(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】風防を備えた浮体式風車設備
(51)【国際特許分類】
F03D 13/25 20160101AFI20250117BHJP
F03D 3/06 20060101ALI20250117BHJP
F03D 7/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
F03D13/25
F03D3/06 G
F03D7/04 G
(21)【出願番号】P 2020166853
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】318001968
【氏名又は名称】株式会社OKYA
(72)【発明者】
【氏名】菅野優
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0032268(KR,A)
【文献】特開2003-172245(JP,A)
【文献】特開2016-148320(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1034924(KR,B1)
【文献】特開2008-115781(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02264754(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0329841(US,A1)
【文献】国際公開第2020/021256(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 3/06
F03D 7/04
F03D 13/25
F03D 80/00
B63B 35/00
B63B 35/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車の回転軸が水平で、かつ風向と交差する位置関係にあり、その回転軸まわりには少なくともひとつのブレードが具備される浮体式風車設備であって、
浮体構造物と風車の間に風防が具備されており、浮体式風車設備が所定の角度より傾斜した時に風防により風車に受ける風量を低減できることを特徴とする浮体式風車設備。
【請求項2】
請求項1に記載の風車設備であって、ブレードの回転軸側面に所定の範囲で自由開閉可能なフタを有し、風車の回転速度が小さいときはフタが開き、回転速度が大きいときにはフタが閉じて、ブレードの受風面積を変えて風車の起動性と高いエネルギー効率を得る風車設備。
【請求項3】
請求項2に記載の風車設備であって、風車ブレードの側面は側壁を有しブレードのフタが開いている状態ではブレードの受風部は袋状に閉じていることを特徴とする風車設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式洋上風車設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電設備は、陸上の面積の制約を受けず、陸上より風況がよい環境で稼働できることから開発が広がってきている。
【0003】
浮体式洋上風力発電設備は、比較的水深が浅い海域では着床式で設置されることが一般的であり、水深が深い海域では浮体式の適用が検討される。
【0004】
洋上は陸上より風況が良いのは風の遮蔽物がないためであるが、台風通過時など強風から受けるエネルギーも陸上と比べて大きくなる。そのため、風車構造物や海底基礎、係留器具の要求強度は高くなる。
【0005】
一般的な風力発電に用いられるプロペラ型風車では、受風体である風車ブレードは強風時は所定の風速を超えると破損防止のため回転を停止することが一般的であり、カットアウトと称される。
【0006】
拡縮可能な受風体を、同受風体を両側から支持する向き合う梁が各々の回転軸との接合部において鋭角であって、支持梁が回転軸に対して鉛直下側では平行となり、上側では受風体を広げ、下側では受風体をたたむことができる風力回転装置の技術が記載されており、水上浮体構造物上に設置する例示がされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
浮体式風車設備において、強風下で風車部の損壊を低減できる風車設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
風車は回転軸を水平、かつ風向と交差する構成とし、例えば直線翼垂直軸風車を横に倒した形とする。
【0010】
風車の回転方向は、回転軸の上側ではブレードは風上から風下へ、下側ではブレードは風下から風上へ向かう形で用いる。
【0011】
浮体構造物と風車の間に風防を設置する。風防は浮体式風車設備が正規直立した状態では全く風を遮らないか、あるいは風車の回転軸より下半分の風を遮る程度であり、風下側に十分に傾斜した状態で風防効果を発揮する位置と形状に設置する。
【発明の効果】
【0012】
風防が風の流路を変えるため、風車が直接受風する風量が減少し風車設備の損壊が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態であって、風車設備が直立している状態の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態であって、風車設備が風上方向に傾斜している状態の側面図である。
【
図3】本発明の実施形態であって、風車設備が風下方向に傾斜している状態の側面図である。
【
図4】本発明の実施形態であって、風が著しく強く風車設備が風下方向に大きく傾斜している状態の側面図である。
【
図5】本発明の実施形態であって、風車設備が風下方向に傾斜している状態の斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態であって、風防の下縁部の体積を大きくした風車設備が風下方向に傾斜している状態の側面図である。
【
図7】本発明の実施形態であって、風防が風車ポストの所定の範囲で上下にスライドできる風車設備が風下方向に傾斜している状態の側面図である。
【
図8】本発明の風車部分が風上側、または風下側に傾斜した際の斜視図である。
【
図9】本発明の実施の形態であって、風車ブレードの回転軸側面にあるフタが開いている状態の斜視図である。
【
図10】本発明の実施の形態であって、風車ブレードの回転軸側面にあるフタが閉じている状態の斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態であって、各々のブレードにフタが付いており、回転軸の上部にあるブレードのフタがストッパーまで開いている状態の側面図である。
【
図12】本発明の実施形態であって、各々のブレードにフタが付いており、全てのブレードのフタが閉じている状態の側面図である。
【
図13】本発明の実施形態であって、各々のブレードにフタが付いており、回転軸の上部にあるブレードのフタがストッパーまで開いている状態の斜視図である。
【
図14】本発明の実施形態であって、風車ブレードの側面に側壁があり、回転軸側面にあるフタが開いている状態の斜視図である。
【
図15】本発明の実施形態であって、各々のブレードの側面の側壁と、回転軸側に開閉可能なフタが付いており、回転軸の上部にあるブレードのフタがストッパーまで開いている状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
【0015】
本発明の風車設備に適用される風車は、風車の回転軸が水平で風向と交差する位置関係で使用される。風車のシャフト3の周囲にアーム2を介してひとつ、または複数のブレード3が等間隔に敷設される。ブレードの前縁部はブレードが回転軸の上部にあるとき風下を向くようにする。風車はポスト5で浮体6上に支持されている。風車は風11を受けて回転し、風車と連結した発電機4を動かし電気を発生させる。発生した電気は浮体内に具備される蓄電池に蓄えられる。
【0016】
浮体は水面12上にあり、係留索8を通じてアンカー9が海底13上に設置されることで浮体式風車設備が洋上に固定されている。
【0017】
風防7はポストを介して浮体と風車との間に取り付けられる。風防は風車の回転空間に干渉しない。風車設備を通過する風の流れ、つまり気流14を示す。風車設備が直立した状態において風防は少なくとも風車の回転軸より上側にあたる風は遮蔽しない。風車の回転軸より下部の風は遮蔽してもよい。
【0018】
図2は本発明の実施例で、風車設備が風上側に傾斜している状態である。風防は風車が受ける風に影響を与えない。
【0019】
図3は本発明の実施例の風車設備が風下側に傾斜している状態である。風防は風車が受ける風の下方の一部を遮蔽する。しかし、風車は上部に受ける風で回転を続けることができる。
【0020】
図4は本発明の実施例の風車が風下に大きく傾斜している状態を示す。
【0021】
定常の稼働状態においては風車設備は
図2~
図3~
図4の状態の間で動揺を繰り返しながら風車は風を受けて回転する。風が強くなるにつれて動揺の振れ幅の中心は風下側に傾斜していくこととなる。
【0022】
本発明の風防は便宜上、風上側の縁を上縁部、風下側の縁を下縁部と称する。
【0023】
風が十分に強くなると風車設備はさらに風下側に傾斜し、所定の角度より傾斜すると連続して
図4の状態となる。気流は風防により風車を迂回するため風車は受ける風量が低減するか、風を受けなくなり風車は回転力を失う。強風下で風車が過回転により破損することを回避することができる。風車設備の所定の角度とは、風車の回転径と、風車の回転軸の浮体からの高さ、風防の高さ、風防の形状、風速と気流のコースによって定まり一様ではない。
【0024】
風が弱くなり風車設備が立ち上がると、再び風車に風が当たるため回転し始める。
【0025】
図5は本発明の実施形態の、風車設備が風下方向に大きく傾斜している状態の斜視図である。
【0026】
風防は、少なくとも風車の全幅に渡る長さがあることが望ましい。
【0027】
風防の受風面は、風車設備が直立した状態では下面であるが、風車設備が風下側に傾斜した際に気流の抵抗を小さくするよう凸状に曲面とする。風防の上縁部、下縁部は、受風面で迂回した気流が風車に回り込まず風防から剥離し後方へ流れるよう、鋭角もしくはそれに準ずる曲面形状で折り返す。風防の風車面側は凹状の曲面が望ましいがその限りではない。
【0028】
風防は風速が著しく大きい場合に機能すればよく、風速が著しく大きい場合は風車設備は常に風下側にのみ傾斜する。したがって、風防は単純に風防効果を果たし、かつ風防の着水による損壊を防ぐためには風防は風下側を短くできる。
【0029】
図6は本発明の実施形態の、風防の下縁部の体積を大きくした状態の側面図を示す。
【0030】
風防の下縁部の体積を大きくした浮力を利用して、風車設備が傾斜する角度を制約することができる。
【0031】
図7は本発明の、風防が風車ポストの所定の範囲内で上下にスライドできる状態を示す側面図である。
【0032】
風防は風車ポストに沿って所定の範囲で自由にスライドできるようにしてもよい。適正な風速域の場合は風防7’は重力により風車ポストの可動範囲内の最下限にある。風速が著しく大きく風車設備は常に風下側にのみ傾斜すると風防は風圧により風車ポストに沿って可動範囲内の上部に移動する。風防が不要な際は風防と風車の距離を空け、風防が必要な際は、風防が風車寄りに移動し風を防ぐことができる。
【0033】
図8は、本発明の風車部分が風上側、風下側に傾斜した際の斜視図である。
【0034】
風車の回転軸が水平で、かつ風向と交差する構造は、風車回転軸と風向との角度関係は風車設備が風や波による外乱で風上側21、または風下側23に傾斜しても正規状態22と変わらず、風車の掃過面積も変わらない。
【0035】
風車のブレードの種類には、ブレードに受ける風に押されて回る抗力型と、風でブレードに発生する揚力を利用して回る揚力型とがある。抗力型風車は、低回転速度時の起動性に優れるものの、高速回転に不向きでありエネルギー効率が低い。揚力型風車は高速回転が可能で高いエネルギー効率が得られるものの、静止状態、または低速回転時の起動性に乏しい。
【0036】
本発明による風車のブレードを断面形状が流線形であることを基本とする揚力型風車とし、ブレードの回転軸側面に、風上側の所定の位置を起点に風下側が所定の範囲で自由開閉可能なフタを設置することで、風車が静止、または低速回転時にはブレードの受風面積を広くし起動性を向上させる。
【0037】
図9は、ブレードのフタが開いた状態を、
図10はブレードのフタが閉じた状態を示す斜視図である。
【0038】
図11、
図13は、風車の回転軸より高い位置にあるブレードのフタが開いた状態を、
図12はブレードのフタが閉じた状態を示す図である。
【0039】
ブレード1は曲面を有する前縁部が進行方向に回転する。ブレードが回転軸より高い位置にある状態で、風車が静止または低回転速度のときに、ブレードのフタ32aはフタ開閉支軸31を支点に重力により開く。フタの開く範囲は、例えばアーム2に設置されたストッパー33までとすることで、フタが受風面となる。ブレードの受風面積が大きくなるため、回転の起動に必要なトルクが得やすくなる。風車の回転速度が大きくなると、フタ32bは風車の遠心力、および風車が回転する進行風により閉じる。ブレードは回転による空気抵抗が少なくなるため高速回転し高いエネルギー効率を得られる。
【0040】
図14、15はブレード側面に側壁を設け、回転軸より上部にあるブレードのフタが開いている状態を示す図である。
【0041】
風車回転軸の上側にあるブレードはフタ32aが開いた状態で受風面積が増える。この時、側壁34により受風部は袋状となり、受けた風がフタの側面をすり抜けなくなる。弱い風でも効率よく回転エネルギーを取り出すことができる。フタが閉じた場合は、側壁は風の抵抗がほぼなく回転効率に影響しない。
【0042】
ブレード側面の側壁は固定型でもよく、またフタの開閉と連動して動く折り畳み式やシート状の柔らかい素材であってもよい。
【0043】
一般的な揚力型ブレードを有する風車設備は弱い風のときは起動性に乏しく、強風のときはブレードが破損する危険性が伴うのに対し、本発明の風車設備は上記の通り、弱い風のときの起動性があり、強風のときにはブレードを保護することができるという特徴を併せ持つ。
【0044】
以上の実施形態では係留型の風車設備として示してあるが、船舶への積載は可能であり、風車回転軸と平行な方向に進行する帆船への利用は側舷の風を利用できるため最適である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の風防付き浮体式風車設備は、浮体式洋上風力発電設備において、浮体が動揺しても風車の回転軸と風向との交差関係が変わらない浮体式風車設備に利用されていく可能性がある。
【符号の説明】
【0046】
1 ブレード
2 アーム
3 シャフト
4 発電機
5 ポスト
6 浮体
7 風防
7-1 上縁部
7-2 下縁部
7’ スライド範囲下限にある風防
8 係留索
9 アンカー
11 風
12 水面
13 海底
14 気流
21 風向に対し前傾した本発明設備の風車部
22 風向に対し基準位置の本発明設備の風車部
23 風向に対し後傾した本発明設備の風車部
31 ブレードフタの開閉支軸
32a ブレードフタの開状態
32b ブレードフタの閉状態
33 ストッパー
34 側壁