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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】肺動脈性肺高血圧症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20250116BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20250116BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K31/4985
A61K31/4965
A61P9/12
A61P11/00
A61P43/00 121
A61K9/20
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024118344
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2022531531の分割
【原出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2024153734
(43)【公開日】2024-10-29
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】62/941,910
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/023,452
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/076,149
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ マレスタ
(72)【発明者】
【氏名】ロイク ペルシュネット
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163098(WO,A1)
【文献】特表2007-506752(JP,A)
【文献】特表2014-506870(JP,A)
【文献】特表2018-502126(JP,A)
【文献】The Efficacy and Safety of Initial Triple Versus Initial Dual Oral Combination Therapy in Patients With Newly Diagnosed Pulmonary Arterial Hypertension (TRITON),ClinicalTrials.gov ID:NCT02558231,2019年09月04日,https://clinicaltrials.gov/study/NCT02558231?tab=history&a=9#version-content-panel,検索日[令和6年8月27日]
【文献】BMC Pulmonary Medicine,2017年,Vol.17:135,pp.1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減するための、マシテンタン、タダラフィル及びセレキシパグの初期3剤併用療法のための剤であって、マシテンタン、タダラフィル及びセレキシパグを含み、
該疾患進行のリスクが、下記(1)~(5)からなる群から選択され:
(1)PAH悪化による入院のリスク、
(2)死亡のリスク、
(3)疾患進行事象の再発のリスク、
(4)疾患進行事象の累積数、及び
(5)入院の再発又は累積数、
マシテンタンとタダラフィルが1日目に開始され、セレキシパグが15日目±3日目に開始される、剤。
【請求項2】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減するための、マシテンタンを含む剤であって、
該疾患進行のリスクが、下記(1)~(5)からなる群から選択され:
(1)PAH悪化による入院のリスク、
(2)死亡のリスク、
(3)疾患進行事象の再発のリスク、
(4)疾患進行事象の累積数、及び
(5)入院の再発又は累積数、
該マシテンタンが、マシテンタン、タダラフィル及びセレキシパグの初期3剤併用療法の一部であり、マシテンタンとタダラフィルが1日目に開始され、セレキシパグが15日目±3日目に開始される、剤。
【請求項3】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減するための、タダラフィルを含む剤であって、
該疾患進行のリスクが、下記(1)~(5)からなる群から選択され:
(1)PAH悪化による入院のリスク、
(2)死亡のリスク、
(3)疾患進行事象の再発のリスク、
(4)疾患進行事象の累積数、及び
(5)入院の再発又は累積数、
該タダラフィルが、マシテンタン、タダラフィル及びセレキシパグの初期3剤併用療法の一部であり、マシテンタンとタダラフィルが1日目に開始され、セレキシパグが15日目±3日目に開始される、剤。
【請求項4】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減するための、セレキシパグを含む剤であって、
該疾患進行のリスクが、下記(1)~(5)からなる群から選択され:
(1)PAH悪化による入院のリスク、
(2)死亡のリスク、
(3)疾患進行事象の再発のリスク、
(4)疾患進行事象の累積数、及び
(5)入院の再発又は累積数、
該セレキシパグが、マシテンタン、タダラフィル及びセレキシパグの初期3剤併用療法の一部であり、マシテンタンとタダラフィルが1日目に開始され、セレキシパグが15日目±3日目に開始される、剤。
【請求項5】
前記疾患進行のリスクの低減が、マシテンタン及びタダラフィルの初期2剤併用療法を受ける、PAHを有する患者集団に対するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
前記初期3剤併用療法が、前記初期2剤併用療法に対して前記疾患進行のリスクを約30~40%減少させる、請求項5に記載の剤。
【請求項7】
前記患者が、PAHに対して治療ナイーブである、請求項1~のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
前記患者の初期PAH診断が、前記初期3剤併用療法の開始の6ヶ月以内に行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の剤。
【請求項9】
(i)前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約25mmHg以上の安静時平均肺動脈高血圧(mPAP)、約15mmHg以下の平均肺動脈楔入圧(PAWP)、及び約240ダイン・秒/cm以上の肺血管抵抗(PVR)を有する;及び/又は
(ii)前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約50メートル以上の6分間歩行距離(6MWD)を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の剤。
【請求項10】
前記マシテンタンが、1日1回、約10mgの量で投与されるために処方される、請求項1~のいずれか一項に記載の剤。
【請求項11】
前記タダラフィルが、1日1回、約20mg~約40mgの量で投与されるために処方される、請求項1~10のいずれか一項に記載の剤。
【請求項12】
前記タダラフィルが、1日1回、約40mgの量で投与されるために処方される、請求項1~11のいずれか一項に記載の剤。
【請求項13】
前記セレキシパグが、1日2回、約200μg~約1600μgの量で投与されるために処方される、請求項1~12のいずれか一項に記載の剤。
【請求項14】
前記マシテンタン、前記タダラフィル、及び前記セレキシパグのそれぞれが、1つ以上の錠剤の形態で経口投与されるために処方される、請求項1~13のいずれか一項に記載の剤。
【請求項15】
前記マシテンタン及び前記タダラフィルが、単一の錠剤の形態で経口投与されるために処方され、前記セレキシパグが、1つ以上の別個の錠剤の形態で経口投与されるために処方される、請求項1~14のいずれか一項に記載の剤。
【請求項16】
前記疾患進行が、PAHの悪化による入院、又は死亡を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年9月9日出願の米国特許仮出願第63/076,149号、2020年5月12日出願の米国特許仮出願第63/023,452号、及び2019年11月29日出願の米国特許仮出願第62/941,910号の優先権の利益を主張するものであり、これらの開示は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減する方法を含む、PAHを治療する方法に関する。本方法は、それを必要とする患者に、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法を施すことを含む。
【背景技術】
【0003】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、多様な病因及び発症機序を有する肺循環の深刻な慢性疾患である。肺動脈性肺高血圧症は、肺血管抵抗(PVR)及び肺動脈圧(PAP)の進行性の増加、並びに心臓出力(CO)の減少を特徴とし、これにより最終的には右心不全及び死をもたらす。PAHの複雑な病因は、プロスタサイクリン経路、エンドセリン経路及び一酸化窒素経路の3つの主要な経路の機能不全を伴う。
【0004】
PAHは、血行動態的に、正常な肺動脈楔入圧(又は左室拡張末期圧)が15mmHg以下かつPVRが240ダイン秒/cm(又は3Wood単位)超で、安静時平均肺動脈圧が25mmHg以上として定義される。PAHは、臨床所見、病理額、病態生理学、予後、及び治療アプローチに基づいて、1)実証できる原因がないもの(特発性)、2)家族的背景によるもの(遺伝性)、3)特定の薬剤及び毒素の使用の結果として、並びに4)結合組織病、HIV感染、門脈高血圧症、先天性心疾患、又は住血吸虫症の4つのサブクラスに臨床的に更に分類される。
【0005】
PAHを治療するための現在のESC/ERSガイドラインは、初期の単剤療法に対して不十分な臨床応答を示す患者における初期2剤併用療法又は逐次併用療法を推奨している。高リスクの患者では、静脈内エポプロステノールを含む初期併用療法が推奨される。より最近では、「Proceedings from the 6th World Symposium on Pulmonary Hypertension」(第6回世界肺高血圧症学会からの進捗報告)は、1年以内の死亡の低度又は中度のリスクを有する患者におけるエンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)及び5型ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDE-5i)による初期経口併用療法、並びに高リスク患者における静脈内プロスタサイクリンを含む初期併用療法を提案している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態では、本発明は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減する方法に関する。これらの方法は、それを必要とする患者に、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法を施すことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】試験期間を被験者レベルで示す概略図である。
図2】計画された持続時間を試験レベルで示す概略図である。
図3】ベースラインから26週目までのPVRの変化(ベースラインに対する)の散布図である(解析対象集団:最大の解析対象集団)。
図4】ANCOVAのフォレストプロットである。サブグループごとのベースラインに対する26週目のPVR比(解析対象集団:最大の解析対象集団)。図中、縦の実線は、全体的な治療効果を示す。サブグループのマーカーのサイズは、群ごとの被験者数に基づく。P値は、共変数として層別化因子及びベースラインを含む、拡張された主モデルに対するサブグループごとの治療相互作用試験を反映しており、サブグループの変数効果及びその治療との相互作用を加えたものである。=相互作用のp値;Sel=セレキシパグ;Plc=プラセボ。
図5】ベースラインから26週目までの6MWDの変化(ベースラインに対する)の散布図である。
図6】無作為化からEOMOP+7日間までの最初の疾患進行事象までの時間を示す線グラフである(解析対象集団:最大の解析対象集団)。図中、被験者は、EOMOP+7日間又は試験終了時のいずれか早い方で打ち切りとされる。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。Wald信頼限界を用いて層別化Cox回帰から得られたハザード比推定値。分析は、ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域により層別化される。
図7】治療分析における3つの試験薬のうちのいずれかの最初の治療中止までの第1の疾患進行事象までの時間を示す線グラフである。この図では、被験者は、EOMOP+7日間、又は3つの試験薬のうちのいずれかの最初の治療中止の時点+7日間、又はEOSのいずれか早い方で打ち切りとした。
図8】EOMOPまでのPAHによる死亡までの、又はPAHによる入院までの時間を示す線グラフである(最大の解析対象集団)。
図8A】EOMOP+7日間までのPAHによる死亡までの、又はPAH悪化による入院までの時間を示す線グラフである(最大の解析対象集団)。図中、被験者は、最低でもEOMOP+7日間又はEOSのいずれか早い方で打ち切りとした。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。Wald信頼限界を用いてCox回帰から得られたハザード比推定値。分析は、ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域により層別化される。
図9】EOMOPまでの死亡又は最初の入院(あらゆる原因)までの時間を示す線グラフである(最大の解析対象集団)。
図9A】EOMOP+7日間までの死亡又は最初の入院(あらゆる原因)までの時間を示す線グラフである(最大の解析対象集団)。図中、被験者は、最低でもEOMOP+7日間又はEOSのいずれか早い方で打ち切りとした。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。Wald信頼限界を用いてCox回帰から得られたハザード比推定値。分析は、ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域により層別化される。
図10】最大の解析対象集団について、無作為化からEOMOP+7日間までの死亡(あらゆる原因)までの時間を示す線グラフである。
図11】PVR<888ダイン・秒/cmを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおける中央値PVRによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図12】PVR≧888ダイン・秒/cmを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおける中央値PVRによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図13】mPAP<52mmHgを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおけるmPAPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図14】mPAP≧52mmHgを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおけるmPAPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図15】mRAP<8mmHgを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおける中間値mRAPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図16】mRAP≧8mmHgを有する患者について、EOMOP+7日間までの中間値RPAPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図17】CI≧2.1L/分/mを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおけるCIによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図18】CI<2.1L/分/mを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおけるCIによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図19】NT-proBNP<1360ng/Lを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおける中間値NT-proBNPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図20】NT-proBNP≧1360ng/Lを有する患者について、EOMOP+7日間までのベースラインにおける中間値NT-proBNPによる疾患進行までの時間の線グラフである。
図21】EOSまでの患者の内訳を示す試験デザインの概略図である。4人の患者でセレキシパグを開始せず、安全性分析を行うための初期2剤療法群に割り当てた。**1人の患者はいずれの治療も受けなかったことから、安全性解析対象集団から除外した。†120人の患者にプラセボを投与した。
図22】EOSまでの疾患進行までの時間を示す線グラフである。図中、th=療法である。被験者は、EOSで打ち切りとされる。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域を用いて層別化Cox回帰から得られたハザード比推定値。3剤療法(N=123)、2剤療法(N=124)。
図23】EOMOPまでの死亡までの時間を示す線グラフである。図中、th=療法である。被験者は、EOMOP又は試験終了時のいずれか早い方で打ち切りとされる。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域により層別化したWald信頼限界分析を用いて層別化Cox回帰から得られたハザード比推定値。3剤療法(N=123)、2剤療法(N=124)。
図24】EOSまでの死亡までの時間を示す線グラフである。図中、th=療法である。被験者は、EOSで打ち切りとされる。グラフは、被験者の10%未満が両方の治療群においてリスクがある場合に切られる。p値は層別化ログランク検定に基づく。ベースラインにおけるWHO機能分類及び地理的地域により層別化したWald信頼限界分析を用いて層別化Cox回帰から得られたハザード比推定値。3剤療法(N=123)、2剤療法(N=124)。
図25】EOMOP+7日までの疾患進行事象(ALL、第1及び後続のもの)を示す棒グラフである。
図26】EOSまでの疾患進行事象(ALL、第1及び後続のもの)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示では、特に明示しない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形の言及を包含し、特定の数値への言及は、少なくともその特定の値を包含する。したがって、例えば、「材料(a material)」への言及は、少なくとも1つのこのような材料、及び当業者に既知のその等価物、及び類似のものへの言及である。
【0009】
値が、記述語「約」又は「実質的に」の使用によって近似値として表現されるとき、その特定の値は、別の実施形態を形成することが理解される。一般的に、用語「約」又は「実質的に」の使用は、開示する発明主題によって得ようとしている所望の特性に依存して変動し得る近似値を示し、その機能に基づいて、それが使用される特定の文脈において解釈されるべきである。当業者は、これを単なる形式として解釈することができる。一部の場合、特定の値に対して用いられる有効数字の数は、用語「約」又は「実質的に」の程度を決定する1つの非限定的な方法であり得る。他の場合、一連の値において用いられる漸次的変化を用いて、それぞれの値について用語「約」又は「実質的に」に利用可能な意図する範囲を決定することができる。存在する場合、すべての範囲は、包括的かつ組み合わせ可能である。すなわち、範囲で記述される値への言及は、その範囲内のすべての値を含む。
【0010】
リストが提示される場合、特に指定しない限り、そのリストの各個々の要素及びそのリストのすべての組み合わせを別々の実施形態として解釈すべきであることを理解されたい。例えば、「A、B、又はC」として提示される実施形態のリストは、実施形態「A」、「B」、「C」、「A又はB」、「A又はC」、「B又はC」、又は「A、B、又はC」を含むと解釈されるべきである。
【0011】
別個の実施形態の文脈において明確性のために本明細書に記載される、本発明のある特定の特徴はまた、単一の実施形態内に組み合わされて提供されてもよいことが理解される。すなわち、明白に不適合であるか又は除外されない限り、各個々の実施形態は、任意の他の実施形態と組み合わせ可能とみなされ、このような組み合わせは、別の実施形態であると考えられる。逆に、説明を簡単にするために単一の実施形態との関連において述べられる本発明の異なる特徴が、別々に又は任意の部分的組み合わせとして提供される場合もある。特許請求の範囲は、いずれかの任意要素を除外するように起案される場合もあることに更に留意されたい。したがって、この記載は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連する「だけ」、「のみ」などの排他的な用語の使用、又は「否定的」限定の使用に対する先行的限定の根拠として機能することを意図する。最後に、実施形態は、一連の工程の一部として又はより一般的な構造の一部として記載し得るが、各工程をそれ自体が独立する実施形態であると考えてもよい。
【0012】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「治療すること」、「治療」などは、疾患、状態、又は障害と闘う目的での、患者の管理及びケアを含むものとする。用語「治療すること」及び「治療」はまた、(a)疾患、状態若しくは障害の1つ以上の症状若しくは合併症を緩和するため、(b)疾患、状態若しくは障害の1つ以上の症状若しくは合併症の発病を予防するため、及び/又は(c)疾患、状態若しくは障害の1つ以上の症状若しくは合併症を排除するための、本明細書に記載される化合物又は医薬組成物の投与を含む。
【0013】
用語「被験者」及び「患者」は、本明細書では、治療、観察、又は実験の対象とされたヒトを指して互換的に使用される。好ましくは、患者は、治療すべき及び/又は予防すべき疾病又は障害の少なくとも1つの症状を経験し及び/又は示している。
【0014】
用語「量」は、本明細書で使用するとき、治療される疾患又は障害の1つ以上の症状の緩和を含む、試験者、医師、又は他の臨床医により求められる、ヒトにおける生物学的反応又は医薬反応を誘発する活性化合物又は医薬成分の量を意味する。
【0015】
用語「疾患進行」は、本明細書で使用するとき、当業者によって理解されるように多くの因子によって分類される。いくつかの実施形態では、疾患は、死亡が発生する場合に進行している。他の実施形態では、疾患は、患者がPAHの悪化により入院している場合に進行している。更なる実施形態では、疾患は、患者のPAHが悪化しており、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、又はプロスタサイクリン受容体アゴニストなどのPAHの悪化を低減するための薬剤の投与を開始する必要がある場合に進行している。更に他の実施形態では、疾患は、患者が臨床的悪化を有する場合に進行しているものとみなされる。
【0016】
用語「臨床的悪化」は、本明細書で使用するとき、WHO機能分類III又はIVを伴う(いずれの条件も、1~21日間を隔てた2回の連続したベースライン後評価において確認した)、ベースラインにおいて、又はベースライン後に得られた最高6MWDからの15%よりも大きいベースライン後の6MWDの減少を指す。
【0017】
初期3剤併用療法
本明細書に記載の方法は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減することに関する。本方法は、それを必要とする患者に、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法を施すことを含む。
【0018】
本明細書に記載されるように、初期3剤併用療法は、例えば、入院のリスクを含む、患者の疾患進行のリスクを低減するものである。特定の実施形態では、リスクは、PAHを有する患者集団、例えば、ERAとPDE-5阻害剤の初期2剤併用療法(すなわち、IP受容体アゴニストを含まない)を受けている患者とほぼ同じレベルの疾患進行の集団に対して低減される。このような相対分析を実施例1に開示する。いくつかの実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法を受けている患者集団に対して、疾患進行のリスクを少なくとも約20%低減する。他の実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法と比較して、疾患進行のリスクを約20~約50%、より好ましくは約30%~約40%低減する。更なる実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法と比較して、疾患進行のリスクを約25~約45%、約30~約45%、約35%~約50%、又は約40~約50%低減する。更に他の実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法に対して、疾患進行のリスクを少なくとも約30%(約30%を含む)低減する。更に他の実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法に対して、疾患進行のリスクを少なくとも約40%(約40%を含む)低減する。更に他の実施形態では、本方法は、初期2剤併用療法に対して、疾患進行のリスクを少なくとも約50%(約50%を含む)低減する。
【0019】
用語「3剤併用療法」は、本明細書で使用するとき、ERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストの3つすべてを用いる、本明細書に開示される治療プロトコルを指す。ERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストの3つすべてを、治療方法において同時に、又は異なる時間に(例えば、逐次)投与することができる。同様に、用語「2剤併用療法」用語は、IP受容体アゴニストなしでERA及びPDE-5阻害剤を用いる、当該技術分野における治療プロトコル及び方法を指す。
【0020】
「3剤併用療法」について言う場合に「初期」という用語は、ERA、PDE-5、及びIP受容体アゴニストの先行併用治療を意味する。「初期」3剤併用療法(又は「初期」2剤併用療法)では、各成分は互いに短期間の内に開始され、その後、それぞれが医師又は他の医療従事者の処方に従って投与される。例えば、初期3剤併用療法において、ERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストのそれぞれは、同日に開始することができる。他の実施形態では、各成分による治療は、互いから短期間の内に、例えば、互いに1週間以内、2週間以内、3週間以内、又は4週間以内に開始することができる。各成分の開始の順序及びタイミング(初期3剤又は初期2剤併用療法の場合)は、例えば、医師又は他の医療従事者の指示に基づいて変更することができる。いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニスト、ERA、又はPDE-5阻害剤のうちの1つ又は2つが、併用療法の開始の1日目に投与され、IP受容体アゴニスト、ERA、又はPDE-5阻害剤のうちの1つ又は2つが、1日目から約1週間~約3週間以内に投与される。例えば、本明細書の実施例のセクションにおけるように、ERAとPDE-5阻害剤を1日目に開始し、IP受容体アゴニストを15日目±3日目に開始する。
【0021】
「3剤併用療法」について言う場合に「初期」という用語は、単剤療法又は2剤併用療法などの以前の治療に対する患者の臨床応答に基づいて成分のうちの1つ又は2つが追加される逐次療法とは対照的である。例えば、ERA、PDE-5、及びIP受容体アゴニストの初期3剤併用療法は、患者がERAとPDE-5阻害剤の初期2剤併用療法に対する不十分な臨床応答を有すると評価された後に、ERAとPDE-5阻害剤の初期2剤併用療法にIP受容体アゴニストが補足される逐次3剤併用療法とは対照的に、3つすべての成分を含む先行治療レジメンを含む。初期3剤併用療法はまた、ERA又はPDE-5阻害剤などの成分のうちの1つの単剤療法に対する患者の臨床応答とは独立して投与することもできる。同様に、初期2剤併用療法は、1つの成分が他の成分のうちの1つによる以前の初期単剤療法に対する患者の臨床応答に基づいて追加される連続療法とは対照的に、成分のうちの2つ、通常はERAとPDE-5阻害剤による先行治療を含む。
【0022】
本明細書及び当該技術分野で使用されるとき、用語「肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension)」及び「PAH」は互換可能であり、患者が肺の高血圧を有する状態を定義する。PAHは、肺全体の非常に小さな動脈の直径が狭くなると発症し、それにより、肺を通る血流に対する抵抗が増加する。いくつかの実施形態では、この狭窄の根本的な原因は知られていない(すなわち、特発性肺高血圧症)。PAHはまた、(i)家族性又は遺伝性PAH、(ii)薬物又は毒素によって引き起こされるPAH、(iii)結合組織病(強皮症又は狼瘡)、先天性心臓病、肝臓の高血圧、HIV、感染症(住血吸虫症)、及び鎌状赤血球貧血などの他の状態に関連するPAH、(iv)まれな血液状態(例えば、肺毛細血管腫症)によって引き起こされるPAH、又は(v)乳児のPAH(新生児の持続性肺高血圧症)、を含むサブグループに分類される。患者のPAHの重症度は、分類システム、すなわち、世界保健機関(WHO)クラスシステムによって一般的に評価される。表Aを参照されたい。
【0023】
【表1】
【0024】
一般的に、PAHクラスが高いほど疾患状態がより重く、及び/又は患者を正確に診断し、PAH療法を開始する緊急性が高いことを示す。したがって、本方法は、患者がより低いWHO PAHクラスからより高いWHO PAHクラスに進行するリスクを低減するものである。いくつかの実施形態では、本方法は、PAH患者が、WHOクラスIからWHOクラスIIに、WHOクラスIからWHOクラスIIIに、WHOクラスIIからWHOクラスIVに、WHOクラスIIからWHOクラスIIIに、WHOクラスIIからWHOクラスIVに、又はWHOクラスIIIからWHOクラスIVに進行するリスクを低減する。
【0025】
本方法はまた、PAH関連の入院、PAHの臨床的悪化、PAHの悪化を低減する薬剤の開始、又は死亡を予防又は制限することによって、PAH疾患の進行を低減するか、又は更に低減することができる。いくつかの実施形態では、本方法は、例えば、PAHの悪化による、患者の入院のリスクを低減する。他の実施形態では、本方法は、PAHの臨床的悪化のリスクを低減する。更なる実施形態では、本方法は、患者死亡のリスクを低減する。他の実施形態では、本方法は、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、又はプロスタサイクリン受容体アゴニストなどのPAHの悪化を低減するための薬剤の投与を開始する必要を回避する。例えば、本明細書の実施例のセクションの表13は、特定の疾患進行事象の評価を含む。
【0026】
特定の実施形態では、患者は、PAHについて治療ナイーブであるが、PAHの治療レジメンを以前に行った、又は現在行っている患者も、本明細書に開示される方法によって利することができる。用語「治療ナイーブ」は、本明細書で使用するとき、本明細書に記載の方法に従って治療を開始する以前に、PAHの治療を行っていない患者を指す。いくつかの実施形態では、患者は、本明細書に記載の方法に従って治療を開始する以前にエンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)を服用していない。いくつかの実施形態では、患者は、本明細書に記載の方法に従って治療を開始する以前に5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤を服用していない。更なる実施形態では、患者は、本明細書に記載の方法に従って治療を開始する以前にプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)を服用していない。更に他の実施形態では、患者は、本明細書に記載の方法に従って治療を開始する以前にエンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)を服用していない。
【0027】
他の実施形態では、患者は更に、又は治療ナイーブであることに加えて、新たにPAHを診断される。例えば、患者の初期PAH診断は、初期3剤併用療法の開始の約6ヶ月以内に行われる。いくつかの実施形態では、初期PAH診断は、初期3剤併用療法の開始の約6、約5、約4、約3、約2、又は約1ヶ月以内に行われる。
【0028】
本明細書に記載の方法はまた、平均肺動脈高血圧(mPAP)、肺動脈楔入圧(PAWP)、及び肺血管抵抗(PVR)のうちの1つ以上を正常化及び/又は改善するうえでも有効である。いくつかの実施形態では、本方法は、mPAP又はPVRのうちの1つ以上の異常に上昇したレベルを低下させるのに有効である。したがって、mPAP、及び/又はPVRは、開始療法の時点で上昇している可能性があり、本明細書に開示される初期3剤併用療法方法を使用して低下させられる。
【0029】
それらの初期3剤併用の開始時に、患者は安静時に約25mmHg以上のmPAPを有し得る。一般的に、初期3剤併用療法は、患者のmPAPレベルを低下させることができる。いくつかの実施形態では、本方法は、mPAPレベルを約5mmHg、約10mmHg、約15mmHg、又は約20mmHg、低下させる。
【0030】
患者はまた、初期3剤併用療法の開始時に約15mmHg以下の平均PAWPを有してもよい。いくつかの実施形態では、患者は、初期3剤併用療法の開始時に約15、約14、約13、約12、約11、約10、約9、約8、約7、約6、約5、約4、約3、約2、又は約1mmHg未満の平均肺動脈楔入圧を有し得る。
【0031】
また、患者は、初期3剤併用療法の開始時に約240ダイン・秒/cm以上のPVRを有する場合もある。他の実施形態では、患者は、初期3剤併用療法の開始時に約480ダイン・秒/cm以上のPVRを有する。本方法は患者のPVRを低下させる。
【0032】
また、患者は、初期3剤併用療法の開始時に約50メートル以上の6分間歩行距離(6MWD)を有することも想到される。例えば、一般的に、新たに診断された患者の6MWDは、約150~500メートルの範囲である。しかしながら、他の実施形態では、患者は、初期療法の開始時に50メートル未満の6MWDを有する。本明細書に開示される初期3剤併用療法は、6MWDレベルを増大させるうえで有効である。
【0033】
エンドセリン受容体アンタゴニスト
本明細書に記載の方法は、所定量のERAを投与することを含む。「エンドセリン受容体アンタゴニスト」又は「ERA」は、医師又は他の医療従事者によって選択することができる。いくつかの実施形態では、ERAは、マシテンタン、ボセンタン、又はアンブリセンタン、又はこれらの薬学的に許容される塩である。他の実施形態では、ERAは、マシテンタンである。更なる実施形態では、ERAは、ボセンタンである。更に他の実施形態では、ERAは、アンブリセンタンである。
【0034】
いくつかの実施形態では、ERAの量は、約15mg未満である。更なる実施形態では、ERAの量は、約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、又は約15mgである。他の実施形態では、ERAの量は、約1~約15mg、約1~約10mg、約1~約5mg、約5~約15mg、約5~約10mg、又は約10~約15mgである。なおも更なる実施形態では、ERAの量は、約5~約15mgである。なおも更なる実施形態では、ERAの量は、約10mgである。ERAの量は、治療方法全体を通じて同じであってもよく、又は変更されてもよい。いくつかの実施形態では、ERAの量は増加させられる。他の実施形態では、ERAの量は減少させられる。望ましくは、ERAは、日中の同じ時間に患者によって服用される。したがって、いくつかの実施形態では、ERAは朝に服用される。他の実施形態では、ERAは夜に服用される。ERAの量は、1回用量として、又は医師若しくは他の医療従事者によって決定されるように2回以上の用量に分けて服用することができる。好ましくは、ERAは1回用量として服用される。
【0035】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「マシテンタン」は、式(I)のN-[5-(4-ブロモフェニル)-6-[2-[(5-ブロモ-2-ピリミジニル)オキシ]エトキシ]-4-ピリミジニル]-N’-硫化プロピルを指す。
【0036】
【化1】
【0037】
他の実施形態では、マシテンタンは、純粋又は実質的に純粋な形態のエナンチオマー及びジアステレオマーなどのマシテンタンの立体異性体を指す。マシテンタンはまた、そのラセミ混合物を指す。本明細書で使用するとき、「マシテンタン」はまた、マシテンタンの非晶形態又は結晶形態を指す。いくつかの実施形態では、マシテンタンは結晶形態である。他の実施形態では、マシテンタンは非晶形態である。結晶化度は、例えば、中でも単一結晶X線回折、粉末X線回折、示差走査熱量測定、融点などの1つ以上の技術を使用して、当業者によって決定することができる。本明細書で使用するとき、「マシテンタン」は無水形態又はその水和物を含む。特定の実施形態では、マシテンタンは無水形態である。他の実施形態では、マシテンタンはその水和物である。本明細書で使用するとき、「マシテンタン」は、その溶媒和物を更に指す。そのような溶媒和物としては、分子間力又は化学結合を介して、マシテンタン分子の1つ以上の位置に結合した溶媒の分子を含む。本明細書で使用するとき、「マシテンタン」は、その多形体を指す場合もある。そのようなマシテンタンの多形体としては、それぞれの多形体の結晶格子に変化をもたせた、分子の結晶形態が挙げられる。用語「マシテンタン」はまた、当業者によって容易に選択され得る薬学的に許容されるその塩も含み得る。薬学的に許容される塩という表現には、例えば塩酸若しくは臭化水素酸などのハロゲン化水素酸;硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、酒石酸、メチルスルホン酸、p-トルオスルホン酸など、又は式Iの化合物が本質的に酸性である場合、アルカリ若しくはアルカリ土類塩基のような無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのような無機酸付加塩又は有機酸付加塩のいずれかを包含する。マシテンタンは、当業者に理解されるように市販されている。例えば、マシテンタンはOPSUMIT(登録商標)として入手可能である。マシテンタンは、エンドセリン受容体拮抗薬であり、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,094,781号に開示されているようなプロセスに従って調製され得る。
【0038】
本発明ではまた、マシテンタン代謝産物又はその薬学的に許容される塩の投与も想到している。望ましくは、マシテンタン代謝産物は代謝活性化合物である。したがって、特定の実施形態では、マシテンタン代謝産物は式I-M1~I-M7のものである。いくつかの実施形態では、マシテンタン代謝産物は式I-M6のものであり、I-M6はまた、コード名ACT-132577及び医薬品国際一般名称アプロシテンタンでも知られている。
【0039】
【化2】
【0040】
【化3】
【0041】
プロスタサイクリン受容体アゴニスト
本明細書に記載の方法は、プロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の投与も含む。当業者であれば、特定のIP受容体アゴニストを選択することが可能である。いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニストは、セレキシパグ、4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸(MRE-269)、又はラリネパグ、又はこれらの薬学的に許容される塩である。更に、プロスタサイクリン類似体(又はプロスタノイド)は、本明細書に開示される方法との関連でIP受容体アゴニストに置き換えることができる。プロスタサイクリン類似体(又はプロスタノイド)の例としては、エポプロステノール、トレプロスチニル、ベラプロスト若しくはイロプロスト、又はこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。IP受容体アゴニストに関する本明細書の開示は、プロスタサイクリン類似体(又はプロスタノイド)にも適用される。
【0042】
初期3剤併用におけるIP受容体アゴニストによる治療は、ERA及びPDE-5阻害剤と同時に開始することもできるが、一般的には、PDE-5阻害剤及びERAによる初期治療が開始された後に開始される。一般的には、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約10~約20日後に患者に投与される。いくつかの実施形態において、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約12~約18、約13~約17、約14~約16、約13~約18、約13~約17、約13~約16、約13~約15、約14~約18、約14~約17、約14~約16、約15~約18、約15~約17、約15~約16、約16~約18、約16~約17、又は約17~約18日後に投与される。他の実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約12日後に投与される。更なる実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約13日後に投与される。更に他の実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約14日後に投与される。いっそう更なる実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約15日後に投与される。他の実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約16日後に投与される。更なる実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約17日後に投与される。更に他の実施形態では、IP受容体アゴニストの開始用量は、初期3剤併用療法の1日目から約18日後に投与される。
【0043】
IP受容体アゴニストの量は、とりわけ、疾患の重症度、患者の身体的特徴などの因子に基づいて、医師又は他の医療従事者によって選択することができる。いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニストの量は、少なくとも約10μgである。いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニストの量は、少なくとも約100、約200、約300、約400、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約1100、約1200、約1300、約1400、約1500、約1600、約1700、約1800、約1900、約2000、約2100、約2200、約2300、約2400、約2500、約2600、約2700、約2800、約2900、約3000、約3100、約3200、約3300、約3400、又は約3500μgである。
【0044】
IP受容体アゴニストの日用量は、1日1回、1日2回、又は1日3回、好ましくは1日2回投与することができる。いくつかの実施形態では、用量は、1日2回投与される。他の実施形態では、用量は、正午前に1回、及び正午後に1回投与される。更なる実施形態では、日用量は、1日1回投与される。
【0045】
望ましくは、IP受容体アゴニストの用量は、約1600μgを1日2回、すなわち、1日当たり3200μgを超えない。いくつかの実施形態では、1日2回のIP受容体アゴニストの用量は、約100~約3500μg、約200~約3200、約200~約3000、約200~約2800、約200~約2600、約200~約2400、約200~約2200、約200~約2000、約200~約1800、約200~約1600、約200~約1400、約200~約1200、約200~約1000、約200~約800、約200~約600、約200~約400、約400~約3200、約400~約3000、約400~約2800、約400~約2600、約400~約2400、約400~約2200、約400~約2000、約400~約1800、約400~約1600、約400~約1400、約400~約1200、約400~約1000、約400~約800、約400~約600、約600~約3200、約600~約3000、約600~約2800、約600~約2600、約600~約2400、約600~約2200、約600~約2000、約600~約1800、約600~約1600、約600~約1400、約600~約1200、約600~約1000、約600~約800、約800~約3200、約800~約3000、約800~約2800、約800~約2600、約800~約2400、約800~約2200、約800~約2000、約800~約1800、約800~約1600、約800~約1400、約800~約1200、約800~約1000、約1000~約3200、約1000~約3000、約1000~約2800、約1000~約2600、約1000~約2400、約1000~約2200、約1000~約2000、約1000~約1800、約1000~約1600、約1000~約1400、約1000~約1200、約1200~約3200、約1200~約3000、約1200~約2800、約1200~約2600、約1200~約2400、約1200~約2200、約1200~約2000、約1200~約1800、約1200~約1600、約1200~約1400、約1400~約3200、約1400~約3000、約1400~約2800、約1400~約2600、約1400~約2400、約1400~約2200、約1400~約2000、約1400~約1800、約1400~約1600、約1600~約3200、約1600~約3000、約1600~約2800、約1600~約2600、約1600~約2400、約1600~約2200、約1600~約2000、約1600~約1800、約1800~約3200、約1800~約3000、約1800~約2800、約1800~約2600、約1800~約2400、約1800~約2200、約1800~約2000、約2000~約3200、約2000~約3000、約2000~約2800、約2000~約2600、約2000~約2400、約2000~約2200、約2200~約3200、約2200~約3000、約2200~約2800、約2200~約2600、約2200~約2400、約2400~約3200、約2400~約3000、約2400~約2800、約2400~約2600、約2600~約3200、約2600~約3000、約2600~約2800、約2800~約3200、約2800~約3000、又は約3000~約3200μgである。更なる実施形態では、1日2回のIP受容体アゴニストの用量は、約200~約1600μgである。他の実施形態では、1日2回のIP受容体アゴニストの用量は、約200μg~約1600μgである。なおも更なる実施形態では、1日2回のIP受容体アゴニストの用量は、1日2回、約1200μg~約1600μgである。
【0046】
一般的には、IP受容体アゴニストの開始日用量は、約400μgである。これを、1回用量(400μg)又は好ましくは2回用量(200μg/用量)で患者に投与することができる。2回用量で患者に投与される場合、各用量は同時に、又はずらして服用される。いくつかの実施形態では、第1の200μg用量を朝に服用することができ、第2の200μg用量が夜に服用される。他の実施形態では、400μgの開始用量が朝に服用される。更なる実施形態では、400μgの開始用量が夜に服用される。
【0047】
望ましくは、IP受容体アゴニストの量は、医師又は他の医療従事者によって決定されるように、最大耐用量を与えるように調整される。IP受容体アゴニストの用量は、患者の忍容性に応じて、一定間隔でIP受容体アゴニストの初期用量から最大耐用量(MTD)まで増加させられる。一般的には、MTDは、1600μgを1日2回か、又は患者が忍容及び/又は医学的に管理されることができない有害な薬理学的効果を経験するまでである。一定間隔は毎日又は毎週とすることができるが、投与量は一般的には週間隔で増加させられる。
【0048】
特定の実施形態では、IP受容体アゴニストはセレキシパグである。特に断りがない限り、本明細書で使用するとき、用語「セレキシパグ」は、式(II)の2-{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}-N-(メタンスルホニル)アセトアミドを指す。
【0049】
【化4】
【0050】
本明細書で使用するとき、「セレキシパグ」は、セレキシパグの非晶形態又はセレキシパグの多形などの結晶形態も指す。いくつかの実施形態では、セレキシパグは、多形などの結晶形態である。他の実施形態では、セレキシパグは非晶形態である。他の実施形態では、セレキシパグは、いずれも参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,791,122号及び同第9,284,280号に記載される形態I、米国特許第9,340,516号に記載される形態II、又は米国特許第9,440,931号に記載される形態IIIである。結晶化度は、例えば、中でも単一結晶X線回折、粉末X線回折、示差走査熱量測定、融点などの1つ以上の技術を使用して、当業者によって決定することができる。本明細書で使用するとき、「セレキシパグ」はその無水物又はその水和物を含む。特定の実施形態では、セレキシパグは無水形態である。他の実施形態では、セレキシパグはその水和物である。本明細書で使用するとき、「セレキシパグ」は、その溶媒和物を更に指す。そのような溶媒和物としては、分子間力又は化学結合を介して、セレキシパグ分子の1つ以上の位置に結合した溶媒の分子が含まれる。
【0051】
用語「セレキシパグ」は、当業者によって容易に選択され得る、薬学的に許容されるその塩も含み得る。「薬学的に許容される塩」とは、無毒性の、生物学的耐容性を有するか、又は他の形で被験者への投与に生物学的に適したセレキシパグの塩を意味するものとする。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Berge,「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.,1977,66:1-19、及びHandbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth,Eds.,Wiley-VCH and VHCA,Zurich,2002を参照されたい。セレキシパグは、遊離塩基又は酸の形態で使用することもできるが、既知の方法によって薬学的に許容される塩とした後に使用することもできる。セレキシパグが塩基性である場合、「塩」の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸及び臭化水素酸などの無機酸の塩、並びに酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、及びカンファースルホン酸などの有機酸の塩が挙げられる。セレキシパグが酸性である場合、「塩」の例としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、並びにカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。セレキシパグの幾何異性体(Z形態及びE形態)又はこれらの混合物も想到される。セレキシパグは、当業者には理解されるように市販されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,205,302号を参照されたい。例えば、セレキシパグはUptravi(登録商標)として入手可能であり、ACT-293987又はNS-304としても知られる。セレキシパグはプロスタサイクリン受容体のアゴニストであり、米国特許第7,205,302号に開示されるプロセスに従って調製され得る。
【0052】
本開示はまた、セレキシパグ代謝産物の投与も想到する。望ましくは、セレキシパグ代謝産物は、代謝的に活性な化合物である。したがって、特定の実施形態では、セレキシパグ代謝産物は、式II-M1の4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸である。II-M1はまた、コード名ACT-333679又はMRE-269としても知られている。セレキシパグの調製は、国際公開第2002/088084号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。多形相、即ち遊離塩基の結晶形態I、II、及びIIIの調製は、国際公開第2010/150865号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されており、薬学的に許容される塩の多形相は、国際公開第2011/024874号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0053】
【化5】
【0054】
5型ホスホジエステラーゼ阻害剤
本明細書に記載の方法はまた、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤の投与も含む。医師又は他の医療従事者であれば、適当な(PDE-5)阻害剤を選択することが可能である。いくつかの実施形態では、(PDE-5)阻害剤は、タダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィル、又はウデナフィル、又はこれらの薬学的に許容される塩である。他の実施形態では、PDE-5阻害剤はタダラフィルである。他の実施形態では、PDE-5阻害剤はシルデナフィルである。更なる実施形態では、PDE-5阻害剤はバルデナフィルである。更に他の実施形態では、PDE-5阻害剤はウデナフィルである。
【0055】
PDE-5阻害剤の日用量は、1日1回、1日2回、又は1日3回、好ましくは1日2回投与することができる。いくつかの実施形態では、用量は、1日2回投与される。PDE-5阻害剤の量は、とりわけ、疾患の重症度、患者の身体的特徴などの因子に基づいて、医師又は他の医療従事者によって選択することができる。いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤の量は、少なくとも約5mgである。いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤の量は、約5~約100mg、約10~約100mg、約10~約90mg、約10~約80mg、約10~約70mg、約10~約60mg、約10~約50mg、約10~約40mg、約10~約30mg、約10~約20mg、約20~約100mg、約20~約90mg、約20~約80mg、約20~約70mg、約20~約60mg、約20~約50mg、約20~約40mg、約20~約30mg、約30~約100mg、約30~約90mg、約30~約80mg、約30~約70mg、約30~約60mg、約30~約50mg、約30~約40mg、約40~約100mg、約40~約90mg、約40~約80mg、約40~約70mg、約40~約60mg、約40~約50mg、約50~約100mg、約50~約90mg、約50~約80mg、約50~約70mg、約50~約60mg、約60~約100mg、約60~約90mg、約60~約80mg、約60~約70mg、約70~約100mg、約70~約90mg、約70~約80mg、約80~約100mg、約80~約90mg、約90~約100mgである。更なる実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は、約20~約40mgである。更に他の実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は約20mgである。更なる実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は約40mgである。
【0056】
PDE-5阻害剤の最大耐用量(MTD)には、初期3剤併用療法中に達することが望ましい。したがって、PDE-5阻害剤の量は、治療方法全体を通じて同じであってもよく、又は変更してもよい。いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤の量は、初期用量から増加させられる。他の実施形態では、PDE-5阻害剤の量は、初期用量から減少させられる。PDE-5阻害剤の用量は、これらに限定されるものではないが、腎及び肝障害を含む多くの因子に応じて調整することができる。したがって、いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤の初期用量は、初期3剤併用療法中に約20mg増加させられる。例えば、PDE-5阻害剤の初期用量は約20mgであり、患者の忍容性に応じて、後に約40mgに増加させられる。PDE-5阻害剤の用量は、初期3剤併用療法の1日後に調整される。いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は、初期3剤併用療法の1日目から少なくとも約5日後に調整される。他の実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は、初期3剤併用療法の1日目から少なくとも約8日後に調整される。更なる実施形態では、PDE-5阻害剤の用量は、初期3剤併用療法の1日目から少なくとも約11日後に調整される。いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤アゴニストの用量は、初期3剤併用療法の1日目から約5~約15日、約5~約11日、約5~約8日、約6~約15日、約6~約11日、約6~約8日、約7~約15日、約7~約11日、約7~約8日、約8~約15日、又は約8~約11日後に調整される。好ましくは、PDE-5阻害剤の初期用量は約20mgであり、用量は約5~約11日間で約40mgの用量にまでその後、増加させられる。
【0057】
望ましくは、PDE-5阻害剤は、日中に同時に患者によって服用される。したがって、いくつかの実施形態では、PDE-5阻害剤は朝に服用される。他の実施形態では、PDE-5阻害剤は夜に服用される。PDE-5阻害剤の量は、当業者によって決定されるように、1回用量として、又は2回以上の用量に分けて服用することができる。好ましくは、PDE-5阻害剤は、1回用量として服用される。
【0058】
本明細書で使用するとき、特に明記しない限り、用語「タダラフィル」は、式(III)のピラジノ[1’;,2’;:1,6]ピリド[3,4-b]インドール-1,4-ジオン,6-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)2,3,6,7,12,12a-ヘキサヒドロ-2-メチル-,(6R,12aR)-を指す。
【0059】
【化6】
【0060】
「タダラフィル」は、当業者によって容易に選択することができる、薬学的に許容されるその塩も含み得る。「薬学的に許容される塩」とは、無毒性の、生物学的耐容性を有するか、又は他の形で被験者への投与に生物学的に適したタダラフィルの塩を意味するものとする。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Berge,「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.,1977,66:1-19、及びHandbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth,Eds.,Wiley-VCH and VHCA,Zurich,2002を参照されたい。タダラフィルは、遊離塩基又は酸の形態で使用することもできるが、既知の方法によって薬学的に許容される塩とした後に使用することもできる。タダラフィルが塩基性である場合、「塩」の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸及び臭化水素酸などの無機酸の塩、並びに酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、及びカンファースルホン酸などの有機酸の塩が挙げられる。タダラフィルが酸性である場合、「塩」の例としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、並びにカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。タダラフィルは、Adcirca(商標)として市販されている。
【0061】
維持治療期間
初期3剤併用療法の治療期間は、一般的には維持期間を含む。維持期間は、医師又は他の医療従事者によって決定することができる。維持期間は、一般的には、ERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストのうちの1つ以上について最大耐用量(MTD)を決定するのに十分な時間の後に開始する。特定の実施形態では、維持期間は、IP受容体アゴニストのMTDの決定後に開始する。したがって、初期3剤併用療法の開始から維持期の開始までの時間は、例えば、約4週間~約30週間で異なり得る。一般的には、治療に当たる医師は、ERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストのすべてによる治療を維持するか、又はERA、PDE-5阻害剤、若しくはIP受容体アゴニストのうちの1つ以上の使用を中止する必要性を評価するために患者を評価する。いくつかの実施形態では、患者は、維持治療期間中にERA、PDE-5阻害剤、及びIP受容体アゴニストによる治療を継続する。他の実施形態では、患者は、維持治療期間中にERA及びPDE-5阻害剤による治療を継続する。更なる実施形態では、患者は、維持治療期間中にERA及びIP受容体アゴニストによる治療を継続する。更に他の実施形態では、患者は、維持治療期間中にPDE-5阻害剤及びIP受容体アゴニストによる治療を継続する。いっそう更なる実施形態では、患者は、維持治療期間中にERAによる治療を継続する。他の実施形態では、患者は、維持治療期間中にPDE-5阻害剤による治療を継続する。更なる実施形態では、患者は、維持治療期間中にIP受容体アゴニストによる治療を継続する。
【0062】
維持治療期間中のERA、PDE-5阻害剤、又はIP受容体アゴニストのうちの1つ以上の投与量及び頻度は、主治医によって決定される。維持治療期間中のERA、PDE-5阻害剤、及び/又はIP受容体アゴニストの投与頻度及び量は、患者の疾患進行のリスクを低減するうえで最小の頻度及び量である。いくつかの実施形態では、維持治療期間は、少なくとも約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約17週間、約18週間、約19週間、約20週間、約6ヶ月、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、約11ヶ月、1年、又は約2年である。いくつかの実施形態では、維持治療期間は、少なくとも6ヶ月である。他の実施形態では、維持治療期間は、少なくとも1年である。
【0063】
維持治療期間は、患者の状態に応じてより長い期間を含んでもよい。いくつかの実施形態では、これらのより長い期間は、無期限を含めて、少なくとも約3年、約4年、約5年、約6年、約7年、約8年、約9年、約10年、又は約10年超であってもよい。患者がPAH症状を示さなくなるまで、PAH症状が減少し続けるようになるまで、PAH症状が悪化しなくなるまで、及び/又は患者が治療に応答しなくなるまで、患者は維持治療期間に留まる。
【0064】
維持治療期間中に患者に投与されるERA、PDE-5阻害剤、又はIP受容体アゴニストの量は、1つ以上のPAH症状の消失又は1つ以上のPAH症状の低減をもたらす生物学的又は医学的応答を誘発する量である。いくつかの実施形態では、ERA、PDE-5阻害剤、又はIP受容体アゴニストのうちの1つ以上の量は、維持期間の前に投与されるいずれかの量と同じとなる。他の実施形態では、ERA、PDE-5阻害剤、又はIP受容体アゴニストのうちの1つ以上の量を、必要に応じて増加又は減少させることができる。
【0065】
治療期間の任意の段階、すなわち、維持治療期間の前又はその間に、治療に対する患者の応答を評価することができる。この評価は、患者が、医師又は他の医療従事者によって初期3剤併用療法に対する適当な応答を達成したものとみなされるまで行うことができる。
【0066】
投与レジメン
本明細書に記載の方法において、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストの量/用量は、安全、有効、又は安全かつ有効である。本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「安全」は、過度の有害な副作用(毒性、刺激、若しくはアレルギー反応など)がないことを意味するものとし、本発明の様式で使用されるとき、妥当な利益/リスク比に相応する。同様に、特に断りのない限り、用語「有効(effective)」は
、治療上有効量で投与された場合の肺動脈性肺高血圧症を患う患者の治療について治療の有効性が実証されていることを意味する。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は安全である。他の実施形態では、本明細書に記載の方法は有効である。更なる実施形態では、本明細書に記載の方法は、安全かつ有効である。更に他の実施形態では、治療有効量のPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストは安全である。いっそう更なる実施形態では、治療有効量のPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストは有効である。他の実施形態では、治療有効量のPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストは、安全かつ有効である。
【0067】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、(独立して、あるいは用語「安全(性)」及び/又は「有効(性)」を修飾するために使用される)用語「臨床的に証明された」は、米国食品医薬品局の承認基準を満たすのに十分な第III相若しくは第IV相臨床治験、又はEMEAによる市場認可のための同様の試験によって証拠が証明されていることを意味するものとする。好ましくは、適切なサイズの無作為化二重盲検対照試験を用いて、本明細書に記載される技術によって評価された患者の状態によって、プラセボと比較した場合のPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストの効果を臨床的に証明する。
【0068】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「臨床的に有効であることが証明されている」は、治療の有効性が、第III相又は第IV相臨床治験によって統計的に有意であることが証明されていること、すなわち、臨床試験の結果は、α水準が0.05未満である可能性に起因する可能性が低いか、又は臨床有効性の結果が、米国食品医薬品局の承認基準若しくはEMEAによる市場認可のための同様の試験を満たすのに十分であることを意味する。例えば、セレキシパグ、マシテンタン、及びタダラフィルは、本明細書に記載され、実施例に具体的に記載されるように、治療上有効量で肺動脈性肺高血圧症を患う患者の治療に有効であることがそれぞれ独立して臨床的に証明されている。
【0069】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「臨床的に安全であると証明された」は、治験データ及び結果の分析により第III相又は第IV相臨床治験によって治療の安全性が証明されており、治療は過度の副作用がなく、米国食品医薬品局の承認基準又はヨーロッパ、中東及びアフリカ(Europe, the Middle East, and Africa、EMEA)
による市場認可のための同様の試験を満たすのに十分な統計的に有意な臨床的利益(有効性)に相応することを意味する。例えば、セレキシパグ、マシテンタン、及びタダラフィルは、本明細書に記載され、実施例に具体的に記載されるように、治療上有効量で投与された場合、肺動脈性肺高血圧症を患う患者の治療に対して臨床的に安全であることがそれぞれ独立して証明されている。
【0070】
特定の態様では、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを含む製剤を販売する方法も提供される。本明細書で使用するとき、用語「販売」又は「販売する」とは、製剤、例えば、医薬組成物又は剤形を、販売元から購入者に移転することを意味する。したがって、本方法は、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを含む製剤を販売することを含み、本方法は、当該製剤を販売することを含む。いくつかの実施形態では、製剤の参照リスト薬の製剤添付文書は、PAHを治療するための説明書を含む。本方法はまた、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを含む製剤を売り出すことを含む。本明細書で使用するとき、用語「売り出す」とは、製剤、例えば、医薬組成物又は剤形について、販売元による購入者への販売の提起を指す。これらの方法は、製剤を売り出すことを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、本開示は、臨床的に安全性が証明されかつ臨床的に有効性が証明された量のPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを含む医薬製品を提供し、医薬製品はパッケージングされ、パッケージは、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを、規制機関に承認された化学成分として特定するラベルを含み、また、PAHを治療するための説明書を含む。
【0072】
用語「製剤」とは、政府機関、例えば、アメリカ食品医薬品局又は他の国における同様の機関によって製造販売を承認された活性医薬成分を含有する製品を指す。いくつかの実施形態では、製剤は、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを含む。
【0073】
同様に、「ラベル」又は「製剤添付文書」は、製剤に関する関連情報を提供する、患者に提供される情報を指す。このような情報には、薬物の説明、臨床薬理学、適応症(製剤の使用)、禁忌(製剤を服用してはならない人)、警告、注意事項、有害事象(副作用)、薬物の乱用及び依存、用量及び投与、妊娠中の使用、授乳中の母親での使用、子供及び高齢の患者での使用、薬物の供給方法、患者の安全情報、又はこれらの任意の組み合わせのうちの1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、ラベル又は製剤添付文書は、PAHを治療するための説明書を提供する。更なる実施形態では、ラベル又は製剤添付文書は、規制機関に承認された化学成分としてPDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを特定する。
【0074】
本明細書で使用するとき、用語「参照リスト薬(Reference Listed Drug)」又は「R
LD」は、新たなジェネリック品が生物学的に同等であることを示すために比較される製剤を指す。また、欧州連合加盟国によって、又は完全な一件書類に基づいて、すなわち、指令2001/83/ECの第8(3)条、第10a条、第10b条若しくは第10c条による品質、前臨床及び臨床データの提出により、委員会によって販売許可を付与された医薬品であり、ジェネリック/ハイブリッド医薬品の販売許可の申請が、生物学的同等性の実証によって、通常、適切な生物学的利用能試験の提出を通じて、参照する医薬品である。
【0075】
特定の実施形態では、製剤は、ANDA製剤、医薬品承認事項変更申請製剤、又は505(b)(2)製剤である。米国では、ジェネリックの同等品販売の承認を求める企業は、その略式新薬承認申請(Abbreviated New Drug Application、ANDA)においてRLDを参照する必要がある。例えば、ANDA申請者は、以前に承認された製剤、すなわちRLDが安全かつ有効であることについて、FDAの知見に依拠し、とりわけ、提起されるジェネリック製剤がRLDと同じであることについて、特定の方法で実証する必要がある。具体的には、例外を限定的なものとし、ANDAに提出される製剤は、とりわけ、RLDと同じ活性成分、使用条件、投与経路、剤形、強度、及び(特定の許容差を有する)添付文書を有する必要がある。RLDは、掲載された薬物であり、それに対し、ANDA申請者は、その者の提起したANDAの製剤が、他の特性の中でもとりわけ、活性成分、剤形、投与経路、強度、添付文書、及び使用条件に関して同じであることを示す必要がある。電子版オレンジブックには、RLDについての欄及び参照標準についての欄がある。印刷物のオレンジブックでは、RLD及び参照標準は、特定の記号によって特定される。
【0076】
欧州では、申請者は、申請者のジェネリック/ハイブリッド医薬品(ANDA、又は補足的なNDA(sNDA)製剤と同じである)の申請書において、以下のような、RLDと同義である、参照医薬品(製品名、強度、医薬品形態、医薬品市販承認取得者(MAH、最初の承認、加盟国/共同体)を識別する。
1.欧州経済地域(EEA)において認可されている又は認可された医薬品であり、欧州の医薬法制において規定されたデータ保護期間が満了したことを示す根拠として使用されるもの。この参照医薬品は、データ保護期間の満了を計算する目的で特定されており、ジェネリック/ハイブリッド医薬品と異なる、強度、医薬品形態、投与経路、又は表示のためのものであってもよい。
2.ジェネリック/ハイブリッド申請内で一件書類(製品名、強度、医薬品形態、MAH、販売許可番号)が相互参照される、医薬品。この参照医薬品は、データ保護期間の満了を計算する目的で特定された、参照医薬品とは異なる名称で別個の手順により認可されたものでもよい。この参照医薬品の製品情報は、原則として、ジェネリック/ハイブリッド医薬品について特許請求される製品情報の根拠として機能する。
3.生物学的同等性試験(適用可能な場合)に使用される医薬品(製品名、強度、医薬品形態、MAH、供給源の加盟国)。
【0077】
食品医薬品化粧品法(FD&C Act)下での製剤の異なる簡略承認経路は、FD&C Actの章505(j)及び505(b)(2)(それぞれ、21U.S.C.355(j)及び21U.S.C.355(b)(2))に記載されている簡略承認経路である。
【0078】
FDA(「Determining Whether to Submit an ANDA or a 505(b)(2)Application Guidance for Industry」、アメリカ合衆国保健福祉省、2017年10月、pp.1-14、その内容は参照により本明細書に組み込まれる)によれば、NDA及びANDAは、以下の4つカテゴリーに分類することができる。
(1)「スタンドアロンのNDA」は、FD&C Actの章505(b)(1)の下で提出され章505(c)の下で承認された申請であり、これには、申請者によって実施された若しくは申請者のために実施された、又は申請者が参照又は使用の権利を有する、安全性及び有効性の調査の完全な報告が入っている。
(2)章505(b)(2)申請は、FD&C Actの章505(b)(1)の下で提出され章505(c)の下で承認されたNDAであり、これには、安全性及び有効性の調査の完全な報告が入っており、承認に必要な情報のうちの少なくともいくつかは、申請者によって実施されなかった若しくは申請者のために実施されなかった、又は申請者が参照又は使用の権利を入手していない、試験に由来する。
(3)ANDAは、FD&C Actの章505(j)の下で提出され承認された、以前に承認された製剤の複製についての申請である。ANDAは、以前に承認された製剤、すなわち、参照リスト薬(RLD)が安全かつ有効であることの、FDAの知見に依拠する。ANDAには、概して、提起されるジェネリックの製品(a)が、活性成分、使用条件、投与経路、剤形、強度、及び添付文書(特定の許容差を有する)についてRLDと同じであること、及び(b)がRLDと生物学的に同等であることについて、示すための情報が入っている必要がある。提起された製品の安全性及び有効性を立証するために試験が必要である場合、ANDAは、提出することができない。
(4)申請したANDAは、剤形、投与経路、強度、又は活性成分がRLDと異なる種類の製剤についてのANDA(2つ以上の活性成分を有する製品において)であり、FDAが、FD&C Actの章505(j)(2)の下で提出された申し立て(適合性申し立て)に応えて、その試験は提起された製剤の安全性及び有効性を立証するために必要ではないと判定したものである。
【0079】
ハッチ-ワックスマン法の根底にある科学的前提は、FD&C Actの章505(j)の下でANDAにおいて承認された製剤を、そのRLDと治療的に同等であると推定するものである。治療的に同等として分類される製品は、置き換え得るものであり、添付文書にて指定された条件下で患者に投与されたとき、置き換えた製品が所定の製品と同じ臨床効果及び安全性特性をもたらすと、十分に予想される。ANDAとは対照的に、章505(b)(2)の申請は、提起される製品の特性に関して、より柔軟なものになる。章505(b)(2)の申請は、承認時に参照される列挙された薬物と治療的に同等と格付けされる必要はない
【0080】
本方法はまた、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストをストリーム・オブ・コマースに乗せることを含むか、それからなるか、又は本質的にそれからなってもよい。特定の実施形態では、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストは、PAHを治療するための説明書を含む添付文書を含む。
【0081】
更なる態様では、本明細書では、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを独立して含有する医薬組成物を販売する方法であって、医薬組成物をストリーム・オブ・コマースに乗せることを含むか、それからなる、又は本質的にそれからなる、方法を記載する。特定の実施形態では、医薬組成物は、PAHを治療するための説明書を含む添付文書を含む。
【0082】
いっそう更なる態様では、本明細書では、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストを売り出す方法であって、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストをストリーム・オブ・コマースに乗せることを含むか、それからなるか、又は本質的にそれからなる、方法を記載する。特定の実施形態では、PDE-5阻害剤、ERA、及びIP受容体アゴニストは、PAHを治療するための説明書を含む添付文書を含む。
【0083】
処方/組成物
IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、又はERAのうちの1つ以上を有効成分として独立して含有する医薬組成物は、1乃至複数の化合物を従来の医薬配合技術に従って医薬担体とよく混合することによって調製することができる。本明細書で使用するとき、用語「組成物」及び「処方」は、互換的に使用され、指定の量の指定の成分を含む生成物に加えて、指定の量の指定の成分の組み合わせから直接的又は間接的に生じる、医薬製品などの任意の生成物を包含する。医薬組成物の概要は、かかる開示に関して参照により本明細書に組み込まれているが、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Nineteenth Ed(Easton,Pa.:Mack Publishing Company,1995);Hoover,John E.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pennsylvania 1975;Liberman,H.A.and Lachman,L.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.,1980;及びPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,Seventh Ed.(Lippincott Williams&Wilkins 1999)に記載されている。例えば、マシテンタンを含む製剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,367,685号及び同第9,265,762号に開示されている。
【0084】
望ましくは、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及びERAは、本明細書に記載される組成物中に独立して配合されるが、IP受容体アゴニスト、ERA、及びPDE-5阻害剤のうちの1つ以上が単一の製剤中にあってもよい。かかる組成物は、未希釈で、又は薬学的に許容される無毒性の不活性担体との混合物中で、例えば、組成物の総重量に基づいて、0.1%~99.5重量%、好ましくは0.5%~90%の濃度で化合物を含有する医薬組成物として患者に投与することができる。担体として、固体、半固体、及び液体希釈剤などの製剤用の1つ以上の補助剤、並びに薬物製剤用の充填剤及び他の補助剤を使用することもできる。医薬組成物は単位剤形として投与されることが望ましい。
【0085】
IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERAは、当業者によって決定される多くの経路により独立して投与することができる。好ましくは、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERAは、IP受容体アゴニストに適した経路によって独立して投与される。いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERAは、経口、非経口、又はこれらの任意の組み合わせにより独立して投与される。他の実施形態では、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、又はERAは、独立して経口投与される。更なる実施形態では、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、又はERAは、1つ以上の錠剤の形態で独立して経口投与される。本明細書で使用されるとき、用語「独立して投与される」は、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及びERAのそれぞれが別々の配合物中に存在する、すなわち、1つの単位用量/製剤がIP受容体アゴニストを含有し、1つの単位用量/製剤がPDE-5阻害剤を含有し、1つの単位用量/製剤がERAを含有することを指す。しかしながら、そのような独立した製剤は同時に投与することができ、すなわち、IP受容体を含む単位用量、PDE-5阻害剤を含有する単位用量/製剤、及びERAを含有する単位用量/製剤を、本明細書に記載されるように同時、又は異なる時間に投与することができる。他の実施形態では、ERA及びPDE-5阻害剤は、単一の錠剤の形態で一緒に経口投与され、IP受容体アゴニストは、1つ以上の別個の錠剤の形態で経口投与される。
【0086】
いくつかの実施形態では、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERAは、静脈内注射などの注射液又は注入液として独立して投与される。静脈内投与の場合、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERA又は医薬製品は、滅菌溶液である。注射可能な懸濁液又は溶液は、適切な添加剤と共に水性担体を利用して調製され得る。静脈内投与の場合、担体は通常、溶解性又は保存性を高める滅菌水及び他の成分で構成される。水性懸濁剤用の好適な分散剤又は懸濁化剤としては、合成及び天然ゴム、例えばトラガカント、アカシア、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニル-ピロリドン、又はゼラチンが挙げられる。静脈内投与が望まれる場合、適切な防腐剤を含み得る等張製剤が使用される。いくつかの実施形態では、静脈内製剤で使用される担体は、滅菌水を含む。
【0087】
経口投与の場合、各製剤は固体又は液体とすることができる。好ましくは、本明細書に記載されるIP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及びERAの経口剤形は、固体である。固形製剤の例は、例えば、トローチ、薄膜、ペースト、薬用キャンディー、顆粒、粉末、カプセル、カプレット、ジェルキャップ、錠剤、及びカプセルなどの丸薬(それぞれ、即効、持続放出及び徐放性丸薬を含む)を含む。好ましくは、経口組成物は錠剤として投与される、即ち、望ましくは、医薬製品は錠剤を含む。所望により、錠剤又はカプレットは、標準的な技術によって糖コーティング又は腸溶コーティングされ得、あるいは他の方法で配合され、長期作用の利点を与える剤形を提供し得る。錠剤などの固体組成物を調製するには、主要有効成分(例えば、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、又はERA)を、デンプンなどの医薬担体/添加物、糖などの甘味料、希釈剤、着色剤、造粒剤、防腐剤、潤滑剤、香味剤、結合剤、崩壊剤などと混合する。錠剤の場合、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム又はガムなどの従来の錠剤化成分、及び他の医薬希釈剤、例えば、水、エタノール、グリセロールなどを使用することができる。好適な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、グルコース又はβ-ラクトースなどの天然の糖、コーン甘味料、アカシア、トラガカントなどの天然及び合成ガム、又はオレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが挙げられるが、これらに限定されない。本開示の組成物が注射による投与のために組み込まれ得る液体形態は、水溶液、適切に風味付けされたシロップ、水性又は油懸濁液、及び綿実油、ゴマ油、ココナッツ油又はピーナツ油などの食用油を含む風味付けされたエマルジョン、並びにエリキシル及び同様の賦形薬を含む。液体経口製剤は、IP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、及び/又はERAと、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、防腐剤、安定剤、着色剤などの1つ以上の適切な担体/添加剤とを独立して含有する。
【0088】
本開示の医薬組成物を調製するには、活性成分としてのIP受容体アゴニスト、PDE-5阻害剤、又はERAを、従来の医薬配合技術に従って医薬担体とよく混合すればよく、こうした担体は、投与(例えば、経口又は非経口)に望ましい製剤の形態に応じて広範な形態をとることができる。薬学的に許容される好適な担体は、当該技術分野において周知である。これらの薬学的に許容される担体のいくつかの説明は、米国薬剤師会及び英国薬剤師会により出版されたThe Handbook of Pharmaceutical Excipientsに見出すことができるが、これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
医薬組成物を製剤化する方法は、Marcel Dekker,Inc.によって発行されたPharmaceutical Dosage Forms:Tablets,Second Edition,Revised and Expanded,Volumes 1-3,edited by Lieberman et al、Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Volumes 1-2,edited by Avis et al、及びPharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems,Volumes 1-2,edited by Lieberman et alなど多くの出版物に記述されている。それらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
態様
態様1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減する方法であって、それを必要とする患者に、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法を施すことを含む、方法。
【0091】
態様2.疾患進行のリスクの低減が、ERA及びPDE-5阻害剤の初期2剤併用療法を受ける、PAHを有する患者集団に対するものである、態様1に記載の方法。
【0092】
態様3.ERAが、マシテンタン、ボセンタン、又はアンブリセンタン、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、PDE-5阻害剤が、タダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィル、又はウデナフィル、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、IP受容体アゴニストが、セレキシパグ、4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸(MRE-269)、又はこれらの薬学的に許容される塩である、態様1又は2に記載の方法。
【0093】
態様4.ERAがマシテンタンであり、PDE-5阻害剤がタダラフィルであり、IP受容体アゴニストがセレキシパグである、態様3に記載の方法。
【0094】
態様5.患者が、PAHに対して治療ナイーブである、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
態様6.患者の初期PAH診断が、初期3剤併用療法の開始から6ヶ月以内に行われる、態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0096】
態様7.患者が、初期3剤併用療法の開始時に約25mmHg以上の安静時平均肺動脈高血圧(mPAP)、約15mmHg以下の平均肺動脈楔入圧(PAWP)、及び約240ダイン・秒/cm以上の肺血管抵抗(PVR)を有する、態様1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0097】
態様8.患者が、初期3剤併用療法の開始時に約50メートル以上の6分間歩行距離(6MWD)を有する、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
態様9.マシテンタンが、1日1回、約10mgの量で投与される、態様4~8のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
態様10.タダラフィルが、1日1回、約20mg~約40mgの量で投与される、態様4~9のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
態様11.タダラフィルが、1日1回、約40mg量で投与される、態様4~10のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
態様12.セレキシパグが、1日2回、約200μg~約1600μgの量で投与される、態様4~11のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
態様13.マシテンタン、タダラフィル、及びセレキシパグのそれぞれが、1つ以上の錠剤の形態で経口投与される、態様4~12のいずれか1つに記載の方法。
【0103】
態様14.マシテンタン及びタダラフィルが、単一の錠剤の形態で経口投与され、セレキシパグが、1つ以上の別個の錠剤の形態で経口投与される、態様4~12のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
態様15.初期3剤併用療法が、初期2剤併用療法に対して疾患進行のリスクを約30~40%減少させる、態様2~14のいずれか1つに記載の方法。
【0105】
態様16.疾患進行が、PAHの悪化による入院、PAHの臨床的悪化、又は死亡を含む、態様1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
【表2】
【実施例
【0107】
(実施例1)
この実施例は、PAHを有する新たに診断された治療ナイーブな被験者において、初期3剤経口併用療法(マシテンタン10mg、タダラフィル40mg及びセレキシパグ200~1600mgを1日2回)と初期2剤経口併用療法(マシテンタン10mg、タダラフィル40mg、及びプラセボ)とを比較した、予期的、多施設、二重盲検、無作為化、プラセボ対照、並列群間、第3b相の試験とした。この試験ではグループ逐次デザインを用い、被験者の約33%が26週目のPVR評価(主要エンドポイント)を完了したか又は試験を早期に中止した時点で1回の中間解析(無効のみ)を計画した。
【0108】
無作為化:被験者を地域(北米とその他の地域)及びベースラインにおけるWHO機能分類(I/IIとIII/IV)により層別化し、3剤療法又は2剤療法(二重盲検のセレキシグ/プラセボ及びオープンラベルのマシテンタン及びタダラフィル)に対して1:1の比率で無作為化した。
【0109】
試験/治療期間:治療期間は2週間のオープンラベルのマシテンタン及びタダラフィルと、それに続く、12週目までのセレキシパグ/プラセボの増量とEOT来院まで継続する維持治療期間とを含む二重盲検相(+オープンラベルのマシテンタン及びタダラフィル)とからなるものとした。最後の被験者が26週目の来院を完了した時点で、依然、試験中のすべての患者をEOMOP来院のために返した。EOMOP来院は、一次データベースロックの個々のカットオフ日とした。被験者は、いずれかの試験治療を受けているか否かに関係なく、EOS、すなわちEOTの30日後までフォローアップする。試験デザインについては、図1及び図2を参照されたい。以下は図1を参照する。署名された書面によるインフォームドコンセントを、試験で義務化されたすべての手順の前にもらう。インフォームドコンセントへの署名前であるが、1日目の28日前以内に治験実施施設で得られた右心臓カテーテル法[RHC]のデータは許容可能とする。試験治療の開始スキーム。簡略化のため、1日目と主観察期間の終了(EOMOP)との間の大部分の来院は表示しない。二重盲検治療(セレキシパグ/プラセボ)が26週目の前に中止される場合、26週目の評価は、26週目又は救済療法(プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、又はプロスタサイクリン受容体アゴニスト)の開始前のいずれか先の方で行わなければならない。EOMOPは、主要有効性及び安全性分析のデータカットオフに続く、データクリーニング及び治療群の割り当ての非盲検化である。EOMOP来院は、最後の被験者の組み入れの26±1週間後に計画される。患者の26週目の来院又は12ヶ月目、18ヶ月目、24ヶ月目、30ヶ月目などの来院の±2週間以内の場合にはEOMOP来院は必要とされない。EOMOP来院の約4ヶ月後に計画されたEOT来院まで3つの試験治療のすべてが与えられる。3つすべての試験治療が早期中止される場合、EOT来院は1週間以内に実施されなければならないが、試験終了までの評価のスケジュールに従って被験者をフォローアップする必要がある。EOSは、被験者の最後のデータ収集として定義される。すべての被験者についてのEOS来院(被験者が3つ、2つ、1つの試験治療を受けている、又は試験治療を受けていないかとは関係なく)は、EOMOP来院の約5ヶ月後に計画される。無作為化されたすべての患者について、疾患進行(死を含む)のフォローアップをEOSまで継続する。この試験の目的において、ベースラインとは、1日目よりも前か又は1日目(無作為化の前)に得られた最後の利用可能な評価/測定値を指す。
【0110】
有効性についての一次分析セット:FASは、すべての無作為化された被験者を含む。被験者は、それに対して被験者が無作為化された治療に従って評価される(26週目の評価が欠測した治療ポリシーのエスティマンドは、すべてのタイプの中間事象についてLOCFにより補完した)。
【0111】
一次有効性変数:ベースラインPVRに対する26週目の比(26週目をベースラインPVRで割った値)。(PVRを対数変換し、logPVRのベースラインから26週目までの変化を、治療及び無作為化の層別化変数領域の因子及びWHO機能分類及びベースラインlogPVRを共変量を用いたANCOVAモデルを使用して分析する。幾何平均の比[2剤療法に対する3剤療法]を、累乗法によって得る)。
【0112】
主要な二次有効性変数(試験する順序で):
・ベースラインから26週目までの6MWDの変化(主要エンドポイントの場合と同じモデルを使用し、ただし対数変換を行わずに分析した)、
・ベースラインから26週目までのNT-proBNP変化(主要エンドポイントの場合と同じモデルを使用して分析した)、
・EOMOP+7日間までの最初の疾患進行事象までの時間(無作為化の層別化変数領域及びWHO機能分類について層別化された治療群の差のログランク検定を使用して分析した)、
・ベースラインから26週目までのWHO機能分類に悪化がない(治療及び無作為化の層別化変数領域の因子及びWHO機能分類を用いたロジスティック回帰モデルを使用して分析した)。
・ベースラインから26週目までのPVR以外のRHC変数(mPAP、心係数、全肺抵抗、mRAP、静脈血酸素飽和度)の変化。
【0113】
試験手法:安全性解析対象集団は、3つの試験治療のうちのいずれかの少なくとも1回の用量を投与したすべての被験者を含む。FASは、すべての無作為化された被験者を含む。改変FASは、3つの試験治療のそれぞれの少なくとも1回の用量を投与したFASからのすべての被験者を含む。パー・プロトコルセットには、少なくとも1回の用量の二重盲検試験治療を受けし、主要なプロトコルの逸脱がないFASからのすべての被験者が含まれる。
【0114】
統計分析検定は、両側有意水準0.05で実施した。複数のエンドポイント(主要及び主要副次)を試験することに関して、多重度は、固定された順序の試験手順によって調整される。すなわち、主要エンドポイントの帰無仮説が棄却された後でのみ、第1の主要副次仮説を検定した。不妊症のみに注目して計画された中間分析を行った(被験者の33%が主要エンドポイント評価を完了又は中止した後)。
【0115】
組み入れ基準は以下を含む。
1.試験で義務付けられたあらゆる手順に先立つインフォームドコンセントへの署名。
2.スクリーニング時の年齢が18歳以上かつ75歳以下である男女。
3.1日目の6ヶ月前未満に最初のPAHが診断されている。
4.-28日目~1日目に行われたRHC(この時間枠内であるが試験前、すなわち署名されたインフォームドコンセントよりも前に治験実施施設で得られたRHCデータは許容される)、以下のすべての基準を満たす。
・平均肺動脈圧(mPAP)≧25mmHg
・肺動脈楔入圧又は左室拡張終期圧≦15mmHg
・PVR≧480ダイン・秒/cm(≧6Wood単位)
・特発性、遺伝性、及び薬物/毒素誘発性PAH(今回のRHC又は以前のRHCにおける)で義務付けられた血管反応性試験が陰性である。
5.以下のサブグループのうちの1つに属する症候性PAH:
・特発性
・遺伝性
・薬物又は毒素誘発性
・外科的修復後、1年以上が経過している、結合組織疾患、HIV感染、又は単純な全身身体肺シャントを伴う先天性心臓疾患(心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存症)のうちの1つに関連するもの。
6.スクリーニング時の6MWD≧50m
7.妊娠可能性のある女性は以下を満たさなければならない:
・スクリーニング来院時の血清妊娠検査が陰性かつ1日目の来院時の尿妊娠検査が陰性であり、かつ
・EOSまで毎月妊娠検査を行うことに同意し、かつ
・スクリーニング時から最後の試験治療の中止の1ヶ月後まで信頼できる避妊法を使用することに同意し、
・1日目の少なくとも11日前に、信頼性の高い避妊法を開始する必要がある。
【0116】
除外基準は以下を含む。
1.1日目よりも前の任意の時点におけるいずれかのPAH特異的薬物療法(例えば、任意のERA、PDE-5i、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、又はプロスタサイクリン受容体アゴニスト)(血管反応性検査の施行は許可され、指潰瘍又はレイノー症の治療用に断続的に使用された過去のPAH特異的薬物は、1日目の6ヶ月前未満までに停止された場合に許可される。
2.運動に基づく心肺機能リハビリテーションプログラム(予定されているか、又は1日目の12週間前以内に開始された場合)。
3.スクリーニング時のボディマス指数(BMI)>40kg/m
4.スクリーニング時に、駆出率が保たれた心不全の以下のリスク因子のうちの3つ以上を有する。
・BMI>30kg/m
・任意のタイプの糖尿病
・本態性高血圧
・冠動脈疾患、すなわち、以下のうちのいずれか、
-安定した狭心症の病歴又は
-冠動脈の50%超の狭窄(冠動脈造影による)又は
-心筋梗塞の病歴又は
-冠動脈バイパス移植及び/又は冠動脈ステント留置の履歴があるか若しくは予定されている。
5.スクリーニングの12週間前以内の急性心筋梗塞。
6.スクリーニングの12週間前以内の脳血管事象(例えば、一過性虚血発作、脳卒中)。
7.既知の永続性心房細動。
8.スクリーニング時又は1日目の収縮期血圧<-90mmHg。
9.有機硝酸塩及び/又はドキサゾシンによる治療が継続中又は予定されている。
10.スクリーニングまでの任意の時点における、関連する肺疾患の以下の兆候のうちの1つ以上がみられる場合、
・コンピュータ断層撮影によって示される間質性肺疾患が認められないか又は軽度である場合を除いて、DLCO<予測値の40%。
・FVC<予測値の60%。
・FEV1<予測値の60%。
・肺機能検査は、地域の臨床診療に従って、気管支拡張薬の使用の有無にかかわらず行うことができる。
11.既知の又は疑われる肺静脈閉塞症。
12.総ビリルビン>3×ASTを伴うULNの上限>ULN(スクリーニング時に評価)として定義される、アメリカ国立がん研究所臓器機能不全ワーキンググループ基準に従って文書化された重度肝障害(肝硬変の有無にかかわらず)、及び/又はChild-PughクラスC。
13.血清AST及び/又はALT>3×ULN(スクリーニング時に評価)。
14.スクリーニング時に評価された重度の腎障害(推定クレアチニンクリアランス≦30mL/分/1.73m)。
15.透析が継続中又は予定されている。
16.スクリーニング時のヘモグロビン<100g/L。
17.既知又は疑われる非制御の甲状腺疾患(甲状腺機能の低下又は亢進症)。
18.非動脈炎性虚血性視神経障害による一方又は両方の眼の視力の喪失。
19.1日目の28日前以内のシトクロムP450 3A4(CYP3A4)の強力な誘導因子(例えば、カルバマゼピン、リファンピン、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、フェノバルビタール、フェニトイン、及びセントジョンズワート)による治療。
20.1日目の28日前以内のCYP3A4の強力な阻害剤(例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、テリスロマイシン、ネファゾドン、リトナビル、及びサキナビル)、及び/又はCYP2C8の強力な阻害剤(例えば、ゲムフィブロジル)による治療。
21.別の治験薬による治療(予定されている、又は1日目の12週間前以内)。
22.3つの試験治療のうちのいずれか又はそれらの製剤の賦形剤のいずれか(ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウムタイプA、ポリビニルアルコール、ポリソルベート80、二酸化チタン、タルク、キサンタンガム、大豆由来レシチン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ラウリル硫酸ナトリウム、トリアセチン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、d-マンニトール、プロピレングリコール、カルナウバワックス)に対する過敏性。
23.妊娠中、授乳中、又は試験中に妊娠する意思がある。
24.平均余命<12か月の随伴する命に関わる疾患。
25.アルコール乱用。
26.プロトコルに影響を及ぼす可能性が高いあらゆる要因又は条件。
【0117】
禁忌の併用療法としては以下が含まれた。
1.救済療法として使用される場合を除く、EOTまでの3つの試験治療以外のあらゆるPAH特異的薬物(例えば、ERA、PDE-5i[勃起機能不全に対して使用される場合も]、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン類似体、又はプロスタサイクリン受容体アゴニスト)。別のPAH特異的薬物が開始される(及び対応する試験治療が停止される)場合、被験者は、3つ、2つ、1つの試験治療を受けているか、又は試験治療を受けていないかに関係なく、試験に残る。
2.有機硝酸塩(血管拡張作用を有する他の薬剤の使用には注意を払わければならない)。
3.ドキサゾシン。
4.マシテンタン及び/又はタダラフィルによる治療中のCYP3A4の強力な誘導剤(例えば、カルバマゼピン、リファンピン、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、フェノバルビタール、フェニトイン、及びセントジョンズワート)。
5.マシテンタン及び/又はタダラフィルによる治療中のCYP3A4の強力な阻害剤(例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、テリスロマイシン、ネファゾドン、リトナビル、及びサキナビル)。
6.セレキシパグ/プラセボによる治療中のCYP2C8の強力な阻害剤(例えば、ゲムフィブロジル)。
7.3つの試験治療以外のあらゆる治験薬。
8.スクリーニングと26週目の来院との間の運動に基づく心肺機能回復プログラム。
【0118】
以下の安全性エンドポイントが用いられる。
・治療下で発現したAE。
・3つの試験治療のいずれかの早期中止につながるAE。
・治療下で発現したSAE。
・治療下で発現した死亡。
・治療下で発現した顕著な検査所見の異常。
・検査変数のベースラインからの変化。
・バイタルサインのベースラインからの変化。
【0119】
安全性エンドポイントは、以下の期間にわたって分析される。
・1日目からEOMOPまで。
・1日目から二重盲検治療(セレキシパグ/プラセボ)の開始まで。
・マシテンタン試験治療の開始から中止まで(又はEOMOPまでのいずれか先の方)+30日間の安全性フォローアップ。
・タダラフィル試験治療の開始から中止まで(又はEOMOPまでのいずれか先の方)+30日間の安全性フォローアップ。
・二重盲検試験治療の開始から中止まで(又はEOMOPまでのいずれか先の方)+30日間の安全性フォローアップ。
・EOMOPからEOTまで+30日間の安全性フォローアップ。
・30日間の安全性フォローアップ。
【0120】
主要目的:新たに診断された、PAHを有する治療ナイーブの被験者における初期2剤経口レジメン(マシテンタン、タダラフィル、プラセボ)と初期3剤経口レジメン(マシテンタン、タダラフィル、セレキシパグ)の26週目のPVRに対する効果を比較すること。主要エンドポイントは、右心カテーテル法(RHC)によって評価したベースラインPVRに対する26週目のPVRの比とした。
【0121】
副次目的:26週目のPVR、運動能力、及び疾患の重症度(例えば、NYHA機能分類及びNT-proBNP)以外の心肺血行動態に対する、並びに以下に定義されるEOMOPまでの疾患進行事象、安全性、及び忍容性に対する初期2剤療法と初期3剤療法の効果を比較すること。
【0122】
比較群には以下を投与する。
・マシテンタン経口錠剤、1日1回、10mg。
・タダラフィル経口錠剤、1日1回、20mg1錠又は2錠。
・セレキシパグに対するマッチングプラセボ経口錠剤、1日2回、200μg、1~8錠(朝及び夜)。
【0123】
3つの試験治療は、以下のように施される。
・1日目:オープンラベルのマシテンタン、1日1回、10mg及びオープンラベルのタダラフィル、1日1回、20mgの開始。
・8±3日目:タダラフィル用量を、1日1回、40mgまで増加させる(クレアチニンクリアランスが>30かつ≦80mL/分/1.73mとして定義される、軽度又は中度の腎障害を有する被験者では、1日1回、40mgまでのタダラフィルの増量は個々の忍容性に基づかなければならない)。
・15±3日目:二重盲検セレキシパグ又はプラセボの開始。以下の詳細を参照。二重盲検治療は、他の試験治療の一方又は両方を以前に中止する必要があった被験者においても開始しなければならない。
【0124】
15±3日目の二重盲検セレキシパグ又はプラセボの開始用量は、1日2回、200μg(朝及び夜)である。用量は、1日2回、1600μgの最大用量に達するか、又は忍容若しくは医学的に管理できない有害薬理学的作用が生じるまで(いずれか先の方)、1日2回、200μg刻みで、通常、1週間隔で増量する(表1を参照)。プロスタノイド療法に一般的な有害作用が生じた場合、これらの作用は通常は一過性であるか又は対症療法によって管理可能であるため、二重盲検治療を中止しないことが推奨される。忍容できない用量に達した場合、用量をその前の用量レベルに低減しなければならない。
【0125】
【表3】
【0126】
3つの試験治療すべてについて、錠剤は、食物と、又は食物なしで経口で服用する。食物と一緒に服用する場合には忍容性が改善される場合がある。錠剤は、割ったり、砕いたり、噛んではならず、いくらかの水で飲み込む。用量の飲み忘れの場合、被験者はできるだけ速やかにその用量を服用し(次の用量が次の6時間以内である場合を除いて)、その後は次の用量を次の予定時間に服用する。
【0127】
探索的有効性エンドポイント
1.ベースラインからのNT-proBNP、6MWD、及びWHO機能分類の、EOMOPまでのすべての定期的な収集時点までの変化。
2.26週目からEOMOPまでの予定された来院ごとに分析した以下の3つの条件のうちの少なくとも1つを満たす被験者の割合として定義される不十分な臨床応答。
a.WHO機能分類III又はIV。
b.6MWD≦440mかつNT-proBNP≧3×ULN。
c.それぞれの来院までの任意の時点で、二次有効性エンドポイント5で定義される臨床的悪化事象。
3.26週目に達成された治療目標の数(目標ごとに、スコア0=いいえ、又は1=はい、すなわち、合計スコア0~5で、5は最良の治療結果を表す):
a.WHO機能分類I又はII。
b.心係数>3L/分/m
c.mRAP<8mmHg。
d.6MWD>440m。
e.NT-proBNP<3×ULN。
4.探索的有効性エンドポイント3で定義されるが、心係数の代替カットオフとして2.5L/分/mを用いた治療目標の数。
5.探索的有効性エンドポイント3で定義されるが、NT-proBNPの代替カットオフとして1800pg/mL未満を用いた治療目標の数。
【0128】
臨床検査
以下は、「一般的」な臨床検査としての血液学検査、肝臓及びヘモグロビン検査、凝固検査、及びNT-proBNPを含む臨床化学検査の要約である。
【0129】
血液学的検査:ヘモグロビン、ヘマトクリット、赤血球数(網状赤血球数)、白血球分類、及び血小板数
【0130】
臨床化学検査:Cockcroft-Gaultの式をクレアチニンクリアランスの推定に用いる。推定クレアチンクリアランス速度=(140-年齢)×(体重(kg))×(男性では1.23、女性では1.04)を、血清クレアチニン(μmol/L)で割った値。
【0131】
・アミノトランスフェラーゼ(AST/ALT)、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン及び直接ビリルビン、乳酸デヒドロゲナーゼ
・クレアチニン、尿素
・尿酸(血清尿酸塩)
・グルコース
・ナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム
・タンパク質、アルブミン
【0132】
凝固検査:国際標準化比、プロトロンビン時間、及び活性化部分トロンボプラスチン時間
【0133】
心筋ストレス並びに右心室機能及び構造のバイオマーカー:右心室の機能及び構造に関与するNT-proBNP及び循環バイオマーカー。
【0134】
来院のスケジュール
肝臓アミノトランスフェラーゼ、総及び直接ビリルビン、並びにヘモグロビンの毎月(±1週間)の中央臨床検査を、試験全体を通じて義務とする。毎月検査の場合、採血は、治験実施施設で、被験者の居住地の近くのサテライト検査室で、又は被験者の家庭での瀉血サービスによって実施される。
【0135】
スクリーニング期間では、適格性(組み入れ及び除外基準)、人口統計学、病歴、RHC、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般、血清妊娠検査、及びバイオマーカー)、(スクリーニング時における被験者の適格性は上記に代えて、中央臨床検査室キットが平行して使用される限り、局所臨床検査を利用して決定することもできる)、使用される避妊方法、以前の療法、及びAE、SAEの確認を記録することを行う。
【0136】
1日目(無作為化)の来院では、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般)、尿妊娠検査、使用される避妊法、併用療法、及びAE、SAEを記録することを行う。この来院の終了時に、被験者を2つの治療群のうちの一方に無作為化する。マシテンタン及びタダラフィル試験治療を被験者に分配する。治療を開始する。
【0137】
8日目(±3日)の来院では、AE及びSAEを記録することを行う。この来院の終了時に、タダラフィルの用量を増加させる。
【0138】
15日目(±3日)の来院では、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、使用される避妊法、併用療法、及びAE、SAEを記録することを行う。この来院の終了時に、二重盲検セレキシパグ/プラセボを被験者に分配する。被験者は、治療及び増量(マシテンタン及びタダラフィルによる継続中の試験治療に加えて)を開始する。
【0139】
12週目(±1週間)の来院では、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般、血清妊娠検査)、使用される避妊法、併用療法、及びAE、SAEを記録することを行う。
【0140】
26週目(±1週間)の来院では、RHC、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般、血清妊娠検査、及びバイオマーカー)、使用される避妊法、併用療法、及びAE、SAEを記録することを行う。
【0141】
12、18、24、30ヶ月目など(±2週間)の来院では、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般的、血清妊娠検査)、使用される避妊法、併用療法、及びAE、SAEを記録することを行う。
【0142】
EOMOPの来院では、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般、血清妊娠検査)、使用される避妊法、併用療法、及びAEを記録することを行う。
【0143】
EOTの来院では、身体検査、バイタルサイン(BP、HR)、WHO機能分類、6MWD、Borg呼吸困難指数、中央臨床検査(一般、血清妊娠検査)、使用される避妊法、併用療法、及びAEを記録することを行う。
【0144】
すべての被験者で、EOSの前に30日間の安全性フォローアップを行った。
【0145】
EOS来院は、安全性フォローアップの終了時、すなわち、EOTの30~35日後に実施される。EOS来院では、妊娠検査(血清又は尿)、使用される避妊方法、及びAE、SAEを記録することを行う。
【0146】
被験者及び治療情報
合計291人の被験者を16の国の67カ所の治験実施施設にわたってスクリーニングした。そのうち、247人の被験者を1:1の比で、123人を3剤療法(セレキシパグ二重盲検とオープンラベルのマシテンタン及びタダラフィル)に、124人を2剤療法(プラセボ二重盲検とオープンラベルのマシテンタン及びタダラフィル)に無作為化した。被験者の大部分は白人(85.0%)であり、75.7%が女性であった。表5を参照されたい。平均年齢は51.9歳であり、21~75歳の範囲であった。
【0147】
【表4】
【0148】
被験者は、無作為化時に主にWHO機能分類III/IVであった(79.8%)。表6を参照されたい。各治療群は、一般に、人口統計学及びベースライン疾患特性の観点からバランスが取れていた。
【0149】
【表5-1】
【0150】
【表5-2】
【0151】
247人の無作為化被験者(FAS)のうち、2剤療法の1人の被験者はいずれの試験薬も服用しなかったため、安全性解析対象集団には含まれていない。3剤療法に無作為化され、安全性解析対象集団に含まれる4人の被験者は、セレキシパグ療法を受けなかったため、安全性分析のための2剤療法群に含まれる(3剤療法群のN=119、及び2剤療法群のN=127)。
【0152】
早期中止
全体として、被験者の24%は、EOMOP前に二重盲検治療を早期に中止した(すなわち、セレキシパグ/プラセボ)。表3及び表4を参照されたい。二重盲検治療中止の最も頻繁な理由は、有害事象による医師の判断(3剤療法の15人[12.6%]の被験者及び2剤療法の12人[9.4%]被験者)、有効性がない/治療不良(3剤療法の3人[2.5%]及び2剤療法の10人[7.9%])及び死亡(3剤療法の0人の被験者及び2剤療法の7人[5.5%])であった。
【0153】
【表6】
【0154】
【表7】
【0155】
EOMOPまでの曝露
表2は、EOMOPまでの患者の内訳の要約を示す。
【0156】
【表8】
【0157】
EOMOPまでの二重盲検治療への曝露期間の中央値は、3剤療法で477日及び2剤療法で399日であった。表7を参照されたい。
【0158】
【表9】
【0159】
セレキシパグの個々の維持用量の中央値は、3剤療法で1200μgb.i.d.であった。表8を参照されたい。
【0160】
【表10】
【0161】
主要有効性エンドポイント:
主要エンドポイントは達成されなかった。3剤療法は、2剤療法と同様、26週目にPVRを低減させた。26週目に対するベースラインの比のANCOVA調整された幾何平均は、3剤療法で0.46(54%のPVR減少)及び2剤療法で0.48(52%のPVR減少)であり、0.96の幾何平均の比(2剤に対する3剤)を示した(95%CL:0.86、1.07、p=0.4239)。表9を参照されたい。26週目の評価の欠測は、3剤療法群の11人(8.9%)の被験者について、また、2剤療法群の7人(5.6%)の被験者についてLOCFを用いて補完した。ベースラインPVRの中央値[Q1、Q3]は、初期3剤療法群で880.0[673.7、1131.0]及び初期2剤療法群で932.7[712.6、1220.5]であった。26週目に、PVRの中央値[Q1、Q3]は、初期3剤療法群で378.2[272.7、581.8]及び初期2剤療法で443.7[306.9、585.5]であった。これらのデータを解釈するには、PVR>240ダイン・秒/cmが肺高血圧症を示していることを考慮することが重要である。
【0162】
【表11】
【0163】
ベースラインから26週目までのANCOVAで調整された変化(感度解析)は、3剤療法で-472.1ダイン・秒/cm、及び2剤療法では-480.0ダイン・秒/cmであり、8ダイン・秒/cmの治療差(3剤-2剤)を示した(95%CL:-55.1、71.0、p=0.8041)。表10並びに図3及び図4を参照されたい。
【0164】
【表12】
【0165】
すべての感度/支持分析は、一次分析と一致している。治療効果は、各サブグループにわたって一貫していた(有意なサブグループごとの治療相互作用はなかった)。
【0166】
主要副次的有効性エンドポイント
ベースラインから26週目までの6MWDの変化は両群で同様であった(ANCOVA調整平均=2剤療法で+56.4mに対して3剤療法で+55.0m、平均差(3剤-2剤):-1.4m[95%CL:-19.4、16.5]、p=0.8758)。表11及び図5を参照されたい。ベースライン6MWDの中央値[Q1、Q3]は、初期3剤療法群で354[267、415]及び初期2剤療法群で366[255、432]であった。26週目に、中央値[Q1、Q3]は、初期3剤療法群で405[334、470]及び初期2剤療法で421[338、482]であった。6MWDは、PAHを有する患者のマルチパラメータリスク評価に用いられ、26週目の値は、確立された「低リスク」閾値である440mに対して解釈されるべきである。
【0167】
【表13】
【0168】
ベースラインから26週目までのNT-proBNPの変化は両群で同様であった(26週目に対するベースラインの比のANCOVA調整された幾何平均=2剤療法で0.25(75%の低下)に対して3剤療法で0.26(74%の低下)。幾何平均比(2剤に対する3剤):1.03[95%CL:0.77、1.37]、p=0.8529)。表12を参照されたい。
【0169】
【表14】
【0170】
3剤療法は、2剤療法と比較してEOMOP+7日間までに疾患進行事象(中央判定されたもの)の発生のリスクを41%減少させた(2剤療法に対する3剤療法のハザード比0.59、95%CL 0.32、1.09、両側ログランクによるp=0.0867)。3剤療法における合計16(13.0%)の被験者及び2剤療法における27人(21.8%)の被験者が、少なくとも1つの事象を経験した。表13及び図6を参照されたい。最も頻繁に最初に報告された事象は、「PAHの悪化による入院」であった。事象を有する患者の中で、「PAHの悪化による入院」の割合は、2剤療法群における70.4%と比較して、3剤療法群では62.5%であった。3剤療法群の患者では、2剤療法群の患者における14.8%と比較して、最初の事象としての死亡はなかった。
【0171】
【表15】
【0172】
3剤療法の被験者の99.2%及び2剤療法の被験者の97.5%で、ベースラインから26週目までのWHO機能分類に悪化はみられなかった。表14を参照されたい。26週目に悪化がないオッズは、2剤療法と比較して3剤療法で同様であった(オッズ比:3.18、95%CL:0.32、31.82、両側p=0.3260)。注目すべき点として、3剤療法の被験者の53.7%及び2剤療法の被験者の52.4%で26週目にWHO機能分類に改善が認められた。
【0173】
【表16】
【0174】
安全性
全体として、3剤療法群の119人(100%)の被験者及び2剤療法群の123人(96.9%)の被験者がEOMOPまでに少なくとも1つの治療下で発現した有害事象(TEAE)を経験した。表15を参照されたい。最も一般的なTEAEは、3剤療法群では、頭痛(68.9%)、下痢(53.8%)、悪心(47.9%)、末梢浮腫(37.0%)、肢痛(30.3%)、顎の疼痛(29.4%)であり、2剤療法群では、頭痛(60.6%)、末梢浮腫(36.2%)、下痢(31.5%)、及び悪心(25.2%)であった。表15を参照されたい。治療群間で、ERAの一般的な有害薬物反応であり、疾患の症状の1つである末梢浮腫に差は認められなかった。しかしながら、両治療群における末梢浮腫の発生率(約36%)は予想よりも高かった。この観察結果は、短期間の内に2つ又は3つのPAH薬を開始しながら、新たに診断された(及び一般的には、利尿薬ナイーブな)患者で利尿薬を調節することの難しさを反映し得る。
【0175】
3剤療法の51人[42.9%]の被験者及び2剤療法の40人[31.5%]の被験者が、EOMOPまでに少なくとも1つの重篤なTEAを経験した。
【0176】
【表17-1】
【0177】
【表17-2】
【0178】
【表18-1】
【0179】
【表18-2】
【0180】
二重盲検治療薬の早期中止につながるTEAEが、3剤療法群で19人(16.0%)の被験者、及び2剤療法群で17人(14.2%)の被験者で報告された。表17を参照されたい。
【0181】
【表19】
【0182】
11人の被験者がEOMOPまでの試験中に死亡した(3剤療法で2人及び2剤療法で9人)。表18を参照されたい。
【0183】
【表20】
【0184】
3剤療法で15人[12.8%]の被験者及び2剤療法で11人[9.1%]の被験者が、EOMOPまで少なくとも1つの治療下で発現した肝臓検査異常(AST又はALT≧3ULN)を経験した。表19を参照されたい。総ビリルビン>2×ULNに関連したAST/ALTの増加≧3×ULNを有する2つの症例が、初期3剤群で観察された。MACEは、3剤療法群の1人の患者及び初期2剤療法群の5人の患者で報告された。
【0185】
【表21】
【0186】
要約
死亡までの時間の事後探索的分析では、初期3剤療法は、初期2剤療法と比較して死亡のリスクを77%(95%CL:-4,95)低下させた。利用可能なデータに基づいて、初期3剤療法レジメンの一部としてのセレキシパグは忍容性が良好であり、安全性プロファイルは以前の試験と一致していた。
【0187】
(i)短期有効性
要約すると、ベースラインから26週目までの血行動態パラメータ及び機能的パラメータの変化は大きく、2つの治療群で同様であった。これらの結果は、新たに診断された PAH患者においてタダラフィルと併用されるマシテンタンの有効性を支持するものである。
【0188】
(ii)長期有効性
初期の初期2剤療法に対する初期3剤療法の長期有効性を、EOMOP+7日間までの最初の疾患進行事象までの時間によって評価した。初期3剤療法は、2剤療法と比較して、疾患進行のリスクを41%低減させた(図6)。3剤療法群の合計16人(13.0%)の患者及び2剤療法群の27人(21.8%)の患者が、疾患進行事象を経験した。初期3剤併用に有利なこれらの結果は、「PAHの悪化による入院」及び「あらゆる原因による死亡」がより少ないことによって支持された。
【0189】
更なる事後分析
実施例1の試験の更なる事後分析を実施した。
【0190】
A.最初の疾患進行事象までの時間
患者の最初の疾患進行事象までの時間を評価した。例えば、3つの試験薬のうちのいずれかの最初の治療中止までの、最初の疾患進行事象までの時間を分析した。図7を参照されたい。EOMOP(及びEOMOP+7日間)までの、PAHによる死亡又はPAH悪化による入院までの時間を図8及び図8Aに示す。EOMOP(及びEOMOP+7日間)までの死亡又は最初の入院(あらゆる原因)までの時間を図9及び図9Aに示し、無作為化からEOMOPまでの死亡(あらゆる原因)までの時間を図10に示す。
【0191】
B.すべての疾患進行事象までの時間
EOMOP+7日間までの疾患進行イベントの累積数も分析した。表20及び図25を参照されたい。
【0192】
【表22】
【0193】
一般に、これらの結果は、3剤併用療法が疾患進行事象の再発を減少させることを示している。
【0194】
EOMOP+7日間までのPAHによる死亡又はPAH悪化による入院の累積数の分析も行った。表21を参照されたい。
【0195】
【表23】
【0196】
一般に、これらの結果は、3剤併用療法がPAHによる入院の再発を減少させることを示す。
【0197】
C.血行動態パラメータに基づく疾患進行
患者の血行動態パラメータに基づく疾患進行の更なる分析を行った(EOMOP+7日間まで)。図11を参照:ベースラインにおけるPVRの中央値(患者PVR<888ダイン・秒/cm)による疾患進行までの時間、及び図12:ベースラインにおけるPVRの中央値(患者PVR≧888ダイン・秒/cm)による疾患進行までの時間;図13:ベースラインにおけるmPAP(患者mPAP<52mmHg)による疾患進行までの時間、及び図14:ベースラインのmPAP(患者mPAP≧52mmHg)による疾患進行までの時間;図15:ベースラインにおけるmRAPの中央値(患者mRAP<8mmHg)による疾患進行までの時間、及び図16:mRAPの中央値(患者mRAP≧8mmHg)による疾患進行までの時間;図17:ベースラインにおけるCI(患者CI≧2.1L/分/m)による疾患進行までの時間、及び図18:ベースラインにおけるCI(患者CI<2.1L/分/m)による疾患進行までの時間;図19:ベースラインにおけるNT-proBNPの中央値(患者NT-proBNP<1360ng/L)による疾患進行までの時間、及び図20:ベースラインにおけるNT-proBNPの中央値(患者NT-proBNP≧1360ng/L)による疾患進行までの時間。
【0198】
一般に、これらの結果は、ベースラインにおける心肺血行動態的な重症度に関係なく、疾患進行のリスクの低減が2剤併用に対して3剤併用で観察されることを示している。
【0199】
(実施例2)
実施例1の試験の更なる事後分析を、EOSまでのものを含めて実施した。例えば、図21~26を参照されたい。
【0200】
【表24】
【0201】
【表25】
【0202】
【表26】
【0203】
【表27】
【0204】
【表28】
【0205】
【表29】
【0206】
【表30】
【0207】
分析の要約
疾患進行までの時間についての探索的分析は、初期2剤経口療法に対して初期3剤経口療法による長期治療結果の改善を示唆した(EOMOP(主分析)及びEOS(支持分析)で観察された)。すべての疾患進行事象の評価を含む事後分析は、この治験と一致している(EOMOP(主分析)及びEOS(支持分析)で観察された)。
【0208】
これらの結果は、初期2剤療法と比較して、初期3剤療法が試験終了時までに死亡のリスクを68%低減させたことを示す。図24を参照されたい。これらの結果はまた、初期2剤療法と比較して、初期3剤療法が試験終了時までに疾患進行までの時間を36%減少させたことも示している。図22を参照されたい。
【0209】
EOS分析の安全性の観察結果は、EOMOPの所見と一致している。
本発明には、次の態様も含まれる。
[項1] 肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減する方法であって、それを必要とする患者に、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法を施すことを含む、方法。
[項2] 前記疾患進行のリスクの低減が、前記ERA及び前記PDE-5阻害剤の初期2剤併用療法を受ける、PAHを有する患者集団に対するものである、項1に記載の方法。
[項3] 前記ERAが、マシテンタン、ボセンタン、又はアンブリセンタン、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、前記PDE-5阻害剤が、タダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィル、又はウデナフィル、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、前記IP受容体アゴニストが、セレキシパグ、4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸(MRE-269)、又はこれらの薬学的に許容される塩である、項1又は2に記載の方法。
[項4] 前記ERAがマシテンタンであり、前記PDE-5阻害剤がタダラフィルであり、前記IP受容体アゴニストがセレキシパグである、項3に記載の方法。
[項5] 前記患者が、PAHに対して治療ナイーブである、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
[項6] 前記患者の初期PAH診断が、前記初期3剤併用療法の開始から6ヶ月以内に行われる、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項7] 前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約25mmHg以上の安静時平均肺動脈高血圧(mPAP)、約15mmHg以下の平均肺動脈楔入圧(PAWP)、及び約240ダイン・秒/cm 以上の肺血管抵抗(PVR)を有する、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
[項8] 前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約50メートル以上の6分間歩行距離(6MWD)を有する、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
[項9] 前記マシテンタンが、1日1回、約10mgの量で投与される、項4~8のいずれか一項に記載の方法。
[項10] 前記タダラフィルが、1日1回、約20mg~約40mgの量で投与される、項4~9のいずれか一項に記載の方法。
[項11] 前記タダラフィルが、1日1回、約40mgの量で投与される、項4~10のいずれか一項に記載の方法。
[項12] 前記セレキシパグが、1日2回、約200μg~約1600μgの量で投与される、項4~11のいずれか一項に記載の方法。
[項13] 前記マシテンタン、前記タダラフィル、及び前記セレキシパグのそれぞれが、1つ以上の錠剤の形態で経口投与される、項4~12のいずれか一項に記載の方法。
[項14] 前記マシテンタン及び前記タダラフィルが、単一の錠剤の形態で経口投与され、前記セレキシパグが、1つ以上の別個の錠剤の形態で経口投与される、項4~12のいずれか一項に記載の方法。
[項15] 前記初期3剤併用療法が、前記初期2剤併用療法に対して前記疾患進行のリスクを約30~40%減少させる、項2~14のいずれか一項に記載の方法。
[項16] 前記疾患進行が、PAHの悪化による入院、PAHの臨床的悪化、又は死亡を含む、項1~15のいずれか一項に記載の方法。
[項17] 肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する患者における疾患進行のリスクを低減するための、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)阻害剤、及びプロスタサイクリン受容体アゴニスト(IP受容体アゴニスト)の初期3剤併用療法。
[項18] 前記疾患進行のリスクの低減が、前記ERA及び前記PDE-5阻害剤の初期2剤併用療法を受ける、PAHを有する患者集団に対するものである、項17に記載の初期3剤併用療法。
[項19] 前記ERAが、マシテンタン、ボセンタン、又はアンブリセンタン、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、前記PDE-5阻害剤が、タダラフィル、シルデナフィル、バルデナフィル、又はウデナフィル、又はこれらの薬学的に許容される塩であり、前記IP受容体アゴニストが、セレキシパグ、4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸(MRE-269)、又はこれらの薬学的に許容される塩である、項17又は18に記載の初期3剤併用療法。
[項20] 前記ERAがマシテンタンであり、前記PDE-5阻害剤がタダラフィルであり、前記IP受容体アゴニストがセレキシパグである、項19に記載の初期3剤併用療法。
[項21] 前記患者が、PAHに対して治療ナイーブである、項17~20のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項22] 前記患者の初期PAH診断が、前記初期3剤併用療法の開始から6ヶ月以内に行われる、項17~21のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項23] 前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約25mmHg以上の安静時平均肺動脈高血圧(mPAP)、約15mmHg以下の平均肺動脈楔入圧(PAWP)、及び約240ダイン・秒/cm 以上の肺血管抵抗(PVR)を有する、項17~22のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項24] 前記患者が、前記初期3剤併用療法の開始時に約50メートル以上の6分間歩行距離(6MWD)を有する、項17~23のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項25] 前記マシテンタンが、1日1回、約10mgの量で投与されるように製剤化される、項20~24のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項26] 前記タダラフィルが、1日1回、約20mg~約40mgの量で投与されるように製剤化される、項20~25のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項27] 前記タダラフィルが、1日1回、約40mgの量で投与されるように製剤化される、項20~26のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法
[項28] 前記セレキシパグが、1日2回、約200μg~約1600μgの量で投与されるように製剤化される、項20~27のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項29] 前記マシテンタン、前記タダラフィル、及び前記セレキシパグのそれぞれが、1つ以上の錠剤の形態で経口投与されるように製剤化される、項20~28のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項30] 前記マシテンタン及び前記タダラフィルが、単一の錠剤の形態で経口投与されるように製剤化され、前記セレキシパグが、1つ以上の別個の錠剤の形態で経口投与されるように製剤化される、項20~28のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項31] 前記初期3剤併用療法が、前記初期2剤併用療法に対して前記疾患進行のリスクを約30~40%減少させる、項18~30のいずれか一項に記載の初期3剤併用療法。
[項32] 前記疾患進行が、PAHの悪化による入院、PAHの臨床的悪化、又は死亡を含む、項17~31のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図8A
図9
図9A
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26