IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートリブ ディベロップメント エービーの特許一覧

<>
  • 特許-乗員拘束装置 図1
  • 特許-乗員拘束装置 図2
  • 特許-乗員拘束装置 図3
  • 特許-乗員拘束装置 図4
  • 特許-乗員拘束装置 図5
  • 特許-乗員拘束装置 図6
  • 特許-乗員拘束装置 図7
  • 特許-乗員拘束装置 図8
  • 特許-乗員拘束装置 図9
  • 特許-乗員拘束装置 図10
  • 特許-乗員拘束装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20250116BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20250116BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20250116BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/233
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023538477
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2022028330
(87)【国際公開番号】W WO2023008303
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021122362
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】土生 優
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-8105(JP,A)
【文献】特開2018-90009(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199851(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/198717(WO,A1)
【文献】特表2012-505783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、
当該乗員拘束装置は、
袋状であって巻回または折り畳まれた所定の収納形態となって前記座席のシートバックの幅方向の少なくとも一端側に収納されるエアバッグクッションと、
前記エアバッグクッションにガスを供給するインフレータと、
を備え、
前記エアバッグクッションは、
前記インフレータからガスを受給して前記乗員の側方の位置に膨張展開するサイド保護チャンバと、
前記サイド保護チャンバからガスを受給して該サイド保護チャンバの前方に膨張展開するフロント保護チャンバと、
前記サイド保護チャンバから前記フロント保護チャンバにガスを送る1または複数の連結ダクトと、
一端が少なくとも1つの前記連結ダクトに接触しているインナベントと、
を有し、
当該乗員拘束装置はさらに、
前端が前記インナベントの他端側に接続されて該インナベントを前記サイド保護チャンバ側に引っ張った状態になっているテザーと、
前記テザーの後端が接続され所定の信号を受けて該テザーを切断するテザーカッタと、
車両の衝突を検知または予測したときに該衝突が前方衝突か否かを判定する判定部と、
前記判定部が前記衝突は前記前方衝突であると判定したときに前記テザーカッタに前記所定の信号を送る送信部と、
を備えることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項2】
前記判定部はさらに、前記衝突が側面衝突か否かを判定可能であり、
前記送信部は、前記判定部が前記衝突は側面衝突であると判定したときは前記テザーカッタに信号を送らないことを特徴とする請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
前記インナベントは、前記他端側の開口の縁に形成されて前記テザーを通す1または複数のループを有し、
前記インナベントの前記他端側の開口は、前記テザーが前記テザーカッタに接続されているときに該テザーによって絞られ該インナベントが閉じた状態になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記1または複数の連結ダクトは、複数設けられ、
前記複数の連結ダクトは、前記サイド保護チャンバの前側の上下二か所に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
当該乗員拘束装置はさらに、
前記サイド保護チャンバを形成するメインパネルに設けられた第1アウタベントと、
前記メインパネルの前記第1アウタベントを覆う範囲に設けられて上下の縁が該メインパネルに接合されているガイドパネルと、
前記ガイドパネルの前記第1アウタベントに重なる位置に設けられた第2アウタベントと、
を備え、
前記テザーは、前記メインパネルと前記ガイドパネルとの間を通って前記インナベントと前記テザーカッタとに差し渡されていて、
当該乗員拘束装置はさらに、
前記テザーに取り付けられていて該テザーが前記テザーカッタから脱離したときに前記ガイドパネルに沿って前記第1アウタベントと前記第2アウタベントとの間を塞ぐ位置にスライドするシャッタパネルを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
当該乗員拘束装置はさらに、前記シャッタパネルに設けられる第3アウタベントを備え、
前記第3アウタベントは、前記テザーが前記テザーカッタに接続にされているときに前記第1アウタベントおよび前記第2アウタベントに重なる位置に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開するエアバッグクッションを利用して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、本出願人による特許文献1の乗員拘束装置では、エアバッグクッションが座席の側部から乗員の両脇へ膨張展開するサイドエアバッグ装置が実施されている。
【0003】
特許文献1の乗員拘束装置では、エアバッグクッションの膨張展開に伴って広がるベルト140を設けている。ベルト140は、張力を利用してエアバッグクッションの移動を規制し、エアバッグクッションの乗員拘束性能を高めることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/039160号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の乗員拘束装置は、乗員から離れる方向、特に左右方向へのエアバッグクッションの移動をベルトによって好適に規制することができ、エアバッグクッションによる乗員拘束性能を飛躍的に高めることができた。しかしながら、このような乗員拘束装置には乗員拘束性能の向上が常に求められている。特に、本発明者らは、エアバッグクッションのなかでも車両の衝突の態様によって必要とされるエリアが異なっている点に着目し、特許文献1の技術のさらなる改良について検討した。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、エアバッグクッションの乗員拘束性能のさらなる向上が可能な乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる乗員拘束装置の代表的な構成は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、当該乗員拘束装置は、袋状であって巻回または折り畳まれた所定の収納形態となって座席のシートバックの幅方向の少なくとも一端側に収納されるエアバッグクッションと、エアバッグクッションにガスを供給するインフレータと、を備え、エアバッグクッションは、インフレータからガスを受給して乗員の側方の位置に膨張展開するサイド保護チャンバと、サイド保護チャンバからガスを受給してサイド保護チャンバの前方に膨張展開するフロント保護チャンバと、サイド保護チャンバからフロント保護チャンバにガスを送る1または複数の連結ダクトと、一端が少なくとも1つの連結ダクトに接触しているインナベントと、を有し、当該乗員拘束装置はさらに、前端がインナベントの他端側に接続されてインナベントをサイド保護チャンバ側に引っ張った状態になっているテザーと、テザーの後端が接続され所定の信号を受けてテザーを切断するテザーカッタと、車両の衝突を検知または予測したときに衝突が前方衝突か否かを判定する判定部と、判定部が衝突は前方衝突であると判定したときにテザーカッタに所定の信号を送る送信部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成では、インナベントに接続したテザーによってインナベントの開閉を操作し、フロント保護チャンバを積極的に膨張させるか否かを制御することが可能になっている。例えば、前方衝突のときはエアバッグクッションをフロント保護チャンバまで積極的に膨張展開させて乗員を十全に拘束し、前方衝突以外のとき、例えば側面衝突などでは、エアバッグクッションのうちサイド保護チャンバを優先的に膨張展開させて乗員を迅速に拘束することができる。よって、上記構成によれば、衝突の態様に応じて、エアバッグクッションの乗員拘束性能を向上させることができる。
【0009】
判定部はさらに、衝突が側面衝突か否かを判定可能であり、送信部は、判定部が衝突は側面衝突であると判定したときはテザーカッタに信号を送らないとよい。
【0010】
上記構成によれば、側面衝突のときはテザーをテザーカッタから脱離させず、インナベントを閉じた状態にすることで、サイド保護チャンバのみを迅速に膨張展開させて乗員を側方から拘束することが可能になる。
【0011】
上記のインナベントは、他端側の開口の縁に形成されてテザーを通す1または複数のループを有し、インナベントの他端側の開口は、テザーがテザーカッタに接続されているときにテザーによって絞られインナベントが閉じた状態になっていてもよい。
【0012】
上記構成によれば、テザーがテザーカッタに接続されているとき、インナベントからフロント保護チャンバへのガスの流入量を好適に抑えることができる。
【0013】
上記の1または複数の連結ダクトは、複数設けられ、複数の連結ダクトは、サイド保護チャンバの前側の上下二か所に設けられてもよい。
【0014】
上記構成によれば、複数の連結ダクトによって、サイド保護チャンバからフロント保護チャンバへのガスの供給を担保することが可能である。
【0015】
当該乗員拘束装置はさらに、サイド保護チャンバを形成するメインパネルに設けられた第1アウタベントと、メインパネルの第1アウタベントを覆う範囲に設けられて上下の縁がメインパネルに接合されているガイドパネルと、ガイドパネルの第1アウタパネルに重なる位置に設けられた第2アウタベントと、を備え、テザーは、メインパネルとガイドパネルとの間を通ってインナベントとテザーカッタとに差し渡されていて、当該乗員拘束装置はさらに、テザーに取り付けられていてテザーがテザーカッタから脱離したときにガイドパネルに沿って第1アウタベントと第2アウタベントとの間を塞ぐ位置にスライドするシャッタパネルを備えてもよい。
【0016】
上記構成では、テザーに取り付けたシャッタパネルによって、各アウタベントの開閉を制御することが可能になっている。これによって、前方衝突のときはシャッタパネルで第1および第2アウタベントを閉状態にすることで、サイド保護チャンバから外部へのガスの排出を減らし、フロント保護チャンバへのガスの供給を優先させることができる。また、側面衝突のときは第1および第2アウタベントを開状態にすることで、サイド保護チャンバから外部へのガスの排出を行い、サイド保護チャンバの内圧が高くなり過ぎないよう調整することができる。よって、上記構成によっても、衝突の態様に応じて、エアバッグクッションの乗員拘束性能を向上させることができる。
【0017】
当該乗員拘束装置はさらに、シャッタパネルに設けられる第3アウタベントを備え、第3アウタベントは、テザーがテザーカッタに接続にされているときに第1アウタベントおよび第2アウタベントに重なる位置に設けられていてもよい。
【0018】
上記構成では、シャッタパネルに第3アウタベントを設けることで、テザーがテザーカッタに接続されているときはサイド保護チャンバから外部にガスの排出を行い、サイド保護チャンバの内圧が高くなり過ぎないよう調整することができる。よって、上記構成によっても、衝突の態様に応じて、エアバッグクッションの乗員拘束性能を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エアバッグクッションの乗員拘束性能のさらなる向上が可能な乗員拘束装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態にかかる乗員拘束装置の可動前の状態を例示した図である。
図2図1の乗員拘束装置の可動後の状態を上方から例示した図である。
図3図1の乗員拘束装置の可動後の状態を側方から例示した図である。
図4図3(a)のエアバッグクッションを平面に置いた状態で例示した図である。
図5図4のエアバッグクッションの内部構成を例示した図である。
図6図1の乗員拘束装置の全体構成の概要を例示した図である。
図7図6(b)の制御部が行う処理を例示したフローチャートである。
図8図5(b)のインナベントの変形例を例示した図である。
図9図4のエアバッグクッションの変形例を例示した図である。
図10図9(a)のスライドベント構造の可動前の状態を例示した図である。
図11図9(a)のスライドベント構造の可動後の状態を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
図1は、本実施形態にかかる乗員拘束装置100の可動前の状態を例示した図である。図1では、エアバッグユニット108、110等の座席102の内部に収納されている部材を仮想線で示している。
【0023】
本実施形態においては、座席102に対して乗員120(図2等参照)が正規の姿勢で着座した際に、乗員120が向いている方向を前方、その反対方向を後方、乗員120の右手側を右方向、乗員120の左手側を左方向と称する。さらに、乗員120が正規の姿勢で着座した際に、乗員120の頭部方向を上方、乗員120の腰部方向を下方と称する。そして、以下の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員120を基準とした前後左右上下方向を、矢印F(Forward)、B(Back)、L(Left)、R(Right)、U(up)、D(down)で示す。
【0024】
また、以下の説明において内側、外側と称する方向は、上記正規の姿勢で着座した乗員120から見た、複数の対象物の相対的な位置関係において、乗員120から近い側を内側と称し、乗員120から遠い側を外側と称する。
【0025】
乗員拘束装置100は、座席102の主にシートバック104の内部に、左右一対のエアバッグユニット108、110を備えている。エアバッグユニット108、110は、それぞれエアバッグクッション112、114およびベルト部材116、118を含んで構成されている。
【0026】
乗員拘束装置100は、車両に衝撃が発生した場合などの緊急時に、座席102に着座した乗員120(図2等参照)を主にエアバッグクッション112、114を利用して拘束する。エアバッグクッション112、114は、ガスで膨張可能な袋状の部材であって、巻回や折り畳みによって小さくまとめられた収納形態となって、座席102のシートバック104の幅方向の両端側それぞれの内部に収納されている。
【0027】
ベルト部材116、118は、エアバッグクッション112、114それぞれに対して設けられる。ベルト部材116、118は、膨張展開したエアバッグクッション(図2参照)を支える部材であって、座席102のシートバック104内からシートクッション106内にわたって収納されている。
【0028】
図2は、図1の乗員拘束装置100の可動後の状態を上方から例示した図である。図2(a)の乗員120は、平均的な米国成人男性の50%に適合する体格(身長175cm、体重78kg)を模した試験用のダミー人形AM50を例示したものである。
【0029】
本実施形態の乗員拘束装置100では、車両の衝突時等において、左右一対のエアバッグクッション112、114が座席102に着座した乗員120の上半身の側方それぞれから前方にかけて膨張展開する。
【0030】
エアバッグクッション112、114は、それぞれベルト部材116、118によって乗員120とは反対側から支えられている。ベルト部材116、118は、エアバッグクッション112、114を乗員120側に付勢したり、エアバッグクッション112、114に加わる乗員120からの荷重を吸収したりすることで、エアバッグクッション112、114の乗員拘束力を高めている。
【0031】
図3は、図1の乗員拘束装置100の可動後の状態を側方から例示した図である。図3(a)は、図2の乗員拘束装置100を座席102の右側から見て例示した図である。以下、エアバッグクッション112、114を代表して、座席102の左側のエアバッグクッション112を例に挙げて説明を行う。
【0032】
エアバッグクッション112は、大きく分けて、後側のサイド保護チャンバ122と、前側のフロント保護チャンバ124に区分けされている。サイド保護チャンバ122は、インフレータ128(図5(a)参照)からガスを受給して、乗員120の側方の位置に膨張展開する。フロント保護チャンバ124は、サイド保護チャンバ122からガスを受給して、サイド保護チャンバ122および乗員120の前方に膨張展開する。
【0033】
図3(b)は、図3(a)のサイド保護チャンバ122が優先的に膨張展開した状態を例示した図である。本実施形態のエアバッグクッション112は、後述するセンサ(図6(a)のフロントセンサ154等)や制御部150を利用して、例えば側面衝突時には、フロント保護チャンバ124を積極的には膨張させない形態になることができる。すなわち、エアバッグクッション112は、前方衝突のときはフロント保護チャンバ124まで積極的に膨張させて乗員120を前方からも拘束し、側面衝突のときはサイド保護チャンバ122を優先的に膨張展開させて乗員120を側方から迅速に拘束することが可能になっている。
【0034】
図4は、図3(a)のエアバッグクッション112を平面に置いた状態で例示した図である。図3では、エアバッグクッション112を、乗員120(図3(a)参照)とは反対側のパネルを手前に向けて例示している。
【0035】
エアバッグクッション112は、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製や接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0036】
エアバッグクッション112には、サイド保護チャンバ122とフロント保護チャンバ124の他に、上部保護チャンバ126が設けられている。上部保護チャンバ126は、乗員120の頭部の側方に膨張する部位であり、サイド保護チャンバ122の上側から車両前方に湾曲して延びるように設けられている。
【0037】
ベルト部材116は、フロント保護チャンバ124の前側であって、乗員120とは反対側のパネルに接続されている。ベルト部材116は、エアバッグクッション112が膨張展開(図3(a)参照)したときに、シートバック104からシートクッション106まで張り渡された状態になる。
【0038】
図5は、図4のエアバッグクッション112の内部構成を例示した図である。サイド保護チャンバ122の内部には、インフレータ128からのガスを整流する部材として、内側のディフレクタ130と、外側のインナチューブ132とが設けられている。
【0039】
インフレータ128はディフレクタ130の内側に設置されていて、ディフレクタ130はインフレータ128からのガスを上下方向に整流する。インナチューブ132は、ディフレクタ130を内包していて、3つのベントホール134a~134cからガスを上部保護チャンバ126およびフロント保護チャンバ124に向かってガスを送る。
【0040】
インフレータ128は、シリンダ型(円筒型)のものが採用されていて、サイド保護チャンバの内部の後方側に長手方向を上下方向に向けて内蔵されている。インフレータ128の本体からは不図示のスタッドボルトが複数突出していて、スタッドボルトが座席のフレームに締結されることでインフレータ128およびエアバッグクッション112が座席102(図1参照)に固定される。
【0041】
現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ128としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0042】
サイド保護チャンバ122とフロント保護チャンバ124とは、連結ダクト136、138によってつながれている。連結ダクト136、138は、サイド保護チャンバ122の前側の上下二か所に設けられていて、サイド保護チャンバ122からフロント保護チャンバ124にガスを送る。連結ダクト136はサイド保護チャンバ122の前側の上部に設けられ、連結ダクト136はサイド保護チャンバ122の前側の上下方向の中央部に設けられている。これら連結ダクト136、138によって、サイド保護チャンバ122からフロント保護チャンバ124へのガスの円滑な供給を担保することが可能になっている。
【0043】
本実施形態では、下側の連結ダクト138にインナベント140が設けられている。インナベント140は、筒状の部材であって、一端142が連結ダクト138に接触し、他端144がテザー146を通じてテザーカッタ148に接続されている。インナベント140は、テザー146に引っ張られているときはガスが流れ難いが、テザー146がテザーカッタ148から脱落すると他端144が自由端の状態になってガスを円滑に流すことができる。
【0044】
テザーカッタ148は、テザー146を留める装置であって、制御部150(図6(b)参照)から信号を受けると内部の刃が可動してテザー146を切断し脱落させる。テザーカッタ148は、座席102(図3(a)参照)の内部であって、インナベント140が接続された連結ダクト138から見てサイド保護チャンバ122側に設置されている。
【0045】
テザー146は、帯状の部材であって、前端がインナベント140の他端144側に接続され、後端がテザーカッタ148に接続される。このとき、テザー146は、インナベント140の他端144をサイド保護チャンバ122側に引っ張った状態で設置される。これにより、インナベント140の他端144の開口は、テザー146に引っ張られて閉じた状態になる。
【0046】
図5(b)は、テザー146がテザーカッタ148から脱落した状態を例示した図である。テザーカッタ148が可動すると、テザー146が切断されてテザーカッタ148から脱落する。インナベント140は、テザー146による係留から解放されると、他端144側がガスの圧力によってフロント保護チャンバ124側に押し流される。これによって、インナベント140および連結ダクト138は開放された状態になり、連結ダクト138からフロント保護チャンバ124へのガスの流量が増大し、フロント保護チャンバ124が迅速に膨張展開する。
【0047】
図6は、図1の乗員拘束装置100の全体構成の概要を例示した図である。図6(a)は、乗員拘束装置100の全体構成を例示したブロック図である。当該乗員拘束装置100が備える制御部150は、いわゆるECU(Electronic Control Unit)として実現される装置である。
【0048】
制御部150は、電源152およびセンサ(フロントセンサ154およびサイドセンサ156)とつながっていて、各センサから衝突信号を受けるとエアバッグユニット108等のインフレータ128(図5(a)参照)およびテザーカッタ148に可動信号を送る。
【0049】
図6(b)は、図6(a)の制御部150の機能を例示したブロック図である。制御部150は、判定部158および送信部(送信部A160a、送信部B160b)を備えている。
【0050】
判定部158は、フロントセンサ154およびサイドセンサ156を通じて、車両に衝突が発生したか否か、およびその衝突の形態の如何を判定する。例えば、判定部158は、フロントセンサ154を通じて衝突を検知等したときは前方衝突と判定し、サイドセンサ156のみを通じて衝突を検知等したときは側面衝突と判定する。
【0051】
送信部A160aおよび送信部B160bそれぞれは、判定部158の判定結果に基づいて、インフレータ128およびテザーカッタ148に可動信号を送信する。例えば、送信部A160aは、フロントセンサ154かサイドセンサ156かに関わらず、判定部158が各センサから衝突を検知等した信号を受信したときにインフレータ128に可動信号を送る。
【0052】
送信部B160bは、判定部158がフロントセンサ154から衝突を検知等した信号を受信したとき、車両に前方衝突が起こったとして、テザーカッタ148に可動信号を送る。これによって、前方衝突のときは図3(a)のようにフロント保護チャンバ124まで積極的に膨張展開し、側面衝突のときは図3(b)のようにサイド保護チャンバ122のみが積極的に膨張展開する。
【0053】
図7は、図6(b)の制御部150が行う処理を例示したフローチャートである。まず、ステップ170にて、判定部158(図6(b)参照)は、フロントセンサ154かサイドセンサ156かに関わらず、各センサから衝突信号が入力されたか否かを判定する。衝突信号の入力があった場合(ステップ170のYes)、続くステップ172にてフロントセンサ154からの信号か否かを判定する。ステップ170にて衝突信号の入力が無い場合(ステップ170のNо)は、待機状態となる。
【0054】
フロントセンサ154(図6(b)参照)からの信号であった場合(ステップ172のYes)、ステップ174にて送信部A160aから信号Aが出力され、並行してステップ180にて送信部B160bから信号Bが出力される。
【0055】
ステップ174にて出力された信号Aはインフレータ128に送られ、ステップ176にてインフレータ128が可動し、ステップ178にてサイド保護チャンバ122(図5(b)参照)が展開する。
【0056】
ステップ180にて出力された信号Bはテザーカッタ148に送られ、ステップ182にてテザーカッタ148が可動し、ステップ184にてインナベント140が展開する。
【0057】
これらステップ178、ステップ184によって、続くステップ186にてフロント保護チャンバ124が展開し、乗員120(図3(a)参照)が前方からも拘束され、一連の処理は終了する。
【0058】
一方、ステップ172にてフロントセンサ154(図6(b)参照)からの信号ではなかった場合(ステップ172のNо)、ステップ188にて送信部A160aから信号Aが出力され、ステップ190にてインフレータ128が可動する。そして、ステップ192にてサイド保護チャンバ(図5(a)参照)が展開し、乗員120(図3(b)参照)が側方から拘束され、処理は終了する。
【0059】
以上のように、判定部158(図6(b)参照)は、フロントセンサ154からの信号が到来したか否かによって、車両の衝突が前方衝突か否か、および側面衝突か否かを判定する。送信部B160bは、判定部158が衝突は前方衝突であると判定したときにテザーカッタ148に信号を送る。その一方で、判定部158が衝突は側面衝突であると判定したときは、送信部B160bはテザーカッタ148に信号を送らない。この処理によって、側面衝突のときはテザー146をテザーカッタ148から脱離させず、インナベント140を閉じた状態にしてフロント保護チャンバ124へのガスの流量を抑えることで、サイド保護チャンバ122を優先的に膨張展開させて乗員を側方から迅速に拘束することが可能になる。
【0060】
本実施形態では、インナベント140に接続したテザー146によってインナベント140の開閉を操作し、フロント保護チャンバ124を積極的に膨張させるか否かを制御している。例えば、前方衝突のときは、エアバッグクッション112(図3(a)参照)をフロント保護チャンバ124まで積極的に膨張展開させ、乗員120を十全に拘束している。また、前方衝突以外のとき、例えば側面衝突などでは、エアバッグクッション112(図3(b)参照)のうちサイド保護チャンバ122を優先的に膨張展開させ、乗員120を迅速に拘束している。特に、側面衝突の場合は、フロント保護チャンバ124を軟化させる、またはその展開を遅らせることで、乗員120を前方から過度に押さないようにし、乗員120の身体の腕や胸などに与える負荷を抑えている。
【0061】
このように、本実施形態によれば、衝突の態様に応じて、エアバッグクッション112のうち必要とされるエリアを選択的に膨張展開させることで、エアバッグクッション112の乗員拘束性能を向上させることが可能になっている。
【0062】
なお、図6(b)を参照した制御部150の説明において、フロントセンサ154からの信号を受信しなかったとき、送信部B160bからテザーカッタ148には信号を送らないと述べた。しかし、これに限られず、制御部150は、フロントセンサ154からの信号を受信しなかったとき、送信部B160bからテザーカッタ148に送る信号を遅らせる処理を行うことも可能である。この処理によっても、側面衝突において、サイド保護チャンバ122(図3(b)参照)を優先的に膨張展開させて乗員120を迅速に拘束することが可能である。
【0063】
また、図5(a)等において、上側の連結ダクト136を省略した構成や、上側の連結ダクト136にもインナベント140を設けた構成なども実施可能である。上側の連結ダクト136を省略した構成では、インナベント140を備えた連結ダクト138のみを設けることで、フロント保護チャンバ124へのガスの流量を効率よく制御することが可能になる。同じく、上側の連結ダクト136にもインナベント140を設けた構成によっても、フロント保護チャンバ124へのガスの流量を効率よく制御することが可能になる。
【0064】
(変形例)
図8は、図5(b)のインナベント140の変形例(インナベント200)を例示した図である。図8以降の各図では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0065】
図8(a)は、インナベント200のインフレータ128(図5(a)参照)の可動前の状態を例示した図である。インナベント200は、インナベントは、他端144側の開口202の縁に、テザー146を通すループ204が形成されている。図8(b)は、インナベント200のインフレータ128の可動時の状態を例示した図である。インフレータ128が可動してエアバッグクッション112が膨張展開すると、ループ204を通るテザーがインナベント200とテザーカッタ148との間で引っ張られて、インナベント200の他端144側の開口202はテザー146によって絞られて閉じた状態になる。
【0066】
インナベント200は、テザー146がテザーカッタ148(図5(a)参照)に接続されているとき、すなわち側面衝突のときに、開口202を絞ることで当該インナベント200は閉じた状態になり、フロント保護チャンバ124へのガスの流入量を好適に抑えることができる。よって、インナベント200を備えることで、サイド保護チャンバ122の膨張展開をより優先して行うことが可能になる。
【0067】
なお、ループ204の他の構成として、小型の帯状のループを複数設けることや、開口202の縁にスリットを複数設けてそのスリットにテザー146を通すことなども実施可能である。
【0068】
図9は、図4のエアバッグクッション112の変形例(エアバッグクッション210)を例示した図である。図9(a)は、図4と同じ方向からエアバッグクッション210を例示している。エアバッグクッション210は、スライドベント構造212を備えている点で、図4のエアバッグクッション112と構成が異なっている。スライドベント構造212は、テザー146がエアバッグクッション210から外部に露出していて、このテザー146を利用してエアバッグクッション210内から外部へのガスの排出量の調節を可能にしている。
【0069】
図9(b)は、図9(a)のスライドベント構造212の分解図である。スライドベント構造212は、サイド保護チャンバ122を形成するメインパネル214に、第1アウタベント216を設けている。第1アウタベント216は計2つ設けられていて、片側の第1アウタベント216からテザー146がエアバッグクッション210の外部に露出している。
【0070】
メインパネル214の第1アウタベント216を覆う範囲には、ガイドパネル218が設けられる。ガイドパネル218は、上下の縁220a、220bがメインパネル214に接合されて、前後の縁220c、220eはメインパネル214から離間した状態に保たれる。ガイドパネル218の第1アウタベント216に重なる位置には、第2アウタベント222が設けられている。
【0071】
テザー146は、メインパネル214とガイドパネル218との間を通りつつ第1アウタベント216からエアバッグクッション210の内部に入り、インナベント140(図5(b)参照)とテザーカッタ148とに差し渡されている。
【0072】
テザー146のうち、第1アウタベント216から露出している部位には、シャッタパネル224が取り付けられる。シャッタパネル224には、第3アウタベント226が設けられている。第3アウタベント226は、メインパネル214の第1アウタベント216とガイドパネル218の第2アウタベント222とをつないで、エアバッグクッション210の内部からのガスの排出を可能にする。
【0073】
図10は、図9(a)のスライドベント構造212の可動前の状態を例示した図である。図10(a)は、図9(a)のスライドベント構造212を拡大して示した図である。シャッタパネル224の第3アウタベント226は、テザー146がテザーカッタ148(図5(a)参照)に接続にされているときに第1アウタベント216(図9(a)参照)および第2アウタベント222に重なる位置に設けられている。
【0074】
図10(b)は、図10(a)のスライドベント構造212のA-A断面図である。シャッタパネル224に第3アウタベント226を設けることで、テザー146がテザーカッタ148(図5(a)参照)に接続されているとき、すなわち側面衝突のときには、サイド保護チャンバ122から外部にガスの排出を行い、サイド保護チャンバ122の内圧が高くなり過ぎないよう調整することができる。
【0075】
図11は、図9(a)のスライドベント構造212の可動後の状態を例示した図である。図11(a)は、図10(a)のシャッタパネル224が前方に移動した状態を例示している。シャッタパネル224は、テザー146がテザーカッタ148から脱離したとき、すなわち前方衝突のときに、インナベント140の他端144がフロント保護チャンバ124内(図5(b)参照)に移動することに伴って、テザー146に引っ張られてガイドパネル218に沿って前方にスライドする。
【0076】
図11(b)は、図11(a)のスライドベント構造212のB-B断面図である。シャッタパネル224は、第3アウタベント226が前方に移動することで、これら第1アウタベント216と第2アウタベント222との間を塞いだ状態になる。したがって、前方衝突のとき、シャッタパネル224はエアバッグクッション210(図9(a)参照)から外部へのガスの排出を抑え、フロント保護チャンバ124へのガスの供給を優先させることができる。
【0077】
以上のように、当該エアバッグクッション210では、テザー146に取り付けたシャッタパネル224によって、側面衝突のときは各アウタベント(第1アウタベント216等)を開状態にしつつ、前方衝突のときは各アウタベントを閉状態にするなど、衝突の態様に応じてエアバッグクッション210から外部へのガスの排出量を調節することが可能になっている。これらのように、当該エアバッグクッション210によっても、衝突の態様に応じて、エアバッグクッション210の乗員拘束性能を向上させることが可能である。
【0078】
なお、エアバッグクッション210の乗員拘束性能は、例えば第1アウタベント216等の各アウタベントの径の変更や、フロント保護チャンバ124の形状の変更などによって設定することができる。各アウタベントの径を大きくしてガスの排出量を増やすことや、フロント保護チャンバ124の形状を乗員120(図3(b)等参照)の腕の押圧等が回避できる形状に変更することで、側面衝突時における乗員120に対する傷害値を下げることが可能である。また、フロント保護チャンバ124の形状の変更に加えて、インナベント140(図5(b)等参照)の径を変更することによっても、フロント保護チャンバ124の展開時の圧力やタイミングを調節し、前方衝突時における乗員に対する傷害値を下げることが可能である。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0080】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
100…乗員拘束装置、102…座席、104…シートバック、106…シートクッション、108、110…エアバッグユニット、112、114…エアバッグクッション、116、118…ベルト部材、120…乗員、122…サイド保護チャンバ、124…フロント保護チャンバ、126…上部保護チャンバ、128…インフレータ、130…ディフレクタ、132…インナチューブ、134a~134c…ベントホール、136…連結ダクト、138…連結ダクト、140…インナベント、142…一端、144…他端、146…テザー、148…テザーカッタ、150…制御部、152…電源、154…フロントセンサ、156…サイドセンサ、158…判定部、160a…送信部A、160b…送信部B、200…インナベント、202…開口、204…ループ、210…エアバッグクッション、212…スライドベント構造、214…メインパネル、216…第1アウタベント、218…ガイドパネル、220a…上側の縁、220b…下側の縁、220c…前側の縁、220d…後側の縁、222…第2アウタベント、224…シャッタパネル、226…第3アウタベント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11