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  • 特許-研磨スラリー及び研磨方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】研磨スラリー及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20250117BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20250117BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20250117BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550H
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022048276
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023141786
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537439(JP,A)
【文献】特開2020-079163(JP,A)
【文献】特開2017-160314(JP,A)
【文献】特開2003-213250(JP,A)
【文献】特開2003-206475(JP,A)
【文献】特開平08-259926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工液と、前記加工液に分散された無数の研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨するための研磨スラリーにおいて、
各前記研磨粒子は、平板状をなす無数の一次粒子と、各前記一次粒子を結合する結合材とからなる二次粒子を有し、
前記加工液は前記結合材を溶解せず、
各前記二次粒子は、BET比表面積が1.49m 2 /g以上、2.10m 2 /g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm 3 以上、0.95g/cm 3 以下であることを特徴とする研磨スラリー。
【請求項2】
前記加工液は水であり、
前記一次粒子はアルミナの板状結晶粒であり、
前記結合材は、二酸化珪素を含むガラス質である請求項1記載の研磨スラリー。
【請求項3】
前記被研磨物はSiウェハであり、
前記被研磨物のラップ加工に用いられる請求項1又は2記載の研磨スラリー。
【請求項4】
被研磨物と研磨体との間に研磨スラリーを介在させ、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨体とを相対移動させることにより、前記被研磨物を研磨する研磨方法において、
前記研磨スラリーは、加工液と、前記加工液に分散された無数の研磨粒子とを有し、
各前記研磨粒子は、平板状をなす無数の一次粒子と、各前記一次粒子を結合する結合材とからなる二次粒子を有し、
前記加工液は前記結合材を溶解せず、
各前記二次粒子は、BET比表面積が1.49m 2 /g以上、2.10m 2 /g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm 3 以上、0.95g/cm 3 以下であることを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨スラリー及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、被研磨物としてのSiウェハをラップ加工する場合、Siウェハと研磨パッドとの間に研磨スラリーを介在させ、所定の面圧の下でSiウェハと研磨体とを相対移動させることにより、Siウェハを研磨する(特許文献1)。この研磨スラリーの一例が特許文献2に開示されている。この研磨スラリーは、加工液と、加工液に分散された無数の研磨粒子とを有している。
【0003】
一般的な研磨スラリーでは、各研磨粒子は、シリカ、アルミナ等の粒状をなす一次粒子である。Siウェハをラップ加工で研磨する場合には、Siウェハのモース硬度が7であることから、各研磨粒子として、モース硬度が9のアルミナ又はシリコンカーバイドが用いられることが一般的である。加工液は、水等の分散媒と、添加剤とからなる。研磨スラリーが化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing(CMP))方法に用いられる場合には、添加剤として、硝酸第二鉄や過酸化水素水等の酸化剤等も用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-209987号公報
【文献】特開2001-40335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の研磨スラリーでは、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立が困難である。すなわち、高い研磨レートを求めて粒径の大きな研磨粒子を採用すれば、研磨後の被研磨物の表面粗さが大きくなってしまう。また、この場合、研磨後の被研磨物にスクラッチや加工変質層等のダメージも生じ易い。一方、研磨後の被研磨物の表面粗さを小さくするために粒径の小さな研磨粒子を採用すれば、研磨レートが低すぎ、加工に長時間を要してしまう。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立を行い易い研磨スラリーを提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立を行い易い研磨方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、従来の研磨スラリーにおいて、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立が困難である理由について鋭意検討した。発明者らは、まず、研磨スラリーによる被研磨物の研磨メカニズムについて検討した。被研磨物の研磨は、被研磨物と各研磨粒子との相対移動中、被研磨物から個々の研磨粒子に反力が作用し、各研磨粒子が各反力に対抗することによって進行すると考えられる。粒径の大きな研磨粒子は、反力に強く対抗し、つまり被研磨物に対して攻撃性が高く、高い研磨レートを実現できる。他方、粒径の大きな研磨粒子を用いると、研磨後の被研磨物の表面粗さが大きくなり易いとともに、被研磨物がスクラッチ等を生じ易い。一方、粒径の小さな研磨粒子は、反力に対抗し難く、つまり被研磨物に対して攻撃性が低く、低い研磨レートしか実現できない。他方、粒径の小さな研磨粒子を用いると、研磨後の被研磨物の表面粗さを小さくすることができる。
【0008】
従来の研磨スラリーにおいて、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立が困難である理由は、各研磨粒子が粒状をなす一次粒子であり、個々の割れ難い研磨粒子が表面によって被研磨物を研磨することにあると考えた。そこで、各研磨粒子が二次粒子を有することを指向した。二次粒子は、無数の一次粒子と、各一次粒子を結合する結合材とからなる。特に、一次粒子が平板状をなしていることが好ましいと考えた。こうして得た研磨スラリーを用いて被研磨物を研磨する試験を行ったところ、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとの両立が得られることが実証された。これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0009】
本発明の研磨スラリーは、加工液と、前記加工液に分散された無数の研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨するための研磨スラリーにおいて、
各前記研磨粒子は、平板状をなす無数の一次粒子と、各前記一次粒子を結合する結合材とからなる二次粒子を有し、
前記加工液は前記結合材を溶解せず、
各前記二次粒子は、BET比表面積が1.49m 2 /g以上、2.10m 2 /g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm 3 以上、0.95g/cm 3 以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の研磨スラリーでは、各一次粒子が結合した粒径の大きな二次粒子において、一次粒子が対抗する反力よりも大きな反力に対抗し、つまり適度な攻撃性を発揮し、高い研磨レートを実現できると推察される。この際、各一次粒子は平板状をなしているため、各一次粒子の縁部が切れ刃となる。また、各一次粒子は平板状をなしているため、大きな反力では割れ、反力に強く対抗しない。このため、作用点に作用する局所的な圧力を低減させつつ、一次粒子の結合によって切れ刃が作用する頻度が高く、良好な研磨性を発揮すると推察される。
【0011】
そして、二次粒子に対し、二次粒子が対抗できない大きな反力が作用すると、結合が解かれ、一次粒子を生じる。加工液は結合材を溶解しないため、二次粒子は反力以外の力によっては解かれない。このため、研磨後の被研磨物の表面粗さを小さくすることができる。また、被研磨物がスクラッチ等を生じ難い。
【0012】
したがって、本発明の研磨スラリーによれば、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとを両立することができる。
【0013】
本発明の研磨方法は、被研磨物と研磨体との間に研磨スラリーを介在させ、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨体とを相対移動させることにより、前記被研磨物を研磨する研磨方法において、
前記研磨スラリーは、加工液と、前記加工液に分散された無数の研磨粒子とを有し、
各前記研磨粒子は、平板状をなす無数の一次粒子と、各前記一次粒子を結合する結合材とからなる二次粒子を有し、
前記加工液は前記結合材を溶解せず、
各前記二次粒子は、BET比表面積が1.49m 2 /g以上、2.10m 2 /g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm 3 以上、0.95g/cm 3 以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の研磨方法では、本発明の研磨スラリーを用いているため、高い研磨レートと、研磨後の被研磨物における小さな表面粗さとを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例3で用いた研磨粒子の1000倍のSEM写真である。
図2図2は、実施例1~4で用いた研磨粒子の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
加工液としては、被研磨物に応じ、分散媒と、添加剤とを採用することができる。分散媒としては、水の他、油、アルコール等を採用することができる。添加剤としては、分散剤、界面活性剤、酸化剤、塩化剤等を採用することができる。
【0017】
本発明に係る研磨粒子は二次粒子を有している。二次粒子は、一次粒子と、各一次粒子を結合する結合材とからなる。一次粒子は、無機物であっても、有機物であっても、無機成分と有機成分とのハイブリッドであってもよい。無機物としては、シリカ、アルミナ、シリコンカーバイド、ジルコニア、セリア、CBN、ダイヤモンド、ガラス等を採用することができる。有機物としては、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリル等を採用することができる。無機成分と有機成分とのハイブリッドとしては、これら無機物の成分と有機物の成分とが任意で結合した粒子を採用することができる。本発明に係る研磨粒子は、二次粒子だけであってもよく、一次粒子を含んでいてもよい。
【0018】
本発明に係る一次粒子は平板状をなしている。平板状の一次粒子としては、アルミナの板状結晶粒等を採用することができる。また、薄板状に固化したガラスを粉砕したものを採用することもできる。
【0019】
加工液は結合材を溶解しないものとして選択される。加工液が水性、油性、アルコール質である場合には、結合材として、二酸化珪素を含むガラス質、金属等を採用することができる。加工液が水性である場合には、結合材として、樹脂等を採用することもできる。発明者らは、加工液が水であり、一次粒子はアルミナの板状結晶粒であり、結合材が二酸化珪素を含むガラス質である場合について効果を確認している。
【0020】
発明者らの試験結果によれば、各二次粒子は、BET比表面積が1.49m2/g以上、2.10m2/g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm3以上、0.95g/cm3以下であるであることが好ましい。この場合、研磨レートが十分高く、研磨後の被研磨物の表面粗さが十分小さい。
【0021】
発明者らの試験結果によれば、被研磨物がSiウェハの場合、研磨スラリーを被研磨物のラップ加工に用いることで実用可能である。
【0022】
「試験」
以下の加工液及び研磨粒子を準備した。
(加工液)
分散媒:水
(研磨粒子)
実施例1:二次粒子(結合材は二酸化珪素を含むガラス質、BET比表面積は1.49m2/g、かさ密度は0.76g/cm3
実施例2:二次粒子(結合材は二酸化珪素を含むガラス質、BET比表面積は1.64m2/g、かさ密度は0.95g/cm3
実施例3:二次粒子(結合材は二酸化珪素を含むガラス質、BET比表面積は1.84m2/g、かさ密度は0.70g/cm3
実施例4:二次粒子(結合材は二酸化珪素を含むガラス質、BET比表面積は2.10m2/g、かさ密度は0.79g/cm3
比較例1:一次粒子(平均粒径30μm、BET比表面積は0.22m2/g、かさ密度は1.76g/cm3
比較例2:一次粒子(平均粒径3μm、BET比表面積は1.82m2/g、かさ密度は1.30g/cm3
比較例3:二次粒子(結合材は二酸化珪素を含むガラス質、BET比表面積は1.19m2/g、かさ密度は0.50g/cm3
実施例1~4及び比較例3の二次粒子を構成する一次粒子はアルミナの板状結晶粒であり、比較例1、2の一次粒子はアルミナの粒状結晶粒である。各研磨粒子のBET比表面積及びかさ密度を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例3で用いた研磨粒子の1000倍のSEM写真を図1に示す。また、実施例1~4及び比較例3で用いた研磨粒子の拡大模式図を図2に示す。図2に示すように、実施例1~4及び比較例3で用いた研磨粒子1は、平板状をなす無数の一次粒子3が結合した二次粒子である。この二次粒子は、一次粒子3と、各一次粒子3を結合する結合材5とからなる。結合材5は、ガラス質であり、水に溶解しない。
【0025】
加工液としての水に10質量%の研磨粒子を混合し、実施例1~4及び比較例1~3の研磨スラリーを準備した。
【0026】
実施例1~4及び比較例1~3の研磨スラリーを用い、以下の加工試験条件でSiウェハを研磨加工して、研磨レート(μm/分)及び表面粗さ(Sa)(nm)を調べた。
【0027】
<試験条件>
試験機:ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)
ワーク(被研磨物):Siベアウェハ(4インチ)
加工圧:20kPa
定盤/ワーク回転数:60/60rpm
ラップ盤寸法:直径30cm
研磨スラリーの供給量:10mL/分
定盤に固定した研磨体:ポリウレタン系パッド
加工時間:30分間
【0028】
研磨レートは、0.3μm/分以上を〇とし、0.2μm/分以上、0.3μm/分未満を△とし、0.2μm/分未満を×として評価した。表面粗さは、白色干渉顕微鏡(200μm角視野のSa)にて、65nm以下を〇とし、65nm超、110nm以上を△とし、110超を×として評価した。また、加工中の研磨スラリーにおいて、研磨粒子の分散状態を目視で判断した。各研磨粒子が沈降して塊になっておれば×、各研磨粒子が沈降せずに分散しておれば〇として評価した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2から、実施例1~4の研磨スラリーによれば、高い研磨レートと、研磨後のSiウェハにおける小さな表面粗さとを両立できることがわかる。換言すれば、実施例1~4の研磨スラリーを用いてSiウェハを研磨すれば、高い研磨レートと、研磨後のSiウェハにおける小さな表面粗さとの両立を行い易い。実施例1~4の研磨スラリー中の研磨粒子は、BET比表面積が1.49m2/g以上、2.10m2/g以下であり、かつ、かさ密度が0.70g/cm3以上、0.95g/cm3以下であることから、BET比表面積とかさ密度とがこれらの範囲であれば、研磨レートが十分高く、研磨後の被研磨物の表面粗さが十分小さいこともわかる。特に、実施例3、4の研磨スラリーによれば、研磨レートが十分高く、研磨後のSiウェハの表面粗さが十分小さい。
【0031】
また、実施例1~4の研磨スラリーでは、比較例1、2の研磨スラリーに比べ、研磨粒子が加工液内で長期間に亘って分散しており、研磨粒子が沈降し難いことがわかる。このため、実施例1~4の研磨スラリーは、分散剤を過度に加える必要がなく、研磨後の研磨スラリーの処理が容易になり、製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷も小さくすることが可能である。
【0032】
以上において、本発明を実施例1~4に即して説明したが、本発明は上記実施例1~4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は半導体デバイスの製造方法、製造装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…研磨粒子
3…一次粒子
5…結合材
図1
図2