(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】表面評価装置及び表面評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
(21)【出願番号】P 2021106906
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2024-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄貴
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-272307(JP,A)
【文献】特開2001-305052(JP,A)
【文献】特開昭63-026512(JP,A)
【文献】特開2009-063383(JP,A)
【文献】特許第6799272(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の部品の表面の面的な光学的異方性を評価する表面評価装置であって、
物体側テレセントリック光学系を形成する大口径凸レンズと、
前記大口径凸レンズの像側焦点位置に光軸に対して垂直に配置され、前記光軸が通過する位置に前記光軸を中心として物体側の光軸に平行な正反射光を通過させる絞り穴を形成するとともに、該絞り穴の外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドをもつ複数の波長フィルタを設け該複数の波長フィルタを介して拡散光を通過させる絞り付き波長フィルタ部と、
前記大口径凸レンズの像側に配置され、前記絞り穴を通過する正反射光を通過させる絞り状態と各波長フィルタを介した拡散光を含めてすべて通過させる全開状態とを切り替えて形成する絞り機構と、
前記絞り機構を前記絞り状態にして撮像した前記部品の表面画像である基準画像と前記絞り機構を前記全開状態にして撮像した前記部品の表面画像である評価画像とを取得する撮像部と
を備え、前記評価画像上において前記基準画像に重畳された波長成分をもとに前記部品の表面の光学的異方性を評価することを特徴とする表面評価装置。
【請求項2】
前記評価画像と前記基準画像との差分画像を生成し、前記差分画像に現れた波長成分をもとに前記部品の表面から反射する拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散量を算出して出力する評価処理部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の表面評価装置。
【請求項3】
前記評価処理部は、算出結果を極座標表示した光拡散指向性グラフを作成して表示することを特徴とする請求項2に記載の表面評価装置。
【請求項4】
前記評価処理部は、前記光拡散指向性グラフに対して前記光拡散量の評価基準値としての基準円を表示することを特徴とする請求項3に記載の表面評価装置。
【請求項5】
前記絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタは、周方向に隙間なく配置されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の表面評価装置。
【請求項6】
前記絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタは、周方向に離散的に配置され、各波長フィルタの間は光が遮蔽されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の表面評価装置。
【請求項7】
各波長フィルタは、可視光の波長バンドであり、
前記撮像部は、可視光を受光することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の表面評価装置。
【請求項8】
前記波長フィルタには、可視光以外の波長バンドが含まれ、
前記撮像部は、可視光以外の波長バンドを受光する機能を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の表面評価装置。
【請求項9】
前記1以上の部品の表面は、組み立てられた複数の部品の表面であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載の表面評価装置。
【請求項10】
1以上の部品の表面の面的な光学的異方性を評価する表面評価方法であって、
物体側テレセントリック光学系における像側焦点位置に配置された絞り穴を通過する物体側の光軸に平行な正反射光を撮像した前記部品の表面画像である基準画像を撮像する基準画像撮像ステップと、
前記絞り穴の外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドをもつ複数の波長フィルタを介した拡散光、及び、前記絞り穴を介した正反射光を撮像した前記部品の表面画像である評価画像を撮像する評価画像撮像ステップと
を含み、
前記評価画像上において前記基準画像に重畳された波長成分をもとに前記部品の表面の光学的異方性を評価することを特徴とする表面評価方法。
【請求項11】
前記評価画像と前記基準画像との差分画像を生成し、前記差分画像に現れた波長成分をもとに前記部品の表面から反射する拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出して出力する評価処理ステップを含むことを特徴とする請求項10に記載の表面評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の表面や塗装面の面的な光学的異方性を簡易に評価することができる表面評価装置及び表面評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック部品などの成型部品の表面や塗装面は、設計意図とは異なる光学的異方性があると、見栄えが悪くなる。この光学的異方性の評価は、一般に、複数もしくは可動するレーザや光センサを用いて成型部品の表面や塗装面からの反射光の拡散方向を計測することによって行っている。
【0003】
なお、特許文献1には、白色光源からのビームをピンホールを通し、被検平面にあて、反射光を再び該対物レンズに戻し、ビームスプリッタを経て焦点面近傍を通過せしめた光学配置において、該焦点面上に同心円状の複数のリングを有し、該リングの各帯毎に色の異なる色フィルタを配置し、フィルタを通過した光線は、被検物の傾き角の大きさに応じて、着色し、色分布をカラー表示するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のレーザ光や光センサを用いた光学的異方性の計測方法では、成型部品の表面や塗装面の1点のみが計測されるため、成型部品の表面や塗装面の全体の光学的異方性の分布を簡易に計測することができなかった。なお、複数の部品が組み合わされた状態において、組み合わされた各成型部品の表面や塗装面の光学的異方性に差があると、たとえ各成型部品の表面や塗装面の明るさや色味が同じであっても、全体的に見栄えが悪いものとなる。この点からも、成型部品の表面や塗装面の面的な光学的異方性を簡易に計測できることが要望される。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、部品の表面や塗装面の面的な光学的異方性を簡易に評価することができる表面評価装置及び表面評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、1以上の部品の表面の面的な光学的異方性を評価する表面評価装置であって、物体側テレセントリック光学系を形成する大口径凸レンズと、前記大口径凸レンズの像側焦点位置に光軸に対して垂直に配置され、前記光軸が通過する位置に前記光軸を中心として物体側の光軸に平行な正反射光を通過させる絞り穴を形成するとともに、該絞り穴の外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドをもつ複数の波長フィルタを設け該複数の波長フィルタを介して拡散光を通過させる絞り付き波長フィルタ部と、前記大口径凸レンズの像側に配置され、前記絞り穴を通過する正反射光を通過させる絞り状態と各波長フィルタを介した拡散光を含めてすべて通過させる全開状態とを切り替えて形成する絞り機構と、前記絞り機構を前記絞り状態にして撮像した前記部品の表面画像である基準画像と前記絞り機構を前記全開状態にして撮像した前記部品の表面画像である評価画像とを取得する撮像部とを備え、前記評価画像上において前記基準画像に重畳された波長成分をもとに前記部品の表面の光学的異方性を評価することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記の発明において、前記評価画像と前記基準画像との差分画像を生成し、前記差分画像に現れた波長成分をもとに前記部品の表面から反射する拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散量を算出して出力する評価処理部を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記評価処理部は、算出結果を極座標表示した光拡散指向性グラフを作成して表示することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記評価処理部は、前記光拡散指向性グラフに対して前記光拡散量の評価基準値としての基準円を表示することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタは、周方向に隙間なく配置されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタは、周方向に離散的に配置され、各波長フィルタの間は光が遮蔽されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、各波長フィルタは、可視光の波長バンドであり、前記撮像部は、可視光を受光することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記波長フィルタには、可視光以外の波長バンドが含まれ、前記撮像部は、可視光以外の波長バンドを受光する機能を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記1以上の部品の表面は、組み立てられた複数の部品の表面であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、1以上の部品の表面の面的な光学的異方性を評価する表面評価方法であって、物体側テレセントリック光学系における像側焦点位置に配置された絞り穴を通過する物体側の光軸に平行な正反射光を撮像した前記部品の表面画像である基準画像を撮像する基準画像撮像ステップと、前記絞り穴の外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドをもつ複数の波長フィルタを介した拡散光、及び、前記絞り穴を介した正反射光を撮像した前記部品の表面画像である評価画像を撮像する評価画像撮像ステップとを含み、前記評価画像上において前記基準画像に重畳された波長成分をもとに前記部品の表面の光学的異方性を評価することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記の発明において、前記評価画像と前記基準画像との差分画像を生成し、前記差分画像に現れた波長成分をもとに前記部品の表面から反射する拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出して出力する評価処理ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、部品の表面や塗装面の面的な光学的異方性を部品に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る表面評価装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、絞り機構が絞り状態の撮像カメラの構成と絞り状態における正反射光及び拡散光の一例とを示す図である。
【
図3】
図3は、絞り機構が全開状態の撮像カメラの構成と全開状態における正反射光及び拡散光の一例とを示す図である。
【
図4】
図4は、絞り付き波長フィルタ部の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、各波長フィルタの波長バンドを説明する説明図である。
【
図6】
図6は、基準画像及び評価画像の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、光拡散指向性グラフの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、制御部による光学的異方性の評価処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、変形例1による絞り付き波長フィルタ部の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタの波長バンドを示す図である。
【
図11】
図11は、変形例2による絞り付き波長フィルタ部の構成を示す図である。
【
図12】
図12は、
図11に示した絞り付き波長フィルタ部の各波長フィルタの波長バンドを示す図である。
【
図13】
図13は、変形例3による絞り付き波長フィルタ部の構成を示す図である。
【
図14】
図14は、変形例4の一例である撮像カメラの構成を示す図である。
【
図15】
図15は、変形例4の他の一例である撮像カメラの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態に係る表面評価装置及び表面評価方法について説明する。
【0021】
<概要構成>
図1は、本実施の形態に係る表面評価装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、表面評価装置1は、物体側テレセントリック光学系が形成された撮像カメラ8により撮像された成型部品100の表面Sからの正反射光の画像(基準画像)と、成型部品100の表面Sからの正反射光及び拡散光の画像(評価画像)とを取得し、基準画像と評価画像との差分画像をもとに拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出して光学的異方性を評価する。なお、表面評価装置1は、差分画像をもとに拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出せず、基準画像と評価画像とを目視して見比べることによって光学的異方性を評価するようにしてもよい。表面評価装置1は、入力部2、表示部3、記憶部4、制御部5、光源6、ビームスプリッタ7及び撮像カメラ8を有する。成型部品100は、例えば樹脂射出成型された部品であるが、塗装面を有する部品や表面加工された部品などであってもよい。
【0022】
入力部2は、マウスやキーボードなどの入力インタフェースである。表示部3は、各種情報を表示する液晶ディスプレイなどの表示インタフェースである。記憶部4は、ハードディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶デバイスである。光源6は、ビームスプリッタ7を介して表面Sに対して垂直な平行光を出射する白色光源であり、ビームスプリッタ7を介して表面Sからの反射光を撮像カメラ8に入力する。この際、表面Sからの正反射光が撮像カメラ8の光軸に対して平行となるようにしている。撮像カメラ8は、表面Sの反射光を撮像する像側テレセントリック系を構成する撮像デバイスである。
【0023】
なお、ビームスプリッタ7を用いず、撮像カメラ8の光軸に平行であって表面Sからの正反射光が撮像カメラ8に反射入力させてもよい。この場合、光源6からのコリメート光を表面Sに対して斜め入射するとともに表面Sあるいは撮像カメラ8の光軸を傾けるようにする。
【0024】
制御部5は、表面評価装置1の全体を制御する制御部であり、画像取得処理部5a、評価処理部5b及び表示処理部5cを有する。制御部5は、これらの機能部に対応するプログラムを不揮発性メモリや磁気ディスク装置などの記憶装置に記憶しておき、これらのプログラムをメモリにロードして、CPUで実行することで、対応するプロセスを実行させることになる。
【0025】
画像取得処理部5aは、光源6及び撮像カメラ8を操作して成型部品100の表面Sの表面画像を取得する。画像取得処理部5aは、撮像カメラ8内の後述する絞り機構を制御し、後述する絞り付き波長フィルタ部を介した正反射光の基準画像と、正反射光及び拡散光を含む評価画像とを取得する。
【0026】
評価処理部5bは、基準画像と評価画像との差分画像を生成し、生成した差分画像をもとに拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出して表面Sの光学的異方性を評価する。また、評価処理部5bは、算出結果を極座標表示した光拡散指向性グラフを作成する。
【0027】
表示処理部5cは、基準画像及び評価画像を表示部3に表示出力するともに、光拡散指向性グラフを表示部3に表示出力する。
【0028】
<基準画像及び評価画像の取得>
図2は、絞り機構12が絞り状態の撮像カメラ8の構成と絞り状態における正反射光L及び拡散光L1,L2の一例とを示す図である。
図3は、絞り機構12が全開状態の撮像カメラ8の構成と全開状態における正反射光L及び拡散光L1,L2の一例とを示す図である。なお、拡散光L1は位置P1から-X方向に拡散した拡散光の一例であり、拡散光L2は位置P1から+X方向に拡散した拡散光の一例である。
【0029】
図2及び
図3に示すように、撮像カメラ8には、光軸Cに平行な表面Sからの正反射光Lをすべて入力できる大口径の入力領域を有して物体側テレセントリック光学系を形成する大口径凸レンズ10が表面S側に設けられる。大口径凸レンズ10は、大口径であり、光軸C方向の厚みが大きくなるため、フレネルレンズとすることが好ましい。
【0030】
大口径凸レンズ10の像側の焦点FCには、絞り付き波長フィルタ部11が配置される。絞り付き波長フィルタ部11は、
図4に示すように、焦点FCの位置に光軸Cに対して垂直に配置される。絞り付き波長フィルタ部11には、光軸Cが通過する位置に、光軸Cを中心として表面S側の光軸Cに平行な正反射光Lを通過させる絞り穴11aが形成される。また、絞り付き波長フィルタ部11は、絞り穴11aの外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドLF1~LF4をもつ複数の波長フィルタF1~F4(F)を設け,複数の波長フィルタF1~F4を介して拡散光L1,L2を通過させる。
【0031】
具体的には、
図4及び
図5に示すように、絞り穴11aから+Y方向に紫の波長を透過させる波長バンドLF1をもつ波長フィルタF1が配置され、絞り穴11aから-X方向に青緑の波長を透過させる波長バンドLF2をもつ波長フィルタF2が配置され、絞り穴11aから-Y方向に黄の波長を透過させる波長バンドLF3をもつ波長フィルタF3が配置され、絞り穴11aから+X方向に赤の波長を透過させる波長バンドLF4をもつ波長フィルタF4が配置される。各波長フィルタF1~F4は、周方向に隙間なく等角度(90°)で配置される。なお、各波長バンドLF1~LF4は、可視光領域において離散的かつ等間隔となるように配置しているが、各波長バンドLF1~LF4の通過を弁別できれば、離散的でなくてもよいし、等角度でなくてもよい。
【0032】
絞り機構12は、大口径凸レンズ10の像側に配置され、具体的には、絞り付き波長フィルタ部11の像側に近接配置される。絞り機構12は、絞り穴11aを通過する正反射光Lのみを通過させる小口径の絞り状態と、絞り穴11aを通過した正反射光L及び各波長フィルタF1~F4を通過した拡散光L1,L2をすべて通過させる大口径の絞りにした全開状態とを、制御部5の制御のもとに切り替える。絞り機構12は、絞り状態と全開状態との絞りに切り替える絞り羽根を用いることができる。なお、絞り機構12は、絞り状態の絞りと、全開状態の絞りとの2つの絞りを予め用意しておき、各絞りをX方向にスライドして切り替えるようにしてもよい。
【0033】
上記の大口径凸レンズ10、絞り付き波長フィルタ部11及び絞り機構12を配置した状態で、
図2に示すように、絞り機構12が絞り状態の場合、破線で示す拡散光L1は、位置P1から-X方向に拡散し、絞り付き波長フィルタ部11の各波長フィルタF1~F4、具体的には波長フィルタF2を通過するが、絞り機構12により遮られる。また、破線で示す拡散光L2は、位置P1から+X方向に拡散し、絞り付き波長フィルタ部11の各波長フィルタF1~F4、具体的には波長フィルタF4を通過するが、絞り機構12により遮られる。一方、
図3に示すように、絞り機構12が全開状態の場合、破線で示す拡散光L1,L2は、絞り機構12を通過し、絞り凸レンズ13を介して撮像センサ14の位置P2に到達して像が形成される。
【0034】
絞り凸レンズ13は、絞り機構12を通過した光を撮像センサ14上に結像させる。撮像センサ14は、少なくとも可視光領域を受光できる通常のRGB画素が配列されたものでよい。なお、撮像センサ14は、各波長バンドLF1~LF4に感度をする画素を配置してもよい。また、撮像センサ14は、各波長バンドLF1~LF4に分光するマルチスペクトル機能を有するものであってもよい。
【0035】
<光学的異方性の評価の一例>
ここで、+Y方向に拡散した拡散光は波長フィルタF1を通過し紫色の光にフィルタリングされる。また、-X方向に拡散した拡散光は波長フィルタF2を通過し青緑色の光にフィルタリングされる。また、-Y方向に拡散した拡散光は波長フィルタF3を通過し黄色の光にフィルタリングされる。また、+X方向に拡散した拡散光は波長フィルタF4を通過し赤色の光にフィルタリングされる。
【0036】
この結果、評価画像が基準画像に比べて紫色がかった画像領域があれば、この画像領域の拡散光は+Y方向に拡散していることになる。また、評価画像が基準画像に比べて青緑色がかった画像領域があれば、この画像領域の拡散光は-X方向に拡散していることになる。また、評価画像が基準画像に比べて黄色がかった画像領域があれば、この画像領域の拡散光は+Y方向に拡散していることになる。また、評価画像が基準画像に比べて赤色がかった画像領域があれば、この画像領域の拡散光は+Y方向に拡散していることになる。
【0037】
また、評価画像が基準画像に比べて波長フィルタF1~F4の通過波長色に色味がかっている領域の濃度が高い場合には、その通過波長色に対応する方向への光拡散量が多いことになる。
【0038】
図6は、基準画像D1及び評価画像D2の一例を示す図である。
図6(a)は、車のリアフェンダー101とリアドア102とが組み合った状態の表面を撮像した基準画像D1である。また、
図6(b)は、基準画像D1に対応する評価画像D2である。この評価画像D2では、リアフェンダー101の表面が、黄色がかった画像となり、リアドア102の表面が、赤色がかった画像となっている。
図4に示した波長フィルタF1~F4の配置関係から、リアフェンダー101の表面からの反射光は、矢印A1に示すように、-Y方向に拡散した光学的異方性を有し、リアドア102の表面からの反射光は、矢印A2に示すように、+X方向に拡散した光学的異方性を有するものと目視によって評価される。
【0039】
評価処理部5bは、光学的異方性を定量的に評価するため、評価画像D2から基準画像D1を減算した差分画像を生成し、差分画像に現れた波長成分をもとに反射光の光拡散方向と光拡散量とを算出する。光拡散方向は、波長フィルタF1~F4の配置関係をもとに求めることができる。また、光拡散量は、波長フィルタF1~F4(波長バンドLF1~LF4)を通過した拡散光の透過値(画素値)をもとに求めることができる。
【0040】
評価処理部5bは、求めた光拡散方向と光拡散量とを用いて、
図7に示した光拡散指向性グラフを作成して表示部3に表示する。光拡散指向性グラフは、光軸Cを中心にしたXY平面の光軸Cを原点として極座標表示したものであり、原点を中心とした半径方向の大きさが光拡散量を示している。なお、光拡散方向は、+Y方向を0°(360°)、-X方向を90°、-Y方向を180°、X方向を270°とし、+Y方向を基準に時計周りに角度が増大する値で表示している。また、光拡散指向性グラフでは、原点を中心とする基準円Bを描いている。基準円Bは、光拡散量の大きさを評価する際の評価基準値となる。この基準円Bを超えた光拡散量がある場合、見栄えを悪くする光学的異方性があると判定することができる。例えば、
図7に示した光拡散指向性グラフでは、180°方向に見栄えを悪くする光学的異方性があると定量的に判定される。なお、
図7では、270°の方向にも大きな光拡散量を示しており、光拡散方向が2方向に分離した光学的異方性をもつことも知ることができる。
【0041】
なお、光拡散指向性グラフは、反射光の光拡散方向及び光拡散量をグラフ化した一例であり、例えば、光拡散方向を横軸にとり、光拡散量を縦軸にとったグラフであってもよい。
【0042】
<光学的異方性の評価処理>
図8は、制御部5による光学的異方性の評価処理手順を示すフローチャートである。
図8に示すように、まず、制御部5は、光源6を介して成型部品100の表面Sに光を照射する(ステップS110)。その後、絞り機構12を絞り状態にする(ステップS120)。そして、表面Sからの正反射光の画像である基準画像を取得する(ステップS130)。その後、絞り機構12を全開状態にする(ステップS140)。そして、表面Sからの正反射光と拡散光との画像である評価画像を取得する(ステップS150)。
【0043】
その後、制御部5は、基準画像に対する評価画像の差分画像を生成する(ステップS160)。さらに、この差分画像に現れた波長成分をもとに表面Sの光拡散方向及び光拡散量を極座標表示した光拡散指向性グラフを生成して、基準画像及び評価画像とともに、光拡散指向性グラフを表示部3に表示出力し(ステップS170)、本処理を終了する。
【0044】
<変形例1>
図9は、変形例1による絞り付き波長フィルタ部21の構成を示す図である。また、
図10は、
図9に示した絞り付き波長フィルタ部21の各波長フィルタF21~F23の波長バンドを示す図である。本変形例1の絞り付き波長フィルタ部21では、絞り付き波長フィルタ部11における4つの波長フィルタF1~F4に替えて、
図9に示すように、3つの波長フィルタF21~F23としている。各波長フィルタF21~F23は、
図10に示すように、青色、緑色、赤色の三原色の波長バンドLF21~LF23の透過特性を有する。本変形例1では、撮像センサ14がRGB画素を用いる画像センサに対応したものとなり、画像処理が容易になる。
【0045】
<変形例2>
図11は、変形例2による絞り付き波長フィルタ部31の構成を示す図である。また、
図11は、
図11に示した絞り付き波長フィルタ部31の各波長フィルタF31~F34の波長バンドを示す図である。本変形例2の絞り付き波長フィルタ部31では、絞り付き波長フィルタ部11における4つの波長フィルタF1~F4のうち、波長フィルタF1,F3,F4の各配置位置に、三原色の波長フィルタF21,F22,F23の透過特性を有する波長フィルタF31,F32、F33を配置するとともに、波長フィルタF2の配置位置に、赤外光の波長バンドLF34の透過特性を有する波長フィルタF34を配置している。なお、
図12(b)に示した波長バンドLF31~LF33は、波長バンドLF21~LF23と同じ透過特性である。また、撮像センサ14は、赤外光、ここでは遠赤外光を受光できる必要があるが、通常の画像センサは遠赤外光の受光感度を有している。
【0046】
本変形例2では、赤外光を視認できないが、撮像センサ14は赤外光を検出するため、例えば、光拡散指向性グラフなどを生成することができ、光学的異方性の評価を行うことができる。また、本変形例2では、実施の形態に比較して各波長バンドLF31~LF34の波長間隔を広げることができるため、拡散光の拡散方向の方向分離精度を高めることができる。なお、波長フィルタF34は、赤外光に限らず紫外光の波長バンドを有するものであってもよい。
【0047】
<変形例3>
図13は、変形例3による絞り付き波長フィルタ部41の構成を示す図である。上記の実施の形態及び変形例1,2では、各波長フィルタは周方向に隙間なく配置されていたが、本変形例では、
図13に示すように、各波長フィルタF41~F44を周方向に離散的に配置している。具体的には、各波長フィルタF41~F44は、90°間隔で、半径方向に延びる帯状に形成されている。各波長フィルタF41~F44の波長バンドは、各波長フィルタF1~F4の波長バンドと同じである。なお、各波長フィルタF41~F44の間は、光の透過を遮断する遮蔽領域E1~E4が形成されている。本変形例3によっても、実施の形態及び変形例1,2と同様に光学的異方性を評価することができる。
【0048】
<変形例4>
図14は、変形例4の一例である撮像カメラ81の構成を示す図である。また、
図15は、変形例4の他の一例である撮像カメラ82の構成を示す図である。上記の実施の形態では、撮像カメラ8の絞り機構12は、絞り付き波長フィルタ部11の像側に近接配置されていたが、本変形例4の撮像カメラ81では、
図14に示すように、絞り付き波長フィルタ部11の物体側、すなわち大口径凸レンズ10側に近接配置している。これによっても、絞り機構12の機能を発揮することができる。
【0049】
また、撮像カメラ82では、
図15に示すように、絞り機構12を絞り凸レンズ13と撮像センサ14との間に配置している。
図15に示した撮像カメラ82では、絞り凸レンズ13、絞り機構、撮像センサ14からなる市販のカメラ構成を流用することができる。
【0050】
本実施の形態及び変形例では、物体側テレセントリック光学系における像側焦点位置に配置された絞り穴を通過する物体側の光軸に平行な正反射光を撮像した成型部品の表面画像である基準画像を撮像して取得し、さらに、絞り穴の外周から半径方向の外側に向けて放射状に配置され、周方向の異なる角度に対応して異なる波長バンドをもつ複数の波長フィルタを介した拡散光、及び、絞り穴を介した正反射光を撮像した成型部品の表面画像である評価画像を撮像して取得しているので、評価画像上において基準画像に重畳された波長成分をもとに1以上の成型部品の表面の光学的異方性を簡易に評価するこができる。
【0051】
また、評価画像と基準画像との差分画像を生成し、差分画像に現れた波長成分をもとに成型部品の表面から反射する拡散光の光拡散方向及び/又は光拡散方向の大きさを算出して出力するようにしているので、光学的異方性を定量的に評価することができる。
【0052】
なお、上記の実施の形態及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の表面評価装置及び表面評価方法は、部品の表面や塗装面の面的な光学的異方性を簡易に評価する場合に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 表面評価装置
2 入力部
3 表示部
4 記憶部
5 制御部
5a 画像取得処理部
5b 評価処理部
5c 表示処理部
6 光源
7 ビームスプリッタ
8,81,82 撮像カメラ
10 大口径凸レンズ
11a 絞り穴
11,21,31,41 絞り付き波長フィルタ部
12 絞り機構
13 絞り凸レンズ
14 撮像センサ
100 成型部品
101 リアフェンダー
102 リアドア
A1,A2 矢印
B 基準円
C 光軸
D1 基準画像
D2 評価画像
E1~E4 遮蔽領域
F1~F4,F21~F23,F31~F34,F41~F44 波長フィルタ
FC 焦点
L 正反射光
L1,L2 拡散光
LF1~LF4,LF21~LF23,LF31~LF34 波長バンド
P1,P2 位置
S 表面