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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021080264
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174456
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 考文
(72)【発明者】
【氏名】岸本 光平
(72)【発明者】
【氏名】田中 壱成
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-098780(JP,A)
【文献】特開2007-138472(JP,A)
【文献】特開2011-026811(JP,A)
【文献】特開2000-234443(JP,A)
【文献】特開2000-73584(JP,A)
【文献】特開2017-218855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造体と、複数階で構成された地上構造体と、を有する既存構造物と、
前記地上構造体の既存外周柱の外側に設けられた外側補強柱と、
前記既存外周柱の内側に設けられ、前記地下構造体と前記地上構造体の下層階とに渡るとともに、該下層階において前記既存外周柱を挟んで前記外側補強柱と対向する内側補強柱と、
を備える耐震補強構造。
【請求項2】
前記地上構造体の一の外壁面に沿って配置された複数の前記既存外周柱の外側にそれぞれ設けられた複数の前記外側補強柱と、
前記地上構造体の前記外壁面に沿って配置された既存外周梁の外側に設けられ、隣り合う前記外側補強柱に架設された外側補強梁と、
を備え、
前記内側補強柱は、前記一の外壁面の両端に位置する前記既存外周柱の内側にそれぞれ設けられている、
請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記地上構造体の前記下層階において、前記内側補強柱と前記外側補強柱とに挟まれている前記既存外周柱の部分に接続される外周壁は、耐震壁とされている、
請求項1又は請求項2に記載の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存外周柱及び既存外周梁の外側に、外側補強柱及び外側補強梁をそれぞれ設ける耐震補強構造が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-098780号公報
【文献】特開2010-159543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、地上構造体及び地下構造体を有する既存構造物において、既存外周柱の外側に、地上構造体及び地下構造体に渡る外側補強柱を設ける場合、地下構造体の外側の地盤を掘削する必要があるため、外側補強柱の施工に手間がかかる。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、地上構造体及び地下構造体を有する既存構造物において、既存構造物の耐震性能を高めつつ、施工性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の耐震補強構造は、地下構造体と、複数階で構成された地上構造体と、を有する既存構造物と、前記地上構造体の既存外周柱の外側に設けられた外側補強柱と、
前記既存外周柱の内側に設けられ、前記地下構造体と前記地上構造体の下層階とに渡るとともに、該下層階において前記既存外周柱を挟んで前記外側補強柱と対向する内側補強柱と、を備える。
【0007】
請求項1に係る耐震補強構造によれば、既存構造物は、地下構造体と、複数階で構成された地上構造体とを有している。地上構造体の既存外周柱の外側には、外側補強柱が設けられている。また、地上構造体の既存外周梁の外側には、外側補強梁が設けられている。この外側補強梁は、外側補強柱に接合されている。これらの外側補強柱及び外側補強梁によって地上構造体の外壁面を補強することにより、地上構造体の外壁面の開口率を確保しつつ、既存構造物の耐震性能を高めることができる。
【0008】
また、外側補強柱が設けられた既存外周柱の内側には、内側補強柱が設けられている。内側補強柱は、地下構造体と地上構造体の下層階とに渡るとともに、当該下層階において、既存外周柱を挟んで外側補強柱と対向している。
【0009】
これにより、例えば、地震時に、地上構造体に作用する引抜き力が、地上構造体の下層階において、外側補強柱から既存外周柱を介して内側補強柱に伝達される。内側補強柱に伝達された引抜き力は、内側補強柱から地下構造体に伝達される。したがって、既存構造物の耐震性能が高められる。
【0010】
また、本発明では、地下構造体の外側の地盤を掘削して、地下構造体の既存外周柱の外側に外側補強柱を設ける必要がない。したがって、施工性を向上させることができる。
【0011】
このように本発明では、既存構造物の耐震性能を高めつつ、施工性を向上することができる。
【0012】
請求項2に記載の耐震補強構造は、請求項1に記載の耐震補強構造において、前記地上構造体の一の外壁面に沿って配置された複数の前記既存外周柱の外側にそれぞれ設けられた複数の前記外側補強柱と、前記地上構造体の前記外壁面に沿って配置された既存外周梁の外側に設けられ、隣り合う前記外側補強柱に架設された外側補強梁と、を備え、前記内側補強柱は、前記一の外壁面の両端に位置する前記既存外周柱の内側にそれぞれ設けられている。
【0013】
請求項2に係る耐震補強構造によれば、複数の外側補強柱は、地上構造体の一の外壁面に沿って配置された複数の既存外周柱の外側にそれぞれ設けられている。また、外側補強梁は、地上構造体の一の外壁面に沿って配置された既存外周梁の外側に設けられ、隣り合う外側補強柱に架設されている。これらの外側補強柱及び外側補強梁によって地上構造体の一の外壁面を補強することにより、当該外壁面の開口率を確保しつつ、既存構造物の耐震性能を高めることができる。
【0014】
ここで、地震時には、転倒モーメントによって、地上構造体の一の外壁面の両端に位置する既存外周柱に、大きな引抜き力が作用する。この対策として本発明では、地上構造体の一の外壁面の両端に位置する既存外周柱の内側に、内側補強柱がそれぞれ設けられている。内側補強柱は、地上構造体の下層階と地下構造体とに渡っている。
【0015】
これにより、地震時に、一の外壁面の両端に位置する既存外周柱に作用する引抜き力が、内側補強柱を介して地下構造体の既存外周柱に伝達される。したがって、既存構造物の耐震性能を効率的に高めることができる。
【0016】
請求項3に記載の耐震補強構造は、請求項1又は請求項2に記載の耐震補強構造において、前記地上構造体の前記下層階において、前記内側補強柱と前記外側補強柱とに挟まれている前記既存外周柱の部分に接続される外周壁は、耐震壁とされている。
【0017】
請求項3に係る耐震補強構造によれば、地上構造体の下層階において、内側補強柱と外側補強柱とに挟まれている既存外周柱の部分に接続される外周壁は、耐震壁とされている。つまり、地上構造体の下層階には、耐震壁が設けられている。
【0018】
ここで、地上構造体の下層階の既存外周柱は、地震時の転倒モーメントによって発生する引抜き力を、内側補強柱に伝達する伝達経路となる。そのため、地上構造体の下層階の既存外周柱に、地震力(水平力)を負担させると、例えば、当該既存外周柱を補強する外側補強柱の必要断面積が、地上構造体の上層階の外側補強柱の必要断面積よりも大きくなる可能性がある。
【0019】
この対策として本発明では、前述したように、地上構造体の下層階に、耐震壁が設けられている。この耐震壁によって、地上構造体の下層階に作用する地震力を負担することにより、当該下層階の既存外周柱が負担する地震力が低減される。
【0020】
これにより、例えば、地上構造体の下層階の既存外周柱を補強する外側補強柱の必要断面積を大きくせずに、地震時に、既存外周柱から内側補強柱に引抜き力を伝達することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、地上構造体及び地下構造体を有する既存構造物において、既存構造物の耐震性能を高めつつ、施工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る耐震補強構造が適用された既存構造物の一の外壁面を示す立面図である。
図2図1の2-2線断面図である。
図3図1の3-3線断面図である。
図4図1の4-4線断面図である。
図5図1の5-5線断面図である。
図6図1の6-6線断面図である。
図7図1の7-7線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る耐震補強構造について説明する。
【0024】
(既存構造物)
図1には、本実施形態に係る耐震補強構造が適用された既存構造物10の一の外壁面10Wが示されている。既存構造物10は、既存基礎12と、複数の既存外周柱20と、複数の既存外周梁30とを備えている。
【0025】
なお、各図に示される矢印Xは、既存構造物10の複数の外壁面のうち一の外壁面10Wの横幅方向を示している。また、矢印Yは、既存構造物10の一の外壁面10Wと直交する方向(奥行方向)を示している。さらに、矢印Zは、既存構造物10の高さ方向(上下方向)を示している。
【0026】
既存基礎12は、地盤Gを掘削した根切り底に敷設された基礎底版(直接基礎)とされている。この既存基礎12上には、複数の既存外周柱20が立てられている。複数の既存外周柱20は、既存構造物10の外壁面10Wに沿って配置されるとともに、当該外壁面10Wの幅方向に間隔を空けて配置されている。
【0027】
なお、既存基礎12は、直接基礎に限らず、杭基礎等であっても良い。
【0028】
図2に示されるように、既存外周柱20は、鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。この既存外周柱20の内部には、内部鉄骨22、複数の柱主筋24、及び複数のせん断補強筋26が埋設されている。内部鉄骨22は、例えば、クロスH形鋼とされている。なお、既存外周柱20は、鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、鉄筋コンクリート造であっても良い。
【0029】
図1に示されるように、隣り合う既存外周柱20には、複数の既存外周梁30が架設されている。複数の既存外周梁30は、外壁面10Wに沿って配置されている。また、複数の既存外周梁30は、既存構造物10の各階に対応するように、上下方向に間隔を空けた状態で、隣り合う既存外周柱20にそれぞれ架設されている。これらの既存外周梁30及び既存外周柱20によって、架構(ラーメン架構)14が構成されている。架構14は、その内側に開口16を有している。
【0030】
図3に示されるように、既存外周梁30は、鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。この既存外周梁30の内部には、内部鉄骨32、複数の梁主筋34、及び複数のせん断補強筋36が埋設されている。内部鉄骨32は、例えば、H形鋼とされている。なお、既存外周梁30は、鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、鉄筋コンクリート造であっても良い。
【0031】
図1に示されるように、既存構造物10は、地下構造体10Bと、地上構造体10Aとを有している。地下構造体10Bは、既存構造物10のうち、地下に配置された部位とされている。この地下構造体10Bは、複数階で構成されている。
【0032】
図4に示されるように、地下構造体10Bは、前述した既存基礎12と、既存地下外壁18とを有している。既存地下外壁18は、既存構造物10の外壁面10Wに沿って設けられている。この既存地下外壁18は、山留め壁として土圧を負担している。
【0033】
なお、地下構造体10Bは、複数階に限らず、少なくとも一階で構成することができる。
【0034】
地上構造体10Aは、既存構造物10のうち、地上に配置された部位とされている。この地上構造体10Aは、複数階で構成されている。この地上構造体10Aの外壁面10Wは、外殻補強フレームによって補強されている。
【0035】
(外殻補強フレーム)
図1に示されるように、外殻補強フレームは、複数の外側補強柱40と、隣り合う外側補強柱40に架設される複数の外側補強梁50とを有している。複数の外側補強柱40は、地上構造体10Aの外壁面10Wにおける既存外周柱20の外側にそれぞれ設けられている。
【0036】
(外側補強柱)
各外側補強柱40は、地上構造体10Aの一階F1から最上階に渡って設けられている。また、図4に示されるように、各外側補強柱40の柱脚部40Lは、地盤Gに埋設されておらず、地上構造体10Aの一階F1の既存外周柱20の柱脚部20Lの外側に配置されている。
【0037】
図2に示されるように、外側補強柱40は、鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。この外側補強柱40の内部には、内部鉄骨42、複数の柱主筋44、及び複数のせん断補強筋46が埋設されている。内部鉄骨32は、例えば、H形鋼とされている。
【0038】
外側補強柱40は、既存外周柱20に沿って配置されている。また、外側補強柱40の横幅(矢印X方向の幅)は、既存外周柱20の横幅よりも広くされている。この外側補強柱40は、複数のあと施工アンカー48を介して、既存外周柱20の外側面に接合されている。複数のあと施工アンカー48のうち、一部のあと施工アンカー48は、既存外周柱20の内部鉄骨22のフランジに溶接されている。この外側補強柱40によって、既存外周柱20が補強されている。
【0039】
なお、外側補強柱40の横幅は、適宜変更可能であり、既存外周柱20の横幅と同じでも良いし、既存外周柱20の横幅よりも狭くても良い。また、外側補強柱40と既存外周柱20との接合構造は、あと施工アンカー48に限らず、適宜変更可能である。さらに、外側補強柱40は、鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、鉄筋コンクリート造や、鉄骨造であっても良い。
【0040】
図3に示されるように、外側補強梁50は、鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。この外側補強梁50の内部には、内部鉄骨52、複数の梁主筋54、及び複数のせん断補強筋56が埋設されている。内部鉄骨32は、例えば、H形鋼とされている。
【0041】
(外側補強梁)
外側補強梁50は、既存外周柱20に沿って配置されている。また、外側補強梁50の梁成及び梁幅は、既存外周梁30の梁成及び梁幅よりも広くされている。この外側補強梁50は、複数のあと施工アンカー58、及び増打ちコンクリート60を介して、既存外周梁30の外側面に接合されている。この外側補強梁50によって、既存外周梁30が補強されている。
【0042】
なお、外側補強梁50の梁成及び梁幅は、適宜変更可能であり、既存外周梁30の梁成及び梁幅と同じでも良いし、既存外周梁30の梁成及び梁幅よりも短くても良い。また、外側補強梁50と既存外周梁30との接合構造は、あと施工アンカー58及び増打ちコンクリート60に限らず、適宜変更可能である。また、増打ちコンクリート60は、適宜省略可能である。さらに、外側補強梁50は、鉄骨鉄筋コンクリート造に限らず、鉄筋コンクリート造や、鉄骨造であっても良い。
【0043】
(内側補強梁)
ここで、図1に示されるように、地震時には、転倒モーメントMによって、既存構造物10の外壁面10Wの幅方向の両端、すなわち既存構造物10の角部に位置する既存外周柱20(以下、「既存隅柱20C」という)に、大きな引抜き力Pが作用する。
【0044】
この対策として本実施形態では、内側補強柱70がそれぞれ設けられている。内側補強柱70は、地上構造体10Aの一階F1と地下構造体10Bの地下一階B1とに渡っている。これにより、地震時に、既存隅柱20Cに作用する引抜き力Pが、内側補強柱70を介して地下構造体10Bに伝達される。
【0045】
なお、地上構造体10Aの一階F1は、地上構造体10Aの下層階の一例である。
【0046】
図4に示されるように、内側補強柱70は、既存隅柱20Cの内側面に沿って設けられている。この内側補強柱70の柱頭部70Uは、地上構造体10Aの一階F1における既存隅柱20Cの柱頭部20Uの内側に位置している。一方、内側補強柱70の柱脚部70Lは、地下構造体10Bの地下一階B1における既存隅柱20Cの柱脚部20Lの内側に配置されている。
【0047】
内側補強柱70は、地上構造体10Aの一階F1において、既存隅柱20Cを挟んで外側補強柱40と対向している。換言すると、地上構造体10Aの一階F1では、外側補強柱40及び内側補強柱70によって、既存隅柱20Cが外壁面10Wの面外方向(矢印Y方向)の両側から挟み込まれている。
【0048】
図5に示されるように、内側補強柱70は、鉄筋コンクリート造とされている。この内側補強柱70の内部には、複数の柱主筋74、及び複数のせん断補強筋76が埋設されている。
【0049】
内側補強柱70の横幅(矢印X方向の幅)は、既存隅柱20Cの横幅と略同じとされている。また、内側補強柱70の縦幅(矢印Y方向の幅)は、既存隅柱20Cの縦幅よりも広くされている。この内側補強柱70は、地上構造体10Aの一階F1において、複数のあと施工アンカー78を介して、既存隅柱20Cの内側面に接合されている。複数のあと施工アンカー78のうち、一部のあと施工アンカー78は、既存隅柱20Cの内部鉄骨22のフランジに溶接されている。
【0050】
これと同様に、図6に示されるように、内側補強柱70は、地下構造体10Bの地下一階B1(図1参照)において、複数のあと施工アンカー78を介して、既存隅柱20Cの内側面に接合されている。複数のあと施工アンカー78のうち、一部のあと施工アンカー78は、既存隅柱20Cの内部鉄骨22のフランジに溶接されている。
【0051】
複数のあと施工アンカー78は、内側補強柱70の材軸方向に間隔を空けて設けられている。また、複数のあと施工アンカー78は、内側補強柱70の材軸方向の全長に渡って設けられている。この内側補強柱70によって、地上構造体10Aの一階F1及び地下構造体10Bの地下一階B1の既存隅柱20Cが補強されている。
【0052】
図4に示されるように、内側補強柱70は、地上構造体10Aの一階F1から、当該一階F1のスラブ94を貫通し、地下構造体10Bの地下一階B1に渡っている。内側補強柱70には、地上構造体10Aの一階F1のスラブ94を支持する既存外周直交梁90の端部90Eが埋設されている。なお、既存外周直交梁90は、既存外周梁30と直交する既存外周梁である。
【0053】
図7に示されるように、既存外周直交梁90は、鉄骨鉄筋コンクリート造とされている。この既存外周直交梁90の内部には、内部鉄骨92、及び図示しない複数の梁主筋及びせん断補強筋が埋設されている。
【0054】
内側補強柱70の横幅は、既存外周直交梁90の梁幅よりも広くされている。この内側補強柱70の柱主筋74は、既存外周直交梁90の梁幅方向の両側に配筋されている。また、既存外周直交梁90と内側補強柱70とは、柱主筋74を囲むせん断補強筋としてのはかま筋80によって接続されている。
【0055】
(耐震壁)
図1に示されるように、地上構造体10Aの一階F1における外壁面10Wの両端側の架構14には、耐震壁100がそれぞれ設けられている。耐震壁100は、例えば、鉄筋コンクリート造とされている。この耐震壁100は、架構14を構成する既存隅柱20C、既存外周柱20、及び上下の既存外周梁30に接続されている。この耐震壁100は、外側補強柱40と内側補強柱70とに挟まれている既存隅柱20Cの部分に接続されている。
【0056】
耐震壁100は、主として、既存構造物10の外壁面10Wの横幅方向(矢印X方向)の地震力(水平力)を負担する。この耐震壁100によって、地上構造体10Aの一階F1の既存隅柱20Cが負担する地震力が低減されている。
【0057】
なお、耐震壁100は、鉄筋コンクリート造に限らず、鋼製耐震壁等であっても良い。
【0058】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0059】
図1に示されるように、本実施形態に係る耐震補強構造によれば、既存構造物10は、地下構造体10Bと、複数階で構成された地上構造体10Aとを有している。地上構造体10Aの一の外壁面10Wは、外殻補強フレームによって補強されている。
【0060】
具体的には、外殻補強フレームは、複数の外側補強柱40と、複数の外側補強梁50とを有している。複数の外側補強柱40は、地上構造体10Aの一の外壁面10Wに沿って配置された複数の既存外周柱20の外側にそれぞれ設けられている。
【0061】
また、外側補強梁50は、地上構造体10Aの一の外壁面10Wに沿って配置された複数の既存外周梁30の外側にそれぞれ設けられ、隣り合う外側補強柱40に架設されている。これらの外側補強柱40及び外側補強梁50によって地上構造体10Aの外壁面10Wを補強することにより、当該外壁面10Wの開口16の開口率を確保しつつ、既存構造物10の耐震性能を高めることができる。
【0062】
ここで、前述したように、地震時には、転倒モーメントMによって、地上構造体10Aの外壁面10Wの両端に位置する既存隅柱20Cに、大きな引抜き力Pが作用する。
【0063】
この対策として、例えば、地下構造体10Bにおける既存隅柱20Cの外側の地盤Gを掘削し、当該既存隅柱20Cの外側に外側補強柱40を設けることが考えられる。しかしながら、この場合、地盤Gの掘削に手間がかかる。
【0064】
これに対して本実施形態では、図4に示されるように、既存隅柱20Cの内側に、内側補強柱70が設けられている。内側補強柱70は、地上構造体10Aの一階F1と地下構造体10Bの地下一階B1とに渡るとともに、当該一階F1において、既存外周柱20を挟んで外側補強柱40と対向している。
【0065】
これにより、例えば、地震時に、地上構造体10Aに作用する引抜き力Pが、地上構造体10Aの一階F1において、外側補強柱40から既存隅柱20Cを介して内側補強柱70に伝達される。内側補強柱70に伝達された引抜き力Pは、内側補強柱70から地下構造体10Bの既存隅柱20C及び既存地下外壁18を介して既存基礎12に伝達される。
【0066】
そのため、本実施形態では、地下構造体10Bの外側の地盤Gを掘削して、既存隅柱20Cの外側に外側補強柱40を設けずに、既存構造物10の耐震性能を高めることができる。したがって、施工性を向上させることができる。
【0067】
なお、既存地下外壁18は、山留め壁としても機能するため、耐力が高い。そのため、地下構造体10Bの地下二階以下には、内側補強柱70を設けなくても、引抜き力Pが既存隅柱20C及び既存地下外壁18を介して既存基礎12に伝達される。
【0068】
このように本実施形態では、既存構造物10の耐震性能を高めつつ、施工性を向上することができる。
【0069】
また、地上構造体10Aの一階F1の外壁面10Wには、耐震壁100が設けられている。耐震壁100は、例えば、外壁面10Wにおける両端側の架構14にそれぞれ設けられており、一階F1の既存隅柱20Cに接続されている。
【0070】
ここで、地上構造体10Aの一階F1の既存隅柱20Cは、地震時の転倒モーメントMによって発生する引抜き力Pを、内側補強柱70に伝達する伝達経路となる。そのため、地上構造体10Aの一階F1の既存隅柱20Cに、地震力(矢印X方向の水平力)を負担させると、例えば、当該既存隅柱20Cを補強する外側補強柱40の必要断面積が、地上構造体10Aの上層階の外側補強柱40の必要断面積よりも大きくなる可能性がある。
【0071】
この対策として本実施形態では、前述したように、地上構造体10Aの一階F1に、耐震壁100が設けられている。この耐震壁100によって、地上構造体10Aの一階F1に作用する地震力(矢印X方向の水平力)を負担することにより、当該一階F1の既存隅柱20Cが負担する地震力が低減される。
【0072】
これにより、例えば、地上構造体10Aの一階F1の外側補強柱40の必要断面積を大きくせずに、地震時に、既存隅柱20Cから内側補強柱70に引抜き力Pを伝達することができる。
【0073】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0074】
上記実施形態では、地上構造体10Aの一階F1(下層階)の外壁面10Wにおける両端側の架構14に耐震壁100がそれぞれ設けられている。しかし、耐震壁100の数や配置は、適宜変更可能である。したがって、例えば、一階F1の外壁面10Wにおける全ての架構14に耐震壁100をそれぞれ設けても良いし、当該一階F1の外壁面10Wにおける中央の架構14にのみ耐震壁100を設けても良い。また、地上構造体10Aの二階以上の外壁面10Wにおける架構14に、耐震壁100を設けることも可能である。さらに、耐震壁100は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0075】
また、上記実施形態では、地上構造体10Aの一階F1と地下構造体10Bの地下一階B1とに渡って内側補強柱70が設けられている。しかし、内側補強柱70は、例えば、地上構造体10Aの下層階と地下構造体10Bの地下二階以下とに渡って設けられても良い。
【0076】
なお、ここでいう地上構造体10Aの下層階とは、例えば、地上構造体10Aの1/3以下の階とされる。この場合、内側補強柱70が設けられた地上構造体10Aの下層階における一の外壁面10Wの架構14には、耐震壁100を適宜設けることができる。
【0077】
また、上記実施形態では、地上構造体10Aの外壁面10Wにおける既存隅柱20Cの内側に内側補強柱70が設けられている。しかし、内側補強柱70の本数や配置は、適宜変更可能であり、例えば、地上構造体10Aの外壁面10Wにおける既存隅柱20C以外の既存外周柱(既存側柱)20の内側に設けられても良い。また、既存構造物10には、少なくとも一本の内側補強柱70を設けることができる。
【0078】
また、上記実施形態では、地上構造体10Aの一の外壁面10Wに複数の外側補強梁50が設けられている。しかし、外側補強梁50の本数や配置は、適宜変更可能である。また、外側補強梁50は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0079】
また、上記実施形態では、地上構造体10Aの一の外壁面10Wに複数の外側補強柱40が設けられている。しかし、外側補強柱40の本数や配置は、適宜変更である。また、地上構造体10Aの一の外壁面10Wには、少なくとも一本の外側補強柱40を設けることができる。
【0080】
また、上記実施形態に係る耐震補強構造は、地上構造体10Aの一の外壁面10Wに適用されている。しかし、上記実施形態に係る耐震補強構造は、地上構造体10Aの複数の外壁面のうち、少なくとも1つの外壁面に適用することができる。
【0081】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
10 既存構造物
10A 地上構造体
10B 地下構造体
10W 外壁面(地上構造体の一の外壁面)
20 既存外周柱
20C 既存隅柱(地上構造体の一の外壁面の両端に位置する既存外周柱)
30 既存外周梁
40 外側補強柱
50 外側補強梁
70 内側補強柱
100 耐震壁
F1 一階(地上構造体の下層階)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7