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特許7621202安定化固体ガーネット電解質及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】安定化固体ガーネット電解質及びその方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20250117BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20250117BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20250117BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20250117BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M10/0562
C01G33/00 A
C04B35/488
H01B1/06 A
H01M4/134
H01M4/40
H01M4/525
H01M10/36 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021100720
(22)【出願日】2021-06-17
(62)【分割の表示】P 2017528177の分割
【原出願日】2015-11-20
(65)【公開番号】P2021177485
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】62/084,907
(32)【優先日】2014-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】マイケル エドワード ベイディング
(72)【発明者】
【氏名】シンユエン リウ
(72)【発明者】
【氏名】イエンシア アン ルゥ
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】棚田 一也
【審判官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-096940(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161516(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/089710(WO,A1)
【文献】GALVEN, Cyrille,Structural characterization of a new acentric protonated garnet: Li6-xHxCaLa2Nb2O12,Journal of Material Research,2013年,Vol. 28, No. 16,p. 2147-2153
【文献】GAM, Franck et al.,Reinvestigation of the Total Li+/H+ Ion Exchange on the Garnet-Type Li5La3Nb2O12,Inorganic Chemistry,2014年01月,Vol. 53,p. 931-934
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiLaZr12(LLZO)及びドープLLZO組成物から選択されるリチウムガーネットを含むバルク組成物からなる膜;及び
前記バルク組成物からなる膜の外面の少なくとも一部分上のプロトン化ガーネットを含む表面組成物からなる層
を含み、
前記プロトン化ガーネットを含む表面組成物は、空気中で組成的に安定で、二酸化炭素に対して非感受性であり、前記バルク組成物からなる膜の前記外面の少なくとも一部分上の前記表面組成物からなる層は、0.1~100nmの厚さを有する、固体ガーネット電解質の膜。
【請求項2】
前記プロトン化ガーネットは、Li(7‐x)LaZr12(ここでxは0.1~7である)である、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項3】
前記ドープLLZO組成物は、Ga、Nb、またはその組み合わせでドープされた、LiLaZr12である、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項4】
前記バルク組成物からなる膜の前記外面の少なくとも一部分上の前記表面組成物からなる層は、前記バルク組成物からなる膜の外面全体を含む、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項5】
前記表面組成物からなる層は、0.1~46モル%の濃度のリチウムを含む、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項6】
前記表面組成物からなる層は、電気絶縁Li表面種を実質的に含まない、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項7】
前記表面組成物からなる層は、LiOH、LiCO又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含まない表面を含む、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜。
【請求項8】
請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜を含む、セラミック電解質を含む第1の層、及び、
リチウム金属の源を含む第2の層であって、前記第1の層と物理的に接触している、第2の層を含む、保護アノード構造体、及び、
カソード
を含む、複合電解質構造体。
【請求項9】
前記保護アノード構造体と前記カソードとの間に、前記保護アノード構造体及び前記カソードと接触して、水性陰極液を更に含む、請求項8に記載の複合電解質構造体。
【請求項10】
前記カソードは、酸化リチウムコバルト化合物である、請求項8に記載の複合電解質構造体
【請求項11】
カソード、アノード、及び、請求項1に記載の固体ガーネット電解質の膜を含む、エネルギ貯蔵デバイス。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、2014年11月26日出願の米国仮特許出願第62/084,907号に対する優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は信頼できるものであり、参照によりその全体が本出願に援用される。
【0002】
本明細書中で言及するいずれの刊行物又は特許文献の開示全体は、参照により援用される。
【技術分野】
【0003】
本開示は、安定化固体ガーネット電解質物品、並びに上記安定化固体ガーネット電解質物品の作製方法、及びエネルギ貯蔵デバイス内での上記安定化固体ガーネット電解質物品の使用方法に関する。
【発明の概要】
【0004】
実施形態では、本開示は、安定化固体ガーネット電解質物品、並びに上記安定化固体ガーネット電解質物品の作製方法、及びエネルギ貯蔵デバイス内での上記安定化固体ガーネット電解質物品の使用方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】適用可能な酸処理及び再生ステップの概略図
図2】本開示の固体ガーネット電解質(110)と接触するリチウム金属アノード(150)を組み込んだ、試験セル組立体(200)を示す概略断面図
図3】電流密度の関数としての、酸処理済みガーネットペレット(菱形、310)及び未処理のガーネットペレット(正方形、300)(対照)に関する動作セル電圧の比較
図4】1.0mA/cmの高電流密度における、酸処理済みガーネットペレットに関する長期間にわたる例示的な動作セル電圧
図5】周囲水分に曝露した後の、酸で処理されていないガーネット対照(500)試料と、酸処理済みガーネット(510)試料とを比較するTGAトレース
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示の様々な実施形態を、図面がある場合はそれを参照しながら詳細に説明する。様々な実施形態に対する言及は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は本明細書に添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。更に、本明細書に記載のいずれの例は、限定的なものではなく、単に、請求対象の発明の多数の可能な実施形態のうちのいくつかを示すものである。
【0007】
定義
「空気(air)」、「周囲空気(ambient air)」、「周囲雰囲気(ambient atmosphere)」、「大気(atmospheric air)」又は同様の用語は、地球の大気中で発生する化学成分を指し、例えば、乾燥空気は78.09%の窒素、20.95%の酸素、0.93%のアルゴン、0.039%の二酸化炭素、及び少量の他のガスを含有する。湿り空気は水蒸気も含む。
【0008】
「組成的に安定(compositionally stable)」又は同様の用語は、本開示の固体ガーネット組成物を指し、この組成物は、ひとたび形成されると、例えば周囲雰囲気に数時間以上曝露されても、その組成が略変化しない。
【0009】
「空気中で安定(air stable)」又は同様の用語もまた、本開示の固体ガーネット組成物を指し、この組成物は、ひとたび形成されると、例えば空気又は周囲雰囲気に数時間以上曝露されても、その組成が略変化しない。
【0010】
「二酸化炭素に対して非感受性(insensitive to carbon dioxide)」又は同様の用語もまた、本開示の固体ガーネット組成物を指し、この組成物は、ひとたび形成されると、例えば二酸化炭素を含有する空気又は周囲雰囲気に数時間以上曝露されても、その組成が略変化しない。
【0011】
「含む(include、includes)」又は同様の用語は、包含するがこれに限定されない、即ち包括的でありかつ排他的でないことを意味する。
【0012】
例えば、本開示の実施形態を説明する際に採用される、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流量、圧力、粘度、及び同様の値並びにその範囲、又は構成要素の寸法、及び同様の値並びにその範囲を修飾する「約(about)」は、例えば:材料、組成物、複合体、濃縮物、構成成分、製品、又は使用する処方を調製するために使用される典型的な測定及び操作手順により;これらの手順における偶発的な誤差により;本方法を実施するために使用される開始物質又は成分の製造、源、又は純度の差異により;並びに同様の考慮事項により、発生し得る数量の変動を指す。この用語「約」はまた、特定の初期濃度又は混合を有する組成物又は製剤のエージングにより異なる量、及び特定の初期濃度又は混合を有する組成物又は製剤の混合又は加工により異なる量も包含する。
【0013】
「任意の(Optional)」又は「任意に(optionally)」は、その後に記載される事象又は状況が発生し得る又は発生し得ないこと、及び上記事象又は状況が発生する場合と、上記事象又は状況が発生しない場合とを含むことを意味する。
【0014】
本明細書中で使用される不定冠詞「ある(a又はan)」及びその対応する定冠詞「その、上記、該(the)」は、特に指定しない限り、少なくとも1つ又は1つ以上を意味する。
【0015】
当業者に周知の略語を用いる場合がある(例えば時間に関する「h」又は「hrs」、グラムに関する「g」又は「gm」、ミリリットルに関する「mL」、及び室温に関する「rt」、ナノメートルに関する「nm」、並びに同様の略語)。
【0016】
構成要素、成分、添加剤、寸法、条件、時間、及び同様の態様並びにその範囲に関して開示される具体的な及び好ましい値は、例示のみを目的としており、これらは、他の明確な値、又は明確な範囲内の他の値を排除するものではない。本開示の組成物及び方法は、明示的又は黙示的な中間値及び範囲を含む、本明細書に記載される複数の値、具体的な値、より具体的な値、及び好ましい値のうちのいずれの値又はいずれの組み合わせを含むことができる。
【0017】
10‐4S/cmを超える実際の伝導率を示したセラミックリチウム電解質が現在周知である(Knauth, Solid State Ionics (2009) 180, 911‐916を参照)ため、高エネルギセル構造を可能とする他のセラミックLiイオン電解質に関心が集まっている。新しい設計は、適合しないアノード及びカソードの化学的作用を密閉隔離によって分離するために、セラミック電解質に依存する。例えば、リチウム‐硫黄セルの化学的作用に対する新しいアプローチは、水性硫黄カソードをリチウム金属アノードと組み合わせる(Visco, et al.,米国特許第8,828,574号明細書を参照)。
【0018】
Li‐金属アノードを可能とするために、セラミック電解質は、リチウム金属接触に対して安定でなければならない。目下、LiLaZr12(LLZO)等のガーネット相電解質が、高いリチウム‐イオン伝導率(10‐4S/cm超)及びLi‐金属接触に対する安定性の両方を実証した(Weppner, et. al.,米国特許第8,658,317号明細書)。残念なことに、ガーネット材料は、周囲条件に曝露されると、炭酸リチウムの絶縁膜を形成しやすい(Cheng, et. al., Phys. Chem. Chem. Phys., (2014) 16, 18294‐18300を参照)。この絶縁膜は、これが除去されない場合、セルのインピーダンスに強い影響を及ぼし得る。Cheng, et. al.は、LiCO絶縁膜を除去するための解決策として、不活性雰囲気下で研磨することを示唆している。しかしながら、研磨後、ガーネット材料を、更なる周囲への曝露から保護しなければならないか、又は炭酸リチウム絶縁膜が再び形成されることになる。周囲環境での加工を可能とするために、ガーネット電解質構造体を周囲環境中の二酸化炭素に対して非感受性とすることができることが望ましい。
【0019】
ガーネット材料は、可逆的に、水溶液中でのH/Li交換を受けることができることが公知である(Ma, C., et al., (2014), Excellent Stability of a Lithium‐Ion‐Conducting Solid Electrolyte upon Reversible Li+/H+ Exchange in Aqueous Solutions. Angew. Chem. DOI: 10.1002/ange.201408124を参照)。合成されたままのガーネット材料を中性水に浸漬すると、水性相のpHは、以下の式:
【0020】
【化1】
【0021】
に従ったLiOH、例えばLiLaZr12(LLZO)ガーネットの形成により、塩基性pHに移行する。
【0022】
同一の反応が、周囲空気中で操作されるガーネット材料の表面において起こる。LiOHは、大気中のCOを収着又は吸収して、LiCOを形成することが公知である(Jaunsen, J.R. (1989) “The Behavior and Capabilities of Lithium Hydroxide Carbon Dioxide Scrubbers in a Deep Sea Environment,” US Naval Academy Technical Report, USNA‐TSPR‐157.を参照)。
【0023】
【化2】
【0024】
又は
【0025】
【化3】
【0026】
この反応シーケンスの最終産物は、炭酸リチウム(LiCO)の絶縁表面膜である。同様の反応シーケンスが、LiLaTiO電解質に関しても観察された(Boulant, et. al., Dalton Trans. (2010) 39 3968‐3975を参照)。
【0027】
/Li交換は可逆的であるため、ガーネット材料を酸中で処理して、ガーネット材料の表面を中和し、形成されたLiCOを分解できる。例えばLiCOは、HClを用いて分解できる:
【0028】
【化4】
【0029】
実施形態では、本開示の方法は、例えばLiOH、LiCO及び同様の種のガーネット表面を効果的に洗浄できる。本開示の方法はまた、例えばエネルギ貯蔵物品内で使用されるリチウムイオン活性ガーネット表面を、効果的に再生できる。
【0030】
実施形態では、本開示は、安定化固体ガーネット電解質物品、並びに上記安定化固体ガーネット電解質物品の作製方法、及びエネルギ貯蔵デバイス内での上記安定化固体ガーネット電解質物品の使用方法を提供する。
【0031】
実施形態では、本開示は、空気安定化固体ガーネット組成物及びその固体電解質物品を提供し、また本開示は、上記組成物及び上記安定化固体ガーネット電解質物品を作製及び使用する方法を提供する。
【0032】
実施形態では、本開示は、固体リチウムガーネット電解質を、周囲雰囲気による表面汚損に対して不動態化するための方法を提供する。
【0033】
実施形態では、本開示は、固体リチウムガーネット電解質を処理するための方法を提供し、上記処理方法により、上記ガーネット電解質の周囲環境中での操作又は加工が可能となる。
【0034】
実施形態では、本開示は、in situ又はex situにおいて、不動態化された固体ガーネット電解質を再生して、エネルギ貯蔵デバイス内での使用に好適な活性リチウムイオン表面種を生成するための方法を提供する。本開示は、in situ再生の例を提供する。
【0035】
実施形態では、本開示は、表面からLiCOを洗浄する、固体ガーネット電解質の溶液処理方法を提供し、これは改善されたセル性能をもたらすことができる。
【0036】
実施形態では、本開示は、不動態化方法を提供し、ここでリチウム含有表面を有するガーネット膜は、リチウム欠損表面を有するガーネット膜製品に変換され、上記製品は、例えば大気中の水分、酸素及び二酸化炭素に対して安定である。実施形態では、不動態化方法は、プロトンを用いたガーネット膜のリチウムイオンのイオン交換(即ちLi/H交換)を含む。得られる超プロトン化膜は、炭酸塩膜の形成に対する懸念なしに、周囲条件下で操作できる。超プロトン化ガーネットは続いて、リチウム含有電極を用いて、富リチウムガーネットに戻るように電気化学的に変換できる。
【0037】
本開示は、例えば以下を含む、複数の態様において有利である:本開示の処理方法は、ガーネット基材上の抵抗性炭酸塩表面層を除去し、ガーネット電解質を含むセルの性能を改善する。
【0038】
ガーネット電解質をプロトン酸に接触させるステップを伴う作製方法は、表面研磨等の代替的な表面処理方法関して実際的でない、多数の形態のガーネット電解質に適用できる。本開示の方法に従って処理できる例示的なガーネット電解質の形態としては:多孔性ガーネット表面(これは電極接触を改善するために有用であり得る);薄型ガーネットコーティング(例えば20マイクロメートル厚未満);薄型ガーネット膜(例えば、150マイクロメートル、100マイクロメートル、50マイクロメートル等(中間値及び範囲を含む)の、200マイクロメートル厚未満)及び同様の形態が挙げられる
例えばリチウムガーネット電解質の酸処理を伴う作製方法は、例えば周囲温度において1~2時間の、短時間の酸への曝露によって達成できる。
【0039】
ガーネット電解質表面におけるリチウムイオン種は本開示の方法によって化学的に中和されるため、炭酸リチウムの形成は少なくとも一時的に軽減され、ガーネット膜の周囲空気中での操作が可能となり、これにより、セルの構造が簡略化され、製作コストが削減される。
【0040】
実施形態では、本開示の方法は、固体ガーネット組成物を提供し、上記固体ガーネット組成物は:
リチウムガーネットを含むバルク組成物;及び
上記リチウムガーネットの外面の少なくとも一部分上に表面プロトン化ガーネットを含む表面組成物であって、上記ガーネット組成物の表面プロトン化部分は、空気中で組成的に安定であり、二酸化炭素に対して非感受性である、表面組成物
を含む。
【0041】
実施形態では、本開示は固体ガーネット組成物を提供し、上記固体ガーネット組成物は:
リチウムガーネットからなる、又は本質的になるバルク組成物;及び
上記リチウムガーネットの外面の少なくとも一部分上の表面プロトン化ガーネットからなる、又は本質的になる表面組成物であって、上記表面プロトン化ガーネット組成物は、空気中で組成的に安定であり、二酸化炭素に対して非感受性である、表面組成物
を含む。
【0042】
実施形態では、バルクリチウムガーネットは、例えば式LiLaZr12(LLZO)を有することができ、上記表面プロトン化ガーネットは、例えば式Li(7‐x)LaZr12(ここでxは0.1~7である)を有することができる。
【0043】
実施形態では、上記バルクリチウムガーネットは、例えば式Li6.75La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512を有することができ、上記表面プロトン化ガーネットは、例えばLi(6.75‐x)La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512(ここでxは0.1~6.75である)を有することができる。
【0044】
実施形態では、上記表面プロトン化ガーネットは、例えば、処理済み膜の大きな面又は小さな面といった、酸処理済み固体ガーネット組成物の対向する側部又は面上に形成できる。酸処理をしていない表面は、例えばマスク層を用いて保護できる。実施形態では、上記表面プロトン化ガーネットは、例えば上記リチウムガーネットの外側表面全体上に形成できる。
【0045】
実施形態では、本開示の固体ガーネット組成物は例えば、例えば式Li(6.75‐x)La2.9Ga0.1Zr1.75Nb0.2512の表面組成物、又は式Li(7‐z‐x)La3‐yGaZr2‐zNb12の化合物、又はこれらの組み合わせ(ここでxは0.1~7であり、yは0.1~0.3であり、zは0.1~0.3である)を有する、例えば一般式Li7‐zLa3‐yGaZr2‐zNb12の、又はより具体的な式Li6.75La2.9Ga0.1Zr1.75Nb0.2512の、ドープLLZOとすることができる。
【0046】
ガーネットペレットは、好適なガーネットの一例である。本開示の組成物並びに作製及び使用方法は、バルクガーネットが例えば水、二酸化炭素又は同様の存在を含む周囲雰囲気に曝露される限り、バルクガーネットを作製する方法に関係なく、全てのガーネット膜に好適である。というのは、ガーネットは、本開示に従って加工されなければ、非プロトン性不動態層を形成するためである。
【0047】
実施形態では、上記リチウムガーネットの上記外面の少なくとも一部分上のプロトン化ガーネットは、例えば上記リチウムガーネットの外面全体を含む。
【0048】
実施形態では、上記リチウムガーネットの上記外面の少なくとも一部分上のプロトン化ガーネットは、例えば0.1~100nmの厚さを有する層を含む。
【0049】
実施形態では、上記表面組成物は、0.1~46モル%のリチウム濃度を有する。
【0050】
実施形態では、上記表面組成物は、電気絶縁Li表面種を実質的に含まないものとすることができ、例えば0~10モル%未満である。
【0051】
実施形態では、上記表面組成物は、LiOH、LiCO又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含まない表面を備える。
【0052】
実施形態では、本開示は:
保護アノード構造体であって:
固体ガーネット組成物を含む固体セラミックガーネット電解質組成物を含む第1の層であって:
リチウムガーネットを含むバルク組成物;及び
上記リチウムガーネットの外面の少なくとも一部分上にプロトン化ガーネットを含む表面組成物
を含み、上記固体ガーネット組成物は、空気中で組成的に安定であり、二酸化炭素に対して非感受性である、第1の層;
リチウム金属の源を含む第2の層
を備え、上記第1の層及び上記第2の層は物理的に接触しており、上記保護アノード構造体内に内包される、保護アノード構造体;並びに
カソード
を備える、複合電解質構造体を提供する。
【0053】
実施形態では、上記複合電解質構造体は更に、例えば上記保護アノード構造体と上記カソードとの間に、上記保護アノード構造体及び上記カソードと接触して、水性陰極液を備えることができる。
【0054】
実施形態では、上記カソードは例えば、式LiCoOの酸化リチウムコバルト化合物とすることができる。
【0055】
実施形態では、本開示は、上述の固体ガーネット組成物を作製する方法を提供し、この方法は:
空気感受性リチウム含有固体ガーネット電解質をプロトン酸と接触させて、プロトン化表面を有する固体ガーネット組成物を形成すること
を含む。
【0056】
実施形態では、上記プロトン化表面固体ガーネット組成物は、空気中で組成的に安定であり、二酸化炭素に対して非感受性である。
【0057】
実施形態では、上記プロトン酸は例えば:例えばHCl、HPO、HNO、HSO及び同様の酸若しくはこれらの混合物といった無機酸;例えば酢酸若しくは同様の有機酸若しくはこれらの混合物といった有機酸;又は無機酸と有機酸との組み合わせのうちの少なくとも1つから選択できる。
【0058】
実施形態では、上記作製方法は例えば、上記プロトン化表面を有する、空気安定性かつ二酸化炭素非感受性の上記固体ガーネット電解質を、リチウムイオンの源と接触させて、空気感受性リチウム含有固体ガーネット電解質を再生することを更に含むことができる。
【0059】
実施形態では、上記リチウムイオンの源との上記接触は例えば、例えば上記ガーネット電解質をリチウムイオン源で処理する封止セル構造体内で達成でき、ここで上記ガーネット電解質は封止セル構造体内にあり、むき出しの膜の上にはない。
【0060】
実施形態では、上記リチウムイオンの源は例えばリチウム金属とすることができる。
【0061】
実施形態では、本開示は:
空気感受性リチウム含有固体ガーネット膜上のリチウムイオンを、プロトンを用いてイオン交換して、リチウム欠失プロトン化表面を有する、空気安定性かつ二酸化炭素非感受性の固体ガーネット電解質を形成すること
を含む、不動態化方法を提供する。
【0062】
図面を参照すると、図1は、本開示の方法の複数の態様を示す概略図(100)である。実施形態では、膜(110)、例えばLLZOを、例えば二酸化炭素及び水を含有する周囲雰囲気又は空気に曝露(115)すると、LiOH及びLiCO(120)並びに微量のHLZO(130)を含有する表面層を、曝露した表面上に形成でき、即ち周囲雰囲気に対するLLZOの曝露の産物である。
【0063】
実施形態では、この大気曝露済み表面を、好適なプロトン酸源を用いて上記影響を受けた表面を処理(135)して、(例えば膜の1つ又は複数の面上に、膜の2つの対向する面上に、若しくは図示されているようにLLZO(110)を完全に取り囲む若しくは封入する)プロトン化表面組成物を有する膜(140)、又は例えばHLZO層で構成される膜(140)を形成することによって、修復でき、上記HLZO層は、プロトン交換の量が、周囲曝露によって形成されたHLZOのレベルより有意に高いという点で、元々の微量のHLZOとは区別できる。酸曝露によって形成されるHLZO層は、「超プロトン化(super‐protonated)」と呼ぶことができる。この超プロトン化表面は、周囲の水分との更なる反応を比較的起こしにくく、これにより上記表面は、数時間を超える期間にわたって、表面汚染層(120)の形成に対して安定となり、周囲条件下での相当な動作時間が可能となる。
【0064】
実施形態では、清浄な膜(110)を好適なプロトン酸源で処理(135)して、LiOH及びLiCO(120)表面汚染物質並びにHLZO(130)を出現させることなく、プロトン化表面組成物(136)を有する膜(140)を直接形成できる。
【0065】
実施形態では、清浄な膜(110)、例えばLLZO又は同様の膜の表面の少なくとも一部分を、プロトン酸源と接触させるか又はプロトン酸源で直接処理(135)して、1つ又は複数のプロトン酸源接触領域に、バルク又は内部組成物(110)、例えばLLZOと、プロトン化表面組成物(136)、例えばHLZOとを有する膜製品(140)を形成できる。上記製品(140)、及び同様に接触させた膜は、安定化固体ガーネット電解質材料であり、これを更に周囲雰囲気中で加工又は操作することにより、表面プロトン化ガーネット電解質製品(140)を含む物品又はデバイスを作製する又は組み立てる(145)(例えばセル組立体)ことができる。
【0066】
実施形態では、組み立て済みセル(160)は例えば、上述の表面プロトン化ガーネット電解質製品(140)、リチウム金属源(150)、及びガラス管若しくはガラスシリンダ又は同様の容器若しくはセパレータ(104)を含むことができ、この組み合わせは、リチウム金属源(150)から隣接するプロトン化表面組成物(136)への、及び隣接するプロトン化表面組成物(136)を通る、リチウムイオンフラックス(155)を可能とする。
【0067】
実施形態では、上記リチウムイオンフラックス及びプロトン化表面組成物(136)の寿命特性を測定するために、組み立て済みセル(160)を試験できる(165)。このセル試験では、プロトン化表面組成物(136)、例えば1つ又は複数のHLZO表面層組成物は、例えば以下の反応:
【0068】
【化5】
【0069】
に従って、試験中の継続的なLi金属からのLiフラックス(170)によって、リチウムイオン源(150)と接触する上記LLZOバルク組成物上で、元々のリチウム化表面組成物(110)若しくはそれに近いもの、又は他の同様の元々の組成物に戻るように大幅に変換され、即ち再生される。
【0070】
この反応は、上記1つ又は複数のプロトン化表面層組成物を、例えばLi約1Mを超える高Li濃度を有する溶液に接触させなければ、実際のデバイス内では発生しない。しかしながら、このような接触は、周囲環境において達成された場合、不安定なLLZO又は同様のガーネット組成物を再生させる。
【実施例
【0071】
以下の1つ又は複数の実施例は、以上の一般的手順に従った本開示の物品の作製、使用及び分析を実証する。
【0072】
実施例1 焼結済みガーネット膜の製作
以下の一般化学量論式:
Li7‐zLa3‐yGaZr2‐zNb12(ここでzは0.1~0.3であり、yは0.1~0.3である)を有するガリウム及びニオブ二重ドープ組成物を、以下のようにして合成した。
【0073】
好適な開始ガーネット粉体を、LiCO、LiOH、La、ZrO、Ga、Nb、Al、AlOOH及び同様の成分といった酸化物前駆体から作製した。上記粉体を、例えば30~60分間の乱流混合を用いて、ZrO媒体と完全に乾燥混合し、例えばイソプロパノール(IPA)又は脱イオン水といった液体キャリア中で、湿潤混合する。まず上記開始成分を、振動ミキサを用いて、混合された成分が脱凝集するまで、1~2時間混合する。次にバッチを、更なる混合のために約1~2時間ボールミル粉砕した。液体キャリアと前駆体成分との有意な相互作用を回避するために、好ましい総混合時間は、例えば6時間未満であった。次に得られたスラリーを、100℃で1~2日乾燥させた。次にこの乾燥させた粉体を、か焼の準備ができた状態とした。か焼温度は組成に左右される。低温組成物は例えば1000℃~1100℃で乾燥させることができ、一方で高温組成物は最高1200℃で乾燥させることができる。乾燥させた上記粉体を、1100℃で6時間か焼して、90%超の立方体リチウムガーネット相を有するガーネット構造体を形成した。次に上記粉体を、純アルミナ等の耐火性シートカバーを備えた白金るつぼ内に配置した。
【0074】
次に上記ガーネット粉体を、いずれの添加剤を用いずに押圧して、乾燥肉厚ペレットを形成した。上記肉厚ペレットを、空気との接触を最小化するために白金で保護して、空気中で焼結した。上記ガリウム及びニオブ二重ドープリチウムガーネットは、例えば化学量論的範囲でガリウム及びニオブそれぞれ0.1~0.5であるドープレベルに応じて、1000℃~1200℃の低い焼結温度を有する。上記ペレットから、直径27mm及び厚さ0.5mmの薄型スライス(又は膜)を切断した。切断した上記膜は、セル試験で使用した試験片である(以下の実施例3を参照)。これらの組成物の例は、Li6.75La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512であり、これは、化学量論的範囲で0.1~0.5のガリウムといった低レベルガリウムドープの例である。
【0075】
か焼後、上記粉体を、乾燥ボール又は乾燥ジェットミルによって粉砕した。ボールミル粉砕は極めて迅速かつ低コストな粉砕プロセスであった。ボールミル粉砕後、上記粉体は通常、0.5~0.8マイクロメートル及び6~8マイクロメートルといった二峰性分布を有し、凝集物は存在しなかった。ジェットミル粉砕は高エネルギプロセスであり、粒子を衝突させることにより、又は衝突ライナ面(ZrO、アルミナ、タングステン等)を使用することにより、極めて微細な粉体を得ることができる。リチウムガーネットは、ZrOライナを必要とする。ジェットミル粉砕後、上記粉体は通常、D50がおよそ0.5~0.8マイクロメートルの単峰性分布を有する。しかしながら、ジェットミル粉砕した粉体は、ある程度の凝集物を形成する傾向があり、貯蔵には封止条件が必要となり得る。
【0076】
ガーネット円柱形固体を、乾燥押圧によって作製できる。上記粉体は凝集物を有しないことが好ましいため、脱凝集が必要となり得る。まず上記粉体をダイの中に均一に配置し、その後軽く叩いた。軽く叩くことによって、上記粉体が自然に圧縮されることが保証されるため、軽く叩く動作は必要であった。次に真空ダイを用いて、いずれの大きな空隙を除去した。完全な圧縮を保証するためには、上記軽く叩く動作に通常1~5分かかり、その後13,000ポンド(5896.7008kg)、又は7000psi(48263320Pa)超の力で2~4分押圧した。
【0077】
最適な焼結条件は、組成に左右され得る。開示されている組成物に関して、焼結条件は例えば、1100℃~1180℃で2~15時間とすることができる。この比較的高い温度及び長い保持時間により、焼結の程度を有意に増進できるが、これは経済性が比較的低く、粒子の成長を引き起こす場合がある。好ましい焼結条件は、比較的高温であるものの比較的短い保持時間を有するもの、又は比較的低温であるものの延長された保持時間を有するものであった。典型的な焼結条件は、ある組成に関して1120℃で6時間であり、別の組成に関して1180℃で10時間であった。焼結後、密度が4.5g/cc超であることを保証するために、幾何学的密度を測定した。
【0078】
精密ダイヤモンドブレード湿潤ノコを用いて、リチウムガーネットの上記円柱形固体を、薄型ディスクへと機械的に切断した。無機油切断媒体及び高い切断速度を用いると、ディスクの品質が改善されることが観察された。完成したディスクの厚さは0.4~0.8mmであり、ディスクにわたって0.040mmの厚さ変動を有する。より薄いディスクを得るために、更なる乾燥研磨を行うこともできる。次に、セルの放電試験のために、及び試料にイオン伝導性を提供するために、レーザ切断によって薄膜を直径27mmに切断する。
【0079】
この例では、リチウムガーネット組成物は、式Li6.75La2.9Ga0.1Zr1.75Nb0.2512のものであり、二重ドープされていた。上記粉体はボールミル粉砕によって粉砕され、二峰性粒径分布を有することができ、小さい方の粒径は0.6~0.7マイクロメートルであり、大きい方の粒径は7~8マイクロメートルであった。二峰性分布は、軽く叩く動作の間の粒子の圧縮のために好ましいものであった。
【0080】
上記円柱形固体の高さの定量化の結果は、焼結後、12mm(60g)~22mm(80g)であった。ダイの直径は1.5インチ(又は38.1mm)であり、試料は、様々な条件下において密度及び収縮率を最適化するために、異なる焼結条件において調査された。最適な焼結条件は、約1170~1180℃で6~15時間であった。厚さ0.5mmの多数の膜を、ダイヤモンドノコ引きによって、これらの固体から切断した。スライスの品質は素地の品質に左右され得る。不完全な充填による欠陥は、焼結プロセス中に、点状又は線状欠陥として反映されることになる。平坦性、強靭さ、気密性、かつ均一な厚さを有する薄膜は、上述の調製方法を用いて得ることができる。この組成物のイオン伝導率は約3~4×10‐4S/cmであった。
【0081】
実施例2 ガーネット薄膜
好適な開始ガーネット粉体を、LiCO、LiOH、La、ZrO、Ga、Nb、Al、AlOOH及び同様の成分といった酸化物前駆体から作製した。上記ガーネット粉体の形成には、固体状態反応を使用できる。上記固体状態反応は、前駆体の混合及びか焼を伴う。この例は、Li6.75La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512の組成を有し、か焼条件は1100℃で6時間であった。か焼後、上記粉体は、90重量%を超える立方体リチウムガーネット相を有していた。次に上記ガーネット粉体を乾燥押圧して、直径約38mm及び高さ約20~40mmの固体ディスクを形成した。焼成条件は1180℃で15時間であった。焼結後、上記試料は、4.78g/cmの密度を有していた。次にこのガーネット固体を、精密ダイヤモンドブレード湿潤ノコを用いて、薄型スライス(又は膜)へと機械的に切断した。完成したディスクの厚さは0.4~0.8mmであり、ディスクにわたって0.040mmの厚さ変動を有していた。上記薄膜は平坦であり、気密性であり、強靭である。この実施例のイオン伝導率は3.65×10‐4S/cmであった。セル試験のために、上記薄膜を、レーザを用いて直径27mmに切断した。0.2mm未満等のより薄いディスクを得るために、更なる乾燥研磨を行うこともできる。
【0082】
実施例3 焼結済みガーネット膜の酸表面処理
長期にわたる酸処理により、有意なH/Li交換をもたらすことができる。ガーネット表面、バルク又はこれら両方を、好適な酸を用いて「滴定(titrated)」して、超プロトン化表面又はバルク組成物を得ることができる。交換の程度が十分であれば、上記ガーネットは塩基としての挙動を示さない。即ち、上記プロトン化材料を中性水に浸漬した場合に、水性pHは大きく塩基性に変移することがない。上記ガーネットが酸によって十分に中和されていれば、周囲雰囲気への曝露下においてLiOHは形成されない。従って上記ガーネットは炭酸リチウム表面層を形成せず、周囲条件において自由に操作できる。
【0083】
セル試験の前に、ある膜を対照として保持し、その一方で別の膜を、本開示の方法に従って酸処理した。上記酸処理では、薄型ペレットの両側を0.01MのHCl(pH2)酸水溶液に2.5時間浸漬し、ティッシュペーパーで拭いて乾燥させた後、全体をエタノールですすぎ、空気中でティッシュペーパーを用いて迅速に吸い取って乾燥させた。対照試料は、エタノール飽和ティッシュペーパーで拭いて風乾しただけであった。試料を取り出した後で浸漬溶液を試験し、溶液の酸性度pH2を測定した。
【0084】
図5は、周囲雰囲気及び水分への曝露後の、酸で処理されていないガーネット対照(500)試料と、酸処理済みガーネット(510)試料とを比較するTGAトレースを示す。TGA条件は、2時間にわたって2℃/分で900℃まで、及びその後空気流下においてRTまで冷却、というものであった。対照試料(500)は、200℃未満で開始する1つのステップと、700℃超の別のステップとを有する、2ステップ重量減少を示す。酸浸漬済み試料は主に、500℃付近での1ステップを示す。対照試料の重量減少は、200℃未満で吸収された水、及び700℃超での炭酸リチウムの分解が原因であり得る。500℃付近における酸浸漬済み試料の重量減少は、相分解をもたらす、プロトン化ガーネットからの水の損失が原因であり得る。予想されたように、処理済みの試料に関して、炭酸塩の損失は見られなかった。このTGAデータは、プロトン交換ガーネットに関して高温処理を回避することの重要性を示しており、従来の乾燥温度でさえ、水の損失による分解につながり得る。
【0085】
水の損失を原因とする重量変化に基づいて、酸浸漬済み試料の公称組成は、Li1.75La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512であった。
【0086】
実施例4 処理済みの及び未処理のガーネット膜のセル試験
セル試験は、以下のように達成された。セラミック‐電解質保護リチウム金属アノードセルを、図2に示すセル構成で組み立てた。この構成は、リチウム金属アノード(150)とLLZO固体電解質との間に微多孔性ポリプロピレン層が存在しないことを除いて、過去に報告されているスキームに類似している(Visco, S.J., et al., Lithium‐Air, ELC Encyclopedia of electrochemical power sources, Elsevier, 2009, 4:376-383を参照)。本開示のセル構成では、リチウム金属を、間にいずれのセパレータ層を存在させずに、ガーネットペレットに直接接触させた。炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)(EC/DMC 1/1(体積比)、BASF)中のLiPFの混合溶液を、陽極液として使用した。2Mの水性LiClと3Mの水性NHClとの混合溶液を、陰極液として使用した。
【0087】
図2は、固体ガーネット電解質(110)と接触したリチウム金属アノード(150)を組み込んだ試験セル組立体(200)を示す概略断面図であり、固体ガーネット電解質(110)は更に、水性陰極液(230)と接触している。
【0088】
試験セル組立体(200)は例えば、以下を含むことができる:
コンテナ(202)又は同様の容器;
固体ガーネット電解質(110)の上に置かれ、更にリチウム金属アノード(150)をまたぐ、ガラス管若しくはガラスシリンダ、又は同様の容器(104);
金属ロッド(206)は、ガラス容器(104)の端部に配置されたシール及びホルダ部材(207)を横断し、また上記金属ロッドは、ガラス容器(104)内において、有機陽極液(260)(ED/DMC;1:1(体積比)中のLiPF等)と接触する;
集電体(208)は、金属ロッド(206)の外側端部に取り付けられる;
Ni箔(212)は、金属ロッド(206)の内側端部に取り付けられる;
上記Ni箔(212)は、リチウム金属アノード(150)に取り付けられるか、又はリチウム金属アノード(150)と電気的に接触している;
上記セルは更に、例えばコンテナ(202)の壁によって支持されたカソード(240)と、水性陰極液(230)と接触したAg/AgCl基準電極(210)とを備える。
【0089】
図3は、電流密度の関数としての、酸処理済みガーネットペレット(菱形、310)及び未処理のガーネットペレット(正方形、300)(対照)に関する、動作セル電圧を比較する。酸処理済みガーネット試料の改善された性能は、図3に示すデータから明らかであり、上記酸処理済みガーネット試料は、未処理の試料に比べてはるかに低い分極を示す。性能の差の原因は、上記酸処理済み試料において、絶縁性炭酸リチウム表面フィルムを除去したことである。対照ガーネットセルの電流密度が0.1mA/cmまで上昇すると、上記セルは1秒以内に即座に過分極した。対照的に、本開示の酸処理済みガーネットペレットを含むセルは、電流密度0.1mA/cm、0.5mA/cm、及び1.0mA/cmにおいてさえ、安定して動作した。
【0090】
図4は、70時間超、例えばおよそ100時間にわたる、1.0mA/cmの高電流密度における、酸処理済みガーネットペレットに関する長期間にわたる例示的な動作セル電圧を示す。
【0091】
様々な具体的実施形態及び技法を参照して、本開示を説明した。しかしながら、本開示の範囲内にとどまったまま、多数の変形及び修正が可能であることを理解されたい。
【0092】
以下、本発明の実施形態を項分け記載する。
【0093】
実施形態1
リチウムガーネットを含むバルク組成物;及び
上記リチウムガーネットの外面の少なくとも一部分上にプロトン化ガーネットを含む表面組成物であって、上記ガーネットの表面プロトン化部分は、空気中で組成的に安定であり、二酸化炭素に対して非感受性である、表面組成物
を含む、固体ガーネット組成物。
【0094】
実施形態2
上記バリチウムガーネットは、LiLaZr12であり、
上記プロトン化ガーネットは、Li(7‐x)LaZr12(ここでxは0.1~7である)である、実施形態1に記載の組成物。
【0095】
実施形態3
上記リチウムガーネットは、Li6.75La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512であり、
上記プロトン化ガーネットは、Li(6.75‐x)La2.9Ga0.1Nb0.25Zr1.7512(ここでxは0.1~6.75である)である、実施形態1又は2に記載の組成物。
【0096】
実施形態4
上記リチウムガーネットの上記外面の少なくとも一部分上の上記プロトン化ガーネットは、上記リチウムガーネットの外面全体を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組成物。
【0097】
実施形態5
上記リチウムガーネットの上記外面の少なくとも一部分上の上記プロトン化ガーネットは、0.1~100nmの厚さを有する層を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の組成物。
【0098】
実施形態6
上記表面組成物は、0.1~46モル%のリチウム濃度を有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組成物。
【0099】
実施形態7
上記表面組成物は、電気絶縁Li表面種を実質的に含まない、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組成物。
【0100】
実施形態8
上記表面組成物は、LiOH、LiCO又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含まない表面を備える、実施形態1~7のいずれか1つに記載の組成物。
【0101】
実施形態9
保護アノード構造体であって:
実施形態1の固体ガーネット組成物を含むセラミック電解質組成物を含む第1の層;
リチウム金属の源を含む第2の層
を備え、上記第1の層及び上記第2の層は物理的に接触している、保護アノード構造体;並びに
カソード
を備える、複合電解質構造体。
【0102】
実施形態10
上記保護アノード構造体と上記カソードとの間に、上記保護アノード構造体及び上記カソードと接触して、水性陰極液を備える、実施形態9に記載の複合電解質構造体。
【0103】
実施形態11
上記カソードは、酸化リチウムコバルト化合物である、実施形態9又は10に記載の複合電解質構造体。
【0104】
実施形態12
実施形態1の固体ガーネット組成物を作製する方法であって、
上記方法は:
空気感受性リチウム含有ガーネットをプロトン酸と接触させて、プロトン化ガーネット表面組成物を有する上記固体ガーネット組成物を形成すること
を含む、方法。
【0105】
実施形態13
上記プロトン酸は:無機酸;有機酸;又は無機酸と有機酸との組み合わせのうちの少なくとも1つから選択される、実施形態12に記載の方法。
【0106】
実施形態14
上記プロトン化ガーネット表面を有する、空気安定性かつ二酸化炭素非感受性の上記固体ガーネット組成物を、リチウムイオンの源と接触させて、空気感受性リチウム含有固体ガーネットを再生することを更に含む、実施形態12に記載の方法。
【0107】
実施形態15
上記リチウムイオンの源との上記接触は、封止セル構造体内で達成される、実施形態14に記載の方法。
【0108】
実施形態16
上記リチウムイオンの源は、リチウム金属である、実施形態14に記載の方法。
【0109】
実施形態17
空気感受性リチウム含有固体ガーネット膜上のリチウムイオンを、プロトンを用いてイオン交換して、リチウム欠失プロトン化表面を有する、空気安定性かつ二酸化炭素非感受性の固体ガーネット電解質を形成すること
を含む、不動態化方法。
【符号の説明】
【0110】
100 概略図
104 セパレータ、ガラス管若しくはガラスシリンダ又は同様の容器
110 固体ガーネット電解質、膜、清浄な膜、LLZO、バルク又は内部組成物、リチウム化表面組成物
115 曝露
120 LiOH及びLiCO、表面汚染層
130 HLZO
135 処理
136 プロトン化表面組成物
140 表面プロトン化ガーネット電解質製品
145 組み立て
150 リチウム金属アノード、リチウム金属源
155 チウムイオンフラックス
160 組み立て済みセル
165 試験
170 Liフラックス
200 試験セル組立体
202 コンテナ
206 金属ロッド
207 ホルダ部材
208 集電体
210 Ag/AgCl基準電極
212 Ni箔
230 水性陰極液
240 カソード
260 有機陽極液
500 酸で処理されていないガーネット対照試料
510 酸処理済みガーネット試料
図1
図2
図3
図4
図5