(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20250117BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20250117BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20250117BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20250117BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20250117BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/857
H10N10/852
H10N10/856
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2022510043
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011112
(87)【国際公開番号】W WO2021193358
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020058852
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168837(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/124882(WO,A1)
【文献】特開2001-326394(JP,A)
【文献】特開2003-174203(JP,A)
【文献】特開2009-141079(JP,A)
【文献】特開2012-227271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/857
H10N 10/852
H10N 10/856
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、及び熱電半導体組成物からなる熱電素子層を含む熱電変換モジュールであって、前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料、耐熱性樹脂A、並びに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含み、
前記基材が絶縁体からなり、
前記基材が可撓性を有し、
前記基材の熱伝導率が0.5W/m・K以上であり、
前記基材の厚さが5~150μmであり、
前記基材がガラス布及び耐熱性樹脂Bを含み、
前記基材の熱抵抗が0.35K/W以下である、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記ガラス布がガラス織布である、請求項
1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂Bが、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はポリイミド樹脂である、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記熱電変換モジュールが、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される、請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記π型熱電変換素子、又は前記インプレーン型熱電変換素子の構成が冷却に用いられる、請求項
4に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビル、工場等で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の排熱エネルギーを熱源として回収する有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換材料を用い、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換するようにした熱電変換モジュールがある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるπ型の熱電変換素子の構成が知られている。π型は、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電材料の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。また、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子の構成が知られている。インプレーン型は、P型熱電素子とN型熱電素子とが基板の面内方向に交互に設けられ、例えば、両熱電素子間の接合部の下部を電極を介在し直列に接続することで構成されている。
近年、熱電変換モジュールの屈曲性向上、小型化及び薄型化の観点を含め、熱電性能のさらなる向上にかかる要求がある。これらの要求の中で、熱電変換モジュールに用いる支持体の基材として、樹脂材料が用いられている。(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/104615号
【文献】特開2008-182160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の熱電変換モジュールに用いる支持体としてのポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム等の樹脂基板、また、特許文献2のフレキシブル熱電変換素子を構成するフレキシブル基板に用いる基層としてのポリイミド系樹脂、ポリサルホン系樹脂等の絶縁性樹脂基板では、耐熱性、屈曲性は有するものの、そもそも樹脂由来の材料物性の観点から熱伝導率が低く、例えば、厚さを熱電変換モジュールの機械的強度限界まで薄くしても熱抵抗を十分抑制できす、さらなる熱電性能の向上の妨げとなっている。
【0005】
本発明は、上記を鑑み、熱電性能がさらに向上した熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換モジュールを構成する熱電変換素子の支持体である基材(以下、「基板」ということがある。)として、特定の熱抵抗を有する基材を用いることにより、熱電性能がさらに向上した熱電変換モジュールを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(10)を提供するものである。
(1)基材、及び熱電半導体組成物からなる熱電素子層を含む熱電変換モジュールであって、前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料、耐熱性樹脂A、並びに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含み、前記基材の熱抵抗が0.35K/W以下である、熱電変換モジュール。
(2)前記基材が絶縁体からなる、上記(1)に記載の熱電変換モジュール。
(3)前記基材が可撓性を有する、上記(1)又は(2)に記載の熱電変換モジュール。
(4)前記基材の熱伝導率が0.5W/m・K以上である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(5)前記基材の厚さが5~150μmである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(6)前記基材がガラス布及び耐熱性樹脂Bを含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(7)前記ガラス布がガラス織布である、上記(6)に記載の熱電変換モジュール。
(8)前記耐熱性樹脂Bが、エポキシ樹脂、又はポリイミド樹脂である、上記(6)に記載の熱電変換モジュール。
(9)前記熱電変換モジュールが、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される、上記(1)~(8)のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
(10)前記π型熱電変換素子、又は前記インプレーン型熱電変換素子の構成が冷却に用いられる上記(9)に記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱電性能がさらに向上した熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に用いた基材を有する熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図である。
【
図2】本発明に用いた基材を有する熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面構成図である。
【
図3】本発明の実施例で作製した熱電変換モジュールの冷却特性評価ユニットを説明するための断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱電変換モジュール]
本発明の熱電変換モジュールは、基材、及び熱電半導体組成物からなる熱電素子層を含む熱電変換モジュールであって、前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料、耐熱性樹脂A、並びに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含み、前記基材の熱抵抗が0.35K/W以下であることを特徴とする。
本発明の熱電変換モジュールでは、熱電変換モジュールを構成する熱電変換素子の、例えば支持体としての、基材の熱抵抗を0.35K/W以下にすることにより、熱電変換モジュールの両面間に、より大きな温度差を発現させることができる。
なお、本明細書でいう基材の熱抵抗とは、熱伝導による熱抵抗であり、物質の熱伝導率をλ[基材の熱伝導率](W/m・k)、熱伝導の熱流路の長さをL[基材の厚さ](m)、熱伝導の熱流路断面積をAc[基材の厚さ方向と垂直に交差して得られる断面の面積](m2)とした時に、熱抵抗Rcは、Rc=L/λAc(K/W)として表される。
本明細書における基材の熱抵抗の評価にあっては、同一の熱流路断面積Acを有する基材同士で行うため、熱抵抗は、実質、基材の熱伝導率と基材の厚さに依存するものとしている。
【0010】
図1は、本発明に用いた基材を有する熱電変換モジュールの構成の一例を説明するための断面構成図である。熱電変換モジュール1は、いわゆるπ型の熱電変換素子として構成され、第1の基材2a及び対向する第2の基材2bと、前記第1の基材2a及び対向する前記第2の基材2bとの間に形成されるP型熱電素子層4、N型熱電素子層5と、前記第1の基材2a上に形成される第1の電極3a、対向する前記第2の基材2b上に形成される第2の電極3bとを配置したものである。
同様に
図2は、本発明に用いた基材を有する熱電変換モジュールの構成の他の一例を説明するための断面図である。熱電変換モジュール11は、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子として構成され、第1の基材12a及び対向する第2の基材12bと、前記第1の基材12a及び対向する前記第2の基材12bとの間に形成されるP型熱電素子層14、N型熱電素子層15と、前記第1の基材12a上に形成される第1の電極13とを配置したものである。
【0011】
<基材>
本発明の熱電変換モジュールは、基材を含む。前述したように、例えば、π型の熱電変換素子として構成される場合、第1の電極を有する第1の基材に対向した、第2の電極を有する第2の基材を含むことが好ましい。また、インプレーン型の熱電変換素子として構成される場合、第1の電極を有する第1の基材に対向した第2の基材は、基材を含んでいても含んでいなくてもよい。さらに、前記第1の基材と該第1の基材に対向した前記第2の基材は同じであっても、異なっていてもよく、複数使用してもよい。
【0012】
本発明に用いる基材の熱抵抗は0.35K/W以下である。熱抵抗が0.35K/W超であると、基材における放熱性が低下し、熱電性能の低下につながる。熱抵抗は0.30K/W以下であることが好ましく、0.20K/W以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.15K/W以下である。熱抵抗がこの範囲であると、基材における放熱性が高まり、熱電性能の向上につながる。
なお、基材は、その表面に熱電素子層、電極等を形成及び支持ができれば、特に制限はないが、通常、表裏面とも平面であることが好ましく、形状としては、用途によって、適宜選択されるが、直方体状、楕円柱状又は円柱状等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いる基材の熱伝導率は0.5W/m・K以上であることが好ましく、1.5W/m・K以上であることがより好ましく、さらに好ましくは2.5~30.0W/m・Kであり、特に好ましくは3.0~20.0W/m・Kである。熱伝導率がこの範囲であると、熱抵抗の値を本発明の規定の範囲に調整しやすくなるとともに、熱電性能の向上につながる。
【0014】
本発明に用いる基材は、絶縁体からなることが好ましい。基材が絶縁体であることにより、熱電素子層、電極等への電気的な作用が抑制され、熱電性能の低下を防止できる。
本明細書において、絶縁体とは、体積抵抗率が108Ω・m以上を有するものをいう。
【0015】
基材の厚さは、5~150μmであることが好ましく、8~120μmであることがより好ましく、さらに好ましくは10~100μm、特に好ましくは10~70μmである。基材の厚さがこの範囲であると、熱電素子層等に対して支持体としての機械強度が得られるとともに、熱電性能の低下が抑制でき、熱電性能の向上につながる。
【0016】
本発明に用いる基材は、可撓性かつ耐熱性を得る観点から、ガラス布、耐熱性樹脂Bを含むことが好ましい。
【0017】
ガラス布としては、ガラス織布(ガラスクロス)、ガラス不織布等が挙げられる。ガラス織布と不織布とは併用してもよい。
この中で、熱伝導性を向上させる観点からガラス織布がより好ましい。
【0018】
ガラス織布は、ガラス繊維の集合体であり、ガラス繊維を束ねたヤーンを織り込んだものである。織り方としては、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等により織り込まれたものが挙げられる。これらの中で、熱伝導性の観点から、平織りが好ましい。
ガラス織布を構成するガラス材料としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Tガラス、Dガラス、NEガラス、クオーツ、低誘電率ガラス、高誘電率ガラス等が挙げられる。これらの中で、熱伝導性、電気絶縁性の観点から、好ましくは、Eガラスである。
【0019】
耐熱性樹脂Bとしては、特に制限はなく、結晶性又は液晶性を有するエポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性や汎用性の観点からエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂が好ましい。さらに好ましくは、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は限定するものではないが、ビスフェノール型、ノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、四官能型等が挙げられる。
【0020】
基材には、さらに無機充填材を含んでもよい。機械的強度、熱伝導率の制御等の観点から、無機充填剤として、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム及びシリカ等の酸化物、水酸化マグネシウム等の水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物、炭化ケイ素および炭化ホウ素などの炭化物等が挙げられ、適宜使用することができる。
【0021】
本発明の熱抵抗の規定を満たす市販の基材として、銅箔を貼付した高熱伝導性基板(利昌工業社製、製品名:CS‐3295)等が挙げられる。高熱伝導性基板単体としては、ガラス織布とエポキシ樹脂で構成されており、その熱伝導率は3.0W/m・Kであり、高い値を有している。
【0022】
基材の製造は、特に制限されないが、例えば、前記エポキシ樹脂等の高熱伝導性樹脂を前記ガラス織布に含浸、予備乾燥して得たプリプレグを、所定の寸法に切断した後、所定の枚数重ね、銅張り積層板の場合は、その外側に銅箔を置き、所定の条件で加熱加圧して成形一体化することにより製造することができる。
【0023】
基材は、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が250℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0024】
<熱電素子層>
本発明に用いる熱電素子層は、熱電半導体材料、耐熱性樹脂A、並びに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む熱電半導体組成物からなる。
【0025】
(熱電半導体材料)
熱電素子層に用いる熱電半導体材料は、例えば、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕し、熱電半導体粒子として使用することが好ましい(以下、熱電半導体材料を「熱電半導体粒子」ということがある。)。
【0026】
本発明に用いる熱電素子層において、P型熱電素子層及びN型熱電素子層を構成する熱電半導体材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0027】
これらの中でも、本発明に用いる前記熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:Bi2Te3)であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0028】
熱電半導体粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0029】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0030】
また、熱電半導体粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0031】
(耐熱性樹脂A)
本発明に用いる耐熱性樹脂Aは、熱電半導体粒子間のバインダーとして働き、熱電素子層の屈曲性を高めるためのものである。該耐熱性樹脂Aは、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂Aを用いる。
前記耐熱性樹脂Aとしては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。前記耐熱性樹脂Aは、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂Aとしては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0032】
前記耐熱性樹脂Aは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子層の屈曲性を維持することができる。
【0033】
また、前記耐熱性樹脂Aは、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電素子層の屈曲性を維持することができる。
【0034】
前記耐熱性樹脂Aの前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。前記耐熱性樹脂Aの配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0035】
(イオン液体)
熱電半導体組成物に含まれ得るイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50℃以上400℃未満のいずれかの温度領域において液体で存在し得る塩をいう。換言すれば、イオン液体は、融点が-50℃以上400℃未満の範囲にあるイオン性化合物である。イオン液体の融点は、好ましくは-25℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下である。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体材料間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂Aとの相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0036】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n
-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0037】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体材料及び樹脂との相溶性、熱電半導体材料間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0038】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0039】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0040】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましい。イオン伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体材料間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0041】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0042】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0043】
イオン液体の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0044】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0045】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0046】
熱電素子層の厚さは、特に限定されるものではなく、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは300nm~600μm、さらに好ましくは5~400μmである。
【0047】
熱電半導体組成物からなる薄膜としてのP型熱電素子層及びN型熱電素子層は、さらにアニール処理(以下、「アニール処理B」ということがある。)を行うことが好ましい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いる樹脂及びイオン性化合物の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われる。
【0048】
<電極>
本発明の熱電変換モジュールは、第1の電極を含むことが好ましい。π型の熱電変換素子として構成される場合、さらに第1の電極を有する第1の基材に対向した第2の基材に第2の電極を含むことが好ましい。前記第1の電極と、前記第1の基材に対向した前記第2の基材の前記第2の電極とは同じであっても、異なっていてもよい。また、インプレーン型の熱電変換素子として構成される場合は、第1の電極があれば第2の電極はあってもなくてもよい。
第1の電極及び第2の電極に用いる金属材料としては、特に制限されないが、それぞれ独立に、銅、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金が好ましい。また、単層のみならず、複数組み合わせて多層構成としてもよい。
前記第1の電極及び第2の電極の層の厚さは、それぞれ独立に、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。第1の電極及び第2の電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、かつ電極として十分な強度が得られる。
【0049】
第1の電極及び第2の電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。第1の電極及び第2の電極を形成する方法としては、基材上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
熱電性能の観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、めっき法や真空成膜法で成膜した電極を用いることが好ましい。高い導電性、高い熱伝導性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介在し、容易にパターンを形成することもできる。
【0050】
本発明の熱電変換モジュールは、特に制限はないが、好ましくはπ型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子で構成される。また、一態様として、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子の構成で冷却用途に用いることが好ましい。さらに、他の態様として、π型熱電変換素子、又はインプレーン型熱電変換素子の構成で発電用途に用いることが好ましい。
【0051】
(熱電変換モジュールの製造方法)
本発明の熱電変換モジュールは、基材上に、電極を形成する工程(以下、「電極形成工程」ということがある。)、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥し、熱電素子層を形成する工程(以下、「熱電素子層形成工程」ということがある。)、次いで、該熱電素子層をアニール処理する工程(以下、「アニール処理工程」ということがある。)、さらにアニール処理した基材を他の基材と貼り合わせる工程(以下、「貼り合わせ工程」ということがある。)、を含む方法により製造することができる。
以下、本発明の熱電変換モジュールの製造方法に含まれる工程について、順次説明する。
【0052】
(電極形成工程)
電極形成工程は、例えば、第1の基材上に、前述した金属材料からなるパターンを形成する工程であり、基材上に形成する方法、及びパターンの形成方法については、前述したとおりである。また、特に、前述したπ型の熱電変換モジュール等を製造する場合は、前記第1の基材上に対向する第2の基材上に、前述した金属材料からなるパターンを形成する工程を含む。
【0053】
(熱電素子層形成工程)
熱電素子層形成工程は、熱電半導体組成物を、例えば、電極上に塗布する工程である。熱電半導体組成物を、第1の基材上の電極上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷法、スロットダイコート法等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、熱電素子層が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
なお、熱電半導体組成物を、第2の基材上の電極上に塗布する場合も同様である。
【0054】
熱電素子層形成工程の他の例として、事前に熱電素子層を熱電変換材料のチップとして作製し、得られた複数のチップを、基材上の所定の電極上に載置し、接合する方法が挙げられる。
熱電変換材料のチップの製造方法として、例えば、以下の方法により、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップを製造することができる。
まず、ガラス、アルミナ、シリコン等の基板上に犠牲層を形成し、得られた犠牲層上に前述した方法で熱電素子層(以下、「熱電変換材料のチップ」ということがある。)を形成する。次いで、得られた熱電変換材料のチップをアニール処理(アニール処理Bの条件に準じる)し、基板上の犠牲層から、熱電変換材料のチップを剥離することにより、個片として、熱電変換材料のチップを製造する。
犠牲層として、ポリメタクリル酸メチルもしくはポリスチレン等の樹脂、又は,フッ素系離型剤もしくはシリコーン系離型剤等の離型剤、が用いられる。
【0055】
(アニール処理工程)
アニール処理工程は、例えば、上記で得られた第1の基材、電極及び熱電素子層をこの順に有する形態で、熱電素子層をアニール処理する工程である。アニール処理は上述したアニール処理Bで行われる。
【0056】
(貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、例えば、前記アニール処理工程で得られた電極及び熱電素子層を有する第1の基材を、対向する前記第2の基材、又は第2の電極を有する第2の基材と貼り合わせ、熱電変換モジュールを作製する工程である。
前記貼り合わせに用いる貼り合わせ剤としては、第2の電極を有する第2の基材の場合は、導電ペースト等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられ、バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
また、第2の電極を有さない第2の基材の場合は、樹脂材料を使用することができる。樹脂材料としては、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はアクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。さらに、前記樹脂材料は粘接着性、低水蒸気透過率性や、絶縁性を有していることが好ましい。本明細書において、粘接着性を有するとは、樹脂材料が、粘着性、接着性、貼り付ける初期において感圧により接着可能な感圧性の粘着性を有することを意味する。
貼り合わせ剤を基材上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0057】
貼り合わせ工程において、電極との接合にハンダ材料層を用いる場合、接合強度を向上させるために、ハンダ受理層を用いることができる。
例えば、前述した製造方法で得られた熱電変換材料のチップにハンダ受理層を形成する方法は以下のようである。
上面、下面及び側面を有する、熱電変換材料のチップのすべての面にハンダ受理層を形成した後、得られたハンダ受理層のうち、熱電変換材料のチップの側面に形成されたハンダ受理層を全部除去する、又は、一部を除去することにより、ハンダ受理層が形成される。
ハンダ受理層は、金属材料を含むことが好ましい。金属材料は、金、銀、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、錫、ニッケル及びこれらのいずれかの金属材料を含む合金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この中で、より好ましくは、金、銀、ニッケル又は、錫及び金、ニッケル及び金の2層構成であり、材料コスト、高熱伝導性、接合安定性の観点から、銀がさらに好ましい。
ハンダ受理層には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められ、かつ熱電変換材料のチップとの界面での接触抵抗を小さくできる観点から、メッキ法、又は真空成膜法で成膜したハンダ受理層を用いることが好ましい。
前記ハンダ材料層を構成するハンダ材料としては、樹脂フィルム、熱電変換材料のチップに含まれる耐熱性樹脂Aの耐熱温度等、また、導電性、熱伝導性とを考慮し、適宜選択すればよく、Sn、Sn/Pb合金、Sn/Ag合金、Sn/Cu合金、Sn/Sb合金、Sn/In合金、Sn/Zn合金、Sn/In/Bi合金、Sn/In/Bi/Zn合金、Sn/Bi/Pb/Cd合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Bi/Cd合金、Bi/Pb合金、Sn/Bi/Zn合金、Sn/Bi合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Pb/Cd合金、Sn/Cd合金等の既知の材料が挙げられる。鉛フリー及び/またはカドミウムフリー、融点、導電性、熱伝導性の観点から、43Sn/57Bi合金、42Sn/58Bi合金、40Sn/56Bi/4Zn合金、48Sn/52In合金、39.8Sn/52In/7Bi/1.2Zn合金のような合金が好ましい。
ハンダ材料を基材の電極上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0058】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法によれば、屈曲性を有する熱電性能が向上した熱電変換モジュールを容易に得ることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0060】
実施例、比較例で用いた基材の評価及び作製した熱電変換モジュールの熱電性能の評価は、以下の方法で行った。
【0061】
<基材評価>
(a)基材の熱伝導率、熱抵抗
基材の熱伝導率を、熱伝導率測定装置(アドバンス理工社製、定常法熱伝導率測定装置GH-1)を用い、ASTM E1530に従い、円板熱流計法により、23℃で測定した。得られた基材の熱伝導率λ(W/m・K)、並びに基材の厚さL(m)及び基材の断面積(熱伝導の熱流路断面積)Ac(m2)から、熱抵抗Rc[=L/λAc(K/W)]を算出した。
【0062】
<熱電性能評価>
(b)熱電変換モジュールの電気抵抗評価
得られた熱電変換モジュールの取り出し電極間の電気抵抗(モジュール抵抗)を、低抵抗測定装置(日置電機社製、型名:RM3545)を用いて、25℃×50%RHの環境下で測定した。
(c)熱電変換モジュールの冷却特性評価
冷却特性評価ユニットを用い、得られた熱電変換モジュールの冷却特性評価を行った。
図3は、実施例で用いた、熱電変換モジュールの冷却特性評価ユニットを説明するための断面構成図である。
冷却特性評価ユニット21は、熱電変換モジュール22の両面にK熱電対を挿入した測温板23及び24と温度コントローラー25及び26から構成され、真空下(真空度:0.1Pa以下)におくことで断熱化し、熱電変換モジュールの吸熱面27及び放熱面28の温度が85℃になるように温度コントローラー25及び26により調整した。その後、熱電変換モジュール22に電流を印加し、吸熱面27及び放熱面28の温度差を測定した。なお、電流印加時に、吸熱面27側の温度が85℃を維持するよう温度コントローラーで制御した。
【0063】
(実施例1)
(1)熱電半導体組成物の作製
(熱電半導体粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス囲気下で粉砕することで、平均粒径2.0μmの熱電半導体粒子T1を作製した。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBi2Te3(高純度化学研究所製、粒径:90μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径2.8μmの熱電半導体粒子T2を作製した。
粉砕して得られた熱電半導体粒子T1及びT2に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行った。
(熱電半導体組成物の塗工液の調製)
塗工液(P)
上記で得られたP型ビスマステルライドBi0.4Te3.0Sb1.6の粒子T1を72.0質量部、耐熱性樹脂Aとしてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、コンポラセンAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:19質量%)15.5質量部、及びイオン液体としてN-ブチルピリジニウムブロミド12.5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
塗工液(N)
得られたN型ビスマステルライドBi2Te3の粒子T2を78.9質量部、耐熱性樹脂Aとしてポリアミドイミド(荒川化学工業社製、コンポラセンAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:19質量%)17.0質量部、及びイオン液体としてN-ブチルピリジニウムブロミド4.1質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。
(2)熱電変換材料の薄膜の形成
厚さ0.7mmのガラス基板(河村久蔵商店社製、商品名:青板ガラス)上に犠牲層として、ポリメチルメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)(シグマアルドリッチ社製、商品名:ポリメタクリル酸メチル)をトルエンに溶解した、固形分濃度10質量%のポリメチルメタクリル酸メチル樹脂溶液をスピンコート法により、乾燥後の厚さが3.0μmとなるように成膜した。
次いで、メタルマスクを介在して、犠牲層上に上記(1)で調製した塗工液(P)を、スクリーン印刷法により塗布し、温度125℃で、15分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが270μmの薄膜を形成した。次いで、得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、450℃で1時間保持し、前記薄膜をアニール処理し、熱電半導体材料の粒子を結晶成長させ、P型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6を含む、上下面がそれぞれ1.65mm×1.65mmで厚さが200μmの直方体状のP型熱電変換材料のチップを得た。
また、上記(1)で調製した塗工液(N)に変更し、125℃で7分間アルゴン雰囲気下で乾燥した以外は同様に、N型ビスマステルライドBi2Te3を含む、上下面がそれぞれ1.65mm×1.65mmで厚さが250μmの直方体状のN型熱電変換材料のチップを得た。
【0064】
(3)ハンダ受理層の形成
アニール処理後のP型及びN型熱電変換材料のチップをガラス基板上から剥離し、無電解メッキ法によって、P型及びN型熱電変換材料のチップのすべての面にハンダ受理層[Ni(厚さ:2μm)にAu(厚さ:30nm)を積層]を設けた。
次いで、チップが1.5mm×1.5mmの寸法となるように、P型及びN型熱電変換材料のチップの側面のハンダ受理層を機械研磨法、すなわち、サンドペーパー(番手2000)を用いて除去し、上下面のみにハンダ受理層を有するP型及びN型熱電変換材料のチップを得た。なお、ハンダ受理層を完全に除去するために側面の壁の一部も含め研磨した。
【0065】
<熱電変換モジュールの作製>
得られた上下面のみにハンダ受理層を有するP型及びN型熱電変換材料のチップを用い、P型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれ18対からなるπ型の熱電変換素子を以下のように作製した。
まず、両面に銅箔を貼付した高熱伝導性基板(利昌工業社製、製品名:CS‐3295;10mm×20mm、厚さ:60μm;銅箔、厚さ:35μm)を準備し、該高熱伝導性基板の銅箔上に、無電解めっきにより、ニッケル層(厚さ:3μm)及び金層(厚さ:40nm)をこの順に積層し、次いで片面にのみ電極パターン(1.5×3.2mm、隣接する電極間距離:0.2mm、6列×3行)を形成し、電極を有する基板を作製した(下部電極基板)。その後、該電極上に、ハンダ材料としてソルダペースト42Sn/57Bi/Ag合金(日本ハンダ社製、品名:PF141-LT7H0)を用いハンダ材料層をステンシル印刷(加熱前厚さ:50μm)した。
次いで、ハンダ材料層上に、上記で得られたP型及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれのハンダ受理層の一方の面を載置し、180℃で1分間加熱後、冷却する(ハンダ材料層の加熱冷却後厚さ:30μm)ことで、P型及びN型熱電変換材料のチップをそれぞれ電極上に配置した。
さらに、P型及びN型熱電変換材料のチップのそれぞれのハンダ受理層の他方の面上に、ハンダ材料層として前記ソルダペーストを印刷(加熱前厚さ:50μm)し、得られたハンダ材料層と、上部電極基板(下部電極基板と貼り合わせた時にπ型の熱電変換モジュールが得られるよう電極をパターン配置した電極基板;基板、電極の材料、厚さ等は下部電極基板と同一)の電極とを貼り合わせ、190℃で2分間加熱することでP型及びN型熱電変換材料のチップそれぞれ18対からなるπ型の熱電変換モジュールを得た。
得られた熱電変換モジュールについて、前述した評価条件で、モジュール抵抗(電気抵抗)、吸熱面と放熱面との温度差ΔTを評価した。熱伝導率及び熱抵抗含め、評価結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例1において、高熱伝導性基板をポリイミドフィルム基板(東レデュポン社製、商品名「カプトン」;10mm×20mm、厚さ:12.5μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の熱電変換モジュールを作製した。
得られた熱電変換モジュールについて、実施例1と同様に、前述した評価条件で、モジュール抵抗(電気抵抗)、吸熱面と放熱面との温度差ΔTを評価した。熱伝導率及び熱抵抗含め、評価結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
熱電変換モジュールの基材を、屈曲性を備える高熱伝導性の基材とした実施例1の熱電変換モジュールは、当該基材を従来の基材である低熱伝導性のポリイミドフィルムとした比較例1の熱電変換モジュールに比べ、得られる温度差が大きいことから、より優れた冷却性能が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の熱電変換モジュールは、屈曲性を有し熱電性能が優れることから、例えば、電子機器等の小型化、薄型化において発生する蓄熱を抑制する用途に用いることができる。
具体的には、スマートフォン、タブレット型PC等に搭載されるCPU(Central Processing Unit)の冷却、また、半導体素子である、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサーに代表される各種センサーの温度制御等が挙げられる。
さらに、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する発電用途に適用することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1:熱電変換モジュール
2a:第1の基材
2b:第2の基材
3a:第1の電極
3b:第2の電極
4:P型熱電素子層
5:N型熱電素子層
11:熱電変換モジュール
12a:第1の基材
12b:第2の基材
13:第1の電極
14:P型熱電素子層
15:N型熱電素子層
21:冷却特性評価ユニット
22:熱電変換モジュール
23,24:測定板
25,26:温度コントローラー
27:吸熱面
28:放熱面