(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】多層コーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20250117BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20250117BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20250117BHJP
B23B 27/14 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C23C14/34 Z
C23C14/02 Z
B23P15/28 A
B23B27/14 A
(21)【出願番号】P 2022514620
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2020075095
(87)【国際公開番号】W WO2021048136
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】102019124616.4
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509338824
【氏名又は名称】セメコン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】ケルカー ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ボルツ ステファン
(72)【発明者】
【氏名】レンメル オリヴァー
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-118973(JP,A)
【文献】特表2011-518950(JP,A)
【文献】特表2015-501371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/02
B23P 15/28
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(40)をコーティングするための方法であって、
前記基材(40)は、少なくとも一つの刃先を有する工具であり、
第1の方法ステップ(62)において、前記基材が
、ユニポーラ又はバイポーラの中波のパルスDCバイアス電圧による第1エッチングサブステップ及び一定のDCバイアス電圧による第2エッチングサブステップとして実行されるイオンエッチングプロセスによって前処理され、
第2の方法ステップ(64)において、0.1μm~6μmの厚さを有する第1のコーティング層(56a)が、
カソード(24a,24b,24c,24d)に印加されるHIPIMSパルスを用いるHIPIMSPVDカソードスパッタリングプロセスによって
、前記HIPIMSパルスと時間的に同期されるバイアスパルスで前記基材にDCバイアス電圧が印加されながら、前記基材(40)上に堆積され、
第3の方法ステップ(66)において、前記第1のコーティング層(56a)の表面が、
前記イオンエッチングプロセスによって処理され、
第4の方法ステップ(68)において、0.1μm~6μmの厚さを有する
第2のコーティング層(56b)が、
前記HIPIMSPVDカソードスパッタリングプロセスによって前記第1のコーティング層(56a)の上に堆積され、
前記第3の方法ステップ(66)及び前記第4の方法ステップ(68)を1回又は複数回繰り返して、前記HIPIMSPVDカソードスパッタリングプロセスによって、厚さ0.1μm~6μmの一つ以上の追加のコーティング層(56c,56d)が堆積され、
前記コーティング層(56a,56b,56c,56d)の一つ以上は、少なくとも、Al-Ti-N,Ti-B,Ti-Si-N,Al-Ti-Si-N,Ti-C-N,Ti-Al-C-N,Al-Ti-Cr-Si-Nを含む群から選択される組成物を含み、
互いに重ねて堆積された前記コーティング層(56a,56b,56c,56d)の厚さは、合計で12μm~30μmである、
基材をコーティングするための方法。
【請求項2】
前記第1のコーティング層(56a)とその上の第2のコーティング層(56b)との間に界面領域が形成され、
前記界面領域に隣接する前記第2のコーティング層(56b)の構造は、前記界面領域に隣接する前記第1のコーティング層(56a)の構造よりも微細である、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1回又は複数回、前記第4の方法ステップに続いて、
最初に、最上部の前記コーティング層(56b,56a)の表面が、イオンエッチングプロセスによって処理され、
その後、
前記HIPIMSPVDカソードスパッタリングプロセスによって、追加のコーティング層(56c,56d)が、下にある前記コーティング層(56b,56a)に堆積される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも、前記第2、第3、及び第4の方法ステップ(64,66,68)は、真空が中断されることなく実行される、
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
バイアス電圧が、前記第2、第3、及び第4の方法ステップのそれぞれの場合に、前記基材に印加され、
前記バイアス電圧は、前記第2及び第4の方法ステップよりも前記第3の方法ステップの方が高い、
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
金属イオンが、前記イオンエッチングプロセス中に生成され、バイアス電圧によって前記基材に向けて加速される、
ことを特徴とする請求項1ないし
5いずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
複数の前記コーティング層(56a,56b,56c,56d)は、同じ元素から生成される、
ことを特徴とする請求項1ないし
6いずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし
7いずれか一つに記載の方法を実施するためのコーティングシステムであって、
真空チャンバー(12)と、
前記真空チャンバー(12)内に基材(40)を配置するための装置(30,32,34)と、
前記真空チャンバー(12)内でプラズマを生成するための手段(24a,24b,24c,24d)と、
前記基材(40)上に
パルスDCバイアス電圧を生成するための手段(36)と、
前記方法を自動的に実行するためにコーティングシステム(10)を制御するための制御手段(36)と、
を含む、コーティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材をコーティングするための方法、その方法を実行するためのコーティングシステム、およびコーティングされたボディ(物体)に関する。
【背景技術】
【0002】
特性を改善するために、ボディ又はボディの一部に表面コーティングを施すことが知られている。特に工具の場合、機能表面に硬質材料のコーティングを施すことが知られている。
【0003】
硬質材料のコーティングを適用するための既知の方法の一つの部類は、例えば、カソードスパッタリング及びアークスパッタリングを含むPVD(物理蒸着)法の手法である。これらの方法では、スパッタされたターゲット材料からなるコーティングが基材上に堆積される。
【0004】
これに関連して、特に良好なコーティング接着を達成するために、コーティングを適用する前に基材を前処理することが知られている。化学的及び機械的な前処理ステップとは別に、イオンエッチングステップ-このステップでは、加速電圧によってイオンが基材に向かって加速され、それによって基材表面にエッチング効果が生じる-は、例えば、硬質金属又は鋼の基材の前処理に適している。
【0005】
WO2009/132822A2には、マグネトロンスパッタリングによってボディを前処理及びコーティングするための装置及び方法が記載されている。この装置は、金属チャンバー壁を有する真空チャンバーと、その中に配置されたスパッタリングターゲットを備えたマグネトロンを含む。マグネトロンの少なくとも一つは、高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS、又、HIPIMSとも呼ばれる)による操作のために提供される。電気パルスは、容量性要素がスイッチング要素によってスパッタリングターゲットに接続される、HPPMSマグネトロンに供給される。この方法では、コーティングされるボディは、装置の真空チャンバー内に配置され、HPPMSマグネトロンの動作中にプラズマが生成される。エッチングステップでは、負のバイアス電圧がボディに印加され、ボディは金属イオンの衝撃によってエッチングされる。続いて、スパッタリングターゲットからスパッタされた材料がボディ上に層の堆積を生成するように、バイアス電圧が継続的に下げられる。
【0006】
DE102006019000A1には、特に窒化チタンアルミニウム(チタニウム-アルミニウム-ニトリド)層を生成するための、硬質材料コーティングのプラズマ強化堆積のための装置及び方法が記述されている。中心軸を中心に回転できる基材サポートが、真空チャンバー内に配置されている。少なくとも一つの蒸発源及び少なくとも一つのホローカソードが、基材サポートの半径方向外側に配置されている。ホローカソードと関連するアノードとの間のラインは、蒸発源のターゲットと中心軸に対して直角な平面内での中心軸との間のラインに対して、15°から70°だけオフセットされている。ホローカソードのアーク放電は、中心軸及び蒸発源からのターゲット材料の蒸発に平行に維持される。1:1のTi:Al比を有するターゲットは、反応性窒素雰囲気内で50:50~40:60のTi:Al比を有する窒化チタンアルミニウムコーティングを生成するために使用される。
EP2042261A2には、基材を提供すること、基材上に窒化物、酸化物、ホウ化物、炭化物、炭窒化物、カルボオキシニトリド、又はそれらの組み合わせのカソードアーク蒸着PVDコーティングを堆積することを含む、コーティングされた切削工具の製造方法が記載されている。堆積中において、コーティングは一つ以上のイオンエッチングステップに晒される。切削工具は、表面欠陥の数が減少することにより平滑性が向上したPVDコーティングにより、寿命が延びる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2009/132822A2
【文献】独国特許出願公開DE102006019000A1
【文献】欧州特許出願公開EP2042261A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に高品質で耐久性のあるコーティングを実現できる、コーティングされたボディ、基材のコーティング方法、及びその方法を実行するためのコーティングシステムを特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に係る方法、請求項8に係るコーティングシステムによって解決される。従属請求項は、本発明の有利な実施形態を示すものである。
【0010】
PVD法で適用されるコーティングは、コーティングの厚さに応じて様々な特性を持つ可能性があることが示されている。特に、より長いコーティング期間及びより厚いコーティング厚さは、例えば、コーティングの粗さ及び残留応力を助長させることがしばしば示されている。したがって、本発明の基本的な概念は、連続的にコーティングを生成することではなく、むしろ、ターゲットを絞った方法でコーティングの成長を1回又は複数回中断し、次にそれを再開することである。
【0011】
本発明による方法は、最初に、第1の方法ステップにおいて、イオンエッチングプロセスによる基材の前処理を提供する。ここで、イオンが生成され、例えば、ガス又は好ましくは金属イオンであり、バイアス電圧によって基材表面に向けて加速される。衝突するイオンのために、基材表面の活性化、表面材料の除去、及びイオンの注入を伴う可能性のあるエッチング効果が、照射時間全体に亘って生成される。
【0012】
本発明による方法の第2のステップでは、0.1μm~6μmの厚さを有する第1コーティング層が、PVDプロセスによって基材上に堆積される。コーティング方法としては、マグネトロンスパッタリングが使用される。コーティングの手順(処置)は、第1コーティング層が基材表面に堆積されるように、選択されたコーティング期間に亘って実行される。
【0013】
本発明によれば、第2のステップでのコーティングの適用は、別のエッチングステップである第3の方法ステップによって中断される。第3の方法ステップでは、本発明によれば、先に生成された第1コーティング層の表面がイオンエッチングプロセスによって処理される。第3の方法ステップのイオンエッチングプロセスは、好ましくは、第1の方法ステップと同じタイプのプロセスであり得る。使用される方法パラメータ、特にエッチング持続時間及びバイアス電圧は、互いに同じ又は異なるように選択されてもよい。
【0014】
第3の方法ステップでエッチングプロセスを使用することにより、層の成長が最初に中断される。エッチングステップの強度に応じて、多かれ少なかれかなりの量の層材料が除去され得る。さらに、エッチングプロセスは、微小欠陥の導入により表面の核生成を引き起こす。
【0015】
本発明によるこれに続く第4の方法ステップにおいて、0.1μm~6μmの厚さを有するさらなるコーティング層が、PVDカソードスパッタリングプロセスによって、第1コーティング層又は前のエッチングステップによって形成されたその表面上に堆積される。好ましくは、第4の方法ステップでは、第2の方法ステップと同じタイプのコーティング方法が使用される。どちらのステップでも、個々の又は全ての方法パラメータを、互いに同じ又は異なるように選択できる。
【0016】
したがって、本発明による方法は、「リピートスタート(繰返し開始)」手順とも呼ばれることができる、コーティング,エッチング,コーティングという一連のステップを含む。
【0017】
驚くべきことに、リピートスタート手順、すなわち、イオンエッチングでコーティングプロセスを中断し、続いてコーティングを継続することは、中間エッチングステップによって中断されるコーティングの形成無しで一度に適用される単層コーティングと比較して、多層コーティングに構造変化をもたらすことが見出された。コーティングの形成中に生成された微細構造は、中間エッチングステップによって少なくとも部分的に中断される可能性があり、その結果、後続のコーティングステップで前の成長を継ぎ目無く継続することはできないが、むしろ新しい成長核が形成される。連続コーティングプロセスは、特定の状況下で、成長方向にコーティング形態を粗くする可能性があり、この影響は、中間エッチングステップによって低減又は完全に反対にすることさえできる。このように、中間エッチングステップの後に適用される追加のコーティング層の層構造が、少なくとも開始時、すなわち、先のコーティング層への界面領域に隣接する先のコーティング層の表面の層構造よりも微細であるコーティング形態を達成することが可能である。
【0018】
特に、生成されたコーティングの残留応力に影響を与えることができる。コーティングの残留応力は、コーティングの持続時間と厚さが増すにつれて増加する可能性がある。リピートスタート手順の範囲内でコーティングを中断して再開する場合、多層コーティングの残留応力は、単層コーティングの場合と同じ程度には増加しないことが示されている。その結果、コーティング時間が長く、コーティングの厚さが厚い場合に、リピートスタート法を使用することにより、全体的に残留応力が低いコーティングが得られる。より低い残留応力を有するコーティングは、より好ましい延性特性及び基材へのより良好な接着性を有する。
【0019】
全体として、成長を1回又は複数回中断することにより、欠陥の数が少なく、それ故に密度が高く、多孔性が低い(小孔が少ない)層を生成できることが示されている。一方では、これにより、より滑らかな層の表面を得ることができる。他方では、より高密度の構造は、例えば、使用中に大気中の酸素が望ましくないほど拡散してコーティングの失敗につながる可能性のある拡散経路がより少ないことを意味するので、より高密度の層は、耐薬品性に関して重要な利点を有する。
【0020】
当業者には明らかであるように、例えば、コーティング又はエッチングステップを異なるコーティング又はエッチングパラメータを有する複数のサブステップに細分することによって、又は、熱処理(アニーリング)や化学処理(酸化、浸炭など)など、他の処理手段を含む一時的に挿入された方法ステップによって、第1から第4のステップの上記のシーケンスを変更することが可能である。しかしながら、基本パターン、つまり第1から第4のステップのシーケンスは、常に同様に存続する。
【0021】
リピートスタート手順の利点は、一つ(の層)の適用の後ですでに明らかになっているが、複数(の層)の適用は特定の利点を示すことができる。例えば、第4の方法ステップに続いて、最上部のコーティング層の表面は、イオンエッチングプロセスによって処理されてもよく、その後、追加のコーティング層が、PVDカソードスパッタリングプロセスによって下にあるコーティング層上に堆積されてもよい。これを1回又は複数回繰り返すことができるため、例えば、少なくとも三つ又は四つのコーティング層を生成することができる。リピートスタートシーケンスの繰り返しの総数は、例えば、2~50のコーティング層、好ましくは3~20、より好ましくは3~10又は3~5のコーティング層が形成されるように、タイプ及び所望の厚さに従って選択することができる。
【0022】
原則として、コーティングの成長を中断し続いて継続することの利点は、個々の又は全ての方法ステップが、互いに空間的及び/又は時間的に分離されるように、例えば、別々の場所で、中間保管の後などに適用可能な場合は、別々の処理又はコーティングシステムで実行される場合にも、利用することができる。しかしながら、方法ステップの適用は、同じコーティングシステム、特に同じ真空チャンバー内で特に効率的である。好ましくは、上記の方法ステップの二つ又はそれ以上の適用は、真空が中断されることなく、例えば、リピートスタートステップの適用(第2の方法ステップ-コーティング、第3の方法ステップ-イオンエッチング、第4の方法ステップ-コーティング)、特に好ましくは第1から第4のステップが行われる。
【0023】
好ましくは、方法ステップの二つ以上又は全ては、コーティングシステムの同じ真空チャンバー内で及び/又は同じ電極(例えば、カソード及び/又は基材又はホルダーへの電気的接続)を使用して実行することができ、ただ単に電源及び/又は圧力又は雰囲気を変更するための手段は、設備を改造することなく異なる方法ステップを実行するために切り替えられる。しかしながら、様々なマグネトロンカソード(例えば、HIPIMSカソード及びDCカソード)が、例えば、同じ真空チャンバー内に配置されてもよく、そして、方法ステップにおいて異なって作動されてもよく、又は、個々の方法ステップにおいてスイッチオフされてもよい。同様に、異なるターゲットを備えたカソードを使用してもよい。このように、連続する方法ステップでは、方法ステップ間でシステム設備を再構築したり、真空を中断したりすることなく、純粋に外部制御によって、異なるプロセスパラメータを実現することができる。
【0024】
時間的に挿入されたエッチングステップと同様に、コーティングステップは、例えば、適用の持続時間、及び/又は、圧力、大気圧組成、ターゲット材料、電圧/電力などのプロセスパラメータに関して、互いに同じ又は異なるものでもよい。
【0025】
好ましくは、負のバイアス電圧が、コーティングステップ、すなわち、第2及び第4の方法ステップ、及び該当する場合、PVDマグネトロンスパッタリングによってコーティング層が生成される追加の方法ステップの間中と、エッチングステップ又は複数のエッチングステップの間中に、基材に印加される。これに関連して、バイアス電圧は、好ましくは、第2及び第4の方法ステップよりも第3の方法ステップの方が高い。より高いバイアス電圧によって、プラズマのイオンが基材上に向けてより強く加速されるため、イオンエッチングはより高いバイアス電圧で行われる。その結果、バイアス電圧を変えることにより、コーティングとエッチングの動作モードを切り替えることができる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、第2および第4の方法ステップに加えて、0.1μm~6μm、好ましくは0.5μm~5μm、より好ましくは1μm~4μmの厚さを有するそれぞれのコーティング層を生成するために、追加のコーティングステップが任意選択で実行されてもよい。特に好ましくは、少なくとも二つの連続するコーティング層の厚さは、互いに+/-50%未満、より好ましくは+/-25%未満、特に好ましくは+/-15%未満(いずれの場合も、より薄いコーティング層と比較して)だけ異なる。より好ましくは、これは、リピートスタートプロセスで生成される全てのコーティング層に適用される。
【0027】
本発明による方法によって、総厚さが12μm以上のコーティングが形成される。
【0028】
そのような厚いコーィングのために、本発明による方法の特別な利点が生じる。総厚(全体の厚さ)は、最大30μmにすることができる。PVDコーティング法によるこのような厚さの単層コーティングでの連続形成は、しばしば、例えば、不十分なコーティング接着及び/又は過度の粗さのために、コーティングがもはや多くの適用に使用できないような粗悪な構造及び/又は高い残留応力をもたらす。驚くべきことに、これらの不利な点は、厚いコーティングを、例えば、二つ又はそれ以上、好ましくは三つ又はそれ以上のコーティング層に細分することによって防ぐことができる。
【0029】
コーティングを適用した少なくとも一つの、好ましくは全ての方法ステップ(すなわち、第2、第4、及び/又は一つ又は複数の追加の方法ステップ)のために、少なくとも一つのマグネトロンカソードの少なくとも一つのターゲットがスパッタされる、カソードスパッタリング法が、使用される。
【0030】
この方法では、例えば、DC電圧、AC電圧、又はパルス電圧がカソード(陰極)に印加され得るが、HIPIMS法が特に好ましい。これは、「高出力パルスマグネトロンスパッタリング」とも呼ばれる方法の一種であり、マグネトロンカソードに非常に短いが非常に高いエネルギーのパルスの形で電力が供給され、その結果、マグネトロンカソードの前方のコーティング粒子において高いイオン密度を達成することができる。パルス中において、例えば、(それぞれのカソードのターゲット表面領域に対してカソードあたり)60W/cm2以上、好ましくは100W/cm2以上、特に好ましくは200W/cm2~2,300W/cm2の高いピーク電力が、HIPIMS法の特徴である。さらに、デューティサイクル、すなわちパルス持続時間とパルス間隔の比は、通常、0.5未満であり、すなわち、パルス間隔はパルス持続時間よりも長い。HIPIMSによってマグネトロンカソードを操作するための装置及び方法は、例えば、出願人によってWO2009/132822A2に開示されている。HIPIMSコーティング法は、好ましくは、コーティングシステムにおける真空チャンバー内の一つ、複数、又は全てのカソードが、HIPIMS法に従って高出力パルスで操作され、必要であれば、DCモードで追加のカソードを同時に操作することが可能であることを意味する、と理解される。
【0031】
HIPIMS法で好ましく使用されるパルス持続時間は、例えば、5~200μsであり得る。HIPIMSパルスは、好ましくは、例えば、100~10,000Hz、特に好ましくは、2,000~6,000Hzの周波数で生成され得る。
【0032】
一つ又はそれ以上のコーティングステップにおいて、バイアス電圧が好ましくは基材に印加され、正に帯電したイオンが基材表面に向かって加速されるように、特に、負のバイアス電圧が基材に印加される。特に、マグネトロンスパッタリングが、例えば、少なくとも一つのマグネトロンカソードにおいて、DC電圧、パルスDC電圧、又はHIPIMSパルスで使用される場合、バイアス電圧は、一定の又はパルスのDC電圧であり得る。パルス化されたDC電圧は、好ましくは、ユニポーラ方式でパルス化される。パルス周波数は、MF(中周波数)の範囲、例えば、50kHz~3MHz、好ましくは100kHz~1MHz、特に好ましくは150~500kHzであり得る。
【0033】
しかしながら、好ましい実施形態によれば、HIPIMSコーティング方法は、パルスバイアス電圧を基材に印加することによって実行される。好ましくは、この場合、バイアスパルスは、カソードに印加されるHIPIMSパルスと時間的に同期させることができる。“同期”とは、バイアス電圧のパルス(バイアスパルス)が一つ又はそれ以上のカソードでHIPIMSパルスと同じ周波数で印加されること、又は、周波数が互いに整数倍であること、を意味すると理解されるべきである。HIPIMSパルスが同時にではなく連続して印加されるように制御される複数のHIPIMSカソードの場合、バイアスパルスのパルス周波数は、好ましくは、少なくともHIPIMSパルス周波数にHIPIMSカソードの数を掛けたものに対応する。
【0034】
これに関連して、HIPIMSパルス及びバイアスパルスは、それらが同じ持続時間を有し又同時に開始するように、時間的に同期され得る。しかしながら、好ましくは、持続時間は異なってもよく、及び/又は関連するHIPIMSパルスに関するバイアスパルスの進み時間又は遅延時間(オフセット)が特定されてもよい。特に好ましくは、同期は、バイアスパルスが、割り当てられたHIPIMSパルスに対して、例えば、5μs以上、好ましくは20~50μs以上の遅延(オフセット)で発生するようなものである。さらに、同期は、好ましくは、それぞれの場合のバイアスパルスが、割り当てられたHIPIMSパルスの後に、例えば、5μs以上、好ましくは10μs以上の遅延時間を有するようにする。
【0035】
HIPIMSパルスが印加されると、さまざまな種類のイオン、特に金属イオンとガスイオンがさまざまな時間に発生することが示されている。ガスイオンは、HIPIMSパルスの開始時の初期段階で多数観察されることがよくあるが、金属イオンの高密度の発生は、時間の遅れとともに観察することができる。ターゲットを絞った方法でHIPIMSパルスに対してバイアスパルスを遅らせることにより、印加されたバイアス電圧によって、好ましくは金属イオン及びより少ないガスイオンを基材に向けて加速させることが可能である。成形するコーティングへのガスイオンの注入は、コーティング内の残留応力の増加を大きく助長することが示されている。金属イオンが豊富な時間間隔でバイアスパルスの電圧が印加されるように、バイアスパルスをカソードパルスと時間的に同期させることにより、残留応力の低いコーティングを得ることができる。
【0036】
コーティング又は各コーティング層の組成については、種々の構成要素(成分)を考慮することができる。一方では、これらには、スパッタリングによって放出される一つ又はそれ以上のターゲット材料が含まれる。他方では、構成要素はガス状で供給され得る。特に、コーティングは、例えば、窒素、酸素及び/又は炭素を含む反応性ガスを供給することによって、反応性コーティングプロセスにおいて起こり得る。
【0037】
好ましくは、コーティングは硬質材料コーティングである。各コーティング層は、例えば、一つ又はそれ以上の金属元素、又は、好ましくは少なくとも一つの金属元素及び少なくとも一つの非金属元素を含む材料系からなり得る。それは、特に、一つ又はそれ以上の金属元素及び一つの又はそれ以上の非金属元素から構成され得る。二元、三元、及び四元の硬質物質、すなわち、二つ、三つ、又は四つの異なる金属元素を含むものが好ましい。これに関連して、金属元素又は複数の金属元素が、Al、Si、B及びIUPAC周期表(1988)の第4~第6族の元素を含む群から選択される組成物が好ましい。(この文脈では、簡単にするために、半金属Si及びBは金属元素と見なされる。)特に好ましくは、Tiは、金属元素の一つとして組成物中に含まれる。非金属元素は、例えば、C、N及びOを含む群から、好ましくはC及びNを含む群から選択することができ、特に好ましくは、Nが唯一の非金属元素として提供される。
【0038】
以下の例では、コーティングの組成(物)は、化合物又は相か、又は材料系と直接呼ばれる。これに関連して、材料系は、そこに含まれる元素のリストで特定され、それぞれがダッシュ(-)で互いに分離され、金属元素が最初に示され、次に非金属元素が示される。金属元素及び非金属元素は、それぞれの場合において、それらの比率(原子パーセント)の順に名前が付けられることが好ましい。材料系の名前は、化合物に対応していてもよいが、常にそうであるとは限らない。例えば、材料系Ti-Cは、硬質材料化合物TiCを含むか完全にそれから構成され、一方、材料系Ti-Bは、硬質材料化合物TiB2を含むかそれから構成される。好ましい材料系には、例えば、Al-Ti-N、Ti-B、Ti-Si-N、Al-Ti-Si-N、Ti-C-N、Al-Ti-Cr-Si-N又はTi-Al-C-Nが含まれる。金属、例えば、Al、Ti、Si及び/又はCrは、好ましくは、一つ又はそれ以上のカソードターゲットの構成要素として固体形態で提供される。
【0039】
好ましい実施形態では、少なくとも一つのコーティング層、好ましくは複数又は全てのコーティング層が、AlX-Ti1-X-Nで形成され、さらに好ましくは、x≧0.4又はx≧0.5、特に好ましくは0.55≦x≦0.65で形成される。Alの部分xは、好ましくは最大で70%である。
【0040】
コーティングステップ中に形成されるコーティングの少なくとも二つ、好ましくはそれ以上又は全てのコーティング層は、同じ要素、すなわち同じ材料系、及び適用可能であれば、含まれる要素の同じ相対比率を有し得る。或は代わりに、コーティング層に異なる組成を指定することも可能である。
【0041】
第1、第3、及び/又は追加の方法ステップにおけるイオンエッチングプロセスは、好ましくは、カソードによってプラズマに点火し、基材に比較的高い加速電圧(バイアス電圧)を印加することによって実行され得る。プラズマは、例えば、主にガスイオンで構成されていてもよい。或は代わりに、大量の金属イオンを含むプラズマを生成するために、カソードがHIPIMSパルスで操作されてもよい。バイアス電圧は、好ましくは、一定のDC電圧又はユニポーラ又はバイポーラ方式のユニポーラ又はバイポーラ(MF-)パルスDC電圧でもよい。
【0042】
例示的な実施形態に基づいて以下で説明するように、イオンエッチングプロセスは、複数のサブステップ、例えば、プラズマが生成され、中波、例えば、50kHz~1MHzで、例えば、100V~1,000V、好ましくは300V~800Vのパルス高さでバイポーラ方式によりパルスされるDC電圧の形態のバイアス電圧が第1の期間で印加される一つのエッチングサブステップと、プラズマが生成された後、例えば、-50V~-400V、好ましくは-100V~-300Vの範囲のDC電圧の形態のバイアス電圧が第2の期間で印加される追加のエッチングサブステップを含んでもよい。第2の期間は、好ましくは第1の期間よりも長く、さらに好ましくは少なくとも二倍の長さである。例として、第1の期間は5~30分としてもよく、第2の期間は30~200分、好ましくは40~150分としてもよい。
【0043】
二つのエッチングサブステップは、特にDCバイアスの存在下での電気的エッジ効果の利用のために、基材へのそれらの効果の点で異なる。FMパルスバイアス電圧によるエッチングは、基材の全ての表面に実質的に均一な効果をもたらす。DCバイアスを用いたエッチングの場合、エッジが、すなわち、特に刃先が、主にエッチングされる。
【0044】
基材がエッチングされる第1の方法ステップにおけるイオンエッチングプロセスのパラメータは、第3の方法ステップ(及び、適用され得る場合、追加の中間エッチングが実行される追加の方法ステップ)におけるエッチングプロセスのパラメータと一致し得る。或は代わりに、異なるパラメータを使用することもできる。例えば、基材は、コーティング層の関連する表面が後続の中間エッチングステップでエッチングされるよりも、第1の方法ステップでより長くエッチングされてもよい。さらに好ましくは、例えば、他のエッチングステップよりも第1の方法ステップにおいて、より低いバイアス電圧が印加されてもよい。中間エッチングステップで除去される材料の総量は、好ましくは、関連するコーティング層の厚さの20%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは2%未満に相当する。
【0045】
本発明による方法は、工具、特に少なくとも一つの刃先を有する工具を製造するのに特に適している。特に、それは、例えば、ドリル、ミーリングカッター(フライス)、又はインデックス可能なインサート(スローアウェイチップ)であることが好ましい。
【0046】
コーティングされた基材は、様々な材料、例えば鋼(HSS)から構成され得る。好ましくは、それは硬質金属、特にWC/Co焼結材料である。同様に、本発明による方法は、他のタイプの基材材料、例えば、cBN基材又はセラミック基材にも適用することができる。
【0047】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の方法を実施するためのコーティングシステムに関する。前述のシステムは、真空チャンバーと、真空チャンバー内に基材を配置するための装置、例えば、好ましくは基材を回転させるための、特に好ましくは遊星回転のための基材ホルダーとを備える。プラズマを生成するための手段は、真空チャンバー内に設けられ、好ましくは、適切な電源に接続されたマグネトロンカソードである。さらに、基材上にバイアス電圧を生成するための手段が設けられ、好ましくは、基材に取り付けられた電源である。両方の電源は、対向電極(カウンター電極)、例えば、チャンバー壁又は別個のアノードに取り付けられてもよい。
【0048】
本発明によれば、コーティングシステムは、本発明による方法を自動的に実行するためにコーティングシステムを制御するための制御手段を含む。制御手段は、例えば、本発明による方法ステップを規定する動作プログラムを有するプログラム可能なコンピュータを含み得る。特に、プラズマを発生させるための手段及び/又はバイアス電圧を発生させるための手段は、好ましくは、制御手段によって制御することができる。プログラミングは、好ましくは、上記のリピートスタート法を実現するために、プログラムされた方法ステップを繰り返すための少なくとも一つのループを含む。
【0049】
第3の態様によれば、本発明による方法に加えて、本発明は、好ましくは本発明による方法によって製造されたコーティングされたボディ(被覆体)に関する。本発明によるコーティングされたボディは、基材と、それに適用された少なくとも一つのコーティングとを含む。コーティングは、それぞれが0.1μm~6μmの厚さの少なくとも二つのコーティング層を含む。イオンエッチングによって形成された界面領域は、少なくとも二つのコーティング層の間に配置されている。界面領域において、コーティング層は、目に見える構造変化、すなわち、層の成長に対する上記の中断のために、互いに直接隣接する異なる層形態を有する。
【0050】
コーティングは、好ましくは、それぞれ0.1μm~6μmの二つ以上のコーティング層を含んでもよく、それぞれの場合に、それらの層間にイオンエッチングによって形成された界面領域が配置される。
【0051】
コーティングの形態は、基材からの距離が増加する方向で見た場合、第1及び後続の第2のコーティング層が界面領域によって互いに分離され、界面領域に隣接する第2のコーティング層の構造が、界面領域に隣接する第1のコーティング層の構造よりも微細である。したがって、界面領域は、好ましくは、コーティング形態のより粗い形態からより細かい形態への変化によって特徴付けられる。
【0052】
その形態は、例えば、ソーントンによる、例えば、構造ゾーンモデルに基づいて、当業者に知られている方法で評価することができる(Thornton,J.,1974.厚いスパッタコーティングの構造及びトポグラフィーにおける装置の形状および堆積条件の影響。Journal of Vacuum Science and Technology,Vol.11,pp.666-670)。
【0053】
好ましくは、コーティング全体では、他の点では同一の条件下で、連続的にすなわち中断することなく又イオンエッチングによる界面領域の形成なしに堆積される同じ厚さのコーティングと比較して、より低い残留応力を有する。
【0054】
以下では、例示的な実施形態を、図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】コーティングシステムを上面から視た概略図である。
【
図2】
図1のコーティングシステムの部分を斜視した概略図である。
【
図3】インデックス可能なインサートの形態のコーティングされたボディ(スローアウェイチップ)の実施形態を示す。
【
図4】複数のコーティング層を備えた、
図3のコーティングされたボディのコーティングの概略断面図である。
【
図5】コーティングプロセスの例示的な実施形態のフローチャートである。
【
図6】コーティングステップ中の経時的な様々な電気的変数の経過を示すグラフである。
【
図7a】例示的な実施形態によるコーティングのカロッテ研削の写真である。
【
図7b】参考方法によるコーティングのカロッテ研削の写真である。
【
図7c】基材上のコーティングのSEM画像である。
【
図7d】
図7cのSEM写真の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1及び
図2は、真空チャンバー12を含むPVDコーティングシステム10を示している。真空チャンバー12の内部20は、真空を生成するためにベント14によって排気することができる。プロセスガス、好ましくは希ガス又は様々な希ガスの混合物、例えば、アルゴン及び/又はクリプトンは、入口16を介して供給することができる。窒素などの反応性ガスは、入口18を介して供給することができる。代替の実施形態では、入口16,18は、プロセスガス及び不燃性の反応性ガス用の共通の入口で置き換えることができる。
【0057】
真空チャンバー12の内部20には、それぞれ板状のスパッタターゲット24a,24b,24c,24dを有する四つのマグネトロンカソード22a,22b,22c,22dが配置されている。
図2は、より良い概観のために二つのマグネトロンカソード22a,22bを示している。
【0058】
マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dは、それらのスパッタターゲット24a,24b,24c,24dが真空チャンバー12の中心に向かうように方向付けされている。回転可能な基材テーブル30があり、その上には、基材ホルダー34を有する複数の回転可能な基材プレート32が配置されている。図示されている例では、インデックス可能なインサート40(スローアウェイチップ)が基材としてロード(装填)されている。
【0059】
基材ホルダー34は、直立した棒状のホルダーであり、その上にインデックス可能なインサート40が配置されている。インデックス可能なインサート40は、基材ホルダー34及び基材プレート32を介して基材テーブル30に電気的に接続されている。
図2は、より良い概観のために一つの基材プレート32の基材ホルダー34のみを示している。
【0060】
インデックス可能なインサート40は、
図3に示されている。それは、すくい面42及び逃げ面44を含む。
図2に示される配置では、逃げ面44は、マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dのスパッタターゲット24a,24b,24c,24dと並行に配置される。面42,44の間のエッジは、機械加工中の刃先として使用することを目的としている。インデックス可能なインサート40は、WC/Co焼結硬質金属からなる。
【0061】
インデックス可能なインサート40は、コーティングされる基材の一例にすぎない。代わりに、異なる形状の構成要素又は工具を、それぞれの場合に適切な形状の基材ホルダー34に装填することができる。
【0062】
マグネトロンカソード24a,24b,24c,24dは、それぞれの制御可能な電源26a,26b,26c,26dに接続され、それによって、真空チャンバー12の導電性壁に対して電圧を印加することができる。
【0063】
真空チャンバー12の壁に対する電圧を、基材テーブル30,基材ホルダー34,及び基材40に印加することができる制御可能なバイアス電源36は、基材テーブル30に取り付けられている。
【0064】
この場合、電源26a,26b,26c,26d,36は、それぞれ、制御可能な電圧供給として単に概略的に示されている。それらは、従来のDC電源、パルス電源、及び/又はHIPIMS電源であり得る。図示されている例では、電源装置26a,26b,26c,26dは、DCとHIPIMSの動作モードで切り替えることができるように制御されている。代替の実施形態では、それぞれの専用DC及びHIPIMSカソードが、真空チャンバー12の内部に配置され、専用のDC及びHIPIMS電源に接続されてもよく、そして、中央制御ユニット36によって作動時に必要に応じてアクティブ化(作動)又は非アクティブ化(非作動)されることができる。
【0065】
電源26a,26b,26c,26d,36及び入口及び出口14,16,18のポンプ(図示せず)は、それぞれ、システム10の中央制御ユニット36に取り付けられている。中央制御ユニット36は、真空チャンバー12の内部20で行われる前処理およびコーティング方法の全てのパラメータが制御ユニット36によって制御されるように、プログラムすることができる。
【0066】
以下では、中央制御ユニット36でプログラムされたコーティングプロセスのシーケンスが、例として説明される。
【0067】
実施例:厚さのあるPVD硬質材料コーティング
【0068】
インデックス可能なインサート40のような基材をコーティングするために、10μmを超える特に厚い厚さの硬質材料コーティングが適用されるべきである。この厚さのコーティングは、通常、機械加工用途のためには十分なコーティング接着力で適することができない。
【0069】
図5は、中央制御ユニット36のプログラミングによって自動的に規定されるコーティングプロセスのシーケンスを概略的に示している。チタンプレートは、システム10内のスパッタターゲット24a,24b,24c,24dとしてそれぞれアルミニウムプラグを備えている。準備ステップ60において、基材40は、システム10の内部に充填され、真空チャンバー12は、350mPaの圧力に排気されて加熱される。
【0070】
続いて、基材40の硬質金属材料52の表面54が、第1のエッチングステップ62でエッチングされる。例示において、第1のエッチングステップ62は、第1及び第2のエッチングサブステップとの組み合わせのエッチングステップであり、それによって、基材表面は、ガスイオンによって洗浄及びエッチングされる。
【0071】
第1のエッチングサブステップでは、イオンエッチングが行われ、プラズマが、マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dによって最初に点火される。
【0072】
したがって、バイアス電源36は、-650Vのバイアス電圧でチャンバー壁に対してバイポーラ方式の中周波数(240kHz)でパルス化されて基材40に印加されるように、作動される。このようにして、プラズマのガスイオンが、基材40の表面54上に加速される。
【0073】
第1のエッチングサブステップは、約15分に亘って適用される。これにより、0.1μm/hの低いエッチング除去率が得られる。第2のエッチングサブステップでは、イオンエッチングが再び行われ、プラズマは、マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dによって再び最初に点火される。
【0074】
バイアス電源36は、プロセスガスとしてアルゴン/クリプトン混合物が供給されて、60分の処理時間で作動させられ、その結果、基材40は、負の値で-200Vの一定のDCバイアス電圧にさらされる。
【0075】
第2のエッチングサブステップでのエッチング除去は、約0.5μm/hである。中央制御ユニット36の一部をオンにするために、真空が中断されることなく、エッチングステップ62の後にコーティングステップ64が続き、このコーティングステップでは、マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dの電源26a,26b,26c,26dが、それらが短い高電圧パルスでHIPIMSモードにて作動するように駆動される。四つのマグネトロンカソード22a,22b,22c,22dの各々は、コーティングステップ64の間に約100kWのピーク電力で供給される。
【0076】
バイアス電圧電源36は、例えば、-50から-150Vのパルスバイアス電圧が印加されるように駆動され、バイアスパルスは、マグネトロンカソード22a,22b,22c,22dの電力パルスと同期させられる。これに関連して、バイアス電圧にはオフセットが設けられており、バイアスパルスは、HIPIMSパルスに対して僅かな時間遅延で開始する。
【0077】
約100分のコーティング時間の間に、プロセスガスとしてのアルゴン/クリプトンに加えて、窒素が反応性ガスとして供給される。
【0078】
図6は、コーティングステップ64における様々な電気的変数、すなわち、マグネトロンカソード24a,24b,24c,24dの電圧80(実線)、カソード電流82(点線)、カソードピーク電力84(一点鎖線)、バイアス電圧86(二点鎖線)及びバイアス電流88(破線)の時間曲線の例を示している。明確に視認できるように、電圧80は、パルス90でマグネトロンカソード24a,24b,24c,24dに印加され、一方、バイアス電圧86は、時間的に後続するバイアスパルス92で印加される。
【0079】
図4は、硬質金属基材材料52上のコーティング50の構造を概略的に示している。第1のコーティング層56aは、コーティングステップ64においてそこで生成される。コーティング率は約2μm/hであり、それ故に、コーティングステップ64の終わりには、約3μmの第1のコーティング層56aの厚さが生成される。
【0080】
第1のコーティング層56aの材料系は、Al-Ti-Nである。(金属元素の中で)約60%のAl配分(シェア)xが達成される。
【0081】
HIPIMSパルス90に対してバイアスパルス92を遅延させることにより、比較的に少ないガスイオンが、コーティング層56aに注入され、よって、比較的小さい残留応力を生じる。
【0082】
中間エッチングステップ66は、コーティングステップ64に続く。示される例では、中間エッチングステップ66は、第1のエッチングステップ62と同じパラメータを使用して、すなわち、二つの連続するエッチングサブステップを用いて実行される。既に述べたように、代替的に、異なるパラメータを使用してエッチングステップ62,66を実行することが可能であり、特に、中間エッチングステップは、第1のエッチングステップ62よりも短い持続時間である。
【0083】
エッチングされたコーティング層56aは、第1のエッチングステップ62でエッチングされた基材表面よりも硬いので、中間エッチングステップ66で除去される材料の量は、第1のエッチングステップ62について上に示した値よりも著しく少ない。
【0084】
続いて、追加のコーティングステップ68が続く。この例では、コーティングステップ68は、使用される全てのパラメータに関して、前のコーティングステップ64に対応する。示される例では、コーティングステップ68は、前のコーティングステップ64と同じ期間に亘って実行される。或は代わりに、例えば、厚さ、構造及び/又は組成に関して異なるコーティング層が生成されるように、異なるコーティングステップが、異なるパラメータを使用して実行されることができる。
【0085】
現在の例では、ループの形で中央制御ユニット36のプログラミングによって制御されるコーティング/中間エッチング/コーティングのサイクルが、合計で四つのコーティング層56a,56b,56c,56dがいずれの場合も下にある表面を中間エッチングして重ねて堆積される(
図4)まで繰り返される。その後、基材40は、次のステップ70で冷却される。
【0086】
中間エッチングステップ66によってそれぞれの点で層の成長を中断することにより、その後のコーティングステップ68が再び開始された後、結晶子の成長の継続はなく、むしろ新しい結晶化核が形成される。コーティングステップ64,68は、それぞれ上記の例において同一のパラメータを使用して実行されるが、得られるコーティング50は、認識できるほど別個のコーティング層56a,56b,56c,56dを備えた構造を有する。
【0087】
図7aは、コーティングされたボディ40の表面44上でカロッテ研削されたもの(表面)を示している。コーティング層56a,56b,56c,56dの間でかつ中間エッチングステップによって形成された界面領域は、リングとして視ることができる。対照的に、
図7bは、そのようなリング無しでカロット研削後に連続的に生成されたコーティングを示している。
【0088】
図7cは、コーティング層56a,56b,56c,56dがその上に形成された基材材料52のSEM写真である。界面領域は、白いフレームで示されている。コーティング形態のそれぞれの変化は、示されている倍率の場所では識別が困難であるが、より高い倍率で視るとより明確になる(
図7d)。
図7c及び
図7dは、後者がより明確に、コーティング形態が、少なくとも基材表面から視た第1の界面領域において、より粗い構造から実質的により微細な構造に変化する、ことを示している。ソーントンによる構造ゾーンモデルでは、これは構造ゾーン1から構造ゾーンTへの変化に対応している。
【0089】
コーティング50の表面は、滑らかで、緻密であり、細孔が殆ど無いことが証明されている。したがって、それでコーティングされた工具40は、様々な用途、特に機械加工の目的に対して、高い耐性を有する。
【0090】
コーティング50は、約12μmの全体厚さ(総厚さ)を有する。同じパラメータを使用するが連続的に適用された参考コーティングは、非常に高いコーティング残留応力及び基材材料52への不十分な接着を示し、同じ厚さのコーティング50は、約1.4Gpaの圧縮応力及び良好なコーティング接着性を有する。
【0091】
他の可能な実施形態は、コーティング材料、全体のコーティング厚さ、コーティング層の数、並びにコーティングされた工具のタイプ、その用途、及び様々な例について前記工具で機械加工されるべきワークピース材料を特定する、以下の表から得ることができる。
【0092】
実施例では、単純化のために、それぞれが少なくとも実質的に同じ厚さを有するコーティング層、すなわち、例えば、合計コーティング厚さが12μmで、それぞれ3μmの厚さの四つのコーティング層を有するコーティング層が、想定されている。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
この方法の例示的な実施形態は、単なる例として上記のとおり示されたが、当業者は、この原理が、種々の材料系、層構造、コーティングタイプ、及びコーティングパラメータ並びに多種多様の用途に適用できることを認識するであろう。この利点は、特に厚いコーティング50について提示されたが、薄いコーティング、例えば、非常に微細なドリル(マイクロドリル)上で1μm未満の全体厚さを有し、例えば、それぞれ0.2μmの三つのコーティング層から形成されたコーティングにも利点があり得る。
【0098】
PVDコーティングシステム10及び、特に、その中のマグネトロンカソード22a,22b,22c,22dのアセンブリ、並びにその電気回路は、単に例として考えられるべきである。或は代わりに、異なる数のマグネトロンカソードを真空チャンバー12の内部に設けることができる。異なるカソードを、異なるタイプの電源、例えば、純粋なDC電源に接続することができる。示されるように、電源は、チャンバー壁に接続することができ、又、或は代わりに、チャンバー壁から電気的に絶縁された別個のアノードを提供することができる。特に、DCのマグネトロンカソードの動作の場合、マグネトロンカソードをこの種のアノードに接続することが好ましい。