてサンプルを回転させてそれぞれの入射光角度に対応する直線透過率を測定した。この評価方法によって、どの角度の範囲で入射される光が拡散するかを評価することができる。この回転軸(V)は、散乱中心軸の傾斜方位に垂直な異方性光拡散フィルム上の線である。直線透過光率の測定は、視感度フィルターを用いて可視光領域の波長において測定した。以上のような測定の結果得られた光学プロファイルに基づき、直線透過率の最大値(最大直線透過率)及び最小値(最小直線透過率)と、該光学プロファイルにおける最小値に挟まれた略中央部(拡散領域の中央部)より散乱中心軸の角度とを求め、表1にまとめた。
【0119】
<入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率の測定>
変角光度計ゴニオフォトメータ(ジェネシア社製)を用いて、表1に示す実施例の異方性光拡散フィルムの入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率を測定した。具体的には、サンプルホルダーに実施例で得られた異方性光学フィルムをセットし、異方性光拡散フィルムの一方の面の法線方向(入射角=0°)に光源を配置し、他方の面に検出器を配置する。検出器側の法線方向を極角θ=0°とし、検出器の極角を変角させながら輝度を測定した。拡散透過率は、異方性光拡散フィルムを用いないときの法線方向(極角θ=0°)における輝度を100%とする相対値とした。得られた拡散透過率を表1に示した。
【0120】
<柱状構造体のアスペクト比の測定(異方性光拡散フィルムの表面観察)>
実施例で得られた異方性光拡散フィルムの柱軸に垂直な断面(紫外線照射時の照射光側)を光学顕微鏡で観察し、柱状領域における柱状構造体の長径LA及び短径SAを測定した。平均長径LA及び平均短径SAの算出には、任意の20の構造のうちの平均値とした。また、求めた平均長径LA及び平均短径SAに対し、平均長径LA/平均短径SAをアスペクト比として算出し、表1にまとめた。
【0121】
<異方性光拡散フィルムのヘイズの測定>
ヘイズメーターNDH-2000(日本電色工業製)を用いて、実施例で得られた異方性光拡散フィルムのヘイズの測定を行い、表1にまとめた。
【0122】
【0123】
<<評価方法>>
上記の実施例1~5および比較例1~5で作製した異方性光拡散フィルムに関し、以下の様にして評価を行った。
【0124】
<階調反転の評価>
異方性光拡散フィルムを、TNモードの液晶ディスプレイ表面に、液晶ディスプレイの階調反転が生じる方位と異方性光拡散フィルムaの散乱中心軸の傾斜方位となす角が0°となるように貼合した。
続いて、視野角測定装置Conometer80(Westboro社製)を用いて、ディスプレイに白から黒までを11階調に分けたグレースケールをそれぞれ表示したときの、ディスプレイの法線方向に対する極角0~80°範囲における輝度分布を測定した。
液晶ディスプレイ単体において階調反転が生じる方位の極角80°における「白輝度/黒輝度」を算出し、コントラストとした。また、液晶ディスプレイ単体において階調反転が生じる方位において、測定した11階調が本来の階調と逆転する最小の極角を階調反転角度とした。これを表2にまとめた。
ここで、異方性光拡散フィルムを貼り付けていない、ディスプレイのみの評価では、コントラストは8.0で、階調反転角度は28°であった。
【0125】
<階調反転の判定基準>
階調反転角度が65°以上を◎、52°以上65°未満を○、52°未満を×とした。
【0126】
<極角80°コントラストの判定基準>
コントラスト11以上を◎、9以上11未満を○、9未満を×とした。
【0127】
【0128】
<<評価結果>>
実施例1~5に示されるとおり、所定の異方性光拡散フィルムを用いた本発明の階調反転改善効果や80°でのコントラストは、比較例1~5と比較して優れている。
比較例1および3は、入射角60°のときの直線透過率が高く、また、入射角0°の光の、散乱中心軸の傾斜方位における極角60°方向への拡散透過率も低いため、階調反転した光が出射される60°方向の光を拡散することができないと共に、正しい階調の0°方向の光も極角が大きい角度へ拡散することもできていない。比較例2は、当該拡散透過率は十分であるものの、当該直線透過率が不十分であり、逆に比較例4および5は、当該直線透過率は十分だが、当該拡散透過率が不十分であるために、いずれも階調反転角度が小さい。
【0129】
本発明は、特定の拡散特性を有する拡散媒体として、特定の異方性光拡散フィルムを用いることで、本評価結果を得ることができたものと考えられる。
【0130】
従って、実施例の光拡散フィルムを、例えばTN液晶表示装置に用いた場合に、階調反転を抑え、深い角度におけるコントラストを向上させることができるため、通常では視認が困難な方位においても視認性を確保することができる。