(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】酸素発生用電極
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20250117BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20250117BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20250117BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20250117BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20250117BHJP
【FI】
C25C7/02 302C
C25B11/081
C25B11/063
C25B11/093
C25B11/077
(21)【出願番号】P 2020123597
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】古澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】宮川 恵理
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-026769(JP,A)
【文献】特開昭61-030690(JP,A)
【文献】特表2018-524470(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1900368(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/02
C25B 11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金で形成された基材と、
前記基材上に配置される、混合金属酸化物で形成された触媒層と、を備え、
前記混合金属酸化物を構成する金属元素が、ルテニウム
及びスズ
と、
ビスマス、タンタル、ランタン、ニオブ、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素と、からなり、
前記触媒層中のルテニウムの含有量が、前記触媒層中の全金属元素を基準として、20~70モル%である酸素発生用電極。
【請求項2】
前記触媒層中の
ビスマス、タンタル、ランタン、ニオブ、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の前記金属元素の含有量が、前記触媒層中の全金属元素を基準として、2~20モル%である請求項1に記載の酸素発生用電極。
【請求項3】
チタン又はチタン合金で形成された基材と、
前記基材上に配置される、混合金属酸化物で形成された触媒層と、を備え、
前記混合金属酸化物を構成する金属元素が、ルテニウム、スズ、及びマンガンと、ビスマス、タンタル、ランタン、ニオブ、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素と、からなり、
前記触媒層中のルテニウムの含有量が、前記触媒層中の全金属元素を基準として、20~70モル%である酸素発生用電極。
【請求項4】
前記基材と前記触媒層の間に配置される中間層をさらに備える請求項1~
3のいずれか一項に記載の酸素発生用電極。
【請求項5】
前記触媒層上に配置されるバリア層をさらに備える請求項1~
4のいずれか一項に記載の酸素発生用電極。
【請求項6】
非鉄金属の電解採取プロセス用陽極として用いられる請求項1~
5のいずれか一項に記載の酸素発生用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、ニッケル、亜鉛等の非鉄金属の電解採取するプロセスでは、硫酸酸性又は強酸性の電解液が一般的に用いられている。そして、対極となる陽極には、酸素発生反応を生じさせる酸素発生用電極が用いられている。混合金属酸化物(MMO)を含むコーティング層がその表面に触媒層として設けられたチタン電極は、酸素発生反応に対してより低い過電圧特性を有することから、酸素発生用電極として従来用いられてきた鉛合金電極に代替される、消費エネルギーを低減しうる電解採取プロセス用陽極として提案されている。
【0003】
触媒層を形成するための混合金属酸化物は、通常、活性元素としてのイリジウム(Ir)と、バインダー元素としてのタンタル(Ta)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)等のバルブ金属との複合酸化物である。このような複合酸化物を用いた電極として、IrO2-Ta2O5を含有する触媒層を設けた酸素発生用のチタン電極が提案されている(非特許文献1)。しかし、イリジウムは最も高価で希少な元素の1つであることから、電解採取プロセス用陽極の触媒層を構成するための材料としては、経済性の面で汎用性に欠けるといった課題があった。
【0004】
これに対して、イリジウムに比して安価なルテニウム(Ru)の酸化物(RuO2)が酸素発生反応(OER)に対して高い電極触媒活性を示すことが知られており、イリジウムの代替として注目されている。例えば、イリジウムを用いない複合酸化物であるRuO2-Ta2O5を含有する触媒層を設けたチタン電極が提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Applied Electrochemistry,1991,21,p.335-345
【文献】Proceedings of Copper 2016(要旨集),p.2145-2152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、酸素発生用のチタン電極の触媒層を構成する活性元素としてルテニウムを用いると、触媒層の耐久性が低下するといった課題があった。このため、ルテニウムを活性元素として含有する触媒層を設けた酸素発生用電極は、例えば、複数年にわたる長期間の電解に適用することが困難であるといった課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、導電率が高いとともに、酸性電解液を電解する場合であっても触媒成分が消耗しにくく、長期間の電解が可能な、耐久性に優れた触媒層を備えた酸素発生用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す酸素発生用電極が提供される。
[1]チタン又はチタン合金で形成された基材と、前記基材上に配置される、混合金属酸化物で形成された触媒層と、を備え、前記触媒層が、下記条件(1)及び条件(2)の少なくともいずれかを満たす酸素発生用電極。
条件(1):ルテニウム、スズ、及び3価以上(但し、4価を除く)の多価金属元素を含有する。
条件(2):ルテニウム及びスズを含有するとともに、ルテニウムの含有量が、ルテニウムとスズの合計含有量を基準として、40モル%以上である。
[2]前記触媒層が、前記条件(1)を満たし、前記触媒層中の前記多価金属元素の含有量が、前記触媒層中の全金属元素を基準として、2~20モル%である前記[1]に記載の酸素発生用電極。
[3]前記多価金属元素が、ビスマス、タンタル、ランタン、ニオブ、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の酸素発生用電極。
[4]前記触媒層が、前記条件(1)を満たし、前記触媒層中のルテニウムの含有量が、前記触媒層中の全金属元素を基準として、20~70モル%である前記[1]~[3]のいずれかに記載の酸素発生用電極。
[5]前記触媒層が、マンガンをさらに含有する前記[1]~[4]のいずれかに記載の酸素発生用電極。
[6]前記基材と前記触媒層の間に配置される中間層をさらに備える前記[1]~[5]のいずれかに記載の酸素発生用電極。
[7]前記触媒層上に配置されるバリア層をさらに備える前記[1]~[6]のいずれかに記載の酸素発生用電極。
[8]非鉄金属の電解採取プロセス用陽極として用いられる前記[1]~[7]のいずれかに記載の酸素発生用電極。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電率が高いとともに、酸性電解液を電解する場合であっても触媒成分が消耗しにくく、長期間の電解が可能な、耐久性に優れた触媒層を備えた酸素発生用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の酸素発生用電極の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明の酸素発生用電極の他の実施形態を示す模式図である。
【
図3】本発明の酸素発生用電極のさらに他の実施形態を示す模式図である。
【
図4】本発明の酸素発生用電極のさらに他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の酸素発生用電極は、チタン又はチタン合金で形成された基材と、この基材上に配置される、混合金属酸化物で形成された触媒層とを備える。そして、この触媒層が、下記条件(1)及び条件(2)の少なくともいずれかを満たす。以下、本発明の酸素発生用電極の詳細について説明する。
条件(1):ルテニウム、スズ、及び3価以上(但し、4価を除く)の多価金属元素を含有する。
条件(2):ルテニウム及びスズを含有するとともに、ルテニウムの含有量が、ルテニウムとスズの合計含有量を基準として、40モル%以上である。
【0012】
(基材)
図1は、本発明の酸素発生用電極の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の酸素発生用電極10は、基材2と、基材2上に配置される触媒層4とを備える。基材2は、チタン又はチタン合金で形成されている。基材2の全体形状は特に限定されず、用途に応じて適宜設計することができる。基材の全体形状としては、例えば、板状、棒(柱)状、メッシュ状等を挙げることができる。
【0013】
(触媒層)
基材2上に配置される触媒層4は、混合金属酸化物で形成されている(
図1)。この混合金属酸化物は複数の金属元素の複合酸化物であり、電解用の触媒として機能する。そして、触媒層は、下記条件(1)及び条件(2)の少なくともいずれかを満たす層であり、好ましくは下記条件(1)及び条件(2)のいずれも満たす層である。
条件(1):ルテニウム、スズ、及び3価以上(但し、4価を除く)の多価金属元素を含有する。
条件(2):ルテニウム及びスズを含有するとともに、ルテニウムの含有量が、ルテニウムとスズの合計含有量を基準として、40モル%以上である。
【0014】
触媒層の厚さは特に限定されず、任意に設定することができる。触媒層の厚さは、例えば1~10μmとすればよい。
【0015】
[条件(1)]
触媒層は、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、及び3価以上(但し、4価を除く)の多価金属元素(以下、単に「多価金属元素」とも記す)を含有する。すなわち、触媒層は、活性元素としてのルテニウム、バインダー元素としてのスズ、及び上記の多価金属元素の複合酸化物である混合金属酸化物で形成されている。4価の金属元素であるルテニウムとスズに加えて、これらの4価の金属元素とは価数の異なる多価金属元素を触媒層に共存させることで、導電率を高めることが可能となり、電極電位がより低い酸素発生用電極とすることができる。また、多価金属元素を含有させることで、硫酸酸性等の酸性条件下で電解する場合であっても触媒成分(特に、活性元素であるルテニウム)が消耗しにくく、耐久性に優れた触媒層とすることができる。なお、本明細書における金属元素の価数は、最も安定した状態で存在しうる金属元素の価数(酸化数)を意味する。
【0016】
多価金属元素としては、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、ランタン(La)、ニオブ(Nb)、及びモリブデン(Mo)等を挙げることができる。なかでも、ビスマス、タンタル、ランタン、ニオブが好ましく、ビスマスがさらに好ましい。これらの多価金属元素は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
触媒層が条件(1)を満たす場合において、触媒層中の多価金属元素の含有量は、触媒層中の全金属元素を基準として、2~20モル%であることが好ましく、3.5~15モル%であることがさらに好ましく、4~12モル%であることが特に好ましい。触媒層中の多価金属元素の含有量を上記の範囲内とすることで、導電率をより高めることが可能になるとともに、触媒層の耐久性をさらに向上させることができる。なお、触媒層中の多価金属元素の含有量が少なすぎると、多価金属元素を含有させることで得られる効果がやや不十分になる場合がある。一方、触媒層中の多価金属元素の含有量が多すぎると、活性元素であるルテニウムやバインダー元素であるスズの含有量が相対的に減少するので、触媒活性がやや不十分になる場合がある。なお、触媒層を含む各層中の金属元素の種類及び含有量は、蛍光X線(XRF)分析法等の分析方法によって測定及び算出することができる。
【0018】
触媒層が条件(1)を満たす場合において、触媒層中のルテニウムの含有量は、触媒層中の全金属元素を基準として、20~70モル%であることが好ましく、25~66モル%であることがさらに好ましく、30~55モル%であることが特に好ましい。触媒層中のルテニウムの含有量を上記の範囲内とすることで、より高い触媒活性を得ることができる。なお、触媒層中のルテニウムの含有量が少なすぎると、触媒活性がやや不足する場合がある。一方、触媒層中のルテニウムの含有量が多すぎると、ルテニウム成分の凝集が起こりやすくなる。また、コーティング量に対して、電解反応に有効に寄与しないルテニウムの割合が高くなるとともに、バインダー成分の割合が低くなることにより、耐久性が低下する場合がある。
【0019】
[条件(2)]
触媒層は、ルテニウム(Ru)及びスズ(Sn)を含有するとともに、ルテニウムの含有量が、ルテニウムとスズの合計含有量を基準として、40モル%以上である。すなわち、触媒層は、活性元素としてのルテニウム、及びバインダー元素としてのスズの複合酸化物である混合金属酸化物で形成されている。なお、触媒層は、実質的にルテニウム及びスズのみを金属元素として含有する複合酸化物である混合金属酸化物で形成されていることが好ましい。そして、ルテニウムの含有量を、ルテニウムとスズの合計含有量を基準として40モル%以上、好ましくは43モル%以上、さらに好ましくは45モル%以上とすることで、導電率を高めることが可能となり、電極電位がより低い酸素発生用電極とすることができる。さらに、ルテニウムの含有量を上記の範囲とすることで、硫酸酸性等の酸性条件下で電解する場合であっても触媒成分(特に、活性元素であるルテニウム)が消耗しにくく、耐久性に優れた触媒層とすることができる。
【0020】
[その他の金属元素]
触媒層には、ルテニウムやスズ以外金属元素(その他の金属元素)をさらに含有させることができる。その他の金属元素を触媒層にさらに含有させることで、電解反応に対して、準活性成分として作用させることができる。その他の金属元素としては、マンガン(Mn)等を挙げることができる。すなわち、触媒層は、マンガンをさらに含有することが好ましい。
【0021】
その他の金属元素が触媒層に含まれる場合において、触媒層中のその他の金属元素の含有量は、触媒層中の全金属元素を基準として、通常、10~50モル%、好ましくは20~40モル%である。
【0022】
(中間層)
図2は、本発明の酸素発生用電極の他の実施形態を示す模式図である。
図2に示す酸素発生用電極20は、基材2と触媒層4の間に配置される中間層6をさらに備える。このような中間層を基材と触媒層の間に設けることで、電解によるチタン又はチタン合金製の基材の不動態化を抑制することができるとともに、基材を腐食から保護することが可能となるために好ましい。これにより、耐久性がさらに向上し、より長期間の電解が可能な酸素発生用電極とすることができる。
【0023】
中間層は、各種の金属で形成することができる。中間層を形成するための金属としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、これらの合金、及びこれらの混合酸化物等を挙げることができる。なかでも、チタンとタンタルの合金や、チタンとタンタルの混合酸化物で中間層を形成することが好ましい。中間層の厚さは特に限定されず、任意に設定することができる。中間層の厚さは、例えば0.2~5μmとすればよい。
【0024】
(バリア層)
図3及び4は、本発明の酸素発生用電極のさらに他の実施形態を示す模式図である。
図3に示す酸素発生用電極30は、基材2と、基材2上に配置される触媒層4とを備えるとともに、触媒層4上に配置されるバリア層8をさらに備える。また、
図4に示す酸素発生用電極40は、基材2と、基材2上に配置される触媒層4とを備えるとともに、基材2と触媒層4の間に配置される中間層6と、触媒層4上に配置されるバリア層8とをさらに備える。すなわち、
図3及び4に示す酸素発生用電極30,40は、いずれも、触媒層4上に配置されるバリア層8をさらに備える。このようなバリア層(トップコート層)を触媒層上に設けることで、触媒層中のルテニウム等の成分の消耗を軽減することができるために好ましい。また、電解液中に存在するとともに、電解によって析出しうるヒ素(As)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)等の成分が触媒層の表面に拡散するのを抑制することができる。これにより、耐久性がさらに向上し、より長期間の電解が可能な酸素発生用電極とすることができる。
【0025】
バリア層は、例えば、触媒層を形成するための混合金属酸化物である複数の金属元素の複合酸化物と同様のもので形成することができる。すなわち、バリア層は、ルテニウムやスズの他、ビスマス等の前述の多価金属元素の複合酸化物である混合金属酸化物で形成することができる。バリア層中のルテニウム等の活性金属元素の含有量は、バリア層中の全金属元素を基準として、0.5~5%であることが好ましい。また、バリア層中のスズ等のバインダー元素の含有量は、バリア層中の全金属元素を基準として、95~99.5モル%であることが好ましい。
【0026】
バリア層の厚さは特に限定されず、任意に設定することができる。バリア層の厚さは、例えば0.5~5μmとすればよい。
【0027】
(酸素発生用電極の用途)
本発明の酸素発生用電極は、導電率が高いとともに、硫酸酸性等の酸性電解液を電解する場合であっても触媒層中のルテニウムが消耗しにくく、長期間の電解に適した耐久性を有する。このため、本発明の酸素発生用電極は、例えば、非鉄金属の電解採取用陰極(カソード)と組み合わせて用いられる、非鉄金属の電解採取プロセス用陽極(電解採取用陽極(アノード))として有用である。さらには、印加される電流密度が10A/m2以下の電解プロセスに用いられる酸素発生用電極として有用である。
【0028】
(酸素発生用電極の製造方法)
本発明の酸素発生用電極は、混合金属酸化物からなる触媒層を基材上に形成することで製造することができる。基材上に触媒層を形成するには、例えば、各種金属や各種金属の塩等を所望とする比率で含有するコーティング液を調製するとともに、必要に応じてブラスト処理やエッチング処理等の表面処理を施した基材の表面に調製したコーティング液を塗布して塗工層を形成する。次いで、適当な温度条件下で焼成することで、混合金属酸化物からなる触媒層が基材上に形成され、目的とする酸素発生用電極を得ることができる。なお、コーティング液の塗布と焼成を繰り返すことで、形成される触媒層の厚さや金属元素の含有量を制御することができる。焼成温度は、通常、450~550℃、好ましくは480~520℃とすればよい。
【0029】
触媒層を形成する前に、基材上に中間層を形成することもできる。基材上に中間層を形成するには、前述の触媒層を形成する場合と同様に、まず、各種金属や各種金属の塩等を所望とする比率で含有するコーティング液を基材の表面に塗布して塗工層を形成する。次いで、適当な温度条件下で焼成することで、基材上に中間層を形成することができる。コーティング液の塗布と焼成を繰り返すことで、形成される中間層の厚さや金属元素の含有量を制御することができる。焼成温度は、通常、450~550℃、好ましくは480~520℃とすればよい。形成された中間層上に、前述の手順にしたがって触媒層を形成することができる。
【0030】
また、中間層は、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ溶射法等によっても、所望とする中間層を基材上に形成することができる。
【0031】
触媒層上にバリア層を形成するには、前述の触媒層を形成する場合と同様に、まず、各種金属や各種金属の塩等を含有するコーティング液を触媒層の表面に塗布して塗工層を形成する。次いで、適当な温度条件下で焼成することで、触媒層上にバリア層を形成することができる。コーティング液の塗布と焼成を繰り返すことで、形成されるバリア層の厚さや金属元素の含有量を制御することができる。焼成温度は、通常、450~550℃、好ましくは480~520℃とすればよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0033】
<基材の前処理>
100mm×100mm×1mmのチタン製のメッシュ基材を用意した。このメッシュ基材を、空気雰囲気下、590℃で60分間焼鈍した後、アルミナ(#60)を用いてブラスト処理した。沸騰した20%塩酸に浸漬して12分間エッチング処理した後、イオン交換水で洗浄及び乾燥させて、前処理済みの基材を得た。
【0034】
<中間層の形成>
(方法(A))
Ta-Ti合金ターゲットを蒸発源とするアークイオンプレーティング装置に前処理済みの基材をセットした。そして、表1に示す被覆条件にしたがって、Ta-Ti合金からなる中間層を基材の表面に形成した。
【0035】
【0036】
(方法(B))
270g/LのTiCl4溶液、125g/LのTaCl5溶液、及び10%塩酸水溶液を混合して、Ti:Ta=50:50(モル比)のコーティング液を調製した。前処理済みの基材の表面に調製したコーティング液を刷毛塗りして塗布した後、60℃で10分間乾燥した。電気マッフル炉内で、空気雰囲気下、520℃で10分間焼成した後、室温まで空冷した。コーティング液の塗布から空冷までのサイクルを、コーティング量が1.3g/m2(金属質量換算)となるまで繰り返して、Ta-Tiの混合酸化物からなる中間層を基材の表面に形成した。
【0037】
<酸素発生用電極の製造>
(実施例1)
[触媒層の形成]
国際公開第2005/014885号に記載の手順にしたがって、1.65mol/Lのスズ(Sn)ヒドロキシアセトクロリド錯体(SnHAC)溶液を調製した。国際公開第2010/055065号に記載の手順にしたがって、0.9mol/Lのルテニウム(Ru)ヒドロキシアセトクロリド錯体(RuHAC)溶液を調製した。BiCl3を10%塩酸水溶液に溶解させて、80g/LのBi溶液を調製した。Mn(NO3)2・6H2Oを10%酢酸水溶液に溶解させて、130g/LのMn溶液を調製した。RuHAC溶液、Mn溶液、SnHAC溶液、Bi溶液、及び10%酢酸水溶液を混合して、Ru:Mn:Sn:Bi=33:20:43:4(モル比)のコーティング液を調製した。前述の方法(A)によって、その表面に中間層を形成した基材の中間層に調製したコーティング液を刷毛塗りして塗布した後、60℃で10分間乾燥した。電気マッフル炉内で、空気雰囲気下、520℃で10分間焼成した後、室温まで空冷した。コーティング液の塗布から空冷までのサイクルを、コーティング量が10g/m2(Ru及びMnの質量換算)となるまで繰り返して、中間層上に触媒層を形成した。
【0038】
[バリア層の形成]
RuHAC溶液、SnHAC溶液、Bi溶液、及び10%酢酸水溶液を混合して、Sn:Bi:Ru=95:2:3(モル比)のコーティング液を調製した。調製したコーティング液を触媒層に刷毛塗りして塗布した後、60℃で10分間乾燥した。電気マッフル炉内で、空気雰囲気下、520℃で10分間焼成した後、室温まで空冷した。コーティング液の塗布から空冷までのサイクルを、コーティング量が3g/m2(Snの質量換算)となるまで繰り返して触媒層層上にバリア層を形成し、酸素発生用電極を得た。
【0039】
(実施例2~11、比較例1~3)
表2に示す層構成となるように各材料を用いるとともに、表2に示す条件で焼成等を実施したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、酸素発生用電極を製造した。なお、ポストベークは、触媒層を形成後、電気マッフル炉内で、空気雰囲気下、520℃で1時間保持することで実施した。また、触媒層を形成するためのコーティング液に用いるタンタル(Ta)源、ランタン(La)源、ニオブ(Nb)源、及びイリジウム(Ir)源として、以下に示すものを用いた。
・タンタル(Ta)源:125g/LのTaCl5溶液
・ランタン(La)源:La(NO3)3・6H2O
・ニオブ(Nb)源:ニオブ(V)酸シュウ酸アンモニウム水和物
・イリジウム(Ir)源:20.5%の塩化イリジウム酸溶液
【0040】
【0041】
<評価>
(電極電位の測定)
以下に示す方法により、製造した酸素発生用電極の酸素発生条件下での電極電位(V)を測定した。結果を表3に示す。
・電流遮断法
・電解液:150g/L硫酸水溶液
・電解液温度:50℃
・作用極面積:10mm×10mm
・対極:Zr板(20mm×70mm)
・参照極:硫酸第一水銀(Hg/Hg2SO4)
【0042】
【0043】
(耐久性試験)
以下に示す条件にしたがって、酸素発生用電極(触媒層)の耐久性試験を行った。
・電解液:150g/L硫酸水溶液
・電解液温度:40℃
・陽極面積:20mm×50mm
・陰極:Zr板(30mm×70mm)
・陽極に印加した電流密度:300A/m2
【0044】
一定時間経過後のコーティング残量をXRF分析法により測定し、活性金属元素(Ru、Mn、Ir)の消耗量(g/m2)を算出した。また、算出した消耗量と電解時間から、活性金属元素(Ru、Mn、Ir)の消耗速度(mg/m2/h)を算出した。結果を表4に示す。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の酸素発生用電極は、非鉄金属の電解採取プロセス用陽極として、或いは印加される電流密度が10A/m2以下の電解プロセスに用いられる酸素発生用電極として、有用である。
【符号の説明】
【0047】
10,20,30,40:酸素発生用電極
2:基材
4:触媒層
6:中間層
8:バリア層