(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】希土類鉄系リング磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/053 20060101AFI20250117BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250117BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250117BHJP
B22F 5/10 20060101ALI20250117BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20250117BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20250117BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20250117BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01F1/053 160
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F5/10
B22F3/10 C
B22F3/14 101B
B22F9/04 C
H01F41/02 G
(21)【出願番号】P 2021086763
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】花島 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056390(WO,A1)
【文献】特開昭64-000703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/053
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 5/10
B22F 3/10
B22F 3/14
B22F 9/04
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類鉄系磁石粉末を放電プラズマ焼結した希土類鉄系リング磁石であって、
前記希土類鉄系磁石粉末は、磁気的に等方性の超急冷粉であり、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含み、保磁力が1500kA/m以上であり、
前記希土類鉄系リング磁石は、圧環強度が100MPa以上であり、初期減磁率が10%未満である、
希土類鉄系リング磁石。
【請求項2】
前記希土類鉄系リング磁石は、炭素量が2000ppm以下であり、平均結晶粒径が200nm未満である、
請求項1に記載の希土類鉄系リング磁石。
【請求項3】
前記希土類鉄系磁石粉末は、前記希土類元素として少なくともNdを含む、
請求項1又は2に記載の希土類鉄系リング磁石。
【請求項4】
(a)超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る工程と、
(b)前記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製
し、前記コンパウンドを、20μm以上125μm以下の範囲に分級する工程と、
(c)前記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する工程と、
(d)前記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットし、次いで、減圧下で、前記グリーン体に対して5MPa以上15MPa以下の圧力を印加しながら、250A/cm
2以上550A/cm
2未満の電流密度で通電し加熱を行い、前記グリーン体を脱脂して、脱脂体を得る工程と、
(e)減圧下で、前記脱脂体に対して15MPa以上200MPa以下の圧力を印加しながら、550A/cm
2以上1050A/cm
2以下の電流密度で通電し加熱を行い、前記脱脂体を焼結して、希土類鉄系リング磁石を得る工程と、を含み、
前記希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む、
希土類鉄系リング磁石の製造方法。
【請求項5】
さらに、(f)不活性ガス雰囲気中で、焼結して得られた前記希土類鉄系リング磁石に対して印加している前記圧力及び通電している前記電流密度を徐々に小さくしながら、前記希土類鉄系リング磁石を冷却する工程を含む、
請求項4に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
【請求項6】
前記希土類鉄系磁石粉末は、前記希土類元素として少なくともNdを含む、
請求項4又は5に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記ポリスチレンは、前記希土類鉄系磁石粉末100wt%に対して、2wt%以下の量で混合する、
請求項4~6のいずれか1項に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、前記希土類鉄系磁石粉末と、前記ポリスチレンと、さらに滑剤とを混合してコンパウンドを作製する工程であり、
前記工程(b)において、前記滑剤は、前記希土類鉄系磁石粉末及び前記ポリスチレンの合計100wt%に対して、0.2wt%以下の量で混合する、
請求項4~7のいずれか1項に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類鉄系リング磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の小型化、高性能化に伴い、高磁気特性を有する希土類永久磁石が、モータ等の回転機器、一般家電製品、音響機器、自動車の車載用機器、医療機器及び一般産業機器等の幅広い分野で使用されている。希土類永久磁石として、希土類磁石粉末と樹脂とを混合して成形した磁石、いわゆる希土類ボンド磁石がある。この希土類ボンド磁石は成形の自由度を有しているが、希土類磁石粉末を結合させるバインダーとして有機材料である樹脂を使用しているため、耐熱性が低く、高温環境下となる車載用機器では使用が困難となる場合がある。
【0003】
これに対して、有機材料である樹脂を用いずに放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)により希土類磁石粉末同士を結合する希土類鉄系永久磁石の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1、2の希土類鉄系永久磁石の製造方法では、まず、希土類元素が13~15原子%、Coが0~20原子%、Bが4~11原子%、残部がFe及び不可避不純物からなる薄帯を粉砕して得られる超急冷希土類鉄系薄片をキャビティに充填する。次に、超急冷希土類鉄系薄片の集合体を、所定の減圧下で、所定の圧力で圧縮し、放電プラズマ焼結する。これにより、樹脂を用いずに希土類鉄系薄片同士を結合して希土類鉄系永久磁石を得ることができる。特許文献1、2の製造方法によって得られる希土類鉄系永久磁石は、バインダーとして有機材料である樹脂を使用しないため、希土類ボンド磁石に比べて耐熱性が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-198104号公報
【文献】特開平3-284809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超急冷法によって作製される薄帯を粉砕して得られる希土類鉄系磁石粉末は、扁平な形状を有しているため、希土類鉄系磁石粉末をキャビティに充填する際、流動性や充填性が低いという問題がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、金型に希土類鉄系磁石粉末を充填する際の充填性が改善され、生産性が改善されるとともに、機械的強度に優れる希土類鉄系リング磁石が得られる希土類鉄系リング磁石の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法は、(a)超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る工程と、(b)前記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製する工程と、(c)前記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する工程と、(d)前記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットし、次いで、減圧下で、前記グリーン体に対して5MPa以上15MPa以下の圧力を印加しながら、250A/cm2以上550A/cm2未満の電流密度で通電し加熱を行い、前記グリーン体を脱脂して、脱脂体を得る工程と、(e)減圧下で、前記脱脂体に対して15MPa以上200MPa以下の圧力を印加しながら、550A/cm2以上1050A/cm2以下の電流密度で通電し加熱を行い、前記脱脂体を焼結して、希土類鉄系リング磁石を得る工程と、を含み、前記希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、金型に希土類鉄系磁石粉末を充填する際の充填性が改善され、生産性が改善されるとともに、機械的強度に優れる希土類鉄系リング磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法を具体的に説明するための図である。
【
図2】
図2は、試料1、2の圧環強度の測定結果を示す図である。
【
図3】
図3は、試料1、3、4の圧環強度の測定結果を示す図である。
【
図4】
図4は、試料1、3、4の初期減磁率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
<実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法>
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法は、後述する工程(a)~(e)を含む。さらに、工程(f)を含んでいてもよい。
図1は、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法を具体的に説明するための図である。
【0013】
工程(a)では、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る。通常、希土類鉄系磁石薄帯を粉砕後、分級して、希土類鉄系磁石粉末を得る。超急冷法によって作製された希土類鉄系磁石粉末は、通常扁平形状であり、53μm以上150μm以下の範囲に分級することが好ましい。なお、得られた希土類鉄系磁石粉末も磁気的に等方性である。希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素として少なくともNdを含むことが好ましく、例えばNd-Fe-B系磁石である。Nd-Fe-B系磁石は、三元系正方晶化合物であるNd2Fe14B型化合物相を主相として含む。また、Nd-Fe-B系磁石は、通常希土類リッチ相(Ndリッチ相)などをさらに含む。Nd-Fe-B系磁石は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。希土類鉄系磁石粉末(具体的にはNd-Fe-B系磁石)には、Nd以外の希土類元素が含まれていてもよい。Nd以外の希土類元素としては、プラセオジム(Pr)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。Nd以外の希土類元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。Nd-Fe-B系磁石において、Feは、一部(通常50原子%未満)がCoで置換されていてもよい。また、Nd-Fe-B系磁石は、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ガリウム(Ga)が挙げられる。その他の元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む。希土類元素の量が多いほど、希土類リッチ相の量も増加する。実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法では、得られた希土類鉄系リング磁石において、工程(b)で混合するポリスチレンに由来する炭素が少量残存する場合がある。しかしながら、希土類リッチ相の量が多い希土類鉄系磁石粉末を用いているため、このような残存炭素に起因する磁気特性の低下を抑制できる。具体的には、希土類元素の量が多いほど、元々の保磁力を高くできるため、残存炭素によって多少保磁力が低下したとしても、十分な保磁力が維持できる。また、希土類元素の量が多いほど、初期減磁、角型比についても同様に、残存炭素による影響が抑えられる。しかしながら、希土類元素の量が19at%を超えると、磁化が低下しすぎたり、保磁力が大きくなりすぎて着磁性が低下したりする場合がある。一方、希土類元素の量が13at%未満であると、焼結時の磁気特性低下を起こす場合がある。また、残存炭素に起因する磁気特性の低下の抑制が不十分な場合がある。希土類鉄系磁石粉末は、保磁力が1500kA/m以上であることが好ましい。
【0014】
工程(b)では、上記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製する。ポリスチレンは、酸素原子を含まないため、得られた希土類鉄系リング磁石の磁気特性を低下させ難い。工程(b)では、具体的には、ポリスチレンを有機溶媒に溶解して樹脂溶液を作製する。ここで、有機溶媒は、ポリスチレンを溶解でき、また、後述する乾燥の際に蒸発できる溶媒であればよい。有機溶媒としては、メチルエチルケトンが好適に用いられる。希土類鉄系磁石粉末とこの樹脂溶液とを混練する。次いで、混練して得られた混練物を乾燥し、有機溶媒を蒸発させた後、解砕する。解砕して得られた解砕物を分級し、コンパウンドを得る。工程(b)において、ポリスチレンは、希土類鉄系磁石粉末100wt%に対して、2wt%以下の量で混合することが好ましく、1wt%以上2wt%以下の量で混合することがより好ましい。上記量が2wt%を超えると、工程(e)でカーバイドを生成して、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量が多くなり、磁気特性を低下させすぎる場合がある。また、上記量が1wt%未満であると、工程(c)における充填性の向上が不十分な場合がある。コンパウンドは、125μm以下の範囲に分級することが好ましい。また、コンパウンドは、20μm以上125μm以下の範囲に分級することがより好ましい。上記範囲に分級すると、工程(c)における充填性をより向上できる。また、得られた希土類鉄系リング磁石の機械的強度も向上できる。
【0015】
工程(c)では、上記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する。コンパウンドは、コンパウンドの作製に用いた磁石粉末単独に比較して流動性が高い。このため、コンパウンドは金型に対して速やかに充填される。すなわち、コンパウンド化により充填性が向上できる。充填時間を短くできることから、希土類鉄系リング磁石の生産性も向上できる。さらに、磁粉による金型への傷も抑制できる。工程(c)の圧縮成形の際には、コンパウンドが入った金型に対して200MPa以上1000MPa以下の圧力を印加することが好ましい。これにより、コンパウンドの粒子間が密に接触したグリーン体が得られる。また、工程(c)の圧縮成形は、通常室温で行われる。金型は、上記圧力範囲に耐えられる材質で作製されていればよい。なお、工程(d)、(e)で用いる複合金型は、放電プラズマ焼結(SPS)用であるため、上記圧力範囲よりも低い圧力でないと変形、破損する懸念がある。金型の形状及び大きさは、最終的に作製したい希土類鉄系リング磁石の形状及び大きさを考慮して、好ましい形状(リング状)及び大きさの成形体が得られるように、適宜決めることができる。例えば、完成品仕様から成形体寸法及び重量を決定しておけば加工レスを達成することもできる。すなわち、ネットシェイプ成形の希土類鉄系リング磁石が製造可能となる。また、工程(c)で得られる成形体のサイズは、工程(d)、(e)で用いる複合金型の寸法より若干小さくしておくことが好ましい。これにより、複合金型への投入が容易になる利点がある。最終的に例えば厚さが0.8mm以上2.5mm以下であるような薄い希土類鉄系リング磁石を作製する場合は、工程(c)においても、金型にコンパウンドを薄く充填する必要がある。この場合であっても、本実施形態では、予めコンパウンド化しているため充填性に優れる。一方、磁石粉末単独では、より慎重に時間をかけて充填を行う必要が生じ煩雑である。
【0016】
工程(d)では、上記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットする。次いで、減圧下で、上記グリーン体に対して5MPa以上15MPa以下の圧力を印加しながら、250A/cm2以上550A/cm2未満の電流密度で通電し加熱を行い、上記グリーン体を脱脂して、脱脂体を得る。なお、具体的には、上記グリーン体に対してON-OFF直流パルス通電を行う。
【0017】
複合金型としては、セラミックスと超硬合金とを組み合わせた複合金型(温間成形金型)が好適に用いられる。上記脱脂の際の加熱は、10-3Pa以上101Pa以下の減圧下で行うことが好ましい。また、通電するため、上記グリーン体に上記範囲の圧力を印加することが好ましい。さらに、上記グリーン体に上記範囲の電流密度で通電すると、室温から上記グリーン体を、ポリスチレンが分解する温度(具体的には350℃以上400℃以下の温度)まで加熱でき、好適に脱脂を行うことができる。
【0018】
工程(e)では、減圧下で、上記脱脂体に対して15MPa以上200MPa以下の圧力を印加しながら、550A/cm2以上1050A/cm2以下の電流密度で通電し加熱を行い、上記脱脂体を焼結して、希土類鉄系リング磁石(バルク体)を得る。工程(e)は、工程(d)に引き続き、そのまま放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いて行うことができる。なお、具体的には、上記脱脂体に対して引き続きON-OFF直流パルス通電を行う。
【0019】
上記焼結の際の加熱は、10-3Pa以上101Pa以下の減圧下で行うことが好ましい。また、効率良く緻密化するため、上記脱脂体に上記範囲の圧力を印加することが好ましい。さらに、上記脱脂体に上記範囲の電流密度で通電すると、上記脱脂体を、脱脂の際の温度から焼結が進む温度(具体的にはNd-Fe-B系磁石が液相を形成できる到達温度、例えば600℃以上750℃以下の到達温度)まで加熱でき、好適に焼結を行うことができる。結晶粒の成長を抑制するために、到達温度での保持時間を5分以内として、焼結を終了することが望ましい。さらに、焼結は、変化率が0となるところで加熱温度の保持なく終了することがより好ましい。ここで変化率とは、焼結時の変位(パンチの動いた距離など)を時間微分したものである。
【0020】
本実施形態では、予め成形体としてから脱脂及び放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、複合金型への磁粉充填が簡便である。また、予め成形体としてから脱脂及び放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、加熱効率が向上され、焼結時間を短くでき、また、焼結温度を下げられる。これにより、得られる希土類鉄系リング磁石において、保磁力や角型性などの磁気特性の低下を抑制できる。また、従来のように、磁石粉末をそのままの状態で用いて放電プラズマ焼結(SPS)を行うと、磁石粉末の疎密によるイレギュラーな電流経路が生ずる場合がある。それにより、局所的な粗大粒が発生し、初期減磁が低下するなど、磁気特性がばらつく場合がある。これに対して、本実施形態では、予め成形体としてから脱脂及び放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、磁気特性がばらつき難く、品質が改善できる。また、予め成形体としてから脱脂及び放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、金型高さや焼結装置チャンバ内高さを必要最小限にできる。さらに、本実施形態では、希土類鉄系リング磁石の型抜きが容易に行える。厚さが薄い希土類鉄系リング磁石であっても、同様である。これは、工程(d)の脱脂中にグリーン体から抜けていく炭素が離型剤の役割を果たすためと考えられる。また、複合金型には、グリーン体の挿入前に離型処理行ってもよいが、上記のように型抜きが容易であるため、離型剤の量を減らすことができる。また、上記のように型抜きが容易であるため、金型が汚れ難く、清掃の手間も抑えられ、結果として金型寿命も向上する。なお、グリーン体は、リング状であるため、円柱状に比べて、脱脂の際に炭素が抜けていきやすく、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量を小さくできる。
【0021】
本実施形態では、脱脂が終了してから緻密化を行うことにより、希土類鉄系リング磁石中の炭素量を充分に減らすことができるため、機械的強度を向上できると考えられる。
【0022】
工程(e)で得られた希土類鉄系リング磁石は、通常室温又は取り出し可能な温度域まで冷却する。冷却は、圧力を印加しながら行ってもよく、不活性ガスによる大気圧下または減圧下で行ってもよいが、下記のように行うことが好ましい。すなわち、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法は、さらに、不活性ガス雰囲気中で、工程(e)で焼結して得られた希土類鉄系リング磁石に対して印加している上記圧力及び通電している上記電流密度を徐々に小さくしながら、希土類鉄系リング磁石を冷却する工程(f)を含むことが好ましい。ここで、上記圧力を「徐々に小さくする」とは、連続的に小さくする場合と、段階的に小さくする場合とを含む。また、上記電流密度を「徐々に小さくする」とは、連続的に小さくする場合と、段階的に小さくする場合とを含む。その後、通常室温又は取り出し可能な温度域となってから、金型から希土類鉄系リング磁石を取り出す。
【0023】
不活性ガス雰囲気としては、N2ガス雰囲気、Arガス雰囲気が挙げられる。具体的には、金型の内側及び外側に不活性ガスを流しながら冷却すると、冷却時間を短くすることができる。また、工程(e)で印加している上記圧力を0MPaとなるまで、例えば3分以上5分以下かけて、徐々に小さくすることが好ましい。また、工程(e)で印加している上記電流密度を0A/cm2となるまで、例えば3分以上5分以下かけて、徐々に小さくすることが好ましい。不活性ガス雰囲気中で、徐々に冷却を行うと、高温領域での熱履歴による磁石粉末の結晶粒の成長を抑えられると共に、酸化も抑えられる。その結果、磁気特性を向上できる。
【0024】
さらに、得られた希土類鉄系リング磁石に着磁する着磁工程を行ってもよい。着磁工程は、公知の方法により行うことができる。なお、必要に応じて、得られた希土類鉄系リング磁石に表面処理(防錆処理)を施す表面処理工程を行い、次いで、表面処理後の希土類鉄系リング磁石を着磁する着磁工程を行ってもよい。表面処理工程では、例えばニッケル(Ni)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)などのめっき処理、アルミ(Al)蒸着、及び樹脂塗装などの表面処理を実施する。
【0025】
さらに、上記工程(b)は、上記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンと、さらに滑剤とを混合してコンパウンドを作製する工程であってもよい。具体的には、上記工程(b)において、上記滑剤は、上記希土類鉄系磁石粉末及びポリスチレンの合計100wt%に対して、0.2wt%以下の量で混合してもよい。また、上記滑剤は、上記希土類鉄系磁石粉末及びポリスチレンの合計100wt%に対して、0.05wt%以上0.2wt%以下の量で混合することがより好ましい。滑剤を用いると、工程(c)における充填性をさらに向上できる。上記量が0.2wt%を超えると、工程(e)でカーバイドを生成して、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量が多くなり、磁気特性の低下や、強度の低下を引き起こす場合がある。また、上記量が0.05wt%未満であると、工程(c)におけるさらなる充填性の向上が不十分な場合がある。
【0026】
具体的には、
図1の工程(b)の分級の後に滑剤を混合する。すなわち、分級したコンパウンドに、さらに滑剤を混合する。この場合、工程(c)では、滑剤を混合したコンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する。滑剤としては、ステアリン酸カルシウムが好適に用いられる。
【0027】
<実施形態に係る希土類鉄系リング磁石>
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、希土類鉄系磁石粉末を放電プラズマ焼結した希土類鉄系リング磁石であって、上記希土類鉄系磁石粉末は、磁気的に等方性の超急冷粉であり、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含み、保磁力が1500kA/m以上である。また、上記希土類鉄系リング磁石は、圧環強度が100MPa以上であり、初期減磁率が10%未満である。好ましくは、上記希土類鉄系リング磁石は、炭素量が2000ppm以下であり、平均結晶粒径が200nm未満である。ここで、平均結晶粒径は、SEMやTEMで磁石組織を観察しその画像から個々の結晶粒径を求め、その平均値である。
【0028】
上記希土類鉄系磁石粉末は、例えば上記希土類元素として少なくともNdを含むことが好ましい。上記希土類鉄系磁石粉末の詳細については、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法で述べたものと同様である。
【0029】
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、含有する炭素量が抑えられているため、磁気特性にも優れる。また、機械的強度にも優れる。
【0030】
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、厚さが薄くてもよく、例えば厚さが0.8mm以上2.5mm以下の範囲にある。厚さが薄い方が脱脂しやすい。また、外径は、例えば10mm以上50mm以下の範囲にある。実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、保磁力が例えば1200kA/m以上1800kA/m以下である。
【0031】
このような希土類鉄系リング磁石は、例えば、上述した実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法により得られる。
【0032】
ところで、特開2013-191612号公報には、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンドを生成し、生成したコンパウンドをシート状に成形してグリーンシートを作製し、このグリーンシートをバインダー分解温度で仮焼処理を行い、続いてグリーンシートを放電プラズマ焼結(SPS)することにより希土類永久磁石を得る製造方法が提案されている。
【0033】
特開2013-191612号公報の希土類永久磁石は、Nd-Fe-B系の異方性磁石粉末で、Ndが27~40wt%、Bが0.8~2wt%、Feが60~70wt%からなる。そして、磁石粉末にバインダーを混合してコンパウンドを作製する。バインダーの添加量は、磁石粉末及びバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%~40wt%、より好ましくは2wt%~30wt%、更に好ましくは3wt%~20wt%である。続いて、コンパウンドをシート状に成形してグリーンシートを成形し、グリーンシートをバインダーのガラス転移点又は融点以上に加熱してグリーンシートを軟化させ、磁場を印加して磁場配向を行い、グリーンシートに含まれる磁石の磁化容易軸を所定方向に配向する。そして磁場配向したグリーンシートを所望の形状に打ち抜きし、成形体を成形する。続いて成形体を非酸化性雰囲気(例えば、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)において仮焼処理を行い、バインダーを分解して脱脂する。そして、仮焼処理した成形体を放電プラズマ焼結(SPS)して希土類永久磁石を得る。
【0034】
特開2013-191612号公報の希土類永久磁石の製造方法は、成形したグリーンシートに磁場配向してグリーンシートに含まれる磁石の磁化容易軸を所定方向に配向するため、バインダーの比率が高い(更に好ましくは3wt%~20wt%である)。このため、バインダーを分解する脱脂処理工程に時間を要する。
【0035】
また、磁場配向したグリーンシートを所望の形状に打ち抜きした成形体を成形する。この成形体を非酸化性雰囲気(例えば、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)において仮焼処理を行い、バインダーを分解して脱脂するが、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気において行う必要があり、このような水素を用いた仮焼処理は、安全上、十分な注意が必要であり、そのための設備も必要になる。
【0036】
なお、特開2013-191612号公報の磁粉は異方性の磁石で、磁石合金のインゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉砕することで、粗粉砕磁石粉末を得ている。これに対して、本実施形態では、磁石粉末は、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の超急冷粉を用いるため、放電プラズマ焼結(SPS)によって作製された両者の磁石の平均結晶粒径が異なる。特開2013-191612号公報の磁粉は、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製しているため、超急冷粉に比べて冷却速度が遅いため、磁粉の平均結晶粒径は大きくなり、結果、放電プラズマ焼結(SPS)によって作製された磁石の平均結晶粒径も大きくなる。
【0037】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0038】
[実施例]
〔実験例1〕
成型したグリーン体を金型に挿入し、脱脂工程及び焼結工程を連続して行うが、その際、脱脂工程の影響について、試料1、2に基づいて評価した。
【0039】
[試料1]
自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:13.8at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を粉砕し、53μm~150μmの範囲に分級した。
分級した上記磁石粉末200gに、予め、メチルエチルケトン(MEK)20gに溶解したポリスチレン4gを加え、ドラフトチャンバー内で排気を行いながら、ラボミルで15分間混錬し混練物を得た。
上記混練物を80℃に加熱したオーブンに投入し、30分間乾燥させ、MEKを揮発させた。MEKを揮発させた粉末を乳鉢で解砕し、乾式ふるいにて20μm~125μm以下に分級し、コンパウンドを得た。
次に外径が13mm、内径が11mmであるリング状の金型に上記コンパウンドを充填し、300MPaの圧力を印加して粉末圧縮成型を行い、リング形状のグリーン体を成型した。
成形したグリーン体をセラミックスと超硬合金とを組み合わせた複合金型に挿入し、放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、ロータリーポンプで10-3Torr程度まで真空引きしながら、減圧下で脱脂を行った。具体的には、10MPaの圧力を印加しながら、400A/cm2の電流密度を印加して所定時間保持して脱脂を行った。
引き続き、120MPaの圧力を印加しながら、800A/cm2の電流密度を印加し700℃付近まで昇温して加熱することにより、焼結を連続的に行った。
焼結終了後は、圧力及び電流をすぐに遮断して、チャンバにN2ガスを導入し、大気圧下で冷却を行った(焼結終了後は、すぐに圧力を0MPa、電流密度を0A/cm2として、チャンバにN2ガスを導入し、大気圧下で冷却を行った。)。所定の温度に冷却後、離型し、希土類鉄系リング磁石を得た。
試料1をNo.1~No.4の4個作製した。
【0040】
[試料2]
試料1と同様にしてリング形状のグリーン体を成型した。
成形したグリーン体をセラミックスと超硬合金とを組み合わせた複合金型に挿入し、放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、ロータリーポンプで10-3Torr程度まで真空引きしながら、減圧下でパルス通電焼結を行った。具体的には、120MPaの圧力を印加しながら、800A/cm2の電流密度を印加して、室温から700℃付近まで昇温して加熱することにより、脱脂及び焼結を連続的に行った。
焼結終了後は、電流を遮断して、チャンバにN2ガスを導入し、大気圧下で冷却を行った(焼結終了後は、すぐに圧力を0MPa、電流密度を0A/cm2として、チャンバにN2ガスを導入し、大気圧下で冷却を行った。)。所定の温度に冷却後、離型し、希土類鉄系リング磁石を得た。
試料2をNo.1~No.4の4個作製した。
【0041】
表1に、試料1、2の圧環強度の測定結果を示す。また、
図2は、試料1、2の圧環強度の測定結果を示す図である。
図2に示すように、試料2における圧環強度は、試料1に比べて、低い値を示す。この圧環強度の結果から、試料2では、脱脂の段階が不十分であるため、内部にバインダーの残渣が残留し、機械的強度が低下したものと推察される。
【0042】
【0043】
〔実験例2〕
実験例1の脱脂の効果の結果から、試料1の条件で脱脂を行うことで、圧環強度を向上できることが分かる。このため、試料1の脱脂工程及び焼結工程を行った場合について、焼結後の冷却工程における条件と初期減磁との関係を調べた。
【0044】
[試料3]
試料1と同様に焼結工程まで行った。
焼結終了後は、チャンバにN2ガスを導入し、大気圧下で、電流をすぐに遮断することなく、約180秒かけて、電流密度を0A/cm2まで段階的に下げると共に、圧力も120MPaから0MPaまで段階的に下げて冷却を行った。
所定の温度に冷却後、離型し、希土類鉄系リング磁石を得た。
試料3をNo.1~No.4の4個作製した。
【0045】
[試料4]
試料1と同様に焼結工程まで行った。
焼結終了後、複合金型の内側と外側にN2ガスを流しながら、電流をすぐに遮断することなく、約180秒かけて、電流密度を0A/cm2まで段階的に下げると共に、圧力も120MPaから0MPaまで段階的に下げて冷却を行った。
所定の温度に冷却後、離型し、希土類鉄系リング磁石を得た。
試料4をNo.1~No.4の4個作製した。
【0046】
表2に、試料1、3、4の圧環強度及び初期減磁率の測定結果を示す。また、
図3は、試料1、3、4の圧環強度の測定結果を示す図である。
図4は、試料1、3、4の初期減磁率の測定結果を示す図である。
図3に示すように、試料3、4における圧環強度は、試料1に比べて、高い値を示す。この圧環強度の結果から、焼結後の冷却工程においては、焼結後、すぐに電流印加を遮断することなく、所定時間、段階的に印加電流を減少させることで圧環強度の低下を抑制できることが分かる。これは、焼結後、すぐに印加電流を遮断した場合、金型温度が急激に低下するため、熱衝撃や温度分布により被焼結物にひずみが生じるためと推測される。
【0047】
一方、初期減磁率の値を見ると、試料3、4での圧環強度はほぼ同等の値を示すが、試料4の初期減磁率は試料3よりも大幅に小さくなった。試料3は、焼結後、印加電流を段階的に減少させているが、試料4のようにN2ガスを流していないため、僅かな時間ではあるが、高温領域での履歴によって磁石粉末の結晶粒が成長し、その結果、保磁力の低下を招いたものと推察される。試料4によれば、圧環強度が大きく、初期減磁率が小さい、希土類鉄系リング磁石を得ることができることが分かる。
【0048】
【0049】
〔機械的強度の評価及び磁気特性の評価〕
機械的強度については、JIS Z2507に準じる測定により圧環強度を求めた。また、磁気特性については、初期減磁率を求めた。初期減磁率は、得られた希土類鉄系リング磁石を、高温熱暴露(200℃、1時間)させた後、室温で磁束密度を測定し、熱暴露前後での変化率で評価した。
【0050】
〔炭素量、平均結晶粒径〕
実施例で得られた希土類鉄系リング磁石(試料1~4)について、炭素量及び平均結晶粒径を測定した。いずれの希土類鉄系リング磁石も、炭素量は2000ppm以下であり、平均結晶粒径は200nm未満であった。なお、炭素量は、CSアナライザーを用いて燃焼法により測定した。