(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】アンモニアを利用した電気化学的水素生成
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20250117BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20250117BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250117BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20250117BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20250117BHJP
C25B 11/042 20210101ALI20250117BHJP
【FI】
C25B1/04
C01B3/04 B
C25B9/00 A
C25B13/07
C25B13/04 301
C25B11/042
(21)【出願番号】P 2022573259
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 US2021064427
(87)【国際公開番号】W WO2023063968
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2022-11-28
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522162325
【氏名又は名称】ユティリティ・グローバル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Utility Global, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ファランドス,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ダナ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン,ジン
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0175531(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0255962(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0211569(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0000956(US,A1)
【文献】特開2001-213608(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232224(US,A1)
【文献】POP, Lucian-Cristian, et al.,"Photoelectrocatalytic hydrogen production using nitrogen containing water soluble wastes",International Journal of Hydrogen Energy,2015年07月13日,Vol. 40, No. 26,pp. 8304-8310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C01B 3/00-3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を生成する方法であって、(a)陽極、陰極、及び前記陽極と前記陰極との間の混合伝導性膜を有
し、前記膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む、電気化学反応器を準備することと、(b)第1の流れを前記陽極に導入することであって、前記第1の流れは、アンモニア、又は分離又は精製することなくアンモニア分解からの直接生成物を含む、導入することと、(c)第2の流れを前記陰極に導入することであって、前記第2の流れは、水を含み、水素は、電気入力又は出力なしで水から電気化学的に発生される、導入することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の流れ及び前記第2の流れは、互いに接触しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンモニア分解は、前記陽極でin situで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記陽極及び前記陰極は、前記膜によって分離され、両方とも還元環境に曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記陽極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGMからなる群から選択される材料と、を含み、前記陰極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(1)アンモニア源又はアンモニア分解器、
(2)燃焼器、並びに
(3)陽極、陰極、及び前記陽極と前記陰極との間の混合伝導性膜を備え
、前記膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む、電気化学(EC)反応器を備える水素生成システムであって、EC反応器は、アンモニア源又はアンモニア分解器から第1の流れを受容するように構成されており、前記EC反応器は、電気を受容又は発電しないように構成されている、水素生成システム。
【請求項7】
前記アンモニア源又はアンモニア分解器からの第1の流れは、分離又は精製されない、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
EC反応器は、前記膜によって分離された陽極及び陰極を備え、前記陽極及び前記陰極がともに還元環境に曝露される、請求項
6に記載のシステム。
【請求項9】
前記燃焼器は、前記EC反応器からの陽極排気及び酸化剤を受容するように構成されている、請求項
8に記載のシステム。
【請求項10】
前記陰極は、蒸気を受容するように、かつ電気化学的に水素を発生させるように構成されている、請求項
8に記載のシステム。
【請求項11】
前記アンモニア源又はアンモニア分解器は、前記燃焼器からの排気を受容するように構成されている、請求項
6に記載のシステム。
【請求項12】
前記膜は、酸化物イオン及び電子を伝導し、前記反応器は、配線を備えない、請求項
6に記載のシステム。
【請求項13】
アンモニア分解からの生成物は、水素及び窒素から本質的になる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の流れは、水素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記反応器は、配線を備えない、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記混合伝導性膜は、電子及びイオンの両方を伝導する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記膜は、本質的に、CoCGOからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記膜は、本質的に、CoCGOからなる、請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年10月11日に出願された米国特許出願第63/254,373号の利益及び優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、水素生成に関する。より具体的には、本発明は、アンモニアを使用した電気化学的水素生成に関する。
【背景技術】
【0003】
石油及び化学産業では、水素が大量に必要とされる。例えば、大量の水素は、化石燃料の品質向上及びメタノール又は塩酸の生成に使用される。石油化学プラントは、水素化分解、水素化脱硫、水添脱アルキル化のための水素を必要とする。不飽和油脂の飽和レベルを増加させるための水素添加プロセスもまた、水素を必要とする。水素は、金属鉱石の還元剤でもある。水素は、水の電気分解、水蒸気改質、実験室規模の金属酸プロセス、熱化学的方法、又は嫌気性腐食から生成され得る。多くの国が水素経済を目指しており、大量の水素を輸送する必要がある。
【0004】
アンモニアは、加圧水素又は液化水素のいずれと比較しても、収容及び伝送が比較的容易であるため、水素輸送に好適な代用分子として特定されている。しかしながら、アンモニア自体は、容易には利用されず、水素に変換される必要がある。この変換プロセスは、残念ながら、窒素と混合された水素を生成し、これらの2つのガスは、容易に、効率的に、又は経済的に分離することが困難である。従来のシステム及びプロセスで有用であるためには、水素を窒素から分離する必要がある。
【0005】
明らかに、水素を生成するための新しい技術プラットフォームを開発する必要性及び重要性が高まっている。本開示は、効率的な電気化学的経路を介してアンモニアを利用した水素生成について考察する。そのような反応を行う電気化学反応器及び方法が考察される。
【発明の概要】
【0006】
本明細書で考察されるのは、水素を生成する方法であって、方法は、(a)陽極、陰極、及び陽極と陰極との間の膜を有する電気化学反応器を提供することと、(b)第1の流れを陽極に導入することであって、第1の流れは、アンモニア又はアンモニア分解からの生成物を含む、導入することと、(c)第2の流れを陰極に導入することであって、第2の流れは、水を含み、水素は、電気入力なしで水電気化学的に水から発生される、導入することと、を含む、方法である。
【0007】
一実施形態では、第1の流れ及び第2の流れは、互いに接触しない。一実施形態では、アンモニア分解からの生成物は、本質的に、水素及び窒素からなる。一実施形態では、アンモニア分解からの生成物は、分離又は精製することなく、陽極に直接送られる。一実施形態では、アンモニア分解は、陽極でin situで行われる。一実施形態では、第2の流れは、水素を含む。
【0008】
一実施形態では、陽極及び陰極は、膜によって分離され、両方とも還元環境に曝露される。一実施形態では、陽極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGMからなる群から選択される材料と、を含む。一実施形態では、陰極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む。
【0009】
一実施形態では、膜は、ガドリニウムドープセリア、サマリウムドープセリア、焼結助剤、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む。一実施形態では、膜は、本質的に、CoCGOからなる。一実施形態では、反応器は、配線を備えない。
【0010】
更に本明細書で考察されるのは、アンモニア源又はアンモニア分解器、燃焼器、及び混合伝導性膜を備える電気化学(EC)反応器を備える水素生成システムであって、EC反応器は、アンモニア源又はアンモニア分解器から第1の流れを受容するように構成されており、EC反応器は、電気を受容又は発電しないように構成されている、水素生成システムである。一実施形態では、膜は、酸化物イオン及び電子を伝導し、反応器は、配線を備えない。一実施形態では、膜は、流体流に対して不透過性である。
【0011】
一実施形態では、アンモニア源又はアンモニア分解器からの第1の流れは、分離又は精製されない。一実施形態では、EC反応器は、膜によって分離された陽極及び陰極を備え、陽極及び陰極はともに還元環境に曝露される。実施形態では、燃焼器は、EC反応器からの陽極排気及び酸化剤を受容するように構成されている。一実施形態では、陰極は、蒸気を受容するように、かつ電気化学的に水素を発生させるように構成されている。一実施形態では、アンモニア源又はアンモニア分解器は、燃焼器から排気を受容するように構成されている。
【0012】
更なる態様及び実施形態は、以下の図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲において提供される。別途指定されない限り、本明細書に説明される特徴は組み合わせ可能であり、全てのそのような組み合わせは、本開示の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図面は、本明細書に説明される特定の実施形態を例解するために提供される。図面は、単に例解的であり、特許請求される発明の範囲を限定することを意図せず、特許請求される発明の全ての潜在的特徴又は実施形態を示すことを意図しない。図面は、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではなく、いくつかの例では、図面の特定の要素は、例解目的のために図面の他の要素に関して拡大され得る。
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態による、電気化学(EC)反応器又は電気化学ガス生成器を例解する。
【
図2A】本開示の実施形態による管状電気化学反応器を例解する。
【
図2B】本開示の一実施形態による、管状電気化学反応器の断面を例解する。
【
図3】本開示の一実施形態による、アンモニアを使用して電気化学的に水素を生成するプロセスを例解する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概要
アンモニアは世界中で出荷される豊富で一般的な化学物質である。更に、アンモニア(水素とは異なり)は、高圧又は極低温下で保存する必要はなく、アンモニアは、リチウムイオン電池のエネルギ密度の10倍を有する。したがって、アンモニアを利用して水素を生成することは、それが効率的かつ経済的に行われる場合、非常に有利である。本明細書における開示は、アンモニアを利用して水素を生成するのに好適である電気化学システム及び方法を考察する。
【0016】
以下の用語及び句は、本明細書に別途提供されない限り、以下に示される意味を有する。本開示は、本明細書で明示的に定義されない他の用語及び句を用い得る。かかる他の用語及び句は、それらが当業者への本開示の文脈内で有するであろう意味を有するものとする。場合によっては、用語又は句は、単数又は複数で定義され得る。そのような場合、明示的に反対のことが示されない限り、単数形の任意の用語は、その複数形の対応物を含み得、逆もまた同様であることが理解される。
【0017】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途文脈が明示的に示さない限り、複数の指示物を含む。例えば、「置換基」への言及は、単一の置換基、並びに2つ以上の置換基などを包含する。本明細書で使用される場合、「例えば(for example)」、「例えば(for instance)」、「など(such as)」、又は「含む(including)」は、より一般的な主題を更に明確にする例を導入することを意味する。別途明示的に示されない限り、そのような例は、本開示に例解されている実施形態を理解するための補助としてのみ提供され、いかなる方法でも限定されることを意味しない。これらの句は、開示された実施形態に対するいかなる種類の好みを示すものでもない。
【0018】
本明細書で使用される場合、組成物及び材料は、別途指定されない限り、互換的に使用される。各組成物/材料は、複数の要素、相、及び構成要素を有し得る。本明細書で使用される場合、加熱は、組成物又は材料にエネルギを能動的に付加することを指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、YSZはイットリア安定化ジルコニアを指し、SDCはサマリアドープセリアを指し、SSZはスカンジア安定化ジルコニアを指し、LSGMはランタンストロンチウムガリウムマグネサイトを指す。
【0020】
本開示において、実質的な量のH2は、水素の体積含有量が5%以下、又は3%以下、又は2%以下、又は1%以下、又は0.5%以下、又は0.1%以下、又は0.05%以下であることを意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、CGOは、代替的に、ガドリニアドープセリア、ガドリニウムドープ酸化セリウム、酸化セリウム(IV)、ガドリニウムドープGDC又はGCO(式Gd:CeO2)としても既知である、ガドリニウムドープセリアを指す。別途指定されない限り、CGO及びGDCは、互換的に使用される。本開示におけるシンガス(すなわち、合成ガス)は、主に水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素からなる混合物を指す。
【0022】
混合伝導性膜は、電子及びイオンの両方を輸送することができる。イオン伝導性には、酸素イオン(又は酸化物イオン)、プロトン、ハロゲン化物アニオン、カルコゲニドアニオンなどのイオン種が含まれる。様々な実施形態では、本開示の混合伝導性膜は、電子伝導性相及びイオン伝導性相を含む。
【0023】
本開示において、管状体の軸方向断面は、円形であることが示され、これは例解的であるに過ぎず、限定的ではない。管状体の軸方向断面は、正方形、丸みを帯びた角を有する正方形、長方形、丸みを帯びた角を有する長方形、三角形、六角形、五角形、楕円形、不規則な形状などの、当業者に既知の任意の好適な形状である。
【0024】
本明細書で使用される場合、セリアは、酸化セリウム、二酸化セリウム、又は二酸化セリウムとしても既知である酸化セリウムを指し、希土類金属セリウムの酸化物である。ドープセリアは、サマリアドープセリア(SDC)又はガドリニウムドープセリア(GDC又はCGO)などの他の元素がドープされたセリアを指す。本明細書で使用される場合、クロマイトは、酸化クロムの全ての酸化状態を含む酸化クロムを指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、不透過性である層又は物質は、流体流に対して不透過性であるものを指す。例えば、不透過性層又は物質は、1マイクロダルシー未満、又は1ナノダルシー未満の透過性を有する。
【0026】
本開示において、焼結とは、液状化の程度まで材料を溶融させることなく、熱又は圧力、又はそれらの組み合わせによって材料の固体塊を形成するプロセスを指す。例えば、材料粒子は、加熱されることによって固体又は多孔質塊に合体され、材料粒子内の原子は、粒子の境界を横切って拡散し、粒子を融合させ、1つの固体片を形成する。
【0027】
本開示における「in situ」という用語は、同じ場所で、又は同じデバイス内で行われる処理(例えば、加熱又は分解)プロセスを指す。例えば、陽極の電気化学反応器で行われるアンモニア分解は、in situとみなされる。
【0028】
電気化学は、測定可能で定量的な現象としての電位と、識別可能な化学変化との間の関係に関わる物理化学の一部門であり、電位は、特定の化学変化の結果として得られるか、又はその逆のいずれかである。これらの反応は、イオン伝導性及び電子絶縁性膜(又は溶液中のイオン種)によって分離された電子伝導性相(典型的には外部電気回路であるが、必ずしもそうではない)を介して電極間を移動する電子を伴う。電気分解のように電位差によって化学反応が起こる場合、又は電池又は燃料電池のように化学反応から電位が生じる場合は、電気化学反応と呼ばれる。化学反応とは異なり、電気化学反応では、電子(及び必然的に得られるイオン)は、分子間で直接移送されるのではなく、それぞれ前述の電子伝導回路及びイオン伝導回路を介して伝達される。この現象は、電気化学反応と化学反応とを区別するものである。
【0029】
電気化学反応器及び使用方法に関連して、電極及び膜などの反応器の様々な構成要素が、構成要素の構造物の材料とともに説明される。以下の説明は、本明細書に開示される発明の様々な態様及び実施形態を詳述する。いかなる特定の実施形態も、本発明の範囲を定義することを意図しない。むしろ、実施形態は、特許請求される発明の範囲内に含まれる様々な組成物及び方法の非限定的な例を提供する。本説明は、当業者の視点から読まれるべきである。したがって、当業者に周知の情報は必ずしも含まれない。
【0030】
電気化学的デバイス(例えば、燃料電池)内の配線は、多くの場合、個々の電池又は繰り返しユニットの間に配置される金属又はセラミックのいずれかである。その目的は、各セル又は繰り返しユニットを接続して、電気を分配又は組み合わせることができるようにすることである。配線は、電気化学的デバイスでは、バイポーラプレートとも称される。本明細書で使用される場合、不透過性層である配線は、流体流に対して不透過性である層であるものを指す。
【0031】
電気化学反応器
従来の実施に反して、混合伝導性膜を備える電気化学反応器が見出されており、この反応器は、電気入力なしで、電気化学的に水から水素を生成することができる。電気化学反応は、燃料(例えば、炭素)を酸化するために、膜を通して酸化物イオンの交換を伴う。混合伝導性膜はまた、電子を伝導して電気化学反応を完了させる。したがって、反応器は、配線又はバイポーラプレートを備えない。更に、反応器は、電力を発生させず、燃料電池でもない。様々な実施形態では、電極は、それらに取り付けられた集電体を有しない。様々な実施形態では、反応器は、いかなる集電体も含有しない。明らかに、このような反応器は、いかなる電気分解デバイス又はいかなる燃料電池とも根本的に異なる。
【0032】
図1は、本開示の一実施形態による、電気化学反応器又は電気化学(EC)ガス生成器100を例解する。電気化学反応器(又はECガス生成器)デバイス100は、第1の電極101、膜103、及び第2の電極102を備える。第1の電極101(陽極とも称される)は、燃料104を受容するように構成されている。流れ104は、酸素を含有しない。本開示において、酸素が存在しないことは、第1の電極101に酸素が存在しないこと、又は少なくとも反応を妨げるほど十分な酸素が存在しないことを意味する。第2の電極102(陰極とも称される)は、105によって示されるように、水(例えば、蒸気)を受容するように構成されている。
【0033】
一実施形態では、デバイス100は、燃料(例えば、アンモニア又はアンモニア分解生成物)を含有する流れ104を受容するように、かつ第1の電極(101)でN2及びH2O(106)を発生させるように構成されている。様々な実施形態では、燃料は、H2、CO、シンガス、アンモニア、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、デバイス100はまた、水又は蒸気(105)を受容するように、かつ第2の電極(102)で水素(107)を発生させるように構成されている。いくつかの場合では、第2の電極は、蒸気及び水素の混合物を受容する。水は、反対側の電極で燃料(例えば、H2)を酸化するのに必要な酸化物イオン(膜を通して輸送される)を提供するため、このシナリオでは水は酸化剤とみなされる。したがって、第1の電極101は還元環境で酸化反応を行っており、第2の電極102は還元環境で還元反応を行っている。様々な実施形態では、103は酸化物イオン伝導性膜を表す。一実施形態では、酸化物イオン伝導性膜103は、電子も伝導する。したがって、膜は混合伝導性である。
【0034】
一実施形態では、第1の電極101及び第2の電極102は、Ni-YSZ又はNiO-YSZを含む。様々な実施形態では、電極101及び102は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む。代替的に、炭化水素を含有するガスは、膜103/電極101と接触する前に改質される。改質器は、蒸気改質、乾燥改質、又はそれらの組み合わせを実行するように構成されている。改質されたガスは、供給流104として好適である。
【0035】
様々な実施形態では、デバイスは、集電体を含有しない。一実施形態では、デバイスは、配線を備えない。電気の必要はなく、そのようなデバイスは、電解器ではない。これは、本開示のEC反応器の主要な利点である。膜103は、電子を伝導するように構成されており、そのため、混合伝導性、すなわち、電子伝導性及びイオン伝導性の両方が混合された伝導性である。一実施形態では、膜103は、酸化物イオン及び電子を伝導する。一実施形態では、電極101、102及び膜103は、管状である(例えば、
図2A及び
図2Bを参照)。一実施形態では、電極101、102及び膜103は平面である。これらの実施形態では、陽極及び陰極における電気化学反応は、反応器に電位/電気を印加する必要なしに自発的である。
【0036】
一実施形態では、電気化学反応器(又はECガス生成器)は、第1の電極、第2の電極、及び電極間に膜を備えるデバイスであり、第1の電極及び第2の電極は、デバイスの使用時に白金族金属を含有しない金属相を含み、膜は、酸化物イオン伝導性である。一実施形態では、第1の電極は、燃料を受容するように構成さていれる。一実施形態では、当該燃料は、アンモニア、若しくは水素、若しくは一酸化炭素、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、第2の電極は、水及び水素を受容するように構成されており、水を水素に還元するように構成されている。様々な実施形態では、そのような還元は、電気入力なしで電気化学的に行われる。
【0037】
一実施形態では、膜は、ドープランタンクロマイト又は電子伝導性金属又はそれらの組み合わせを含有する電子伝導性相を含み、膜は、ガドリニウムドープセリア(CGO)、サマリウムドープセリア(SDC)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムガリウムマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化されたジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含有するイオン伝導性相を含む。一実施形態では、ドープランタンクロマイトは、ストロンチウムドープランタンクロマイト、鉄ドープランタンクロマイト、ストロンチウム及び鉄ドープランタンクロマイト、ランタンカルシウムクロマイト、又はそれらの組み合わせを含み、伝導性金属は、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、Rh、又はそれらの組み合わせを含む。
【0038】
一実施形態では、膜は、ガドリニウムドープセリア、サマリウムドープセリア、焼結助剤、又はそれらの組み合わせを含む。様々な実施形態では、焼結助剤は、二価又は三価の遷移金属イオン又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、金属イオンは酸化物である。一実施形態では、遷移金属は、Co、Mn、Fe、Cu、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜は、CGOを含む。一実施形態では、膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む。一実施形態では、膜は、本質的に、CGOからなる。一実施形態では、膜は、CGOからなる。一実施形態では、膜は、本質的に、CoCGOからなる。一実施形態では、膜は、CoCGOからなる。一実施形態では、反応器は、配線を備えない。
【0039】
図2Aは、本開示の一実施形態による、管状電気化学(EC)反応器又はECガス生成器200を例解する(縮尺通りではない)。管状生成器200は、それぞれ、内側管状構造202と、外側管状構造204と、内側管状構造202と、外側管状構造204との間に配置された膜206と、備える。管状生成器200は、流体通過のための空隙空間208を更に含む。
図2Bは、本開示の一実施形態による、管状生成器200の断面を例解する(縮尺通りではない)。管状生成器200は、第1の内側管状構造202と、第2の外側管状構造204と、内側管状構造202と外側管状構造204との間の膜206と、を備える。管状生成器200は、流体通過のための空隙空間208を更に含む。
【0040】
一実施形態では、電極及び膜は管状であり、第1の電極は最も外側であり、第2の電極は最も内側であり、第2の電極は水及び水素を受容するように構成されている。一実施形態では、電極及び膜は管状であり、第1の電極は最も内側であり、第2の電極は最も外側であり、第2の電極は水及び水素を受容するように構成されている。一実施形態では、電極及び膜は管状である。
【0041】
上で考察されるようなEC反応器は、アンモニアから水素を生成するのに好適である。アンモニア分解からの生成物は、水素及び窒素を含み、供給流として直接EC反応器の陽極に送られる。一実施形態では、反応器は、金属相及びセラミック相を含む多孔質電極を備え、金属相は、電子伝導性であり、セラミック相は、イオン伝導性である。様々な実施形態では、電極は、それらに取り付けられた集電体を有しない。様々な実施形態では、反応器は、いかなる集電体も含有しない。明らかに、そのような反応器は、いかなる電気分解デバイス又は燃料電池とも根本的に異なる。
【0042】
反応器中で起こる電気化学反応は、電気化学的ハーフセル反応を含み、ハーフセル反応は、
【数1】
【数2】
【0043】
様々な実施形態では、ハーフセル反応は、三相の境界で行われ、三相の境界は、電子伝導性相及びイオン伝導性相と細孔との交点である。
【0044】
様々な実施形態では、アンモニア分解生成物は、水素及び窒素を含み、水素は、EC反応器の陽極に好適な燃料である。様々な実施形態では、アンモニア分解生成物は、本質的に、水素及び窒素からなる。様々な実施形態では、アンモニア分解生成物は、水素及び窒素からなる。本方法及びシステムの利点は、陽極供給流中の窒素の存在が、EC反応器の性能又は陰極側の水素の生成に影響しないことである。本方法及びシステムの別の利点は、電気を必要としないため、電気が供給されていない遠隔領域でアンモニアから水素の生成を実施することができることである。
【0045】
様々な実施形態では、イオン伝導性膜は、酸化物イオンを伝導する。様々な実施形態では、イオン伝導性膜は、固体酸化物を含む。様々な実施形態では、イオン伝導性膜は、流体流に対して不透過性である。様々な実施形態では、イオン伝導性膜は、電子も伝導し、反応器は配線を備えない。
【0046】
アンモニアを用いた水素生成
図3に例解されるように、アンモニアを利用する水素生成システム300が示される。システム300は、EC反応器331、アンモニア分解器321、及び燃焼器311を備える。EC反応器は、陽極301、陰極302、及び陽極と陰極との間の膜303を備える。様々な実施形態では、膜303は、混合伝導性である。アンモニア流322は、アンモニア分解器321に送られ、アンモニア分解器からの生成物流323は、EC反応器331の陽極301に送られる。アンモニア分解生成物は、窒素及び水素からなり、窒素を水素から分離する必要なく陽極で使用するのに好適である。これは、本開示のEC反応器を使用する独自の利点である。様々な場合において、陽極のニッケルはアンモニア分解のための触媒であるため、更なるアンモニア分解が陽極301においてin situで行われる。陽極301からの排気流324は、燃焼器311に送られる。燃焼器311は、酸化剤流312(例えば、空気又は酸素)も受容する。燃焼器311からの排気流324の少なくとも一部は、アンモニア分解器321に送られ、アンモニアの分解を促進する。例えば、アンモニア分解器は、流れ324がアンモニアを分解する熱を提供し、流れ325として出て行くような熱交換器として構成されている。様々な実施形態では、アンモニア分解器321は、触媒(例えば、ニッケル)を含む。EC反応器331の302の陰極は、水/蒸気304を受容するように、かつ水素(流れ305)を発生させるように構成されている。水素は、陰極で水を還元することによって、電気化学的に生成される。いくつかの場合では、流れ304は、水素も含む。
【0047】
代替的に、アンモニア分解器321は、必要とされない。アンモニア流322は、陽極301に直接送られ、そこでアンモニア分解がin situで行われ、EC反応器は、アンモニアを利用して陰極で水を電気化学的に水素に還元することができる。これは、本開示のEC反応器を使用する独自の利点であり、その理由は、(1)アンモニア分解が、陽極内にニッケルが存在することにより、陽極でin situで行われること、及び(2)窒素が反応器の性能に影響を与えず、膜を通して輸送される酸化物イオンを介して陽極で水素が電気化学的に酸化されるため、陰極で水から水素への電気化学的還元が可能になることである。ある意味では、本開示のEC反応器は、燃料側(陽極)の窒素が生成物側(陰極)の水素と混合しないような効率的なセパレータでもある。陰極排気中の水素を水から分離することは、簡単かつ安価である。
【0048】
本明細書で考察されるのは、水素を生成する方法であって、方法は、(a)陽極、陰極、及び陽極と陰極との間の膜を有する電気化学反応器を提供することと、(b)第1の流れを陽極に導入することであって、第1の流れはアンモニア又はアンモニア分解からの生成物を含む、導入することと、(c)第2の流れを陰極に導入することであって、第2の流れは、水を含み、水は電気化学的に水から発生され、第1の流れ及び第2の流れは、互いに接触しない、導入することと、を含む、方法である。
【0049】
一実施形態では、アンモニア分解からの生成物は、水素及び窒素からなる。一実施形態では、アンモニア分解からの生成物は、分離又は精製することなく、陽極に直接送られる。一実施形態では、陽極排気ガスの少なくとも一部は、アンモニア又はアンモニア分解からの生成物のための熱を提供するために燃焼される。一実施形態では、アンモニア分解は、陽極でin situで行われる。一実施形態では、アンモニア分解は、熱交換器内で行われる。
【0050】
一実施形態では、第2の流れは、水素を含む。一実施形態では、陽極及び陰極は、膜によって分離され、両方とも還元環境に曝露される。一実施形態では、陽極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGMからなる群から選択された材料と、を含み、陰極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された材料と、を含む。
【0051】
一実施形態では、膜は、ドープランタンクロマイト又は金属又はそれらの組み合わせを含有する電子伝導性相を含み、膜は、ガドリニウム又はサマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガリウム酸ストロンチウムマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含有するイオン伝導性相を含む。一実施形態では、ドープランタンクロマイトは、ストロンチウムドープランタンクロマイト、鉄ドープランタンクロマイト、ストロンチウム及び鉄ドープランタンクロマイト、ランタンカルシウムクロマイト、又はそれらの組み合わせを含み、伝導性金属は、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、Rh、Co、又はそれらの組み合わせを含む。
【0052】
一実施形態では、膜は、ガドリニウムドープセリア、サマリウムドープセリア、焼結助剤、又はそれらの組み合わせを含む。様々な実施形態では、焼結助剤は、二価又は三価の遷移金属イオン又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、金属イオンは、酸化物である。一実施形態では、遷移金属は、Co、Mn、Fe、Cu、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜は、CGOを含む。一実施形態では、膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む。一実施形態では、膜は、本質的に、CGOからなる。一実施形態では、膜は、CGOからなる。一実施形態では、膜は、本質的に、CoCGOからなる。一実施形態では、膜は、CoCGOからなる。一実施形態では、反応器は、配線を備えない。
【0053】
更に本明細書で考察されるのは、アンモニア源又はアンモニア分解器、燃焼器、及び混合伝導性膜を備える電気化学(EC)反応器を備える水素生成システムであって、EC反応器は、アンモニア源又はアンモニア分解器から第1の流れを受容するように構成されており、アンモニア源又はアンモニア分解器からの第1の流れは、分離又は精製されていない、水素生成システムである。
【0054】
一実施形態では、EC反応器は、膜によって分離された陽極及び陰極を備え、両方とも還元環境に曝露される。一実施形態では、膜は電子を伝導し、反応器は配線を備えない。一実施形態では、膜は、流体流に対して不透過性である。
【0055】
一実施形態では、膜は、ドープランタンクロマイト又は金属又はそれらの組み合わせを含有する電子伝導性相を含み、膜は、ガドリニウム又はサマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガリウム酸ストロンチウムマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含有するイオン伝導性相を含む。一実施形態では、ドープランタンクロマイトは、ストロンチウムドープランタンクロマイト、鉄ドープランタンクロマイト、ストロンチウム及び鉄ドープランタンクロマイト、ランタンカルシウムクロマイト、又はそれらの組み合わせを含み、伝導性金属は、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、Rh、Co、又はそれらの組み合わせを含む。
【0056】
一実施形態では、膜は、ガドリニウムドープセリア、サマリウムドープセリア、焼結助剤、又はそれらの組み合わせを含む。様々な実施形態では、焼結助剤は、二価又は三価の遷移金属イオン又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、金属イオンは、酸化物である。一実施形態では、遷移金属は、Co、Mn、Fe、Cu、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜は、CGOを含む。一実施形態では、膜は、コバルトドープCGO(CoCGO)を含む。一実施形態では、膜は、本質的に、CGOからなる。一実施形態では、膜は、CGOからなる。一実施形態では、膜は、本質的に、CoCGOからなる。一実施形態では、膜は、CoCGOからなる。
【0057】
一実施形態では、燃焼器は、EC反応器からの陽極排気及び酸化剤を受容するように構成されている。一実施形態では、陰極は、蒸気を受容するように、かつ水素を発生させるように構成される。一実施形態では、アンモニア源又はアンモニア分解器は、燃焼器から排気を受容するように構成されている。一実施形態では、燃焼器からの排気は、アンモニア又はアンモニア分解器からの生成物に熱を提供する。
【0058】
本開示は、本発明の異なる特徴、構造、又は機能を実施するための例示的な実施形態を説明していることを理解されたい。構成要素、配置、及び構成の例示的な実施形態が、本開示を簡略化するために説明される。しかしながら、これらの例示的な実施形態は、単に例として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。本明細書に提示される実施形態は、別途指定されない限り、組み合わされ得る。そのような組み合わせは、本開示の範囲から逸脱しない。
【0059】
更に、特定の用語は、特定の構成要素又はステップを指すために、本説明及び特許請求の範囲全体を通して使用される。当業者が理解するように、様々なエンティティは、異なる名称によって同一の構成要素又はプロセスステップを指し得、したがって、本明細書に説明される要素の命名規則は、本発明の範囲を限定することを意図しない。更に、本明細書で使用される用語及び命名規則は、名称が異なるが、機能は異ならない、構成要素、特徴、及び/又はステップを区別することを意図しない。
【0060】
本開示は、様々な修正及び代替的な形態の余地があるが、その具体的な実施形態は、例として図面及び説明に示される。しかしながら、図面及び詳細な説明は、本開示を、開示された特定の形態に限定することを意図するものではなく、逆に、本開示の趣旨及び範囲内に含まれる全ての修正、等価物、及び代替物を網羅することを意図するものであることを理解されたい。