(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】洗浄部材及び洗浄用スポンジ
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20250117BHJP
A47L 13/16 20060101ALI20250117BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20250117BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20250117BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20250117BHJP
D06M 101/34 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
D06M15/263
A47L13/16 A
B32B5/24 101
D03D1/00 Z
D06M101:32
D06M101:34
(21)【出願番号】P 2020156763
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000163774
【氏名又は名称】金井重要工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391007758
【氏名又は名称】キクロン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-236100(JP,A)
【文献】特開平05-084214(JP,A)
【文献】中国実用新案第207954869(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第1751641(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
A47L 13/00 - 13/62
D03D 1/00 - 27/18
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる無撚糸を含む織物生地と、
前記織物生地の少なくとも一部または全部にアクリル系共重合体を主成分とするエマルション型樹脂組成物から形成された乾燥皮膜を備え、
前記エマルション型樹脂組成物が、ガラス転移温度の異なるアクリル系共重合体を2種含むことを特徴とする、洗浄部材。
【請求項2】
前記織物生地が経糸と緯糸により組成されたと平織であり、
前記経糸が、ナイロンからなるモノフィラメント糸であり、
前記緯糸が、ナイロンからなるマルチフィラメントの無撚糸である第1の緯糸と、ポリエステルからなるマルチフィラメントの無撚糸である第2の緯糸からなり、
前記経糸に前記第1の緯糸と前記第2の緯糸とが交互に織られた、請求項1に記載の洗浄部材。
【請求項3】
前記エマルション型樹脂組成物の混合割合が、ガラス転移温度が高い方のエマルション型樹脂組成物が40~60重量%で、ガラス転移温度が低い方のエマルション型樹脂組成物が60~40重量%である、請求項1又は請求項2に記載の洗浄部材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載の洗浄部材の一方の主面にポリウレタン発泡体が接着されていることを特徴とする、洗浄用スポンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄部材及び洗浄用スポンジに関し、特に高い洗浄性能と耐久性を備え、洗浄対象物に繊維片が付着しない洗浄部材及び洗浄用スポンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食器の洗浄や浴槽の洗浄用スポンジとして、合成繊維よりなる不織布に、弾性のある樹脂系接着剤を固着させた洗浄用スポンジや、樹脂系接着剤中に研摩粒子を含有させたものを固着させた洗浄用スポンジが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭54-32553号公報
【文献】特開2005-206675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の洗浄用スポンジでは、被洗浄物と接触する不織布等の繊維構造体の強度が弱く、使用してすぐに表面の一部に剥離が生じ表面状態が荒れてしまう。そのため、従来の洗浄用スポンジでは、不織布から繊維片が離脱しやすく、被洗浄物に不織布から離脱した繊維片が付着してしまう課題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高い洗浄性能と耐久性を備え、洗浄対象物に繊維片が付着しない洗浄具及び洗浄用スポンジを提供することを発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、合成繊維からなる無撚糸を含む織物生地と、前記織物生地の少なくとも一部または全部にアクリル系共重合体を主成分とするエマルション型樹脂組成物から形成された乾燥皮膜を備え、前記エマルション型樹脂組成物が、ガラス転移温度の異なるアクリル系共重合体を2種含むことを特徴とする、洗浄部材である。
請求項2に記載の発明は、前記織物生地が経糸と緯糸により組成されたと平織であり、前記経糸が、ナイロンからなるモノフィラメント糸であり、前記緯糸が、ナイロンからなるマルチフィラメントの無撚糸である第1の緯糸と、ポリエステルからなるマルチフィラメントの無撚糸である第2の緯糸からなり、前記経糸に前記第1の緯糸と前記第2の緯糸とが交互に織られた、請求項1に記載の洗浄部材である。
請求項3に記載の発明は、前記エマルション型樹脂組成物の混合割合が、ガラス転移温度が高い方のエマルション型樹脂組成物が40~60重量%で、ガラス転移温度が低い方のエマルション型樹脂組成物が60~40重量%である、請求項1又は請求項2に記載の洗浄部材である。
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の洗浄部材の一方の主面にポリウレタン発泡体が接着されていることを特徴とする、洗浄用スポンジである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い洗浄性能と耐久性を備え、洗浄対象物に繊維片が付着しない洗浄具及び洗浄用スポンジを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明にかかる洗浄部材の一実施形態を示す一部拡大した写真図である。
【
図3】
図3は、実施例1の表面の状態を示す写真図であり、(a)は、摩耗・ピリング性試験前の状態、(b)は、500回摩耗後の状態、(c)は、1000回摩耗後の状態を示す。
【
図4】
図4は、比較例1の表面の状態を示す写真図であり、(a)は、摩耗・ピリング性試験前の状態、(b)は、500回摩耗後の状態、(c)は、1000回摩耗後の状態を示す。
【
図5】
図5は、比較例2の表面の状態を示す写真図であり、(a)は、摩耗・ピリング性試験前の状態、(b)は、500回摩耗後の状態、(c)は、1000回摩耗後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にかかる洗浄部材10は、シート状の織物生地12を含む。織物生地12は、被洗浄物に当接され被洗浄物に付着している汚れを払拭して除去するためのものである。織物生地12は、合成繊維からなり、
図2に示すように、経糸14に、第1の緯糸16と第2の緯糸18が交互に織られるように平織で組成されている。
【0010】
経糸14には、ナイロンからなる28~39dtexのモノフィラメント糸が用いられる。第1の緯糸16には、ナイロンからなる6~8フィラメントのマルチフィラメント無撚糸が用いられる。第2の緯糸18には、ポリエステルからなる8~12フィラメントのマルチフィラメント無撚糸が用いられる。なお、第1の緯糸16と第2の緯糸18の単糸繊度は、共に278~389dtexである。
【0011】
織物生地12は、その少なくとも一部または全部に乾燥皮膜20を備える。乾燥被膜20は、織物生地12からの繊維片の脱離を防ぎつつ、洗浄性能と耐久性の向上を図るために形成されるものである。乾燥皮膜20は、織物生地12にアクリル系共重合体を主成分とするエマルション型樹脂組成物を含浸または塗布して、適宜な方法により乾燥させることで形成される。なお、エマルション型樹脂組成物には、ガラス転移温度の異なるアクリル系共重合体が2種含まれている。ガラス転移温度の異なるアクリル系共重合体を2種用いる理由は、1種だけでは、洗浄部材に求められる洗浄性能と柔軟性の両立が困難であるが、2種のアクリル系共重合体をバランス良く配合することで、所望する洗浄性能と柔軟性を両立させて得ることができるからである。なお、本発明では、エマルション型樹脂組成物の混合割合を、ガラス転移温度が高い方のエマルション型樹脂組成物を40~60重量%、ガラス転移温度が低い方のエマルション型樹脂組成物を60~40重量%とした。乾燥被膜20の付着量は、織物生地12の厚みを1mmとした場合、8~12g/m2である。
【0012】
なお、洗浄部材10は、単体で洗浄に使用してもよいが、その一主面において、平面を備えた発泡ポリウレタンなどに平らに接着され、洗浄用スポンジとされてもよい。
【実施例1】
【0013】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。
【0014】
経糸14を、ナイロンからなる33dtexのモノフィラメント糸とした。そして、第1の緯糸16は、ナイロンからなる7フィラメントのマルチフィラメント糸、第2の緯糸18は、ポリエステルからなる10フィラメントのマルチフィラメント糸で、双方とも333dtexとした。経糸14には、第1の緯糸16と第2の緯糸18が交互に織り、平織の織物生地12を作製した。なお、織物生地12の構成材料の比率は、重量比でナイロン57:ポリエステル43である。
【0015】
上述の織物生地12に、ガラス転移温度29°Cのアクリル系共重合体を主成分とするエマルジョン(アイカ工業株式会社製 ウルトラゾール21K)と、ガラス転移温度-37°Cのアクリル系共重合体を主成分とするエマルジョン(アイカ工業株式会社製 ウルトラゾール38K)をそれぞれ50重量%ずつ混合したエマルション型樹脂組成物に含浸させた。エマルション型樹脂組成物を含浸させた織物生地12を、乾燥機で3分間150°Cで乾燥させ乾燥被膜20を形成し、厚み1mmの実施例1を得た。なお、実施例1の乾燥被膜の付着量は10g/m2である。
【0016】
(比較例1)
エマルション型樹脂組成物を含浸させていない実施例1の織物生地12を比較品1とした。
【0017】
(比較例2)
66ナイロンからなる17dtexの繊維でウェブを作製し、それをアクリル系接着剤でケミカルボンドを施し不織布として、比較例2を得た。なお、比較例2での繊維と接着剤との比率は、重量比で45:55である。
【0018】
実施例1および比較例1、2の試験片を用いて以下の方法で洗浄性能について下記の基準で評価を行った。
汚染板:陶器製の大皿
汚れ:乾いたご飯粒、焦げたカレールー、焦げたデミグラスソース、焦げたチーズ、焦げたチョコレートを汚染板の一面に亘って形成。
試験片:実施例1、比較例1および比較例2の洗浄部材を、一辺の長さが150mmの正方形に裁断したもの。
洗浄試験:汚れた汚染板に約30°Cのお湯を掛けた後、各試験片で同等に荷重をかけて汚染板の汚れを洗浄し、汚れの除去状況を目視と指の感触で評価。
洗浄性能の評価:良好○、ほぼ良好△、不良×とした。
【0019】
【0020】
表1の結果が示すように、実施例1と比較例2は全ての汚れについて良好な洗浄性能となったが、比較例1では、ほぼ良好が1つ、不良が2つとなる結果となった。この結果からアクリル系共重合体を主成分とするエマルション型樹脂組成物から形成された乾燥皮膜20が洗浄性能の向上に有効であることが明らかとなった。
【0021】
続いて、以下の方法で耐久性について下記の基準で評価を行った。
対象物:線径0.25mm、16メッシュのステンレス網(株式会社エスコ製 EA952-16)
試験装置:摩耗・ピリング性試験機(James H.Heal&Co.Ltd.製 Nu-Martindale 864)
試験片:実施例1、比較例1および比較例2の一方の主面に厚さ4mmのポリウレタン発泡体を接着した洗浄用スポンジを直径38mmの円盤状に裁断したもの。
洗浄試験:各試験片をそれぞれ5個、試験装置に装着して、試験片と対象物との摩耗圧力が9kPaとなるようにして100回摩耗を実施し、100回終える毎に試験片の重量を電子秤で測定して、試験片の状態を撮影した。これを1000回に至るまで行った。
測定値については、各回での5つ試験片の測定値を平均して、摩耗率(%)=摩耗による重量減少量/摩耗試験前の試験片の重量×100を算出した。そして、試験前と500回摩耗後と1000回摩耗後の写真を比較することで、繊維の剥離状態を評価した。
【0022】
【0023】
表2の結果が示すように、実施例1が最も摩耗率が低い値であった。
【0024】
図3、
図4、
図5は、それぞれ実施例1、比較例1、比較例2の表面の状態を示す写真図であるが、写真図が示すように、織物生地を用いた実施例1、比較例1では目立った毛羽立ちやピリングは発生していない。これに対して、不織布を用いた比較例2は、激しく毛羽立ち・ピリングが発生している。
【0025】
以上の洗浄性能及び耐久性の評価結果より、本発明にかかる織物生地にアクリル系共重合体からなる乾燥皮膜を設けた洗浄部材(実施例1)が、織物生地のみからなる洗浄部材(比較例1)や、不織布からなる洗浄部材(比較例2)と比較して、高い洗浄性能と耐久性を備え、洗浄部材から離脱する繊維片が発生しづらいことを確認できた。
【符号の説明】
【0026】
10 洗浄部材
12 織物生地
14 経糸
16 第1の緯糸
18 第2の緯糸
20 乾燥被膜