IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 甲本 忠史の特許一覧 ▶ 酢屋 ユリ子の特許一覧 ▶ 高津 晋一の特許一覧

特許7621397微生物の分解剤水溶液及びその製造方法、消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システム
<>
  • 特許-微生物の分解剤水溶液及びその製造方法、消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】微生物の分解剤水溶液及びその製造方法、消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システム
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/02 20060101AFI20250117BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20250117BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A01N59/02 Z
A61L2/18
A01P3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023012657
(22)【出願日】2023-01-31
(65)【公開番号】P2024108344
(43)【公開日】2024-08-13
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502155297
【氏名又は名称】甲本 忠史
(73)【特許権者】
【識別番号】520269499
【氏名又は名称】酢屋 ユリ子
(73)【特許権者】
【識別番号】523034209
【氏名又は名称】高津 晋一
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】甲本 忠史
(72)【発明者】
【氏名】酢屋 ユリ子
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-095602(JP,A)
【文献】特表2001-521982(JP,A)
【文献】特開2001-120876(JP,A)
【文献】特開昭58-117293(JP,A)
【文献】特開平11-035987(JP,A)
【文献】特開昭61-165309(JP,A)
【文献】特開2003-321574(JP,A)
【文献】化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典8 縮刷版,共立出版株式会社,1989年,第412,413頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/02
A61L 2/18
A01P 3/00
C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を消毒・滅菌するための分解剤水溶液であって、
酸化剤であるペルオキソ二硫酸塩を含み、
20℃~70℃のpHが1~2の範囲であることを特徴とする分解剤水溶液。
【請求項2】
さらに、アルカリ化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の分解剤水溶液。
【請求項3】
前記分解剤水溶液中の前記ペルオキソ二硫酸塩の濃度が0.001モル/L以上飽和濃度以下であることを特徴とする請求項1に記載の分解剤水溶液。
【請求項4】
前記分解剤水溶液の製造から3ケ月経過後のpHが、製造時のpHに保持されていることを特徴とする請求項1に記載の分解剤水溶液。
【請求項5】
請求項1の分解剤水溶液の製造方法であって、
ペルオキソ二硫酸塩、又は、ペルオキソ二硫酸塩とアルカリ化合物を含む水溶液を、常圧下、90℃~100℃の範囲内の温度に加熱した後、20℃~70℃の範囲内の温度に冷却することを特徴とする分解剤水溶液の製造方法。
【請求項6】
冷却後の前記分解剤水溶液のpHを加熱前の水溶液のpHより低く、かつ、pHを1~2に調整することを特徴とする請求項5に記載の分解剤水溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかの分解剤水溶液を用いて、感染性・非感染性微生物を含む処理対象物を消毒・滅菌処理する工程を含む感染性・非感染性微生物の処理方法であって、
前記感染性・非感染性微生物が、
水中に溶解した状態、
あるいは、分解剤水溶液によって腐食されない固体表面に付着あるいは吸着した状態のいずれかであることを特徴とする消毒・滅菌処理方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかの分解剤水溶液を用いて、感染性・非感染性微生物を含む処理対象物を消毒・滅菌処理するシステムであって、
所定の条件で調製した前記分解剤水溶液を供給する分解剤水溶液供給部と、
該分解剤水溶液に前記処理対象物を浸漬して所定の方法で消毒・滅菌処理する消毒・滅菌処理部と、
消毒・滅菌処理後の溶液を回収する溶液回収部と、
前記処理対象物を水洗、乾燥後、回収する処理対象物回収部とを備え、
前記分解剤水溶液供給部で調製された前記分解剤水溶液は、処理後に前記溶液回収部にて回収され、前記処理対象物は、前記消毒・滅菌処理部にて処理された後、前記処理対象物回収部にて回収されることを特徴とする消毒・滅菌処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性・非感染性微生物の分解剤水溶液及びその製造方法、消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
消毒(disinfection)に関して、第17改正日本薬局方, 参考情報, 2414-2416には、細菌および真菌の消毒法として、試験菌数対数減少値(LRV)が、3log以上(>99.9%)をもって消毒効力を有すると規定している。
【0003】
また、滅菌(sterilization)に関して、「消毒と滅菌のガイドライン」(へるす出版、1999)中、無菌性保証レベルとして10-6レベルが示されている。
【0004】
また、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成30年3月、環境省環境再生・資源循環局)の資料(参考9)「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」中、最も滅菌抵抗性を有する生物指標として、(1)Bacillus stearothermophilus (ATCC 7953) および(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)が挙げられている。さらに、「消毒と滅菌のガイドライン」(へるす出版、2020)では、Bacillus atrophaeus ATCC9372が滅菌法に対して最も抵抗性の強い菌、すなわち指標菌の一つとして推奨されている。
【0005】
具体的には、1類感染症のリネン類の消毒は、熱水消毒(80℃10分間)の他、0.05~0.1%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中30分間浸漬消毒法がある。2類感染症の一部は、2~3.5%グルタルアルデヒドや0.55%フタラール水溶液中10分間浸漬消毒法がある。
【0006】
一方、滅菌法では、物理的滅菌法として(1)加熱法である高圧蒸気滅菌法と乾熱滅菌法、(2)照射法である放射線滅菌法(γ線、電子線)、(3)ろ過滅菌法が、化学的滅菌法として(1)酸化エチレンガス滅菌法、(2)過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌法、(3)低温蒸気ホルムアルデヒドガス滅菌法、(4)過酸化水素ガス低温滅菌法、および(5)化学滅菌剤(過酢酸、グルタラール、フタラール)が使用されている。
【0007】
これらの滅菌法は広く利用されているが、改善すべき課題もある。例えば、高圧蒸気滅菌法は、被滅菌物の内部に空気を残さないこと、滅菌チャンバー内に詰め込み過ぎないこと、滅菌温度、湿度、圧力等の計測と計器の点検などが必須である。
【0008】
また、酸化エチレンガス滅菌は、低温で滅菌ができるが、滅菌時間が長いこと、作業者への種々の健康被害、被滅菌物の品質劣化、可燃性なども注意を払わなければならない。
高真空状態において用いられる過酸化水素は100%電離した反応性の高いラジカルとして微生物を死滅させるプラズマ滅菌では、セルロース、粉体、液体を滅菌できないほか、長狭な管腔構造物への低浸透性などの問題がある。
【0009】
しかしながら、医療機関では上記の課題は長年に亘って改善されることなく今日に至っているのが実情である。従って、消毒、滅菌の実施が、特殊な条件下でなく、常圧下、100℃以下、しかも、安全性の高い水溶液中での稼働が可能な方法または装置および正しい取り扱いによって健康被害を生じない化学物質の開発が望まれる。本発明者は、上記の考えに基づいて、微生物の新規な消毒剤および滅菌剤の開発研究を鋭意検討した。
【0010】
非特許文献1“Sulfate Radical-Induced Disinfection of Pathogenic Escherichia coli O157:H7 via Iron-Activated Persulfate”(鉄によって活性化された過硫酸塩のラジカルによる病原性大腸菌O157: H7の消毒)と題する論文では、25℃において、鉄イオン(Fe2+)によって過硫酸イオン(S2O 2-)が活性化して得られる硫酸イオンラジカル(SO4 *-)による水処理における病原性大腸菌の殺菌に関する研究が報告された。
【0011】
非特許文献1では、Fenton反応と同様な鉄イオンを用いて、過硫酸カリウム(KPS)水溶液から活性な硫酸イオンラジカルを室温において生成しているが、医療機器、器具、その他種々の固体などの表面に付着、吸着した病原性・非病原性微生物のみの滅菌を行うためには、鉄イオンを発生する化合物が共存するため、処理後の工程数が多くなり、処理経費の面からも好ましくない。
【0012】
しかしながら、鉄イオンなどの共存物質を含まない系で、常圧下、100℃以下、特に室温において、過硫酸塩から硫酸イオンラジカルを発生してE. coli O157: H7などの感染性・非感染性微生物の消毒、さらには、細菌芽胞の滅菌に関する研究および特許文献は見当たらない。
【0013】
一方、非特許文献2には、70℃の過硫酸カリウム(KPS)水溶液中で、天然高分子のキトサン(chitosan)が、KPSの熱分解生成物の硫酸イオンラジカルによってキトサン分子の主鎖を分解切断し、キトサンが低分子化することが報告されている。なお、60℃~室温領域のKPS水溶液中において、KPSが熱分解しないため、非特許文献2には、室温領域でのKPS水溶液ではキトサンの分解については全く記載がない。
【0014】
特許文献1には、アパタイト鉱質形成に関連するナノバクテリアの種々の消毒薬混合物として、蒸留水中の50%過硫酸カリウムと5%スルファミン酸との1%混合物が記載されている。しかしながら、特許文献1には、具体的な滅菌方法の記載はない。さらに、この特許文献1の技術では、Bacillus stearothermophilusを死滅することができなかった。
【0015】
以上のように、本発明者は、鋭意、国内外の特許文献を調査した限り、60℃以上の温度のみならず、60℃以下の室温領域においてKPSおよびKPSとアルカリ化合物の混合物の水溶液中での感染性・非感染性微生物の消毒および細菌芽胞の滅菌方法に関する報告は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特表2002-519363号公報
【非特許文献】
【0017】
【文献】Environmental Science & Technology Letters, 4, 154-160 (2017)
【文献】Polymer Degradation and Stability, vol. 75 (1), 73-83 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、汎用性の高い酸化剤によってより安価で安全で効率的に、消毒のみならず、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞をも滅菌することのできる感染性・非感染性微生物の分解剤水溶液及びこれを用いた消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0020】
第1に、本発明の分解剤水溶液は、微生物を消毒・滅菌するための分解剤水溶液であって、
酸化剤である過硫酸塩化合物を含み、
20℃~70℃のpHが1~2の範囲であることを特徴とする。
第2に、上記1の発明の分解剤水溶液において、さらに、アルカリ化合物を含むことが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の分解剤水溶液において、前記分解剤水溶液中の前記過硫酸塩化合物の濃度が0.001モル/L以上飽和濃度以下であることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明の分解剤水溶液において、前記分解剤水溶液の製造から3ケ月経過後のpHが、製造時のpHに保持されていることが好ましい。
第5に、本発明の分解剤水溶液の製造方法は、過硫酸塩化合物、又は、該過硫酸塩化合物とアルカリ化合物を含む水溶液を、常圧下、90℃~100℃の範囲内の温度に加熱した後、20℃~70℃の範囲内の温度に冷却することを特徴とする。
第6に、上記第5の発明の分解剤水溶液の製造方法において、冷却後の前記分解剤水溶液のpHを加熱前の水溶液のpHより低く、かつ、pHを1~2に調整することが好ましい。
第7に、本発明の消毒・滅菌処理方法は、上記第1から第4のいずれかの分解剤水溶液を用いて、感染性・非感染性微生物を含む処理対象物を消毒・滅菌処理する工程を含む感染性・非感染性微生物の処理方法であって、
前記感染性・非感染性微生物が、
水中に溶解した状態、
あるいは、分解剤水溶液によって腐食されない固体表面に付着あるいは吸着した状態のいずれかであることを特徴とする。
第8に、本発明の消毒・滅菌処理システムは、上記第1から第4のいずれかの分解剤水溶液を用いて、感染性・非感染性微生物を含む処理対象物を消毒・滅菌処理するシステムであって、
所定の条件で調製した前記分解剤水溶液を供給する分解剤水溶液供給部と、
該分解剤水溶液に前記処理対象物を浸漬して所定の方法で消毒・滅菌処理する消毒・滅菌処理部と、
消毒・滅菌処理後の溶液を回収する溶液回収部と、
前記処理対象物を水洗、乾燥後、回収する処理対象物回収部とを備え、
前記分解剤水溶液供給部で調製された前記分解剤水溶液は、処理後に前記溶液回収部にて回収され、前記処理対象物は、前記消毒・滅菌処理部にて処理された後、前記処理対象物回収部にて回収されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の微生物の分解剤水溶液及びその製造方法、消毒・滅菌処理方法並びに消毒・滅菌処理システムによれば、より安価で汎用性の高い酸化剤によって、効率的かつ安全に感染性・非感染性微生物をLRV>3(試験菌数の1,000分の1以下)に消毒すること、および最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞をLRV>6(試験菌数の100万分の1以下)に滅菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の消毒・滅菌処理システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者は、感染性・非感染性微生物を効率よく消毒・滅菌できる分解剤について、鋭意、研究を重ねた結果、この酸化剤として、過硫酸塩化合物を含む水溶液が、従来の化学薬品等に比べ、消毒・滅菌性能に優れているばかりか、常圧、70℃以下の温和な条件下で効率良く、安全な環境下で使用でき、消毒・滅菌処理および洗浄処理後に感染性・非感染性微生物の分解物および分解剤が固体等の表面に残留することがないことを見出し、このような知見に基づいてこの出願の発明を完成した。
【0024】
以下に、本発明の感染性・非感染性微生物の分解剤水溶液の実施形態について詳細に説明する。本発明の分解剤水溶液は、酸化剤である過硫酸塩化合物を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明で用いられる過硫酸塩化合物は、特に限定されることはなく、例えば、過硫酸カリウム(ぺルオキソ二硫酸カリウム、KPS)、過硫酸ナトリウム(ぺルオキソ二硫酸ナトリウム)、過硫酸アンモニウム(ぺルオキソ二硫酸アンモニウム)などの水溶性酸化剤が好ましく用いられる。
【0026】
また、本発明の分解剤水溶液は、さらにアルカリ化合物を配合することができる。アルカリ化合物としては、水溶性であって、その水溶液中で一価の陽イオンと一価あるいは二価の陰イオンに解離してアルカリ性を示すものが好適に用いられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、シュウ酸カリウムなどのアルカリ金属シュウ酸塩、コハク酸-ナトリウムなどのアルカリ金属コハク酸塩、グリシン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸のアルカリ金属塩を例示することができる。これらの中でも特に、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0027】
また、分解剤水溶液中の過硫酸塩化合物(酸化剤)の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.001モル/L以上飽和濃度以下であることが好ましい。また、冷却前の水溶液のpHは1~9の範囲であれば特に限定されるものではない。
【0028】
また、分解剤水溶液中のアルカリ化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、アルカリ化合物と過硫酸塩とのモル濃度比が0以上1以下であることが好ましい。
【0029】
さらに、分解剤水溶液の温度は、常圧下において、20℃~70℃の範囲で用いられる。なお、本発明において、常圧下とは大気圧に等しい圧力であり、ほぼ1気圧を意味する。
【0030】
消毒・滅菌処理後の過硫酸塩化合物からなる分解剤水溶液が所定の濃度、温度を保持していれば、被滅菌物質を取り出した後、滅菌水(滅菌精製水)による洗浄・乾燥などの処理に供することが可能であり、また、過硫酸塩化合物からなる分解剤水溶液が更なる使用に供さない場合は、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ化合物と混合し、環境負荷のない硫酸ナトリウム等の安全な中性の塩水溶液として廃棄することが可能となる。
【0031】
本発明の分解剤水溶液による消毒(LRV>3)に供される感染性・非感染性微生物の代表例として、下記の栄養型細菌が挙げられる。
1)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:S. aureus)、
2)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)、
3)表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis: S. epidermidis)、
4)メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis: MRSE)、
【0032】
5)腸管出血性大腸菌(Entero-hemorrhagic Escherichia coli: EHEC) 1) E. coli O157:H7、 2)EHECの病原因子として、ベロ毒素の他、腸上皮への接着に関わるインチミンに代表される定着因子がある。菌体表面に存在するO抗原、鞭毛に存在するH抗原による血清型で分類され、本邦ではO157、次いでO26、O111が多い。
3)下痢原性大腸菌は、以下の5種類に分類されている。
(1) 腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli: EPEC)、
(2) 腸管侵入性大腸菌(enteroinvasive Escherichia coli: EIEC)、
(3) 毒性原性大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli: ETEC)、
(4) 腸管凝集性大腸菌(enteroaggregative Escherichia coli: EAEC)、
(5) 腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)、
【0033】
6)ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:H. pylori)、
7)肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae:K. pneumoniae)、
8)化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes:S. pyogenes)、
9)バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant enterococci:VRE)、
10)カンピロバクタ―(Campylobacter jejuni:C. jejuni)、
11)赤痢菌(Shigella sonnei:S. sonnei)、
12)コレラ菌(Vibrio cholerae:V. cholerae)、
13)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:P. aeruginosa)、
14)多剤耐性緑膿菌(Multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)、
【0034】
15) 多剤耐性アシネトバクター(Multi-drug resistant Acinetobacter bauminnii:MDRAB)、
16) レジオネラ(Legionella pneumophila:L. pneumophila)、
17) サルモネラ菌(Salmonella enterica:S. enterica)、
18) 腸チフス(チフス菌)(Salmomella enterica subsp. enterica serovar Typhi)、
19) パラチフス(パラチフスA菌)(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Paratyphi A)
20) セラチア菌(Serratia marcescens : S. marcescens)
【0035】
また、滅菌(LRV>6)に供する試料として、最も滅菌抵抗性を有する生物指標である細菌芽胞(1)Bacillus stearothermophilus (ATCC 7953)、(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)および(3)Bacillus atrophaeus(ATCC9372)が挙げられる。
【0036】
以下に、上記本発明の分解剤水溶液の製造方法について説明する。
本発明の分解剤水溶液は、酸化剤としての過硫酸塩化合物または、該過硫酸塩化合物とアルカリ化合物を含む水溶液を、常圧下で所定の温度で加熱して、一定時間保持した後冷却し、所定のpHに調製することにより製造される。
【0037】
具体的には、まず、酸化剤としての過硫酸塩水溶液あるいは過硫酸塩とアルカリ化合物の混合水溶液を調製する。この場合の過硫酸塩化合物の濃度は0.001モル/L以上飽和濃度以下が好ましく、0.01~0.2モル/Lがより好ましい。
また、過硫酸塩とアルカリ化合物の混合水溶液における分解剤水溶液中のアルカリ化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、アルカリ化合物と過硫酸塩とのモル濃度比が0以上1以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の分解剤水溶液中の製造方法では、まず、上記条件の水溶液を常圧下で加熱する。加熱温度としては90℃~100℃の範囲である。次に、上記温度で加熱した水溶液を、その温度を保持した状態で30分以上加熱保持する。
次に、その水溶液を20℃~70℃の範囲内の温度に冷却する。そして、この冷却により水溶液のpHを1~2に調整して、分解剤水溶液とする。なお、上記冷却温度は、pHの値を上記の範囲に調整可能な温度に設定する。また、分解剤水溶液のpHは、加熱前の水溶液のpHより低く調整することが望ましい。
【0039】
また、本発明においては、上記本発明の方法により製造した分解剤水溶液を用いた消毒・滅菌処理方法により、より確実な消毒・滅菌処理効果を得ることができる。以下に本発明の消毒・滅菌処理方法について詳述する。本発明の消毒・滅菌方法は、上述した本発明の分解剤水溶液を用いて、感染性・非感染性微生物を含む処理対象物を消毒・滅菌処理する工程を含む。
【0040】
消毒・滅菌処理する工程において、感染性・非感染性微生物が水中に溶解または分散した状態、あるいは分解剤水溶液によって腐食されない固体表面に付着、吸着した状態であることが望ましい。また、消毒・滅菌処理を行う容器は、分解剤水溶液によって腐食されない固体の材料からなることが不可欠である。
【0041】
分解剤水溶液によって腐食されない固体の材料としては、例えば、SUS304、SUS316などのステンレス鋼、耐熱硝子およびポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアセタール、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-L-乳酸、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、ポリイミド、メチルビニルシリコーンゴム、ポリウレタンなどに代表されるホモポリマー、これらの共重合体およびブレンド物、セルロースおよびパルプ等の天然繊維、不織布、炭素繊維および芳香族ポリアミド繊維などを含む繊維強化樹脂などの複合材料等を例示すことができる。
【0042】
また、微生物が付着あるいは吸着した処理対象物は特に限定されず、例えば、医療機器、繊維製品、フィルム、各種成形物、器具類、各種容器などを例示することができる。これらの処理対象物は、本発明の分解剤水溶液によって腐食されないステンレス製容器、ガラス製容器、樹脂製容器、およびこれらの複合素材からなる容器および器具を用いて、分解剤水溶液の調製、反応、洗浄、乾燥工程によって消毒・滅菌操作を完結する。
【0043】
さらに、本発明の消毒・滅菌処理方法では、分解剤水溶液中での分解処理を、静置状態で行うこともでき、適宜、撹拌あるいは超音波照射とともに行うことができる。
分解剤水溶液中で、処理対象物を処理する時間(感染性・非感染性微生物を分解する時間)としては、酸化剤の濃度、分解剤組成、温度により適宜選択することができ、特に限定されない。
【0044】
さらに、本発明においては、上記本発明の分解剤水溶液を用いた消毒・滅菌処理システムを構築することができる。以下に、本発明の消毒・滅菌処理システムの一実施形態について図を用いて詳述する。
【0045】
上記本発明の消毒・滅菌処理システムでは、分解剤水溶液として、過硫酸塩水溶液あるいは過硫酸塩とアルカリ化合物の混合水溶液を用い、これらの水溶液に対して耐分解性を有する容器中で処理対象物に付着した感染性および非感染性微生物を消毒・滅菌し、処理終了後は、必要に応じて中和処理および安全で環境保全性を有する廃液として可能であって、さらに、上記の圧力・温度の範囲内で滅菌水(滅菌精製水)にて処理対象物の洗浄・乾燥が可能な処理システムを実現することができる。
【0046】
具体的な本実施形態の消毒・滅菌処理システムとしては、図1に示すように、所定の条件で調製した分解剤水溶液を供給する分解剤水溶液供給部1と、この分解剤水溶液に処理対象物である被消毒・滅菌物を浸漬して所定の方法で消毒・滅菌処理する消毒・滅菌処理部2と、消毒・滅菌処理後の溶液を回収する溶液回収部3、および、処理対象物を水洗、ろ過、乾燥後、回収する処理対象物回収部4とを備えている。そして、分解剤水溶液供給部1で調製された分解剤水溶液は、処理後に溶液回収部3にて回収することができ、処理対象物は、消毒・滅菌処理部2にて処理された後、処理対象物回収部4にて回収することができる。
【0047】
本実施形態の消毒・滅菌処理システムでは、分解剤水溶液供給部1にて行われる分解剤水溶液の供給、保存、また、消毒・滅菌処理部2で行われる消毒、滅菌反応、水溶液の温度調整および処理対象物の収容、分解剤水溶液に浸漬するための器具として、上記消毒・滅菌処理方法において例示した各種容器を用いることができる。また、消毒・滅菌処理後の溶液を回収する溶液回収部3および、処理対象物を水洗、ろ過、乾燥後、回収する処理対象物回収部4では、通常、公知の溶液回収、水洗・乾燥用器具を用いることができ、さらに、例えば、ステンレス製カゴ等を併用することができる。上記容器、器具の形状、サイズ等は特に限定されず、処理対象物の大きさ等に応じて適宜選定することができる。また、上記分解剤水溶液供給部1には、原材料となる過硫酸塩水溶液あるいは過硫酸塩の調合機構、水溶液の加熱機構、冷却機構等を設けることもできる。
【0048】
上記本発明の消毒・滅菌処理システムにより、分解剤水溶液の調製、その保存、消毒・滅菌を効率的に行うことができ、また、処理後の溶液の回収、処理対象物の回収を安全かつ効率的に行うことが可能となる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
非特許文献1で示したように、Fenton反応のような鉄イオン存在下において、過硫酸カリウム(以下、単にKPSともいう)は水溶液中、室温において硫酸イオンラジカルを生成し、それが微生物の消毒、殺菌能力を生じることが知られている。しかしながら、金属イオン等を含む場合、消毒・滅菌後にそれらの洗浄・除去の工程が必要となる。
【0051】
本発明者は、鉄イオン等の作用物質を含まず、無色無臭で透明な水溶液系で、さらに、室温を含む広い温度領域において、水溶液中でKPSから安定なイオンラジカルを生成する方法、さらに、同イオンラジカルの作用による感染性・非感染性微生物の消毒・滅菌を実現する新規な方法を見出し、以下の実施例によりこれらの効果を確認した。
【0052】
(実施例1)
(KPS水溶液のpHの温度依存性)
実施例1として、KPS水溶液の温度依存性を確認した。具体的には、70℃の水溶液中で、KPSから生成する硫酸イオンラジカルの作用によって、天然高分子(栄養型細菌、細菌芽胞)の分子鎖が分解される条件において、表1に示す条件でKPS水溶液の温度変化による水溶液のpHを確認した。その結果を表1に示す。この結果から、KPS水溶液は70℃ではpH2.2であることを確認した。
【0053】
また、KPS濃度0.1モル/Lの水溶液は、室温(20℃)ではpH5.3、25℃でpH5.1、37.5℃でpH3.4、55℃でpH2.7、90℃でpH1.1にまで低下することを見出した。
【0054】
【表1】
【0055】
さらに、KPS水溶液を90℃で30分加熱後、所定温度に冷却後のpHを測定した。具体的には、常圧下で、KPS水溶液を加熱して室温から90℃まで昇温し、同温度で30分間保持し、その後、25℃、55℃、70℃の温度まで冷却し、各温度でKPS水溶液のpHを測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
これらのKPS水溶液は、表2に示すように、いずれもpH1~pH2の範囲内であることが確認された。すなわち、従来の技術では調製できなかった70℃以上と同等のKPSの硫酸イオンラジカル水溶液を、室温領域でも調製することに成功した。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例2)
上記実施例1において、各水溶液が低pHを示したことから、次に、加熱・冷却処理を行ったKPS水溶液による消毒・滅菌試験を実施した。実施例1において、90℃、30分間加熱後、所定温度まで冷却して調製したKPS水溶液を密閉ガラス容器中、室温で3カ月以上の長期間保持したところ、いずれもpHはほとんど変化しないことを見出した。
【0059】
以下に、本発明の上記実施例1および実施例2の分解剤水溶液による感染性・非感染性微生物の消毒(disinfection)・滅菌(sterilization)試験方法について、実施例とともに述べるが、本発明の分解剤水溶液および消毒・滅菌試験方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、分解剤水溶液は、KPS単独でも、KPSとアルカリ化合物の混合水溶液でも有効である。
【0060】
(消毒試験方法)
第17改正日本薬局方、参考情報2414-2416に認められている細菌および真菌の消毒法の生物指標の代表例として、栄養型細菌の一つである腸管出血性大腸菌O157:H7に対する消毒試験を下記の通り実施した。
【0061】
使用培地として、(1)Tryptic Soy Agar (Difico, 以下、TSAと記載)および(2)SCDLPブイヨン培地を用い、培地の試薬として塩化ナトリウム(0.85%溶液生理食塩液)を用いた。
【0062】
試験菌として、腸管出血性大腸菌O157:H7(Escherichia coli RIMD 0509939ベロ毒素産生株)を用いた。なお、試験菌液は、凍結保存された菌株をTSAに接種して、36±2℃で24時間培養した。さらに同培地に接種して、36±2℃で18時間培養した。次いで、滅菌イオン交換水に懸濁して約10CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。
【0063】
試験溶液の調製方法として、ガラス製三角フラスコ中、KPS水溶液(0.1モル/Lまたは0.01モル/L)を調製した。この水溶液を種々の所定温度に保持し試験液とした。また、90℃で30分間加熱後、種々の温度に冷却後、同温度の溶液を試験液とした。また、加熱前後の水溶液のpHを測定した。
【0064】
殺菌効力試験は、試験液10mLに試験菌液 0.1mLを加え、混合し、所定温度において所定時間作用させた。所定時間作用後、試験液1mLを不活性化剤(SCDLP)9mLに添加して、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。作用時間0(初期)および対照は、試験液の代わりに滅菌生理食塩液を用いた。
【0065】
菌数測定は、菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製した。試料液原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて36±2℃で43時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験液1mL当りの試験菌数を求めた(定量下限値10CFU)。
【0066】
菌数対数減少値(LRV: log reduction value)の算出は、試験菌の摂取菌数と試験溶液の菌数から、下記式1を用いて算出した。なお、LRVは小数点1桁(2桁目を切り捨て)で表記した。
LRV(菌数対数減少値)= Log10(対照の初期菌数/試験液作用後の菌数) (式1)
なお、病原体の消毒(disinfectionに関して、第17改正日本薬局方、参考情報2414-2416では、試験菌数対数減少値(LRV)が3log以上(>99.9%)をもって消毒効力を有すると規定している。
【0067】
(滅菌試験方法)
感染性・非感染性微生物の内、最も滅菌抵抗性を有する生物指標として、Geobacillus stearothermophilus (ATCC 7953)とBacillus atrophaeus(ATCC 9372)に対する滅菌試験を、下記の通り実施した。
【0068】
使用培地として、(1)Tryptic Soy Agar (Difico, 以下、TSAと記載)および(2)SCDLPブイヨン培地を用い、培地の試薬として塩化ナトリウム(0.85%溶液生理食塩液)を用いた。
【0069】
試験菌として、Geobacillus stearothermophilus ATCC7953 (CROSSTEX社製芽胞液、Lot. AR579、約10CFU/mL、上記滅菌指標芽胞菌)またはBacillus atrophaeus ATCC9372 (NAMSA社製芽胞液、Lot. N35105、約10CFU/mL、または、CROSSTEX社製芽胞液、Lot. BT324、約10CFU/mL、乾熱滅菌指標細菌)を用い、これらの芽胞液原液を試験に供した。
【0070】
試験溶液の調製方法として、ガラス製容器に所定量の滅菌蒸留水を分取し、これに分解剤を溶解した。
殺菌効力試験は、前記試験溶液を調製後、該試験溶液を試験温度±2℃以内に保持し、試験菌液0.1mLを添加、混合し、所定時間作用させた。所定時間経過後の混合液1mLを、有効性を確認した不活性化剤 SCDLP 9 mLに加えて、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。対照は、試験溶液の代わりに生理食塩液を用い、同様に作用させた。
【0071】
菌数測定は、菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液および希釈液の各1mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて、Bacillus atrophaeusは36±2℃で、Geobacillus stearothermophilusは52±2℃で、48時間培養した。また、KPS試験液の試料原液の残液全てを、孔径0.45μmメンブレンフィルター(ミリポア)でろ過して、TSA平板培地へ貼り付け、前記同様に培養した。培養後の発育集落を数えて、試料溶液1mL当りの菌数を求めた(定量下限値:1CFU/mL)。
【0072】
菌数対数減少値の算出は、試験菌の接種菌数と試験溶液の菌数から、前出の式1を用いて菌数対数減少値(LRV)および減少率を算出した。
ここで、LRV値が6以上であれば、分解剤水溶液によって、試料溶液中の菌数が100万分の1以下に減少したこと、すなわち、分解剤水溶液が優れた滅菌性能を有することを意味する。
【0073】
(感染性・非感染性微生物の消毒試験)
以下、実施例3、実施例4、比較例1の感染性・非感染性微生物の消毒試験について詳述する。実施例3,4と比較例1のKPS水溶液によるE. coli O157:H7の消毒試験条件とその結果を表3に示す。
【0074】
(実施例3)
短時間の温和な条件下で、腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒試験を行うために、実施例1および実施例2に記載の方法を適用した。まず、90℃、30分間以上加熱してKPS濃度0.1モル/Lの分解剤水溶液(pH1)を55℃まで冷却して該分解剤水溶液(pH1.2)を得た。この分解剤水溶液を用いて、消毒試験を行い、LRV>5.6という高い値を得た。すなわち、LRV>3.0をはるかに超える殺菌効果が得られた。
【0075】
(実施例4)
KPS分解剤濃度を0.01モル/Lとした以外は、実施例3より温和な条件下で消毒試験を実施した。この場合、実施例1および実施例2の方法を適用し、該KPS水溶液(室温、pH5.4)を90℃で30分間加熱後(pH1.7)、25℃まで冷却し、KPS分解剤水溶液(pH1.9)を調製した。この分解剤水溶液(25℃、pH1.9)において、腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒試験を5分間実施した結果、LRV>3.0を超えており、KPS濃度0.01モル/Lという低濃度で、しかも常温25℃、5分間という温和な条件で消毒が可能であり、さらに、後処理において、KPSが活性化された硫酸イオンラジカルは、炭酸水素ナトリウム水溶液により中和され、硫酸ナトリウムとなるので、ろ過、水洗という簡便で安全な方法によって無害化処理が可能であった。
【0076】
(比較例1)
KPS濃度0.01モル/L水溶液の90℃、30分の予備加熱および冷却工程を除いた以外は、実施例4と同様、直接25℃の蒸留水にKPSを溶解して、濃度0.01モル/LのKPS水溶液を調製し、同温度で30分間保持した。次に、該KPS水溶液(pH5.1)中、25℃、5分間、腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒試験を行った。その結果、LRV=0、すなわち、全く消毒作用効果が生じなかったことが明らかになった。従って、25℃においてKPS水溶液を調製しても、直接、消毒や滅菌作用に適用できないが、実施例4のように、一旦、該KPS水溶液を90℃、30分間保持後、冷却または放冷し、25℃にしたKPS分解剤水溶液(pH約1.9)中、腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒を5分間で実施できることが立証された。
【0077】
【表3】
【0078】
(アルカリ化合物含有分解剤水溶液の消毒試験)
次に、実施例5,6として、分解剤水溶液として、KPSとアルカリ化合物としての炭酸水素ナトリウムとの混合水溶液中において腸管出血性大腸菌O157:H7の分解に伴う消毒試験を下記の条件に沿って実施した。腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒試験条件および結果を表4に示す。
【0079】
(実施例5)
アルカリ化合物として、炭酸水素ナトリウムを用い、KPS濃度/炭酸水素ナトリウム濃度を0.1(モル/L)/0.05(モル/L)とした以外は、実施例3と同様の方法で消毒試験を行った。その結果、実施例3と同様にLRV>5.6という高い値が得られ、アルカリ化合物を含有させた場合においても高い消毒効果が確認された。
【0080】
(実施例6)
アルカリ化合物として、炭酸水素ナトリウムを用い、KPS濃度/炭酸水素ナトリウム濃度を0.01(モル/L)/0.005(モル/L)とした以外は、実施例4と同様の方法で消毒試験を行った。その結果、消毒剤の効力ありと判定されるLRV>3.0を超えるLRV>3.9という高い値が得られ、アルカリ化合物を含有させた場合においても同様の消毒効果が確認された。
【0081】
【表4】
【0082】
以上述べたように、腸管出血性大腸菌O157:H7のKPS水溶液中およびKPSと炭酸水素ナトリウムとの混合水溶液中での消毒試験によってLRV>3.0(菌数1,000分の1以下)が達成されたことから、前出の腸管出血性大腸菌O157:H7に代表される20種類の栄養型細菌群に対しても適用可能と言える。
【0083】
(70℃以上での細菌芽胞の滅菌試験)
常圧、70℃以上100℃以下の条件下での、KPSと炭酸水素ナトリウムの混合水溶液中における、細菌芽胞の分解に伴う滅菌試験を実施した。
【0084】
(参考例1)
パイレックス(登録商標)ガラス容器(ビーカー)中で、過硫酸カリウム(KPS)0.2モル/Lからなる分解剤水溶液を調製し、85℃に加温した分解剤水溶液9mLに、Bacillus atrophaeus (ATCC9372) 菌液0.1mLを混合し、これを試験溶液とした。接種菌数は、2.2×10CFU/試験溶液1mLであり、これを上記温度で60分間静置し、分解剤を作用させた。その後、不活化剤の有効性を確認したSCDLP培地9mLに試験溶液1mLを添加混合し、試験溶液の効力を停止させ菌数を測定した。なお、試験原液の残液すべてを、孔径0.45μmメンブレンフィルターでろ過、培養後の発育集落を数えて、試料溶液1mL当たりの菌数を求めた(定量下限値:1CFU/mL)。その結果、LRV>6.4が得られ、該分解剤水溶液は、Bacillus atrophaeusに対して高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0085】
(参考例2および参考例3)
分解剤水溶液として、KPS0.2モル/L(参考例2)とKPS0.2モル/Lと酸水素ナトリウム0.1モル/L(モル比2/1)からなる混合水溶液(参考例3)を用い、初期菌数2.2x10CFU/試験溶液1mL分解剤水溶液の温度をそれぞれ95℃および85℃で滅菌試験を実施した。その結果を表5に示す。この結果、滅菌試験後LRV>6.3が得られ、該分解剤水溶液は、高い滅菌性能を有することが確認された。
また、Geobacillus stearothermophilus ATCC7953についても、前記の参考例1~参考例3と同様の滅菌試験を実施した結果、いずれもLRV>6.2が得られ、該分解剤水溶液は、高い滅菌性能を有することが確認された。
【0086】
【表5】
【0087】
次に、90℃以上30分以上加熱後、70℃以下に冷却保持したKPS分解剤水溶液中で細菌芽胞の滅菌試験を実施した。なお、滅菌試験後の菌数測定は、参考例1と同様に、試験原液の残液すべてを、孔径0.45μmメンブレンフィルターでろ過、培養後の発育集落を数えて、試料溶液1mL当たりの菌数を求め(定量下限値:1CFU/mL)、その結果からLRVの値を得た。
【0088】
(実施例7)
室温で調製したKPS水溶液を90℃、30分間保持(pH1.4)後、同溶液を70℃まで冷却し、同温度に保持した場合、溶液は一定値pH1.6となった。そこで、この条件下、すなわち、90℃、30分間加熱後70℃に冷却、保持したKPS濃度0.1モル/L水溶液中、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施したところ、LRV>6.5の滅菌状態を示す高い値が得られた。
【0089】
(実施例8)
KPS濃度を0.05モル/L水溶液とした以外は、実施例7と同様90℃、30分間加熱後、70℃に冷却、保持し、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。この条件下では、水溶液のpHは1.8であった。その結果、LRV>6.5の高い値が得られ、実施例7より低濃度でも、高い滅菌効果が得られ、KPS水溶液を90℃に加熱後、70℃に冷却、保持することによって、細菌芽胞をより効果的に滅菌できることが明らかになった。
【0090】
(実施例9)
菌種をGeobacillus stearothermophilusとした以外は、実施例7と同条件で滅菌試験を実施した。その結果、LRV>6.5が得られ、高い滅菌効果が立証された。
【0091】
(実施例10)
菌種をGeobacillus stearothermophilusとした以外は、実施例8と同条件で滅菌試験を実施した。その結果、LRV>6.5が得られ、また、細菌芽胞の種類が異なっても、低濃度で高い滅菌効果が発現することが立証された。
【0092】
(実施例11)
菌種をBacillus atrophaeusとし、KPS0.1モル/Lの水溶液を90℃、30分間保持(pH1.4)後、同溶液の温度を55℃まで冷却し、同温度に24時間保持した以外は、実施例7と同条件で滅菌試験を実施し、70℃よりも低い55℃でもLRV>6.4の高い滅菌性能が得られ、本発明の新規性が立証された。
【0093】
(実施例12)
さらに、水溶液中のKPS濃度を0.05モル/Lとした以外は、実施例11と同条件で滅菌試験を実施し、55℃でしかも実施例11より低濃度のKPS水溶液でもLRV>6.4の高い滅菌性能が得られることが明らかになった。
【0094】
(実施例13)
菌種をGeobacillus stearothermophilusとした以外は、実施例11と同条件で滅菌試験を実施した。その結果、LRV>6.6が得られ、高い滅菌性能が得られた。
【0095】
(実施例14)
さらに、水溶液中のKPS濃度を0.05モル/Lとした以外は、実施例13と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.6の高い滅菌性能が、実施例13より低濃度のKPS水溶液でも得られ、本発明の新規性が55℃においても細菌芽胞に対して高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0096】
(実施例15)
菌種をBacillus atrophaeusとし、KPS0.2モル/L、加熱・冷却後の滅菌試験温度を、菌種をBacillus atrophaeusとし、KPS0.2モル/L、加熱・冷却後の滅菌試験温度をさらに低温の37.5℃、試験時間を48時間とした以外は、実施例11と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.4の高い滅菌性能が得られた。
【0097】
(実施例16)
さらに、水溶液中のKPS濃度を0.1モル/Lとした以外は、実施例15と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.4の高い滅菌性能が得られた。
【0098】
(実施例17)
菌種をGeobacillus stearothermophilus、試験時間を24時間とした以外は、実施例15と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.6の高い滅菌性能が得られた。
【0099】
(実施例18)
さらに、水溶液中のKPS濃度を0.1モル/Lとした以外は、実施例17と同条件で滅菌試験を実施し、37.5℃においても、LRV>6.6の高い滅菌性能が得られた。
【0100】
(実施例19)
菌種をBacillus atrophaeusとし、加熱・冷却後の滅菌試験温度を25℃と、試験時間を5日間とした以外は、実施例15と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.4の高い滅菌性能が得られた。
【0101】
(実施例20)
さらに、KPS水溶液の濃度を0.1モル/Lとした以外は、実施例19と同条件で滅菌試験を実施し、5日間ではあるが、低濃度で、しかも室温のKPS水溶液により、Bacillus atrophaeusに対して、LRV>6.4という高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0102】
(実施例21)
菌種をGeobacillus stearothermophilusとした以外は、実施例19と同条件で滅菌試験を実施し、細菌芽胞の種類が代わっても本発明のKPS水溶液は、90℃で30分間加熱後、冷却した室温(25℃)において、長時間、イオンラジカルとしての活性を有し、LRV>6.6の高い滅菌性能を示すことが立証された。
【0103】
(実施例22)
水溶液中のKPS濃度をさらに低い0.1モル/Lとした以外は、実施例21と同条件で滅菌試験を実施し、LRV>6.6の高い滅菌性能を得ることができた。上記の結果から、本発明の滅菌剤水溶液は、比較例1に示した低濃度(0.01モル/L)において、わずか5分間の反応によって、腸管出血性大腸菌O157:H7の消毒が可能なばかりか、KPS濃度0.1モル/Lの水溶液中、最大5日間で細菌芽胞をも滅菌できることが明らかになった。上記実施例7~実施例22の条件および結果を表6に示す。
【0104】
【表6】
【0105】
(比較例4)
試験時間を24時間とした以外は、実施例20(試験時間5日)と同条件(90℃、30分加熱後、冷却し25℃)で滅菌試験を実施した結果、LRV=3.7が得られた。この結果は、実施例20の滅菌試験の途中のLRV値を示している。換言すれば、本発明におけるKPS水溶液は、90℃で30分以上加熱後、種々の温度に冷却した水溶液の滅菌反応性に温度依存性はあるものの、表6に記載の試験時間よりはるかに短い時間で滅菌が完了(LRV>6)していることが推察される。LRVの経時変化の試験結果を下記に示す。
【0106】
(LRVの経時変化)
(実施例23および実施例24)
「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」(一般社団法人日本医療機器学会)の26頁に附属書1D「滅菌条件の設定」に関する“対数死滅則”(菌数の対数値と滅菌処理時間の反比例関係)が示されている。これに関連する滅菌試験として、表6に実施例12(Bacillus atrophaeus)と実施例14(Geobacillus stearothermophilus)について、実施例23および実施例24としてKPS濃度0.05モル/L、反応温度55℃、反応時間24時間のLRV値を得た。その結果として、それぞれLRV>6.4(実施例23)およびLRV>6.6(実施例24)を示した。ここで用いたKPS水溶液は長期間pH1~2の範囲を保持するので、実施例では、LRV=6に達する最短の反応時間よりも長い時間を選択して滅菌試験を実施した。試験条件及び結果を表7に示す。表7に示すように、両実施例について、いずれも反応を2時間後と3時間後に反応を停止し、反応後のLRV(死滅した細菌数の対数値)を測定し、それらの試験時間とLRV値の関係からLRV=6に達する反応時間を求めた。
【0107】
その結果、例えばBacillus atrophaeusの反応時間とLRVの値の変化は、LRVが6を超えるまで直線的に増加し、3.2時間でLRV=6となった。それ以上の長時間では、細菌の全てが死滅したため、LRV値は一定となった。従って、Bacillus atrophaeusの完全滅菌に達する時間は、3.2時間であることが明らかになった。同様に、Geobacillus stearothermophilusの場合、2.7時間でLRV=6に達した。
これらの結果から、表7に示した細菌芽胞の滅菌時間(24時間)は、実際の完全滅菌に達する最短時間(実施例23:3.2時間と実施例24:2.7時間)よりはるかに長時間であったことが明らかになった。
【0108】
【表7】
【0109】
(KPS水溶液中、90℃での各種材料の耐食性)
(実施例25~実施例38)
本発明の分解剤水溶液は、前述の通り、感染性・非感染性微生物の消毒のみならず細菌芽胞を滅菌する優れた性能を有するが、その成分として酸化剤を含む。従って、消毒・滅菌処理を実施する上で、感染性・非感染性微生物あるいは細菌芽胞が付着、吸着している処理対象物(器具、容器、装置等)の材質が、高温(90℃)の分解剤水溶液に対して優れた耐劣化性(耐食性)を有することが望ましい。下記に実施例25~実施例38として、各種材料の耐食性試験を行った。条件及び結果を表8に示す。
【0110】
(実施例25)
SUS304ステンレス鋼板から切り出した試料(3.977g)をパイレックス(登録商標)ガラス製バイアル容器中のKPS0.1モル/L水溶液(90℃)に投入し、60分間腐食試験を行った。試験終了後、蒸留水中で数回超音波洗浄し、その後、エタノール中に浸漬、撹拌後、ろ紙上で十分乾燥し、重量測定を行った。その結果、試料の重量変化はなく、該分解剤水溶液は、該ステンレス鋼板を全く腐食しないことが明らかとなり、優れた耐食材料と言える。従って、SUS304ステンレス鋼板以上の耐食性に優れる他のステンレス鋼も、該分解剤水溶液の消毒・滅菌処理に適しているものと言える。
【0111】
(実施例26)
市販のTPXビーカー(材質PMP:ポリメチルペンテン製、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌処理が可能な製品)から切り出した試験片0.259gを用いた以外は、実施例25と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片の重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該ポリメチルペンテン製試料は、耐食性に優れるプラスチック素材として、該分解剤水溶液の消毒・滅菌処理の容器等としての使用に適していることが明らかになった。
【0112】
(実施例27)
市販のγ線滅菌済みディスポビーカー(ポリプロピレン製、半透明)から切り出した試験片フィルム0.058gを用いた以外は、実施例26と同条件下で腐食試験(劣化試験)を行った。その結果、処理による試験片の重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該γ線滅菌済みポリプロピレン製フィルム試料は、耐食性に優れるプラスチック素材として、該分解剤水溶液による滅菌処理の容器等の材料に適していることが明らかになった。また、融解温度が約175℃の結晶性ポリプロピレン(iPP:アイソタクチックポリプロピレン)の試験片についても、本発明の分解剤水溶液中での劣化試験において、重量および表面形状は全く変化がなかった。以上の結果から、ポリプロピレンは、本発明の分解剤水溶液による消毒・滅菌処理の容器等の好適な素材であると言える。
【0113】
(実施例28)
市販のルミラーフィルム(PET:ポリエチレンテレフタレート製、厚さ100μm、T60透明品)から切り出した試験片フィルム0.022gを用いた以外は、実施例26と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片フィルムの重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該PETフィルムは、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない好適な素材であることが明らかになった。
【0114】
(実施例29)
市販のナフロンシート(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン製シート、厚さ1.0mm)から切り出した試験片シート0.406gを用いた以外は、実施例26と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片フィルムの重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該PTFEフィルムは、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない好適な素材であることが明らかになった。
【0115】
(実施例30)
市販の晒綿(さらしめん:bleached cotton、乾燥重量0.154g)をKPS水溶液(濃度0.1モル/L)中、温度90℃、反応時間60分、耐食性試験を行った。反応終了後、室温にて蒸留水で5回洗浄、ろ過後、乾燥重量を測定したところ、0.147gであった。水洗、ろ過の過程で微量の繊維状粉末の流失があったため、約4.5%の重量減少となった。しかし、回収後の試料は、純白色で、酸化分解は全く起こらなかった。この結果から、晒綿は90℃のKPS水溶液に対して安定であることが明らかになった。
【0116】
(実施例31)
市販の化粧綿(cosmetic cotton、乾燥重量0.205g)を用いた以外は、実施例30と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、実施例30と同様、酸化分解は全く起こらなかった。しかし、水洗、ろ過の過程で微量の洗浄粉末の流出により2.0%の重量減少が生じた。この結果から、晒綿と同じ化粧綿もKPS水溶系中、90℃、60分間の試験でも安定であることが明らかになった。
【0117】
(実施例32)
100%天然絹繊維からなる布団綿(乾燥重量0.138g)を用いた以外は、実施例30と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、実施例30と同様、回収後の試料は純白色で、酸化分解は全く起こらなかった。しかし、水洗、ろ過の過程で微量の絹繊維粉末の流失による3.2%の重量減少が生じた。この結果から、KPS水溶液中、90℃、60分間の試験でも安定であることが明らかになった。
【0118】
(実施例33)
市販の天然ゴムシート(厚さ1.0mm、黒)から切り出した試験片シート0.654gを用いた以外は、実施例25と同条件下で耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片の重量変化は全くなく、該天然ゴムシートは、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない好適な素材であることが明らかになった。
【0119】
(実施例34)
市販のニトリルゴムシート(厚さ1.0mm、黒)から切り出した試験片シート0.544gを用いた以外は、実施例25と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片シートの重量変化は全くなく、該ニトリルゴムシートは、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない素材であることが明らかになった。
【0120】
(実施例35)
市販のシリコーンゴムシート(厚さ1.0mm、透明)から切り出した試験片シート0.473gを用いた以外は、実施例25と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験片しーとの重量変化は全くなく、該シリコーンゴムシートは、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない素材であることが明らかになった。
【0121】
(実施例36)
芳香族ポリアミドの1種であるケブラー繊維(Kevlar DP-1、乾燥重量0.026g)を用いた以外は、実施例25と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験繊維の重量変化は全くなく、該ケブラー繊維は、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない素材であることが明らかになった。従って、ケブラー繊維複合材料からなる製品等にも適用できると言える。
【0122】
(実施例37)
炭素繊維(テナックスHTS40、乾燥重量0.070g)を用いた以外は、実施例32と同条件下で、耐食性試験を行った。その結果、処理による試験繊維の重量変化は全くなく、該炭素繊維は、本発明の分解剤水溶液によって劣化しない素材であることが明らかになった。従って、炭素繊維複合材料からなる製品等にも適用できると言える。
【0123】
(実施例38)
市販のパルプ繊維0.198gを0.1モル/LのKPS水溶液中に分散し、90℃で60分間という過酷な条件下で、耐食性試験を行い、水洗、ろ過後、パルプ繊維を回収した。その結果、得られたパルプ繊維の重量変化は全くなく、該滅菌処理後のパルプ繊維表面のSEM像は、分解試験の前後で変化がなかった。従って、パルプ繊維は、実施例25~37に記載の固体材料と同様、感染性・非感染性微生物および細菌芽胞が付着、吸着した幅広い製品・素材等の消毒・滅菌に適することが明らかになった。
【0124】
【表8】
【0125】
(90℃30分間加熱後、冷却したKPS水溶液に対する各種材料の耐食性試験)
(実施例39~実施例44)
本発明のKPS滅菌剤水溶液は、90℃で30分間加熱後、約70℃~約25℃の所定温度に冷却後に反応に供される特徴を有するので、この温度領域での消毒・滅菌の処理対象物の耐分解性(耐食性)が求められる。
なお、表2に例示したKPS水溶液を90℃で30分以上加熱保持後、70℃以下の所定温度まで冷却した分解剤水溶液(pH1~2)中、60分間の耐食性試験を行ったところ、実施例25~実施例38に記載のすべての試料は、重量変化はなく、耐食性に優れていることが明らかになった。
内視鏡用ポリウレタン樹脂(PU)として熱可塑性PUエラストマー、耐加水分解性のエーテル系PUなどが用いられている。本発明者は、KPS水溶液中でのPUの欠点としての耐加水分解性について、実施例39~実施例44として市販の熱可塑性PUエラストマーとエーテル系PUの耐食性試験を実施した。
【0126】
(実施例39)
透明な熱可塑性PUエラストマーチューブ断片(透明PU1と略記)0.109gを0.2モル/LのKPS水溶液(約pH1)中、70℃、1時間耐食性試験を実施した。その結果、重量変化は起こらなかった。
【0127】
(実施例40)
透明PU1の断片0.183gを用い、KPS水溶液の温度を90℃とした以外は、実施例39と同様の耐食性試験を実施した。その結果、試験片の重量変化が認められなかったが、試験片表面がわずかに白化した。従って、90℃での滅菌には適さないことが明らかになった
【0128】
(実施例41)
透明PU1の断片0.201gを用い、KPS水溶液の温度を90℃、30分間加熱後、室温25℃に冷却し、さらに、反応時間を120時間とした以外は、実施例21と同様の耐食性試験を実施した。その結果、KPS水溶液のpH1に変化がなく、また、試験片の重量減少もなく、表面の白化もが生じなかった。
【0129】
(実施例42)
透明エーテル系PUチューブ断片(透明PU2と略記)0.128gを用いた以外は、実施例39と同様の耐食性試験を実施した。その結果、試験片の重量減少も、表面の白化も生じなかった。
【0130】
(実施例43)
透明PU2の断片0.157gを用いた以外は、実施例46と同様の耐食性試験を実施した。その結果、透明PU1の場合(実施例40)と異なり、試験片の表面白化は全く起こらず、重量減少もなかった。
【0131】
(実施例44)
透明PU2の断片0.130gを用いた以外は、実施例41と同様の耐食性試験を実施した。その結果、透明PU2は、透明PU1と同様に、90℃、30分間加熱後、室温25℃に冷却したKPS水溶液中では、pH1を保持したまま、室温、長時間の滅菌試験に適した消毒・滅菌液の1つとなることが明らかになった。
以上の試験結果より、本発明者は、多くの材料が、特に90℃で30分間加熱後、70℃以下に冷却した無色、無臭、透明なKPS水溶液(pH1~2)が、耐食性を有し、しかも、感染性・非感染性微生物および細菌芽胞の消毒および滅菌に関して優れた特性を有することを見出した。
【0132】
(消毒・滅菌処理装置)
以上述べた通り、本発明は、常圧、0~100℃の範囲において、過硫酸塩(KPS)水溶液あるいは過硫酸塩とアルカリ化合物の混合水溶液を、これらの試薬に対して耐食性を有する容器中で感染性および非感染性微生物を消毒・滅菌し、処理終了後は、必要に応じて中和処理および安全で環境保全性を有する廃液として可能であって、さらに、上記の圧力・温度の範囲内で滅菌精製水にて消毒・滅菌対象物の洗浄・乾燥回収が可能な処理装置が実現する。
【0133】
従って、処理装置は、分解剤水溶液の調製、その保存、消毒。滅菌反応、水溶液の温度調整および被滅菌物を収容し分解剤水溶液に浸漬するための器具(例えば、ステンレス製カゴ)、処理後の水洗・乾燥用器具からなる。すなわち、これらの装置の形状、サイズなどは特に限定されない。また、容器等の素材は、実施例に記載した各種材料が好ましく、さらに過硫酸塩水溶液に対して耐食性であれば特に限定されない。以下に、本発明の消毒・滅菌処理システムの一実施形態について実施例45として説明する。
【0134】
(実施例45)
本発明の消毒・滅菌装置の一例は図1の概略図で示す。すなわち、本発明の実施形態の通り、所定の過硫酸塩水溶液(1)に、被消毒・滅菌物(2)を浸漬して所定の方法で消毒・滅菌を実施して処理後の溶液(3)を得る。その後、処理後の溶液(3)を、所定の方法によって水洗・ろ過・乾燥後の回収物(4)を得る。
【符号の説明】
【0135】
1 分解剤水溶液供給部(過硫酸塩水溶液)
2 消毒・滅菌処理部(被消毒・滅菌物の浸漬)
3 消毒・滅菌処理後の溶液回収部(消毒・滅菌終了後の溶液)
4 処理対象物回収部(水洗・ろ過・乾燥後の回収物)
図1