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特許7621284着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法
<図1>
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図1
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図2
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  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図15
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図16
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図17
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図18
  • 特許-着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法 図19
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20250117BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20250117BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C07K16/18
C12N15/13
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021574143
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003215
(87)【国際公開番号】W WO2021153723
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020014739
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】森 政雄
(72)【発明者】
【氏名】国宗 篤司
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514408(JP,A)
【文献】特表2015-515281(JP,A)
【文献】特表2017-535244(JP,A)
【文献】国際公開第2017/173359(WO,A2)
【文献】Biotechnol. Prog.,2013年,Vol.29, No.5,p.1270-1277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色を抑制した抗体含有組成物の製造方法であって、
a)抗体ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳類細胞を、ビタミンB12を含まない細胞培養培地中で培養し、
b)培養物から抗体ポリペプチドを含む組成物を回収する工程を含み、
ビタミンB12を含まない細胞培養培地中で培養することは、ビタミンB12を含まない初発培地及びビタミンB12を含まない流加培地により流加培養することを含み、
前記抗体ポリペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号:2のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含む、組成物の製造方法
【請求項2】
前記組成物における、ビタミンB12とポリペプチドとのモル濃度比が0.26%未満である、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
流加培養開始から7日目における細胞培養培地中のVCD(生存細胞密度)が80×105cells/mL以上である、請求項1または2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
前記哺乳類細胞がCHO細胞である、請求項1~のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
前記抗体が、潜在型ミオスタチンに結合するIgG1ヒト化抗体である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法により抗体含有組成物を製造し;得られた組成物を医薬製剤化する工程を含む、抗体含有製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
組換え細胞培養物を用いてインビトロでポリペプチドを製造する方法は周知であり、工業的規模の製造に広く使用されている。ポリペプチド、例えば抗体を含有する組成物を製剤化し、医薬製剤として提供する場合、一品質特性として、製剤の色を許容可能なレベル、例えば、製品のマーケティングのための規制要件を満足するレベルに抑えることが求められる。
【0003】
特に、抗体を高濃度(例えば、150mg/mL以上)で含有する製剤では、濃縮に伴い着色が強くなるため、製剤の色を許容可能なレベルに抑えることが重要となる。
【0004】
抗体を含有する製剤の着色の原因として、抗体へのビタミンB12(以下、「VB12」)の吸着が報告されている(非特許文献1~3、特許文献1)。1分子のVB12には1分子のコバルトが配位する。VB12には、シアノコバラミン体とヒドロキシコバラミン体が存在するが、ヒドロキシコバラミン体が抗体に結合することにより、同分子がピンク色や赤色に着色することが報告されている(非特許文献1~3)。
【0005】
また、抗体の着色を防止することを目的とした培養方法として、特定の量のビタミンB2、B6、B9、B12、シスチンを含む培地を使用した培養方法(特許文献2)が報告されている。また、培地中のシアノコバラミン体のヒドロキシコバラミンへの変換及び抗体のジスルフィド結合の還元を防ぐことにより、着色を防止する方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
他方、VB12が真核細胞のための細胞培養培地に必須の成分であること(非特許文献1)、VB12が哺乳類細胞の培養のための必須の成分であること(特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2018/208743
【文献】特表2015-515281
【非特許文献】
【0008】
【文献】MAbs. 2013 Nov 1; 5(6): 974-981
【文献】MAbs. 2014 May 1; 6(3): 679-688
【文献】Biotechnology and Bioengineering.2018;115:900-909
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、着色を生じやすい特性のポリペプチドについて、比較的簡易な製造方法の変更により、ポリペプチドの産生量や物性を許容範囲内に維持しつつ、着色の問題を解消する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために鋭意研究した結果、本発明者らは、VB12を含まない培地を用いることにより、ポリペプチドの産生量を維持しつつ、着色を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
したがって、本発明は、以下の(1)~(17)のように表現することができる。
(1) 着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法であって、(a)ポリペプチドをコードする核酸を含む真核細胞を、ビタミンB12を含まない細胞培養培地中で培養し;(b)培養物からポリペプチドを含む組成物を回収する工程を含む、前記組成物の製造方法。
(2) 前記組成物における、ビタミンB12とポリペプチドとのモル濃度比が0.26%未満である、(1)に記載の組成物の製造方法。
(3) ビタミンB12を含まない初発培地及びビタミンB12を含まない流加培地により流加培養する、(1)または(2)に記載の組成物の製造方法。
(4) 流加培養開始から7日目における細胞培養培地中のVCD(生存細胞密度)が80×105cells/mL以上である、(3)に記載の組成物の製造方法。
(5) 前記真核細胞がCHO細胞である、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
(6) 前記ポリペプチドがFc含有ポリペプチドである、(1)~(5)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
(7) 前記Fc含有ポリペプチドが抗体である、(6)に記載の組成物の製造方法。
(8) 前記ポリペプチドが、Fc領域におけるEUナンバリングによる214位、234位、238位、250位、264位、307位、311位、330位、343位、428位、434位、436位、438位及び440位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含む、(6)又は(7)に記載の組成物の製造方法。
(9) 前記ポリペプチドが、Fc領域におけるEUナンバリングによる214R、234Y、238D、250V、264I、307P、311R、330K、343R、428L、434A、436T、438R及び440Eから選ばれる少なくとも1つの改変を含む、(6)~(8)に記載の組成物の製造方法。
(10) 前記ポリペプチドが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号:2のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含む抗体である、(6)~(9)に記載の組成物の製造方法。
(11) 前記抗体が、潜在型ミオスタチンに結合するIgG1ヒト化抗体である、(10)に記載の組成物の製造方法。
(12) 以下の工程を含む、着色を抑制した抗体含有組成物の製造方法:
a)目的とする抗体が、Fc領域におけるEUナンバリングによる214位、234位、238位、250位、264位、307位、311位、330位、343位、428位、434位、436位、438位及び440位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含む抗体であること
を確認する工程;
b)当該アミノ酸残基の改変を含む抗体について、ビタミンB12を含まない細胞培養培地を選択する工程;
c)工程b)で選択した細胞培養培地により、当該アミノ酸残基の改変を含む抗体をコードする核酸を含む真核細胞を培養する工程;および
d)培養物から抗体含有組成物を回収する工程。
(13) 工程b)は、ビタミンB12を含まない初発培地及びビタミンB12を含まない流加培地を選択する工程である、(12)に記載の製造方法。
(14) 前記真核細胞はCHO細胞である、(12)または(13)に記載の製造方法。
(15) 抗体をコードする核酸を含む真核細胞を、ビタミンB12を含まない細胞培養培地中で培養し;(b)培養物から抗体を含む組成物を回収し;(c)得られた組成物を医薬製剤化する工程を含む、抗体含有製剤の製造方法。
(16) 組換え細胞培養物を用いる抗体の製造において、(a)抗体をコードする核酸を含む真核細胞を、ビタミンB12を含まない細胞培養培地中で培養し;(b)培養物から抗体を含む組成物を回収する工程を含む、抗体の着色を抑制する方法。
(17) (7)に記載の組成物の製造方法、(15)に記載の抗体含有製剤の製造方法、または(16)に記載の抗体の着色を抑制する方法であって、前記抗体が、抗IL-8抗体、または抗ミオスタチン抗体である、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ポリペプチド(抗体A:抗ミオスタチン抗体)を産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数を示す。
図2】抗体Aを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した細胞生存率を示す。
図3】抗体Aを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数から積算細胞数を算出し示す。
図4】抗体Aを産生する細胞の培養において、VB12を含む培地をVB+、VB12を含まない培地をVB-として、継代培養を3日間もしくは4日間周期で100日間(28回継代)まで実施し、各日の細胞増殖挙動を、細胞倍加時間(Doubling time)を指標としてプロットした結果を示す。(細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製)で測定し、細胞倍加時間を算出)
図5図1とは異なるポリペプチド(抗体B:抗IL-8抗体)を産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数を示す。
図6図1図5とは異なるポリペプチド(抗体C:抗FIXa/FX二重特異性抗体)を産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数を示す。
図7】抗体Bを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数を示す。
図8】抗体Cを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数を示す。
図9】抗体Bを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した細胞生存率を示す。
図10】抗体Cを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した細胞生存率を示す。
図11】抗体Bを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した細胞生存率を示す。
図12】抗体Cを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した細胞生存率を示す。
図13】抗体Bを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数から積算細胞数を算出し示す。
図14】抗体Cを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数から積算細胞数を算出し示す。
図15】抗体Bを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数から積算細胞数を算出し示す。
図16】抗体Cを産生する細胞の培養において、初発培地および流加培地にVB12を含む培地をVB+、初発培地にはVB12を含まないが流加培地にはVB12を含む培地をVB-とし、培養14日間の各日について、細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製、型式Vi-CELL XR)で測定した生細胞数から積算細胞数を算出し示す。
図17】抗体Bを産生する細胞の培養において、VB12を含む培地をVB+、VB12を含まない培地をVB-として、継代培養を3日間もしくは4日間周期で136日間(39回継代)まで実施し、各日の細胞増殖挙動を、細胞倍加時間(Doubling time)を指標としてプロットした結果を示す。(細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製)で測定し、細胞倍加時間を算出)
図18】抗体Cを産生する細胞の培養において、VB12を含む培地をVB+、VB12を含まない培地をVB-として、継代培養を3日間もしくは4日間周期で24日間(7回継代)まで実施し、各日の細胞増殖挙動を、細胞倍加時間(Doubling time)を指標としてプロットした結果を示す。(細胞自動計測装置Vi-CELLシステム(Beckman Courter社製)で測定し、細胞倍加時間を算出)
図19】シアン化カリウム処理を行った抗体含有組成物と、シアン化カリウム処理を行わない抗体含有組成物のそれぞれについて、5 KDカットオフフィルターで抗体を除去し、回収サンプルを逆相クロマトグラフィー(Column:AcclaimTMPolar Advantage II LC)で分析した結果を示す。シアン化カリウム非処理サンプルをKCN-、シアン化カリウム処理サンプルをKCN+、VB12のピークをSTDで表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、着色を抑制したポリペプチドを含む組成物の製造方法に関する。
【0016】
VB12
VB12は、狭義ではシアノコバラミンを指し、広義では、ビタミンB12類の総称としてのコバラミン(cobalamin)を指す。培地成分としてのVB12はシアノコバラミンであり、培地成分が水溶液になるとシアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、アクアコバラミン、アデノシルコバラミン、およびメチルコバラミンの平衡状態となる。
【0017】
VB12には、1分子あたりコバルト分子が1分子結合している。このため、本願の実施例では、抗体に対するコバルト分子の相対濃度を定量することにより、抗体に対するVB12の相対濃度を定量した。本発明では、真核細胞の培養のために、VB12を含まない初発培地および流加培地を用いることができる。本発明における「VB12を含まない」培地とは、培地中のVB12の濃度が0mg/Lである場合だけでなく、培地添加物としての実質的な含有量に満たない程度のVB12が混入した培地をも含む。具体的には、当該培地を使って本発明の実施例1と同様の条件下で培養を行い、得られた抗体含有組成物(抗体濃度約30mg/mL)をICP-MSで測定した場合に、VB12に含まれるコバルト分子の濃度が、定量限界値の20ppb未満となる場合に、「VB12を含まない」に該当する。
【0018】
真核細胞
真核細胞とは、核膜に包まれた核を持つ細胞のことをいう。本発明における「ポリペプチドをコードする核酸を含む真核細胞」は、所望のポリペプチドの製造のための産生系として使用することができる宿主細胞である。そのような細胞は、所望のポリペプチドを産生できる天然の細胞であっても、所望のポリペプチドをコード(または発現)する核酸を、人為的に導入した細胞であってもよいが、所望のポリペプチドをコードする核酸を導入した形質転換細胞が好ましい。そのような形質転換細胞の一例は、所望のポリペプチドをコードする外来のDNAを遺伝子組み換え技術を用いて真核細胞に導入して得られた、ポリペプチドの産生株である。したがって、「ポリペプチドをコードする核酸を含む」という文言は、「ポリペプチドをコードする核酸を人為的に導入した」または「ポリペプチドをコードする外来の核酸を導入した」と読み替えることもできる。
【0019】
本発明における真核細胞の典型例は、組換えタンパク質の生産のための宿主として好適な細胞であり、昆虫、魚、両生類、爬虫類、または哺乳類由来の細胞から選択することができる。本発明における真核細胞の好ましい例は、哺乳類細胞である。哺乳類細胞はCHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、BHK細胞、PER.C6(商標登録)細胞、およびハイブリドーマ細胞などから選択されるが、より好ましくはCHO細胞である。
【0020】
細胞培養培地
本発明において、細胞培養培地とは、ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞の培養のために使用される培地をいい、単に培地と呼ぶこともできる。細胞培養培地としては、市販の培地または公知の培地を適宜使用可能である。本発明で用いたVB12を含まない培地を除き、通常の培地には、細胞の転写活性や核酸合成に必要な必須成分としてVB12が含まれる。本発明の実施例では、既存の培地の組成を維持しつつ、VB12の成分のみを含まないようにし、除去し、又は減少させた培地を用いた。
【0021】
特定の細胞株に適した培養培地の種類は、当業者であれば適宜選択することができる。例えば、動物細胞培養用の周知の培地または市販の培地として、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地、Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco's Modified Eagle Medium)、HamのF12培地、D-MEM/F-12 1:1 Mixture (Dulbecco's Modified Eagle Medium : Nutrient Mixture F-12)、RPMI1640、CHO-S-SFM II (Invitrogen社)、CHO-SF (Sigma-Aldrich社)、EX-CELL 301 (JRH biosciences社)、CD-CHO (Invitrogen社)、IS CHO-V (Irvine Scientific社)、PF-ACF-CHO (Sigma-Aldrich社)などの培地を使用することができるが、これらに限定されないことは当業者が当然に理解するものである。細胞増殖および抗体や組み換えタンパク質生産の収率向上に最適化された、多数の培地が当業者に周知である。
【0022】
例えば、実施例で使用した潜在型ミオスタチンに結合するヒト化抗体(IgG1抗体)を産生するCHO細胞株の培養のために使用できる培地の例としては、IMDM、DMEMもしくはHamのF12培地、またはその組み合わせが挙げられる。
【0023】
細胞培養
一般に、細胞培養法は、回分法(batch culture)、連続法(continuous culture)、流加培養法(fed-batch culture)に分類される。
【0024】
回分法は、培地に少量の種培養液を加え、培地中に新たに培地を加えたり又は培養液を排出したりせずに、細胞を増殖させる培養方法である。
【0025】
連続法は、培養中に連続的に培地を加え、かつ、連続的に排出させる培養方法である。なお、連続法には、灌流培養も含まれる。
【0026】
流加培養法は回分法と連続法の中間にあるため、半回分法(semi-batch culture)とも呼ばれ、培養中に連続的に又は遂次的に培地が加えられるが、連続法のような連続的な培養液の排出が行われない培養方法である。流加培養の際に加えられる培地(以下、流加培地という)は、既に培養に使用されている培地(以下、初発培地という)と同じ培地である必要はなく、異なる培地を添加してもよいし、特定の成分のみを添加してもよい。あるいは、流加培地は初発培地と同じ組成の培地であってもよい。
【0027】
本発明においては、回分法、連続法、流加培養法の何れの培養方法を用いてもよいが、好ましくは流加培養法が用いられる。
【0028】
通常、細胞を培養して所望のポリペプチドを製造するには、細胞を含んだ種培地を一定量初発培地に添加して、細胞を培養することにより行われる。さらに、所望のポリペプチドの産生量を増加させるために、培養中に流加培地を添加する。
【0029】
種培地とは、所望のポリペプチドを産生する細胞(ワーキングセルバンク)を、拡大培養して、最終的に所望のポリペプチドを産生させるための培地(初発培地)へ移すのに必要な細胞数を得るための培地のことをいう。また、初発培地とは、通常、細胞を培養して所望のポリペプチドを産生させるための培地であって、当該細胞の培養の最初の段階で使用される培地のことをいう。流加培地とは、通常、初発培養中の培地に添加される培地のことをいう。流加培地は、複数回に分けて添加される場合もある。また、流加培地は継続的に或いは断続的に添加される場合もある。
【0030】
本発明においては、種培地で細胞の継代培養を行い、その後、細胞を含んだ種培地を一定量初発培地に添加して、所望のポリペプチドを産生させるために初発培地中で培養を行う。さらに場合により、1回以上、培養中の培地に流加培地を加える。
【0031】
流加培養法は、流加のやり方によりさらに分類される。定速流加法は、一定量の流加培地を継続的に初発培地へ添加し続ける培養方法である。
【0032】
ポリペプチド、ポリペプチドを含む組成物、ポリペプチドを含む組成物の回収
本発明で用いるポリペプチドは、好ましくは、抗体のFcに相当する領域を含む、Fc含有ポリペプチドであり、さらに好ましくは抗体である。
【0033】
ポリペプチドを含む組成物(ポリペプチド含有組成物)は、ポリペプチドと他の成分とを含む組成物を意味する。本発明の実施例においては、ポリペプチド産生のための細胞培養工程により得られた培養物から、ポリペプチドを含む組成物を回収することができる。ここでいう「回収する」とは、細胞培養工程により得られた培養物ないし培養液から、ポリペプチドを含む上清液(培養上清液)を回収することまたはフィルターを使用しポリペプチドを含む濾液を回収することをいう。
【0034】
このようにして回収した溶液は、アフィニティカラムクロマトグラフィー等による精製、および濃縮の工程を経て、適当な濃度のポリペプチドを含む組成物に調整することができる。
【0035】
ポリペプチドがFc含有ポリペプチドまたは抗体である場合、ポリペプチドを含む組成物(ポリペプチド含有組成物)を、Fc含有ポリペプチドを含む組成物(Fc含有ポリペプチド含有組成物)または抗体を含む組成物(抗体含有組成物)と読み替えることができる。
【0036】
Fc領域(Fc)
Fc領域(または単にFcと呼ぶ)の用語は、天然配列Fc領域及び変異型Fc領域を含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化し得るが、抗体分子中の、ヒンジ部若しくはその一部、CH2、CH3ドメインからなる領域のことをいう。Fc領域は、抗体(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)、特にIgGのFc領域であれば限定されないが、好ましくはヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のFc領域であり、さらに好ましくはヒトIgG1のFc領域である。
【0037】
着色の抑制
本発明における着色を抑制したポリペプチドを含む組成物とは、VB12の吸着に起因する着色、具体的には赤色もしくはピンク色を低減したポリペプチドを含む組成物をいう。本発明の実施例では、ポリペプチド(抗体)の濃度を30mg/mL程度に調整したポリペプチド(抗体)含有組成物について、視覚評価により無色の評価を行い、着色が抑制されていることを確認した。また、着色を抑制したポリペプチド(抗体)を含む組成物は、実施例1の条件に従って定量したVB12とポリペプチドとのモル濃度比[%]が、0.26未満、好ましくは0.2未満、より好ましくは0.1未満、さらに好ましくは0.05未満である。
【0038】
抗体の確認、細胞培養培地の選択
本発明の一つの実施態様では、着色を生じやすい抗体を予め確認し、これに対して通常の培養工程とは異なる、着色の抑制に適した培養工程を選択する。この実施態様では、まず目的とするポリペプチドが、Fc領域におけるEUナンバリングによる214位、234位、238位、250位、264位、307位、311位、330位、343位、428位、434位、436位、438位及び440位のアミノ酸残基から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基に改変を含むポリペプチドであることを確認する工程を有する。「確認する」とは、必ずしも分析的手法によって当該ポリペプチドの具体的な改変位置を特定することだけでなく、予め目的とするポリペプチドに、当該改変が含まれることを認識していることを含む。
【0039】
次に、当該アミノ酸残基の改変を含むことが確認された抗体については、通常の培養工程とは異なる工程を選択する。すなわち、通常の培養工程では、VB12を必須成分として含む細胞培養培地(通常細胞培養培地)が用いられるが、当該抗体の培養工程においては、通常細胞培養培地にかえて、VB12を含まない細胞培養培地を用いる。ここで、VB12を含まない細胞培養培地は、通常細胞培養培地の組成からVB12のみを含まないようにし、他の組成は同一のものを用いることができる。
【0040】
このようにして選択した細胞培養培地により、当該ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を培養する工程、培養物からポリペプチドを含む組成物を回収する工程を経て、ポリペプチドを含む組成物が製造される。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例は、次の抗体、細胞、培地を用いて行った。
【0042】
抗体:
抗体Aとしては、配列番号:1のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域と、配列番号:2のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域とを含むIgG1ヒト化抗体であり、潜在型ミオスタチンへ結合する、抗ミオスタチン抗体を用いた。この抗体は、Fc領域におけるEUナンバリングによる214R、234Y、238D、250V、264I、307P、311R、330K、343R、428L、434A、436T、438R及び440Eの改変を含む。
抗体Bとしては、WO/2016/125495またはWO/2017/046994に記載のIL-8へ結合する、抗IL-8抗体を用いた。
抗体Cとしては、WO2019065795に記載のFIX(a)及びFXの双方に結合する、抗FIX(a)/FX二重特異性抗体を用いた。
【0043】
細胞:
CHO細胞は、CHO-DXB11由来株を用いた。
【0044】
培地:
初発培地、流加培地にはThermo Fisher Scientific社製、富士フィルム和光純薬社製の培地を用いた。本実施例では、VB12が含まれる初発培地(相対VB12濃度100%の初発培地)、VB12が完全に除かれ、かつVB12以外の組成は同一の初発培地(相対VB12濃度0%の初発培地)、これら2つの培地を1:1で混合した初発培地(相対VB12濃度50%の初発培地)を初発培地として準備した。また、VB12が含まれる流加培地(相対VB12濃度100%の流加培地)、およびVB12が完全に除かれ、かつVB12以外の組成は同一の流加培地(相対VB12濃度0%の流加培地)を流加培地として準備した。
【0045】
実施例1.VB12が抗体の着色に及ぼす影響の検討
抗体Aを産生する細胞を用いて、初発培地と流加培地を表1の通り組み合わせたサンプル1~9について、それぞれ1L~25Lの培養装置を用いて定速流加法により同一条件下で培養を行った。pH6.7~7.2の範囲、34℃~38℃の範囲で14日間の培養を行い、流加培地は培養開始後3日目に添加した。
【0046】
14日間培養後の培養液から抗体を含む組成物を回収し、Protein Aのアフィニティカラムクロマトグラフィーで精製した後、溶出液を濃縮し、サンプル1~8では抗体濃度約30mg/mL(26.7mg/mL~31.4mg/mL)となるよう調整した。サンプル9はさらに濃縮を進め、200mg/mL以上の抗体濃度とした。
【0047】
このようにして得られた抗体含有組成物の着色とVB12の含有量を評価した。着色は、視覚評価により行った。サンプル1、5、7では若干の着色(弱赤色)が観察された。また、サンプル9では着色(赤色)が観察された。一方、サンプル2~4、6~8については、着色は観察されなかった(無色)。
【0048】
抗体含有組成物中のVB12は、VB12、1分子あたりコバルトが1分子結合していることから、抗体含有組成物中に含まれるコバルトの濃度をICP-MS(Inductively Coupled Plasma-Mass spectrometry: 誘導結合プラズマ質量分析計)で測定してコバルトと抗体のモル濃度比(コバルト/抗体[%])を算出することにより、VB12の含有量(VB12と抗体のモル濃度比(VB12/抗体[%]))を見積もった。これらの結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実験結果から、抗体含有組成物に含まれるVB12が着色の原因であることが検証された。また、初発培地および流加培地に含まれるVB12を抑制することにより、培養後の抗体含有組成物に含まれるVB12を抑制できることを確認した。
【0051】
実施例2.培地中のVB12の細胞培養への影響の検討
実施例1と同じ条件で細胞培養を行うことにより、培地中のVB12の存在の有無が、生細胞数、細胞生存率、積算細胞数に及ぼす影響を観察した。この結果、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)による培養は、初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、各日の生細胞数、細胞生存率、積算細胞数がほぼ同等であることを確認した。(図1、2、3)
【0052】
抗体Bを産生する細胞または抗体Cを産生する細胞を用いて、初発培地と流加培地を表1-1のサンプル10(VB+)ならびにサンプル11(VB-)の条件で、それぞれ1Lの培養装置を用いて定速流加法により同一条件下で培養を行った。pH6.7~7.2の範囲、34℃~38℃の範囲で14日間の培養を行い、流加培地は培養開始後3日目に添加した。
【0053】
この条件下での細胞培養で培地中のVB12の存在の有無が生細胞数、細胞生存率、積算細胞数に及ぼす影響を観察した。この結果、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)による培養は、初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、各日の生細胞数、細胞生存率、積算細胞数がほぼ同等であることを確認した(図5、6、9、10、13、14)。
【0054】
抗体Bを産生する細胞または抗体Cを産生する細胞を用いて初発培地と流加培地を表1-1のサンプル10(VB+)ならびにサンプル12(VB-)の条件で、それぞれ1Lの培養装置を用いて定速流加法により同一条件下で培養を行った。pH6.7~7.2の範囲、34℃~38℃の範囲で14日間の培養を行い、流加培地は培養開始後3日目に添加した。
【0055】
この条件下での細胞培養で培地中のVB12の存在の有無が生細胞数、細胞生存率、積算細胞数に及ぼす影響を観察した。この結果、初発培地にはVB12を含まず流加培地にはVB12を含む培地(VB-)による培養は、初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、各日の生細胞数、細胞生存率、積算細胞数がほぼ同等であることを確認した(図7、8、11、12、15、16)
【0056】
【表1-1】
【0057】
実施例3.培地中のVB12の抗体産生量への影響の検討
実施例1と同じ条件で細胞培養を行うことにより、培地中のVB12の存在の有無が、抗体の産生量に及ぼす影響を観察した。この結果、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)による培養は、初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、14日間培養後の抗体の産生量がほぼ同等であることを確認した(表2:VB+をコントロール培養とした抗体産生量を100%として表示)。
【0058】
抗体Bを産生する細胞についても表1-1の各条件で培養し、培地中のVB12の存在の有無による抗体の産生量に及ぼす影響を観察した。この結果、サンプル11の条件である初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)並びにサンプル12の条件である初発培地にはVB12を含まず流加培地にはVB12を含む培地(VB-)による培養は、サンプル10の条件である初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、14日間培養後の抗体の産生量がほぼ同等であることを確認した(表2-1、2-2:VB+をコントロール培養とした抗体産生量を100%として表示)。
【0059】
【表2】
【0060】
【表2-1】
【0061】
【表2-2】
【0062】
抗体Cを産生する細胞についても表1-1の各条件で培養し、培地中のVB12の存在の有無による抗体の産生量に及ぼす影響を観察した。この結果、サンプル11の条件である初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)並びにサンプル12の条件である初発培地にはVB12を含まず流加培地にはVB12を含む培地(VB-)による培養は、サンプル10の条件である初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養と比べ、14日間培養後の抗体の産生量がほぼ同等であることを確認した(表2-3、2-4:VB+をコントロール培養とした抗体産生量を100%として表示)。
【0063】
【表2-3】
【0064】
【表2-4】
【0065】
実施例4.培地中のVB12の抗体物性への影響の検討
実施例1と同じ条件で細胞培養、アフィニティカラムクロマトグラフィー処理、および濃縮を行い、得られた組成物中の抗体を分析することにより、培地中のVB12の存在の有無が、抗体の物性に及ぼす影響を観察した。この結果、初発培地および流加培地にVB12を含まない培地(VB-)による培養で得られた抗体は、初発培地および流加培地にVB12を含む培地(VB+)による培養で得られた抗体と比べ、糖鎖修飾(Afcosyl, Fucosyl, Galactosyl, High mannose, Hybrid)、細胞由来タンパク質(HCP)、細胞由来DNA(DNA)、チャージバリアント体の割合(Acidic, Basic)、および重合体の割合(HMWs)がほぼ同等であることを確認した(表3:VB+をコントロール培養として得られた抗体の各物性を100%として表示)。
【0066】
【表3】
【0067】
実施例5.培地中のVB12の細胞継代への影響の検討
細胞継代培養の培地(Thermo Fisher Scientific社製)からVB12を除いた場合の影響を観測した。この結果、VB12を含まない培地(VB-)による継代培養は、VB12を含む培地(VB+)による継代培養と比較し、ほぼ同等な増殖挙動を示した。抗体Aを産生する細胞の継代培養を100日間(28回継代)(図4)、抗体Bを産生する細胞の継代培養を136日間(39回継代)(図17)、および抗体Cを産生する細胞の継代培養を24日間(7回継代)(図18)実施可能であることを確認した。
【0068】
実施例6.陽イオン交換クロマトグラフィーによるVB12の除去可能性の検討
VB12を含む初発培地及び流加培地を使用して実施例1と同じ条件で培養、アフィニティカラムクロマトグラフィー処理を行い、得られた抗体含有組成物について、Binding/Elute法である陽イオン交換クロマトグラフィー工程によりVB12を除去することができるか検討した。実施例1と同様に、コバルトの濃度をICP-MSで測定して、VB12の濃度の指標とした。
【0069】
この結果、CEX(陽イオン交換)カラムを通す前と、CEXから溶出した後で、コバルト/抗体[%]に変化は見られなかった(表4)。このことから、抗体含有組成物に含まれるVB12は、追加のクロマトグラフィー工程に供したとしても、除去できないことが確認された。
【0070】
【表4】
【0071】
実施例7.VB12が抗体の着色に及ぼす影響の追加検討
初発培地および流加培地にVB12を含む培地を用い、実施例1と同じ条件で培養、アフィニティカラムクロマトグラフィー処理、ポリッシング工程、濃縮を行って得られた抗体含有組成物(抗体濃度30mg/ml程度、有着色(弱赤色))について、VB12が抗体に吸着していることの追加検討を行った。
【0072】
抗体含有組成物へシアン化カリウムを0.1%となるように添加し(コントロールとしてシアン化カリウム添加なし条件も実施)、37℃、45分間保温した。これらのサンプルを5 KDカットオフフィルターに通し、抗体を除去した回収サンプルを逆相クロマトグラフィーにより分析した。この結果、シアン化カリウム非処理サンプル(KCN-)ではVB12(シアノコバラミン)のピークが検出されなかったのに対し、シアン化カリウム処理サンプル(KCN+)ではVB12(シアノコバラミン)を示すピークが認められた(図19、抗体A)。この結果から、シアン化カリウムの処理により、VB12が抗体から遊離されたことが確認され、VB12が抗体の着色に影響していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、ポリペプチドを含有する医薬品の製造に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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