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<図1>
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図1
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図2
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図3
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図4A
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図4B
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図4C
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図4D
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図5
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図6A
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図6B
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図7
  • 特許-抗SIRPα抗体およびその適用 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】抗SIRPα抗体およびその適用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20250117BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250117BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250117BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20250117BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250117BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250117BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250117BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250117BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250117BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/15
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023558929
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 CN2021136763
(87)【国際公開番号】W WO2022121980
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】202011464010.2
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523220581
【氏名又は名称】浙江博鋭生物製薬有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】523220592
【氏名又は名称】杭州博之鋭生物製薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】Bioray Pharmaceutiacal (Hangzhou) Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】呉振華
(72)【発明者】
【氏名】聶磊
(72)【発明者】
【氏名】梅小芬
(72)【発明者】
【氏名】王海彬
(72)【発明者】
【氏名】陳娟
(72)【発明者】
【氏名】李娜
(72)【発明者】
【氏名】王暁澤
(72)【発明者】
【氏名】周雅▲クィオン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳瑶
(72)【発明者】
【氏名】▲ジァン▼美珠
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190719(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2020/0297842(US,A1)
【文献】特表2017-510251(JP,A)
【文献】特表2019-520034(JP,A)
【文献】特表2019-534845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのCDR、VH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3を含む重鎖可変領域と、3つのCDR、VL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含む軽鎖可変領域とを含み、
前記VH CDR1のアミノ酸配列が配列番号33に記載されており;
前記VH CDR2のアミノ酸配列が配列番号34に記載されており;
前記VH CDR3のアミノ酸配列が配列番号35に記載されており;
前記VL CDR1のアミノ酸配列が配列番号38に記載されており;
前記VL CDR2のアミノ酸配列が配列番号39に記載されており;および、
前記VL CDR3のアミノ酸配列が配列番号40に記載されている、抗SIRPα抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号31に記載されているか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有しており;前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号36に記載されているか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有している、請求項1に記載の抗SIRPα抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
重鎖定常領域、軽鎖定常領域およびFc領域のうちの1つ以上をさらに含み;好ましくは、前記軽鎖定常領域がλ鎖またはκ鎖定常領域であり;より好ましくは、前記抗体またはその抗原結合断片がIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4タイプのものであり;さらにより好ましくは、前記抗体またはその抗原結合断片がキメラ抗体もしくはヒト化抗体またはそれらの抗原結合断片である、請求項1または2に記載の抗SIRPα抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子であって;好ましくは、前記核酸分子が前記抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をそれぞれコードするヌクレオチド配列を含み;より好ましくは、前記重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列が配列番号32に記載されているか、もしくはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し;および前記軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列が配列番号37に記載されるか、もしくはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、核酸分子。
【請求項5】
生体材料であって、前記生体材料が以下である生体材料:
(1)請求項に記載の核酸分子を含むベクター、宿主細胞もしくは微生物;または、
(2)請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗体結合断片を含む、上記(1)の発現産物、懸濁液または上清。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む組成物であって;好ましくは、前記組成物が、薬学的に許容可能な担体をさらに含む医薬組成物である、組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片の調製方法であって、請求項に記載の宿主細胞を培養して、前記抗体または前記抗原結合断片を発現させる工程と、前記抗体または前記抗原結合断片を単離する工程とを含む、調製方法。
【請求項8】
腫瘍を治療するための薬剤の調製における、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項に記載の核酸分子、請求項に記載の生体材料または請求項に記載の組成物の使用であって;好ましくは、前記腫瘍はCD47陽性腫瘍であり;より好ましくは、前記腫瘍が白血病、リンパ腫、膀胱癌、乳癌、頭頸部癌、胃癌、黒色腫、膵臓癌、結腸直腸癌、食道癌、肝臓癌、腎臓癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、甲状腺癌、神経膠腫および他の固形腫瘍などの血液学的腫瘍または固形腫瘍である、使用。
【請求項9】
SIRPαのCD47への結合を遮断する製剤の調製における、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項に記載の核酸分子、請求項に記載の生体材料、または請求項に記載の組成物の使用。
【請求項10】
腫瘍を治療するための薬剤の調製における、1つ以上の追加の癌治療剤と組み合わせた、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項に記載の核酸分子、請求項に記載の生体材料、または請求項に記載の組成物の使用であって;好ましくは、前記腫瘍はCD47陽性腫瘍であり;好ましくは、前記追加の癌治療剤としては化学療法剤、放射線治療剤、および生体高分子薬物が挙げられるが、これらに限定されず;より好ましくは、前記生体高分子薬物が抗CD20抗体、セツキシマブ、またはトラスツズマブなどの腫瘍細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体薬物であり;より好ましくは、前記抗CD20抗体がズベリタマブまたはリツキシマブである、使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は生物学の分野に属し、抗SIRPα抗体に関する。
【0002】
〔背景〕
SIRPαはマクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球などの骨髄細胞の表面に発現する膜貫通タンパク質であり、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)のメンバーである。SIRPαは、N末端細胞外領域、膜貫通領域およびC末端細胞内領域から構成される。細胞外領域は3つのIgSFドメイン(N末端はIg-Vドメインである)を含み、細胞内領域は免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)を含む。SIRPαの主要なリガンドはCD47であり、これは、正常組織および病変において広く発現される膜貫通糖蛋白のグループである。マクロファージなどの骨髄細胞上のSIRPαへのCD47の結合は、SIRPα細胞内領域におけるITIMのリン酸化をもたらし、このことは次に、ホスファターゼSHP-1およびSHP-2を動員および活性化し、それによって、下流のシグナル伝達を介してマクロファージの食作用を阻害する。正常組織はCD47を発現し、CD47-SIRPαシグナル伝達を誘導することによって、自己防御機構として「私を食べるな」というシグナルを放出する。
【0003】
CD47は、ほとんど全ての腫瘍細胞上で過剰発現されることが見出されている。腫瘍細胞は、SIRPαへのCD47の結合を介して「私を食べるな」というシグナルを送ることによって、免疫細胞の監視から逃れる。臨床的には、CD47発現レベルが患者の予後不良と密接に関連している。インビトロおよびインビボの研究はまた、CD47/SIRPαを遮断することが、動物モデルにおいて腫瘍細胞の食作用を促進し、腫瘍増殖を阻害し得ることを実証した。上記のことは、標的化CD47/SIRPαが腫瘍免疫療法を開発するための新しいアプローチとして使用され得ることを示す。CD47が正常な細胞または組織、特に赤血球および血小板上で広く発現されることを考慮すると、CD47を標的とすることは、血液学的毒性を引き起こし得る。さらに、SIRPαに加えて、CD47はまた、TSP-1およびインテグリンと相互作用し得る。CD47は様々なシグナル伝達経路に関与し、CD47を標的とすることは、多くの安全性の懸念につながり得る。したがって、CD47/SIRPαシグナル伝達経路を遮断するための抗SIRPα抗体の開発は、癌治療のためのより有効な戦略であり得る。
【0004】
〔概要〕
本発明はSIRPαに特異的に結合することができ、腫瘍治療の大きな可能性を有する新規な抗SIRPα抗体を提供することを目的とする。
【0005】
第1の態様において、本発明は、SIRPαもしくはその断片に結合する抗SIRPα抗体、またはその抗原結合断片を提供する。前記抗体またはその抗原結合断片は、3つのCDR、VH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3を含む重鎖可変領域、ならびに3つのCDR、VL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含む軽鎖可変領域を含み、
前記VH CDR1が配列番号3、13、23または33に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記VH CDR2が配列番号4、14、24または34に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記VH CDR3が配列番号5、15、25または35に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記VL CDR1が配列番号8、18、28または38に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記VL CDR2が配列番号9、19、29または39に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記VL CDR3は、配列番号10、20、30または40に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0006】
好ましい実施形態では、前記抗体がVH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3、ならびにVL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含み、
前記VH CDR1のアミノ酸配列が配列番号3に記載されており;
前記VH CDR2のアミノ酸配列が配列番号4に記載されており;
前記VH CDR3のアミノ酸配列が配列番号5に記載されており;
前記VL CDR1のアミノ酸配列が配列番号8に記載されており;
前記VL CDR2のアミノ酸配列が配列番号9に記載されており;および、
前記VL CDR3のアミノ酸配列が配列番号10に記載されている。
【0007】
好ましい実施形態では、前記抗体がVH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3、ならびにVL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含み、
前記VH CDR1のアミノ酸配列が配列番号13に記載されており;
前記VH CDR2のアミノ酸配列が配列番号14に記載されており;
前記VH CDR3のアミノ酸配列が配列番号15に記載されており;
前記VL CDR1のアミノ酸配列が配列番号18に記載されており;
前記VL CDR2のアミノ酸配列が配列番号19に記載されており;および、
前記VL CDR3のアミノ酸配列が配列番号20に記載されている。
【0008】
好ましい実施形態では、前記抗体がVH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3、ならびにVL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含み、
前記VH CDR1のアミノ酸配列が配列番号23に記載されており;
前記VH CDR2のアミノ酸配列が配列番号24に記載されており;
前記VH CDR3のアミノ酸配列が配列番号25に記載されており;
前記VL CDR1のアミノ酸配列が配列番号28に記載されており;
前記VL CDR2のアミノ酸配列が配列番号29に記載されており;および、
前記VL CDR3のアミノ酸配列が配列番号30に記載されている。
【0009】
好ましい実施形態では、前記抗体がVH CDR1、VH CDR2およびVH CDR3、ならびにVL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3を含み、
前記VH CDR1のアミノ酸配列が配列番号33に記載されており;
前記VH CDR2のアミノ酸配列が配列番号34に記載されており;
前記VH CDR3のアミノ酸配列が配列番号35に記載されており;
前記VL CDR1のアミノ酸配列が配列番号38に記載されており;
前記VL CDR2のアミノ酸配列が配列番号39に記載されており;および、
前記VL CDR3のアミノ酸配列が配列番号40に記載されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号1、11、21、もしくは31に記載されているか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有している。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号6、16、26もしくは36に記載されているか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有している。
【0012】
特定の好ましい実施形態では、重鎖可変領域における3つのCDRおよび/または軽鎖可変領域における3つのCDRは、KabatまたはChothiaナンバリングシステムに従って定義される。
【0013】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片は、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、およびFc領域のうちの1つ以上をさらに含み得る。さらに好ましい実施形態では、軽鎖定常領域は、λ鎖またはκ鎖定常領域である。いくつかの好ましい実施形態では、抗体またはその抗原結合断片がIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4タイプのものである。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片がキメラ抗体もしくはヒト化抗体、またはそれらの抗原結合断片である。
【0015】
第2の態様では、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片をコードするヌクレオチドを含む核酸分子が提供される。いくつかの実施形態では、核酸分子は、抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする。
【0016】
好ましい実施形態では、核酸分子は重鎖可変領域をコードし、対応するヌクレオチド配列が配列番号2、12、22もしくは32に記載されているか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する。他の好ましい実施形態では、核酸分子は軽鎖可変領域をコードし、対応するヌクレオチド配列が配列番号7、17、27、もしくは37に記載されるか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0017】
第3の態様では、本発明は、以下である生体材料を提供する:
(1)本明細書に開示される核酸分子を含むベクター、宿主細胞、微生物など;または、
(2)上記(1)の発現産物、懸濁液、上清など。
【0018】
当業者は抗体のアミノ酸配列に従って、抗体のコード配列を含むベクター、宿主細胞または微生物を容易に選択および調製することができ、対応する発現産物、懸濁液、上清などを得るために、そのような宿主細胞または微生物をどのように培養するかを知ることができ、対応する抗体を得ることができる。これらは全て、当該技術分野における従来技術である。
【0019】
第4の態様では、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片を含む組成物が提供され、好ましくは前記組成物が薬学的に許容可能な担体をさらに含む医薬組成物である。
【0020】
第5の態様では、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片の調製方法であって、上記宿主細胞を培養して、抗体または抗原結合断片を発現させる工程と、前記抗体または抗原結合断片を単離する工程とを含む調製方法が提供される。
【0021】
第6の態様では、腫瘍を治療するための薬剤の調製における、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料、または組成物の使用が提供され;好ましくは、腫瘍はCD47陽性腫瘍であり;より好ましくは、腫瘍が白血病、リンパ腫、膀胱癌、乳癌、頭頸部癌、胃癌、黒色腫、膵臓癌、結腸直腸癌、食道癌、肝臓癌、腎臓癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、甲状腺癌、神経膠腫、および他の固形腫瘍などの血液学的腫瘍または固形腫瘍である。
【0022】
第7の態様では、SIRPαのCD47への結合を遮断する製剤の調製における、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料または組成物の使用が提供される。
【0023】
第8の態様では、腫瘍を治療するための薬剤の調製における、1つ以上の追加の癌治療剤と組み合わせた、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料、または組成物の使用が提供され;好ましくは、腫瘍はCD47陽性腫瘍である。
【0024】
いくつかの好ましい実施形態では、追加の癌治療剤としては化学療法剤、放射線治療剤、および生体高分子薬物が挙げられるが、これらに限定されない。さらに好ましくは、生体高分子薬物が抗CD20抗体(例えば、ズベリタマブまたはリツキシマブ)、セツキシマブおよびトラスツズマブを含む、腫瘍細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体薬物である。
【0025】
第9の態様では、腫瘍を治療するための方法が提供され、腫瘍はCD47陽性腫瘍であり;好ましくは、腫瘍が、白血病、リンパ腫、膀胱癌、乳癌、頭頸部癌、胃癌、黒色腫、膵臓癌、結腸直腸癌、食道癌、肝臓癌、腎臓癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、甲状腺癌、神経膠腫および他の固形腫瘍などの血液学的腫瘍または固形腫瘍であり;前記方法は、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料または組成物を必要とする個体に投与する工程を含む。
【0026】
第10の態様では、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料または組成物を使用する工程を含む、CD47へのSIRPαの結合を遮断するための方法が提供される。
【0027】
第11の態様では、併用療法で腫瘍を治療するための方法が提供され、ここで、腫瘍はCD47陽性腫瘍であり;この方法は、本明細書に開示される抗体もしくはその抗原結合断片、核酸分子、生体材料または組成物、および1つ以上の追加の癌治療剤を必要とする個体に投与する工程を含み;好ましくは、追加の癌治療剤が化学療法剤、放射線治療剤、および生体高分子薬物を含むが、これらに限定されず;より好ましくは生体高分子薬物が抗CD20抗体(例えば、ズベリタマブまたはリツキシマブ)、セツキシマブおよびトラスツズマブを含む、腫瘍細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体薬物である。
【0028】
本明細書に開示される抗SIRPα抗体またはその抗原結合断片はSIRPαのCD47への結合を効果的に遮断することができ、それによって腫瘍細胞へのマクロファージの食作用を効果的に促進し、腫瘍の成長を効果的に阻害し、良好な薬学的見通しを有する遮断抗体である。
【0029】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、SIRPαのCD47への結合に対するマウスモノクローナル抗体の遮断効果を示す。
【0030】
図2は、SIRPαへのヒト化モノクローナル抗体の結合を示す。
【0031】
図3は、SIRPαのCD47への結合に対するヒト化モノクローナル抗体の遮断効果を示す。
【0032】
図4Aは、CD47へのSIRPα(V1)の結合に対する#14抗体およびKWAR23の遮断効果を示す。
【0033】
図4Bは、CD47へのSIRPα(V1)の結合に対する#14抗体、18D5および1H9の遮断効果を示す。
【0034】
図4Cは、CD47へのSIRPα(V2)の結合に対する#14抗体、KWAR23、18D5および1H9の遮断効果を示す。
【0035】
図4Dは、CD47へのSIRPα(V8)の結合に対する#14抗体、KWAR23、18D5および1H9の遮断効果を示す。
【0036】
図5は、組換えSIRPαタンパク質に対する#14抗体およびKWAR23の結合動態を示す。
【0037】
図6Aは、#14抗体による抗CD20抗体誘導食作用の促進を示し;図6Bは、#14抗体による抗HER2抗体誘導食作用の促進を示す。
【0038】
図7は、MC38腫瘍モデルにおける#14抗体の抗腫瘍有効性を示す。
【0039】
図8は、#14抗体および抗CD20抗体が腫瘍増殖を相乗的に阻害できることを示す。
【0040】
〔詳細な説明〕
本発明は、以下の具体的な実施例を参照して説明されるであろう。以下の手順で使用される試薬および器具は特に明記しない限り、当技術分野で従来のものであり、市販されている;使用される方法は当技術分野では全て従来のものであり、当業者は本方法を確実に実施し、実施例の説明に従って、対応する結果を得ることができる。
【0041】
定義:
本発明において、用語「抗体」は抗原を特異的に認識して結合することができる免疫グロブリンであり、様々な抗体構造を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体または抗体断片、合成抗体、組換えにより産生された抗体、ヒト抗体、非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)、ヒト化抗体、キメラ抗体、ならびに細胞内抗体および抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。抗体断片としては例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、Fd断片、Fd’断片、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖Fab(scFab)、または上記抗体のいずれかの抗原結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で提供される抗体は任意のクラス(例えば、IgG、IgM、IgD、IgE、IgA、またはIgY)、任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、lgG3、IgG4、IgA1、またはIgA2)またはタイプ(例えば、IgG2aまたはIgG2b)の免疫グロブリンのメンバーを含む。好ましい態様において、本明細書に開示される抗体は、マウス抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である。
【0042】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗体断片」または「抗原結合断片」は全長未満であるが、抗原に結合する抗体の可変領域の少なくとも一部(例えば、抗体の1つ以上のCDRおよび/または1つ以上の結合部位)を含み、したがって、結合特異性ならびに全長抗体の特異的結合能力の少なくとも一部を保持する、全長抗体の任意の部分を指す。したがって、抗原結合断片は、抗体断片が由来する抗体と同じ抗原に結合する抗原結合部分を含む抗体断片を指す。抗体断片は全長抗体の酵素処理によって産生された抗体誘導体、ならびに合成された誘導体、例えば、組換えによって産生された誘導体を含む。抗体は抗体断片を含む。抗体断片の例としては、これらに限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖Fv(scFv)、Fv、dsFv、ダイアボディ、FdおよびFd’断片、ならびに修飾断片を含む他の断片が挙げられる(例えば、Methods in Molecular Biology, Vol 207: Recombinant Antibodies for Cancer Therapy Methods and Protocols (2003); Chapter 1; p 3-25, Kipriyanov)。断片は例えば、ジスルフィド結合および/またはペプチドリンカーによって互いに連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は一般に、少なくともまたは約50個のアミノ酸、典型的には少なくともまたは約200個のアミノ酸を含む。抗原結合断片は(例えば、対応する領域を置換することによって)抗体フレームワークに挿入されると、抗原に免疫特異的に結合する抗体を生じる任意の抗体断片を含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、「従来の抗体」は2つの重鎖(HおよびH’と命名され得る)、2つの軽鎖(LおよびL’と命名され得る)および2つの抗原結合部位を含む抗体を指し、ここで、各重鎖は抗原結合能力を保持する全長免疫グロブリン重鎖またはその任意の機能領域(例えば、重鎖はVH鎖、VH-CH1鎖およびVH-CH1-CH2-CH3鎖を含むが、これらに限定されない)であり得、各軽鎖は全長軽鎖またはその任意の機能領域(例えば、軽鎖はVL鎖およびVL-CL鎖を含むが、これらに限定されない)であり得る。各重鎖(HまたはH’)は、1つの軽鎖(それぞれLまたはL’)と対になっている。
【0044】
本明細書で使用される場合、全長抗体は2つの全長重鎖(例えば、VH-CH1-CH2-CH3)および2つの全長軽鎖(VL-CL)、ならびにヒンジ領域を有する抗体、例えば、抗体分泌B細胞によって天然に産生される抗体、および同じドメインを有する合成的に産生される抗体である。
【0045】
本明細書で使用される場合、dsFvは、VH-VLペアを安定化する改変された分子間ジスルフィド結合を有するFvを指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、Fab断片は、全長免疫グロブリンをパパインで消化することによって得られる抗体断片、または例えば組換え法によって、合成的に産生された同じ構造の断片である。Fab断片は、L鎖(VLおよびCLを含む)と、重鎖の可変ドメイン(VH)および重鎖の1つの定常ドメイン(CH1)を含む別の鎖とを含む。
【0047】
本明細書で使用される場合、F(ab’)2断片は、pH4.0~4.5にてペプシンで免疫グロブリンを消化することによって得られる抗体断片、または例えば組換え法によって、合成的に産生される同じ構造の断片である。F(ab’)2断片は実質的に2つのFab断片を含み、ここで、各重鎖部分は、2つの断片を連結するジスルフィド結合を形成するシステインを含む、いくつかの追加のアミノ酸を含む。
【0048】
本明細書で使用される場合、Fab’断片は、F(ab’)2断片の半分(1つの重鎖および1つのL鎖)を含む断片である。
【0049】
本明細書で使用される場合、ScFv断片は、ポリペプチドリンカーによって任意の順序で共有結合された軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)を含む抗体断片を指す。
【0050】
「可変領域」という用語は、抗原エピトープを認識し、それに特異的に結合する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指し、これは、異なる抗体間で変化するアミノ酸配列を含む。各軽鎖または各重鎖は、それぞれ可変領域ドメインVLまたはVHを有する。可変ドメインは抗原特異性を提供し、したがって、抗原認識に関与する。各可変領域はCDRおよびフレームワーク領域(FR)を含み、CDRは、抗原結合部位ドメインの一部である。
【0051】
CDR領域または「相補性決定領域」は配列が超可変であり、構造的に定義されたループを形成し、かつ/または抗原接触アミノ酸残基を含む、抗体可変領域中の領域を指す。CDRは抗原エピトープへの抗体の結合に主に関与し、抗体の特異性を決定する。重鎖可変領域または軽鎖可変領域の所与のアミノ酸配列において、CDRの特定のアミノ酸配列は例えば、Kabat、Contact、AbMおよびChothiaを含む多くの周知のナンバリングスキームのいずれか1つまたは組み合わせを用いて決定される。本発明の抗体のCDRは、当技術分野の任意のスキームまたはその組み合わせに従って決定することができる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」、「相補性決定領域」および「CDR」は互換的に使用することができ、抗体の抗原結合部位を共に形成する各可変領域内の複数の部分のうちの1つを指す。各可変領域ドメインは、CDR1、CDR2およびCDR3と称される3つのCDRを含む。例えば、軽鎖可変領域ドメインはVL CDR1、VL CDR2およびVL CDR3と称される3つのCDRを含み;重鎖可変領域ドメインはH CDR1(またはVH CDR1)、H CDR2(またはVH CDR2)およびH CDR3(またはVH CDR3)と称される3つのCDRを含む。可変領域中の3つのCDRは直鎖状アミノ酸配列に沿って連続していないが、折り畳まれたポリペプチド中に近接している。CDRは、可変ドメインのβシートを接続する平行鎖のループ内に位置する。本明細書に記載されるように、CDRは当業者に公知であり、当業者によるKabatまたはChotniaナンバリングに基づいて同定することができる(例えば、Kabat, E.A. et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, AIH Publication No. 91-3242, およびChothia, C. et al. (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917)。
【0053】
本明細書において、フレームワーク領域(FR)はβシート内に位置する抗体の可変領域ドメイン内のドメインであり、FR領域は、アミノ酸配列に関して超可変領域と比較してより保存されている。
【0054】
本明細書で使用される場合、「定常領域」ドメインは抗体の重鎖または軽鎖中のドメインであり、可変領域ドメインのアミノ酸配列と比較してより保存されているアミノ酸配列を含む。従来の全長抗体分子において、各軽鎖は単一の軽鎖定常領域(CL)ドメインを有し、各重鎖は、CH1、CH2、CH3およびCH4を含む1つ以上の重鎖定常領域(CH)ドメインを含む。抗体定常領域は例えば、様々な細胞、生体分子、および組織と相互作用することによって、抗体が特異的に結合する抗原、病原体、および毒素を排除するなどのエフェクター機能を果たすことができるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で使用される場合、VHドメインの機能領域は(例えば、インタクトなVHドメインの1つ以上のCDRを保持することによって)インタクトなVHドメインの結合特異性の少なくとも一部を保持するインタクトなVHドメインの少なくとも一部であり、VHドメインの機能領域は単独で、または別の抗体ドメイン(例えば、VLドメイン)もしくはその領域との組み合わせで抗原に結合する。VHドメインの例示的な機能領域は、VHドメインのCDR1、CDR2および/またはCDR3を含む領域である。
【0056】
本明細書で使用される場合、VLドメインの機能領域は(例えば、インタクトなVLドメインの1つ以上のCDRを保持することによって)インタクトなVLドメインの結合特異性の少なくとも一部を保持するインタクトなVLドメインの少なくとも一部であり、VLドメインの機能領域は単独で、または別の抗体ドメイン(例えば、VHドメイン)もしくはその領域との組み合わせで抗原に結合する。VLドメインの例示的な機能領域は、VLドメインのCDR1、CDR2および/またはCDR3を含む領域である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」という用語は、典型的にはホスホジエステル結合によって共に連結されるデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を含む、少なくとも2つの連結されたヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体を含むオリゴマーまたはポリマーを指す。
【0058】
本明細書中で使用される場合、単離された核酸分子は、核酸分子の天然源中に存在する他の核酸分子から単離された核酸分子である。cDNA分子などの「単離された」核酸分子は、組換え技術によって調製される場合、他の細胞材料または培養培地を実質的に含まなくてもよく、または化学的に合成される場合、化学前駆体または他の化学成分を実質的に含まなくてもよい。本明細書において提供される例示的な単離された核酸分子は、本明細書において提供される抗体または抗原結合断片をコードする単離された核酸分子を含む。
【0059】
配列「同一性」は当技術分野で周知の意味を有し、2つの核酸分子、ペプチド分子、または領域の間の配列同一性のパーセンテージは、当技術分野で開示される技術を使用して計算することができる。配列同一性は、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの全長に沿って、または分子の領域に沿って測定することができる。(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987;およびSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991参照)。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドの間の同一性を測定するための多くの方法があるが、用語「同一性」は当業者に周知である(Carrillo, H. & Lipman, D., SIAM J Applied Math 48:1073 (1988))。
【0060】
本明細書で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドの転写および翻訳によってポリペプチドを産生するプロセスを指す。ポリペプチドの発現レベルは例えば、宿主細胞において産生されるポリペプチドの量を決定するための方法を含む、当技術分野において公知の任意の方法を用いて評価することができる。そのような方法としてはELISA、ゲル電気泳動後のクマシーブルー染色、ローリータンパク質アッセイおよびブラッドフォードタンパク質アッセイによる細胞溶解物中のポリペプチドの定量が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」はベクターを受容し、維持し、複製し、増幅するために使用される細胞である。宿主細胞はまた、ベクターによってコードされるポリペプチドを発現するために使用され得る。宿主細胞が分裂すると、ベクター中の核酸が複製し、したがって増幅される。宿主細胞は、真核細胞または原核細胞であり得る。適切な宿主細胞としてはCHO細胞、HeLa細胞およびHEK 293細胞などのHEK細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書で使用される場合、「ベクター」は、ベクターが適切な宿主細胞に形質転換される場合に、1つ以上の異種タンパク質が発現され得る複製可能な核酸である。ベクターには、典型的には制限酵素消化およびライゲーションによって、ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸が導入され得るものが含まれる。ベクターはまた、ポリペプチドをコードする核酸を含むものを含む。ベクターは核酸を増幅するために、または核酸によってコードされるポリペプチドを発現/提示するために、ポリペプチドをコードする核酸を宿主細胞に導入するために使用される。ベクターは通常、遊離状態にあるが、遺伝子またはその一部をゲノムの染色体に組み込むように設計することができる。酵母人工ベクターおよび哺乳動物人工染色体などの人工染色体ベクターも考えられる。そのような輸送手段の選択および使用は、当業者に周知である。
【0063】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」は、そのようなDNA断片の発現に影響を及ぼすことができる、プロモーター領域などの調節配列に作動可能に連結されたDNAを発現することができるベクターを含む。そのような追加の断片はプロモーターおよびターミネーター配列を含み得、任意に、1つ以上の複製起点、1つ以上の選択マーカー、エンハンサー、ポリアデニル化シグナルなどを含み得る。発現ベクターは一般に、プラスミドもしくはウイルスDNAに由来するか、またはそれらの要素を含み得る。したがって、発現ベクターは組換えDNAまたはRNA構築物、例えば、プラスミド、ファージ、組換えウイルス、または適切な宿主細胞に導入されるとクローニングされたDNAの発現を引き起こす他のベクターを指す。適切な発現ベクターは当業者に周知であり、真核細胞および/または原核細胞において複製可能な発現ベクター、ならびに遊離状態を維持する発現ベクターまたは宿主細胞のゲノムに組み込まれる発現ベクターを含む。
【0064】
本明細書で使用される場合、疾患または状態を有する個体を「治療する」とは、その個体の症状が治療後に部分的または完全に軽減されるか、または変化しないままであることを意味する。したがって、治療は、予防、治療および/または治癒を含む。予防は、基礎疾患の予防および/または症状の悪化もしくは疾患進行の予防を指す。治療はまた、任意の抗体またはその抗原結合断片ならびに本明細書に提供される組成物の任意の薬学的使用を含む。
【0065】
本明細書で使用される場合、「有効性」は、疾患もしくは状態の症状を変化させる、典型的には良くする、もしくは改善する、または疾患もしくは状態を治癒する、個々の治療から生じる効果を意味する。
【0066】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」または「治療有効用量」は、対象に投与された後に治療効果を生じるのに少なくとも十分な、物質、化合物、材料、または化合物を含む組成物の量を指す。したがって、当該量は、疾患または状態の症状を予防、治癒、改善、抑止、または部分的に抑止するのに必要な量である。また、本明細書で使用される場合、「予防有効量」または「予防有効用量」は対象に投与された場合に、所望の予防効果、例えば、疾患もしくは状態の発生もしくは再発を予防もしくは遅延させるか、または疾患もしくは状態の発生もしくは再発の可能性を低減する効果を有し得る、物質、化合物、材料または化合物を含む組成物の量を指す。完全予防有効用量は必ずしも1回の用量の投与によって達成されるわけではないが、一連の用量の投与後に達成され得る。したがって、予防有効量は、1回以上の用量を通して投与され得る。
【0067】
本明細書で使用される場合、「個体」という用語は、ヒトなどの哺乳動物を指す。
【0068】
〔本明細書に開示される抗SIRPα抗体〕
本発明は、ヒトSIRPαタンパク質に対して高い親和性を有する抗SIRPα抗体を提供する。抗体はSIRPαのそのリガンドCD47への結合を効果的に阻害し、それによってCD47/SIRPαへの下流のシグナル伝達を遮断し、マクロファージによる腫瘍細胞の食作用を促進し、さらに腫瘍細胞の排除を実現することができる。細胞表面上のSIRPαタンパク質に結合する場合、本明細書に記載される抗SIRPα抗体はエンドサイトーシスを引き起こし得、細胞表面上のSIRPαタンパク質の発現の低減をもたらし、それによって、CD47/SIRPαシグナル伝達をさらに低減させる。
【0069】
本明細書に開示される抗SIRPα抗体またはその抗原結合断片は、置換、挿入または欠失を含む。本明細書に開示される抗SIRPα抗体は軽鎖可変領域、重鎖可変領域、軽鎖または重鎖に対する修飾を含み、その修飾されたアミノ酸配列は、抗体が由来するアミノ酸配列とは異なる。例えば、同じ所与のタンパク質に由来するアミノ酸配列は初期配列と類似していてもよく、例えば、特定のパーセントの同一性を有していてもよい。例えば、前記アミノ酸配列は、初期配列に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「同一性」は、2つのペプチドまたは2つの核酸分子の配列がアラインされる場合、2つの比較される配列における同一の塩基(またはアミノ酸)のパーセントを指す。そのようなアライメントおよび相同性パーセントまたは配列同一性は、Ausubel et al., eds., (2007), Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているものなどの当技術分野で公知のソフトウェアプログラムを用いて決定することができる。好ましくは、アライメントがデフォルトパラメータを使用して実行される。1つのアライメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用するBLASTである。特に、プログラムはBLASTNまたはBLASTPである。
【0071】
特定の実施形態では、1つ以上であり得るアミノ酸修飾を、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入し、それによってFcバリアントを生成することができる。Fcバリアントは、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸修飾を含むヒトFc領域配列を含み得る。
【0072】
本発明における適切な「抗体およびその抗原結合断片」にはポリクローナル、モノクローナル、一価、二重特異性、多重特異性、組換え、異種、キメラ、ヒト化もしくは脱免疫原性抗体、またはFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、一本鎖抗体、ナノボディ、および前述の任意のエピトープ結合断片が含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であり得る。抗SIRPα抗体は、別の抗体または抗体断片に連結されて、二次またはそれ以上の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性の抗体を産生し得る。
【0074】
特定の実施形態では、抗体は、機能的成分を付加するためにさらに修飾され得る。抗体誘導体化のための適切な部分としてはPEG、デキストラン、タンパク質、脂質、治療剤および毒素が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、リン酸化、アセチル化、グリコシル化、ペグ化、アミド化、他のタンパク質へのライゲーションなどによって修飾され得る。
【0075】
〔腫瘍治療および抗体の使用〕
本明細書で提供される抗SIRPα抗体およびその抗原結合断片およびそれを含む医薬組成物は、癌を診断、予後診断、治療または阻害するために使用することができる。本発明は、本明細書に開示される抗SIRPα抗体またはその断片を、必要とする対象に投与することによって、対象における癌を治療するための方法に関する。本明細書に記載される治療化合物には本明細書に開示される抗体(本明細書に開示されるバリアントおよび誘導体を含む)および本明細書に開示される抗体をコードする核酸またはポリヌクレオチド(本明細書に開示されるバリアントおよび誘導体を含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明は本明細書に開示される抗SIRPα抗体と、化学療法剤、放射線治療剤および生体高分子薬物を含むが、これらに限定されない少なくとも1つの追加の治療剤との併用を含む併用療法をさらに提供する。一実施形態では、生体高分子薬物が抗CD20抗体(例えば、ズベリタマブまたはリツキシマブ)、セツキシマブおよびトラスツズマブを含む、腫瘍細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体薬物である。
【0077】
本明細書に開示される抗体(および任意のさらなる治療剤)は限定されないが、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内および筋肉内注射を含む、任意の適切な手段を通して投与され得る。抗体およびそのバリアントまたは組成物は任意の好都合な経路によって、例えば、ボーラス注射もしくは注入、または上皮もしくは皮膚粘膜を介する吸収によって投与され得る。
【0078】
〔本明細書に例示される抗SIRPα抗体配列〕
【表1】

【表2】

【表3】






【表4】
【0079】
〔実施例1:マウス抗SIRPαモノクローナル抗体の調製〕
本実施例は、ハイブリドーマ技術を用いたマウス抗ヒトSIRPαモノクローナル抗体の調製について記載する。SIRPαタンパク質(Uniprot:P78324)の細胞外領域を免疫原として発現させた。ヒトIgG1 Fcタグを、SIRPαタンパク質細胞外領域のアミノ酸配列(Glu31-Arg370)のC末端に融合させた。次いで、この遺伝子をベクターV152(Huabioから入手)へとクローニングして、ベクターV152-SIRPα ECD-Fcを作製した。このベクターを、293細胞(入手元:ATCC)へと一過性にトランスフェクトした。5日後、細胞培養上清を回収し、プロテインA(製造元:Solarbio、カタログ番号I8090)で精製した。マウス抗ヒトSIRPαモノクローナル抗体を調製するために、4週齢のBAL B/cマウス(Huabio社製)に対して、100μgのSIRPαタンパク質により免疫化した。最初の免疫化から14日目および28日目に、免疫化したマウスを50μgのSIRPαタンパク質で再び免疫化した。免疫化したマウスの血清力価を、ELISAにより測定した。96ウェルプレートを、PBS(製造元:ZSGB-BIO、カタログ番号ZLI-9062)に希釈したSIRPα(1μg/mL)により、4℃で一晩コーティングした。プレートを1%BSA-PBSブロッキング溶液により、37℃で1時間ブロッキングし、PBSTで洗浄した。免疫化したマウスからの血清希釈物をプレートに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、HRP標識ヤギ抗マウスIgG(製造元:Abcam、カタログ番号Ab205719、1:10000希釈)を添加した。37℃で0.5時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、TMB溶液(製造元:InnoReagents、カタログ番号TMB-S-00)を加えた。室温、暗所にて5分間インキュベートした後、2NのHSOを加えて反応を停止させた。450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより読み取った。十分な力価の抗SIRPα抗体を有するマウスを、42日目に追加投与として50μgのSIRPαタンパク質により免疫化した。3~5日後、マウスを屠殺した。脾臓細胞を回収し、遠心分離によってIMDM基礎培地(製造元:BasalMedia、カタログ番号L610KJ)で2~3回洗浄し、次いで、1:1の比率でマウス骨髄腫細胞SP2/0(Huabioにから入手)と混合した。混合した細胞にPEG(製造元:Roche、カタログ番号25771700)を加え、穏やかに攪拌し、37℃で30秒、混合物を静置した。融合細胞を、15%ウシ胎仔血清(製造元:Tianhang Biotechnology、カタログ番号11011-8611)および1×HAT(製造元:Sigma、カタログ番号H262-1VL)を含むIMEM選択培地中で希釈し、200μL/ウェルを96ウェル細胞培養板に添加し、5%COインキュベーター中にて、37℃でインキュベートした。10~14日後、ハイブリドーマ細胞の上清中の抗SIRPα抗体をELISAによって検出した。11種の異なるハイブリドーマクローン、10F11-5-6、1B6-1-1、27A11-1-8、14B11-5-4、31D4-4-5、7C2-3-8、30C1-6-4、4A3-5-1、6H1-8-6、9A12-5および10F4-15を同定し、さらなる分析を行った。
【0080】
〔実施例2:SIRPαに対するマウス抗体の結合〕
SIRPαタンパク質に対するマウス抗体の結合能をELISAによって検出した。具体的な方法は、実施例1に記載の通りである。マウス抗体を1μg/mLのPBSで3倍に連続希釈し、合計で7つの濃度勾配を調製した。結果は表5のとおりであった。
【0081】
【表5】

【0082】
SIRPαを内因的に発現するヒト骨髄性白血病単球(Cell Bank of Chinese Academy of Sciencesから入手したTHP-1)上の膜SIRPαへのマウスモノクローナル抗体の結合を、フローサイトメトリー(FACS)によって分析した。種々の濃度(1μg/mLから3倍連続希釈、合計で7つの濃度勾配)のマウスモノクローナル抗体とTHP-1細胞を4℃で30分間共インキュベートした。FITC標識ヤギ抗マウスIgG(製造元:Jackson、カタログ番号115-095-003、1:1000希釈)を添加する前に細胞を2回洗浄し、次いで暗所にて4℃で30分間インキュベートした。2回洗浄した後、細胞をフローサイトメーターBD C6により検出した。結果は表6のとおりであった。
【0083】
【表6】
【0084】
〔実施例3:SIRPαのCD47への結合に対する、マウス抗SIRPα抗体の遮断効果〕
実施例2の結果によれば、SIRPαに対するマウスモノクローナル抗体の結合能と、THP-1細胞に対する結合能とを組み合わせると、mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14が最良の活性を有する分子である。したがって、mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14を、これらのマウスmAbがSIRPαのCD47への結合を遮断できるかどうかを決定するために選択した。96ウェルプレートをCD47-Fc(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号CD7-H5256)により、4℃で一晩コーティングした。プレートを洗浄し、1%BSA-PBSTブロッキング溶液でブロッキングした。37℃で1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、異なる濃度の抗体(66.7nMから3倍希釈、合計で7つの濃度勾配)およびビオチン標識SIRPα(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号CDA-H82F2)をプレートに添加した。37℃で1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン(製造元:Abcam、カタログ番号:ab7403)を加えた。37℃で0.5時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、TMB溶液を加えた。室温の暗所にて0.5時間インキュベートした後、2NのHSOを加えて反応を停止させた。450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより、読み取った。対照としてIgG(製造元:GenScript)を使用した。結果は、図1に示されるように、これらのマウス抗体が全て、様々な程度でSIRPαのCD47に対する結合を阻害することができることが実証された。
【0085】
〔実施例4:マウス抗体のヒト化〕
実施例2および実施例3の結果に基づいて、mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14をヒト化のために選択した。これらの抗体の重鎖および軽鎖可変領域を、ヒトIgG遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較して、最適なヒト生殖系列Ig遺伝子配列一致を同定した。具体的にはmAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14について選択されたヒト生殖系列IgG重鎖は、それぞれIGHV1-69-201、IGHV2-2601、IGHV7-4-101およびIGHV4-3102であり、mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14について選択されたヒト生殖系列IgGL鎖はそれぞれIGKV4-101、IGKV1-901、IGKV4-101およびIGKV4-101であった。mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14の重鎖CDRをヒト生殖系列IgG重鎖のフレームワーク領域に移植し、mAb#4、mAb#11、mAb#13およびmAb#14の軽鎖CDRをヒト生殖系列IgGL鎖フレームワーク領域に移植した。新しいヒト化分子を、それぞれ#4、#11、#13および#14と命名した。構築されたヒト化抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域およびCDR領域の配列を表3に示す。#14抗体の重鎖および軽鎖配列を表4に示す。#4、#11および#13抗体の重鎖および軽鎖定常領域は、#14抗体の重鎖および軽鎖定常領域と一致する。#4、#11、および#13抗体の重鎖および軽鎖の完全なアミノ酸配列は、上記で開示した情報に基づいて当業者に公知である。
【0086】
本明細書に開示される抗体は、293個の細胞(ATCCから入手)において発現され、精製された。抗体重鎖およびL鎖のコード配列を、V152ベクター(Huabioから入手)にクローニングした。抗体重鎖およびL鎖のコード配列を有するV152ベクターを、トランスフェクション試薬PEI(製造元:Polyscience、カタログ番号23966-2)を用いて293細胞に移した。プラスミドDNAおよびトランスフェクション試薬をバイオセーフティキャビネット中で調製した。プラスミドDNAとPEI(質量比=0.15:1.75)を均一に混合し、10分間放置した。混合物を293個の細胞に穏やかに添加し、穏やかに混合した。細胞を37℃、5%COにて5日間培養した後、細胞培養上清を3000rpmで10分間遠心分離した。上清をタンパク質A(製造元:Solarbio、カタログ番号I8090)により精製して、95%を超える抗体純度を得た。
【0087】
〔実施例5:SIRPαタンパク質へのヒト化抗体の結合〕
SIRPαタンパク質に対するヒト化抗体の結合をELISAによって検出した。96ウェルプレートを、PBS中、SIRPα(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号SIA-H5225)(1μg/mL)にて、4℃で一晩コーティングした。次いで、プレートを1%BSA-PBSブロッキング溶液により、37℃で1時間ブロッキングした。プレートをPBSTで洗浄した。ヒト化抗体を異なる濃度に希釈し(66.7nMから3倍連続希釈し、全体で11の濃度勾配)、プレートに添加した。37℃で1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、HRP標識ヤギ抗ヒトIgG(製造元:Abcam、カタログ番号Ab98595、1:10000希釈)を添加した。37℃で0.5時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、TMB溶液を加えた。室温の暗所にて5分間インキュベートした後、2NのHSOを加えて反応を停止させた。450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより読み取った。結果を図2に示す。#4、#11、#13および#14抗体のSIRPαに対する結合についてのEC50はそれぞれ1.833nM、0.4642nM、0.9517nMおよび0.6831nMであり、これらのヒト化分子は全てSIRPαへの高結合活性を有することが示された。
【0088】
〔実施例6:SIRPαのCD47への結合に対するヒト化抗SIRPα抗体の遮断効果〕
CD47へのSIRPαの結合に対するヒト化抗SIRPα抗体である、#4、#11、#13および#14のブロッキング効果を、実施例3に記載のように試験した。抗体を66.7nMから3倍連続希釈し、合計で11の濃度勾配を調製した。結果を図3に示します。#4、#11、#13および#14のIC50値は、それぞれ6.03nM、0.2086nM、1.5nMおよび0.1315nMであった。これは、これらのヒト化抗体の全てが、SIRPαのCD47に対する結合を効果的に遮断することができ、#11および#14抗体が他の2つのヒト化抗体よりも強い遮断効果を有したことを示す。
【0089】
KWAR23、18D5および1H9を対照として使用した。KWAR23はUS2018037652(配列番号1および配列番号2)に開示される配列に従って調製され、18D5はUS20190127477(配列番号24および配列番号31)に開示される配列に従って調製され、1H9はUS20190119396(配列番号7および配列番号8)に開示される配列に従って調製された。ヒトSIRPαタンパク質は細胞外領域において高度に多形型であり、共通の遺伝子型はV1、V2およびV8を含む。そのため、共通のSIRPα遺伝子型の、CD47への結合に対する#14抗体および上記対照抗体の遮断効果をさらに比較した(他の実施例では、特定の遺伝子型を有さないSIRPαタンパク質はすべてV1遺伝子型である)。
【0090】
CD47へのSIRPα(V1)の結合に対する、異なる抗体のブロッキング効果を、実施例3に記載するように試験した。抗体を83.4nMから2倍連続希釈し、合計で9つの濃度勾配を調製した。結果を図4Aに示す。#14抗体のIC50は3.404nMであり、KWAR23のIC50は13.54nMであり、#14抗体は、KWAR23よりもCD47へのSIRPα(V1)の結合に対するより強い遮断作用を有することが示された。図4Bにおいて、#14抗体、18D5および1H9のIC50はそれぞれ4.4nM、4.1nMおよび4.2nMであり、SIRPα(V1)のCD47への結合に対する#14抗体、18D5および1H9の遮断活性が類似していることを示している。
【0091】
使用したビオチン標識SIRPαをSIRPα(V2)(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号SI2-H82W8)とした実施例3に記載の方法により、CD47へのSIRPα(V2)の結合に対する異なる抗体のブロッキング効果を決定した。抗体を200nMから3倍連続希釈し、合計で9つの濃度勾配を調製した。結果を図4Cに示す。#14抗体、KWAR23および1H9はSIRPα(V2)のCD47への結合を遮断することができるが、18D5はSIRPα(V2)のCD47への結合を遮断することができない。#14抗体のブロッキング活動は、1H9のブロッキング活動よりも強い。#14抗体のIC50値は7.8nMであり、KWAR23のIC50値は6.4nMであり、#14抗体およびKWAR23がSIRPα(V2)に対して同様の遮断活性を有することが示された。
【0092】
使用したビオチン標識SIRPαをSIRPα(V8)(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号SI8-H82W6)とした実施例3に記載の方法により、CD47へのSIRPα(V8)の結合に対する異なる抗体のブロッキング効果を決定した。抗体を200nMから3倍連続希釈し、合計で9つの濃度勾配を調製した。結果を図4Dに示す。#14抗体、KWAR23および1H9はSIRPα(V8)のCD47への結合を遮断することができるが、18D5はSIRPα(V8)のCD47への結合を遮断することができない。#14抗体のブロッキング活動は、1H9のブロッキング活動よりも強い。#14抗体のIC50値は11.5nMであり、KWAR23のIC50値は10.8nMであり、#14抗体およびKWAR23がSIRPα(V8)に対して同様の遮断活性を有することが示された。
【0093】
上記の結果によれば、#14抗体は共通のSIRPα遺伝子型(V1、V2およびV8)のCD47への結合を遮断することができ、SIRPα(V1)に対して、KWAR23よりも強い遮断活性を有し、SIRPα(V2)およびSIRPα(V8)に対して、18D5および1H9よりも強い遮断活性を有する。
【0094】
〔実施例7:SIRPαに対する抗体の結合動態〕
抗体-抗原結合動態を、H1S1Kバイオセンサー(製造元:ForteBio)を備えたOctet Red96システム(製造元:ForteBio)を用いて決定した。バイオセンサを直接用いて抗原を捕捉し、その直後に検体試料(抗体)に浸漬した。実験は、以下の5つの手順から構成されている:1.ベースライン(100秒)、2.ローディング(抗原SIRPαの捕捉)(500秒)、3.ベースライン(100秒)、4.会合(抗体への結合)(500秒)、5.解離(抗体解離)(1000秒)。試験終了後、再生緩衝液(グリシン、pH1.5)と中和緩衝液(PBS)とに交互に5秒間浸漬することによりセンサーを再生し、合計5サイクルを実施してセンサーを再生した。この実験における操作バッファはPBSであった。
【0095】
試料処理:抗原SIRPαタンパク質(製造元:Acrobiosystems、カタログ番号SIA-H5225)を、操作バッファを用いて2.5μg/mLの作業濃度に希釈し、分析対象物試料(#14抗体およびKWAR23)を、5つの作業濃度:1μg/mL、0.5μg/mL、0.25μg/mL、0.125μg/mLおよび0.0625μg/mLに連続希釈した。データ分析のために、Octet Data Analysis(バージョン7.0または最新)を用いて応答信号値(ブランク分析対象物サンプル信号によって差し引かれた結合分析対象物サンプル信号)を計算し、1:1関連モデルを用いて、データをフィッティングした。
【0096】
結合動態のフィッティングダイアグラムを図5に示し、会合、解離および平衡定数を表7に示す。#14抗体は、陽性対照の抗体であるKWAR23に匹敵する非常に高い親和性を有することが分かる。
【0097】
【表7】
【0098】
〔実施例8:本明細書に開示される抗SIRPα抗体のマクロファージによる腫瘍細胞の食作用に対する促進効果〕
PBMC細胞(製造元:Allcells、カタログ番号PB004F-C)を、1640基本培地(製造元:Gibco、カタログ番号22400-089)中にて、37℃、5%COで2~3時間培養した。非接着細胞をピペットで除去し、誘導培地(80ng/mLのM-CSF)を誘導のために添加した。十分なサイトカインを含む新鮮な培地を3日ごとに取り換えた。細胞を7日間培養し、マクロファージを得た。Raji細胞(Cell Bank of Chinese Academy of Sciencesから入手)を、CFSE試薬(製造元:Abcam、カタログ番号AB113853)の指示に従って蛍光標識した。標識Raji標的細胞と上記分化マクロファージを3:1の比率で均一に混合し、抗CD20抗体(ズベリタマブ、CAS RN: 2251143-19-6,WHO Drug Information,Vol.33,No.4,2019,914-915;濃度:0.05μg/mL、0.5μg/mL;製造元:BioRay)、抗CD20抗体(濃度:0.05μg/mL、0.5μg/mL)と#14抗体(濃度:10μg/mL)の組み合わせ、または抗CD20抗体(濃度:0.05μg/mL、0.5μg/mL)とKWAR23抗体(濃度:10μg)を加えた。細胞を37℃、5%COで4時間培養した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、抗CD14-APC(製造元:BD Biosciences、カタログ番号555399)を加えた。暗所にて、4℃、30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、フローサイトメトリーによって分析した。食作用率(ADCP)は、以下の式に従って計算した:食作用率(%)=(APC+CFSE)陽性細胞の比率/APC陽性細胞の比率×100%。図6Aは、#14抗体が抗CD20抗体によって誘導されるRaji細胞の食作用を増強することができることを示す。
【0099】
#14抗体および抗Her2抗体の組み合わせの、Her2を過剰発現するSK-BR-3細胞のマクロファージ食作用に対する促進効果も調べた。上記の方法に従い、標識SK-BR-3細胞(Cell Bank of Chinese Academy of Sciencesから入手)と分化マクロファージとを2:1の比率で均等に混合し、抗Her2抗体(濃度:0.5μg/mL;製造元:BioRay)または抗Her2抗体(濃度:0.5μg/mL)と#14抗体(濃度:10μg/mL)との組み合わせを添加した。細胞を37℃および5%COで2時間培養した。食作用速度を分析し、フローサイトメトリーにより計算した。図6Bは、#14抗体が抗Her2抗体によって誘導されるSK-BR-3細胞の食作用を増強し得ることを示す。
【0100】
〔実施例9:本明細書に開示される抗SIRPα抗体は、細胞表面上のSIRPαのエンドサイトーシスを誘導する〕
THP-1 細胞(Cell Bank of Chinese Academy of Sciencesから入手)を、10μg/mL抗体と4℃で30分間共インキュベートした。細胞を2回洗浄し、2つに分けた。一方を37℃で4時間インキュベートし、もう一方を対照として4℃でさらにインキュベートした。細胞を2回洗浄し、FITC標識ヤギ抗ヒトIgG(製造元:Abcam、カタログ番号ab97224)を添加した。暗所にて4℃、30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、次いでフローサイトメトリーによって分析した。エンドサイトーシス速度は、37℃対4℃での細胞表面蛍光の低下から計算した。エンドサイトーシス速度は、以下の式によって計算した:エンドサイトーシス速度(%)=(4℃における蛍光強度MFI-37℃における蛍光強度MFI)/4℃における蛍光強度MFI×100%。
【0101】
表8において、#14抗体のエンドサイトーシス速度が52.9%であったのに対し、KWAR23のエンドサイトーシス速度は34.7%であることより、#14抗体が細胞表面SIRPαの発現レベルを低下させるのにより有効であることが示されている。
【0102】
【表8】
【0103】
〔実施例10:本明細書に開示される抗SIRPα抗体によって誘導される腫瘍増殖阻害〕
#14抗体の抗腫瘍有効性を、hCD47-MC38マウス結腸癌モデルにおいて評価した。hCD47-MC38細胞(上海モデル生物から入手)を、hSIRPα/hCD47二重ヒト化C57BL/6マウス(上海モデル生物から入手)に接種した。腫瘍体積が約150mmに達した段階で、#14抗体(200μg/マウス)を1週間に2回腹腔内注射によりマウスに投与し、対照群には同量のPBSを投与した。結果を図7に示す。#14抗体は、対照群と比較して、腫瘍増殖を連続的に阻害することができる。
【0104】
リンパ腫モデルにおける#14抗体と抗CD20抗体(ズベリタマブ、BioRayより入手)との組み合わせの抗腫瘍有効性も評価した。Raji-Luc細胞(Biocytogenから入手)を、尾静脈を介してB-NDG-hSIRPαマウス(Biocytogenから入手)に接種した。平均腫瘍イメージング信号強度が約1×10p/秒に達した段階で、マウスに、IgG対照(Biocytogenから入手、200μg/マウス)、#14抗体単独(200μg/マウス)、抗CD20抗体単独(2μg/マウス)または#14抗体(200μg/マウス)+抗CD20抗体(2μg/マウス)を指定用量投与した。図8に示すように、#14抗体および抗CD20抗体は、相乗的な抗腫瘍効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1図1は、SIRPαのCD47への結合に対するマウスモノクローナル抗体の遮断効果を示す。
図2図2は、SIRPαへのヒト化モノクローナル抗体の結合を示す。
図3図3は、SIRPαのCD47への結合に対するヒト化モノクローナル抗体の遮断効果を示す。
図4A図4Aは、CD47へのSIRPα(V1)の結合に対する#14抗体およびKWAR23の遮断効果を示す。
図4B図4Bは、CD47へのSIRPα(V1)の結合に対する#14抗体、18D5および1H9の遮断効果を示す。
図4C図4Cは、CD47へのSIRPα(V2)の結合に対する#14抗体、KWAR23、18D5および1H9の遮断効果を示す。
図4D図4Dは、CD47へのSIRPα(V8)の結合に対する#14抗体、KWAR23、18D5および1H9の遮断効果を示す。
図5図5は、組換えSIRPαタンパク質に対する#14抗体およびKWAR23の結合動態を示す。
図6A図6Aは、#14抗体による抗CD20抗体誘導食作用の促進を示す。
図6B図6Bは、#14抗体による抗HER2抗体誘導食作用の促進を示す。
図7図7は、MC38腫瘍モデルにおける#14抗体の抗腫瘍有効性を示す。
図8図8は、#14抗体および抗CD20抗体が腫瘍増殖を相乗的に阻害できることを示す。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7
図8
【配列表】
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