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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/30 20060101AFI20250117BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20250117BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61L27/30
A61F2/02
A61L27/14
A61L27/40
A61L27/50
A61L27/50 300
A61L31/02
A61L31/08
A61L31/12
A61L31/14
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021555151
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 US2019065474
(87)【国際公開番号】W WO2020123503
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】62/777,486
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521249483
【氏名又は名称】ギリッドハー・ティアガラジャン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100220065
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】ギリッドハー・ティアガラジャン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06322588(US,B1)
【文献】特表2005-527302(JP,A)
【文献】特表2013-528114(JP,A)
【文献】特表2018-510003(JP,A)
【文献】特表2013-509249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植え込み可能な医療用デバイスと、
植え込みのために外科的に設置されるときに、i)身体組織の中に、または、ii)前記身体組織を横断して位置決め可能である前記植え込み可能な医療用デバイスの少なくとも一部分の外部表面に適用される抗菌性金属と
を備え、前記抗菌性金属は前記身体組織の中または前記身体組織を横断する場所に位置しており、
前記抗菌性金属は、銅、銀、亜鉛、金、スズ、もしくは、これらの金属の組み合わせの中から選ばれた元素金属または元素金属の合金の無電解堆積層の形態であり、前記無電解堆積層が前記外部表面に塗布されており、または、
前記抗菌性金属は、銅、銀、亜鉛、金、スズ、もしくは、これらの金属の組み合わせの中から選ばれた元素金属または元素金属の合金の抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントの形態であり、前記抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントは少なくとも部分的に前記外部表面に位置決めされており
前記植え込み可能な医療用デバイスは、中耳腔換気用チューブ、シャント、脳シャント、外部脳室ドレン、心室補助デバイス、感覚インプラントもしくは神経学的インプラント、副鼻腔ドレナージデバイス、蝸牛インプラント、または、ヘルニアメッシュであ
前記抗菌性金属は厚さ0.0005μmから1μmの薄層である、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項2】
請求項に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントは、銅を含む、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項3】
請求項に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントは、前記抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスの構造的なファイバーまたはフィラメントによって織られている、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項4】
請求項に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスは、外部から給電される内部デバイスのためのドライブラインである、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性金属は、元素銅である、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性金属は、元素銅および1つまたは複数の追加的な金属の合金である、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、外科的に植え込み可能な経皮的なデバイスである、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項8】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、経皮的でなく、被験者の身体の皮膚表面の下に完全に植え込まれて存在する、外科的に植え込み可能なデバイスである、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、前記身体組織の中にまたは前記身体組織を横断して位置決め可能な電力または制御ラインを含む、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、心臓血管のインプラントである、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記無電解堆積層は、0.001μmから0.1μmの厚さを有する、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、前記身体組織の中にあるまたは前記身体組織を横断する場所にあり、前記身体組織の一方の側において少なくとも0.5cmの前記抗菌性金属をその上に含む、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項13】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記植え込み可能な医療用デバイスは、前記身体組織を横断する場所にあり、横断される前記身体組織の両側に少なくとも0.5cmの前記抗菌性金属をその上に含む、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項14】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
動作時の前記植え込み可能な医療用デバイスは、植え込みの後の使用中に、外部から印加される正圧または負圧にさらされないルーメンを含む、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項15】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記抗菌性金属は銅合金であり、銅が50重量%から99重量%までにおいて、前記銅合金の中に存在する、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【請求項16】
請求項1に記載の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスであって、
前記無電解堆積層は、銀、亜鉛、金、スズ、もしくは、これらの金属の組み合わせの元素金属または元素金属の合金からなる、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
身体とインターフェースするさまざまなタイプの長期間の医療用デバイスは、感染を受けやすい可能性がある。経皮的なおよび内部に位置決めされる医療用デバイスは、細菌コロニー形成を受けやすいことが多く、それは、経皮的なアクセスの部位において発生することが多く、身体の栄養豊富な環境の中へ内向きに進行することが多い可能性がある。しかし、体腔感染(インプラントが身体の中に保持されている場合)は、それほど一般的ではないが、統計的にはそれほど頻繁に起こらないとはいえ、場合によっては、より大きな問題になる可能性がある。これは、そのような感染が体表面のかなり下で起こる可能性があるため、体腔感染に外科的介入または調査なしでアクセスすることは(または、発見することさえ)より困難となり得るからである。また、これらの体腔は、血液によってまばらに灌流され、したがって、免疫学的監視は、あまり普及しておらず、より遅くなっている。これらのタイプの感染症は、最終的に全身症状を示す可能性があるが、感染症は、この時点において進行した段階にあり、治療することが困難である。それにかかわらず、両方の感染源、たとえば、経皮感染および体腔感染は、医療用インプラントの分野において、特に、長期間、たとえば、数週間、数カ月、数年以上、または、場合によっては、生涯の使用を意図している医療用インプラントに関して、問題である。そのような医療用デバイス感染に伴う課題は、外科的介入の間の細菌負荷の導入などの要因の組み合わせである。経皮的なインプラントのケースでは、インプラントの存在に起因する創傷治癒反応によって効果的に閉じられない可能性のある皮膚の裂け目の継続的な存在。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】本開示による、抗菌性金属層によって、たとえば、少なくとも外部表面上などをコーティングされた例示的な耳チューブを含む例示的な抗菌性の植え込み(又は埋入)可能な医療用デバイスを概略的に図示する図である。
図2】本開示による、抗菌性金属層によって外部表面上をコーティングされた例示的な外部脳室ドレナージ(EVD)デバイスを含む例示的な抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスを概略的に図示する図である。
図3】本開示による、ドライブラインおよびポンプの一部分に適用された抗菌性金属層を備えた例示的な心室補助デバイス(VAD)を含む例示的な抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスを概略的に図示する図である。
図4】他の点では同一のコーティングされていない耳チューブと比較して、および、市販の抗菌性の耳チューブとさらに比較して、黄色ブドウ球菌の対数低減の観点から、銅メッキされたシリコーン中耳腔換気用チューブ(耳チューブ)の抗菌性能を示す棒グラフである。
図5】他の点では同一のコーティングされていない耳チューブと比較して、および、市販の抗菌性の耳チューブとさらに比較して、黄色ブドウ球菌の対数低減の観点から、銅メッキされたFLP中耳腔換気用チューブ(耳チューブ)の抗菌性能を示す棒グラフである。
図6】他の点では同一のコーティングされていない外部脳室ドレナージ(EVD)と比較して、および、市販の抗生物質コーティングシステムとさらに比較して、表皮ブドウ球菌の対数低減の観点から、シリコーンから作製された銅メッキされたEVDデバイスの抗菌性能を示す棒グラフである。
図7】他の点では同一のコーティングされていないEVDと比較して、および、2つの市販の抗生物質コーティングシステムとさらに比較して、黄色ブドウ球菌の対数低減の観点から、シリコーンから作製された銅メッキされた外部脳室ドレナージ(EVD)デバイスの抗菌性能を示す棒グラフである。
図8】他の点では同一のコーティングされていないEVDと比較して、および、市販の抗生物質コーティングシステムとさらに比較して、対数低減または黄色ブドウ球菌の観点から、銅メッキされた外部脳室ドレナージ(EVD)の抗菌性能を示す棒グラフである。
図9】コントロールおよび市販品と比較して、動物の耐性および抗菌効力に関する例示的なエクスビボ動物研究からの結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0004】
植え込み可能な医療用デバイスに抗菌特性を提供するための1つのアプローチは、抗感染性化合物によって医療用デバイスの表面をコーティングすることである(ここで、それは、バクテリアコロニー形成などのような感染を受けやすい可能性がある)。しかし、医療用デバイスの上の多くの抗生物質コーティングに伴う技術的課題のうちの1つは、それらの長期間の有効性の欠如である。たとえば、薬物溶出コーティングは、薬物リザーバーの限られた利用可能性に起因して、身体の中で急速に枯渇することが多く、その後に、それらは、非効果的になる可能性があり、たとえば、薄いコーティングは、大型のリザーバーを提供せず、他方では、非溶出パッシブコーティングは、かなり急速に生物付着する傾向がある。これは、そのような技術の抗菌効果を、典型的には数週間のオーダーではなく、わずか数時間、数日に制限する可能性がある。長期間のデバイス(たとえば、5日から5年、1週間から2年、2週間から2年、4週間から2年、1週間から1年、2週間から1年、4週間から1年、1週間から6カ月、2週間から6カ月、4週間から6カ月など)は、致死率および罹患率などのような、臨床的合併症を回避するためのより耐久性のあるおよび/またはより長く続く保護の形態から大きく利益を受けることとなるので、本開示の植え込み可能な医療用デバイスは、いくつかのケースでは、短期間の使用または長期間の使用のいずれかに関して抗菌性の利益を提供することが可能である。
【0005】
したがって、本開示は、感染を受けやすい身体組織と医療用デバイスが接触している場所において、抗菌特性を示すのに十分に高い濃度で、金属合金の中に存在する少なくとも1つの金属が存在しているという条件で、抗菌性金属(元素金属コーティングまたは金属合金コーティングを含む)の適用に関する。1つの例において、抗菌性金属コーティングは、無電解堆積または他の技法(たとえば、スパッタリング、ウィービング、ディップコーティングなど)によって適用され得る。しかし、医療用デバイスに関して使用されるゴム、プラスチック、セラミック、金属、および他の材料のコーティングが、無電解堆積または他の電気めっき技法を使用して、効果的にコーティングされ得る。これらのコーティング技術は、適用されることとなる抗菌性金属が非浸出金属(たとえば、接触殺害(contact killing)金属銅など)を含むことを意図している用途において、特に有用である可能性がある。さらに詳細には、銀、亜鉛、金、スズ、またはこれらの合金などのような、任意の抗菌性金属が使用され得るが、1つの特定の例において、抗菌性金属は、銅などのような接触殺害金属であるかまたはそれを含むことが可能である。
【0006】
さらに明確にするために、本開示は、医療用デバイスを通る血液または他の流体のフローに関係する感染に対して保護するための、身体組織に接触しない医療用デバイスの内部のコーティング(たとえば、カテーテルの中の内腔コーティング)に関するものではなく、むしろ、医療用デバイスが外部表面上で内腔流体以外の身体組織に接触する場合の感染から医療用デバイスを保護することに関する。本明細書における「組織」という用語は、血液または尿を除外するが、むしろ、医療用デバイスの外部表面と接触することになる固体の身体組織および関連の流体を含む。この理解によって、本開示の医療用デバイスの実装または使用は、植え込み可能な医療用デバイスのルーメンの中での植え込み可能な医療用デバイスコーティングの使用を排除しない(それに適用される抗菌性金属層さえも含む)。しかし、それらのタイプのコーティングが腔内的に使用される範囲において、それらは、本開示の外部抗菌性金属層の特質に影響を与えることなく、本開示の外部抗菌性金属コーティングとともに使用されてもよく、または、使用されなくてもよい。
【0007】
「植え込み可能な医療用デバイス」は、本開示の抗菌性金属コーティングによってコーティングされ得るデバイスアッセンブリまたは単なる単一のデバイスアッセンブリパーツを含むように本明細書で定義され得る。たとえば、心室補助デバイス(VAD)(「心臓ポンプ」または左心室補助デバイス(LVAD)と称されることが多い)は、一緒に組み立てられる複数のモジュール式パーツを含む。それらのパーツのうちの1つは、ドライブラインとして知られており、それは、心臓の近くの体腔において身体の内側にあるポンプに、身体の外側にあるコントローラーを電気的に接続する経皮的なラインである。したがって、アッセンブリとしてのVADは、本明細書で定義されているような医療用デバイスであると考えられ得るが、ドライブライン自体は、それ自体で医療用デバイスであるとも考えられ得る。
【0008】
さらに詳細には、本明細書で説明されているような「植え込み可能な医療用デバイス」は、たとえば、自然な身体のルーメンを通したアクセス、たとえば、尿道へのアクセス、膣へのアクセス、口腔へのアクセス(たとえば、口腔のまたは鼻の気管チューブ)、または、皮膚を通した内腔血管の中へのルーチンニードルもしくはカテーテルポートアクセスなどによって、非外科的な手技によって被験者のルーメンにルーチン的にアクセスする医療用デバイスを除外する。全体として、血管アクセスカテーテル(ニードルまたはカテーテルポートアクセス)、たとえば、末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル(PICC)、中心静脈カテーテル(CVC)、血液透析カテーテル(HD)、動脈カテーテルなど、子宮内デバイス(IUD)(膣へのアクセス)、尿道カテーテル(尿道へのアクセス)、気管内チューブ、内視鏡(結腸への、鼻への、口腔へのアクセス)は、それらが長い期間にわたって身体の中に残っているとしても、本明細書で定義されているような植え込み可能な医療用デバイスであるとは考えられない。本明細書における「植え込み可能な医療用デバイス」の定義から除外されているこれらのタイプの医療用デバイスは、本明細書では集合的に「管腔医療用デバイス」と称され得る。その理由は、それらが内腔的に身体の中へ挿入されるか、または、身体のルーメンが外科的な切開部(たとえば、ニードルまたはカテーテルポート)なしにルーチン的にアクセスされるかのいずれかであるからである。さらに詳細には、簡単な外科用締結具(たとえば、ピン、ワイヤー、ステープル、スクリュー、ネイルなど)(整形外科および他の外科手術において使用されるものを含む)は、また、それらの単純さに起因して、本明細書における植え込み可能な医療用デバイスであると考えられない。しかし、それらがより大型の植え込み可能な医療用デバイスの文脈において使用され得る範囲において、それらは、たとえば、整形外科用プロテーゼなど、たとえば、関節置換プロテーゼ、骨置換プロテーゼ、特定の解剖学的構造に特化したプロテーゼプレート、締結具以外のプロテーゼサポートロッド、内部コンポーネントおよび外部コンポーネントを有するプロテーゼデバイスなど、より大型の/より嵩張るおよびより複雑な医療用デバイスとともに同様にコーティングされ得る。
【0009】
他方では、本明細書で説明されている植え込み可能な医療用デバイスは、身体の中で管腔外にあることが多い医療用デバイスに関するものであるが、それらが身体のルーメンにアクセスするケースでは(たとえば、(外耳道を通して鼓膜にアクセスする)中耳腔換気用チューブ)、それらは、外科的なアクセスおよび植え込みに関連してそれを行う。したがって、植え込み可能な医療用デバイスは、血管系または尿路の中に留まらないなどのような、他の重複する特徴を含むことが多く、これらのデバイスは、デバイスの周りの低い流体(液体)流量に遭遇することが多い(血液流量または尿流量よりも低い)。
【0010】
本明細書で開示されているような抗菌性金属によってコーティングされ得る、外科的なまたは植え込みの合併症に起因する感染のリスクの追加を含む可能性のあるいくつかの例示的な「植え込み可能な医療用デバイス」は、それに限定されないが、いくつかの例を挙げると、脳シャントなどのようなシャント;心室ドレナージ(EVD)デバイス;経皮的なドライブラインおよび内部に植え込まれるポンプを含む心室補助デバイス(VAD);中耳腔換気用チューブ(耳チューブ);神経伝達物質などのような、感覚インプラントまたは神経学的インプラント;整形外科用インプラント;それらが組織に外科的に交差することを条件として外科的に植え込まれる栄養チューブ、たとえば、胃栄養チューブ(G-チューブ)、胃空腸栄養チューブ、または空腸栄養チューブ;経皮的な気管チューブ;外科用メッシュ、たとえば、ヘルニアメッシュ;経皮的なセンサー、たとえば、グルコースセンサー;植え込み可能な副鼻腔ドレナージデバイス(それらは、組織の中に少なくとも部分的に植え込まれる);などを含む。
【0011】
本開示による抗菌性の植え込み可能な医療用デバイス、方法、およびシステムに関する区別の別のポイントとして、カテーテルとは異なり、これらのデバイスの多くは、動作中に内腔圧力(正圧または負圧)を導入する注入ポートまたは吸引ポートによって取り付けられないかまたは使用されない。シャント、中耳腔換気用チューブ、電力または制御ライン、インプラントなどは、組織を横切ってまたは被験者の身体の中に外科的に植え込まれることが多く、使用中にポンプ、吸引器、シリンジなどの使用なしに、自然な流体フロー、電気的な制御、構造的なサポートなどに基づいて動作する。これらのデバイスは、たとえば、使用中に潜在的なまたは可能性のある破壊的な圧力が印加されることなく、組織の中に位置することが意図されている。したがって、1つの例において、動作中の植え込み可能な医療用デバイスは、植え込みの後の使用中に外部から印加される正圧または負圧にさらされないルーメンを含む。
【0012】
これによれば、本開示は、植え込み可能な医療用デバイスと、たとえば、組織切開を含む手技によって、少なくとも部分的に被験者の身体の中に植え込みのために外科的に設置されるときに、身体組織の中に位置決め可能な、または、身体組織を横断する、植え込み可能な医療用デバイスの少なくとも一部分の外部表面に適用される抗菌性金属とを含むことが可能である、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスに関する。外部表面に適用される抗菌性金属は、外科的な組織切開部の場所と接触している場所に位置決めされ得、または、たとえば、外科的な切開部の場所の下にもしくはそれに隣接して植え込まれ得る。抗菌性金属は、多数のコーティング技術のいずれか(たとえば、無電解堆積など)によって適用された抗菌性金属コーティングとすることが可能であり、または、他の方法論によって、たとえば、金属フィラメントまたはファイバーを表面に適用することなどによって、たとえば、ウィービングなどによって、表面に適用され得る。植え込み可能な医療用デバイスは、1つの例において、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスが被験者の身体の中にあるかまたは身体を横切る場所にあることが可能であり、抗菌性金属は、身体組織の一方の側において少なくとも0.5cmであり(組織の中にあるとき、または、組織を横断しているとき)、または、身体組織の両側において少なくとも0.5cmとすることが可能である(組織を横断しているとき)。他の例では、抗菌性金属は、身体組織の一方または両方の側において、独立して、少なくとも1cm、少なくとも2.5cm、少なくとも5cm、または少なくとも10cmとすることが可能である。本明細書における「横断する」という用語は、一方の側から他方の側への単一の身体組織(たとえば、皮膚、臓器壁部、鼓膜など)の交差を指す。組織を横断することは、自然な身体のルーメンを通さずに、または、ニードルまたはカテーテルポート進入を介さずに、たとえば、皮膚、筋肉、腸、鼓膜などを横切って生じる切開部を介さずに、切開部の部位における組織に交差することを含む。「組織」という用語は、それが単一の組織タイプまたは別の組織タイプを指すほどには具体的には使用されないが、むしろ、臓器、たとえば、胃、心臓、皮膚、腸など、または、筋骨格系の構造的なコンポーネント、たとえば、骨、筋肉、靭帯などを定義することができるような組織構造体を指すように使用される。
【0013】
別の例において、植え込み可能な医療用デバイスに関連する感染症を改善する方法は、本開示の抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスを、少なくとも部分的に被験者の身体の中に外科的に設置するステップを含むことが可能である。抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスの抗菌性金属は、身体組織の中のまたは身体組織を横断する場所における植え込みのために位置決めされ得る。1つの特定の例において、方法は、金属層がその場所に位置決めされている間に、抗菌性金属に電位を印加するステップを含むことが可能である。別の特定の例において、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスは、経皮的なデバイスとすることが可能であり、方法は、皮膚組織を通した挿入の場所を越えて身体の外側に、少なくとも0.5cm、少なくとも1cm、少なくとも2.5cm、少なくとも5cm、または少なくとも10cmのマージンを残すステップをさらに含むことが可能である。
【0014】
別の例において、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスを製造する方法は、少なくとも、植え込み可能な医療用デバイスが植え込みのために身体組織の中にまたは身体組織を横断して位置決めされることとなる場所において、本明細書で説明および定義されているような植え込み可能な医療用デバイスの上の電気めっき/無電解堆積を含むことが可能である。1つの特定の例において、無電解堆積は、2価の銅塩源材料を使用して実施され得、銅塩源材料は、溶液の中で、還元剤の存在下において金属銅に還元され、そして、還元剤は、酸化させられ、金属銅の原子が、医療用デバイス表面を含む任意の表面の上に浴槽の中で堆積させられ、したがって、抗菌性金属層を生成する。他の金属源が、他の金属または金属合金に関して使用され得る。1つの例において、医療用デバイスは、ポリマー表面を有することが可能であり、方法は、ポリマー表面に表面粗さを導入する予備的なステップをさらに含むことが可能である。表面粗さを導入することは、たとえば、化学的エッチング、機械的摩耗、物理的エッチング、プラズマ処理などを含むことが可能である。
【0015】
本明細書において医療用デバイスまたは方法を議論するときには、それらがその例の文脈において明示的に議論されているかどうかにかかわらず、いずれかの議論からの関係のある詳細が、他方にも適用可能であると考えられる。したがって、たとえば、本明細書での医療用デバイスの文脈において中耳腔換気用チューブを議論する際には、そのような開示は、また本明細書に含まれる任意の方法および/またはシステムにも関係付けられ、また、その逆もまた同様に関係付けられるなどである。
【0016】
ここで、本明細書で説明されているような医療用デバイスに適用されるかまたはその上にコーティングされる抗菌性金属を見てみると、使用され得る金属の例は、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金を含む。「合金」という用語は、銅、銀、亜鉛、または金のうちの2つ以上のさまざまな組み合わせを含むが、これらの金属のうちの1つまたは複数と診療的なまたは他の実用的な特性を提供することができる任意の他の金属または非金属との合金を含むことも可能である。たとえば、銅が酸化するにつれて、銅は、別の金属(たとえば、銀、亜鉛、および/または金など)と合金化され得るが、必ずしも本質的に抗菌性であるとは限らない可能性のある金属と合金化されることも可能である。銅と合金化され得る他の金属の例は、酸化を遅くするかもしくは防止する目的のために、または、いくつかの他の診療的なまたは実用的な目的のために(たとえば、医療用デバイス表面材料への金属付着の強化、フレキシビリティーおよび/もしくは弾力性などのような冶金的特性の修正など)、鉄、ニッケル、アルミニウムなどを含む。銅は、近隣の組織の中へのまたはその周りへのイオン拡散なしに接触殺害するその能力に起因して抗感染性の特性を提供するのに良好な金属であるので、銅が使用される場合には、銅は、実質的な部分(たとえば、50重量%を超える)として、合金の中に含まれ得、より低い割合の他の金属(または、非金属)が、銅酸化の低減に寄与するために、抗菌効果に寄与するために(たとえば、銀、亜鉛、および/または金)、別の治療効果に寄与するために、製造上の懸念に対処するために、金属合金物理的特性(たとえば、フレキシビリティー、弾力性、展性、医療用デバイス付着など)を強化または改善するために含まれ得る。したがって、1つの例において、銅合金が使用される場合には、銅は、50重量%から99重量%まで、50重量%から95重量%まで、50重量%から90重量%まで、50重量%から80重量%、55重量%から99重量%まで、55重量%から95重量%まで、55重量%から90重量%まで、55重量%から80重量%、60重量%から99重量%まで、60重量%から95重量%まで、60重量%から90重量%まで、60重量%から80重量%、または、55重量%から70重量%までにおいて、合金の中に存在していることが可能である。
【0017】
本開示によれば、金属ベースの電気めっき/無電解堆積技術は、医療用デバイスに関連付けられる感染のなかなか解決しない問題に対処するために使用され得る。このアクティブ技術の設計は、活性薬剤の放出/溶出に依存することなく、長期間の広範囲の効力を有することとなる。この技術は、広範な経皮的なおよび植え込み可能な医療用デバイスの外部表面に潜在的に適用され得る。
【0018】
銅に関してより詳細には、銅イオン(Cu2+)のカチオン性に加えて(それは、マイナスに帯電された保護細胞壁コンポーネントに銅イオンが結合するかまたは引き付けられること、および、簡単に述べられているように、細胞膜または細胞壁(たとえば、バクテリアまたは他の細菌)を全滅させるかまたはそうでなければ破壊もしくは損傷させることを引き起こす)、銅は、また、(時間の経過とともに溶液の中へゆっくりと拡散するイオンによってというよりもむしろ)元素金属と接触するかまたは元素金属の合金と接触することによって、細菌を殺すことが可能である。したがって、特に、銅は、医療用デバイス外部表面上のコーティングに使用するのに良好な材料とすることが可能である。その理由は、医療用デバイスが身体組織と直接的にインターフェースしており、イオン拡散にかかわらず、インターフェースにおける細菌コロニー形成をアクティブに低減させる場合に、銅が、表面接触のときに病原菌を連続的に殺すことが可能であるからである。これは、細菌が銅または銅合金に接触する場所の電荷密度に起因して起こる可能性があり、それは、膜損傷、核酸損傷、および/または、細菌に有害である可能性のある活性酸素種の発生を引き起こす可能性がある。したがって、銅イオンは、良好な抗感染性の効果を有するように、必ずしも、植え込み可能な医療用デバイスの表面から流体の中へ拡散または浸出し、細菌を殺す必要はないが、医療用デバイスの周りのいくらかの拡散は、時間の経過とともに(外向きに拡散するのにかかる時間)保護のエリアの追加を提供することが可能である。その代わりに、天然の元素のまたは合金化された銅の表面は、活性抗菌特性を所有することが可能であり、活性抗菌特性は、コロニー形成を防止することが可能であり、そのうえ、組織間の任意の流体を介して組織の中へのイオンの拡散は、抗菌効果をさらに強化することが可能である。特に、銅の接触殺害性質に起因して、これは、殺害有効性の枯渇または消費なしに、元素のまたは合金化された銅のコーティングが長期間続くことを可能にする。さらに詳細には、接触殺害特性を有する金属(たとえば、銅)を使用する追加的な利益は、より溶出タイプのコーティングによって組織を治療する場合には当てはまる可能性があるように、それが望ましくない高用量の銅に被験者を露出させないことが可能であることである。
【0019】
植え込み可能な医療用デバイスの上で使用するための銅の薄いコーティングの使用は、特に、本明細書で定義されているような植え込み可能な医療用デバイスに関して、コーティングのための抗菌性候補として以前に考えられてこなかった可能性がある。その理由は、いくつかの植え込み可能な医療用デバイスによって、望ましいと考えられてきた所望の程度のフレキシビリティーが存在している可能性があるからである。実質的に厚い銅コーティング、または、さらには、樹脂の中の高濃度の銅塩によって配合されたポリマー材料は、非常にリジッドになることが可能である。他方では、薄い銅溶出コーティングは、医療用デバイスが過度にリジッドになることを引き起こさないかもしれないが、従来の溶出コーティングのように、薄いコーティングからの溶出に起因する抗菌剤の枯渇に関する同じ問題は、抗生物質コーティングよりも効果的でない可能性がある。その理由は、そのようなコーティングの中の銅の最小有効濃度(MEC)が、たとえば、1週間にわたってでも効果的であるように、より長い期間にわたって維持可能ではない可能性があるからである。
【0020】
したがって、本開示の例によれば、抗菌性金属は、抗菌性層を医療用デバイスの上に提供するために、たとえば、0.0001μmから50μmの、0.0005μmから1μmの、または、0.001μmから0.1μmの薄層として、医療用デバイスの上にコーティングされ得る。金属は、以前に説明されているようなものとすることが可能であり、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金を含むことが可能である。1つの例において、金属は、銅を含むことが可能であり、銅は、接触殺害体である。さらに詳細には、金属コーティングは、植え込み可能な医療用デバイス表面の表面上の銅または銅合金層とすることが可能であり、それは、効果的に非浸出とすることが可能であり(特に、銅によって)、それは、長い期間にわたって(たとえば、1年以上)、その接触殺害特性を保つことが可能である。いくつかの抗菌性金属(典型的に、無電解堆積層)を「非浸出」または「非溶出」と称することによって、これは、たとえば銅合金の中などに存在し得る銅イオンまたは他の金属イオンが、直ぐ周囲の組織の中へ全く溶出しないことを暗示するのではなく、むしろ、非浸出または非溶出という用語は、重量でそれぞれの元素金属の10(パーツパーミリオン)ppm未満、5ppm未満、1ppm未満、または100パーツパービリオン(ppb)未満をコーティングから周囲の組織の中へ溶出するものとして本明細書で定義される。たとえば、一方の金属が非浸出である可能性があり、他方の金属がこれらの限界を超える可能性があるコーティングが存在している可能性があるが、それは、特定の金属の合計の金属含有量、および、金属が周囲の身体組織に対して有する可能性のある影響に基づいて、ケースバーケースで決定されるものとして許容可能である可能性がある。
【0021】
抗菌性金属は、複数の方法のうちのいずれかによって(たとえば、スパッターコーティング、スプレーコーティング、またはディップコーティングなど)、層として適用され得る。しかし、1つの特定の例において、抗菌性金属層は、無電解堆積によって適用され得る。このプロセスによって、原子金属(たとえば、銅または銅合金など)の連続的な層は、経皮的な部分においてもしくはそれに沿って、身体の中の感染を受けやすい別の部分においてもしくはそれに沿って、または、植え込み可能な医療用デバイス全体にわたって、植え込み可能な医療用デバイスの上に電気的に適用され得る。薄層は、望まれる場合に、植え込み可能な医療用デバイスがそのフレキシビリティーのうちのいくらかを保つことができるように適用され得る。他の例では、厚さは、医療用デバイスがよりリジッドになるようになっている。用途に応じて、より厚くてよりリジッドのコーティングを選択する場合がある可能性があり、より薄いコーティングを選択する他の場合がある可能性がある。
【0022】
無電解堆積は、金属または導電性基材に対して上手く機能する。しかし、プラスチック、ゴム、セラミック、および/または、他の非導電性材料、半導電性材料、もしくは絶縁材料を電気メッキすることが有用である可能性がある。たとえば、無電解堆積化学は、プラスチック、ゴム、熱可塑性プラスチック、および/またはポリマーなどのような、電気的に不活性な基材が溶液中の電気化学によって促進される導電性金属によってメッキされることを可能にする。例として銅電気めっきを使用して、式Iは、以下の通り、非導電性材料を電気めっきするための例示的な化学等式を示している。
【0023】
CuY2-+2CHO+4OH→Cu+H+2HCOO+Y4-+2H
式1
ここで、Yは、硫酸塩、塩化物、またはリン酸塩などのような、銅アニオンを表しており、Cuは、メッキされている基材(たとえば、植え込み可能な医療用デバイス)の表面の上に電気メッキされた元素銅を表している。
【0024】
さらに詳細には、ポリマー基材は、表面を接着性にするように表面を処理することによって(たとえば、クリーニング、エッチング、および/または粗面化など)、無電解堆積用途において用いられ得、次いで、ポリマー基材は、たとえば、二価の金属(たとえば、銅またはニッケルなど)の浴槽の中に浸漬させられ、それに導電性の金属の非常に薄いコーティング(典型的に、1μm未満)を与えることが可能である。抗菌性金属「層」が実際に金属の複数の層になるように、たとえば、複数のディップコーティングまたはマルチコートスプレーイング層などによって、より厚い層を確立するために使用され得る他のディッピング、スパッタリング、および/またはスプレーイング方法論が存在している。したがって、「層」という用語は、金属の「層」として機能する単一の層または複数の隣接する層として、金属の任意の配置を含む。
【0025】
以前に適用された薄い金属コーティングを電気めっきする場合には、金属の薄層は、たとえば、電荷キャリア浴槽に電位を印加しながら金属イオン源および電荷キャリアによって、金属ベースが電気メッキされる、より従来の方法と同様に電気メッキされ得る。望まれる抗菌性金属層の物理的特性に応じて、電気めっきは、メッキされたパーツが耐えなければならない摩耗からの層を残すように起こる可能性があり、コーティングは、0.0001μmから50μmの任意のものとすることが可能であるが、より薄い層は、それが考慮事項であるときに、より多くの植え込み可能な医療用デバイスフレキシビリティーを提供することが可能である。
【0026】
抗菌性金属を植え込み可能な医療用デバイスに適用するために電気めっき/無電解堆積を使用することによって、実現されるいくつかの利点が存在することが可能である。たとえば、金属源からの元素金属のほとんどまたは本質的にすべてが、基材の表面に利用可能であるようにされ、より高い程度の殺害力、および、銅のケースでは、より高い程度の接触殺害の可能性を付与することができるように、電気めっきが実施され得る。また、これは、無視できる浸出(たとえば、以前に定義されたような「効果的に非浸出」のレベル)を伴って、基材に(ポリマー基材または他の非導電性基材にさえ)金属を緊密に結合することを助けることが可能である。また、電気めっき/無電解堆積は、薄い金属層のより正確に制御された適用の適用を提供することも可能であり、それは、デバイス特徴(たとえば、フレキシビリティー、快適性など)を損なうことなく、表面改質を可能にする。無電解化学の性質は、露出されたエリアがコーティングされる状態で(変形、亀裂、割れ目などを含む)、原子ごとのレベルで金属の層を組み込む。これは、イオン拡散を通した殺害が後に続くコロニー形成を許容するというよりもむしろ、表面におけるバクテリアコロニー形成を防止することが可能である。また、これらのタイプの金属層は、もともと不均一である可能性のある基材表面(たとえば、シリコーン)の一貫したカバーを提供することが可能である。
【0027】
抗菌性金属は、上記に説明されているように、金属層を形成すること以外の方法論を使用して、医療用デバイスの外部表面に適用され得る。たとえば、抗菌性金属は、外部表面に少なくとも部分的に位置決めされている抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントの形態で提供され得る。ファイバーもしくはフィラメントは、抗菌性金属によってコーティングされたファイバーもしくはフィラメントとすることが可能であり、または、ファイバーもしくはフィラメントは、たとえば、抗菌性金属のコアから表面まで形成され得る。1つの例において、抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントは、銅を含む。別の例において、抗菌性金属ファイバーまたはフィラメントは、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスの構造的なファイバーまたはフィラメント(たとえば、さまざまな医療用デバイスのために使用されるいくつかのドライブラインの上に見出されるポリエステル(または、他のポリマー)ファイバー)とともに織られている。したがって、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスは、外部から給電される内部デバイスのためのドライブラインであるかまたはそれを含むことが可能である。
【0028】
植え込み可能な医療用デバイスの表面は、抗菌性金属を含むようにコーティングされているので、金属は、表面を横切って小さい電位を通すことによって活性化させられ、いくつかの場合には、抗菌性能の効力および強度を強化することが可能である。
【0029】
別の例において、保管目的のために、または、さらには診療的な目的のために、コロージョンを防止するために、保護コーティングが、抗菌性金属層の上に適用され得る(たとえば、ワックス、親水性ポリマー、疎水性ポリマーなど)。同様に、金属は、多数の目的のいずれかのために(金属コロージョンを防止することを含む)、以前に説明されているように合金化され得る。
【0030】
ここで図1を参照すると、抗菌性金属層110によってコーティングされた例示的な医療用デバイスが示されており、それは、被験者の耳100の中に外科的に植え込み可能である。より具体的には、この例に示されているように、医療用デバイス(中耳腔換気用チューブ(耳チューブ)基材材料116(薄い抗菌性金属層120がそれに適用されている))は、グロメットスタイルのダブルフランジ付き耳チューブである。薄い金属層を適用する前に、耳チューブは、たとえば、金属、ポリマー、または、耳チューブに使用される任意の他の材料とすることが可能である。より具体的な例は、たとえば、シリコーン、フッ素ポリマー、またはポリウレタンを含む。抗菌性金属層は、たとえば、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金とすることが可能である。1つの例において、薄い金属層は、銅または銅合金である。薄い金属層は、材料、層厚さ、適用プロセスなどに関して以前に説明された通りのものとすることが可能である。鼓膜(または、イヤードラム)130を横切って切開部を生成させることによって、および、(ダブルフランジ付き耳チューブのケースでは)耳チューブのいずれかの側にフランジ112Aおよび112Bを設置することによって、耳チューブは、耳の解剖学的構造の中に外科的に植え込まれる。いくつかの耳チューブは、複数のフランジを含んでおらず、または、グロメットスタイル耳チューブではなく、したがって、それらは、教示されたように外科的に植え込まれ得る。
【0031】
耳チューブ110は、外科的に挿入され、耳感染症を軽減するかまたは防止する。しかし、耳チューブは、また、膿形成または液体貯留が植え込み部位において起こる術後耳漏の形態で、二次感染の原因となる場合がある。これは、耳チューブの機能不全および再発性の感染症状につながる可能性がある。抗菌性金属層120によって耳チューブをコーティングすることによって、これらの感染症が低減され得る。
【0032】
図1に示されている耳チューブ110は、Armstrong傾斜付きグロメットと同様の構成を有する非対称的な傾斜付きグロメットタイプの耳チューブであるが、たとえば、Shepart Grommet、Soileau Tytan Titanium Ventilation Tube、Spoon Bobbins、Goode T-Tube、Paparella-typeベントチューブ、またはトライユンチューブ(triune tube)など、任意の他のタイプの耳チューブが、同様に使用され得る。グロメットまたは他の形状の耳チューブは、フランジまたはフランジ状構造体112Aが一方の側にあり、より典型的には、同じまたは異なる形状または構成のフランジまたはフランジ状構造体112Bが同様に他方の側にある状態で、傾斜付きになっているかまたは傾斜付きになっていないことが可能である。また、耳チューブは、それを通してドレナージチューブ114を含み、抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスが中耳104から外耳道102の中への空気フローおよび流体ドレナージを促進させることを可能にする。ほとんどのグロメットまたは他のタイプの耳チューブは、短期間(たとえば、6カ月から12カ月)の使用のためのものであるが、36カ月以上にわたって植え込まれる場合もある。短い持続期間の耳チューブインプラントでさえ、バクテリアのコロニー形成の可能性に関して、比較的に長い持続期間のインプラントである。したがって、本明細書で説明されている抗菌性金属層は、起こり得る二次感染を改善する。
【0033】
別の例において、例によって図2に示されているように、被験者200の中に植え込まれ得る抗菌性の植え込み可能な医療用デバイスは、シャント210(たとえば、脳シャントなど)とすることが可能であり、シャント210は、身体の中の1つの場所から別の場所へ体液を迂回させるために使用されるデバイスである。シャントは、身体の中の1つの場所から別の場所へ流体を輸送するための任意の医学的に植え込まれるシャントとすることが可能である。この例では、薄い抗菌性金属層220(たとえば、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金など)によってコーティングされ得る脳シャントが示されている。1つの例において、薄い金属層は、銅または銅合金である。薄い金属層は、材料、層厚さ、適用プロセスなどに関して以前に説明された通りのものとすることが可能である。代替的に、医療用デバイスは、身体から収集のための外部部位へ流体を迂回させる医療用ドレナージチューブ(たとえば、EVSなど)とすることが可能である。
【0034】
1つの例において、シャント210は、脳シャントとすることが可能であり、脳シャントは、感染を受ける可能性のある経皮的なデバイスであり、ここで、シャントは、脳および頭部を退出202し、再び進入204し、体表面の下をドレナージ場所へ通され、ここで、脳シャントは、ドレナージ場所においてまたはドレナージ場所の近くにおいて、身体から退出206し、身体に進入208することが可能である。示されていない他の例において、脳シャントは、一度脳を退出し、一度ドレナージ場所に再進入することが可能であり、または、頭部においてもしくは頭部の近くにおいて、退出および再進入することが可能であり、次いで、体表面の下を通され、ドレナージ場所に進入することが可能である。脳室のいずれかから身体の中のどこかへ脳脊髄液(CSF)をドレン排出するために使用され得る例示的な脳シャントは、脳室腹腔(VP)シャント(腹腔にドレン排出する)、脳室心房(VA)シャント(心臓の右心房にドレン排出する)、脳室胸膜(VPL)シャント(胸膜腔にドレン排出する)、脳室脳槽(VC)シャント(大槽にドレン排出する)、脳室帽状腱膜下腔(SG)シャント(帽状腱膜下腔にドレン排出する)、腰椎腹腔(LP)シャント(腹腔にドレン排出する)などを含む。
【0035】
脳シャントと同様に、外部脳室ドレン(EVD)は、また、脳の任意の脳室から脳脊髄液(CSF)をドレン排出するために使用され得るが、流体は、身体の中にというよりもむしろ身体の外側にドレン排出される。したがって、EVDは、また、本開示による植え込み可能な医療用デバイスであると考えられる。その理由は、それらが、本明細書で説明されているように、外科的に植え込まれ、管腔医療用デバイスであるとは考えられないからである。
【0036】
EVDだけでなく、さまざまなタイプの脳シャントが、水頭症などのような症状を管理するために使用され得る。これらのタイプのデバイスは、最初の年に約40%の確率で故障し、全体的な故障率は、約50%になる。感染は、故障に関する主要な理由のうちの1つである。たとえば、シャントが頭部(脳において)または他の身体の場所から退出および進入するデバイスの領域は、細菌の侵入を受けやすい。市販の抗菌性システムは、Medtronic ARESを含み、それは、抗生物質でコーティングされたEVDである。他の抗菌性保護システムは、J&J CodmanシステムおよびCook Spectrumシステムを含み、その両方は、より長い期間の使用にはあまり効果的ではない。そのうえ、これらのタイプの脳シャントおよび/またはEVDの中で使用される多くの抗生物質は、いくつかのバクテリア株(グラム陰性菌およびイースト菌)に対して非効果的であることが知られているミノサイクリン/クリンダマイシンおよびリファンピンなどのような抗生物質を使用する。これらの抗生物質コーティングを用いても、致死率および罹患率は、依然として高いままであり、たとえば、小児脳シャントは、6~25%の罹患率および約2.7%の致死率を有しており、1事例当たり$35,000を超える治療コストを伴う。シャントまたは外科的に植え込まれるドレナージチューブ(たとえば、EVDなど)に適用される抗菌性金属層は、抗菌性のコロニー形成介入の代替手段を提供することが可能であり、抗生物質耐性のあるバクテリア株に対して上手く機能する可能性がある。
【0037】
別の例において、および、例によって図3に示されているように、植え込み可能な医療用デバイスは、被験者の心臓300に接続されている心室補助デバイス(VAD)310、または、そのコンポーネント(たとえば、ドライブライン312など)、または、腹腔の中に位置決めされるポンプ314のコンポーネントとすることが可能である。電源316およびコントローラー318は、身体の外側に位置決めされており、ポンプに給電および制御するために使用され得る。したがって、ドライブラインは、特に、経皮的に設置され、バクテリアの移動およびコロニー形成を受けやすい可能性がある。この長期間のインプラントにおいて、局所的感染およびドライブライン感染は高く、感染率が60%程度の高さになることが報告されており、それは、感染が起こるときには主に抗生物質療法によって治療され、維持のために局所部位の消毒によって治療される。感染と戦うために、第2の外科的介入が必要とされる場合がある。また、これらのタイプの植え込み可能な医療用デバイスは、(ポンプが位置付けされている身体のスペースの中の)ポンプポケット感染(それは、外科的介入なしで発見することは困難である)につながる可能性があり、および/または、脳卒中および致死率に関連付けられ得る血流感染にさえつながる可能性がある。
【0038】
したがって、本開示によれば、心室補助デバイス(VAD)310、または、そのコンポーネント(ドライブライン312、ポンプチュービング308、または流体継手314など)は、薄い抗菌性金属層320(たとえば、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金など)によってコーティングされており、経皮的な部位において、または、デバイスが身体組織もしくは臓器と交差するかもしくは密接に接触する他の部位において、被験者が感染することとなる影響または可能性を低減させることが可能である。1つの例において、薄い金属層は、銅または銅合金とすることが可能である。薄い金属層は、材料、層厚さ、適用プロセスなどに関して以前に説明された通りのものとすることが可能である。以前の例に同様に示されているように、薄い金属層は、少なくとも1つの場所に、および、場合によっては複数の場所に存在していることが可能であり、ここで、医療用デバイスが、例によって示されているようにおよび限定ではなく、身体組織(たとえば、皮膚302または心筋304など)の中に挿入されるかまたは身体組織を横断する。
【0039】
また、本開示の抗菌性金属層によってコーティングされ得る他の植え込み可能な医療用デバイスが存在しているが、しかし、それらは、具体的には図に示されていない。しかし、これらの植え込み可能な医療用デバイスまたはそのコンポーネント(それらも、「植え込み可能な医療用デバイス」であると定義される)は、同様に、薄い抗菌性金属層(たとえば、銅、銀、亜鉛、金、またはこれらの合金など)によってコーティングされており、経皮的な部位において、または、デバイスが身体組織もしくは臓器と交差するかもしくは密接に接触する他の部位において、被験者が感染することとなる影響または可能性を低減させることが可能である。述べられているように、薄い金属層は、たとえば、銅または銅合金とすることが可能である。薄い金属層は、材料、層厚さ、適用プロセスなどに関して以前に説明された通りのものとすることが可能である。
【0040】
そのようなデバイスの例は、整形外科用インプラントを含み、整形外科用インプラントは、骨折、変形性関節症、脊椎側弯症、脊柱管狭窄症、慢性の疼痛、関節置換などを治療するために使用され得る。述べられているように、簡単な外科用締結具(たとえば、ピン、ワイヤー、ステープル、スクリュー、ネイルなど)は、本開示による植え込み可能な医療用デバイスであるとは考えられない。本開示による抗菌性金属層によってコーティングされ得る整形外科用インプラントは、そうでなければ、外科手術の結果としてのバクテリアコロニー形成を受けやすく、または、外科手術後に導入されるバクテリアコロニー形成さえも受けやすい可能性がある。ブドウ球菌、特に、黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌は、特に、整形外科用インプラントにおいてよく見られる。バクテリア感染症は、たとえば、骨髄炎、敗血症性関節炎、または人工関節感染症(PJI)などのような、骨組織感染症につながる可能性がある。感染経路は、敗血症性関節炎、血行性のもの(血液の中に導入され、次いで、インプラントの部位における局所的組織に導入されるバクテリア)、および骨浸潤(外科手術、怪我などから)である可能性がある。整形外科用インプラントは、多くの異なるタイプの材料のものであるので、バクテリアの付着は、特定のタイプのバクテリアに関して、いくつかの材料によって問題になる可能性がある。インプラント部位における付着によって、バクテリアコロニー形成が、表面において起こる可能性があり、いくつかのバクテリアは、粘液の層を分泌するか、または、自己防衛するバイオフィルムを形成する可能性がある。本明細書で説明されているように植え込み可能なデバイスに抗菌性の薄い金属層を適用することによって、特に、銅層によって起こり得る接触殺害に起因して、付着を受けやすい可能性のある表面が低減され得る。
【0041】
抗菌性の薄い金属層によってコーティングされ得る例示的な植え込み可能な医療用デバイス(それらが植え込まれる場所とともに)は、それに限定されないが:Austim-Mooreプロテーゼ(大腿骨頸部)、Baksiプロテーゼ(肘)、Charnleyプロテーゼ(臀部)、Harringtonロッド(脊椎)、Hartshill rectangle(脊椎)、Insall Bursteinプロテーゼ(膝)、Richard N.W.Wohns棘突起間インプラントおよび植え込み器具(隣接する胸椎同士の間)、Luqueロッド(脊椎)、Neerプロテーゼ(肩)、McLaughlinプレート(転子間骨折)、Souterプロテーゼ(肘)、Steffeeプレート(脊椎)、Swansonプロテーゼ(指関節)、Thompsonプロテーゼ(大腿骨頸部)などを含む。バクテリアの付着およびコロニー形成を防止するために本開示にしたがって銅または別の抗菌性金属によってコーティングされ得る多くの他のプロテーゼデバイスが存在している。
【0042】
抗菌性金属層によってコーティングされ得る他の植え込み可能な医療用デバイスは、感覚インプラントまたは神経学的インプラント、たとえば、脳または他の神経系の障害を治療するためのものなどを含む。耳硬化症などのような聴力損失の治療のための外科的に植え込み可能な医療用デバイスは、抗菌性金属層によってコーティングされ得、それは、聴力回復インプラントデバイス(たとえば、蝸牛インプラント)の共通の感染場所にあるデバイスを含む。中耳炎は、以前に説明されたように、耳チューブによって治療され得る。電気デバイス(たとえば、神経刺激装置など)が、同様に植え込まれ、脳または他の神経系を刺激し、多数の神経疾患(たとえば、てんかん、パーキンソン病、治療抵抗性鬱病など)のいずれかを治療することが可能である。これらの場合において、たとえば、リードワイヤーおよび/または他の経皮的なもしくは経組織的な構造体は、同様に、感染を受けやすい場所において、本明細書で説明されているように、銅または他の抗菌性金属によってコーティングされ得る。
【0043】
心臓血管の植え込み可能な医療用デバイス(たとえば、本明細書で定義されているような血管カテーテルを除外する)は、本明細書で説明されている抗菌性金属層から利益を受けることができる別のカテゴリーのデバイスである。これらのタイプのデバイスは、心不全、心不整脈、心室頻拍、心臓弁膜症、狭心症、アテローム性動脈硬化症などを治療するために使用され得る。心臓血管のものであると考えられ得る例示的な植え込み可能な医療用デバイスは、人工心臓、人工心臓弁、(植え込み可能な)心臓除細動器、心臓ペースメーカー、グルコースセンサーなどのようなセンサーなどを含む。
【0044】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に指示していない限り、複数の指示対象を含むことが留意されるべきである。
【0045】
本明細書で使用されているように、「約」という用語は、所与の値が端点の「少し上方」または「少し下方」にあることが可能であることを提供することによって、数値範囲端点にフレキシビリティーを提供するために使用される。この用語のフレキシビリティーの程度は、特定の変数によって決定付けられ得、当業者の知識の範囲内にあり、経験および本明細書での説明に基づいて決定することとなる。
【0046】
サイズ、量、および他の数値データは、範囲のフォーマットで、本明細書で表現または提示され得る。そのような範囲フォーマットは、単に便宜のためにおよび簡潔にするために使用されているに過ぎず、したがって、範囲の限界として明示的に記載されている数値を含むだけでなく、それぞれの数値およびサブレンジが明示的に記載されているかのように、その範囲の中に包含されるすべての個々の数値またはサブレンジも含むように、柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。実例として、「約1.0パーセントから2.0パーセント」の数値範囲は、約1.0パーセントから約2.0パーセントの明示的に記載された値を含むだけでなく、示されている範囲の中の個々の値およびサブレンジも含むように解釈されるべきである。したがって、この数値範囲の中に含まれるのは、1.1、1.3、および1.5などのような個々の値、ならびに、1.3から1.7、1.0から1.5、および、1.4から1.9などのようなサブレンジなどである。この同じ原理は、1つだけの数値を記載する範囲にも当てはまる。そのうえ、そのような解釈は、範囲の広さまたは説明されている特質にかかわらず当てはまるべきである。
【0047】
本明細書で使用されているように、複数のアイテム、構造的エレメント、組成エレメント、および/または材料は、便宜のために共通のリストの中に提示され得る。しかし、これらのリストは、リストのそれぞれのメンバーが別個の固有のメンバーとして個別に識別されるかのように解釈されるべきである。したがって、そのようなリストの個々のメンバーはいずれも、反対の指示なしに、共通のグループの中のそれらの提示のみに基づいて、同じリストの任意の他のメンバーの事実上同等のものとして解釈されるべきではない。
【0048】
また、本明細書で説明されているおよび/または図に示されているデバイス特徴のいずれかは、具体的には示されていないまたは説明されていない任意の様式で、一緒に組み合わせられ得ることが留意される。たとえば、図面または説明の中の特徴のすべての可能な組み合わせをまとめることは、本開示の目的ではなく、むしろ、さまざまなタイプと組み合わされることとなる概念の組み合わせを完全に説明することが、本開示の目的である。
【0049】
実施例
以下は、本開示のいくつかの例を図示している。しかし、以下の例は、本開示の原理の適用の単なる例示目的のものに過ぎないことが理解されるべきである。多数の修正例および代替的な構造体、組成、方法、およびシステムが、本開示から逸脱することなく考案され得る。添付の特許請求の範囲は、そのような修正例および配置をカバーすることを意図している。
【実施例1】
【0050】
実施例1-中耳腔換気用チューブ(耳チューブ)バクテリアコロニー形成研究1
銅メッキされたシリコーン耳チューブのインビトロの抗菌性能が、コーティングされていない未処理のシリコーン耳チューブと比較された。ここで、銅メッキされたシリコーン抗菌性の耳チューブは、対数低減スケール(LogR)に基づいて性能に関して特徴付けられた。したがって、LogR値が高ければ高いほど、バクテリアコロニー形成のレベルは低くなる。その理由は、高い値が、未処理のシリコーン耳チューブに対する改善のレベルが高いことを示すからである。この研究において、両方のタイプの耳チューブが、黄色ブドウ球菌に露出された。同時に、比較のために、市販の抗菌性の耳チューブ(すなわち、酸化銀含浸Activent(登録商標)耳チューブ)の性能も、同様に検討され、LogRの観点から特徴付けられた。そのうえ、Activent(登録商標)耳チューブの第2のセットも取得され、上記に説明されているものと同様の銅メッキ抗菌性層によってコーティングされた。この研究におけるすべての3つの耳チューブグループが、細菌チャレンジの前に7日間にわたって毎日の生理食塩水交換に露出された。収集されたデータは、バクテリアチャレンジに基づいており、そこでは、濃度~1x10CFU/mLのバクテリアが耳チューブに露出され、コロニーは、24時間にわたって生理食塩水ベースの栄養ブロスの存在下において37℃で培養することを許容された。バイオフィルム(付着バクテリア)およびプランクトニック(自由に浮遊するバクテリア)の両方が、それぞれのデバイスから回収され、周囲媒体が、図4に示されている。
【0051】
図4において見ることができるように、銅コーティングされた耳チューブ(Activent(登録商標)技術有りおよび無しの両方)は、バイオフィルムコロニー形成に関して、銅コーティングが適用されていない状態のActivent(登録商標)耳チューブよりも性能が優れていた。
【実施例2】
【0052】
実施例2-中耳腔換気用チューブ(耳チューブ)バクテリアコロニー形成研究2
シリコーン耳チューブの代わりに、フッ素ポリマー(FLP)ベースの耳チューブが代わりに使用されたことを除いて、実施例1の同じ研究が行われた。バイオフィルム(付着バクテリア)およびプランクトニック(自由に浮遊するバクテリア)の両方が、それぞれのデバイスから回収され、周囲媒体が、図5に示されている。
【0053】
図5において見ることができるように、銅コーティングされた耳チューブ(Activent(登録商標)技術有りおよび無しの両方)は、プランクトニックおよびバイオフィルムコロニー形成の両方に関して、Activent(登録商標)耳チューブに対して著しく性能が優れていた。
【実施例3】
【0054】
実施例3-外部脳室ドレン(EVD)バクテリアコロニー形成研究1
銅メッキされたシリコーンEVDのインビトロの抗菌性能が、コーティングされていない未処理のシリコーンEVDと比較された。ここで、銅メッキされたEVDは、対数低減(LogR)に基づいて性能に関して特徴付けられた。したがって、LogR値が高ければ高いほど、バクテリアコロニー形成のレベルは低くなる。その理由は、高い値が、未処理のシリコーンEVDに対する改善のレベルが高いことを示すからである。この研究において、両方のタイプのEVDチュービングが、表皮ブドウ球菌に露出された。同時に、比較のために、2つの市販の抗菌性コーティングシステムの性能も評価された(すなわち、Cook Medical(USA)から入手可能なEVDの上のCook Spectrumコーティング、および、Medtronic(USA)から入手可能なARES(登録商標)抗生物質含浸コーティングシステム)。収集されたデータは、バクテリアチャレンジに基づいており、そこでは、濃度~1x10CFU/mLのバクテリアがデバイスに露出され、コロニーは、生理食塩水ベースの栄養ブロスの存在下において37℃で培養することを許容された。バイオフィルム(バクテリア付着)のみが収集され、毎日の生理食塩水交換への0日(初期)および7日(1週間後)の露出の後に収集された。両方の時点は、上記に説明されている24時間の細菌チャレンジに露出された。収集されたデータが、例として図6に示されている。
【0055】
見ることができるように、本開示の銅コーティング技術は、0日目において両方の抗生物質カテーテルと少なくとも同等の抗菌効力を示したが、銅コーティングは、また、7日間のシミュレートされたコンディショニングの後に抗菌効力を効果的に保っており、一方では、両方の抗生物質カテーテルは、著しく低減された効力を有していた。
【実施例4】
【0056】
実施例4-外部脳室ドレン(EVD)バクテリアコロニー形成研究2
表皮ブドウ球菌によって医療用デバイスをチャレンジする代わりに、デバイスが黄色ブドウ球菌によってチャレンジされたことを除いて、実施例3の同じ研究が行われた。収集されたデータが、例として図7に示されている。
【0057】
見ることができるように、本開示の銅コーティング技術は、0日目において両方の抗生物質カテーテルと少なくとも同等の抗菌効力を示したが、銅コーティングは、また、7日間のシミュレートされたコンディショニングの後に抗菌効力を効果的に保っており、一方では、両方の抗生物質カテーテルは、著しく低減された効力を有していた。
【実施例5】
【0058】
実施例5-外部脳室ドレン(EVD)バクテリアコロニー形成研究3
銅メッキされたポリウレタンEVDのインビトロの抗菌性能が、コーティングされていない未処理のポリウレタンEVDと比較された。ここで、銅メッキされたシリコーン抗菌性EVDは、対数低減(LogR)に基づいて性能に関して特徴付けられた。したがって、LogR値が高ければ高いほど、バクテリアコロニー形成のレベルは低くなる。その理由は、高い値が、未処理のシリコーンEVDに対する改善のレベルが高いことを示すからである。この研究において、両方のタイプのEVDが、黄色ブドウ球菌に露出された。同時に、比較のために、市販の抗菌性コーティングシステムの性能が評価された(すなわち、Cook Medical(USA)からのCook Spectrumコーティング)。この研究におけるすべての医療用デバイスが、細菌チャレンジの前に7日間にわたって毎日の生理食塩水交換に露出された。収集されたデータは、バクテリアチャレンジに基づいており、そこでは、濃度~1x10CFU/mLのバクテリアが耳チューブに露出され、コロニーは、24時間にわたって生理食塩水ベースの栄養ブロス流体の存在下において37℃で培養することを許容された。バイオフィルム(付着バクテリア)およびプランクトニック(自由に浮遊するバクテリア)の両方が、それぞれのデバイスから回収され、周囲媒体が、図8に示されている。図8において見ることができるように、銅コーティングされたEVDは、Cook Spectrumシステムがその上にコーティングされた状態の医療用デバイスよりも性能が優れていた。
【実施例6】
【0059】
実施例6-外部銅メッキのインビボ生体適合性およびエクスビボ抗菌効力の研究
銅メッキへの露出に対する動物の耐性を決定するために、たとえば、銅に対する生物学的反応があることとなるかどうかを決定し、外科的に発生させられた切開部位の部位においてまたは植え込まれるデバイスとして耐性があることとなるかどうかを識別するために、パイロットラビットスタディーが行われた。この研究に関して、銅メッキされたシャントデバイス、および、ARES(登録商標)抗生物質含浸コーティングシステム(Medtronic(USA)から)によってコーティングされたデバイスが、ラビットの皮膚のポケットの中へ皮下に植え込まれた。この研究のために評価されたシャント材料は、シリコーンであった。比較のために、コーティングされていないシャントも、同じラビットの中に植え込まれた。シャントは、10日間にわたってラビットの中に残され、新しい材料に対する生物学的反応を理解し、次いで、動物から抽出され、インビトロの条件下において、銅メッキと、ARES(登録商標)抗生物質含浸コーティングシステムと、コーティングされていないデバイスとの抗菌効果を評価した。抗菌性の研究のために医療用デバイスの外側のみを評価するために、シャントの内側が、エポキシによって密封され、植え込まれたデバイスの外部のみに評価が関係付けられるようになっていた。
【0060】
動物から抽出されたシャントデバイスは、バクテリア培養物によって植菌され、たとえば、37℃においてロータリーシェイカーの上で、インビトロの条件下で培養された。銅メッキされたシャントは、コーティングされていないデバイスと比較して、黄色ブドウ球菌の増殖において、ほとんどLog3の低減を示し、一方では、ARES(登録商標)抗生物質含浸コーティングシステムは、コーティングされていないデバイスと比較して、わずかにのみ良好であった(たとえば、Log1未満の低減)。本研究に関する生データが、図9に示されており、図9は、コーティングされていないシャントの上に10,000,000に近い細菌が存在しており、一方では、銅メッキされたシャントデバイスは、約10,000の細菌しか保たなかったことを示している。また、この研究は、ラビット組織に対して行われた組織病理学的作業によって検証されたように、動物に対して毒性の兆候が存在していなかったことを示した。局所炎症などのような毒性の兆候に対するモニタリングに加えて、皮膚の発赤、膿形成、発熱、体重の減少なども、全体的な毒性の兆候を示さなかった。
【0061】
前述の例および説明は、1つまたは複数の特定の用途における本技術の原理の例示目的のためのものであるが、実装の形態、使用法、および詳細における多数の修正が、発明の才能を行使することなく、ならびに、この技術の原理および概念から逸脱することなく、行われ得ることが当業者に明らかであることとなる。したがって、この技術が過度に制限されることを意図していない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9