(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20250117BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250117BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2020001428
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2021-12-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 康平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高見
【合議体】
【審判長】吉田 美彦
【審判官】林 毅
【審判官】大塚 俊範
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-22950(JP,A)
【文献】特開2017-5809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P27/08
H02M7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータをPWM制御するモータ制御装置であって、
電圧指令値の位相に対しキャリア波の位相を同期させる同期PWM制御を行う同期制御部を備え、
前記同期制御部は、
前記同期PWM制御において、前記電圧指令値の一周期におけるキャリア波の数である同期数を第1同期数から第2同期数に切り替える場合には、前記同期数を第1同期数に制御する第1期間と前記同期数を第2同期数に制御する第2期間との間に、前記キャリア波の周波数を所定の目標値まで徐々に変化させる第3期間を設け、
前記第2同期数を次の同期数に切替える場合には、前記モータの回転数が前記次の同期数に対応する所定の回転数に変化し、かつ、前回の
前記第2同期数への切替え開始時点から
所定量以上変化したことを条件として切り替えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記同期制御部は、前記第3期間において、前記キャリア波の周波数を所定の変化量で段階的に変化させることを特徴とする、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記第1同期数から前記第2同期数に切り替えるときの前記キャリア波の周波数と前記所定の目標値との差に応じて前記所定の変化量を設定することを特徴とする、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第3期間は、非同期区間であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記同期制御部は、
前記同期PWM制御において、前記第1同期数から前記第2同期数に切り替える場合には、前記第1期間と前記第2期間との間に前記第3期間を設けることで、前記第1期間において前記インバータから前記モータに流れる各相の相電流の平均値と、前記第2期間において前記各相の相電流の平均値と、の差であるオフセット電流を徐々に低下させることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに対するPWM制御において、三角波キャリアの周波数と、電圧制御指令の周波数が近づいてくると、ビート現象が生じることがある。ビート現象を抑止する方法として、同期PWM制御は、キャリア波の周波数を電圧指令値の信号(以下、「電圧指令信号」という。)の周波数の整数倍に設定することで電圧指令信号の位相に対してキャリアの位相を同期させる同期PWM制御が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同期PWM制御では、モータの回転に応じて、電圧指令信号の1周期に対応するキャリア波の数(以下、「同期数」という。)を切り替える場合がある。ただし、同期数を切り替えるとモータに大きな電流が流れてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、同期数を切り替える場合にモータに大きな電流が流れることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、モータを駆動するインバータをPWM制御するモータ制御装置であって、電圧指令値の位相に対しキャリア波の位相を同期させる同期PWM制御を行う同期制御部を備え、前記同期制御部は、前記同期PWM制御において、前記電圧指令値の一周期におけるキャリア波の数である同期数を第1同期数から第2同期数に切り替える場合には、前記同期数を第1同期数に制御する第1期間と前記同期数を第2同期数に制御する第2期間との間に、前記キャリア波の周波数を所定の目標値まで徐々に変化させる第3期間を設ける、ことを特徴とするモータ制御装置である。
【0007】
(2)上記(1)のモータ制御装置であって、前記同期制御部は、前記第3期間において、前記キャリア波の周波数を所定の変化量で段階的に変化させてもよい。
【0008】
(3)上記(1)又は上記(2)のモータ制御装置であって、前記所定の変化量は、前記第1同期数から前記第2同期数に切り替えるときの前記キャリア波の周波数と前記所定の目標値との差に応じて設定されてもよい。
【0009】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかのモータ制御装置であって、前記第3期間は、非同期区間であってもよい。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかのモータ制御装置であって、前記同期制御部は、前記同期PWM制御において、前記第1同期数から前記第2同期数に切り替える場合には、前記第1期間と前記第2期間との間に前記第3期間を設けることで、前記第1期間において前記インバータから前記モータに流れる各相の相電流の平均値と、前記第2期間において前記各相の相電流の平均値と、の差であるオフセット電流を徐々に低下させてもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、同期数を切り替える場合にモータに大きな電流が流れることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るモータ制御装置を備えたモータシステムAの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る同期数Sの切り替え方法を説明する図である。
【
図3】本実施形態に係る規制変化量Δfの決定方法を説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る同期PWM制御のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係るモータ制御装置を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るモータ制御装置を備えたモータシステムAの概略構成の一例を示す図である。モータシステムAは、車両に搭載される。当該車両は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車である。
【0015】
モータシステムAは、モータ1、バッテリ2、回転角センサ3、インバータ4、複数の電流センサ5、モータ制御装置6を備える。なお、モータ制御装置6は、回転角センサ3を備える構成であってもよい。モータ制御装置6は、電流センサ5を備える構成であってもよい。
【0016】
モータ1は、モータ制御装置6によって駆動が制御される電動モータである。例えば、モータ1は、上記車両の走行用モータである。
本実施形態ではモータ1は、三相(U、V、W)のブラシレスモータである。具体的には、モータ1は、永久磁石を有するロータ(不図示)と、三相(U相、V相、W相)それぞれに対応するコイルLu、Lv、Lw(不図示)がロータの回転方向に順に巻装されているステータ(不図示)とを備えている。そして、各相のコイルLu、Lv、Lwのそれぞれは、インバータ4に接続されている。
【0017】
バッテリ2は、上記車両に搭載されている。バッテリ2は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。バッテリ2は、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることもできる。さらに、バッテリ2は、交流電源からの出力を直流に整流する装置であってもよい。
【0018】
回転角センサ3は、モータ1の回転角を検出する。モータ1の回転角は、所定の基準回転位置からの上記ロータの電気角θである。回転角センサ3は、検出した電気角θをモータ制御装置6に出力する。例えば、回転角センサ3は、レゾルバを備えてもよい。
【0019】
インバータ4は、モータ制御装置6から出力されたPWM(Pulse Width Modulation)信号に基づいて、バッテリ2からの直流電力を交流電力に変換する。そして、インバータ4は、変換した交流電力をモータ1に供給することでモータ1を駆動する。インバータ4は、モータ制御装置6によりPWM制御される。
【0020】
例えば、インバータ4は、各相に対応した3つのスイッチングレグを備えている。各スイッチングレグを構成する上アーム及び下アームの2つスイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」という。)は、GBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であってもよいし、FET(Field Effective Transistor;電界効果トランジスタ)であってもよい。
そして、インバータ4は、モータ制御装置6から出力される制御信号に基づいて、各スイッチングレグにおける上アーム及び下アームのスイッチング素子をスイッチングする。すなわち、各上記スイッチング素子は、制御端子がモータ制御装置6に接続されている。そして、モータ制御装置6から各制御端子に制御信号が入力する。なお、制御端子は、いわゆるゲート端子やベース端子である。
【0021】
複数の電流センサ5は、三相(U、V、W)の各相電流を検出する。すなわち、複数の電流センサ5は、U相のコイルLuに流れる相電流値(以下、「U相電流値」という。)Iu、V相のコイルLvに流れる相電流値(以下、「V相電流値」という。)Iv、及びW相のコイルLwに流れる相電流値(以下、「W相電流値」という。)Iwを検出する。例えば、複数の電流センサ5は、インバータ4とモータ1との間に設けられている。電流センサ5は、各相の相電流を検出する構成であれば特に限定されないが、例えば、トランスを備えたカレントトランス(CT)やホール素子を備えた電流センサである。また、電流センサ5は、シャント抵抗を備え、当該シャント抵抗の両端の電圧から相電流を検出してもよい。
【0022】
モータ制御装置6は、回転角センサ3からの電気角θの情報を用いてインバータ4をPWM制御する。これにより、モータ制御装置6は、モータ1の駆動を制御する。モータ制御装置6は、インバータ4の駆動を制御することで、上記車両に搭載されているバッテリ2からの直流電力を所定の交流電力に変換してモータ1に供給する。
モータ制御装置6は、CPU又はMPUなどのマイクロプロセッサ、MCUなどのマイクロコントローラなどにより構成されてよい。例えば、モータ制御装置6は、いわゆるモータECUである。
【0023】
以下に、本実施形態に係るモータ制御装置6の構成について、具体的に説明する。以下に、本実施形態に係るモータ制御装置6の構成を説明する。
【0024】
本実施形態に係るモータ制御装置6は、トルク制御部10、三相/dq変換部11、回転数演算部12、電流制御部13、dq/三相変換部14、電圧位相演算部15、同期制御部16及びPWM制御部17を備える。
【0025】
トルク制御部10は、外部からトルク指令値T*を取得する。トルク指令値T*は、モータ1の出力トルクの目標値である。トルク制御部10は、トルク指令値Tに基づいて、モータ1のd軸電流の目標値であるd軸電流指令値Id*と、モータ1のq軸電流の目標値であるq軸電流指令値Iq*と、を生成する。そして、トルク制御部10は、生成したd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を電流制御部13に出力する。なお、トルク制御部10は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*の生成に、電気角θを用いてもよい。
【0026】
三相/dq変換部11は、電流センサ5が検出したU相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwを取得する。そして、三相/dq変換部11は、取得したU相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwを、回転角センサ3から取得した電気角θを用いて、dq座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する。
三相/dq変換部11は、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを電流制御部13に出力する。
【0027】
回転数演算部12は、回転角センサ3から出力されるモータ1の電気角θに基づいて、回転数(例えば、rpm(revolutions per minute))Nを演算する。回転数演算部12は、演算した回転数Nを電流制御部13及び同期数切替判定部20のそれぞれに出力する。なお、回転数演算部12は、回転数Nに代えて、モータ1の電気角速度ωを演算してもよい。
【0028】
電流制御部13は、トルク制御部10から取得したd軸電流指令値Id*と、三相/dq変換部11から取得したd軸電流値Idとの偏差Δdを求める。そして、電流制御部13は、回転数Nを用いて、偏差Δdに対してPI演算を実行することで、偏差Δdをゼロに近づけるためのd軸の電圧であるd軸電圧指令値Vd*を算出する。
電流制御部13は、トルク制御部10から取得したq軸電流指令値Iq*と、三相/dq変換部11から取得したq軸電流値Iqとの偏差Δqを求める。そして、電流制御部13は、回転数Nを用いて、偏差Δqに対してPI演算を実行することで、偏差Δqをゼロに近づけるためのq軸の電圧であるq軸電圧指令値Vq*を算出する。
電流制御部13は、算出したd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、dq/三相変換部14及び電圧位相演算部15のそれぞれに出力する。
【0029】
dq/三相変換部14は、回転角センサ3から電気角θを取得する。dq/三相変換部14は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電流制御部13から取得する。dq/三相変換部14は、電気角θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、モータ1におけるUVW相の各相の電圧指令値であるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。そして、dq/三相変換部14は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*をそれぞれ電圧指令信号MとしてPWM制御部17に出力する。電圧指令信号Mは、変調波である。
【0030】
電圧位相演算部15は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に基づいて、モータ1に印加する電圧(以下、「印加電圧」という。)の位相指令値(以下、「電圧位相指令値」という。)φvを演算する。電圧位相指令値φvは、印加電圧の位相の目標値である。電圧位相演算部15は、電圧位相指令値φvを同期制御部16に出力する。
【0031】
同期制御部16は、dq/三相変換部14で求められた電圧指令信号M(d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*)の位相に対しキャリア波Cの位相を同期させる同期PWM制御を行う。具体的には、同期制御部16は、電圧指令信号Mの一周期におけるキャリア波Cの数である同期数Sを切り替えながら同期PWM制御を行う。例えば、同期制御部16は、回転数Nや電圧指令信号Mの周波数に応じて同期数Sを切り替える。ここで、同期数は、3の倍数であることが望ましい。
【0032】
同期制御部16は、同期PWM制御において、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り替える場合には、同期数Sを第1同期数S1に制御する第1期間T1と同期数Sを第2同期数S1に制御する第2期間T2との間に、キャリア波Cの周波数(すなわち、キャリア周波数)fcを所定の目標値(以下、「キャリア周波数目標値」という。)fcthまで徐々に変化させる第3期間T3を設ける。
以下に、本実施形態に係る同期制御部16の構成について説明する。
【0033】
本実施形態に係る同期制御部16は、同期数切替判定部20、目標キャリア周波数設定部21及びリミット部22を備える。
【0034】
同期数切替判定部20は、回転数演算部12で演算された回転数Nに基づき、同期数Sを切り替える信号である同期数切替信号を目標キャリア周波数設定部21に供給する。例えば、同期数切替判定部20は、回転数演算部12で演算された回転数Nが所定値に到達した場合には同期数切替信号を目標キャリア周波数設定部21に供給する。
【0035】
例えば、同期数切替判定部20は、回転数演算部12で演算された回転数Nに応じて同期数Sを決定してもよい。例えば、同期数切替判定部20は、予め設定された計算式やテーブルに基づき同期数Sを決定してもよい。これら計算式やテーブルは、例えば回転数Nに基づいて、同期数Sが決定できるように、実験的又は理論的に定めればよい。予め設定されたテーブルを用いる場合には、複数の回転数Nの範囲と、その範囲毎に関連付けられた同期数Sとを備えるルックアップテーブル(第1ルックアップテーブル)を不図示の記憶部に予め記憶されていてもよい。そして、同期数切替判定部20は、回転数演算部12で演算された回転数Nに対応する同期数Sを上記第1ルックアップテーブルから取得し、取得した同期数Sを第2同期数Sとして目標キャリア周波数設定部21に供給してもよい。
【0036】
目標キャリア周波数設定部21は、回転角センサ3から電気角θを取得する。目標キャリア周波数設定部21は、電圧位相演算部15から電圧位相指令値φvを取得する。そして、目標キャリア周波数設定部21は、電気角θ及び電圧位相指令値φvに基づいてキャリア波Cの周波数fc(キャリア周波数目標値fcth)を決定する。そして、目標キャリア周波数設定部21は、同期数切替信号を取得した場合には、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り換えたキャリア波Cの周波数fcであるキャリア周波数目標値fcthをリミット部22に出力する。
【0037】
リミット部22は、現在のキャリア周波数fcをキャリア周波数目標値fcthまで変化させるにあたって、キャリア周波数fcの変化量を規制しながら、キャリア周波数fcをPWM制御部17に出力する。例えば、キャリア周波数目標値fcthがキャリア周波数fc2であるとする。この場合には、リミット部22は、現在のキャリア周波数fc1からキャリア周波数fc2へ変更するにあたって、キャリア周波数fcが一気にキャリア周波数f1からキャリア周波数fc2へ変更されないように、キャリア周波数fcの変化量を所定の変化量(以下、「規制変化量」という。)Δfに規制する。したがって、キャリア周波数fcをfc1からfc2まで下げる場合には、PWM制御部17に出力されるキャリア周波数fcは、fc、fc-Δf、fc-2Δf、fc-3Δf、…の順に規制変化量Δfだけ徐々に下がっていき、最終的にfc2(キャリア周波数目標値fcth)となる。このように、同期数Sが第1同期数S1から第2同期数S2に変更される場合には、PWM制御に用いられるキャリア周波数fcは、一気にキャリア周波数目標値fcthまで変更するのではなく、所定の規制変化量Δfで段階的に変化する。なお、規制変化量Δfでキャリア周波数fcが段階的に変化している期間は、上記第3期間T3である。
【0038】
PWM制御部17は、リミット部22から供給されたキャリア周波数fcに対応するキャリア波Cを生成する。そして、PWM制御部17は、キャリア波Cと電圧指令信号Mとを比較する。PWM制御部17は、比較の結果、キャリア波Cより電圧指令信号Mの振幅が大きい期間にHiレベルの信号を出力し、キャリア波Cより電圧指令信号Mの振幅が小さい期間にLoレベルの信号を出力することでPWM信号をインバータ4のスイッチング素子に出力する。
【0039】
次に、本実施形態に係る同期数Sの切り替え方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る同期数Sの切り替え方法を説明する図である。
【0040】
図2に示すように、同期制御部16は、時刻t0から同期数Sを第1同期数S1(例えば、S1=9)で制御している場合において、時刻t1にて回転数Nに基づいて同期数Sを第2同期数S2(S2=6)に切り替えると判定したとする。この場合には、同期制御部16は、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り換えたときのキャリア周波数fcをキャリア周波数fc2(キャリア周波数目標値fcth)として設定する。
【0041】
そして、同期制御部16は、キャリア周波数fcを現在のキャリア周波数fc1からfc2まで下げるにあたって、キャリア周波数fcを一気に下げずに規制変化量Δfだけ徐々に下げてく。このように、同期制御部16は、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り換える場合には、キャリア周波数fcを徐々に変化させる周波数調整モードに移行して、キャリア周波数fcを一気に下げずに徐々に下げてく。これにより、同期制御部16は、オフセット電流を段階的に下げることが可能となり、各相に大きなピーク電流が流れるのを抑制することができる。オフセット電流は、同期数Sの切り替え前の三相の相電流の平均値(平均相電流値)と、同期数の切り替え後の平均相電流値との差である。オフセット電流が急減に変化するとモータ1の各相に大きな電流が流れてしまう。そこで、同期制御部16は、オフセット電流を緩やかに変化させることで各相に大きなピーク電流が流れるのを抑制する。
【0042】
同期制御部16は、キャリア周波数fcがfc2に到達すると、周波数調整モードを脱出する。そして、同期制御部は、同期数Sを第2同期数S2に制御しながらキャリア周波数fcを制御する。ここで、
図2において、第1期間T1は、時刻t0から時刻t1までの期間であって、同期区間である。
図2において、第2期間T2は、時刻t2以降の期間であって、同期区間である。
図2において、第3期間T1は、時刻t1から時刻t2までの期間であって、例えば、非同期区間である。同期区間とは、電圧指令信号Mとキャリア波Cの位相とが同期している区間である。非同期区間とは、電圧指令信号Mとキャリア波Cの位相とが非同期である区間である。
【0043】
次に、規制変化量Δfの決定方法の一例について、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態に係る規制変化量Δfの決定方法を説明する図である。
図3において、時刻t1からt2、及びt3からt4が上記第3期間t3に相当する。
【0044】
同期制御部16は、
同期数Sを切り替える回転数Nの閾値にヒステリシス(所定量ΔN)を持たせている。したがって、
図3に示すように、同期制御部16は、時刻t1で同期数を12から6に変更するための周波数調整モードに移行し、時刻t2で12から6への同期数Sの変更が完了した後、すぐに同期数を6から12に変更する場合には、回転数Nが時刻t1から所定量ΔN以上変化して
いなければならない。換言すれば、同期制御部16は、回転数Nが時刻t1から所定量ΔN以上変化していれば、同期数Sの変更が可能である。
したがって、
図3に示す例では、同期制御部16は、時刻t1で同期数Sを12から6に変更する第1制御を行い、時刻t1から回転数Nが所定量ΔNだけ下がった時刻t3で同期数を6から12に変更する第2制御を行う場合には、第1制御を時刻t1から時刻t3までの間に完了させる必要がある。
【0045】
ここで、モータ1には、回転数の変動レート(以下、「回転数変動レート」という。)が存在する。回転数変動レート(例えば、rpm/sec)は、1秒間あたりにモータ1の回転数Nが変動する変動量の最大値である。そのため、同期制御部16が最短で第2制御を実行し得る状態となるのは、時刻t1から回転数Nが回転数変動レートで所定量ΔNまで下がった状態である。すなわち、同期制御部16が最短で第2制御を実行し得る状態とは、時刻t1から(所定量ΔN/回転数変動レート)秒だけ経過した状態である。なお、(所定量ΔN/回転数変動レート)秒を「最短切替可能時間ΔTx」と称する。これにより、時刻t3=t1+ΔTxである。
【0046】
したがって、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り替えるにあたって、規制変化量Δfは、最短切替可能時間ΔTx以内にキャリア周波数f1からキャリア周波数fc2まで段階的に変更できるように設定される。例えば、キャリア周波数fcを規制変化量Δfだけ変化させるのに必要な時間を、規制変化量Δfに関わらず一律で時間txと設定した場合には、キャリア周波数f1からキャリア周波数f2へのキャリア周波数fcの変動数(以下、「ステップ数」という。)は、最大で(最短切替可能時間ΔTx/時間tx)である。例えば、(最短切替可能時間ΔTx/時間tx)が5.55である場合には、ステップ数を「5」に設定する。そして、規制変化量Δfは、キャリア周波数f1からf2を差し引いた周波数変化量Δfxをステップ数「5」で除算した値(Δf/5)に設定される。
【0047】
同期制御部16は、第1同期数S1から第2同期数S2に同期数Sを変更する場合には、現在のキャリア周波数f1及びキャリア周波数fc2(キャリア周波数目標値fcth)に基づいて規制変化量Δfを設定してもよい。また、同期制御部16は、第1同期数S1と第2同期数S2との差である周波数変化量Δfxに基づいて規制変化量Δfを設定してもよい。この場合には、同期制御部16は、最短切替可能時間ΔTx及び時間txの情報を、同期制御部16の不揮発性メモリに予め格納している。例えば、同期制御部16は、予め設定された計算式やテーブルに基づき規制変化量Δfを決定してもよい。これら計算式やテーブルは、例えば周波数変化量Δfxに基づいて、規制変化量Δfが決定できるように、実験的又は理論的に定めればよい。予め設定されたテーブル(第2ルックアップテーブル)を用いる場合には、周波数変化量Δfxの複数の範囲と、その範囲毎に関連付けられた規制変化量Δfとを備えるルックアップテーブルを上記不揮発性メモリに予め記憶されていてもよい。そして、同期制御部16のリミット部22は、現在のキャリア周波数f1と回転数Nに応じて求められたキャリア周波数fc2とから周波数変化量Δfxを求め、その周波数変化量Δfxに対応する規制変化量Δfを第2ルックアップテーブルから取得してもよい。そして、リミット部22は、取得した規制変化量Δfを用いて、キャリア周波数fcを規制する。
ただし、規制変化量Δfは、これに限定されず、予め上記不揮発性メモリ内に設定されていてもよい。例えば、同期数Sは、3の倍数であり、下限値と上限値とが予め設定されている。そして、同期数Sが切り替わるすべてのパターン(例えば、3→6、6→12等)において、規制変化量Δfは、最短切替可能時間ΔTx以内にキャリア周波数f1からキャリア周波数fc2まで段階的に変更できるように予め設定されていてもよい。
【0048】
次に、本実施形態に係る同期制御部16の同期PWM制御の流れを、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態に係る同期PWM制御のフロー図である。同期制御部16は、モータ制御装置6がPWM制御を実行している場合には、
図4に示す同期PWM制御を一定周期ごとに繰り返す。
【0049】
図4に示すように、同期数切替判定部20は、回転数演算部12から一定周期ごとに回転数Nを取得する(ステップS101)。そして、同期数切替判定部20は、回転数Nに応じて、現在の第1同期数S1を第2同期数S2に切り替えるか否かを判定する(ステップS102)。例えば、同期数切替判定部20は、回転数Nが閾値Nthを超えた場合には、現在の第1同期数S1を第2同期数S2に切り替えると判定する。なお、閾値Nthは、現在の第1同期数S1に応じて設定される変動値であってもよいし、第1同期数S1に関わらず固定値であってもよい。同期制御部16は、現在の第1同期数S1を第2同期数S2に切り替えると判定すると、周波数調整モードに移行して(ステップS103)、同期数切替判定部20から目標キャリア周波数設定部21に同期数切替信号を出力する。なお、同期数切替信号には、第2同期数S2の情報が付加されていてもよい。
【0050】
目標キャリア周波数設定部21は、同期数切替信号を受信すると、電気角θ及び電圧位相指令値φvに基づいてキャリア周波数目標値fcthを決定する(ステップS104)。そして、目標キャリア周波数設定部21は、決定したキャリア周波数目標値fcthをリミット部22に出力する。
【0051】
リミット部22は、現在のキャリア周波数fc1からキャリア周波数目標値fcth(キャリア周波数fc2)へ変更するにあたって、キャリア周波数fcの変化量を規制変化量Δfに規制する。具体的には、リミット部22は、現在のキャリア周波数fcに規制変化量Δfだけ変化させた値を新たなキャリア周波数fcとして求める。例えば、リミット部22は、現在のキャリア周波数fcに規制変化量Δfだけ減算した値を新たなキャリア周波数fcとして求める(ステップS105)。ただし、これに限定されず、リミット部22は、現在のキャリア周波数fcに規制変化量Δfだけ加算した値を新たなキャリア周波数fcとして求めてもよい。
リミット部22は、ステップS105で求めた新たなキャリア周波数fcをPWM制御部17に出力する(ステップS106)。これにより、PWM制御部17は、リミット部22から供給された新たなキャリア周波数fcのキャリア波Cを生成し、キャリア波Cと電圧指令信号Mとに基づいてPWM信号を生成する。そして、PWM制御部17は、PWM信号をインバータ4に出力することでインバータ4をPWM制御する。
【0052】
リミット部22は、ステップS106で新たなキャリア周波数fcをPWM制御部17に出力すると、現在のキャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcthに到達したか否かを判定する(ステップS107)。例えば、リミット部22は、現在のキャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcth以上か否かを判定し、キャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcth以上であると判定した場合には現在のキャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcthに到達したとする。同期制御部16は、現在のキャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcthに到達した場合には、同期数Sが第1同期数S1から第2同期数S2に切り替わったとして周波数調整モードを脱出する(ステップS108)。
【0053】
リミット部22は、現在のキャリア周波数fcがキャリア周波数目標値fcth未満である場合には、ステップS105に移行して、現在のキャリア周波数fcに規制変化量Δfだけ変化させた値を新たなキャリア周波数fcとして求める。これにより、リミット部22は、キャリア周波数fcをキャリア周波数目標値fcthまで徐々に変化させる。これにより、同期数Sgが第1同期数S1から第2同期数S2に切り替わる場合に、モータ1に大きな電流が流れることを抑制することができる。
【0054】
次に、本実施形態に係る同期PWM制御の作用効果について説明する。
従来の同期PWM制御では、
図5に示すように、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り替える場合には、キャリア周波数fcをキャリア周波数fc1からfc2に一気に変更している。したがって、第1同期数S1でインバータ4を制御したときの平均相電流値と第2同期数S2でインバータ4を制御したときの平均相電流値との差であるオフセット電流の変化率が大きくなり、各相に大きなピーク電流が流れてしまう。
そこで、本実施形態に係る同期制御部16は、同期数Sを第1同期数から第2同期数に切り替える場合にはオフセット電流を急変させずに緩やか下げていく。具体的には、同期制御部16は、キャリア周波数を徐々に下げていき、オフセット電流を緩やかに低減させることでモータ1に大きな電流が流れることを抑制する。
【0055】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0056】
以上、説明したように、モータ制御装置6は、同期PWM制御において、同期数Sを第1同期数S1から第2同期数S2に切り替える場合には、キャリア周波数fcを所定の目標値まで徐々に変化させて第2同期数S2に切り替える。
【0057】
このような構成によれば、モータ制御装置6は、インバータ4からモータ1へ流れる相電流の平均値のオフセット電流を緩やかに低減させることができ、モータ1に大きな電流が流れることを抑制することができる。
【0058】
なお、上述したモータ制御装置6の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記モータ制御装置6の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 モータ
4 インバータ
6 モータ制御装置
16 同期制御部