(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】貯湯式給湯装置
(51)【国際特許分類】
F24H 1/18 20220101AFI20250117BHJP
F24H 9/16 20220101ALI20250117BHJP
F24H 4/02 20220101ALI20250117BHJP
F24H 15/10 20220101ALI20250117BHJP
F24H 15/225 20220101ALI20250117BHJP
F24H 15/32 20220101ALI20250117BHJP
F24H 15/335 20220101ALI20250117BHJP
【FI】
F24H1/18 A
F24H9/16 A
F24H1/18 H
F24H4/02 G
F24H15/10
F24H15/225
F24H15/32
F24H15/335
(21)【出願番号】P 2021091357
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390002886
【氏名又は名称】株式会社長府製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】牛島 亘
(72)【発明者】
【氏名】辻野 勇樹
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-60169(JP,A)
【文献】特開2013-204842(JP,A)
【文献】特開2016-38114(JP,A)
【文献】特開2021-60170(JP,A)
【文献】特開2022-148462(JP,A)
【文献】特開2009-281665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 1/18
F24H 4/02
F24H 9/16
F24H 15/10
F24H 15/225
F24H 15/32
F24H 15/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道管の水が貯湯タンクに給水される通常時に、該貯湯タンク内の湯水を、第1の水栓に供給する貯湯式給湯装置において、
ポンプを有し、前記ポンプが作動して、前記貯湯タンクの下部から取得した湯水を該貯湯タンクの上部又は下部に戻す循環回路と、
前記貯湯タンクの下部からの湯水が、上流側端部が前記循環回路に接続された送水管経由で送られる第2の水栓と、
前記ポンプを作動させて、前記貯湯タンク内の湯水が前記送水管経由で前記第2の水栓から出る非常時給水状態にする制御手段とを備え、
前記非常時給水状態で、前記制御手段は、前記貯湯タンクの下部の湯水の温度が設定温度T未満であることを検出して、前記循環回路を前記貯湯タンクへの湯水の戻しを止めた止水状態にし、前記貯湯タンクの下部の湯水の温度が前記設定温度T以上であることを検出して、前記循環回路を前記貯湯タンクに湯水を戻す循環状態にすることを特徴とする貯湯式給湯装置。
【請求項2】
請求項1記載の貯湯式給湯装置において、前記循環回路は、該循環回路を循環する湯水を加熱する加熱手段を更に有することを特徴とする貯湯式給湯装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の貯湯式給湯装置において、前記循環回路は、該循環回路を、前記循環状態又は前記止水状態にするための流路の切り替えを行う切替手段を更に有し、前記制御手段は、前記貯湯タンクの下部の湯水の温度が前記設定温度T以上であることを検出して、前記循環回路を前記貯湯タンクの下部に湯水を戻す前記循環状態にすることを特徴とする貯湯式給湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯湯タンク内の湯を外部に供給する貯湯式給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
貯湯式給湯装置は、貯湯タンクから出た湯に水道管からの水を混合してなる湯や水道管からの水(以下、湯又は水を「湯水」と言う)を、水道管の水圧を利用して、台所や浴室に設けられた水栓に供給する(特許文献1、2参照)。そのため、通常時、水栓を開くことによって、水栓から湯水を出すことができる。
ところが、自然災害等で水道水供給のインフラが機能しなくなって、水道管の水の流れが停止し、水道管に水圧がかからなくなると、水栓を開いても水栓から湯水が出ない。これに対し、貯湯タンクの下部に排水ホースを設けた貯湯式給湯装置は、水道管の水圧が消失した状態でも、排水ホースから貯湯タンク内の湯水を出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-196887号公報
【文献】特開2017-129328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、この種の貯湯式給湯装置は、重力を利用して排水ホースから湯水を出す設計になっていることから、排水ホースの湯水の出水口は貯湯タンクに配されていた。これを、ポンプの作動により貯湯タンク内の湯水が排水ホースから出るようにすれば、排水ホースの出水口を貯湯タンクから距離を有する位置に設けることが可能となる。
【0005】
しかしながら、この場合、貯湯タンク内の湯水は水道水が混合されることなく、ポンプに吸い込まれるため、ポンプは高温(例えば、70℃)の湯水を吸い込み得る。ポンプに加わる水圧が低く、且つ、ポンプが吸い込む湯水の温度が高いと、ポンプ内で気泡が発生するキャビテーションが生じ易くなる。キャビテーションは、ポンプにエア噛みや騒音を生じさせるという問題を招く要因になり得る。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、水道管の水の流れが停止した状態でのポンプの作動による貯湯タンクの湯水の取り出しを、キャビテーションの発生を抑制して行える貯湯式給湯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る貯湯式給湯装置は、水道管の水が貯湯タンクに給水される通常時に、該貯湯タンク内の湯水を、第1の水栓に供給する貯湯式給湯装置において、ポンプを有し、前記ポンプが作動して、前記貯湯タンクの下部から取得した湯水を該貯湯タンクの上部又は下部に戻す循環回路と、前記貯湯タンクの下部からの湯水が、上流側端部が前記循環回路に接続された送水管経由で送られる第2の水栓と、前記ポンプを作動させて、前記貯湯タンク内の湯水が前記送水管経由で前記第2の水栓から出る非常時給水状態にする制御手段とを備え、前記非常時給水状態で、前記制御手段は、前記貯湯タンクの下部の湯水の温度が設定温度T未満であることを検出して、前記循環回路を前記貯湯タンクへの湯水の戻しを止めた止水状態にし、前記貯湯タンクの下部の湯水の温度が前記設定温度T以上であることを検出して、前記循環回路を前記貯湯タンクに湯水を戻す循環状態にする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る貯湯式給湯装置は、非常時給水状態で、制御手段が、貯湯タンクの下部の湯水の温度が設定温度T未満であることを検出して、循環回路を貯湯タンクへの湯水の戻しを止めた止水状態にし、貯湯タンクの下部の湯水の温度が設定温度T以上であることを検出して、循環回路を前記貯湯タンクに湯水を戻す循環状態にするので、ポンプ内でキャビテーションが発生し易くなる状況、即ち、ポンプが高温の湯水を吸い込む状況となる前に、単位時間当たりにポンプに吸い込まれる湯水の量を増加させることができ、水道管の水の流れが停止した状態でキャビテーションの発生を抑制して、ポンプの作動による貯湯タンクの湯水の取り出しを行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る貯湯式給湯装置の回路図である。
【
図3】貯湯タンクの沸上げの様子を示す説明図である。
【
図4】貯湯タンクの沸上げの様子を示す説明図である。
【
図5】沸上回路を止水状態にした際の非常時給水状態の説明図である。
【
図6】沸上回路を循環状態にした際の非常時給水状態の説明図である。
【
図7】循環状態における実験結果を示す説明図である。
【
図8】止水状態における実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る貯湯式給湯装置10は、水道管11の水が貯湯タンク12に給水される通常時に、貯湯タンク12内の湯水を、第1の水栓13に供給する装置である。
【0010】
貯湯タンク12には、
図1に示すように、複数(本実施の形態では6個)の温度センサ14、14a、14b、14c、14d、14eが取り付けられている。温度センサ14、14a、14b、14c、14d、14eは、温度センサ14が最も高い位置に配され、温度センサ14、14a、14b、14c、14d、14eの順に取り付け位置が低くなっている。
貯湯タンク12の下部には、減圧弁15、温度センサ16及び逆止弁17、18が設けられた水道管11の一端部が連結されている。
【0011】
貯湯タンク12の上部には、下流側端部が第1の水栓13に接続された給湯管20の上端側端部が連結されている。給湯管20には上流側端部から下流側端部に向けて、逆止弁21、混合弁24、水量センサ22及び温度センサ23が設けられ、混合弁24には水道管11の別の端部が連結されている。混合弁24は、
図2に示すように、ICチップ等によって構成された制御手段25に、温度センサ14、14a、14b、14c、14d、14e、16、23及び水量センサ22と共に接続されている。
【0012】
制御手段25には、第1の水栓13に供給する湯水の温度を入力する操作をはじめとする種々の入力操作がなされる操作端末26が接続されている。
制御手段25は、温度センサ14、16、23及び水量センサ22の各計測値を検知し、これらの計測値を基に、貯湯タンク12の上部から供給される湯と水道管11の水の混合弁24による混合比を調整して、混合弁24から第1の水栓13に送られる湯水の温度が操作端末26で設定された温度になるように制御する。
【0013】
また、給湯管20には、
図1に示すように、浴槽Bに湯を供給する湯張り管27の上流側端部及び浴槽Bの湯を加熱する熱交換循環回路28の上流側端部が接続されている。
湯張り管27には、上流側端部から浴槽Bに接続された下流側端部に向けて逆止弁29、混合弁30、水量センサ31、電磁弁32、逆止弁33及び温度センサ34が順に設けられ、混合弁30には水道管11の別の端部が連結されている。混合弁30、水量センサ31、電磁弁32及び温度センサ34は、
図2に示すように、制御手段25に接続されている。
【0014】
操作端末26で浴槽Bの湯張り操作がなされると、制御手段25は、電磁弁32を開いて、混合弁30で混合される貯湯タンク12の上部からの湯水と水道管11の水が浴槽Bに送られるようにし、温度センサ14、16、34及び水量センサ31の各検出値を基に、貯湯タンク12の上部からの湯水と水道管11の水との混合比を調整して、浴槽Bに送られる湯水の温度が、操作端末26で設定された温度となるように制御する。
【0015】
熱交換循環回路28は、
図1に示すように、逆止弁36及びポンプ37を有し、下流側端部が貯湯タンク12に連結されている。浴槽Bには、水位センサ38、水流スイッチ39、温度センサ40及びポンプ41が設けられ、下流側端部が湯張り管27に接続された風呂循環回路42の上流側端部が連結されている。熱交換循環回路28及び風呂循環回路42には、熱交換器43が取り付けられ、ポンプ37、41、水位センサ38、水流スイッチ39及び温度センサ40は、
図2に示すように、制御手段25に接続されている。
【0016】
操作端末26で追焚き操作がなされると、制御手段25は、ポンプ37、41を作動して、貯湯タンク12の上部の湯水が給湯管20の一部及び熱交換循環回路28を通って貯湯タンク12に戻るようにすると共に、浴槽B内の湯水が風呂循環回路42及び湯張り管27の一部を通って浴槽Bに戻るようにする。これによって、熱交換循環回路28を流れる湯水と風呂循環回路42を流れる湯水とが熱交換器43により熱交換されて、風呂循環回路42を流れる湯水が加熱され、浴槽B内の湯水の温度が上昇する。
【0017】
通常時、水道管11内には所定の水圧が生じており、第1の水栓13が開かれると(あるいは、浴槽Bの湯張りがなされると)、水道管11の水圧によって、第1の水栓13から湯水が出て(浴槽Bに湯水が流入して)、貯湯タンク12の上部から送り出された湯と同量の水が水道管11から貯湯タンク12の下部に流入する。そのため、通常時、貯湯タンク12内は湯水で満たされている。
これに対し、水道管11内に所定の水圧が生じていない非常時には、第1の水栓13を開いても、電磁弁32を開いても、貯湯タンク12内の湯水は貯湯タンク12の上部から給湯管20には出ず、第1の水栓13や浴槽Bに湯水が送られることはない。
【0018】
また、貯湯タンク12の下部には、下流側端部が貯湯タンク12の上部及び下部に連結された沸上回路(循環回路の一例)44の上流側端部が連結されている。沸上回路44は、
図1、
図2に示すように、それぞれ制御手段25に接続されたポンプ45、加熱手段46及び切替手段47を有し、制御手段25によってポンプ45が作動されて、
図3、
図4に示すように、貯湯タンク12の下部から取得した湯水を循環させて貯湯タンク12の上部又は下部に戻す状態(以下、この状態を循環状態とする)となる。
【0019】
ポンプ45、加熱手段46及び切替手段47は、沸上げ回路44を流れる湯水の流れに沿って順に配されている。沸上回路44は、切替手段47より下流側が2つに分岐し、一方が貯湯タンク12の上部に接続され、他方が貯湯タンク12の下部に接続されている。
加熱手段46は、制御手段25により作動させられて、沸上回路44を循環する湯水を加熱する。
【0020】
切替手段47は、加熱手段46を通過した湯水の送り先を貯湯タンク12の上部及び下部の一方から他方に切り替えることができる。制御手段25は、温度センサ14、14a、14b、14c、14d、14eの各計測温度を基に貯湯タンク12内の湯量(沸き上がっている湯の量)が少なくなったのを検知すると、ポンプ45及び加熱手段46を作動させて、貯湯タンク12の下部の湯水を沸上回路44に循環させ、貯湯タンク12の沸上げを行う。
【0021】
制御手段25は、加熱手段46を通過する湯水の温度を計測する加熱手段46に設けられた図示しない温度センサの計測温度が所定値未満の際に、
図3に示すように、切替手段47の湯水の送り先を貯湯タンク12の下部にする。これによって、沸上回路44は、貯湯タンク12の下部の水を取得して貯湯タンク12の下部に戻す循環状態となり、低温の湯水が貯湯タンク12の上部に流入することを防止する。
【0022】
そして、制御手段25は、加熱手段46を通過する湯水の温度が所定値以上になったことを検知したタイミングで、
図4に示すように、切替手段47の湯水の送り先を貯湯タンク12の上部に切り替える。これにより、沸上回路44は、貯湯タンク12の下部の水を取得して貯湯タンク12の上部に戻す循環状態となり、加熱手段46によって加熱された湯水が貯湯タンク12の上部に供給されるようにする。
【0023】
貯湯タンク12の沸上げが完了した後、送り先が貯湯タンク12の上部となった切替手段47は、貯湯タンク12を再度沸上げる際、加熱手段46を通過する湯水の温度が所定値未満であると、制御手段25によって、送り先が貯湯タンク12の下部に切り替えられる。
【0024】
本実施の形態では、加熱手段46にヒートポンプユニットを採用し、切替手段47に三方弁を採用しているが、これらに限定されない。例えば、自家発電機の発電時に生じる排熱を利用して沸上回路を流れる湯水を加熱する加熱手段や、2つの電磁弁を有して構成される切替手段を採用できる。発電時の排熱を利用する加熱手段を採用する場合、沸上回路は、切替手段を有さず、加熱手段で加熱された湯水の送り先を貯湯タンクの上部のみにすることができる。
【0025】
また、沸上回路44のポンプ45及び加熱手段46の間の領域には、下流側端部が第2の水栓48に連結された送水管49の上流側端部が接続されている。制御手段25は、操作端末26に所定の入力操作がなされることにより、ポンプ45を作動させて、
図5に示すように、貯湯式給湯装置10を、貯湯タンク12内の湯水が送水管49経由で第2の水栓48から出る状態(以下、この状態を「非常時給水状態」とする)にする。
【0026】
よって、非常時給水状態では、第2の水栓48に対して、貯湯タンク12の下部からの湯水が送水管49経由で送られることとなり、利用者は、第2の水栓48を開くことによって、貯湯タンク12内の湯水を第2の水栓48から出すことができる。
本実施の形態のように、ポンプ45を利用して貯湯タンク12内の湯水を第2の水栓48から出す場合、重力のみを利用して貯湯タンク12内の湯水を第2の水栓48から出す場合に比べて、貯湯タンク12から第2の水栓48までの距離を長くできる等、第2の水栓48の配置の自由度が高くなる。
【0027】
なお、貯湯タンク12内の湯水が第2の水栓48から出るのに伴って、貯湯タンク12には負圧作動弁50から取り込まれた空気が流入し、貯湯タンク12内は上部から空気が溜まる。また、通常時、ポンプ45を作動しても第2の水栓48から湯水が出ないように、第2の水栓48は閉じられている。
【0028】
本実施の形態において、制御手段25は、切替手段47を、沸上回路44の湯水を貯湯タンク12の上部及び下部のいずれにも送らない状態にすることができ、これによって、沸上回路44は貯湯タンク12への湯水の戻しを止めた状態(以下、この状態を止水状態とする)となる。従って、切替手段47は、沸上回路44を循環状態又は止水状態にするための流路の切り替えを行っている。
【0029】
切替手段47の構造によっては、切替手段47を、貯湯タンク12の上部及び下部のいずれにも湯水を送らない状態にしても、貯湯タンク12の上部及び下部の少なくとも一方に微量の湯水が送られることがある(例えば、貯湯タンク12の上部又は下部に送る状態にした場合の10分の1の量が送られる)。そのため、沸上回路44を止水状態にするとは、切替手段47を貯湯タンク12の上部及び下部のどちらにも積極的に(意図的に)湯水を送る状態にしないことを意味する。
【0030】
貯湯タンク12の上部の湯水は貯湯タンク12の下部の湯水より高温であるため、貯湯タンク12の湯水を第2の水栓48から連続的に出すことによって、時間の経過と共に貯湯タンク12の下部から沸上回路44に出てポンプ45に吸い込まれる湯水の温度は上昇する。ポンプ45に吸い込まれる湯水の温度が上昇すると、ポンプ45内でキャビテーションが生じて、ポンプ45内でエア噛みが生じたり、ポンプ45で騒音が生じたり、場合によってはポンプ45に不具合が生じたりする問題が招来する。
【0031】
そこで、非常時給水状態においては、貯湯タンク12の下部の湯水の温度に応じて、沸上回路44を循環状態及び止水状態の一方から他方に切り替えて、ポンプ45内でのキャビテーションの発生を抑制して、第2の水栓48から貯湯タンク12の湯水を出すようにする。具体的には、制御手段25が、温度センサ14eの計測値を連続的あるいは間欠的に検出するようにし、温度センサ14eの計測値が予め定められた設定温度T未満であることを検出して、
図5に示すように、沸上回路44を止水状態にし(止水状態の沸上回路44は止水状態を維持し、貯湯タンク12の下部に湯水を送る循環状態の沸上回路44は止水状態に切り替え)、温度センサ14eの計測値が設定温度T以上であることを検出して、
図6に示すように、沸上回路44を貯湯タンク12の下部に湯水を戻す循環状態にする(貯湯タンク12の下部に湯水を送る循環状態の沸上回路44は当該循環状態を維持し、止水状態の沸上回路44は貯湯タンク12の下部に湯水を送る循環状態に切り替える)。
【0032】
設定温度Tとして、ポンプ45内でキャビテーションが顕著に発生すると考えられる温度より、5℃から15℃低い温度が採用され、本実施の形態では、Tに60℃以上70℃以下の温度が採用される。
また、このような制御を行うのは、種々の実験的検証等によって、以下の1)~3)を確認したためである。
【0033】
1)貯湯タンク12の下部の湯水を第2の水栓48から出す際、ポンプ45に吸い込まれる単位時間当たりの湯水の量は、沸上回路44が止水状態の場合に比べ、沸上回路44が循環状態の場合のほうが多くなる。
2)ポンプ45に吸い込まれる単位時間当たりの湯水の量を増やすことで、キャビテーションの発生を抑制できる。
3)ポンプ45内でキャビテーションが生じていない状況下において、第2の水栓48から出る単位時間当たりの湯水の量は、沸上回路44が止水状態の場合に比べ、沸上回路44が循環状態の場合のほうが少なくなる。
【0034】
また、温度センサ14eの計測値が設定温度T未満の際に、制御手段25が、沸上回路44を、貯湯タンク12の上部に湯水を送る循環状態ではなく、貯湯タンク12の下部に湯水を送る循環状態にしているのは、貯湯タンク12内の湯水の上層に低温の湯水が流入するのを回避すること、及び、貯湯タンク12内で音が生じるのを防止することを理由としている。なお、非常時給水状態では、加熱手段46が停止されることから、加熱手段46を通過して貯湯タンク12に送られる湯水が加熱手段46により加熱されることはない。
【0035】
第2の水栓48から湯水を出すと、貯湯タンク12内は上部に空気が溜まる。仮に空気が溜まっている貯湯タンク12の上部に湯水を送ると、湯水が貯湯タンク12の上部から貯湯タンク12内の湯水の水面まで落ちる際に音が生じる。この音の発生を防止するには、貯湯タンク12の下部に湯水を送ることが有効である。ポンプ45内でキャビテーションを生じさせないという観点では、制御手段25が、貯湯タンク12の下部の湯水の温度が設定温度T以上であることを検出して、沸上回路44を貯湯タンク12の上部に湯水を戻す循環状態にしてもよい。
【0036】
なお、第2の水栓48から高温の湯が出る可能性があるため、本実施の形態では、第2の水栓48近くに、第2の水栓48の使用方法等に加えて熱湯が出ることについての注意喚起を記した注意書きが設けられている。また、本実施の形態において、ポンプ45を、沸上回路44の送水管49が連結された箇所より上流側に取り付け、貯湯タンク12の沸上げと、貯湯タンク12内の湯水の第2の水栓48からの出水とにポンプ45を兼用できるようにしている。
【0037】
また、制御手段25は、操作端末26への所定の入力操作により、貯湯式給湯装置10を、加熱手段46の作動、浴槽Bへの湯張り、及び、浴槽B内の湯水の追い焚きを禁止する非常時制限状態にすることができる。本実施の形態では、操作端末26において、貯湯式給湯装置10を非常時制限状態にする入力操作と、貯湯式給湯装置10を非常時給水状態にする入力操作とが共通の釦でなされる。制御手段25は、同釦が一定時間(例えば、5秒間)継続的に押下(長押し)されることで、貯湯式給湯装置10を非常時制限状態とし、同釦が再度長押しされることで、貯湯式給湯装置10の非常時制限状態を解除する。非常時制限状態の貯湯式給湯装置10は、同釦が長押しではなく通常押しされることにより、制御手段25によって、非常時制限状態を維持した上で非常時給水状態となり、同釦が再度通常押しされると非常時給水状態のみが解除される。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
ポンプを作動させ、第2の水栓を開き、第2の水栓から貯湯タンク内の約75℃の湯が出るようにして、ポンプの回転数を、沸上回路を貯湯タンクの下部に湯水を戻す循環状態にした場合と、沸上回路を止水状態にした場合とで計測した。循環状態の計測結果及び止水状態の計測結果を
図7、
図8にそれぞれ示す。
【0039】
実験結果より、循環状態では、ポンプの回転数が乱高下することなく安定していたため、ポンプ内ではキャビテーションが生じなかったことが確認できた。一方、止水状態では、計測開始から約18分経過後に、ポンプの回転数が乱高下した。このポンプの回転数の乱高下は、ポンプ内でのキャビテーションの発生が原因と考えられる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、循環回路はポンプを有して貯湯タンクの湯水を循環させる回路であればよく、循環回路が沸上回路である必要や、循環回路が加熱手段を有する必要がないのは言うまでもない。また、切替手段を有さない循環回路を採用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
10:貯湯式給湯装置、11:水道管、12:貯湯タンク、13:第1の水栓、14、14a、14b、14c、14d、14e:温度センサ、15:減圧弁、16:温度センサ、17、18:逆止弁、20:給湯管、21:逆止弁、22:水量センサ、23:温度センサ、24:混合弁、25:制御手段、26:操作端末、27:湯張り管、28:熱交換循環回路、29:逆止弁、30:混合弁、31:水量センサ、32:電磁弁、33:逆止弁、34:温度センサ、36:逆止弁、37:ポンプ、38:水位センサ、39:水流スイッチ、40:温度センサ、41:ポンプ、42:風呂循環回路、43:熱交換器、44:沸上回路、45:ポンプ、46:加熱手段、47:切替手段、48:第2の水栓、49:送水管、50:負圧作動弁、B:浴槽