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特許7621246極板、非水電解質二次電池、及び極板の製造方法
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  • 特許-極板、非水電解質二次電池、及び極板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】極板、非水電解質二次電池、及び極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/533 20210101AFI20250117BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M50/533
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0587
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021516236
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017610
(87)【国際公開番号】W WO2020218473
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019085810
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】赤穂 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】曲 佳文
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098056(WO,A1)
【文献】特開2013-175309(JP,A)
【文献】特開2011-192518(JP,A)
【文献】特開2008-066040(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164000(WO,A1)
【文献】特開2013-097903(JP,A)
【文献】特開2016-195015(JP,A)
【文献】特開2013-187077(JP,A)
【文献】特開2010-073653(JP,A)
【文献】特開2012-014935(JP,A)
【文献】特開2011-065981(JP,A)
【文献】特開2008-226625(JP,A)
【文献】特開2019-061925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/531 - 541
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回形の電極体に含まれる極板であって、
帯状の極板芯体と、
前記極板芯体の長手方向に沿って、前記極板芯体の表面の少なくとも一部に帯状に形成された活物質層と、
前記活物質層が形成されていない前記極板芯体の表面の活物質層未塗布部から前記極板芯体の短手方向に延出したタブと、を有し、
前記タブの根元幅H1と最大幅H2とは、0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たし、
前記タブの根元幅H1が15mm以下であり、
前記タブの根元において、前記タブの辺と前記極板芯体との交点における、前記タブの辺と、前記極板芯体の長手方向に平行な辺とがなす角度は、鋭角である、極板。
【請求項2】
前記タブの根元幅H1が12mm以下である、請求項1に記載の極板。
【請求項3】
前記活物質層の充填密度が3.5g/cm以上である、請求項1又は2に記載の極板。
【請求項4】
前記極板は正極板である、請求項1~のいずれか1項に記載の極板。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の極板を含む巻回形の電極体と、前記電極体を収容する電池ケースとを備える非水電解質二次電池。
【請求項6】
巻回形の電極体に含まれる極板の製造方法であって、
帯状の極板芯体と、前記極板芯体の長手方向に沿って前記極板芯体の表面の少なくとも一部に帯状に塗布した活物質スラリーと、前記活物質スラリーが塗布されていない前記極板芯体の表面の活物質層未塗布部から前記極板芯体の短手方向に延出したタブと、を有し、前記タブの根元幅H1と最大幅H2とが0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たし、前記タブの根元幅H1が15mm以下であり、前記タブの根元において、前記タブの辺と前記極板芯体との交点における、前記タブの辺と、前記極板芯体の長手方向に平行な辺とがなす角度は、鋭角である、極板の前駆体を準備するステップと、
前記前駆体を圧縮するステップと、を含む、極板の製造方法。
【請求項7】
前記極板の前駆体を準備するステップは、前記活物質層未塗布部をエネルギービームを用いて加工することにより前記タブを形成するステップを含む、請求項に記載の極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極板、非水電解質二次電池、及び極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等の車両に使用される非水電解質二次電池の高容量化の要求が高まっている。そのため、極板芯体の表面に形成される活物質層により多くの活物質を高圧縮して導入し、活物質層の高密度化を図る必要が生じている。表面に活物質層を有する極板芯体の領域は、極板芯体が露出している活物質層未塗布部や活物質層未塗布部から延出しているタブよりも厚いため、圧縮によって延伸しやすい。したがって、活物質層を圧縮する際には、活物質層と活物質層未塗布部との界面周辺に強い応力がかかり、芯体は、タブの根元を起点に延びる亀裂が生じる場合がある。特許文献1には、第1電極板タブが第1電極板活物質層から延出しつつ、第1電極板の芯体及びその表面に形成された活物質層がタブの根元で切り欠かれた構造とすることで、芯体の亀裂の起点を取り除く方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/204184号
【発明の概要】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法では、活物質層を切り落とすため電池容量が低下し、また活物質層の切り欠き部分からの活物質の脱落が生じる可能性があり、未だに改良の余地がある。
【0005】
よって、本開示の目的は、極板芯体の亀裂の発生を抑制した極板を提供することである。
【0006】
本開示の一形態である極板は、巻回形の電極体に含まれる極板であって、帯状の極板芯体と、極板芯体の長手方向に沿って、極板芯体の表面の少なくとも一部に帯状に形成された活物質層と、活物質層が形成されていない極板芯体の表面の活物質層未塗布部から極板芯体の短手方向に延出したタブと、を有し、タブの根元幅H1と最大幅H2とは、0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たすことを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記の極板を含む巻回形の電極体と、電極体を収容する電池ケースとを備えることを特徴とする。
【0008】
本開示の一形態である極板の製造方法は、巻回形の電極体に含まれる極板の製造方法であって、帯状の極板芯体と、極板芯体の長手方向に沿って極板芯体の表面の少なくとも一部に帯状に塗布した活物質スラリーと、活物質スラリーが塗布されていない極板芯体の表面の活物質層未塗布部から極板芯体の短手方向に延出したタブと、を有し、タブの根元幅H1と最大幅H2とが0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たす、極板の前駆体を準備するステップと、前駆体を圧縮するステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様によれば、電池の高容量化に対応しつつ、極板芯体の亀裂の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の一例である角形非水電解質二次電池を示す斜視図である。
図2図1のA-A方向に見た正面縦断面図である。
図3図2に示した非水電解質二次電池の巻回形の電極体の斜視図であり、巻外端を展開した図である。
図4】(a)~(f)は、各々、実施形態の一例において正極タブ周辺を拡大した図である。
図5】実施形態の一例において、正極タブが整列していない場合を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、本明細書において、図1図3の紙面縦方向を「上、下」、横方向を「左、右」、奥行方向を「手前、奥」で表すことがある。
【0012】
図1及び図2を用いて、実施形態の一例である非水電解質二次電池100の構成を説明する。図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池100の外観を示す斜視図であり、図2は、図1におけるA-A方向に見た正面縦断面図である。図1図2に示すように、非水電解質二次電池100は、上部に開口を有する外装体1と、当該開口を封口する封口板2とを有する電池ケース16を備える。外装体1及び封口板2は、それぞれ金属製であることが好ましく、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金製とすることができる。外装体1は、底部と側壁を有し、底部と対向する位置に開口を有する角形の有底筒状の外装体である。図1に示す非水電解質二次電池100は、角形の電池ケース16を有する角形非水電解質二次電池の例であるが、本実施形態の非水電解質二次電池は、これに限定されない。例えば、開口部の形状が円形、長円形、楕円形の電池ケースでもよいし、金属箔を樹脂シートでラミネートして形成されたラミネートシート製電池ケースを有するラミネート非水電解質二次電池等でもよい。封口板2は、角形の外装体1の開口縁部にレーザー溶接等により接続される。
【0013】
封口板2は電解液注入孔13を有する。電解液注入孔13は、後述する電解液を注入した後、封止栓14により封止される。また、封口板2は、ガス排出弁15を有する。このガス排出弁15は電池内部の圧力が所定値以上となった場合に作動し、電池内部のガスを電池外部に排出する。
【0014】
封口板2には、電池ケース16外に突出するように正極端子4が取り付けられている。具体的には、正極端子4は、封口板2に形成された正極端子取り付け孔に挿入されており、正極端子取り付け孔の電池外側に配置された外部側絶縁部材9、電池内側に配置された内部側絶縁部材8により封口板2と電気的に絶縁された状態で封口板2に取り付けられている。正極端子4は、電池ケース16内で正極集電体5と電気的に接続している。正極集電体5は、内部側絶縁部材8を挟んで封口板2に設けられている。内部側絶縁部材8及び外部側絶縁部材9はそれぞれ樹脂製であることが好ましい。
【0015】
また、封口板2には、電池ケース16外に突出するように負極端子6が取り付けられている。具体的には、負極端子6は、封口板2に形成された負極端子取り付け孔に挿入されており、負極端子取り付け孔の電池外側に配置された外部側絶縁部材11、電池内側に配置された内部側絶縁部材10により封口板2と電気的に絶縁された状態で封口板2に取り付けられている。負極端子6は、電池ケース16内で負極集電体7と電気的に接続している。負極集電体7は、内部側絶縁部材10を挟んで封口板2に設けられている。内部側絶縁部材10及び外部側絶縁部材11はそれぞれ樹脂製であることが好ましい。
【0016】
非水電解質二次電池100は電極体3と電解液を備え、外装体1は巻回形の電極体3と電解液を収容する。図3を参照して後述するように、電極体3は、正極板20と負極板30とがセパレータ40を介して巻回された巻回構造を有している。電極体3の上部において、正極板20及び負極板30から各々正極タブ28及び負極タブ38が突出しており、正極タブ28及び負極タブ38は、それぞれ正極集電体5及び負極集電体7に溶接等により接続されている。
【0017】
非水電解質二次電池100は、図2に示すように、電極体3と外装体1との間に配置される絶縁シート12を備えることができる。絶縁シート12は、例えば、外装体1と同様に、上部に開口を有する有底箱状又は袋状の形状を有している。絶縁シート12が上部に開口を有する有底箱状又は袋状の形状を有することで、電極体3を絶縁シート12の開口から挿入し、絶縁シート12によって電極体3を覆うことができる。絶縁シート12の素材は、電気的な絶縁性、電解液に侵されない化学的安定性、及び非水電解質二次電池100の電圧に対して電気分解しない電気的安定性を有する素材であれば、特に限定されない。絶縁シート12の素材としては、例えば、工業的な汎用性、製造コスト及び品質安定性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレン等の樹脂材料を用いることができる。
【0018】
電解液は、溶媒と、溶媒に溶解した電解質塩とを含む。溶媒は、非水溶媒を使用できる。非水溶媒には、例えばカーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類が挙げられる。非水溶媒は、上記の溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、電解液は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩は、リチウム塩を含む。リチウム塩には、従来の非水電解質二次電池100において支持塩として一般に使用されているLiPF等を用いることができる。また、適宜ビニレンカーボネート(VC)等の添加剤を添加することもできる。
【0019】
図3は、電極体3の斜視図であり、巻外端を展開した図である。電極体3は、正極板20と負極板30とがセパレータ40を介して巻回された巻回構造を有している。電極体3は、巻回した後にプレスされて成形されるため、手前側と奥側の面が略平行で、左右端が湾曲した扁平な形状をしている。また、それぞれ4枚ずつからなる2組の正極タブ28の束(以下、「正極タブ群」という場合がある)が電極体3の本体部から上方に突出している。4枚ずつからなる2組の負極タブ38の束(以下、「負極タブ群」という場合がある)も正極タブ群と同様に、電極体3の本体部から上方に突出している。正極タブ群及び負極タブ群の数や、これを構成する各電極タブの枚数は特に限定されない。以下、図3図5を参照しながら、電極体3を構成する正極板20、負極板30、及びセパレータ40について、特に正極タブ28について詳説する。
【0020】
[正極]
図3に示すように、正極板20は、帯状の正極芯体22、正極芯体22の表面に形成された正極活物質層24、及び正極芯体22の短手方向の一端から延出した正極タブ28を有する。
【0021】
正極芯体22には、アルミニウムなどの正極板20の電位範囲で安定な金属の箔が用いられる。正極芯体22の厚みは、例えば10~20μmである。
【0022】
正極活物質層24は、正極芯体22の長手方向に沿って、正極芯体22の表面の少なくとも一部に帯状に形成されている。正極活物質層24は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極芯体22の両面の対応する位置に設けられることが好ましい。正極活物質層24は、正極芯体22の両面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極活物質スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラ等により圧縮することにより作製できる。
【0023】
正極活物質としては、一般式Li1+x2+b(式中、x、a、及びbはx+a=1、-0.2<x≦0.2、-0.1≦b≦0.1の条件を満たし、MはNiとCoを含み、MnとAlからなる群より選択された少なくとも一種の元素を含む)で表されるリチウム金属複合酸化物を含有する。正極活物質として、他のリチウム金属複合酸化物等が少量含まれていてもよいが、上記一般式で表されるリチウム金属複合酸化物を主成分とすることが好ましい。
【0024】
リチウム金属複合酸化物は、Ni、Co、Mn、及びAl以外の他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えばLi以外のアルカリ金属元素、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、Al以外の第13族元素、並びに第14族元素が挙げられる。具体的には、Zr、B、Mg、Ti、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Si等が例示できる。なお、リチウム金属複合酸化物の粒子表面には、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0025】
リチウム金属複合酸化物の粒径は、特に限定されないが、例えば平均粒径が2μm以上30μm未満であることが好ましい。平均粒径が2μm未満である場合、正極活物質層24内の導電材による通電を阻害して抵抗増加する場合がある。一方、平均粒径が30μm以上である場合、反応面積の低下により、負荷特性が低下する場合がある。平均粒径とは、レーザー回折法によって測定される体積平均粒径であって、粒子径分布において体積積算値が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定できる。
【0026】
正極活物質層24に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらの結着材は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0027】
正極活物質層24に含まれる導電材としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料などが挙げられる。これらの導電材は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0028】
正極活物質層24の充填密度は3.5g/cm以上としてもよい。また、正極活物質層24の充填密度は4.0g/cm以下としてもよい。正極活物質層24の充填密度が高い方が電池の容量は大きくなる。
【0029】
正極活物質層未塗布部26は、正極芯体22の表面において、正極活物質層24が形成されておらず、正極芯体22が露出した領域である。正極活物質層未塗布部26の幅は、0mmより大きく3mm以下が好ましく、1mm以下であることがより好ましい。正極活物質層未塗布部26がこのような幅で正極活物質層24と正極タブ28の間に存在することで、正極活物質層24の圧縮時に生じる応力を緩和して、正極タブ28の根元を起点に亀裂が生じるのを抑制している。
【0030】
正極タブ28は、正極芯体22の表面の正極活物質層24が形成されていない正極活物質層未塗布部26から正極芯体22の短手方向に延出している。正極板20は、正極芯体22の長手方向に複数の正極タブ28を有しており、正極芯体22の長手方向における正極タブ28の間の距離は巻回された際に整列するように調整されている。
【0031】
また、正極タブ28の根元を含めて正極活物質層未塗布部26を覆うように、正極芯体22よりも電気抵抗が高い保護層を設けてもよい。保護層は、正極活物質層未塗布部26の意図しない部分で通電が起こるのを抑制するために設けられる。保護層の厚さは、例えば、20μm~120μmであり、50μm~100μmであってもよい。保護層は、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びシリカ等のセラミック粒子、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着材を含んでもよい。
【0032】
次に、図4を参照しつつ、正極タブ28の形状について説明する。図4の(a)~(f)は、各々、実施形態の一例において正極タブ28周辺を拡大した図である。
【0033】
図4(a)は、正極タブ28の根元において、正極タブ28の辺と正極芯体22との交点における、正極タブ28の辺と、正極芯体22の長手方向に平行な辺とがなす角度αが鋭角の場合を示している。正極タブ28は、帯状の本体部と、本体部よりも幅が狭い根元部とを有する左右対称の形状である。
【0034】
正極タブ28の根元幅H1と最大幅H2とは、0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たす。根元幅H1は正極タブ28の根元の幅を示し、最大幅H2は正極タブ28の本体部の最大幅を示す。正極活物質層24充填密度を大きくすると、根元幅H1の値をより小さくすることで正極タブ28の根元の亀裂を抑制することができる。正極活物質層24の充填密度が3.5g/cm~3.7g/cmであれば、根元幅H1は、例えば4mm~15mmであり、より好ましくは12mm以下である。根元幅H1が15mm以下であれば、正極タブ28及び正極タブ28周辺の正極活物質層未塗布部26が変形し易いので、正極活物質層24の圧縮時に生じる応力を緩和して、正極タブ28の根元から亀裂が生じるのを抑制することができる。また、最大幅H2は、例えば10mm~40mmであり、より好ましくは30mm以下である。正極板20の長さが長くなると正極タブ群が整列しづらくなる。正極板20の長さが4000~5000mm程度のとき、最大幅H2が10mm以上であれば、図5に示すように正極タブ28の束である正極タブ群が整列せずにずれ幅Lだけずれてしまった場合でも正極タブ群を正極集電体5(図2参照)に溶接することができる。この正極タブ28のずれは、正極板20の厚みの設計値からの誤差が原因であり、最大幅H2がずれ幅Lの2倍以上であれば、正極タブ群と正極集電体5を良好に溶接することができる。根元幅H1と最大幅H2とが0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たすことで、根元幅H1を狭くしつつ最大幅H2を広くできるので、電池の高容量化に対応しつつ、正極芯体22の亀裂の発生を抑制することができる。
【0035】
図4(b)は、正極タブ28の他の一例を示す図であり、正極タブ28の根元において、正極タブ28の辺と正極芯体22との交点における、正極タブ28の辺と、正極芯体22の長手方向に平行な辺とがなす角度αが鈍角の場合を示している。正極タブ28は左右対称の形状であり、正極タブ28は、最小幅H3のくびれを有する。また、図4(c)は、正極タブ28の根元において、正極タブ28の辺と正極芯体22との交点における、正極タブ28の辺と、正極芯体22の長手方向に平行な辺とがなす角度αが直角の場合を示している。図4(d)及び図4(e)は、正極タブ28の根元において、正極芯体22へとつながる正極タブ28の辺が曲線である場合を示している。この場合は、正極タブ28の根元において、正極タブ28の辺の接線と、正極芯体22の長手方向に平行な辺とがなす角がαとなる。したがって、図4(d)は角度αが鋭角の場合を示し、図4(e)は角度αが鈍角の場合を示す。図4(f)は、正極タブ28の根元において、正極タブ28の辺の接線と、正極芯体22の長手方向に平行な辺とがなす角度αが直角の場合であって、正極タブ28の幅方向を規定する辺の一部に曲線を含む場合を示している。
【0036】
角度αが鋭角の場合、設定した根元幅H1を正極タブ28における最小幅として設計できる。正極タブ28の最小幅により正極タブ28の抵抗が決まるので、根元幅H1を最適に設定することで正極タブ28による抵抗減少を最小限に抑える設計ができる。一方、角度αが鈍角の場合、正極タブ28の根元から正極芯体22の長手方向に生じる亀裂が一層生じにくくなる。
【0037】
正極タブ28は左右対称の形状でなくてもよいが、正極活物質層24の圧縮時に生じる応力の偏在を避けて正極芯体22の亀裂を抑制するためには、正極タブ28は左右対称の形状が好ましい。また、正極タブ28は各々の形状が異なっていてもよいが、束ねるためには同じ形状であることが好ましい。
【0038】
次に、正極板20の製造方法について説明する。正極板20の製造方法は、正極板20の前駆体を準備するステップと、当該前駆体を圧縮するステップと、を含む。まず、正極芯体22の表面に正極活物質層未塗布部26を残して帯状に正極活物質スラリーを塗布し、乾燥させる。次に正極活物質層未塗布部26から正極タブ28を切り出すように、金属の箔を切断することで正極板20の前駆体を準備する。その後、正極板20の前駆体をローラ等で圧縮することで正極板20を製造できる。なお、正極活物質層未塗布部26から正極タブ28を切り出すときには、打ち抜き型やカッター、レーザー光などのエネルギービームなどを用いることができる。エネルギービームを用いると、打ち抜き型やカッターの摩耗による頻繁な交換作業が不要となるので好ましい。
【0039】
[負極]
負極板30は、金属製の負極芯体32と、負極芯体32の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層34を有する。負極芯体32には、銅などの負極板30の電位範囲で安定な金属の箔を用いることができる。負極芯体32の厚みは、例えば5~15μmである。
【0040】
負極活物質層34は、負極活物質及び結着材を含み、負極芯体32の両面の対応する位置に設けられることが好ましい。負極板30は、負極芯体32上に負極活物質、及び結着材等を含む負極活物質スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラ等により圧縮して負極活物質層34を負極芯体32の両面に形成することにより作製できる。
【0041】
負極活物質は、例えば黒鉛の表面に低結晶性炭素の被膜を形成してなる低結晶性炭素被覆黒鉛が挙げられる。低結晶性炭素は、グラファイト結晶構造が発達していない、アモルファス若しくは微結晶で乱層構造な状態の炭素材料であるか、または、球形や鱗片形状でなく非常に微細な粒子径をもつ炭素材料である。例えば、X線回折によるd(002)面間隔が0.340nmより大きい炭素材料は低結晶性炭素である。また、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察され、測定される一次粒子の平均粒径が1μm以下である炭素材料も低結晶性炭素である。低結晶性炭素の具体例としては、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンファイバー、活性炭等が挙げられる。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のLiと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む酸化物などを用いることができる。また、負極活物質層34は、リチウムチタン複合酸化物を含んでいてもよい。
【0042】
負極活物質層34に含まれる結着材には、公知の結着材を用いることができ、正極活物質層24の場合と同様に、PTFE、PVdF等のフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、並びに、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。また、水系溶媒を用いて負極活物質スラリーを調製する場合に用いられる結着材としては、CMC又はその塩、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等が例示できる。
【0043】
負極タブ38は、負極芯体32の表面の負極活物質層34が形成されていない負極活物質層未塗布部36から負極芯体32の短手方向に延出している。負極板30は、負極芯体32の長手方向に複数の負極タブ38を有しており、負極芯体32の長手方向における各負極タブ38の間の距離は巻回された際に整列するように調整されている。また、本実施形態では、負極芯体32が延出して負極タブ38を構成している。具体的には、負極芯体32に負極タブ38が接続した形状に、金属の箔を切断することで負極タブ38付きの負極芯体32を作製する。
【0044】
負極タブ38は、正極タブ28と同様に根元の幅が狭くなっていてもよい。負極活物質層34の高密度化する場合には、正極板20と同様の課題が生じるため、負極タブ38の根元幅H1と最大幅H2とは、0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たしてもよい。また、負極タブ38の形状は、正極タブ28の形状と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
[セパレータ]
セパレータ40には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロース等が好適である。セパレータ40は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータ40の表面にアラミド系樹脂等の樹脂、又はアルミナ、チタニア等の無機微粒子が塗布されたものを用いることもできる。
【0046】
以下、実施例により本実施形態をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
[正極板の作製]
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物と、当該正極活物質に対して2質量%のカーボンブラックと、当該正極活物質に対して1質量%のポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え、混合機(プライミクス株式会社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて撹拌して、正極活物質スラリーを調製した。そして正極活物質層未塗布部26が形成されるように正極活物質スラリーを、厚み13μmのアルミニウム箔からなる正極芯体の両面の対応する位置に帯状に塗布した後、乾燥させた。
【0048】
正極芯体から正極タブが延出した形状に、レーザー光を用いて正極活物質層未塗布部26を切断加工することで正極タブ付きの正極芯体を作製した。正極タブは、図4(a)に示すような形状であり、根元幅H1が12mmであり、最大幅H2が30mmであった。正極芯体の長さは4750mmであり、正極活物質層未塗布部の幅は1mmであり、17枚の正極タブからなる正極タブ群を2組設けた。正極タブの間の距離については、圧縮後に想定される正極板の厚さよりも4μm薄い状態に基づいて設計し、故意に正極板がずれるようにした。
【0049】
その後、正極前駆体をローラで圧縮した。正極活物質層を表面にする領域の厚さは、圧縮前に180μmであり、圧縮後に136μmであった。圧縮後の正極活物質層の充填密度は、3.5g/cmであった。
【0050】
[負極板の作製]
負極活物質として黒鉛と、当該負極活物質に対して1質量%のスチレンブタジエンゴム(SBR)と、当該負極活物質に対して1質量%のカルボキシメチルセルロースとを混合した後、水を加え、混合機(プライミクス株式会社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて撹拌して、負極活物質スラリーを調製した。負極活物質スラリーを負極芯体の両面の対応する位置に帯状に塗布した後、乾燥させ、ローラで圧縮した。負極芯体から負極タブが延出した形状に、厚み8μmの銅箔を切断することで負極タブ付きの負極芯体を作製した。負極タブの形状は、正極タブと同じ形状とした。負極芯体の長さは5073mmであり、負極活物質層未塗布部の幅は0mmであり、18枚の負極タブからなる負極タブ群が2組設けられるように負極タブの位置を設計した。このようにして負極芯体の両面に負極活物質層が形成された厚さ160μmの負極板を作製した。
【0051】
[電極体の作製]
上記の正極板及び負極板について厚さ16μmのポリエチレン製微多孔膜セパレータを介して巻回し、その後プレス成形することで扁平な巻回形の電極体を作製した。
【0052】
<実施例2、比較例1~3>
実施例2及び比較例1~3について、根元幅H1及び最大幅H2を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で正極板、負極板、及び電極体を作製した。
【0053】
[亀裂発生有無の評価]
電極体を作製する前に正極板を目視で観察し、タブの根元を起点とした亀裂が発生していないかを評価した。亀裂が確認されたものを「有」とし、それ以外を「無」とした。
【0054】
[溶接性の評価]
作製した電極体において、正極タブのずれ幅Lは7mmであった。最大幅H2が正極タブのずれ幅Lの2倍以上の場合、すなわち最大幅H2が14mm以上の場合を「良」とし、それ以外を「不良」とした。
【0055】
各実施例及び各比較例についての評価結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から分かるように、正極タブの根元幅H1と最大幅H2とが0.4×H2≦H1≦0.9×H2の関係を満たす場合には、溶接性を確保しつつ、亀裂発生を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 外装体
2 封口板
3 電極体
4 正極端子
5 正極集電体
6 負極端子
7 負極端子
8,10 内部側絶縁部材
9,11 外部側絶縁部材
12 絶縁シート
13 電解液注入孔
14 封止栓
15 ガス排出弁
16 電池ケース
20 正極板
22 正極芯体
24 正極活物質層
26 正極活物質層未塗布部
28 正極タブ
30 負極板
32 負極芯体
34 負極活物質層
36 負極活物質層未塗布部
38 負極タブ
40 セパレータ
100 非水電解質二次電池
図1
図2
図3
図4
図5