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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】粘着シート及び剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/00 20060101AFI20250116BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20250116BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J7/38
C09J201/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024569173
(86)(22)【出願日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2024012979
【審査請求日】2024-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2023058461
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 郷
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 健太
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-096816(JP,A)
【文献】特開2004-115766(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050332(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0122983(KR,A)
【文献】特開2006-022256(JP,A)
【文献】国際公開第2024/063129(WO,A1)
【文献】特開2020-061529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
H01L21/301;21/304;21/463;21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層に物体を保持している粘着シートを面方向に拡張する拡張工程と、
前記物体を、面方向に拡張した前記粘着シートの前記粘着層から剥離する剥離工程と、を含む、前記粘着シートからの物体の剥離方法であって、
前記粘着シートは、
前記粘着層が、その表面に凹凸を有しており、
粘着層の厚さ方向において、粘着層の厚さが最も小さい凹部から、凹凸を有する表面とは逆側の面までの部分により構成される下地部分を有し、
前記下地部分上に第1の高さを有するように設けられている第1の部分と、
前記下地部分上に前記第1の高さとは異なる第2の高さを有するように設けられている第2の部分と、を備える、
ことを特徴とする、剥離方法
【請求項2】
前記拡張工程において、前記物体は、前記粘着シートの第1の部分と接触したまま、前記粘着シートの第2の部分から剥離する、請求項に記載の剥離方法。
【請求項3】
前記第1の高さと、前記第2の高さとの差が、1μm以上40μm以下である、請求項1又は2に記載の剥離方法
【請求項4】
前記第1の部分が、前記下地部分上に設けられた第1の凸部であり、
前記第2の部分が、前記下地部分上に設けられた、前記第1の凸部とは異なる第2の凸部である、請求項1又は2に記載の剥離方法
【請求項5】
前記第1の高さが、前記第2の高さよりも大きく、
前記第1の凸部の数が、前記第2の凸部の数よりも少ない、請求項に記載の剥離方法
【請求項6】
前記第1の高さが、前記第2の高さよりも大きく、
前記粘着層において、前記第1の凸部が占める面積は、前記第2の凸部が占める面積よりも小さい、請求項に記載の剥離方法
【請求項7】
前記下地部分が、前記第1の部分、及び前記第2の部分と一体である、請求項1又は2に記載の剥離方法
【請求項8】
前記粘着層を支持する基材をさらに備える、請求項1又は2に記載の剥離方法
【請求項9】
前記基材の引張弾性率が2500MPa以下である、請求項に記載の剥離方法
【請求項10】
前記粘着シートは、面方向に拡張可能であり、拡張後の前記粘着シート上の物体の面剥離性が、拡張前と比較して向上することを特徴とする、請求項1又は2に記載の剥離方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート及び剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体を一時的に保持する粘着シートが知られている。このような粘着シートは、物体を所望の位置に転写するために用いることができる。
【0003】
粘着シートは、その用途に応じて様々な形状を有している。例えば、特許文献1には、機能性を有する粘着シートを被着体に強固に接着させることを可能としながら、この粘着シートの仮貼りも可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-115766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物体を一時的に保持する粘着シートにおいては、物体に対する一定の保持性を有することに加えて、物体の剥離が容易であることも求められる。
【0006】
本発明は、物体に対する一定の保持性を有しながら、保持している物体を剥離可能な構造を有する粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、粘着層の表面に高さが異なる凸部を有する凹凸を設けることで、粘着シートが物体に対する一定の保持性を有しながら、保持している物体の剥離が容易になり、こうして上記課題を解決できることを見出し、更に種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記[1]~[13]に関する。
[1]物体を保持するための粘着層を備える粘着シートであって、
前記粘着層が、その表面に凹凸を有しており、
粘着層の厚さ方向において、粘着層の厚さが最も小さい凹部から、凹凸を有する表面とは逆側の面までの部分により構成される下地部分を有し、
前記下地部分上に第1の高さを有するように設けられている第1の部分と、
前記下地部分上に前記第1の高さとは異なる第2の高さを有するように設けられている第2の部分と、
を備えることを特徴とする、粘着シート。
[2]前記第1の高さと、前記第2の高さとの差が、1μm以上40μm以下である、[1]に記載の粘着シート。
[3]前記第1の部分が、前記下地部分上に設けられた第1の凸部であり、
前記第2の部分が、前記下地部分上に設けられた、前記第1の凸部とは異なる第2の凸部である、[1]又は[2]に記載の粘着シート。
[4]前記第1の高さが、前記第2の高さよりも大きく、
前記第1の凸部の数が、前記第2の凸部の数よりも少ない、[1]~[3]のいずれかに記載の粘着シート。
[5]前記第1の高さが、前記第2の高さよりも大きく、
前記粘着層において、前記第1の凸部が占める面積は、前記第2の凸部が占める面積よりも小さい、[1]~[4]のいずれかに記載の粘着シート。
[6]前記下地部分が、前記第1の部分、及び前記第2の部分と一体である、[1]~[5]のいずれかに記載の粘着シート。
[7]前記粘着層を支持する基材をさらに備える、[1]~[6]のいずれかに記載の粘着シート。
[8]前記基材の引張弾性率が2500MPa以下である、[7]に記載の粘着シート。
[9]前記粘着シートは、面方向に拡張可能であり、拡張後の前記粘着シート上の物体の面剥離性が、拡張前と比較して向上することを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の粘着シート。
[10]粘着層に物体を保持している[1]~[9]のいずれかに記載の粘着シートを面方向に拡張する拡張工程と、前記物体を、面方向に拡張した前記粘着シートの前記粘着層から剥離する剥離工程と、を含む、粘着シートからの物体の剥離方法。
[11]前記拡張工程において、前記物体は、前記粘着シートの第1の部分と接触したまま、前記粘着シートの第2の部分から剥離する、[1]~[10]のいずれかに記載の剥離方法
【発明の効果】
【0009】
物体に対する一定の保持性を有しながら、保持している物体を剥離可能な構造を有する粘着シートを提供することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
図1】一実施形態に係る粘着シートの断面図。
図2A】粘着シートによる物体の保持及び剥離方法を示す図。
図2B】粘着シートによる物体の保持及び剥離方法を示す図。
図2C】粘着シートによる物体の保持及び剥離方法を示す図。
図2D】粘着シートによる物体の保持及び剥離方法を示す図。
図3A】粘着シートの凹凸の一例を示す断面図。
図3B】粘着シートの凹凸の一例を示す断面図。
図4】一実施形態に係る粘着シートの平面図。
図5A】粘着シートの凹凸の一例を示す平面図。
図5B】粘着シートの凹凸の一例を示す平面図。
図5C】粘着シートの凹凸の一例を示す平面図。
図5D】粘着シートの凹凸の一例を示す平面図。
図6】一実施形態に係る剥離方法のフローチャート。
図7A】エキスパンド装置に設置された粘着シートの概略図。
図7B】エキスパンド装置に設置された粘着シートの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
(定義)
本明細書において、質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、サイズ排除クロマトグラフィー法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的にはJIS K7252-1:2016に基づいて測定される値である。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を指す用語であり、他の類似用語も同様である。
【0014】
本明細書において、数値範囲(例えば含有量等の範囲)の1以上の下限値及び1以上の上限値が記載されている場合、その中の任意の下限値と上限値と組み合わせが記載されているものと理解できる。例えば、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上であり、好ましくは9以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは7以下であるとの記載は、数値範囲が、1以上9以下、1以上8以下、1以上7以下、2以上9以下、2以上8以下、2以上7以下、3以上9以下、3以上8以下、及び3以上7以下のいずれであってもよいことを明確に意味する。
【0015】
(粘着シートの構成)
本発明の一実施形態に係る粘着シートは、物体を保持するための粘着層1を備える。例えば、粘着シートは、粘着層1と、粘着層1を支持する基材2とを備えていてもよい。以下、このような粘着シートの構成について、一実施形態に係る粘着シートの模式図である図1を参照しながら説明する。
【0016】
(基材)
粘着層1は、基材2上に設けられていてもよい。例えば、図1に示すように、粘着層1と基材2とを備える粘着シートを用いることができる。もっとも、粘着シートが基材2を有することは必須ではない。例えば、粘着シートは粘着層1のみで構成されていてもよい。この場合には支持性の高い粘着層1を用いることができる。
【0017】
基材2は、粘着層1を支持する支持体として機能する。基材2は、粘着層1の凹凸1aを有する面とは反対側の面F1に位置する。 基材2の種類は特に限定されず、硬質基材又はフレキシブル基材でありうる。物体4を保持する際のクッション性を向上させる、物体4への取り付けを容易とする、剥離性を向上させる、積層を容易とする、又はロール形態とすることを可能にする観点から、基材2はフレキシブル基材であることが好ましい。基材2としては、例えば樹脂フィルムを用いることができる。
【0018】
樹脂フィルムは、主材として樹脂系の材料が用いられているフィルムであり、樹脂材料からなっていてもよいし、樹脂材料に加えて添加剤を含んでいてもよい。樹脂フィルムは、レーザ光透過性を有していてもよい。
【0019】
樹脂フィルムの具体例としては、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖低密度ポリエチレンフィルム、及び高密度ポリエチレンフィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、並びにノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合体系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム及び塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;並びにフッ素樹脂フィルム等が挙げられる。また、2種類以上の材料の混合物を含むフィルム、のこれらのフィルムを形成する樹脂が架橋されている架橋フィルム、及びアイオノマーフィルムのような変性フィルムを用いてもよい。また、基材2は、2種類以上の樹脂フィルムが積層された積層フィルムであってもよい。
【0020】
汎用性の観点、強度が比較的高く反りを防止しやすい観点、及び耐熱性の観点から、樹脂フィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリエステル系フィルム、並びにポリプロピレンフィルムからなる群から選択される単層フィルム、又はこの群から選択される2種類以上のフィルムが積層された積層フィルムであることが好ましい。
【0021】
基材2の厚さは、特に限定されないが、支持性とロール巻回性の両立の観点から、好ましくは10μm~500μm、より好ましくは25μm~200μm、さらに好ましくは40μm~90μmの範囲である。
【0022】
一実施形態においては、物体4から粘着シートを剥離させる際に、粘着シートは拡張される。粘着シートの拡張を容易とするため、基材2の引張弾性率は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは80MPa以上、さらに好ましくは120MPa以上であり、好ましくは2500MPa以下、より好ましくは1000MPa以下、さらに好ましくは200MPa以下の範囲である。本明細書において、引張弾性率は実施例に記載の方法で測定した値を意味する。
【0023】
同様に、粘着シートの拡張を容易とするため、基材2の破断伸度は、好ましくは105%以上、より好ましくは110%以上、さらに好ましくは115%以上である。破断伸度は、JIS C2151:2019に従って測定される。
【0024】
粘着シートの拡張を容易とする観点から、基材2は、ポリオレフィン系フィルム又は塩化ビニル共重合体フィルムであることが好ましい。ポリオレフィン系フィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びエチレン-メタクリル酸共重合体を含むエチレン系共重合体などが挙げられる。塩化ビニル共重合体フィルムとしては、例えば、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体フィルム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体フィルム、及び塩化ビニル-エチレン共重合体フィルムなどが挙げられる。
【0025】
(粘着層)
粘着層1は、粘着性を有する層であり、樹脂を含むことができる。後述するように、粘着層1はその表面に凹凸1aを有している。なお、粘着シートは、2層以上の粘着層1を有していてもよい。例えば、粘着シートは、1種類又は2種類以上の粘着層1の積層体を有していてもよい。
【0026】
(粘着層の組成)
粘着層1が含む樹脂の例としては、ポリイソブチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、及びスチレン・ブタジエン系樹脂等のゴム系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、及びポリビニルエーテル系樹脂等が挙げられる。粘着層は耐熱性を有していてもよく、このような耐熱性を有する粘着層1の材料としては、ポリイミド系樹脂及びシリコーン系樹脂が挙げられる。粘着層1は、2種類以上の構成単位を有する共重合体を含んでいてもよい。このような共重合体の形態は特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0027】
粘着層1が含む樹脂は、単独で粘着性を有する粘着性樹脂であることが好ましい。また、樹脂は、1万以上の質量平均分子量(Mw)を有する重合体であることが好ましい。樹脂の質量平均分子量(Mw)は、保持性の向上の観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは7万以上、さらに好ましくは14万以上である。また、剪断貯蔵弾性率を所定値以下に抑える観点から、好ましくは200万以下、より好ましくは120万以下、さらに好ましくは90万以下である。また、樹脂の数平均分子量(Mn)は、保持性の向上の観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、さらに好ましくは10万以上である。また、剪断貯蔵弾性率を所定値以下に抑える観点から、好ましくは200万以下、より好ましくは100万以下、さらに好ましくは70万以下である。なお、後述するように粘着層1がエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂を含む場合、この質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はエネルギー付与による架橋反応前の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を指す。また、樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-75℃以上、より好ましくは-70℃以上であり、好ましくは5℃以下、より好ましくは-20℃以下である。Tgが当該範囲内にあることにより、得られる粘着層1の保持性と剪断貯蔵弾性率を後述の範囲内とし易くなる。
【0028】
粘着層1を構成する成分の全量に対する、粘着層1が含む樹脂の量は、求められる粘着層1の保持性及び剪断貯蔵弾性率に応じて適宜設定することができるが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.95質量%以下、さらに好ましくは99.90質量%以下、さらに好ましくは99.80質量%以下、さらに好ましくは99.50質量%以下である。
【0029】
粘着層1の剪断貯蔵弾性率は、粘着層1表面の凹凸形状の形態安定性の観点から、好ましくは0.001MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.05MPa以上、さらに好ましくは0.1MPa以上である。一方で、粘着層1の剪断貯蔵弾性率が低いことは、物体を保持する際の位置ずれを抑制できる点で好ましい。このような観点から、粘着層1の剪断貯蔵弾性率は、好ましくは100MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは2MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。本明細書において、剪断貯蔵弾性率は実施例に記載の方法で測定した値を意味する。
【0030】
一実施形態において、粘着層1を形成する粘着剤組成物に含まれる樹脂には、熱可塑性樹脂が含まれ得る。すなわち、粘着層1は熱可塑性樹脂から形成することができる。熱可塑性樹脂を用いる場合、加熱して樹脂を軟化させることにより粘着層1に凹凸1aを形成することが容易となり、また樹脂を冷却により形成した凹凸形状を維持することが容易となる。熱可塑性樹脂の例としては、ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及びオレフィン系樹脂等が挙げられる。一例としては、モノマーとしてブタジエンが用いられているポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、モノマーとしてスチレンが用いられているスチレン系熱可塑性エラストマー、及びモノマーとして(メタ)アクリル酸エステルが用いられているアクリル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0031】
また、粘着層1が含む樹脂は、好ましくはエネルギー反応性樹脂に由来する。エネルギー反応性樹脂とは、エネルギーを付与することにより弾性率が向上する樹脂のことを指す。エネルギー反応性樹脂としては、エネルギー線反応性樹脂及び熱反応性樹脂が挙げられる。エネルギー線反応性樹脂とは、エネルギー線を照射することにより、弾性率が向上する樹脂のことを指す。また、熱反応性樹脂とは、加熱することにより弾性率が向上する樹脂のことを指す。粘着層1が含む樹脂は、より好ましくは、熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来し、さらに好ましくは、熱可塑性のエネルギー線反応性樹脂に由来する。エネルギー線の種類は特に限定されず、例えば紫外線、電子線、又は電離放射線等が挙げられる。エネルギー線として好ましくは紫外線であり、すなわち樹脂は好ましくは紫外線反応性樹脂である。
【0032】
熱可塑性のエネルギー反応性樹脂とは、少なくともエネルギーを付与する前において熱可塑性を有しているエネルギー反応性樹脂のことを指す。また、樹脂がエネルギー反応性樹脂に由来するとは、樹脂がエネルギー反応性樹脂から得られていることを意味する。例えば、エネルギー反応性樹脂に由来する樹脂は、架橋されたエネルギー反応性樹脂である。
【0033】
このようなエネルギー反応性樹脂を用いる場合、樹脂に凹凸1aを形成した後にエネルギーを付与する(例えばエネルギー線を照射する)ことで、形成した凹凸形状を維持することが容易となる。
【0034】
このようなエネルギー反応性樹脂としては、重合性官能基が導入されたポリマーを用いることができる。重合性官能基とは、エネルギーの付与(例えばエネルギー線の照射)により架橋される官能基である。この重合性官能基としては、ビニル基及びアリル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基、オキセタニル基、並びにエポキシ基等が挙げられる。
【0035】
例えば、エネルギー反応性樹脂として、主鎖末端及び/又は側鎖に重合性官能基を有するポリマーで構成されたジエン系ゴムを用いることができる。ジエン系ゴムとは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム状高分子をいう。ジエン系ゴムの具体例としては、モノマーとしてブタジエン又はイソプレンが用いられた(すなわち構成単位としてブテンジイル基又はペンテンジイル基を有する)ポリマーが挙げられる。エネルギー反応性樹脂として好ましくは、ポリブタジエン樹脂(PB樹脂)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS樹脂)、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が挙げられる。これらの樹脂は、紫外線反応性樹脂として用いることができる。
【0036】
これらのエネルギー反応性樹脂における1分子あたりの重合性官能基数の平均値は、粘着層1の凹凸形状を維持しやすくする観点から、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上である。一方で、この平均値は、粘着層1の粘着性及び柔軟性を高める観点から、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。
【0037】
粘着層1は、1種類の樹脂を含んでいてもよいし、2種類以上の樹脂を含んでいてもよい。一実施形態に係る粘着層1は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂に加えて、液状樹脂又はエネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂を含んでいる。液状樹脂とは、混合前において、常温(25℃)で液状物である樹脂のことを指す。また、エネルギー反応性液状樹脂とは、混合前かつエネルギーを付与する前において、常温(25℃)で液状物である、エネルギー反応性樹脂のことを指す。このように液状樹脂を添加することにより、粘着層1の保持性及び剪断貯蔵弾性率を制御することが容易になる。
【0038】
一実施形態に係る粘着層1がエネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂を含むことは、粘着層1の凹凸形状を維持しやすい点で好ましい。このような液状樹脂の例としてはジエン系ゴムが挙げられ、具体例としてはモノマーとしてブタジエンが用いられたポリブタジエン系樹脂が挙げられる。
【0039】
一実施形態に係る粘着層1は、熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂と、エネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂と、の組み合わせを含んでいる。好ましくは、粘着層1は、エネルギー線反応性のスチレン系熱可塑性エラストマーに由来する樹脂と、エネルギー線反応性の液状樹脂であるジエン系ゴムに由来する樹脂との組み合わせを含む。
【0040】
熱可塑性のエネルギー線反応性樹脂の好ましい例としては、モノマーとしてスチレン及びブタジエンが用いられている樹脂が挙げられ、特に好ましい例としてSBS樹脂が挙げられる。なお、モノマーとしてスチレン及びブタジエンが用いられている樹脂は、モノマーとしてスチレン及びブタジエンのみが用いられている樹脂に加え、スチレン及びブタジエン以外のモノマーがさらに用いられている樹脂も含む。このような樹脂の質量平均分子量(Mw)は、粘着層1の粘着性を向上させる観点から、好ましくは1万以上であり、より好ましくは5万以上であり、さらに好ましくは10万以上であり、さらに好ましくは15万以上である。また、このような樹脂の質量平均分子量(Mw)は、粘着層1の剪断貯蔵弾性率を適切な範囲まで低下させる観点から、好ましくは200万以下であり、より好ましくは100万以下であり、さらに好ましくは20万以下である。同様の理由により、このような樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1万以上であり、より好ましくは3万以上であり、さらに好ましくは7万以上であり、さらに好ましくは13万以上であり、一方で好ましくは200万以下であり、より好ましくは100万以下であり、さらに好ましくは20万以下である。
【0041】
エネルギー線反応性の液状樹脂の好ましい例としては、モノマーとしてブタジエンが用いられている樹脂が挙げられ、特に好ましい例としてPB樹脂が挙げられる。なお、モノマーとしてブタジエンが用いられている樹脂は、モノマーとしてブタジエンのみが用いられている樹脂に加え、ブタジエン以外のモノマーがさらに用いられている樹脂も含む。このような樹脂の質量平均分子量(Mw)は、粘着層1の剪断貯蔵弾性率を増加させる観点から、好ましくは500以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは2000以上であり、さらに好ましくは3000以上である。また、このような樹脂の質量平均分子量(Mw)は、粘着層1の剪断貯蔵弾性率を減少させる観点から、好ましくは50万以下であり、より好ましくは10万以下であり、さらに好ましくは1万以下である。同様の理由により、このような樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは3000以上であり、さらに好ましくは12万以上であり、一方で好ましくは50万以下であり、より好ましくは10万以下であり、さらに好ましくは1万以下である。
【0042】
粘着層1が含む、熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂と、エネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂と、の比率は、求められる粘着層1の保持性及び剪断貯蔵弾性率等に応じて選択することができる。例えば、熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂の量100質量部に対する、エネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂の量は、保持性を高める観点から、10質量部以上、又は30質量部以上、さらには40質量部以上であってもよく、一方で剪断貯蔵弾性率を高める観点から、500質量部以下、又は200質量部以下、さらには150質量部以下であってもよい。
【0043】
また、粘着層1を構成する成分の全量に対する、熱可塑性のエネルギー反応性樹脂に由来する樹脂とエネルギー反応性液状樹脂に由来する樹脂との合計量の比率は、求められる粘着層1の保持性及び剪断貯蔵弾性率等に応じて選択することができる。例えば、この比率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.95質量%以下、さらに好ましくは99.90質量%以下、さらに好ましくは99.80質量%以下、さらに好ましくは99.50質量%以下である。
【0044】
粘着層1は、樹脂以外の成分を含んでいてもよい。例えば、粘着層1は、粘着付与剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、及びその他の添加剤のうちの1以上を含んでいてもよい。
【0045】
重合開始剤は、エネルギーの付与(例えばエネルギー線の照射)に応じて架橋反応を開始させる成分である。粘着層1がエネルギー反応性樹脂を含む場合、粘着層1がさらに重合開始剤を含むことにより、比較的低エネルギーのエネルギーの付与によっても架橋反応が進行する。
【0046】
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロロアントラキノン、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0047】
粘着層1は、1種の重合開始剤を含んでいてもよいし、2種類以上の重合開始剤を含んでいてもよい。粘着層1が重合開始剤を含む場合における、粘着層1中の重合開始剤の含有量は、適切な速度で架橋反応を進行させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0048】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、オキサゾリックアシッドアミド化合物、又はベンゾフェノン系化合物等が挙げられる。
【0049】
粘着層1が含んでいてもよいその他の添加剤は、特に限定されないが、例えば、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、若しくはベンゾトリアゾール系等の光安定剤、ヒンダードフェノール系化合物のようなフェノール系、芳香族アミン系、硫黄系、若しくはリン酸エステル系化合物のようなリン系等の酸化防止剤、イミダゾール系樹脂安定剤、ジチオカルバミン酸塩系樹脂安定剤、リン系樹脂安定剤、若しくは硫黄エステル系樹脂安定剤等の樹脂安定剤、充填剤、顔料、増量剤、並びに軟化剤等が挙げられる。
【0050】
粘着層1がこれらの添加剤を含有する場合、粘着層1中の添加剤の含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量以下%、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0051】
(粘着層の形状)
図1は、一実施形態に係る粘着層1の、凸部10aを通る、粘着層1の表面に垂直な断面図を示す。粘着層1は表面に凹凸1aを有する。また、粘着層1は、粘着層1の厚さ方向において、粘着層1の厚さが最も小さい凹部10bから、凹凸1aを有する表面とは逆側の面F1までの部分により構成される下地部分1bを有する。図1において、下地部分1bは凹凸1aと一体的に形成されており、基材2に接している。凹凸1aは、凸部10aと、凹部10bと、を有している 。図1において、凹部10bは凸部10aの間に位置している。凸部10aは、下地部分1b上に第1の高さH1を有するように設けられている第1の凸部110と、下地部分1b上に第1の凸部110よりも小さい第2の高さH2を有するように設けられている第2の凸部120を備える。第1の高さH1及び第2の高さH2は、下地部分1bの上面F2から凸部10aの頂部までの垂直方向における高さを意味する。第1の高さH1及び第2の高さH2は、粘着シートの厚さ方向で、第1の凸部110及び第2の凸部120の頂部と凹部10bの表面の高低差に相当する。
【0052】
ここで、図2A図2D図1の粘着シートが物体4を保持し、及び粘着シートから物体4を剥離する際の状態の一例を示す。図2Aは、物体4が粘着シートに接近する状態の一例を示す。物体4の種類は特に限定されない。物体4は、例えば、素子、ウエハ、パネル、又は基板等でありうる。粘着層1に物体4が接近することにより粘着層1と物体4の間の気体が圧縮される。この際、圧縮された気体は凹部10bを介して粘着層1と物体4の間から外部へ抜けやすくなる。したがって、粘着層1の表面が凹凸1aを有することで、圧縮された気体の圧力により、物体4の保持位置がずれることを抑制しやすくなる。
【0053】
図2B及び図2Cは、粘着シートに物体4を保持する際の状態の一例を示す。図2Bに示すように、物体4が粘着シートに近づくと、物体4はまず第1の凸部110と接触する。その後、第1の凸部110が変形しながら物体4はさらに第2の凸部120に近づき、そして図2Cに示されるように物体4は第2の凸部120とも接触する。図2Cの例において、物体4は第1の凸部110と第2の凸部120との双方により保持されている。このように、保持の初期段階において物体4は第1の凸部110と接触するため、粘着シートが物体4に及ぼす反発力がより小さくなる。そして続く段階において、物体4が粘着シートに接触する勢い、物体4の重さ若しくは粘着シートの自重、又は外部から力が加えられることによって、物体4は第1の凸部110に加えて第2の凸部120とも接触するため、粘着シートによる物体4の保持性がより大きくなる。このように、一実施形態に係る粘着シートは、物体4の一定の保持性を有しながら、物体4の保持位置のずれを抑制することができる。
【0054】
図2Dは、粘着シートを物体4から剥離させる状態の一例を示す。一実施形態においては、剥離のために、粘着シートは面方向に拡張される。例えば、粘着シートを外力によって引っ張ることにより、粘着シートを拡張することができる。この際には、物体4と粘着シートとの間の接着面に剪断力が働く。ここで、第2の凸部120の高さH2より、第1の凸部110の高さH1の方が大きい。このため、第2の凸部120は第1の凸部110よりも物体4からはがれやすい。また、第1の凸部110は第2の凸部120よりも拡張に追従するように変形しやすい。この結果、図2Dに示すように、粘着シートを面方向に拡張することにより、第2の凸部120は物体4から離れる。図2Dの例では、粘着シートの拡張後に、物体4は第1の凸部110によって保持されている。このように、拡張により、粘着シートと物体4との接触面積を減らすことができる。したがって、粘着シートによる物体4への保持性が弱くなり、剥離が容易になる。このように、粘着層1が表面に凹凸1aを有し、凸部10aが異なる高さの部分を有していることにより、粘着シートからの物体4の剥離が容易になる。
【0055】
図1では、方形波のような方形状の凹凸1aの例を示したが、表面の凹凸1aの具体的な形状は、特に限定されない。例えば、凸部10aを通る、粘着層1の表面に垂直な断面視で、表面の凹凸1aは、のこぎり波のような鋭角な形状、階段波のような階段状、全波整流波のような連続した半球形状、又は半波整流波のような間隔のある半球形状、などであってもよい。また、表面の凹凸1aは、これらを組み合わせた形状を有していてもよい。
【0056】
図3A及び図3Bは、別の一実施形態に係る粘着層1の、凸部10a'を通る、粘着層1の表面に垂直な断面図を示す。例えば、図3Aのように、表面の凹凸1a'は正弦波のような湾曲した形状を有していてもよい。また、図3Bのように、表面の凹凸1a'は三角波のような鋭角な形状を有していてもよい。図3A図3Bに示すように、表面の凹凸1a'は、下地部分1b上に第1の高さH1を有するように設けられている、凸部10a'の先端部分110'を有している。また、凹凸1a'は、下地部分1b上に第2の高さH2を有するように設けられている、凸部10a'の傾斜部分120'を有している。また、粘着シートの厚さ方向で、第1の高さH1は、第2の高さH2よりも大きい。
【0057】
図3A図3Bに示す粘着層1は、図2A図2Dに示す粘着層1と同様に、物体4が接近する際に、物体4との間で圧縮された気体を凹部10b'によって外部に抜けさせることができる。そのため、この粘着シートも、圧縮された気体によって物体4の保持位置がずれることを抑制できる。また、図2A図2Dに示す粘着層1と同様に、物体4が接近する際に、物体4はまず先端部分110'に接触し、続いて傾斜部分120'も物体4と接触する。このように、この粘着シートにおいても、粘着シートが物体4に及ぼす反発力がより小さくなる。このため、粘着シートは、物体4の一定の保持性を有しながら、物体4の保持位置のずれを抑制することができる。粘着シートを物体4から剥離する際には、粘着層1が面方向に拡張される。この場合も、図2A図2Dに示す粘着層1と同様に、傾斜部分120'は物体4から離れることができる。したがって、凸部10a'と物体4の接触面積を減らすことができ、剥離が容易になる。このように、粘着層1が、表面に凹凸1a'を有し、その凸部10'が先端部分110'に加えて傾斜部分120'を備えることで、粘着シートが物体4に対する一定の保持性を有しながら、粘着シートからの物体4の剥離が容易になる。
【0058】
なお、第1の高さH1と第2の高さH2の差は、物体4の剥離性を向上させる観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。一方で、接着性を維持する観点から120μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましい。
【0059】
図4は、粘着シートの平面図の一例を示す。粘着層1は、その表面に、凹部10bを介して互いに離間している第1の凸部110と第2の凸部120を有する。また、第1の凸部110と第2の凸部120は、それぞれ粘着層1の全体にわたって連続している凹部10bによって離間していてもよい。第1の凸部110と第2の凸部120の間に凹部10bが設けられていることで、物体を保持する際に粘着シートと物体4との間の気体が外部に抜けやすくなる。また、剥離時には凹部10bを介して、粘着層1と物体4との間に気体が入り込みやすくなるため、粘着シートを物体4から剥離させることが容易になる。また、一実施形態において、第1の凸部110と第2の凸部120のそれぞれの周囲に位置する凹部10bは、粘着層1の端部まで連続していてもよい。このように、粘着層1の端部まで連続している凹部10bを設けることにより、物体4と粘着層1との間に気体がより入り込みやすくなる。なお、これらの構成によれば、物体4と粘着層1との間で圧縮された気体を効率的にその間から外部に逃がすことができるため、保持位置がずれることを防止することができる。
【0060】
図4では、第1の凸部110と第2の凸部120はそれぞれ同じ大きさであり、交互に配置している例を示したが、これに限らない。第1の凸部110と第2の凸部120はそれぞれ異なる大きさで形成されていてもよい。また、その配置方法も適宜調整してもよい。ここで、大きさとは粘着層1の平面視における第1の凸部110と第2の凸部120が突出している、それぞれの面積を意味する。図5A図5Dにその一例を示す。図5A図5Dは、粘着層の平面図の一例を示す図である。例えば、図5Aに示すように、第1の凸部110の大きさを第2の大きさよりも小さくしてもよい。例えば、図5Aのように、第1の凸部110と第2の凸部120が、それぞれ交互に配置されている場合でなくとも、粘着シートの単位面積あたりに占める第1の凸部120の面積を、第2の凸部120の面積よりも小さく調整してもよい。第1の凸部110の大きさを第2の凸部120の大きさよりも小さくすることで、粘着シートは、保持時の初期段階における物体4との接触面積を減らすことができる。また、図5Bのように、第1の凸部110と第2の凸部120の大きさが同じ場合であっても、第1の凸部110の数を第2の凸部120の数より少なくすることで図5Aと同様の効果を得ることができる。
【0061】
図5A図5Bは第1の凸部110と第2の凸部120が、それぞれ等間隔で配置されている例を示したが、この限りではない。第1の凸部110と第2の凸部120の間隔が変動するように配置していてもよい。例えば、図5Cのように第2の凸部120同士の間隔が短く、集合した配置が採用されてもよい。また、第2の凸部120の周辺に位置する第1の凸部110同士の間隔を長く空けて配置してもよい。このように、第1の凸部110と第2の凸部120の間隔を調整することで、粘着シート表面の面方向の開口部分を広く設けることもできる。これによって、物体を保持する際に気体が外部に抜けやすくなる。また、剥離時には気体が入りやすくなり、剥離性を向上させることができる。
【0062】
図5Dは、粘着層1の別の形状を示す上面図である。図5Dに示すように、粘着層1の表面にはストライプ状の異なる高さの凸部10aが設けられていてもよい。図5Dにおいては一定の幅を有するライン状の第1の凸部110と第2の凸部120が一定の間隔で並んでいる。一方で、同様にライン状の第1の凸部110と第2の凸部120の幅又は間隔が規則的に変動していてもよいし、ライン状の第1の凸部110と第2の凸部120が不規則に配列されていてもよい。
【0063】
凸部(第1の凸部110、第2の凸部120、及び凸部10a')は、以下に示す構成を有していることが好ましい。例えば、1つの第1の凸部110、1つの第2の凸部120、並びに凸部10a'に含まれ、先端部分110'及び傾斜部分120'を有する1つの凸部は、それぞれ独立に、以下に示す構成を有していることが好ましい。凸部が以下に示す構成を有していることは、粘着シートのうち物体を保持する部分に位置する凸部のうち90%以上又は全てが以下に示す構成を有していることを意味する。
【0064】
1つの凸部の面積は、保持性を維持する観点から、10μm以上であることが好ましく、20μm 以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。一方で、1つの凸部の面積は、物体4からの剥離性を高める観点から、30000 μm以下であることが好ましく、3000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。
【0065】
1つの凸部の幅又は径は、保持性を維持する観点から、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることがさらに好ましく、7μm以上であることがさらに好ましい。一方で、1つの凸部のそれぞれの幅又は径は、物体の剥離性を高める観点から、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。ここで、1つの凸部のそれぞれの幅及び径は、凹部10b,10b'の表面において凸部の両側から接する二本の平行線の間の最小距離及び最大距離(図4の場合直径T1、又はT2で表される)を意味する。
【0066】
凸部10aのピッチPは、物体4と粘着シートの易剥離性、又は気体の抜けやすさを高める観点から、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。一方で、物体4を安定に保持する観点から、このピッチは、300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、35μm以下であることがよりさらに好ましく、25μm以下であることが特に好ましい。
【0067】
ここで、凸部10aのピッチは、任意に選択した1つの凸部の中心点と、その凸部と最も近い別の凸部の中心点との間の距離を意味する。例えば、図4の場合、凸部10aのピッチは、それぞれの凸部(例えば第1の凸部110及び第2の凸部120)が一定の間隔で並ぶ直線上における1つの凸部の中心点と、その凸部と最も近い別の凸部の中心点との間の距離を表す。それぞれの凸部が複数の直線上に並んでいる場合、ピッチは、最も短いピッチで並んでいる直線上における凸部の中心点間の距離を表す。
【0068】
粘着層1の単位面積あたりの個々の凸部の数(例えば第1の凸部110と第2の凸部120との合計の数、又は凸部10a'に含まれ、先端部分110'及び傾斜部分120'を有する各凸部の数)は、それぞれ独立に、安定に物体1を保持する観点から、3個/mm以上であることが好ましく、30個/mm以上であることが好ましく、300個/mm以上であることがより好ましく、1000個/mm以上であることがよりさらに好ましい。一方で、凹凸形状の安定性の観点から、10000個/mm以下であることが好ましい。
【0069】
また、粘着シートにおける第2の凸部120の総面積に対する第1の凸部110の総面積の比率は、剥離性を高める観点から、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。ここで、第1の凸部110と第2の凸部120のそれぞれの面積は、粘着層1の表面から突出している部分の面積(図4の場合直径T1、又はT2の円の面積)を意味する。
【0070】
粘着シートの面積における第2の凸部120の数に対する第1の凸部110の数の比率は、剥離性を高める観点から、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。ここで、粘着シートの面積における第1の凸部110と第2の凸部120のぞれぞれの数は、粘着層1の表面から突出している数を意味する。
【0071】
また、粘着層1の面積に対する、凸部10a,10a'が占める面積の比率は、物体4への保持性を維持する観点から、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、18%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。一方で、凸部10a,10a'の面積は、剥離性を高める観点から、95%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
粘着層1が有する凹凸1a,1a'は、物体4の形状に応じて設計されてもよい。例えば、1つの物体4の面積に対する、粘着層1と1つの物体4との保持面積の比は、保持性を維持する観点から、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、4%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、7%以上であることがさらに好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。一方で、凸部10aの面積は、物体4からの剥離性を高める観点から、95%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。図4の場合、保持面積は直径T1、T2の円の面積に相当する。なお、粘着層1上での物体4の位置がずれた場合に、保持面積は変化する可能性がある。この場合、物体4の位置にかかわらず、保持面積の比が上記の範囲に入ることが好ましい。
【0073】
(その他の層)
上記の粘着シートは、基材及び粘着層以外の層を有していてもよい。例えば、粘着層と反対側の基材上の面に、さらなる粘着層が設けられていてもよい。このような粘着層を介して、粘着シートを別の物体に貼り付けることができる。さらなる粘着層の種類は特に限定されず、例えば一般的な粘着剤を用いてさらなる粘着層を形成することができる。
【0074】
(粘着層及び粘着シートの製造方法)
粘着層及び粘着シートの製造方法に特に制限はない。例えば、基材上に粘着層が設けられている粘着シートは、以下のように作製することができる。まず、上述の粘着層の各成分を含む原料組成物に有機溶媒を加え、原料組成物の溶液を調製する。そして、この溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成した後、乾燥させることにより、基材上に粘着層を設けることができる。さらに、この粘着層の表面に凹凸を設ける処理を行うことにより、凹凸を有する粘着層を形成することができる。
【0075】
原料組成物の溶液を調製するために用いる有機溶媒の例としては、トルエン、酢酸エチル、及びメチルエチルケトン等が挙げられる。溶液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、及び印刷法(例えばスクリーン印刷法及びインクジェット法)等が挙げられる。
【0076】
粘着層の表面に凹凸を設ける処理にも特に制限はない。例えば、インプリント方式を用いて粘着層の表面に凹凸を設けることができる。インプリント方式においては、設けようとする凹凸と相補的な形状を表面に有するモールドを用いることができる。具体的には、基材上に設けた粘着層をモールドで押圧しながら粘着層を加温することにより、粘着層の表面に凹凸を設けることができる。より具体的な方法としては、粘着層をモールドで押圧し、粘着層を加温して所定時間維持し、その後粘着層を冷却し、モールドを除去することができる。粘着層の加温時には、例えば、粘着層の軟化点よりも高い温度に粘着層を加温することができる。また、加温した状態に粘着層を維持する時間も特に限定されないが、例えば10秒以上の維持を行ってもよいし、10分以下の維持を行ってもよい。粘着層をモールドで押圧しながら粘着層を加温するための具体的な方法としては、基材上に設けられた粘着層とモールドとを真空ラミネートする方法が挙げられる。なお、粘着層の形成及び凹凸の形成という2段階の工程を行う代わりに、1段階の工程で表面に凹凸を有する粘着層を基材上に形成してもよい。
【0077】
別の方法として、原料組成物の溶液をスプレー塗布することにより、粗面を有する粘着層を設けることができる。さらには、原料組成物の溶液にフィラーを加え、このような溶液を塗布することにより、粗面又は繊維状の表面を有する粘着層を設けることもできる。さらなる別の方法として、インクジェット法のような印刷法を用いて、所望のパターンに従って原料組成物の溶液を塗布することにより、基材上に凹凸形状を有する粘着層を直接設けることもできる。
【0078】
また、基材を有さない粘着シートは、粘着層の各成分を含む組成物をシート状に形成することにより作製することができる。さらに、粘着層は、粘着層の各成分を含む液状粘着剤を任意の物体に塗布することにより形成されてもよい。これらの場合、粘着層を形成した後に粘着層の表面に凹凸を設ける処理を行ってもよいし、表面に凹凸が形成される方法で粘着層を形成してもよい。
【0079】
(粘着シートの使用方法)
本実施形態に係る粘着シートは、物体を保持するために、特に物体を一時的に保持するために用いられる。例えば、本実施形態に係る粘着シートを用いることにより、物体を転写することができる。具体例として、ダイシングにより得られた半導体チップを所望の位置に転写するために、本実施形態に係る粘着シートを用いることができる。このように、一実施形態において、本実施形態に係る粘着シートは転写シートとして用いられる。
【0080】
例えば、保持基板上に貼着されている物体と粘着シートを接触させ、物理的刺激等により保持基板と物体との接着力を低下させることにより、粘着シートに物体を保持することができる。別の方法として、保持基板から物体を分離させ、物体を粘着シートにおいて捕捉することにより、粘着シートに物体を保持することもできる。上述のように、一実施形態に係る粘着シートを用いることにより、物体を捕捉する際の位置ずれが抑制される。保持基板から物体を分離させる方法としては、保持基板にレーザを照射するレーザリフトオフ法を用いることもできる。
【0081】
その後、粘着シートからの物体の分離が行われる。粘着シートから物体を分離する前に、物体に対する処理又は加工が行われてもよい。以下に、粘着シートからの物体の分離方法の一例について、図6を参照して説明する。S61においては、粘着層に物体を保持している粘着シートが面方向に拡張される。粘着シートの拡張率は、1%以上、又は5%以上であってもよく、20%以下、又は15%以下であってもよい。粘着シートは、1方向に拡張されても、2方向以上に拡張されても、全方向に拡張されてもよい。粘着シートを全方向に拡張する方法としては、ステージ(例えば円形のステージ)と、ステージより大きい枠(例えば円形の枠)を用いる方法が挙げられる。この場合、粘着シートを枠に固定することができる。そして、粘着シートをステージに載置した状態で、枠を押し下げることができる。このような手法により、粘着シートは全方向に拡張される。
【0082】
(粘着シートの拡張方法)
粘着シートの具体的な拡張方法の一例について、図7A及び図7Bを参照して説明する。図7A及び図7Bは、粘着層1と基材2とを備える粘着シートを面方向に拡張するために用いられるエキスパンド装置300を示す。図7Aは、エキスパンド装置300の台座310に設置された粘着シートが物体4a~4dを保持している状態を示す。エキスパンド装置300は、上記のステージとして粘着シートを保持する台座310を備える。台座310は、例えば、メッシュ状であってもよく、開口部を有するリング状であってもよい。また、エキスパンド装置300は、上記の枠として、粘着シートの外周を支持するリングフレーム320を備える。リングフレーム320は、例えば、粘着シートの外周の一部を支持してもよいし、粘着シートの外周全体を支持していてもよい。図7Bは、リングフレーム320が下降するように変位することによって粘着シートが拡張されている状態を示す。リングフレーム320は、例えば、0.1mm/sec以上の速さで変位してもよいし、1mm/sec以上の速さで変位してもよい。また、リングフレーム320の変位量、すなわち引き落とし量は、例えば、1mm以上でもよいし、5mm以上でもよい。図7Bに示す状態で、ニードル330を用いて粘着シートに保持されている物体4a~4dを突き上げて、物理的刺激を加える。これによって、拡張後の粘着シートから物体4a~4dを剥離させることができる。また、粘着シートの拡張方法は、これに限られず、例えば、粘着シートの面方向にリングフレーム320が変位して行われてもよい。
【0083】
次に、S62において、物体が、面方向に拡張した粘着シートの粘着層から剥離される。剥離方法は特に限定されない。例えば、粘着シートの裏面(物体の保持面とは反対の面)に対して物理的刺激(例えばニードルによる刺突)を加える方法が挙げられる。また、粘着シートにエネルギー線(例えばレーザ光)を照射する方法も挙げられる。このようにして剥離された物体は、例えば真空チャック及びコレットのような保持装置を用いて持ち上げることができる。上述のように、粘着シートの拡張により、粘着シートによる物体の保持性は低下する。すなわち、拡張後の粘着シート上の物体の面剥離性が、拡張前と比較して向上する。このため、粘着シートからの物体の剥離が容易となる。一実施形態においては、粘着シートの裏面に対する物理的刺激及びエネルギー線の照射を行うことなく、物体は粘着シートから持ち上げられる。
【実施例
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0085】
実施例及び比較例においては以下の化合物を使用した。
<(A)成分>
・エネルギー線硬化性樹脂(A1):側鎖にビニル基を有するSBS(側鎖に1,2-ビニル基を有する、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合(SBS)〔分岐型構造を有するものであって、分岐点を中心核とするラジアル構造を有するもの、数平均分子量(Mn)160,000、質量平均分子量(Mw)180,000、スチレンブロックの含有量が20質量%、ブタジエンブロックの含有量が80質量%、ブタジエンブロックを構成する全構成単位中、側鎖に1,2-ビニル基を有する構成単位の含有量が42mol%、温度200℃、荷重5kgの条件にて測定されたメルトフローレート5g/10分〕)
・エネルギー線硬化性樹脂(A2):側鎖にビニル基を有するPB(側鎖に1,2-ビニル基を有する、ポリブタジエン共重合体〔質量平均分子量(Mw)が5,500、ガラス転移温度が-49℃、常温で液状のもの〕)
<(C)成分>
・光重合開始剤(C1):ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド
<(E)酸化防止剤>
・酸化防止剤(E1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを質量比1:1で混合したもの
【0086】
(実施例1)
エネルギー線硬化性樹脂(A1)100質量部、エネルギー線硬化性樹脂(A2)50質量部、光重合開始剤(C1)3質量部、及び酸化防止剤(E1)3質量部をトルエンに溶解することにより、粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を剥離シート(リンテック株式会社製、商品名:SP-PET381130、ポリエチレンテレフタレートフィルムにシリコーン系剥離剤が積層されたもの、厚さ38μm)の剥離処理面上に塗工し、得られた塗膜を100℃で2分間乾燥することにより、厚さが25μmの粘着層を形成した。この粘着層上に、EMAA基材(エチレン-メタクリル酸共重合体フィルム、酸含有率9質量%、片方の表面をエンボス処理で梨地にしたもの、厚さ:80μm、破断伸度490%)の非エンボス処理面を貼り合わせて粘着シートを作製した。
【0087】
剥離シートを剥離した後に粘着シートの粘着層を予め凹形状を形成したレプリカモールドと貼り合わせ、60℃で300秒間真空ラミネートした。次いで、紫外線照射機(へレウス社製)を用いて、照度200mW/cm、光量800mJ/cmで紫外線を照射することにより、表面に凹凸形状を有する粘着シートを作製した。
【0088】
粘着シートの粘着層の表面には図1と同様に、異なる高さの凸部を有する凹凸が形成されている。また、異なる高さの凸部は、図4のように円筒状であって、凹部を介して格子状に配置された形状であった。異なる高さの凸部は保持部分として機能する。実施例1で作製された粘着シートにおいて、凸部は、第1の高さH1が8μmの第1の凸部と、第2の高さH2が4μmの第2の凸部と、からなっていた。粘着シートにおける第1の凸部と第2の凸部間のピッチ(P)は20μmであった。また、第1の凸部と第2の凸部の、直径(図1に示される、T1及びT2)は8μmであった。第2の凸部の総面積に対する第1の凸部の総面積の比率は100%であり、第2の凸部の数に対する第1の凸部の数の比率は100%であった。
【0089】
なお、それぞれの凸部間のピッチが20μmである場合における、粘着層と保持される物体との保持部分の面積(すなわちそれぞれの凸部先端面の面積)の、粘着シートの面積に対する比率は、およそ12.6%である。
【0090】
(実施例2)
実施例1とは異なる凹形状を形成したレプリカモールドを用いたこと以外は、実施例1と同様に粘着シートを作製した。
【0091】
粘着シートの粘着層の表面には図1と同様に、異なる高さの凸部を有する凹凸が形成されている。また、異なる高さの凸部は、図5Bのように円筒状であって、凹部を介して格子状に配置された形状であった。異なる高さの凸部は保持部分として機能する。実施例2で作製された粘着シートにおいて、凸部は、第1の高さH1が8μmの第1の凸部と、第2の高さH2が4μmの第2の凸部と、からなっていた。粘着シートにおける第1の凸部と第2の凸部間のピッチ(P)は20μmであった。また、第1の凸部と第2の凸部の、直径(図1に示される、T1及びT2)は8μmであった。第2の凸部の総面積に対する第1の凸部の総面積の比率は11.1%であり、第2の凸部の数に対する第1の凸部の数の比率は11.1%であった。
【0092】
(比較例1)
レプリカモールドと粘着層との貼り合わせを行わなかったことを除き、実施例1と同様に粘着シートを作製した。比較例においては、粘着層に凹凸を形成しなかった。
【0093】
(基材の引張弾性率)
実施例で用いた基材をMD方向150mm×TD方向15mmに裁断したものを試験サンプルとした。当該試験サンプルについて、JIS K 7161-1:2014及びJIS K 7127:1999に準拠して、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下における引張弾性率を測定した。
【0094】
具体的には、上記試験サンプルを、引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「オートグラフ(登録商標)AG-IS 500N」)を用いて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/分の速度で引張試験を行い、支持体のMD方向における引張弾性率(MPa)を測定した。
【0095】
なお、MD方向のMDとは、Machine Directionの略記であり、例えば、基材のMD方向とは基材製造時の長尺方向を意味する。また、TD方向のTDとは、Transverse Directionの略記で、例えば、基材のTD方向とは基材製造時の幅方向を意味する。
【0096】
(粘着層の剪断貯蔵弾性率)
実施例及び比較例で得た粘着剤組成物から粘着層を形成し、紫外線照射機(ヘレウス社製)を用いて、照度200mW/cm、光量800mJ/cmで紫外線を照射することにより、厚さ1mmの粘着層を作製した。得られた粘着層を直径8mmの円柱状に打ち抜き、粘弾性測定装置(Anton Paar社製、製品名「MCR302」)を用いて、試験開始温度-60℃、試験終了温度150℃、昇温速度3.5℃/分、周波数1Hzの条件で、ねじり剪断法によって、23℃における、粘着層の剪断貯蔵弾性率を測定した。
【0097】
(面剥離性評価用サンプルの作製)
実施例で得られた粘着シートの粘着層をリングフレーム(ステンレス製)に貼着し、リングフレームの外径に合わせて粘着シートを裁断した。
【0098】
ウエハ基板(ミラーシリコーンウエハ、6インチ、厚さ150μm)を別途用意したダイシングテープに固定して15mm×15mmの正方形にダイシングし、複数の素子(シリコンチップ、素子のサイズは10mm×10mm×150μm)とした。得られた複数の素子を粘着シートの粘着層のリングフレームの内側の中央部分に貼着して、ダイシングテープを剥離することで、素子をダイシングテープから粘着シートに転写した。この際、シリコンチップのミラー面が粘着シートの粘着層に貼着するように面を調整し、貼着は常温(23℃)でラミネートすることにより、素子が載置されてリングフレームで支持された粘着シートからなる面剥離性評価用サンプルを作製した。
【0099】
(延伸前の面剥離性)
得られた面剥離性評価用サンプルを、粘着シート越しに素子をニードルで突き上げる評価を10回行い、シリコンチップを破壊せずに剥離できた回数をカウントして以下の基準で面剥離性を評価した。
【0100】
A:シリコンチップを剥離できた回数が9回以上だった。
【0101】
B:シリコンチップを剥離できた回数が5回以上だった。
【0102】
F:シリコンチップを剥離できた回数が4回以下だった。
【0103】
(延伸後の面剥離性)
得られた面剥離性評価用サンプルを、図7A及び図7Bに示す機構を有するエキスパンド装置に設置し、粘着シート越しに素子をメッシュ状の台座で支えた状態で、リングフレームを速さ1mm/sec、引き落とし量5mmの条件で押し下げた。押し下げた後、粘着シート越しに素子をニードルで突き上げる評価を10回行い、シリコンチップを破壊せずに剥離できた回数をカウントして以下の基準で面剥離性を評価した。
【0104】
A:シリコンチップを剥離できた回数が9回以上だった。
【0105】
B:シリコンチップを剥離できた回数が5回以上だった。
【0106】
F:シリコンチップを剥離できた回数が4回以下だった。
【0107】
【表1】
【0108】
比較例1のように粘着層に高さが異なる凸部を有する凹凸を設けなかった場合には、粘着シートが物体からの剥離に失敗した。一方で、実施例1~2のように粘着層に異なる高さの凸部を有する凹凸を形成したことにより、物体が粘着シートからの剥離に成功しやすくなることが確認された。これは、異なる高さの凸部を有する凹凸を粘着層の表面に設けたことで、拡張時に粘着層と物体との接触面積が減少したことで、物体への保持性が低下しやすくなるためだと考えられる。
【0109】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【0110】
本願は、2023年3月31日提出の日本国特許出願特願2023-058461を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。
【要約】
物体を保持するための粘着層を備える粘着シートであって、前記粘着層が、その表面に凹凸を有しており、粘着層の厚さ方向において、粘着層の厚さが最も小さい凹部から、凹凸を有する表面とは逆側の面までの部分により構成される下地部分を有し、前記下地部分上に第1の高さを有するように設けられている第1の部分と、前記下地部分上に前記第1の高さとは異なる第2の高さを有するように設けられている第2の部分と、を備える。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B