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特許7621560熱処理システム及び熱処理炉が備える雰囲気置換構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】熱処理システム及び熱処理炉が備える雰囲気置換構造
(51)【国際特許分類】
   F27B 9/02 20060101AFI20250117BHJP
   F27B 9/26 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
F27B9/02
F27B9/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024524289
(86)(22)【出願日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2023017800
(87)【国際公開番号】W WO2023233961
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2022088553
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591076109
【氏名又は名称】エヌジーケイ・キルンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 晃和
(72)【発明者】
【氏名】大山 智明
(72)【発明者】
【氏名】有馬 和彦
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085367(JP,A)
【文献】特開2012-132607(JP,A)
【文献】特開2017-129359(JP,A)
【文献】特開2021-071212(JP,A)
【文献】特開2017-083036(JP,A)
【文献】特開2007-064496(JP,A)
【文献】特開平09-078125(JP,A)
【文献】特開平05-239558(JP,A)
【文献】特開昭51-088408(JP,A)
【文献】実開昭59-012857(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/02、9/26、9/38、9/39
F27D 1/18、7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1供給装置と、第1熱処理炉と、第1回収装置と、第2供給装置と、第2熱処理炉と、第2回収装置と、を備える熱処理システムであり、
前記第1供給装置は、前記第2回収装置の近傍に配置され、前記第2回収装置から搬送される匣鉢に被処理物を供給し、
前記第1熱処理炉は、
前記第1供給装置の近傍に配置され、前記第1供給装置で前記被処理物が供給された前記匣鉢を搬入する搬入口と、
搬入された前記匣鉢を搬出する搬出口と、
前記第1熱処理炉の搬入口と搬出口の間に配置され、前記匣鉢が前記第1熱処理炉の搬入口から搬出口に搬送される間に前記匣鉢に供給された前記被処理物を熱処理する熱処理部と、
前記第1熱処理炉の搬入口から搬出口に向かう第1方向に前記匣鉢を搬送する第1搬送装置と、を備えており、
前記第1回収装置は、前記第1熱処理炉の搬出口の近傍に配置され、前記第1熱処理炉で熱処理された前記被処理物を前記匣鉢から回収し、
前記第2供給装置は、前記第1回収装置の近傍に配置され、前記第1回収装置で前記被処理物が回収された前記匣鉢に新たな被処理物を供給し、
前記第2熱処理炉は、
前記第2供給装置の近傍に配置され、前記第2供給装置で前記被処理物が供給された前記匣鉢を搬入する搬入口と、
搬入された前記匣鉢を搬出する搬出口と、
前記第2熱処理炉の搬入口と搬出口の間に配置され、前記匣鉢が前記第2熱処理炉の搬入口から搬出口に搬送される間に前記匣鉢に供給された前記被処理物を熱処理する熱処理部と、
前記第2熱処理炉の搬入口から搬出口まで、前記第1方向とは反対となる第2方向に前記匣鉢を搬送する第2搬送装置と、を備えており、
前記第2回収装置は、前記第2熱処理炉の搬出口の近傍に配置され、前記第2熱処理炉で熱処理された前記被処理物を前記匣鉢から回収し、
前記第1熱処理炉及び前記第2熱処理炉のそれぞれは、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口との間に配置され、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口の外部とを隔離する置換部をさらに備えており、
前記置換部は、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口との間のそれぞれに断熱材料で形成される開閉可能な扉を備えており、
前記第1熱処理炉及び前記第2熱処理炉のそれぞれは、
前記置換部に配置された前記扉のうち少なくとも一方の扉と熱処理部との間に配置され、当該扉が閉じた状態で当該扉の外周部全体に当接する当接面と、
前記置換部の外部に配置され、前記扉が閉じた状態で前記扉を前記当接面に向かって押圧する押圧装置と、をさらに備えており、
前記押圧装置は、
前記扉に当接可能な押さえ部と、
前記押さえ部より搬出口側に配置され、前記押さえ部を押圧するシリンダと、
前記押さえ部と前記シリンダとを接続する連結部と、を備えており、
前記押さえ部及び前記連結部は、耐熱性材料で形成されており、
前記押さえ部、前記連結部及び前記シリンダは、直線状に配置されている、熱処理システム。
【請求項2】
前記押さえ部、前記連結部及び前記シリンダは、前記当接面に対して垂直に配置されている、請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記連結部は、前記置換部の壁面に取り付けられており、前記壁面との間がシールされている、請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記当接面は、前記扉と前記当接面との間をシールするシール部を備えており、
前記シール部は、ファイバ系のシール材料で形成されている、請求項に記載の熱処理システム。
【請求項5】
前記押さえ部は、セラミック材料で形成されている、請求項に記載の熱処理システム。
【請求項6】
前記第1熱処理炉及び前記第2熱処理炉のそれぞれは、前記置換部に配置された前記扉のうち少なくとも一方の扉の上端に接続され、当該扉を支持するチェーンをさらに備えている、請求項に記載の熱処理システム。
【請求項7】
前記第1熱処理炉及び前記第2熱処理炉のそれぞれは、
方向に回転させることで前記チェーンを巻き上げると共に、前記第方向と反対の第方向に回転させることで前記チェーンを巻き下げるシャフトと、
前記シャフトを回転させる駆動装置と、をさらに備えており、
前記シャフトは、前記チェーンの上方に、軸線が水平かつ搬送方向に直交する方向となるように配置されており、
前記扉は、前記シャフトで前記チェーンを巻き上げることによって上方に移動すると共に、前記シャフトで前記チェーンを巻き下げることによって下方に移動する、請求項6に記載の熱処理システム。
【請求項8】
前記扉は、下方に移動させることによって開いた状態となるように構成されている、請求項7に記載の熱処理システム。
【請求項9】
前記第1熱処理炉及び前記第2熱処理炉のそれぞれは、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口との間に配置され、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口の外部とを隔離する搬入側置換部をさらに備えており、
前記搬入側置換部は、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口との間のそれぞれに断熱材料で形成される開閉可能な扉を備えている、請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項10】
被処理物が供給された匣鉢を炉内に搬入する搬入口と、
前記搬入口から搬入された前記匣鉢に供給された前記処理物を熱処理する熱処理部と、
前記熱処理部で熱処理された前記被処理物が供給された前記匣鉢を炉外に搬出する搬出口と、
前記搬入口から前記搬出口に前記匣鉢を搬送する搬送装置と、を備えた熱処理炉において、前記熱処理部の内部空間の雰囲気を保持する雰囲気置換構造であり、
前記熱処理部と前記搬出口との間に配置された置換室と、
前記置換室と前記熱処理部との間に設けられた第1の扉と、
前記置換室と前記搬出口の間に設けられた第2の扉と、
前記第1の扉及び前記第2の扉のうち少なくとも一方の扉と熱処理部との間に配置され、前記少なくとも一方の扉が閉じた状態で前記少なくとも一方の扉の外周部全体に当接する当接面と、
前記置換室の外部に配置され、前記少なくとも一方の扉が閉じた状態で前記少なくとも一方の扉を前記当接面に向かって押圧する押圧装置と、を備えており、
前記第1の扉と前記第2の扉のそれぞれが、断熱材料で形成されており、
前記押圧装置は、
前記少なくとも一方の扉に当接可能な押さえ部と、
前記押さえ部より搬出口側に配置され、前記押さえ部を押圧するシリンダと、
前記押さえ部と前記シリンダとを接続する連結部と、を備えており、
前記押さえ部及び前記連結部は、耐熱性材料で形成されており、
前記押さえ部、前記連結部及び前記シリンダは、直線状に配置されている、雰囲気置換構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、被処理物を熱処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉(例えば、ローラーハースキルンやプッシャーキルン等)を用いて、被処理物を熱処理することがある。一般的に、熱処理炉では、生産性の向上と雰囲気ガスの使用量の低減が求められている。例えば、特許文献1には、順方向に被処理物を搬送する熱処理炉と、逆方向に被処理物を搬送する熱処理炉を備える熱処理システムが開示されている。特許文献1の熱処理システムでは、被処理物は、匣鉢に収容して熱処理炉内を搬送され、匣鉢が熱処理炉内を搬送される間に熱処理される。匣鉢は、被処理物の熱処理に繰り返し用いられる。特許文献1の熱処理システムでは、順方向に被処理物を搬送する熱処理炉の搬出口が逆方向に被処理物を搬送する熱処理炉の搬入口の近傍に設置されると共に、逆方向に被処理物を搬送する熱処理炉の搬出口が順方向に被処理物を搬送する熱処理炉の搬入口の近傍に設置される。これにより、匣鉢を高温のまま次の熱処理炉に搬入できる。このため、匣鉢を昇温する時間が短くなり、熱処理炉の長さが短くなる。このため、熱処理炉における雰囲気ガスの使用量が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-85367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、熱処理炉の搬出部側には、熱処理炉の内部(すなわち、被処理物を熱処理する熱処理部)と熱処理炉の外部との間で雰囲気を置換する置換部が設けられている。置換部には、熱処理部との境界及び熱処理炉の外部との境界に開閉可能な扉が設置されている。置換部で雰囲気を置換する際には、扉により置換部が良好にシールされる必要がある。しかしながら、特許文献1の熱処理システムでは、匣鉢を高温のまま次の熱処理炉に搬入するために、匣鉢は高温の状態で熱処理炉から搬出される。このため、置換部内の温度も高温となり、扉による置換部のシール性を確保することが難しかった。
【0005】
本明細書は、熱処理炉から匣鉢を高温のまま搬出可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する技術の第1の態様では、熱処理システムは、第1供給装置と、第1熱処理炉と、第1回収装置と、第2供給装置と、第2熱処理炉と、第2回収装置と、を備える。第1供給装置は、第2回収装置の近傍に配置され、第2回収装置から搬送される匣鉢に被処理物を供給する。第1熱処理炉は、第1供給装置の近傍に配置され、第1供給装置で被処理物が供給された匣鉢を搬入する搬入口と、搬入された匣鉢を搬出する搬出口と、第1熱処理炉の搬入口と搬出口の間に配置され、匣鉢が第1熱処理炉の搬入口から搬出口に搬送される間に匣鉢に供給された被処理物を熱処理する熱処理部と、第1熱処理炉の搬入口から搬出口に向かう第1方向に匣鉢を搬送する第1搬送装置と、を備えている。第1回収装置は、第1熱処理炉の搬出口の近傍に配置され、第1熱処理炉で熱処理された被処理物を匣鉢から回収する。第2供給装置は、第1回収装置の近傍に配置され、第1回収装置で被処理物が回収された匣鉢に新たな被処理物を供給する。第2熱処理炉は、第2供給装置の近傍に配置され、第2供給装置で被処理物が供給された匣鉢を搬入する搬入口と、搬入された匣鉢を搬出する搬出口と、第2熱処理炉の搬入口と搬出口の間に配置され、匣鉢が第2熱処理炉の搬入口から搬出口に搬送される間に匣鉢に供給された被処理物を熱処理する熱処理部と、第2熱処理炉の搬入口から搬出口まで、第1方向とは反対となる第2方向に匣鉢を搬送する第2搬送装置と、を備えている。第2回収装置は、第2熱処理炉の搬出口の近傍に配置され、第2熱処理炉で熱処理された被処理物を匣鉢から回収する。第1熱処理炉及び第2熱処理炉のそれぞれは、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口との間に配置され、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口の外部とを隔離する置換部をさらに備えている。置換部は、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬出口との間のそれぞれに断熱材料で形成される開閉可能な扉を備えている。
【0007】
上記の熱処理システムでは、置換部の入口と出口に断熱材料で形成される扉が設けられる。扉を断熱材料で形成することによって、扉の耐熱性が確保でき、扉の熱変形を抑えることができる。これにより、熱処理部と炉外とを置換部で隔離し、熱処理部の気密性(シール性)を確保することができる。このため、匣鉢を高温の状態で置換部に搬送することができ、匣鉢を高温の状態で熱処理炉の外部に搬出することができる。
【0008】
また、本明細書に開示する雰囲気置換構造は、被処理物が供給された匣鉢を炉内に搬入する搬入口と、搬入口から搬入された匣鉢に供給された処理物を熱処理する熱処理部と、熱処理部で熱処理された被処理物が供給された前記匣鉢を炉外に搬出する搬出口と、搬入口から搬出口に匣鉢を搬送する第1搬送装置と、を備えた熱処理炉において、熱処理部の内部空間の雰囲気を保持する。雰囲気置換構造は、熱処理部と搬出口との間に配置された置換室と、置換室と熱処理部との間に設けられた第1の扉と、置換室と搬出口の間に設けられた第2の扉と、を備えている。第1の扉と第2の扉のそれぞれが、断熱材料で形成されている。
【0009】
上記の雰囲気置換構造では、置換室の入口に断熱材料で形成される第1の扉が設けられ、置換室の出口に断熱材料で形成される第2の扉が設けられる。このため、上記の熱処理システムと同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施例に係る熱処理システムの概略構成を示す上面図。
図2】第1熱処理炉の概略構成を示す図であり、被処理物の搬送方向に平行な平面で熱処理炉を切断したときの縦断面図。
図3図2のIII-III線における断面図。
図4】第1熱処理炉の制御系の構成を示すブロック図。
図5】熱処理部の搬出側に設けられる搬出側雰囲気置換構造の概略構成を示す側面図。
図6】扉の構成を示す正面図。
図7図6のVII-VII線における断面図。
図8】押圧装置の構成を示す側面図であり、(a)は押圧装置で扉を押圧している状態を示し、(b)は押圧装置で扉を押圧していない状態を示す。
図9】扉、チェーン及びシャフトの構成を示す正面図。
【0011】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0012】
本明細書に開示する技術の第2の態様では、上記の第1の態様において、第1熱処理炉及び第2熱処理炉のそれぞれは、置換部に配置された扉のうち少なくとも一方の扉と熱処理部との間に配置され、当該扉が閉じた状態で当該扉の外周部全体に当接する当接面と、置換部の外部に配置され、扉が閉じた状態で扉を当接面に向かって押圧する押圧装置と、をさらに備えていてもよい。このような構成によると、押圧装置により扉と熱処理部の間をシールすることができる。このため、扉による熱処理部の気密性を向上させることができ、熱処理部の雰囲気を保持することができる。
【0013】
本明細書に開示する技術の第3の態様では、上記の第2の態様において、当接面は、扉と当接面との間をシールするシール部を備えていてもよい。シール部は、ファイバ系のシール材料で形成されていてもよい。このような構成によると、シール部の耐熱性を確保することができる。
【0014】
本明細書に開示する技術の第4の態様では、上記の第2又は第3の態様において、押圧装置は、扉に当接可能な押さえ部と、押さえ部より搬出口側に配置され、押さえ部を押圧するシリンダと、押さえ部とシリンダとを接続する連結部と、を備えていてもよい。押さえ部及び連結部は、耐熱性材料で形成されていてもよい。このような構成によると、連結部を介してシリンダと押さえ部とを接続することにより、シリンダを高温となる扉から離れた位置に設置できる。このため、シリンダに熱影響が生じることを抑制できる。
【0015】
本明細書に開示する技術の第5の態様では、上記の第4の態様において、押さえ部は、セラミック材料で形成されていてもよい。押さえ部は、高温となる扉に当接する。押さえ部をセラミック製にすることによって、押さえ部の耐熱性を向上できる。
【0016】
本明細書に開示する技術の第6の態様では、上記の第4又は第5の態様において、第1熱処理炉及び第2熱処理炉のそれぞれは、置換部に配置された扉のうち少なくとも一方の扉の上端に接続され、当該扉を支持するチェーンをさらに備えていてもよい。このような構成によると、チェーンにより、扉はフリーに吊られた状態となる。これにより、扉が熱変形した場合であっても、押圧装置で扉を押さえたときのシール性を確保できる。
【0017】
本明細書に開示する技術の第7の態様では、上記の第6の態様において、第1熱処理炉及び第2熱処理炉のそれぞれは、第1方向に回転させることでチェーンを巻き上げると共に、第1方向と反対の第2方向に回転させることでチェーンを巻き下げるシャフトと、シャフトを回転させる駆動装置と、をさらに備えていてもよい。シャフトは、チェーンの上方に、軸線が水平かつ搬送方向に直交する方向となるように配置されていてもよい。扉は、シャフトでチェーンを巻き上げることによって上方に移動すると共に、シャフトでチェーンを巻き下げることによって下方に移動してもよい。このような構成によると、チェーンを巻き上げたり巻き下げたりするシャフトは、軸線が水平かつ搬送方向に直交する方向(横向き)に配置される。そして、チェーンの一端が扉に接続され、チェーンの他端は置換部の外に配置されるシャフトに接続される。このため、扉が開いた状態では、熱処理部内の空間はチェーンが配置される空間を介して置換部(熱処理炉)の外部の空間と連通することになる。熱処理部の気密性を確保するためには、チェーンが配置される空間を置換部の外部の空間からシールすることが好ましい。チェーンをシャフトで巻き上げる構成を採用することで、駆動部であるシャフトはその軸線周りの回転運動を行うだけとなるため、シールが必要となる部分の面積を小さくすることができる。一方、上記の構成と異なり、例えばシリンダでチェーンを上下に移動させるような構成を採用した場合、駆動部であるシリンダは扉の寸法に応じたストローク長が必要となり、シールが必要となる部分の面積が大きくなる。したがって、上記の構成によると、シールする必要がある部分の面積を小さくすることができる。
【0018】
本明細書に開示する技術の第8の態様では、上記の第7の態様において、扉は、下方に移動させることによって開いた状態となるように構成されていてもよい。扉の上方は熱影響を受け易い。扉は下方に移動させて開くことによって、扉が開いた状態で扉が熱影響を受け難くなる。
【0019】
本明細書に開示する技術の第9の態様では、上記の第1の態様において、第1熱処理炉及び第2熱処理炉のそれぞれは、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口との間に配置され、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口の外部とを隔離する搬入側置換部をさらに備えていてもよい。搬入側置換部は、当該熱処理炉の熱処理部と当該熱処理炉の搬入口との間のそれぞれに断熱材料で形成される開閉可能な扉を備えていてもよい。このような構成によると、熱処理炉の搬出側に加えて、熱処理炉の搬入側にも置換部が設けられる。これにより、熱処理炉の搬入側と搬出側の両方に置換部が設けられ、熱処理炉の搬入側と搬出側の両方で、熱処理部と熱処理炉の外部とを置換部で隔離できる。また、搬入側置換部においても、入口と出口に断熱材料で形成される扉が設けられるため、扉の耐熱性が確保され、扉の熱変形が抑えられる。このため、高温の匣鉢を外部から搬入側置換部に搬送することができ、搬入側置換部に搬送された高温の匣鉢を熱処理炉の内部に搬入することができる。
【実施例
【0020】
図面を参照して、本実施例の熱処理システム1について説明する。図1に示すように、熱処理システム1は、第1供給装置80aと、第1熱処理炉10aと、第1回収装置82aと、第2供給装置80bと、第2熱処理炉10bと、第2回収装置82bを備えている。熱処理システム1は、匣鉢2(図2参照)に収容された被処理物を熱処理する。本実施例では、匣鉢2に収容される被処理物は、リチウムイオン電池正極材の粉体である。本実施例の熱処理システム1では、匣鉢2は、第1供給装置80a、第1熱処理炉10a、第1回収装置82a、第2供給装置80b、第2熱処理炉10b及び第2回収装置82bの間を循環するように構成されている。被処理物は、匣鉢2が第1熱処理炉10a又は第2熱処理炉10b内を搬送される間に熱処理される。
【0021】
まず、第1供給装置80a及び第2供給装置80bについて説明する。第1供給装置80aは、第2回収装置82bと第1熱処理炉10a(詳細には、第1熱処理炉10aの搬入口20a)との間に配置されている。第1供給装置80aは、第2回収装置82bで被処理物が回収された空の匣鉢2に新たな被処理物を供給する。第2供給装置80bは、第1回収装置82aと第2熱処理炉10b(詳細には、第2熱処理炉10bの搬入口20b)との間に配置されている。第2供給装置80bは、第1回収装置82aで被処理物が回収された空の匣鉢2に新たな被処理物を供給する。第1供給装置80aと第2供給装置80bは、同一の構成を有している。このため、以下では、第1供給装置80aについて説明する。
【0022】
第1供給装置80aは、匣鉢2内に被処理物(すなわち、粉体)を供給する装置である。なお、第1供給装置80aは、匣鉢2内に粉体を供給するように構成されていればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、第1供給装置80aは、供給部と均し部を備えている。供給部は、匣鉢2の内部に粉体を供給するように構成されている。具体的には、供給部は、匣鉢2の上方から匣鉢2の内部に粉体を落下させる供給口を備えている。供給口は、供給部内に匣鉢2を配置したときに、匣鉢2の中心部の上方に位置するように配置されている。供給部は、位置決め装置を備えており、位置決め装置は、供給部に搬送された匣鉢2を、供給口の下方に位置するように位置決めする。位置決め装置は、匣鉢2との接触面がセラミック材料で形成されている。これにより、位置決め装置の耐熱性を確保することができ、高温の匣鉢2を供給部内で位置決めできる。なお、供給部には、複数の供給口が配置されていてもよい。供給部は、粉体を上方から落下させることで匣鉢2内に粉体を供給するため、供給部で匣鉢2に粉体が供給されると、匣鉢2内の粉体の上面は、供給口の下方の位置で盛り上がった状態となる。均し部は、供給部で匣鉢2内に供給された粉体を均す。具体的には、均し部は、平板の側面で匣鉢2内の粉体の上面を押さえることで粉体の上面を均すように構成されている。均し部で粉体の上面を均すことによって、匣鉢2に収容された粉体の上面は略水平面となる。また、供給装置80aは、匣鉢2の上方に位置する部材(フレーム等)に、遮熱用の断熱材が設置されている。これにより、供給装置80aは、高温の匣鉢2に対する耐熱性を確保することができ、高温の匣鉢2に粉体を供給することができる。
【0023】
次に、第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bについて説明する。第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bは、匣鉢2内の被処理物を熱処理する。
【0024】
図2図4に示すように、第1熱処理炉10aは、熱処理部12と、搬入側雰囲気置換構造40と、搬出側雰囲気置換構造42と、搬送装置(24、26)と、制御装置28を備えている。第1熱処理炉10aは、搬送装置(24、26)によって匣鉢2が熱処理部12内を搬送される間に、匣鉢2内に収容される被処理物を熱処理する。
【0025】
熱処理部12は、外形が略直方体形状であり、天井壁14aと、底壁14bと、側壁14c、14dと、後述する2つの扉48によって囲まれている。図2に示すように、天井壁14aは、底壁14bに対して平行に(すなわち、XY平面と平行に)配置されている。図3に示すように、側壁14c、14dは、搬送方向に対して平行、かつ、天井壁14a及び底壁14bに対して垂直に(すなわち、XZ平面と平行に)配置されている。図2に示すように、熱処理部12の入口は、2つの扉48のうちの1つによって搬入側雰囲気置換構造40と隔離されており、熱処理部12の出口は、もう1つの扉48によって搬出側雰囲気置換構造42と隔離されている。熱処理部12には、複数のヒータ16a、16bと、複数の搬送ローラ24が配置されている。ヒータ16aは、搬送ローラ24の上方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置され、ヒータ16bは、搬送ローラ24の下方の位置に搬送方向に所定の間隔で配置されている。ヒータ16a、16bが発熱することで、熱処理部12内の空間18が加熱されると共に匣鉢2内に収容される被処理物が加熱される。
【0026】
搬入側雰囲気置換構造40は、熱処理部12の搬入側に隣接して設けられており、搬出側雰囲気置換構造42は、熱処理部12の搬出側に隣接して設けられている。なお、搬入側雰囲気置換構造40及び搬出側雰囲気置換構造42の構成については、後に詳述する。
【0027】
搬送装置(24、26)は、複数の搬送ローラ24と、ローラ駆動装置26を備えている。搬送ローラ24は、匣鉢2を搬送する。搬送装置(24、26)は、匣鉢2を、第1熱処理炉10aの搬入口20aから搬入側雰囲気置換構造40内に搬送し、さらに搬入側雰囲気置換構造40を通過して熱処理部12内に搬送する。そして、搬送装置(24、26)は、匣鉢2を、熱処理部12から搬出側雰囲気置換構造42内に搬送し、搬出側雰囲気置換構造42を通過して第1熱処理炉10aの搬出口22aから外部に搬送する。第1熱処理炉10aでは、搬送装置(24、26)は、匣鉢2を+X方向に搬送する。
【0028】
搬送ローラ24は、円筒状であり、その軸線は搬送方向と直交する方向に(すなわち、Y方向に)伸びている。複数の搬送ローラ24は、全てが同じ直径を有しており、搬送方向に一定のピッチで等間隔に配置されている。搬送ローラ24は、その軸線回りに回転可能に支持されており、ローラ駆動装置26の駆動力が伝達されることによって回転する。ローラ駆動装置26は、搬送ローラ24を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。ローラ駆動装置26は、動力伝達機構を介して、搬送ローラ24に接続されている。ローラ駆動装置26の駆動力が動力伝達機構(例えば、スプロケットとチェーンによる機構)を介して搬送ローラ24に伝達されると、搬送ローラ24は回転するようになっている。
【0029】
図3に示すように、本実施例では、搬送ローラ24上に、複数の匣鉢2を上下方向に重ねると共に、複数の匣鉢2を搬送方向と直交する方向(図3では、Y方向)に複数並んだ状態で載置して搬送する。搬送装置(24、26)は、搬入側雰囲気置換構造40から熱処理部12内に匣鉢2を搬送する際に、Y方向に並んだ複数の匣鉢2を整列させて、Y方向に並んだ複数の匣鉢2を熱処理部12内に同時に搬送するように構成されている。同様に、搬送装置(24、26)は、熱処理部12から搬出側雰囲気置換構造42に匣鉢2を搬送する際に、Y方向に並んだ複数の匣鉢2を整列させて、Y方向に並んだ複数の匣鉢2を搬出側雰囲気置換構造42に同時に搬送するように構成されている。なお、搬送装置(24、26)がY方向に並んだ複数の匣鉢2を整列させる構成については、後に詳述する。
【0030】
制御装置28は、例えば、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータによって構成されている。図4に示すように、制御装置28は、ヒータ16a、16bと、ローラ駆動装置26と、扉押圧装置56(後述)と、扉昇降装置74(後述)に接続されており、ヒータ16a、16bと、ローラ駆動装置26と、扉押圧装置56と、扉昇降装置74を制御している。
【0031】
図1に示すように、第2熱処理炉10bは、第1熱処理炉10aとY方向に間隔を空けて平行に配置されている。第2熱処理炉10bは、匣鉢2を搬送する方向が第1熱処理炉10aとは逆向きになるように配置されている。すなわち、第2熱処理炉10bの搬入口20bは、第1熱処理炉10aの搬出口22aの近傍に配置され、第2熱処理炉10bの搬出口22bは、第1熱処理炉10aの搬入口20aの近傍に配置される。これにより、第1熱処理炉10aにおける匣鉢2の搬送方向(-X方向から+X方向に向かう方向)と、第2熱処理炉10bにおける匣鉢2の搬送方向(+X方向から-X方向に向かう方向)は、逆向きになる。なお、上述したように、第2熱処理炉10bは、第1熱処理炉10aと略同一の構成を有しているため、構成についての詳細な説明は省略する。
【0032】
次に、第1回収装置82a及び第2回収装置82bについて説明する。第1回収装置82aは、第1熱処理炉10a(詳細には、第1熱処理炉10aの搬出口22a)と第2供給装置80bとの間に配置されている。第1回収装置82aは、第1熱処理炉10aで熱処理された被処理物を匣鉢2から回収する。第2回収装置82bは、第2熱処理炉10b(詳細には、第2熱処理炉10bの搬出口22b)と第1供給装置80aとの間に配置されている。第2回収装置82bは、第2熱処理炉10bで熱処理された被処理物を匣鉢2から回収する。第1回収装置82aと第2回収装置82bは、同一の構成を有している。このため、以下では、第1回収装置82aについて説明する。
【0033】
第1回収装置82aは、第1熱処理炉10aで熱処理された被処理物(すなわち、粉体)を匣鉢2から回収する装置である。なお、第1回収装置82aは、匣鉢2から粉体を回収するように構成されていればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、第1回収装置82aは、匣鉢2を上下方向に反転させて回収する反転回収部と、匣鉢2の表面に付着した被処理物(本実施例では、粉体)をエアで剥離して回収するエア回収部を備えている。反転回収部は、匣鉢2を上下方向に反転させることによって、匣鉢2内の粉体を回収用容器に移動させる。これにより、匣鉢2内に収容されていた粉体のほぼ全てが回収用容器に移動する。反転回収部は、匣鉢2を反転させるためのハンドリング部を備えており、ハンドリング部は、セラミック材料で形成されている。ハンドリング部は、匣鉢2と接触する。ハンドリング部をセラミック材料で形成することによって、ハンドリング部の耐熱性を確保することができ、ハンドリング部は、高温の匣鉢2を掴むことができる。その後、反転回収部は、匣鉢2を再び上下方向に反転させて元の向きに戻す。エア回収部は、反転回収部で匣鉢2内の粉体が回収された後に使用される。エア回収部は、匣鉢2の内表面にエアを吹き付けながら匣鉢2内の空気等を吸引する。匣鉢2の内表面にエアを吹き付けることによって、匣鉢2の内表面に付着している粉体が内表面から剥離する。匣鉢2の内表面にエアを吹き付けながら匣鉢2内の空気等を吸引すると、匣鉢2の内表面から剥離された粉体が空気等と共に吸引される。これにより、匣鉢2の内表面に残留した粉体が回収され、粉体の回収率が上昇する。なお、上記の例では、第1回収装置82aはエア回収部を備えていたが、このような構成に限定されない。例えば、匣鉢2の内表面に残留した粉体は、回転ブラシで剥離して回収するように構成されていてもよい。
【0034】
上述したように、匣鉢2は、第1供給装置80a、第1熱処理炉10a、第1回収装置82a、第2供給装置80b、第2熱処理炉10b、第2回収装置82bの間を循環して搬送される。第1供給装置80a、第1熱処理炉10a、第1回収装置82a、第2供給装置80b、第2熱処理炉10b及び第2回収装置82bの間には、それそれローラコンベアが配置されており、匣鉢2を搬送する。なお、匣鉢2が、第1供給装置80a、第1熱処理炉10a、第1回収装置82a、第2供給装置80b、第2熱処理炉10b及び第2回収装置82bの間で循環して搬送可能であればよく、ローラコンベア以外の他の搬送装置(例えば、ベルトコンベア等)を用いてもよい。
【0035】
本実施例では、第1熱処理炉10aの匣鉢2の搬送方向と第2熱処理炉10bの匣鉢2の搬送方向が逆向きとなるように、第1熱処理炉10aと第2熱処理炉10bが設置されている。すなわち、第1熱処理炉10aの搬出口22aと第2熱処理炉10bの搬入口20bの距離が近くなると共に、第2熱処理炉10bの搬出口22bと第1熱処理炉10aの搬入口20aの距離も近くなる。これにより、第1熱処理炉10aで熱処理に用いられた匣鉢2を高温のまま第2熱処理炉10bに搬入することができる。同様に、第2熱処理炉10bで熱処理に用いられた匣鉢2も高温のまま第1熱処理炉10aに搬入することができる。このため、熱処理炉10a、10bにおいて匣鉢2を昇温する時間を短くすることができるため、第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bの熱処理部12の長さを短くすることができ、被処理物の加熱に要するエネルギーを削減することができる。また、匣鉢2を高温のまま第1熱処理炉10aや第2熱処理炉10bから搬出するため、第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bの熱処理部12の搬出側に冷却部を設ける必要がなく、あるいは、冷却部を設けたとしても、匣鉢2が低い温度になるまで冷却する必要がないため、冷却部の長さを短くすることができる。例えば、従来の熱処理炉では、匣鉢2が約200度になるまで冷却して熱処理炉から搬出していたが、本実施例の熱処理システム1では、匣鉢2が400度になるまで冷却すれば、第1熱処理炉10aや第2熱処理炉10bから搬出することができる。このように、第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bの長さを短くすることができるため、第1熱処理炉10a及び第2熱処理炉10bでの雰囲気ガスの使用量を低減することができる。
【0036】
ここで、搬入側雰囲気置換構造40及び搬出側雰囲気置換構造42について説明する。なお、上述したように、第1熱処理炉10aと第2熱処理炉10bは、匣鉢2の搬送方向が逆向きとなるように設置されている点を除き、同一の構成を有している。以下では、第1熱処理炉10aの搬入側雰囲気置換構造40及び搬出側雰囲気置換構造42について説明する。搬入側雰囲気置換構造40は、第1熱処理炉10aの搬入口20aと熱処理部12の間に設けられており、搬出側雰囲気置換構造42は、熱処理部12と第1熱処理炉10aの搬出口22aとの間に設けられている。搬入側雰囲気置換構造40及び搬出側雰囲気置換構造42は、熱処理部12の内部空間の雰囲気を保持するために用いられる。
【0037】
上述したように、本実施例の熱処理システム1では、2つの熱処理炉10a、10bのうちの一方で熱処理に用いられた匣鉢2は、高温のままもう1つの熱処理炉10b、10aに搬入される。このため、熱処理炉10a、10bの搬入口20a、20bでは、高温の状態の匣鉢2を搬入可能な構成を有している必要があり、熱処理炉10a、10bの搬出口22a、22bでは、高温の状態の匣鉢2を搬出可能な構成を有している必要がある。このため、搬入側雰囲気置換構造40は、高温の状態の匣鉢2を熱処理部12に搬入可能な構成を有しており、搬出側雰囲気置換構造42は、高温の状態の匣鉢2を熱処理部12から搬出可能な構成を有している。搬入側雰囲気置換構造40と搬出側雰囲気置換構造42は、略同一の構成を有している。このため、以下では、第1熱処理炉10aの搬出口22a側に設けられている搬出側雰囲気置換構造42について詳細に説明する。
【0038】
図5に示すように、搬出側雰囲気置換構造42は、置換室44と、熱処理部側シール構造46と、外部側シール構造47を備えている。
【0039】
置換室44は、熱処理部12の下流側に、熱処理部12と隣接して配置されている。置換室44と熱処理部12との間には、扉48aが設置されており、置換室44と搬出口22aとの間には、扉48bが設置されている。扉48a、48bは、開閉可能であり、閉じた状態で、置換室44と熱処理部12との間や置換室44と搬出口22aとの間をシールするように構成されている。なお、扉48a、48bが置換室44と熱処理部12との間や置換室44と搬出口22aとの間をシールする構成については、後に詳述する。置換室44には、搬送ローラ24が設置されている。匣鉢2は、搬送ローラ24によって熱処理部12から置換室44に搬送される。置換室44には、給気口が設けられており、給気口からは、熱処理部12に給気される雰囲気ガスと同一のガスが給気される。置換室44では、熱処理部12の内部と第1熱処理炉10aの外部との間で雰囲気が置換される。置換室44を配置することによって、第1熱処理炉10aの外部の空気が熱処理部12内に侵入することを抑制することができ、また、熱処理部12内の雰囲気ガスが第1熱処理炉10aの外部に流出することを抑制することができる。
【0040】
ここで、置換室44における匣鉢2の搬送について説明する。熱処理部12の置換室44の近傍に配置される搬送ローラ24は、熱処理部12内の他の搬送ローラ24を駆動するローラ駆動装置26(以下、ローラ駆動装置26aと称する)とは異なるローラ駆動装置26(以下、ローラ駆動装置26bと称する)で駆動される。また、置換室44に配置されている搬送ローラ24は、熱処理部12内の搬送ローラ24を駆動するローラ駆動装置26a、26bとは異なるローラ駆動装置26(以下、ローラ駆動装置26cと称する)で駆動される。さらに、置換室44の外部(すなわち、第1熱処理炉10aの外部)にも搬送ローラ24が配置されており、置換室44の外部に配置される搬送ローラ24は、ローラ駆動装置26a、26b、26cとは異なるローラ駆動装置26(以下、ローラ駆動装置26dと称する)で駆動される。ローラ駆動装置26a、26dは、搬送ローラ24が略同一の速度で回転するように、搬送ローラ24のそれぞれを駆動する。ローラ駆動装置26b、26cは、出力を調整することによって、搬送ローラ24の回転速度を変更するように構成されている。
【0041】
熱処理部12の置換室44の近傍には、Y方向に並んだ複数の匣鉢2を整列させる機構が設けられている。具体的には、熱処理部12の置換室44との境界付近に、図示しないストッパが設置されている。ストッパは、上下方向に移動可能に構成されている。ストッパが上方に位置すると、搬送ローラ24から上方に突出して複数の匣鉢2の搬送方向側の側面に当接し、ストッパが下方に退避すると、搬送ローラ24の下方に収容される。ストッパを上方に位置させることによって、Y方向に並んだ複数の匣鉢2は整列する。
【0042】
匣鉢2は、ローラ駆動装置26aに接続される搬送ローラ24よって熱処理部12内を搬送され、置換室44の近傍でローラ駆動装置26bに接続される搬送ローラ24によって搬送される。このとき、ストッパは搬送ローラ24から上方に位置し、扉48aは閉じた状態となっており、扉48bも閉じた状態となっている。匣鉢2が置換室44との境界付近まで搬送されると、ストッパによってY方向に並んだ複数の匣鉢2が整列される。ストッパの近傍にはセンサが設けられており、Y方向に並んだ全ての匣鉢2がセンサに検出されると、扉48aが開かれる。そして、扉48aが開かれると、ローラ駆動装置26b、26cの出力が大きくされると共に、ストッパが下方に移動される。このとき、ローラ駆動装置26b、26cは、搬送ローラ24が略同一の速度で回転するように、搬送ローラ24のそれぞれを駆動する。ローラ駆動装置26b、26cの出力が大きくされることにより、ローラ駆動装置26b、26cが高速で回転する。そして、匣鉢2は、ローラ駆動装置26bに接続される搬送ローラ24によって置換室44に高速で搬入され、置換室44では、ローラ駆動装置26cに接続される搬送ローラ24によって高速で搬送される。匣鉢2が置換室44内の所定の位置まで搬送されると、ローラ駆動装置26b、26cは、搬送ローラ24の回転を停止させる。すると、匣鉢2は、置換室44内の所定の位置で停止する。その後、扉48aが閉じられる。これにより、匣鉢2が置換室44に収容され、2つの扉48a、48bが閉じた状態となる。その後、設定された所定時間が経過すると、扉48bが開かれ、ローラ駆動装置26cにより置換室44内の搬送ローラ24が回転される。このとき、ローラ駆動装置26c、26dは、搬送ローラ24が略同一の速度で回転するように、搬送ローラ24のそれぞれを駆動する。すると、匣鉢2は、置換室44内の搬送ローラ24によって置換室44の外部(すなわち、第1熱処理炉10aの外部)に搬出され、さらにローラ駆動装置26dに接続される搬送ローラ24によって完全に置換室44の外部まで搬送される。
【0043】
次に、熱処理部側シール構造46と外部側シール構造47について説明する。熱処理部側シール構造46は、置換室44と熱処理部12との間に設けられ、置換室44と熱処理部12との間をシールする構成を有している。外部側シール構造47は、置換室44と第1熱処理炉10aの外部との間に設けられ、置換室44と第1熱処理炉10aの外部との間をシールする構成を有している。熱処理部側シール構造46と外部側シール構造47は、同一の構成を有している。このため、以下では、熱処理部側シール構造46について詳細に説明する。
【0044】
図5図9に示すように、熱処理部側シール構造46は、扉48a(以下では、単に「扉48」と称する)と、扉押圧装置56と、チェーン70と、シャフト72と、扉昇降装置74を備えている。
【0045】
扉48は、置換室44と熱処理部12との間に配置されている。図6に示すように、扉48は、略矩形の板状であり、熱処理部12を搬送方向に直交する方向で切断したときの熱処理部12の内表面より大きくされている(図5参照)。扉48の上部には、チェーン吊り部50(後に詳述)が接続されている。チェーン吊り部50には、チェーン70(後に詳述)が接続されている。扉48は、チェーン吊り部50を介してチェーン70と接続されている。扉48は、チェーン70により上下方向に移動可能に構成されている。扉48が上方に位置すると、扉48は、熱処理部12と置換室44との間に配置され、熱処理部12と置換室44との間を塞ぐ。すなわち、扉48が上方に位置したときに、扉48は閉じた状態となる。一方で、扉48が下方に移動すると、扉48は、搬送ローラ24より下方に位置し、熱処理部12と置換室44との間は連通する。すなわち、扉48が下方に位置したときに、扉48は開いた状態となる。
【0046】
扉48は、セメント系又はケイカル系の板状の断熱材料で形成されている。上述したように、第1熱処理炉10aは、匣鉢2を高温の状態のまま搬出する。したがって、熱処理部12は、置換室44との境界付近においても雰囲気温度が高くなっている。扉48は、閉じたときに熱処理部12の空間に晒される。扉48をセメント系又はケイカル系の板状の断熱材料で形成することによって、扉48の耐熱性を確保することができ、また、扉48の熱変形が抑えられる。
【0047】
図6及び図7に示すように、扉48には、シール構造52が設けられている。シール構造52は、扉48の熱処理部12側の面に配置されており、扉48を熱処理部12と置換室44との間に配置したとき(扉48を閉じたとき)に、熱処理部12の置換室44側の端面と一致するように配置されている。すなわち、シール構造52は、熱処理部12の搬出側の端面に沿って周方向に配置されている。熱処理部12の搬出側の端面には、端面に沿って周方向に配置されるフレーム(図示省略)が設けられており、シール構造52は、フレームに当接するように配置される。すなわち、シール構造52の熱処理部12側の面は、フレームと当接する当接面を有している。
【0048】
シール構造52は、シール部53と、保持部材54を備えている。シール部53は、周方向に連続する1つのパーツで形成されている。シール部53は、シール構造52の周方向全体にわたり配置されている。また、シール部53は、ファイバ系のシール部材で形成されている。保持部材54は、扉48に固定されており、シール部53に沿って配置されている。具体的には、保持部材54は、扉48の熱処理部12側の表面で、シール部53を挟むように配置されている。保持部材54は、シール部53を保持している。本実施例では、保持部材54は、周方向に分割した複数のパーツによって形成されている。なお、保持部材54は、周方向に連続する1つのパーツで形成されていてもよい。シール部53により、扉48を閉じたときに熱処理部12と扉48との間をシールすることができる。また、シール部53をファイバ系のシール材料で形成することによって、シール部53の耐熱性を確保することができる。また、本実施例では、熱処理部12の端面に設けられるフレーム(図示省略)の内部には、空間が設けられており、空間内には冷却媒体が収容されている。フレーム内に冷却媒体(例えば、エアや水等)を収容することにより、フレームを冷却することができ、これにより扉48を冷却することができる。なお、本実施例では、シール構造52は、扉48に設けられていたが、シール構造は、熱処理部12の端面に設けられるフレームの扉48に対向する面に設けられていてもよい。
【0049】
扉押圧装置56は、置換室44の上方に配置され、扉48が閉じた状態で扉48を熱処理部12側に押圧する。図5に示すように、扉押圧装置56は、扉48の上端近傍と下端近傍の2箇所に設置されており、扉48の上端近傍と下端近傍を押圧する。図8(a)及び図8(b)に示すように、扉押圧装置56は、押さえ部58と、シリンダ60と、押さえ部58とシリンダ60とを連結する連結構造62を備えている。
【0050】
押さえ部58は、円筒状であり、軸線が搬送方向と一致するように配置されている。押さえ部58は、扉48の近傍に配置されている。押さえ部58は、セラミック材料で形成されている。シリンダ60は、連結構造62を介して押さえ部58に接続されている。シリンダ60は、押さえ部58の軸線の同一直線上に配置されており、押さえ部58より扉48から離れた位置(+X方向)に配置されている。シリンダ60は、連結構造62を介して押さえ部58を扉48に向かって押圧する。図8(a)に示すように、扉48が閉じた位置にあるときにシリンダ60で押さえ部58を押圧すると、押さえ部58は、扉48の熱処理部12側とは反対側の表面(熱処理部側シール構造46では、置換室44側の表面)に当接する。押さえ部58で扉48を熱処理部12側に押圧することによって、シール部53のシール性を向上させることができる。また、押さえ部58は、扉48と当接する。上述したように、扉48は、閉じた状態では高温となる。押さえ部58をセラミック材料で形成することによって、押さえ部58の耐熱性を確保することができる。なお、本実施例では、押さえ部58全体がセラミック材料で形成されていたが、このような構成に限定されない。押さえ部58は、特に先端部58aが高い耐熱性を有していればよく、先端部58aのみがセラミック材料で形成されていてもよい。
【0051】
連結構造62は、ブッシュ64と、継手66と、シール部68を備えている。ブッシュ64は、置換室44の壁面に取付けられる共に、押さえ部58のシリンダ60側の端部が摺動可能に挿入されている。ブッシュ64は、耐熱性の材料で形成されている。継手66は、押さえ部58とシリンダ60との間に配置されている。本実施例では、継手66は、フローティングジョイントである。ブッシュ64と押さえ部58の間の隙間は、シール部68でシールされている。シール部68は、ファイバ系のシール材料で形成されている。連結構造62のうち、ブッシュ64とシール部68は、押さえ部58に近い位置、すなわち、扉48に比較的近い位置に配置される。このため、ブッシュ64とシール部68は、高温になり易い。ブッシュ64及びシール部68を耐熱性の材料で形成することによって、ブッシュ64及びシール部68の耐熱性を確保することができる。一方で、シリンダ60は、連結構造62を介して押さえ部58に連結されるため、押さえ部58、すなわち、扉48から比較的離れた位置に配置される。シリンダ60を連結構造62を介して配置することによって、シリンダ60に熱影響が生じることを抑制することができる。
【0052】
チェーン70は、扉48を開閉するために用いられる。図9に示すように、チェーン70は、チェーン吊り部50内に配置されている。チェーン吊り部50は、扉48の上部であって、置換室44の天井壁に設けられている。具体的には、置換室44の天井壁には、2つのチェーン吊り部50が設けられている。2つのチェーン吊り部50は、扉48の上部に位置し、1つは扉48の+Y方向の端部の近傍に設置されており、もう1つは扉48の-Y方向の端部の近傍に設置されている。チェーン吊り部50は、置換室44の天井壁から上方に伸びている。チェーン吊り部50には、上下方向に伸びる孔50aと、扉48の上面と平行に(すなわち、Y方向に)伸びる貫通孔50bが設けられている。孔50aの下端は、置換室44の内部に開口しており、孔50aの上端は貫通孔50bに連通している。孔50aには、チェーン70が配置されている。貫通孔50bは、チェーン吊り部50の上端の近傍に設けられている。貫通孔50bには、シャフト72が貫通している。貫通孔50bにはシール部76が配置されており、シール部76によってシャフト72とチェーン吊り部50との隙間がシールされる。これによって、置換室44の内部が孔50a及び貫通孔50bを介して置換室44の外部と連通することを回避している。
【0053】
チェーン70は、下端が扉48に接続されており、上端がシャフト72に接続されている。具体的には、シャフト72には、チェーン70との接続部分にスプロケットが設置されており、チェーン70は、スプロケットに接続されている。シャフト72は、両端が2つのチェーン吊り部50の貫通孔50bをそれぞれ貫通しており、中央部分は、扉48の上方に配置されている。シャフト72は、扉48の上方で、扉48の上面に沿って配置されている。シャフト72は、その軸線回りに回転可能に支持されており、扉昇降装置74の駆動力が伝達されることによって回転する。扉昇降装置74は、シャフト72を駆動する駆動装置(例えば、モータ)である。扉昇降装置74は、動力伝達機構を介して、シャフト72に接続されている。扉昇降装置74の駆動力が動力伝達機構(例えば、スプロケットとチェーンによる機構)を介してシャフト72に伝達されると、シャフト72は回転するようになっている。扉昇降装置74は、出力を調整するとによってシャフト72を両方向(正方向と逆方向)に回転させることができる。以下では、シャフト72の回転方向のうち、一方の回転方向を「第1方向」と称し、第1方向とは反対の回転方向を「第2方向」と称する。
【0054】
シャフト72を第1方向に回転させると、シャフト72に接続されているチェーン70がシャフト72のスプロケットに巻き付く。すなわち、シャフト72を第1方向に回転させることにより、シャフト72はチェーン70を巻き上げる。チェーン70の下端は、扉48に接続されている。このため、シャフト72がチェーン70を巻き上げると、扉48は上方に移動する。一方、シャフト72を第2方向に回転させると、シャフト72のスプロケットに巻き付いていたチェーン70が下方に移動する。すなわち、シャフト72を第2方向に回転させることにより、シャフト72はチェーン70を巻き下げる。シャフト72がチェーン70を巻き下げると、扉48は下方に移動する。
【0055】
上述したように、扉48は、チェーン70によって上下方向に移動する。すなわち、扉48は、チェーン70によりフリーに吊られた状態で保持されている。また、上述したように、扉押圧装置56の継手66は、フローティングジョイントである。扉48は、セラミック材料で形成されているため耐熱性が確保されているが、高温に晒されることにより僅かに熱変形する可能性がある。例えば扉48が摺動して開閉する場合、扉48が熱変形して歪むと、シール構造52に設けられるシール部53の一部が熱処理部12の端部と接触しなくなり、シール部53のシール性能が低減するすることがある。本実施例では、扉48がチェーン70で吊られると共に、扉押圧装置56にフローティングジョイントを用いることにより、仮に扉48が熱変形してしまった場合であっても、扉押圧装置56で押圧することでシール部53全体を熱処理部12の端部に接触させることができる。このため、シール部53(すなわち、扉48)のシール性を確保することができる。
【0056】
また、シャフト72によってチェーン70を巻き上げたり巻き下げたりすることによって、チェーン吊り部50に設けられるシャフト72を貫通させるための貫通孔50bを小さくすることができる。このため、シール部76を配置する面積を小さくすることができる。例えばチェーンをシリンダ等によって上下方向に移動させる場合、チェーン吊り部に上下方向のガイド部を設けることになり、ガイド部をシールする必要が生じる。この場合には、ガイド部は扉48の上下方向の寸法に応じた長さが必要となり、上下方向の比較的広い範囲をシールする必要がある。本実施例では、シャフト72によってチェーン70を巻き上げたり巻き下げたりすることにより、シールする範囲を小さくすることができる。
【0057】
実施例で説明した熱処理システム1に関する留意点を述べる。実施例の置換室44は、「置換部」の一例であり、扉押圧装置56は、「押圧装置」の一例であり、連結構造62は、「連結部」の一例であり、扉昇降装置74は、「駆動装置」の一例である。
【0058】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9