(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】不均衡なヌクレオチドプールによって引き起こされた疾患を治療するためのデオキシヌクレオシドのプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20250117BHJP
A61K 31/708 20060101ALI20250117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61K31/708
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020556284
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 US2019027364
(87)【国際公開番号】W WO2019200340
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524391987
【氏名又は名称】ユーシービー バイオサイエンシズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディピエトロ,ダニエル
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/087517(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/205671(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0279159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアDNA枯渇症候群を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物はプロドラッグを含み、前記プロドラッグが式IIIaの化合物であり、前記治療は、それを必要とする対象において、治療有効量の前記プロドラッグを投与することを含む、医薬組成物:
【化9】
式中、
塩基は、シトシン、
5-メチルシトシン、チミン、グアニン、およびアデニンからなる群から選択され、
R
1は水素であり、Rはアミノ酸の側鎖である。
【請求項2】
前記プロドラッグが以下から選択される、請求項1に記載の医薬組成物:
【化11】
【請求項3】
前記治療が、少なくとも2つのプロドラッグの投与を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記治療が、(i)化合物5および化合物6または(ii)化合物7および化合物8から選択される2つのプロドラッグの投与を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
1つのプロドラッグと別のプロドラッグとの重量比が、50/50である、請求項3または4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ミトコンドリアDNA枯渇症候群が、TK2欠損症、RRM2B欠損症、TYMPの突然変異、SUCLA2欠損症、SUCLG1欠損症、MPV17欠損症およびDGUOK突然変異からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記投与が経口である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
投与される前記プロドラッグの用量が約200mg/kg/日~約1,000mg/kg/日である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
少なくとも1日1回投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月12日出願の米国仮特許出願第62/656,861号明細書の優先権を主張するものであり、当該出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、全般に、デオキシヌクレオシドを送達するためのプロドラッグ、およびミトコンドリアDNA枯渇症候群を含む不均衡なヌクレオチドプールによって引き起こされる疾患の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリア病は、ミトコンドリア呼吸鎖(RC)、および電子のエネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)に変換する生化学的経路である酸化的リン酸化の欠陥による臨床的に多様な疾患である。呼吸鎖は、電子を伝達して、ミトコンドリアの内膜を隔てたプロトン勾配を生成する4つのマルチサブユニット酵素(複合体I-IV)で構成され、このプロトンの流れが複合体Vを介してATP合成を駆動する(非特許文献1および2)。コエンザイムQio(CoQio)は、複合体IおよびIIから複合体IIIに電子を往復輸送する必須分子である。呼吸鎖は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と核DNA(nDNA)との2つのゲノムによって制御されるため、真核生物、例えば哺乳類の細胞に特有である。結果として、どちらかのゲノムの突然変異がミトコンドリア病を引き起こす可能性がある。ほとんどのミトコンドリア病は複数の体器官に影響を及ぼし、通常、小児期または成人初期には致命的である。ミトコンドリア病の効果的な治療法は証明されておらず、CoQioおよびその類似体を投与して、呼吸鎖活性を高め、機能不全の呼吸鎖酵素の有毒な副産物である活性酸素種(ROS)を無害化する等の支持療法のみがある。
【0004】
ミトコンドリア病のサブグループであるミトコンドリアDNA枯渇症候群(MDS)は、組織内のミトコンドリアDNA(mtDNA)コピー数の減少と、ミトコンドリアRC複合体の不十分な合成とを分子的特徴とする重度の小児脳筋症の多くの原因である(非特許文献3)。TK2、DGUOK、POLG、POLG2、SCLA25A4、MPV17、RRM2B、SUCLA2、SUCLG1、TYMP、OPA1、およびClOorfl(PEOl)等、いくつかの核遺伝子の突然変異が乳児MDSの原因として特定されている。(非特許文献4~12)。さらに、これらの核遺伝子の突然変異は、mtDNAの枯渇の有無にかかわらずmtDNAの複数の欠失を引き起こす可能性もある(非特許文献13~22)。
【0005】
これらの遺伝子の1つはTK2であり、これは、ピリミジンヌクレオシド(チミジンおよびデオキシシチジン)のリン酸化に必要なミトコンドリア酵素であるチミジンキナーゼ(TK2)をコードして、デオキシシチジン一リン酸(dTMP)およびデオキシシチジン一リン酸(dCMP)を生成する(非特許文献23)。TK2の突然変異は、mDNAの複製および修復の構成要素であるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)の合成に必要なミトコンドリアヌクレオシド/ヌクレオチドサルベージ経路を損なう。
【0006】
TK2欠損症は、Saadaおよび共同研究者によって、重度の壊滅的なミオパチーを患う4つの異なる家族に由来する4人の罹患した子供で2001年に初めて記載された(非特許文献24)。順調な初期の発達の後、月齢6~36ヶ月で、患者は高CK血症、重度の筋緊張低下を発症し、その後自発的活動が失われた。この疾患は急速に進行し、2人の患者は3年で人工呼吸器を装着したが、他の2人の患者は報告の時点ですでに死亡していた。
【0007】
最初の記載の後、60人の追加の患者が文献で報告され、少なくとも26人の患者がさらに診断されたが、報告はされておらず(非特許文献25~45)、結果として90人の患者、53人の男性と37人の女性が得られた。最近診断された26人の患者は、次世代DNAシーケンシングによって特定された。この新たに特定された多数の症例は、TK2欠損症が診断が不十分な障害であることを示唆している。
【0008】
TK2欠損症は、幅広い臨床的および分子遺伝学的スペクトルを示し、患者の大多数は幼児期に壊滅的な臨床経過を示すが、他の患者は数十年にわたってゆっくりと進行する衰弱を示す。
【0009】
ほとんどのMDSやミトコンドリア障害のように、TK2欠損症の治療は、支持療法に限定されてきた。デオキシチミジン一リン酸(dTMP)およびデオキシシチジン一リン酸(dCMP)の投与は、TK2ノックイン突然変異マウスおよびTK2欠損症ヒト患者の両方の状態を改善することが示されており(特許文献1、当該出願はその全体が本明細書に組み込まれる)、デオキシヌクレオシド(例えば、デオキシチミジン(dT)またはデオキシシチジン(dC)またはそれらの混合物)の投与についても同様のことが示されている(特許文献2、当該出願もまたその全体が本明細書に組み込まれる)。ただし、TK2欠損症に対する追加の治療的介入の必要性は依然として存在する。
【0010】
さらに、他の形態のMDS、および不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする他の疾患の治療の必要性も存在する。例えば、mtDNAの枯渇もしくは複数の欠失、またはその両方を伴ういくつかのメンデル型遺伝病は、mtDNA複製の欠陥につながる不均衡なデオキシヌクレオチド三リン酸プールを特徴とする。そのような障害の1つである、DGUOK突然変異は、通常、デオキシプリンヌクレオシドであるデオキシグアノシンおよびデオキシシチジンをリン酸化して、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)およびデオキシシチジン一リン酸(dCMP)を生成するミトコンドリア内酵素のデオキシグアノシンキナーゼを損なう。ミトコンドリアdNTPプールを破壊する他の核遺伝子には、TYMP、RRM2B、SUCLA2、SUCLG1およびMPV17が含まれる。dNTPプールの均衡を回復する治療法は、これらの障害の治療にも同様に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願第15/082,207号明細書
【文献】国際公開第2016205671号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【文献】DiMauro and Schon 2003;
【文献】DiMauro and Hirano 2005
【文献】Hirano,et al.2001
【文献】Bourdon,et al.2007
【文献】Copeland 2008;
【文献】Elpeleg,et al.2005;
【文献】Mandel,et al.2001;
【文献】Naviaux and Nguyen 2004;
【文献】Ostergaard,et al.2007;
【文献】Saada,et al.2003;
【文献】Sarzi,et al.2007;
【文献】Spinazzola,et al,2006
【文献】Behin,et al.2012;
【文献】Garone,et al.2012;
【文献】Longley,et al.2006;
【文献】Nishino,et al.1999;
【文献】Paradas,et al.2012;
【文献】Ronchi,et al.2012;
【文献】Spelbrink,et al.2001;
【文献】Tyynismaa,et al.2009;
【文献】Tyynismaa,et al.2012;
【文献】Van Goethem,et al.2001
【文献】Saada,et al.2001
【文献】Saada,et al.2001
【文献】Alston,et al.2013;
【文献】Bartesaghi,et al.2010:
【文献】Behin,et al.2012;
【文献】Blakely,et al.2008:
【文献】Carrozzo,et al.2003;
【文献】Chanprasert,et al.2013;
【文献】Collins,et al 2009;
【文献】Galbiati,et al.2006;
【文献】Gotz,et al.2008;
【文献】Leshinsky-Silver,et al,2008;
【文献】Lesko,et al.2010:
【文献】Mancuso,et al.2002;
【文献】Mancuso,et al.2003;
【文献】Marti,et al.2010;
【文献】Oskoui,et al.2006;
【文献】Paradas,et al.2012;
【文献】Roos,et al.2014;
【文献】Tulinius,et al.2005;
【文献】Tyynismaa,et.al.2012;
【文献】Vila,2003;
【文献】Wang,et al.2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、全般に、デオキシヌクレオシドを送達するためのプロドラッグに関する。
一態様では、本発明は、式Iの化合物を提供する:
【化1】
【0015】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
R
1は、任意選択で置換されたアシル、任意選択で置換されたO-結合型アミノ酸、
【化2】
からなる群から選択され、X、YおよびZはそれぞれOおよびSから独立して選択され、
R
2、R
3およびR
4はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたアリール(C
1-6)アルキル、
【化3】
から独立して選択されるか、またはR
2とR
3とは一緒になって環状部分を形成することができ、
R
5、R
6およびR
7はそれぞれ、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルケニル、NR
20R
21、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸エステルから独立して選択され、
R
8、R
9、R
11およびR
12はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC1-24アルキルおよび任意選択で置換されたアリールから独立して選択され、
R
10およびR
13はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC1-24アルキルおよび任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換された-O-C1-24アルキル、任意選択で置換された-O-アリール、任意選択で置換された-O-ヘテロアリール、任意選択で置換された-O-単環式ヘテロシクリルから独立して選択され、
R
14、R
15およびR
19はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、および任意選択で置換されたアリールから独立して選択され、
R
16およびR
17は、それぞれ-CN、任意選択で置換されたC
2-8オルガニルカルボニル、C
2-8アルコキシカルボニルおよびC
2-8オルガニルアミノカルボニルから独立して選択され、
R
18は、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、および任意選択で置換されたC
3-6シクロアケニルから選択され、
R
20およびR
21はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、および任意選択で置換されたC
3-6シクロアケニルから独立して選択され、ならびに
n、mおよびpはそれぞれ、0、1、2または3から独立して選択される。
【0016】
別の態様では、プロドラッグは、式IIの化合物である:
【化4】
【0017】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
Xは、SおよびOから選択され、ならびに
R
22は、-O
-、-OH、-O-アルキル、任意選択で置換されたC
1-6アルコキシ、
【化5】
、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸、および任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸エステルから選択され、式中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、n、mおよびpは、上記のように定義される。
【0018】
さらに別の態様では、プロドラッグは、式IIIの化合物である:
【化6】
【0019】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
R1およびR2は、水素、リン酸塩(式Iの一リン酸塩、二リン酸塩または三リン酸塩、および修飾リン酸塩を含む)、直鎖、分枝鎖または環状のアルキル、アシル、CO-アルキル、CO-アルコキシアルキル、CO-アリールオキシアルキル、CO-置換アリール、スルホン酸エステル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アラルキルスルホニル、脂質、リン脂質、アミノ酸、炭水化物、ペプチドおよびコレステロールから独立して選択される)。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は全般に、それを必要とする対象における不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害を治療する方法であって、治療有効量の本発明の少なくとも1つのプロドラッグを対象に投与することを含む方法にさらに関する。プロドラッグは、それ自体で(すなわち、単独で)または医薬組成物の形態で投与することができる。
【0021】
適切な疾患または障害としては、限定するものではないが、TK2欠損症、RRM2B欠損症、TYMPの突然変異、SUCLA2欠損症、SUCLG1欠損症、MPV17欠損症およびDGUOK突然変異が挙げられる。
【0022】
投与は、限定するものではないが、髄腔内、非経口(parental)、粘膜および経皮を含む任意の経路を介して行うことができる。
【0023】
少なくとも1つのプロドラッグまたはそれを含む組成物の投与量は、約25mg/kg/日~約1,000mg/kg/日であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書で使用される場合、「対象」は哺乳動物を指す。哺乳動物には、イヌ、ネコ、げっ歯類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジおよび霊長類が含まれる。したがって、本発明は、獣医学において、例えば、コンパニオンアニマル、家畜、動物園の実験動物、および野生の動物を治療するために使用することができる。本発明は、ヒトの医療用途にとって特に望ましい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「患者」は、ヒト対象を指す。本発明のいくつかの実施形態では、「患者」は、不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害である、ミトコンドリア病、ミトコンドリアDNA枯渇症候群またはTK2欠損症を有することが知られているか、または疑われる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、対象の臨床的に重要な状態の改善を引き起こす、または疾患もしくは障害に関連する1もしくは複数の症状を遅延もしくは最小化もしくは軽減する、または対象において所望の生理学的に有益な変化をもたらすのに十分な量を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」などは、疾患もしくは障害の症状の少なくとも1つを減速、軽減、改善もしくは緩和する手段、または発症後に疾患もしくは障害を逆転させる手段を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「予防する」、「予防」などは、明白な疾患もしくは障害の発症前に行動して、疾患もしくは障害の発症を予防するか、疾患もしくは障害の程度を最小限に抑えるか、またはその発症過程を遅らせることを指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「それを必要とする」とは、不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害である、ミトコンドリア病、ミトコンドリアDNA枯渇症候群またはTK2欠損症を有することが知られているか、または疑われる対象を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「プロドラッグ」は、体内などの使用条件下で変換されてデオキシヌクレオシドを放出する、デオキシヌクレオシドの誘導体を指す。プロドラッグは、必ずしもそうではないが、多くの場合活性型に変換されるまでは薬理学的に不活性である。プロドラッグは、通常は官能基を介してプロ成分を薬物に結合することによって得ることができる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「プロ成分」は、特定の使用条件下で切断可能な結合を介して、デオキシヌクレオシドに結合された基、典型的には官能基を指す。薬物とプロ成分との間の結合は、酵素的手段または非酵素的手段によって切断され得る。使用条件下で、例えば、患者への投与後、薬物とプロ成分との間の結合は切断されて、親薬物を放出し得る。プロ成分の切断は、加水分解反応などを介して自発的に進行する場合があり、または酵素、光、酸などの別の作用物質によって、または温度変化、pH変化などの物理的または環境的パラメータの変化、またはそれらへの曝露によって触媒されたり、または誘導されたりし得る。作用物質は、プロドラッグが投与される患者の体循環に存在する酵素などの使用条件に対して、もしくは胃の酸性条件に対して内因性であり得るか、または該作用物質は外因的に供給され得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「副作用」は、薬物の投与によって引き起こされる望ましくない反応である。ほとんどの場合、デオキシヌクレオシドの投与が副作用を引き起すことはなかった。最も予想される副作用は、軽度の胃腸不耐症である。
【0033】
本明細書で使用される場合、「約」または「ほぼ」は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、すなわち測定システムの限界、すなわち、医薬製剤などの特定の目的に必要な精度の程度に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣行に従って、1以内または1を超える標準偏差を意味することができる。または、「約」は、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、さらにより好ましくは最大1%の範囲を意味し得る。または、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の桁内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が出願および特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値の許容誤差範囲内を意味すると想定されるべきである。
【0034】
基が「任意選択で置換されている」と記載されている場合は常に、その基は非置換であっても、または示された置換基の1または複数で置換されていてもよい。同様に、「非置換または置換」であると記載されている場合、基が置換されているならば、置換基は1または複数の示された置換基から選択され得る。置換基が示されていない場合、示された「任意選択で置換された」基または「置換された」基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、アリール(アルキル)、ヘテロアリール(アルキル)、ヘテロシクリル(アルキル)、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロゲン、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、C-カルボキシ、保護されたC-カルボキシ、O-カルボキシ、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、アジド、ニトロ、シリル、スルフェニル、スルフィニル、スルホニル、ハロアルキル、ハロアルコキシ、トリハロメタンスルホニル、トリハロメタンスルホンアミド、アミノ、一置換アミノ基および二置換アミノ基、ならびにそれらの保護された誘導体から個別にかつ独立して選択される1または複数の基で置換されていてよいことを意味する。
【0035】
本明細書で使用される場合、「a」および「b」が整数である「Ca-Cb」は、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基の炭素原子の数、またはシクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリールもしくはヘテロシクリル基の環の炭素原子の数を指す。すなわち、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルの環、シクロアルケニルの環、アリールの環、ヘテロアリールの環またはヘテロシクリルの環は、「a」~「b」までの炭素原子を含む。したがって、例えば、「C1-C4アルキル」基は、1~4個の炭素を有するすべてのアルキル基、すなわち、CH3-、CH3CH2-、CH3CH2CH2-、(CH3)2CH-、CH3CH2CH2CH2-、CH3CH2CH(CH3)-および(CH3)3C-を指す。アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルシクロアルケニル、アリール、ヘテロアリールまたはヘテロシクリル基に関して「a」および「b」が指定されていない場合、これらの定義に記載されている最も広い範囲が想定される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「アルキル」は、完全に飽和した(二重結合または三重結合を有さない)炭化水素基を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖を指す。アルキル基は、1~20個の炭素原子を有し得る(本明細書に現れるときはいつでも、「1~20」などの数値範囲は、所与の範囲内の各整数を指す。例えば、「1~20個の炭素原子」は、アルキル基が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子などからなり得、最大20個の炭素原子を含み得ることを意味するが、本定義は、数値範囲が指定されていない「アルキル」という用語が出てきた場合にも適用される。アルキル基はまた、1~10個の炭素原子を有する中型のアルキルであり得る。アルキル基はまた、1~6個の炭素原子を有する低級アルキルであり得る。化合物のアルキル基は、「C1-C4アルキル」または同様の呼称として指定することができる。ほんの一例として、「C1-C4アルキル」は、アルキル鎖に1~4個の炭素原子が存在すること、すなわち、アルキル鎖がメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチルおよびt-ブチルから選択されることを示す。典型的なアルキル基としては、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、ペンチルおよびヘキシルが挙げられる。アルキル基は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0037】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」は、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖に1または複数の二重結合を含むアルキル基を指す。アルケニル基の例としては、アレニル、ビニルメチルおよびエテニルが挙げられる。アルケニル基は、非置換であっても、または置換されていてもよい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」は、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖に1または複数の三重結合を含むアルキル基を指す。アルキニルの例としては、エチニルおよびプロピニルが挙げられる。アルキニル基は、非置換であっても、または置換されていてもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」は、完全に飽和した(二重結合または三重結合を有さない)単環式または多環式炭化水素環系を指す。2つ以上の環で構成されている場合、これらの環は融合して一つに結合していてよい。シクロアルキル基は、環に3~10個の原子、または環に3~8個の原子を含むことができる。シクロアルキル基は、非置換であっても、または置換されていてもよい。典型的なシクロアルキル基としては、限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが挙げられる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「シクロアルケニル」は、少なくとも1つの環に1または複数の二重結合を含む単環式または多環式炭化水素環系を指す。ただし、複数ある場合、二重結合はすべての環全体で完全に非局在化したパイ電子系を形成することはできない(そうでなければ、基は本明細書において定義されているように「アリール」となる)。2つ以上の環で構成されている場合、これらの環は融合して一つに接続されていてよい。シクロアルケニルは、環に3~10個の原子、または環に3~8個の原子を含むことができる。シクロアルケニル基は、非置換であっても、または置換されていてもよい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「アリール」は、すべての環にわたって完全に非局在化されたパイ電子系を有する、炭素環式(全て炭素)の単環式または多環式の芳香環系(2つの炭素環が化学結合を共有する縮合環系を含む)を指す。アリール基の炭素原子の数はさまざまであり得る。例えば、アリール基は、C6-C14アリール基、C6-C10アリール基、またはC6アリール基であり得る。アリール基の例として、限定するものではないが、ベンゼン、ナフタレンおよびアズレンが挙げられる。アリール基は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」は、1または複数のヘテロ原子(例えば、1~5個のヘテロ原子)、すなわち、限定するものではないが窒素、酸素、硫黄などの炭素以外の元素を含む単環式、二環式、および三環式の芳香環系(完全に非局在化されたパイ電子系を有する環系)を指す。ヘテロアリール基の環の原子数はさまざまであり得る。例えば、ヘテロアリール基は、環に4~14個の原子、環に5~10個の原子、または環に5~6個の原子を含むことができる。さらに、「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つのアリール環と少なくとも1つのヘテロアリール環、または少なくとも2つのヘテロアリール環などの2つの環が少なくとも1つの化学結合を共有する縮合環系を含む。ヘテロアリール環の例としては、限定するものではないが、フラン、フラザン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フタラジン、ピロール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、チアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアゾール、ベンゾチアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、インドール、インダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、イソキサゾール、ベンゾイソキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、プリン、プテリジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、およびトリアジンが挙げられる。ヘテロアリール基は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0043】
本明細書で使用される場合、「ヘテロシクリル」または「ヘテロアリシクリル」は、3、4、5、6、7、8、9、10、最大18員の、炭素原子が、1~5個のヘテロ原子と共に環系を構成する単環式、二環式、および三環式環系を指す。複素環は、そのような方法で配置された1または複数の不飽和結合を任意選択で含み得るが、完全に非局在化されたパイ電子系がすべての環にわたって発生するわけではない。ヘテロ原子は、限定するわけではないが、酸素、硫黄および窒素などの炭素以外の元素である。複素環は、1または複数のカルボニルまたはチオカルボニル官能基をさらに含んでよく、したがって、この定義はラクタム、ラクトン、環状イミド、環状チオイミドおよび環状カルバメートなどのオキソ系およびチオ系を含むことになる。2つ以上の環で構成されている場合、これらの環は融合して一つに結合していてよい。さらに、ヘテロ脂環式の窒素は四級化されていてもよい。ヘテロシクリル基またはヘテロ脂環式基は、非置換であっても、または置換されていてもよい。そのような「ヘテロシクリル」または「ヘテロアリシクリル」基の例としては、限定するものではないが、1,3-ダイオキシン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジオキソラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、1,3-オキサチアン、1,4-オキサチイン、1,3-オキサチオラン、1,3-ジチオール、1,3-ジチオラン、1,4-オキサチアン、テトラヒドロ-1,4-チアジン、2H-1,2-オキサジン、マレイミド、スクシンイミド、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ジオキソピペラジン、ヒダントイン、ジヒドロウラシル、トリオキサン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、イソキサゾリン、イソキサゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、オキサゾリジノン、チアゾリン、チアゾリジン、モルホリン、オキシラン、ピペリジンN-オキシド、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ピロリドン、ピロリジオン、4-ピペリドン、ピラゾリン、ピラゾリジン、2-オキソピロリジン、テトラヒドロピラン、4H-ピラン、テトラヒドロチオピラン、チアモルホリン、チアモルホリンスルホキシド、チアモルホリンスルホン、およびそれらのベンゾ縮合類似体(例えば、ベンズイミダゾリジノン、テトラヒドロキノリン、および3,4-メチレンジオキシフェニル)が挙げられる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「アラルキル」および「アリール(アルキル)」は、低級アルキレン基を介して置換基として接続されたアリール基を指す。アリール(アルキル)の低級アルキレンおよびアリール基は、置換されていても、または非置換であってもよい。例としては、限定するものではないが、ベンジル、2-フェニル(アルキル)、3-フェニル(アルキル)およびナフチル(アルキル)が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアラルキル」および「ヘテロアリール(アルキル)」は、低級アルキレン基を介して置換基として接続されたヘテロアリール基を指す。ヘテロアリール(アルキル)の低級アルキレンおよびヘテロアリール基は、置換されていても、または非置換であってもよい。例としては、限定するものではないが、2-チエニル(アルキル)、3-チエニル(アルキル)、フリル(アルキル)、チエニル(アルキル)、ピロリル(アルキル)、ピリジル(アルキル)、イソキサゾリル(アルキル)、イミダゾリル(アルキル)、およびそれらのベンゾ縮合類似体が挙げられる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「アルコキシ」は、式-OR(式中、Rが、本明細書において定義されている、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアリール(アルキル)またはヘテロシクリル(アルキル)である)を指す。アルコキシの非限定的なリストは、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、1-メチルエトキシ(イソプロポキシ)、n-ブトキシ、イソ-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、フェノキシ、およびベンゾキシである。アルコキシは、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0047】
本明細書で使用される場合、「アシル」は、カルボニル基を介して置換基として接続された、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリシクリル、アラルキル、ヘテロアリール(アルキル)またはヘテロシクリル(アルキル)を指す。例としては、ホルミル、アセチル、プロパノイル、ベンゾイル、およびアクリルが挙げられる。アシルは、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0048】
本明細書で使用される場合、「複素環式塩基」という用語は、任意選択で置換されたペントース部分または修飾されたペントース部分に結合することができる、任意選択で置換された窒素含有ヘテロシクリルを指す。いくつかの実施形態では、複素環式塩基は、任意選択で置換されたプリン塩基、任意選択で置換されたピリミジン塩基、および任意選択で置換されたトリアゾール塩基(例えば、1,2,4-トリアゾール)から選択され得る。「プリン塩基」という用語は、当業者によって理解されるような通常の意味で本明細書において使用され、その互変異性体を含む。同様に、「ピリミジン塩基」という用語は、当業者によって理解される通常の意味で本明細書において使用され、その互変異性体を含む。任意選択で置換されたプリン塩基の非限定的なリストには、プリン、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチン、アロキサンチン、7-アルキルグアニン(例えば、7-メチルグアニン)、テオブロミン、カフェイン、尿酸およびイソグアニンが含まれる。ピリミジン塩基の例としては、限定するものではないが、シトシン、チミン、ウラシル、5,6-ジヒドロウラシルおよび5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)が挙げられる。任意選択で置換されたトリアゾール塩基の例は、1,2,4-トリアゾール-3-カルボキサミドである。複素環式塩基の他の非限定的な例には、ジアミノプリン、8-オキソ-N6-アルキルアデニン(例えば、8-オキソ-N6-メチルアデニン)、7-デアザキサンチン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、N4,N4-エタノサイトシン、N6,N6-エタノ-2,6-ジアミノプリン、5-ハロウラシル(例えば、5-フルオロウラシルおよび5-ブロモウラシル)、シュードイソシトシン、イソシトシン、イソグアニン、および米国特許第5,432,272号明細書および第7,125,855号明細書に記載されている他の複素環式塩基が含まれ、当該特許は、追加の複素環式塩基を開示するという限定された目的のために参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、複素環式塩基は、アミンまたはエノール保護基で任意選択で置換され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「-N結合型アミノ酸」は、主鎖アミノまたは一置換アミノ基を介して示された部分に結合しているアミノ酸を指す。アミノ酸が-N-結合型アミノ酸に結合している場合、主鎖アミノまたは一置換アミノ基の一部である水素の1つは存在せず、該アミノ酸は窒素を介して結合している。N-結合型アミノ酸は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0050】
本明細書で使用する場合、「-N結合型アミノ酸エステル」とは、主鎖カルボン酸基がエステル基に変換されているアミノ酸を指す。いくつかの実施形態では、エステル基は、アルキル-O-C(=O)-、シクロアルキル-O-C(=O)-、アリール-O-C(=O)-およびアリール(アルキル)-O-C(=O)-から選択される式を有する。エステル基の非限定的なリストには、以下の置換および非置換バージョンが含まれる:メチル-O-C(=O)-、エチル-O-C(=O)-、n-プロピル-O-C(=O)-、イソプロピル-O-C(=O)-、n-ブチル-O-C(=O)-、イソブチル-O-C(=O)-、tert-ブチル-O-C(=O)-、ネオペンチル-O-C(=O)-、シクロプロピル-O-C(=O)-、シクロブチル-O-C(=O)-、シクロペンチル-O-C(=O)-、シクロヘキシル-O-C(=O)-、フェニル-O-C(=O)-、ベンジル-O-C(=O)-およびナフチル-O-C(=O)-。N結合型アミノ酸エステル誘導体は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0051】
本明細書で使用される場合、「-O-結合型アミノ酸」は、その主鎖カルボン酸基由来のヒドロキシを介して、示された部分に結合しているアミノ酸を指す。アミノ酸が-O-結合型アミノ酸に結合している場合、その主鎖カルボン酸基由来のヒドロキシの一部である水素は存在せず、アミノ酸は酸素を介して結合している。O-結合型アミノ酸は、置換されていても、または非置換であってもよい。
【0052】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、限定するものではないが、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸およびδ-を含む任意のアミノ酸(標準および非標準アミノ酸の両方)を指す。適切なアミノ酸の例としては、限定するものではないが、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、チロシン、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリンが挙げられる。適切なアミノ酸の追加の例としては、限定するものではないが、オルニチン、ヒプシン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニン、γ-アミノ酪酸、シトルリン、ベータ-アラニン、アルファ-エチル-グリシン、アルファ-プロピル-グリシンおよびノルロイシンが挙げられる。
【0053】
「アミノ酸」という用語は、天然および合成のβ、γまたはδアミノ酸を含み、アミノ酸は、D配置であっても、またはL配置であってもよい。アミノ酸は、アラニル、バリニル、ロイシニル、イソロイシニル、プロリニル、フェニルアラニニル、トリプトファニル、メチオニニル、グリシニル、セリニル、スレオニニル、システイニル、チロシニル、アスパラギニル、グルタミニル、アスパルトイル、グルタロイル、リジニル、アルギニニル、ヒスチジニル、β-アラニル、β-バリニル、β-ロイシニル、β-イソロイシニル、β-プロリニル、β-フェニルアラニニル、β-トリプトファニル、β-メチオニニル、β-グリシニル、β-セリニル、β-スレオニニル、β-システイニル、β-チロシニル、β-アスパラギニル、β-グルタミニル、β-アスパルトイル、β-グルタロイル、β-リジニル、β-アルギニニルまたはβ-ヒスチジニルの誘導体であり得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「デオキシヌクレオシド」という用語は、デオキシ糖、すなわち、ヒドロキシ基を水素原子で置き換えることによって糖から正式に誘導された任意の化合物、例えば、デオキシリボースを含む任意のヌクレオシドを指す。
本明細書で使用される場合、「dNTP」という用語は、デオキシリボヌクレオチド三リン酸を指す。各dNTPは、リン酸基、デオキシリボース糖および窒素塩基で構成されている。4つの異なるdNTPがあり、プリンとピリミジンの2つのグループに分けることができる。dATP(デオキシアデノシン5’-三リン酸)とdGTP(デオキシグアノシン5’-三リン酸)はプリンを構成し、dTTP(デオキシチミジン5’-三リン酸)とdCTP(デオキシシチジン5’-三リン酸)はピリミジンを構成する。プリンを特徴とする塩基であるアデニンおよびグアニンはどちらも二重環構造を有し、プリンを特徴とする塩基であるチミンおよびシトシンはどちらも単環構造を有する。
【0055】
本明細書で使用される「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」という用語は、罹患した組織および器官、例えば、筋肉、肝臓、脳、および/または消化管におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)含有量の深刻な減少を特徴とする、表現型多様な疾患および障害のクラスを指す。減少または枯渇は、mtDNA複製に利用可能なミトコンドリアヌクレオチドプールの不均衡、およびミトコンドリア複製の異常に起因する可能性がある。発症年齢に基づいて、先天性(または早期発症)と乳児性(または後期発症)の2つのサブタイプに区別される。後期発症型では生存期間は長くなるが、この症候群はほとんどすべての患者で致命的であり、現在、効果的な治療法は存在しない。
【0056】
I.プロドラッグ
本発明は、デオキシヌクレオチドプロドラッグを提供する。「デオキシヌクレオシド」とは、2’-デオキシヌクレオシド、例えば、デオキシシチジン(dC、以下に示す)、デオキシチミジン(dT)、デオキシアデノシン(dA)およびデオキシグアノシン(dG)を指す。それぞれの完全な長さの名前と一般的な略語は交換可能に使用される。
【0057】
特定の実施形態では、塩基は、シトシン、チミン、グアニンおよびアデニンから選択される。
【0058】
したがって、本明細書に記載のプロドラッグは、デオキシシチジンプロドラッグ(dCプロドラッグ)、デオキシチミジンプロドラッグ(dTプロドラッグ)、デオキシグアノシンプロドラッグ(dGプロドラッグ)およびデオキシアデノシンプロドラッグ(dAプロドラッグ)である。
【0059】
【0060】
プロドラッグは、好ましくは、天然のβ-D-配置である。
【0061】
一実施形態では、プロドラッグ戦略は、細胞膜を通過できるようにするための、反応性基、例えば、in vivoでの荷電-OHおよびリン酸基のマスキングを含む。
【0062】
一実施形態では、本発明は、式Iのプロドラッグを提供する:
【化8】
【0063】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
R
1は、任意選択で置換されたアシル、任意選択で置換されたO-結合型アミノ酸、
【化9】
からなる群から選択され、
X、Y、およびZはそれぞれ、OおよびSから独立して選択され、
R
2、R
3およびR
4はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、任意選択で置換されたアリール(C
1-6)アルキル、
【化10】
から独立して選択されるか、またはR
2とR
3とは一緒になって環状部分を形成することができ、
R
5、R
6およびR
7はそれぞれ、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルケニル、NR
20R
21、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸エステルから独立して選択され、
R
8、R
9、R
11およびR
12はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC1-24アルキルおよび任意選択で置換されたアリールから独立して選択され、
R
10およびR
13はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC1-24アルキルおよび任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換された-O-C1-24アルキル、任意選択で置換された-O-アリール、任意選択で置換された-O-ヘテロアリール、任意選択で置換された-O-単環式ヘテロシクリルから独立して選択され、
R
14、R
15およびR
19はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、および任意選択で置換されたアリールから独立して選択され、
R
16およびR
17は、それぞれ-CN、任意選択で置換されたC
2-8オルガニルカルボニル、C
2-8アルコキシカルボニルおよびC
2-8オルガニルアミノカルボニルから独立して選択され、
R
18は、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、および任意選択で置換されたC
3-6シクロアケニルから選択され、
R
20およびR
21はそれぞれ、水素、任意選択で置換されたC
1-24アルキル、任意選択で置換されたC
2-24アルケニル、任意選択で置換されたC
2-24アルキニル、任意選択で置換されたC
3-6シクロアルキル、および任意選択で置換されたC
3-6シクロアケニルから独立して選択され、ならびに
n、mおよびpはそれぞれ、0、1、2または3から独立して選択される。
【0064】
特定の実施形態では、プロドラッグは、式Iaの化合物である:
【化11】
【0065】
式中、R1、R2およびR3は、水素、任意選択で置換されたC1-24アルキル、任意選択で置換されたC2-24アルケニル、任意選択で置換されたC2-24アルキニル、任意選択で置換されたC3-6シクロアルキル、任意選択で置換されたC3-6シクロアルケニル、任意選択で置換されたアリール、任意選択で置換されたヘテロアリール、および任意選択で置換されたアリール(C1-6)アルキルから独立して選択される。
【0066】
特定の実施形態では、R1はアリールであり、R2はC1-24アルキルであり、ならびにR3はC1-24アルキルである。
【0067】
別の特定の実施形態では、R2はアミノ酸側鎖である。
【0068】
さらに特定の実施形態では、プロドラッグは、以下の化合物のうちの1つから選択される:
【化12】
【0069】
別の実施形態では、本発明は、式IIのプロドラッグを提供する:
【化13】
【0070】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
Xは、SおよびOから選択され、ならびに
R
22は、-O
-、-OH、-O-アルキル、任意選択で置換されたC
1-6アルコキシ、
【化14】
、任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸および任意選択で置換されたN-結合型アミノ酸エステルであり、式中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、n、mおよびpは、上記のように定義される。
【0071】
特定の実施形態では、プロドラッグは、式IIaの化合物である:
【化15】
【0072】
式中、RはC1-4アルキルである。
【0073】
さらに別の特定の実施形態では、プロドラッグは、以下の化合物のうちの1つから選択される:
【化16】
【0074】
さらに別の実施形態では、本発明は、式IIIのプロドラッグを提供する:
【化17】
【0075】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
R1およびR2は、水素、リン酸塩(式Iの一リン酸塩、二リン酸塩、または三リン酸塩、および修飾リン酸塩を含む)、直鎖、分枝型または環状のアルキル、任意選択で置換されたアシル、CO-アルキル、CO-アルコキシアルキル、CO-アリールオキシアルキル、CO-置換アリール、スルホン酸エステル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アラルキルスルホニル、脂質、リン脂質、アミノ酸、炭水化物、ペプチドおよびコレステロールから独立して選択される)。
【0076】
一実施形態では、R
2はアミノ酸であり、すなわち、式IIIの化合物は、3’-アミノ酸エステル、例えば、式IIIaの化合物である:
【化18】
【0077】
式中、Rはアミノ酸の側鎖である。
【0078】
特定の実施形態では、アミノ酸はバリンである(すなわち、RはCH(CH3)2である)。
【0079】
より特定の実施形態では、プロドラッグは、式IIIbの化合物である:
【化19】
【0080】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指す。
【0081】
さらにより特定の実施形態では、プロドラッグは、以下の化合物のうちの1つから選択される:
【化20】
【0082】
さらに別の特定の実施形態では、プロドラッグは、以下の化合物のうちの1つから選択される:
【化21】
【0083】
さらに別の実施形態では、プロドラッグは、式IIIcの化合物である:
【化22】
【0084】
式中、塩基は、任意選択で置換された複素環式塩基、または保護されたアミノ基を有する任意選択で置換された複素環式塩基を指し、
Raは直鎖、分枝鎖または環状のアルキルであり、Rはアミノ酸の側鎖である。
【0085】
特定の実施形態では、Raは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチルから選択され、Rは、CH(CH3)2)である。
【0086】
II.使用方法
本発明は、それを必要とする対象における不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害を治療する方法であって、治療有効量の本明細書に記載の少なくとも1つのプロドラッグを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0087】
一実施形態では、上記のプロドラッグを本方法で利用することができる。
【0088】
プロドラッグは、それ自体で(すなわち、単独で)または医薬組成物の形態で投与することができる。投与用の1または複数のプロドラッグを含む医薬組成物は、治療有効量の該プロドラッグおよび薬学的に許容される担体を含み得る。「薬学的に許容される」という句は、生理学的に許容可能であり、ヒトに投与された場合にアレルギー反応、または急性胃蠕動、めまいなどの同様の有害な反応を通常発生させず、ならびに連邦政府または州政府の規制当局によって承認されるか、または米国薬局方もしくは動物、より具体的にはヒトでの使用のための他の一般的に認められている薬局方に記載されている分子実体および組成物を指す。「担体」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、生理食塩水などの無菌液体、および石油、動物、植物、または合成起源の油を含む油、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油であり得る。医薬組成物を静脈内投与する場合、生理食塩水が好ましい担体である。生理食塩水ならびにデキストロースおよびグリセロールの水溶液も、液体担体として、特に注射用溶液のために使用することができる。適切な医薬品賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。
【0089】
特定の実施形態では、開示された方法は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)枯渇症候群(MDS)を治療するために使用することができる。各有核細胞には数百のミトコンドリアが含まれています。ミトコンドリアは、2本のゲノム制御下にある特有の細胞小器官である。ミトコンドリアには独自のDNAであるmtDNAが含まれているが、mtDNAの複製、転写、修復に必要なすべてのタンパク質を含むミトコンドリアタンパク質のほとんどは、核遺伝子によってコードされている。
【0090】
mtDNAの維持には、mtDNA合成、ミトコンドリアヌクレオチドプールの維持、およびミトコンドリア融合の媒介に不可欠なタンパク質が必要である。mtDNAを合成する酵素は、ミトコンドリア内ヌクレオチドの均衡の取れた供給を必要とする。これらは、ミトコンドリアのヌクレオチドサルベージ経路および特定のトランスポータを介したサイトゾルからのヌクレオチドのインポートを通じて供給される。mtDNA合成で適切に機能するには、これらの酵素の量が適切に均衡が取れている必要がある。mtDNA合成に必要であることが公知のタンパク質は核遺伝子によってコードされている。病原性多様体がこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質のいずれか1つの機能を破壊すると、mtDNA合成が損なわれ、mtDNAの量的欠陥(mtDNA枯渇)またはmtDNAの質的欠陥(複数のmtDNA欠失)が生じる。現在までに、20を超える核遺伝子の病原性多様体がmtDNA維持の欠陥に関連していることが公知である。
【0091】
一実施形態では、mtDNA枯渇症候群は、核DNAベースのmtDNA枯渇症候群である。特定の実施形態では、核DNAは、ヌクレオチド代謝に関与するタンパク質をコードする。遊離ヌクレオチド濃度の不均衡は、mtDNA複製の障害につながり、結果としてmtDNAコピー数の減少につながる。
【0092】
特定の実施形態では、本発明の方法は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)プールの不均衡によって引き起こされる疾患または障害の治療に有用である。dTNPは、動物細胞において核およびミトコンドリアDNAの複製および修復のためにDNAポリメラーゼによって使用される前駆体である。dNTPの濃度は、合成、消費、分解の均衡に依存する。
【0093】
正確なDNA合成には、適切な量の各dNTP、および適切に均衡の取れたdNTPプールが必要である。細胞プールの合計サイズは、S期に各dNTP、10~100pmol/百万細胞の範囲内であり、ミトコンドリアプールは全体の最大10%を占める。静止細胞または分化細胞では、細胞質ゾルおよびミトコンドリアの両方においてプールが約10分の1になる。DNA中の4つの窒素塩基がほぼ等モル量であるとのベースで予想されることに反して、4つのdNTPは異なる比率でプールに存在し、ピリミジンは多くの場合プリンを超える。個々の細胞株は、同じ動物種に由来する場合でも、異なるプール組成を示す場合がある。1つのdNTPの濃度が増加すると、通常、別のdNTPが枯渇する。
【0094】
mtDNA枯渇症候群は、特定の組織または器官、例えば、筋肉、肝臓、脳、および/または消化管に関係している可能性がある。特定の実施形態では、mtDNA枯渇症候群は、ミオパチー症候群または肝脳症候群である。
【0095】
不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする例示的な障害としては、限定するものではないが、TK2欠損症、RRM2Bに関連する欠損症(p53R2、リボヌクレオチドレダクターゼのp53誘導性小サブユニット、RNRをコードする)、およびミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MNGIE)を引き起すTYMP(チミジンホスホリラーゼ、TPをコードする)の突然変異が挙げられる。ミトコンドリアのdNTPプールを破壊する追加の核遺伝子には、限定するものではないが、SUCLA2、SUCLG1およびMPV17が含まれる。dGMPおよびdAMPの欠損を伴うDGUOKの常染色体劣性突然変異による、デオキシグアノシンキナーゼ(dGK)の平行した欠陥は、通常、幼児期に発症する肝脳疾患として現れるmtDNA枯渇を引き起こす(Mandel,et al.2001)。これらの遺伝子に関連する障害もまた、本明細書の方法で治療することができる。
【0096】
特定の実施形態では、障害は、チミジンキナーゼ2(TK2)欠損症である。TK2は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の複製に必要なデオキシリボヌクレオチドの回収に関与するミトコンドリア酵素である。TK2は、デオキシピリミジンサルベージ経路の最初の律速段階を触媒する。常染色体劣性TK2突然変異は、主にミオパチーとして現れる、乳児発症から成人発症までの一連の疾患を引き起こす。
【0097】
他の形態のMDSおよび他の障害の機序が解明されてきたため、治療のための適切なデオキシヌクレオシドを、熟練した開業医が決定することができる。
【0098】
例えば、TK2欠損症の患者には、dCおよび/またはdTのプロドラッグの投与が行われる。別の例では、DGUOK欠損症の患者に対して、dGおよび/またはdAのプロドラッグの投与が行われる。
【0099】
一実施形態では、本方法は、不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害を有する患者を特定することをさらに含む。一実施形態では、その疾患または障害はTK2欠損症である。全身性筋緊張低下、近位筋力低下、以前に習得した運動技能の喪失、摂食不良、呼吸困難を特徴とする進行性筋疾患の最も典型的な症状を含む、TK2欠損症の上記の表現型を示す患者を、疾患の確定診断のために検査することができる。
【0100】
mtDNA枯渇症候群を引き起こすことが公知の遺伝子のパネルを使用した分子遺伝学的検査を実施する必要があり(Chanprasert,et al.2012)、この検査は、不均衡なヌクレオチドプールを特徴とする疾患または障害のある患者の特定にも使用することができる。
【0101】
TK2遺伝子は、その突然変異がTK2関連のミトコンドリアDNA枯渇症候群を引き起こすことが公知の唯一の遺伝子である。この検査は、配列多様体および欠失/重複に関して、TK2のコーディング領域全体およびエクソン/イントロン接合領域の配列分析を含み得る。複合ヘテロ接合型またはホモ接合型の有害突然変異が配列分析で特定された場合、TK2欠損症の診断が確立され、したがって、対象はデオキシヌクレオシド療法の利益を得ると思われる。配列分析で複合ヘテロ接合型またはホモ接合型の2つの有害突然変異が特定されない場合は、欠失/重複分析を検討して、TK2欠損症の診断を決定および/または確立する必要がある。
【0102】
TK2欠損症の診断を決定および/または確立するためのさらなる検査には、血清クレアチンキナーゼ(CK)濃度、筋電図検査、骨格筋の組織病理学、ミトコンドリアDNA(mtDNA)含有量(コピー数)、および骨格筋の電子伝達系(ETC)活性の検査が含まれる。これらの検査で次の1または複数が見つかった場合、TK2欠損症が決定および/または確立される。健康な対照と比較して上昇したCK濃度は、TK2欠損症を示している可能性がある。骨格筋生検を実施し、次に骨格筋のmtDNA含有量分析を実施することができる。骨格筋生検が、繊維サイズの顕著な変動、不定の筋形質の空胞、不定の増加した結合組織、および不規則な赤い繊維、ならびにコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)活性の増加、および低から不在のチトクロームcオキシダーゼ(COX)活性を示し、mtDNAコピー数が大幅に減少(通常、年齢および組織が一致する健康な対照の20%未満)した場合、TK2欠損症の診断を決定および/または確立することができる(Chanprasert,et al.2012)。
【0103】
さらに、TK2欠損症は常染色体劣性で遺伝する。したがって、罹患した患者の兄弟は、出生後できるだけ早く検査して、疾患を診断することができる。
【0104】
投与は、限定するものではないが、髄腔内、非経口(parental)、粘膜および経皮を含む任意の経路を介して行うことができる。
【0105】
一実施形態では、投与は経口である。例示的な経口剤形としては、限定するものではないが、カプセル、錠剤、散剤、顆粒、溶液、シロップ、懸濁液(非水性または水性液体中)、またはエマルジョンが挙げられる。錠剤または硬ゼラチンカプセルは、ラクトース、デンプンまたはそれらの誘導体、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸またはそれらの塩を含み得る。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ワックス、脂肪、半固体または液体ポリオールを含み得る。溶液およびシロップは、水、ポリオールおよび糖を含み得る。本明細書に記載のプロドラッグは、限定するものではないが、牛乳、牛およびヒトの両方の母乳、乳児用調製粉乳および水を含む、患者が摂取するあらゆる形態の液体に添加することができる。プロドラッグは、消化管での崩壊および/または吸収を遅らせる材料でコーティングすること、またはそれらと混合することができる。したがって、徐放は何時間にもわたって達成され得る。
【0106】
別の実施形態では、投与は髄腔内である。髄腔内投与は、脊柱管、より具体的には、脳脊髄液に到達するようにくも膜下腔に薬物を注射することを含む。この方法は、脊椎麻酔、化学療法、および鎮痛剤に一般的に使用されている。髄腔内投与は、腰椎穿刺(ボーラス注入)によって、またはポートカテーテルシステム(ボーラスまたは点滴)によって行うことができる。カテーテルは、最も一般的には腰椎の椎弓板の間に挿入され、先端は、目的のレベルまで髄腔に通される(通常はL3~L4)。髄腔内製剤には、最も一般的には水や生理食塩水が賦形剤として使用されるが、EDTAおよび脂質も同様に使用されている。
【0107】
さらに別の実施形態では、投与は、静脈内投与を含む非経口投与である。非経口投与に適合した医薬組成物には、水性および非水性の注射用無菌溶液または無菌懸濁液が含まれ、これらは、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および組成物を対象の血液と実質的に等張にする溶質を含み得る。そのような組成物中に存在し得る他の成分には、水、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が含まれる。非経口(parental)投与に適合した組成物は、密封されたアンプルおよびバイアルなどの単位用量または複数用量の容器で提示することができ、使用直前に無菌担体の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時注射用の溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。本発明の非経口剤形を提供するために使用することができる適切なビヒクルは、当業者に周知である。例としては、以下が挙げられる:注射用水USP;塩化ナトリウム注射、リンガー注射、デキストロース注射、デキストロースと塩化ナトリウムとの注射、および乳酸リンガー注射などの水性ビヒクル;エチルアルコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどの水混和性ビヒクル;ならびにコーン油、綿実油、落花生油、ごま油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルおよび安息香酸ベンジルなどの非水性ビヒクル。さらに、一部の患者は治療開始時までに経腸栄養を受けている可能性があるため、プロドラッグは胃瘻(gastronomy)栄養チューブまたは他の経腸栄養手段を介して投与することができる。
【0108】
経鼻および肺内の投与に適合した医薬組成物は、粉末などの固体担体を含み得、これは、鼻からの急速な吸入によって投与することができる。経鼻投与用の組成物は、スプレーまたは液滴などの液体担体を含み得る。または、肺への直接吸入は、深く吸入するか、マウスピースを介して導入することによって達成することができる。これらの組成物は、有効成分の水溶液または油溶液を含み得る。吸入用の組成物は、特別に適合された装置、限定するものではないが、加圧エアロゾル、ネブライザーまたは吸入器で供給することができ、これらは有効成分を所定の投与量で提供するように構築することができる。
【0109】
直腸投与に適合した医薬組成物は、坐剤または浣腸として提供され得る。膣内投与に適合した医薬組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として提供され得る。
【0110】
経皮投与に適合した医薬組成物は、長期間にわたってレシピエントの表皮と密接に接触し続けることを意図した個別のパッチとして提供され得る。
【0111】
少なくとも1つのプロドラッグまたはそれを含む組成物の投与量は、約25mg/kg/日~約1,000mg/kg/日であり得る。さらに好ましい用量は、約200mg/kg/日~約800mg/kg日までの範囲である。さらに好ましい用量は、約100mg/kg/日~約600mg/kg/日、例えば、約250mg/kg/日~約500mg/kg/日、約300mg/kg/日~約500mg/kg/日または約400mg/kg/日~約500mg/kg/日の範囲である。
【0112】
一実施形態では、用量は、標準的なヌクレオシド(dT、dC、dG、dA)に対して約20%等モル~約100%等モル、例えば、約20%~約80%、約20%~約50%、約50%~約80%、または約50%~約100%である。特定の実施形態では、用量は、標準的なヌクレオシドに対して約20%等モルである。別の特定の実施形態では、用量は、標準的なヌクレオシドに対して約50%等モルである。さらに別の実施形態では、用量は、標準的なヌクレオシドに対して約100%等モルである。
【0113】
少なくとも1つのプロドラッグまたはそれを含む組成物の投与は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、最大1日6回までで、好ましくは定期的な間隔であり得る。静脈内または髄腔内に投与する場合は、用量を減らしてもよい。そのような投与のための好ましい用量範囲は、約50mg/kg/日~約500mg/kg/日である。
【0114】
組成物が2つ以上のプロドラッグを含む実施形態では、プロドラッグの比率は変動可能である。例えば、2つのプロドラッグが投与される場合、それらは、50/50の比率、または約5/95、10/90、15/85、20/80、25/75、30/70、35/65、40/60、45/55、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10および95/5の比率であり得る。
【0115】
一実施形態では、本方法は、投薬量を増加させる前に、対象の状態の改善について対象を監視することをさらに含む。治療的投与に対する対象の反応は、対象の筋力および制御、ならびに可動性ならびに身長および体重の変化を観察することによって監視することができる。投与後にこれらのパラメータの1または複数が増加した場合、治療を継続することができる。これらのパラメータの1または複数が同じままであるか、または低下している場合は、投薬量を増やすことができる。
【0116】
別の実施形態では、本方法は、投薬量を減らす前に、副作用について対象を監視することをさらに含む。例示的な副作用には、限定するものではないが、下痢、腹部膨満および他の胃腸症状が含まれる。
【0117】
本発明のプロドラッグはまた、他の薬剤と同時投与することができる。そのような薬剤には、特定の形態のMDSの症状を治療するための治療薬が含まれる。特に、TK2欠損症の場合、他の薬剤としては、限定するものではないが、テトラヒドロウリジン(シチジンデアミナーゼの阻害剤)およびイムシリンH(プリンヌクレオシドホスホリラーゼの阻害剤)およびチピラシル(チミジンホスホリラーゼの阻害剤)などの酵素阻害剤を含む、遍在するヌクレオシド異化酵素の阻害剤が挙げられる。そのような阻害剤は公知であり、一部の癌の治療に使用されている。
【実施例】
【0118】
実施例1:TK2欠損症のマウスモデル
本明細書に記載のプロドラッグの有効性を、マウスモデルを介してアクセスした。ヒト乳児脳筋症と著しく類似した表現型を示すホモ接合型Tk2 H126Nノックイン突然変異体(Tk2-/-)マウスが以前に報告されている(Akman,et al.2008)。生後10日~13日の間に、Tk2-/-マウスは、歩行の減少、不安定な歩行、粗大振戦、成長遅延、および14~16日齢での早期死亡への急速な進行を特徴とする致命的な脳筋症を急速に発症する。マウスモデルの分子的および生化学的分析により、疾患の病因が酵素活性の喪失、ならびに脳内のdTTPレベルの低下および肝臓内のdTTPレベルとdCTPレベルとの両方の低下を伴うdNTPプールの不均衡によるものであり、これが、最も顕著には脳と脊髄においてmtDNAの枯渇と、mtDNAによりコードされるサブユニットを含む呼吸鎖酵素の欠陥とを引き起こすことが示された。
【0119】
プロドラッグを、50μlの小型ペット用のEsbilac調製乳(Pet-Ag)中で、毎日の強制経口投与によりTk2 H126Nノックインマウス(Tk2-/-)および年齢の一致する対照(Tk2+)に投与した。3と4との50/50混合物を580mg/kg/日で投与した。5と6との50/50混合物を120mg/kg/日~430mg/kg/日で投与した。
【0120】
すべての治療を生後4日~29日まで投与した。21日齢で、マウスを母親から分離し、経口投与により治療を継続した。突然変異体マウスおよび対照Tk2+マウスの体重を測定し、比較のために綿密に観察した。
【0121】
マウスを追跡し、毎日体重を測定した(体重を増やすことができないことが病気の最初の兆候であることが以前に観察されている)。
【0122】
プロドラッグ混合物は、tk2-/-マウスの生存を標準的なヌクレオシドと同等の様式で延長し、非統計的に有意な体重の改善を示した。
【0123】
実施例2:dGK欠損患者由来の線維芽細胞
プロドラッグを、mtDNAコピー数に対する効果を判定するために、dGK欠損患者由来の線維芽細胞において試験した。dGK欠損線維芽細胞を使用する利点は、静止状態が誘導された後、DNA傷害物質を添加せずに自発的にmtDNAが枯渇することである。細胞培養培地にdGuo(50μM)を補充することで、この枯渇を防ぐのに十分であることが以前に実証されている。細胞を、集密になるまで増殖させた。静止状態を、培地中のFBSを0.1%に減らすことによって誘発した。3日後(0日目)、本発明者らは、50μMのdGuo(デオキシグアノシン)または本発明のプロドラッグを細胞培養培地に補充した。細胞を、新鮮な培地を定期的に添加して、18日まで同じ条件で維持した。mtDNAのコピー数を、実験全体を通してさまざまな時点(4、9および18日目)で評価した。結果は、2連の実験の平均+SDとして表し、並行して培養した3つの未処理の健康な対照について得られた平均値に対するmtDNA/nDNA比としてプロットした。
【0124】
等モル濃度のdGuoおよび利用可能な他のdGプロドラッグ(50μM)を、同様の条件下で並行して試験した。結果は、50μMの7と8の50/50混合物がmtDNAの枯渇を防ぐことを示した。