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特許7621020BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法
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  • 特許-BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/28 20200101AFI20250117BHJP
   G06F 17/13 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G06F30/28
G06F17/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024095794
(22)【出願日】2024-06-13
【審査請求日】2024-06-13
(31)【優先権主張番号】202410071715.X
(32)【優先日】2024-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520154254
【氏名又は名称】江蘇科技大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.2 Mengxi Road,Zhenjiang,Jiangsu 212003,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲パン▼ 凱文
(72)【発明者】
【氏名】孫 慧
(72)【発明者】
【氏名】胡 康
(72)【発明者】
【氏名】▲蘭▼ 清棋
(72)【発明者】
【氏名】方 浩迪
(72)【発明者】
【氏名】郭 義廷
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-042813(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115935546(CN,A)
【文献】WANG, C. et al.,A modified STRUCT model for efficient engineering computations of turbulent flows in hydro-energy machinery,International Journal of Heat and Fluid Flow [online],Elsevier,2020年,Volume 85,pp. 1-12,[検索日 2024.08.22],インターネット,URL:https://engweb.swan.ac.uk/~cfli/papers_pdf_files/2020_IJHFF_A%20modified_STRUCT_model_for_efficient_engineering_computations_of_turbulent_flows.pdf
【文献】PANG, K. et al.,A Hybrid Model Based on the Bifurcation Approach for Internal Turbulent Flow with Rotation and Streamline Curvature Effects,Journal of Marine Science and Engineering [online],MDPI,2022年12月18日,Volume 10,pp. 1-25,[検索日 2024.08.22],インターネット,URL:https://www.mdpi.com/2077-1312/10/12/2022
【文献】PANG, K. et al.,Critical State Calculation of Saddle-Shaped Unstable Region of the Axial-Flow Pump Based on Bifurcation SST k-ω Model,Journal of Marine Science and Engineering [online],MDPI,2023年08月04日,Volume 11,pp. 1-25,[検索日 2024.08.22],インターネット,URL:https://www.mdpi.com/2077-1312/11/8/1549
【文献】YANG, X. et al.,Assessment of Two Streamline Curvature Correction Methods for an Elliptic Blending Turbulence Model,Applied Sciences [online],MDPI,2022年08月06日,Volume 12,pp. 1-14,[検索日 2024.08.22],インターネット,URL:https://www.mdpi.com/2076-3417/12/15/7899
【文献】AROLLA, S.K. et al.,A rotation/curvature correction for turbulence models for applied CFD [online],ResearchGate,2015年05月01日,pp. 1-18,[検索日 2024.08.22],インターネット,URL:https://www.researchgate.net/publication/275657453_A_rotationcurvature_correction_for_turbulence_models_for_applied_CFD
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G06F 17/13
G16Z 99/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法であって、
3次元モデリングソフトウェアによって回転乱流の予測対象に対してソリッドモデリングを行い、シミュレーションモデルを得るステップ(1)と、
シミュレーションモデルをメッシュ化するステップ(2)と、
既存のSTRUCT乱流モデルに対して分岐法に基づいて回転曲率補正を行い、BSTMQ乱流モデルを構築するステップであって、BSTMQ乱流モデルの方程式は、以下の通りであり、
【数51】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、ωは比散逸率であり、
【数52】
は時間に対する乱流運動エネルギーの偏導関数であり、
【数53】
は座標方向の乱流運動エネルギーの偏導関数であり、
【数54】
は時間に対する比散逸率の偏導関数であり、
【数55】
は座標方向の比散逸率の偏導関数であり、uは速度であり、C μは渦粘性係数の式であり、Cμは渦粘性係数であり、Sは歪速度テンソルのモードであり、vは動粘性係数であり、vは渦粘性係数であり、Pは乱流運動エネルギー生成項であり、Df-bは渦粘性減衰関数であり、б、бω、α、β、F、бω2は定数係数である、ステップ(3)と、
流体解析ソフトウェアに基づく計算プログラムによって、BSTMQ乱流モデルを用いて回転乱流に対して数値シミュレーション計算を行うことで、予測対象の回転乱流の予測結果を得るステップ(4)と、を含み、
前記ステップ(3)では、BSTMQ乱流モデルを構築するステップは、具体的には、
ステップ(31):回転座標系における歪速度テンソル及び回転速度テンソルを導入し、
ステップ(32):Spalart-Shurテンソルを使用して回転効果及び曲率効果を統一し、補正された回転速度テンソルを得て、
ステップ(33):ステップ(31)で導入された歪速度テンソル及びステップ(32)で得られた補正された回転速度テンソルから、速度勾配不変量を作成し、
ステップ(34):ステップ(33)で得られた速度勾配不変量から、補正された解析時間スケールを決定し、
ステップ(35):比散逸率から回転乱流のモデル化時間スケールを決定し、
ステップ(36):ステップ(34)及び(35)に従って、回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数D f-b を構築し、
【数56】
ここで、
【数57】
であり、
【数58】
は無次元速度勾配不変量IIIであり、
【数59】
は歪速度テンソルに基づいて構築される無次元速度勾配不変量Iであり、
【数60】
は補正された回転速度テンソルに基づいて構築された無次元速度勾配不変量IIであり、αはモデル化時間スケールの経験定数であり、
ステップ(37):BSkOモデルを基盤モデルとして、乱流粘度を補正し、渦粘性減衰関数D f-b に従って、分岐法の回転曲率に基づいて補正されるSTRUCT乱流モデル、すなわち、BSTMQ乱流モデルを構築する、ことを特徴とする回転乱流予測方法。
【請求項2】
慣性座標系において、歪速度テンソルSij及び回転速度テンソルΩijの計算式は以下の通りであり、
【数61】
ここで、i、及びjはテンソル表現における2つの自由なインデックスであり、どちらも値1、2、及び3をとり、これは、インデックスのすべての値をトラバースする必要があることを意味し、U及びUは速度ベクトルであり、慣性座標系における3方向の速度成分はU=U、U=V、U=Wであり、x及びxは慣性座標系における座標軸であり、x=x、x=y、x=zとして表され、
【数62】
は3方向の3つの速度成分の偏導関数であり、
角速度ベクトルΩ で回転する座標系において、回転速度テンソルΩ ijの計算式は以下の通りであり、
【数63】
【請求項3】
Spalart-Shurテンソルに基づいて回転効果及び曲率効果を統一すると、以下の前記補正された回転速度テンソルΩmod ijの計算式が得られ、
【数64】
ここで、Cはモデル定数であり、W ijは、Spalart-Shurテンソルに基づく補正変数である、ことを特徴とする請求項2に記載の回転乱流予測方法。
【請求項4】
補正変数W ijの決定は、
2次元流れの場合、W ij=ΩSS ijにすることと、
【数65】
【数66】
ここで、δijはクロネッカーシンボルテンソルであり、Sik、及びSkjは、Sijとインデックスが異なる歪速度テンソルであり、
【数67】
である、ことを特徴とする請求項に記載の回転乱流予測方法。
【請求項5】
【数68】
の計算式は以下の通りであり、
【数69】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、εは散逸率であり、Sは歪速度テンソルのモードであり、Ωmodは補正された回転速度テンソルのモードである、ことを特徴とする請求項に記載の回転乱流予測方法。
【請求項6】
前記補正された解析時間スケールは、以下の通りであり、
【数70】
ここで、
【数71】
であり、
比散逸率から回転乱流のモデル化時間スケールtを決定し、
【数72】
ここで、αはモデル化時間スケールの経験定数であり、ωは比散逸率であり、
【数73】
は関心の流れ領域において幾何平均演算を行うことを表す、ことを特徴とする請求項に記載の回転乱流予測方法。
【請求項7】
従来の渦粘性減衰関数Dに基づいて、回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数Df-bを構築し、従来の渦粘性減衰関数Dは、
【数74】
である、ことを特徴とする請求項に記載の回転乱流予測方法。
【請求項8】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサで動作可能なコンピュータプログラムと、を含むコンピュータ機器であって、
前記プロセッサは、前記コンピュータプログラムを実行すると、請求項1~のいずれか1項に記載の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータ機器。
【請求項9】
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、 前記コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行されると、請求項1~のいずれか1項に記載の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工学流体力学における乱流シミュレーションに関し、具体的には、BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、計算の正確性と計算コストの両方を考慮した混合乱流モデルは、応用の将来性が期待でき、グリッド空間スケールに基づくさまざまな混合乱流モデルに加えて、Emilion教授が時間スケールに基づいて提案したSTRUCTモデルは、グリッドの単調収束を達成でき、優れた計算精度とロバスト性を備えている。
【0003】
しかし、流体機械では、羽根車が高速回転し、羽根がねじれ、壁面が複雑なため、内部流れ場は強い回転効果及び曲率効果を受ける。既存のSTRUCTモデルは、直接適用できず、次の問題がある。(1)STRUCTモデルの渦粘性減衰は、壁付近の領域では1に近いため、モデルは従来のレイノルズ平均ナビエストークス(RANS:Reynolds-averaged Navier-Stokes)モデルに戻り、回転機械の壁付近の領域の解析には適していない。(2)既存のSTRUCTモデルでは、従来の渦流検出基準に基づいて計算された解析時間スケールは、回転効果及び曲率効果を反映していない。上記の欠陥により、モデルが回転乱流の発達過程を正確に予測できなくなる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の目的:以上の問題に対して、本発明は、流体機械の内部流れ場の予測効果を高めることができるBSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
技術的解決手段:上記の問題を解決するために、本発明は、BSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法であって、
3次元モデリングソフトウェアによって回転乱流の予測対象に対してソリッドモデリングを行い、シミュレーションモデルを得るステップ(1)と、
シミュレーションモデルをメッシュ化するステップ(2)と、
既存のSTRUCT乱流モデルに対して分岐法に基づいて回転曲率補正を行い、BSTMQ乱流モデルを構築するステップであって、BSTMQ乱流モデルの方程式は、以下の通りであり、
【数1】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、ωは比散逸率であり、
【数2】
は時間に対する乱流運動エネルギーの偏導関数であり、
【数3】
は座標方向の乱流運動エネルギーの偏導関数であり、
【数4】
は時間に対する比散逸率の偏導関数であり、
【数5】
は座標方向の比散逸率の偏導関数であり、uは速度であり、C μは渦粘性係数の式であり、Cμは渦粘性係数であり、Sは歪速度テンソルのモードであり、vは動粘性係数であり、vは渦粘性係数であり、Pは乱流運動エネルギー生成項であり、Df-bは渦粘性減衰関数であり、σ、σω、α、β、F、σω2は定数係数である、ステップ(3)と、
流体解析ソフトウェアに基づく計算プログラムによって、BSTMQ乱流モデルを用いて回転乱流に対して数値シミュレーション計算を行うことで、予測対象の回転乱流の予測結果を得るステップ(4)と、を含む、回転乱流予測方法を提供する。
【0006】
さらに、前記ステップ(3)では、BSTMQ乱流モデルを構築するステップは、具体的には、
ステップ(31):回転座標系における歪速度テンソル及び回転速度テンソルを導入し、
ステップ(32):Spalart-Shurテンソルを使用して回転効果及び曲率効果を統一し、補正された回転速度テンソルを得て、
ステップ(33):ステップ(31)で導入された歪速度テンソル及びステップ(32)で得られた補正された回転速度テンソルから、速度勾配不変量を作成し、
ステップ(34):ステップ(33)で得られた速度勾配不変量から、補正された解析時間スケールを決定し、
ステップ(35):比散逸率から回転乱流のモデル化時間スケールを決定し、
ステップ(36):ステップ(34)及び(35)に従って、回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数Df-bを構築し、
【数6】
ここで、
【数7】
であり、
【数8】
は無次元速度勾配不変量IIIであり、
【数9】
は歪速度テンソルに基づいて構築される無次元速度勾配不変量Iであり、
【数10】
は補正された回転速度テンソルに基づいて構築された無次元速度勾配不変量IIであり、αはモデル化時間スケールの経験定数であり、
ステップ(37):BSkOモデルを基盤モデルとして、乱流粘度を補正し、渦粘性減衰関数Df-bに従って、分岐法の回転曲率に基づいて補正されるSTRUCT乱流モデル、すなわち、BSTMQ乱流モデルを構築する。
【0007】
さらに、慣性座標系において、歪速度テンソルSij及び回転速度テンソルΩijの計算式は以下の通りであり、
【数11】
ここで、i、及びjはテンソル表現における2つの自由なインデックスであり、どちらも1、2、及び3を取り、これは、インデックスのすべての値をトラバースする必要があることを意味し、U及びUは速度ベクトルであり、慣性座標系における3方向の速度成分はU=U、U=V、U=Wであり、x及びxは慣性座標系における座標軸であり、x=x、x=y、x=zとして表され、
【数12】
は3方向の3つの速度成分の偏導関数であり
角速度ベクトルΩ で回転する座標系において、回転速度テンソルΩ ijの計算式は以下の通りであり、
【数13】
【0008】
さらに、Spalart-Shurテンソルに基づいて回転効果及び曲率効果を統一すると、以下の前記補正された回転速度テンソルΩmod ijの計算式が得られ、
【数14】
ここで、Cはモデル定数であり、W ijは、Spalart-Shurテンソルに基づく補正変数である。
【0009】
さらに、補正変数W ijの決定は、
2次元流れの場合、W ij=ΩSS ijにすることと、
【数15】
【数16】
ここで、δijはクロネッカーシンボルテンソルであり、Sik、及びSkjは、Sijとインデックスが異なる歪速度テンソルであり、
【数17】
である。
【0010】
さらに、
【数18】
の計算式は以下の通りであり、
【数19】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、εは散逸率であり、Sは歪速度テンソルのモードであり、Ωmodは補正された回転速度テンソルのモードである。
【0011】
さらに、前記補正された解析時間スケールは、以下の通りであり、
【数20】
ここで、
【数21】
であり、
比散逸率から回転乱流のモデル化時間スケールtを決定し、
【数22】
ここで、αはモデル化時間スケールの経験定数であり、ωは比散逸率であり、
【数23】
は関心の流れ領域において幾何平均演算を行うことを表す。
【0012】
さらに、従来の渦粘性減衰関数Dに基づいて回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数Df-bを構築し、従来の渦粘性減衰関数Dは、
【数24】
である。
【0013】
本発明はまた、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサで動作可能なコンピュータプログラムと、を含むコンピュータ機器であって、
前記プロセッサは、前記コンピュータプログラムを実行すると、上記の方法のステップを実現する、コンピュータ機器を採用する。
【0014】
本発明はまた、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行されると、上記の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を採用する。
【発明の効果】
【0015】
有益な効果は以下の通りである。従来技術と比較して、本発明の重要な利点は、BSTMQモデルが回転乱流をより適切にシミュレートし、流体機械の内部流れ場の予測効果を向上させ、回転乱流を効率的かつ正確に計算するための新しい考え方を提供できることである。分岐法に基づいて回転曲率が補正されたSTRUCTモデルは、BSkOモデルを基盤モデルとして使用し、壁付近の領域の解析能力を向上させる。Spalart-Shurテンソルを用いて回転効果及び曲率効果を統一し、新しい解析時間スケールを構築することによって、構築されたBSTMQモデルは、回転乱流をより適切にシミュレートできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における回転乱流予測方法の概略フローチャートである。
図2】本発明における乱流モデルコンパイルの概略フローチャートである。
図3】本発明における回転流路流れのインスタンスの計算領域の模式図である。
図4】本発明における回転流れ急拡大管のインスタンスの計算領域の模式図である。
図5】本発明における回転流路流れのインスタンスの平均速度分布を比較した下図である。
図6】本発明における回転流路流れのインスタンスの無次元法線脈動速度を比較した下図である。
図7】本発明における回転流路流れのインスタンスの法線方向の解析度を比較した図である。
図8】本発明における回転流れ急拡大管のインスタンスのZ/D=0.25位置での軸方向の平均速度脈動二乗平均平方根を比較した図である。
図9】本発明における回転流れ急拡大管のインスタンスのZ/D=4位置での周方向の平均速度脈動二乗平均平方根を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本実施例では、BSTMQモデルを用いる回転乱流シミュレーション方法は、以下のステップ(1)~ステップ(4)を含む。
【0018】
ステップ(1):3次元モデリングソフトウェアによって回転乱流の予測対象(回転流路流れ、回転流れ急拡大管などの古典的な基本インスタンス、及び遠心ポンプや軸流ポンプなどの回転機械)に対してソリッドモデリングを行い、シミュレーションモデルを得る。
【0019】
ステップ(2):OpenFOAM(登録商標)独自のソフトウェア又はサードパーティソフトウェアを使用してシミュレーションモデルをメッシュ化する。
【0020】
ステップ(3):既存のSTRUCT乱流モデルに対して分岐法に基づいて回転曲率補正を行い、BSTMQ乱流モデルを構築する。
【0021】
ステップ(4):OpenFOAM(登録商標)平台のBSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流数値シミュレーション方法のプログラムに基づいて、数値シミュレーション計算を行い、最後に、OpenFOAM(登録商標)独自又はサードパーティソフトウェアによって後処理を行い、予測対象の回転乱流のより正確な予測結果を得る。
【0022】
BSTMQ乱流モデルは、分岐法の回転曲率に基づいて補正されるSTRUCTモデルであり、ステップは、具体的には、以下の通りである。
【0023】
ステップ(31):回転座標系における歪速度テンソル及び回転速度テンソルを導入する。
【0024】
このステップでは、慣性座標系に対して、歪速度テンソルSij及び回転速度テンソルΩijは以下の式から得られる。
【数25】
【0025】
ここで、i、及びjはテンソル表現における2つの自由なインデックスであり、それぞれ値1、2、3を取り、インデックスのすべての値をトラバースする必要があることを表す。U及びUは速度ベクトルであり、3つの方向の速度成分は、U=U、U=V、U=Wであり、x及びxは座標軸であり、x=x、x=y、x=yとして表されてもよく、
【数26】
は、3つの速度成分の3つの方向の偏導関である。
【0026】
角速度ベクトルΩ で回転する座標系に対して、回転速度テンソルは以下のように定義される。
【数27】
【0027】
【0028】
ステップ(32):Spalart-Shurテンソルを使用して回転効果及び曲率効果を統一する。
【0029】
このステップでは、Spalart-Shurテンソル(ΩSS ij)は、以下の式により得られる。
【数28】
【0030】
ここで、
【数29】
は、歪速度テンソルの物質微分であり、
【0031】
回転効果及び曲率効果を統一すると、補正された回転速度テンソルが得られる。
【数30】
【0032】
ここで、Cはモデル定数であり、W ijSpalart-Shurテンソルに基づく補正変数であり、
2次元流れの場合、
【数31】
3次元流れの場合、
【数32】
ここで、ベクトルwは中間変数であり、
【数33】
ここで、Ω pqとΩ ij、及びΩSS rsとΩSS ij 物理的には同じ意味を有するが、テンソル演算で他のテンソルインデックスと区別するために、ここでは異なるインデックスが選択されている。
【数34】
のインデックスp、q、r、sも同様に値1、2、3を取ることができるが、ダミーテーブル(インデックスが2回出現する場合、そのインデックスの索引項目を合計し、そのインデックスをダミーインデックスと呼ぶ)であるため、合計演算が必要である。
【数35】
【0033】
テンソルXijは中間変数であり、ここで、δijはクロネッカーシンボルテンソルであり、Sik及びSkjは、物理的には歪速度テンソルも表し、インデックスはテンソル演算を表すために変更されている。Sikkjは、2つのフリーインデックスと1つのサメーション・インデックスがあるため、最初に合計してからすべての成分をトラバースする必要がある。
【0034】
II及びIIIは、それぞれ以下の式により得られる。
【数36】
【0035】
ここで、S11、S22及びS33は歪速度テンソルの対角線上の3つの成分である。
【0036】
ステップ(33):ステップ(31)で導入された歪速度テンソル及びステップ(32)の補正された回転速度テンソルから、無次元の速度勾配不変量を作成し、それにより、後続のモデル式がガリレオ不変性を持ち、かつ、回転及び曲率の効果を反映できることを保証する。
【0037】
このステップでは、速度勾配不変量は、以下の式により得られる。
【数37】
【0038】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、εは散逸率であり、Sは歪速度テンソルのモードであり、Ωmodは補正された回転速度テンソルのモードであり、
【数38】
は歪速度テンソルに基づいて構築される無次元速度勾配不変量Iであり、
【数39】
は、ステップ2で得られた補正された回転速度テンソルから構築される無次元速度勾配不変量IIであり、
【数40】
は無次元速度勾配不変量IIIである。
【0039】
ステップ(34):ステップ(33)の速度勾配不変量から解析時間スケールtを決定する。
【0040】
回転効果及び曲率効果を考慮したQ渦流検出基準は以下の式により得られる。
【数41】
【0041】
ここで、kは乱流運動エネルギーであり、εは散逸率であり、S及びΩmodは、それぞれ、歪速度テンソル、及び補正された回転速度テンソルのモードである。
【0042】
補正された解析時間スケールは以下の通りである。
【数42】
【0043】
ステップ(35):比散逸率から回転乱流のモデル化時間スケールtを決定する。モデル化時間スケールtは以下の式により得られる。
【数43】
【0044】
ここで、αはモデル化時間スケールの経験定数であり、ωは比散逸率であり、
【数44】
は関心の流れ領域において幾何平均演算を行うことを表す。
【0045】
ステップ(36):ステップ(34)及び(35)に従って、回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数Df-bを構築する。
【0046】
従来の渦粘性減衰関数Dは以下の通りである。
【数45】
【0047】
最後に、回転効果及び曲率効果を反映する渦粘性減衰関数Df-bを構築する。
【数46】
【0048】
ステップ(37):ステップ(36)の渦粘性減衰関数に従ってBSTMQ乱流モデルを構築する。
【0049】
BSkOモデルを基盤モデルとして、乱流粘度を補正する。速度勾配テンソルの不変量を使用して構築された渦粘性係数の式は次のとおりである。
【数47】
【0050】
渦粘性係数の式が満たさなければならない基本的な制約条件が以下の2つある。(1)線形構成関係は維持される必要がある。(2)慣性基準系における均一なせん断流の場合、モデルは定数である元の形式に単純化される。
【0051】
分岐図を通じて式内のモデル定数を調整すると、以下のものが得られる。
【数48】
【0052】
最終的に、BSkOを基盤モデルとするBSTMQ乱流モデルの方程式は以下の通りである。
【数49】
【0053】
OpenFOAM(登録商標)に基づく計算プログラムは、具体的には次のとおりである。OpenFOAM(登録商標)は、有限体積法を使用して方程式を離散化し、非構造化グリッドを使用して計算領域を離散化するオープンソースのCFDコンピューティングプラットフォームである。現在のOpenFOAM(登録商標)は、比較的完全なソルバー、乱流モデル、境界条件や後処理手順をすでに備えており、複雑な流れのほとんどを計算できる。OpenFOAM(登録商標)は、定常計算と非定常計算に分けられ、定常計算には時間の離散化は含まれず、非定常計算の時間離散化は、ユーザーの指示に応じて一連の時間ステップに分割される。特定のタイムステップは、通常、クーラン数(CFL:Courant-Friedrichs-Lewy)に基づいて推定される。計算領域の空間離散化はメッシュ化であり、OpenFOAM(登録商標)独自のメッシュ化ツールを使用して分割することも、サードパーティソフトウェアから計算領域グリッドをインポートすることもできる。メッシュ化により得られる離散方程式は、OpenFOAM(登録商標)が提供する3つの圧力補正方法:SIMPLE(Semi-Implicit Method for Pressure Linked Equations)、PISO(Pressure Implicit with Splitting of Operator)、PIMPLE(Pressure Implicit Method for Pressure Linked Equations)を使用して計算することができる。SIMPLEアルゴリズムは、定常計算に使用され、非圧縮性乱流の非定常計算には、PISO又はPIMPLEアルゴリズムは通常選択される。代数方程式を解く場合、圧力方程式は一般に反対称行列であるが、速度、乱流運動エネルギーなどは対称行列である。非対称行列は、対角優位行列ではなく、計算中に発散しやすいため、計算中にマルチグリッド・プレコンディショナを使用して対角優位行列に変換し、次に対角不完全ガウスザイデルスムーズソルバーを使用し、最後に、条件付き共役勾配ソルバーを選択して圧力方程式を計算する。速度などの対称行列を計算する場合、スムーズソルバーを使用して速度方程式を計算する。
【0054】
図2に示すように、乱流モデルのコンパイルでは、OpenFOAM(登録商標)のすべての乱流モデルは、基本クラスturbulenceModelを共有し、Laminar、RASModel、及びLESModelの3つの異なるサブクラスが定義される。この3つのサブクラスは、それぞれ層流モデル、RANSモデル、及びLESモデルを表す。BSTMQモデルは、RANSモデルの乱流粘性に対してのみ補正するため、新しいモデルプログラムはRASModelサブクラスの下でコンパイルされる。
【0055】
図2に示すように、中央の点線のボックスは、ステップ(31)と(32)の実装プロセス、右側は、ステップ(33)~(36)の実装プロセス、右側は、ステップ(37)の基盤BSkOモデルの実装プロセスを表す。
【0056】
Spalart-Shurテンソルを使用して、回転効果及び曲率効果を統一し、速度勾配テンソルの不変量を構築するときには、具体的には、まず、データが体の中心に保存される対称テンソル場、つまり歪速度テンソルを定義する。次に、II=SijjiとIII=Sijjkkiとを構築する式に基づいて計算する。中間変数Xijは非常に複雑な対称テンソルである。まず、Xijの次元に従って、空の対称テンソル場を作成し、次に、このテンソルの各成分の結果を個別に計算し、空の対称テンソル場を置き換える必要がある。Wijもこのように定義し、補正された回転速度テンソルΩmodを取得し、それを再計算して、補正された回転速度テンソル不変量
【数50】
を取得する。
【0057】
ステップ(33)で構築された速度勾配テンソルの不変量に基づいて、回転効果及び曲率効果を考慮したBSkO基盤モデルを構築するときには、具体的には次のようである。まず、プライベートメンバー関数:tmp<volScalarField>f()constを宣言し、この関数は、スカラーフィールドのテンプレートクラスとして宣言され、f()は、渦粘性係数式の計算の結果を返すことである。このプライベート関数変数はメンバー関数によってのみ呼び出すことができる。
【0058】
既存のSTRUCTモデルの渦粘性減衰関数を改善するために、以下の具体的なBSTMQモデルが提案される。上記のように、プライベートメンバー関数:tmp<volScalarField>Df()constを宣言し、この関数はスカラーフィールドのテンプレートクラスとして宣言され、Df()は、渦粘性減衰関数式の計算結果を返すことである。次に、返された渦粘性係数式f()と渦粘性減衰関数式Df()の計算結果を元の渦粘性式に乗算する。この渦粘性を用いて乱流運動エネルギー方程式と比散逸率方程式を再計算し、各ステップで得られた結果に基づいてプライベート関数f()とDf()を再更新する。
【0059】
モデルを構築した後、OpenFOAM(登録商標)で、渦粘性係数と動粘性係数を結合して有効粘性係数にし、次に乱流応力を計算し、ソルバーによってturbulence→divDevReff(U)ステートメントを使用して乱流モデルの結果を呼び出す。
【0060】
OpenFOAM(登録商標)独自の機能と独自にコンパイルした乱流モデルに基づいて、BSTMQモデルを用いる回転乱流数値シミュレーションのプログラムを実装できる。
【0061】
本発明の実施例の利点をより良く示すために、流体工学における現在の回転乱流計算で一般的に使用されるSSTk-ωモデルと従来のSTRUCTモデル(STSST)を比較する。図3図4に示すように、それぞれ回転流路流れと回転流れ急拡大管を例として、有限体積法を使用して制御方程式を離散化し、高品質の六面体グリッドを使用して計算領域を空間的に離散化する。回転流路流れのインスタンスにおけるグリッドの総数は約390,000であり、回転流れ急拡大管のインスタンスにおけるメッシュの総数は約1,660,000である。本発明の実施例におけるBSTMQを導入した後、過渡計算を行い、時間ステップにより最大クーラント数が1未満であることを確保する。BSTMQモデルの利点を定量的に比較するために、添付の図5~9は2つのインスタンスにおける異なる変数の結果である。
【0062】
図5は、さまざまなモデルによって計算された回転流路の法線方向に沿った平均速度分布を示す。BSTMQモデルによって計算された平均速度は直接数値シミュレーション(DNS)の結果に最も近く、非対称分布の速度分布を予測できる。従来のSSTk-ωモデルとSTSSTモデルの結果は、DNSの結果とは大きく異なる。図6は、さまざまなモデルによって計算された回転流路流れの流れ方向に沿った平均脈動速度の二乗平均平方根分布を示し、回転効果がより顕著になる負圧面(y/h=2)付近では、BSTMQモデルの計算結果はSSTk-ωモデルやSTSSTモデルの計算結果よりもはるかに優れている。図7は、さまざまなモデルによって計算された回転流路流れの乱流粘度nutと分子粘度nuの比であり、モデルによる流れ場の解析の程度を示すために使用できる。従来のSSTk-ωモデルは、nut/nuの値が流路のほとんどの領域で10を超えており、解析の程度がRANSモデルに近く、STSSTモデルの負圧面付近では、nut/nuの値はいずれも10を超え、解析の程度はRANSモデルに近く、その他の位置では、nut/nuの値は10未満であり、解析の程度はラージエディシミュレーションの解析の程度に近い。BSTMQモデルでは、流路流れのNut/nuの値は1未満で、解析の程度はDNSに近い。図8は、回転流れ急拡大管のインスタンスのZ/D=0.25位置での軸方向の平均速度を比較した図である。図9は、回転流れ急拡大管のインスタンスのZ/D=4の位置での周方向の平均速度脈動の二乗平均平方根を比較した図である。回転流れ急拡大管の場合も、BSTMQモデルの計算結果がSSTk-ωモデルやSTSSTモデルよりも優れていることがわかった。
【要約】      (修正有)
【課題】流体機械の内部流れ場の予測効果を高めることができるBSTMQ乱流モデルを用いる回転乱流予測方法を提供する。
【解決手段】方法は、3次元モデリングソフトウェアによって回転乱流の予測対象に対してソリッドモデリングを行い、シミュレーションモデルを得るステップと、シミュレーションモデルをメッシュ化するステップと、既存のSTRUCT乱流モデルの渦粘性減衰関数を改良し、BSTMQ乱流モデルを構築し、OpenFoamに基づく計算プログラムによって、BSTMQ乱流モデルを用いて回転乱流に対して数値シミュレーション計算を行うことで、予測対象の回転乱流の予測結果を得るステップと、を含む。BSTMQモデルは、回転乱流をより適切にシミュレートし、流体機械の内部流れ場の予測効果を向上させ、流体機械における回転乱流を効率的かつ正確に計算するための新しい考え方を提供することができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9