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特許7620645分縮を伴う熱クラッキングによってアクリル酸及び前記酸のエステルから重質副産物を回収する方法
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  • 特許-分縮を伴う熱クラッキングによってアクリル酸及び前記酸のエステルから重質副産物を回収する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】分縮を伴う熱クラッキングによってアクリル酸及び前記酸のエステルから重質副産物を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/327 20060101AFI20250116BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C07C67/327
C07C69/54 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022570177
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 FR2021050825
(87)【国際公開番号】W WO2021234249
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】2005057
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フォーコネ, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】サンドレ, フレデリック
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-171342(JP,A)
【文献】特開平08-225486(JP,A)
【文献】特開2003-226669(JP,A)
【文献】特開2003-252832(JP,A)
【文献】特開2007-182437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0245763(US,A1)
【文献】米国特許第08927746(US,B1)
【文献】米国特許第03086046(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸の生産のためのユニットから生じた重質副産物、及びRがC~Cアルキル基である式CH=CH-C(=O)-ORのアクリル酸エステルの生産のためのユニットから生じた重質副産物の混合物の再生の方法であって、前記方法が、以下の
i.前記混合物を反応器中へ導入し、熱クラッキングに供し、気体上部流及び重質生産物中に濃縮された下部流(残留物)を生成する段階、
ii.前記上部流を分縮に供し、その結果、アクリル酸、アクリル酸エステル及びアルコールR-OHを含有する上部流が得られ、下部流が得られる段階、
iii.除去処理の目的のために前記残留物を回収する段階
を含む方法。
【請求項2】
段階i)及びii)が、同じ絶対圧で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階i)及びii)が、200と2000hPaの間の同じ絶対圧で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クラッキング温度が、140℃と260℃の間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
クラッキング反応器における反応混合物の滞留時間が、0.5時間と10時間の間である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
熱クラッキング操作の結果得られた反応器からの下部流(残留物)が、100℃で測定された動的粘度1Pa・s未満を示す、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分縮器からの下部流が、反応器へ少なくとも部分的にリサイクルされる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分縮器から得られる、アクリル酸、アクリル酸エステル及びアルコールR-OHを含有する前記上部流が、アクリル酸エステルの製造のためのユニットへリサイクルされる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分縮器から得られる、アクリル酸、アクリル酸エステル及びアルコールR-OHを含有する前記上部流が、第2の凝縮器における凝縮後に、液体形態で、アクリル酸エステルの製造のためのユニットへリサイクルされる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エステルがエチルアクリレートであり、アルコールがエタノールである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
凝縮器に入る気体流に対する凝縮流の重量比率が、5%と50%の間である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
凝縮器に入る気体流に対する凝縮流の重量比率が、10%と40%の間である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
AA重質生産物/AE重質生産物の重量比率が、3/7と9/1の間である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
AA重質生産物/AE重質生産物の重量比率が、1/1と9/1の間である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの重合阻害剤が、分縮器で導入される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
熱クラッキング反応が、触媒の不在下で起こる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
熱クラッキング反応が、硫酸、スルホン酸、リン酸、ゼオライト、アルミナ、シリカ及びアルミナをベースとする触媒、チタネート、塩基、アルカリ金属、アルカリ金属塩、アミン、ホスフィン、又はそれらの組合せから選択される触媒の存在下で起こる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸エステルの生産のためのプラントにおいて副産物をリサイクルすることを目的とした、アクリル酸の生産のためのユニット及びアクリル酸エステルの生産のためのユニットからもたらされた重質副産物(残留物)の混合物を熱クラッキングによって再生して、アクリル酸(AA)、アクリル酸エステル(AE)及びアルコールを得る結果をもたらす改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留段階の間の温度の影響下で、アクリル酸及びアクリル酸エステルの製造には、マイケル反応によって、不飽和カルボニル含有モノマーの二重結合への求核性を有する化合物の付加の誘導体、重質化合物の形成が付随して起こる。「重質」化合物は、製造されたアクリル系モノマーより高い沸点を有する化合物のことである。
【0003】
クラッキングによって産生されたアクリル系モノマー及びアルコールが豊富な画分がエバポレートされた場合、AA及びアクリル酸エステルプラントからの重質流の中に含有されるマイケル反応から誘導された化合物の再生の効率を限定する主な要因は、クラッキング器底部で得られた重質残留物の粘度の増加である。
【0004】
クラッキングの間の軽質化合物のエバポレーションは、残留物流における重質生産物の濃縮及びこの流れの粘度の増加をもたらす。しかし、残留物は、輸送され、次に破壊の目的で処理されるために、冷却後十分に流動的なままでなければならない。
【0005】
EP717031文書において、クラッキングがAAの生産のためのユニットから及びアクリル酸エステルの生産のためのユニットから生じた重質生産物の混合物から出発して実行される場合、これらのユニットからの重質流の個別のクラッキングと比較して、これらの品質改良可能な不活性生産物の回収の効率を改良することが可能であることが示された。エステルユニットから生じた重質生産物のAAユニットから生じた重質生産物への付加の効果は、最終残留物の粘度を削減することである。クラッキング反応は、0.5から3時間の滞留時間、大気圧下、180から220℃の温度で、AA重質生産物/エステル重質生産物の比率、9/1から1/9を有する混合物から出発して実行される。この方法において、産生された軽質化合物のクラッキング及びエバポレーションは、反応器中で実行され、次に、産生された気体流は、蒸留カラム中へ送られ、最終的に、蒸留カラムからの下部流は、反応器へリサイクルされる。その一方で、クラッキングによって得られた軽質画分は、重合に特に感受性が高い、AA及びエステルのアクリル系モノマーから主になるので、蒸留段階は、カラム中でのポリマーの形成を防ぐために、温度を低下させるように、減圧下で必ず実行されなければならない。さらに、蒸留カラムの精留プレートは、気体混合物中に同伴される重合阻害剤の効率的な分離をもたらし、重合阻害剤はカラム底部へ逆流し、結果的に、カラムの上方部でのポリマーの形成を防ぐために、カラム頭部で新たな重合阻害剤を導入することが必要である。この理由から、より高い圧力下で実行される反応段階及び減圧下で実行される蒸留段階は、分離されなければならない。したがって、方法を実行するための設備は、同じ圧力で操作される反応器及び頭部凝縮器、並びに底部にボイラー及び頭部に凝縮器、還流装備品及び阻害剤の供給口を含む、凝縮された生産物を供給され、減圧で操作される蒸留カラムを装備されなければならない。この配置は、複雑で高価である。
【0006】
アクリル酸エステル合成流中の高濃度のアルコールの存在の結果として、これらの生産ユニットからの重質生産物流の大部分は、AA及びモノマーエステル二重結合へのアルコールの付加の誘導体からなる。例えば、エチルアクリレートの場合、誘導体は、エチル3-エトキシプロピオネート及び3-エトキシプロピオン酸である。これらのアルコキシ-プロピオン化合物は、その他の誘導体のC-C結合より破壊しにくいC-O-C結合を含む。アクリル重質生産物の再生のために通常使用される温度条件下で、これらの化合物は、高濃度の触媒の存在下でのみ解離できる。この理由から、アクリル酸エステルユニットからの重質生産物から出発して品質改良できる生産物の量は、アクリル酸ユニットからの重質生産物からより少ない。熱クラッキングによって潜在的に品質改良できる化合物の量は、したがって、AAユニットからの重質生産物においておよそ2倍ある。その結果として、アクリル系モノマーの生産のためのプラットフォームにおいて、エステルユニットからの重質生産物と比較して、AAユニットからの重質生産物を最優先に品質改良することに利点が存在する。
【0007】
しかし、AA重質生産物/AE重質生産物(AAHP/AEHP)の比率が上昇する場合、クラッキング反応からの残留物の粘度の増加は、クラッキング収率を改良することを可能にするパラメーター、すなわち、反応温度の上昇及び/又は反応時間の増加に対してますます感受性が高くなる。AA重質生産物及びエステル重質生産物の組み合わせ混合物に対するAAユニット重質生産物の比率が50%を超える場合、この効果は特に重要である。
【0008】
その結果として、50%を超えるAA重質生産物を含有するAA及びエステルユニットからもたらされた重質化合物の熱クラッキングによる再生の収率を改良し、その一方でクラッキングの間のモノマーが豊富な混合物のエバポレーションの間に残留物の粘度の増加の効果を低下させる必要がある。
【0009】
上記で分かる通り、再生の効率は、本質的に、2つのパラメーター、つまり反応の温度及び滞留時間に依存する。これらの2つのパラメーターの増加は、再生収率を改良する傾向にあるが、これは、クラッキング残留物の粘度の増加を棄損して起こる。
【0010】
AAHP及びAEHPの混合物中に含有されるマイケル誘導体を効率的にクラッキングするために、およそ140℃の最低温度が必要であるが、この温度で、許容可能な収率を得ることが望まれる場合、反応時間は非常に長くならねばならない。AA及びAE重質生産物の混合物から出発するマイケル誘導体の熱解離という特定の場合において、この比較的低い温度レベルでの滞留時間の増加は、回収収率を増加させるために好ましくなく、その理由は、モノマーを得るマイケル誘導体のクラッキング反応とモノマーからマイケル誘導体を形成するクラッキング反応との間の競合が存在するからであり、後者は、中間温度(140~160℃)及び長い反応時間を好む。したがって、より高い温度(160℃超、好ましくは180℃超)で及びより短い滞留時間(6時間未満、好ましくは4時間未満)でクラッキングを実行することが好ましい。
【0011】
AA及びAEの生産のためのプラットフォームにおいて、市場の需要に応じて、AA及びAEの生産の流速の大きな変動、及びそれに対応してこれらのユニットからの重質副産物の流速の変動があるのは、ごく普通である。その結果として、クラッキング操作が連続モードでの方法によって実行される場合、激しい変動が、供給流速並びにAA及びエステルユニットから生じた重質生産物の比率に依存する、クラッキング反応器における滞留時間に観察され得る。
【0012】
その結果として、流速及びAA重質生産物対AE重質生産物の比率における変動がどうであれ、良好な品質改良収率を得ることを可能にする、AA及びAEのユニットからの重質化合物のクラッキングの利用可能な方法を有することには、利点がある。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、アクリル酸の生産のためのユニットから生じた重質副産物、及びRがC~Cアルキル基である式CH=CH-C(=O)-ORのアクリル酸エステルの生産のためのユニットから生じた重質副産物の混合物の再生の方法であって、前記方法が、以下の
i.前記混合物を反応器中へ導入し、熱クラッキングに供し、気体上部流及び重質生産物中に濃縮された下部流(残留物)を生成する段階、
ii.前記上部流を分縮させて、結果として、アクリル酸エステル生産プラントへリサイクルされることを特に意図されるアクリル酸、アクリル酸エスエル及びアルコールR-OHを含有する上部流が得られ、下部流が得られる段階、
iii.除去処理の目的のために前記残留物を回収する段階
を含む方法に関する。
【0014】
有利なことに、段階i)及びii)は、200と2000hPaの間、好ましくは300と1500hPaの間の同じ絶対圧で実行される。
【0015】
様々な実施に従って、前記方法は、適切に組み合わされる場合、以下の特性を含む。
【0016】
一実施形態によれば、分縮操作は、熱クラッキングの間に産生された蒸気の一部の凝縮を引き起こす交換器(凝縮器)中で実行され、この蒸気は、1個又は複数の精留プレートを含む蒸留カラム中での分画を前もって受けることはない。
【0017】
一実施形態によれば、分縮段階から出る気体混合物(上部流)の温度は、140℃と180℃の間である。
【0018】
一実施形態によれば、クラッキング温度は、140℃と260℃の間、好ましくは180℃と210℃の間である。
【0019】
一実施形態によれば、クラッキング反応器における反応混合物の滞留時間は、0.5時間と10時間の間、好ましくは2時間と7時間の間である。
【0020】
一実施形態によれば、熱クラッキング操作の終局に得られた反応器からの下部流(残留物)は、例えば、コーン/プレート型のBrookfield「CAP1000+」粘度計を使用して100℃の温度で測定された動的粘度1Pa・s未満を示す。
【0021】
一実施形態によれば、分縮器からの下部流は、反応器へ少なくとも部分的にリサイクルされる。
【0022】
一実施形態によれば、分縮器からの液体下部流は、反応器中のディップパイプを経由して、直接反応器の液体相へ、又は外部の交換器を通る反応媒体の再循環のためのパイプへ、好ましくは、この外部の交換器の上流へリサイクルされる。
【0023】
一実施形態によれば、AA、アクリル酸エステル及びアルコールが豊富な、分縮器からもたらされた凝縮されていない気体上部流は、第2の凝縮器における凝縮後に、好ましくは液体形態で、アクリル酸エステルの製造のためのユニットへリサイクルされる。
【0024】
一実施形態によれば、凝縮器に入る気体流に対する凝縮流の重量比率は、5%と50%の間、好ましくは10%と40%の間である。
【0025】
一実施形態によれば、AAHP/AEHPの重量比率は、3/7と9/1の間、好ましくは1/1と9/1の間である。
【0026】
一実施形態によれば、前記R基は、C~Cアルキル基である。
【0027】
一実施形態によれば、エステルはエチルアクリレートであり、アルコールはエタノールである。
【0028】
一実施形態によれば、前記再生方法は、連続的に実行される。
【0029】
一実施形態によれば、重合阻害剤は、分縮器及び、使用される場合、第2の凝縮器で導入される。これらの阻害剤は、当業者にとって既知の重合阻害剤、フェノール誘導体、例えば、ヒドロキノン及びその誘導体、例えば、ヒドロキノンメチルエーテル、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)及び2,4-ジメチル-6-(tert-ブチル)フェノール(トパノールA)、フェノチアジン及びその誘導体、マンガン塩、例えば、酢酸マンガン、チオカルバミンもしくはジチオカルバミン酸の塩、例えば、金属チオカルバメート及びジチオカルバメート、例えば、銅ジ(n-ブチル)ジチオカルバメート、N-オキシル化合物、例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンオキシル(4-OH-TEMPO)、ニトロソ基を有する化合物、例えば、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及びそのアンモニウム塩、アミン化合物、例えば、パラ-フェニレンジアミン誘導体、又はこれらの阻害剤の混合物から選択される。
【0030】
一実施形態によれば、熱クラッキング反応は、触媒の不在下で起こる。
【0031】
一実施形態によれば、熱クラッキング反応は、触媒の存在下で起こる。触媒としては、ブレンステッド酸、例えば、硫酸、スルホン酸、リン酸、ゼオライト、アルミナもしくはシリカ及びアルミナをベースとする触媒、ルイス酸、例えば、チタネート、塩基、アルカリ金属もしくはそれらの塩、アミン、ホスフィン、又はそれらの組合せが挙げられてよい。
【0032】
本発明は、従来技術の不利な点を克服することを可能にする。本発明は、より詳細には、アクリル酸の生産のためのユニットから生じた重質副産物及びアクリル酸エステルの生産のためのユニットから生じた重質副産物の混合物の熱クラッキングの単純化された方法を提供し、アクリル酸エステルの製造において品質改良できるモノマーを効率的に回収することを可能にする。これは、前記混合物の熱クラッキングの段階及びクラッキングからもたらされた上部流の分縮の段階の組合せのおかげで達成され、2つの段階は同じ圧力で実行される。
【0033】
有利なことに、本発明によるAA及びAEのユニットからの重質化合物のクラッキングの方法は、流速及びAA重質生産物対AE重質生産物の比率における変動がどうであれ、良好な品質改良収率を得ることを可能にする。
【0034】
本発明による方法の主な利点は、
・ 粘度に起因する制限なくクラッキング反応をより徹底的に押し進めることによる、並びにAA重質生産物がより豊富である、AA重質生産物及びエステル重質生産物の混合物を処理することによる、AA及びエステルプラントからの重質生産物の流れの中に存在するマイケル反応から誘導された重質生産物からの不活性な生産物の回収収率における増加、
・ 実質的にたった1個の追加の装備品(分縮器)しか必要としないので、単純で資本コストにおいて比較的安価であり、(クラッキング反応と同じ圧力で分縮段階を)実行するのが単純である方法、
・ クラッキング残留物の量を減少させることによって排出量を削減することを可能にする方法、
・ 滞留時間及びAA重質生産物/エステル重質生産物の比率における変動にも関わらず、回収収率を最適化することを可能にする方法
である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明による設備の実施形態を示す図である。
図2】本発明による設備の別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、以下に続く説明において、より詳細にわたって非限定的方法でここに記載される。
【0037】
用語「アクリル酸の生産のためのユニットから生じた重質副産物」は、
・ アクリル酸の別のアクリル酸分子の二重結合への付加の誘導体、「アクリル酸ダイマー」又は「AAダイマー」ともまた呼ばれる、3-アクリロイルオキシプロピオン酸、
・ 「AAトリマー」を形成する、アクリル酸のAAダイマー分子上の二重結合への付加の誘導体、及び先行するAAオリゴマーの二重結合へのアクリル酸の連続付加によって形成されるその他のオリゴマー、
・ AAの又は上述のオリゴマーの二重結合へのアクリル酸の副産物として形成されるカルボン酸(例えば、酢酸)の又は水の付加の誘導体
を含む。
【0038】
用語「アクリル酸エステル(AE)の生産のためのユニットから生じた重質副産物」は、上述と同じ化合物、並びにまた
・ アルキル基がAEエステルの基である、これらの化合物のアルキルエステル、
・ アクリル酸、AAダイマー又はAAオリゴマーの二重結合へのアルコールの付加からもたらされたマイケル反応付加の誘導体、及びまたそれらのエステル
を含む。
【0039】
用語「分縮」は、熱クラッキング段階の間に産生された気体流が、液体流の形態で部分的に凝縮される間の操作のことである。
【0040】
用語「分縮器」は、蒸気より冷たい壁上で冷却することによって、熱い蒸気流から液体画分(還流)を産生することを可能にする装備品のことである。分縮器は、一般的に、冷媒の循環によって蒸気より冷たく維持された熱交換器である。冷媒は、例えば、空気などの気体流、水、又は方法の外にある補給から生じたもしくは方法の流れからリサイクルされた、いずれかのその他の液体流であり得る。交換器の排出口での蒸気の温度は、分縮器中の壁と接触する冷媒の温度及び流速を変更することによって、分縮による液体の流れを多かれ少なかれ得るために望まれる温度に調節される。熱交換器のタイプとしては、内部のシェル及び一束のチューブからなるシェルアンドチューブ交換器が挙げられてよく、その中で、2つの流体(反応器中で産生された蒸気及び冷媒)が別々に循環する。スパイラル交換器もしくはプレート交換器、又は蒸気の分縮を可能にする、当業者にとって既知のいずれかのその他のタイプの交換器もまた挙げられてよい。これらの交換器は、水平又は垂直の装備品であり得る。
【0041】
用語「全縮」又は「全縮器」は、液体(留出物)の形態で取り出される、分縮器の排出口で凝縮されていない蒸気中に含有される凝縮可能な化合物の凝縮を実行する、操作又は装備品のことである。
【0042】
本発明は、分縮操作を伴う熱クラッキング方法に基づいていて、2つの段階は、同じ圧力で実行される。本発明の方法は、アクリル酸の生産のためのユニットから生じた重質副産物及びアクリル酸エステルの生産のためのユニットから生じた重質副産物の混合物からのアクリル系モノマーの再生に適用し、アクリル酸エステルの製造において品質改良されることができるこれらのモノマーを効率的に回収することを可能にする。
【0043】
図1に示された方法の実施形態によれば、アクリル酸(AAHP)及びアクリル酸エステル(AEHP)の生産のためのプラントから生じた流れの混合物は、反応器R中へ液体形態で連続的に導入される。この混合物(1)は、対応するモノマー(AA及びAE)の合成及び精製の段階の間に産生される、マイケル付加から誘導された重質化合物が豊富であり、合成及び精製の方法の間に蓄積されたその他の重質化合物、特に重合阻害剤もまた含有する。混合物(1)は、反応器に導入され、反応器中で、マイケル付加の誘導体のクラッキングを実行するのに必要な温度まで加熱されて、反応器頭部で気体混合物(2)の形態で抽出される、より軽質の化合物を得る。この気体流は、例えば、シェルアンドチューブ交換器からなる分縮器E1に送られる。前記交換器は、交換器の排出口で凝縮されていない蒸気流(3)において測定される所要の温度まで蒸気を冷却するのに及び所望の凝縮比率を得るのに適切な、温度及び流速で水を循環させる。品質改良可能な化合物(AA、エステル、アルコール)が豊富で、低濃度で少ない重質化合物を含有する、この凝縮されていない蒸気流は、有利なことに、蒸気形態で直接又は交換器E2における全縮後のいずれかで、AEエステルの生産の方法へリサイクルされる。後者の場合、AEエステル生産ユニットへリサイクルされるのは液体流(4)である。
【0044】
分縮器の底部で、沸点がモノマーの沸点と最も重質な化合物の沸点の中間にある重質化合物、特に、3-アルコキシプロピオンマイケル誘導体がより豊富であり、少量の重合阻害剤もまた含有する、液体流(5)(還流ともまた呼ばれる)が回収される。この流れ(5)は、別のディップパイプを経由して又はAAHP及びAEHP化合物を反応器に供給するためのディップパイプを経由して、好ましくは直接反応器の液体相中へ導入することによって、少なくとも部分的に反応器へ戻る。
【0045】
図1に記載のない形態によれば、低濃度で重合阻害剤を含有する、分縮器中で凝縮された液体流の一部は、凝縮器内での重合のリスクから装備品を保護するように、分縮器の頭部の排出口へポンプを使用して戻される。
【0046】
反応器底部で回収された残留物流(6)は冷却され、次に、例えば、貯蔵タンク又は焼却ユニットまでポンプによって困難なく輸送できるように、中等程度の粘度の液体の形態で除去される。
【0047】
図1に記載のない実施形態によれば、AAHP及びAEHPから構成される供給流は、反応器中へ導入される前に、熱交換器を通じて予熱される。
【0048】
別の実施形態によれば、熱クラッキング反応は、非連続的に実行される。
【0049】
一実施形態によれば、供給流は、ディップパイプを経由して、直接反応器の液体相中へ導入される。
【0050】
図2の略図は、図1の略図と同じ原理による方法の実施形態を記載し、反応器が熱交換器E3を通る、反応器中に含まれる反応媒体(7)のポンプPを使用する再循環によって加熱される場合に可能な実施を明記している。この実施形態において、反応器へ戻された液体流画分(faction)(5)は、有利なことに、再循環ループ、優先的に交換器E3の上流、例えば、再循環ポンプPの上流においてリサイクルされることになる。
【実施例
【0051】
以下の実施例は、限定することなく本発明を例証する。
【0052】
図1の仕様に関して、これらの実施例において、反応温度は、反応器Rの液体相中に含有される液体で測定された温度であり、「頭部温度」は、分縮器E1の排出口で測定された蒸気(流れ3)の温度であり、反応器における「滞留時間」は、重質生産物(流れ1)の供給流速に対する反応器の作業体積(反応器中の液体相の体積)の重量比率によって測定される。「トッピング比率」は、供給流速(流れ1)に対する全縮器E2の排出口での凝縮流の流速(流れ4)の重量比率であり、「有効回収率」は、重質生産物(流れ1)の供給流速に対する全縮後の留出物中に収集された品質改良可能な化合物(AA、AE及びエタノール)の合計(流れ4)の重量比率である。「有効変換率」は、反応器の供給流速(流れ1)からこの流れの中に存在する品質改良可能な化合物(AA、AE及びエタノール)を引いたものに対する、クラッキングによって産生され、全縮流(流れ4)において回収される品質改良可能な化合物の合計から供給物(流れ1)中に存在するこれらの化合物の合計を引いたものの重量比率である。最後に、「100℃での粘度」は、毎分750回転の回転速度で、No.2スピンドルを装備したコーン/プレート型のBrookfield「CAP1000+」粘度計を使用して測定される、反応器の底部で得られた残留物(流れ6)の100℃の温度での粘度Pa・sの値である。
【0053】
全ての試験は、大気圧下で実行された。
【0054】
実施例1:分縮及び反応器の気体の上部空間への凝縮された液体の還流を伴うクラッキング
アッセンブリは、反応器中に含まれる液体の作業体積240mlを提供する、残留物を出すための側面の排出口を装備された、ジャケットを通じた油の再循環によって加熱される、全体積1リットルを有するガラス反応器からなる。
【0055】
反応器は、攪拌機、液体相中に沈められた温度プローブ、蒸気を抽出するための上方部分の垂直のパイプ、及び分縮器を装備される。分縮は、油が150℃の調節された温度で循環する、蒸気の抽出のための垂直チューブの内側に設置されたシンブル上での反応蒸気の冷却によって実現される。温度プローブは、分縮器の排出口で凝縮されていない蒸気の温度を測定することを可能にする。これらの凝縮されていない蒸気は、水が10℃で循環するジャケットを備えた冷却器からなる、全縮器へ向かう。液体(留出物)は、受器中に回収され、分析される。反応器中での産生から第2の凝縮器中へ入るまで、蒸気と接触するアッセンブリのエレメントは、外側との熱交換を削減するために被覆される。このアッセンブリにおいて、分縮器中で凝縮された蒸気画分は、反応器へ自然に逆流する。
【0056】
AAの生産のためのユニットから生じた重質化合物60重量%及びエチルアクリレート(EA)の生産のためのユニットから生じた重質化合物40重量%からなる混合物を、70g/時の流速で反応器中へ連続的に送る。これらの条件下で、滞留時間は3.4時間である。供給混合物は、本質的に品質改良可能な化合物(AA9%及びAE0.1%未満及びエタノール0.1%未満)から、マイケル反応から誘導された重質化合物(AAダイマー(AA2)35.5%、AAトリマー(AA3)1.5%、3-エトキシプロピオン酸(EPA)3.3%、3-ヒドロキシプロピオン酸(HPA)0.3%、エチル3-エトキシプロピオネート(EEP)6.2%、エチル3-アクリロイルオキシプロピオネート(EAP)6.7%、エチル3-ヒドロキシプロピオネート(EHP)0.5%、及び重合阻害剤(ヒドロキノン(HQ)2.7%、フェノチアジン(PTZ)0.6%)から構成される。
【0057】
実施例1において、24時間を超える安定した条件下での操作後、反応温度は195℃であり、分縮器の排出口での蒸気の温度は、157℃である。
【0058】
これらの試験の操作条件及び性能品質を、表1にまとめる。
【0059】
例2及び3(比較):(SF57-4及びSF58-4)先行技術による、凝縮なしのクラッキング
これらの2つの実験例は、冷媒の循環による冷却の効果を抑制する、内側のシンブルが空であるという事実は別として、実施例1と同じアッセンブリ及び同一の条件下で実行された。
【0060】
24時間を超える安定した条件下での操作後、得られた結果を下の表1に記載する。
【0061】
これらの比較例は、蒸気の分縮及び反応器中への液体の還流をもたらす、反応排出口でのこの蒸気の温度の低下という利点を示し、その結果は、クラッキング反応からの残留物の粘度が削減された不活性な化合物の回収収率の改良である。
【0062】
3.5時間の滞留時間で実行される試験2と比較して、滞留時間6時間で実行される試験3の反応温度は、はるかにより低く、同様のクラッキング残留物を得ることがまた観察される。より高い温度で、残留物の粘度は大きく増加し、液体の輸送を困難にする。粘度の過剰な増加なしに、より長い滞留時間で使用できる温度の低下は、クラッキング性能品質の大幅な低下という結果となる。
【0063】
実施例4:AA重質生産物及びAE重質生産物のクラッキングのための反応からもたらされた流れの分縮
AAHP(60%)及びAEHP(40%)の混合物のクラッキングのための操作の全縮から生じた液体混合物を蒸発させ、シェルアンドチューブ凝縮器中で160℃の温度で分縮させる。凝縮器の供給流の30重量%を示す、凝縮液体流が得られる。この液体凝縮物は、AA 35.4%、AE 0.3%、AA2 4.4%、AA3 0.4%、EPA 11.5%、EEP 22%、EAP 6.2%、EHP 0.1%、HQ 0.3%、PTZ 0.04%を含有する、図1の還流(5)を代表する組成物を有する。
【0064】
実施例5から8:分縮を伴うクラッキング及び反応器の液体相中への凝縮流のリサイクル
これらの実施例は、図1の発明による方法の操作条件を例証することが意図される。これらの種々の試験の操作条件及び性能品質を、表2にまとめる。
【0065】
上に記載された定義に加えて、「有効変換率」は、反応器の供給流速(流れ1)からこの流れ(1)に存在する品質改良可能な化合物(AA、AE及びエタノール)を引いたものに対する、クラッキングによって産生され、全縮流(流れ4)において回収される品質改良可能な化合物の合計から供給物(流れ1)及びリサイクルされた流れ(流れ5)に存在するこれらの化合物の合計を引いたものの重量比率である。
【0066】
実験のアッセンブリは、クラッキング反応の間に産生する蒸気が、全縮器(E2)に直接送られ、例3で得られる凝縮物流の流速が、AAHP及びAEHPの供給に加えて、反応器中へディップパイプによって導入されるという事実は別として、実施例1と同じである。この配置は、蒸気の凝縮率30%に対応する、AAHP対AEHPの比率22%の予期されるリサイクル流速/供給流速に従って、160℃の温度で凝縮されたクラッキング器の流れのリサイクルを厳密にシミュレートすることを可能にする。
【0067】
実施例5、6及び7(滞留時間3時間)において、反応器は、80g/時の流速で、実施例1において記載されたAAHP及びAEHPの混合物を供給され、例3の凝縮物流(流れ5)は、液体相中へディップパイプによって、17.6g/時の流速で、反応器中へ導入される。実施例8(滞留時間6時間)において、AAHP及びAEHPの供給流速(1)は、40g/時であり、リサイクルされた凝縮物流速(5)は、8.8g/時である。
【0068】
24時間を超える安定した条件下での操作後、全縮器E2からもたらされた流れ(流れ4)及び反応器底部の残留物(流れ6)の試料を引き出し、分析する。
【0069】
例9及び10(比較):先行技術による、凝縮なしのクラッキング
使用されるアッセンブリ及び操作条件は、分縮からもたらされる流れ(流れ5)のリサイクルが除外されたという事実は別として、実施例5から8に記載されたものと同じである。実施例5から7のように、例9(滞留時間3時間)のAAHP及びAEHPの供給流速は、80g/時であり、例10(滞留時間3時間)の供給流速は、実施例8と同じ、すなわち40g/時である。
【0070】
これらの試験の操作条件及び性能品質を、下の表2にまとめる。
【0071】
これらの例は、クラッキング反応と同じ圧力で操作される凝縮器を使用する非常に単純なアッセンブリにおいて、クラッキング蒸気の分縮を実行し、凝縮された部分を反応器へリサイクルすることによって、品質改良可能な生産物の回収収率を有意に改良し、その一方で先行技術におけるよりクラッキング残留物の低い粘度を得ることが可能であることを示す。
【0072】
試験9及び10は、異なる滞留時間でのクラッキング性能品質の比較を可能にする。残留物の相当する粘度に関して、試験7及び8の比較は、クラッキング反応温度は滞留時間がより長い場合、削減されなければならないことを示すが、回収性能品質は、より短い滞留時間のより好ましい操作条件下にもかかわらず、先行技術に従って実行された試験9より長い滞留時間(試験8)のこれらの条件下で、それでもやはりはるかにより良好のままであり、加えて、より低い残留物の粘度を有する。したがって、これは、処理される重質生産物の流速が、滞留時間の増加をもたらす、AA及びエステルプラントの生産率における変動が理由でより低い場合でさえも、本発明による方法は、全く同一のAAHP-AEHP混合物からはるかに多い不活性な生産物を回収し続けることを可能にすることを示す。
図1
図2