(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】熱成形用積層発泡シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20250117BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20250117BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250117BHJP
C08J 9/14 20060101ALI20250117BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B7/06
B32B27/30 B
C08J9/14 CET
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021129358
(22)【出願日】2021-08-05
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(73)【特許権者】
【識別番号】390021429
【氏名又は名称】株式会社JSPパッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(74)【復代理人】
【識別番号】100126413
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 良成
(72)【発明者】
【氏名】杉野 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】福井 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】秋元 斉
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-111785(JP,A)
【文献】特開2001-162734(JP,A)
【文献】特開平07-096572(JP,A)
【文献】特開2002-215072(JP,A)
【文献】特開2006-123178(JP,A)
【文献】特開2021-192959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡シートと、熱可塑性樹脂フィルムとを有し、該熱可塑性樹脂フィルムが該ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に剥離可能に積層接着された、熱成形用積層発泡シートにおいて、
該積層発泡シートの見掛け密度が50kg/m
3以上200kg/m
3以下であり、
該積層発泡シートから該熱可塑性樹脂フィルムが剥離された該ポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面における、面積0.002mm
2以下の微細気泡の占める面積割合が0.5%以上20%以下であり、
該熱可塑性樹脂フィルムを該積層発泡シートから剥がす際の剥離強度の平均値が40cN/25mm以上250cN/25mm以下であることを特徴とする熱成形用積層発泡シート。
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが、炭素数3~5の飽和炭化水素とジメチルエーテルとを含む有機物理発泡剤で発泡してなる発泡シートである、請求項1に記載の熱成形用積層発泡シート。
【請求項3】
前記積層発泡シート中の前記有機物理発泡剤の残存量が1.0重量%以上2.5重量%以下である、請求項2に記載の熱成形用積層発泡シート。
【請求項4】
前記積層発泡シートの剥離強度の変動係数が0.05以上0.15以下である、請求項1~3のいずれかに記載の熱成形用積層発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用積層発泡シートに関し、詳しくは積層されたフィルムを剥離することができる熱成形用積層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡シートに、熱可塑性樹脂フィルムが積層接着された積層発泡シートが知られている。該積層発泡シートの熱成形により得られたトレー等の包装容器は、調理済みの食品等を収納する食品用容器などとして広く使用されている。
【0003】
近年、環境にかかる負担を軽減するために、該包装容器を回収し、洗浄し、溶融し、ペレット化することによる包装容器の再資源化が進められている。しかし、回収された包装容器は汚れていることも多く、再資源化する際には、家庭や回収工場で洗浄しなければならかった。
また、フィルムは着色されていることもあり、回収原料中に着色剤が混ざって回収原料が着色されてしまうおそれがあった。このような問題を解決するために、ポリスチレン系樹脂発泡シートに積層されたフィルムを剥がすことで、包装容器の洗浄を不要にする技術が開発されている。該包装容器としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の積層発泡シ-ト、更に熱成形により得られた成形体は、積層されたフィルムを剥がしやすくするために、フィルムを積層発泡シートから剥がす際の剥離強度を低めに抑えたものである。
しかし、特許文献1に記載の積層発泡シ-トは、熱成形後に、積層されたフィルムがポリスチレン系樹脂発泡シートから剥離して浮いてしまい、ポリスチレン系樹脂発泡シートとフィルムの間の界面に空隙が形成されるという現象(以下、「フィルム浮き」ともいう。)が発生し、外観が低下するおそれがあった。
【0006】
このフィルム浮きは、フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートの接着強度を強くすれば発生を防止することができる。しかし、フィルムの接着強度を強くすると、フィルムを積層発泡シートから剥がすことができなくなってしまう。
したがって、従来技術においては、フィルムを積層発泡シートから剥離させるという課題と、フィルム浮きを防止するという課題を両立させることは困難であった。
また、従来技術においては、積層発泡シートからフィルムを剥離することはできるものの、フィルムを剥がすのに時間が掛かることがあり、課題を残していた。
【0007】
本発明は、積層発泡シートからのフィルムの剥離を容易にし、且つ、熱成形後に、接着されたフィルムが浮いてしまうという現象が防止され、外観に優れる熱成形用積層発泡シートを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す熱成形用積層発泡シートが提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂発泡シートと、熱可塑性樹脂フィルムとを有し、該熱可塑性樹脂フィルムが該ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に剥離可能に積層接着された、熱成形用積層発泡シートにおいて、
該積層発泡シートの見掛け密度が50kg/m3以上200kg/m3以下であり、
該積層発泡シートから該フィルムが剥離されたポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面における、面積0.002mm2以下の微細気泡の占める面積割合が、0.5%以上20%以下であり、
該熱可塑性樹脂フィルムを該積層発泡シートから剥がす際の剥離強度の平均値が40cN/25mm以上250cN/25mm以下であることを特徴とする熱成形用積層発泡シート。
[2]前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが、炭素数3~5の飽和炭化水素とジメチルエーテルとを含む有機物理発泡剤で発泡してなる発泡シートである、前記1に記載の熱成形用積層発泡シート。
[3]前記積層発泡シート中の前記有機物理発泡剤の残存量が1.0重量%以上2.5重量%以下である、前記2に記載の熱成形用積層発泡シート。
[4]前記積層発泡シートの剥離強度の変動係数が0.05以上0.15以下である、前記1~3のいずれかに記載の熱成形用積層発泡シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱成形用積層発泡シートにおいては、積層接着された熱可塑性樹脂フィルムをポリスチレン系樹脂発泡シートから容易に剥離することができる。さらに、本発明の積層発泡シートにおいては、該熱可塑性樹脂フィルムが剥離されたポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面には微細気泡が形成されているので、該熱成形用積層発泡シートの熱成形により得られた成形体は、積層された熱可塑性樹脂フィルムがポリスチレン系樹脂発泡シートから浮いてしまうという現象が防止されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、積層発泡シートから熱可塑性樹脂フィルムが剥離されて現れたポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面に微細気泡が形成された状態の一例を示す図面である。
【
図2】
図2は、フィルム浮き3が見られる成形体の一例を示す写真である。
【
図3】
図3は、本発明の積層発泡シートから熱可塑性樹脂フィルムが剥離されて、ポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面が現れる様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の熱成形用積層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明の熱成形用積層発泡シート(以下、単に積層発泡シートともいう。)は、ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう。)と、熱可塑性樹脂フィルム(以下、単にフィルムともいう。)とを有するものであり、該フィルムは該発泡シートの少なくとも片面に剥離可能に積層接着されている。
【0012】
本明細書において、剥離可能とは、該フィルムを該積層発泡シートから剥がす際の、該発泡シートと該フィルムとの剥離強度の平均値が40cN/25mm以上250cN/25mm以下であり、該フィルムを該積層発泡シートから剥がすことができることをいう。
【0013】
本発明において、該ポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリスチレン系樹脂を基材樹脂とする。該ポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体成分単位を50重量%以上含む樹脂を意味し、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン-αメチルスチレン共重合体、スチレン-pメチルスチレン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物等が挙げられ、これらのポリスチレン系樹脂の2種以上の混合物であってもよい。なお、ポリスチレン系樹脂には、ジビニルベンゼンや多分岐状マクロモノマーなどの多官能モノマー成分単位が含まれていても良い。
【0014】
また、該基材樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の成分を配合することができる。他の成分としては、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、スチレン-共役ジエンブロック共重合体やその水添物等の熱可塑性エラストマー、エチレン-プロピレンゴム、ブタジエンゴム等のゴム等が挙げられる。他の成分の配合量は、基材樹脂中の30質量%を上限とすることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%、すなわち、スチレン系樹脂のみからなることが特に好ましい。
【0015】
該発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は0.1~5g/10分が好ましく、より好ましくは1~3g/10分である。該MFRがこの範囲内であることにより、独立気泡構造を有し、機械的強度に優れる発泡シートを広い製造条件範囲に亘って製造することができる。
なお、本明細書におけるメルトフローレイトは、JIS K 7210-1(2014)の試験方法A法により測定されるメルトマスフローレイトを意味し、試験温度200℃、荷重5kgの条件を採用する。
【0016】
前記熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂としては、代表的なものとして、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。該ポリオレフィン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、バイオマス由来ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂、プロピレンホモポリマー、エチレン・プロピレンブロックコポリマー、エチレン・プロピレンランダムコポリマー等のポリプロピレン系樹脂、バイオマス由来のポリプロピレンを含むポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
該ポリスチレン系樹脂としては、前述のポリスチレン系樹脂と同様の樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂を用いたフィルムが複数積層された多層フィルムを用いることもできる。
【0017】
該熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下、さらに好ましくは15μm以上35μm以下、特に好ましくは、20μm以上30μm以下である。該厚みがこの範囲内であれば、フィルムの破れや、穴あき等の欠陥が発生することが防止され、発泡シートからフィルムを剥がすことができる。
【0018】
また、該フィルムとして、ポリスチレン系樹脂発泡シートと接着させるために接着層が設けられているものを用いてもよい。接着層を構成する接着剤としては、一般的に使用されるアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などの従来公知の接着剤や、エチレン-酢酸ビニルなどの従来公知の接着性樹脂が挙げられる。また、樹脂フィルムに接着剤が積層された、いわゆる接着コート付きフィルムを用いることもできる。
【0019】
前記フィルムを積層接着させる方法としては、例えば、熱ラミネーションや押出ラミネーション等の公知の方法をあげることができる。中でも、作業の容易性、得られる成形体の軽量性や、コストの観点から、熱ラミネーションにより発泡シートの片面または両面に、熱可塑性樹脂フィルムを発泡シートに積層接着させることが好ましい。
【0020】
該熱ラミネーションの方法、熱ラミネーションに使用する装置は、従来公知のものを用いることができる。
【0021】
本発明においては、前記積層発泡シートから前記フィルムを剥がす際の、該発泡シートと該フィルムとの剥離強度の測定値の平均値(以下、平均剥離強度ともいう。)が40cN/25mm以上250cN/25mm以下である。該剥離強度がこの範囲内であれば、フィルムを剥がすことができる。本発明においては、平均剥離強度がこのように比較的小さな値であっても、積層発泡シートにおけるフィルム浮きの発生が抑制される。剥離容易性の観点から、該平均剥離強度は50cN/25mm以上200cN/25mm以下であることが好ましく、より好ましくは60cN/25mm以上150cN/25mm以下、更に好ましくは70cN/25mm以上130cN/25mm以下である。
【0022】
剥離強度の測定は次のように行われる。積層発泡シートから押出方向に対して垂直方向に沿って幅25mmの試験片を切り出し、JIS Z0237:2009に準拠し、剥離速度条件300mm/minの90°剥離試験にて積層発泡シートからフィルムを剥離させ、その際の剥離強度を測定する。該測定を少なくとも10回行い、その算術平均を平均剥離強度とする。
【0023】
該剥離強度の変動係数は0.05以上0.15以下であることが好ましい。該変動係数は、剥離強度の測定値の相対的なばらつきを表す値であり、変動係数が0.05以上0.15以下であることは、フィルムがより均一な強度で積層接着されていることを意味する。即ち、変動係数が小さいほど、剥離強度の個々の測定値のバラツキが小さいことを意味する。
このような均一な強度で積層接着させる方法として、後述するように積層発泡シートに微細気泡が形成されるような条件でフィルムを積層し、その微細気泡の発生により接着の際の熱量を分散、冷却させながら、フィルムを積層接着させる方法が採用できる。このようにすると、剥離強度のバラツキは小さくなり、変動係数が小さくなると考えられる。
【0024】
該変動係数は、剥離強度の個々の測定値から算出される標準偏差を、個々の測定値の算術平均(前記平均剥離強度)で割ることにより得られる値であり、下記(1)式により算出される。
Cv=({Σ(Di-Dav)2/(n-1)}1/2)/Dav)
・・・(1)
但し、(1)式において、Diは個々の剥離強度の測定値、Davは平均剥離強度である。
【0025】
本発明の積層発泡シートにおいては、積層発泡シートからフィルムが剥離された際の、発泡シートの剥離表面に存在する、面積0.002mm2以下の気泡の占める面積割合(以下、微細気泡面積率ともいう。)が、0.5%以上20%以下である。
【0026】
該微細気泡は、例えば、後述する特定の有機系物理発泡剤を用いて形成された発泡シートを用いて、熱ラミネーションによりフィルムを積層することにより形成することができる。熱ラミネーションにより、該フィルムが該発泡シートに積層接着される際に、発泡シートの表面が加熱されて微細気泡が発生すると考えられる。そして、得られた積層発泡シートは、該積層発泡シートから熱可塑性フィルムが剥離されたポリスチレン系樹脂発泡シートの該剥離表面に、微細気泡が観察されるものとなる。
【0027】
該微細気泡面積率が0.5%以上である場合にはフィルム浮きが発生しにくくなる。その理由は、微細気泡が発泡シート表面に発生すると、表面付近の発泡剤の揮散が促進され、発泡剤がより滞留しにくくなるため、フィルム浮きの発生が抑止されると考えられる。
なお、フィルム浮きは、低見掛け密度の発泡シートを作製しようとして、発泡剤量の配合量を多くするほど、激しくなる傾向がある。このことから、発泡シート内に残存している物理発泡剤が熱成形後に揮散し、発泡シートとフィルムの間の界面に溜まって、フィルムが浮き上がり、空間が形成されると考えられる。
【0028】
また、該微細気泡が発生すると、シート表面の状態変化によって熱が放散されるため、微細気泡が発生した部分は、フィルムと発泡シートの接着状態が変化して、剥がしやすさが向上する。特に、微細気泡によりフィルムを剥離する際における剥がし始める段階の剥がしやすさが向上し、フィルムの剥離が容易となる。
【0029】
一方、該微細気泡の面積割合が20%を超えるほどに発生してしまうと、剥離強度が低下しすぎて、フィルム浮きが発生しやすくなるおそれがある。
かかる観点から、該微細気泡面積率は、1%以上15%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以上10%以下である。
【0030】
図1に、積層発泡シートのフィルムが剥離されて現れる発泡シートの剥離表面に微細気泡が形成された状態の一例を示す。
図1に示すように、該剥離表面には、通常の気泡1に交じって微細気泡2が形成されている。なお、
図3に、該積層発泡シートからフィルムが剥離されて、発泡シートの剥離表面が現れる様子を示す説明図である。
【0031】
該微細気泡面積率の測定は、積層発泡シートの幅方向中央部から切り出した試験片について、フィルムを手で剥がした後、その剥離表面をCCDカメラ等を用いて撮影し拡大画像を得、4mm2の面積部分に発生した該微細気泡の該面積率を測定する。該微細気泡面積率は、後述するように、画像編集ソフトウェアを用いて算出される。
【0032】
次に、本発明の熱成形用積層発泡シートの諸物性について説明する。
本発明の積層発泡シートの厚みは、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。該厚みがこの範囲内であると、積層発泡シートの熱成形性が良好なものとなり、積層発泡シートの熱成形により得られる容器は剛性、断熱性、取り扱い性等に優れるものとなる。かかる観点から、該厚みは0.7mm以上4mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以上3mm以下である。
【0033】
該積層発泡シートの厚みは、積層発泡シートから無作為に一辺260mmの測定用サンプルを3つ採取し、該測定用サンプルを用いて前記方法により厚みを測定し、その算術平均値とする。
【0034】
該積層発泡シートの坪量は50g/m2以上300g/m2以下であることが好ましい。積層発泡シートの坪量がこの範囲内であると、積層発泡シートは剛性を維持しつつ、より軽量性に優れるものとなり、得られた成形体は、食品包装容器などの使用に耐え得るものとなる。前記観点から、該坪量は80g/m2以上250g/m2以下であることがより好ましく、100g/m2以上200g/m2以下であることが更に好ましい。
【0035】
本明細書において、積層発泡シートの坪量は次のようにして測定される。まず、積層発泡シートから縦100mm × 横100mm×積層発泡シートの厚みの試験片を切り出して該試験片の重量(g)を測定し、該重量を100倍して、単位換算することで坪量(g/m2) を求める。
なお、フィルムが積層接着されていない発泡シートの坪量も、該積層発泡シートの坪量と同様に測定することができる。
【0036】
該積層発泡シートの見掛け密度は、50kg/m3以上200kg/m3以下である。該見掛け密度がこの範囲内であれば、熱成形してなる容器の強度と軽量性に優れるものとなる。かかる観点から、該見掛け密度は60kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは70kg/m3以上100kg/m3以下である。
【0037】
本明細書において、該積層発泡シートの見掛け密度は、次の通り測定される。まず、前記方法により積層発泡シートの坪量(g/m2)を求める。次いで、求められた積層発泡シートの坪量(g/m2)を前記積層発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算し、積層発泡シートの見掛け密度(kg/m3)とする。
なお、フィルムが積層接着されていない発泡シートの見掛け密度も、該積層発泡シートと同様に測定することができる。
【0038】
本発明においては、該積層発泡シートの厚み方向中央部を通り、且つ該積層発泡シートの厚み方向に対して水平方向に直交する断面4mm2中に存在する内部気泡数(A)が100個以下であることが好ましい。
また、該気泡数(A)に対する、該積層発泡シートの該フィルムが剥離されたポリスチレン系樹脂発泡シートの剥離表面部分4mm2中に存在する表面気泡数(B)の比(B/A)が1.5以上2.3以下であることが好ましい。
これらの範囲内の気泡を有する積層発泡シートであれば、外観に優れ、食品容器としてより好適に使用することができる。さらに、容器の包装形態としてラップ包装や、外嵌合タイプの蓋や、内嵌合タイプの蓋と組み合わせて使用される場合であっても、良好に対応することができる。
この観点から、該積層発泡シートの厚み方向に直交する断面4mm2中に存在する内部気泡数(A)は、80個以上95個以下であることが好ましく、85個以上93個以下であることがさらに好ましい。
【0039】
また、積層発泡シートを厚み方向に沿って切断した積層発泡シート断面に存在する気泡数(縱断面気泡数)は、10個以上25個以下であることが好ましく、より好ましくは15個以上20個以下である。
該縱断面気泡数は、積層発泡シートの幅方向に等間隔の10箇所において、押出方向に垂直方向且つ厚み方向に沿って切断した断面を顕微鏡等で撮影し、拡大画像を得る。次に、各断面写真の厚さ方向に直線lを引き、直線lと交わる発泡シート中の全ての気泡数nを数える。このようにして得られた気泡数の平均を積層発泡シートの厚み方向の平均気泡数とする。
【0040】
本発明の積層発泡シートにおいては、独立気泡率が60%以上である。該独立気泡率が小さすぎると、得られる容器の剛性や熱成形性が低下するおそれがある。また容器の剛性が低下するおそれがある。かかる観点から、該独立気泡率は、70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。
【0041】
本明細書において、積層発泡シート、または発泡シートの独立気泡率の測定は、次の様に行われる。ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(無作為に積層発泡シートまたは発泡シートから25mm×40mm×シート厚みに切断したカットサンプルを、サンプルの厚みの総和が20mmに最も近づくように(ただし、20mmを超えない。)複数枚重ねてサンプルカップ内に収容して測定する。)された積層発泡シートまたは発泡シート(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(2)式により独立気泡率S(%)を計算し、n=5の平均値として求める。
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) ・・・(2)
【0042】
Vx:前記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm3)であり、積層発泡シート、または発泡シートを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:積層発泡シート、または発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0043】
次に、本発明の積層発泡シート中の有機物理発泡剤の残存量について説明する。
該積層発泡シート中の有機物理発泡剤の残存量は、1.0重量%以上2.5重量%以下であることが好ましい。該残存量がこの範囲内であれば、型内成形時に、望ましい2次発泡が起き、金型の形状が賦形された成形体を得ることができ、熱成形後のフィルム浮きが防止される。かかる理由により、該残存量は1.2重量%以上2.3重量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは1.5重量%以上2.1重量%以下である。なお、熱ラミネーションによるフィルム積層工程を経ることにより、積層発泡シートの中の発泡剤残量は、発泡シート中の発泡剤含有量よりも少なくなる。
【0044】
該残存量がこの範囲内であれば、フィルムを積層発泡シートから剥離させ、且つフィルム浮きを防止することが容易に達成できる。なお、フィルム浮きの発生を防止するためには、該残存量は少ないほど好ましい。一方、良好な熱成形性を発現させるためには、有機系の物理発泡剤は発泡シートに残存して熱成形時の二次発泡に寄与させる必要がある。したがって、上記のように、フィルム浮きが発生しない程度の有機物理発泡剤が積層発泡シートを構成する発泡シート中に残存していることが望ましい。
【0045】
次に、本発明の積層発泡シートの製造に用いられる発泡シートの物性について説明する。
該発泡シートの見掛け密度は、50kg/m3以上200kg/m3以下であることが好ましい。該見掛け密度がこの範囲内であれば、得られた積層発泡シートを熱成形してなる成形体が強度に優れると共に、軽量性に優れるものとなる。かかる観点から、該見掛け密度は60kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは65kg/m3以上100kg/m3以下である。なお、該発泡シートの見掛け密度は、積層発泡シートの測定方法と同様にして測定することができる。
【0046】
該発泡シートの厚みは、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。該厚みがこの範囲内であると、該発泡シートにフィルムを積層接着してなる積層発泡シートの熱成形により得られる成形体は剛性、断熱性、取り扱い性等に優れ、種々の容器として好適に用いることができるものとなる。かかる観点から、該厚みは0.7mm以上4mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以上3mm以下である。なお、該発泡シートの厚みは、積層発泡シートの測定方法と同様にして測定することができる。
【0047】
該発泡シートの坪量は50g/m2以上250g/m2以下であることが好ましい。該発泡シートの坪量がこの範囲内であると、該発泡シートから得られる積層発泡シートを熱成形した成形体は、食品包装容器などの使用に耐え得るものとなる。前記観点から、該坪量は80g/m2以上200g/m2以下であることがより好ましく、100g/m2以上150g/m2以下であることが更に好ましい。なお、該発泡シートの坪量は、前記積層発泡シートの測定方法と同様にして測定することができる。
【0048】
次に、該積層発泡シートの製造に用いられる発泡シート中の有機物理発泡剤の含有量について説明する。
該積層発泡シートの製造に用いられる発泡シート中の有機物理発泡剤の含有量は、1.5重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
該含有量がこの範囲内であれば、得られた積層発泡シートの型内成形時に、望ましい2次発泡が起き、且つポリスチレン系樹脂が可塑化されるので、金型の形状が賦形された成形体を得ることができ、熱成形後のフィルム浮き現象が防止される。かかる理由により、該含有量は1.8重量%以上2.8重量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは1.9重量%以上2.5重量%以下である。
【0049】
前記の範囲の発泡剤の残存量の積層発泡シートを得るには、発泡シートの製造に用いる有機物理発泡剤として、炭素数3~5の脂肪族炭化水素と早期散逸性発泡剤とを含む有機系混合物理発泡剤を用いることが好ましい。
【0050】
炭素数3~5の脂肪族炭化水素は発泡シートからの揮散速度が比較的遅く、ポリスチレン系樹脂に対する透過速度が空気よりも遅いので、熱成形における発泡シートの二次発泡性や、可塑化を長期にわたって確保することができ、得られる積層発泡シートのライフサイクルを長くすることができる。かかる理由により、より好ましくはブタンが用いられ、さらに好ましくはイソブタンが用いられる。
一方、該早期散逸性発泡剤としては、ポリスチレン系樹脂に対する透過速度が空気よりも速いものが挙げられる。例えば、沸点140℃以下のエーテル、沸点140℃以下のジアルキルカーボネート、アルコール、二酸化炭素、水などが挙げられる。これらの中でも、エチルメチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルが好ましい。低見掛け密度の発泡シートの製造が容易であること、ポリスチレン系樹脂を十分に可塑化できること等の理由により、ジメチルエーテルが用いられることがさらに好ましい。
なお、該ジメチルエーテルのポリスチレン系樹脂に対する透過速度は、ノルマルブタンの77倍であり、イソブタンの該透過速度は、ノルマルブタンの0.1倍である。従って、ジメチルエーテルと、ノルマルブタンと、イソブタンの混合発泡剤を用いて発泡シートを製造した場合、ジメチルエーテルは見掛け密度を小さくすることに寄与するが早期に揮散し、ノルマルブタンとイソブタン、特にイソブタンは長期間発泡シート中に残存し、熱成形性の向上に寄与できる。
【0051】
なお、ジメチルエーテルを用いると、発泡シート内部の気泡が大きくなる傾向がある。
従って、前記した内部気泡数(A)は小さくなる傾向があるので、該気泡数(A)に対する該積層発泡シートの該フィルムが剥離された発泡シート側剥離表面4mm2中に存在する表面気泡数(B)の比(B/A)は1.8以上2.8以下であることがより好ましい。
発泡シート内部の気泡が大きくなるのは、ジメチルエーテルの気泡壁に対する透過速度が速いことにより、発泡初期の気泡成長速度が大きくなるためと考えられる。
【0052】
該積層発泡シート中の有機物理発泡剤の残存量(重量%)、また該発泡シート中の有機物理発泡剤の含有割合(重量%)は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定することができる。具体的には、積層発泡シート又は発泡シートの全幅中央付近から約1gのサンプルを切り出し、直ちに蓋付き試料ビン中の内部標準物質が添加されたトルエンに投入し、蓋を閉めた後、十分に撹拌し試料中の発泡剤をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行い、有機物理発泡剤の含有割合を求める。
【0053】
前記の方法により、積層発泡シート、発泡シート中の飽和炭化水素の含有割合(重量%)を求めることができる。また、積層発泡シート、発泡シート中のジメチルエーテルの含有割合(重量%)も求めることができる。
【0054】
なお、該積層発泡シート中の該ジメチルエーテルの残存量は1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以下、0.3重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下である。
【0055】
次に、本発明の積層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の積層発泡シートは、従来公知の所謂押出発泡方法により発泡シートを形成し、この発泡シートに熱可塑性樹脂フィルムを積層接着することにより得ることができる。具体的には、例えば、次のようにして製造することができる。
【0056】
まず、ポリスチレン系樹脂発泡シートを製造する。具体的には、ポリスチレン系樹脂と、必要に応じて添加されるタルクなどの気泡調整剤等を押出機に供給し、加熱、溶融、混練して溶融樹脂とする。次に、該溶融樹脂に物理発泡剤を圧入し、さらに混練し、発泡可能な樹脂温度に調整して発泡性樹脂溶融物とする。次に、該発泡性樹脂溶融物を押出機の下流側に取り付けられた環状ダイに導入し、大気中に押出発泡させて、筒状発泡体を形成する。次いで該筒状発泡体を円柱状冷却装置に沿わせて引取りながら切り開くことにより、発泡シートを得ることができる。
【0057】
本発明に用いられる発泡シートを得るための発泡剤としては、前記したように、炭素数3~5の脂肪族炭化水素と早期散逸性発泡剤とを含む有機物理発泡剤が好ましく用いられる。炭素数3~5の脂肪族炭化水素としては、発泡シートからの散逸速度が遅く、熱成形における発泡シートの二次発泡性を長期にわたって確保することができることから、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルブタンとイソブタンの混合ブタンが好ましく、イソブタンがより好ましい。
【0058】
一方、早期散逸性発泡剤としては、低見掛け密度の発泡シートの製造が容易であること、ポリスチレン系樹脂を十分に可塑化できること等の点から、ジメチルエーテルが好ましい。また、早期逸散性発泡剤を使用することにより、積層発泡シートの残存発泡剤量を減らすことができるので、フィルム浮きを効果的に抑制することができる。
該有機物理発泡剤の合計配合量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、1~8重量部であることが好ましく、2~5重量部であることが好ましい。
【0059】
以下、有機物理発泡剤として、イソブタンとジメチルエーテルとを組合せて用いた場合について説明する。但し、本発明はこの組合せに限定されることなく、他の炭素数3~5の飽和炭化水素や早期散逸性発泡剤を用いることができる。また、1又は2以上の炭素数3~5の飽和炭化水素と、1又は2以上の早期散逸性発泡剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0060】
イソブタンの配合量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、1~4重量部であることが好ましい。前記範囲の配合量のイソブタンを用いることにより、所望される厚み、見掛け密度の発泡シートを容易に形成することができる。また、成形性に優れ、特に、2次発泡性に優れ、金型への賦形性に優れる発泡シートを得ることができる。かかる観点から、該配合量は、2~3.5重量部であることがより好ましい。
【0061】
ジメチルエーテルの配合量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.5~2重量部であることが好ましい。ジメチルエーテルは、発泡シートからの散逸速度が速いので、物理発泡剤としてジメチルエーテルを用いることにより、発泡シートの製造時には、ポリスチレン系樹脂を十分に可塑化させつつ、発泡シートの低見掛け密度化に寄与することができる。また、得られる発泡シート中の発泡剤の残存量を低減することができるので、得られた発泡シートにフィルムが積層された積層発泡シートは、熱成形後のフィルム浮きが抑制されるものとなる。かかる観点から、該配合量は0.6~1.8重量部であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.5重量部である。
【0062】
また、物理発泡剤として、イソブタンとジメチルエーテルとの混合発泡剤を用いる場合、イソブタンとジメチルエーテルとの重量比は55:45~80:20であることが好ましい。該重量比をこの範囲内とすることにより、熱成形性に優れ、フィルム浮き現象を防止可能な積層発泡シートを作成できる発泡シートを得ることができる。かかる観点から、該重量比は60:40~75:25であることがより好ましい。
【0063】
本発明においては、前記基材樹脂に、必要に応じて気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0064】
該気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。中でも、取り扱い性、コスト等の観点から、タルクが好適である。気泡調整剤の添加量は、該気泡調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、基材樹脂100重量部に対し、概ね、0.01~8重量部、更に0.02~5重量部、特に0.05~3重量部が好ましい。
【0065】
次に、発泡シートにフィルムを積層接着する方法について説明する。
得られた発泡シートに、前記熱可塑性樹脂フィルムを積層接着させる方法としては、例えば、熱ラミネーションや押出ラミネーション等の公知の方法を挙げることができる。中でも、平均剥離強度の調整が容易であることや、微細気泡を発生させやすいことから、熱ラミネーションにより発泡シートの片面または両面に、熱可塑性樹脂フィルムを積層接着させることが好ましい。
【0066】
熱ラミネーションによる、発泡シートへのフィルムの積層接着は、通常、押出発泡し引取られた発泡シートを、一旦ロール状に巻き取った後、発泡工程とは別工程において、発泡シートをロール体から巻き戻して、フィルムを重ね合わせて熱ラミネーション装置を通すことにより行われる(オフライン処理)。
但し、発泡シートの製造ライン上で、押出発泡された発泡シートにフィルムを重ね合わせて熱ラミネーション装置を通すことにより積層発泡シートとし、ロール状に巻き取る方法(オンライン処理)を採用しても良い。
【0067】
該熱ラミネーションにおいては、例えば、発泡シートを圧着可能な加熱ロールと挟圧ロールとを有する熱ラミネーション装置を用い、フィルムと発泡シートとを重ねて、フィルムが加熱ロールに接触するように、加熱ロールと挟圧ロールの間に供給して、フィルムと発泡シートとを挟み込むことにより、フィルムが発泡シートに積層接着されることが好ましい。
【0068】
本発明の積層発泡シートを得る際には、例えば、該加熱ロールの温度を155~190℃、特に好ましくは、158~180℃に設定するなど、発泡シートとフィルムとの接着時の加熱条件や、ラインスピードなどを変更することによって剥離強度を調整することができる。
【0069】
前記熱ラミネーションの方法、熱ラミネーションに使用する装置は、従来公知のものを用いることができる。
【0070】
本発明の積層発泡シートは熱成形性に優れるものであり、熱成形により、さまざまな金型形状が賦形された成形体を得ることができる。
【0071】
熱成形方法としては、真空成形や圧空成形、更にこれらの応用としてフリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形等やこれらを組み合わせた成形方法等が挙げられる。かかる熱成形法は、短時間に連続して成形体を得ることができるので、好ましい方法である。尚、ポリオレフィン系樹脂等のフィルムなどの耐油性に優れるフィルムが積層接着された積層発泡シートを熱成形する場合、得られる成形体の内側に耐油性に優れる熱可塑性樹脂フィルムが位置するように成形することが好ましい。
【0072】
熱成形により得られる成形体は納豆容器、食品用トレイをはじめ種々の食品容器として用いられる。
これらの容器を使用した後に、フィルムのみを剥がすことにより、洗浄の工程を簡略化できるので、発泡シートのリサイクル性が向上する。
さらに、積層発泡シートを成形する際に発生する、成形体が打ち抜かれて残ったシートについても、成形体と同様にフィルムを剥がすことができるので、本発明の積層発泡シートのリサイクル性はさらに向上している。
【実施例】
【0073】
以下、本発明につき実施例により詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例、比較例において、次の装置を用いた。
発泡シート形成用の装置として、内径115mmの単軸の第一押出機と内径180mmの単軸の第二押出機を直列に連結したタンデム型押出機を用いた。
熱ラミネーション装置として、発泡シートとフィルムとを圧着可能な加熱ロール(上側)と挟圧ロール(下側)と、発泡シート(下側)とフィルム(上側)とが積層された積層発泡シートを押圧、冷却可能な、上下の二本の冷却ロールを備える装置を用いた。
【0075】
実施例、比較例において、用いた各種原料を次に示す。
【0076】
(ポリスチレン系樹脂)
(1)略称「樹脂1」:PSジャパン社製ポリスチレン樹脂:製品名「GX154」(MFR1.5g/10min)
【0077】
気泡調整剤:タルク「松村産業社製ハイフィラー#12」のマスターバッチ(タルク35重量%)
【0078】
有機系物理発泡剤
(1)イソブタン
(2)ジメチルエーテル
【0079】
(熱可塑性樹脂フィルム)
(1)略称「CPP」:サン・トックス社製無延伸ポリプロピレンフィルム「KT」(厚み25μm)
(2)略称「CPS」:大石産業社製スチロファンSPH(厚み25μm)
【0080】
実施例1~3、比較例1~5
表1に示す種類、量のポリスチレン系樹脂と、表1に示す量のタルク(気泡調整剤:松村産業社製ハイフィラー#12)を前記タンデム押出機の第一押出機に供給して、加熱溶融し混練し、表1に示す種類、量の有機系物理発泡剤をポリスチレン系樹脂100重量部に対して表1に示す量となるように圧入し、さらに混練して、第二押出機に移送し押出樹脂温度145℃に調整して発泡シート形成用樹脂溶融物とした。該発泡シート形成用樹脂溶融物を環状ダイから、吐出量300kg/hrで大気中に押出発泡させて発泡筒状体とし、直後に発泡筒状体の内側(マンドレル面側(M面側))に23℃のエアーを風量3.0m3/分で吹き付けて急冷し、次いで該発泡筒状体を外径670mmの冷却用筒(マンドレル)の外面に沿わせて速度17m/minで引取りながら、押出方向に沿って2枚に切り開いて巻き取り、2枚の発泡シート(幅1050mm)を得た。
【0081】
なお、物理発泡剤の注入はそれぞれ独立したダイヤフラム式ポンプを用いて、各々のガス流量(時間あたりの注入ガス重量)を設定し、溶融状態の樹脂に同時に注入した。全体の吐出量(kg/hr)、各々のガス注入量(kg/hr)から、発泡剤の配合量を算出した。
【0082】
得られた発泡シートについて坪量、厚み、見掛け密度、発泡剤含有量、微細気泡面積率を測定した結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
次に、得られた発泡シートを室温下で養生し、製造後20日経過後に、発泡シートのS面側(マンドレルに沿わして引取った側であるM面と反対側の面)に、熱ラミネーションによりフィルムを積層接着した。
該熱ラミネーションにおいては、前記装置を用いて、発泡シートの片面に、表2に示す加熱温度の加熱ロール、ピンチクリアランス0.3mm、表2に示すライン速度の熱ラミネーション条件で、表2に示すフィルムを積層接着した。
【0085】
熱ラミネーションの後、室内環境下(23℃、相対湿度50%)で養生し、24時間経過後に、100mm×185mm×高さ18mmの長方形トレー成形用金型を用いて熱成形を行い、トレー形状の成形体を得た。
【0086】
得られた積層発泡シートの厚み等の物性を表2に示す。
【0087】
【0088】
実施例1~3において得られた積層発泡シートにおいては、積層発泡シートからのフィルム剥離可能であり、適度な微細気泡の発生が認められ、フィルム浮き防止の効果も確認された。また、フィルムの剥がしやすさも向上しており、特に、容易にフィルムが剥離できる積層発泡シートが得られた。
【0089】
比較例1は、発泡剤としてブタンのみを使用した例である。発泡剤残存量が多く、フィルム浮きの問題を解決できなかった。
比較例2は、ブタンとジメチルエーテルの配合重量比を50:50にした例である。フィルムの剥離は容易であったが、微細気泡が発生しすぎて、剥離強度が低下し、フィルム浮きが発生した。
比較例3は、比較例1と同様に、発泡剤としてブタンのみを使用し、気泡調整剤量を変更した例である。熱ラミネーション時に微細気泡が発生せず、フィルム浮きが発生した。
比較例4は、ブタンとジメチルエーテルの配合重量比を90:10にした例である。微細気泡の発生量が少なく、フィルム浮きが発生した。
比較例5は、発泡シートとフィルムを、剥離可能な剥離強度の範囲を超えて接着させた例である。フィルム浮きは防止され、微細気泡は発生するものの、積層発泡シートの剥離強度が高すぎて、フィルムを剥がすことが困難であった。したがって、剥がし始める際のフィルム剥離容易性の効果は、積層発泡シートの平均剥離強度が比較的低い範囲である場合に発揮されるものであることが分かる。
【0090】
次に、表中の各物性値の測定方法、各評価の評価方法について説明する。
【0091】
(発泡シート、積層発泡シートの厚み)
発泡シート、積層発泡シートの厚みは、発泡シート、積層発泡シートから無作為に一辺260mmの測定用サンプルを3つ採取し、該測定用サンプルを用いて前記方法により厚みを測定し、その算術平均値(n=3)を該厚みとした。
【0092】
(発泡シート、積層発泡シートの坪量)
発泡シート又は積層発泡シートの坪量は前記方法により測定した。具体的には、発泡シート又は積層発泡シートの全幅に亘って100mmの矩形状の試験片を3片切り出した。該試験片の重量(g)を試験片の面積(シート幅(mm)×100mm)で割り算し、1m2当たりの重量(g)に換算し、その算術平均値を発泡シート、積層発泡シート等の坪量(g/m2)とした。
【0093】
(積層発泡シート、発泡シートの見掛け密度)
積層発泡シートの見掛け密度は、前記方法により測定した。まず、前記方法により積層発泡シートの坪量(g/m2)を求めた。次いで、求められた積層発泡シートの坪量(g/m2)を前記積層発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算し、積層発泡シートの見掛け密度(kg/m3)とした。また、発泡シートについても、同様に測定を行った。
【0094】
(積層発泡シート、発泡シートの微細気泡面積率)
積層発泡シートの微細気泡面積率は、積層発泡シートの幅方向中央部から試験片を切り出し、フィルムを手で剥がした後、現れた発泡シートの剥離表面を、拡大倍率200倍でCCDカメラで撮影し、得られた画面上で面積4mm2の部分を選択し、該4mm2の部分内において、微細セルの部分をマーキングし、画像編集ソフトウェアを用いて、マーキング後の画像のみを浮かび上がらせるように二値化し、マーキング部分の面積比率をピクセルの割合として算出した。
なお、前記測定において、微細気泡は、気泡面積が0.002mm2以下の気泡面積を有する気泡とした。
発泡シートの微細気泡面積率については、フィルムの積層を予定する面側の発泡シート表面をCCDカメラを用いて観察し、同様に微細気泡を観察した。
【0095】
(積層発泡シートの平均気泡面積)
積層発泡シートの平均気泡面積は、積層発泡シートの幅方向中央部を切り出した試験片について、フィルムを手で剥がした後、その発泡シート表面部分をCCDカメラを用いて観察し、表面の4mm2の面積部分について、前記微細気泡部分を除いた気泡部分の面積を測定した。なお、面積は、前記の方法と同様にして算出した。
【0096】
(積層発泡シートの発泡剤残存量、発泡シートの発泡剤含有量)
該積層発泡シート中の発泡剤の残存量(重量%)は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定した。具体的には、積層発泡シートの全幅中央付近から約1gのサンプルを切り出し、直ちに蓋付き試料ビン中の内部標準物質が添加されたトルエンに投入し、蓋を閉めた後、十分に撹拌し積層発泡シート中の発泡剤をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析(GLサイエンス社製 GC-4000)を行い、発泡剤の含有割合を求めた。
なお、積層発泡シートの場合は、フィルムの重量を差し引いて、積層発泡シートを構成する発泡シート中の発泡剤として残存量を求めた。また、発泡シート中の発泡剤の含有量は、発泡シート製造直後に測定を行った。一方、積層発泡シートの発泡剤の残存量は、積層発泡シート製造後14日後に測定した。
また、炭素数3~5の飽和炭化水素であるイソブタンと、早期逸散性を有するジメチルエーテルとを、別々に測定し、その合計量を発泡剤の残存量、含有量とした。
【0097】
(積層発泡シートの平均剥離強度、剥離強度の測定値の変動係数)
前記した方法により、20個の試料につき、剥離強度を測定し、平均剥離強度、変動係数を算出した。
【0098】
(成形体剥離強度)
得られた成形体の平らな底面部分から採取した10個の試料につき、前記方法により成形体の平均剥離強度を測定した。
【0099】
(フィルムの剥がしやすさ)
積層発泡シートを100mm角にカッターを用いて切り出し、切り口の端部からフィルムを指で剥離する作業を3名で実施し、下記の評価方法で、特に、フィルムを剥がし始める際の剥がしやすさを評価した。
○:3名の評価平均点が2.0点以上
×:3名の評価平均点が2.0点未満
評価点
3点・・・容易にフィルムを剥がし始めることができる
2点・・・平均10秒以内にフィルムを剥がし始めることが可能である
1点・・・切り口を爪で慎重に引っ掻くなどすればフィルムを剥がし始めることができるが、剥がし始めるためには平均10秒超の時間がかかる
【0100】
(フィルム浮き)
積層発泡シートをトレー形状の成形体に熱成形後、30日経過した成形体において、成形体表面のフィルムと発泡シートの界面に空隙が見られる(フィルム浮きが見られる)か否かで評価を行った。
○:フィルム浮きが観察されない
△:底面の凹凸部分に、わずかに空隙が見られる
×:明らかなフィルム浮きが目視確認できる
【0101】
実施例、比較例において得られた積層発泡シートにつき、縱断面気泡数、表面気泡数、内部気泡数を測定した。結果を表3に示す。
【0102】
【0103】
表3中、各項目は次のように測定した。
(縱断面気泡数)
積層発泡シートの幅方向に等間隔で10箇所、押出方向に垂直方向の断面を顕微鏡で撮影した。次に、各断面写真の厚さ方向に直線lを引き、直線lと交わる発泡シート中の全ての気泡数nを数えた。このようにして得られた気泡数の平均を発泡シートの厚み方向の平均気泡数とした。
【0104】
(表面気泡数B)
積層発泡シートの表面(S面、M面)において、その表面の4mm2の面積部分をCCDカメラを用いて観察して、4mm2の範囲内に存在する気泡(微細気泡を除く)の数を数えた。
【0105】
(内部気泡数A)
積層発泡シートの縦断面中央部の気泡数(内部気泡数(A))は、積層発泡シートを厚み方向に切断した断面において、表面から200μmの部分を除く中央部分の4mm2の面積部分をCCDカメラを用いて観察して、4mm2の範囲内に存在する気泡の数を数えた。
【符号の説明】
【0106】
1 通常の気泡
2 微細気泡
3 フィルム浮き
4 熱成形用積層発泡シート
5 ポリスチレン系樹脂発泡シート
6 熱可塑性フィルム
7 剥離表面